【ゆるゆり】櫻子「……花子、おんぶしてやろっか!」 (21)

花子「なんで櫻子の方が乗り気なんだし」

櫻子「まあいいじゃんいいじゃん! 私が楽しんでた方が花子も楽しいでしょ?」

花子「……時と場合によるし」

とは言いつつも、持ち前の明るさを振りまきながら、電車を待つ櫻子の姿を見るのは嫌じゃなかった。

櫻子「ねーちゃんも来れば良かったのになー」

花子「しょうがないし、外せない用事だってあるし」

櫻子「物わかりが良すぎる子供は気味悪がられるぞ!」

花子「……」

櫻子「あ、あれ? 花子? ごめん! 冗談だって!」

花子「? 時計確認しただけだし」

櫻子「ま、まぎらわしー」

そろそろ電車が到着するころかなと思い、時刻を確認した。
物わかりが良すぎるとは言われたものの、撫子お姉ちゃんがいないのが寂しいのは確かで、
外せないバイトがあるというのは仕方がないと思いつつも、やっぱり割り切れない部分もあった。
……だから、その分の寂しさを、櫻子の騒々しさに埋めてもらっているぶんはあるのかもしれない。

電車が到着し、人々の群れがホームになだれ込んでくる。
ひと段落して、乗車の機会を得ると、自然な動作で櫻子が手を握って来た。
はぐれないように、押し流されないように、という意図なんだろうけど、妙に気がきくなぁと思った。

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櫻子「席空いてないかなー、あっ」

ポツリと、一つ空いた席を見つけた櫻子は、そそくさとそれを確保して、席についた。

櫻子「ほら、花子」

花子「えっ?」

気の抜けた返事を返すと、櫻子は頭に疑問符を浮かべて、首をかしげた。

櫻子「いや、ここに座ればいいじゃん」

櫻子は軽く膝の上を叩いた。

花子「い、いや! 恥ずかしいし!」

櫻子「まあまあそう言わず。ほらーお姉様の膝が空いてるぞ!」

花子「立ってる方がマシだし!」

櫻子「……素直じゃないやつめ」

そういうとこれ以上催促することもなく、櫻子は子供のように唇を尖らせた。
……素直とか、そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ。
ああ、周りの目のおかげで体温が上がっていく。


櫻子「それで、どういう風に進めばいいんだっけ」

辺りをキョロキョロと見渡す櫻子の手を引いて、足を進めていく。

花子「ちょっと今見てるし」

スマートフォンの液晶を眺めながら、目的地へのルートを模索する。

櫻子「ところでさ」

花子「なんだし」

櫻子「手繋ぐ意味あるの?」

花子「繋いでないと櫻子はどこに行くものかわかったもんじゃないし」

櫻子「……どういう目で見られてるんだ私は。あっ!」

花子「うわっ!?」

突然に手を引かれ、端末を落としてしまう。

花子「なにするんだし!」

櫻子「え、あ、いや、ちょっとUFOが……」

花子「なんの注意を逸らしたいんだし……もう」

地面から拾い上げて、液晶に異常がないのかを確認する。
異常がないのが分かると、再び足を進め始めた。

駅の近くということもあって、そこまで苦もなくそこに到着した。

櫻子「なんかこじんまりしてるところだね」

花子「テーマパークという趣ではないし」

誕生日プレゼント代わりと、撫子お姉ちゃんに渡されたチケットを使おうと、
やって来たその遊園地は、小規模とまでは言わないものの、華やかさがあるとも言えずに、なんとも形容しにくい場所だった。

櫻子「まあいいじゃん! 楽しめればなんでもいいよ!」

花子「あっ、ちょっと待つし!」

先ほどとは逆に、櫻子に手を引かれる形になり、吸い寄せられるように入場口へ進んでいく。
チケットを渡して、手続きを終え、入園してみると、外から見るのとは違って。
意外と夢のあるような、行楽地に見えるから不思議なものだった。

櫻子「えーっと、どこから回ろうか」

花子「花子、コーヒーカップに乗りたいし!」

櫻子「えぇ、あんなん子供っぽいじゃん!」

花子「花子は子供だし……それに大人でも乗ってるし」

櫻子「うーんと、あれはデートとかじゃないの」

花子「じゃあデートでいいから乗るし」

櫻子「……」

花子「なに照れてるんだし」

櫻子「照れてねーし! ……もう、分かったよ」


櫻子「えっと、これを回せばいいんだっけ」

花子「花子に聞くなし……櫻子の方が熟練者のはずだし」

櫻子「熟練者……」

なんの琴線に引っ掛かったのか、櫻子は表情を引き締め、目を光らせた。
……いつもそんな風にしていればいいのになぁと思うのも束の間で、櫻子は大声を上げ、カップを回し始めた。

櫻子「おおおおおおおおおおおお!」

花子「す、すごいし!」

あっという間に景色が置き去りにされ、視点が安定しなくなる。

櫻子「おっ! なにこれきもちいい!」

花子「きもちいいし!」

正常な思考回路など捨て、一心不乱で二人で回り続けると、別の世界に突入した気がした。
現在地すら定かには思い出せなくて、さながら宇宙をさまよっている錯覚すら覚えたけど、
しばらくすると平衡感覚に限界がきて、回転を緩めると、カップの速度は落ちているのに、
頭の中は目まぐるしく回り続けたままで、時間が切れるところまで至っても、下りるのに苦労を強いられた。

なんとか人にぶつからないようにしながら、二人でベンチに行きつくと、やっと落ち着きを取り戻せて、安堵の息を吐いた。

櫻子「……ねぇ花子」

花子「……なに」

櫻子「……あれって子供の乗り物なの?」

花子「……櫻子が言ったんだし。そもそも櫻子がやりすぎなんだし」

櫻子「……花子も喜んでたくせに」

花子「一時の快楽に身を任せると身を滅ぼすのが良く分かったし」

櫻子「かわいげのないやつめ」

花子「……なんか飲み物欲しいし」

櫻子「あっ! じゃあ私が買って来る!」

花子「やけに気がきくし……」

櫻子「えへへーまあね。そこ動くなよ!」

櫻子の行動に、不思議さを感じつつも、素直に嬉しい気持ちが強くて、
櫻子の後ろ姿が、今日はなんだか一段と輝いているように見えた。

手持ち無沙汰になり、携帯の液晶に触った。
着信履歴を見て、頬を緩める。今朝に更新されたそれは、こころと未来のもので、
今日は会えないからと、電話でおめでとうの言葉を伝えに来てくれた。ひま姉も楓も、今朝、家を出る前に祝ってくれて、
ポストの中には、みさきちの手紙まで入っていて、今日は目覚めから良いことが起こりすぎて、反動が怖くなるぐらいだった。

花子「……あれ? どうしたのかな」

携帯をしまい、視界を上げてみると、風船を持った、自分より幼い女の子が、キョロキョロと目線を動かしていた。
少し離れたところにいる、着ぐるみのマスコットは、いかにもそれを気にしているようで、仕草に安定が無い。

花子「……どうしたんだし?」

出来るだけ、優しい声になるように気を付けながら、その子に声を掛けた。
一瞬、ピクリと身体を強張らせたけど、こちらに敵意がないのが伝わったのか、少し警戒を解いてくれたようだった。

事情を聞いてみると、お母さんとはぐれてしまったとか、いつの間にか知らない場所に、とか、
良く聞くような言葉が発せられたけど、その子にとっては一大事で、簡単に片づけられる問題じゃないのは確かだった。
いつの間にか、付近にまで来たマスコットも、表情なんて分からないのに神妙そうに聞いているように見えた。
……あっ、そうだ。

花子「あの、この子を迷子センターまで連れて行ってくれませんかし?」

シンプルな解決法だった。ここのスタッフの人だろうし、このマスコットなら大丈夫な気がする。
それに、なんだか、一挙一動に親近感を覚えるというか、適当な勘だけど良い人そうだと思うし。
マスコットは頷いて、女の子を引き連れようと動き始めた。その時だった。

「えっ! やだ! こわい!」

そんな鋭い声が、こんな小さな女の子から発せられるとは思えなくて、ひるんでしまった。
同様に、マスコットもひるんだのか、その場で固まってしまった。
……そんなに怖いかなぁ。そもそも風船貰ってるのに。

「……お姉ちゃんがいい」

花子「花子が?」

……良く分からないけど、それで満足ならいいか。

花子「あの、案内してもらっていいですかし」

マスコットは頷くと、先導するように歩き始めた。
しばらく歩き続けると、大きな声が背後からして、またしてもひるんでしまった。
振り向くと、どこかその女の子の面影がある大人の人がいて、その人に向かって女の子はすっ飛んで行った。
お母さん! と大きな声を発すると、女の子は女の人の胸に顔を埋めて、安堵の様子を見せた。
その光景がなんだか胸を揺さぶって、単純に良かったなぁ……と思った。

事情を説明すると、女の人は花子とマスコットに何度も頭を下げると、背を向けて、女の子と手を繋いだ。
その時だった。女の子の目から、涙がこぼれたのは。最初はすーっと一滴だけだった涙は、瞬く間に勢いを増して、洪水と化すのには時間は掛からなかった。
どうして急に……と思ったけど、その考えは、ポケットで振動する携帯に遮られた。

花子「……もしもし」

櫻子「どこいんだよ! もう飲み物買っちゃったんだけど!」

花子「あっ」


櫻子「子供はすぐどっか行っちゃうから困る」

花子「あれは、そうじゃなくて……いや、ごめんなさい」

櫻子に言われたくないと返す言葉もなく、素直に謝った。
事情を話すのは簡単だけど、そもそも最初に電話しておけば良かったし、それは花子の落ち度だった。

櫻子「……んーまあいいけどさ、ほら」

花子「?」

櫻子は、袋を持つのとは逆の手を差し出した。

櫻子「繋いでないと花子はどこに行くのか分かったもんじゃない」

これ以上ないぐらいのしたり顔で、櫻子は言い放った。
なぜか別に腹は立たなくて、吸い寄せられるようにその手を取った。

花子「……」

櫻子「……へ? は、花子!」

花子「……なに変顔してるんだし」

櫻子「あ、あれ? 泣かないの?」

花子「なんでだし……」

櫻子「いや、勘というか、昔の癖というか」

花子「なんだしそれ」

クスっと笑うと、櫻子も釣られたように笑った。
……そっか、だからあの子は泣きだしたんだ。

櫻子「……とりあえずこれ飲む?」

花子「ありがとうだし。……ん!?」

櫻子「あー! 引っ掛かった!」

花子「なんだしこれ!」

櫻子「えーっとなんだっけ。ドMドリンクだっけ?」

花子「な、なんでそんなもん飲ませるんだし……」

櫻子「ほら、その泣きそうだったからそれも吹き飛ぶかなーって」

花子「……それ買ったのいつだし」

櫻子「……あっ」

その後は適当にアトラクションを回って、笑ったり、驚いたり、叫んだりして、結構充実した時間を過ごした。
始めは閑静に見えたこの場所も、時間が経つにつれ色づくように思え、たまにさっきのマスコットの姿が見えると、なんだか微笑ましい気分になった。
閉園時間が近づき、最後になにに乗ろうかと考えると、あの巨大な円が嫌でも視界に入って来た。

花子「櫻子」

櫻子「ん?」

花子「最後に観覧車乗りたいし」

櫻子「……そんなデートみたいな」

花子「デートじゃなかったのかし」

櫻子「あっ、そっか」

すんなりと納得すると、櫻子は花子の手を引いて、観覧車の方へ向かった。


櫻子「おー! やっぱり景色いいね」

花子「うん」

向かい側の席に座った櫻子は、窓に顔をくっつけるようにして、さっきまでいた場所を見下ろして、素直に感動している。
花子はといえば、確かにいいなぁとは思うものの、櫻子ほど心を動かされなくて、なんだか冷めた自分が嫌だった。

櫻子「……ほら、花子」

花子「……えっ?」

数時間前に、全くおなじやり取りをした気がする。
合致する記憶を引っ張り出す頃には、顔が熱くなっていた。

櫻子「あれ? 今はいいんじゃないの?」

花子「……そもそも花子も座席についてるし」

櫻子「あっ、そっか」

花子「櫻子は抜けてるし」

だけどそんな姉が嫌いではなくて、花子は頬を緩めた。
熱くなった顔はどこかへ行ってしまって、素直に櫻子の膝元に乗った。

櫻子の膝上数センチから、景色を見下ろすと、さっきまでとはまるで違った。
ミニチュアの遊具のようなアトラクションは、後光が差しているようで、
行きかう人々一人一人には、魂が宿っているのを実感して、当たり前だけど、そこには今日の全てがあった。
櫻子のように、窓に顔を寄せ、食い入るように、それを眺めていた。

花子「すごいし!」

櫻子「でしょー、ねーちゃんもいれば良かったのにね」

花子「ほんとだし!」

櫻子がどれぐらい感動していたのかは分からないけど、花子はこの景色をずっと忘れないと思った。
櫻子の、膝上数センチから見える世界は、全てが違っていて、全てが綺麗だった。

櫻子「……しっかし相変わらず花子ちっちゃいなー」

花子「そこは普通大きくなったなとか言うもんだし」

櫻子「でも小さいのは小さいしなぁ」

花子「どうせすぐに大きくなるし」

櫻子「誕生日だしねー、あっ! じゃあ大きくなったら返せよ!」

花子「……? なにをだし」

櫻子「今みたいに甘えさせたぶん」

花子「……花子が大きくなったということは櫻子は」

甘えるとかそういう年齢じゃない気がする……。

櫻子「えっ? 独り立ち?」

花子「さぁ、どうかだし」

櫻子「まあ返してもらうまでは一緒にいるから」



最寄り駅に下り、自宅までの帰路を行っていると、疲労感が浮き出てきた。
それなりにはしゃぎまわってしまったし、しょうがないことではあるけど、なかなかしんどかった。
まあもう少しだけと思えば、そこまで苦でもないから、なんとか頑張ろうと決意した時だった。

櫻子「……花子」

花子「なに?」

櫻子「おんぶしてやろっか!」

花子「……えっ?」

突然の宣言に、櫻子の手から自分の手がするっと抜けて、宙をまった。

花子「いや、でも……」

櫻子「ほら、今の内に貸し付けておこうと思って」

花子「なにを」

櫻子「ほら、えっと、いつか返してもらうあれ」

花子「……それは勤勉でなによりだし」

櫻子「でしょー!」

花子「はぁ……」

櫻子なりに気を遣ってくれているのは、痛い程分かったし、素直に従うことにした。
言われるがままに、櫻子の背に乗って、身体を委ねた。
……なんか懐かしいなぁ。

感慨に浸りながら、櫻子の足音を聞き続けた。
言葉を発することも無かったけど、なにも言わずとも、櫻子の体温が答えてくれる気がした。

櫻子「……そういえばさ」

そう櫻子が口を開いたのは、随分時間が経った後だと思う。

花子「なんだし」

櫻子「花子、重くなったね」

花子「……」

櫻子「なに笑ってんだよ!」

身を震わせる花子に気が付いたようで、櫻子は困惑交じりに声を出した。

花子「なんで今それを言うんだし」

櫻子「えーじゃあいつ言えばいいんだよ」

花子「観覧車の時にでも言えば良かったし」

櫻子「あーおっきくなったねーとかそういうのか」

花子「櫻子にはデリカシーが無いし」

櫻子「……ひどいいわれよう」

花子「……櫻子」

櫻子「んー?」

花子「……ありがと」

そう言い終わると、途端に瞼が重くなった。
溜まった疲れが襲い掛かってきたのか、それとも櫻子の背中に安心しきってしまっているのか。
なんにせよ、もう視界は狭まっていて、見えるのは櫻子の頬ぐらいだった。
なんとなく、そこに口を近づけたところで、意識が途切れた。




櫻子「それでさ! 私にどこ行くか分かったもんじゃないって言った癖に自分がどっか行くんだよ!」

撫子「あまり花子を責めちゃ駄目だよ」

花子「櫻子には非はないけどこっちにも事情があるんだし」

櫻子「ちぇー、ねーちゃんは花子に甘い!」

撫子「……そうかな」

花子「お姉ちゃん」

撫子「ん?」

花子「バイト大変だった?」

撫子「うん、結構大変だったよ」

花子「着ぐるみって暑苦しくないの?」

撫子「かなり暑苦しいかな……」

花子「ごちそうさまでした。花子お風呂入って来るし」

櫻子「おー! いってらっしゃい!」

撫子「……あれ?」


花子「上がったしー」

撫子「次、櫻子入ってきたら」

櫻子「あーうん、入ってくるね」

櫻子が去った後、撫子お姉ちゃんは、重そうに口を開いた。

撫子「……なんで分かったの?」

花子「そもそもわざわざチケット取る必要ないし、あれぐらいの規模だったら」

撫子「まあ、そうだね」

花子「あとやたらとこっちを見てた。最初は女の子が気になってたんじゃなくてこっちが気になってたのかなって」

撫子「……副産物だよね、あれは」

花子「あの後もやたら遭遇する機会が多かったし」

撫子「まあ、そりゃばれそうだけどね。普通櫻子の方が気づくべきじゃ。……ごめんね」

花子「謝る必要なんてないし、それに守ってくれてるみたいで嬉しかったし。ご苦労様でした」

撫子「……ほんと良く出来た子だよ、花子は」

撫子お姉ちゃんは、壊れものを扱うように、優しく花子の頭を撫でた。

花子「……くすぐったいし」

撫子「でもね、櫻子だって同じだよ」

花子「えっ?」

撫子「誕生日の前からさ、花子がどうすれば喜ぶかって、どうすれば楽しんでくれるかって、道中のエスコートまで聞いてきてさ」

花子「……それって」

突飛に浮かぶのは、UFOだった。
……駅の混雑とか、おんぶでもいいのに。

櫻子「……いい湯だったー! ん? どうしたの? 二人して」

撫子「……じゃあ、私も入って来るね。今更だけど、誕生日おめでとう、花子」

花子「……うん、ありがとう。お姉ちゃん」

櫻子「?」

櫻子は、横を通り過ぎていく撫子お姉ちゃんを、不思議そうに見届けると、こちらに視線を戻した。

櫻子「……いやほんとどうしたの? なんかむず痒いんだけど」

ソファに腰を下ろすと、櫻子は怪訝そうに、照れくさそうに頬をかいた。

櫻子「あっ! もしかして美人の櫻子様に見惚れているのか!」

花子「今日だけはそれでいいし」

自分でも驚くほど棘がない声が出て、少し笑ってしまった。

櫻子「ちょ、ちょっとどうしたの花子!? 頭打った?」

花子「打ってないし」

櫻子の動揺にも全く釣られず、立ち上がり、櫻子の方へ向かった。
躊躇を一切覚えずに、櫻子の頭を抱いた。
こんな体勢でしか出来ないけど、逆に言えばこんな体勢なら出来るものだった。

櫻子「……大きくなっても無いのに、返しにきたの」

花子「櫻子」

櫻子「ん?」

花子「花子、今日のこと、忘れないし。絶対」

櫻子「……なんか全部返してもらった気分」

花子「じゃあ、独り立ちでもするのかし?」

櫻子「なんで? 一緒にいるじゃん」

花子「いや、でもあの時」

櫻子「あーもう細かいなぁ!」

半ば強引に花子の身体を引き離すと、なにやら顔を真っ赤にした櫻子が見えた。

櫻子「そんなん関係ないの! なにがなんだろうが一緒にいるの!」

子供のように喚く櫻子を見て、子供そのものの花子の頬に、涙が伝った。

櫻子「は、花子!? えっと、えっと……!」

花子「……変顔も飲み物もいらない、櫻子がいてくれればいい」

上手く笑えているのかは分からなかったけど、精一杯の笑みを浮かべた。

櫻子「……ねえ、花子」

花子「なに?」

櫻子「私も今日のこと、忘れないと思う」

いつになく真剣な櫻子な声でまた涙の勢いが増した後、聞こえてきたのは、誕生日おめでとうというメッセージだった。


おわり
百合要素薄いけど、さくはなだと思います
花子様お誕生日おめでとうございます

さくはな最高だし!

乙だし!!

乙だし!

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