「隣人はトラブルメーカー」 (18)
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稚拙な駄文注意
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そこは何処にでもあるような、都内の安いアパート。
周りには草木が生え、お世辞にも立地の良い物件とは思えない。
普通のアパートらしく、入っては抜け入っては抜け。
どちらかといえば、近くの学校に通う学生が利用するような、寮のような扱いだった。
だが、住めば都と考え住んでいる者達も少なからず存在する。
たとえ外壁に設置されているアパートの文字が掠れても、蜘蛛の巣が張っていようとも。
だが、そこの家賃はそこいらのアパートよりも安く、それに惹かれてやってくる者は多い。
今、このアパートの目の前に立っている一人の女子大学生もその一人だ。
奇跡的にも学校から近い事からここを選んだのだが、早速彼女は後悔していた。
一人暮らしに憧れ、住めるなら何処でも良いと考えてしまっていた己の浅はかさに。
「…ここ、大丈夫かなあ…」
しかし、何を選ぼうと後には悩む、無い物ねだりだと考え半ば無理矢理自分を納得させていた。
彼女の名は伊藤朱里。
受験勉強を乗り越え、今年大学生となった。
髪型も何処にでもいそうな黒髪のショートカット。
街を歩いていても、誰も気に留めないだろうありふれた一般女性。
「…んー…」
自身の着替えや新生活の為の必需品が入ったカバンを無機質な部屋の真ん中に降ろす。
家具一式は既に設置されているからか、生活感はあるようだ。
ただ、その空間に女の子らしさは皆無だった。
それは都合云々ではなく、彼女自身の性格によるものでもあったのだが。
半袖の青色のTシャツに、動きやすいという理由で好むピンク色のスウェット。
これから大学生活を送るとは到底思えない格好。
「えーと…これで全部かな…」
青色の歯ブラシを洗面台に設置し、ようやく生活の準備が整ったと満足気になる。
そして後ろを振り向くと、まだひと段落ついただけだという事に気がついた。
『お隣さんとか、とりあえず最低でも同じ階の人くらいには渡しなさいよ』
母親が気を利かせ、いくつか買ってきた洗濯用洗剤。
何故これに至ったのかは分からないが、少なくとも自分よりはこういう事は知っているのだろうと思い、それを手に取る。
「隣の人、どんな人なんだろ…」
こういった事は初めが肝心だとはよく聞く話だ。
朱里は友達は多い方でも、少ない方でもない。
だがどちらかと言えば受け身な方な自分がどのようにして友達を作ってきたのかは、考えてみたところよく覚えていない。
「…友達にならなきゃいけないわけでもないか」
所詮同じアパートに住むだけの事だ。
それに、年齢だって離れているかもしれない。
とりあえずは礼儀正しくしておけばいいだろう。
そう自己完結した。
「…」
一人でいると、あまり言葉も出ない。
靴を履く動作一つとるだけでも今までと違う。
ここにきてようやく自分はこれから一人暮らしするのだなという事が身にしみて分かってきた。
そうなると、まずいろんな事が今までと違ってくる。
食事も、洗濯も、風呂も、全て自分の裁量で決めなければならないのだ。
一人で暮らすのだから、そうもなるが。
彼女はそれへの憧ればかりが強く、それの責任は後回しにしてしまっていた。
「…参ったなあ」
一人呟いてみても返事は返ってくるわけはないのだが、勝手に声が出てしまっていた。
「…」
その青年は、最近隣が朝からやけにうるさいと感じ、誰かが新しくやってきた事を察した。
このアパートでは、割と人の出入りが激しい。
勿論彼が何かをしているわけではないが、何故か多いのだ。
その為、例え知り合ったとしてもすぐに連絡が取れなくなるなんて事はよくある話だった。
勿体無い事だ、と彼は感じる。
こんな安くて静かな所はそうそう無い、と。
ここで長く過ごしてきた彼には、全く理解出来なかった。
「今度の奴は、どれくらいかな…」
別に長く居て欲しいわけではなかったが、とりあえずは挨拶の一つくらいしておいて損はない。
向こうも優しく迎え入れてもらえば、少々居心地が良くなるだろうと思った彼は妙な気を利かせ、新しく来た隣人の元へと向かう事にした。
「ちょっと…重い…」
紙袋いっぱいに入った粗品に軽い悪態をつきながら、ドアの鍵を開ける。
「…」
実家のドアと比べると、その鍵の安っぽさといったらない。
金属バットを振り下ろせば壊れてしまいそうな程脆そうだ。
改めて、生活のレベルが落ちた事を痛感する。
風呂もボタン一つで沸かしていたのだからそうもなる。
親の目を気にしなくて良いというのは魅力的だったが、いざいなくなるとそのありがたみが良く分かる。
誰しも一度は通る道ではあるのだが、まだ20にもなっていない朱里には受け止められない現実であった。
「はぁ…」
果たして自分は無事に独り立ち出来るのだろうか。
たったこれだけの事で将来を悲観する彼女は、いわゆる世間知らずなのかもしれない。
「…行こっと」
これからの事は、仕方ない。
面倒な事もあるだろうが、後回しにしよう。
そう考え、彼女はドアノブを回した。
その時だった。
バンッ!!
突如鳴る衝突音。
あまりにも突拍子のない出来事に彼女自身も驚いた。
ここに入った時は、ドアの向こう側には何も無かった。
だとしたら、一体何か。
何処からか何かが飛んできたのだろうか。
犬でも通ったのだろうか。
どれだけ考えても原因は思いつかず、顔のみをドアから出してみると、そこには。
「…!!」
鼻を押さえてうずくまる金髪の青年がいた。
「痛ってえ…」
「す、すいません…」
鼻が折れたとまではいかないが、どうやら血が止まらないらしい。
一人暮らしへの不安から思ったよりも力がこもっていたようだ。
「あ、あの…血、止まりました?」
「あ?ああ…」
鼻栓を取ってもう血が固まった事を確認した彼は、朱里の方に向き直りその顔を見つめた。
「…え?あの…」
「…あー…その、なんだ」
「?」
彼はドアをぶつけた事は大して気にしていない様子ですっと立ち上がり、自己紹介を始めた。
先程まで立ち上がった姿を見ていなかったからか、その姿に少し目を見開いてしまう。
年齢は朱里とさほど変わらない程度だろうが、驚いたのはその身体つき。
筋骨隆々、というのはこういった体の事を言うのだろう。
朱里の高校時代のラグビー部でもここまでは無かった。
そしてツンツンと跳ね上がった金色の髪の毛に、人を心底恐怖に陥れそうな目つき。
朱里が彼をそこいらのコンビニでたむろっている不良、もしくは暴走族のボスとしか見れなかったのも無理はない。
「俺はこの部屋の隣に住んでる、千崎荘太郎!お前は?」
「えっ…あ…伊藤、朱里です…」
「朱里か!これからよろしくな!」
ゴツゴツとした手を差し出す荘太郎。
それを弱々しく握りながら、朱里は確信した。
自分は一人暮らしなんて、するものじゃなかったと。
千崎荘太郎。
このアパートには5年ほど前から住んでいる。
高校生になったと同時に一人暮らしを始め、今はアルバイトで日銭を稼いでいる。
確かに、この身体つきならば肉体労働なら引く手数多だろう。
しかし、朱里にとってはこういった男はどうにも受け付けなかった。
昔から大人しく、受け身だった自分にとってこの男はまるで正反対だと。
「ほー…お!これBlu-ray対応してんのか!」
何時の間にか床に座り込んでテレビのスペックをチェックしている。
本来なら注意してやりたいものだが、何をされるか分かったものではないと声を押し殺し、部屋の隅で縮こまるしか出来ない朱里。
最早どちらがこの部屋の主か分からなかった。
「なあ、お前さっき何しようとしてたんだ?」
「はひっ!?」
唐突な質問に思わず声が裏返る。
そしてその一瞬ではあるが、心の中で彼に言い放った。
お前のせいで部屋から出られないと。
「…あ、あの…こ、これをアパートの人達に渡そうかなと…」
「んー?…洗濯用洗剤?」
粗品の入った紙袋を彼に見せると、のっそのっそと近づいてくる。
朱里は決して男性恐怖症ではないが、そのあまりの身長差に怯えてきってしまい、紙袋を漁る荘太郎に何も言えなかった。
だがそれでも彼女の心の中は彼への不満で溢れかえっていた。
『勝手に漁るな』
『早く帰ってくれ』
『というより近づくな』、と。
「…つーか、ここに来るやつなんて大概すぐにどっか行っちまうぜ?意味無いぞこんなもん」
「で、でも…お母さんに言われたから…」
母親のキーワードが出た途端、荘太郎の眉間に少しシワが寄ったのを朱里は見逃さなかった。
何かまずい事を言ってしまったのだろうか。
だとしたら、何処を訂正すべきなのか。
生存本能が働いたのか、今までにないほど頭の回転が速まっていた。
だが、荘太郎の顔はすぐに元のあっけらかんとした表情に戻り、粗品を一つ持つと笑顔で答えた。
「悪いな!んじゃ貰っておくぜ!お前の母ちゃんにお礼言っておいてくれ!」
「…」
その様子に拍子抜けしてしまう。
この男は、一体何なんだ。
一人暮らしの、それも他人の部屋に上がり込んで馴れ馴れしくするなど、非常識極まりない。
しかし、不思議と悪い気がしなかった。
理由ははっきりとは思いつかなかったが。
「んじゃ、これからよろしくな!なんかあったら呼んでくれよ!」
「は、はい」
一人暮らしとは、お隣さんとの付き合いとはこういうものなのだろうか。
こういうのがいる事は普通なのだろうか。
「…」
『んなわけないでしょ!!?』
少なくとも、こんな輩は何処を探してもそうそういるものではない。
いたとしたら、そいつは日本の文化を消し去りかねない。
「…」
まるで、嵐が過ぎ去ったような感覚。
「…はぁ…」
その場にへたり込んで、一つため息をつく。
「…これ、もう明日でいいかな…」
母親から貰った粗品を尻目に、これからの自身の生活を想像した。
「…」
見た目は、言ってしまえばチンピラ。
だが、悪気は感じなかった。
それでも至って平凡な人生を歩んできた朱里の精神を削るには十分すぎるほどだったが。
何故、ここに選んでしまったのだろう。
少し前の自分に対し、恨み辛みを吐露してやりたい気分になったが、そんな事が出来るわけもなく。
「…はぁ」
また一つ、ため息をついた。
荘太郎が戻っていった後、幾ばくか冷静になった朱里はふと思った。
あれは、少しおかしいと。
それは話し方や、接し方などのものではない。
もっと、至極単純なものだ。
「…あの格好、何?」
彼の格好は、一言で言うならば、古い。
袖をまくった革ジャンに、厚めのTシャツ。
黒のベルトに、年代モノにも見えるジーンズ。
まるで昭和のヒーローのような服装。
それとは対照的に、髪型は今時の若者のようにセットされている。
筋肉質な身体つきだからか、似合っていないという事はないが、それでも今のご時世には似つかわしくない。
年齢も自分とそう変わらないはずだ。
「…」
そこまで思って、彼女は考える事を止めた。
「…」
ベランダの窓に映った自分を食い入るように見つめる。
そこにはナルシズムなど存在するわけもない。
短めの黒髪に、無地のシャツに、ピンクのスウェット。
オシャレとはかけ離れた服装。
「…」
もしかしたら、これは、類は友を呼ぶというやつだろうか。
いや、どんぐりの背比べというやつか。
恐らく、荘太郎からすれば前者、朱里からすれば後者なのだろう。
だがそんな事よりも、重大な事があった。
自分がここに来た理由。
それは、大学に通う為の家探し。
大学といえば、私服登校が基本だ。
果たして女の自分がこのような格好で良いものだろうか。
20を前にして、ようやく自分のセンスを客観視出来るようになった朱里であった。
1-1 終
期待
これからノロノロやってきます
たまに投下してくのでよろしければ見てみて下さい
面白そう、期待
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