眠れない時ってどうする? (22)

大したことじゃないんだけどさ。
例えば、こう、アルバイトとかで帰ってくるのが十二時くらいだとするじゃん。
いいくらいに小腹もすいてきて
「あー、なんか食べようかな」ってなるわけよ。
そこが罠でさ、一度お腹に物を入れたら寝られなくなっちゃうわけ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434675671

私はそういう時ってとりあえず目を瞑るんだ。
そうして自分の深い深い記憶の山から。
一つずつ、一粒ずつ、色んな色を探し出すの。

たのしかったこと、寂しかったこと、悔しかったこと、悲しかったこと。
それらどんな色も私を形成するための、光。

だけど、光があったら必ず闇もある。
それは別に私に限ったことだけじゃなくて。
ようはそんな色を探している最中に邪魔してくるやつ。
私が一番嫌いなやつ。

「おい、夜に飯食うな、デブ」

殺すぞ、出てくんな。

そうだね。
見た目は完全な化物かな。
体中に目がたくさんついてて、筋張った筋肉だけで、見るからに骨はなさそう。

「余計なお世話だよ」

私が喋ってるだろ、喋んな。

こんなふうに口うるさいやつだけど、初めて見た時はすごく怖かったんだから。

「…」

うわきも。

「眠れないときに、その山に入り込むのは頂けない」

なんだこいつ。
すごい不気味。
だけど声は完全に私だ。

こんな感じ。
まぁ、今思い返したらいうほど怖がってはないね。

私は眠れないときに記憶の山から、私が私であるという色を取り出していく。

多分私が思うに、こいつは私が覚えているのに、思い出したくない部分じゃないかなと。
思うわけだが。

「違う」

違うらしい。

浮かんで、沈んで。
そうしてその浮遊感になれた頃に、その山へと一直線に向かう。
大抵は浮かんだり沈んだりしてるともうその時点で眠くなったりもする。

だけど、こんな日は。
こんなふうに山へ出かけても眠れない日は。
ゆっくりと地面に降り立って、確かにある2本の足で、地面を踏みしめていくんだ。

「…どこにいく?」

ついてくんな。

どこへ行くのかは、分からない。
ただ、この真っさらで障害物のない道をただひたすらに進んでいくことで。
私は、今度は色じゃない。
音で、私自身を思い返す。
といっても、小鳥のさえずりとか小川のせせらぎとかそんな洒落たものじゃない。

まぁ、精々、マクドナルドのポテトが揚げあがったときのような陳腐音が大半を占めてる。

そうやって、ただひたすらに歩いていくと、今まで出会ってきた人に出会ったりする。

大学の先生だとか。
中学の時の友達だとか。
小学校の時の近所の餓鬼大将だったりとか。

そのどれもが、私を構成する上で欠かせないもので。
そして、私の大半を占める雑音。

「…」

こいつは例外。死ね。

「なぁ、早く眠れよ」

別にあんたにとやかく言われることじゃない。
私は私の好きなときに眠って好きなときに起きるんだ。

「…」

あ、ほら。
ゴールが見えてきた。
あれあれ、あの赤ちゃんを抱いてるのが私。
あそこまで行くと、ほとんど眠れてるはず…なんだけどなぁ…。

ふぅん、こうして見ると、私って案外平凡な人間なんだね。
何の刺激もなく、何の衝撃もなくて。
そしてそんな人生に対して「幸せ」っていう価値観を持ってる。

なるほど、なかなか。

今だってなんの苦労もなく、ただ起きては大学に行く生活だけど、それって幸せって言えたりするんだろうか。

幸せってなんだろう?
刺激があることが幸せなんだろうか。
平凡なことが幸せなんだろうか。
眠れない時は、この道に沿ってそんなことばかり考える。

あぁ、でも、あれは凄かった。

記憶の山から取り出しても、真っさらな道で聞いていても。

いつだって、私の胸を高鳴らせること。

先輩と私の思いが通じあった日。

「しょぼ」

降りてこい、殴ってやるから。

しょぼくねーよ。
私の人生にとっては一番のイベントだったんだから。

「別に聞きたくねーから」

そうか。
ならもういいや。
ま、つまり、私ってそのくらいのことで一喜一憂しちゃうダメ人間なんですよっと。

「…」

なんだよ、変な目でみんな。

「だから眠れないのね」

…。
…はぁ?
なにいってんの?

「ふられたんでしょ?」

…。
なに?慰めてるつもり?(笑)

「だっっさ!バーカバーカ!」

殺すぞ。
化物が!

だいたいお前みたいな化け物に私の気持ちがわかってたまるか!

「分かるわけ無いじゃん、分かりたくもないわ」

ふざけんな!降りてこいよ!マジで一発ぶん殴ってやる!

「当ててみろ!破局女」

ああああ!!もう!!!

…。
だって、本気で好きだったんだもん。

「へー」

いつだって憧れで、いつだって尊敬してて。

「興味無いから」

すっごく幸せだったんだもん。

「…」

だから、あんたみたいな奴にごちゃごちゃ言われんのムカつく!
あんたこそまともに恋愛経験ないでしょ!
くたばれ!

「くたばらねーよ、アホ」

畜生!

「死ね」

お前が死ね。

「さっさと野たれ死ね」

お前がな!

「きも」

お前もな!


…。
ん、もう朝か。
まぁ、そうだよね。
何だかんだ一番寝れるのはこいつと喧嘩したとき。
私はこいつのこと大嫌いだけど、だけど確かに私の一部を占める、大切なものなんだ。

よし、よく寝れた。
体力は、充分。
人生、十二分。
だったらもう、怖いもんなんてない。


「きも」

出てくんな!


そんなこんなで、私の平凡な日常はこれからも続けど。
そんなことを無視して教えて欲しい。


ねぇ、あなたは








眠れない時ってどうする?





おしまい

板違いかと思ったら思い違いだった

悪くない

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom