勇者「もうモンスター倒したくない」 (48)

戦士「なに言ってんだ。レベルもあげなきゃ旅続けらんねーし、金だって必要だろ」

勇者「それだよ、そのお金。もう君たち疑問も抱かなくなったよね?」

僧侶「ああ、例のアレですか?なんでお金が手にはいるんだーとか。
レベルってそもそもなんだよ、とか。勇者たちが1度は悩むって言う」

勇者「いや、それはそれで大きな疑問だけどね。
そうじゃなくてさ、魔物倒すだろ?
お金が手に入るだろ?空からコインが降ってくるだろ?」

魔法使い「あ、うん」

勇者「全部さ、俺の頭の上に落ちてくんじゃん。当たり前のように。
最初は俺のこと心配してくれたじゃない、君たち」

僧侶「それは、その……」

勇者「それにさ、眠りの魔法?あれ必ず俺だけかかるじゃない。
マヒの吐息?必ず俺は動けなくなるじゃない」

戦士「突然お前だけ落とし穴に落ちたりな」

勇者「そう!やっぱりわかってんじゃん!
絶対おかしいよね、俺勇者なのに。
移動中だって、俺だけ蚊にくわれまくったり!」

魔法使い「そんなこと気にしてもしょうがないじゃん。
命に関わるような悪いことは起きてないんだからさ」

勇者「でもさぁ、だってさぁ」

僧侶「大丈夫ですよ!怪我しても私が治しますから!」

勇者「そうは言ってもね……。あ、イテッ、イテテテ!!」

戦士「今度はなんだよ」

勇者「足つった……もうイヤ……」

魔法使い「元気出しなって。飴ちゃんあげるから」

勇者「くそー!ボンタンアメおいしい……」グスッ

戦士「それ食ったらさっさと行くぞ。お前のせいで全然進めてねぇんだから」

勇者「なんか君もどんどんドライになっていくよね。
ルティーの街あたりまではもうちょい優しくなかった?」

戦士「……お前がバカみたいに騒ぎ続けるから、俺も僧侶もウンザリしてんだよ。
付き合ってやってる魔法使いが可哀想だわ」

勇者「えっ」

僧侶「ち、違いますよ!ウンザリなんてしてません!」

魔法使い「私はウンザリしてるけどね」

僧侶「お姉ちゃん!」

勇者「……そうか、みんな僕のことをそんなふうに思ってたんですね。
いいですよ、もう騒ぎません」

魔法使い「あーあ、すねちゃった」

戦士「静かになっていいだろ。行くぞ」

僧侶「げ、元気出してください!納豆あげますから」

勇者「気持ちは嬉しいんだけどね、だけどもなんで君はいつも納豆なの……」

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ー10分後ー


勇者「うわぁ!とってとって!」ジタバタ

魔法使い「はい、ほらとったから」

勇者「ありがとう……でも、もういやっ!」

戦士「アリなんてどこにだっているだろ。いちいち騒ぎやがって……」

勇者「俺に悪意のあるアリは嫌なんだよ!」

僧侶「……」

勇者「なに笑ってるのかな?アリは本当に怖いんだよ?
噛まれたら次の日までチョー痛いんだから!」

魔法使い「はいはい。あ」


ザザッ


魔物「キー」

戦士「おい、なんか蛾みたいのが出てきたぞ」

僧侶「あ、じゃあやっと次のフィールドに来たってことですね」

魔法使い「もうすぐこの森も終わるのか。ほら、あとちょっとで街よ」

勇者「ホント?なら頑張っちゃうもんねー俺。
賽の目切り!」

魔物「ピー……」ドサッ



ヒュー… ゴンッ!


勇者「イデッ!」

戦士「うわー。毎度のことどうやってんだよ、それ」

勇者「好きでやってると思う!?どんどん先に進むにつれて、コインの袋も重くなってんだぞ!」

戦士「ちがうよ。俺が言ってんのは技の方だ」

勇者「……どうやってるって言われても、身に付いたものだから」

魔法使い「斬りつけすぎよね。ちょっと直視できないわ」

勇者「じゃあ、火炎斬りとかやればいいの?」

魔法使い「アンタ二つのこといっぺんに出来ないタイプでしょ。
火なんか出さなくていいから、普通に斬りかかりなさいよ」

僧侶「で、でも勇者さん強いじゃない。別にいいんじゃないかな……」

戦士「俺はこの議論自体がどうでもいい。早く行くぞ」

勇者「いいよ、戦士くんみたいに技にこだわりがある訳じゃないし。
いちいち技の名前に暗黒ってつけたりしてないし」

戦士「俺のネーミングセンスに文句あんのか」

勇者「逆にないと思ってたの?」

魔法使い「私も文句しかないわ」

僧侶「お姉ちゃん!」

戦士「このカッコよさは、不幸体質なんかには理解できないよ。そっちのゴスロリにもな」

勇者「不幸体質は関係ないだろ!」

魔法使い「いいじゃないゴスロリだって!」

戦士「うるせーな、いちいち騒ぐなよ」

僧侶「け、喧嘩しないで!みんなで納豆食べよ?」

勇者「だからなんで納豆……」

魔法使い「おいしー」モグモグ

戦士「……やっぱり、変なやつしかいねーわ」

魔法使い「やっほー!やっと街だ!」

勇者「まずはビールだな。戦士くんも一緒に飲むでしょ?」

戦士「お前とは二度と飲みにいかないって決めてるんだ」

勇者「まだ言ってるの?俺、君になにしたのか覚えてないんだってば」

戦士「忘れてろよ一生。しばらく別行動な」

魔法使い「私も服見に行きたいから、ちょっと回ってくるわ」

勇者「服じゃなくてもっと有益なもん見てくれよ、頼むから」

魔法使い「それは妹様と勇者様に任せた!じゃね」


スタタタ


勇者「あーあ、置いてかれちゃった。妹ちゃんも見に行きたいとこあったら行っていいんだよ?」

僧侶「い、いえ。私は特にはないので……」

勇者「そう。じゃあ、宿探しながら見て回ろうか」

僧侶「はい!」


スタスタ


僧侶「そういえばその……」

勇者「なに?」

僧侶「……い、いえ、やっぱりなんでも……」

勇者「やめて。俺そういうの気になって夜眠れないタチだから」

僧侶「……あの時、私は笑ってた訳じゃないんです」

勇者「なんのこと?」

僧侶「アリの時……」

勇者「……うーん、まぁ言いたいことは分かった。
お姉様からなんか聞いたな?」

僧侶「少しだけ……」

勇者「妹ちゃんが暗い顔することないだろー。
俺は大丈夫だから」

僧侶「……ごめんなさい」

勇者「いいってことよ。さ、妹ちゃんの服でも見に行くか」

僧侶「へっ?」

勇者「ここだけの話、ゴスロリ着てみたいって思ってるオーラを勇者様は感じ取ってました」

僧侶「い、いえ、そんな!」

勇者「いいから行こーよー。実は勇者様も着てみたいのよ」

僧侶「えっ!?」

勇者「うそうそ。あ、お姉様もいるし、あの店に行こうか」

僧侶「あ、はい!」

魔法使い「なんでアンタが来るわけ?もっと二人っきりでデートしてきなさいよ」

僧侶「で、デート!?」

勇者「だって、ゴスロリ着たいってこの子が暴れるもんだから……」

魔法使い「えっ……その頭のタンコブは……」

僧侶「違うよ!これは植木鉢が上から」

魔法使い「う、植木鉢!?アンタよく死ななかったわね」

勇者「優秀な僧侶がそばにいたからね。なんとかなった」

魔法使い「それはそれは。しっかし、どんどん酷くなるわねー」

勇者「なんかが俺に憑いてるんじゃない?魔法ってお祓い出来ないの?」

魔法使い「アンデッド系に使う攻撃呪文ならあるわよ」

勇者「とどめさすつもり?」

僧侶「勇者さん、今は幽霊は憑いていませんよ。ちゃんと天に帰しましたから」

魔法使い「えっ」

勇者「えっ」

僧侶「あ、いや、なんでもないです!」

勇者「……はは、やっぱり憑いてたのか……」

魔法使い「ツイててよかったね。ボンタンアメ食べる?」

勇者「いらない!」

僧侶「じゃ、じゃあ、納豆は!」

勇者「……だからなんで……」

戦士「あれ?お前ら別行動じゃなかったのか?」

僧侶「あ、戦士さん」

勇者「あー、なにごつい剣買ってんだよ。そんなの絶対使いづらいだろ」

戦士「バカだな。ハンデを背負ってこそ戦士だろ」

魔法使い「そんな話聞いたことないわね。
なんかあったら、ウチの妹に負担がくんのよ。
返してきなさい」

戦士「じゃあこの剣諦めるから、お前もその悪魔みたいな服買うなよ」

魔法使い「ならば使ってよし」

勇者「ホントお前って口だけな」

魔法使い「そんなもんだよ、人生なんて」

勇者「ったく……あ、そういえばお前に話があったんだ。戦士くん達はちょっと待っててくんない?」

戦士「ここで待つのかよ」

僧侶「二人で話って……」

勇者「すぐ戻るからさ!ほら、お前はちょっと来い」

魔法使い「ああもう、なんなのよ。引っ張らないでよ!」


スタスタ

魔法使い「……で、話ってなんなの?」

勇者「お前、妹ちゃんに俺のこと話したな?」

魔法使い「知りたいって言うからね。真剣に答えたわ」

勇者「余計なことすんなよなー、本当に。
妹ちゃん、困ってたぞ」

魔法使い「困ってるのはアンタじゃないの?」

勇者「まぁな……。全く、どこまで話したのか知らないが……」

魔法使い「やばそうな所は言ってないよ。安心した?」

勇者「ふん、できるかよ」

魔法使い「ほーら、飴ちゃん食べて元気出しな。
もう少しで旅も終わるんだから、楽しまなくちゃ」

勇者「はいはい」


パクッ



ーーー


戦士「……戻ってこないな」

僧侶「……」ブツブツ

戦士「ん?勇者とお姉ちゃんがキスしてたらキャー?」

僧侶「言ってません!」

戦士「顔に書いてある」

僧侶「……」

戦士「よくそんなことで悩めるよな。若いっていいわ」

僧侶「……」

戦士「まぁ、思い詰めないで頑張れ。どうせ、もうすぐ死ぬんだし」

僧侶「……勇者さんは助かるんですよね?」

戦士「占いのばーさんはそう言ってたよ。
お前は、勇者の心で生き続けるってポジションは狙えるんじゃないか?」

僧侶「…………戦士さんは怖くないんですか?」

戦士「怖いよ。だから今日も昼間っから酒飲んで、全く酔えずにいるわけ」

僧侶「……」

戦士「そう思い詰めるなって。俺が買ってやるから、なんか服でも選べ」

僧侶「えっ、でも」

戦士「あのスケスケのやつとかいいんじゃないか?
それかヒモみたいなやつとかな」

僧侶「……変態」

戦士「今さら気がついたのか。遅いな」


スタスタ


勇者「おーい、なにセクハラしてんだよ」

僧侶「勇者さんっ!」

魔法使い「テメェ死ぬ覚悟できてんな?地獄の業火呼んでやっからよ」

戦士「いやですー。ちゃんと面倒みててやったんだから、感謝の言葉が先だろ」

魔法使い「なんだとコラ」

僧侶「いいから、喧嘩しないで!納豆食べようよ!」

魔法使い「うめー」モグモグ

勇者「このノリどうしてもついていけない……」

戦士「俺もいらねぇからな」



ーーー


僧侶「あ!流れ星!」

魔法使い「なんかお願いした?」

僧侶「出来なかった……」

勇者「俺はお願いしたぞ。魔法使いのイビキがとまりますようにって」

魔法使い「多分効果はないね」

戦士「ちっ。テメェだけ別の部屋で寝ろよ」

魔法使い「いやよー、私さみしい」

僧侶「安眠の魔法とかあればいいのにね……」

魔法使い「あ、眠りの呪文試してみてもいいかもね。誰かかけて」

戦士「あれは勇者様にしか効かねーだろ」

勇者「なんでちょくちょく嫌味言うの?俺のメンタル豆腐製だって知ってるでしょ」

魔法使い「冷やっこは美味しいからいいんじゃない?」

勇者「ワケわかんないフォローありがと。『ノハネリ』」

魔法使い「ぐー。ぐがー」

戦士「ああ、やっぱりうるせーな。しかも立ったままだし」

勇者「ちょっと、奥さん見て見て。薄目開いてるし大口あけてる。
これ写真に残せたらいいのに」

戦士「俺もお前らの顔見て、いつもそう思うよ」

勇者「なにそれ。突然どうしたの?」

戦士「そろいもそろって間抜け面だからな。一枚ぐらい、残しておいてもいいだろ」

勇者「じゃあ明日出発する前に撮りに行くか。妹ちゃんは今日買ったゴスロリね」

僧侶「えっ!」

戦士「ほら、いい加減起きろよバカ」ペチペチ

魔法使い「ううーん……。あ!突然魔法かけやがったわね!
しかも生意気にも成功率高い方を……」

勇者「お前がかけろって言ったんだろ。いいからもう寝ようぜ」

戦士「あ。そういえば明日、写真撮りに行くことになったからな」

魔法使い「はい?」

勇者「旅の記念にね。おめかししてよ」

魔法使い「じゃあ、あの悪魔の羽も買わないとな……」

戦士「お前は写らなくていいわ」

魔法使い「なんでよ!」

僧侶「もう、ケンカは駄目だってば!」

勇者「納豆タイムが来る前に僕ちゃんは寝ます。おやすみ」

戦士「おやすみ」

魔法使い「あー美味しい」モグモグ

僧侶「二人も食べればいいのになー」



ーーー


勇者「朝だよーあさごはーん。あさあさあさあさ朝ごはーん」

魔法使い「その歌やめなさいよ……自分で買ってくればいいでしょ……」

勇者「そうじゃなくて、みんなで食べに行こうって誘ってんの」

魔法使い「私パス……」

僧侶「ぐー」

勇者「じゃあ、戦士くんだけか。一緒に来てくれるのは」

戦士「なんだよ……行かねーぞ……」

勇者「はっはっは。担いで行っちゃうぞ?」

戦士「好きにしろ……」


ガシッ


勇者「それじゃー戦士くん。なにが食べたい?」

戦士「寝たい……」

勇者「ネタイ?オッケー」


スタスタ

戦士「お前な、本当に担ぐやつがいるかよ」

勇者「俺」

戦士「ふざけんなクソヤロー。それにこの料理はなんだよ」

勇者「ネタイ」

戦士「は?」

勇者「君がそう言うから、ネタイを頼んだらこれが出てきた」

戦士「……すいませーん。この料理ってなんなんですか?」

店員「エリンギと根菜とヨーグルトのゼリーです」

戦士「一文字もあってねーし、お前わざとだな?」

勇者「いや、一文字はあってるよ。コンサイのイが」

戦士「黙れ。なんでこんなもん頼んだ」

勇者「いやぁ、見た目が気持ち悪いから食べてみたくて」

戦士「ヨーグルトをゼリーにする意味も分からねーし、エリンギもいらねーし。
つーかこれ、エリンギも野菜も生じゃねぇか」

勇者「火炎斬りやっちゃう?」

戦士「好きにしろ、って言ったら本当にやるんだろ?ふざけんなよ、クソヤロー」

勇者「でも、ほらこれ。鍋で煮るみたいだから。
ゼリーにも味がついてるみたいだし、もしかしたら美味しいかもよ」

戦士「それならプルプルさせて出すんじゃなくて、鍋として提供しろっつーの。気持ちわりぃ」

勇者「いいから、いいから」



グツグツ


勇者「話をね、聞きたいんだ」

戦士「ん?」

勇者「ルティーの街で、君は占い師と話しただろ。
その内容だよ」

戦士「言っただろ。俺は今年は結婚出来ないんだと」

勇者「嘘はいいから」

戦士「……俺たちは死ぬんだそうだ」

勇者「魔王と戦って?」

戦士「知っての通り、魔王はお前だ。お前と戦う気はねぇよ」

勇者「じゃあ、なんで死ぬんだよ」

戦士「お前を魔王にしないために、俺たちは犠牲になるらしい」

勇者「ふーん……。別に俺、魔王になっていいんだけど」

戦士「ふざけんな。俺たちが嫌なんだよ」

勇者「あっそう。じゃあ、仕方ないね」

戦士「そうだな」


グツグツ


勇者「クソー、まだ煮えないな。荒みじん切り!」スパパ

戦士「おーい、なにすんだよ。エリンギまで切ることねぇだろ」

勇者「もう時間がないからね。サクッといかないと」

戦士「あっそ」

魔法使い「ああー眠い……。なんで朝は眠くて、夜寝付けないのかしら」

僧侶「お姉ちゃん……」

魔法使い「どうしたの?」

僧侶「……勇者さんの手に、アザが浮き出てた」

魔法使い「そう。じゃあ、やっぱり今日なのね」

僧侶「……」

魔法使い「アンタは逃げてってお姉ちゃんとしては言いたいけど。好きなんだもんね、勇者のこと」

僧侶「うん……」

魔法使い「じゃあ、仕方ない。考えてもどーしよーもないっ!」

僧侶「ねぇ……なんで勇者さんが魔王になるの?」

魔法使い「……」

僧侶「どうせ今日で終わりなんだから、本当のこと教えて」

魔法使い「……勇者の国は、でっかいアリの大群に襲われたって言ったでしょ?覚えてるよね」

僧侶「うん……」

魔法使い「そのアリを操ってたのがある国の兵士だったわけ。
つまり戦争の結果、勇者の国は滅んだわけね。
それで、家族がいなくなった勇者は一人ぼっちになった。
食べるものにも困って、勇者はそこら辺にいた魔物を焼いて食べちゃったんだよ」

僧侶「えっ……」

魔法使い「魔物って言っても、玉ねぎみたいなやつよ。
目が痛くなる汁飛ばしてくるやつ。
食べた感じも玉ねぎみたいだったって、アイツは言ってた」

僧侶「そ、そう……」

魔法使い「その時から、手にアザが浮かぶようになって、その度に誰かが死ぬんだって。
周りからは気味悪がられて、せっかく一人じゃなくなっても必ず一人になって。
私と会うまでは、山で魔物を食べてやり過ごしてたらしいわ。
でも、魔物を食べてる内に、なんだか体がおかしくなってきたって言ってた。
手も足も大きくなったり縮んだりして、たまに自分が自分じゃなくなる時があるみたい、だそうよ」

僧侶「そんな……」

魔法使い「そんで今回、私たちが向かうのは勇者の国を滅ぼした国なわけなのよ」

僧侶「えっ!?」

魔法使い「その国では大きなアリが作れちゃうぐらいだから、生体の研究が進んでてね。
あの国のやつらは勇者のアザについてもよく知ってた。
そのアザが浮き出る人ってのは、魔物を体に取り込んだ人らしいのよ。
そして、その人達にあることをすると、魔法の能力がはねあがるんだって」

僧侶「あることって?」

魔法使い「魔物の血から取り出した成分をめーっちゃ濃縮したのを腕に注射すると、魔法の能力が高まるとかそんなん。
あの国はアザを人工的に作り出してきたけど、うまくいかないんだってさ。

だから、勇者を引き渡せってうちらの国は脅されたのよ。
あの国は大金をちらつかせたらしいわ。
そんで、勇者が行くことになって、私と戦士がついていくって喚いたわけね。
そうしたら、アンタまでついてきちゃって」

僧侶「だって、私はよく分からなかったから……。
でも、それなら逃げちゃえばいいんじゃない?
本当にあの国に行くことないんじゃないかな」

魔法使い「うーん、それは無理ね。
今日中にあの国に行かないと、勇者死んじゃうから。
そういう魔法をうちらの国のやつにかけられてる」

僧侶「うそ……」

魔法使い「うちらの国からは、貧困を救う勇者だって、表向きは感謝されてる。
あの国には、外国の脅威から国を守る魔王だって歓迎されてる。
国内じゃお祭り騒ぎで、魔王歓迎セールなんてのもやってるらしいわ。
こんなに誰かが喜んでくれるのは初めてだって、アイツは笑ってたよ」

僧侶「……」

魔法使い「でもねー、私たちはアイツを引き渡したくないんだ。
魔王になんか、アイツはならなくていいんだよ。
だから、今日アイツを守って死ぬんだろうね」

僧侶「……私も、守れるんなら守りたい」

魔法使い「そっか。私はやめて欲しいけど、そう決めたんなら仕方ない。ないない」

僧侶「……」

魔法使い「さーて、悪魔の羽買いにいこっと。アンタもちゃんと昨日の服着なさいよ。
勇者のやつ、結構楽しみにしてるんだから」

僧侶「えっ!!」

魔法使い「あっと、綺麗な青空ね。アイツらなにやってんのかしらー。
ほらー、アンタは支度しなさいって」

僧侶「う、うん!」



ガチャッ


勇者「……」

魔法使い「遅い!なにやって……」

僧侶「ゆ、勇者さん!?」

魔法使い「……どうしたのよ、それ」

戦士「店で会計済ませようと立ってたらな、こいつだけ店員にスープぶっかけられた」

勇者「妹ちゃぁーん、魔法で治して……」

僧侶「は、はい!『ウロン』」


キラキラ


勇者「ああー、助かった……」

魔法使い「全く、イヤになるほどうっとうしいわね。
スープぐらいよけなさいよ」

勇者「俺がよけてたら、戦士くんが大ヤケドだもの」

戦士「あんまり俺をバカにするなよ。俺だってそのくらい……」

勇者「……足元に子供がいたの気づいてなかったでしょ」

戦士「は?」

勇者「俺ねー、すごいことに気がついちゃったっぽい。
でも言わないけど」

魔法使い「なにを言ってんのか、さっばりわかんないわね。
そんなことより、写真撮る時間なくなるわよ」

戦士「その羽本当に買ったんだな……あーあ」

魔法使い「遅いツッコミありがとう。ほら、二人ともシャキッとして!」

僧侶「納豆食べると元気出ますよ!」

勇者「突然の納豆タイム……」

戦士「お前もいちいち食うなよ」

魔法使い「えー、だって美味しいんだもん」モグモグ



スタスタ


魔法使い「撮影終わっちゃったし、この羽は邪魔なだけね」

戦士「そんなもんに無駄金使いやがって。さっさと捨てろ」

魔法使い「捨てないわよ。アンタたちがつけてるとこ見るまでは」

戦士「はぁ?」

魔法使い「アンタなんて暗黒が大好きなんだから、悪魔の羽も好きでしょ」

戦士「あのなぁ、なんで俺が暗黒って言葉っばっかり使うのか、教えてやろうか?」

魔法使い「え、聞きたい」

勇者「俺も俺も」

僧侶「なんでなんですか?」

戦士「……あんこが好きだから」

魔法使い「はぁ?」

勇者「それはないな。ないない」

僧侶「本当はなんでなんですか?」

戦士「嘘ついてねーしあんまり食いついてくんなよアホ共。あんこ美味しいだろ」

魔法使い「バァッカじゃないの?くっだらな!」

勇者「君にはガッカリだよ。激おこぷんぷん丸だ」

僧侶「あんまり責めちゃダメですよ。照れてますから」

戦士「お前の一言の方がダメージでかいわ。照れちゃ悪いかバーカ!」

僧侶「あう……納豆食べてください!」

戦士「いるか!もういい」スタスタ

魔法使い「ちょっと、どこいくのよー」

戦士「トイレだよ。ついてくんなよ」

勇者「あー、俺もトイレいきたくなっちゃったなー。
待ってよ戦士くーん」タタタッ

戦士「ついてくんなって言ってんだろーが!」


タタタッ


魔法使い「あーあ、行っちゃった」

僧侶「……」

魔法使い「あんまり気にしても意味ないわよ。アイツらふざけてるだけだから」

僧侶「うん……」

魔法使い「……はーあ、全く」ポンポン

僧侶「……」

戦士「ったくよー。一人にもさせてくんねーのかよ、お前は」

勇者「いやぁ、博識の戦士さんに、ちょっと聞きたいことがあってね」

戦士「なんだよ」

勇者「あの納豆ってさ……なんなわけ?」

戦士「魔法食だろ。僧侶なら作れるやつ」

勇者「そういう意味じゃなくて……」

戦士「……アイツらのウチは親が仲悪かっただろ」

勇者「ああ……まぁな」

戦士「でも、納豆が夕食で出た日は、親が喧嘩しなかったんだと。
そんなことが三回あったんだ」

勇者「それだけ?」

戦士「それだけ」

勇者「ふぅーん……」

戦士「僧侶はな、ケンカが起きるのはいつも自分のせいだと思ってる。
小競り合いも、馬鹿馬鹿しいおふざけの言い争いも、全部自分のせいだって思い詰めるんだよ。
だから、魔法使いは納豆を食ってやるんだと。
どんな時でもな」

勇者「……じゃ俺も食うか、納豆」

戦士「と、思うだろ?でも、俺には無理だった。
まぁ、せいぜい頑張れ」

勇者「うーっす」


スタスタ

勇者「あ、そういえば」

戦士「なんだよ」

勇者「いや、これはもういらないなーと思ってさ」


ポイッ


戦士「なんだよ。なに投げたんだ?」

勇者「よくぞ聞いてくれました。あれはね、魔物の干し肉。怪しい商人から買ったのよ」

戦士「色々とツッコミたいけど順番に行くわ。魔物の干し肉なんか売ってるわけねーだろ」

勇者「いや、需要がほぼないから見かけないだけで、売ってはいるよ」

戦士「じゃあ、お前の他にも魔物食ったやつがそれなりにいるってことか?」

勇者「多分ね。アザは俺だけの特典だろうけど。
体質にマッチしちゃうと、俺みたいになるんじゃない?」

戦士「ふーん、やっぱり際立って不幸なんだな」

勇者「まぁね。仕方ないけど」

戦士「それで、なんで今さらそんなもん食ってたんだよ」

勇者「俺の不幸体質ってなんなのか、やっぱり気になったわけ。
そんで思いあたったんだよ。魔物食えば食うほど不幸になってってる気がするって」

戦士「お前やっぱりバカなのな。そんなら食うなよ」

勇者「いや、だって試してみなきゃ分かんないだろ。
それにそのおかげでスッゴいことに気がついちゃったし」

戦士「なんだよ」

勇者「言わないよ。あとでカッコよく種明かしするから」

戦士「なんだよそれ。まぁ、好きにしろ」

勇者「えー、そこは食い下がるところじゃないの?聞きたいでしょ?」

戦士「別に」

勇者「ふん、冷たいね」

戦士「じゃあ、聞かせてくれって泣きついてやろうか?」

勇者「気持ち悪いからやめて」

戦士「だろ」


スタスタ



スタスタ


勇者「よっ。待たせたな」

魔法使い「ずいぶんと長いトイレだこと。のぐそ?」

勇者「戦士くんがいつまでもお腹下しててさ。
もう俺はダメだ、置いていけとか騒ぐんだよ」

戦士「ふざけんなよ。それはお前だろ」

勇者「はい?なにを言うやら。げっそりした顔しちゃってさ」

戦士「これは誰かさんのイビキのせいで眠れなかったからだよ」

魔法使い「はぁ?私のせいだって言いたいわけ?
歯軋りオバケがよく言うわよ」

戦士「だれが歯軋りオバケだ」

僧侶「……」

勇者「……納豆はまだかなー」

僧侶「えっ……」

勇者「食べたいなー納豆」

魔法使い「……ほら」

僧侶「え、あの……これ……」スッ

勇者「おお、なんかうまそう。いただきます」モグモグ

魔法使い「私も食べよ。アンタは?」モグモグ

戦士「……まぁ、ちょっとならな」


モグモグ


僧侶「……」

勇者「そういえば、いっつも妹ちゃんは食べてないよね。食べたら?」

僧侶「えっ……はい!」


モグモグ


僧侶「ふふっ……」グスッ

三人「……」モグモグ

ああ自信がなくなってきた……。
意味通じてなかったらどうしよう。



ーーー


スタスタ


勇者「さーて、とうとう着いちゃったんだなー。
『魔王様心より歓迎いたします』だって」

僧侶「あの、具体的になにをするの?」

勇者「へ?」

僧侶「あ、いや、勇者さんを魔王にしないためにはって……」

勇者「……お前」

魔法使い「えへ、話しちゃった」

勇者「……!
じゃあ、まさか妹ちゃんも死ぬって予言されてるのか!?」

戦士「……ああ」

勇者「……全く、情けないね本当に。こんなことになるくらいなら、俺一人で来ればよかったよ」

魔法使い「なーに言ってんのよ。これはちゃんと本人の意思なんだから、尊重してあげてね」

僧侶「……」

勇者「……仕方ないか。じゃあ、兵士に声かけて来るから待ってろ」スタスタ

僧侶「それで、具体的には?」

魔法使い「この爆弾を……」

勇者「あのさ」クルッ

二人「ん?」

勇者「『ノハネリーネ』」


バタッ


二人「」

僧侶「えっ、えっ?」

勇者「超強力なノハネの呪文、俺使えたりするんだよねー。
僧侶だから分かるだろうけど、寝てるだけだよ」

僧侶「なんでこんなこと……!こんなことしたって、死ぬ運命は変わらない」

勇者「知ってるよ。だけど、どうなるかなんて分からないでしょ?
ここまで来てくれただけで十分幸せだった。ありがとうって伝えてくれ」

僧侶「勇者さん……!」

勇者「『ノハネリーネ』」

僧侶「……!」フラッ


バタッ


勇者「……」

勇者「……さて!行きますか!」



ーーーーー


戦士「うーん……」

魔法使い「うう……なにこれ……」

僧侶「……ううん……」

魔法使い「ちょっと……アンタら起きなさい……勇者が……」

戦士「くそっ……いつの間に……あんな呪文……」

僧侶「うう……『ウロン』……」


キラキラ


魔法使い「はぁ!……んあー、まだ頭がクラクラするわ」

戦士「どうするよ……アイツがいなくなってから、結構時間たったっぽいぞ」

僧侶「入国許可証はあるんだから、中には入れるんじゃないの?」

魔法使い「アイツが手を回してるに決まってるじゃない。そう簡単には入れないわね……」

僧侶「……爆弾?」

戦士「だなぁ……」

魔法使い「そうね……」


タタッ ストッ タタタッ


ドガンッ!!

国民1「なんだ!?」

兵士1「北門が……!」


ドガンッ!!


国民2「キャー!」

兵士2「西門まで……!なんなんだ一体!」

兵士3「皆さん落ち着いて!教会の地下に逃げて下さい!」


パロパロパロ


魔法使い「……バレてない?」

僧侶「多分……」

戦士「なぁ、もうちょっとカッコよく飛ぶ方法無かったのか?」

風の精霊「……なによ、別におんぶでもいいじゃない。姿も消してあげてんのに贅沢な人ね」


パロパロパロ スタッ


魔法使い「やっぱり爆発させた所に兵士は集中してるみたい。なんとかなりそうね」

僧侶「ありがとねー、シルフちゃん」

風の精霊「まぁ、また気が向いたら来てあげるわよ」

シュンッ


戦士「……じゃ、行くか」

魔法使い「よっし、燃えてきたー!」

僧侶「お、お姉ちゃん静かに!」


スタタタ

戦士「研究所ってあの立派な石造りの建物だろ?」

魔法使い「そうそう。結構でかいわねー」

僧侶「なんとなく、地下とかにいそうだよね。なんとなくだけど」

戦士「地下の方が雰囲気出るしな」

魔法使い「それに案内図もあったし。
魔王関連は新しく増設した方らしいわよ」

戦士「いつの間に見たのか知らんが、すごいな」

魔法使い「誉めてもボンタンアメしかでないわよー。食べる?」

戦士「……なんで、お前はいつもボンタンアメ持ち歩いてんだ?」

魔法使い「シンプルに、好きだから!」

戦士「あっそーですか」

僧侶「美味しいよね、ボンタンアメ」

魔法使い「正直に言うと、アンタの好物だから持ち歩いてんのよん」

僧侶「えっ!」

戦士「仲がよろしいこって」


スタタタ


魔法使い「この扉の先の階段の先の地下!」

戦士「ずいぶん殺風景になったな。本当にいるのかよ」

僧侶「行ってみていなくても、必ず見つけ出しましょう!」

戦士「おお、気合い入ってんな」

魔法使い「私も魔法薬飲んどっこっと」ゴクゴク

僧侶「あ、私も」

戦士「俺は大福食おっと」

魔法使い「喉につまらせて死ぬとかやめてよね」

戦士「おじいちゃんか、俺は」


モグモグ



……ガチャッ


魔法使い「ずいぶんと静かね……」

戦士「……」

僧侶「あ……!!」



勇者『……』


僧侶「勇者さん!」


ダダダッ


三人「!!」


ゾロゾロ ゾロゾロ


兵士達「……」チャキッ

魔法使い「ちっ……待ち伏せされてたのね」

戦士「全く、国民を助けに行けよな。門が爆発してんだぜ?」

僧侶「勇者さん……!」


勇者『……』


お偉いさん「アレが君の言ってた人達?残念だけどここまでこられたら生きては帰せないな」

勇者『……』

お偉いさん「おい」

兵士「はっ!」


ザザッ!

戦士「魔法、俺には当てんなよ!」チャキッ

魔法使い「努力するわ!」バッ

僧侶「セレク!」


キラキラ


戦士「おお、ありがとよ!」バシュッ

兵士「ぐあっ!」

魔法使い「ペーシア!」


ドゴッ!!


兵士「うわあっ!」

僧侶「ウロン!」

魔法使い「タリド!」

戦士「暗黒風林火山!」バシュッ



勇者『……』

見てる

戦士「はぁっ……はぁっ……全部倒したぞコラァ!」

魔法使い「うー眠い……」

僧侶「……」フラフラ

お偉いさん「おお、すごいな。だけど、君たちはなんのために戦ってるのかな?」

戦士「勇者を……魔王になんかならせないためだ!」

お偉いさん「それは無理だよ。彼はもう魔王なんだ。
この国のね」

魔法使い「なんですって……!?」

お偉いさん「例の注射を彼には受けてもらってね。
今は記憶もなければ、言葉を話すことも出来ないよ」

僧侶「な……そんな……」

お偉いさん「じゃあ、彼らを片付けてくれ魔王様。君の歓迎パレードもあるからね」

勇者『パレードね』

お偉いさん「……ん?」

勇者『楽しみだけど、アイツらは倒せませんねぇ』

お偉いさん「お、おい、どういうことだ?」

兵士「さ、さあ」

勇者『アイツらには帰ってもらいますよ。安心してください』


スタスタ


魔法使い「……どういうこと?」

戦士「おい、お前大丈夫なのか?」

勇者『大丈夫ではないな。だけど、まだ記憶も言葉も失ってはないよ。
さ、帰ってくれ』

僧侶「勇者さん……」

お偉いさん「帰すわけにはいかないんだよ。
この研究所に入り込まれちゃったんだからね。
君もバカなことは考えず、そこをどいた方がいいよ」


ガチャチャチャ!


戦士「……弓矢か?」

魔法使い「わお、すごい数」

僧侶「こんなのどうしようも……」


ヒュッ


勇者『全部俺に当たる』


ガガガガッ

>>26
ありがとうございます……!

僧侶「……えっ……!」

魔法使い「ちょっと、嘘……!アンタどういうことよ!」

勇者『えっと、僕ちゃん針ネズミ』

戦士「バカなこと言ってんな!……平気なのか?」

勇者『そんなわけないでしょ。痛いから抜くの手伝って』

戦士「お、おう」グッ

魔法使い「なんなのよこれ!」グッ

お偉いさん「……なにをした?」

勇者『不幸体質ってやつですねー。俺の持ってる運命なんですけど。
この運命、なんと俺が犠牲になれば、周りの運命を変えることが出きるんですよ』

戦士「なんだと?」

勇者『レストランで足元に子供がいたって言ったろ。
俺はあの子を救ったんだよ。
蚊が俺だけ刺すのもきっとそれ。
多分国が滅んだとき、俺だけ生き残らせてもらったから、その報いなんだろうな』

お偉いさん「君はなにを言ってるのかね?」

勇者『こいつらを攻撃しようとしても、無駄だって話です。
絶対に俺だけが不幸な目にあいますから。
アンタが決定的にしてくれたんですよ。
不死身にしたあげく、魔物の血なんて注射するんだもん。
不幸体質が補強されちった』

お偉いさん「ふん、そうか。よく分からんが、耐えられるだけ耐えてごらんよ」カチッ


ゴォオオオ!


僧侶「勇者さん!!」

勇者『ぐああああ……!』

魔法使い「どうすりゃいいの!?なんかめっちゃ燃えてる!」

戦士「なんかじゃねーだろ!全部炎がアイツの方にいってんだろーが!扉開けて逃げるぞ!」

魔法使い「えっと、ペ」

僧侶「お姉ちゃん、どいて!」

魔法使い「えっ?」

僧侶「タリドンマ!」


バコッ!!!

戦士「う、うそぉ……」

魔法使い「なんでアンタが攻撃呪文を……」

僧侶「はぁっ……はぁっ……!」フラフラ

魔法使い「ちょっとしっかりしなさいよ!」

戦士「とにかく逃げるぞ!勇者!」


勇者『……』


戦士「おい!こっちへこい!」

勇者『お前らの運命な……もう変わったから……多分……もう死なないから……逃げろ……』

戦士「お前も一緒にくればいいだろ!」

勇者『……無理だよ。俺人間じゃなくなっちゃったもん。
今も燃えてるでしょ。なのに死なないんだぜ?
お願いだから置いて逃げてくれ』


ゴオッ!


戦士「おい!そっちへ行くな!戻ってこい!」

僧侶「……」タタッ

魔法使い「ちょっとアンタ、どこへ」

僧侶「……!」


バッ


魔法使い「嘘……バカ……やめて!!」ダッ

戦士「やめろ、追いかけるな!」グイッ

魔法使い「見たでしょ!?あの子炎に飛び込んだのよ!?」

戦士「……だから言ってんだ。追いかけるな」

魔法使い「……そんな……!!」



勇者『うぐっ……』

僧侶「勇者さん!」

勇者『ちょ、え、待って!ここどこだか分かってる!?』

僧侶「出来る限り魔法かけてきました!早く逃げましょう!」

勇者『なに言ってんだ、妹ちゃんが逃げろよ!
俺がいたって、この至近距離じゃ死ぬぞ!』

僧侶「だから、私が死なない内に逃げましょう!さぁ早く!」

勇者『……』

僧侶「私が死んでもいいんですか!?」

勇者『……やだよ。納豆ずっと食べるって、やっと決心ついたのにさ。
嫌に決まってるでしょ』

僧侶「えっ?」

勇者『だけど、俺はもう人間じゃないんだよ。
見りゃわかんだろうけど、真っ黒焦げだし。
今だって炎は俺に向かってるから、逃げ出す方法もない訳だし。
だから、もうほっといてくれないかな』

僧侶「……逃げだす方法なんてありますよ。私が炎を凍らせます」

勇者『えっ?』

僧侶「センコルド!」


パリリリッ!!


勇者『う、うそ……』

僧侶「さぁ、行きますよ。こんなところは勇者さんの居場所じゃありません!」グイッ


タタタッ


僧侶「お姉ちゃん!」

魔法使い「バカ!!アンタなにやってんのよ……!私がどれだけ……!」

僧侶「いいから逃げるよ!戦士さんも!」

戦士「お、おう」


タタタッ


お偉いさん「全く、すごいやつがいたもんだ。
早く追っかけな」

兵士「は、はい!」



タタタッ


勇者『……』

魔法使い「アンタすごいわね。もうヤケド治っちゃったじゃない」

勇者『まぁな、俺は不死身だし』

戦士「僧侶が最低限の服出せて良かったな。素っ裸じゃカッコもつかないだろ」

勇者『裸で走るドキドキも捨てがたいけどね』

僧侶「えっ!」

魔法使い「真に受けんのはやめなさい。もし本当でも、お姉ちゃんが代わりを見つけてあげるから」

勇者『なにそれ、どういう……』フラッ


フラフラッ


僧侶「ど、どうしたんですか?」

勇者『もう……ダメだわ。必死に抵抗したんだけど……もう……』バタッ

僧侶「ゆ、勇者さん!?」

魔法使い「どうしたのよ!」

戦士「おい!」

兵士「いたぞー!」


ダダダッ


戦士「ああ、クソッ!抱えて走るからな!」グイッ

勇者『……』


タタタッ


勇者『……』グスッ

魔法使い「ちょっと、アンタなに泣いてんのよ」

勇者『……やっぱり置いていってくれ。俺もうダメなんだわ』

僧侶「ダメって、なにがダメなんですか!」

勇者『……記憶が……持たない……』グスッ

僧侶「えっ……」

勇者『……連れ出してもらっても、もう意味ないからさ……。
俺が残れば、君たちだってそんなに追いかけられないだろ?
お願いだから、一人にしてくれよ……』

魔法使い「……」

戦士「……それだよ。俺がお前と酒のみたくない理由は」


勇者『えっ……?』

戦士「そうやって一人にしてくれって散々泣くんだよ、お前。
うっとうしいやら、馬鹿馬鹿しいやら付き合ってられねーってぇの」

勇者『……』

魔法使い「私たちが、アンタといて後悔したことあると思う?
今だって、少しも後悔なんてしてないから。
例え妹が、魔法を使えなくなったってね」

僧侶「えっ……!」

魔法使い「気がつかないと思った?
アンタ魔法使い用の魔法薬飲んだんでしょ。
じゃなきゃ、攻撃魔法の類いは使えないもんね」

僧侶「……」

戦士「もう、魔法つかえないのか?」

僧侶「……はい。さっきの服の魔法でギリギリでした」

勇者『……』

魔法使い「でも、私も妹も後悔なんてしないわよ。
意地でもしない。
アンタが私たちのこと忘れても、喋れなくなっても、それでも後悔なんか絶対しないから」

勇者『……』

戦士「なんだ、もう喋れなくなったのか?」

勇者『……』

僧侶「勇者さん……」

勇者『……うぅ……ひっぐ……ぐすっ……』

戦士「俺の上で泣くのやめろよな。全く辛気くせぇ」

魔法使い「さーて、じゃあ魔法薬も飲んだし、特大のやつで塀を壊すわよー。
つっても、妹と同じ呪文だけどね」

僧侶「みんな伏せて!」

魔法使い「タリドンマ!」


バゴォッッ!!! ガラガラ


戦士「うへー。すげぇなお前ら」

僧侶「私はお姉ちゃんを真似しただけだから……」

魔法使い「ほら、さっさと行くわよ。これで、この国ともおさらばだわ」

僧侶「勇者さん、これで自由ですよ!」

勇者『……』

僧侶「勇者さん……?」

魔法使い「……行くよ」

戦士「ああ」

僧侶「……」

勇者『……』


タタタッ



ー1年後ー


魔法使い「ホントに私も魔物食ったろかしら」

僧侶「と、突然どうしたの?」

魔法使い「もう、腹へって腹へって……。ちょっとかじるくらいなら大丈夫っしょ?」

僧侶「さっき買った納豆にしたら?」

戦士「納豆以外の選択肢はないのかよ。まぁ、家に帰ればメシ作ってくれてんだろ」

魔法使い「その前にさー、ちょっとぐらい食べてもいいじゃんかー。
こんなに食糧あるんだから」

戦士「お前そう言って、どこまでも食うだろ」

魔法使い「そんなことないよー」プラプラ

僧侶「お、お姉ちゃん!ちゃんと持たないと」

魔法使い「落としたりしないわよ、大丈夫」

戦士「そのくらい俺が持つぞ?」

魔法使い「いーや、私に持たせて。
……私がアイツに出来るのは、これくらいだから」

戦士「そうか……」

僧侶「……もう、あれから一年もたったんだよね。でも、勇者さんは……」

魔法使い「……そうね。でも、私たちも出来るだけのことはしてるわよ。
輸血してみたりさ」プラプラ

戦士「ほんと、妹ちゃんが万能で良かったな。
血の入れかえ方なんて、俺らじゃ分からねぇし」

僧侶「手当てや食事や、生きていくことを支えるのが僧侶ですから。
今は魔法は使えませんけどね」

魔法使い「……」

戦士「……ところでさ、本当に妹ちゃんでいいのか?」

僧侶「え?」

戦士「その……俺が妹ちゃんって呼ぶのはよ……なんだかな」

僧侶「……勇者さんが目を覚ますまでは、お願いします」

戦士「……ま、別にいいけどな。その代わり妹ちゃんには、スケスケの服着てもらうから」

魔法使い「あ?」

戦士「なによ」

僧侶「やめて下さい!変なことでケンカしないで……」

魔法使い「いいから、納豆出しなさい」

僧侶「もう、そんな言い方するなら出さないもん」

戦士「俺はその方が助かるけどな」



スタスタ ガチャッ


勇者「……」

魔法使い「たっだいまー。あー、お腹すいた」

戦士「今日はオムライスだったか?」

魔法使い「え、私酢豚作ってくれって勇者に頼んじゃった」

戦士「マジかよ……オムライス食べたかったのに」

魔法使い「どんまーい」

僧侶「勇者さん、お疲れさまです!」

勇者「……」コクッ

魔法使い「おお、テーブルになにか……なにこれ?」


プルルン


戦士「……ん?」


プルルン


戦士「あー……俺、これどっかで見たことあるわ」

魔法使い「え、なに。アンタの仕業なの?」

戦士「違うわ、作ったの勇者だろ。エリンギと根菜とヨーグルトのゼリーだったな。
前に勇者と食ったことあるんだよ」

魔法使い「うっそ、アンタらって本当にバカなのね。
こんなのゲテモノじゃない」

戦士「いや、でも火にかけたらうまかったぞ。
不思議な味の鍋だった」

魔法使い「火にかけんの?なら、わざわざプルプルさせなくても……」

戦士「俺も同じ事言ったわ。そういえば、アイツはどこ行ったんだ?」

魔法使い「さぁ、トイレじゃないの?
でもなんで、突然こんなもん作ったんだか……」

戦士「そういえば、妹ちゃんもいないな」

魔法使い「さっき買ったものを片付けてるんだと思うけど……戻ってこないわね」

戦士「おーい」


スタスタ


戦士「なぁ、一体どうし……」

僧侶「戦士さんの変態!!」バキッ

戦士「ぐふっ……どうしたんだよ、突然……あ、それは」

僧侶「なんで私のベッドの上にのせたんですか!最低……」

戦士「は?ちょっと待てって。お前のベッドの上になんかのせるわけ」

魔法使い「なにもめてんのー?」

僧侶「お姉ちゃん!……これが私のベッドの上に……!」

魔法使い「なにこれエロ本じゃない!アンタ、どういうことよ……」

戦士「いや、待てよ。俺じゃねぇって」

魔法使い「こんなスケスケの服ばっかり着たいかがわしい本、絶対にアンタのでしょ!」

戦士「俺のは俺のだけど!つーか中開くなって!」

魔法使い「うわー、変態、うわー」ペラペラ

戦士「……コノヤロー……」グスッ

僧侶「もう、二人ともバカッ!」


スタスタ!


勇者「……」

僧侶「あ、勇者さん。聞いてくださいよ!あの二人ったら」

勇者「そうだね、もうちょっと見てようか」

僧侶「えっ……!?」



魔法使い「ぎゃー!アンタ蛇いるって!はやく捕まえて!」ゲシッ

戦士「こっちに蹴るんじゃねーよ!うわっ!て、天井からクモが!」

魔法使い「うぎゃー!なんか床がベタベタしてる!なんとかしなさいよ!」



勇者「ふふふ……」

僧侶「勇者さん……?」

勇者「ドッキリ祭り大成功ーってね。ほら、看板も用意してあんの」スッ

僧侶「勇者さん……!!」ポロッ

勇者「あ、ちょっと泣かないでよー。泣かれたくないからこんなことしてんのに。
それに妹ちゃんが泣いたら、納豆出してくれる人がいなくなっちゃうでしょ」

僧侶「へへ……大丈夫ですよ。ちゃんと用意してありますから」グスッ

勇者「そう?じゃあ、妹ちゃんも一緒に行こうか」

僧侶「はい!」


魔法使い「もう、なんなのよ……これ全部オモチャじゃ」

勇者と僧侶「「ドッキリ祭り、だいせいこー!!」」バッ

戦士と魔法使い「「…………!!」」




ー終わりー

こういうノリのは初めて書いたので、やっぱり自信がありません……。
ちゃんと説明足りてたんだろうか……。
とにかく読んでいただきありがとうございました!

勇者「ゴキブリ勇者」
三代目「ナルトはお前に任せる」
男「宇宙人に会った」

なども書いたことがあるのでよかったらどうぞ。
サイトも作りました。

http://doradorayaki.jimdo.com

本当にありがとうございました!

あ、スラッシュが抜けてた……すいません。

http://doradorayaki.jimdo.com/

色々駆け足で分かりにくい所があるけどなかなか良かった

>>39
レスありがとうございます!
やっぱり分かりにくいですかー。
そんな気はしてました。すいません。

>>20
意味通じてないから解説頼む


俺は地の文無しじゃあここまで状況説明できる自信がないから羨ましい

>>41
どこからどこまでですか?
もしかして全部ですかね……。

生まれが恵まれてない勇者が運の悪さを生かして仲間を助ける話を書きたかっただけなんですが、体調が悪いのに変なテンションで書いてしまったっていう。
それだけのことです。

>>42
ありがとうございます!
でも……今回あんまりうまくいってない自覚があるんですよ。
今度はもうちょっと私も頑張ります。

え?ただ運が悪いだけなのか……
なんか行間に隠された裏設定があるのかと思っていろいろ勘ぐってしまったよ

普通に面白かったよ

乙です

みんな仲良しだな

ハッピーエンドでよかった乙

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