勇者「全自動魔王討伐の旅」(28)

<城>

国王「勇者よ……」

国王「魔界から現れた魔王から宣戦布告があり、いよいよ旅立ってもらうことになった」

勇者「はっ!」

国王「ではさっそく、城下町にて準備を整えて……と言いたいところなのだが」

勇者「はい……?」

国王「実は、あちらに魔族の使者が来ておってな」

勇者「魔族が……?」

国王「とりあえず彼に従ってみてはくれんか」

勇者「はぁ……分かりました」

魔族「はじめまして、勇者様。どこかでお会いしたような気もいたしますが」

勇者「いや、気のせいだろ。ところで、あんたは何者?」

魔族「これは失礼。わたくしはいわば、“反魔王派”の魔族でございます」

勇者「“反魔王派”……?」

魔族「ようするに、わたくしはあなたの敵ではなく味方ということでございます」

勇者「へぇ、そういう魔族もいるんだな」

魔族「実はこのたび、勇者様には快適な魔王討伐の旅を堪能してもらいたいと思いまして」

魔族「密かにこんなものを用意いたしました!」

ジャン!

勇者「これは……ベルトコンベア!?」

魔族「そのとおりでございます」

魔族「これに乗れば、勇者様はなんにも苦労することはありません」

魔族「快適な魔王討伐の旅を、ぜひお楽しみくださいませ!」

魔族「案内役はむろん、このわたくしが務めさせていただきます」

勇者「悪いね、こんなサービスしてもらっちゃって」

ウイーン……

勇者「おっ、俺が乗ったら動き始めた! こりゃたしかに快適だね!」

勇者「自分で歩かなくていいってのは最高だ!」

魔族「喜んでいただけて、なによりです」

魔族「それでは参りましょう。魔王討伐の旅へ!」

勇者「しゅっぱーつ!」

<城下町>

ウイーン……

魔族「こちらは城下町です」

勇者「うん、知ってる。なんたって俺の故郷だもん」

魔族「これは失礼しました」

魔族「本来であれば、どう旅を進めるか、ここで情報を集めねばなりませんでしたが……」

魔族「このベルトコンベアのおかげで、そうした作業は一切不要となるわけです」

勇者「ありがたいね。情報収集なんてめんどくさいし」

<村>

ウイーン……

魔族「こちらは城下町から少し離れたところにある、小さな村です」

魔族「人口は少ないですが、村民たちの活気は決して城下町に劣るものではありません」

勇者「お、みんな手を振ってくれてる」

勇者「おーい、必ず魔王を倒してくるからなー!」ブンブンッ

<洞窟>

ウイーン……

魔族「さて、洞窟に入りました。しばらくは太陽とお別れです」

勇者「暗くてなにも見えないや」

バサバサ……

勇者「うわっ、巨大コウモリ!」

魔族「いただきます」バクンッ

勇者「ありがとう……」

魔族「いえいえ、これも案内役の仕事ですから」ゴクンッ

魔族「勇者様の手をわずらわせては、快適な旅が台無しになってしまいますしね」

<商業都市>

ウイーン……

魔族「こちらは商業都市です」

勇者「ずいぶん賑やかだね。王都以上かもしれない」

勇者「しかも、色んな人種が集まってるよ。すごいなぁ」

魔族「なにしろ“世界の中心”ともいわれている都市ですからね」

魔族「生憎、わたくしのような魔族には、人間はみな似たような顔に見えてしまいますが」

魔族「それとここでは、珍しい武器やアイテムがたくさん売られております」

勇者「へぇ、俺もなんか買っていこうかな。旅の役に立つかもしれないし」

魔族「おっと、勇者様にはそんな必要はないではありませんか」

勇者「そういやそうだった。これに乗ってれば、魔王城にたどり着くんだもんな」

<迷いの森>

ウイーン……

魔族「ここは迷いの森でございます」

魔族「熟練した冒険者でも、入ってから出るのに一ヶ月かかるといわれています」

勇者「だけど、俺はこれに乗ってるおかげで半日もかからないってわけだ」

魔族「おっしゃるとおりです」

勇者「ハハハッ、楽ちん、楽ちん」

勇者「森林浴ついでに、ちょっと昼寝しよっかな」ゴロン…

<エルフ村>

ウイーン……

魔族「これよりエルフ村を通過いたします」

勇者「お、あそこのエルフ可愛いな。ちょっと口説いていこうかな」

魔族「いけません、勇者様。このベルトコンベアから降りてはいけませんよ」

魔族「ここから降りれば、その分だけ魔王にたどり着くのが遅くなってしまいます」

勇者「冗談だってば。なんたって魔王討伐の旅の真っ最中だもんな」

<死霊の谷>

ウイーン……

勇者「うひゃあ、不気味な場所だ……」

魔族「ここは死霊の谷と申しまして、悪霊や亡者がうようよ潜んでおります」

魔族「また、少しでも道を外れると、奈落へ真っ逆さまともいわれています」

勇者「道を外れると、か」

勇者「もっとも、この俺にそんな心配はないわけだけどな!」

魔族「そのとおりでございます」

ウイーン……

勇者「ところでさ……」

魔族「はい?」

勇者「いくら“反魔王派”といっても、人間に魔王を倒させることに抵抗はないの?」

魔族「ございません。魔王は魔族にとって、暴君ともいえる存在ですから」

魔族「わたくしの望みは、あなたが魔王を倒すこと。それのみでございます」

勇者「ふうん。ご期待にそえるよう、頑張るよ!」

……

……

……

<魔王城>

ウイーン……

魔族「こちらが魔王の居城、魔王城でございます」

魔族「元々は魔界にあったものを、魔王がその魔力で地上に召喚したのでございます」

勇者「うへえ、邪悪な気が漂ってるね。死霊の谷以上だ」

魔族「なにしろ、魔王城でございますから」

魔族「この中には侵入者を拒む罠が大量にありますが、ご安心下さい」

魔族「このベルトコンベアは、魔王の部屋までスムーズにあなたを運びます」

勇者「助かるなぁ、ホント。こんなものを用意してくれてありがとう!」

魔族「さぁ、このまま魔王が待つ部屋へと進みましょう!」

ウイーン……

魔族「あれが、魔王の部屋でございます」

勇者「いよいよか……」

魔族「さて、ここからは足手まといになりますので、わたくしは立ち去りましょう」

魔族「必ずや、魔王を倒して下さいませ、勇者様!」

勇者「うん、任せてくれ!」

<魔王の部屋>

魔王「待っていたぞ、勇者よ! 快適な旅を楽しんでくれたかな?」

勇者「お前が魔王か!」

勇者「お前などにこの世界を渡しはしないぞ! さぁ、勝負だ!」チャキッ

魔王「勝負……か」

魔王「フッ……フハハハハハハハハッ!」

勇者「なぜ笑う!?」

魔王「バカめ……ワシとキサマが戦って“勝負”になると思っているのか?」

勇者「なにっ!? どういうことだ!?」

魔王「まぁいい。せっかくだ、教えておいてやろう」

魔王「実はな、かつてワシが軍勢を率いていよいよ人間どもの領地に攻め込もうとした時」

魔王「ふらふらと、こんな人間が現れたのだ」

『私は人間に絶望し、魔族の天下を望む人間でございます』

『人間たちの世界には魔王様の宿敵“勇者”なる者がいるのはご存じでしょう?』

『普通に攻め込んでは、魔王様はいずれ成長した勇者に倒されてしまうことでしょう』

『ならばいっそ、勇者をここまで誘い込んでしまうというのは、いかがでしょう?』

『まったく冒険をこなしていない未熟な勇者など、魔王様ならば一捻りでしょうから……』



魔王「この提案は、まさしく名案であった。目からウロコ、というやつだ」

魔王「そして、ワシはそやつに命じて、工事を行わせた」

魔王「キサマの国と我が城とをつなぐ、長い長いベルトコンベアを作らせたのだ」

魔王「結果、みごとキサマはそれに乗って、まんまとここまでやってきたというわけだ」

魔王「ちなみにお前についていたあの魔族は、“反魔王派”どころか、ワシの側近よ」

魔王「人間どもについてよく調査させてたゆえ、案内役をやらせたのだ」

魔王「ようするに、キサマは罠にかかったのだッ!」

魔王「ろくな装備もせず、なんの経験も積んどらん勇者など、ワシにとっては赤子同然!」

魔王「ワシの魔力で跡形もなく消し飛ばしてくれるわぁっ!」

勇者「罠にかかったのはお前だよ」

魔王「は?」

勇者「おいおい、俺の顔を見忘れたのか?」

勇者「まぁ、しょうがないか。魔族は人間の顔を見分けるのが苦手らしいしな」

魔王「!?」

魔王「ま、まさか……! まさか、キサマは……!」

勇者「そう、このベルトコンベアを作れといった張本人だよ」

魔王「キサマ……! いったいなぜ……こんなマネを!?」

勇者「もし、魔王軍が普通に攻め寄せてきたら、大勢の犠牲者が出てしまう」

勇者「だが、俺がさっきの提案をしたおかげで、魔王軍は工事に熱中し――」

勇者「おかげで人間には一人の死者も出ていない」

勇者「しかも、ベルトコンベアのおかげで俺は楽々とここまでたどり着けるってわけだ」

勇者「もちろん俺は、王様をはじめ、みんなにこの策について伝えてある」

勇者「魔族のベルトコンベア工事を邪魔しないでくれってね」

勇者「でなきゃ、ベルトコンベアを作ってる最中に人と魔族で戦争が始まっちゃうからな」

魔王「ぐ、ぐぬぬ……おのれ……! ぬかったわ……!」

魔王「しかぁし、キサマの策には一つだけ致命的な欠陥があるッ!」

勇者「なんだと?」

魔王「それは、結局キサマは“経験ゼロの勇者”だということだァッ!」グワッ

魔王「ワシらにベルトコンベア作戦を提案してから、キサマは全く成長してないはず!」

勇者「……残念だったな」

勇者「あの過酷なベルトコンベア工事で、俺の体は極限まで鍛え上げられている」ムキムキッ

魔王「ゲ!?」

勇者「当然、必殺技や魔法の類は一切覚えちゃいないが――」

勇者「こんだけ腕力がありゃ、ただ剣を振るだけで十分だろ」メキメキッ

魔王「わわっ! 待ってくれ! 話せば分か――」

勇者「どおりゃああああああああっ!!!」



ズバンッ……!

魔族「そ、そんなっ……! 魔王様が一撃で……!」

勇者「さてと」クルッ

魔族「ひいっ!」

勇者「魔王亡き今、お前たち部下の魔力もずいぶん減衰したはずだ」

勇者「ここから弱ったお前たち相手に、本格的に戦争してもいいが――」

勇者「俺にもまともな手段で魔王を倒さなかったという負い目はある」

勇者「それに、一緒に工事をした仲間たちと戦うのは、俺としても忍びない」

勇者「だから……見逃してやる。今すぐ全員で魔界へ引き上げろ」

魔族「わ、分かりましたっ! すぐに、すぐに撤退しますぅ!」

……

……

……

勇者(これで魔族はいなくなり、世界は平和になった……)

勇者(さてと、みんなが待つ故郷に帰るとしよう)

勇者「!」ハッ

勇者「し、しまった……! 今になって気づいた……!」

勇者「俺はなんという大失敗をしてしまったんだぁっ!」

勇者「このベルトコンベア……逆方向にも動くようにしとくべきだった……!」









おわり

このうっかりさんめ!
しかし伏線張るの巧いなほんと

オチ好き

魔王を倒す話で帰りの道程って描写されないことが多いけど
考えてみたら、すごく長いよねw

乙!

面白かった

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