GACKT「アイドルマスター」 (294)
このスレは
GACKT「モバマス?」の続きです
GACKTアイマスシリーズはこれで終わりにします
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朝8時。
僕にとっては、遅すぎる朝。
「…」
おまけに暑い。
梅雨の時期も遅れたことから、何だか身体も変な感じ。
まあ、ジメジメしてるのは好きだから良いんだけどさ。
『今日はニューヨークから常務が帰国するんだよ。…まあ、よろしく頼むよ』
前日、部長から知らされていたけど。
ニューヨーク…ね。
…。
……。
「…はあ?」
…よく分かった。
この会社、結構ヤバイ。
ヤバイってレベルじゃない。
ガチヤバイ。
…そりゃ平社員がおしゃれな小料理屋を行きつけにするんだもんなあ。
ああ、ガチヤバイ。
「…っていうか…」
あれからいまだ元の世界に帰る手段が見つからない。
今もこうしてスーツを着て、鞄を持って「出社」なんて言葉を使ってる。
でも、何だろう。
最近、この世界が本当に面白いと心から思えてくるようになった。
色んな奴と関わって、接して。
元の世界では味わえない新鮮さを僕にくれた。
…この世界も、この世界で悪くはない。
…。
「…いや、流石に帰れないと困るよ」
城のデザインが施された正門を見上げ、一般人ライフを満喫する自分は正直嫌だ、と思う。
いつまでも舞台袖から見てるのはつまらないしな。
…まあ、とりあえず。
今日も、頑張ろう。
「楽斗さん、おはようございます」
「…おはよう」
…もう警備員の顔も全部覚えちゃったよ。
「おはよう」
「ああ、おはよう。…おや?今日は眼鏡かな?」
「一応サングラスだよ」
相変わらずのっそりとした動作で立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる部長。
…一体彼はいつ仕事をしてるんだろう。
「アイドルの子達は…まだ来てないみたいだねぇ。時間もまだ早いから、もう少しかな?」
時計を確認しながら玄関口を見る。
孫を待つ爺さんか。
…ん?
「…」
「?GACKT君、どうかしたかね?」
その時だった。
ふと、後ろから感じる視線。
「…」
振り返ってみたが、いない。
いや、人はいるけど、それらしき奴はいない。
「…なんでもないよ。行こうか」
「…?ああ、そうだね」
…一度視線を感じたくらいで何を考えているんだ。
たまたまだよ。たまたま。
「…!」
「?」
…そうそう、たまたまなんだよ。
…勘弁してくれ。
僕は怖いのは苦手なんだ。
「しかし、あのアイドルフェスからもう一ヶ月か。時が経つのは早いものだねぇ」
「…そうだね」
一ヶ月。
思い返すと、色々あった。
まず、LIVE翌日の一面。
僕を中心としたシンデレラガールズ達の写真。
見出しは『アイドルLIVEにまさかの乱入!?』。
失敬な奴だ。
乱入者があんな堂々としてるもんか。
『シンデレラガールズプロジェクト 「行くぞお前ら!」』
…そうそう。これだよこれ。
これくらいの感じでやってほしいもんだ、どの新聞も。
こういうこともあってか、シンデレラガールズ達は無事、有名アイドル達の仲間入りを果たした。
「…」
今では、全員休みだなんて事はほとんどない。
スケジュール表はそれなりに埋まっており、それなりに活動出来ている。
…まあ、それなりだけど。
何にせよ、まだスタート地点に立っただけなんだから。
こんなんで満足させる気はないよ、僕は。
いつも通り、自分のデスクに身を置く。
周囲を見ると、アイドル達が持ち寄ったグッズが並べられている。
…毎日思うけど、まさか僕があんな子供達の世話をしているなんてな。
毎日のように子供達にちょっかいをかけられ、抱きつかれ。
昔の僕なら怒っていただろう事だけど、何故だろう。
もう彼女達が可愛く見えてきていた。
きっと親心なんだろう。
…じゃなかったらマズイ。
「…」
未央のクッションを手に取る。
ハンバーガーの形をしたクッション。
女の子らしい物とは思えないけど、これを抱えて座っている未央は可愛らしく見える。
「…」
本田未央。
あの子には随分苦労させられた。
ムードメーカーのように見えて、実は一番繊細な子だった。
だけど、何とかそれを乗り越えた。
紆余曲折あったけど、彼女はニュージェネレーションズのリーダーとして輝いた。
「…」
他の私物にも目を向ける。
ヘッドホンに、ブランケットに、花に…。
「…」
はじめは貧乏くじを引いたと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
僕にとってかけがえのないものとなっていたんだ。
この、出逢いは。
「GACKTさん!おはようございます!」
「おはよう、ちひろ」
いつもの緑スーツに、三つ編みにした栗色の髪。
変わったスーツだと思っていたけど、今ではもう見慣れてしまった。
…この当たり前のように差し出してくるわけのわからないジュースも。
いや、だからいらないって…。
「…そういえば、もうシンデレラガールズプロジェクトが出来て半年以上経つんですよね」
「そうだね」
「どうでしたか?アイドルのみんなは成長しましたか?」
「…んー…」
どうだろう。
基本は出来るようになったけど。
まだまだ発展途上というところだろうか。
「…正直、あれくらいのレベルならいくらでもいるよ」
「…ふふっ。ならまだ伸び代があるという事ですよね?」
「そうだね。これからだよ」
僕の返答は予測出来ていたようで、ちひろは笑みの表情を変えることなく答えた。
僕の事なら大体知っているとでも言いたげな感じだ。
…僕はお前の事は半年分しか知らないけどさ。
「…そういえばGACKTさん」
「何?」
「…さっき未央ちゃんのクッション見てましたけど、何かあったんですか?」
「…」
純粋な疑問だろうか。
それとも何かしらの下心があってのものだろうか。
「…別に、変な事を考えてたわけじゃないよ」
「じゃ、何ですか?」
身を乗り出し、見つめてくる。
思春期真っ盛りの中学生か、お前は。
「…一番成長したのは、未央だからかな」
「…色んなことが、ありましたからね」
半年。
その間に色んなことがあった。
アイドルとの出逢いや、仲違い。
…面白いといえば、面白いよな。
「GACKTさんなら、トップアイドルにしてくれるって信じてますから」
「…ありがとな」
何気ない応援だけど、孤独な中年男にはありがたい。
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説12巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期放送されて良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスター!!アンリエッタぁああああああ!!!タバサァぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルゲニアのルイズへ届け!
「…?誰かいる?」
「え?」
まただ。
誰かの視線を感じた。
何だろうと思って振り向くと、扉の向こうに人影。
アイドルの子かな?
「…どうかされましたか?」
ちひろも気になったようで、扉の方を振り向く。
しかしその人影はちひろが振り向くと同時に消えてしまった。
「…何でもないよ」
その人影が何かは分からないけれど。
用があるなら、話しかければいいんじゃないだろうか。
…それとも、本当に…。
「…」
ちょっと、怖いぞ。
「…」
時計に目をやると、もう昼過ぎだ。
最近、時間の流れが早く感じる。
…よっぽど楽しいんだな、今が。
それに、そろそろアイドル達が来る時間だ。
今日は少しだけ久しぶりの、全員集合の日だからな。
尚更、楽しみだよ。
「あ、GACKTさん。お昼ご飯食べまし…あ、食べないんでしたね…」
「どうしたの?」
「今日はカフェで食べようかなって思ってたんですよ」
「ふーん」
「ふーんって…あ、いいですよ。もう一人で食べますから」
頬を膨らませ顔を背ける彼女。
いつもは弁当を持って事務所で食べてるもんな。
…うーん。
僕は食べないからなあ。
「もう行っちゃいますよ!」
ドアノブを握り、ゆっくりゆっくりと開けようとしている。
いや、これは開けるフリ…だよな。
…素直じゃないなあ。
「じゃあ、紅茶だけ飲みに行こうかな」
「えへへ…」
特に急ぎの用があるわけでもない為、とりあえずちひろについていくことにした。
…大方、僕に払わせるつもりなんだろうな。
「…」
…。
「あれ?どーしたの?」
「あ!これって346プロのアイドルのCDなの!」
「へー!これ聴いてるんだー!確かにカッコいい感じだもんなー!」
「あら、他所のプロダクションのCD持ってくるなんてあんまりよろしくないんじゃないかしら?」
「でも、良い歌は良い歌よ。プロダクションが違うからというのは関係無いわ」
「ろっく、なるものなのでしょうか…」
…。
誰も、この歌の作詞作曲者の所に反応しない。
そうだろうな、と思う。
あれだけ一緒にいたのに。
みんなにとっては、無かった事になってる。
…。
忘れるわけない。
もう、6年も前になってるけど、忘れない。
…。
6年。
明確に言えば、3年と3年。
GACKTさんと、プロデューサーさん。
…。
「春香?どうしたんだ?」
「!い、いえ!ちょっとお気に入りの曲なんです、これ!」
「そうか…春香はこういうのがいいか…よし!こういう路線でもいってみるか!」
…あはは。
…私は、どっちが良いんだろ…。
「…あ」
…そろそろ、皆が来る頃かな。
「そろそろイくよ。せっかく来たのに僕達がいなかったら気分が悪い、だろ?」
元々僕は事務所にいるつもりだったんだけどね。
ちひろに連れてこられたせいでまた移動しないといけないじゃない。
「サングラス越しでも分かるくらい嫌そうな顔してますよ…」
「嫌だもん」
「えええ…せっかく二人っきりの食事なのに…」
昼は食べないんだって。
…夜なら良かったけど。
「っていうかさ、嫌なのはそれじゃなくて…」
「…?…あ、例の視線ですか?」
「うん。それ」
「…ちなみに、そう言うということは…」
…今も、現在進行形で見られてる。
何なんだろうな、全く。
恨まれる覚えは…。
…無い…よな?
その後事務所に戻ると、やはりというかなんというか。
「…遅いよ、GACKTさん」
「…GACKTさん」
「がくちーん…」
「台無しだにゃ…」
全員集合、と。
…カッコつかないな、これ。
「…あはは」
僕とちひろは、苦笑いして肩を竦めるしかなかった。
「えー!?がくちんにストーカー!?」
未央が声を大にして叫ぶ。
件の話をした所、彼女達の頭の中で自動的にストーカーの仕業だと判断されたようだ。
まあ、そりゃそうだよな。
でも、ストーカー、か。
…。
あ。
「GACKTさんストーカーにあってるんだー!」
「それってガッくんの事が大好きって事だよね!」
「つ、つまりそれって…」
みりあと莉嘉、二人の軽口に皆が興味津々なようだ。
面白おかしくからかってくる者もいれば、微妙な顔をする者もいる。
当事者からすれば、はっきりいってどうでも良いことだ。
…だって、犯人なんてあいつしかいないじゃないか。
「がくちん、それでどうするの?」
「何が?」
「うーん、がくちんの周りをパトロールしようかなって」
「いらないよ…」
…若い奴らってのは、どうしてこうもおせっかいなんだろうな。
おせっかいっていうか、楽しんでるだろ、お前ら。
「…というわけで、元婦人警官の、片桐早苗さんに来ていただきましたー!」
「静かに!みんないい?こういう時こそ慎重に、徹底した管理が必要なの」
…。
「というわけで、話は聞いたわ。これでもう安心ね!」
「…」
「えー17時00分、容疑者確h」
「違いますよ!GACKTさんがストーカーされてるんですよ!」
「え?そうなの?」
…。
何故か、このアホは僕に手錠をかけている。
現実の警察は、ドラマみたいに有能じゃないんだな。
あ、現実じゃなかった。
「んー…しかし容疑者は…ここに入れて、尚且つ彼の行動を把握している者という事になるわね…」
「あのー…というかそれ、取ってあげて下さい…」
「あら失礼」
…。
「凛」
「何?」
「こいつ訴えていいの?」
「…やめてあげなよ」
v(`o´)vンゴwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwンゴンゴなんJ民♪L(`o´)┘
( `o´)∩ンゴンゴンゴwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww(岩嵜;) ンゴーンゴーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
(ノ`o´)ノンーゴンゴンゴなんJ民♪( `o´ )。ンゴンゴッ!(;´岩嵜)ンゴンゴンゴンゴ~ッ ヽ( 岩嵜)ノな~んJ~♪
いかんのか(すまんな) ┏(`o´)┓ヨダ ヨダヨダヨダ 肩幅~♪ └(`o´)」ありがとうどういたしましてを忘れてる~┗(`o´)┓今の時代に終止符だ!(何をそんなに) 。・゚・(`o´)・゚・。
ゆくんだなんJ(いかんのか!?) (`o´)勝負だなんJ(いかんでしょ) o(`o´)o勝利を掴め!(お、Jか?)
┗┏┗┏┗┏(`o´)┓┛┓┛┓┛キンタマータマキーンー ワイらがなーんーJー♪
ちょwwwwwwwwなんjにもVIPPERが!?wwwwwwwwよ!なんj民ゥー!wwwwwwwwwwww
(※^。^※)VIPから出る喜びを感じるんだ!wwwwwwwwwwwwポジハメ君可愛すぎワロタやでwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
なんj語も練習中カッスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwWWWwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww???????wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwWWWWWWwwwwwwwwwwww
(ちな男VIPPERやけどここにいては)いかんのか!?!?wwwwwwwwwwww大村「駄目だろ(享楽)」←草不可避wwwwwwwwwwwwwwww
なお、好きなスポーツはサッ川カー児ンゴwwwwwwwwwwwwマシソンですwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwぐう蓄すぎぃ!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
嫌い選手はメンチと本田とノウミサンやでwwwwwwwwwwww好きなのはメッシとチックやさかいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
アンチはVIPP騒ぐな!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwンゴオオオオオオオオwwwwwwwwwwwwwwwwカッタデー(33-4)wwwwwwwwwwwwwwww
こんなあへあへVIPまんやけどよろしくニキータwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ヨロシクニキー、小並感wwwwwwwwwwwwンゴンゴニキー、ぐう震え声wwwwwwwwwwww
ンゴンゴwwwwwwwwゴンゴンwwwwwwww(ぐう畜ぐうかわ)アンド(ぐう聖)
日ハム内川「(川ンゴ児ゥ)いかんの茶~!?」wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
臭い!うんこやんけ! (その顔は優しかった)
う~んこのホッモなカッス(お、察し)(あ、察し)あっ…(迫真)
なおわいはイライラの模様・・・(ニッコリニキ
ポロチーン(大合唱) ←チーンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
大松「お!(お客様ニキンゴ)?よろしくニキファル川GG児WWWW?????W」
お茶茶茶茶茶ッ茶wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww(オカン)
あのさぁぁ!あくホリデイ(憤怒)←(適当ニキ)
↑ああ~^^これは教育開始だろなあ^^(指圧)
ちょwwwWADAに草生える可能性がBIRESON!?www(迫真ニキ
あの早苗とかいう元警官に平謝りされ、一先ずこの件は置いておく事にした。
…何にせよ、今はそれどころじゃないんだよ。
『GACKT君、美城常務がシンデレラガールズプロジェクトの事務所を見たいそうだ。もうすぐそちらに行くと思うから準備しておいてくれ』
やけにヒソヒソ声で電話してきた部長。
…つまり部長の近くにいる、と。
何でもかんでも急なんだよ、あのおっさんは。
こっちからすれば、たまったもんじゃない。
こっちには一般的な観点とかけ離れた奴が何人もいるんだぞ。
万が一機嫌でも損ねられたら面倒な事になる。
…ああ、何だか胃が痛い。
『あ!おはようございまー………』
…噂をすれば、だな。
「…島村卯月、渋谷凛、本田未央。貴方達がニュージェネレーションズ?」
「は、はい…」
「…頑張りなさい」
「は、はい!」
ドアを少し開けると、見知らぬ女性。
宝塚にでもいそうな感じだな。
キャリアウーマンというのは、恐らくああいうのをいうんだろう。
…行きたくないなあ。
そう思っていると。
「…あ!GACKTさん!」
一番若い奴が、一番大きな声で僕を呼んだ。
悪気の無い、理由の無い悪意が僕を襲う。
美城常務とやらはこちらに振り向くと、黙って僕を見据え始めた。
まるで下から上まで品定めでもするかのような、その目つき。
…気に入らないなあ。
「ちょっと貴方、こっちへいらっしゃい」
「…?」
歩いていくと、彼女がまずしたこと。
「…」
美城常務は僕のスーツの皺を直し、シャツのボタンを上までかけ、ネクタイの緩みを直すと。
「それは何だ?…こんなものをつけるんじゃない」
僕の顔に手をやり、サングラスを手に取った。
そしてそれをどこからか取り出したハンカチで拭くと、僕の胸ポケットに入れた。
つけるな、ということだろう。
そしてもう一度僕の体を隅々まで見定める。
やがて一息つくと、淡々と語り出した。
「君の話は聞いている。優秀な人材は貴重だ」
「…」
「しかし、クライアントが初めに目にするのはアイドルではなく君だ。身だしなみはきちんとしてもらわねば困る」
…あ、そう…。
「…それと、レッスン会場も見ておきたい」
「…」
案内しろって事?
「…こっちですので…」
…僕より歳上か、歳下か。
分からないけど、気に入らないなあ。
「…」
…サングラスから、お香の匂い。
「…ここが、レッスン会場です」
「ふむ…」
「ここが、エステルームです」
「ふむ…」
「これ、自動販売機です」
「それは知っている」
…。
困ったなあ。
話す事が無いや。
媚を売るつもりはないけど、落ち着かない。
怒ることもなく、笑うこともない。
こんな奴は初めてだ。
そしてこの人を商品として見るような目。
…ニューヨークで、何を学んだんだか。
そう考えていると、不意に後ろから足の止まる音が聴こえた。
「神威 楽斗。君にいくつか質問したい事がある」
「…何ですか?」
誰もいない休憩所で急に足を止めて何だろうと思ったら、質問責めにする腹づもりか。
「まず君は、どうしてプロデューサーになった?」
「…」
面接でもされている気分だ。
…とはいえ。
…何でだろう。
それは、1年くらい前の僕に聞いてくれと言いたいが、無理だよな。
「…こういうのも、悪くないかなと思ったからです」
「ふむ…」
我ながら訳のわからない回答だ。
咄嗟に出たとはいえ、これじゃやる気のない奴と思われるかもしれない。
「…」
「…」
美城常務は、僕の目を真っ直ぐ見つめたまま喋らない。
僕も、何を話したらいいか分からない。
そして、少しの沈黙の後彼女は一つ咳をして話し出した。
「…君は裏方よりも、表に出る方が力を出せるのではないか?」
「は?」
「君については調べ上げたつもりだ。アイドル達へのボーカルレッスン、LIVEへの勝手な参加。どれもこれもプロデューサーのやる仕事ではない」
「…あー…」
…まあ、そうだよなあ。
僕がプロデューサーっていわれても、イメージが湧かないし。
「…そこで君に、少し提案をしたい」
「…何ですか?」
「君は、346プロ専属の歌手になる気はないか?」
「…」
…。
……。
「は?」
「LIVE映像は見せてもらった。君には歌手として素晴らしい力がある」
「…ふーん…」
「で、どうかな?」
…どうかなって、言われても。
「…」
魅力的ではある。
まさに、棚から牡丹餅だ。
それなら、僕の力は120%発揮できる。
…だけど。
『GACKTさん!』
『ガクちん!』
『ガッくん!』
『ガクちゃん!』
…。
今僕がここで歌手になったとしたら。
…彼女達はどうなる?
新しいプロデューサーがつくのかもしれないけど。
「…」
でも、この半年。
半年とはいえ、絆は出来た。
出来たはずだ。
だとしたら僕は…。
僕は、自分の力を最大限に生かす為に、彼女達を捨てるのか?
僕は、逃げるのか?
…。
「…愚問だよね」
「?」
「嫌なんだよね。一度任せられた事を辞めるのって」
「…シンデレラガールズプロジェクトのことか?」
「そうだよ」
「ふむ…」
思わずタメ口になっちゃったけど、気にしてない様子だ。
いや、それなりに評価してくれているということなのだろうか。
「…分かった。だが気が変わったらいつでも来るといい」
「…気が変わったら、ね」
生憎、見捨てる気はないよ。
それをやるくらいなら、この事務所を辞めるだけだ。
誰一人捨てやしない。
彼女達は、もう僕の娘なんだから。
視線を感じながらも、僕は彼女に背を向け事務所に戻っていった。
…というか。
優秀な人材「は」貴重、か…。
これは、一波乱起こしそうな予感がするな。
「ただいま」
「おかえりなさい!何だかかっこよかったですね!美城常務って!」
卯月はああいうのに憧れるのか。
「何だか大人の女の人って感じがして!えへへ…」
…お前には無理だよ、なれっこない。
お前とあれでは、生まれた星が違う。
自分のデスクに戻ると、凛が後をついてくるように僕の部屋に入ってきた。
「GACKTさん、何か言われたの?」
「…何も?」
そう答えると、彼女の顔が暗くなる。
隠し事が苦手だからか、つい顔に出てしまったようだ。
話してやりたいけど、今はまだその時じゃない。
それに、見捨てる気もないからな。
だから、安心してくれ。
「…そういえば、あれどうなったの?」
「あれ?」
「ほら、ストーカーって…」
「…あー…」
あれかあ。
「どうせまゆだよ。気にする事ないから」
「…まゆって、佐久間さん?」
「うん」
どう考えても、あいつくらいしか思い浮かばない。
「…大丈夫なの?」
「一般常識はあるみたいだから、ほっといてもいいんじゃないかなあ」
…しかし、まゆだとしたら一つ疑問だ。
彼女はどうしても伝えたい事ははっきりと伝える人間だ。
まどろっこしいストーキングなど、いつまでもするとは思えない。
…いや、やりそうだけど。
「…まあ、お前はお前のやる事を精一杯やればいいよ」
「…うん」
「ガークちん!」
仕事を終えた未央が携帯片手に僕の元へと走ってきた。
アドレスや番号、LINEまで教えたのに何だと言うのだろう。
「もしかしたらさ、…お化けかもしれないじゃん?」
「…」
「と、いうわけで記念撮影しよ!」
蘭子が聞いたら卒倒しそうだなあ。
…にしても、こいつの顔。
…随分楽しそうだ。
僕がお化け嫌いなの知ってるくせに。
「…いいよ。面倒くさい」
「いいじゃん!もしかしたらガクちんの気のせいかもしれないしさ!」
…全くこの子は。
「はーい!笑って笑って!」
事務所の扉を背に、その時事務所にいた者達で撮影を行った。
仮に写ったとしても、どうせまゆだろうし。
正直、どうでもいい。
「はい、チーズ!」
「…で、どう?」
ああは言ったけど、ちょっと気になる。
本当にこの世のものでないものが写り込んでいるのか。
それは皆も同じなようで、未央の携帯に一斉に走っていく。
「…普通の写真…ん?」
「あ」
「あ」
それを見た瞬間、皆一様に顔が青ざめる。
「…」
僕の後ろ。
少し大きめの黒い影が写り込んでいる。
扉は…開いていない。
「…」
「…こ、これって…」
「…お、お化け?」
「…」
未央が何かの加工でもしたのではないか。
そう考えたいが、そんな時間は無かった筈だ。
…だとしたら、これは。
「…」
「「きゃあああああああ!!!」」
…この世のものではない、とでも、言うのだろうか。
…これ以来、瞬く間に心霊写真の噂は広まり、怖がりな蘭子は僕に対して普段よりも近づかなくなった。
一番ビビっているのは僕だというのに、薄情な奴だ。
「…」
翌日の昼。
本来なら休憩時間だが、この日は違った。
美城常務による、臨時の会議。
何も知らされないまま呼ばれたのは皆同じなようで、僕以外のプロデューサー達も戸惑いを隠せない。
…ただ一人、部長を除いて。
「…」
これから何を報告されるのだろうか。
ニューヨークで何を学び、何をしてきたかということを話すのだろうか。
…彼女がそんな無駄な事を話すわけがないか。
「さて、まず初めに諸君の貴重な時間を割いてもらったことに感謝する」
キャリアウーマン、か。
確かに言えてるよな、これ。
大勢の職員を前にこうも堂々としていられる彼女は、ある意味僕よりも有能に見える。
「今回集まってもらったのは、我が346プロダクションを再構成する計画を知らせる為だ」
「…」
…。
……。
…え?
「346プロダクションの全プロジェクトは、今月をもって白紙に戻す」
「は?」
「以上だ」
…いや、ちょっと待って。
いきなりの発表に皆も驚きを隠せない。
こんな事は聞いていない。
なら、何の為に今までやってきたんだ?
僕は何の為に未央や凛を連れ戻したんだ?
「意見は一応聞こう。だが通らないと思ってくれ」
…一波乱、起こしてくれたな。
「…JESUS」
…参ったなあ、本当。
第一話 終
https://youtu.be/kahscNQIUhE
v(`o´)vンゴwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwンゴンゴなんJ民♪L(`o´)┘
( `o´)∩ンゴンゴンゴwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww(岩嵜;) ンゴーンゴーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
(ノ`o´)ノンーゴンゴンゴなんJ民♪( `o´ )。ンゴンゴッ!(;´岩嵜)ンゴンゴンゴンゴ~ッ ヽ( 岩嵜)ノな~んJ~♪
いかんのか(すまんな) ┏(`o´)┓ヨダ ヨダヨダヨダ 肩幅~♪ └(`o´)」ありがとうどういたしましてを忘れてる~┗(`o´)┓今の時代に終止符だ!(何をそんなに) 。・゚・(`o´)・゚・。
ゆくんだなんJ(いかんのか!?) (`o´)勝負だなんJ(いかんでしょ) o(`o´)o勝利を掴め!(お、Jか?)
┗┏┗┏┗┏(`o´)┓┛┓┛┓┛キンタマータマキーンー ワイらがなーんーJー♪
ちょwwwwwwwwなんjにもVIPPERが!?wwwwwwwwよ!なんj民ゥー!wwwwwwwwwwww
(※^。^※)VIPから出る喜びを感じるんだ!wwwwwwwwwwwwポジハメ君可愛すぎワロタやでwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
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(ちな男VIPPERやけどここにいては)いかんのか!?!?wwwwwwwwwwww大村「駄目だろ(享楽)」←草不可避wwwwwwwwwwwwwwww
なお、好きなスポーツはサッ川カー児ンゴwwwwwwwwwwwwマシソンですwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwぐう蓄すぎぃ!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
嫌い選手はメンチと本田とノウミサンやでwwwwwwwwwwww好きなのはメッシとチックやさかいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
アンチはVIPP騒ぐな!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwンゴオオオオオオオオwwwwwwwwwwwwwwwwカッタデー(33-4)wwwwwwwwwwwwwwww
こんなあへあへVIPまんやけどよろしくニキータwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ヨロシクニキー、小並感wwwwwwwwwwwwンゴンゴニキー、ぐう震え声wwwwwwwwwwww
ンゴンゴwwwwwwwwゴンゴンwwwwwwww(ぐう畜ぐうかわ)アンド(ぐう聖)
日ハム内川「(川ンゴ児ゥ)いかんの茶~!?」wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
臭い!うんこやんけ! (その顔は優しかった)
う~んこのホッモなカッス(お、察し)(あ、察し)あっ…(迫真)
なおわいはイライラの模様・・・(ニッコリニキ
ポロチーン(大合唱) ←チーンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
また不定期で書きます
:: .|ミ|
:: .|ミ|
:: .|ミ| ::::::::
::::: ____ |ミ| ::::
:: ,. -'"´ `¨ー 、 ::
:: / ,,.-'" ヽ ヽ、 ::
:: ,,.-'"_ r‐'" ,,.-'"` ヽ、 ::
:: / ヾ ( _,,.-='==-、ヽ ヽ、
:: i へ___ ヽゝ=-'"/ _,,> ヽ
:: ./ / > ='''"  ̄ ̄ ̄ ヽ
:: / .<_ ノ''" ヽ i
:: / i 人_ ノ .l
:: ,' ' ,_,,ノエエエェェ了 /
i じエ='='='" ', / ::
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ヽ、 __,,.. --------------i-'" ::
ヽ、_ __ -_'"--''"ニニニニニニニニヽ ::
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>>32
とりあえずもうやめてね
∧__∧
( ・ω・) いやどす
ハ∨/^ヽ
ノ::[三ノ :.、
i)、_;|*く; ノ
|!: ::.".T~
ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"
来たか!
待ってたぞ
楽しみだ
乙乙
続編待ってた
突然懐から自分のCD取り出しそう
乙
担当アイドルにCDを買わせるプロデューサーか
大学教授も学生に自分が出版した本を買わせるけど…
「…」
「…GACKTさん、これ何?」
…。
「…何だろうね」
その部屋は暗く、用務員もほとんど手をつけていないからか、カビ臭い。
それもそうだろう。
今まで物置部屋としか使われてなかったものだからだ。
電気は二つ。
白熱灯がぼんやりと寂しげな雰囲気を醸し出している。
地上の音は聴こえない。
…聞こえるのは、僕達の声だけ。
「…」
別に犯罪を犯して捕まったわけじゃない。
何かに誘拐されたわけでもない。
ただ、自分の信念を貫いただけの事。
後悔はしていない。
「…どうして、こうなったにゃ…?」
…今、僕達は346プロの地下に集まっている。
何故だろう。
それは、単純な話。
シンデレラガールズプロジェクトが解体されたからだ。
「…」
「…GACKTさん、これ何?」
…。
「…何だろうね」
その部屋は暗く、用務員もほとんど手をつけていないからか、カビ臭い。
それもそうだろう。
今まで物置部屋としか使われてなかったものだからだ。
電気は二つ。
白熱灯がぼんやりと寂しげな雰囲気を醸し出している。
地上の音は聴こえない。
…聞こえるのは、僕達の声だけ。
「…」
別に犯罪を犯して捕まったわけじゃない。
何かに誘拐されたわけでもない。
ただ、自分の信念を貫いただけの事。
後悔はしていない。
「…どうして、こうなったにゃ…?」
…今、僕達は346プロの地下に集まっている。
何故だろう。
それは、単純な話。
シンデレラガールズプロジェクトが解体されたからだ。
「…」
「…GACKTさん、これ何?」
…。
「…何だろうね」
その部屋は暗く、用務員もほとんど手をつけていないからか、カビ臭い。
それもそうだろう。
今まで物置部屋としか使われてなかったものだからだ。
電気は二つ。
白熱灯がぼんやりと寂しげな雰囲気を醸し出している。
地上の音は聴こえない。
…聞こえるのは、僕達の声だけ。
「…」
別に犯罪を犯して捕まったわけじゃない。
何かに誘拐されたわけでもない。
ただ、自分の信念を貫いただけの事。
後悔はしていない。
「…どうして、こうなったにゃ…?」
…今、僕達は346プロの地下に集まっている。
何故だろう。
それは、単純な話。
シンデレラガールズプロジェクトが解体されたからだ。
上手く書き込めない…
「…」
「…GACKTさん、これ何?」
…。
「…何だろうね」
その部屋は暗く、用務員もほとんど手をつけていないからか、カビ臭い。
それもそうだろう。
今まで物置部屋としか使われてなかったものだからだ。
電気は二つ。
白熱灯がぼんやりと寂しげな雰囲気を醸し出している。
地上の音は聴こえない。
…聞こえるのは、僕達の声だけ。
「…」
別に犯罪を犯して捕まったわけじゃない。
何かに誘拐されたわけでもない。
ただ、自分の信念を貫いただけの事。
後悔はしていない。
「…どうして、こうなったにゃ…?」
…今、僕達は346プロの地下に集まっている。
何故だろう。
それは、単純な話。
シンデレラガールズプロジェクトが解体されたからだ。
「346プロダクション全プロジェクトを今月をもって白紙に戻す」
一切の躊躇なく、美城常務は言い切ってみせた。
走り回ったプロデューサー達や、ひたすらレッスンに励んだアイドル達のことなどまるで興味ないと言わんばかりだ。
思わず立ち上がる僕に対して何も言わず、ただ僕を見つめる彼女。
「…」
「…」
…そうか。
今、僕は彼女の下、いや、ただのプロデューサーの一人だった。
立ち上がって声を荒げた所で、何が変わる?
ただ従業員が文句を言っているという事にしかならない。
…こんな事が、あっていいものか。
まだスタート地点に立っただけのあいつらに、申し訳が立たない。
…僕は、力なく座り込むことしか出来なかった。
そしてその悪夢の会議の翌日から、それは執行された。
引っ越し業者がシンデレラガールズプロジェクトの事務所をただのがらんどうの部屋にしてしまっていたのだ。
しかしそれは僕達だけじゃなく、他のプロジェクトも同様のようだ。
…無論彼らからすれば、ただ与えられた仕事をしていただけ。
こちらの事情など知る由もない。
分かってはいたが、アイドルの子達はどうだ。
昨日の夜に、一言で知らされただけでは納得いくはずがない。
引っ越し業者に食ってかかっていたが、適当にあしらわれているだけだった。
「…」
様々な物が荷物としてまとめられていく。
アイドル達が持ち寄った物も、誰の物かも聞かずに詰め込んでいく。
世界が壊れていくような感覚に陥りながら、僕はこれからどうなるのかをとにかく考えていた。
「…ねえ、ちょっと、やばいんじゃないの?私達だけじゃないんでしょ?」
「美嘉姉達の所もこうなってるって聞いたよ…?」
「…」
「…何とか言ってよ!!」
思わず未央が壁を殴る。
慣れていないからか、拳に血が滲んでいる。
未央自身も分かっているはずだ。
僕にはどうしようもないことだと。
「…」
「…ガクちんなら、どうにかしてくれるんじゃないかって、思ってたのに…」
「…無理だね。今回ばかりは」
昨日の美城常務の僕に対する勧誘。
あれは冗談などではない。
本気だったんだ。
シンデレラガールズプロジェクトをこうするつもりで、僕に船を出させようとしていたんだ。
…こうも無茶苦茶をやられるなんてな。
「…」
たまらず泣き出してしまう未央を卯月が慰める。
こんなことしか出来ないけれど、今出来る事はやっておきたい。
そう、考えたんだろうな。
…優しい奴だよな。
尚更、あんな女にはなってはいけない。
「…これからどうするにゃ?」
それを尻目に見ていたみくが、いくばくか冷静に質問してきた。
誰かが取り乱すと、周りは返って冷静になる。
そういう人間の心理だろうけど。
「…」
これからどうするか、か。
正直、プロダクションを辞めて他に移るという方法もある。
あの女の下で今までのように出来るような保証もない。
「…」
思わず頭を抱えてしまう。
僕らしくないな、こんなの。
「ガクちゃん…」
…本当に、参ったなあ。
これじゃ、窓際。
分かり易いまでの、左遷じゃないか。
結局この日は只々うなだれるのみで、何かをした訳でもなく事務所を出た。
仕事が無いわけではないけれど、今日はそんな気分ではない。
「…」
このままいけば、確実に彼女達のアイドル生命は終わる。
だけど、案が浮かばない。
…嫌な話だ。
まるで今まではぬるま湯に浸かっていたかのような。
「…」
ハンドルを握る手に自然と力が入る。
しょうがない、諦めよう。
…そんな事は、微塵にも思わない。
あの女をワッと言わせるような事をしてやりたい。
…だけど、思い浮かばない。
誰か、相談出来る奴でもいればいいんだけど。
ここにはYOUも、TAKUMIもいない。
…自分で何とかするしかないんだよな。
「…?」
家に近づくにつれ、玄関先に誰かが立っているのが見える。
ピンクの可愛らしい服に、深めの帽子の眼鏡の女の子。
僕の家に何の用だろう。
あんな子は見たことも、話したこともない。
しかしその子は僕の家の表札を何度も目を凝らして見つめている。
…見るからに怪しい。
怪しいが、ここは僕の家だ。
車だってこの家の駐車場に停めている。
だから、彼女に近づく必要がある。
「…あ…」
その子は車をゆっくりと駐車スペースに入れる僕を見ると、少しばかり表情を変えた。
「…」
一応目を合わせないようにしているけど、どうしても目に入る。
…仕方ない。
もしかしたらこの世界の僕と知り合いかもしれないからな。
「どうしたの?」
「…!」
話しかけてみると、口に手をやり目を見開いた。
泣きそう、というよりは大きな感情を隠そうと必死になっている感じだ。
「…あ、あの!」
すると、彼女は帽子と眼鏡を取り再び僕を見つめた。
小さなリボンを髪の両端につけた、可愛らしい少女だ。
「…?」
…だけど、やっぱり覚えがない。
特にリアクションはないと感じ取ったのか、その子は先程の僕達のようにうなだれ、帽子と眼鏡を再び身につけた。
「僕に何か用があったの?」
「い、いえ!ひ、人間違いでした!すいません!」
忘れて下さい、と一言付け加えて彼女は走り去っていった。
微妙な笑顔で。
…誰だったんだろ。
…いや、何処かで見たような顔だ。
「…んー…」
…知らないなぁ。
本人も人違いって言ってたし、気にすることはないと思うけど。
だけど、何か、違和感がある。
少なくともさっきの彼女の行動は、何か確信めいたものがあっての行動だと思う。
そう考えていた、その時だった。
『だって私達、もう出会ってたんですよ!』
「…!」
…あれ?
何だろ、これ…。
一瞬、何かが頭をよぎった。
今の声は…さっきの…。
「…」
思い出そうにも、思い出せない。
なんだったんだろうか。
「…あ」
…今は、それどころじゃないよな。
「すまないね、GACKT君…」
翌日、休憩所で部長と顔を合わせた。
あんな事があった後だ。
部長自身も良い気分な筈がない。
「…もしかして、知ってたの?」
「いや、私も初耳だったよ」
「…そっか」
「まあ、彼女は誰かに止められた所でやめるような人間ではないがね…」
…彼にも、どうする事も出来ない、か。
「…シンデレラガールズは、これからどうなるの?」
「…ふむ」
僕の質問に、彼は顎に手をやって空を見つめる。
立場以上、無責任な発言も出来ないからか、随分真剣に悩んでいるようだ。
…それだけ、難しい問題ということか。
「…酷な言い方をしてしまうが、君次第、と言っておこうかな」
「…僕次第?」
「うむ」
…僕次第。
つまり、それは…。
「…」
「君が、諦めるか否か」
…。
「ほんっと、いやらしいよね…」
「はは…しかし、君にぴったりじゃないか?」
「…」
…全く。
ずるいというか、なんというか。
…諦めるだって?
それ、さ。
僕が一番嫌いだって、知ってるだろ?
次の日。
僕は早速彼女達が行うものの企画書を作り始めた。
…正直、全然浮かばないけど。
「…」
とりあえず、天井を仰ぐ。
点検もろくに行き届いてないからか、汚い。
これが今の僕達の現状。
「…」
時計を見ると、既に常人なら寝ている時間だ。
きっとアイドルの子達も夢を見ているに違いない。
…夢、か。
…叶えてやりたいよな。
「…さてと」
姿勢を正し、再びパソコンに向かう。
今の僕に出来ることは、とにかく、企画書を作ることだ。
どうせ会社の片隅に追いやられた身だ。
これ以上は追いやられようがないんだ。
後は上がっていくだけ。
そう考えれば、ウキウキさえしてくるさ。
「…さん」
『…さん』
「…」
…この子、誰だろ。
「…とさん」
『…とさん』
「…」
…黒いもやがかかって、ほとんど見えないや。
『…GACKTさんは、クッキーとケーキ、どっちが好みですか?エヘヘ…』
…この声…何処かで…。
「…シュークリーム…」
「GACKTさん!」
「!」
…。
あれ?
「GACKTさん、また事務所で寝泊まりしちゃって…」
「…卯月」
「おはようございます!今日もアイドル活動、頑張ります!」
「…うん」
夢、見てたみたい。
…でも、さっきの声は…。
…どう考えても、卯月じゃなかった、よな。
「…!これって…」
「?ああ…これ、企画だよ。新しいやつ」
「わぁ…何だか…とにかく、すっっっごい感じ、なんですね!楽しそうです!」
「…」
果たしてこれが、美城常務の目に留まってくれるかどうか。
「…とりあえず印刷しようかな。手伝って」
「はい!頑張ります!」
…この子といると、すさんだ気分もスッキリするなぁ。
「…ふむ」
その後、出来上がった物をまず部長に見せにいくことにした。
参考にならないことはないだろうし、美城常務と長い付き合いらしい彼なら、彼女目線でも物事を語れるかもしれないと思ったからだ。
そして今、企画書をじっくりと時間をかけて目を通し、閉じた。
「…どう?」
「…ふむ…私は、良いと思う。いや、良いと言うよりは、見てみたいね」
「…じゃあ、部長じゃなかったら?」
「…どうだろうね。彼女は…一度決めたことはそう簡単には止めてくれない」
…つまり、ダメっぽい?
でもそう言うって事は、何出してもダメって事でもあるんだよな。
…裏を返せば、何でも見せられるってわけだ。
「…GACKT君、よろしく頼むよ」
…。
さて、どうだろうね。
一応、詰め込めるアイデアは詰め込んだつもりだけど。
部長の反応を見ていたら…。
…これを見せるのは、時期尚早かもしれないかな。
「…」
『IDOL BEST OF THE BEST』
その翌日。
朝から美城常務の部屋に来るようにと連絡があった。
…今度こそクビか?
いや、彼女はそこまでバカじゃない。
「…」
しかし、何となくだけど、彼女には何か親近感を感じていた。
彼女の方針は、アイドルはあくまでアイドルであり、歌や演技で勝負するべきだと。
…正直、僕と似ている。
だけどそれは、この世界に来る前の僕の話だ。
今では、バラエティだろうがCMだろうが、出してやりたいとさえ思っている。
「…あ」
分かった。
だから好きになれないんだ。
まるで自分を見ているかのようで。
…よくわかった。
僕と彼女は、気が合わない。
「…」
なら、こいつはどうだろう。
「こうして二人で歩いていると、昔を思い出しますね」
…。
高垣楓。
僕と同じく、美城常務に呼ばれた者だ。
意外と高い身長と、モデルのような体型。
清楚という言葉を辞書で引いたらきっとそこには彼女が載っているんだろうと思わせるような立ち振る舞い。
これほどまでに完成されたアイドルがいるだろうか。
そんな印象が僕にとっての高垣楓だ。
…時々わけのわからない下手くそな駄洒落を言い出したりはするけど。
それでも、彼女の実力は評価しているつもりだ。
「…覚えてますか?初めて私と組んだ時も、こうやって呼ばれたんですよ」
「…そう、だったね」
…何度も言うけど、知らない。
「…GACKTさんは、美城常務の事、どう思いますか?」
「…どうとも思わないよ」
「嘘。嫌そうな顔してますよ?」
「…」
そこまで子供じゃないよ。
けど、きっととんでもないことで呼ばれるんだ。
そこだけは、間違いない。
「失礼します」
常務専用の部屋の扉をノックし、開けた。
…楓が。
「ふむ。よく来たな」
「呼んだの君じゃないの?」
「…まあ、呼び出してすまないと言っておこう」
常務は机から離れる事なく、その場に立ち、いくつかの書類をこちら側に向けた。
「まずはこれを見てほしい」
「…」
その書類を手に取り、流し読みしていく。
それだけでも十分すぎる程の大きな仕事だ。
毎年一度か二度しかない番組の司会。
「…これ、何?」
「見ての通りだ。君達にはこれを任せたい」
「…」
…でも、この仕事の日って。
「…あの、すいません」
「何だ?」
「この日、私…」
「分かっている。仕事があるのだろう?」
…分かっているのにどうしてだろう。
…。
「っていうか、何で僕まで?」
この仕事、出演者の名前に僕が載っている。
僕はプロデューサーであり、アイドルではない。
…というか、こんなおっさんがアイドルやってたまるか。
「前に話したものだ。君には歌手や司会としての力がある。…というよりは、かなり場慣れしている」
「…で、楓のやつは?」
「君達は選ばれたんだ。そんな粗末な小屋の小さな仕事をするべきではない」
「…」
粗末な小屋の、小さな仕事。
…ふーん。
「…やっぱり、何も分かってないよね」
「…何?」
「シンデレラってさ、元々小さな仕事しかしてこなかったんだよね」
「…?」
シンデレラ。
姉にいじめられながら、自分の住まいは粗末な小屋で。
雑用などの仕事しかしてこなかった。
だけど彼女は、魔法使いに魔法をかけられ、やがて大きな存在となった。
「魔法をかけるのは、君じゃないよ」
「…」
「アイドルに魔法をかけることが出来るのって、僕達なんだよね」
「…この仕事は、断ると?」
「聞くまでもないよね」
「…ふむ」
「君は君、僕は僕、だからさ」
彼女は分かっていない。
仕事に大きいも小さいも無いんだ。
それに、その小さな仕事だって楓のプロデューサーが足で手に入れた仕事だ。
十分に誇り高いものだと僕は思う。
そして、隣にいた楓の方を向く。
そこには。
「…私も、同じです」
そう答えた彼女の顔は、いつにも増して朗らかな笑顔だった。
…そして今。
僕はニュージェネレーションズを携えて楓の仕事に臨んでいる。
あの日の出来事は瞬く間に346プロ全体に知れ渡った。
それをよくやったと言う者もいれば、上司に対して無謀だと言う者もいる。
しかし、批判する者は誰一人いなかった。
…それだけあの常務が信頼されてないってことかな。
「…楓さ、僕に合わせたって事はないよね?」
「…いいえ、本心でしたよ?」
…そっか。
この子もまた、僕と同じ考えなんだな。
「誰かさんに、そういう風に鍛えられましたから」
「…」
…その誰かさんは、僕であって。
そして、僕じゃない。
それを言っても、きっと白い目で見られるだけだろうから、言わないでおこう。
それに今大事なのは、目の前の仕事、だからな。
「…ねえGACKTさん」
「ん?」
「ここ、覚えてますか?」
「また?」
「ここで私は、デビューして、…GACKTさんに頭を撫でられて。そしてまた、ここに帰ってきました」
「…そっか」
僕と楓は、結構上手くやってたんだな。
…デビュー会場、か。
だったら尚更、やめられないよな。
「…これ、あの時と同じ衣装なのに…」
「何か言った?」
「いえ、何も」
…?
「…まあ、とりあえずさ、恩返ししてきなよ」
「はーい」
気の抜けた返事とは裏腹に楓はしっかりとした足取りで会場に向かい、観客を最初から最後まで湧かせてみせた。
…彼女は、いや、彼女こそ。
…本物のシンデレラなのかもしれないな。
「がくちん!楓さんのLIVE凄かったね!」
「そうだね」
確かに凄かった。
でもそれはパフォーマンスだけじゃない。
始まる前から彼女は人数分の団扇にサインを丁寧に書き上げ、混雑する観客に対しても落ち着いた態度でたしなめていた。
「お前らも参考にしときなよ」
「あったり前だよー!この未央ちゃんだっていつかあれくらい、いや、あれ以上に…」
「…いつか、じゃダメだよ。すぐにじゃないとさ」
「えへへ…そうでした」
あれは恐らく、僕から教わったものではないだろう。
彼女自身が元来持ち合わせた才能だ。
…そう考えたら、こいつらには無理っぽいな。
「参考にとは言ったけど…見本にする必要はないし、真似もしなくていいよ」
「…?」
「楓は、楓にしかなれないし、お前達はお前達にしかなれない。それは皆同じだ」
ニュージェネレーションズに限らず、僕はシンデレラガールズプロジェクトの子に関しては良い所も悪い所も分かっているつもりだ。
悪い所は、直せるものは直せばいいし、直らないなら、良い所を上げて気にならないくらいにしてやればいい。
…つまりは、個性、か。
ならウチは負けないよ。
変なのならいくらでもいるんだから。
変なのなら、な。
…。
……。
「…はぁ」
第二話 終
また書きます
ミスしたのは流して下さい
乙でした
常務が武内Pの未来の姿という意見を見たことがあるけど、GACKTの場合は過去の自分ってわけか
おつ
おつおつ
「「個性?」」
「うん」
先日、個性を伸ばしていくという方針を取った僕は、シンデレラガールズ達を集め会議をすることにした。
議題は勿論、各々の個性を生かした案を出す事だ。
「それならみくは初めからやってるにゃ!これこれ!」
会議が始まるや否や、いの一番にみくがチラシを渡してきた。
いや、正確にはチラシの裏、だな。
…貧乏くさい。
「…で、何これ」
「何って…猫200匹集めて…そうしたらきっと面白いにゃ!」
「…あー…」
そういうことじゃ、ないんだよなあ。
「私のはどうですか!?」
みくの次は、李衣菜。
…やはり、現実味の無い案だ。
だけど、気持ちは嬉しい。
こんな会社の地下倉庫に放り込まれてもまだ彼女らは希望を持ち続けていてくれる。
それだけでも、今の僕には嬉しいんだ。
「…ねえ、GACKTさん」
「何?」
二人を皮切りに、皆が自分の考えた案を出し、やいのやいの騒ぎはじめた。
その中でも特に何かをするわけでもなく、冷静に皆を観察していた凛。
彼女にも手渡された紙を見ると、そこには何も書いておらず、真っ白だった。
「…私って、何か個性あるの?」
「…んー…」
凛の個性、か。
…確かに、これだというものは無い。
今時の女子高生と言われれば、そうだと答えざるを得ない。
…でもなあ。
「花屋の看板娘で、不良っぽくて、犬を可愛がってる良いオンナってあんまりいないよな」
「…スケベ」
あはは。
それは褒め言葉だって。
「でもどうして急に個性なんだにゃ?」
そう決まったからだよ。
と、言っておきたかったが、そんな事はみくだって理解している。
要は僕が何故そう考えたのか、ということだろう。
…それは、何というか。
「…企画の上、でかなぁ」
「企画!?どんなのにゃ?」
…卯月、言ってなかったのか…。
「IDOL BEST OF THE BEST…」
「これ、本当にみく達のLIVEにゃ?」
「何で?」
「何でって…新人アイドルがBEST OF THE BESTって言っても説得力無いにゃ」
ああ、そういうこと。
「それなら問題ないよ」
「…?」
「あのね、ただ長い間アイドルやってればいいってもんじゃないんだ」
僕の話に耳を傾けながらも、その意味が分からないのか怪訝な顔をする彼女達。
それじゃ、ダメなんだよ。
「記録だけでファンが出来るなら苦労なんかしないんだ。僕は記録じゃなくて、記憶でファンを作りたい」
一回一回のLIVEに全力を尽くす。
たとえその時、力付きようとも。
歌手ってのは、そうあるべきだ。
「…んー、難しいなぁ…」
「だけど、分かるだろ?」
「とにかく、全力でやればいいってことだよね!」
そう。
そうなんだ。
莉嘉やみりあにはまだ小難しい話だったのかもしれないけれど。
それでも、本能的には分かってくれている。
これこそ、歌手のあるべき姿なんだ。
だから、頑張ろうよ。
今を楽しんで、最高にイケてる人生にしよう。
そうすれば、自ずと結果もついてくるもんだからさ。
僕が思っているのは、それだけだ。
「…ふむ」
彼女達の同意が得られた事で、僕の決意も固まった。
そのままその足で常務を訪ね、企画書を見せた。
…自分の依頼を断った奴の企画書なんて目の前で破り捨ててやったとしてもおかしくないのに、隅々まで読み込んでくれるその器には感服するけどさ。
「…ふむ。アイドル達の個性、か…」
「やっぱりさ、個性って大事なんだよね。同じやつばっかりだと飽きられると思うから」
「それは一理あるかもしれない。だが、私の考えはそうではない」
「?」
「その中でも飽きられずに一際輝き続ける者こそが売れるのだ」
「…ふるいにかけるってこと?」
「そういうことだ」
…まあ、確かにそれも一理ある。
誰しもがアイドルになれるわけじゃないんだから。
はっきりいって、かなり現実的、合理的だ。
「…随分地に足をつけた考えだね」
「そうでなくては安定は成り立たない」
「…でもさ、それって…」
「…?」
それってさ。
確かに堅実で、立派な考えだ。
…会社的には、ね。
「…長所を伸ばさないって、個性をアピールさせないってさ」
「…」
「…つまらないよね」
「…何?」
「人生ってさ、冒険なんだよ」
「…」
「簡単な方か、難しい方か。選ぶなら難しい方なんだよ。そっちの方が得られるものは大きいんだから」
「…ふむ。ならやってみるといい。が、私は私のやり方でやらせてもらう」
…上等だよ。
売られたケンカは買う主義なんだ。
それは僕だけじゃない。
きっと、彼女達もそうだ。
…舐められたままで終われるもんかよ。
「…」
…ああ意気込んだものの。
「…」
「…以上だ。これからはバラエティへの露出は控え、ドラマや音楽番組へとシフトしていく」
会議に呼ばれ足を運んでみると、随分少人数での会議が行われていた。
特別上の人間が呼ばれたというわけではない。
…僕に対しては、当てつけもあるのだろう。
…まあ、彼女は彼女でやるって言ってたもんなあ。
今の僕には責める権利は無い、か。
「…ん?」
だけど、常務が作成した番組降板のアイドルの中に見覚えのある名前があった。
「…菜々」
安部 菜々。
年齢は自称17歳。
彼女とは少しばかり思い出がある。
…贔屓するわけではないけれど、ちょっとダメージがあるな。
彼女はそれなりに人気のあるアイドルで、番組のコーナーを一つ降ろされたくらいで困ることは無いけど。
でも、常務の掲げる案と菜々は噛み合わない。
いずれは、全て降ろされることにもなりかねない。
…権力ってのは、本当に面倒臭いよ。
「…」
会議室を出て、地下へ続く道を歩く。
結局あれから少しばかり口を出してしまった。
しかし常務は一切の意見を許さず、考えも変わるはずがなく。
結局僕の目の前で菜々の降板は決定してしまった。
「…あ」
丁度一階の、外の景色が見渡せるバルコニー付近。
そこの片隅に、彼女はポツンと座っていた。
手には、仕事の際に身につけるウサギの耳。
…改めて見ると、イタい。
けれど、あれが彼女にとっての正装であり、変えたくないもの。
…どうしたものか。
「菜々」
「…あ、が、GACKTさん!こんにちは!」
彼女は僕に気づくと、平静を装っていつも通りの挨拶をした。
…嘘ついてるの、バレバレなんだけどね。
そんな顔、どこが笑顔なんだか。
「…話、聞いたよ」
「…あ…」
僕の一言で全てを察した彼女はさらに顔を暗くし、座り込んだ。
よっぽど、ショックだったんだなあ。
「…GACKTさん。私、ウサミンを辞めるべきなんでしょうか…」
「…僕は辞めた方がこの先めんどくさくならないと思うよ」
「ふぇ…」
キャラなんて作っても、いつか息切れするからね。
…良い見本が目の前にいるから、ね。
「…まあ、辞める辞めないはお前次第だよ。自分の信念に従えばいいよ」
「…信念…」
「そうだよ。今すぐは決められないと思うけど、ね」
…うさ耳の信念って何だって感じだけど、それが彼女にとっての死活問題というなら、止めることはない。
「シンデレラガールズの皆にも言ったんだけどさ、世の中にはプロダクションなんて山程あるんだから。仮に346プロを辞めることになってもどうにでもなるよ」
「…」
「…何だったら、飲みにでも付き合うよ。奢るから」
「本当ですか!?……あ、いえ、ドリンクバーとかの、お話ですよね?」
焦ってしどろもどろになってる。
…こういう所、嫌いじゃないな。
「そういえば菜々ってさ、明後日ゲームのイベントで司会やるんだよね?」
「は、はい…」
こんな時にって感じだけど。
まあ、そこで彼女がどうするのかは、彼女次第。
上からの命令に従う社会人となるか。
自分の信念を曲げないバカ正直な奴となるか。
どちらを選んでも、僕は正しいと思う。
「…まあ、頑張れとしか言えないよね」
「…はい」
…助言してやりたいけど、今の彼女にベストなのは、思い浮かばないな。
菜々と話した後、そのまま企画書の見直しをする為に地下事務所へと向かっていると。
『〜!』
『〜!』
…何やら言い合いをしている空気だ。
…入り辛いなあ。
「…」
とりあえずドアの前で聞き耳をたてていると、どうやら言い争っているのは李衣菜とみく二人だった。
それだけならいつも通りの事なのだけど、今回は珍しくみくが追い込まれている様子だ。
『キャラとか、個性とか、そんなのこだわってたらそれこそ仕事が無くなるんだよ!』
『…でも、みくから猫耳取ったら何も…』
「…」
これはあれか。
李衣菜は恐らく、菜々の件について知っているということか。
…キャラにこだわる自分達に置き換えて、危機感を持ち始めたんだな。
…僕だったら、どう思うんだろう。
最初の頃は、ドラマとか、映画とか、俳優業に関しては出るの渋ってて。
そのうち考えが変わり始めて、あれこれやってみようと思うようになった。
「…」
…でも、僕は自分のキャラを変えようと思ったことがあるだろうか。
「…」
…いや、無いな。
一度たりとも無いや。
それにさっき、決めたばかりじゃないか。
「うるさいよ。外まで聞こえてるじゃない」
「あ…GACKTさん…」
「…」
中に入ると、やはり空気はギスギスとしており、とても話し辛い雰囲気だった。
それでも、プロデューサーとしては何か話さなきゃ駄目…なんだよな。
「あのさ、こっちとしてはもう方針は決めたつもりなんだよ」
「え…」
李衣菜だって分かってるはずだ。
「僕達は常務とは違うやり方で一流になるんだ。手堅い方針なんかつまらない、だろ?」
自分のキャラを持つことがどれだけ大変で、めんどくさいか。
…それでもさ。
「ロックにイこうよ。お前も好きだろ?ロック」
「…でも」
「でももへったくれもないよ。今だにヘッドホン持ってくるくせに」
「そ、それは趣味の範囲で…」
…ああもうめんどくさいなあ。
「…いいからさ、黙って僕についてきなよ」
「…えっ…」
「お前のプロデューサーは僕なんだから」
…我ながら、クサイ台詞。
…ん?
この台詞、前にも言ったっけ?
…Twitterか、何かかな…。
「…ふふふっ」
「?」
自分の記憶を遡っていた所、突然李衣菜とみくが笑い出した。
…やっぱりクサかったかな。
「何だか迷ってたのがバカみたいだね!」
「そうだにゃ。でも今の、ガクちゃんらしくて良かったにゃ?」
「…どうだろうね」
みくの言葉に少々苦笑しながらも、周りの者達が活気を取り戻したのを見た途端、僕も考えるのをやめた。
これでいいんだよ。
やっぱり性徒達はこうでなくっちゃ。
あ、学園無かった、あはは。
…で。
「…何これ?」
「何って、菜々ちゃんのイベントだにゃ」
「ゲームの司会やるんですって!」
菜々のイベントがあるのは知ってる。
問題は、なんで僕らがいるのか、だ。
「だって菜々ちゃんだってみく達と似てるにゃ。ほっとけないにゃ!」
「ほっときなよ」
「酷いですよGACKTさん!同じ事務所じゃないですか!」
…菜々のプロデューサーは何やってんだろうな。
…っていうか、あの子はもうおと…。
…まあ、いいや。
「安部さーん。もうすぐ入り時間なのでスタンバイお願いしまーす」
「は、は〜い…」
…。
…これ、どうしようかな。
「…」
『申し訳ないが、これから346プロは…』
…。
最初から、無理だったのかなあ。
無理してキャラ作りなんて、しない方が良いのかな。
…私は、どっちがいいのかな。
GACKTさんには、自分の信念に従えって言われたけど。
…自分の信念が、分かんないや。
「安部さーん。346プロの方がお見えでーす」
「えっ!?」
「菜々ちゃん!応援に来たにゃ!」
「え…あ、あの…」
「あ!これっていつものうさ耳だよね!」
突然、みくちゃんと李衣菜ちゃんがやってきた。
…応援に来てくれた、らしいけれど。
「…」
今の私にとっては、プレッシャーにもなってしまう。
多分、この子達は私がこのうさ耳をつけて司会をすることを望んでいる。
…でも、それをやってしまえば。
会社の意向に背くことになる。
それは、社会人としては最悪の行為。
…この先もアイドルを続けたいなら、どうするべきなのか。
「…その、ね。二人とも…」
「はい」
「え…」
頭に、微かな感触。
「…?」
振り向くと、そこにはいつの間にか入ってきていたGACKTさん。
彼は一切の躊躇なく、私にうさ耳を被せた。
…私の事情は、知ってるのに?
「早く行きなよ。ファンが待ってるんだから」
「…でも…」
「もしお前のプロデューサーがお前を捨てたら、僕が拾うよ。お前のプロデューサーをぶっとばした後でさ」
「…GACKTさん…」
「僕さ、今シンデレラガールズの企画を進めてるんだ」
「…?」
「そこではさ、皆がやりたいようにやらせるつもりなんだよね」
「え…?」
「もし結果がダメだったら、僕は責任を取って辞めるつもりだよ。シンデレラガールズと一緒に」
「「ちょっと!?」」
…どうして?
怖く、ないのかな…。
だって、クビになるのに。
「それにさ、お前の歌ってどう考えてももう黒歴史にしようがないじゃん」
「え゛」
「ほら早く行きなよ」
「あ、ちょ、GACKTさん?」
GACKTさんは私を立たせると、背中を強く、それでいて優しく押し始める。
「そういう歌出すからだよ。こうなったら最後までやり抜きなよ」
「あの、けなしてるのか応援してるのかどっちなんですかぁぁぁぁ…」
…きっと、ナナはGACKTさんには一生勝てそうにありません。
…もう、考えるのは、やめよう。
こうなったら、やるだけやってみよう。
ダメだったら、やめよう。
…それでいいや。あはは。
「わ、分かりました!ウサミン!いっきまーす!」
「イタっ」
「やめてください!!」
「ミンミンミン!ミンミンミン!ウーサミン!」
…。
舞台袖から見てるけど。
今すぐ帰りたい。
帰りたいけど。
「ミンミンミン!ミンミンミン!ウーサミン!」
「ミンミンミン!ミンミンミン!ウーサミン!」
隣で小声で応援してる二人のせいで帰れない。
「…お前らさ、ああなれとは言わないけど、もう周りに流されちゃだめだよ」
「うん…!」
「…あの、GACKTさん」
「ん?」
「GACKTさんは、その、菜々ちゃんのキャラあんまり好きじゃないみたいですけど、結構応援してくれてますよね」
李衣菜はたまに、直球な質問を投げかけてくるよなあ。
…んー…。
「…仕事をする上で一番大切なのはさ、信念、それを突き通す強さ、結果を出そうとする意志なんだよ」
「?」
「一度迷ったけど、今のあいつからはそれらが感じられるようになった。だから応援してやりたくなるんだ」
「な、なるほど…」
「まあ、あのキャラは嫌だけど」
「…まあ、この際良いじゃないですか。ほらGACKTさんも!ミンミンミン!ミンミンミン!ウーサミン!」
「…」
「ミンミンミン!ミンミンミン!ウーサミン!」
「…」
…ある意味、凄いよ、あいつ。
「…」
あれから菜々はいつものキャラに戻った。
もう開き直ったんだろうな。
…相変わらずイタかったけど。
「…」
みくと李衣菜は先に帰らせた。
先輩アイドルを見てお互いに思うこともあっただろうし。
今頃二人で猫耳ロック云々言ってるんだろうな。
あれでいいんだよ。
どうせ最後にはまとまるんだ。
あいつらにうじうじしてる姿なんてのは似合わないんだよ。
「…?」
もう時間は夕方、というより夜だというのに事務所に明かりがある。
…聞き耳をたてると、今度は何やら賑やかだ。
あいつら、今度は何を企んでる?
「…入るよー」
「…あ!ガッくん帰ってきたよー!」
「お!ガクちん!これどう?」
「…」
何だろう。
そこに広がる空間。
随分、既視感がある。
…。
いや、これって…。
「…また散らかしたの?」
「掃除したの!!!また小物置いただけ!!!」
「あはは。冗談だよ。ありがとう」
「もー…ガクちんはいつもそうやってからかうんだもん…」
…これは、前の事務所の内装だ。
きらりのタオルケットに、未央のクッションに、凛の花に…後何か数点。
隅々まで掃除したのか、埃臭さも無くなっている。
彼女達なりに考えたんだろう。
今出来ることを全力でやる。
…成る程ね。
…今日は、気分良く仕事が出来そうだよ。
…。
……。
「…加湿器は?」
「一個だけ置いたよ」
…やっぱりかあ。
「…」
記憶が無くなったり、時間が巻き戻ったり。
…ゲームの世界、なら…当然、なのかな。
「…」
改めて、この間のことを思い出す。
帽子とメガネを外した私を見ても、ただ反応に困っていただけだった。
もう、私の事なんて覚えてないんだろうなあ。
…でも。
ただ記憶が無いだけで、彼は本物なんだ。
「…」
この世界がゲームだということ。
それはつまり、色んな私達がいて。
色んな人達とお仕事をしてるって、ことなんですよね。
…でも、違うんです。
違うんですよ、GACKTさん。
「…この世界の、「天海春香」は、私だけなんですよ」
GACKTさんと会った私は、私しかいないんですよ。
…私、一人だけしか、いないんですよ。
第三話 終
またそのうち書きます
乙乙
乙ですって!
では書きます
マダー?
書いている途中に寝落ちしてしまったのだろう、きっと
テイストは前作までの本人そのものなんだけど
アイドルとのコミュ描写が淡白すぎてもったいないぞ
も っ と 触 れ 合 え
「学園モノ…」
「はい。今ですね、アイドルの子供向け番組を制作中でして…それでしたら、シンデレラガールズの方々からも出てほしい方がいるんですよ」
最早346プロの上層部はアテにならない。
だから僕は今まで以上に自分の足で仕事を取らなければならなくなっていた。
そして今、ひとまずレギュラー番組を一つ、もぎ取ることに成功した。
…正確に言うと、元々他のプロジェクトで決まっていた番組に出させてもらうというものだけれど。
「…というわけなんですが、この方々のお力を借りたい訳なんです」
「うん…。これなら向いてそう。…ありがとう」
「いえ…。今、そちらも大変だそうですからね」
彼のプロジェクトも、ひしひしと346プロ全体の嫌な雰囲気を感じ取っているようで、僕の事を他人事のようには思えなかったようだ。
…持つべきものは、仲間、友、だな。
…にしても。
お辞儀をしている時に、偶然目に入っただけなんだけど。
「…」
靴底、随分すり減ったなあ。
この間買ったばっかりなのに。
結構高いんだよ、これ。
…ああ、仕事してるなあ、僕。
「とときら学園?」
「うん…愛梨ときらり、みりあと莉嘉の週一レギュラー番組だよ」
「ホント!?テレビに出られるの!?」
「うん」
そういえば、この子達はまだレギュラー番組を持ったことなかったな。
出たとしたら、ゲストとか、紹介VTRくらいだ。
…アイドルを育てるのって、こんなにも難しいんだなあ。
「きらりは愛梨と一緒に先生役。後は生徒役だから」
「頑張るにぃ!」
「はーい!」
「後でお姉ちゃんに教えちゃおー!」
「…」
…。
…。
莉嘉を見て思い出した。
最近、美嘉が路線を変更したようで。
「クールビューティーは城ヶ崎 美嘉である」
的な感じで地下鉄やらビルの広告やらに彼女のクールなポーズが載っている。
…似合ってるかどうかと聞かれると、似合ってると思う。
それに僕はどちらかといえば、あっちの方が好みだ。
…だけど、美嘉の事を今まで見てきたファンはどうなんだろうな。
…にしても、美城常務の魔の手は、とうとう売れっ子アイドルまで伸びてきたのか。
「…」
家に帰るといつも溜息が出る。
まず、風呂を自分で沸かして。
ようやく風呂に入った後は、自分のシャツや靴下などを洗濯機に放り込んで、洗剤を入れて、柔軟剤も入れて、スイッチを押す。
…終わるのは30分後、か。
何とも中途半端な時間だ。
「…何か、テレビでもやってないかなあ」
シンデレラガールズ以外のやつはほとんど見ないからか、何がやってるのかなんて正直分からない。
テレビはあるけど、大体ビデオ観賞用のプレーヤーと化してしまっている。
だから、僕がリモコンを持ってテレビのチャンネルを回すなんてかなり珍しいんだ。
…自分で言うのもなんだけどさ。
「…あ」
その時はどうやら、丁度アイドル特集をやっているようだった。
こんな夜遅くにご苦労な事だよ。
どうせ録画なんだろうけど。
『でもやっぱりアイドルといったら、一番初めに出てくる事務所は…』
『…そうです!あの765プロなんです!』
…765プロ、ねぇ。
アイドルの勉強をしてた時、ちょビッツだけ見たなあ。
そういえば、この世界に来た時も広告やらビルのでかいモニターにも、彼女達が映っていたな。
「…ん?」
『その中でセンターを務めるのは…』
『天海春香です!よろしくお願いします!』
『リボンがチャームポイント、趣味はお菓子作りといった何とも「王道」のアイドル路線を走る天海春香さん!』
…この子って。
この間…僕の家の前にいた子、だよな。
…どうりで見たことあると思った。
こんな有名な子がどうして僕の家の前にいたんだろうか。
…単なる人違いならそれでもいいけど。
『なんと家は事務所から2時間以上も離れて…』
…単なる人違い、なのか?
彼氏の家にでも行こうとして間違えたとは考えにくいし。
…あの目は、まるで僕という人間を知っているかのようだった。
「…」
今度会えたら、聞いてみようかな。
「piー」
「…」
洗濯も終わったみたいだし、まあ、いっか。
それに今は、身内の問題が大きいんだしな。
次の日、ようやくとときら学園の企画書がまとまったので、愛梨のプロデューサーと打ち合わせを始めた。
「そこでこう…可愛らしくですね…」
「うん…」
「…ここは、諸星さんと十時さんで…」
「…」
なるほどなあ。
やっぱり専門だからか、僕に無いアイデアを次々と放り込んでくる。
勉強になるなあ。
「GACKTさんからは何かありますか?」
「…んー…」
「…?」
「エロスが足りないね」
「あの、これ子供向け番組ですよ…?」
どうやらこの番組では僕のセンスは生かされないようだ。
…残念。
彼との打ち合わせを終えて事務所に戻ると、もうアイドル達がやってくる時間となっていた。
この仕事にかなりの熱を注いでるというのが視認出来そうなほど伝わってきたからなあ。
…どうやら、この会社にも面白いオトコはいるんだな。
「ガックーン!!こんにちはー!」
勢い良く扉を開けて、うるさい声で挨拶をしてくる。
そんな奴は、莉嘉しかいないな。
みりあですら最近は気を使うようになったってのにな。
「ねー、ガックン聞いてよ!」
「何?」
彼女は自分の学生カバンをソファに放り投げると、一目散に僕の元へと走ってきた。
何やら悔しそうな顔をしているみたいだけど、何かあったのだろうか。
「あのね、学校の男子がアタシの仕事はどうせガキみたいな仕事だって言うんだよ!」
「ガキじゃん」
「ガキじゃないもん!セクシーなギャルなんだよ!」
「ガキじゃん」
「ガキじゃないもん!」
「何でガキだと嫌なの?」
「だって、もうアタシ中学生だよ!もうすぐ大人の仲間入りなんだよ!」
「僕の目を見て同じ台詞吐ける?」
「う…」
…こっちは42歳のおっさんだぞバカヤロー。
「じゃ、じゃあどうしたら大人の女の人になれるの?」
「…まあ、彼氏でも作れば?」
「えー!だって周りの男子はみんなガキばっかりなんだもん!」
それをいいように操るのが大人のオンナってもんだと思うんだけどな。
…っていうか、何だこの会話。
…。
「…あ」
「?」
そうだった。
さっき、彼との打ち合わせでもあったなあ。
「とときら学園は幼稚園の設定だから」
「えー!!?」
そうなると、自然とコスチュームも決まってくるよなあ。
…ああ、これはめんどくさいことになりそうだ。
とときら学園リハーサル日。
僕は蘭子の付き添いでその場には行けなくなった。
…行けなくても構わないよ、別に。
「どうした?我が友よ」
「あ?」
「…どうしましたか?」
「いやー…何か、今日のリハが心配でさあ」
「…?凸レーションの、ですか?」
「うん」
原因は、分かりきってる。
どうせ莉嘉が何かやらかすんだろう。
珍しく仕事に対して、全く熱意が無さそうだったしな。
それはもういつもの杏に近いくらいだ。
…それって、かなりヤバいやつだろ。
「…あのさ、蘭子」
「はい…?」
「蘭子はさ、そのキャラ疲れない?」
「ふぇっ!?」
あ、これ聞いちゃダメなやつだった。
蘭子にとっては、かなり地雷の質問だったみたいだからな。
だけど反応から察するに、多分疲れてはいないんだろう。
…楽しい時間がすぐに過ぎるのと、同じなんだろう。
自分が心から楽しいと思える時間。
蘭子にとっては、このキャラが一番楽しいんだろう。
「ん…」
「?」
「いや、電話が来てさ…」
…誰だろうか。
一応、シンデレラガールズの電話番号は音で分かるようにしてある。
でもこの音はデフォルトだ。
…つまりは。
「…もしもし」
『もしもし。…その、考えて頂けたでしょうか…?』
「…ええ…?」
…それは、ついこの間の出来事だ。
数日前、菜々の所属するプロジェクトや、色々なアイドルが属する所のプロデューサーと会合を開いた、というより開かれた。
僕はそこに呼ばれただけだ。
そこには菜々や、他のアイドル達も同席しており、並々ならぬ雰囲気なのは見て取れた。
「…どうしたの?」
「…GACKTさん。折り入って頼みがあるのです」
彼女達のプロデューサーの中の一人が立ち上がり、僕に歩み寄ってくる。
「…何があったの?」
「先日の美城常務のバラエティアイドル達への件はお耳に入っているかと思うのです」
「ああ、うん」
「…そこで、なのですが…」
「?」
彼らの抱えるアイドルはバラエティアイドルだけではない。
他にも、色々な子達がいる。
しかし彼女達だけを切って捨てるなど、そんな事は死んでも出来ないのだろう。
少しの沈黙の後、彼は一つ息を吸って口を開いた。
「…彼女達と、いえ、私達と手を組んで下さい!!」
「ええ…?」
…。
彼から目を離し、部屋の中にいるバラドル達を見る。
「…」
前情報である程度は知っているけど。
うさ耳、着ぐるみ、お笑い、お笑い2、眼鏡、自称忍者、自称超能力者。
…濃い。
どれもこれも、僕の苦手な奴らばかりだ。
こういう奴は蘭子で手一杯だっていうのに。
「…ちょっと、考えさせて…」
しかし、その時既に愛梨のプロデューサーにある程度協力してもらっていたからか、どうにも無下にできなかったんだ。
「…」
『今こそ一致団結し、この逆風を乗り切るべきだと考えるのです!』
「いや、うん。…分かるよ」
『ですから、是非ともですね…』
一生懸命な男だ。
一度引き受けたアイドル達を見捨てまいと尽力している。
僕もそうだし、共感できる部分はある。
…だけどなあ。
「ふふ…もうすぐ始まるぞ。悪魔の宴が!!」
…こんなのが7人も増えるんだろ?
…。
……。
でも、まあ…。
無理、とは言えないよなあ…。
「…分かったよ。これからよろしく」
『ありがとうございます!これからお互い頑張っていきましょう!』
「うん…」
…はぁ。
「GACKTさん、どうしたんですか…?」
蘭子の目の前で思わず溜息をついてしまった。
心配そうな面持ちで僕の顔を覗き込む。
プロジェクト存続の危機の今、そうなるのも当然だろうけど、その中には僕自身を心配する気持ちもあるのだろう。
…ずっとこういうキャラなら、何も問題は無いんだけどなぁ。
「…菜々とか、後何人かの子達と協力するんだよ、これから」
「!」
「一緒のプロジェクトになるわけじゃないんだけど、お互い隠し事は無しで協力し合おうってさ」
隠し事は無し、か。
こっちはしてるつもりはないんだけどね。
…向こうにはあるのかな。
…サラリーマンって、思ったよりも複雑なのかな。
「…うん。うん!良いねそのポーズ!もっとちょうだい!」
「闇に…飲まれよ!!」
「ああ〜!良い!良いぜオイ!」
…。
美城常務の言葉を思い出す。
粗末な小屋の、小さな仕事。
だけど、今の蘭子を見ても同じ言葉が出せるのだろうか。
こんなに楽しそうに、そして誇らしげに。
確かにこの仕事は雑誌の2、3ページにしか載らないようなものだけど。
十分立派じゃないか。
「…」
粗末な小屋だって?
小さな仕事だって?
…せいぜいほざいてなよ。
お前の顔に冷や汗が浮かぶくらい、大物にしてやるからな。
「…」
「おいいいぜこれ!!」
「…いいです!」
「我が魔翌力に酔いしれるがいい!!」
…今はまだ、こんなんだけどさ。
蘭子の仕事も無事終わり、車に乗る。
彼女は今日は直帰らしく、寮に寄ってから事務所に行かなければならない。
…何でも、今日の晩御飯はハンバーグだから早く帰らなければならないのだと。
別に、肉料理なら言ってくれれば連れていってあげるのにな。
大方、食堂の味が気に入ったとか、その辺だろう。
…あ。
「…」
ポケットから携帯を取り出す。
丁度、凸達の仕事も終わった頃だろうし。
「…きらりにしとこう」
今だにあの子供二人とはちょっと話がし辛い。
それになんだかんだいっても、それなりにきらりと仲良くなった、気がする。
…あの日以来、きらりが時折垣間見せる大人びた行動に気付き始めた。
そこはまあ、一応年長組だからでもあるだろうが。
「もりもり」
『もりもりぃ☆ガクちゃん!あのね、今日はぁ、みーんな、いーっぱい頑張ったんだよ!』
「良かったな。…二人は何もなかった?」
『二人?…んーと、り…』
「?」
『あ、ガッくん!?今日はバッチリだったよ!』
「…?」
『大丈夫だよ!心配しないでね!』
「…うん。まあ、いいや。お疲れ」
『お疲れ様ー!』
「あ、きらりに代わって」
『あ、うん……』
『ガクちゃん?』
「今日、晩御飯一緒に行こうよ」
『えっ…えっ?』
「…今日の成果、聞きたいからさ」
『あっ…うん。分かったにぃ…』
…。
……。
莉嘉め。
マジで何かやらかしたな?
「…GACKTさん?」
「…何でもないよ。蘭子、お疲れ」
「は、はい!」
…莉嘉なりに気を使ってるつもりだろうけどさ。
お前のやってることって、0点のテストを隠す子供と同じなんだよ。
蘭子を寮に送った後、そのまま事務所に行き、そこで一人で待っていたきらりとその足で街に繰り出す。
もしかしたらオマケが二つ着いてくるんじゃないだろうなと思ったけど、まだ子供であるということと、この話題に二人はいない方がいいというきらりの意思もあったようだ。
…なかなか、良いじゃないか。
「…ガクちゃん、あのね…?」
「良いよ。どうせ莉嘉が何かやったんだろ?」
「…」
波風を立てたくない、気遣い屋のきらりの事だ。
莉嘉を擁護する言葉でも考えているんだろう。
…けど、ダメなんだよ。
「こうなっちゃった以上さ、マイナス要素は全部なくしたいんだよ」
「…!」
「…莉嘉をクビにするなんて言ってないからな」
「…う、うん…」
大体、何があったかは分かる。
今日の朝、突然愛梨側のプロデューサーから頼まれた衣装変更。
莉嘉やみりあ達子供組の衣装が、幼稚園児になったということ。
…そりゃあ、嫌がる奴も出てくるだろうさ。
「…」
特に莉嘉だ。
ガキのくせにガキ扱いされると怒る。
まあ、そういうことなんだろう。
「…今日、きらりを呼んだのはさ」
「…?」
「莉嘉に、気を遣うなって言いたかったんだよ」
「…」
「っていうか、全員にさ」
「…そんな、きらりは…」
「お前は優しいからさ、どうにも言葉を選んじゃうんだろ?…でもさ、それじゃあ、ダメだよ」
「…」
「本気でぶつかってさ、それでようやく本当の絆が生まれるんだよ。そんなユルユルな関係は僕は嫌なんだよね」
「…きらり、やっぱりだめなのかなあ」
「相手に気持ちを伝えたいという思いで接しなきゃだめなんだよ」
アイドルだけじゃない。
人の人生ってそういうもんだよ。
「…」
きらりは僕の言葉を俯きながら聞いている。
僕の言葉を頭の中で反芻して、あれこれ考えているんだろうな。
…この子には、やっぱりこういう姿は似合わない。
「…じゃ、この話は終わりにしよう。今日はお前の好きな物、何でも食べさせてやるから」
「…!うん!」
「…僕でもいいよ」
「…エッチィ」
あはは。
今の、可愛かったな。
翌日、僕は例の協力を約束してしまったプロジェクト達との臨時会議に出席した。
…今回は濃いメンツは来てないようだ。
「…」
僕とは違い、黒髪の短髪にキチッとした皺一つないスーツ。
真面目だなあ。
疲れないのかなあ。
「GACKTさん。では早速なんですが…」
「ん…まず、この仁奈ってのだよね」
「はい。着ぐるみが大好きな子でして…それを生かせる仕事を回しているんです」
簡単なプロフィールを見る。
9歳の、静岡出身。
…9歳…。
それであれ、か…。
ちょっと、大丈夫なのか?
「着ぐるみ以外には、年相応な子だと思いますよ」
「本当に?」
前に彼らと会話した時、仁奈も同席していたけど。
…年相応とか、そういうレベルじゃないだろ。
「…まあ、で、これも今回の番組に出るんだよね」
「はい。話を聞いてくださってありがとうございます」
初めて見た時は、5歳くらいに見えたんだよなあ。
だから丁度いいかなって思っただけなんだけどさ。
…結果オーライってやつだよな。
「…春香?あなた最近どうしたの?」
「え?な、何でもないよー…」
「そうかしら…最近一度も転ばないし、お菓子の砂糖の分量も間違えないし…」
「ええっ!?普段の私って…」
「…冗談は置いといて、本当に何があったの?…あのCDを持ってきた時から、何かおかしいわよ?」
「…」
「…私だけじゃないわ。プロデューサーだって、律子だって気づいてる。…貴方顔に出やすいもの」
「…」
「…今は、言えないこと?」
「…うん。ごめんね…」
「い、いいのよ。無理して話さなくてもいいわ。ただ、一人で背負ったりしちゃダメよ?」
「…うん。ありがとう、千早ちゃん」
…どうして、私だけなんだろう。
こんな思いをするなら、私の記憶も戻してくれたら良かったのに。
誰が、どうしてこんな事をしたんだろう。
…いっそ、全部バラして…。
…。
『…春香、貴方…疲れてるんじゃない?病院…行きましょう?』
…ダメだ。
絶対こうなる。
「…」
「…春香…」
…今はまだ、しまっておこう。
……。
…今は、まだ…。
「…あ゛ー…」
…疲れたなあ。
あんなに熱意を込めて自分のアイドルをアピールしてくるなんて思いもしなかった。
…僕は営業先じゃないんだぞ。
僕だって、一生懸命走って仕事を持ってきてるんだからな。
…一体どうやってアイドルを漫才番組に出すんだよ。
…。
『なんでやねん!』
『…』
『どうですか?やはりこの子にはお笑いの才能があるんですよ!』
…。
……。
…あれ、面白いのか?
階段を降りると、少し綺麗になった地下事務所。
埃臭い部屋よりマシだけど、逆にゴチャゴチャし始めた。
持ち込まれた物は同じ物だけど、何しろ狭い空間なんだ。
「…」
…アイドル達の集合する場と、僕のデスクにはほとんど距離がない。
…こうもなるよ。
「あ!ガッくん!お帰り!」
ソファでたむろっていた一人、莉嘉が僕に突進してくる。
先日の一件で、少し機嫌が悪くなってたんじゃないか心配だったけど。
…。
いや、どうやら思い過ごしじゃないみたい。
何か言ったんだろうな。
「…」
無言で仕切り板の向こうからにやけヅラで見てくる。
…杏め。
…たまには、楽でもさせてやるか…。
「やっぱりあいつが何か言ったんだ」
「うん。あのねぇ、何を着ても、自分は自分だって」
事務所を出て、きらりと346プロダクションの庭を歩く。
夕方だからか、人はもう少ない。
デートには向いてるよな。
あ、アイドルは彼氏作っちゃだめか、あはは。
…しかし、杏め。
「…悪くないね」
「?」
あいつがそれを言うのは気に食わないけどさ。
「…あ」
「ガクちゃんどぉしたの?」
庭の椅子に座っている二人。
どうやら向こうは僕達には気づいていない様子だ。
「あ、美嘉ちゃんと、みりあちゃん!」
二人に気づいたきらりが大声で名前を呼ぶ。
すると二人もそれに呼応するかのように歩いてくる。
どちらとも機嫌は良さそうだ。
何があったかは知らないけど。
「ウチのアイドル誘拐するんじゃないよ」
「人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「目が赤いよ。興奮しすぎ」
「だから違うって!これは…」
「あのねGACKTさん!みりあが『慰めて』あげたんだよ!『お姉ちゃん』だから!」
あ、そういうプレイ?
「…お前…」
「だーかーらー!誤解だって!!」
…ま、冗談は良いとして。
「…きらり」
「?」
「…これなら、番組大丈夫そうだね」
「…うん!」
美嘉もみりあも、何があったのか分からないといった顔だけど。
まあ、いいんじゃないかな。
結果オーライだよ。結果オーライ。
「ほらみりあ、危ないから離れて」
「GACKTさんどーしたのー?」
「違うから!私そういうんじゃないから!!」
翌日。
今回は僕も収録に参加することができた。
「…」
改めて見ると、異様な光景だなと思う。
まだ子供とはいえ、10を過ぎたやつがあれを着ているんだぞ?
流石にコスプレ感が隠せていないんじゃないだろうか。
…まあ、まだ10代前半だから良いけど。
これを20代なんかにやらせるわけにはいかないな。
…それはもう、目も当てられない状況にもなりかねないだろう。
「…がーくーとーさん♪」
「あ、誘拐犯」
「ちょっと!!」
「声うるさいよ」
「アンタのせいでしょ…でも、順調みたいで安心した」
「そうだね。でもこんなんじゃ終われないよ」
「?」
「ほら、765プロがやってる番組あるだろ?」
「あ、生っすかだよね。…まさか?」
「当然、あれくらいにはなってもらうよ」
いや、正確にはあれ以上、だけどね。
「…本当、自信家なんだから…でもアンタのそういうとこ、嫌いじゃない」
「そう」
「えええ…」
僕が望むもの。
それは、全員出演できる冠番組を持つこと。
勿論それ以外にもたくさんあるけど。
まずは、それ。
これは、それの第一歩なんだ。
…天海春香のことは、全部終わってからだな。
「…ね、GACKTさん」
「ん?」
「…みりあちゃん、お姉ちゃんになったんだって」
「…へぇ」
お姉ちゃん、か。
下のやつが妹か弟か知らないけど。
なら約束してやらなくちゃな。
いつかお前が目にするトップアイドルが。
お前の姉ちゃんだって、な。
「…」
…。
……。
…これ、何処かで使った気がする。
第四話 終
ちょっと休憩します
おもしろい
久々の更新で嬉しいぜ
乙です
「十時と!」
「きらりの!」
「「とときら学園!」」
…。
わー…。
「今日は桃組のみんなも来てくれたよぉ!」
「あ、あはは…」
「いーっぱいごまかしてるもんねー」
「な、菜々は永遠の17歳ですから!!」
「園児ちゃうんかい!」
…。
……。
…えっぐ。
「双葉さん、似合ってるよねぇ…諸星さんと同じ歳なんでしょ?」
「うん」
僕の隣でディレクターが興味深そうに二人を見つめている。
「見えないねえ…まるで親子だ」
親子、ねぇ。
…言えてる。
きらりが杏を抱きかかえている姿を見ると、ますますそう見える。
180超えと130。
…どっちにしても異常だけど。
「あ、だとしたらGACKTさんは旦那さんかな?」
「やだよ…」
生まれた星が違う奴とどうやって付き合うんだよ。
…あんなのが子供だったら家庭崩壊するぞ。
「あんきらんきんぐ?」
「うん!まるで凸凹コンビでしょ?」
「…」
「組み合わせ、結構いいんじゃないかな?」
…。
「…やろうよ、今すぐ」
「えっ…」
あはは。
それ、僕が提案してたやつじゃない。
「そうだねぇ…なら、早速来週からやってみよう!」
「うん」
良かった良かった。
これでストレスが少し減るぞ。
「きらりが杏ちゃんと!?」
翌日、早速二人を呼び出し件の話を説明した。
元々杏を気に入っていたからか、きらりはかなり嬉しそうだ。
既に杏をぬいぐるみのように膝の上に乗っけていることからもそれは伺える。
…一方は、あからさまに嫌がっているけどね。
まあ、同い年の奴に好き勝手いじくりまわされれば嫌がるのも当然だけどさ。
でも、発表するのはそれだけじゃない。
「で、智絵里とかな子なんだけど」
「は、はい!」
「はいぃ…」
「お前達には街角インタビューやってもらうから」
ついでに、という言い方は悪いけど。
成功すればそれに越したことはない。
ひとまず杏、きらりと、智絵里、かな子には試験的にコーナーを設ける事にした。
…かな子はまあ良しとして、智絵里は心配なんだけどね。
「…」
一通り説明を終えて、彼女らを解放した。
今は誰もいないし、少しだけ気を抜こう。
…。
僕も、ソファで寝転がろうかな。
少なくとも、今座っている椅子よりは何倍も心地良いはずだ。
「…よいしょ…」
…ああ、沈んでいく。
普段こういうことが出来ない分、やったらやったで病みつきになりそうだ。
「あー…」
「…ふっふっふ。GACKTさんも無気力の世界に足を踏み入れてしまったね…」
「…あ?」
…。
…しまった。
アイドル達を解放したとはいえ、一人は出歩くことすら嫌がるナマケモノだった。
「見ちゃったよー…GACKTさんの無防備な姿…」
いつものように寝ながら仕切り板の隙間から顔を覗き込ませる杏。
「…お前の上で寝転がろがってやろうか?」
「それはやめてよ。杏は体が弱いんだぞ」
「神経図太いんだから大丈夫だよ」
「顔怖いって。本気にしないでよ」
…全く。
ある意味、油断も隙も無い奴だ。
「…僕は外の空気吸ってくるよ。留守番頼んだから」
「じゃあ、飴ちょーだい」
「その口に飴玉って何個入るのかな」
「一粒で良いmぐぐ…」
心配しなくても、それ全部舐め終わる頃には戻るよ。
「うひぇー…」
…しかし、ふと思い返すと、妙だ。
僕の杏に対しての第一印象は、最悪だった。
それが、あれだ。
仕事をきちんとこなし、僕のレッスンにもそれなりに参加している。
遅刻もしないし、他のアイドルに助言までする。
…おいおい。
まるで思考と行動が真逆じゃないか。
…正直に言ってしまうと、僕は杏をかなり評価している。
あの性格さえ無ければ、シンデレラガールズのリーダーにしてもいいくらいだ。
…ギャップ萌えってやつか?
…いや、それはあり得ないな。
あんなのを抱く気分にはなれない。
「…ん?」
広場に出ると、何やら智絵里が必死に何かを探している。
手元に視線を移すと、どうやらクローバーを見ているみたいだ。
…ふーん。
「智絵里」
「ひゃっ!」
クローバー探しに夢中になっていたのか、声をかけられるまで僕に気づかなかったようだ。
「四つ葉のクローバーでも探してるの?」
「は、はい…その、緊張した時のために…」
「…」
やっぱり、不安だ。
「そんなのに頼ってたらこの先やっていけないよ」
「えっ…」
「僕が何のためにお前達に厳しいレッスンをしてると思う?」
「…それは…」
「いざという時に自信をつけてもらうためだよ。なのにお前がそんなんだと、僕が厳しくしてる意味がない」
「…ごめんなさい」
まあ、探すなとは言わないけど。
…でも。
「落ち込まなくてもいいよ。っていうかさ、四つ葉のクローバーなら目の前にあるだろ?」
「え?ど、どこですか?」
…鈍いなあ。
「ほら、ここだよ」
智絵里の目の前にしゃがむと、どうやら理解したようだ。
瞬く間に顔を赤くし、俯く。
…純情ってのは、穏やかな気分にさせてくれるよな。
「そういえばかな子は?」
「ふぇ…あ、あそこです」
智絵里の震える指先。
そこにかな子はいた。
「…は?」
しかし、僕は目を疑った。
お菓子禁止令を出しただけでこの世の終わりのような顔をするあのかな子が。
ラフな格好で、ひたすら走っている。
いや、それだけなら別にただの運動だ。
それもまあ疑問だけど、一番はかな子の肩からかけてあるたすき。
『ダイエット』
「…は?」
その五文字に、僕はこの世界に来て初めて「あんぐり」という動作をしたもんだ。
「いきなりどうしたんだよ…明日雪でも降らすつもり?」
あっけにとられながらも僕はかな子を呼び止め、何故いきなりこんなことを始めたのか問いただした。
「違いますよお。私、自己管理が苦手だから…仕事までに何とかしなきゃって思って…」
いや、まあ。
心意気は買うけど…。
「やめなよ」
「ええっ!?でもGACKTさん痩せろって…前に…言ったじゃないですか…」
自分で言ってダメージ受けてるじゃないか。
「言ったけどさ、いきなりハードワークはだめだって。やるなら僕が付き合ってやるから…」
「え…でも、GACKTさんのトレーニングって…」
僕のやっているトレーニング。
一度だけ彼女達に教えたことはある、かな。
それを思い出したのか、かな子はウサギのように震え出した。
…いや、流石にそこまでしないから…。
そして、仕事まで後3日。
「…はい、息はいて」
「は、はい。ふぅー…」
かな子がいきなり無理をし出したのには3つ理由があった。
一つ、仕事日までに時間が無いこと。
二つ、IDOL BEST OF THE BESTを成功させるため。
三つ、これを機に痩せたい。
…最後のはなんなんだよ。
「はい吸って」
「すぅぅ〜…」
…でも、かな子って標準体重だよな。
他の奴らなんて肋骨が浮かび上がってるんじゃないか心配になるくらいだぞ。
…なのに何でだ?
こいつは体全体がむっちりしている。
標準体重なのに。
…考えられるのは、運動不足。
本来ある程度つくはずの筋肉が、こいつにはない。
それがしぼ…形となって表れているんだろう。
…つまり、こいつにハードワークは無謀だ。
だから今、何をしているか。
「はい伸ばして」
「はいぃ…!ふぅー…」
…部屋の温度を上げて、ひたすらストレッチ。
「GACKTさん!ありがとうございます!」
「倒れられたら困るからね」
かな子の介護は精神的に疲れるな。
…こいつの体脂肪率なんて、見たくもない。
…しかし、不安要素はまだあるな。
…この二人に、インタビューなんてものが出来るのかどうか。
あえて野放しにしてみようか。
…いや。
『あ、あの…』
『す、すいません…』
『あの、お話だけでも…』
『あの、すいません。もう一度…』
きっとこうなるな。
…どうしようか。
今更人選ミスとか思いたくないし、言いたくない。
…。
「かな子、智絵里が来たらさ、インタビューの練習でもしてみようか」
「は、はい!」
「…で、私ですか?」
「うん。今日もう仕事終わりでしょ?」
あれこれ考えた結果、丁度適役がいることに気がついたんだ。
インタビューはもとより、まずハキハキと話せるその能力。
元アナウンサーという経歴を持っている瑞樹なら、良いアドバイスをくれると思ったんだ。
「だめな所はすぐ指摘して。何なら怒鳴って良いから」
「ひうっ…」
「だ、大丈夫かなあ…」
「私の都合は聞かないんですね…今日付き合ってもらいますよ?」
「ちゃんとその二人が仕事出来るようになったらね」
「もう…じゃ、始めるわよ?まずは私がインタビューされる側をするから。…そうねえ、話題は…巷で有名なレストランとかにしましょう」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「が、頑張りますぅ…」
「あ、あの…インタビューよろしいでしょうか?」
「はい何でしょう?」
「あの、最近、ゆ、有名になったれ、レストランについてお聞きしたいんですけど…」
「…?」
「えっと、あの…」
「あの、私時間無いんですけど」
「あ…す、すいません…」
「…」
「…」
「…」
「「「…」」」
…。
「ストップ!!諦めるの早過ぎるでしょ!!」
…同感。
これじゃ、素人の方が良い仕事出来るぞ。
「まずね、大前提として私は聞き手なのよ?その聞き手に主導権を与えてどうするの?」
「あ…」
「す、すいません…」
「…じゃあ、次はわたしがやるから。向こうから歩いてきて」
「は、はい」
瑞樹のやつ、やけにはりきってるな。
…アナウンサー時代を思い出したんだろう。
彼女自身も、あれ以上に厳しく教えられたはずだ。
それを、あんなオドオドした奴らに軽口を叩きながらも付き合ってくれている。
…瑞樹も、最近の346プロに良い気はしていないんだろうな。
「…さあ!やってまいりました!瑞樹の街角インタビュー!…今回はですね、今!話題の激安で、スイーツ料理が手軽に食べられるというお店を探していきたいと思います!」
…どんだけ設定増やしてんだよ。
「スイーツと言えば女子高生に人気がありますよね?…というわけで、今回インタビューするのは、『女子高生の方々』です!」
「「…」」
「…あ!ちょーっとすいません今お時間よろしいでしょうか!」
「は、はい…」
「な、なんでしょうか…?」
「今ですね?誰でも気軽にスイーツ料理が楽しめる激安…な!お店について聞いているんですけど、何かありますでしょうか?」
「…え、えっとぉ…」
「何でも良いんですが、何かご存知ないでしょうか?」
「あ、あのー…えっと、この道をまっすぐ…」
「まっすぐですか!ありがとうごぞいます!あ、…最後に何か、オススメはの一品はありますか?」
「えっと…あの、ふ、フルーツポンチが…」
「…ありがとうございます!それでは!是非行きたいと思います!」
…。
「さっすがー」
「褒めてます?それ…」
褒めてるよ。
…やっぱり本職は違うよなあ。
僕がやってたら、何の見本にもならない気がする。
…何かやったことあったっけ?
…。
そういえば、罰ゲームでナンパしまくったことあったなあ。
…全然見本にならないよ、あれ。
「…で、かな子と智絵里はどうだったの?」
「えっと…凄いなあって」
「私達とは、全然違ってて、堂々としてたっていうか…」
だから、お前らもそうならなくちゃいけないんだって。
「まるで他人事みたいだけど、後3日しか無いんだよ?」
二人の背中を押し、再び瑞樹と対峙させる。
嫌かもしれないけど、こんなのでへばってたらインタビューの仕事なんて到底出来たもんじゃない。
…そして。
「うーん…まあ最初よりはマシになったけど…」
「あ、ありがとうございました」
「勉強になりました!」
「…それとね、分からないならまず調べる!それでも分からないなら、聞く!それが大事なのよ」
「調べる…」
「聞く…」
「知らないってことは恥ずかしいことじゃないのよ。それよりも知ったかぶりしてメッキが剥がれた時が一番恥ずかしいわ」
そうだね。
それは言えてる。
「さっすがぁ」
流石、元アナウンサー。
思わず拍手してしまうな、これ。
「瑞樹、ありがとな」
「可愛い後輩のためですもの♪」
別に完璧に瑞樹のようにする必要はない。
それではこの二人のオリジナリティがなくなってしまうからな。
ただ、要点だけはしっかりしておかないといけない。
…瑞樹を選んで正解だったね。
「じゃあ、かな子も智絵里も本番頑張ろうぜ」
「「はい!」」
「…ちょっと?」
「…何?」
「約束、忘れてはいませんよね?」
…。
……。
「分かったよ…何が良いの?」
「そうですねぇ…GACKTさんの、オススメの場所ですね」
「………………へぇ」
「?」
良いよ。
僕のオススメだな?
よーし。
…今日も、ネギ200人前頼もう。
「…346プロ…ここね。…随分大きな会社…」
「…ここに、春香に何かをした人が…」
春香の家に泊まりに行った時、こっそり例のCDを持っていってしまった。
春香はこれを手にしてから、やけに様子が変、だと思う。
「…」
具体的には、作詞作曲者の名前を見てから。
…このGACKT.Cという名前を見てから。
「…ここに、この人が…」
…なんて読むのかしら。
「…が………」
『ガクトさんだよ』
「!?」
…何?
「…」
今、確かに声が…。
…それに、今の…声は…。
「…優…?」
…まさか、そんな、ね…。
「!」
向こうから歩いてくる、男の人と…アイドルの、川島、瑞樹さん…。
「…」
あの人たちに、聞いてみようかしら…。
「カムジャタン鍋ってのが凄く美味しくてさ。ジャガイモを食べるっていうより、すり潰してスープ状にして飲むんだよ」
「良いですね。鍋をつつくなんて久しぶりだから嬉しいです!」
あはは。
そうだね。
僕も嬉しいよ。
「瑞樹は辛いのイケる口なんだよな?」
「ええ。結構イケますよ?」
…その顔が崩れる瞬間が見れるんだから。
「でも、どれくらい辛……」
「?」
突然瑞樹が静かになった。
彼女の視線を追うと、成る程そこには僕たちに向かって真っ直ぐ歩いてくる一人の女の子。
「…あれ?」
…何処かで見たような…。
「…どうして765プロの如月さんがここに?」
如月。
如月…。
っていうか、また765プロか。
…僕が一体何したってんだ。
「あの、突然すみません。765プロダクション所属の、如月 千早と申します。本日は346プロの…がく…と?さんにお会いしにきたのですが…」
「え?」
…やっぱり、僕かよ。
「…それ、ぼk」
「あの、如月さん?」
「はい?」
がくとは僕のことだよ。
そう答えようとしたその瞬間、僕の脇腹を瑞樹がつついてきた。
何するんだよくすぐったいなあ。
…しかし、瑞樹は僕の視線には答えず、千早という子に対し少しぶっきらぼうに話出した。
「そうですねぇ…貴方、何か約束でもしてたんですか?その、ガクトさんって人に」
「あ、いえ…急いで来てしまったもので」
「でしたら、きちんとアポを取ってからにしてください。何があったかは知りませんが、もう夜遅いんですよ。貴方みたいな有名アイドルが出歩いてはダメです」
…やけにトゲがあるなあ。
「別に話聞くくらいいいじゃん」
「ダメです!何のために警備員の方がいると思ってるんですか?プロデューサー!」
「は?」
「如月さんも今日の所はお引き取りくださいね!ほらプロデューサー、行きますよ!」
彼女はそう言うと僕の背中を目一杯押し始めた。
僕はお前のプロデューサーじゃなくて、と言おうかと思ったけど。
瑞樹の迫力に、何とも言えなかったんだ。
仕方ないだろ。
「…」
後ろを見る。
瑞樹の頭が邪魔でよく見えないけど、千早という子は何やらCDを持っているようだった。
彼女の視線が痛いのは置いといて、そのCD…。
…買ってくれたん、だよな?
だったら、何しに来たんだろう…。
…あれー…?
そして、本番当日。
「それでは本番入りまーす!」
…あれこれ試したものの、やはり緊張することは避けられないらしく、二人は何度も噛んでいた。
それでも、彼女達は精一杯やってくれたと思う。
スタッフ達も、その初々しさな二人を終始穏やかな目で見守っていた。
…もしもあのまま出していたらと考えると、寒気さえしてくるけどさ。
「GACKTさん、今日いっぱいミスしちゃいましたぁ…」
「すいません…」
「いいよ。こういうのって場数踏まないとどうにもならないもんだろうし」
…ただ、それはあくまでインタビュー専門の奴の場合だ。
崖っぷちアイドル達にそんな余裕が無いことはかな子も智絵里も把握しているはずだろう。
…けど、それを言葉には出したくない。
言ってしまえば、僕もあの常務と変わらなくなる。
だから、嫌なんだ。
…出来ることなら、彼女達の力でやって欲しい。
大丈夫、出来るよ。
なんたって、お前が育てたアイドルなんだから。
事務所に戻ると、少し久しぶりの顔があった。
「GACKTさん!あー、あちこちの事務手伝わされてて大変でしたー!」
「…ちひろさ、来るなら来るって言えよ」
アイドルは誰もいない様子で、いるのはどうやらちひろ一人。
扉を開けると僕の椅子で遊んでる奴がいたからびっくりしたよ。
「すいません…でも特に用事はありませんよ?」
「そういうことじゃないよ…」
こいつは全く。
大人のくせに子供みたいな事して…。
「GACKTさんは、私に何かお話ししたいことありませんか?」
「…」
話、か。
…そうだなあ。
最近、自分の思っていることを口に出すことが少なくなった、気がする。
アイドルや、同僚、上司に対しても。
…こいつなら。
「…じゃあ、アイドル達には黙っててよ」
「はい!なんたって私はGACKTさんの補佐ですから!」
そう言うと、彼女はふんす、と胸を張り小さい身体を精一杯伸ばす。
仲間って、いいなあ。
「…」
「だから、あまり無理しちゃダメですよ?」
…。
……。
「…あ」
「?」
…あはは。
ちょっとだけ、ちょっとだけだ。
…サングラス、かけさせてくれ。
あれから一週間。
あんきらコンビもインタビュー組もそれなりに高評価を得たようで、企画はしばらく続行することに決まった。
まあコスプレ幼稚園児をひたすら見せられるよりはマシだろう。
…ああいうのが好きな奴もいるんだろうけど。
…で。
まあ、別にそれはどうでもいい。
それより今僕は、マズイ状況になってるんだ。
…。
「…何で、こうなるかなあ…」
倒れて日陰で休むかな子。
ひたすら泣くだけの智絵里。
ただただ慌てるスタッフ。
「…なんだこれ」
「さっきの子は大丈夫ですか?」
「ええ…申し訳ありません…」
「いえいえ。…でも、あんなに一生懸命話を聞こうとしてくれたのは彼女が初めてかもしれませんなあ」
さっきまでインタビューされていた職人が忙しい合間をぬってかな子の心配をしにきてくれている。
…スタッフが僕の代わりに謝ってるみたいだ。
と、いうか。
僕自身、どうしてこうなったのか分からない。
「ち、智絵里ちゃん、もう、大丈夫だよ…」
どうやらかな子も起きたらしい。
まだ仕事には出せそうにないけど、話くらいは聞いてみるかな。
…しかし、なんでこの二人はすぐ倒れるんだろうな。
「すいません…GACKTさん…」
「…それは置いといて。何で倒れたか、心当たりある?」
「…すいません…」
「…」
僕の言葉に、謝罪の言葉を並べるだけのかな子。
…んー。
大体分かった。
こいつ、何か隠してるな。
「…」
今の、僕に隠し事。
考えられるのは、まあ…。
「…僕に隠れて、走ってただろ?」
「…」
ゆっくりと頷く。
…成る程な。
やめろって言ったのになあ。
「…まあ、いいや。何か理由あったの?」
「…その…」
別に怒っているわけじゃない。
僕の忠告を無視してやらかしたのはまあ、構わない。
僕がまだ信用できない。
ああ、構わない。
…いや構わなくないけど。
「…何?」
「…笑わないでくれますか?」
「?…分かったよ」
「…………バストを…………大きく見せようと思って…………」
「は?」
…バスト、ねえ。
つまり、腹を凹ませて胸を強調させたかったわけだ。
…ただの思春期の悩みじゃないか。
しかし、いきなり色気付いてどうしたんだろうか。
誰だ?こんな風に育てたのは。
…あ、僕だ。あはは。
「これから一ヶ月お前のお菓子ポン菓子だけだからな」
「ふええ…」
…全く。
…まあ、そうだなあ。
「とりあえず、二人とも泣き止みなよ」
仕事には問題は無かったんだ。
なら、後はこの泣き虫をどうするべきか、だ。
「でも…きっとみんな怒ってます…」
「怒ってるのは僕だけだから大丈夫だよ」
「…ふぇ」
「…四つ葉のクローバー」
「…?」
「僕は見たことないし、見つける気もない」
智絵里の本から、四つ葉のクローバーを出す。
どこから持ってきたんだか知らないけど、こんな感じなんだなあ。
「葉っぱだろうが、花だろうが。いらないよ。何故なら、お前達はもう持ってるからだよ」
「え…?」
「が、GACKTさん…?」
かな子と智絵里の顔に手をやり、軽く口角を上げる。
「…笑顔だよ」
「「…」」
「笑顔は人の心に花を咲かせる。必要のない笑顔なんてない。だから...笑うんだ。どんな時でも」
僕の機嫌が治る方法。
簡単な話だよ。
お前達が笑ってくれれば、僕も笑うことが出来る。
「…」
「…」
僕に顔をいじられていることは大して気にならないといった様子で、両者が互いに顔を合わせる。
きっと今、二人は同じことを考えているんだろう。
やがて、僕の方を見て、最高の笑顔を見せてくれた。
きっと僕じゃなくても言うだろうさ。
「…良い、笑顔だね」
…ってな。
それから二人は、何とか取材を終えた。
元々知識が無いからか、少しだけ勉強し、色んな事を質問していた。
瑞樹のアドバイスが、ここでも役に立っているようだ。
…透明な、硝子の皿、か。
…一枚買ってくかな。
「どうやら無事に終わってるみたいですね!まあカワイイボクが認めてやらないでもない後輩ですから?」
「誰お前」
「幸子!!幸子ですよ!!」
「小林だろ?」
「輿水ですよ!この件毎回やってますよね!?」
「いやあ、邪魔だからさあ」
「相変わらず直球ですね…ま、カワイイボクはそれを許してあげましょう!ああ、なんて寛大なボクの心!」
「早く帰らないと縛り付けて捨てるよ?」
「うう…ボクの事嫌いなんですか!?」
「大好きだよ」
「中身がこもってなーい!!」
「ほらほら迷惑だから」
「うえぇ…」
…幸子もまた、常務からプロジェクト解体を申し付けられた一人だという。
…あんな臆病なくせして、よくもまあうっとうしい真似が出来るもんだ。
…ただの強がりってのは皆知ってるよ。
「…幸子」
「はい…?」
「頑張ろうな」
「…はい!勿論です!」
…誰がこんな風に育てたんだか。
「わあ…ちゃんと出来てます!」
「ほほー…質問のマシンガンですなあ」
「おめでと。智絵里、かな子」
「えへへ…ありがとう!」
「ありがとう…」
事務所。
丁度ニュージェネレーションズがいたので、VTRの出来映えを見てもらっている。
倒れたシーンは勿論全カットだけど。
「…」
時間にすれば10分無い程度。
それでも、当人からすれば満足ものだ。
…雨降って地固まるじゃないけど。
泣いた分、よくなった気がするよ。
…。
「…で、私への謝罪は無しですか?」
「…」
後ろでギャースカ騒いでる瑞樹が邪魔なんだけどさ。
「あれからどれだけ大変な目にあったと思ってるんですか!」
「何かしたっけ」
「…ああああ!!もう!!そこに座りなさい!!」
「はいはい…」
一難去って、また一難。
僕に安らぎを楽しむ時間は無いのだろうか。
…。
いや、十分安らぎだな。
年下にガミガミ言われて、ちょっかいかけられて、泣かれて。
…素敵な笑顔も見ることが出来て。
今は、それでいっか。
「…あはは」
「あははじゃないですよ!!」
http://youtu.be/3BL2tg3OMh4
第五話 終
またそのうち書きます
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1433329754
↑こっちもそのうち書きます
乙
ウエストかー。ガクちゃんはトレーニングしてんだか
してないのか、よくわからんウエストしてたな
カメラマンのコント懐かしい
GACKT“様”感はゼロだけど、別Pモノで見ると面白い
ひとまず乙
>>151
自分でもそう思う
元々見切り発車で書いたからかなり困ってる
そういえばまたガックンがゲーム実況始めたみたいだぞ
ひなた!
膣内に射精すぞ!!!!!!
ユニット。
ユニットを組む際、僕は何を重視しただろう。
実力?
人数?
バランス?
…バカ言うんじゃないよ。
全部に決まってる、だろ?
「…さて」
先日、僕は美嘉の紹介する新人アイドルと顔を合わせた。
…レッスンスタジオで。
「…」
「…」
神谷 奈緒。
北条 加蓮。
この二人は夏に行われた346プロのフェスを見学しており、その時に僕を知ったそうだ。
…で、何だろう。
どうしてこの二人を僕に?
「この子達さ、こう見えて実力あるんだよ?」
「へぇ」
「へぇ…じゃなくてさ、ほら。GACKTさん嫌でしょ?才能ある子を埋れさせるの」
「まあ、そうだね」
…いや、僕に言われてもなあ。
「じゃあ、何か歌ってよ」
「え…は、はい!」
「よろしくお願いします!」
いきなりの無茶振りともいえる僕の依頼に、二人は多少たじろいだものの、すぐに頷いた。
新人だろうから、ということもあるだろうけど。
何だろう。
この子達からは、アイドルになりたいという想いが強く伝わってくる。
「…じゃあ、何歌うの?」
「あ…じゃあ、加蓮!」
「うん!…私達、ニュージェネレーションズの君が追いかけた夢を歌いたいです!」
「…ふーん」
同じプロジェクトの先輩アイドルが真後ろにいるのにな。
「この歌、凄く歌詞が好きで…。いつもカラオケで歌ってるんです!」
「…そっか」
…三人も、もうそんな風に思ってもらえるアイドルになったか。
時が経つのは、やはり早い。
「…じゃ、決まりだね!曲かけるよ!」
美嘉がどこからか取り出した僕のCDをコンポに入れる。
すると二人は、どうやら本当にいつも歌っているようで、まるで自分達の歌でもあるかのようなパフォーマンスを見せた。
…なるほどなあ。
「…ど、どうでしたか?」
「だ、大丈夫でしたか?」
…。
何だろう。
何処かで、聴いたことあるような歌声だ。
「…まだまだだよ」
「そ、そっかぁ…」
「結構自信あったのになあ…」
最初ならそんなものだろう。
そう美嘉に励まされながら二人はスタジオを出ていった。
「…」
彼女らには恐らく伝わってはいないだろう。
僕がこのプロダクションで、歌唱力を認めているアイドルといえば、強いて言うなら楓くらいだ。
僕に言わせれば、後はまだまだ素人に毛が生えた程度。
つまり、そういうことだ。
「…」
…だけど。
うるさいの。
健気なの。
静かなの。
…思えば、ニュージェネレーションズはどのようにして組み合わされたのだろう。
僕が初めて出会ったアイドルだから。
バランスも取れているから。
「…」
仮に。
もしも、仮に、だ。
それが静かなのと、静かなのと、静かなのになったら、どうなる?
「…」
決してあり得ないことではない。
違うプロダクションでチームを組む事も珍しくない今の業界だ。
プロジェクトが違うだけで、組み合わせられないことはない。
…もしも、あの三人がチームを組んだ時。
統一されたチームで、歌い方も似通っていて。
…一体どうなる?
…。
正直、見てみたい気もしないでもない。
「…なんて、な」
だけど、決して。
…無くは、ない。
事務所から出ると、何やら大きめの排気音が聴こえる。
どこかのヤンキーでも来てるのかと思い拳を握りしめていると、やがて姿が見え始め、駐車場の、僕の車の隣にバイクを停めた。
「…」
体つきはどう見ても女だ。
その子はバイクに跨ったまま、目が合った僕を見つめる。
そしてヘルメットを取ると、出てきたのは。
スプレーで固められた髪の毛を振る金髪のヤンキーだった。
「痛ててて…何でゲンコツなんだよ!」
「ちょっと小突いただけじゃない」
ヤンキーが僕の車に傷つけようとしてると思ってしまったけど、どうやら違うようだ。
「痛いもんは痛いんだよ!手の中にメリケンサックでも仕込んでんのかよ!」
彼女の名前は木村 夏樹。
ギターを背中に背負ってバイクに跨り疾走するロック好きのアイドル。
「お前ってさ」
「ん?」
「キカイダーみたいだな」
「クラシックじゃないからな?」
彼女もまた僕とは何度か顔を合わせていたらしく、オマケに僕の趣味に惹かれているようだ。
「この車さ、カッコ良いよな。アタシのバイクもいじってもらおうかな?」
「ザボーガーみたいにしてやろうか?」
「…ごめん。流石に分かんねーわ」
「じゃあ、李衣菜にギター教えてるんだ」
「つってもお互い時間が空いてる時だけなんだけどさ。それにあいつ、本当はギターのギの字も分からないんだぜ?時間かかるよ」
…そういえば、僕も教えるって言ってたな。
まだ一度も教えてないけど。
ただ、若いんだからすぐに覚えられるはずだよ。
そこまで難しいことじゃないはずだ。
「なあ、GACKTさんってバイク運転出来るんだろ?またツーリングしようぜ!」
また、か…。
バイクは辞めたつもりなんだけどなあ。
この世界の僕は辞めてなかったか。
「気が向いたらね」
「頼むよー。ストレス溜まってんだからー」
「…今僕車しか無いよ?」
「えっ!?…あー…この際それでいいや!行こ!」
…お前、今来たばかりなのに?
…っていうか、残念だけどストレスなら僕の方が100倍溜まってるよ。
こちとらパワハラ受けて地下に幽閉されてるんだから。
まだ日の光を見られるお前達のが恵まれてるよ。
…まあ、僕にとっては日の光は無い方が嬉しいんだけどね。
「…」
「…」
カラスが鳴き、カモメも鳴いている。
夕暮れ時、僕は近くの港まで走ってきた。
まるで漫画…いやそういう世界だったな。
「んーっ!やっぱ走ると気持ちいいなあ!」
「そっか」
「これでGACKTさんがバイクに乗ってたらなあ…なーんて!」
「機会があればね」
よっぽど走るのが好きなんだなあ。
その気持ち、よく分かるけどさ。
「…あのさ、GACKTさん」
「何?」
笑い出したかと思うと、突然黙り込む。
浮き沈みが激しいのか、ただ、こっちが本題だったのか。
「…あのさ」
「うん」
「…ロックって…誰かから与えられるもんなのか?」
「は?」
「…ロックって、自分で決めちゃダメなのかな?」
「…」
…。
…こいつらといると、ロックって言葉がややこしくなる。
「…何があったか知らないけど、あんまりロックロック言うなよ。安っぽく感じるから」
「あはは。相変わらずキビシーなあ」
「本当にかっこいい奴って、無口なんだよ」
「…」
「…で、何があったの?」
「あれ?気になってる?」
「いいから言えよ。もう聞いてやらんぞ」
「あはは。ごめんごめん」
少し苦笑した後、夏樹は今現在の自分の境遇をポツポツと語り出した。
「常務はさ、涼と輝子とアタシを組ませるつもりなんだ」
「…えっと…」
輝子は…あのキノ子か。
涼、というと…。
…誰?
「まあ、そのメンツに文句は無いよ。…だけどさ、アタシらには決定権は無いんだって」
「どういうこと?」
「音楽とか、衣装とか。全然向こうが決めるんだと」
「…へえ」
あの女にロックが語れるとは思えないけどなあ。
アメリカに行って、よっぽど自信がついたのか?
「正直さ、嫌なんだ。誰かの敷いたレールを走らされるだけのロッカーなんて」
「…」
「…後さ」
「ん?」
「アタシ、組みたい奴がいるんだ」
「…それは?」
「…だ…李衣菜だよ」
…ふーん。
「李衣菜かあ」
「あれ?驚かないんだ」
驚くも、何もない。
ただあんなのでいいのかなって。
「酷いなあ。ああ見えて一途なんだぜ?」
「最近だけどね。ギター練習しだしたの」
「…で、さ。GACKTさんはどうなんだ?」
「…どうって?」
「だって、あいつはもう…」
…アスタリスクか。
李衣菜と、みくのユニット。
「…いいんじゃないかな?」
「えっ…?」
ユニット。
別に一つじゃないとダメなんてことはない。
今のご時世、所属ユニットが二つ三つって奴もいるんだ。
「良い、のかな…」
「ただ、決めるのはお前達だよ。僕じゃない」
もしお互いそれでいいと踏んだのなら、そうすればいい。
それにプロジェクトの垣根を越えた付き合いをしようって言いあったばかりなんだし。
「要は本人次第ってことだよ」
僕に李衣菜の気持ちが全部分かるわけじゃない。
むしろ夏樹の方が分かってるかもしれない。
そんなレベルだ。
「じゃ、じゃあアタシ…!」
「ただね」
「え?」
「李衣菜が一途って分かってるなら、自ずと答えも見えてくるんじゃないか?」
「…」
「…勧誘するなら、止めないよ。…じゃ」
…さて。
なんというか。
…これはまた、嫌な予感がするなあ。
「…」
夏樹と別れ、また車に乗る。
話して終わりとは、少々無駄な時間だったかな。
とはいえ。
せっかく港まで来たんだ。
…たまには、この辺を走ってみるのも悪くないな。
「…今日は、直帰だね」
そんなことを思いながら、普段走らないような所にふらりと出かけた。
…。
営業車で来た時は何とも思わない景色。
けどこうして自分の車で、自分の時間で見てみると、何とも言えない特別感がある。
ゲームセンター、映画館、ビル、ショッピングセンター。
やはり都内だから、色んなものがあるよな。
「…お」
その中でも僕の目に止まったもの。
「…」
数多くのCD、音楽雑誌、コード表。
…ここは音楽専門の店か。
「…入ってみよ」
そう呟くより先に、ウインカーを出してたんだけどね。
「…」
見渡す限り、何処を見ても音楽だ。
邦楽、洋楽、ヒップホップ、果てはアニソンまで取り揃えてある。
音楽の道を志す奴なら、間違いなく好きになるだろう。
「…」
しかしやっぱりというか。
この世界で一番規模が大きいジャンルは、アイドル。
それは最早疑いようのない事実だ。
この店も例外ではなく、アイドルコーナーが店の3分の1を占めていた。
「…」
そういえば、アイドルの勉強もまだ全然出来てなかったっけ。
…少しくらいは見ていこうかな。
何が見切り発車やねん
見てる人に失礼だと思わんのか
「…あ」
それは、数多く存在するアイドルの中に少しだけ枠が作られていた。
「…シンデレラガールズプロジェクト…」
…。
そっか。
もう1コーナー作られるくらいには、大きくなったのか。
一人一人の力はまだ小さいけれど。
全員揃えば、こんなにも大きくなるんだな。
…自分の娘が受験に合格したんじゃないかって思うくらいだ。
「…」
どうせなら全部買い占めてやろうか。
買ったら常務の机の中にでも敷き詰めてやろうかな。あはは。
「…」
まずは、ニュージェネレーションズ…。
「…あ」
「…?」
「…」
「…」
…。
……。
図書館で、同じ本を借りようとして手が触れて、なんて少女マンガみたいな恋は本当に存在するだろうか。
「…そうだったんですか…あなたがGACKTさんなんですね」
「そうだよ」
僕が偶然触れたその子は、マンガのようにドキッとすることもなくゆっくりと手を離して会釈してきた。
店内で立ち往生するのもどうかと思い、
落ち着いた子だ、というのが第一印象。
「…改めて自己紹介します。765プロダクション所属の如月 千早です」
…。
まーた、765プロかあ。
一体僕が何をしたというのか。
彼女らにケンカを売った覚えは無いし、あったとしても心の中で思ったことであって、それくらいならどこのプロダクションだってやってるはずだ。
「…この間ウチに来たよね?」
「はい。ご迷惑をおかけました」
…深々と謝罪をしてくる。
…こんな落ち着いた子が、どうしてあんな非常識なマネをしたのか。
…よっぽど大事な用件があって、いてもたってもいられなくなった、とか。
…何の用件で?
「…で、何があったの?」
「…何と言えばいいのか…」
…迷ってるな。
それほど複雑な内容なのか?
「…私の知り合いが、貴方が作ったCDを見た途端に様子がおかしくなったんです」
「僕の?何で?」
「…分かりません。でも、明らかにいつもと違うんです」
…。
言葉を濁してはいるけど。
その知り合いって…。
「天海 春香の事?」
「…!どうして…まさか貴方!」
立ち上がり、かなりの剣幕でくってかかる彼女。
僕が春香とやらに何かした、とでも思ったんだろう。
「違うよ。あの子がいきなり僕の家に来たんだ。話したこともないのに」
「…?」
「僕だって訳が分からないんだよ。帽子と眼鏡を取って、どうですかって感じで…反応に困ってたらそのまま帰ったんだけど」
「…あの子が、ですか?」
「うん。…僕が忘れてるだけかもしれないけど」
「…」
実際、一番困ってるのは僕だよ。
面倒臭い時に、面倒な事が起きたんだから。
「…すいません。春香本人にも聞いてみたんですが、濁されるばかりで…」
「いいよ。とりあえずもう出ようよ。払っておくから」
「あ、いえ!私が…」
「いいよ。こういうのはオトコが払うもん、だろ?」
「あ、ありがとうございます…」
何にしても、あまり長居はマズイな。
今僕が相対しているのは、ただの女子高生じゃないんだ。
国内外問わず仕事をしている、765プロの、トップアイドルの…。
…よく考えたら、とんでもないことだよな。
「…サイン貰っとけば良かったかなあ」
しかし、あの千早とかいう子。
………ちっさ。
…。
名刺、貰っちゃったけど。
…特に使い道は無いわよね。
…財布に入れておこう。
「…」
神威 楽斗。
…。
春香はこの人を見て何を思ったのかしら…?
「…まさか、移籍?」
…。
…無いわね。
あの子がそんな事、考えるわけないわ。
…なら、どうして?
『思い出して』
「!?」
…また。
また、優の声…。
『思い出して』
「優?優なの!?」
…。
返事は、無い。
…どうして?
私に、何を思い出せっていうの…?
翌日、僕は再び美嘉に呼ばれた。
どうやらニュージェネレーションズを交えて奈緒と加蓮と合同自主レッスンをするようだ。
…常務のおかげで、デビューが遠ざかってしまったとは聞いていたけど。
そんな事を嘆いている余裕は無いと言わんばかりにレッスンに励んでいる二人。
…いや、むしろ嬉しそうだ。
「凛!一緒に歌ってくれる?」
「良いよ」
この二人が凛と仲が良いのは前から知っていた。
帰り道が同じという新しい友人が出来たと凛本人から聞いていたから。
…美嘉が紹介したのはそのせいでもあるんだろうな。
「実はね、この二人常務に呼ばれててさ。もしかしたらってはりきってるんだ」
「…成る程ね」
先輩アイドルである前に、同級生。
美嘉が彼女らのデビューを喜ぶのも納得がいく。
「じゃ!曲名は前と同じ!いっくよー!」
カラオケにでも来ているつもりだろうか。
そういうのなら、他所でやれよと言いたかったが…。
…たまには大目に見てやるか。
…しかし。
「「「〜♪」」」
少しのズレもなくメロディを合わせるこの三人。
…やはりアリ、かもしれないな。
「…」
「…良かったよー!これならいつデビューしても問題ないよね?GACKTさん!」
「…さあ?」
「えー!?いじわるだなぁ…」
デビューするかしないかは、二人を担当するプロデューサーが決めることであって、僕にその権限はない。
それに、実力なんてまだ0に等しい。
「まあ…熱意は伝わってるけどね」
「「…!」」
そうだ。
ただ歌が上手ければ良いというものではないんだ。
一番大事なのは、熱意なんだ。
心を込めて歌うことなんだ。
それこそが、本当の歌手なんだよ。
…決められたものを、決められた通りにやるだって?
ふざけるんじゃないよ、全く。
翌日。
今回僕は、アスタリスクのLIVEの付き添いに来ていた。
…思えば、彼女らは正式な自分達だけのライブをやったことは無かったな。
つまり、これが事実上の初LIVEということか。
「…」
「…」
なのにも関わらず、二人は口喧嘩はおろか、まともな会話すらしていない。
緊張しているような様子は見当たらないけど。
…もしかしたら、既に三角関係が始まっていたのか?
だとしたらこのギクシャクした空気も合点がいく。
普段あんなに喧嘩しているくせに、いざ解散がちらついたらこうなるのか。
素直じゃないなあ、二人とも。
「きょ、今日は良い天気だにゃあ!」
「そ、そうだね!」
…。
「ガクちん。今日って室内ライブだよね?」
「そうだよ」
言いたいことあるなら、はっきり言えば良いのに。
…めんどくさ。
そしてこの後、彼女らは本番に臨むのだが。
…勿論、LIVEが上手くいくはずもなかった。
「ごめんね李衣菜ちゃん!」
「わ、私の方こそごめん!」
「…」
それは、恐らく起こるべくして起こった。
LIVE中、互いに目を合わせず、会話も無く。
歌い始めればバラバラで、終いにはぶつかって転倒。
観客達も今回ばかりは全く満足出来なかっただろう。
「みくが、うじうじしてたから…」
「…ごめん。私がいつまでも悩んでるから…」
二人は楽屋に戻るとすぐさま互いに頭を下げていた。
…僕に謝るのは二の次かな?
「李衣菜ちゃんのせいじゃないにゃ!みく、みくは、李衣菜ちゃんに、嫌われたんじゃないかって…!」
「…!バカ!嫌うわけないじゃん!」
「…李衣菜ちゃん…」
「せっかく二人でデビュー出来て…まだ私達、何もしてないんだよ!?それに、私はみくちゃん以外とユニットは組まないよ!」
「…」
…。
一途、だなあ。
「はい、もういいよ」
「…GACKTさん…」
「…」
「お前達のレズ行為は見飽きたから」
「は!!?」
「ちょ、ちょっとお!!!」
「今反省するのはLIVEで失敗したことだろ?」
「そ、そうだけど…空気ぶち壊しだにゃ…」
「変な誤解生むような事言わないでくださいよ…」
心配なんて、する必要は無かったね。
だってこの子達はもう、太い絆で結ばれてるんだから。
「けど失敗したことは反省しなきゃいけない。お前達を見に来てくれているお客さんがどれだけガッカリしてたと思ってるわけ?」
「はい…」
「ご、ごめんなさいにゃ…」
…だからさ。
『…』
…もう、諦めなよ。
アスタリスクのLIVE翌日。
結果はどうあれ、LIVEは終わった。
もうああだこうだ悔やむ必要はない。
そんなものは次失敗しなければ良いだけのことなんだから。
「…」
そんなことよりも、だ。
シンデレラガールズプロジェクト宛にLIVEの招待状が人数分届いていた。
「…」
裏返すと、差出人の名前。
…夏樹、か。
「なつきち…」
…大方、何をするかは分かってる。
これが彼女なりのけじめの付け方ということだ。
…良いじゃないか。
これは、確かにロックだよ。
「…GACKTさん。私、行く資格があるんですか?」
「無かったら招待してないよ」
ラブコールを苦渋の末断ったことで関係が崩れるとでも思うか?
そんなことないよ。
…むしろ。
「イくよ。どうせなら盛り上がろうぜ」
もっと、好きになるもんだ。
「よ。みんな」
指定された場所、時間。
そこには僕達以外は誰もいない。
つまり貸し切り状態だ。
夏樹は舞台に一人立ち、僕達という観客を見据えている。
この後何が行われるかなんて、皆理解している。
「じゃ、結局一度もLIVE出来なかったけど…」
「「…」」
後出しジャンケンか、もしくは無い物ねだりになってしまうけれど。
李衣菜と夏樹、僕はその二人の方が上手くいくんじゃないかと思っている。
だけど当人が今のままでいいとしたんだ。
なら、僕はそれを応援するしかない。
「…にわかロック!解散LIVEだ!!」
「ちょっ…なつきち!」
「にわかにわかー」
「GACKTさん!?」
…それにしても。
夏樹、か。
…是非とも、バンドメンバーに加えたいな。
「…」
「…」
「「…」」
…たった一曲。
時間にすれば、5分もない。
だけど、とても濃密な時間だった。
…こんな情熱的なLIVEを、高校生がやってしまうなんてな。
若さ、それだけではないはずだ。
彼女達の絆、シンデレラガールズプロジェクト達の応援。
いろんなものが重なって出来たことだ。
…きっと、良い経験になるさ。
…だからこそ。
「…」
「…」
「「…」」
…だからこそ。
「…GACKTさん…」
「ガクちゃん…」
…何て顔してるんだか。
「こういう時は、しんみりした空気はいらないよな?」
マイク?
そんなもん、無くても十分だよ。
僕はロックスターだぞ?
「………分かったよ!アンコール、イくよ!!!」
あはは。
いいね。
アツくなってきたよ。
http://youtu.be/Pe99p0cM04s
…。
…ただ、この時の僕は、何も分かっていなかった。
「これはどういうことかね!?」
「?」
何一つ、理解していなかった。
「これは…!」
「決定事項です」
偉そうな言葉を並べておいて。
「既存のユニットには無い輝きがあります。…まあ、解散しろとは言いません」
「そんな…」
この時、僕は気づかなければならなかったんだ。
「トライアドプリムス。渋谷凛、単独ユニット、アナスタシア」
「…」
本当は、誰よりも弱く、誰よりも優しく、誰よりも繊細な心を持っていた。
そんな彼女の、唯一ともいえたサインに。
第六話 終
またそのうち書きます
乙
乙です
ユニット。
ユニットを組む際、僕は何を重視しただろう。
実力?
人数?
バランス?
…バカ言うんじゃないよ。
全部に決まってる、だろ?
「…さて」
先日、僕は美嘉の紹介する新人アイドルと顔を合わせた。
…レッスンスタジオで。
「…」
「…」
神谷 奈緒。
北条 加蓮。
この二人は夏に行われた346プロのフェスを見学しており、その時に僕を知ったそうだ。
…で、何だろう。
どうしてこの二人を僕に?
「この子達さ、こう見えて実力あるんだよ?」
「へぇ」
「へぇ…じゃなくてさ、ほら。GACKTさん嫌でしょ?才能ある子を埋れさせるの」
「まあ、そうだね」
…いや、僕に言われてもなあ。
ごめん
書き込めなくなってるみたい…
あれ?書き込めてる?
何か知らないけど154レス以降画面に表示されない…
ごめん
6話からまた新スレ建てることにします
自分の画面に書き込まれてない画面しか映らないので不安
同じスレ建てて申し訳ない
乙
それと少し遅いが、ガメ先手ル再開おめでとう
情弱かな?
まぁ、掲示板って
アクセス集中すると
反映が遅くなるし、
時間ずらすなりすれば
ええんじゃないかな?
>>190
めちゃくちゃ情弱
今気づいたが>>1
sage無くても大丈夫か?
妙な反感買って荒らされても読者として嫌だし、
一応sageるべきだと思う。
まぁ、いいって言うならいいが。
ブラウザから書き込んでる泥使いなら
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.airfront.android.a2chMate
これ入れたら
荒らされるも何も自業自得じゃねぇか
黙って投下すりゃいいのに愚痴りすぎなんだよ
ホントだよカス
もう書くなや
読者様www
自業自得
早い!もう荒らすのか!
来た!メイン荒らし来た!
これは酷い!
スレが満タンになるほど荒れることは恐らくないから、
邪魔っぽいレスは
見てみぬフリが一番やね。
続き待機。
このシリーズは好きでアニマスの頃から読んでいたが、シドニアスレの人だったとはなあ
クロス上手やね
初見の近寄りがたい感と実際とのギャップが書けてればもうちょいGACKT感が出たかなと
前作見てないから前作でそういう描写あったらごめんなさい
続きまし待ってる
荒らしとか気にするな
荒らしなんかいないじゃん
ちょっと事実言われただけで荒らしとか
頭がau revoirか?
「Project Krone?」
「うむ…」
何だろこれ。
常務の作った方針だって言ってたけど。
「…」
…。
……。
「…へー…」
デビューの中に、少し疑問。
「凛…アーニャ…」
…これ、ウチのだけど?
「…それも踏まえて、美城常務から話があるそうだ」
「ん」
「渋谷君と、アナスタシア君も連れて……なんだが、あまり驚いていないようだね」
「…?何で?」
「何でって…」
「僕は構わないよ」
「え!?」
だって、さ。
アリ、だろ?
「え…それって…」
「私達が、美城常務の…プロジェクトに…?」
「うん」
廊下で二人を引き連れながら話を聞く。
あまりにも突然だったからか、怒るとかそういう感じですらない。
「うんって…そんな簡単に言わないでよ!ニュージェネはどうなるの!?」
「私も…美波が…」
「それもやる。これも…やろうよ」
「ええ…?」
申し訳ないけれど、今回に関しては僕も常務に同意する。
可能性。
彼女は凛とアーニャの可能性を見たんだ。
奈緒や加蓮と組み合わさった時や、アーニャの独特な雰囲気。
恐らく本人達は気づいていないだろう可能性。
…やはり、あの女は僕に似ている。
「今は混乱してるだけだよ。絶対悪い話じゃない」
「「…」」
「チャレンジだよ。新たなステージへのさ」
そうだ。
確かに僕らはあいつにケンカを売った。
けれど、決して僕らを敵視しているわけじゃあない。
チャンスをくれるというなら、貰っておくまでだよ。
「入るよ」
「うむ」
凛とアーニャを引き連れて常務の部屋へと入る。
彼女は特にいつもと変わらない様子で待ち構えていた。
僕のどんな質問にも答える準備は出来ている。
そういった顔だ。
「…話、聞いたよ」
「そうか。では詳しい事を…」
「その前にさ」
「?」
「一回僕に話通しなよ。気に入らないよ」
「ふむ…そうだな…。確かに、私に落ち度がある」
「…いいけどさ」
「…そして、話だが」
「やるよ。面白いじゃない」
「!」
…。
驚いた。
彼女も、目を見開くなんてことがあるんだな。
僕が反対するとでも思っていたんだろう。
「僕は良いと思ったものはやらせるつもりだよ。そこが君のところであれ、やらせる」
「…そうか」
凛に、奈緒に、加蓮。
僕も彼女達には何かを感じた。
ただ組み合わせただけでは出せることは出来ない何かを、だ。
アーニャにしても、それは同じだ。
ロシアと日本のハーフ。
彼女は他の奴らには出せないものを持っている。
ソロというのは、悪くない。
「…詳しい事は?」
「ふむ。そこで、だ。このトライアドプリムス、アナスタシアに楽曲を提供してほしい」
「二つ?」
「そうだ」
…。
「…高いよ?」
「構わない。それとProject Kroneのボーカルレッスンも依頼したい」
「…IBOTBは?」
「そちらに関しては今までと変わらない。次のLIVEの結果次第だ」
「…」
相変わらず現実的だ。
…成る程、ね。
それ程、この子らに入れ込んじゃってるわけか。
…その気持ち、分かるよ。
「だけどさ、この子達は僕のだから」
「え!?ちょっ…GACKTさん!」
「オー…」
僕達は根っこはシンデレラガールズプロジェクトだ。
それだけは、忘れるなよ。
「…GACKTさん。困るよ。いきなり言われても…」
「嫌そうな顔してなかったけど?」
「…」
プロジェクトが違うから、仲良い奴がいるから。
…ダメダメ。
それはただの言い訳だ。
本当仲良い奴なら、どこまで離れていても変わらないもんだ。
「…」
「二人とも、迷ってる?」
「…うん。だって…未央や卯月が聞いたら何て言うか…」
「私も、ちょっと、困って、います」
…うーん。
良い案だと思ったんだけどなあ。
「まあ、キメるのはお前達だよ。そこは任せる」
…僕に決める権利は無い、か。
「…じゃ、先に行ってて。僕はちょっと用があるから」
「え…うん」
「はい」
それに、問題はまだある。
凛の相手だ。
恐らく、二人は凛の参加がデビューの条件だとでも言われたのだろう。
「…」
そりゃあ、凛の動向が気にもなるよな。
「…おーい」
「「っ!?」」
…。
「…」
「…」
奈緒に、加蓮。
彼女らは何処からかは知らないけれど、僕らの後ろで様子を窺っていたようだ。
その顔は不安そうで、落ち着きがない。
「分かるよ。凛だろ?」
「…はい」
「デビューには凛の力が必要、だろ?」
「……はい」
…。
気持ちは分かる。
だけど、もし彼女達がデビューの為のみに凛を利用しようとしているなら、許さないつもりだ。
たとえ彼女らの相性が最高だとしても、僕が育てた奴をそんな目で見ているなら、容赦はない。
「…あの、GACKTさん」
「ん?」
「前に、凛と一緒に歌った時、どうでしたか?」
「君らと?」
「はい」
美嘉の紹介の時か。
…それなら、前と変わらない。
「もしかしたら…ニュージェネレーションズを遥かに超えるかもしれないね」
「!」
「!」
「もしかしたら、だけどね」
「そ、それって…もしかして…」
「僕からはこれ以上何も言わないよ。どうしてもって言うなら凛のところ行きなよ…ただ」
「…?」
「もしウチの仲間コケにするような事したらタダじゃおかないよ」
「「は…はいっ!!!」」
僕は結構独占欲が強いんだ。
本当なら、渡したくない。
…けれど、仕方ない、よな。
多分、答えは出てるようなものだから。
「春香。ちょっといいかしら」
「?」
「何があったのか、話す気にはなった?」
「…」
「…まだ、駄目なのね」
「…ごめん。どう話したら良いのか分からなくて…」
「…なら、そうね…私の弟…の話、しようかしら」
「?」
「…最近ね、優の声が、たまに聞こえる気がするの。幻聴だと思うのだけれど…」
「えっ…」
「GACKTさん」
「え…え?」
「…優が、教えてくれたのよ。あの人の名前とか。…でも、何かを思い出させたいみたい」
「…千早ちゃん…」
「変でしょ?私がこんな話するなんて…」
「ううん!変じゃない!…その、私…私も…」
「…」
「…千早ちゃん。少しだけ、話してもいい?」
「…ええ。黙って聞いてるから、安心して話してちょうだい」
「…うん…あのね…?」
「ええ」
「…」
「トライアドプリムス…アナスタシア…」
…アナスタシアって、良い名前だよなあ。
アーニャでも可愛いけれど、この名前で出た方が、アーニャらしい。
…にしても、結果的に僕は常務の言いなりになってるんだよな。
いつからだ?
僕はいつのまにこんな社会の歯車になったんだ?
以前なら、いやこの世界に来る前の僕なら、出会った瞬間に喰ってかかっててもおかしくない。
「…丸くなったのかな…」
そんなことはない。
現に僕は、あのクソ上司にムカッ腹たってる。
なのにも関わらず、だ。
「…」
僕はなんだかんだで上手くやってしまっている。
「…」
違う。
これは僕じゃない。
僕らしくない。
変わったとか、そんなんじゃない。
「…」
前からよく聞く、過去の、この世界に存在していた僕。
「…」
まさか僕は、「僕」になっている?
「…何だそりゃ」
そんな事あってたまるか。
こちとら恐竜系男子なんだ。
僕は、僕。
それだけは、変わるつもりも変えるつもりもない。
それから数日後。
僕は再び奈緒と加蓮と一緒にいた。
「アイスコーヒー3つ、お待たせしましたー!」
「あ、ありがとうございます…」
「ありがとうございます…」
今日、仕事がひと段落ついた後に彼女達と会い、そのまま自然な流れで連れていかれた。
凛との問題がひと段落ついた、とかそんな感じだろう。
「あの…それで…」
「ん…トライアドプリムスだよね」
「はい!それで…」
…。
「…ふーん」
結局、やるわけね。
…まあ、そうだよな。
「それで、その…」
…。
「曲…ね」
「は、はい…」
…。
そういえば、昨日久しぶりにあの感覚があった。
ニョキっと、ポケットから気持ち悪い感覚。
「…それなら、心配しなくていいよ」
「本当ですか!?」
「うん」
僕が選んだわけではなく、勝手に選ばれた、と言った方が良いんだけれど。
これもまた結果的には、僕が作ったことになる。
…いや僕のだよ。
「ありがとうございます!早速…」
「待った」
「え…」
「確認だよ。凛を利用する気は無いんだね?」
「「…はい!」」
「…」
「私達、一緒に歌いたいんです!」
「…」
…どうやら、嘘は、ついてない…か。
もうこうなったら、信じるしかない。
「…どうせやるなら、最高にイケてるLIVEにしなよ」
「「はい!!」」
この決断は、果たして良かったのかどうか。
…この時の僕には、いや。
今でも、判断出来ないな。
http://youtu.be/3aBChrgoXgQ
彼女らに曲を渡し、残りの仕事は家でやる事にてし車に乗り込んだ。
「…」
凛の問題はとりあえず、止んだと判断する。
…もう一つは、アーニャか。
大人しく、優しい。
けれど芯はしっかりしている彼女。
どちらを選んでも、別におかしくはない。
多感な時期だ。
それに、芸能人になってまだ日も浅い。
やってみたいという気持ちが無いわけがない。
…けど、彼女にはラブライカがある。
だから、迷う。
「…」
優柔不断だと思う。
が、当事者からすればそう簡単に決められはしないんだろう。
…相変わらず、世話の焼ける奴らだよ。
「…ん?」
家の駐車場に車を止めようとすると、誰かが走ってきている。
危ないなあ。
急いでるのかもしれないけど、もう少し待ちなよ。
そう思いながら車をバックさせて駐車場にいれる。
すると、そいつは僕の車の前に立ち、僕をじっと見据えた。
…どうやら、僕が出てくるのを待ってるようだ。
それに、こいつはもう覚えた。
これで会うのは二回目か?
「…何?」
「あ、あの…今日は…お話があって来ました」
「ふーん…」
天海春香。
やっぱり、何かを隠してるんだな。
「…えっと、何がいい?」
有名アイドルである彼女を家に入れるのはかなり抵抗があった。
周囲にカメラがないか、確認するだけして入れたけど。
それでも恐いもんは恐い。
「…あ、じゃあ…向こうの棚の右の引き出しに入ってるレモンティーがいいです!」
「ああ…うん」
レモンティーね…。
確かに、なんとなく買って置いてあるよな。
「…ん?」
…待て。
今、何故こいつは何がどこにあるのか正確に言い当てた?
僕は今日初めて彼女を家に入れたんだぞ?
「…君ってさ、ストーカー…じゃない?」
「ち、違います!…その、どう説明していいものか…」
説明もクソもない。
何かの事情があるにせよ、色んな意味で恐い。
「…その…何も言わずに、聞いてくれますか?」
「やだ」
「お、お願いします!大事なことなんです!」
「…」
…ひとまず、紅茶淹れよう。
「はい」
「あ、ありがとうございます…」
「…で、話は?」
「…」
僕の顔色をうかがっている様子だ。
…そんなに僕が困るような話なのだろうか。
「…黙ってるから、話しなよ」
「…は、はい…」
「…」
「その…」
「…」
「…GACKTさん、は…その…」
「…」
「…元々、私達のプロデューサーだったんです」
「…」
…もう何があっても驚かないぞ。
「実は、この世界は、ゲームの世界、なん…ですよ…ね?」
…。
それは、知ってる。
ゲームをやり始めた瞬間にこうなったんだ。
でも、その登場人物がそれを認めたらダメなんじゃないか?
「…これ、見て下さい」
努めて冷静にしてはいるが、きっと僕は今とんでもなく間抜けな顔をしてるんだろう。
しかし春香はそんなことは気にもせず、自分の持っていた紙袋から、ある物を出した。
それは、見覚えのある物。
…っていうか。
「…これって…僕のコートと携帯じゃん」
「…」
携帯は、4つのうちの、1つ。
ようやく見つかったなあ。
「…で、どうして君が?」
「…昔、と言っていいんでしょうか…」
「…?」
「その、私と、GACKTさんが出会ったのが、3年前でした」
「3年前…」
…3年前って、346プロに入った時じゃないの?
「…そこから、たくさん一緒に仕事して、色んな子達と関わって。…最後には消えてしまって…」
「…」
「気がついたら、また最初からになっていたんです」
「…」
まともに受ければ、どこか頭を打ったイタイ奴なんだろうと思わざるを得ない。
けれど、むちゃくちゃな体験をし続けている僕は、今の彼女の話を信じられないわけではなかった。
「ケータイは、何故かその時私のポケットに入ってました」
「…コートは?」
「GACKTさんに貰ったんです…」
そう言うと彼女はコートを隠すように紙袋に戻し、僕に向き直った。
「…」
「…そのケータイ、見て下さい」
「ん…」
…。
……。
………。
「…これ…」
画像フォルダ。
そこには、間違いなく。
僕と、春香…いや。
765プロ、それだけじゃない。
凛や、未央、卯月…。
それに、奈緒や加蓮、楓まで僕と一緒に写っていた。
「…」
高校生に作れるとは思えない。
僕は慌てて連絡先を見た。
「…」
…そこには、にわかには信じがたい光景があった。
天海春香。
高木社長。
秋月律子。
音無小鳥。
如月千早。
高槻やよい。
双海真美。
双海亜美。
菊地真。
萩原雪歩。
三浦あずさ。
水瀬伊織。
星井美希。
我那覇響。
四条貴音。
島村卯月。
渋谷凛。
本田未央。
塩見周子。
神谷奈緒。
北条加蓮。
諸星きらり。
双葉杏。
高垣楓。
佐久間まゆ。
前川みく。
神崎蘭子。
千川ちひろ。
「…」
適当に連絡先を登録したわけではない。
その証拠に、僕の知る限りのアイドル達のものも記されていたから。
「…」
「…」
…参ったなあ。
これじゃあ、僕も混乱するよ。
「…あの、良いですか?」
「…続けて」
天海春香。
高木社長。
秋月律子。
音無小鳥。
如月千早。
高槻やよい。
双海真美。
双海亜美。
菊地真。
萩原雪歩。
三浦あずさ。
水瀬伊織。
星井美希。
我那覇響。
四条貴音。
島村卯月。
渋谷凛。
本田未央。
塩見周子。
神谷奈緒。
北条加蓮。
諸星きらり。
双葉杏。
高垣楓。
佐久間まゆ。
前川みく。
神崎蘭子。
千川ちひろ。
「…」
適当に連絡先を登録したわけではない。
その証拠に、僕の知る限りのアイドル達のものも記されていたから。
「…」
「…」
…参ったなあ。
これじゃあ、僕も混乱するよ。
「…あの、良いですか?」
「…続けて」
それから春香は、様々なことを語った。
僕や僕のバンド仲間しか知り得ないような事も、凛達の事も。
…嘘は、ついていない。
…でも。
…仮に、それが本当だとしたら、だ。
どうして僕は忘れて、この子が覚えている?
それに、この子は僕にどうして欲しいんだ?
たとえそれが本当だとしても、だ。
今の僕は、彼女と知り合ってまだ間もない。
「…」
「…」
…。
「…あのさ」
「…はい」
「僕に、どうしろって言うの?」
「…」
話は聞いた。
けど、今、僕がいるのは。
「今、僕は346プロダクションの、シンデレラガールズプロジェクトにいるんだ」
「…はい」
「…だから、多分君のお願いは…」
「あ…そ、その、違うんです」
「?」
「…その、せめて、今は記憶だけでも取り戻してほしくて…」
「…あー…」
…記憶、かあ。
こんな事って、あるんだなあ。
自分だけは無いって、思ってたのに。
「…」
思い出せない、ってか。
元々あったのかも分からない。
「…千早ちゃんにも、話したんです。この事を」
千早…あの子か。
「千早ちゃんは、今のGACKTさんみたいに黙って聞いてくれて…そしたら、一度話してみるべきだって」
…。
あの千早って奴、よっぽどこの子の事が好きなんだなあ。
「…今日はとりあえず帰りなよ。そんな急な話されても、お互い困るだけだからさ」
「…はい」
…にしても、とんでもない時に、とんでもないカミングアウトしてくれたもんだ。
もしそのタイムトラベルのような事が起きてるなら、多分、いや絶対。
346プロ自体が、偽りの世界になってしまうんだぞ。
再構成された世界に、再構成された記憶。
…こりゃあ、簡単な話じゃあ、ない。
…。
誰に相談するとかも出来ない、よな。
「…」
…ちょっと待て。
『今は記憶だけでも取り戻してほしくて…』
「今は」…って、何だよ…。
「…千早ちゃんにも、話したんです。この事を」
千早…あの子か。
「千早ちゃんは、今のGACKTさんみたいに黙って聞いてくれて…そしたら、一度話してみるべきだって」
…。
あの千早って奴、よっぽどこの子の事が好きなんだなあ。
「…今日はとりあえず帰りなよ。そんな急な話されても、お互い困るだけだからさ」
「…はい」
…にしても、とんでもない時に、とんでもないカミングアウトしてくれたもんだ。
もしそのタイムトラベルのような事が起きてるなら、多分、いや絶対。
346プロ自体が、偽りの世界になってしまうんだぞ。
再構成された世界に、再構成された記憶。
…こりゃあ、簡単な話じゃあ、ない。
…。
誰に相談するとかも出来ない、よな。
「…」
…ちょっと待て。
『今は記憶だけでも取り戻してほしくて…』
「今は」…って、何だよ…。
…眠れない夜を過ごした。
それもそうだ。
あんな話されれば、誰だってこうなるよ。
「…」
一階ロビーの階段にかけてある時計を見る。
きちんと時を刻んでいる。
…あれを逆回転させる奴がいるだなんて、信じられない。
…信じられないのは、最初っからか。
「GACKT、さん」
「…ん」
聞き覚えのある声につられて振り向くと、そこには、アーニャ。
「あの、お話が、あります」
「話…?」
…話、か。
どうやら、決めたみたいだね。
「あの…クローネの、お話です」
「うん」
「私、あの話、受けようと、思います」
「…だろうね。そんな気はしてたよ」
「…?」
小首をかしげる。
僕に引きとめられるかもしれない。
そんな後ろめたさがあったのかもしれない。
…少しは、あるよ。
でも、僕に彼女を繋ぎ止めるまでのことは出来ない。
「…ちなみに、理由は?」
「…チャレンジ、です」
「チャレンジ?」
「…はい」
…。
それは、合宿やサマーフェスでの事。
蘭子や僕と一時的に組んだ時。
その時、もしかしたら、というものを感じたという。
彼女は、そう続けた。
「…それは、ラブライカには、無いもの?」
「…無い、のかもしれません。…でも、あるのかもしれません」
「…」
「…」
…分からない、ということか。
…。
「…でも、チャレンジ、なんだよな?」
「…はい」
…そうか。
チャレンジ、か。
「分かったよ」
「…」
「お前が、それを選ぶなら僕は尊重するしかない。頑張っておいで」
「…GACKT、さん…」
「…そんな悲しい顔するなよ。今生の別れじゃないんだから」
だけど、少なくとも。
…次のLIVEへの出演は、無いか。
…何とも言えないな。
こうまで強い意志を感じると、何も言えない。
本人がここまでやりたいと言っているのであれば、僕に引き止める権利はない。
「…」
「…」
分かっているさ。
悔しい気持ちはあるけれど、仕方ない。
…本当はラブライカに渡そうと思っていたんだけれど。
「これ、お前のソロ用にしなよ」
「!…ありがとう、ございます」
…まるで、失恋したみたいだ。
お前、というよりは、今の僕。
あはは。
…らしくないなあ。
http://youtu.be/Y7sdStigR8s
「…」
もうすぐ夜になる。
少し涼しくなった外。
空には星が出てきている。
…アーニャが喜びそうだ。
「…」
当初、僕は凛とアーニャを二つのユニットでLIVEに参加させるつもりだった。
…ただ、現実はそうも上手くはいかないらしい。
どちらかを選択しなければならない、と。
一時的とはいえ。
…ラブライカでの出演は、無し…か。
…美波は、どうだろうな。
優しい彼女の事だ。
きっとアーニャの意思を尊重するんだろう。
…競い合うわけではないけれど、ある種、敵側に回ったというのに。
「…」
人生ってのは、本当に思い通りに行かないよな、YOU。
「…」
最近になって、僕はここでの生活に満足感を覚え始めた。
いつもアイドルが近くにいて、楽しくなっていた。
だけどそれは突然、終わりに近づいた。
…魔法とか、そんなものは何の役にも立たない。
これは現実なんだ。
それはもう認めるしかない。
「…戻ろう」
これ以上空を見上げていると、女々しい気持ちになりそうだ。
仕事もまだ残っているし、終わらせよう。
多少は、気分転換になるはずだ。
「…」
地下までの道のりはそう長くはない。
けれど、ほとんど人もいない状況で、この空気で、今の気分で。
…一人だと、とても長く感じる。
階段を降りる音も、反響して聴こえる程に静かだ。
「…?」
事務所に近づくにつれ、まだそこには明かりがあることに気がついた。
アーニャがまだ残っているのだろうか。
…だとしたら、入り辛いな。
『…何で?分からない分からないって…ふざけないでよ!!』
『…』
…。
なんだなんだ。
中から聞こえるのは、未央の怒声。
…僕は勘が鋭い方ではないけれど、流石に何があったのかは瞬時に理解出来た。
これは、やらかしてくれたな。
…凛。
「…」
ドアを開けると、完全に予想通り。
怒りの形相で仁王立ちする未央と、俯く凛。
それをオロオロしながら見つめる卯月。
彼女らはこちらに振り向くと、三者三様の行動を取る。
助けてくれと言わんばかりに泣き顔で見つめてくる者。
罰が悪そうに、目だけをこちらに向ける者。
今は話しかけるなと即座に相手に向き直る者。
…波風立てるなよ。
「事務所で暴れようとするなよ。何があったの?」
「…何があったの、じゃないよ」
「ん?」
「ガクちん、しぶりんの事知ってたんでしょ!?」
未央はそう言うと、今度は僕に刃を向けてきた。
…これ、完全にとばっちりだ。
…あーあ。
「しぶりんがクローネに行くって、誘われてるって!どうして教えてくれなかったの!?」
「言ったらこうなるから」
「…!そんなの、答え決まってるんじゃないの!?」
「…」
「ニュージェネは!?私達はどうなるの!?しぶりんがいないだけで、ニュージェネレーションズはLIVEに参加出来なくなるんだよ!?」
「…そうなるね」
確かにそうだ。
アーニャの件で分かった事だけど、時間や立ち位置的に、向こうを選べば自然とこちらには参加出来ない事が分かる。
…つまり、ニュージェネレーションズの参加も無しだ。
「こんな大事な時期にどうして…しぶりんにとって、私達ってそんな軽い存在なわけ!?」
「そ、そんなことない!…でも…」
「でも、何?…さっきからそればっかりじゃんか!!」
「…」
…。
成る程な。
未央が怒ってるのは、凛が向こうにいくことよりも、この煮え切らない態度の事なのか。
…当事者としての気持ちも組んでやりたいところだけどなあ。
…結果的には、向こうを選んだんだから、な。
「凛」
「…?」
「分からないって言うのは、確かに無責任だよ」
「…」
「可能性を感じたんだろ?あの二人に」
「…」
「ニュージェネレーションズではなし得ない何かがあるって」
「!!…そんな言い方…しないで」
「…だけど、決して悪い事じゃない」
凛は自覚していない、いや、認めたくないんだろう。
だから分からないなんて言葉でごまかそうとしているんだ。
「綺麗に取り繕う必要なんてない。思いってのは、きちんと伝えなきゃあダメだ」
「…」
「…しぶりん、そういう、こと?」
「…」
「…何で、何も答えてくれないの?」
「…ごめん」
「…」
重い、沈黙が流れる。
…まさか自分達がこんな、なんて思っているんだろうな。
あれだけ仲が良ければ、こんなことになるなんて露にも思わなかったはずだ。
だが、凛はトライアドプリムスを選んだ。
それもまた、現実。
どんな過程があるにせよ、彼女は常務側へと回った。
…僕もまさか、とは思ってたけど。
それなら、仕方ない。
「…ごめん。ちょっと頭冷やしてくる」
「…未央…」
「未央ちゃん…」
…未央もまた、そうだったな。
一人外へ出ていった未央。
追おうかなんて考えたけど、かける言葉が見つからない。
「…」
「…凛」
「…」
「まさか、やっぱりやめるだなんて言わないよな?」
「え…」
「それは、未央、卯月に対しても、僕に対しても失礼だよ。大見得切ったんだから、中途半端に終わらせる事なんてさせない」
「…でも」
「お前は軽い気持ちで向こうに行くって思ったとしても、もう遅い。やるからには全力でやりなよ」
「…」
「…こんな事で、お前を嫌ったりしないよ。僕も、こいつらも」
卯月の肩に手をやり、応える。
こいつら、というのが未央の事も含めての事だと理解してくれればいいけど。
「勿論、曲も最高にイケてるやつだ。だから手なんて抜くんじゃないぞ」
「…うん。ありがとう」
『GACKTさん』
「…ん?」
『GACKTさん』
…?
誰?
「…」
卯月の声でも、凛の声でもない。
幼い、子供の声だ。
だけど、幻聴ではない。
それは、なんとなく分かる。
誰かが、僕に囁いている。
「…」
『助けてあげて』
?
助ける…?
『助けてあげて』
…未央の、事かな。
…一体、何だ?
その声は、階段を上がる時も、外に出る前までも聴こえた。
…まさか、霊だとでも?
そんなわけ、あるか。
…けど、ボケたとも思えない。
「…そういえば」
霊で思い出した。
少し前、元の事務所で撮ったあの写真。
僕の後ろに写る影。
…まさか、そういうことか?
今撮ったら…。
「…!」
あ、寒気がした。
「…」
外。
いつもの噴水広場。
そこに未央はいた。
「…」
しゃがんで顔を隠しているからか、その表情は見えない。
その後ろには、美嘉。
未央を心配して、しかし特に声をかけることもなく近くに座っていた。
…こういう時は、何も言わず見守る。
それは、正しいことだ。
事実、僕もそうしたと思う。
だけど、さっきの見知らぬ誰かの声はこう囁いた。
助けろ、と。
それはつまり、僕に何か未央に対してアクションを起こせということだ。
…ヒントじゃなくて答えくれよ。
「…」
…いや、この場合はいらないな。
台本読んだだけの説得なんて、少しの説得力もありはしない。
「…」
ならば、僕ならどうするか。
…考える必要はない。
「…未央」
「…」
声をかけると、彼女はゆっくりとこちらに顔を向けた。
拭いても、拭いてもとめどなく零れ落ちる涙のせいで目の周りは真っ赤。
いつもの元気な瞳は無く、垂れ下がった眉と力のない表情。
「…」
美嘉も唖然としている。
いつもの未央ではない、と。
それは、あの時の、いやあの時よりも酷い顔だった。
…だけど、未央は勘違いをしてる。
「自分の心を傷つけるのは、自分自身だよ。お前が泣いてるのは、凛のせいじゃあ、ない」
凛を見た自分の心を、受け止めきれていない。
自分の弱さを、認められない。
「お前は、お前が思っている以上に脆くて、弱いんだよ。…でも、な」
「…!」
…こりゃあ、思ってる以上だ。
抱きしめて初めて分かったけど、彼女の身体は思った以上に細く、華奢だ。
こんな小さい身体で…よくあんな元気に振舞ってたもんだ。
…弱っちいくせに、な。
「…泣いてても前には進めないよ」
「…うん」
「前にも、言ったよな。オンナの武器は笑顔だって」
「うん…」
「なら、お前が笑顔になるために、凛に笑顔になって貰うために何が出来るかを考え、行動しろ。出来ることからで良い」
「…行動…」
「…凛ちゃんだって、ある程度の辛さは覚悟してた」
「…美嘉姉…」
「未央ちゃんにどんな反応されるのか、とか。でもそれは凛ちゃんにしか分からない。凛ちゃんの頭の中でしか分からない」
「…」
そう。
その通りだ。
凛だけじゃなく他の奴らもそうだが、自己完結が多過ぎる。
「お前達はアイドルである前に、ただの子供だよ。未熟な部分の方が多いんだ」
勿論、お前も含めての事だけどな。
美嘉にそう目配せをしたが、罰が悪そうに目を背けていた。
「…まあ、だからさ…もっと頼りなよ。話してみなよ。僕じゃないと出来ない事だってあるかもしれない、だろ?」
「…ガクちん…」
「僕はもしかしたら構い過ぎなのかもしれない。だけど、これだけは分かっていて欲しい」
「…」
「例えこの先どんな事になっても、何が起きたとしても。僕はお前達の味方だ」
「…うん」
「…もう泣き止んだか?」
「…うん!」
それから僕は、凛の置かれている立場、トライアドプリムス結成の秘話などを覚えている限り話した。
未央もその事は何となく察していたようで、やっぱりと言わんばかりの顔をしていた。
「…だけど、凛が奈緒と加蓮とユニットを組みたいという気持ちがあったのも確かだ」
「…そう、だよね」
未央が泣いていたのは、それを憎んでしまった自分の感情を許せなかったから。
凛の事を、一瞬でも憎んでしまった事を恥じていたのだ。
「…」
…今なら言える。
この子にリーダーを任せて良かった、と。
十分立派、だと。
「…」
「…」
「…」
僕と、未央と、美嘉。
再び沈黙が流れる。
…僕が今、彼女にしてやれることって、何だろう。
「…」
…何だろう。
「…ね、GACKTさん」
「ん?」
答えに行き詰まっていると、未央の隣に座っていた美嘉が喋り出した。
「…あのね、こういうのって、やっぱりその人にしか分からないっていうこと、あるんだよ」
「…当事者にしか、ってこと?」
「うん。…だからさ」
「…あー…」
…成る程。
「未央ちゃん。あのさ…」
「…うん。大丈夫。私、決めたから!」
「決めた?」
「うん!あのね…」
…。
……。
「…ほー」
翌日。
アナスタシア、凛の一時的な不参加、それともう一つの事を報告しなければならないため、皆を集めた。
こんな形で全員が集まるってのも、皮肉なもんだな。
「…アーニャが、Project Kroneでソロデビューすることになった、ということと…」
皆の反応は見て分かる程に、動揺していた。
何処かのプロジェクトと手を組むわけではない。
何処か、といえば何処かだが、そこは自分達を村八分にした張本人が作ったプロジェクトだ。
そこに一時的といっても引き渡すというのだから、暗くもなる。
「…で、凛も…」
そこからはなるべく淡々と報告するようにした。
一人一人の反応を伺っていては、彼女達の決心が揺らいでしまうかもしれない。
だからこそ、僕だけでも事務的に、淡々と話す必要があった。
「…で、あともう一人。これは離れるわけじゃなくて…」
「待ってガクちん!…私から話すから!」
手を上げ、僕の前へと進む。
彼女もまた、決心したようだ。
「…ん」
彼女自身の報告は、彼女自身がする。
僕に言わせたのでは、カッコがつかないと思ったんだろう。
「…私、本田未央はソロデビューすることになりました!!」
…。
反応は、微妙。
凛や、卯月も初耳だと言葉を出さない。
そりゃあそうだ。
…昨日決まったんだから。
…。
『あのねガクちん。私、ソロデビューしてみようと思う』
『…』
『しぶりんと、同じ目線で見てみようって、思うから』
『…それだけ?』
『ううん。自分の力を試してみたいってのもあるよ』
『…』
『チャレンジだよ。チャレンジ!』
『一人のユニットってこと?』
『今は、役者をやってみたいかな…?』
『…ほー』
…。
あれが英断だったのかどうかは判断出来ないが、僕はアリだと思う。
未央の演技力がどうなのかは分からないけれど。
歌手である者、役者でもなければならないからな。あはは。
…けれど、一つだけ。
一つだけ、心配事がある。
それは、今日の朝。
僕が、事務所に着いた時のことだ。
誰か、ではなく、またあの声が聴こえた。
その声は、先日よりも少しトーンを落とし、か細い声で呟いていた。
『…助けてあげてって、言ったのに…』
…。
…何だったんだ?
第七話 終
乙です
卯月ェ
ゴミスレ
依頼出せ
悪くないんだけど一作目の765のときと比べてGACKTっぽさがちょっと弱いなぁ
アイドルそっちのけでGACKT様SUGEEEEとまではやらんでいいけどせっかくGACKTを登場させてるんだから
もうちょい常務に対してアクション起こしてくとかGACKT主導で物語を動かしてもいいんでないかと思う
アニメ準拠で常務やっつけたら辻褄あわんくなるし何より荒れそうだけどな
これ位でちょうどいいんじゃね
まだあったのかこの駄作スレ
はよ依頼しとけよ?
続き待ってます
凛、アーニャの一時的な不参加。
そして、未央のソロデビュー。
こんな話が急に、それもLIVE直前と言ってもいいくらいのタイミングで来たら、流石に皆動揺する。
いや、動揺だけならまだいい。
納得がいかない、訳が分からない。
そんな事を濁しながらも愚痴る者も少なからずいた。
「ねえGACKTさん。これでいいのかな…」
みりあもその中の一人。
皆で一致団結して、楽しんでイこうと考えていた矢先の出来事に、かなり複雑そうな表情を浮かべていた。
「これでいい、あれでいいってのは、今考えてもしょうがないよ」
しかし、もはや決まった事。
今ここでまた衝突が起きればむしろ逆効果ってもんだ。
…アイドルの意思を尊重、か。
その意思ってのが、今バラバラになってるんだけどな。
…誰かさんのせいで。
元の世界を思い出す。
なんだかんだでもう半年以上前になってしまった。
…思えば神威学園も、色んな所から引っ張って来た奴ばっかりだ。
あいつらにも、ホームがあって。
本当に楽しめる所があって。
…僕も、常務と変わらないのかな。
「…あの、GACKTさん。今、大丈夫でしょうか?」
「ん?」
…。
「美波、どうしたの?」
彼女は、アーニャから昨日の夜のうちに話されていたらしい。
それから今日の今まで、彼女なりに考えたのだろう。
「…」
「…」
…そっか。
…彼女も、ソロデビューを考えたようだ。
「…ちひろ」
「はい?」
度重なる事件。
このところ、頻繁に起きている。
「最近さ、すっごくめんどくさいことばっか起きてるよな」
「ふふ…もうGACKTさんったら…」
「冗談じゃないよ。何なんだよ一体」
「アイドルの皆さんは、まだ子供ですから…だから、ある程度の事は起きても仕方ないと思いますよ?」
「やり方が汚いんだよ。奈緒と加蓮の件だって分かりやすい脅しじゃない」
「…でも、それを抜きにして、お互い惹かれ合った。…でしょう?」
「…そうだね」
…だから、汚いってんだよ。
「それよりも、Kroneの皆さんのレッスンですよ。やるって決めたんですからね!」
「分かってるよ」
…本当、アイドルの奴らは可愛いもんなんだけどなあ。
後ろがめんどくさいんだよ。
「はい音外した。もう一回最初から」
「は、はい!」
…。
目が隠れる程髪が長く、元気とは程遠い印象を受ける。
智絵里を彷彿とさせる臆病さと、緊張しい。
本屋の娘、鷺沢文香。
「ふう…ふう…」
まだ5分も経ってないというのに、既に息を切らしている。
「…す、すいません…お、お願いします」
「…」
確かに見た目は美しく、それでいて可愛い。
昔の僕ならキスしていたかもしれない。
しかし、体力面では杏以下だ。
…体力は後でつければ問題は無い。
けれど、限界はある。
この子が本番までにどこまで仕上げられるのか、心配でならないが。
「…あのさ」
「…は、はい?」
「…アイドルになった理由、教えてくれるかな」
「あ…」
この子がどのようにしてウチのプロデューサーと知り合ったのか。
それはかなり気になる。
「あ、あの…私、私が店番してる時に、名刺を渡されて…」
「…へぇ」
「それで、可愛いって、絶対トップアイドルになれるって説得してくれて…。こんな私でも、なれるのかなって…」
「…それで、常務に認められたわけだ」
「プロデューサーさんは、これが私の新たな一歩だって、褒めてくれました…」
「…新たな、一歩…」
新たな一歩、か。
成る程な。
「なら、僕の方が上だね」
「えっ…?」
「僕はただ歩かせるだけじゃない。階段を上がらせて、てっぺんまで連れていく」
「…」
「次のLIVEが終わったらお前のプロデューサーに言ってやれ」
「?」
「置いてきぼりにするぞ…ってな」
「が、GACKTさん……そんな怖い事、言っちゃダメです」
…。
こいつのプロデューサー、良い目してるなあ。
…。
「…うん。うん。良くなってきた」
「ありがとうございます!」
「後は、これが本番で出せる事かな」
「あっ…」
そう。
この子はかなりの緊張しいだ。
僕と初めて顔を合わせた時もどもるわ顔を隠すわで話にならなかった。
「…お前に一番大事なのは、度胸だよ」
「度胸…ですか」
「そうだよ。一度のLIVEに命を懸けるくらいの度胸だ」
「そ、そんなに…」
「それが普通だよ。いつ事切れてもいいように後悔するようなLIVEはするな」
「…は、はい…!」
しかし、本番までの短い期間でこのメンツを使えるようにしろってか。
…こりゃあ、大忙しだな。
「…じゃ、再開」
「は、はい!」
未央が女優の道を歩み始め、ようやくその一歩という舞台のオーディション合格が叶った。
まだそこまで見たわけじゃないけれど、順調にやっていると聞いている。
…何で突然そんなことやり出したって?
「…」
そりゃあ、色んな思いがあって、だろう。
凛と同じ目線で立ちたい。
自分の可能性を開きたい。
引いてはアイドル以外の…。
「…」
凛は新たなユニットを組み、未央は女優というもう一つの道を見つけた。
「…」
もう一人。
…あれは、どうだ?
「卯月ー」
「ひゃっ!が、GACKTさん…」
「寂しそうな顔しちゃって」
「そ、そんな…私、みんなに負けないよう頑張りますから!」
「負けないように?」
「はい!」
負けないように…。
…負けないように?
「私…未央ちゃんみたいに演技が上手くもないし、凛ちゃんみたいに踊れるわけじゃないですけど…」
「なら、歌だね」
「えっ?」
「歌だよ。未央は演技、凛はダンス。お前は歌」
「歌…ですか?」
「何かやってみたいなら、やればいい。僕が専門としてるのは歌。だからマンツーマンのボーカルレッスンなら引き受けられる」
「歌…」
「安心しなよ。必ずモノにしてやる」
「は、はい!頑張ります!」
が。
…ただし。
…歌声に濁点がつく癖は直せよな。
「へー!じゃあしまむーもソロデビューするの?」
「そうさせるつもりだよ」
「そうさせるつもり?」
「本人の意思がよく分からないからさ」
「あー…そういうことなんだ」
僕だけが走り抜けても仕方ない。
僕がレールを敷いて、そこを歩かせるだけなら楽なもんだ。
ただ、卯月の心はどうなんだろう。
卯月が本当にやりたい事ってなんだろう。
ただ決めあぐねているのか?
…それとも何が分からないのかも、分からないってやつなのか?
「…」
もし後者だとしたら、少々困るな。
そんな自分を持たないような事は、アイドルとしてダメダメだ。
「…」
ふと考える。
…そういえば、どうして僕はこいつらを選んだんだろう、と。
確かに凛や未央は僕が選んだ。
アーニャに至っては、僕も即決していた。
だけど、正直。
他にも面白い奴はいた…かもしれない。
…だけど僕は、こいつらを選んだ。
「…」
もしかしたら、決められたレールを走ってるのは、僕の方…なのかな。
「がくちん?」
「ん?」
「ん?じゃないよ。いきなり考え込んじゃって…」
「お前達のせいだよ」
「ズバズバ来るなあ…」
「…」
しかし、どうしてこいつは最近僕の方に来るんだ。
僕の事が好きなのは分かってるけれど。
「でさー…」
…それだけじゃなさそうだな。
「…ちょっと前までお前と凛と卯月のセットだったのにな」
「…あえてニュージェネって言わないところがガクちんらしい…」
「そりゃあ、そうだよ。ただでさえ最近ニュージェネレーションズの活動が少ないんだから」
「…」
「僕はお前のダッチワイフじゃないんだからさ。ちゃんと向こうと話してきなよ。確執作ったまんまじゃダメだろ?」
「…ダッチワイフ?」
「早く行きなよ」
「…何を、話せばいいんだろ」
「そりゃ、何でソロになったとか、お互いの近況報告とかさ」
「…がくちん、着いてきて…」
「ヤダ」
「ケチー…」
ケチじゃないよ、このチキンめ。
「プロデューサー?どうしたんです?」
「え?…いや、最近春香が元気無かっただろ?」
「ええ…でも何とか元に戻ったとは聞きましたけど…」
「…その、それと関係があるのかどうか分からないけど…」
「それ…346プロのアイドル達のCDですよね?」
「ああ。でも346プロのアイドル全員の曲が好きってわけじゃないみたいでさ」
「…シンデレラガールズプロジェクト…」
「…この子達の歌に、何か惹かれるものでもあったのかってさ…何度か聴いてみたんだ」
「ふむ…どうでした?」
「…うーん…何ていうか、その…あ、悪い意味じゃないぞ!?…その、俺の知ってるアイドルっぽくないなっていうか、な…」
「…私も少し聴いてみましたけれど、確かにロックな部分が目立ちますね。何ていうか、男の人が歌いそうなって感じでしょうか…?」
「…」
「…で、それの何が春香を?」
「…これ、なんだけど」
「?…サクラ、散ル・・・?」
「春香が持ってきたんだ。どうしてもこれを歌いたいって」
「…こんな歌、提供されましたっけ?」
「いや、どこからも提供されてない。ただ…」
「…えっと…が…くと?…この人…!」
「…思い過ごしなら良いんだけど、な…」
「こ、これその…春香が持ってきちゃった、とか?」
「そんな事は無いだろうけど…あるいは、その…」
「…?」
「…もしかしたら、その…」
「…」
「その人と、何かしらの関係を持っているのか…」
「………悪い方だとしたら、大問題ですね…」
「…春香に限って、それは無いって思いたいけど…」
「…待ってください?仮に、その…春香が、この人と何かしらの関係になってた、としてですよ?」
「ああ」
「じゃあ、この歌を歌ったとして…どうするんです?」
「…いや、そこまでは…」
「…ですよねぇ…」
「ただ、春香は765プロのアイドルだ。もし何かしようものなら、こっちだって出方を考えなくちゃならないかもしれない」
「そ、そうですね!ヘッドハンティングなんてされたら…」
「…でもな、律子」
「はい?」
「仮に、春香が、自分の意思でこの人の方が合ってると思ったなら」
「…」
「俺は、それを尊重してやりたい。プロデューサーとしても、春香の1ファンとしても」
「…それも、そう、ですね…」
「…っていうか、これ…許可取れてるのかな…」
「…あ」
未央と凛、卯月の中に妙な距離感が生まれて数日。
互いにそれの話題は避けているようで、会っても挨拶や当たり障りのない会話のみだった。
…今生の別れでもないのに、何を怯える必要があるんだろうな。
僕だったら、いつも通りに接して普通にしてるのに。
「…」
そうは言っても、彼女らはまだ高校生だ。
僕みたいに酸いも甘いも経験したわけではない。
初めて出来た仲間とバラバラになる事が相当…くるんだろう。
なら断ればよかったのに…。
「…」
…なんて訳には、いかなかったんだよな。
「…」
ただ、一緒にやってみたかった。
やらせてみたかった。
そんな簡単な事だというのに。
あっちを取れば、こっちが沈む。
逆もまた、然り。
…不条理な社会だよ、ホント。
「…」
今僕が抱えている問題。
ニュージェネレーションズ。
シンデレラガールズプロジェクト。
常務。
765プロ、天海春香。
いくつかはどうにでも出来る問題。
だけど、最後のはどうだ?
あんなめちゃくちゃな話、僕にはどうしようもない。
どうしようもなく、抗いようのない力が、僕達にかけられている。
そんなの、頑張ってどうにかなるもんじゃない。
僕達はファンタジーの主人公じゃないんだ。
「…」
春香が、僕に伝えたい事って、なんだろう。
今の僕には、その気は無いようだけど。
…先日、その春香から電話がかかってきた。
なんでも僕の曲を歌わせてほしい、と。
僕が彼女に渡した曲だ、と。
…本来なら断るのだけど、僕はそれを許可した。
恐らく、彼女は僕に何か伝えたいのだろうから。
あの歌を通して、僕に伝えたいことがあるだろうから。
まあ後は…歌えるもんなら歌ってみろってことかな。あはは。
…。
「…ん…」
…。
…寝てたのか。
寝落ちするのは珍しくないけど、以前より規則正しい生活を送っている今の僕がなるのは…少々珍しい。
…疲れてるんだよ、あいつらのせいで。
「…」
…けれど、このままでいいはず、ない。
それは僕じゃなくても分かる。
「…」
昔の事を、思い出す。
バンドメンバーとの確執。
…その延長の、別れ。
…今のニュージェネレーションズは、もしかしたらそうなりかねない。
「…放っておく…」
…。
……。
「…訳にもいかない…」
…だよな。
「…」
手帳を捲り、明日の予定を確認する。
「…」
そこには色々と詰め込まれて書かれているけれど。
その中の一つ。
…トライアドのレッスン…か。
「「「〜♪」」」
…。
「まだ加蓮の声が小さいなあ」
「す、すいません…」
「もっと腹から出しなよ。マックでゲラゲラ笑ってるくらい」
「いや…そんなには…」
「ゲラゲラ…」
「持ってるものを出せって事だよ。恥ずかしがってちゃ歌手だなんて言う資格は無い」
「…は、はい!」
まだまだカラオケ気分が抜けていない加蓮、奈緒。
それにつられるように凛までも。
「やるからには死ぬ気でやれよ。ボーカリストたるものLIVEで[ピーーー]たら最高だろ?」
「相変わらずだね…」
凛が引き気味で呟く。
その温度差にジェネレーションギャップを感じずにはいられない。
「お前達ってさ、何か…何でも良いけど、何かを死ぬ気でやったことってある?」
「何かを…」
「死ぬ気で…?」
加蓮と奈緒が互いに顔を合わせる。
勿論、彼女らがそんな経験をしているとは思えない。
その経験があるとしたら、こんな風に小言を言われていないはずだ。
しかし凛は言われ慣れているからか、特に疑問を感じている様子はなかった。
「僕はいつだってそうしてきたよ。勿論趣味にだって命を賭けてきた」
「何それ」
…そういえば凛には話してなかったかな。
いや、恐らくこの世界の人間には誰にも話してない。
「僕さ、沖縄出身なんだよ」
「「「えっ!?」」」
あはは。
いつも通りの反応だ。
確かに、この見た目だとそうくるよな。
「…で、あんまり外には出なかったんだけどさ、泳ぐのは得意だったんだよ」
「へ、へぇ…」
「で、溺れちゃってさ」
「得意じゃないじゃないですか」
「あはは。7歳の時だから。それがトラウマになっててさ…でも克服したんだよ」
いつの間にかレッスンの時間を大幅に割いているけれど、まあいいか。
「その時はバンドやってて、合宿中にバンドメンバーと一緒に毎日遠泳してたんだけど…」
「…まさか、その時も?」
「うん」
「ど、どんな感じだったんですか?」
「…波が来てさ、海水飲んじゃって、体がどんどん重くなってくのを感じた」
3人が食い気味に僕の話を聞く。
そりゃ、こんな話なかなか無いだろうからね。
「死ぬって、こういうことなんだな。…そう思ったよ。そこで、僕は皆に謝ったんだ」
「謝るって…死んじゃいそうだったのに?」
あの時の事を目を瞑って思い出す。
薄暗くなっていく海上の光。
上がらなくなっていく腕。
思考を停止していく脳。
だけど不思議と恐怖は無かった。
そんな事より、謝らなければならなかったんだ。
「バンドメンバーやファン。家族や友達…皆に謝ったんだよ。こんな所でゴメンなって…」
「…ど、どうやって助かったんですか?」
「…」
もう、力が湧かない。
湧かそうとも思わない。
…仕方ないさ。
それが運命ってやつだ。
これが運命なら…僕は受け入れる。
…。
皆。
…さようなら。
…。
「…」
…。
……。
…いつエッチしたっけ?
「「「…は?」」」
そしたらいきなりだよ。
肩から、腕から、脚から。
力が湧いてきた。
思考もフル活動し始めたんだ。
僕は渾身の力で上に向かって泳ぎだした。
「…だから助かったんだ」
「「「…」」」
「僕ね、思うんだよ。…あの時もしもエッチしてたら、死んでたって…」
…でも、エッチしてなかったから、今の僕があって。
「死ぬならしてからだろ…そう思ったんだ」
「エッチエッチうるさいよ変態!」
凛の蔑むような視線。
何がおかしかったのだろうか。
「女の子の前で言うことじゃないでしょ!」
「違うんだよ。悔いのない人生を送っていると胸を張った時にエッチしろってことだよ」
「エ…ば、バカ!!」
「り、凛〜…」
「…凛、もしかしてGACKTさんって…そういう人なのか?」
「まあ…変態ってのはいつも通りなんだけど」
「…まあ、冗談はそれくらいにしといてさ…凛」
「冗談が長いよ」
「…確執を残したまま終わらせるなってことかな」
「…あ…」
自分が後悔ばかりの人生を送ってきたから言えることだ。
何で自分達だけ、なんて思わないでくれ。
お前達は、僕と同じ目に遭っちゃいけない。
確執を残すんじゃない。
やるならぶつかっていけ。
本気で、本音でぶつかりあうんだ。
心と心の交流。
セックスってのは、そういうもんでもある、と僕は思ってる。
「…」
…ま、今の凛なら。
…大丈夫、だな。
「…」
だけど、この日の夕方だろうかな。
三人の女の子が大声で何かを語り合ってるって、警備員がすっ飛んでいったそうだけれど。
…え?僕は行ったのかって?
「…」
…みなまで言うなって。あはは。
第八話 終
批判してくれる人もアドバイスくれる人も応援してくれる人もありがとうございます
何とか終わらせるので色々見逃して下さい
乙です
乙です
幽霊関係の話でなぜか出てこない小梅ちゃん・・・
待ってる
ほしゅ
また来週投下します
前から気になってたんだけど、なんでシンデレラプロジェクトじゃなくてシンデレラガールズプロジェクトなの?
「…」
IBOTB。
IDOL BEST OF THE BEST。
僕が企画した、シンデレラガールズプロジェクトの大舞台。
…当初は、そうだった。
そこに他のプロジェクトやら、常務やらが足を突っ込んできて。
しまいにはかなりの大所帯になっていた。
『真っ白な世界で 貴方に出逢えたから…♪』
「アーニャちゃんカッコいいです!」
「すっかり大人の女って感じだね〜」
「…」
…大所帯は、まあいいや。
「にしてもガクちんもよく引き受けたよねー」
「何が?」
「だってトライアドとアーにゃんの歌まで作ったんでしょ?」
「…」
…作った、か。
それは、語弊があるな。
今まで、僕が彼女らに、本当に僕がこの手を使って書いたと言える曲はさほどない。
ほとんど、どっかの誰かがむりくり僕のポケットにねじこんだものだ。
「…いつだって、僕は歌に対しては公正であるつもりなんだよ」
…間違っては、いないよ。
「…でさ、お前達に聞きたいんだけど…」
「ん?」
「何ですか?」
…何ですか、じゃねえよ。
「参加出来ないってなったのは知ってるよ。けど何で係員になってるわけ?」
島村卯月。
本田未央。
凛の一時的な異動により、IBOTB開催を目標としたLIVEに出演出来なくなった組。
…というか、しなかった組。
「…」
この二人は凛と和解した、らしく。
今は彼女を応援する立場になり、何と裏方を買って出た。
「だって関わりたいじゃん!なんでも良いからさ!」
「私も、裏方頑張ります!」
「出しゃばり過ぎだよ。さっきだって荷物落としそうになってただろ」
「てへへ…見られちゃってたかー…」
…。
確かに、その気持ちは大事だ。
何かの形であれ、助けに来ることは良い事だ。
けれど、こいつらのは違う。
違うと言い切れる。
「…」
この二人は、まだ凛の選んだ方を認めていない。
そう考えてないとしても、本能ではそうなっている。
「とにかく色んなことでサポートするから!」
「どっかのピンク髪みたいになってきたよな、お前」
「えー?」
こいつは確かあいつに憧れてるんだっけか?
出しゃばるのまで憧れてなくていいと思うんだけど。
「行く先行く先にストーカーしてくるんだもんなあ」
「誰がストーカーだって?」
「お前」
「そこ普通は言い切らないからね…?」
城ヶ崎美嘉。
シンデレラガールズプロジェクトを妹分のように扱う先輩アイドル。
「僕」がプロデュースしていた初期アイドル。
ほぼ必ず僕達の仕事先に出向いて文句を垂れる奴だ。
「僕のサインが欲しいなら身体の隅から隅まで描いてやろうか?」
「先輩アイドルとしてアドバイスしてんの!アンタは本当にデリカシー無いんだから!」
「デリ嬢がなんだって?」
「ああもう!いっつも都合の悪いことは聞かないんだから!」
いっつも、か。
…それは、僕じゃないんだけどな。
「…あのさ、今日は…」
「分かってるよ。常務があれもんだからね」
そうだ。
今日、僕は歌う気は無い。
というより、歌ってる暇が無い。
シンデレラガールズだけじゃなく、クローネの面倒も見てやらなくちゃならないからだ。
それは何故か。
簡単な話だ。
「…」
その常務が、高みの見物を決め込んでやがるからだ。
「…」
美嘉とともに舞台袖へアーニャを迎えに行く途中、ふと常務の言葉を思い出した。
『私のプロジェクトには完璧なトレーナーをつけた。体調管理はしっかりやらせている』
そう言って彼女は会場上のVIPルームに閉じこもった。
気遣いなんて、一つも見せずに。
これだから権力好きは嫌いなんだ。
僕らがやってるのはオート育成ゲームじゃない。
全てがマニュアルのリアルなんだ。
…いやゲームの世界だけどさ。
「…GACKTさんとは、大違いだね」
「?」
未央も卯月も控え室で他のアイドル達の準備を手伝っており、話し相手がいないのが不満なのか、ふいに美嘉が口を開いた。
「昔からさ、GACKTさんはスタッフとか、日雇いで来てくれてる人達にも握手しに回ってるでしょ?」
「普通だよ」
「何人いると思ってるの?そこまで余裕無いって」
「練習したことをそのまま出すだけ。出せないなら出せるように何倍も練習するだけ」
「簡単に言うなあ…」
プロがあれが無理これが無理言うなら辞めた方がいい。
そう言おうと思ったけど、こいつなら恐らく理解しているだろうと思い、黙っておいた。
ただの軽口にはもう慣れっこだよ。
「次は…凛達だね。トライアドの」
「そうだよ。だから舞台袖で待ってればいいじゃない」
プログラムをパラパラと捲り、自身の出番を確認しながらも妹分であるあいつらのことにも注目している。
「お前も結構余裕ぶっこいてるよな」
「そんなこと無いって…」
…夏のLIVEの打ち上げとは真逆になってるな。
それだけ、先輩肌になったってことだろうな。
…皆それぞれ、自分の道を見つけ始めている。
「…」
自分で考えて、自分で動き始めている。
「…」
僕はどうだ?
思えば僕は、サラリーマンよろしくただ決められたレールを走っているようにも見える。
決められた舞台で、決められたように動き、決められたユニットに曲を提供する。
「…」
…これは、僕のやりたかったことなのか?
こうでもしないと元の世界に帰れない、というのをただの言い訳にしているだけなんじゃないのか?
「…ん」
お前ならどうするんだ?
なあ、教えてくれよ、「僕」。
「GACKT」なら、どうするんだ?
「…さん?」
…もうなんとなくわかってるんだ。
きっと、「GACKT」は、僕の中に…。
「GACKTさん!」
「ん!?」
「ん?じゃないよ!これから凛達のの舞台でしょ?」
「あー…ごめんよ」
「しっかりしてよ…らしくないなあ」
…全く。
なんだって僕なんだ。
「僕」のままで良かったんじゃないのか?
「…GACKTさんやっぱ疲れてんじゃない?今回20人くらい見てたんでしょ?…全然寝てないんじゃないの?」
寝てない。
…そんなのは僕にとっては取るに足らないことだよ。
「大丈夫だよ。さっさと行こう」
「う、うん…」
…最近の自分が、自分でない。
それはここの「僕」のせいでもあるだろうけど。
…衰え、なのかな。
「お疲れ。中々イけてたよ」
「Спасибо!GACKTさん!」
可愛らしい笑顔で駆け寄ってくる。
ロシアの血を引く子だけあって、走り方もとても可愛らしい。
まるで子犬のようだ。
「僕の歌、どうだった?」
「ンー…とっても、…悲しい?」
「…そうだね。悲しい歌だ…けど」
「とっても、前向き…な歌だと、思います」
…そうだよ。
その通りだ。
歌を歌うって事は、そういうことだ。
歌詞を理解して、相手に伝える。
「やっぱりお前は最高にイけてるアイドルだよ」
…とっても、良かった。
溜まったストレスが和らいでいくよ。
「…」
…さて、と。
「次はお前達だよ」
…凛、奈緒、加蓮。
「…」
「…」
「…」
…これが、初舞台か。
「奈緒。加蓮」
「は、はい…」
「…」
「お前達のデビューはな、はっきり言って異常だよ」
「「…」」
「ニュージェネレーションズとは訳が違う。大勢の前で、誰かの舞台で踊るだけじゃなくて、自分達の力だけで会場を温っためるんだ」
「「…」」
「お前達には覚悟は出来てるのか?」
「「…」」
「…」
凛が心配そうに二人を見る。
今まさに、この二人は向かっているんだ。
凄まじく恐ろしい試練に。
この三人のことなど何も知らないファンの皆々の前で歌うという試練に。
「覚悟が出来てないなら、今からでも遅くない。止めたほうがいい」
酷だと思う。
けれど、やらなくちゃならない。
分かってた事だ。
「でも覚悟が出来てるなら、必ず成功する」
それだけの努力は積んできた。
「努力は裏切ったりしない。才能だって認められてる」
「「…」」
「「それ」は必ずお前達に味方する」
…必ず。
「「…」」
「…イって恋!!」
「「はいっ!!」」
「ねえ、GACKTさん」
「ん?」
「私さ、成長した?」
「少しだけ、かな」
「…あのさ、その…」
「?」
「…何だか、この感じ、凄く久しぶり」
久しぶり、か。
そうだな。
もうだいぶ前になるもんな。
「…ううん。違う。もっと、もっと前」
「もっと前?」
「…分からないけど、何だか初めてじゃない」
「…どっか打った?」
「違うよ…その、ね。…ねえ、もし私達のLIVEが成功したら、一つだけ願い事…聞いてくれる?」
「…」
「…ご、ごめん。変に気持ちが昂ぶっちゃって」
「…いいよ」
「!」
「願い事。一つだけ聞いてやるよ。その代わり最高のLIVEにして恋」
「…」
「頼んだよ」
「…」
「…」
「………そうだね。『まだ』お願い事聞いてもらってないから」
「ん?」
「じゃ、行ってくるね」
「…」
…。
何だろ。
今、ほんの少しだけ…あいつの様子がおかしかったような…。
「GACKTさん!始まるよ!」
「ん…」
ずっとついてきていた美嘉に背中を叩かれ我に返る。
そうだな。
今は、目の前の事に集中しなきゃな。
「「「………」」」
『努力はいつもお前達と共にある』
『結果はちゃんとついてくる』
「「「………」」」
『誰がお前達を鍛えたと思ってるんだ』
『だから大丈夫さ』
『お前達は、これからもイけるさ』
『永遠にな』
「「「…ッッ!!!」」」
https://youtu.be/3aBChrgoXgQ
「あー…緊張したあ…」
「緊張しない方法があるよ」
「え?何ですか?」
「眉毛をヌきまくる」
「それアタシ限定ですよね!?ってか抜きませんから!!」
「良いじゃないか。麻呂みたいにしようよ」
「や、やめてぇぇぇ」
あっはっは。
何だか奈緒はからかいがいがある。
間違いなく、この子はドMだな。
「加蓮も凛も良かったよ」
「ありがとうございます!」
「…」
「そういえば、凛は僕に何をして欲しいんだ?」
「ん…後で話す」
「気ーにーなーるー」
「後でだってば!もう…」
それは何だ。そうメンバー2人にいじられながら控え室へ引っ込んでいった。
美嘉も自分の番の為の準備をするそうだ。
「…」
しかし、ここのスタッフはよくやってくれている。
疲れなど一切見せず、とにかくあくせく動き回る。
かえって邪魔になってないか心配になるほどだ。
「…」
ふと、舞台袖にある最終チェック用の姿見鏡を見る。
…冷静になって、再び思い返す。
時たま出る、僕ではない「僕」。
それは僕であって、僕ではない。
「…遊戯王かよ」
…なんてな。
僕は僕だけだよ。
それは変わらない。変えるつもりもない。
「どうしたんですか?」
「…」
「さっきから鏡ばっかり見ちゃってますよ」
いつものようにクスクスと、可愛らしい笑顔。
ちひろはいつもこういう感じだ。
「いやあ、美しいなあって」
「えー…」
「冗談だよ」
「ふふ。…でも、GACKTさんは本当に変わりましたね」
「何が?」
「今までのGACKTさんは、もう少し………」
「?」
「…………あれ?」
「ん?」
「………あ、ちょ、ちょっとごめんなさい!」
…行っちゃった。
現れては消え現れては消えって、忙しい奴だなあ。
「…」
…あれ?
「…」
私の知ってる、GACKT…さん。
「…」
どんな人、だったっけ?
「…」
あれ…?
「…」
『おはよう、ちひろ』
『お土産?ほーら』
『その着物、似合ってるよ』
…。
「…」
…あれ…?
『GACKTさんですね!私、千川ちひろです!』
「…」
…これは、何…?
「あれ…?私は、346の…」
…違う。
違う。
「…」
私は…。
「…」
…どうして、忘れてたの?
ちひろがどこかに消えて少し時間が経つ。
…どこに行ったんだか。
『『『〜!!!!!』』』
…。
会場のボルテージがさらに高まっているのが目に見えずとも理解出来る。
先輩アイドルということもあり、美嘉も今までにない程力を入れているようだ。
…まだまだ、甘っちょろいな。
だけど、随分順調な事だ。
…。
「…そりゃあ、プロデューサーが一流だからね」
「ガクちん!!」
「何ー?」
「何ー?じゃないよ!!文香さんが…文香さんが!!」
…おいおい。
これは完全にデジャブだろ…。
第九話 終
乙です
誰だドルべの自演か
マフラー社長剛三郎様とペガサス様パラ何とかウラギリ者に命令最悪だな
はよグローモス&NEX&ティスと9枚夢の三枚積み
奇跡のエクストラエクゾィア勝利
もう14枚EX持ってる奴勝利で好いよゲキリュ層はちゃんは最初の公式クリタ―ちゃん以下で追放ね
はよアノアレだ闇の十代さん気にせず岩石のアノ深座得るのポッドの彼奴でも無い
アノペンデュラム最初の起源ウォッチちゃん~クリッター出してダーボ・ポットだっけ忘れるな原初ペンデュラム
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