女「先輩のお世話をしないと」 (180)
日曜日。
予定はなにもない。
課題はまだちょっとのこっているけれど、大した量じゃない。
そんなわけで先輩の下宿にいくことにした。
たぶん、そろそろやばいはずだ。
先輩の下宿は大学からほど近い。
私の家からは自転車でいける。
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期待
暑さに辟易しながら、ようよう辿り着く。
わりと新し目のアパートの、南東角部屋4階が先輩の部屋。
良いところに住んでいる。
エレベータをのぼって、扉の前で汗をおさえて一息。
チャイムを鳴らす。
もう一度鳴らす。
何度チャイムを鳴らしても返事はない。
案の定だ。どうせまだ寝ているのだろう。
それか、居留守をつかっているか、そもそもインターホンに出るのが面倒くさいのか。
どっちにしてもかわりのないことだ。
しかたないから合鍵をつかう。
戸をたたく。
先輩、わたしです。入りますね。
一応声をかけてから、扉をあける。
むわっと何かが腐ったようなにおいと、甘酸っぱい臭い。
女の匂い。
どうしようもない生活臭。
あーあ、やっぱり。
予想通りの惨状だ。
靴をぬいで、混沌とした室内にはいる。
キッチンを抜けて、扉をあけるともう居間だ。
目の前には地獄絵図。
写真をみせたとして、大学の誰も、これがあの先輩の部屋だとは思わないだろう。
部屋の至る所にカップ麺の容器や、弁当ガラ、空き缶、その他もろもろ。
他にも脱ぎちらかされた衣類。
もちろん、洗濯などしているはずもない。
うわっ、なんだこれ。
炊飯器の上に、パンツがのってるよ。
一週間でよくもまあここまで散らかせたものだ。
部屋の一番奥にあるベッドの中で丸くなっているのが、諸悪の根源。
我らが愛すべき先輩。
もうお昼だというのに、すやすやと惰眠をむさぼっている。
まったく、だらしのない先輩だ。
大学の皆がこんな姿をみたら、なんと思うだろうか。
実際、この先輩は外での先輩とはまるでちがう。
美人で、やさしく、気配りのできる大人の女性。
集まりがあれば、いつも中心でニコニコわらってる。人をあつめるカリスマ。
それでいて頭脳明晰、成績優秀。
実際、何人かの教授から院を勧められているらしい。
先輩を慕うひとは大勢いるし、告白してくる男も数知れず。
百人斬りなんて噂が立つのも無理がない。
実家も裕福だし、友達がふざけてだしたミスコンでも黙って突っ立っていただけで、あっさりミスをとってしまう。
絵に描いたような完璧超人。
わたしも、最初はそんな印象だった。
それがが崩れたのは春のこと。
入学してすぐだった。
不覚にもわたしはサークルの飲み会でひどく酔いつぶれてしまった。
お酒を飲むのは始めてだったのだ。
わたしのせいじゃない。お酒が美味しいのがいけない。
それを介抱してくれたのがやっぱり先輩。
まったくもって頭が上がらない。
道端で倒れて動けなかったわたしをタクシーにのせて、この先輩の下宿にとめてくれたのだ。
目が覚めたときのひどい頭痛と、この部屋の惨状は正直思い出したくない。
わたしを気遣いながら水を差し出してくれた先輩には悪いが、とても人の居られる環境じゃなかった。
無理やり起きて、ガンガンする頭で掃除したのが先輩のお世話のはじまりだ。
ようやくひと通り片付けて話を聞くと、憧れの先輩は生活スキルが皆無だった。
料理は生煮え黒っ焦げ、洗濯やらない畳めない。
掃除ももう才能がないとしかいえない悲惨さ。
入学当初に一式揃えた家電は使われないままに、ほこりをかぶっていた。
休日には風呂にはいるのも面倒で、ずっと布団に倒れたきり。
なんでも、人の目がないと、まったくやる気がでないのだという。
どうしようもない面倒くさがりなのだ。
まったく、これを知った時にはずいぶん驚いた。
それならば一人暮らしをするなと言いたい。
生き物が繁殖できる部屋は間違っている。
虫愛ずる姫も真っ青だ。
よくもまあ今まで生きてきたものだと、大いに呆れた。
それから、その時のお礼と言っては、週に1回先輩の家に寄るようになった。
お礼というか、もはや義務感だった。
この人は誰か世話してあげるべきだ。
否、世話をしてあげる必要がある。
そう思ったのだ。
だからこうして掃除と料理と、先輩を風呂に入れたり、世話をやいている。
あのままだったら、そのうち先輩にカビが生えていたに違いない。
とりあえずカーテンと窓をあけて、空気を入れ替える。
ほら、先輩。外はこんなにいい天気なんですよ。
実際、外は明るかった。
夏は盛りを過ぎ、風は涼しさを帯びて、暑気を吹いていた。
臭いのこもった部屋に涼風が通った。
ところが先輩、声をかけてもううんと呻いて陽の光から逃げるように、毛布の中に顔をうずめてしまう。
まったくだらしのない。
あたりに散らかったゴミを、全部ゴミ袋に詰めるとすこしスッキリする。
次は洗濯物を集めて、洗濯機にほうりこむ。
せっかく乾燥機能もついている上等なモノなのに使われるのは週に一度。
まったくもってもったいない。
洗濯物がかわくのを待つ間に、先輩をベッドからどかして、布団を干してしまう。
と、抵抗された。
枕に顔をうずめていやいやしている。
まったく、普段はあんなに大人びているのに。
この状態の先輩をかまっていたらキリがない。
カーペットの上に転がして、布団をかかえてベランダへ。
うしろから文句が聞こえたけれど、知らんぷり。
先輩は外出のない休日はずっとスウェットを着ている。
三年生になって金曜が全休になった先輩は、毎週三連休。
つまり、三日間はいっさいの着替えをしないということだ。
最近はこの夏日だというのに、信じられない。
不快でしかたないだろうに。
それさえもめんどくささでなんとかするのが、省エネモードの先輩のおそろしいところだ。
このだらしなさときたら、あきれるしかない。
先輩から寝巻き代わりのスウェットを引っぺがすと、それも洗濯機に放り込む。
当然汗くさいが決して不快な匂いではない。
フェロモン系の、ずっと嗅いでいたくなる、先輩の匂い。
だが、こんなので外に出られてはたまらない。
その下からはスタイルの良い体が出てくる。
やれやれ、神様は不公平だ。
先輩を風呂に連れ込み、ついでにわたしも入る。
一人暮らしにしてはそこそこ広いこの浴室は、二人だとすこし窮屈。
裸に剥いて、シャワーで流して、お風呂に放り込む。
ここに及んでも先輩はだらけている。
為されるがままにだらけている。
スポンジを泡立てて、全身くまなく磨き立てる。
しろくて、すべすべで、肌理こまか。
ときどき、その大きな胸をさわってみたり。これは役得。
うらやましい……
わたしが僻み次いでにそういうと、先輩もわたしをちやほやしてくれる。
でも、先輩の前では、かわいらしいなんて褒め言葉にもならない。
先輩はきれいで、かっこよくて、かわいいんだから。
身体を洗い終えたら湯船につけて、今度はその艶やかな髪を丁寧に洗ってゆく。
シャンプーを泡立てて、もみほぐすように洗うと先輩はじつに気持ちよさそうな顔をする。
そんな先輩をみると、わたし、しあわせ。
win-winの関係だ。
シャンプーを洗い流してこんどはリンス。
薄く伸ばして、毛先から。
ちょっと時間をおいて、これも流す。
あとは一緒に湯船にはいって、窮屈だけど、イチャイチャする。
お風呂からあがって、先輩の髪にドライヤーをかける。
先輩の髪は長いから時間がかかるけど、それだけながいこと先輩に触っていられる。
指通りのいい髪は触っているだけでたのしい。
先輩は鼻歌でなにかうたっている。
なんだっけ?
なんかのCMの曲。
ちょっと調子はずれだけど、そこもまたかわいい。
こんな感じでわたしと先輩の生活は成り立っている。
もう半年くらい毎週末
押しかけ同然に文句を無視して強制清掃していた春が懐かしい。
最初はとまどっていた先輩も、そのうちにすっかり慣れてわたしに世話をやかれるままに。
だんだんと甘えるようになってきた。
そんな先輩がかわいらしくて、ついついもっと面倒をみてしまう。
その結果がこれだ。
なんだろう……
わたしが面倒をみる前よりだらしなくなった気もする。
うーん、こまったものだ。
わたしがいなくなって先輩、生きていけるんだろうか。
わたしにおんぶだっこの依存した生活スタイル。
「先輩、卒業したら一人になりますけど大丈夫ですか?」
ちょっと聞いてみると、
「あなたが居なかったら、いきていけない」
真顔で言われた。
「私が卒業したら、一緒に住も?」
先輩、ちゃんと自立してください。
「無理よ」
べ、と小さく舌をだして笑う。
かわいい。
ほんとうに、この人はしかたのない。
そこも、いい。
とりあえずここまで
死んでんのかと
乙
俺もこんな先輩を風呂にいれたい
いいんじゃないでしょうか
かわいい
なんだ女か(歓喜)
先輩が一人でも生活できるようになったら女ちゃん病みそう
お風呂のあとは二人で夕飯の買い出しに行く。
どうせ近所の人にはバレているから、といってスウェットで出かけようとするのを止める。
だらしないのがバレていても最低限の矜持はもってください。
スーパーまでの道すがらに先輩にメニューを聞く。
晩御飯、なにがいいですか?
「うーん、ハンバーグかなあ」
えーと、パン粉はまだ残ってますから、お肉と玉ねぎですね。
あとは付け合せのお野菜。
「ぜーんぶお任せします」
にこりと笑う。
その笑顔はずるいです、先輩。
あ、そうそう。明日の朝の分も買わなきゃ。
買うべきものを全部かごに入れて、お支払いは先輩。
わたしは割り勘を主張するのだけれど、先輩が許してくれない。
年上の矜持だそうだ。お互い、仕送り暮らしなのにへんなの。
買い物袋を半分ずつもって、下宿にもどる。
空いた手はなんとなく差し出すと先輩が握り返してくれる。
滑やかな細い指はひんやりと涼しい。
繋いだ手を大きくふって、子供みたい。
上機嫌。
もう日は落ちて夕暮れめいた風が心地良い。
下宿にもどって、手を洗い、うがいをしてからキッチンに入る。
衛生観念、大事。
先週わたしが使ってからから一切使われた形跡のない炊事用具を見て、ため息。
せっかくこんなに揃っているというのに。
先輩、コンビニ弁当ばっかりじゃ栄養が偏りますよ。
帰ってくるなりベッドに飛び込んでいる先輩に声をかける。
「じゃあ、毎日つくりにきてくれる?」
そうしたいのはやまやまですケド…
じゃ、なくて
自分で作ってみてはどうですか?
あなたの作ってくれる料理が好きだし、自分でつくるなんて考えもしないわ。
それに、なんでも作ってくれるのでしょう?
そういうことを言われると弱る。
まあ、そんなことも言いましたケド。
先輩との夕食は幸せにすぎる。
先輩は本当においしそうに食べてくれる。
食べるのが好きなんだそうだ。
見ているだけでわたしもしあわせになれる。
しかも、たくさん褒めてくれる。
先輩は褒め上手。
もっとうれしくなる。
また、本買って、レパートリー増やそうかな。
先輩、甘いものすきだし、お菓子もいいかも。
わくわくする。
ご飯を終えると片付けをして、並んで歯を磨いてお酒タイム。
といっても先輩はご飯食べてる時から二本くらい缶をあけていたけれど。
わたしは先輩ほど強くないからご飯を食べ終えてから飲む。
先輩はたくさん飲む。
聞いた話では一晩で一升は飲むらしい。
先祖は竹ザルかなにかに違いない。
さぞ雅なザルなんだろう。
なんたって、いくら飲んでもまったく崩れない。
ほろ酔いの先輩はその白い肌にぽっと朱がさす。
これがたいそう艶っぽい。
目もちょっと潤んで、楽しそうにころころ笑う。
先輩は笑い上戸。
とても楽しそうにお酒をのむ。
ちょっと注いでは、さっと空ける。
にこにこ顔ですいすいとお酒をのむのは見ていて小気味が良い。
わたしは飲むと眠くなる。
おいしいお酒はおいしいものだ。
甘いお酒は特にいい。
いい気分になってぽわぽわする。
そうしてそのうちトロトロと寝てしまう、らしい。
寝るまでのむと、記憶が曖昧だ。
今日は一緒に映画を見たのだけど、ラストシーンを覚えてない。
気が付いたら、先輩のベッドで、先輩の抱きまくらや撫でまくらにされている。
なんでも小さくて抱き心地がいいそうだ。
安眠作用があるという。
うれしいけれど、ちょっと恥ずかしい。
アンジェリーナ・ジョリーは幸せになれたのだろうか。
わたしはたいそう幸せです。
朝。
月曜。
ちょっと長めのシャワーを浴びると先輩のスイッチが切り替わる。
真面目モードの先輩だ。
きびきびとして動作に緩みがない。
人の目を意識した先輩はいつもの完璧超人だ。
本当にうまく猫をかぶっていると思う。
曰く、どっちも素、らしいけれど。
朝ごはんを一緒にたべて、先輩は大学へ。
わたしは家に寄って教材をとってくる。
そうして一週間のはじまり。
わたしの週末はだいたいこんな風。
本当は平日にもいって世話を焼きたいところだけれど、家で弟の面倒をみないといけないとだから平日はいけない。
土曜日は、バイト。
だから先輩の下宿に来られるのは日曜日だけ。
先輩と過ごすのは週に一度のたのしみなのです。
ここまでー
乙
この百合はいい百合
共依存すぎる
どっちか病むな
すばら
大学にいるときの先輩は皆の先輩だから、あんまりベタベタできない。
まあ、だれてる先輩はわたしが独り占めにしてるのだから、いい。
大勝利だ。
それでもときどき一緒にお昼を食べるときは、ついつい先輩の下宿にいるときのように世話をやいてしまいそうになる。
他にもちょっと時間があるときには一緒に行きつけの喫茶店に寄って、お茶をしたり。
最初に連れて行ってもらったとき、先輩におすすめされたロイヤルミルクティはとてもおいしくて、わたしはそればかり頼む。
他のも美味しいのよ?と先輩は言うけれど、気に入ったものはしかたない。
わたし、一途なんですよ、先輩。
なーんて。
同期の友人と話していても、やっぱり先輩のことがきにかかる
すると、どうしても先輩の話をしてしまう。
先輩の今日の服だとか、一緒に行ったお店のことだとか。
先輩のドジっ子ネタや、飲み会での伝説、今気になってるバンドなんかも。
もちろん、あのだらしない先輩の話なんかはしないけれど。
あれは秘密秘密、内緒のこと。
とにかく、わたしの生活には先輩がつきものなのだ。
わたしがあんまりにも先輩の話ばかりするせいか。
あんた、先輩と付き合ってんの?
なんて友人に聞かれることもある。
いや、まさかそんな、女同士で。
酔って悪ノリした先輩にキスされたりもしたけれど。
あんなのはただの冗談だし。
先輩の唇、やーらかかったなあ……
おっぱい揉むのだってじゃれあいみたいなものだ。
ふわっとしてずっしりしてやさしくて……
ちょっと他の人より仲がいいだけ。
わたしと先輩のは、こう友情……ちがう。姉妹的な、母性的な、なにかだし。
だから、そういうのとは違うのだ。
と、友人がぎょっとした目でこちらを見ている
なんだろう?
「いや、急に黙ってニマニマするからてっきりマジなのかと」
と、引いた素振り。
いやいやまさか
笑い飛ばす。うまく笑い飛ばせたとおもう。
ちょっとかわいがってもらってるだけだよ。
「ふぅん? ちょっと…ねえ?」
思わせぶりにしたってなんもでないって。
ダメかー、とケラケラ笑う友人。
まったく、意地の悪い。
ここまで
ええな
ええぞ
すばらしい
土曜日、夜。
雨。
大変なことが起きた。
ニュースもニュース。大ニュースだよ。
先輩とデートすることになったのだ。
あの休日出不精の先輩とデートだよ?!
わたしの人生ダイアリーに大きな花丸がついた瞬間だ。
ちょっと錯乱しているがしかたない。
いっしょにちょっとお買い物とか、ウィンドウショッピングなら暇つぶしに一緒にいくことはあっても、デー
トです。
いやいや、もうデートってなんなんでしょう?
辞書で引いて確認しないといけない。
ひょっとすると、デート:アマゾンの熱帯雨林でワニと格闘すること、かもしれない。
そんなわけないし面白くもないけどぬか喜びだったらもうだめだ、ガックシのぽっくりだ。
手持ちの辞書三冊で引いたけれどみんな同じ意味。
来週は先輩とデートです!
きっかけはささいなことでした。
たまたま回したテレビのドラマがデートシーンだった。それだけ。
ちょっとお酒で意識が朦朧としていた私は
先輩とデートしたいなあ……
と、うっかり呟いてしまったらしい。
そうしたら先輩が二つ返事でOKをくれました。
「あ、いいね。来週いく?」
もう酔いなんて一瞬でとびました。
機械人形みたいにすごい勢いで頷きましたともわたし。
名前も知らないけれどあのドラマの美男美女には最大限の賛辞をおくりたい!
ありがとう! ありがとう!
眠れぬ一週間はあっという間に過ぎて日曜日。
今日は先輩の家じゃなくて、駅前で待ち合わせだ。
二人とも電車を使わずに通学しているから人の多い駅前はすこし新鮮な気分。
わたしは謎の金属オブジェの前でかれこれ一時間は先輩を待っている。
といっても先輩が遅刻しているわけではない。
わたしがハリキリすぎただけだ。
はやる気持ちを抑えられなかったのです。
携帯をちらりと見ると、昨晩の先輩とのやりとり。
最後のメールは(じゃ、また明日ね)だけ。
とても簡潔な文面も先輩らしい。
顔がニヤけるのをそっと手で抑える。
服を決めるのにもずいぶん迷った。
昨日の夜は衣装箪笥とつきっきり。
精一杯おめかししようかどうしようか。
あんまりハリキッテも引かれちゃうか。
いっそボーイッシュに決めてもいいかも……?
いやいや、7人の小人になるのは目に見えてる。
それじゃあ、いつもどおりで…でも、ちょっとだけ変えて……
なーんてことをうじうじ考えていたらあっさり日付をまたいでしまった。
ちょっと睡眠不足だけどテンションが高すぎてまったく問題にならない。
もう一度おかしな所がないか全身をチェック。
よし、程よく隙があって万事好調!
いつ先輩がきても問題ない。
ふふふ、わたしこれから先輩とデートなんです。いいでしょう。
道行く人に心のなかで勝ち誇っていると、死角から声をかけられた。
「こらっ」
この麗しい声はまちがいなく先輩だ。
なんだか怒ってるっぽいけどきっと気のせい。
接近に気づかなかったのはわたしの不覚。浮かれすぎてたなあ。
満面の笑みで先輩へ向く。
目が灼けた。
先輩はやっぱり美人だ。改めて確認させられる。
「やっぱり早く来てた。ちゃんと時間通り待ち合わせようっていったでしょう?」
時計を確認するとまだ待ち合わせの30分前だった。
先輩、台詞がちがいます。お約束があるでしょう?
「お約束って…あなた、私にごっめーん。待ったー? てへへっ、とでも言えって?」
ふっ…いま来たとこですよ。先輩
「話をきいてよ……」
なんだか疲れた顔をしてる。先輩、ちょっと休んでいきますか?
小粋な待ち合わせのあとは予定通り、映画館に向かう。
先輩の家では映画もよく見るけれど、映画館はまた格別。
デートっぽく恋愛モノに入ってみた。
ポップコーンとアイスティを買って、ボロボロと膝にこぼすのはお手の物。
映画の内容よりは先輩の方が気になるけれど、あとで話が合わないのは困る。
なるべく集中してみるけれど、うっかり手が重なるのを期待しちゃったり。たり。
うーん……
お、おおっ!
なかなか、おもしろい。
ありきたりなボーイミーツガールなのだけれど、二転三転ひねってあって目が離せない。
エンディングではうっかり涙がこぼれてしまった。
不覚。
隣の先輩はぐずぐず鼻をならしていた。
ティッシュ、要ります?
「いいなあ、あーいうの」
映画館をでて、喫茶店にはいって甘いモノ、摂取中。
先輩はティラミス、わたしはパフェ。
唇にココアパウダーをつけて、先輩がため息をつく。
拭きとっていいかなあ、あれ。
それにしても先輩は存外ロマンチストだ。
その気になればいくらでも釣れるだろうに。
「そういうんじゃないの。わかんないかなあ?」
わかんないです。
でも、夢見る先輩もかわいい。
喫茶店を出ると、かなり時間が経っていた。
楽しい時は瞬く間に過ぎる。
予定をひとつふたつ取りやめて、残りの時間はのんびり過ごすことにする。
せかせかしたって仕方がない。
また何度だって来られるしね。
だから、ちょっと行ったとこにある海沿いの公園でお散歩デートと洒落こんだ。
潮風に先輩の髪がなびく。
あんまり絵になるので写真を撮らせてもらった。
もう、と照れていたけれど、はにかみ顔でポーズを決める先輩を存分に激写しました。
永久保存版だね。決定です。
はぁ……
かわいかったなあ、先輩。
家に帰ってから、ベッドに倒れこんで悶える。
先輩の写真をみて……悶える。
どきどき…じゃあなくて、きゅんきゅん?
そう、先輩はきゅんきゅんするのだ。
萌えです、萌え。
幸せな気分で、目を閉じる。
先輩、またデートしましょうね。
今度はどこにしましょうか。
楽しみですね……
夢の中でも先輩にあえるといい。
…………
……
あえました。
今日はここまで
あああああああああああかわいい
やりますねえ
どっちもかわいい
いいぞ
そんなある日、先輩がお願いがあるの、と。
はいはい、なんですか?
あのね、料理、習いたいの。
自らの耳を疑う。
予想だにしない言葉が聞こえた。
先輩、熱でもあるんですか?
おでこに手をあててみる。
あれ、平熱だ。
幻聴だったのかもしれない。
おこるよ? と小さくむくれる先輩。
かわいい。
…………。
マジらしい。
ええ、なんで急に?
好きな人でも出来たんですか?
と、顔を染めてうつむく。
マジカヨ。
誰だ、この天使をたぶらかしたやつは。
聞いてもなかなか答えない。
なだめたりすかしたり脅したりして、聞き出す。
なんと、同じサークルのやつだった。
なんてこった。
あいつは人畜無害そうだから見逃していたのに。
そういうんじゃないの、気になるだけなのって。
先輩、そりゃあ駄目です。
アウトですよ。
恋です恋。
恋に落ちたら地獄行きです。
しかし、先輩の頼みとあっては断れない。
男のため、というのがどうにも気に食わないけれど。
うん。
まあいつまでも、駄目人間じゃどうしようもないものね。
先輩もそろそろ真人間の道を歩まないと。
そう。
うん。
そうなのだ。
うん。
うん。
そんなわけで、料理を教えることになった。
週末にお世話しにいくのはおんなじ。
ただ、料理するのはわたしではなくて先輩。
レシピを見ながら、あたふたと動く先輩にときどきわたしが手助けをする。
しかし、あれだ。
先輩はエプロン姿もよく似合う。
新妻
最初に挑戦したのは、肉じゃが。
すこし肉が固く、じゃがいもは崩れていて、もう少しいうと甘めだったが、最初にしては上出来。
これから頑張って行きましょうね。
とりあえずここまで
く、ソフトNTRか
乙と言わざるを得まい
勘違いであってほしい
もともと頭の良い人だ。
最初は危なっかしかった包丁遣いも丁寧になり、火の通し加減もだんだんまともになっていく。
普段も自炊するようになって、みるみるカンというかコツというかを身につけてしまった。
やっぱり先輩はすごい。
ひと月もすると、料理に関してはわたしと同じくらいの腕になった。
先輩は、まだわたしの料理のほうがおいしいといってくれるけど。
食べてみればよくわかる。
先輩の手料理というだけで最高なのに、味付けが完璧にわたし好みなのだから。
わたしの味付けが先輩好みになっているのとおんなじだ。
人に喜んでもらうためにご飯をつくるのが上達の早道。
それがわたしのためだったら、もっと良かったのに
料理を教えに行くようになってから、先輩の部屋にも変化が生じた。
先輩が自分から片付けをするようになったのだ。
散らばっていた洋服は洋服ダンスに収まるようになり、ゴミもすっかり姿を消した。
床の上には髪の毛一本落ちていない。
ひどいときは腐臭さえした部屋はほんのりラベンダーの香りが漂う。
下宿につくと相変わらず先輩は寝転がっているけれど、干したてふかふかの布団の中だ。
人はここまで変わるものなのか。
恋とはおそろしいものだ。
すこし感動しつつ、座って先輩の料理をまつ。
なにもすることがなくて、手持ち無沙汰だ。
先輩の下宿だというのに、まったくもう。
先輩のご飯をいただきながら、彼の話をきく
最近の先輩の話題はいつもこれだ。
相談してくれるのは信頼の証なんだろうけど、ちょっと複雑
あれ?
なんだろ、これ。
やきもちかな?
やきもちだな。
わたしの先輩だもの、男にとられるのはくやしい
女の子にとられたらもっとくやしい。
先輩のお世話をできるのはわたしだけなんだから。
だからまだマシ、なのかな
いや、そんなことはない
わたしの先輩なんだから
誰に取られたって、こうして胸がモヤモヤして締め付けられるにちがいない。
男だろうが、女だろうが駄目なものは駄目なのだ。
いよいよ先輩とアイツが付き合い始めたら、わたしはどうなるんだろう。
ちょっとわからない。
幸せそうな先輩の顔をみていると、苦しくなる。
素の先輩の、本当にうれしそうな。
一瞬だけで十分に満足できるあの表情で先輩が輝いている。
わたしに向けられていたらどんなにか、いいことだろう
たぶん空だって飛べる。
カマドウマだって倒してみせる。
でもちがうのだ。
先輩のその目はわたしじゃなくてアイツを見ている。
恋は恐ろしいものだ。
人を変えてしまう。
先輩を変えたし、わたしも変える。
嫉妬はもっと恐ろしい。
まだ、よくわからないけれど、どろどろとしたこわいものだ。
それ以上考えないようにお酒をあおって、そうそうに先輩の膝におじゃますることにした。
気になるのでヤツに関する情報もあつめた。
悪いやつだったらなんとしても先輩から突き放さないといけない。
先輩のような天使をたぶらかすのだから悪いやつに決まっているけれど。
まったくもってけしからん。
あまり人付き合いが得意な方ではないから数少ない友人から聞き出す。
先輩をとりまく群れに突入するのも手だけれど、わたしが無理だ。
人の多い所にいくとなにも喋れなくなってしまう。
人がたくさんいると混乱する。
かといって、知らない人とサシで話すのなんてもってのほかだ。
やっぱり言葉が見つからない。
先輩は、ムリしないでちょっとずつ話せばいいの、というけれど、そんな話し方に付き合ってくれるのは先輩くらいのものだ。
ふだん接触のないひとに話しかけてビビられながらも、がんばる。
がんばれわたし。
努力の結果、得られた情報はとくに面白みがなかった。
ヤツは真面目でちょっと堅物なくらいで人当たりがよくて目立たなくて地味で口下手ででもそこが良くて……
……最後のは先輩だ。
すっかり毒されてる。
実際、見た目もちょっと背が高いくらいで特筆するところがない。
交友関係に問題があるわけでもなさそうだし、悪い評判もない。
とくに良い評判もなかったけれど、いたって普通の人ということだった。
これじゃ、表立って交際に反対することも出来ない。
それに、遠目から観察しただけでもわかる。
ヤツも先輩が好きなのだ。
いい雰囲気になっているとこだって何度もみた。
ちょっと入り難い雰囲気のところに何度取り巻きを送りこんだことか。
……ほら、障害があったほうが恋が盛り上がるって言うから。
そしてその時は来た。
来てしまった。
わたしのささやかな妨害……もとい、お祈りは天に通じず、先輩から嬉しそうな着信あり。
深夜に自転車かっ飛ばして行きましたとも先輩の家に。
チャイムを鳴らすと、すぐに先輩がでてきて抱きつかれた。
やわらかーい。
とうとうアイツに告白されたと報告してもらいました。
ききたくなーい。
でも先輩がこんなに嬉しそうなんだから、わたしだってつい嬉しくなる。
だから笑顔で言ってみる。
おめでとうございます、先輩。
ここまでー
>>65の新妻はミスやで
やっぱり百合には寝取られがよく似合う
しゃーないから女はオレが貰っていったるわ
女ちゃん病みそう
こんな展開やだよ
なら読むなよ…といいたいが
新ジャンル開拓のためにも我慢して読んでみたら?
その晩は先輩と二人で過ごした。
いつも通りとても楽しかったけれど、胸の片隅に一片の氷のようなものがあった。
そこがじくじく痛んで笑顔がこわばった。
ああ、これが嫉妬なのだろう。
わたしはやっぱり先輩を素直にお祝いすることが出来なかった。
そして、そのことに対してやましさを感じてしまった。
わたしの、わたしだけの先輩でいてほしかった。
でも先輩はアイツを選んだ。
そのことが無性に苦しかった。
歯車が狂ったのはここからなのだろう。
先輩にカレシができたというニュースはあっという間に広がった。
先輩が如何に注目されていたかがよく分かる。
高嶺の花に虫がついたと憤慨するものも、先輩の惚れっぷりをみて身を引いた。
いやもうほんとバカップル……って程でもないけど。
節度あるお付き合いではあるが、なにせあの先輩が無自覚に好き好きビームを放っている。
うっかり当てられたら即死しかねない。
キャンパス一の公認カップルだ。
わたしも先輩からカレシさんを紹介してもらった。
紹介されるまでもなく調べあげていたけれど、実際話してみると本当にいい人だった。
とってもやさしくて大人で。
どこからどうみてもお似合いで。
他人の付け入る隙はなくて、理想的な恋人同士といえた。
ところがわたしはぜんぜん駄目。まったく受け入れられなかった。
……なんで先輩のとなりにいるのがわたしじゃないんだろ?
待ち合わせたカフェの席さえ気に障る。
対面の先輩とカレシさんをみて、くわえたストローを噛む。
胃の下の方でよくないものがぐるぐるする。
用事をでっち上げて早々に席をたった。
それから、先輩と顔を合わせることが減った。
いや、わたしが先輩を避けているのだろう。
授業の合間にすれちがっても、大抵カレシさんが一緒にいた。
嬉しそうに手をふってくるけれど、見ていると苦しくなるので、会釈してすれ違うだけ。
前はときどきいっていた喫茶店もいかなくなった。
ときどきお誘いはあるけれど、笑える気がしなくて断ってしまった。
だって、わたしとふたりきりの時の先輩よりアイツと一緒のときのほうが幸せそうジャナイデスカ。
それだったらわたしなんかより、アイツと居たほうが先輩、いいんでしょう?
すみません、先輩。これからバイトなんです。
そんな嘘をついた。
週末に先輩の家にいくと、留守だった。
そうだ、昨日デートに行くってメールが来てたっけ。
わたしと行ったのみたいのじゃなくて、本当のデート。
いやいや、そんなこと先輩言ってない。思ってもない。
あー、だめだ。思考がネガティブだ。
ここまで来たんだしせめて、家事でもしていこうかな。
鍵をあける。
きれいに整頓された女の子の部屋だった。
そのまま扉をしめた。
鍵をしめて、合鍵を郵便受けに……
ちがう。
そうじゃなくて、ちがうから。
わたしと先輩ってそれだけの仲じゃないでしょう?
もっと姉妹みたいな、親友みたいな……
用済み、という言葉が浮かぶのを必死でかきけして、家まで帰った。
ベッドに入って、布団にくるまった。
寒くもないのに身体が震える。
歯がなる。
ちがうちがうちがう。
先輩が幸せなのにわたしは幸せになれない
これってなんだかおかしい。
矛盾してる。
先輩が幸せならわたしもしあわせなはずなのに。
どこかが狂ってる。
アイツのせいだ。
いやいや、ちがうちがうちがう。
誰のせいでもないし、強いていうならわたしのせい。
こんなに動揺するなんて、変。
おかしいって。
だから、ちがうちがうちがう。
ちがうんだってば。
弟が夕飯に呼びに来たけど、返事もできなかった。
寝てると思われたのか、どこかいったけれど、ちゃんと起きてる。
頭の中がスパゲッティーみたいにこんがらがってるだけ。
そして沢山の虫がうじゃうじゃしていたるとこに噛み付いて。
先輩の顔がうかんで、笑顔がうかんでぎゅってして。
さよならって先輩の口がうごいて。
ちがうちがうちがう。
そんなこと先輩言ってない。ちがうちがうちがう。
そんなやつの横で笑わないでください。
こっちを向いてください。
ちょっと待ってください、行かないで。
置いて行かないで。わたしを一人にしないでください。
待ってください、やめて。
…………
……
ひどい夢だった。
ここまでー
お、おぉぉぉ乙
つらい
寝起きは最悪。
先輩に会いたい。
会いたいけど会いたくない。
会うと辛くなるだけ。
大丈夫って言って欲しい。
声が聞きたい。
でも怖いから聞きたくない。
かわいい先輩、わたしの先輩。
もういない。
……
そんなわけない。
ただの勘違い、わたしのバカな思い込み。
バカなわたしが……
ちがう、ちがう。
先輩のことを考えるだけで吐きそうになった。
あんなに毎日想っていたのに、今はなんで?
写真を見るだけで鳥肌が立った。
その笑顔をみたくなくて引き出しの奥にしまった。
携帯に先輩からメールが来てた。
電源を切った。
そう、ちょっと時間を置いた方がいい。
冷静にならなきゃ。
こんなの一時の気の迷い。
時間と距離をおいたら、元通りになるから。
そうすれば大丈夫。
だから今日は自主休講。
外にでるのが怖いとか、そんなんじゃない。
ちょっとした体調不良。
現実もちゃんと見てる。
わかってるから、今日一日だけ。
そうしたら元通り。
大丈夫。
休むと決めたら急に楽になった。
うん。
家に居れば平気。
先輩に会わなくてすむ。
先輩の話も聞かなくてすむ。
キャンパスに行くと、嫌でも耳に入ってしまうから。
家一番、さいこーです。
機嫌よく朝食を作る。
トーストを焼いて、玉子焼きとソーセージ、コーヒー。簡単。
ビジネススーツのママがそれを急いでかっこんで出勤。
今日も帰りは遅いって。
弟はまだムシャムシャと寝ぼけ眼。
春に仕立てた中学の制服がようやく馴染んできた。
ほら、はやく食べないと遅れるよ?
弟を見送ったら、部屋に戻る。
ベッドに倒れこむ。
昼は家族全員ではらうから、サボりはバレない。
めったにしないけど。
起きたばかりなのにとても疲れていた。
気が抜けたらしい。
目を閉じると、ほどなく睡魔が訪れる。
今度はたのしい夢がいいなあ……
…………
……
起きると昼を回っていた。
そろそろ動き出さないと駄目人間。
さて、なにをしよう?
ちょっと勉強したら掃除して……
そうだ、時間あるから夕食はシチューがいいかな。
冷蔵庫の中身でなんとか足りそうだし。
そんな感じでパタパタ動いていたらあっという間に時間が過ぎた。
夕方になると部活を終えた弟が帰ってくる。
中学から始めたバスケだけどずいぶん熱中してるみたい。
筋肉もちょっとついてきた。
それにしても反抗期なのか、帰ってきてすぐに部屋にこもってしまう。
汗臭いからシャワーくらいあびればいいのに。
夕飯は弟と二人で食べる。
ママの帰りは遅いから仕方ない。
ママの分はラップを掛けて冷蔵庫。
差し向かいで弟と二人、シチューをすする。
弟の好物だから、ちょっと機嫌が良さそう。
普段はわたしが喋るのだけど、今日は静か。
気になるのかチラチラみてくる。
なあに?
「別に……」
ふうん。
沈黙。食器の音だけが響く。
気まずくなったのか、そういえばさ、と部活の話をしはじめた。
ふうん、へえ。そうなんだ。すごいね、その人。
今度は和気あいあい。
そこそこなかよし姉弟です。
ここまでー
続き気になりすぎる
先輩からのメールの内容は心配の言葉だろうか
晩御飯のあとは片付けをして、ぼーっと、テレビをみた。
どんな番組だったかは覚えていない。
弟の後に風呂に入り、寝間着にきがえる。
部屋の机の上には今朝電源をきった携帯がおいてある。
先輩からのメールは結局開いていない。
どうせ大したことは書いてないのだろうけど。
一応確認しようと手にとったところですごく嫌な気分になる。
ネズミの死骸にでもさわったような嫌悪感にすぐに手を離した。
あ、まだ無理っぽい。
引き出しをひらいて、その中に指先で弾くように落とす。
携帯、見るだけもちょっとキツイ。
なかったことにして、布団にはいる。
おやすみなさい。
次の日の朝はシチューの残りにご飯をいれて、リゾット。
いただきます、ごちそうさま。
ママと弟を送り出して、部屋に戻る。
今日も休むことにした。
まだちょっと、先輩には会えない。
寝て起きたら夕方だった。夕飯をつくって、洗濯機をまわして、お風呂に入って寝た。
その次の日も、次の日も次の日も。
電源を切ったままの携帯はいよいよ嫌悪感を増し、外は怖い所になった。
今日行けないないのに、明日行けるはずがない。
家の中で寝て、起きて、掃除、洗濯、勉強、料理。
何もしない時間はずっとベッドにいた。
気がついたら寝ていて、起きていた。
ベッドの上に夢と現実の境はなかった。
滑り台をすべる夢をみた。
そうして、一週間がすぎて、二週間が過ぎた。
この生活にも慣れてきた。
最近、弟が妙に心配してくる。
自主休講はまだバレてないみたいだけれど、やつれたらしい。
ご飯、ちゃんと食べてるのにな。
すぐ戻しちゃうのはご愛嬌。
それにしても反抗期気味だった弟がかまってくれるのはうれしい。
かわいい。
かわいいかわいい。
外に全く出ないから弟と話すのが唯一の楽しみ。
いやいや、そこまで切羽詰まってはないけど。
でも最近、夕飯の時間がまちどおしい。
短いけどここまでー
(アカン)
レズ→ブラコン
ひきこもりって立場が入れ替わっていくあたりに>>1の思惑を感じるというかなんというか
面白いので続き待ってます
…sage忘れましたすいません
女は共依存体質なのかな
>>105
そういうのいらんから
良い…
あ、かえってきたみたい。
今日も遅かったけど、部活ながびいてるのかな。
大会近いって言ってたもんね。
ほら、いま洗濯しちゃうからジャージ脱いで。
ついでにシャワー浴びなよ。
はいはい。
は? ガキじゃないとか言ってるうちはガキでしょ。
はいはい。
出てくってば、ったく、色気づいちゃって。
もー。
思春期といえば、弟の部屋にわたしが入るのも嫌がるようになった。
自分じゃ掃除できないくせに、生意気。
なにか隠してますって言ってるようなものだ。
お昼の掃除にかこつけて、色々あさってみると案の定。
うーん、オトコノコだなあ。
部屋の臭いもちょっとアレ。
自分じゃわからないのかもしれないけれど、ゴミ箱に捨てるのはダメでしょう。
鼻かんだってわけじゃなんだから。
扉をあけたらぷうんとする。
お姉ちゃんはやさしいから、なにも言わずに片してるけどさ。
他にすることもないし。
こんど遠回しに伝えておこう。
それにしても、毎日してるってお猿さんなのかしら?
ここの所、家事がさらに得意になった気がする。
一日の時間の大半をつぎ込んでいるのだから当然といえば当然か。
弟も毎日クタクタで帰ってくるし、居心地良くしようってやる気が出るし。
まま、かわいい弟のためなら頑張れるってものですよ。
とくに料理は会心の出来だ。
弟のおかわりも増えてる。
口じゃ言わないけど、わかりやすい。
うれしい。
弟の話を適当に聞き流しながら、箸を口に運ぶ。
……うん、今日のご飯も及第点。
何の話だっけ? えーと、先生のおもしろギャグ?
まあいいか、楽しそうに喋ってるし……お、ニキビ増えてるなあ。
まだ髭ははえないみたいだけど……
むむ?
そういやちょっと髪の毛伸びてるかな。
目にかかってるし、ちょっと切ったがいいっぽい。
あした切ったげよう。
なに? 床屋いきたいの?
まーまー、ねーちゃんに任せなって。バッチリ切ったげるからさ。
ここまで
乙です
乙
新たな依存先か…
坊主にされてキレる弟
次の日、帰ってきた弟を脱がして風呂場に叩きこむ。
弟が中学にあがってからはしばらくやってなかったけど、小学時代はわたしが切ってたんだから。
慣れたものです。
鏡の前に弟を座らせてシャキシャキと鋏をつかう。
こっちを切ってはあっちを切り、うーん。
まあ、こんなもんでいいか。
櫛でてきとうに梳いて、できあがり。
はい、見て、超イケメン。
あ、なにその信じてない顔。鏡見てみ?
ね? 大丈夫だったでしょう。
ごめん、あんまりイケメンじゃなかった。
いくらねーちゃんの腕でも素材まではちょっと……はいはい
んじゃ、流すからねー……って、わっ……
やれやれ、しくじった。
うっかり手元を滑らせて、わたしまでびしょ濡れだ。
肌に張り付いたシャツが気持ち悪い。
しゃーない。わたしも一緒に風呂に入るか。
濡れた服を脱いで、洗濯機にいれる。
そのまま素足をぺたぺたと風呂場まで戻ると、弟はもう浴槽に入っていた。
あ、こら、ちゃんと髪洗った?
細かいのってなかなか落ちないよ?
髪を手ですいてやると、案の定こまかいのがいっぱいついてくる。
はい、やりなおしー。
椅子にもう一度すわらせて、シャンプーをぶちまける。
わしゃわしゃー、ざばーん
はい、じゃあもう入っていいよ。
弟を湯船につけて、切った髪をまとめる。
とはいっても排水口のところにはっておいた網にシャワーで押し流すだけだ。
らくちんらくちん。
ふんふんと鼻歌まじりにシャワーをぶち撒けておしまい。
わたしの身体にも細切れの髪が張り付いてるから適当に洗い流す。
はい、そこつめてつめて。
え、なに?
でなくていいよ。
まだ入ったばっかりでしょ
……うー……っふう
お風呂にはいって息を吐いてしまうのはおっさんっぽいけどやめられない。
だってほら、自然現象だから。
あったかいのがじわじわと気持ちがいい。
それにしても大きくなったねえ、ね、いま身長どのくらい?
へー、伸びたね。
膝の間の弟がずいぶん縮こまっている。
背中に胸があたってるのがいけないのかしら。
あたるくらいにおおきくなった我が胸に乾杯。
うん、ぎゅうぎゅうだからどっちにしろあたるわねえ。
昔は二人でゆうゆうはいれたお風呂も小さくなったものだ。
なにさ、もじもじしちゃって。
あ、もしかして、大きくなっちゃったとか?
わぶっ…ばっ……ちょ、暴れないでよ。
え、なに図星?
どれどれ、おっ……ちょっ! だから暴れっ……
いーじゃんこんくらい。
減るもんじゃないし。
ほれ、おっぱいおっぱい。
あん?
あるわ。バカにすんな。
冗談半分でさわったら、本当に大きくなっていた。
わーって感じ。
うーん。どうしよっかね。
まあ、とりあえず抜いてあげよ。
どうもわたしのせいみたいだし。
だから後ろからぎゅっとして、握ってあげた。
ほら、暴れないの。
大人しく。
ねーちゃんが面倒見てあげるから。
実際、男の子のにさわるのは初めてだったけど、うまくいった。
これで耳年増の称号も返上だね。
ちょっとぎこちないけど上下にしこしこ。
耳を噛んだりしゃぶったりして、のぼせる前には、びゅびゅうって。
お湯の中に白いのが雲みたいに漂ってる。
ちょっと興味があって指先で掬おうとしたらするりと逃げる。
弟がはぁはぁしてる。
お、ちょっとやわらかくなった。
きもちよかった?
ふふ
処理も終わった所で、弟からシャワーを浴びて風呂をでた。
弟がシャワーを浴びてる間、白いのの採集に挑戦。
うわっ、なんかぬるぬるする。
臭いは……うっ……
あれ? もうでるの?
はやいね。
ちゃんと身体拭けよ。
風邪ひくから。
ここまでー♡
まさかこんな展開になるとは
すごい
羨ますぃー
お姉ちゃん可愛い
俺も美人のお姉ちゃんに性的な世話をやかれたい
弟が振り向きもせずに後ろ手に戸をしめた。
高く音が立つ。
乱暴ね。
照れてるのかしら。
こら、と声をかけるも返答はなし。
すぐに階段を駆け上がる音。
ちゃんと服着たのかな?
せっかく用意しといてあげたのに。
足あとは階段を登って、わたしの部屋を通りすぎて、隣の扉に消えていた。
弟は部屋にもどったようだ。
ドアノブに手をかけると鍵がかかっている。
あれ?
もう一度試してみてもやっぱり回らない。
おかしいな
鍵、かけないでってお願いしたのに。
うんって言ったのに。
ああ、故障か。
こわれちゃったんだね。
弟に開けてもらうために、ノックをした。
一回、二回、三回。
返事がない。
もう一度呼びかけて、ノックをする。
一回、二回、三回。
「やめて!」
一回、二回、三回。
一回、二回、三回。
「やめてよ! 姉ちゃん!」
返事がない。
どうしよう。
一回、二回、三回。
「やめてってば!」
あ、開いた。
良かった、鍵、直ったみたい。
弟がなにか言ってるけど、聞こえない。
なんで泣いてるんだろ?
って、あれ?
突き飛ばされた?
え?
なんで?
予想もしない衝撃によろめいて、廊下の壁にもたれてしまう。
そしてまた、扉が音を立てて閉まる。
あれ?
とりあえずここまでー
病んでるな
病んでるお姉ちゃんとか俺得すぎるが
病んでるものならなんでも好き
閉められた扉を呆然と見つめる。
え、なんで?
惑乱してどこに自分がいるのかわからなくなる。
気が付くと壁にもたれたまま、くずおれていた。
弟に、拒否された?
あれ?
わたし、なにか間違えたかな?
ちゃんと良いお姉ちゃんしてたよね?
ちがったかな?
間違ったかな?
無理やり疑問を繰り返しても事実はごまかしようがない。
弟の今までに見たこともないような目つきが浮かぶ。
傷ついて裏切られて嫌悪する目。
また拒否された。
捨てられちゃった。
わたし、いらなくなっちゃった。
ちがうちがうちがう。
わたし、いらない子じゃない。
でも、やっぱりこれって……
……頑張ったのにな。
オカシイナ。
歯がまたガチガチ鳴り出して、身体の震えが止まらなくて。
両手で抱くとゾッとするほど冷たくて、耐え切れなくなって悲鳴をあげる。
たすけてたすけて誰か助けてくださいわたしはこんなにくるしいんですたすけてたすけてたすけてたすけて
あ。
先輩。
先輩先輩先輩。
わたしの先輩、かわいい先輩
そうだ先輩だ、わたしには先輩がいたんだった。
なんで忘れてたんだっけ。
わたしには先輩しかいないのに。
先輩なら、わたしを助けてくれる。
話を聞いてくれるはず。
何を間違えたか教えてくれる。
笑ってしょうがないなあって。
先輩なら大丈夫。
先輩は裏切ったりしない。
先輩、今すぐに会いましょう。
今すぐ行きます、先輩。
気がついたら先輩の家の前に立っていた。
どうやって来たかはわからない。
息がひどく上がって、両脚が棒みたいに痛むけど、とにかく先輩の家だった。
とっても久しぶりな気がする。
乾く口に唾をのみこんで、チャイムを鳴らす。
先輩、先輩、先輩。
わたしですわたしです。
早く出てください。
若干のノイズのあとに、インターホンが繋がる。
「……どなたですか?」
あ、先輩だ。
先輩の声だ。
それだけで胸がいっぱいになって、ちょっと言葉が出ない。
詰まったりどもったりを乗り越えて、なんとか自分の名前だけひねり出した。
プツリと通話が切れる。
すぐに玄関の鍵があいて、先輩の姿。
涙が溢れて、何も言えなくて、ただ抱きついてしまった。
私が泣き止むまで、先輩は赤ん坊をあやすようにそっと背中をさすっていてくれた。
かわいい
まだ喋れないけど、ちょっとは落ち着いた。
ゆっくりと身体をはなして、先輩と顔をあわせる。
きっとぐちゃぐちゃでひどい顔だろうけど、先輩の顔が見たかった。
久しぶりの先輩はちょっと困ったように笑っていた。
それはわたしの大好きな先輩で、とても安心する。
また熱いものがこみ上げてきたけれどぐっと我慢する。
笑顔をつくる。
「中、はいろ?」
黙って頷いて、先輩の袖を掴んでついていく。
久しぶりの先輩の部屋は、知らない人のにおいがした。
ここまで
彼氏と鉢合わせなくてよかったな
こんなに続きが楽しみなSSは久しぶり
突然押しかけて、ごめんなさい。
「ううん、いいのよ。ちょっとやつれた?」
先輩の白い手がわたしの頬にそっとふれる。撫でてくれる。
そうですか? 自分じゃちょっと。
「ちゃんとご飯たべなきゃ、だめよ」
そうですね……ふふっ
「なあに?」
いえ、先輩にそんなこと言われるだなんて、おかしくて
「む、失礼ね。最近はちゃんとつくってるんだから、今だってほら」
キッチンをみると、まな板の上には切りかけの食材。
あ、ホントだ。
「なに、信じてなかったの? この、このっ」
うりうりと先輩がわたしの頬をつまみまわす。
その様子があんまりにも子供っぽくて思わず笑ってしまう。
「……あ、よかった」
なにがですか?
「ようやく笑ったね」
そういって、先輩が身体をぎゅってしてくれる。
そんなにうまく笑えてなかったかな?
でも、あったかくてしあわせだから、いっか。
「……久しぶりだね、元気してた?」
あんまりです。先輩に会えなかったので。
「私も。とっても心配したんだから」
……ごめんなさい
「ううん、いいの。戻ってきてくれたし」
すみません。
「サークルの人なんてね、森に帰ったんじゃないかって噂してたんだから」
なんですかそれ、わたしのイメージどうなってるんですか。
「うーん、妖精?」
妖精って……
コロポックルが脳内で旗をふる。
いやいや、わたし、そんなにちんまくない。
その後は最近の先輩の話なんかを聞いた。
わたしが引きこもっていた理由を聞かないあたり、先輩は本当にいい人だ。
カレとの事をうれしそうに話すあたり、先輩は本当に残酷だ。
聞いていてつらくなったけれど、顔色を読んでくれたのか、別の話になった。
やっぱり先輩はいい人だ。
気を使わせてしまうわたしはダメダメだ。
あたりさわりのない話がダラダラと続く。
なんだか、懐かしい。
そっか、やっと戻ってきたんだ。
ここがわたしの居場所だってわかる。
しっくりくる。
ふわふわして、しあわせになる。
笑顔になる。
ただいまです、先輩。
ここまでー
なかなか進まねえ…
続き気になる
はよ
面白いぞ
そんな幸せを噛みしめていたら、ずいぶん時間がたっていたらしい。
ちらちらと先輩が時計を気にしだす。
ああ、そうですね。
お夕飯の時間ですもんね。
料理作ってる時におじゃましちゃいましたもんね。
ふふ、じゃあ久しぶりにわたしが腕をふるっちゃいましょう。
まだまだ先輩には負けませんよ?
いいよいいよ、と鳴く先輩はほっておいて台所に立つ。
ふんふむ、じゃが芋剥いてる途中なんですね。
あとの具材は、人参、玉ねぎ……カレーですか?
あ、肉じゃが。おいしいですもんね。
そういえば、最初に一緒につくったのも肉じゃがでしたね。
ああ、そうなんですか、大好物なんですか。
そういえば、一人分にしちゃちょっと多くないですか?
ああ、そうなんですね。
カレシさんの分ですよね。
病んでる女ちゃんかわいい
はあ、今日は遅くなるんですね。
いえ、お気になさらず、ええ、大丈夫ですから。
じゃが芋を切り分けながら、平然と受け答え。
できてるかな? できてるよね?
実際は目の前がなんだか暗くてちらちらしてるけど。
ええ、彼の分、という先輩はあまりに自然で気の利いた反応もできなかった。
カレシさんの分のご飯をつくって、この部屋で一緒に食べて……食べて?
でもでも、それって先輩にとっては当たり前の生活で。
今この瞬間のわたしと二人だけのほうが異質で。
料理をする指先が次のじゃが芋を自動的に探り当てる。
異質なのは変で、おかしくて、おかしいのは駄目で。
でもわたしは先輩がいないとダメで。
先輩がいないとわたしがおかしくなるから先輩をおかしくすればいい?
あれ? ちがうな。
こういう時、どうすればいいんだっけ?
焦らしおる
男出てきてからが辛すぎる
えーと、ええと……
痛っ……ん?
頭のなかでぐるぐるしていたら、指を切ってしまったらしい。
先輩が慌ててる。
大丈夫ですよ、先輩。
ごめんなさい、ちょっと考え事してて……あ、絆創膏、お願いします。
先輩は救急箱をとりに洗面所。
まな板の上に血が落ちる。
とと、汚れちゃう。
流しのほうに手をやると、ぼたぼたと指先から血が落ちる。
意外と深くやっちゃったみたい。
その時ぱっと思考がひらけて、目の前が明るくなった。
そっか、なんだ。
ただ、わたし、先輩とずっと一緒にいられたらいいんだ。
簡単なことだった。
だってわたし、先輩のことが好きなんだから。
好きあってる二人が一緒にいたら幸せなのは当たり前だった。
そっかそっか。
悩み事解決ですっきりしたところに先輩が戻ってきた。
なんでそんなに慌ててるんだろ?
あ、そうか。
血、でてるんだっけ。
先輩に左手を任せると、困惑しながら消毒をしてくれる。
「……なんで、怪我したってのにそんなにうれしそうなのよ」
えへへ、わかります?
「変な子ねえ」
ぐるぐると包帯を巻きながら、慈母のほほ笑み。
先輩、大好きです。
「あら、私も好きよ」
ほら、両想いだ。
好き、好き好き、大好きです。
「ふふ、急に甘えん坊になって」
ね、先輩。わたしのこと好きですか?
ええ、大好きよ。
先輩もわたしが好きだって。
うれしい。
胸の奥からじんわり温かくなる。
目が熱くなって、視界がぼやける。
うれしいです。
愛しています先輩、大好きです。
わたしとってもしあわせです。
右手の包丁をそっと握り直す。
先輩の首に突き立てる。
ひねる。
血がしぶく。
痛いですよね、先輩。
ごめんなさい。
でも、大丈夫です、大丈夫です。
もう一度突き立てる。
先輩がなにか言おうとしている。
包丁を見て、わたしを見てをなんども繰り返す。
先輩の口から血があふれる。
泡立つだけで、声にならない。
でも言いたいことはもちろんわかる。
ふふっ、わかってますよ、先輩。
だから言わないでください。
わたしも先輩のことが大好きです。
そうして、先輩はしんでしまった。
私を好きなままで、私を見たままで。
これで先輩は私のことをずっと好きでいてくれる。
アイツのことなんて考えずに、ずっと幸せに。
動かなくなった先輩の身体が床に倒れた。
床は固いからかわいそう。
ベッドまで運ぶと、血の跡が至る所についてしまった。
ああ、駄目じゃないですか、こんなに汚しちゃって。
でも大丈夫です。
わたしに任せてください、全部お掃除しておいてあげます。
あ、口元もこんなに汚れてる。
駄目じゃないですか。ふふ、仕方のない人ですね。
仕方がないのでシーツの端で拭き取ってあげる。
まったく、子供みたい。
先輩の顔はいつにもまして白くて、とても綺麗。
髪が乱れていたのを手櫛で直して、うん。
素敵です、先輩。
先輩を寝かしつけて、簡単にお掃除をした。
しつこい汚れだったけど、頑張った。
掃除のあとはお料理。
作りかけでほったらかしだった肉じゃがを仕上げて、ちょっと味見。
うん。上出来上出来。
先輩、晩ごはん出来ましたよ。
ああ、お腹いっぱいなんですか。
じゃあ、冷蔵庫にしまっておきましょう。
またお腹が空いたらたべてくださいね。
わたしも胸がいっぱい。
色々あってつかれたし、ちょっと休むことにした。
先輩の横に潜り込んで目を閉じる。
投げ出された指先を軽く絡めると、安心した。
先輩の指、すべすべしてつめたくてきもちいい。
ちょっとだけ、おやすみなさい、先輩……
…………
……
……
…………
玄関のチャイムの音で目が覚めた。
起きたら先輩がいる。
この上のない幸せだ。
おはようございます、先輩。
頬にキスをすると、血の味。
チャイムが鳴り止まない。
うるさいなあ。
携帯がなる。
先輩の携帯だ。
画面にうつるのはアイツの名前。
寝起きから不愉快だ。
ドアが叩かれる。
わたしと先輩はこんなに幸せだっていうのに、邪魔をするヤツがいる。
この幸せが壊されるなんてありえない。
先輩とわたしは永遠じゃなきゃいけないんだから。
ずっと二人で幸せなんだから。
そう、だから。
ドアを叩く音がつよくなる。
包丁を自分の首にあてる。
冷たい感触。
すぐに熱いものが溢れだして、服を濡らす。
先輩の側に寄り添って、そっと胸に手をそえる。
だんだん目の前が暗くなって、先輩の笑顔。
ふふ、やっぱり先輩はわたしがいないと駄目ですね。
大丈夫です、いつまでもお世話してあげますから。
ずっと一緒です、先輩。
めでたしめでたし
乙です!
これはまとめられたら荒れるやつ
でも主人公の病んでく描写が面白くてよかった、乙
幸せってなんだろな
乙でした
乙
乙
弟フォローなしッ!
全然めでたくねえwwwwwwwwww
ハッピーエンドルートまだかよ
1月もやっといてこんなの許さん
乙
のっけからハッピーエンドなんてなかったんや
面白かった乙
ただ女って仕送り生活って書いてなかったっけ?
乙
胸糞悪いわ
このSSまとめへのコメント
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