白菊ほたる「最後のシアワセ」 (16)


※鬱展開注意

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P「いやー、それにしても晴れて良かったな」

ほたる「そうですね、潮風が気持ちいいです」

P「こんないい天気の日に俺たちは…」

ほたる「Pさん、その話は…」

P「すまん、そうだったな」

ほたる「と、とりあえずお昼にしませんか?私、サンドイッチ作ってきたんですよ」

P「おっ、いいね。いただこうか」

ブライダルセレクションマイエンジェルほたる


ほたる「ど、どうですか…?」

P「うまいよ、このサンドイッチ。お世辞とかじゃなくな」

ほたる「よかったぁ…」

P「今日は失敗せずに作れたみたいだな」

ほたる「はい、今日だけは失敗しないように、って願って作ったんです」

P「願い、か。お前らしいな」

ほたる「願いなんて叶わない、なんて言いながら、そういうものに縋らずにはいられないんですよね。弱いですよね、私」

P「俺も似たようなもんさ。見えないものに縋って誤魔化して…そんなことしたってダメなものはダメなのにな」

ほたる「そんな…私、Pさんの頑張ってる姿、尊敬してますよ」

P「はは…ほたるにそう言われたら何でもできそうだな」

ほたる「何でも、ですか…」


P「いやあ、最後にうまいもん食えてよかったよ。ありがとな、ほたる」

ほたる「ふふ…こんな私でもお役に立てたならすごく嬉しいです」

P「…」

ほたる「どうかされましたか?」

P「いや、ほたるの今の表情、すごくいいな…ってさ」

ほたる「えっ、そんな変わった顔してましたか、私」

P「翳りのある笑顔っていうのか。うまく言えないけど、すごく綺麗だった」

ほたる「あ、ありがとうございます…Pさんに誉められるとやっぱり照れますね。解放感のお陰ですかね…」

P「解放感、か…わかるよ。俺も似たような気分だ」

ほたる「解放感はありますが…思い返してみれば、私の人生もそんなに悪いものじゃなかったのかな」

P「ほたる、やっぱりお前だけでも…」

ほたる「ダメですよ。私もご一緒させてください。それに、Pさんのいない世界なんて考えたくもないですから」


ほたる「もう少しだけ、海辺を散歩しませんか?」

P「あ、ああそうだな。まだ時間はあるしな」

ほたる「こうやって歩いてると…Pさんと初めてお話した時のことを思い出しますね…」

P「懐かしいな…二人で並んで歩いて…俺は思ったんだよ、『この子は絶対いいアイドルになれる』って」

ほたる「そんな風に考えてくれてたんですね…私はあの頃はただただ不安で」

P「そりゃ仕方ないさ。ほたるが前いたプロダクションの件もあるし」

ほたる「でもPさんと出会ってからは色んなことが変わっていって…あの頃が一番楽しかったように思います」

P「ああ…二人で四苦八苦しながらも少しずつ前には進めてたしな。うまくいかないことも多かったが」

ほたる「ごめんなさい、私の体質のせいで色々ご迷惑かけて…」

P「そう言うなよ。うまくいかないのは俺のマネジメント能力が欠けてた面もあるからな。お互い様だよ」

ほたる「そう、ですかね…」

P「そうだよ。俺だって運はいい方じゃないし」

ほたる「ありがとうございます。そんな風に言ってくれるのはPさんだけですよ…」


P「どうしたほたる?嫌なことでも思い出しちまったか?」

ほたる「ええ、少しだけ…」

P「そうか。でも気にすんな。どうせ俺たちはもう怖いものなしなんだ」

ほたる「そうですね…もう何も怯えなくていいんですよね」

P「ああ、何なら今俺が足を踏み外して海に落ちたって何の問題もないさ」

ほたる「なんだか本当に落ちそうで心配です…怪我もするかもしれないですし」

P「この期に及んで身体の心配か。優しいな、ほたるは」

ほたる「そんないいものじゃないですよ、私は…」

P「そこまで卑下しなくても…っておいどうしたほたる?」

ほたる「…」

P「…泣いてるのか?」

ほたる「ご、ごめんなさい、やっぱり…怖くて…」


P「そっか…怖いよな、そりゃそうだよな」

ほたる「おかしいですね私…もう未練なんてないはずなのに…」

P「おかしくないさ。俺だって怖い。なんなら今から車置いて逃げ出したいくらいだ」

ほたる「Pさん…」

P「でももう俺たちには戻る場所もないからな…」

ほたる「そうですね、今さら後戻りなんて」

P「俺もお前も、疲れちまったんだ。理由はそれだけでいいだろ」

ほたる「私もそう思います…あっ、そろそろ暗くなってきましたね」

P「ああ、じゃあ車に戻るか」

叙述トリックかな?


P「ほたる、そっちはちゃんと塞げたか?」

ほたる「はい、こんな所でミスできないですしね」

P「そうか。ああ、緊張してきたなあ」

ほたる「なんだかいけないことしてるみたいでドキドキしますね」

P「まあ、いけないことだしな。少なくとも誉められたことじゃない」

ほたる「ふふ、それもそうですね…」

P「っていうか思ってたより暑いな…」

ほたる「まあ火も焚いてますしね…」

P「汗臭かったらごめんな」

ほたる「それも今更、ですよ…ところであのPさん」

P「ん?どうした?」

ほたる「手、繋いでもいいですか…?」

P「おう、俺なんかの手で良ければ」

れんたん!


P「あー…ちょっと頭ぼうっとしてきた…」

ほたる「私もです…」

P「なんか暑いって感覚も無くなってきたな」

ほたる「私もです…」

P「それから」

ほたる「それから?」

P「やっぱ死ぬのやだな」

ほたる「私も、です」

P「どうする?」

ほたる「どうしましょう」

P「ドアならすぐ開けれるけど」

ほたる「そうですね、すぐですね」

P「あーどうしよ…」

ほたる「私はPさんについていきます」

P「なんかそれズルいな」

ほたる「私はずっとズルいですよ」

P「そうか、そう言えばそうだよなあ…それじゃ」

ほたる「はい」

P「おやすみ」

ほたる「おやすみなさい」


結果から言えば、俺たちは[ピーーー]なかった。
俺たちが車を停めていた海岸は、地元では有名「スポット」らしい。
そんなところで目張りした車なんて見かけたら誰だって通報するだろう。
俺だってそうする。

幸い、と言っていいのかどうかはわからないが、発見は早かったらしい。
俺もほたるも、特に後遺症らしいものは残らなかったようだ。
警察でも病院でも「もうこんなバカなことしちゃダメだよ」と優しく諭された。
意外と優しくてびっくりした。

今回のことは、ニュースにもならなかったらしい。
未遂だから当然なのかもしれないが。
どこにでもいる若い男女の、よくある悲劇だ。
同情こそすれ、騒ぎ立てるほどのことでもない。
「こんなものか」となんとなく腑に落ちた。

形式的には心中と呼ばれる類のものだったので、しばらくほたるとは会えないのではと思っていたのだが、
案外そうでもなかった。
まあ止める人もいないしな。
ほたるもその後は落ち着いていたらしい。
さすが俺の見初めた女だ…と思ったが俺に見初められたからなんだと言うのだ。
とにかくほたるは割かし元気?らしい。

そして、今日は一ヶ月ぶりにほたるに会う。
とても緊張する。




ほたる「Pさん、お身体はもう大丈夫なんですか?」

P「ん、まあまあだ。お前こそどうなんだ」

ほたる「私もまあまあですよ」

P「本当は?」

ほたる「無理言って出てきました」

P「だろうな」

ほたる「ふふ…」

P「で、どうする?やり直すのもアリだけど」

ほたる「うーん…そういう気分でもないんですよね」

P「奇遇だな、俺もだ」

ほたる「今回のことは運が良かったんでしょうか、悪かったんでしょうか…」

P「悪かったんだろ。どうやら俺らは死神にすら見放されたらしい」

ほたる「そうですね、その方が私たちらしいですね」

P「うまくいかねえもんだな」

ほたる「まったくです…ところでPさん、あの日に言ってくれたこと覚えてますか?」

P「ん…色々話しすぎてどれかわからん」

ほたる「私と一緒なら何でもできそうだ、って…」

P「ああそれなら…覚えてるよ。むしろ今だってそう思う」

ほたる「そうですか…それならこういうのもできませんか?」

P「?」

ほたる「私と一緒に幸せになる…とかそういうの、です」

おわり



次回に期待します

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