本作は
「魔法少女まどか☆マギカ」
と
「とある魔術の禁書目録」
及びその外伝のクロスオーバー作品
第二スレです。
前スレ
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」(まど☆マギ×禁書)
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」(まど☆マギ×禁書) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419447208/)
二次創作的アレンジ、と言う名の
ご都合主義、読解力不足
分野によっては考証を勘と気合で押し切る事態も散見される予感の下、
まあ、数学とかもアレな世界だしとか若干の言い訳をしたりしなかったり
今スレより本作第二部のスタートとなります。
それでは今回の投下、入ります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435465986
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× ×
上条恭介が思い浮かべた名は、古のエジプト女王のものだった。
がやがやと騒がしい放課後の廊下、只でさえ災害で時間を食われた今、
真っ直ぐ帰って支度をしようと歩き出していた上条恭介は、
当初の予定を変更して玄関とは別の方向に移動する。
恭介が住む見滝原全域を飲み込んだ、瞬発的に巨大台風が直撃した様な大嵐。
一時は見滝原丸ごと壊滅し兼ねない話題となり、
実際の被害も決して小さいものではなかった。
恭介自身も手痛いダメージを負ったのも確かだ。
それでも、被害規模は当初の予測、嵐自体の規模から見ると驚く程小さなものとなり、
避難中の事故で左足首を捻挫した事では随分難儀した恭介だっだか、
それも今では大きな支障もないぐらいに回復している。
恭介の足同様、街も、そして、今では学校生活も、
取り敢えず恭介の周辺では大体が今まで通りの状況だった。
恭介が進むに連れ、軽やかなジャズ・ピアノの旋律が彼を引き付ける。
せわしない程の動きに振り回されず、確かに捕まえている。
敢えて言うなら少しキンキンして聞こえるが、決して嫌な感じではない。
弾いているのは女の子かな?と、恭介は直感する。
何を手本に聴いたのかも何となく見当はつく。
この学校内で聞こえて来ている事を考えると、技量は高い。
独りでこんなものを聞きに来ていて、
最近は恭介の多忙を慮り女の子同士の付き合いを優先させている恋人に
ちょっと悪かったかな、とも思わないでもない。
× ×
音楽室の前には、既に人だかりが出来ている。
恭介は、それをかき分ける様にして中に入って行く。
視界が開け、音楽室の中が伺える。
上条恭介は、こうして彼を誘ったピアノに視線を向ける。
そこで、上条恭介は把握する。
えらい美人がそこにいた。
軽やかにして力強くピアノを演奏しているのは、他校の制服を着た少女だった。
ネクタイ風の赤いタイを締めたセーラー服姿で、髪の長い品のいい美人。
恭介自身が裕福な坊ちゃん育ち、恭介の身近にも本物のお嬢様がいるが、
その彼から見ても彼女は間違いなく本物。
そして、一歳二歳が天と地の差を生み出す恭介達の年頃で、
恭介から見たら一見して女の子よりも一歩先んじた美しい女性。
そんな大人びた雰囲気が本物の育ちの良さと相まって、
優美な気品と言えるものすら感じさせる。
それは、今、恭介を魅了している旋律が存分に表現していた。
軽やかにして芯が強く、
情熱的でいて優雅な程に上品に。
三年や五年ではない。
年齢に近い年月の鍛錬を重ね、そしてたっぷりと本物を聴いた
性格と才能、そして経験だけがその道を許す。
王道を熟知するからこそ、存分に楽しげに飛び跳ねて遊んで見せる演奏。
「カミジョー、カミジョー君」
知り合いの声に、恭介がそちらを見る。
声を掛けた来た少女は、こちらは150センチも怪しいちんまりとした女の子だったが、
れっきとした恭介の先輩であり
見滝原中学校の誇る有名とも言えないギタリストであり見滝原中学校ジャズ同好会の会長である。
「前々から決まってた茜ヶ崎のジャズ同好会と対バンやってるんだけど、
予想以上って言うか斜め上の連れて来てさ、正直思い切り圧倒されてる」
「ですね」
「時間、ある?」
「多少なら」
先輩と言葉を交わした恭介が演奏を見ると、
ピアノの椅子から立ち上がり、
他のメンバーと共に一礼しているところだった。
正直時間は押せ押せだが、それでも、恭介は引き付けられていた。
× ×
「上条?」
「上条君?」
「上条ってクラシックじゃ?」
「たまにこっちで弾いてるけど」
ジャズ同好会の面々と共に演奏に立った上条恭介は、
礼と合図を経て、早速にソロ・パートをスタートする。
それは、ギャラリーにも馴染のある、ポピュラーなアニメソングだった。
前奏からその先に進んでも、恭介は独り、
軽やかに、そして些か渋く艶やかに、その世界をヴァイオリンソロで紡いでいく。
再びの呼び掛け、御仏蘭西から日本に渡った三代目。
そこに当たる所で、他の楽器が一つ一つと流れ込む。
コールの最高潮で全ての演奏が溶け合い、そのまま曲が続いていく。
ジャズにどれだけ発揮できているかはとにかく、やはり恭介の技量は抜きん出ている。
ギターが、吹奏が、それに競い、時に譲り或いは一本道でぶちかまそうとしながらも、
溶け合いそうで角が残るばらけそうで繋がっている、
そうやってガキらしくでこぼこにそれでも同じ楽しみを追いながらゴールへと突っ走る。
最後の一音を弾き終えると、恭介は、先輩と互いに満足して小さく頷く。
そして、拍手の中一礼する。
× ×
攻守交替。言葉として若干変かも知れないが気にしない。
エース同士がすれ違い、一礼する。
恭介は、余裕のある、優雅な美女の微笑みを見た。
「Attention please」
ピアノ席から聞こえた呟きに、茜ヶ崎中学校ジャズ同好会の他のメンバーは小さく頷く。
これは、本気だ。
今までも冗談ではないが、完全に火が付いた。
その頃、恭介は時計に視線を走らせていた。
「すいません、先輩」
「ううん、こっちこそ忙しい所ありがとう。
たまには又こっちにも弾きに来て」
「はい」
先程の恭介達の快活から又一転、
ピアノソロがしっとりと始まったジャズ・スタンダードのワルツに後ろ髪を引かれる思いをしながらも、
上条恭介は割と少なからぬ人が関わる一身上の理由によりここで戦線離脱を余儀なくされていた。
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今回はここまでです>>1-1000
続きは折を見て。
それでは今回の投下、入ります。
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>>5
× ×
くいくいと制服を引っ張られ、日向茉莉は我に返る。
「声、掛けてく?」
天乃鈴音に声を掛けられ、茉莉は人だかりの中で背伸びする。
そして、その向こうから目が合ったのを把握して、小さく頭を下げる。
「ううん、忙しそうだから先帰った方がいいみたい」
「そう」
茉莉の言葉に、鈴音が小さく応じた。
そして、二人は余り馴染の無い見滝原中学校の廊下を進む。
「良かったね、ピアノ」
「うん」
ぽつりと言った鈴音に、茉莉が笑顔で応じる。
「やっぱり、何でも出来ちゃうんだから凄いなー。
ピアノも良かったけど………」
「ヴァイオリン?」
鈴音の問いに、茉莉が頷いた。
「凄く、響く音だった。
明るくて暖かくて、それでなんか奥が深いって言うか、
ヴァイオリンってあんな風に聴こえるんだなぁ」
「マツリは耳がいいから」
「まあね。だからかな、ちょっと見えただけだったけど、
弾いてる子も結構格好良かったかも」
「………確かに、あれは凛々しい」
「でしょ」
明るく応じる茉莉に、鈴音も静かな笑みを返していた。
× ×
「ごめんなさいね、遅くなって」
「いえ」
放課後、暁美ほむらは早乙女和子教諭に頭を下げて学校の小会議室を出る。
先の大災害を受け、学校からも役所に実状調査が提出される事になったのだが、
最近転校して来て一人暮らしをしている暁美ほむらに関しては、
和子の個人的な熱意により少々込み入った聞き取り調査が行われたと言う次第だった。
「あら?」
そして、ほむらが廊下をてくてく歩いていると、
見覚えのある珍しい顔と出くわした。
「ここが音楽室だけど」
案内して来た暁美ほむらの後ろで、詩音千里、成見亜里紗が立ち尽くす。
「間に合わなかったぁ」
施錠された音楽室の前で、亜里紗が言った。
「何か、用事があったのかしら?」
「うちの副長がこっちでピアノ弾くって言うからさ」
亜里紗が答える。
「副長って、例のワルプルギスの時に会った?」
「ええ。ジャズ同好会の活動で、
こちらの同行会の前で演奏する事になってた」
千里が答えた。
「そう、ジャズ同好会」
やや意外に思いながら、ほむらが言う。
「行事とかでクラシックを弾く事もあるんだけど、
クラシックもジャズも先輩のピアノ、凄く綺麗だから」
「同感。ま、アタシなんか詳しい訳じゃないけどね。
何回か聞いたけどあれはいいものね。
今日聴きたがってたのは千里だけど、どうせなら聴きたかったな」
「残念だったわね」
「ったく、本当だったら余裕で間に合ってたのにさっ。
チサトったらわざわざ追っ掛けて来るかね」
「罰当番の上に抜け出すのが悪い」
「ったくーっ。
まあ、それで最後まで付き合ってくれたのは感謝する、って言うかごめん。
チサトの方が楽しみにしてたのに」
「次は無いからね。
そろそろいい加減、本格的で少しパワフルなお説教が必要ではないかとか」
「わーかった、ごめん、本当にごめんって」
そんな二人のやり取りを、ほむらは微笑ましく眺めている。
まあ、いいコンビなのだろう。
実際には魔法少女の集団ではあるが、
前の仕事ぶりを見ても、グループの関係は良好なものらしい。
× ×
「ありがとうございました」
レッスンを終え、教室を出た上条恭介は、
すっかり陽も落ちた街に出て帰路に就いていた。
只でさえ平均的中学生を大幅に上回る多忙な所に先の大災害が加わり、
スケジュールは半ば破綻している。
それでも、予定されている演奏の機会を諦めるつもりはない。
その見込みはある、恭介はそう信じて前に進んでいる。
「上条恭介君?」
魅力的な女性の声に、上条恭介は振り返る。
そこに立っていたのは、その魅力的な声に違わぬ魅力的な年上の女性。
付け加えると、つい何時間か前に顔を合わせたばかりの素晴らしいピアニストだ。
「先程はどうも」
そう声を掛けられ、恭介はやや恐縮して頭を下げる。
「僕の事を?」
尋ねた恭介は、にっこり優しく微笑みながら小さく頷くのを見る。
「上条恭介君、名前は学校ですぐに分かった。
どこの門下か、この世界は狭いからもしかしたらってね。
年齢的には関東屈指の実力と実績の持ち主なんだから尚の事。
一時は事故で再起不能説も聞いたけど、大丈夫みたいね」
「お蔭様で」
「もちろん、バリバリのクラシック。
ジャズヴァイオリンは真面目な息抜きかしら?」
「やっぱり、クラシックから始めたんですよね」
恭介の言葉は、ふふっと、余裕の笑みに交わされる。
「色々失礼。自己紹介がまだだったわね。
奏ハルカ、よろしく」
「上条恭介です」
上条恭介は改めて自己紹介を告げて、差し出された手を握る。
柔らかく、温かい。予想通り、予想以上かも知れない白く繊細な手。
「今日は、素晴らしい演奏を有り難う」
「こちらこそ」
互いに言葉を交わし、手を放す。
「それじゃあ………失礼」
何かを言いかけ、奏遥香はポケットからスマホを取り出す。
「もしもし………
そう、分かった。これから戻る」
遥香が電話を切り、スマホをしまう。
「ごめんなさい、急いで帰る事になったから。
今日は本当に有り難う」
「こちらこそ、素晴らしい演奏、有難うございました」
恭介が頭を下げ、遥香は軽く手を振って、
程なく近くの横断歩道の向こうに姿を消した。
「?」
自分も帰路に就こうとした恭介が、ふと足元に目を向ける。
「これって………」
恭介が拾い上げたのは、招き猫の飾りがついたストラップだった。
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今回はここまでです>>6-1000
続きは折を見て。
おつ
乙
世紀末帝王はまづら氏とびーふすとろがのふがマジで交差してる、だと?
冗談はさておいて、まずは訂正です。
前スレで成見亜里紗が恐らく全部成見亜里沙になっていました。
前スレ>>447
× エキアセナ
○ エキナセア
失礼しました。
それでは今回の投下、入ります。
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>>10
× ×
少々話は前後する。
これは、日向茉莉と天乃鈴音が見滝原中学校でちょっとした音楽鑑賞をした、
その帰りに当たるお話。
「借りられてるなぁー」
複合書店のレンタルDVDコーナーで日向茉莉はぶーたれていた。
その側では、友人の天乃鈴音がなんとなくその辺の商品を眺めている。
二人はしばしばここを訪れる。
鈴音は大体茉莉に誘われて付いてくる。
茉莉は昔の、と言っても何十年も昔ではないアニメやドラマ、
そう言ったものをちょくちょく借りて行く。
商品棚を目で舐め回し始めた茉莉を置いて、鈴音はふらりとその場から移動する。
アニメのキッズコーナーにやや顔を和ませ、
そして、かの世界的知名度アニメスタジオの一角に目を向ける。
深い森から出たる神の名を称する獣と、迫力のソード・アクション。
確かに、天乃鈴音としては、漲るものを感じる所はある。
それはそれとして、鈴音はちらりとその辺の棚に視線を走らせていた。
「………ね………ちゃん」
天乃鈴音は、DVDを手に取り眺めていた。
「スズネちゃんっ」
呼び掛ける声に気付き、鈴音はがちゃっ、と、DVDに棚に戻す。
「見つかった?」
振り返った鈴音が、そこに近よって来た茉莉に尋ねる。
「んー、狙ってたの全部レンタル中。
スズネちゃんは?やっぱり………」
「前に借りたし、いい」
やはり、鈴音が最初に目を付けた、
大迫力のアメーバ―と殺陣に彩られた巨匠監督のアニメを口にする茉莉に鈴音が応じる。
そんな鈴音に、茉莉はやっぱり巨匠の名を口にする。
「なんとなく、スズネちゃん好きそうだよね」
「そうかな?面白いとは思うけど今日はいい」
「そ、じゃあ行こう。そろそろみんなで狩りの時間だし」
茉莉の言葉に鈴音が小さく頷き、
通りがかりの男子学生は女の子がどこかでオンラインゲームでも?と連想する。
そして、茉莉に付いて行こうとしながら、天乃鈴音はもう一度棚に視線を走らせる。
巨匠の監督ではない、惜しまれながら早世した俊才の作。
茉莉や鈴音自身が魔法少女と言うファンタジックな存在ではあるが、
それを抜きにした自分達の延長にありそうな、今となってはやや昔が舞台であるからして
あったかも知れないと思わせるお話。
× ×
何本もの剣が飛び、魔獣の群れに突き刺さる。
「そぉらっ!!」
群れの流れが乱れた所に杏子が突っ込み、
大槍を振るって魔獣を薙ぎ倒していく。
その杏子に向けて、幾体かの魔獣がビーム攻撃の体勢を見せる。
その魔獣の体に、飛んで来た剣が突き刺さり、消滅する。
もう一度、魔法で空中に発生させた剣をドガガガッと魔獣の群れに叩き込んだ美樹さやかが、
杏子の背後にひらりと着地し、手近な魔獣に二刀流を力強く叩き込む。
背中合わせになった杏子とさやかが、ダンッ、と、前に出て魔獣と闘い始めた。
少し離れた場所で、暁美ほむらの手を離れ弓から弾かれた魔法の矢が魔獣を射抜く。
暁美ほむらが前を見据え、弓を引くその姿は、
長く美しい黒髪も相まって幼さを残しながも侍の面影を感じさせる。
「ほむらちゃんっ!」
声を聞き、ほむらが射線を開ける。
鹿目まどかが放った魔法の矢が、
途中で分裂して散弾を馬鹿デカくした様に魔獣に突き刺さる。
普段はほわほわと気弱にも見えるまどかも、
新たに弓を引く今はその表情に凛々しさを覗かせている。
「暁美さん、鹿目さんっ!」
そんな二人に、巴マミからきびきびとした指示が飛ぶ。
そちらを見た二人が、ささっ、と、射線を開ける。
「ティロ・フィナーレッ!!」
巴マミの肩掛砲が、魔獣の群れに炸裂した。
と、思った時には、マミは魔獣の群れに突っ込んでいた。
只でさえ砲撃に削られていた魔獣の群れを、
大量のマスケット銃を使い捨てにして見る見る縮小させていく。
「「さあっ」」
ほむらとさやかが口を開く。
「このまま一気に決めるよっ」
「ケリを付けましょう」
さやかが、ほむらが叫び、その後に杏子がまどかが続く。
もう一頑張りと言う確信を持って。
× ×
「又、ちょっと増えて来たかな?」
魔獣退治を終えた後、夜の親水公園でさやかが言った。
「少し、鳴りを潜めてたけどな。食うかい?」
「サンキュー」
杏子の差し出すチョコ菓子をさやかが受け取った。
「流石にワルプルギスの後はそうだったけど、
魔獣が言われている通りのものだとすると、
それが人間と言うものなのかしらね」
ファサァと黒髪を払うほむらに、さやかがふふっと笑いかける。
「この調子だと、又忙しくなりそうね」
「まぁー、あたしらが力を併せれば大丈夫っしょ。
今までもそうだった、
あのワルプルギスだってぶち抜いちゃったんだから」
「こらこら、油断は禁物よ」
マミが苦笑いをしてさやかを窘めた。
「坊やも退院したからな、
魔獣なんてちゃっちゃと片付けないとなさやかは」
「んー、あたしがそうでも恭介が忙しいからねー」
「前より忙しそうだよね上条君」
杏子のからかいにさやかが割と真面目に応じて、まどかも口を挟んだ。
「あら、最近は会ってないの?」
リーダーだろうがお姉さんだろうが、
この手の話題は大好物の年頃のマミも質問に加わった。
「ええ、学校だけですね。
ワルプルギスの時に色々スケジュールが狂った上に怪我までしちゃって、
それでもコンサートには参加するとかで放課後は全然。
発表会の前とか今に始まった事でもないですけど」
「流石、古女房の貫録って奴?」
「だーれが古女房だよ」
毎度の如く、ぐるぐる回りながらじゃれ合うさやかと杏子、
それに困惑するまどかをほむらとマミは微笑ましく眺める。
「んな事言ってー、実はどっかでお嬢が独り占めーとか」
「ないない、仁美とはここんとこしょっちゅう、
たまにはあたしらと付き合え恭介ーって焼け食いするのがマイブームだし、ね、まどか」
「う、うん、ウェヒヒヒ………」
「じゃあどっかで可愛い女の子と秘密のレッスンでしたー、とか?」
「もっと無い、あのヴァイオリン馬鹿にそんな器用な真似できないって」
「そうねー」
杏子をいなしてカラカラ笑うさやかの側で、ほむらが人差し指を顎に立てて上を向く。
「そんな上条君なら、
そうね、どこかで髪の長いピアノの上手な美人のお姉さまとお知り合いにでもなってるとか」
「おっ、流石女子校、生々しいねぇ」
「………余裕ね、美樹さやか………」
「素晴らしい信頼関係ね」
半ば呆れたほむらの側で、マミが本格的に賞賛する。
「ま、意地悪はこの辺にしときましょ、馬鹿馬鹿しい」
一つ嘆息して、ほむらが言葉と共に黒髪を払う。
「まあね、流石にこれ以上言われると明日屋上、って感じだからね。
正直結構応えてるしさ」
「悪かったわ」
「じゃあ、うちに寄ってく?女子会って事で」
「はいっ」
かくて今夜も気心の知れた女子会ティータイム。
× ×
「パラ・ディ・キャノーネッ!!」
牧カオルが蹴り飛ばした光球が魔獣の群れに炸裂する。
「っけぇーっ!!!」
その隙間を一挙にこじ開ける様に、
凶暴クマーな使い魔の大群が鋭い爪と牙を光らせて魔獣の群れを食い散らしていく。
「オッケーッ!!」
そこに割って入ったのが浅海サキ。
物凄く素早い動きと長い鞭を縦横に使い、魔獣の群れを翻弄し撃滅していく。
「っらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
そのサキの背後でビームを光らせた魔獣達が、
若葉みらいの小柄に似合わぬ大剣で一刀両断された。
そのまま、サキとみらいが生み出す電撃クマーが魔獣を蹴散らす。
宇佐木里美が誘導した魔獣の一群を、
和紗ミチル昂かずみの双子その一がバシバシバシと片付けて行く。
そこから少し離れた場所で、双子その二の片割れ、神那ニコが跳躍する。
「ふむ」
ニコは手にしたバールのやうなものでパパパーンと魔獣を片付け、
ちょいちょいとスマホを操作する。
ニコが横目で除いた視線の先では、魔獣相手に槍を振るっていた御崎海香が、
槍を元の形態である本に変化させていた。
「良くってよ」
ぱん、と、本を閉じた海香がよく通る声で宣言した。
魔獣の結界で半ばバラバラに魔獣と戦闘していた魔法少女達、
通称プレイアデス聖団が一斉に動き出し、集団魔法を展開する。
魔獣の群れが一つの軌道に誘導される。
その先に待っているのは、和紗ミチル、昂かずみの強烈な一撃だった。
× ×
「あー、お腹すいたー」
「まーかせてっ!」
魔獣退治を終えた夜のあすなろ市内で、
声を上げる牧カオルに昂かずみが応じ、笑い合った。
「今夜の、結構歯応えあったからなー」
「少し強くなった、いえ、前の水準に戻りつつあると言う事かしら」
カオルの言葉に海香が続く。
「そうだね」
スマホを操作しながら答えたのは神那ニコだった。
「恐らく、周辺の瘴気が見滝原に集約されて
超巨大魔獣が生まれて、そして退治された。
その影響であすなろでも一時期弱体化していたけど、
魔獣の源である人間のマイナスエネルギーは絶えず供給され続けている、
って所かな?」
「なんと言うか、どうしようもないわね人間って、ねー」
ニコの言葉を聞き、宇佐木里美はしまいには通りがかりの猫に語り掛けていた。
「全くどうしようもない」
上を向いて応じたのは、プレイアデス聖団双子その二に属する聖カンナだった。
「ん?」
そして、カンナは気付く。
カンナの視線の先では、和紗ミチルと昂かずみが歩道に突っ立っていた。
近づこうとしたカンナが、少し目を細める。
「ミチル、かずみ」
「ああ、カンナ」
カンナに声を掛けられ、ぼうっと空を見ていた二人がそれに応じる。
「………ちょっと、ソウムジェムを確かめていい?」
「え?」
「うん」
カンナが二人のソウルジェムを摘み上げる。
「どうした?」
「どうかしたの?」
その様子に、カオルと海香が近づいて来た。
「いや」
星空に透かす様にソウルジェムを見ていたカンナが口を開く。
「大丈夫、ちゃんと濁りは取れてる」
カンナが二人にソウルジェムを返した。
「当たり前だよー」
「って言って、前は結構無理してたからなー」
ミチルの言葉にカオルが言った。
「そうね、優先して私達にキューブを回してくれてたから。
でも今は私達もミチルに心配かけてばかりじゃない」
「うん、分かってる」
海香の言葉に、ミチルがにこっと応じた。
「さぁ、帰って山盛り海賊パスタだよーっ」
「おぉーっ」
「これは、又、屋敷でも新たなる闘争かな」
かずみの言葉に拳を突き出す面々を見て、
ニコは苦笑して呟きながら、
つと何かを考えているカンナの横顔に視線を走らせていた。
× ×
深夜、上条恭介は目を覚ました。
本日、正確には昨日は時間調整が難しかったとは言え、
就寝までの弾き込みの感触も悪いものではなかった。
そんな些かの満足と共に眠りに就いたのだが、ふと目を覚ます。
別に夢見が悪かった訳でもないが、取り敢えず生理現象による肉体的欲求に従い、
トイレで用を済ませて自分の部屋に戻って来る。
ここで一曲弾いたら又よく眠れそうだが、流石にそういう訳にはいかない。
スーパーセルの事やら何やらでスケジュールは破綻気味。
それでも着々と近づくコンサート当日。
そうであっても、恭介は、自分でも意外な程に焦りの様なものが希薄だった。
別に、自分が天才であると確信できる程の自信家ではない。
一応の所、確かに同年代の中では相当に上手ではある、と言う辺りの自覚はある。
それでも、何故か真剣に努力をすれば成功する、かどうかはちょっとおいても
むしろ困難な条件で待ち受ける大舞台に対して意外な程に気負いが薄い。
或いは、一時はヴァイオリニスト生命が危うい程の大事故から
ここまで回復した事がクソ度胸を付けたのかも知れないし、
もしかしたら、自分の事を心から慕い、自分も大切に思っている、
そんな相手が出来た事が心の支えになっているのかも知れない。
ベッドの縁に腰掛け、上条恭介はなんとなく、そんな事を思い浮かべる。
立ち上がり、ほんの少し、シャドー・ヴァイオリンを演奏する。
シャドー・ヴァイオリンであって、
楽器を手に弦から離れた弓を動かしながらBGMを掛けるエア・ヴァイオリンではない。
確かに、それは真面目な息抜き。
昨日の昼過ぎに学校で演奏した、学校のみんなとのちょっとした楽しみ。
心の中の演奏を終え、几帳面に一礼した恭介は、用意を済ませた学校鞄に目をやる。
そして、その上にちょこんと乗せらせた招き猫のストラップを摘み上げる。
ストラップを鞄の上に戻し、恭介は再びベッドに潜り込み目を閉じる。
==============================
今回はここまでです>>13-1000
続きは折を見て。
まずは作者コメントから
前スレで奏遥香の武器を槍と書いてしまいましたが、
あれって双剣を柄底でドッキングさせた薙刀でしたね。
把握しました。
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>22
× ×
その日の放課後、天乃鈴音は茜ヶ崎中学校の図書室を訪れていた。
元々忙しい身の上で、取り立てて読書家と言うタイプでもなかったのだが、
それでもちょっと行ってみよう、と言う気を起こしていた。
長くもない時間の間、若干の試行錯誤を経て、
鈴音が手にする本は剣とモンスターのファンタジー小説に落ち着く。
予定の時間まで、鈴音は静かな図書室で小説に目を通す。
そろそろと言う頃合いで、本を手に立ち上がる。
カウンターに向かおうとして、ふと、本のカバーを確かめてみる。
今時本に直接カードを取り付けている訳ではない。
かくして、天乃鈴音は、カウンターに小説を持ち込み、
ごく一般的な手順で本を借り入れて鞄にしまう。
図書室を出た鈴音は、そのまま玄関に向かう。
玄関に向かい一人歩みを進めていた鈴音が、ぴたりと足を止めた。
足を止めて、一度、二度瞬きをする。
鈴音はH字路の短い横棒に当たる通路に立っていたのだが、
鈴音の目の前で縦棒に当たる廊下を右から左に通り過ぎた人物の姿が、
鈴音の記憶に照らして色々と奇妙な論理的齟齬を示している。
これが幻覚ならばその理由を自分の思考に問い直す、
その作業に入ろうとした矢先に、鈴音は聞き覚えのある声を聞いた。
「こんにちは」
その屈託のない明るい声は、鈴音の親友の声に他ならない。
「こんにちは」
そして、優しい感じの男子の声も聞こえる。
「昨日、見滝原の音楽室にいた人ですよね」
鈴音が通路から廊下に出ると、背中が見えた。
見滝原中学校の制服の背中だ。
「うん。君もいたの?」
「はい、スズネちゃんと一緒に」
いつの間にかすすすっと自分の隣に現れていた天乃鈴音に視線を向けながら、
日向茉莉は屈託ない口調で言った。
「ヴァイオリン、凄く良かったです」
「有り難う」
実にシンプルな感想を口にする日向茉莉と、
その隣で白磁の様な頬の血色を少々濃い目に彩って
ミリ単位で顎を下に下げた天乃鈴音に、
上条恭介は一見して無邪気とも営業スマイルとも見える笑みを返す。
「それで、ジャズ同行会、どこに行けばいいのかな?」
今時部外者の学校への出入りは難しい所だが、
それでも未だ下校体制の続く玄関の一つを
なんとなく突破してしまいここまで来ていた上条恭介が尋ねる。
「………確か………音楽室」
天乃鈴音はぽつりと言ったその後で、
すーふーと小さく呼吸を整え、一度、上条恭介の目を見る。
「こっちです」
× ×
「今日は吹部メインの日だっけか」
廊下から音楽室の実状を見て、日向茉莉が言う。
「………ごめんなさい」
「いや、こっちこそ」
消え入りそうな声と共に頭を下げた天乃鈴音に、
上条恭介は否定の言葉を口にする。
「………スズネさん?あ、さっき名前聞いたから」
「天乃スズネ」
心拍数を自己平均よりも若干高めにキープしつつ、
下げていた頭の角度を若干戻した天乃鈴音が、
恭介の顎の辺りを視界に入れながらぽつりと自分のフルネームを口にする。
「日向マツリです」
「僕は上条恭介。ごめんね付き合わせて」
恭介の言葉を聞き、その場に立っていた天乃鈴音が、
伏せ気味にしたままの首をミリ単位で横向きに往復させる。
「それじゃあ」
その間に、上条恭介は、にこにこ手を振る日向茉莉と、
何センチか頭を下げた天乃鈴音をその場に残し、
爽やかな笑みと共に小さく手を上げて駆け出していた。
× ×
「昨日はどうも」
上条恭介が少し駆け出した先の廊下で声を掛けたのは、
近くを歩いている所で恭介の視界に入った上級生の男子生徒だった。
「ああ、見滝原のヴァイオリンの」
「はい。忘れ物を届けに来たんですけど、
昨日ピアノを弾いてた………」
「それって奏さん?」
「はい」
「奏さんなら今頃生徒会かな?」
「生徒会?」
「ああー、成績優秀スポーツ万能、ピアノもあの腕前の、
茜ヶ崎が誇るスーパー生徒会長だからな彼女は」
「そんなに凄い人なんですか………」
「おーい」
「あ、悪りぃ、ちょっと急ぐわ」
「いえ、こちらこそすいません」
上級生と分かれた恭介は、
記憶を頼りに案内板を見つけ、そこから生徒会室へと移動する。
「はいはい、それでは会議を再開します」
よく通る、綺麗な声。
恭介は容易に思い出していた。
廊下からちょっと覗くと、生徒会室の中では、
奏遥香がホワイトボードの前に立って会議を仕切っている真っ最中だった。
「つまり、今までの報告によりますと、
かくかくしかじかの大幅な事情の変更の結果、
これはもう、もう一度部長会を開いて一から組み直すより仕方がない、
そういう結論に至ったと言う事ですか?」
「はい、時間的に厳し過ぎる状況ですが、ここまで前提が破綻してしまっている以上、
小手先の修正で対処できる状況ではなく………」
会計の報告を聞きながら、
遥香はホワイトボードにずらずらと数字と文字を書き連ねていく。
「つまり、元々がこうであって………」
そして、そこから更に矢印と数字を書き込む。
「ここからこうして、ああしてこうしてここをこうして
あーしてこーしてこーなってあらえっさっさ、
そこから足して引いて掛けて割ってこうしてこうしてこう書くの、
以上Q.E.D.証明終了です。
それぞれの部の利害、活動から見ても、
この割り振りで差し引きを行えば、最初からやり直す迄もない、
奏ハルカはそう考えるのですが、いかがですか?」
「辻褄が合ってる………」
「当たり前です」
ぽつりと言った副会長に、
コンッ、と、ホワイトボードをマジックで叩いた遥香が胸を張る。
「それでは、この修正で各方面と話を付ける、
その方針で構いませんね。異論がある人は今言って下さい。いませんね。
それでは、連絡通り、私はよんどころのない事情で本日は退出します。
取り敢えず、この修正でそれぞれ話を付けられる様に、
資料をまとめて担当を決めてスタートしていて下さい。いいですね?」
「「「Yes!Haru閣下!!」」」
ぐるりと見回した遥香の前で、
役員が一斉に唱和した。
× ×
「あのっ」
「?」
生徒会室を出た奏遥香が廊下から階段に差し掛かろうとした辺りで、
見覚えのある男子生徒に声を掛けられた。
「上条君?」
「どうも」
遥香に声を掛けられ、接近して来た上条恭介が小さく頭を下げる。
「今日はうちの学校に何か?」
「いえ、奏先輩に」
「………そう。取り敢えず、裏門の方で待ってて」
「はい」
かくして、遥香と恭介は別々の階段を移動する。
「どう言ったご用件かしら?」
裏門近くの生活道路で、遥香から質問された恭介がポケットに手を入れる。
「これを」
自然体かつ内心で万端に身構えていた遥香の前に、
恭介が招き猫のストラップを掌に乗せて差し出した。
「あら、あなたが持ってたの?」
「ええ、昨日電話した時落としてましたから」
「これを届けにここまで?」
「はい」
少しきょとんとした遥香に、恭介は素直に応じる。
「有難う。これ、結構気に入ってたから」
「良かったです」
取り敢えず、用件が分かった所で、
二人は少し歩きながら言葉を交わす。
「これを届けに学校の中に迄?」
「ええと、どうしようかとも思ったんですけど、
何か簡単に出入り出来そうでしたから」
「生徒会長として無断
立入は余り歓迎出来ない事だけど、
でも、有難う」
にこっと眩しい笑顔を向ける遥香の横で、
恭介は少々恐縮する。
「生徒会長なんですね」
「ええ。もしかしてさっきの見てた?」
「ええ」
「まあ、ノリねノリ。
私が優秀だって事はその通りなんだけど、
ああ言うのも楽しいでしょ」
「はあ」
恭介の反応に、遥香はくすくすと笑う。
「それで、本当はよく弾くの?ジャズヴァイオリン?」
「時々、ですけど。奏さん………」
「ハルカでいいわ」
「え?ええ、じゃあハルカさんは………」
「そう。私は………」
言いかけた遥香が、後ろを見る。
恭介がそれに釣られてそちらを見ると、一台のオープンカーがこちらに近づき、
滑り込む様に二人の目の前に停車した。
恭介は、運転手がこちらを向いてサングラスを外すのを見る。
えらくすごい美人がそこにいた。
「はぁい」
「姉さん」
Vカットされたワンピースの胸元にサングラスを引っかけ、
軽く右手を上げて挨拶する運転手に遥香が応答する。
「お姉さん?」
「ええ」
尋ねる恭介に遥香が応じる。
確かに、どこか遥香に似た面影を持つ、
そして遥香をぐっと大人にした様でもある美人だ。
そして、恭介はちょっと待て、と、猛烈に記憶を辿っていた。
「奏さんの、お姉さん?」
「ええ、奏カナタです、よろしく」
にっこりほほ笑むカナタを前に、恭介は目をぱちくりとさせていた。
それは、世の男性の魂をまとめて引っこ抜きかねない
女神の微笑みが一因であった事も確かではあったが。
恭介は、ふらっ、ふら、と、車に接近していた。
「奏、カナタさん?」
「ええ」
「初めましてっ!!
上条恭介と言います、ヴァイオリンを少々」
恭介は、助手席の真横でばたん、と、体を折っていた。
「上条恭介君。………門下………」
「あの、僕の事を………」
「妹に歳の近い地元も近い、………門下の超有望株だもの」
「光栄ですっ」
恭介が更に深く頭を下げる。
「事故で再起が危ぶまれた、と、聞いたけど」
「そんな事まで。ええ、今はもう、
遅れを取り戻している所で」
「昨日も、素晴らしい演奏を聞かせてもらったわ」
「そう、それは何より。
あなたも、私の事を?」
「もちろんですっ。
多少なりともこの世界に関わっていれば。
先日発売のDVD、NYの、………氏との夢の共演。
素晴らしかったですっ」
「有難う、と、言いたい所だけど」
少し困った笑みを浮かべたカナタが、
返した掌を少し上に上げる。
それに釣られて頭を上げた恭介のおでこを、
運転席からにゅっと体を伸ばしたカナタの人差し指がツンと突いた。
そちらに目の向いた恭介の前で、
ツルをワンピースに引っかけたサングラスがゆらゆらと揺れる。
「目の前で目移りする男の子は嫌われるわよ」
「いっそ清々しいわよ」
ふふっと笑うカナタの側で、遥香が腕組みをして嘆息した。
「ハルカ、先方の到着が早まった。
迎えに来たんだけど、いいかしら?」
「そう、分かった。
じゃあ上条君、私はこれで。今日は有難う」
「いえ、こちらこそ」
助手席に乗り込む遥香に、恭介はぺこりと頭を下げる。
「そうね、何れ機会があったら一曲合わせたい所ね」
「喜んで」
遥香の言葉に、恭介は言葉通りの喜びで応じる。
「それじゃあ」
「ばぁーい」
明るい挨拶と共にエンジン音を響かせ遠ざかる姉妹を、
上条恭介はのんびり見送っていた。
そして、腕時計を確認し、
綱渡りな交通機関へのダッシュの構えをとる。
× ×
「はああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
ホオズキ市内に発生した魔獣の結界内で、
魔法少女天乃鈴音が躍動する。
魔獣の群れのど真ん中に着地した鈴音が、
相手に反撃の機会を与えず大剣を振るい、魔獣共を薙ぎ倒していく。
ばばばっ、と、魔獣ビームが鈴音に集中した時には、
そこには鈴音の姿はなかった。
(体が軽い)
そして、別の場所にすとーんと着地した鈴音の周囲で魔獣が蹴散らされる。
そのまま、どんっ、と、鈴音が前方にダッシュすると、
魔獣の群れはそのまま断ち割られ道になる。
鈴音が行き着いた先で、鈴音の豪剣が一閃した。
「魔獣はこの辺、みたいだけど
「なんかノリノリだね」
まず別行動から応援要請で急行した詩音千里が言い、
それに同行していた成見亜里紗も死神的な大鎌を背中に抱えて笑って言った。
「えーい、やぁーっ、とぉーっ」
「このっ、結構しつっ、こい………」
奮戦する日向茉莉の側で、
やはりチャクラムを駆使して魔獣の群れに対する日向華々莉が毒づく
「あ、スズネちゃ………」
そこに、鈴音が急行した、と、思った時には、
どぱんっ、とばかりに目の前の魔獣が吹っ飛んでいた。
そして、鈴音はびゅうっとばかりに残りの魔獣を片付けに移動する。
「絶好調だねスズネっち」
華々莉がぽかんと言った。
「何か、いい事でもあったのかしら」
魔獣を焼き尽くす業火を背景に、
美琴椿がほわほわ笑顔で微笑ましく眺めていた。
==============================
今回はここまでです>>23-1000
続きは折を見て。
作者コメント
毎度遅くなってすいませんが、奏カナタの漢字表記
奏可奈多、把握しましたので今後使わせてもらいます。
それでは今回の投下、入ります。
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>>33
× ×
朝、自分の席に着席しクラスメイトと些かの談笑をしていた志筑仁美は、
そうしながら教室に入って来た一人の少年に視線を滑らせる。
それを察して、クラスメイトもさり気なく仁美から距離をとる。
「お早う、志筑さん」
「お早うございます上条君」
上条恭介が仁美の席に近づき、挨拶を交わす。
「ねえ、志筑さん」
「はい」
「奏ハルカさん、って知ってる?」
「カナデハルカ、ですか?」
「うん、僕達より一つ年上でホオズキ市の茜ヶ崎中学校。
ピアノがかなり出来る人の筈なんだけど………」
「奏カナタの妹さんですわね」
人差し指で触れた顎を少し上に向けて、仁美が答えた。
「うん、そうだけど。知ってる?」
「面識はありませんが、
………門下でも相当の実績、実力と。只………」
「只?」
「最近は、ピアノはピアノでも、
少々別の方向で名前が伝わっておりますが」
「それって、ジャズピアノ?」
「ええ」
「志筑さんがジャズピアノを?」
「いえ、わたくしは余りそちらの方は。
ホームパーティーでジャズピアノを披露する機会が幾度かあった様ですわね。
奏の家はホオズキ市でも政財界に通じた名家です。
公の場所での演奏があったのかは存じませんが、
音楽家や、本物を聴き込んだと言う耳の肥えた方々の間からも、
これは相当なものだと少し話題になっている、と、伺っています」
「やっぱり、そっちの方だと奏カナタの名前が出て来るよね」
「文字通りの天才ですもの」
恭介の言葉に仁美が即答した。
「その、名門奏家に生まれ、文武両道才色兼備の王道を行く。
特にピアノと絵画の世界に於いては………」
ここに仁美の親友美樹さやかがいたならば、
仁美の並べた名称に頭を抱えるか舌を噛んでいただろう。
「………数々の日本人最年少受賞を初めとした余りにも輝かしい実績。
その音色は神の音色に他なりませんわ」
恭介は、些かなりともその世界に関わる人間として、
仁美が両手の指を組んでうっとり語る内容が、
例えにしても幾らなんでも、等とは決して言えない事を
知識としても経験としても理解していた。
「ホオズキ市の名門奏家に生まれ、芸術、学業から今や実業に至る迄、
真の天才、と言う言葉を奏カナタさんはそのまま体現しています。
そして、溢れる程の美貌にすら恵まれた人。
その存在自体が、天は二物を、等と言う言葉を戯言と為している人です。
何れ奏の家、ホオズキ市は元より
県から関東、日本や世界の次元で活躍するであろうと。
個人的業績であれば既に溢れる程に手にしていますわね」
「そうだね。奏カナタさんの事なら、
世界レベルの事まで黙ってても耳に入って来る」
「上条君はその奏カナタの妹さん、奏ハルカさんの事をどちらで?」
「この間ジャズ同好会に行った時に」
「ああ、そちらからのお話でしたか。
上条君も時々演奏してましたわね」
「うん、本番のコンサートも近いから、こないだちょっと気持ちの切り替えに」
「そうですわね。上条君、根を詰め過ぎてしまいますから」
「じゃ、有り難う志筑さん」
「いえ、頑張って下さいまし」
恭介がひらひら手を振り、用でも足しにか教室を出た後、
離れていた級友が仁美に寄って来た。
「ちょっと仁美」
「はい?」
「いいのあれ?」
「はい?」
「いやだからー、
仮にも彼氏から他所の女の事聞かれて平気で答えてるとかって」
「音楽の事で興味を抱かれたのでしょう」
「うーん、まあ、上条君ヴァイオリン馬鹿、ってのはよく聞くけどさ。
でも、茜ヶ崎って部活で知り合いいるんだけど、
奏ハルカって言えばあっちの生徒会長だよ」
「あら」
「それも、才色兼備成績抜群スポーツ万能芸術万能、でもってすっごい美少女。
他所からちょっと知ってる私にも聞こえて来るぐらいのスーパー美少女だから。
そんなの自分の彼氏にお近づきとか、
それ以前に話題に出された時点で私ならキレる」
「事、音楽の事となると、
余計な事など見えなくなる人ですから」
にこにこと答える仁美を前にしては、
凡庸な俗人の女子生徒A等お手上げだ、
と、お手上げしている当人がそう思えてしまう所だ。
「おっはよーっ」
そこに聞こえて来た声は、志筑仁美の多分大親友の元気な挨拶だった。
分を弁えた級友は再び仁美から離れる。
果たして、教室の入口では、
美樹さやかが鹿目まどか、暁美ほむらを引き連れて近づいて来た所だった。
「お早う、仁美ちゃん」
「お早う志筑さん」
「お早うございますまどかさん、暁美さん」
人懐っこく挨拶する鹿目まどかとそれに倣う暁美ほむらに仁美が挨拶を返す。
仁美から見て、鹿目まどかは小学校時代に彼女が転校して来て以来のよき友人であり、
暁美ほむらは今年に入って転校して来たが、
その鹿目まどかと仲良くしている少し謎めいた美少女。
だが、最近は少し打ち解けた所も見える、いい友達になれそうだと思える相手だ。
そして、
「おっはよーっ仁美」
「お早うございますさやかさん」
からっと声を掛けて来た美樹さやかに、仁美もにっこり笑って応じる。
とにかく元気が取り柄、陽性少女な仁美の大事な親友、幼馴染の美樹さやか。
仁美にとって、自分で言うのもなんだがお嬢様として
少々距離を置いた、置かれた関係が普通だった仁美にぐいぐい突っ込んで来て、
それで、失敗が無かったとは言わない、と言うか、ここに至る迄の過程で結構満身創痍。
それでも、楽しく親友を続けていられるのが美樹さやか。
その後、仁美が鹿目まどかや、間接的には暁美ほむらと言ったよき友人に恵まれた事も、
元はと言えばさやかのお陰と言う事になる。
「ウサギ当番お疲れー、あいつらいい子にしてた?」
「元気一杯ですわ」
「だよねー、こないだまで赤ちゃんだと思ったら」
「本当に、元気にはしゃぎ回って、丸でさやかさんみたい」
「何をー、おー、まどかに転校生までクールに笑ってくれてんじゃないの」
「どうだったかしら」ファサァ
「ウェヒヒヒ………」
いつもの、友人との愉快な朝の一時に、
志筑仁美は心から幸せを覚えていた。
× ×
「あの、もし」
学校での授業が終わり、志筑仁美の多忙な半日はむしろここから始まる。
そういう訳で、些か名残惜しくも学校での友人達と分かれ、
一度帰宅した仁美は着替えを済ませ、お稽古事に向かう。
多忙な中、精神をピンと張り詰めながらも、
充実した緊張感の中でその日の稽古を終え、礼を交わし表に出る。
志筑仁美が、先程まで稽古を共にしていた同年輩の少女に声を掛けたのはそんな頃合いだった。
見かけはしたものの、今まで足を踏み入れる迄は至らなかった純喫茶店で、
仁美とその連れはぱらぱらと席を埋める先客からちょっとした注目を集めていた。
お稽古着とは言え、和服の中学生が二人テーブル席に就いていればそれは目立つ。
或いは、多少土地勘があれば、近くの教室でお茶を習っているのかと気づくかも知れない。
取り敢えず、二人は無難に紅茶を頼み、話が始まる。
「確か、ホオズキ市から通ってらして」
「はい、少し遠いですけど先生とは付き合いがありまして」
「そうですか。ピアノの覚えもあると」
「些か」
そのための所作を覚え易い和服姿で、
地元では名家の内に入るお嬢様二人が話をおっとりと話を進める。
「あちらのピアニストと言えば、
奏カナタさんがおられますわね」
「ええ、あの方は別格、あらゆる事に溢れる才能を発揮して、
ピアノに於いてもそれはもう、神の音色ですわ」
仁美の言葉には、うっとりとした返答が戻って来た。
「奏カナタさんには、私達と同じぐらいの妹さんがおられると」
「存じておりますわ」
「同じ学校ですの?」
「学校も同じですけど、ピアノも同じ門下ですので」
「そうでしたか。やはり奏ハルカさんもピアノを、とは伺っておりましたが」
「ええ、カナタさんとは比べるべくもありませんが、
それでも、あの方も本物、と言える技量の持ち主です」
「それほどのピアノを」
「ピアノも、それ以外のおよそあらゆる事に於いても、ですわ。
学校では生徒会長で成績もトップクラス。
スポーツもよくなさる方で、そして人望厚い。
やはり奏の一族に相応しい実績と品格の持ち主であると」
「その様な、素晴らしい方でしたか」
「素晴らしい方です」
「それは、ピアノも、ですわね」
「ええ。最近はジャズ・ピアノに手を出しているとも聞きますが、
クラシックに於ける技量は流石、と言えるものです」
「そうですか。無論、たゆまぬ鍛錬の賜物ではありましょうが、
やはり、その様な育ちなのでしょうか」
「そうですわね………只………」
「只?」
「いえ、確かに奏ハルカさんは奏の家に相応しい立派な方です。実力もあります。
その事自体は昔からですが、何と申しますか、覚醒した、とでも言いますか」
「覚醒?」
「ええ。あの方の事は割と小さい頃から存じておりますが、
かつては、確かに才能には恵まれて、ええ、努力すると言う才能にも恵まれて、
堅実に積み重ねておりました。
しかし、そこで壁に当たって、もう一歩と言う所に踏み出せない。
そういう弱さのある方でもありました」
「今では違うんですの?」
「無論、それが無い、と言う人間はそうはいません」
「その通りですわ」
「当時のハルカさんは、真面目に取り組み伸びるものがあっても、
どこか自信なく伸びきれない、そういうタイプでした。
でも、何か心に期する事があったのでしょうか。
いつかの時期を境に、丸で殻を破る様に秘めていた実力を伸び伸びと発揮する、
そんな自信に満ちた演奏を始めました。
学校に於いても、真面目な優等生、に留まっていた評価が、
流石は奏の家の者、そうでなくとも自ら高見を目指し人をも引っ張る逸材、
として本格的に知られ始めたのもその頃からだと思います」
「やはり、何か奏の家で期するものがあったのでしょうか」
やはり、志筑仁美としても発想はまずそこに行き当たる。
志筑も、奏も、少なくとも地元に於いては名家で通っており、
それは家柄のみならず、現実的な「力」を今でも十分伴っている。
そこには、恵まれている事、窮屈な事、一言では言い表せない様々な事情がある。
「きっかけまでは分かりませんが、
それでも、今のあの方を見ておりますと、
それが本来のハルカさんの力なのであろうと」
「そうですか………
奏カナタの妹、それだけの実力、精神力、品格を持つ、
そして表現する音色を奏でる事が出来る。
その様な、素晴らしい音色、音楽の持ち主ですか」
仁美は、相手が頷くのにはさ程の反応を示さず、
つと窓の外を眺めていた。
× ×
天乃鈴音は、一人机に向かっていた。
一通りの予習を終え、それからも予習復習に勤しんでいた訳だが、
気が付くとノートはカタカナで書かれた人名でびっしりと埋め尽くされていた。
その事に気付いた鈴音は、その五枚程のルーズリーフを外すと、
ぱあっと部屋の中にばら撒きながら魔法少女に変身する。
そして、ささささっと大剣を振るった後で、
変身を解除し床にばらまかれた紙吹雪を箒と塵取りで回収しゴミ箱に捨てる。
些かもったいない話であるが、仕方がない。
別に妙な神様の加護を受けている訳でもない市販のルーズリーフである以上、
そこに見知った人名を書き込む事自体には一向に問題はない。
一文字単位になる様に切り刻み、機密保持は十分の筈である。
ふうっと嘆息した鈴音は、床にごろんと寝転がり、
インターネットに接続したスマホを眺めていた。
流石に今の時代と言う事で、
苦しい中でも肩身が狭くない様にギリギリで用意されたデバイス。
そこに映し出されるのは、大昔のアニメ雑誌の表紙。
先日、DVDレンタルでパッケージを眺めていたアニメが描かれたもの。
今の鈴音の状態では、希少古書を狙って手に入れる等、夢の又夢。
スマホの操作を終え、充電に回してから、鈴音はがらりと窓を開ける。
閑静な地域で星空が見える。
今時の中学生であれば宵の口だが、鈴音の立場では、そろそろギリギリの時間になる。
× ×
「おや」
ホオズキ市内にある「夕凪新聞」販売店の一階で、
そこのおかみさんが気付いたのは澄んだ歌声だった。
邦訳されたアメリカンな響きが故郷への道行を描き、一時の郷愁を誘う。
それを一通り聞いた後、おかみさんは表に出る。
気持ちは分かる気もするが、そろそろ時間も時間だ。
おかみさんが表の道に出て上を見上げると、
丁度、そこに住み込んでいる天乃鈴音と思しき人影が、
二階の窓を閉めて消灯する所だった。
曲折を経てこの販売店に住み込んでいる天乃鈴音はおかみさんもお気に入りの働き者。
鈴音は家族で事故に巻き込まれ、幸い肉体的には何とかなったものの経済的に瀕死となった。
現状、なんとかかんとか破滅こそ免れたものの、
曲折を経て本人の希望でここで引き取る事になったのが天乃鈴音。
そんな、健気で働き者の苦学生だった。
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今回はここまでです>>34-1000
続きは折を見て。
作者コメント
魔獣さん、随分バリエーションが出て来ましたな………
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>42
× ×
その夜、上条恭介が一人愛器を奏でていたその場所は、
彼が訪問していたホオズキ市内の邸宅の一室。
本来であれば自宅でみっちり練習している時期であるが、
この日は少々事情が違っている。
それでも、この時間空間が確保出来なければ、
少々後ろ髪引かれつつも自宅に留まっていた所だ。
如何にもいい所のお坊ちゃんと言った、
浮いて見えないセンスの礼服姿の恭介が演奏を止め、部屋を出る。
一般的な基準で言えば長い廊下が続いている。
とにかく、納得出来るかな、と言うぐらいには弾き込んだ後で、
恭介は部屋を出ていた。
× ×
「おお、恭介」
広いリビングに戻った所で、恭介は父に声を掛けられた。
「やあ、恭介君。練習の方はもう?」
「お蔭様で、有難うございました」
「いやいや、こちらこそ忙しい中を」
等と、恭介とこの屋敷の主は言葉を交わした。
そこそこ賑わっているホームパーティーの会場。
恭介は、一つのテーブルに近づいていた。
「上条君?」
「ああ、どうも」
そこで、声を掛けて来た奏可奈多に恭介が頭を下げる。
「飲む?」
「いただきます」
勧めて来たのは奏遥香。
元々目的がそれだった恭介は素直に応じ、
遥香がデキャンタから二人分のリンゴジュースを注いで一つを恭介に供する。
「乾杯」
可奈多の音頭で、なんとなくジュースのグラスとブランデーグラスが合わせられる。
「お酒、大丈夫?姉さん」
「大丈夫、本日のメインイベントまで誰が酔っ払ってられるものですか。
上条君だってそうでしょ?」
「はい」
「ふふふっ」
素直に応じる恭介に、明るく笑った可奈多は腰を折り、
恭介の鼻を摘まむ。
「姉さんっ」
「ごめんごめん」
憎めない笑いと共に姿勢を正した可奈多に、
恭介は束の間見とれていた。
「でも、楽しみよね。
上条君もそのために来たんでしょ?」
「はい」
姿勢を戻した可奈多が恭介に言い、恭介も素直に答えた。
可奈多と遥香は、
それぞれ黒とミントグリーンのフォーマルドレスに白いボレロを合わせている。
可奈多のドレスはフォーマルだが、
大人の艶やかさを引き出すデザイン、カッティングをさり気なく配慮している。
それを着こなす可奈多は、恭介でなくとも世の男性の目と心を容易に引き付けてやまない。
「さっき、向こうの部屋で弾いてたわよね」
「ええ」
グラスを弄びながら言う可奈多に恭介が答える。
「良かったわよ」
「有難うございます」
何の事は無い一言でも、恭介の返答のキーは心なしか跳ね上がる。
奏可奈多とは、それだけの存在である。
「あの溌溂とした躍動感は上手く表現されていた。
私、彼女の事好きよ」
「奏………カナタさんも聴くんですか?ああいう曲………」
「若い子の曲をなんでも、って訳でもないけど、
あの娘の曲はたまたま耳についたから。
ええ、技量は悪くない。
それは、私に言わせるなら若いシンガーとして悪くない、と言う程度の、
正直それ以上でもそれ以下でもない。
でも、それを超えたものを感じる。違う?」
「そう、思います」
グラスをくるくる動かし、横目で恭介を見た可奈多の問いに恭介が答えた。
「君も、決して悪くないけど何処か捉えあぐねている、のでいいのかしら?」
「その通りです」
恭介が真面目に答える。
「無理もないわ、正直私にも分かりかねるもの」
そう言う可奈多は、天を仰いでいた。
「如何にも若い女の子の溌溂とした明るさ。
なのに、この身を突き抜けてハートを温める清冽なエネルギーは、
どこか荘厳さすら感じさせる。
もしかしたら何かあるのかも知れないし無いのかも知れない」
「何か、ですか」
「ええ。例えば私がヨーロッパで触れた神に捧げる音楽の様な何か、とか。
事によっては掛け値なしの天才、と言う事にもなるけど、
あの娘の今の若さで決めるのは早計ね。
あーあ、何か、さっきからすっかりおばさんね私」
可奈多はグラスを置いて腕を後ろに回し、
いかにもおばさんらしく、うんっ、と、背筋を伸ばす。
それが又、柔らかなフォルムを描く抜群のスタイルを強調して恭介の視線を停止させる。
「それじゃあ、
ここは若い衆に任せておばさんは挨拶周りでもして来るわ」
可奈多は、ひらひらと手を振ると、
恭介の側を離れて屋敷の主人の方へと歩き出した。
× ×
「全く………
でも、上条君、こちらと知り合いだったの?」
ホームパーティー会場で、姉の向かった方向、
パーティーのホストと談笑しているシーンを見ていた遥香が尋ねた。
「最近です。父が仕事の関係で知り合って、
それで、音楽の事でも意気投合したとかで。
僕も何度か貴重なものを教えていただきました」
「そうね、ホオズキ市はおろか県内でも指折りの
愛好家でありスポンサー、コレクターでもある人だから。
父とも姉とも親しい人だから、私とも一応顔見知り」
「そうですか」
「上条君も、ここであれだけ弾き込みをしてる時期でも、
流石にあれを手に入れた、と言われたら外せない所ね」
「ええ、そういう事です」
そう言って、二人は悪戯っぽく笑みを交わす。
ミントグリーンのフォーマルに白いボレロを合わせた遥香は、
可奈多の隣に立てば清楚な少女そのもの。
そして、その条件が外れた時、恭介に見えるのはちょっと大人びた、
それでいて屈託のない笑顔を見せる美人の上級生。
「でも、ああして聞かせてもらうと、
上条君も長く弾いてるのよね、それこそ年齢ぐらい」
「その辺りですね。まだまだ道半ばにも全然届かないですけど。
だから、迷ったりする事もあります」
「それでジャズに走ったり」
「実際そうです」
恭介は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「実際、煮詰まってたってのもあったんでしょうね。
一時期ギタリストになろうとかって、
大真面目に考えた事もあります」
「へえー」
「近所に歳の近い、ジャズギターを弾く女の子がいて、
その時までは只、近所で勝手に聴いてただけだったんですけど、
思い切って声を掛けたんです。弟子入りさせて欲しいって。
若気の至りですよ本当に。
そしたら、課題曲三曲、
ジャズヴァイオリンで弾いて来たら考えてやるって。
それが出来た時には麻疹が治ってました」
「イイハナシねー」
遥香は、くすくす笑って棒読みする。
元より、恭介の反応を読んでの事だ。
「その女の子が、今、見滝原のジャズ同好会で会長やってる先輩なんですけど、
後から言われました。
自分が小学校から始めて四苦八苦してるのに、
物心ついた頃からあの艶が出るまで弾き込んで来た人間がふざけるなと思ったって」
「辛辣。でも、そういう事になるわね」
結構瞳が大きい。
片目を開けて笑っている遥香は、素直に可愛らしかった。
「それで、今でも時々先輩と一緒にああやって。
だから真面目な息抜きって言うのも、その通りです」
「そう。機会があれば上条君もそちらもご一緒に合わせてみたいものね」
「それはもう………」
「失礼」
遥香がスマホを取り出し、操作する。
「失礼、ちょっと友達と。
上条君も連絡先交換する?」
「ええ」
恭介が自分のスマホを取り出し、連絡先を交換した。
「本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます」
挨拶が始まったのを察して、恭介と遥香もそちらを見た。
「………将来を嘱望されながら、残された音源は限られたものとなってしまいました。
今回発見され、特に借り受ける事が許可されましたのは………
………に於けるパーティーで撮影された………」
夭折し地方に埋もれた若き俊才。
この夜、その演奏が収録されたフィルムが上映され、
上条恭介達は、時代の彩りと共に響く音色に暫し聞き入っていた。
× ×
あすなろ市、御崎海香邸。
チャンカチャンカチャンカチャンカチャンカチャンカチャンカチャンカ
「タッコタッコタッコタッコたっこおっどりぃwwwwwwwwwwwww」
タンカタンカタンカタンカタンカタンカタンカタンカ
「ふむ」
「なんだアレ?」
屋敷を訪れた神那ニコと聖カンナの姉妹は、
リビングで和紗ミチル、昂かずみ姉妹が展開している謎の暗黒舞踊を指さして尋ねる。
「あー、ニコ、カンナ、見てよこれっ!」
ぱあんと一度ミチルとハイタッチを決めたかずみが、
だーっと台所に走り、リビングに戻って来る。
「「デビルフイッシュ!!」」
「すっごいでしょーっ」
叫ぶニコとカンナの前で、
かずみは一片の迷いもなく自慢げである。
先程まで蓋と重石のついたバケツの中では、うねうねと動いていた。
「お魚買いに行ったら、
ちょうど釣りに行った知り合いに貰ったのがあるからどうだいって」
「だからさぁ、この後で産直野菜の買い出し付き合わされて大変だったんだからー」
そこに出て来た牧カオルが苦笑いする。
「とーぜんっ、こんなの手に入ったら
徹底的に美味しく味わい尽くさないとねっ!」
「それは楽しみだね、うふふっ」
ミチルの気合いに、浅海サキが優しく微笑む。
「今夜はボク達、サキとみんなとご飯だからねー、
美味しいの楽しみにしてるよーっ」
「任せてっ」
若葉みらいの言葉に対し、
かずみの返答には一片の曇りもなかった。
そして、ミチル、かずみの姉妹は台所に移動する。
斬る!
茹でる!!
混ぜる!!!
盛るっ!!!!!
「お待たせーっ。
蛸と季節の野菜のトマトソースでございまーすっ!」
ダイニングテーブルに出される大皿パスタ。
それが齎すものは、魔獣結界など児戯に等しい壮絶なる、
しかし、明るく楽しい戦さの一時であった。
「いっただっきまぁーっすっ!!!!!」
× ×
美味しいパスタを鱈腹食べて、満ち足りた夜のお茶の一時。
静かにお茶を傾けていたこの屋敷の主、御崎海香がガタッ、と、立ち上がる。
そして、すたすたと奥の部屋に向かう。
「わっくる神が下りたみたい」
それを見て、側で談笑していた牧カオルと
ミチル、かずみの姉妹が歓迎の笑みと共に言葉を交わす。
その近くでは、みらいとサキがじゃれていたりする。
幸せな一時だった。
基本的には、ここに暮らしているのは、親の海外生活と言う理由で、
夢の印税生活でこの豪邸を建てた海香本人とカオル、ミチルとかずみの四人。
だが、四人が属している魔法少女軍団、通称プレイアデス聖団のメンバーは、
何かと言うと使い勝手と居心地のいいこの屋敷に集まっては
完全にここをアジトにしている。
ミチルとかずみ、ニコとカンナ等は顔立ちまでそっくりな双子姉妹でありながら
名字が違うぐらいには若干それなりの事を抱え、
他の面々も同じく、紆余曲折を経てここにこうしてチームを作り、集まっている。
魔法少女と言う世界では、利害の関係で武力衝突に至るケースすら稀ではないが、
ここにいる面々は信頼できる仲間であり友。
昂かずみは、そろそろトランプでも用意しようか、
等と考えながら、その幸せをかみしめていた。
“総員、戦闘配備!!”
「へ?」
突如、頭の中に直接叩き込まれたニコの大真面目な叫びにも、
たった今までが今までだけに、
正常化バイアスを消せ、と言う方が酷な事だった。
その間にも、ニコは屋敷の電算室から飛び出して来ていた。
「セキュリティーが落とされたっ!!」
「!?」
ニコの叫びと、リビングの照明が突如落ちたのはほぼ同時の事だった。
かずみの目の前が明るくなった、なり過ぎた。轟音とともに。
× ×
“何なの、これは?”
“警備会社、管理系との連結を含めて、
電子的なセキュリティーが落とされたのは確かだ。
状況的に、こっちじゃなくて会社側のホストからとしか思えないから、
尋常じゃない技術って事になるけどね”
“最新鋭が仇になった、って事”
未だ暗闇のリビングに転がされた状態で、御崎海香と神那ニコが念話を交わす。
二人共、一瞬物凄く眩しい光と轟音に視聴覚を失い、
感覚が戻った時には特殊部隊じみた黒ずくめの集団にSMGを向けられ両腕を取られて
その後は両親指をタイラップで後ろ手に拘束されていた。
そして、他の面々もことごとく同様にされたらしい。
「おいっ!」
そんな、リビングでうぞうぞ動き回っている黒ずくめの一人が叫ぶ。
その手には、人形が握られていた。
「なんだ、これ、は………」
「それは、デコイラン」
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今回はここまでです>>43-1000
続きは折を見て。
それでは今回の投下、入ります。
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>>53
× ×
「だあああっ!!!」
御崎海香邸リビングで、聖カンナが振り回すハンマー投げのハンマーを叩き付けられた
特殊部隊風黒覆面黒ずくめ暴漢が次々ぶちのめされる。
そして、そのハンマー投げ自体が、
カンナによりいつの間にか紐を付けられた暴漢の一人に他ならなかった。
「有り難う」
カンナに親指のタイラップを解かれた浅海サキが言う。
「ちっ」
それでも体勢を立て直そうとする黒ずくめだが、
サキが放つ長短自在の魔法鞭に牽制される。
「ちっ!」
たんっ、と、サキが低く跳躍し、そして長鞭を振るう。
その鞭を辛うじて交わした暴漢のサイレンサーSMG発砲により、
サキの衣装の袖に裂け目が走る。
× ×
海香邸周辺のワゴン車の中で、一人の男が電話を受けていた。
「状況は?」
「奇襲失敗、戦闘に入っています」
「撤収なさい」
「いや、まだ………」
「奇襲が絶対条件、
あなた方がまともな戦闘でマギカをどうこうしようと言う時点で根本的に間違ってる。
口止め料も込みで後金の三割程度は口座に入れておいてあげる」
「申し訳ない」
御崎海香邸では、撤収が始まっていた。
「あいつらを抑えろっ!」
神那ニコが目で指したのは、電算室から出て来る複数の黒ずくめだった。
既に拘束を解除された魔法少女達が取り囲み、抵抗力を奪っていく。
その間に、黒ずくめの他の面々は屋敷を脱出していた。
「死にたくなければ失せろ」
ニコが、真っ裸で床に座らされた男三人女一人の強盗団に冷たく告げる。
そのニコの背後では、
クレイモアを肩掛けにして血走った眼差しで強盗団を見据えた若葉みらいが、
ふーっ、ふーっと荒い息を吐いている。
残された四人の強盗は、這う這うの体で走り去った。
取り敢えず、この戦いに於けるプレイアデス聖団の労力は、
若葉みらいに人間ハンバーグの種を作らせない事に大幅に傾注されていた。
かくして黒ずくめの強盗団が走り去り、
一同は当面の被害状況を確認する。
「どうだった?」
「USBの類は後で要確認だね」
サキに聞かれ、電算室から出て来たニコが答える。
「もしもし」
御崎海香が自分のスマホで電話に出る。
相手は強盗団を追跡した聖カンナだ。
× ×
あすなろ市、廃工場。
そこに停車した一台のワゴン車から、黒ずくめの集団がざざざっと降車する。
「!?」
そして、何処からともなく飛んで来た光球の直撃を受け、吹っ飛ばされる。
「地の利はこっちだからね」
光球を蹴り出した牧カオルが、ふんっと鼻を鳴らす。
強盗団の動きを途中まで把握し、
ここが車の乗り換えポイントと踏んで、大当たりだった。
「誰に頼まれた?」
「言えないな、どっち道、言えば生きてはいけない」
頭目らしい男の胸倉を掴んで浅海サキが迫るが、
これが返答だった。
「そう。じゃあ死ねよ。
腕脚一本ずつ潰してやるからさぁ」
「無駄だ」
クレイモアを振り上げる若葉みらいに聖カンナが言う。
「どの道、こいつらはろくな事は知らない。
面倒は増やすな」
「二度と私達に手を出さないで。
次は殺してくれと哀願する事になるわよ」
「あ、ああ、分かった。
どの道この様じゃあ次なんてねぇよ」
「!?」
カンナと海香の言葉に応じ、
ざざざっと撤収する黒ずくめと入れ違う様に、
サキが長鞭を振るった。
「魔力!?」
「なんだっ!?」
プレイアデス側、黒ずくめ側からも悲鳴が交錯する。
「早く逃げなさいっ!!」
海香が叫び、黒ずくめが這う這うの体で車を発車させる。
サキが鞭を振るった方向では、
小さな雲とでも言うべき魔力の塊がもくもくと湧き上がっていた。
「くっ!」
白雲は、神那ニコの指ミサイルを受けて砕け散った様だった。
「やったかっ!?」
「!?」
一同が甲高い声を聞いたのは、上空からだった。
「鷲っ!?」
牧カオルが叫び、海香と共に光のシュートの準備に入るが、
人ぐらい連れ去りそうな真っ白な巨大鷲の急降下の方が断然早かった。
「くあっ!」
直接ぶつかったか、衝撃波か、何人かがその場に吹っ飛ばされる。
「つっ………」
吹き飛ばされて尻餅をついたサキが立ち上がうとする。
その時には、飛翔した巨大鷲が鋭い爪を向けてそちらに急降下していた。
この巨大鷲に、巨大な熊三頭が飛びつき動きが止まる。
「こんの野郎おおおおおーーーーーーーーーっっっっっっっっっ!!!!!」
魔法少女の力で大ジャンプした若葉みらいのクレイモアが、
巨大鷲に抱き付く巨大熊ごと巨大鷲を一撃する。
「まだ生きてやがるううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっっっっ!!!!!」
「みらいストォーップ!!」
海香からの念話を受けていたサキが叫びみらいを制止する。
その間に宇佐木里美と巨大鷲が正面から対峙する。
そして、巨大鷲は、再び雲と化してそのまま雲散霧消していた。
「サキッ、大丈夫っ!?」
「ああ、大丈夫だ有り難う」
みらいの叫びに、サキは優しいハグと共に応じる。
「どう?」
「生き物、ではあった。少なくとも生き物の部分はあったと思う。
もう少し時間があればコミュニケーションも出来たと思うけど」
海香の問いに里美が答える。
「キューブ、ありったけ出して」
そこに駆け寄った神那ニコが言う。
ニコに従い向かった先では、
限界に近い色のソウルジェムを置いて聖カンナが座り込んでいた。
取り敢えず手持ちのキューブで応急処置を行い、
一同はカンナに促されて一旦廃工場を後にする。
「状況は?」
途中の夜道でサキが尋ねる。
「こっちの出方を読まれてたね。
あの廃工場には隠しカメラが幾つもセットされてた。
だから、あの化け物に繋がった魔力や隠しカメラの接続状況を
こっちから逆探知して一つの結論に至った。
敵はあすなろドームにいる。急げば補足できるかも知れない」
× ×
あすなろドームに侵入したプレイアデス聖団のメンバーは、
三手に分かれてグラウンド外の内部施設を一通り調べるが、特に怪しいものは見つからない。
しかし、客席に出た時、それははあからさまに見つかった。
ピッチャーマウンドに、黒いフードつきローブが見える。
顔はよく見えないが、人だとするとかなり小柄だ。
メンバーは三方向からグラウンドに下りる。
「星空………」
開いた屋根に視線を走らせ、浅海サキが呟いた。
次の瞬間、グラウンドは、
ピッチャーマウンド周辺を残してその大半が埋め尽くされた。
グラウンドを埋め尽くしたのは、
巨大な蛇の群れだった。
ピッチャーマウンド近くで、
聖カンナが振るったバールががきっ、と、受け止められた。
バールを受け止めたのは二振りの軍用ナイフ。
ぎしっ、ぎしぎしっ、と押し合いながら、
ニコは、とても少女のものとは思えない大振りの軍用ナイフを扱う、
ライダースーツを思わせる黒ずくめに黒髪の似合う少女と目を合わせる。
その間に、ローブは支えを失い地面に伸びる布の塊と化す。
「どいてっ!ミンチにしてやるよっ!!」
マウンド周辺の空間で、
びゅんびゅん鞭を振るって大蛇の群れを牽制するサキにみらいが叫ぶ。
「やめた方がいいわね」
ぼそっと呟いた御崎海香が、槍を手に跳躍した。
牧カオルが放つ、前もって用意した光球シュートの援護を受けて、
海香が大蛇のた打つ一角に着地する。
ぶうんっ、と、槍で周囲の空間を開いた海香は、
そのまま魔法の槍を本の形状に戻し、地面に手を着く。
「よくってよ」
海香が告げて立ち上がった時には、蛇の海は消滅していた。
そして、海香は本を開き、言葉を続けた。
「潜伏させた魔法陣は、前以てニコが察知済み。
だから、最初から間一髪逃れる算段は出来ていた。
オリジナルなのか分からない部分はあるけど、
星座と連動した召喚魔術、術式のパターンに使われているのは古典ギリシャ占星術。
魔術サイドが私達と直接事を構えるとはどういう事かしら?」
==============================
今回はここまでです>>54-1000
続きは折を見て。
それでは今回の投下、入ります。
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>>60
× ×
「ご挨拶ね」
プレイアデス聖団のメンバーが声の方向を見る。
そして、多くのメンバーが戸惑いを見せた。
「レディリー=タングルロード」
いつの間にか、スタジアムの聖団メンバーのただ中に現れた少女を見て神那ニコが呟く。
その一角で、黒髪黒ずくめの少女のナイフとバールでギリギリ押し合っていた聖カンナが、
たっと飛び退いて皆と合流する。
「レディリー=タングルロード?」
「オービット=ポータル社、科学の学園都市でも大手に入る企業グループの総帥。
この歳で宇宙科学、経営学、占星術を究めた天才少女」
牧カオルの問いに聖カンナが答えるが、
カオルの反応は芳しくない、と言うより、やはり目の前の、
お人形の様な金髪ゴスロリのちっちゃな女の子と説明とのギャップに思考が追い付いていない。
「それで、その天才少女がどうして私達を?」
「だから、どちらかと言うとそれは私の質問ね、神那ニコ、聖カンナ」
浅海サキの質問に、レディリーはそう答えた。
「どういう事なんだ、ニコ、カンナ?」
レディリーの言葉に、カオルが尋ねる。
“囲まれてる”
御崎海香が仲間にテレパシーを飛ばす。
そして、その事は、聖団のメンバーも大体理解していた。
いつの間にか、グラウンドの各出入口を人間よりも大きな何かが塞いでいる。
それは分かるのだが、塞いでいる相手の姿が見えない上に
只置いてあるだけの物体ではなさそうだと言う、非常に厄介な気配。
「かずみのソウルジェムだ」
「わたしの?」
カンナの言葉に、本人が聞き返した。
「最近の事だ、かずみのソウルジェムに違和感を感じた。
だから、その原因を調査していた」
「ちょっと待て!」
カンナの言葉にサキが激昂を見せる。
「何でそんな大事な事をっ!?」
「大事な事かどうか分からなかったからだ」
「サキッ!」
サキの言葉にカンナが応じ、
とうとうカンナの胸倉を掴み上げたサキに若葉みらいが叫び声を上げる。
「落ち着いて」
「知ってたのか?」
腕組みして声を掛けた海香に、サキが鋭い目を向ける。
「ある程度は。だから最後まで聞いて」
「分かった」
「ああ。大事な事、と、言うのは、
本当に何かがあるんだったら大事な事だと思ったさ。
だけど、その見極めがつかなかったんだ。
ソウルジェムは魂の宝石。
抽象的な言い方になるけれど、この世界の神羅万象、
天地、海、山、自然、そして星空。
あらゆる事に多かれ少なかれ繋がりを持っている。
そこに引っ掛かった」
「何、言ってるんだ?」
「安心しろ、私にも分からない」
カオルの言葉に、カンナが真顔で応じる。
「これが何らかの接触不良、
かずみのソウルジェムと何かの繋がりにエラーが発生している、
そういう事なら真っ先に相談したさ。
だけど、理論上は何の問題もない。全くの正常だ」
「う、うん。わたしも何もおかしな事はないと思う」
カンナの言葉にかずみが応じる。
「だから、そんな妄想じみた話で変な心配を掛けたくなかった。
それでも、私は、コネクトを能力とする私の勘が何かを感じていた。
かずみのソウルジェムとこの世界の何かに違和感がある、ってね。
正直雲を掴む様な話だったけど、それでも、ニコと協力して、
私の知るこの世界の神羅万象の繋がりに関わる事を調べ始めた」
「私が知っているのもその辺りの事ね。
二人から話を聞いて、正直雲を掴む様な話だったけど、
取り敢えず納得できる様にやってみて、って」
カンナの説明に海香が付け加えた。
「そんな中で、最も筋が良さそうな情報がレディリー=タングルロードだった」
カンナの言葉に、ふっと笑みを浮かべたレディリーに一同が目を向ける。
「宇宙技術に関する科学の最先端にして高いレベルの占星術師。
魔術と科学の天文学を追求する内にそこに行き着いた。
レディリーの持つ調査資料を見ていて思ったよ。
同じものを追跡しているんじゃないかってね」
「本来であれば、そこらのハッカーに突破出来るプロテクトではない筈だけど、
何か妙な、マギカの技術を使ったみたいね。
私が様々なルートで研究した資料を秘かに読み漁っている人間がいる。
その事を知って、私はそのハッカーを追跡して逆に相手の情報を読み取った。
そして、同じ結論に至った。
神那ニコ、聖カンナは私と同じものを見ているのではないか、とね」
「あーっ、何を言ってるのかさっぱり分からないんだけどっ!」
クレイモアを振り上げたみらいに
先程まで大振りナイフを手にしていた黒ずくめの少女が拳銃を向け、
みらいが跳ぶ前にサキが制する。
「いいわ、下がって。
シャットアウラ=セクウェンツィア。優秀な警備隊長よ。
危険なクラッカーと話を付けると言う事で同行してもらったわ」
レディリーの指示に、シャットアウラが退く。
「安心していいわ。事態を把握出来ずに苛立っているのは私自身なんだから。
だけど分かる。科学的な宇宙理論の粋を、
そして、今や滅亡したと思われていた古典理論を含めて、
ギリシャ占星術のシビル(予言巫女)としても最高の能力を身に着けた私だからこそ分かる。
あの星々の輝きに潜む言い知れぬ違和感が」
「星」
何人かが言葉と共に天を見上げる。
「綺麗でしょう。ええ。今の所は科学的にも魔術的にも何の問題も無いわ。
私の魔術を以てしても、
現状に於いてはこの幸せは幾久しく続くであろう。
これ以上の結論は出て来ない。
だけど、私が復活させたものを含めた連綿と続くギリシャ占星術。
そして、宇宙に関する科学的見地。
それらを究めた私の中の何かが、あの星々の輝き、星座の繋がり、
そこに違和感と言う程の事でもない、それでも何かがありそうな、
そんなものを感じさせてやまない」
「同じ、感覚だ」
カンナが天を仰いで言う。
「わたしのソウルジェムが」
「何かがあるとするならば、マギカが関わっている可能性は高いわね」
かずみの言葉に、レディリーが言う。
「外部から感知できる範囲で、マギカ全般に就いても観察させてもらったわ。
私が感じた星々の異常の様なものに、
一番連動して感じたのがマギカの魔力だった。
マギカの魔力が放つ波、波動、そういうものと星々との繋がり。
そこに、ほんのわずかに糸口が見えそうな感覚があった。
昂かずみさん」
「はい」
レディリーに声を掛けられ、かずみは応じた。
「ソウルジェムを少し、貸していただけないかしら?
無論、この場だけの事よ。
決して危ない事はしないわ」
「分かった」
「かずみっ!」
かずみの返答に、サキが鋭い声を出す。
「何だか分からないけど、
分からないからこのままじゃいられない」
「そう」
天を見上げ、両腕を掲げたレディリーは、
そのまま何かを唱えながらスタジアムに用意された演説台にホロスコープを乗せ、
その上にかずみのソウルジェムを乗せる。
「いいか?」
それを見ていたサキが口を開く。
「もしも、少しでも妙な事があったら、
ここから生きて出られると思うな」
「結構よ」
反応を見せるシャットアウラを腕で制して、レディリーがパチンと指を鳴らす。
すると、いつの間にか現れていた一組の紳士淑女がレディリーに接近する。
それを確認したレディリーが、改めて呪文を唱え始めた。
長いか短いか、どれだけの時間が過ぎたか、
静かな風と、レディリーの呪文だけが聞こえる。
そして、ぐたっ、と頽れたレディリーを紳士淑女が支えた。
「大丈夫よ、有り難う」
「何か分かったのか?」
立ち上がるレディリーにサキが尋ねる。
「さっぱり」
レディリーは、ずっこけそうな程にあっさりと返答した。
「だけど、分からないと言う事が分かった。
それから、確かに変わってるわね」
「何が?」
レディリーの言葉に、海香が尋ねる。
「彼女のソウルジェム。
マギカの事は多少は調べたつもりだったけど、
昂かずみと星々のエネルギー、
その反応が私の知るマギカと比べて少し独特なのよ。
尤も、私自身がマギカの事を多く知っている訳でもないし、
理論的に何が、と言える程の事でもない勘みたいなものだけど。
ああ、もういいわよ有難う」
「どういう、事なの?」
ソウルジェムを回収したかずみが不安げに言う。
「大丈夫だ」
応じたのはカンナだった。
「かずみのソウルジェムは至って正常だ。
それは私が保障する」
「その点に就いては、専門ではないとは言っても同意見ね」
カンナの言葉にレディリーが応じた。
「だけど、ヒントは掴めた。マギカと言うヒントがね。
ここから先の調査、協力していただけるかしら?」
「断る、と、言ったら?」
腕組みしてじっと聞いていた和紗ミチルが片目を開けて言った。
「取り敢えず、オービット=ポータル関連団体サーバへの不正アクセスで
御崎海香さんに対して正式に法的措置を行う事になるかしら?
科学的な根拠は揃っている。
コンプライアンス問題で一巻の終わりね」
「選択肢はない、と言う事かしら?」
海香が、ちろりと周囲を見回す。
グラウンドを取り囲む透明な何かは、どうやら臨戦態勢に入っているらしい。
「そう思っていただいて結構。
どの道、追跡するのはマギカの関わる真実。
マギカのあなた達にとっても悪い話じゃない筈よ」
==============================
今回はここまでです>>61-1000
続きは折を見て。
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>68
× ×
「おはよう」
「おはようございまーす」
「お早うスズネちゃん」
「おはようございます」
早朝のホオズキ市を、新聞配達の少女が走る。
朝早くから出迎えてくれた主にお年寄り、行き交う人々、
既に好感を持って彼女を知る人々と、
今朝も元気よく挨拶を交わしながら。
そういう訳で、今朝の仕事を大方片付けて、取り敢えず配るもののなくなった天乃鈴音は、
ぶるりと一度身震いして近くの公園に足を向けた。
治安のいい町内らしく、綺麗なお手洗いを出た鈴音はふらりと緑の公園を見回して歩く。
こうして見ると、結構な広さの公園。
緑の香る早朝の風が清々しく、鈴音の口から歌声を漏らす。
最初は鼻歌だったが、ふと立ち止まった鈴音は、
何かに誘われる様に流れる様に歌詞を口にしていた。
故郷への道行を歌う邦訳された歌詞。
一度歌い、二度目を歌い始めた時、斜め後方から音色が聞こえてきた。
鈴音は、そのまま歌い続ける。
拙いと言ってもいい鈴音の歌に柔らかな音色が重なり、優しく歌い上げた。
「天乃さん?」
その声に鈴音が振り返る。
木々の陰から姿を現し、鈴音に声を掛けながら歩み寄ってきている。
「上条先輩」
「うん」
早朝の風にも消えそうな小声だったが、
肩に愛器を担いだ上条恭介は笑って返事をしていた。
「あの歌って、やっぱりあれ観たの?」
恭介がその先を言う前に、鈴音の顎はミリ単位で下に動いていた。
「やっぱり。ヴァイオリンやってるから自分でも弾いてみたくて覚えてて。
勝手に合わせたの、迷惑じゃなかった?」
鈴音の精神に於いては精一杯の勢いで、問うた恭介の見る所、
若干血色のよくなった鈴音の頬がふるふると可愛らしく左右に震えていた。
「そう、良かった」
にっこり微笑んだ恭介が視覚する事は困難であったが、
天乃鈴音は、瞼の内側の面積と頬への血流と心拍数の
平常値よりの増加を自覚しつつ恭介の返答を耳にする。
「新聞配達?」
「はい」
気が付くと、ようやく声が出ていた。
「お疲れ様。
僕もこれから朝一で帰らないといけないから。
なんか、ノリでやっちゃたけどご近所さんも大丈夫そうで良かった。
それじゃあ」
愛器をケースに戻し、手を上げて駆け去る恭介を、
鈴音は手を前で合わせ礼儀正しく小さく一礼して見送った。
× ×
「あーあ」
早朝のホオズキ市の歩道で、頭の後ろで手を組んだ成見亜里紗がぼやいていた。
「美容と健康のための早朝ハンティングとか、
うちのボスも何考えてんだかね。結局外れだったし」
「たまにはいいんじゃない?
ゲーム漬けの脳味噌リセットするのにも」
「言ってくれるじゃないのチサト」
言いながら、亜里紗はすたすたと曲がり角を曲がり、
そのまま足を止めた。
「?アリサ?」
「あ、いや、何でもない。
うん、やっぱり寝不足なんだわ。
ちょっと先帰って学校行くまで一眠りした方がいいかなぁーって」
普段はとっつき難い低温無表情系後輩が
つつつーっとバレエを踊りながら前方の十字路を通り過ぎた様な気がした成見亜里紗は、
呆然とする詩音千里をその場に残して駆け出していた。
× ×
「あっれぇーっ、お疲れモードだにゃー」
「なんださやかか」
「なんだとはご挨拶だにゃー」
「取り敢えずその変な語尾って何?」
「うん、たまには可愛いと思って」
見滝原中学校の教室で、
暁美ほむらはたった今ほむら達と一緒に登校した美樹さやかと
机に突っ伏してだるそうに応対している上条恭介の平和な会話を耳にしていた。
「でもホントお疲れだね」
「まあね」
「昨日の晩、やり過ぎちゃった?」
「うん。昨日の晩ね、
なんか凄くいい感じでいけたからさ、
今朝早いのにちょっと調子に乗り過ぎたよ。
それでハイになったのかな。
又朝っぱらから一回気持ちよくやっちゃったから、もう出し尽くした感じ」
「あー、やっぱりね。
恭介ったらいっぺんそうなったら止まらないから。
今更頑張るな、とは言わないけど体にだけは気を付けてよ」
「うん、有り難う」
そのまま、恭介はずるずると、
寝息を立てる勢いで机に突っ伏していた。
「美樹さやか」
「はい?」
近づいて来て声を掛けたほむらに、
席に戻っていたさやかが応じる。
「最近、彼とは学校以外で顔を合わせていない、
で良かったのだったかしら?」
「まあね。これでも寂しいんだわさやかちゃん」
「そう。じゃあ、上条恭介はずっと一人で頑張ってると」
「そういう事だね。もちろん教わってる時は別だけど、
家ではいつも一人で頑張ってるし。
昔っからねー、そうやっていっぺん始めると
燃え尽きて空になるまで歯止め知らない性格してるから」
「そう。大変ね。と言うか、本当によく分かってるのね」
「まあね」
「ウェヒヒヒ………」
にへらと笑うさやかを前に、
ほむらは両手を上げたい心地でその場を離れる。
間近で微笑むまどかもほむらについて来ていた。
× ×
「アテンション!」
放課後のホオズキ市。
魔獣空間が展開される中、魔獣の大群が走り去る奏遥香を追跡する。
「大丈夫かな、先輩?」
「あの人達が待機してるんだから、上手くやるでしょう。
それに………」
言いかけて、成見亜里紗は、
大鎌を体の後ろにしたまま上を見上げる。
「他人の心配してる場合じゃない」
「全く」
亜里紗の言葉に詩音千里が頷き、
スチャッと二挺拳銃を構えた。
急行下して来た魔獣の一群に千里が発砲し、
亜里紗も死神鎌をぶうんと振り回す。
ランプの精タイプとでも言うべきか、
右手を突き出して宙に浮くマッチョマンタイプの魔獣の一群が、
ふわふわと宙に浮いて円を描きながら二人を狙っている。
「このおっ!!」
降下して来た魔獣に亜里紗が鎌を叩き付け、
千里がドンドンドンと銃弾を撃ち込む。
やや乱戦気味に空飛ぶ魔獣の数を減らしていくが、
この魔獣、単体の戦闘力が他よりも高い。
二人の魔法少女は苦戦を強いられる。
「チサトっ!!」
千里が気が付いた時には、亜里紗が千里を突き飛ばし、
ごおんと振り子の様にそこに降下していた魔獣に鎌を突き立てていた。
「くっ!」
千里が立ち上がる前に、こちらに急接近していた魔獣に向けて発砲する。
だが、その魔獣は、ふわりと浮上して銃撃を交わす。
「こ、のっ!」
二人共、その魔獣に向けて体勢を立て直そうとするが、
魔獣はその先を行って迅速に振り子軌道で二人に急接近する。
一迅の風と共に、その魔獣から首が吹っ飛んで魔獣は消滅した。
「あんた………」
亜里紗が何かを言う前に、
天乃鈴音の大剣が唸りを上げる。
(もう何も恐くない)
鈴音の心の声と共にその動きが止まった時には、
すぐそこまで迫っていた二体の魔獣が一刀両断されて消滅していた。
「間に合った!こっちは片付いたわ!!」
そこに、奏遥香が美琴椿、日向姉妹を引き連れて駆け戻って来た。
それを見て、上空で様子見を始めた残り少ない魔獣を見て、
成見亜里紗は宣言した。
「さぁて、それじゃあこっちも片付けますかっ」
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今回はここまでです>>69-1000
続きは折を見て。
それでは今回の投下、入ります。
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>>74
× ×
とある放課後、美樹さやかは巴マミ宅の台所で冷蔵庫からボウルを取り出していた。
「どうかな?」
「うん、いいと思う」
指導に当たったマミの言葉に一安心して、
打ち粉を撒いたまな板の上にボウルの中身を広げる。
前日、この台所で塩とグラニュー糖を加えた薄力粉の中でカードを使って無塩バターを刻み、
冷水を合わせて混ぜ過ぎない様に混ぜた生地種がこのボウルの中身。
麺棒で伸ばしては折り畳み、を幾度か繰り返して、
それっぽく出来て来たパイ生地を一度冷蔵庫で休ませる。
そして、林檎を用意する。
「おーっ、マミさんなんか作ってんの?」
「作ってるのは美樹さんよ」
ようやく林檎との奮戦に一区切りがついた辺りで、
そこに入って来た佐倉杏子にマミが笑って応じる。
「ふうん」
「あっ、こらっ」
さやかが止める間もなく、刻んだ林檎の一切れが杏子の口に入る。
「酸っぱっ、あんまし甘くないのな」
「紅玉だから」
顔を顰めた杏子にマミが言う。
「杏子の味覚はお子ちゃまだなぁ」
「なんだとぉ。でも、じんわり味があるって言うか」
「でしょう。林檎のお菓子に使ってるけど、
火を通したら美味しいんだから」
「はいはい、退散退散。
これ以上邪魔したらメニューがケチャップケーキに変更になるわよ」
「ウェヒヒヒ………」
ぱんぱん手を叩く暁美ほむらとその後に現れた鹿目まどかに促され、
杏子もその場を離れた。
その脇で、さやかはバターを落とした鍋に銀杏に刻んだ林檎を注ぎ込み、
砂糖とレモン汁を加えて甘く煮込む。
火力を強め、水気を飛ばしてから火を止め、お菓子用ラムとシナモンで仕上げる。
キッチンタイマーを合図に冷蔵庫で寝かせていたパイ生地を取り出す。
それを半分に切り、一方をパイ皿に押し付けて形を作る。
冷ましていた林檎をパイ生地の器の中に盛り込み、
もう半分のパイ生地を伸ばして作ったパイ生地のテープを
上から多数被せて蓋をしていく。
パイ生地の蓋に、溶き卵を塗り付けてオーブンに運んだ。
× ×
「いい匂い」
「本当に」
マミのフラットのリビングで、
真っ先に反応した杏子にほむらも素直に同意した。
「お待たせーっ」
「うわーっ」
さやかが運んで来たアップルパイに、まどかが歓声を上げた。
「これ、さやかちゃんが作ったの?」
「んー、マミさんに教わってねー」
「ええ、私は教えただけ、
正真正銘美樹さんの手作りアップルパイよ。
さ、お茶にしましょう」
パイが切り分けられ、上等な紅茶が用意される。
「いっただっきまぁーっすっ!!!」
かくして、賑やかに遠慮のないティータイム。
「美味しいっ、美味しいよさやかちゃん」
「これは、いいものね」
「へへっ、どーも」
上々の評判で皆がアップルパイに舌鼓を打つ中、
美樹さやかは移動の準備を始めていた。
× ×
「?」
放課後の直行レッスンから帰宅した上条恭介は、
来客らしきどこかで見覚えのある車の存在に首を傾げる。
「只今」
そして、玄関に入ると、幾つかの異変に気付く。
まず、靴が多い。
女物を中心に複数の来客を示している。
そして、自宅の音楽室からピアノの音が聞こえて来る。
演奏していると言うのではない、何か確認している様な小刻みな音。
これで事情は察する事が出来る。
だが、この後の展開を察する事は少々難しかった。
「只、今」
「お邪魔してます」
「こんにちは」
恭介が静々とリビングを訪れると、
そこには、恭介の父と奏可奈多、遥香姉妹の姿があった。
「えーと、父さん?」
父の仕事柄、父が自宅にいる事はさ程不思議ではない。
だが、この二人の美女がここにいると言う事は
恭介にとって十分不思議な事だった。
「ああ、ちょっと今回お世話になってね」
恭介の父の言葉に、姉妹はにっこり笑って頷いた。
× ×
私服に着替えてリビングに戻り、恭介達は話を再開する。
「お母様のピアノ、素晴らしいものだけど、
いつもの調律の方が事情でどうしても暫くこちらには来られないと。
上条君のコンサートも近いからこちらのピアノも本格的に使う機会もあるかも知れないと言う事で、
それで、お父様から知り合いを回り回って私の出入りの調律師を紹介する事になったの。
只、そちらも予定が色々難しいと言う事で、急だけど今日に予定を入れさせてもらったわ」
「そうでしたか。
調律の都合がつかないと言う話は聞いていました、有難うございます」
ソファーに掛けながら、可奈多の説明に恭介が頭を下げた。
「本当に急な話で、お母様も立ち会えないのは申し訳ないのですけど」
「いえ、じきに戻ると思いますよ。
それに、うちのも奏さんの紹介なら間違いないだろうと」
「有難うございます。
今回は責任を持って立ち会うつもりですが、
妹の同席も許していただきました。
息子さんの一つ年上、至らぬ妹ですが相応のものは持っています」
「奏さんがそれを許す妹さんでしたら、大歓迎です」
「有難うございます」
恭介の父の言葉に、遥香も礼儀正しく一礼する。
その内、リビングに一人の男性が姿を現す。
ちょっと見は小太りの工務店風とも言える中年男性だが、
それでも、恭介らから見たら察するものがある。
× ×
一同は、リビングから音楽室に移動する。
普段はそこそこの、
二重窓で大幅な防音性能を有する、かなりの広さを誇る一室。
そこで大きな面積を占めているのは、
やはりアメリカメーカーのグランドピアノ。
一見するとむしろ気楽に、しかし真剣に、
可奈多は調律師と様々に言葉を交わす。
そして、可奈多は着席した。
万全に体調管理された筈の、ドイツから来た堂々たる黒き女王様。
その白い鍵盤に可奈多の指が触れる。
最初は、明らかに確かめる為だけのタッチ。
それが、いつの間にか準備が整えられ、段々と何かを形作る。
気付いた時には、
恭介は圧倒的な鬼火の旋律を前に只々呆然と突っ立っていた。
ようやく、瞬きを思い出した。
それが実感である恭介の前で、可奈多の指が奏でるその響きは、
明らかにクラシックを逸脱した方向へと走り出す。
熱が伝わって来る。
恭介の目の前で、流麗な貴婦人が情熱の赤に燃え上がる。
(ジャズ・ピアノ? 即興? 奏、可奈多の?)
その事実自体の重大性に、何とか現実に食らい付こうとする恭介だったが、
そんな社会的評価のインパクト等、
今ここで耳から脳を直撃する情熱の塊に比べれば実に些細な事だった。
× ×
奏可奈多が立ち上がり、腕を前に一礼する。
それを視覚して、ようやく恭介はこちら側に戻って来た心地で
ぱち、ぱち、と手と手を叩き合わせる。
恭介の見た所、やはり拍手している父はとにかく、
遥香の笑顔もどこか硬いものが見えるのは気のせいだろうか。
歩き出した可奈多はそのまま調律師と固い握手を交わしていた。
そして、何かを見つける。
「これ、今度のコンサートのかしら?」
「あ、はい」
「行ける?」
音楽室の一角で楽譜を見つけた可奈多は、
それを手にし、遥香に見せて尋ねた。
「ええ、どちらかと言うと大好き」
「行ける?」
「え?あ、はいっ」
可奈多に視線を向けられて尋ねられ、
恭介は返事と共にがばっと動き出していた。
× ×
「おっ、やってるな」
「みたいだね」
上条宅の近くで、心地よい旋律を耳にした佐倉杏子と美樹さやかが言った。
「って言うかさ、ほんっとぉーに、
アンタ何しに付いて来た訳?」
「そりゃあもちろん、
素敵なヴァイオリンが聴けるかなぁーって」
「嘘つけっ!」
さやかと、強引に同行して来た杏子が相変わらずじゃれ合っている。
「だーいじょうぶだって。
あたしはすぐそこまで、その後のあつーい時間を邪魔する程野暮じゃねーから」
「ったく」
「ヴァイオリンは坊やとして、ピアノと一緒に弾いてるのか」
「うん。恭介のお母さんがピアノ弾くから」
「へぇ、ピアノもいい感じだな」
「分かるの?」
「ちょっとは。まあ、全然別物だけど昔はオルガンもちょっと」
「あら」
ようやく先に進み始めた二人が、声を掛けられてそちらを見る。
「あ、どうも」
「こんにちはさやかちゃん。お友達?」
「ええ、まあ」
「どうも」
如何にも品のいいご夫人に微笑みかけられ、杏子もぺこりと頭を下げた。
「あ、そうだ」
さやかが、提げていた紙袋を差し出す。
「これ、後で恭介と食べて下さい」
「あら」
「おい………」
何か言いかける杏子をさやかがさり気なく手で制する。
「それじゃあ、上がってお茶でも如何?」
「あ、いえ、ちょっとこれから行く所がありますから」
肘先を杏子の胸辺りに埋めながら、
さやかが丁重に辞退する。
「そう。残念ね」
「すいません。又今度」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「それじゃあ」
かくして、ご夫人は紙袋を提げて上条宅玄関に移動し、
さやかと杏子は反対方向に移動する。
「おい、あんな手間かけて折角作って来たのに、
坊やと久々にお茶するんじゃねーのかよ?」
杏子が、険悪な程の声で尋ねる。
「んー、それも考えたんだけどねー、
でも、恭介今ノッてるみたいだから、
そういう時は邪魔しない方がいいからね」
「あー、ウゼェウゼェ、理解あり過ぎだっつーの」
「なんか、それで損しそうな気もするんだけどね。
でも、今はこれでいいの」
「あーはいはいそうですか。
あんたが言うと重みが違うわ」
「そういう事………でも………」
「ん?」
「おばさんが外にいたって事は、
誰かピアニストでも呼んだのかな?
だったらいよいよ追い込みだ」
「はいはい。ま、いい曲ではある。うん」
「そういう事。
なんか、音楽の息も合ってそうなのかな?」
軽快なポップスに、アコースティックなクラシックの競演が
しっとりとした艶やかさを与えて伸びやかに解けていく。
今、二人の脳裏で白き天馬は彼方へはばたき、
これを聴かされてやれやれと言う一抹の思いと共に二人はその場を後にしていた。
× ×
「只今」
「ああ、お帰り」
「お邪魔してます」
上条家では、夫人の帰宅を音楽室でめいめい迎えていた。
「初めまして………」
そして、夫人と奏可奈多、遥香姉妹と調律師が挨拶と握手を交わす。
「聞かせてもらいました。
確かに、いや、流石は奏可奈多さんの推薦です」
「恐れ入ります」
「確かめさせてもらいます」
「お願いします」
夫人がピアノの前で椅子に掛け、まずは音を確かめる。
そして、少しの間、
音楽室では一同上品なノクターンを堪能する。
「お粗末様でした」
聴かせた相手が相手と言う事もあり、ぱちぱち拍手が響く中、
夫人も少々気恥ずかし気に一礼して群れに戻る。
「確かに、素晴らしいお仕事を有り難うございました」
「何よりです」
夫人と調律師が言葉を交わし、商業上の最後の詰めを終える。
「それでは、私達はこれで」
「あら、お茶の用意をと思いましたのに」
調律師と共に立ち上がる姉妹を夫人が引き止める。
「有り難いのですが、時間の都合がありまして」
「そうですか。残念ですな」
頭を下げる遥香の隣で丁寧に断る可奈多に恭介の父も声を掛ける。
「それじゃあ、上条君。今の、楽しかった」
「こちらこそ」
笑いかけた遥香に、恭介がぺこりと頭を下げる。
「それでは、本日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
挨拶を終え、来客は退出した。
「お茶にしましょう。いいものがあるわよ」
==============================
今回はここまでです>>75-1000
続きは折を見て。
まどかの笑いが「ウェヒヒ」だけなのがちょっと自分には合わないですけど
そこ以外は本当に気に入ってます
ところでこのssのジャンルって何ですか?
>>87
感想有難うございます。
………そう言や、なんだっけ?
実際問題余り考えてなかったと言うのと、
改めて考えて見ても、このプロットだと区分けが難しいと言いますか何と言いますか。
まあ、>>1以上の注意書きが特に必要な
特別に極端な事にはならないとは思いますが。
答えになっていなくてすいませんが、
まあ、今の所は見た通りのもの、では足りないかも知れませんが、
気が向いたら今後ともお付き合い願います。
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>86
× ×
「お早う」
「お早う恭介」
朝、登校した教室で友人と適当にお喋りしていた美樹さやかが、
既に入室時点で目が追跡していた上条恭介に声を掛けられ、
いつも通りに気楽に応じる。
「お早うさやか、昨日は有り難う」
「う、うん」
「美味しかったよ。もしかしてさやかが作ったの?」
「もしかしてさやかちゃんが作ったの」
恭介の問いに、さやかが何時ものノリを加えて答えた。
「あら、さやかさん何か?」
側にいた志筑仁美が口を挟んだ。
「うん、昨日差し入れをね」
「上条君に?」
「そ。昨日まどか達とお菓子パーティーやったからさ、
一緒に恭介の分もアップルパイ焼いたんだ」
「あら、さやかさんの手作りでしたの?羨ましい」
「ウェヒヒヒヒヒ、美味しかったよさやかちゃんのアップルパイ」
「うん、美味しかった。ご馳走さま」
「お粗末様でした」
さやかのアップルパイを褒める鹿目まどかの側で、
暁美ほむらはやり取りを横目で眺めている。
お茶もせずにのこのこ帰って来た時には、
そちら方面に疎いほむらも流石に馬鹿野郎何をやってるふざけるな、
文字にするとそれに近い感想を抱かないでもなかったが、
こうして見ると、当事者が喜んでいる様なのでまあいいかと思ったりもする。
そうこうしている内に、教室の中ががやがやと動き出す。
皆が着席している間に、担任教諭早乙女和子が
さっさっさっさっと教卓の後ろに立つ。
「皆さん」
和子が、ぐっと前を見据えて口を開いた。
「今日は皆さんに大事なお話があります。心して聞く様に」
教室がしん、と、静まり返る。
「パイ、と言えば、最もポピュラーなはパイはアップルパイでしょう。
それでは、敢えて変化球を狙うとするならば、
それはラズベリーパイですか?カボチャパイですか?
はい、中沢くんっ!!!」
「え、えっと、どっちでもいいかと」
「そのとおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉりいっっっっっっっっっ!!!」
すぱぁーんっと指揮棒を振り抜いた和子の満面の笑みを前に、
暁美ほむらは早くも幸せそうで何よりですと心の中で祝福を送る。
「女子の皆さんは、疲れた時こそチャンスです!
くれぐれもスイーツの研鑽を怠らず胃袋をGetして下さい。
そして男子の皆さんは、愛しビトの美味しいプレゼントには、
つまらないプライドなど、捨てて、
全身全霊美味しいよっ、と、表現する様にっ!!!!!」
美樹さやかは、思わず顔を向けた先で上条恭介と視線がぶつかり、
互いに苦笑を禁じ得なかった。
「ラズベリーパイ、次はこれだな」
さやかはほぼそっと呟いた。
× ×
夜、この日一日時間の許す限りを超える勢いで
こってりと弾き込みを行った上条恭介は、
一風呂浴びた心地よい疲労と共にベッドに寝転がっていた。
そして、自分のスマホにメールが着信している事に気づく。
メールを読んだ恭介は、そのままスマホで電話を掛ける。
「もしもし、メールを貰ったみたいですけど………」
電話が繋がった所で、恭介は座り直して話を始める。
確かに連絡先を交換した覚えはあったが、
こうして直接連絡がある、と言うのは正直意外な気がした。
その後、少し、折り目正しく応対していた恭介が、
ベッドの上でぴん、と、背筋を伸ばして目を見開いた。
「手に入ったんですかっ!?」
× ×
見滝原市内、志筑邸。
その外観に全く負けていない堂々たる面積にさり気なくも趣味のいい丁度。
そんな浴室には、ほんの少し前迄軽やかな鼻歌が響いていた。
その身を磨き上げ、シャワーでさああっと泡を洗い流した志筑仁美は、
広々とした浴槽に全身を浸し、ゆったりと温まっていた。
そうしながら、その頭脳は目まぐるしく回転し、
一言一言、来たるべき時のために脚本を書き上げていく。
目を閉じ、頭の中を整理し、
些かはしたなくざばりとばかりに湯を上がる。
そして、もう一度シャワーを浴びて脱衣所に移動する。
ふわふわの
大きなバスタオルで体を包み、髪の毛に押し付けながら、
仁美はもう一度、頭の中で繰り返していた。
× ×
「お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
両親に挨拶を済ませ、仁美は寝室に移動する。
さり気なくフリルを飾ったワンピースのパジャマ姿で、
背中を天蓋の下のベッドに投げ出す。
そして、目を閉じ、眠ってしまわぬ様に
脳内の整理を何度も繰り返してから身を起こす。
湯上りの香りに些かの自信を膨らませる。
それは、見える見えないではない、
最も大切な時間、相手に向き合うに当たっての心構えの問題。
深呼吸と共にスマートフォンを操作し、
表示された氏名を目に焼き付け、震える指先をそちらに向ける。
「…はい、もしもし」
「もしもし、上条くん? こんな夜遅くにごめんなさい。
今お時間よろしいですか?………」
「やあ志筑さん、どうしたの?」
「今週の土曜日、何か予定はありますかしら?」
「………うん、ごめんね。
その日、用事が入っちゃって。
いつもいつもタイミングが合わなくてごめんね」
「そんなことお気になさらずに。
………私…がんばってる上条くんのことだいすきですから」
「あはは………
うん、また明日学校で」
「はい、おやすみなさいませ」
電話を切り、にこにこと菩薩の笑みを浮かべた志筑仁美の腕の中で、
枕がぎゅううと体積を減少させ、
その背景にコオオと何かが湧き上がっていた。
× ×
夜闇の中、美樹さやかが、
見滝原の路上を移動する魔獣の群れをばっさばっさと斬り伏せる。
「そぉらよっ!!」
その側で、佐倉杏子がぶうんと大槍を振り回し、魔獣を一閃する。
「転校生、ここは大丈夫だからっ!」
「分かった!」
脇に抱えた機関銃を掃射していたほむらにさやかが叫び、
さやかが手近な屋根へと跳躍する。
ほむらが空を見上げると、空中に大量のマスケット銃が浮遊し、
その銃口が花火の様に一斉に輝いた。
見ると、屋根から屋根へ、巴マミが跳躍しながら、
追い縋るランプ魔神型空戦魔獣の群れに次々とマスケットを撃ち込んでいる。
(新手っ)
別方向から飛来する空戦魔獣を目にして、ほむらが武器を探った。
「ほむらちゃんっ」
「まどか」
気配に気づいたマミがそちらを見ると、
ほむらとまどかが放った魔法の矢が新たな魔獣の群れを駆逐した所だった。
「有難うっ」
飛び跳ねながら、マミは首からリボンを外す。
「ティロ・フィナーレッ!!」
リボンが変化した肩掛砲が、マミを追跡していた空戦魔獣を一挙に吹き飛ばす。
× ×
「ちっ!」
さやかと杏子がたあんっと後方に跳躍し、
二人が元した場所に魔獣の群れからビーム攻撃が殺到する。
それがやんだ辺りで、近くの建物からマミがすたんと着地した、
と、思った時には、マスケットの大量銃撃が魔獣の数を一挙に削り取る。
見滝原の街、と、言ったが、その説明は嘘ではないが完全でもない。
ここは、魔獣の結界だ。
抽象的に言うと、現実の空間の裏側に潜み、獲物を引きずり込むタイプの結界。
だから、一見して見滝原の街であり、
そして現状では、敢えて飛び込んだ魔法少女達以外、中に誰もいませんよ。
「今夜は、一段と大量発生ね」
屋根から、洒落た街灯の照らす路上に下りた暁美ほむらが、
ファサァと黒髪を払って言った。
「どこかで、マイナスエネルギーでも大量発生してるのかしらね」
二挺のマスケットをスチャッと両手持ちしたマミが言う。
その間にも、残った魔獣の群れがうぞうぞとこちらに向けて進行を始めている。
「ったくっ、あっちには仁美の家もあるんだからねっ」
「それじゃー、残りもちゃっちゃと片付けちまおう、ぜっ!」
さやかの言葉に杏子がびゅうんっと槍を振り出し、
まどかの放った矢が、一同の間を縫って、
そして途中で分裂して魔獣の群れに突き刺さる。
「Go!!!」
急激にスピードを上げた魔獣の群れに、
マミが大量発生させたマスケットの銃撃が降り注ぐ。
銃声がやみ、マミの号令と共に、
魔法少女達が魔獣の群れへと突き進む。
大方片付いている。既に歴戦の魔法少女チームがどうにかなる状況ではない。
後は、最後まで気を引き締めてつまらない事故に気を付けるだけだった。
==============================
今回はここまでです>>88-1000
続きは折を見て。
生存報告しときます
舞ってる
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