打ち止め「ミサカはあなたを許さない、ってミサカはミサカは憤慨してみる」 (59)

*注意*
・いくら頑張っても努力しても報われることはない一方さんと、苦しむ妹達のお話
・打ち止めがちょっと酷い子だけど、悪い子ではない
・ヒーロー、上条当麻はたまにしか出ない
・一方さんの贖罪話と受け取っておk
・時系列は打ち止めを天井から救出した直後から始まる
・一方さん嫌いは見ない方がいいかも

以下投下

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1442650970

血の匂いがした。鉄の様なその匂いには未だに慣れない。
人は簡単に死ぬ。自分の能力の前で、生きている人間などいない。
人の力がどれだけ集まっても、圧倒的な化物の前では這いつくばるしかないのだ。

死体を見た。死体、いや、それは最早人の原型をとどめてなどいなかった。
それは肉片だった。グチャグチャになった肉片は、もはや死体と呼べるのかすら怪しかった。
まるでミンチだ。しかしいい加減見慣れているので、見たとしてもさほど問題は無い。

「アハ、アハハ」

自分は、気付いたら笑っていた。ただひたすらに、自分は笑っていた。
その乾いた様な笑いが気に食わなかった。何で自分は、人の命を奪っているのだろう。
何で自分は、人の死を笑っているのだろう。こんな無残な死体を見て笑っていられる自分が、最も怖かった。

何故自分は人を殺している?何故自分はそれを笑っている?
分からなかった。理解が出来なかった。
今笑っている自分は、人を殺している自分は、本当に自分なのだろうか。

「訳、分かンねェ」

いくら自分に問いかけても、自問自答をしても、理解出来なかった。
学園都市最高の演算能力を誇るその頭脳は、全く役立たなかった。

「ひ、ひぃ……いや、嫌だ、俺は死にたくない!」

無様に足元で命乞いをする男が居た。しかし自分は情けをかけなかった。
足裏にベクトルを集中させ、男を踏み潰す。

「ぐぁ、うぁ、助け

ブチッ。果実が潰れる様な、虫が死ぬ様な、そんなあっけない音を立てて男は死んだ。
男があげた断末魔が、やたらと耳に残った。

人間は殺される時、必ず断末魔をあげる。しかし、何故あげるのだろう。
人生を後悔したからなのだろうか。生への執着があるからなのだろうか。

そうだとしたら、今自分が殺したチンピラ共にも、少しは道があったのだろうか。
いや、あったとしても自分はこいつらを殺していた。

こいつらは、何があっても絶対に許すべきではない。
自分の守るべき物を傷付けたのだから。

自分には、命に代えてでも守るべき少女が10033人いる。
その少女達の名前を、『妹達』と言う。

かつて自分が殺した少女。傷付けた少女。
だからこそ自分が少女達を守る必要がある。

このチンピラ共は、その少女達の一人を傷付けた。これは然るべき報いなのだ。

一方通行がチンピラ共を蹂躙し、甚振るおよそ10分前。
黒髪の少女がチンピラに恐喝を受けていた。

理由はぶつかってきたから。ぶつかりに行ったのはチンピラだったので、少女に一切の非は無いのだが。
しかしそうにも関わらず、周りの人間は黒髪の少女を助けようとしなかった。
面倒事に関わり、自分に危害が及ぶのが嫌だったからだ。
周りの人々は、遠巻きに成り行きを眺めていた。

チンピラの一人が言った。

「慰謝料、払えるよなぁ?」

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、チンピラは黒髪の少女にそう聞いた。

「えと、い、いくら、なんですか?」

恐る恐る、と言った具合に黒髪の少女は聞いた。法外な値段を請求されるのは目に見えていた。

「えぇ?そうだな。
あぁ、ぶつかった腰が痛ぇ。更にはぶつかった時の衝撃で一張羅に埃がついちまった。
治療費と服代込みで5000万でとこか」

そんな法外な値段、黒髪の少女に払えるはずもなかった。

すいません。本日はここまでとします。

書き溜めをして後日投下とさせていただきますので、ご了承ください。

10032実験で終わったのに10033人も生き残りいるのか

>>7
すいません。説明不足でした。10033と言うのは、実験で残った10032体+打ち止めです。

ってすいません。誤爆しました。

×10033
○9970

読む気が出ない

投下開始します。

「そ、そんな額、払えませんよ!」

黒髪の少女は払う事を否定した。確かに5000万なんて額を即座に用意するなど不可能だ。

「へぇ……じゃあ」

不良は舐め回す様な目で黒髪の少女を見た。

顔は決して悪くなく、整っている。
サラサラとした黒髪は綺麗で、白い花飾りが良いアクセントになっている。
体型は太っている訳でも痩せている訳でも無く、程良い肉付きだ。
また、少女の年にしては大きな胸は、男の情欲をそそる。

「体で払ってもらう他無ぇよなぁ?」

予想はしていた。金が手に入らないなら犯す。
チンピラのチャラチャラとした見た目から、容易にそれは予測出来た。
予測は出来た物の、それと恐怖と言うのはまた別の話だった。

訂正 ×不良 ○チンピラ

「ヒッ……」

少女は恐怖故に上ずった声をあげた。
まだ中学生程の年齢である少女にとって、今の状況は恐ろしいに尽きるのだ。

抵抗しよう、逃げよう、少女はそう考えたが、そんな時に限って足はすくんだ。
動けない。走れない。逃げられない。

チンピラが少女の腕を掴み、アジトと思われる場所へ導いていく。
少女の意思に反し、チンピラは進む。
到着はあっという間で、少女はチンピラのアジトに放り込まれた。

「おお、また女か」

「今回のは上物だな」

5、6人程のチンピラがアジトの中に居た。
全員が少女を舐め回す様に見て、感想を述べる。

怖い。少女はそう感じたが、逃れる事は出来なかった。

「んじゃ、早速」

チンピラが一人、少女の後ろに回り込んだ。
手慣れた手付きで縄を取り出し、チンピラは少女の腕を結ぶ。
少女の力では到底縄を解く事など出来なかった。

「う、うぅ……」

少女は恐怖のあまり涙目になった。もはや恐怖しか感じられなかった。

チンピラ共は待たない。

少女のスカートは捲られ、下着の中に手が突っ込まれる。
不快で、その上気分が悪くなった。

「嫌、いや……助けて、誰か!」

少女は叫ぶ。救いを求めて。


そして、……救世主(ヒーロー)は現れた。

「抵抗する女性に対する多人数での暴行、その様な暴虐は許しません、
と、ミサカは颯爽と登場します」

救世主は、自分の事を『ミサカ』と言う少女だった。
先程まで不良に絡まれていた黒髪の少女と、恐らくそこまで年は変わらないだろう。

茶色の短い髪。感情を一切移さない瞳。
控えめな胸と、常盤台の制服。
そしてその外見にはそぐわない、額に付けられた無骨な大きいゴーグル。

ゴーグルを除けば、その容姿は御坂美琴に瓜二つだった。

現れた救世主に対し、チンピラ共は怯まなかった。
むしろ彼らは獲物が増えた、と喜び、舌なめずりをした。

「うおらぁ!」

チンピラ共はミサカに飛びかかる。

しかしそれを、軽やかな動きでミサカは回避した。
何処か慣れている様な、軍人の様な動きだった。

ミサカは一旦チンピラ共と距離を置くと、冷静に状況の分析を開始する。

(目視出来る限りでは敵は6人)

チンピラ共が二人同時に迫ってくるが、ミサカは後ろに跳ぶ事で距離を置く。

(能力を使ってこない、という事は対したレベルでは無いと思われる)

ミサカはしばらく考えた後、結論を出した。

(即ち、ミサカでも牽制は可能、とミサカは結論を導き出します)

そして、ミサカによる反撃が始まった。

「どうした、嬢ちゃん。逃げてばっかじゃねぇか。
反撃はしねぇのか?」

ニヤニヤ。下卑た笑みを浮かべながらチンピラの一人が挑発する。
ミサカはそれに答える。

「……生憎ですが、元よりそのつもりです、とミサカは距離を縮めます」

ミサカは一直線に駆け出すと、チンピラ共との距離を詰めた。
軽くあしらおうと振り下ろされるチンピラの手を、ミサカは横に回避する。

そして、ミサカはチンピラの手に触れると、能力を発動させた。
ミサカは電撃使い(エレクトロマスター)で、電気を操る事が出来るのだ。

「ぐっ、ぐあ……」

チンピラの一人が、ミサカの能力によって倒れた。

「安心して下さい。気絶させたのみなので、命に別条はありません。
と、ミサカは心配ないと言う事を伝えます」

ミサカは確かに能力者だが、レベルは2。さして高くはない。
そのため、ミサカの電撃ではそう簡単に人は死なないのだ。

とは言え、直接電流を流した。そう簡単には起き上がれないだろう。
ミサカはそう考えると、他のチンピラ共の方へ向き直った。

チンピラ共も流石に焦り始めたのだろう。各々が顔を見合わせている。

「まずい、能力者か!?」

「よ、よく見たらあの制服、常盤台中学の……」

このまま怯んで逃げてくれれば楽だったのだが。
残念な事に、チンピラ共はそう簡単に引いてくれなかった。

彼らには、彼らなりのプライドがあったのかもしれない。
チンピラ共は退かなかった。
少し警戒しつつ、チンピラ共はミサカに襲いかかる。

ミサカはそれを回避できる、


……そのはずだった。
しかし、ミサカは一つ大きな誤算をしていた。

ミサカのした考察の一つに、『敵に高位能力者はいない』という物があった。
だが、それは大きな誤算だ。

(速い、肉体強化系の能力者!?)

不意をつかれた。
予想外の攻撃に反応出来ず、ミサカはチンピラ共の前で膝をついた。

「くっ……」

気絶はしないが痛い。そんな攻撃だった。

「痛ぇか?痛ぇよな?お嬢ちゃん」

先程ミサカに攻撃を食らわせたチンピラが、ミサカに話しかけた。

「俺は一応、レベル3の肉体強化系能力者なんだわ」

レベル3。ミサカより上の能力者だった。
いや、かと言って勝てない相手でもいう訳でも無かった。
ミサカの身体能力は高く、ある程度の力の差はそれで埋められるのだ。

(くっ……ミサカとした事が、油断したようです)

僅かに油断があった。だからこそ、ミサカは勝てなかった。

「さぁて、お嬢ちゃん」

チンピラ共がミサカににじり寄る。
ミサカの中に、恐怖が芽生えた。

「お痛が過ぎるじゃねぇの」

学習装置で、性についての知識はあった。
その知識から、犯されるのだ、とミサカは察した。

(これが、恐怖……)

無感情であるはずのミサカは、恐怖し、嫌悪した。
皮肉にもこの体験で、このミサカに感情が芽生えた。

(嫌、だ……)

ミサカは心の中で叫び、救いを求めた。
あのツンツン頭の少年を頭の何処かで思い浮かべた。

しかし、そこに現れたのは


真っ白で、闇に浸かった、最凶最悪の、






ーー悪党だった。

悪党は、真っ白な目に真っ白な肌をしていた。

悪党の目は、血の赤色をしていた。

悪党は、真っ黒な服に身を包んでいた。

悪党は、激怒していた。

悪党は、笑っていた。
薄く、乾いた笑みだった。

「オイオイ」

悪党は、言った。


「随分舐めた真似してくれてンじゃねェの」


それだけで、その言葉だけで、悪党の恐ろしさが分かった。
チンピラ共は恐怖し、同時に実感した。
もしかしたら自分は、自分達は、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったのでは?と。

ぞっとした。恐怖した。
チンピラ共は、自分達がそれなりに強いと思っていた。

実際に彼らの力は強いし、団結すれば能力者でもねじ伏せられる。
しかしそれはあくまで、そこらの能力者の場合だ。

今は違う。

この悪党は、そこらの能力者とは違う。
今まで自分達がねじ伏せてきた相手とは違う。

勝てない。絶対に。

チンピラ共は、心の底からそう震撼した。

いや、もはや勝てる勝てないの問題じゃない。

奇跡が100回起こったとしても、目の前の悪党の前では打ち崩される。

「くそおおおお!!!」

何も出来ない無力なチンピラ共は、ただひたすらに叫んだ。

直感した。自分の死を。

この化物の前で、どんな力も通用しない。

そう感じたから、チンピラ共は動かなかった。

否、動けなかった。

「畜生……」

自らの行いを後悔した。

「ハハ……ハハハ」

戦意喪失。その言葉通り、チンピラ共は戦意など湧かなかった。

圧倒的な力の前で、彼らはへたり込んだ。

そして、……虐殺が始まった。

悪党に慈悲など存在しなかった。

チンピラが逃げようとすれば、悪党はその足を潰した。
チンピラが命乞いをすれば、悪党はその喉を潰した。
チンピラが何をしても、悪党は殺した。

こうして、冒頭の状況へ戻ると言う訳だ。

チンピラの一人は思った。

(これは報いだ)

自分がやってきたことが、自分に返ってきた。
ただ、それだけの話。

チンピラ共はこれが最初の犯罪では無かった。
これより前に、女を犯した事はよくあった。
口封じのため、人を殺した事だってあった。

そう、それが、自分に返ってきただけなのだ。

(死ぬって、怖ぇんだな)

チンピラは素直にそう思った。
しかし、今までの罪を最後の最後に死ぬ事で償えるならば、

(それも、悪くねぇ)

悪党の裁きが、最後に残ったチンピラへ下る。



そのはずだった。

しかし、裁きの鉄槌はいつまでも下りない。

チンピラは死なない。いや、死ねない。

「おい、どうしてだよ」

チンピラは悪党に問いかけた。

悪党は慈悲など持ち合わせていないはずだ。
ましてや、敵を見逃す何て事、しないはずだ。
敵が何をしても全身全霊で叩き潰す。

目の前の悪党は、そんな人間じゃなかったのか?

「何で殺してくれねぇんだよ!」

何で、どうして。チンピラは困惑した。

今死ねば、償えたのに。何で殺さなかったのだ?

悪党は答えた。

「あァ?オマエが何を思おうが知った事じゃねェよ。

俺が生かしたいと思ったから生かしたンだっつゥの。

それとも何?死にたかったんですかァ?ドMちゃンよォ」

目の前の悪党の言っている事が、理解出来なかった。

「意味が、分かんねぇ」

チンピラは続ける。

「殺せ!俺を殺せよ!俺はお前の大切な奴を傷付けただろうが!
何で生かすんだよ!何で、どうして!!」

悪党はチンピラに対し、つまらない、とでも言うような表情を向けた。

「オマエ、俺に殺されて今までにした事を償いましょォ、とか思ってやがンだろ」

それはチンピラにとって図星その物だった。

「ハン、だったらオマエは悪じゃねェ。

俺が殺したオマエのお仲間さンは、どォしようも無ェ悪だった。

自分の罪を償おうとせずに生きようとする、どうしようも無ェ悪。

でもオマエは違う。オマエは償おうとした。命乞いも、逃げようともしなかった。

だから生かした。それだけだ」

悪党が鉄槌を下すのは、自分と同種である悪のみだ。

彼は、まだ見逃す余地のある悪を殺す事を好まない。

「やり直せ。死なないで、別の方法で償え。

俺から言う事はそれだけだ」

そう言いながら悪党はライターを取り出し、死体を焼いた。

死体は燃え、たちまち消し炭になる。

そうして悪党は、立ち去ろうとした。

しかし、それをチンピラが引き止めて、聞いた。

「アンタ、名前は?」

悪党は、立ち去る前に答えた。

一方通行、と。

悪党が立ち去り、その場には黒髪の少女とミサカとチンピラが残された。

「「「……」」」

沈黙が続く。
最初に口を開いたのは、チンピラだった。

「すまねぇ!」

チンピラは謝り、挙句の果てには土下座した。

「彼は謝っていますが、どうしますか?
と、ミサカは問いかけます」

黒髪の少女は言った。

「許します。許しますから、

……この縄、とってくれませんかね?」

忘れてた、と言うような表情をしながら、ミサカとチンピラは黒髪の少女の縄をほどいた。

「ありがとうございます」

黒髪の少女は茶髪の少女に礼を言い、それから疑問を述べた。

「あの、御坂さんの妹さん……ですか?」

黒髪の少女は御坂美琴の知り合いだった。
だから、その御坂美琴とそっくりかつ同じ名字をしている少女を妹だと思ったのだ。

事実は違うのだが、ここで肯定しておいて損は無い。

「はい、そうです、とミサカは肯定します」

ミサカはその嘘を受け入れ、肯定した。

チンピラは呟いた。

「一方通行、か。……覚えておいてやるよ。

また会う、その時まで」

設定メモ
チンピラ
年齢はおよそ16才
高校には通っていない
悪友の誘いによってチンピラになった
根は悪くないのだが、友との縁を切ろうにも切れず、悪行に手を染めた
能力は不明だが、少なくともレベル0では無い
何気に設定まで出てるのに名前は出ない

本日分の投下終了となります

本日の投下を開始します。

一方通行は考えていた。

「何で見逃したんだ、俺ァ……」

決めたでは無いか。自分の守るべき者を傷付けた野郎は殺す、と。
なのに、自分は何故一人見逃した?
確かに、あのチンピラは改心の余地こそあった。
しかし、絶対に償う保証なんて物は無かった。

半端。今の自分はその一言に尽きる。
あのチンピラが改心せず、またミサカを襲ったら、どうするのだ?
そうなったら悪いのは自分だ。
中途半端な正義を振りかざし、あのチンピラを見逃した自分のせいだ。

半端な自分のせいで、あいつらは危険な目に合うかもしれない。
半端な正義を振りかざす事は、単なる悪を振りかざすよりずっと危険な事だ。

「ハッ」

一方通行は自嘲するかのように笑った。

「何だよ、何なんだよォ……」

自分は未だに人を殺したくないと言うのか?
それこそふざけてる。自分が殺したのは何人だ?

一人や二人なんかじゃ無い。
自分が殺した人間の数は、一万三十一。

一つの学校にいる人間を全て数えても、その十分の一にすら満たない。
そんな膨大な人間の数。それだけの数の人間を、自分は殺したのだ。

同情なんてしなかった。やめようともしなかった。

殺すという行為に何の疑問も抱かずに。
相手の痛みなんて少しも考えずに。
甚振って、嬲って、その末に殺した。
それだけ事をしておいて、それでもまだ自分は、人を殺したくないと思うのか?

「とんだ偽善者じゃねェか」

馬鹿みたいだ、と、自分に苛立った。
自分は泥や闇の中が似合う、そんな糞みたいな悪党だ。

世界中の人間に唾を吐きかけられたとしても。
百万回殺されたとしても。
体をパーツごとに分解されたとしても。
それでも自分は文句一つ言えない。言ってはいけない。

それどころか、何をされても許されてはならない。
そんな人間が自分という糞野郎だ。

(余計な事は考えなくてもイイ。落ち着け……)

自分の中で『落ち着け』と何回も唱えた。
暗示をかけるように、催眠をかけるように、何度も何度も。

自分を洗脳するように、上書きするように何度も念じて。
落ち着いたら深呼吸を数回して。

それでようやく落ち着いた。正気に戻った。

正気に戻った所で、自分に一つ聞いた。

『オマエのやるべき事は何だ?』

俺は迷いなく答えた。






「あのガキ、妹達、黄泉川、芳川、……オリジナル。

それら守るべき者に害なす奴等を、ぶっ殺す事」




誰に向けてと言う事も無く、呟いた。

もう情などかけない。

心に決める。

そう、余計な事なんて考えなくて良いのだ。
何も考えなくていい。

自分は、敵さえ排除していればいいのだから。

(そォだ、そォだよ。なんたって俺は、)

(最低最悪で、闇と泥にまみれたクズみてェな)




(悪党なンだからよ)

悪党は心の中でそう呟くと、口が裂けそうな程ニタリと笑った。

とあるファミリーレストランでは、四人の少女が窓際の一席に座っていた。
そこは日がよく当たる席で、他の席よりわずかに気温が高い。
しかし店全体には冷房が効いており、暑さは全く気にならなかった。

時刻は夕方。日付は平日。
それらの情報から、四人の少女は学校帰りにここに寄ったのだと推測出来た。

四人の少女はきっと相当仲が良いのだろう。
全員が顔に笑みを浮かべながら話し込んでいる。
まさに、それは普通の友達同士の会話だった。

ふと、四人の少女の中の一人が話題を変えるかのように口を開いた。
口を開いた少女は、ついこの前チンピラに絡まれていた黒髪の少女だった。

「そう言えば、御坂さんって妹さんが居たんですね」

御坂さん、と呼びかけられた短髪の少女は、心の中で驚いた。

(……!!)

驚いた理由は至極単純だった。
本来、御坂に妹はいないはずなのだ。

いや、それでも心当たりはあった。

(まさか、『あの子達』に会ったって事?)

そう、実の妹でこそ無いものの、御坂は自分そっくりの少女を知っていた。
そのそっくりの少女の名称を、妹達(シスターズ)と言った。

妹達は御坂美琴の体細胞クローンで、とある計画の為に製造された。
外見は御坂と瓜二つで、額に無骨なゴーグルを装着している。

事実、御坂の推測はあっていた。
先日、黒髪の少女もとい佐天涙子は、妹達の一人と接触していたのだ。

(なるほど、見た目もそっくりだし、妹だと思うのは仕方ないわね)

御坂はそこまで考えると、佐天の言葉を肯定した。

「ええ、そうよ。そう言えばまだ言ってなかったわね」

佐天はレベル0で、大して格闘術に秀でている訳でもない。
つまり、無力なのだ。

(佐天さんは何も知らない)

佐天は暗部に精通していない、純粋な光の世界の人間だ。
それは、今この場にいるもう二人にも共通する。

ならば、真実を話す訳にはいかない。

巻き込んではいけない。
御坂の側にいる三人は、大切な友達なのだから。

(騙す事は、少し心苦しいけどね)

例え騙す事になろうとも、三人を危険な目に晒す事は出来ない。

「へー、てっきり一人っ子だと思ってました」

頭に花飾りと言う珍妙な格好をした少女、初春飾利が言った。
実際に一人っ子なのだが、それを言う訳にはいかない。

(……おかしい)

妹がいる、と、初春と佐天は信じ込んだ。
しかし、一人。それに納得しない少女がいた。

その少女の名を白井黒子。
御坂とは先輩後輩の関係で、なおかつルームメイトだ。
多少、御坂に度の過ぎる愛情を抱いている。

(お姉様に妹様がいたと言う話は、聞いた事がありませんの……)

白井には、敬愛する御坂の事は何でも知っていると言う自負があった。
なのに、妹がいるという事実は知らなかった。

何かがおかしい、と。
白井は感づいていた。

「どうしたの、黒子」

御坂に呼びかけられ、白井はハッとなった。
どうやら少し自分の世界に浸っていたようだ。

「いいえ、何でもありませんわ」

白井は急いで返事を返した。

御坂は僅かに焦った。

(黒子のあの反応……、怪しまれてる)

白井とはルームメイトという関係であるため、付き合いはそれなりに長い。
御坂は、白井の顔を覗き込んだ。

思案している表情。あきらかに考え込んでいる。

(マズイ……確かにいきなり妹がいるなんて話、怪しまれるに決まってる)

御坂は確かに、佐天や初春と仲が良い。
しかし、あくまで知り合ったのは最近なのだ。
だからお互いの事はまだ詳しく知らず、こんな嘘も通る。

だが白井はどうだ?
もう一年近くの付き合いだ。
そう簡単に誤魔化せる相手でもない。

白井は心の中で呟いた。

(お姉様、私の目は誤魔化せません。……表情に焦りが見えていますのよ)

敬愛している大好きな大好きな御坂の事は、ずっと見てきた。
だからこそ、分かる。御坂は焦っていると。

(お姉様は何かを隠している)

それが何かは分からない。
些細な事かもしれないし、白井には計り知れない程大きな事かもしれない。

(何を隠しているのですか?)

何も知らない。だから知りたい。
白井は心の中で、敬愛する御坂に呼び掛ける。

(お姉様……)

御坂は白井の顔を覗き込んだ。白井は思考している。

(気付かれてるわね……)

恐らく、などでは無く確実に、白井は御坂が何かを隠している事に気付いている。

(どうする?どうやって隠し切る?)

白井は風紀委員だ。ある程度のデータのアクセス権限は持っている。
その気になれば、あの実験の事を知ってしまうかもしれない。

(そうなったら……)

巻き込まれてしまう。暗部の血にまみれた戦いに。

(そうなるのは、嫌だ)

隠し切らなければ、白井の身は危険に晒される。

白井は推理を始めた。

(お姉様が何かを隠しているのは確実ですの)

では何故隠しているのか。その理由は恐らく、

(巻き込みたくないから、でしょう)

御坂の隠している何かは、きっと危険な事なのだ。
それを知られたら何かに巻き込んでしまう。だから御坂は隠しているのだ。

(心優しいお姉様の事。私や佐天さん、初春の心配をして隠しているのでしょうが……)

白井の推理は当たっていた。

(私は、……隠されている、その事実が最も辛いですわ)

御坂にそのつもりが無いにしろ、御坂が白井に話さないということは、つまり。

……自分の力が、当てにされていないという事。

危険な事に巻き込まれても良い。
いや、お姉様を守る為なら、どんな危険に晒されたって構わない。

(……今、私が望んでいるのは)

巨万の富でも、一生の安泰でも、絶対的な力でも、御坂の身体でもない。

(お姉様の力になる事)

例えどんな危険と相対しても、お姉様の為だと思えば耐え切れる。
白井には、そんな確信があった。

(黒子は、黒子はお姉様の為に何でも致しますの)

だから、教えてほしい。力になりたい。


その白井の決意は、強固だった。

「おーい。御坂さーん、白井さーん」

考え込んで自分の世界に入り込みかけていた御坂と白井の名を、佐天が呼んだ。

「ぎゃうっ」

「ひょあっ」

いきなり現実に連れ戻された驚きから、御坂と白井は珍妙な声をあげる。
その珍妙な声に佐天と初春は笑い、四人の間の空気は自然といつも通りになった。
とりあえずは会話に集中しよう。そう思った御坂と白井は、一旦考えるのをやめた。

四人はいつも通り笑いながら会話をする。
内容はアイドルの話、世間話、行事の話、能力の話、この間の話など様々だった。

気付けば時間は最終下校時刻へと迫っていた。

「……そろそろ時間ね」

ふと時計を見た御坂が言い、他の三人も時計を見た。

「ありゃりゃりゃ、本当ですね」

「もう帰らなくちゃ……」

「では、そろそろ解散といきましょうか」

御坂と同じく時計を見た三人は、佐天・初春・白井の順に発言をした。
最後の白井の解散しようという発言から、三人は各々の荷物を持ち、準備を始めた。

四人全員の準備が終わると、三人はそれぞれ別れの挨拶を告げる。

「じゃあね」「それでは」「さようなら」「また今度会いましょう」

そしてそれぞれは帰路についた。
御坂と白井は学舎の園へ、佐天と初春は自分の住む部屋の方向へ歩いていく。

以上で今日の投下分を終了致します。

もうすぐ祝日が終わり、学校が始まりますので、投下速度が落ちます。

ご注意下さい。

酉つけたら?

>>56
了解です。付いてるかな。

微妙

期待

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