アムロ「…シドニア?」 (313)

アムロ『シャア、もういいのか?』

シャア『ああ。後は彼らに任せるさ』

…彼ら、か。

彼ら若者がどれ程この世界を変えてくれるのか。

人の可能性を信じ続ける彼らが。

…あの緑色に輝く機体を見れば、それはもう一目瞭然なのかもしれない。

…もう、心配する必要は無いか。

後は任せよう。

あの若い子供達に。

出来るさ、きっと。

…。

……。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433329754

期待

「…ん」

暖かい光で目が覚める。

「…」

妙に感覚の残る身体を起こし、辺りを見回す。

ここは、どこだろうか。

天国…いや、地獄か?

どちらにしても、妙だ。

あまりにも生活感があり過ぎる。

人の気配もする。

「…」

見回す限り一番大きいのは…。

あの炭鉱だろうか。

煙突から煙を上げる建物。

「…」

動いているという事は、誰かが動かしているという事だ。

「…」

死後の世界でも、人は働くのだろうか。

ふと自分の着ている服に目をやる。

白のパイロットスーツ。

死んだ時のまま幽霊になるというのは聞いた事がある。

しかし、これはどういう事なのか。

「…」

手足、指先の感覚がある。

頭もはっきりしている。

嗅覚も、聴覚も変わっていない。

気になって頬を抓ると、痛覚も残っている事に驚く。

「…何が、どうなっているんだ?」

一人寂しく呟いてみたが、ここにはチェーンも、アストナージもいない。

…人は不安になると、話し相手を求めようと必死になる。

それは自分自身も例外ではなく、自然と立ち上がり人を探し出した。

何故かここは、階段が多く、傾斜道が多い。

まるで閉鎖された空間の中に作られた世界に見える。

まるで何処かのコロニーのようだ。

それは、作られた世界。

自然ではなく、人工的に作られた世界。

「…」

一抹の不安を抱えながらもやがて、人の気配が色濃く感じる所まで辿り着く。

人々の話し声も聞こえる。

…死者の魂は、こうなるのだろうか。

半信半疑ながらも、歩を進める。

それと同時に、願う。

どうかこの先に待っているものは、平穏な世界であってくれと。

「…」

二つの建物の間を抜けると、ちらほらと人が歩いているのが見えた。

普通に話し、普通に歩いている。

中には笑いながら、中には真剣な話をする者もいる。

なんて事ない日常生活を送っている。

だが、何だ。

どこかおかしい。

「…」

歩いている人間達は皆、同じ格好。

白の軍用服に、腰に妙なアクセサリーをつけている。

お世辞にもオシャレという事は言えない。

そのアクセサリーは、恐らく何かに引っ掛ける類のものだろう。

腰部についているという事は、自身の身を安定させるためのものか、何かをぶら下げるものか。

いずれにせよ、私服には見えない。

…そういえば、この世界には至る所に手すりがついていたな。

老人向けのユニバーサルなデザインにしては、急な階段も多かった。

…すると、これは前者か。

身を安定させるという事は、何かしらの揺れや、突発的な災害。

…少なくとも、それをするという事は、死者の世界ではなさそうだ。

だとすると、自分はまだ死んでいないという事になる。

「…」

自身の喉から、口から出た息は溜息なのか、安堵のそれなのか。

「…?」

ふと視線を感じ、前を向く。

いや、視線は一つじゃない。

…周りの人間ほぼ全てが自分を見ている。

指差す者や、稀有な視線を向ける者。

ここで自分が着ているものは、決して常用するものではない服装だという事を思い出した。

考えも無しに出てきたのは間違いだったか。

しかし、今の自分にはそれ以外の選択肢は無い。

…しかし出てきたとはいえ、これからどうするのか。

あまり立ちすくんでいるのも、良くないな。

あまりこの視線には耐えられそうもない。

人がいる事が確認出来ただけでも収穫とするしかない。

ひとまず何処か人気の無い所に行くとしようか。

そんな事を考えていると、自分の前に一人の少年が近づいてくるのに気づいた。

その少年は、自分を不可思議な目で見ている。

しかし敵意が無いという事は瞬時に見てとれた。

こんな純粋な気を感じたのは久しぶりかもしれない。

その少年の瞳は、真っ直ぐに自分を見つめ、曇り一つない。

…クェスやハサウェイと出会った時の事を思い出す。

あの時の彼らは、純粋で、透き通ったガラスのような目をしていた。

…だが、そのガラスは、簡単に濁ってしまう。

透明であるそれは、裏を返せば何色にもなれる、という事。

空のように青い色もあれば、黒く濁った色にもなる。

…ハサウェイ。
今、君は何色なんだろうな。

「…あ、あの…」

「!」

考えに耽っている時、それは目の前の少年によって遮られた。

「…あの、ええと…」

…何かを話そうとしている。
だが何と声をかけていいのか分からない、という感じだろう。

…それは俺も同じだ。

「…すまない。もし良ければ教えてほしいんだが…ここはどこなんだ?」

「…えっ…」

こちらにとっては重要でも、向こうには訳が分からない質問なんだろうな。

「…ええと、ここは…シドニアという所で…」

「…シドニア?」

シドニア。

今彼はそう言った。

…シドニア。

…そんな惑星やコロニーの名前は存在しない。

自分が知らないだけかも分からないが。

「…」

「…」

こんな不審者に話しかけてくれる優しい少年。

有難いものだが、何を話していいものか。

…こんな時、シャアなら何を話したのかな。

「…あの、俺、谷風 長道といいます」

タニカゼ・ナガテ?

…変わった名前だ。

…いや、もしかしたらこの世界では至って普通の名前なのかもしれない。

「…僕は、アムロ・レイだ」

…今思えば、この少年と出会った事が、幸か不幸なのか。

…俺の人生観では、どちらとも言えないな。

先程の少年に連れられてきたのは、のどかな風景と打って変わって近代的で何処か殺伐とした空間。

見渡す限り、男女の違いはあれどやはり皆が同じ服装。

そして先程と同じで皆が自分を稀有な視線で見る。

正直、着替えたいと思うが。

…今の自分には衣服はおろか、所持金も無い。

「…」

部屋の大半を占めるモニターに、それを眺める者達。

それらから察するに恐らくここは、ブリーフィングルームだろうか。

…。

自然とその考えに至ったが、それはある事を意味する。

それがあるという事は。

この世界でも、何かが起きている。

戦争か、あるいは。

「…あの、谷風さん。部外者…?を入れるのは許可していませんが…」

「あ、ご、ごめん…でも、こういう時は纈かな…って」

「こういう時…?」

ユハタと呼ばれた少女はこちらを一瞥すると、何やら目を細めて首を傾げている。

知り合いであろうナガテに紹介されたどこの馬の骨とも知らない中年男性。

彼女の反応は至って正常だ。

「…?」

が、その目はどうやら俺の顔ではなく、パイロットスーツに向けられていた。

「…?」

一角獣を模した我ながら良い出来と思えるマーク。

彼女はそれをじっと見つめ、やがてハッとして手首につけられた何かをいじりだした。

「!」

するとそこからは液晶モニターなどを介さずに空中に映像が現れ、そこに映る何かにコソコソと語りかけていた。

「…僕は、彼女に何かしてしまったかい?」

「い、いえ!そんな事は無いと思います」

大袈裟に手を振るナガテに少し微笑ましさを覚えたが、それもすぐに何者かの声によりかき消された。

「!!」

何かが、得体の知れない何かが俺に近づいている。

邪気ではないが、何か危険をはらんだ気だ。

その気はやがて色濃くなり、視界の隅に現れた。

「…ほう。お前が…」

下からせり上がってきたその女性は、仮面をつけていて表情が読めない。

敵意は感じられないが、それに似た何かは感じ取る事が出来た。

警戒。

そう言うのが正しいのだろう。

仮面をつけていても、分かる程の警戒心。

…仮面をつける奴ってのは、そういう感じしかしないのは、一体誰のせいなんだろうな。

「…君は?」

「…お前は?」

「僕は、アムロ・レイ。地球連邦軍の大尉だ」

「…地球…連邦軍…?」

地球。

そのキーワードを聞いた瞬間、周りの空気が一瞬どよめいた。

まさか、地球を知らないと言う事はないだろうが。

…いや、あり得なくはないか?

「…どうやら、お互い相入れないはずの存在だったようだ」

そう言うと彼女はこちらに向かって降りてきた。

いや、降りてきたというのは語弊がある。

俺の前を悠然と通り過ぎ、俺とナガテが通ってきた扉を抜け、扉一枚挟んだ所で立ち止まった。

「…」

首を少しだけこちらに向ける。

それは、ついてこいというサインだった。

「…」

彼女に着いていって、俺はどうなるのか。

訳の分からない精神異常者として扱われるか、危険分子として撃ち殺されるか。

だが、逃げられるような空気でもなさそうだ。

「…」

ナガテに礼を言い、一人彼女に着いていく事が、今の俺の最善の道といえた。

「…昨晩、シドニア上200km地点で突如大型惑星が発見された」

彼女に連れられたのは、死刑執行部屋でも、監禁部屋でもない。

厚さ1mはあろうかというガラスに覆われた外を見渡せる部屋。

ここは彼女のプライベートルームなのだろうか。

それより、外の空間を見て気づく。

ここは、惑星ではないと。

惑星はこんな移動はしない。

重力に引かれて振り回され、自転するそれと違い、ここは意思を持ったかのように真っ直ぐに進む。

つまり、コロニーとも違う。

言うなれば、ホワイトベース。

それも、もっと規模の大きいものだ。

…まだまだ俺には知らない事が多すぎる。

「…そして、先進隊を向かわせた所、妙な物を発見した」

妙な物。

それは何だろうか。

…いや、もういい。

もう彼女が何を俺に見せようとしているか、よく分かった。

…まさか、ここまで来て、また会う事になるとは。

「…あれを、見ろ」

「…」

シドニアという巨大な戦艦の外に繋がれたそれを指差す彼女。

覚えているさ。

俺が作らせたんだからな。

「…vガンダム…」

「…ニューガンダム…それが、あれの名前か」

この世界が、あの後なのか、前なのか、というよりこの世界は俺のいた世界なのか。

それは分からないが、一つだけ理解出来る。

俺は、また、戦わなければならないという事を。

「…人は、同じ過ちを繰り返すのか…?」

既に燃料切れしたガンダムは、光を失いただ鎖に繋がれ浮翌遊する[ピザ]リもどきと化している。

動くかどうかも怪しいが。

この世界でも、恐らく戦争まがいの事をしているのだろう。

俺の疑問に彼女は、解決する言葉を持っていないようで。

外に向き直り、沈黙する事で答えた。

http://youtu.be/xE6SAE1tCEE

第1話 終

また明日書きます

おつ
これは期待…!

メール欄に半角小文字でsagaって入れておけ。
デブリが[ピザ]リになっているぞ。

デブリが規制で[ピザ]リになってるからsaga入れればいいよ

>>15

「…そして、先進隊を向かわせた所、妙な物を発見した」

妙な物。

それは何だろうか。

…いや、もういい。

もう彼女が何を俺に見せようとしているか、よく分かった。

…まさか、ここまで来て、また会う事になるとは。

「…あれを、見ろ」

「…」

シドニアという巨大な戦艦の外に繋がれたそれを指差す彼女。

覚えているさ。

俺が作らせたんだからな。

「…vガンダム…」

「…ニューガンダム…それが、あれの名前か」

この世界が、あの後なのか、前なのか、というよりこの世界は俺のいた世界なのか。

それは分からないが、一つだけ理解出来る。

俺は、また、戦わなければならないという事を。

「…人は、同じ過ちを繰り返すのか…?」

既に燃料切れしたガンダムは、光を失いただ鎖に繋がれ浮翌遊するデブリもどきと化している。

動くかどうかも怪しいが。

この世界でも、恐らく戦争まがいの事をしているのだろう。

俺の疑問に彼女は、解決する言葉を持っていないようで。

外に向き直り、沈黙する事で答えた。

youtu.be

第1話 終


興味深い


この先νガンダムをそのまま使うのかHi-νなるのか気になるな

もっとシドニアss増えればいいのに



地の文有りでここまで読みやすいのは久々だわ


アムロの方はともかくシドニア側の時間軸だとどの辺りなのか

>>20
浮翌翌翌遊×
浮翌遊○

何だよ浮翌翌翌遊って…

>>25
アニメの2期でお願いします

>>26

浮遊


こりゃ面白い、期待

デブリ以外にも魔力とか浮遊とか、一部のワードはsagaつけないと表示がおかしくなる>表示エラー

>>29

┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /

  _ノ   _ノ   _ノ ヽ/|    ノ    ノ       。。
       /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
    | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
    |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl  
.   ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
   /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
  /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄

  /   | .|           | .| ,U(ニ 、)ヽ
 /    | .|           | .|人(_(ニ、ノノ

初めての人はここへ行け

http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1432735272

ナガテもおるんか。後期アムロとのツートップか。

>>31
初めてじゃないんだけど、今まで見ずにやってました…申し訳ない

専ブラで他の板と一緒に開いてると間違えるかもね

「何だいこりゃあ…どうやって操作してたんだい?」

「慣れさ。君達の衛人と変わらない」

「ここを…えええ?」

燃料切れしているからか動く心配がないため、好き勝手にいじくり回される自分の機体。

vガンダムが作られた時には標準化されていた操縦桿だが、彼女、ササキにとっては初めて見る物であり、操作法はおろか電源をいれることすら難しいようだった。

「良いかい?ここを持って…」

「ひゃあっ!!?」

「…ああ、すまない」

「…い、いや、だ、大丈夫…」

ハサウェイに教えた時のようについ彼女の手を握ってしまった。

…全く、年を取るとそういうことに気が回らなくなるな。

俺はあれからこのシドニアの艦長、コバヤシに言われるがままされるがまま、衣服と個室を与えられまるでゲストを迎えるような扱いを受けていた。

はっきり言って、何がなんだか分からない。

この世界には、ガンダムはおろかMSなど存在しない事や、地球ははるか昔に滅んだ事。

今人類が身寄りにしているのは、このシドニアだけだという事。

俺の過ごした世界とは全く違う。

そして、最も違うのは。

「…奇居子、か…」

相手が人間ではないという事。

地球外生命体、奇居子。

聞いていると、まるでおとぎ話のように聞こえる。

侵略に来た宇宙人と戦う。

よくあるSF映画のような、そんな話。

…こんな中年に、まだ戦えというのか。

「アムロ…さんかな?アンタのガンダムってやつ、もうエネルギーがスッカラカンだったし、アタシらにゃあ分からない事だらけだからさ、アタシら流で直させてもらうけどいいかい?」

「構わない。出来る範囲で良い」

「後、武装も追加しといたよ」

「あのカビってやつかい?」

カビ。

それが奇居子に対抗する唯一の手段だそうだ。

それ以外は例え傷つけたとしてもすぐに再生してしまうらしい。

…奇居子が何で出来ていて、それを倒すカビというのがどんな素材なのか、マニュアルを見させてほしいものだ。

「だが原型は留めておいてくれよ」

「そうだね…まあある程度の事は聞くよ。愛着、あるんだろ?」

「…半々、かな」

「半々?」

半分、愛着があって。

半分は、もう乗りたくない。

これは、相手を[ピーーー]為の兵器なんだ。

「…」

「…まあ深くは聞かないよ。それと、アンタの言ってたミノフスキー粒子?そんなもんウチには無いからさ」

「…カビという武器一つで戦っているのか?」

「いや、ウチらのはヘイグス粒子ってんだ。…最も、あいつらには効果が殆ど無いけどね」

ヘイグス粒子。

また知らない単語が出た。

「…代わりになるのなら、それでいいさ」

「それと、あのビームサーベルってやつと、ファンネルってやつ?…あれははっきり言ってオーバーテクノロジーだよ。今の所アタシらにゃ扱えないね」

「…僕にとっては、君達の殆どがオーバーテクノロジーだよ」

「あはは。じゃあ技術交換だね」

「…君を見ていると、友達を思い出すな」

「友達?あはは、そりゃ嬉しいねえ」

共通点は一つしか無いが。

それでも、今の俺には救いかもしれない。

少しだけ、心許せる人間がいた。

今は、それで良い。

ガンダムの整備を彼女に任せ、一人ポツポツと戦艦の中を歩く。

彼らと同じ服に身を包んではいるが、何処か違うのだろうか。

恐らく衛人の隊員であろう者達がこちらをチラチラ見てくる。

同じ人間だというのに、まるで動物でも見るかのようだ。

悪気は無いのだろうが、こちらとしては勘弁してほしい。

「…」

人気が無い食堂が目に入る。

ここに来て驚いたのは、彼らは食事をほとんど必要としない事だ。

万年の深刻な食料不足に人類が適応していったのだろう。

植物のように、光合成をする事でエネルギーを蓄えられるらしいが。

…羨ましいような、そうでないような。

「?」

俺に用意された部屋の前で、二人の子供が待っていた。

一人は見慣れ始めた少年、ナガテ。

もう一人は…。

「はじめまして!ボク、科戸瀬イザナって言います!」

見た目は少年か、少女か。
判別がつけ辛い。

だがそういう事を聞くのは失礼かと思い、心に留めておくことにした。

「僕はアムロ・レイ。イザナ、よろしく頼むよ」

「あの!貴方の機体見ました!何だか凄く強そうですね!」

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」

強そう、か。

強い、弱い。

そんなのは戦場では関係無いと思う。

強かろうが、弱かろうが、墜ちる時は墜ちる。死ぬ時は死ぬ。

俺があそこまで生き残れたのはたまたま運が良いだけだったと、自分では思う。

…しかし。

「?」

…このイザナという子供、ボクというわりには随分女の子らしい格好をしていると思うが。

「あの、アムロさん」

イザナとの初会話を終えると、ナガテが話しかけてきた。

「何だい?」

「良かったら、ご飯食べにいきませんか?」

ご飯か。

おとなしい言い方だ。

「構わないが、君達はあまり食べないんじゃなかったか?」

彼らは一週間に一度か二度程度しか食べないというのを聞いた。

…俺に気を使ってくれているのか。

『グウウウウウウ…』

「…」

「…」

「…す、すいません…どうにも」

…使っては、いてくれているだろうな。

「…君も、僕と同じなのか?」

「は、はい。一日三回は食べないと落ち着かなくて…」

…若い証拠さ。

「アンタが噂のアムロ・レイかい?随分物静かだね」

当初はこの熊のビジュアルに驚いたものだが、見慣れてくると何ともなくなってくる。

「でも、アタシが人間ってよく分かったねぇ」

「分かるさ。優しい人間の暖かみを感じるからな」

仮に熊だとしたら人間の言葉なんて話せる訳がないと思うが。

「あっははは!アタシにそんな言葉かけてくれる男は、アンタで3人目だね!」

「ちなみに二番目は長道なんですよ」

しかし、彼女の名前を聞いた時は少しだけ驚いた。

…なんせ、彼女と同じ名前だったんだからな。

「…」

ヒヤマの後ろに書かれたメニューを何となく見てみる。

『重力からあげ』

『重力天ぷら』

『重力…』

…重力とは名がついているが、特に地球で食べたそれと大差ない。

恐らくこの艦特有の名称なのだろう。

ナガテとイザナ、二人と別れ、自室となった部屋に戻る。

随分殺風景で、寝床以外は何も無い。

着の身着のまま来たからか、自身の荷物は何一つ無かった。

…いや、一つ大きいのがあったか。

「…」

少し固めのベッドに横たわると、腰部にやはり異物感を感じる。

この安全装置、安全な時は邪魔でしかない。

だが万一に備え、皆これを脱ぐ時は寝る時か風呂に入る時くらいとしているそうだ。

「…」

特にする事も無いからか、ササキから貰った衛人の操縦マニュアルにくまなく目を通す。

仕組みなどはMSと大差ないが、コクピットだけはひと昔前のそれに類似している。

同じ人間が作ったんだ。
そりゃ似ているだろうさ。

…。

『しかし、地味に傷ついてるね』

『強い相手と戦ったんだ。傷もつくさ』

『…人間、だろ?』

『ああ』

『…嫌じゃ、なかったかい?』

『嫌?』

『…同じ人間同士が、争って、数を減らして、何が良いんだい?』

『…良いか悪いか、そんな単純な事ではないかな』

『?』

『戦争には大小あれど双方に理由、大義がある。人類を変えようとした者、それを止めようとした者…』

『…アンタは、どっちだったんだい?』

『それは、君の目で見極めてくれ』

『…少しは自分の株上げようとは思わないのかねぇ』

…このシドニアは、人類が変わった世界なのだろうか。

人ならざる強大な敵に、力を合わせて立ち向かっている。

これは、俺達が望んだ世界なのだろうか。

「…」

ナガテに案内されていた時ふと目にした数多くの戦死者の墓標。

本当に、これは正しい世界なのか。

「…シャア、お前ならどう思う?」

…いけないな。
ハサウェイを叱ったくせに、自分も同じような事をしてるじゃないか。

らしくないな、全く。

「…」

マニュアル本のページをめくっていくと、この艦には衛人の仮象訓練所があるという。

…どんなものか、一度見てみるとしようか。

「…!!?あー!10位以内は確実って思ったのによー!」

「まだまだ弱えよ!見てろよー!」

…。

随分入り組んだ場所にそれはあったが、この子供達の行列ですぐに分かった。

この子達は、実戦で戦った事があるのだろうか。

まるでゲームを楽しんでるように、この仮設コックピットに乗り込んでいる。

墜とした数、ダメージを受けた回数、全機撃墜までのタイムで競っているようだが。

先程悔しがっていた少年は10位以内どころか、50位にも入っていなかった。

第1位は…。

「…!」

そこにあったのは、彼。

谷風 長道の名前だった。

それも、パーフェクトだ。

あの少年が…。

人は見た目によらないという事か。

「…あ」

「あ…」

「え…」

「お、おい…あれ…」

順位表の電光掲示板が気になってつい身を乗り出してしまっていた。

「…」

何時の間にか怪しまれていたらしい。

順番待ちしていた者達も、横に移動し始める。

気を使っているのか、物珍しさからか。

「あ、あの、どうぞ…」

「…いや、すまない。見学していただけさ」

機械を見ると心踊るのは、昔からの悪い癖だな。

「い、いえ!あのー…ね、ねえ!煉!言ってよ!」

「え!わ、私が!!?」

この薄ピンクの髪の子達は双子だろうか。

双子でも、ここまで何もかも同じだと見分ける側も困るだろうな。

「…どうしたんだい?」

レン、と呼ばれた子は俺の前に立つと少しの沈黙の後、服をつまみながらたどたどしく喋り出した。

「あの、アムロさんの操縦、見てみたいんです!」

「…僕のかい?」

「はい!」

「…だけど、期待されているような事は出来ないと思うが」

「そ、それでも見てみたいんです!」

電光掲示板に記された順位表をもう一度見る。

1位、谷風 長道。

彼もまた俺と同じく、普通の人間。

…ここでは、異端の存在か。

食うか食わないかの違いだけではないようだ。

この子達は、俺にも期待している。

異端の人間には、何かあるのかもしれないと。

…正直、動かせるのかどうかも自信は無いが。

「…分かった。少しだけやってみるよ」

俺の返答に彼らは期待の声援を送る事で応えた。

「…」

操縦桿は、昔のMSとさほど変わらない。

しかしこの機体が一体どれほどのスペックで登録されているのかも分からない。

…初戦闘を思い出す。

何もかも分からないまま乗り、やたらめったら動かした記憶がある。

…あの時の自分と今の自分はどれくらい違うのか。

「…」

視界が無機質なコックピットから全天周囲モニターへと変わる。

『シミュレーションを開始します』

…。

目の前に広がるのは、もう見慣れた宇宙。

スペースデブリが浮遊し、静かな感じだ。

「…」

機体がそれなりに動かせる事が分かり、しばし遊泳する。

「…」

奇居子。

それが一体どんなものなのか。

仮想空間ではあるが、見る機会が出来た。

彼女達には、感謝しなければならないかもな。

「!!」

寒気を感じ、振り向く。

そこには、赤い小惑星。

いや、違う。

小惑星はこんなに一直線で向かってこない。

つまりは。

「そこおっ!!」

これが奇居子というやつか。

「…」

反射的にトリガーを引いたが、どうやら正解だったようだ。

カビを撃ち込まれ、悲鳴に似た断末魔をあげるそれは、とてもじゃないが仮想空間とは思えなかった。

「…」

嫌な感じだ。

何時の間にか先程までの静けさは何処かへと消え、こちらを見据え、飛んでくる化け物達に囲まれている。

「…」

やれるだけは、やるさ。

「1つ!」

誰かの仕業か知らないが、現に俺はこうしてまだ生きている。

「2つ!」

そして今もこうして戦っている。

「3つ!」

これが自分の運命なのか。

「4つ!」

永遠に与えられた使命だとでも言うのだろうか。

「5つ!」

だが、やってみるさ。

この一つの可能性を提示した世界で。

人々が立ち上がり、生きようと必死にもがき続ける世界で。

明日を生きる、子供達の為に。

「20!!」

『シミュレーションを、終了します』

仮想空間のモニターが解かれ、元のコックピットへと戻っていく。

それと同時に、はい次の方とでも言わんばかりにハッチが開く。

「ひ、被弾0…」

「たった2分で、全部墜としちゃった…」

相手は人間ではない。

直線的に向かって撃ち込んでくるだけの物だ。

緊張感も何も湧かない。

これはシューティングゲームと何ら変わらない。

「敵が自ら向かってきてくれたからさ。現実はそうはいかない」

しかし彼らには聞こえていないようだった。

湧き上がる歓声と拍手。

先程の、レンという子なのか違う方なのか分からないが双子に肩を叩かれ、彼女の指差す方向を見ると、電光掲示板の順位表が更新されているのが分かった。

『1位 アムロ・レイ 999999』
『1位 谷風 長道 ・ ・ ・ 999999』

…彼らのジンクスとやらも、あながち嘘ではないのかもしれないな。

第2話 終

>>37
「アムロ…さんかな?アンタのガンダムってやつ、もうエネルギーがスッカラカンだったし、アタシらにゃあ分からない事だらけだからさ、アタシら流で直させてもらうけどいいかい?」

「構わない。出来る範囲で良い」

「後、武装も追加しといたよ」

「あのカビってやつかい?」

カビ。

それが奇居子に対抗する唯一の手段だそうだ。

それ以外は例え傷つけたとしてもすぐに再生してしまうらしい。

…奇居子が何で出来ていて、それを倒すカビというのがどんな素材なのか、マニュアルを見させてほしいものだ。

「だが原型は留めておいてくれよ」

「そうだね…まあある程度の事は聞くよ。愛着、あるんだろ?」

「…半々、かな」

「半々?」

半分、愛着があって。

半分は、もう乗りたくない。

これは、相手を殺す為の兵器なんだ。

「…」

「…まあ深くは聞かないよ。それと、アンタの言ってたミノフスキー粒子?そんなもんウチには無いからさ」

「…カビという武器一つで戦っているのか?」

「いや、ウチらのはヘイグス粒子ってんだ。…最も、あいつらには効果が殆ど無いけどね」

ヘイグス粒子。

また知らない単語が出た。

「…代わりになるのなら、それでいいさ」

「それと、あのビームサーベルってやつと、ファンネルってやつ?…あれははっきり言ってオーバーテクノロジーだよ。今の所アタシらにゃ扱えないね」

「…僕にとっては、君達の殆どがオーバーテクノロジーだよ」

「あはは。じゃあ技術交換だね」

「…君を見ていると、友達を思い出すな」

「友達?あはは、そりゃ嬉しいねえ」

共通点は一つしか無いが。

それでも、今の俺には救いかもしれない。

少しだけ、心許せる人間がいた。

今は、それで良い。

また明日書きます

アムロのモノローグが良い感じ


両作品の雰囲気が上手く表現されてて何とも面白い

アムロにあの額からビームが出そうな女の名前を言わせるなよ?いいな、絶対に言わせるなよ?


面白い

これはよい

乙、
これはいい

毎度地の文が素晴らし過ぎる


無知で申し訳ないんだが、ニュータイプってシミュレーションでも敵の気配を感じ取れるの?
生身の相手か悪意をもった兵器しか感知できないイメージがある

エコールだかだとシミュレーターでも問題なかった気がする
一応は対人専用ではない勘が良いだけって言い分もあるしな

まあ長年の戦闘経験と実績からすればシミュレーターだったらこれくらいできるのだろう

まあアムロだし

アムロはニュータイプ覚醒前から割と化け物だからなぁ

>>60
意思の疎通ってのはニュータイプの能力だけど、物事の本質を読み取るってのもそうだからシミュレータのパターンを無意識に把握したとかあるんじゃね
あとアムロは単純に戦闘技術も高い

evolveのCGで脳内再生余裕

「…しかしお前さん、よく来るねぇ。そんなにメカが好きかい?」

メカの整備を担当する彼らにとっては正直邪魔なのかもしれないな。

しかし、今自分が落ち着く所といえばここくらいだ。

「…そう怖い顔すんな。お前さんのガンダムってやつはちゃんと元に戻ったさ」

削られていた装甲に、新しい素材を埋め合わせただけではあるが。

vガンダムはもう新品同様となっていた。

ファンネルやビームサーベルはそのままの飾りとなってしまったようだが。

「…?」

ガンダムのバックパックに見慣れない武装が追加されている。

「あれは?」

「あれか?喜びな。特注で作ったやつだ」

あれ、というのはこの機体には似合わない実体剣。
おそらくはカビとやらで作ってあるのだろう。

それと衛人に標準装備されているカビを撃ち込む銃。

バルカンは……空。

「カビはそこまで余裕が無いんでな。無駄遣いは出来ん」

無駄遣いとは言ってくれるな。

「それと聞いたぜ?お前さん、谷風に並んだらしいな」

「あれはあくまでゲームだ。実戦とは違う」

「…俺の方が上だって顔だな」

「…からかうんじゃない」

軍でそれなりに戦ってきたんだ。

多少なりともプライドはあるさ。

先日のゲームの結果は、すぐさまシドニア船員の評価に反映される事になった。

この艦では、実力が全てだとでも言うのだろうか。

…そうでない事を願いたい。

「あの!アムロさん!」

「アムロさん!お話を…」

「アムロさん!」

まだ実戦にすら出ていないというのに、ハードルを上げてくる。

彼らの変わりようには苦笑するしかない。

「…」

部屋の中、一人。
邪魔となっていた服を脱ぎ、いつもの下着姿でくつろぐ。

戦闘が無ければ、ここまでのどかなのか。

侵略者がすぐそこまで迫って、いつ死ぬかも分からない世界だというのに。

「シドニアは武器を捨てろー!」

「「捨てろー!!」」

「武装化はんたーい!」

「「はんたーい!!」」

窓を開けているからか、非武装主義の者達がデモを行っている声が聞こえる。

簡単に言ってくれるな、と思う。

彼らはいざあの化け物が目の前に来て、自分の足元に銃が落ちていたら、それを拾わないのか?

拾わずに、両手を挙げて応えるのか?

…俺には、そうは思えない。

秘密主義というのは、時にこういう勢力を作ってしまう。

小林は一体何を考えているんだ?

知られたらマズイ事でもあるのか?

『アムロ・レイ。至急館長室まで』

…噂をすれば、か。

毅然とした命令口調のアナウンスに疑問を感じながらも応じ、彼女の待つ館長室へと足を運ぶ。

「どうした?」

「お前に、これからのシドニアの行先を伝えておこうと思ってな」

そう言うと彼女は何を思ったのか、いつもの不気味な仮面を外し、恐らくほとんどの男が見惚れてしまいそうな美形な顔を覗かせた。

「…その仮面は、何の意味があるんだい?」

「…」

…。

答える必要は無い、か。
時が来れば教えてくれるのだろうか。

「この艦の先にはセブンと呼ばれる大型の惑星がある。私達が当面の目標としているのはそこだ」

「セブン…」

そこが安住の地なのかどうかは分からないようだが。

それでも、今の彼らにはすがりつくしかないのだろう。

「…だが、そこまでにはかなり険しい道のりを行かなければならない」

「…」

「そこで、お前にはある役を与えたい」

「役?」

「今のシドニアの船員達は皆よくやってくれている」

…それは、言わなくても分かるさ。

「少なくとも、彼らがいなければこのシドニアは滅んでいたんじゃないか?」

「…そうだな。だが、今のままではダメだ。まだ奴らは若すぎる」

「…」

若い、か。

「それは、少し違うな」

「…何?」

「新しい時代を作るのは老人じゃあないんだ。未来ある若者達なんだ」

「…」

「僕の友人なら、そう言うだろうさ」

「…だが、まだ早すぎる。奴らにはまだ、そこまでの経験が無い」

思えば自分達も、そうだった。

ハヤト、カミーユ、カツ。

あんな子供達に銃を持たせた。

冷静に考えれば異常極まりない。

…彼らしかいなかった、という事もあるが。

…だが。

「…仕事をしないと言ってるわけじゃないさ。けれど、凝り固まった考えを持つ大人よりも、柔軟に考えられる子供達の方が適正な意見を出す時もある」

「…」

「…で、僕はどうするんだ?」

「…」

「…」

「…奴らを、育ててくれ」

「…ああ。わかったよ」

彼女の表情が少しだけ和らいだのは見逃さなかった。

「…」

再び部屋に戻り、ユハタという少女から手渡された衛人の戦闘システムが書かれた用紙を見てみる。

「複数の機体がまとまって行動するのか…」

決して珍しい戦闘ではない。

そういうものを幾度となく見てきた。

が、自分がそれをやったかと言えばそうとは言えなかった。

いつも最前線に出て、どちらかと言えば単機出撃が多かった自分にとっては、これはいくばくか信用がなかったものなのだ。

「…」

いずれにせよ、衛人とvガンダムでは運動性どころか、仕組みが違う。

この掌位というのが出来るのか否か。

そこはあのサマリという女の子に任せるしかないだろう。

「…!」

突如、腕に巻かれた機械に文字が浮かび上がる。

ある程度の仕組みは理解していたが、どうにも慣れないな。

しかし、ついに来てしまったか。

なるべくならまだこの平穏を感じていたかったものだが。

「…」

『出撃指令』

「…」

せっせとパイロットスーツに着替える他の船員達。

「…」

「うっ」

「うおっ」

…。

このスーツの仕組みも、ある程度は理解出来ている。

だからこそ、初めては勇気がいるな。

「…!!」

股間部に、微かな痛み。

…この感覚には、しばらくは慣れそうにない。

「出撃する!vガンダムの整備は!?」

「え?あ、ちょっと待ちなよ!」

「何をやってる!」

「いや、ちょっと落ち着きなよ!まだ出撃準備が整ってないんだよ!」

何を言っているのか。

「そういう事は前もってやっておけ!!」

「無茶言わないでおくれよ…ただでさえ複雑な構造なんだから、準備するのにも気を使うんだ」

…。

なるほど。

衛人の整備はプロだが、こいつの整備はまだ初めてだったな。

「だが、もっと緊張感を持ってやらないとダメだ。時間は有限なんだぞ」

「はいはい…説教なら後で聞くから速く乗っておくれ。これでも急ピッチでやってるんだから」

聞いているのかどうなのか。

慣れる事とダレることは違うんだ。

もっとメリハリをつけられないものなのか。

命を賭けて出撃する者達にとってそれは少し非常識とも言えるのだが。

よく考えれば、あれくらいの方が出やすいのかもしれない。

「傷つけるんじゃないよ!」

そう言って手を振る佐々木は、まるで俺が帰ってくるのが普通だとでも言わんばかりだ。

…彼女が信頼しているのは俺なのか、それともガンダムなのか。

…彼女が俺の思った通りの女性なら、後者だな。

しかし、他の機体が続々と出撃する中で俺一人がのうのうと待機しているのはどうかと思うのだが。


「これより、ガ-549を討伐する!衛人隊、出撃用意!」

「もうちょっと待って!まだ出撃準備が済んでないのもいるの!」

『速くしてくれ!』

「分かってるって!」

「攻撃目標は一体。本体数も一個体。だけどとても質量が大きい…油断しないで!」

『『了解!!』』

『送れました!谷風機、先行します!』

「各機、貫通弾の有効射程距離まで入りました」

「谷風機は、有効射程距離からの狙撃を開始。他各班は前翼陣形で援護!」

『『了解!!』』

『了解!谷風機、狙撃を開始します!』

『…!変だ…!』

「!!?奇居子本体、破壊できていません!貫通弾、奇居子表面で食い止められています!」

「何ですって!?」

「エナが、重なり合っています!」

「…!!?」

『こんなに早く貫通弾対策をしてくるとはな…!』

『くそっ!どうやって本体を破壊すればいいんだ!!』

『出来るだけ同じ場所を全機で撃ち続ければいいと思います。エナの回復速度を、破壊速度が上回ればいつか本体を貫通するはずです!』

「…それしか方法はなさそうね。管制官、奇居子表面から本体への最短到達距離から着弾地点を分析!各機に転送して!」

「了解!」

「全機、攻撃をこの一箇所に集中して!」

『了解!』



pipipi…

「…何!?」

「…!アムロ機、ガンダム、出撃準備整いました!」

「!」

『整備が遅れたようだ。アムロ・レイ、ガンダム!出撃する!』

「…ようやくお出ましって事ね…アムロさん!お願いします!」

「ぐっ…!この攻撃を避けながら撃ち込むのは無理だ!」

「このままじゃ…弾が尽きてしまう!」

「…!待ってください!後ろからヘイグス粒子反応!」

「!?…な、何だこの高エネルギーは!?」

「緑川指令補!これは何だ!?」

『落ち着いて下さい!それは彼です!』

「…彼?…まさか!!?」

私はそれを見た時、こう思った。

これは戦艦から撃ち込まれたものなのか、と。

だが、緑川指令補はそう答えなかった。

彼、と。
そう言ってみせた。

今、私達が彼と呼ばれ思いつくのはたった一人。

…。

「…アムロ操縦士か!!」

http://youtu.be/XbiU4UE33iU

「何をやってる!!再生し始めているぞ!!」

奇居子表面を削ったそれは、彼の、ガンダムから撃ち込まれたものだった。

アムロ操縦士は私達を叱咤した後すぐさま敵を真近に捉え、先程私達が無理だと断った事を平気な顔をしてやり出した。

「ぼさっとするな!避ければいいだけの事だろう!!」

避けては撃ち込み、避けては撃ち込み。

まるでいつどこから攻撃が来るのか分かっているようだ。

「俺一人では無理だ!君達も手伝え!」

「それが出来たらやっています!」

攻撃を避けるだけで精一杯の私達。

あの谷風ですら呆気に取られている。

今、私達の目の前にいるのは、一体何なのか。

彼は、私達とどれだけ練度の違うパイロットなのか。

たった一度の、それも初陣戦で彼は私達との腕の違いを見せつけてしまった。

…それは、奇居子との初戦闘のさなかに感じた。

「!」

後ろ。
遥か後ろから何かを感じる。

複雑で、単純な何か。

『…!!?アムロさん!後ろから奇居子接近!超高濃度のヘイグス粒子砲感知!!避けて下さい!』

「!?…何だこれは!?…邪気と純粋さが入り混じっている!」

『何を言ってるんですか!早く!!』

「ぐっ!!」

無茶を言ってくれる。

急速旋回し、vガンダムのビームライフルとは比べ物にならない程の威力を持ったそれを避ける。

いや、避けるというのは違うな。

それは、俺の場所とは違う所に着弾した。

その粒子砲の狙いが俺ではない事は、それで分かった。

あの巨大な奇居子。

それの本体に向かって撃ち込まれていた。

俺に向かって撃つのなら、こんな都合の良い外し方はしないはずだ。

問題は、何処から撃ち込まれたのかという事。

俺に向かって撃ったのではないなら、敵ではない。

つまり、味方という事になる。

「…!」

vガンダムのカメラをズームに切り替える。

そして、その粒子砲を撃ち込んだそれを見る。

「…」

今自分の顔は、随分間抜けな顔をしているんだろう。

先程、ユハタが自分に通信で言った事すら忘れてしまう程だ。

「これは…」

「…な、何…?」

全身が赤く染めあげられたそれは、誇らしげにその武器を抱え込み。

「…何よ、これ…」

空いた片方の腕を自身の胸に置き。

まるで、年端もいかない少女のように。

俺達に向かって、まるで人間のように、自己紹介してみせた。

「はじめまして。私は白羽衣 つむぎです」

可愛らしい女の子の声。

…だが。

『…反応…』

「…」

『…奇居子です…』

誰もが言葉を失う。

それもそうだ。

その声の主は、俺達が討伐する筈の存在だったんだからな。


第3話 終

また明日書きます


引き込まれるなぁ


つむぎとの接触もあるのかな
これはまた続きが気になる

俺達のピンチを救ったのは、俺達の攻撃目標である筈の、奇居子。

つまりそれは、同士討ちという事だ。

何処からともなく現れ、奇居子の身体を凄まじい勢いで削ってみせた。

「…何だ、これは…」

そして先程撃ち込んだであろう武器は崩れ落ち、それを何の気なしに見つめるそれ。

しかし、次の瞬間それは、俺達に一瞥もくれず奇居子へ向かって突貫していった。

「!」

まず驚いたのは、その速度。

vガンダムでも追いつけそうにないだろうスピード。

そして、もう一つは。

今度はその鋭利な爪が生えた拳で奇居子を破壊しだしたのだ。

原始的で、野生的なその戦い方。

だが、間違いなく奇居子の装甲は著しく削られている。

「…」

俺も、皆も、呆気に取られ、ただその同士討ちを眺めているだけだった。

…いや、これは本当に同士討ちなのだろうか。

仮にそうだとしたら、俺達も例外では無いと思う。

しかしあれは、何の迷いもなく、一切の躊躇もなしに突っ込んでいった。

「!」

その時だった。

奇居子からの攻撃に、肩を抑えうずくまるそれ。

痛みを感じ、訴える。

あんな事をしていれば、攻撃されるのも十分に予測出来た筈だが。

…先程の複雑な感じ。

今あれが俺達に見せているのは、純粋な気なのだろう。

それも、幼い。

…ただの力を持った子供にも見える。

「…!」

その時だった。

ツルウチの機体から、貫通弾が撃ち込まれようとしている。

同士討ちしている今がチャンスだという事なのだろう。

…どうしてこうも、考えと行動が同時に出るのか。

「ツルウチ!よせ!」

「えっ?」

思わずトリガーを引いてしまったのだろう。

微妙に狙いを外したその貫通弾は、それの肩部に被弾し、それを見逃さなかった奇居子がそいつを拘束し始めた。

「馬鹿やってんじゃない!!」

しかし、俺よりも先に飛び出した機体があった。

「長道!!?」

彼はそいつを拘束しようとする無数の触手の一部を受け止めた。

そのおかげもあってか、容易にその触手を切り裂く事が出来た。

「谷風!アムロ…さん!何を!?」

「敵か味方かくらいすぐに見極めろ!」

「この奇居子は、敵じゃありません!」

「…えええ?」

「…」

ツムギと名乗ったそれは、長道と彼の機体を起き上がらせる俺二人をじっと見据えていた。

「…一先ず上がるぞ。あんな馬鹿な戦い方をするんじゃない」

「はい」

若干故障した長道の機体を背負い、ツムギと共に一旦戦闘区域から逃れる。

これが奇居子だとしたら、あのスカート部分はどうなっているのだろうか。

生き物からどうやってあんなジェット機のような噴射が起こる?

「…ありがとうございます。継衛にお乗りの方、ええと…もう一人の方」

「君は、紅雀ではないみたいだけど…」

「はい!私は…」

長道の口から出たベニスズメとやらは分からないが、ツムギが話そうとした刹那、管制下スタッフからの入電にそれは遮られた。

『奇居子本体、再生しています!』

「何!?」

振り向くと、先程よりも早いスピードで再生し始めた奇居子。

だが、このツムギとやらがあらかた削ってくれたおかげである程度は戦闘が楽になったのだろう。

サマリをはじめ、他の戦闘員達も奇居子本体に突っ込んでいった。

「ってーー!!」

サマリの掛け声とともに撃ち込まれていく無数の貫通弾。

…これで終わるといいのだが。

…いや、何かおかしい。

「…これって…」

「…長道?」

「危ない!!今すぐ離れて!」

「そこから離れて下さい!」

「!」

長道とツムギの声を他所に、奇居子に急接近していた者達。

彼らは奇居子から発せられるパルスを避ける事が出来ず、撃墜されていった。

「…!」

これが、戦争。

昨日まで話していた人間達が、簡単に死んでいく。

のどかな日常とは真逆の、血なまぐさい世界観。

…平和ボケしていた自分を恥じる。

今俺達がいるのは戦場。

殺し合いの場なのだ。

「…ええい!」

『!?アムロ操縦士!単機では危険です!』

「vガンダムは伊達じゃない!!」

『はあ!?』

これ以上死者を出してはならない。

少なくとも、俺の目の前では。

「…!!」

ビームライフル、貫通弾、剣。

数も少なく、心許ない武装。

だが、出来ない事はない。

弱点も、行動も分かった。

なら、後は俺の腕だけだ。

『アムロ機!奇居子本体に貫通弾、ヘイグス粒子砲を撃ち込んでいます!………!』

『何!?どうしたの!?』

『こ、コンマ1mmのズレもありません!』

『な、何ですって!?』

「おおおおおお!!」

弾は補充すれば良い。

弾がないなら。

無くなったなら。

『アムロ機!カビ性実体剣装備!』

「そこおっ!!」

ガンダムに出せる最高出力で、剣を突き立てる。

流石奇居子専用機武装という事か、何の抵抗もなく沈んでいく。

「…!!」

しかし、手応えは無い。

浅かったか、外したか。

「…届け!届け!!」

もう少し長めに作らせておくべきだったか。

このままでは、第二波にやられてしまう可能性がある。

焦りからか、先の事を考える事を忘れていた。

…平和ボケしていたからだろうか。

…その時だった。

「…!君は…長道も!?」

長道とツムギ。

彼ら二人、俺の手助けをしようとしてくれているのだろう。

ガンダムの掌にそっと手を乗せる。

「俺達も戦います!」

ツムギ、長道、そしてガンダムは彼らの助力でさらに力を加え、深く、深く剣を沈めていった。

…。

この暖かみはなんだ。

母性ではないが。

それでも、優しさを感じる。

「「「おおおおおおおおっ!!!」」」

やがて剣が沈むところまで沈むと、ついに断末魔の悲鳴が聴こえた。

つまり、手応えがあったという事だ。

そして、その断末魔が止まった瞬間。

奇居子は崩れ始め、分解し出した。

「…」

つまり、これは勝利したという事になる。

「…」

三人、顔を合わせる。

「…」

全く表情は変わってないが、分かる事はある。

目標を達成出来たんだ。

そりゃあ、嬉しいさ。

「ありがとう。君達のおかげで奇居子を倒す事が出来た」

「…!嬉しいです!ありがとうございます!」

「そんな…俺はアムロさんを手伝っただけで…」

不思議な者達だ。

今にも襲いかかってきそうな風貌なのに、両手を挙げて喜んでいる。

そのギャップに苦笑せざるを得なかった。

「…ツムギと言ったかな。君が礼を言うのは僕じゃない。彼だ」

そしてツムギと俺、互いにある一点を見つめる。

このツムギという奴を、身体を張って助けた。

彼は損傷しながらも、俺達を助けてくれた。

「長道に、感謝しなければならないな。彼が思い切った行動をしなければ、こうなる事は無かったかもしれない」

「ナガテさん…はい!…あの…」

「どうした?」

「貴方のお名前も、教えてもらってもいいですか?」

両手を合わせ、首を傾げる。

ロボットには簡単なようで難しいその動作をフラットにやっている。

…これが、生き物で、奇居子だという証拠なのだろうな。

「アムロ・レイだ」

「はい!お二人とも、ありがとうございました!」

「ああ」

「またね。つむぎ」

再びあの謎理論で飛んでいったツムギ。

微笑ましさを感じながらも、それと同時に奇居子の恐ろしさを痛感させられる。

これ程までに性能の差があるのか、と。

…しかし、このツムギとやらから発せられる邪気は何だ?

こいつのものでないとしたら、一体…。

『お父様。挨拶はしなくてよろしかったのですか?』

『問題ない。いずれ会うさ』

『…?』

『谷風 長道…ヒロキのクローン…しかし…』

『…』

『…アムロ・レイ…誰かのクローンでもなければ、昔からいるわけでもない』

『お父様?』

『…一体奴は、何者だ?』

「アムロさん!助かりました…。ありがとうございます!」

煉が長道の機体を担ぎながら礼を言う。

あのプレッシャーからよく生き延びたものだ。

「生きていてくれた。それだけで良い」

「…はい!」

だが、忘れてはならない。

戦闘中は常に通信を取っている。

他のパイロットが死ぬ時の断末魔もリアルタイムで聴いている。

その恐怖、死と隣り合わせだという事を。

「…」

撃墜された仲間の機体だった残骸を見上げる。

…もう、見慣れてしまったとは言えないな。

人が、仲間が死ぬのはいつだって悲しいものだ。

「アムロさん!帰りましょうぜ!」

「…ツルウチ」

「…何を考えてるか、俺でも分かりますよ」

「…すまないな。君達に気を使わせてしまっている」

「まあまあ。それよりもあの見事な腕前、シドニアに帰還したら拍手喝采もんですよ!」

肩部をポンと叩かれ、若者に励まされる自分を少し情けなく思う。

だが、戦いは一先ず終わった。

無事に帰還出来た者達がいる。

「…」

死者の骨を拾ってやる事さえ出来ないが。

…自分よりもまだまだ若い子供達が死んでいく様を見るのは、心苦しいな。

シドニアに戻ると、ツルウチの言う通り皆が拍手喝采で俺達を迎え入れた。

死者もいるというのに、だ。

…それだけ、生還率が低いということか。

「アムロさん!今度ボクにも操縦技術を教えて下さい!」

俺達の戦闘をモニターで見ていた中の一人。

イザナは嬉しそうに話しかけてくる。

「…機会があれば、教えるさ」

出来る事なら、そんな機会訪れてほしくはないが。

避けては通れない道なんだろうな。

「よくもまあ無茶をやってくれるもんだね。壊されるんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ」

「そう簡単には当たる訳にはいかないさ」

資源は有限なんだ。

そう毎回配給がされるわけじゃない。

…人間も、同じだな。

戦闘後の束の間の余韻を感じる暇もなく、広場に集まる。

何やら重大な発表があるらしいが。

「岐神開発からの発表らしいぞ…」

どこからか、これから起こる事を細々と語り合う声が聞こえる。

クナト開発?

聞いた事がないな…。
いや、当然か。

「…」

一番後ろで、なるべく目立たないように舞台を見る。

いつもの広場には無い空気がある。

大げさな会場をを作ったという事は、それなりの事を話すということだ。

「…」

皆一様に固唾を飲み、見守る。

これから何を知らされるのか。

やがて下から一人の男がせり上がってくる。

「…!」

この男。

そうだ。

あの時感じた邪気。

…この男だったか。

「…」

その男は、ギャラリーを一瞥すると一息ついて、語り出した。

「ただいまから、融合個体についてご説明致します」

融合個体。

…それは一体?

「融合個体とは、文字通り人間と奇居子を融合させた個体。即ち人間の心と奇居子の強靭さを兼ね備えた究極の生命体です」

…。

つまり、先程のあれか。

確かに、あれは人間のような接し方で、信じられない程の戦闘力を発揮していた。

「…それでは、ご紹介させていただきます」

その男がそう言った瞬間、彼の後ろの巨大な扉が開き始める。

そしてそれを見た瞬間、大勢の、戦闘には参加しなかった者達が思わず身構える。

青年一人と、特徴的なフォルムの、巨大な生物。

全体を赤く染め上げ、悠然と立つ。

「白羽衣・つむぎ…」

皆つむぎの巨大さに圧倒され、言葉を失っている。

今にも襲いかかってくるのではないかとでも思っているのかもしれない。

そもそもあれは奇居子。

自分達と敵対している生物だ。

素直に迎え入れる事はかなり難しいだろう。

「この度は、お忙しい中ご参加頂きましてありがとうございます」

…まるで棒読みだ。

用意された言葉を話しているようにしか見えない。

「融合個体の、白羽衣つむぎと申します。以後お見知りおきのほどをよろしくお願いします」

…知ってるさ。

あんな衝撃的な戦い、忘れたくても忘れられない。

「こいつが奇居子のように、人を食ったり襲ったり汚染物質を撒き散らしたりしないという保証はあるんですか?」

どこからか、遠慮の無い質問が飛ぶ。

…彼らからすれば、そうだろうな。

「絶対に起こり得ません。彼女の人格は完璧です」

「100年前の戦争の大混乱を経験した世代には、そんなもの全くもって受け入れられない!」

今度は白髪の老人が枯れた声で拒否の意を唱えた。

…100年前は知らないが、少なくとも彼女のあげた戦果は少しくらい反映させてやってもいいと思うが。

「科学者落合は、それでシドニアを滅ぼしかけたんだぞ!」

「あの時の失敗は、不完全な制御方法にありました。新しい融合個体は操縦する必要がありません。簡単な指示を出すだけで良いのです」

操縦の必要が無い。

…つまり、この男が彼女に乗っていた、と。

…色々とむちゃくちゃだな。

「さらに、ただちに融合個体を停止させる事も可能です」

「…どうも、腑に落ちないねぇ…」

何時の間にか俺の隣に来ていた佐々木が一人呟く。

他の船員のように声を荒げる事はないが、彼女なりに思う事があるのだろう。

それ以降も、色々な質問が飛び交う。

それにつむぎは臆する事なく答える。

…まるで文章を読み上げるように。

「あ、アムロさん」

「?長道に、イザナか…長道はどうしたんだ?その腕は」

「あ、これはほら、さっきの戦闘で…」

…腕を骨折しながら戦っていたのか。

「大した精神力だ。君はやはり優秀なパイロットだよ」

「いえ、何というか…すぐに治ってしまうんです」

「若い証拠だろう。それは誇るべき力さ」

柱の影から身を乗り出して彼の頭を撫でる。

その時だった。

「…!アムロさん!谷風さん!」

声のする方を振り向く。

誰から発せられたのかは一目瞭然だ。

「…つむぎ?」

つむぎは間違いなく俺と長道を見据えている。

そして、周りのギャラリー達も俺達を見る。

…やってくれたな。

「谷風さん!その腕、どうかされたんですか?まさか、私を庇って頂いた時に…!」

声が1オクターブ程高くなっている。

恐らく今話しているのが、本当の彼女だろう。

「あ、ああいや、全然大した事じゃないよ」

腕が折れたのに、何ともないとはな。

この子は、一体どれ程の精神力を持っているんだ?

「あぁ…良かったです…」

つむぎがほっとして安堵の溜息をつく。

それと同時に、地面、いや、シドニア全体が揺れる。

「…!」

思わず手すりに掴まる。

こんな宇宙戦艦に活断層は無い。

あっても地震など外部からの攻撃でもない限り有り得ない。

…いや、内部からも考えられるな。

前を見ると、つむぎが何やら楽しそうにしている。

犬のように、尻尾を振りながら。

「♪」

彼女にとってはただのご機嫌を表す行為でも、人間達にとっては災害以外の何ものでもない。

ネズミが人間の足音の振動に恐怖を覚えるのと同じだ。

「あ…ご、ごめんなさい!」

「本当に大丈夫なのか!?」

「…大変失礼しました。私は人類存続のためにこの力を尽くし、奇居子と戦います」

上がったテンションが元に戻ったのか、また抑揚の無い声に戻り、再び文章を読み上げるように話す。

だが、それはもう遅かった。

「…!」

誰かが何処かからスパナを投げつける。

それを皮切りに周りの者達が次々に彼女に罵詈雑言を浴びせ始めた。

つむぎはただ、オロオロするだけだ。

「…」

止めようにも、止まらない周りのどよめき。

それは佐々木も同様で、彼女もつむぎを睨みつけていた。

長道やイザナはそれとは真逆の反応だったが。

「…では、これで終わらせて頂きます。ありがとうございました」

…つむぎの初公演は、最悪の結果に終わったようだ。

つむぎはあの男、岐神に連れられ戻っていった。

不穏な空気にしたまま終わらせるのはよろしくはないが。

「あの、アムロさん」

「なんだい?」

恐らく原因を作ったであろう長道が話しかけてくる。
隣にイザナを連れて。

「えっと…つむぎの所へ行きませんか?」

「つむぎの所かい?」

「はい…その、かわいそうで」

「かわいそう…」

彼もまた俺と同じ事を思ったのだろう。

あの子はまだ幼く、とても優しい子だと。

ただ大きさが圧倒的に自分らと違う事から、コミュニケーションが取れないだけだと。

「…」

イザナも同様だった。
…良い子達だな。

「ああ。僕も行こう」

「…」

岐神のいる施設へと足を運ぶ。

不気味で、一体何が待ち構えているのだろうか分からない。

…いつでも二人を助けられる用意をしておこう。

『どうぞ。お入りください』

前持って連絡を入れなかったのにも関わらず、意外とすんなり受け入れられたのは驚いた。

「…」

異様な雰囲気の立ち込める階段。

雰囲気だけじゃない。

妙な薬品や、生臭い臭いがする。

思わず鼻をおさえたくなる。

「…」

やがて、紫色の謎の液体で満たされたプールに着く。

臭いの元はここだ。

落ちないようにと申し訳程度の手すりが設置されている。

中を覗き込むと、中から二本の触手のようなものが飛び出す。

紫色のガスを撒き散らして。

「な、何だ!?」

拳銃があったら思わず構えてしまったかもしれない。

中から出てきたのは、俺達が会いにきた相手。

つむぎはこちらを見据えると小首をかしげた。

「アムロさん!谷風さん!どうしてここに…?」

彼女の質問に、咳払いしながらも答える。

「…長道とイザナが、どうしても君と話がしたいみたいでな」

それを聞くと彼女は、いや、彼女の下から。

太めの触手が一本、勢いよく飛び出てきた。

「本当ですか!?」

俺を見ると、それは恐らく手なのだろう二本のそれを合わせ、嬉しそうに。

俺の顔面に迫ってきた。

「…」

あまりにも突拍子もない行動。
しかし、彼女からは純粋な好意しか感じられない。

「凄い!ありがとうございます!」

…よく見ると、触手の末端の真ん中に目がある。

点になったり、横一文字になったり。

…これこそ、オーバーテクノロジーだよ。

「谷風さん!」

俺との会話を終えると、今度は長道に迫る。

流石にあれが瞬時に自分の顔面に迫ってきたら、驚きを隠せないだろう。

SF映画でも、見ている気分だ。

…今俺は、宇宙人と相対しているのかもな。

「あの…そちらの方は?」

「あ、…友達のイザナだよ」

「長道と同じで君を心配していたんだぞ」

…どうやら、彼女の挨拶は顔を近づける事らしい。

まだ何も分からないのだろうな。

こんな幼い精神で、よくあんな危ない所へ来てくれたものだ。

「イザナさん、はじめまして!」

「ああ…うん。はじめまして…」

「凄く嬉しいです!丁度私、人間の事をもっと知りたいと考えていた所なんです」

「そ、そう…良かった…」

あの長道ですら顔が少し引きつっている。

その気持ちは、大いに分かる。

「あの………触っても、いいですか?」

つむぎは長道に近づき、よく分からない依頼をした。

触る。

…彼女にとっては、全てが新鮮だからなんだろうか。

触れ合う事すら、初めてなんだからな。

「…触る?…べ、別に構わないけど…」

「……………失礼します!」

きっとその瞬間、長道は後悔したと思う。

つむぎはその手を二本どころか、イカよりも多く増やして長道を持ち上げたのだ。

「う、うわああああああ!!!」

なすがまま、されるがままつむぎに身体のあちこちを触られる長道。

はたから見れば襲われているようにしか見えないが、今つむぎは真剣に人間の事を分かろうとしている。

…微笑ましいじゃないか。

「…!」

だが、彼女は俺とイザナに目を合わせると何を思ったのかさらに手を増やし出した。

つまり、どういう事か。

…そういう事だろうな。

「それでは、また来てくださるのですね!」

「う、うん」

「それでは、お待ちしていますね!」

ぐったりするイザナを抱える長道と帰路につく。

全く、この年齢で身体中まさぐられるとは思わなかった。

「…何か、凄かったねぇ…」

極度のストレスか、岐神の施設を出た途端に壁にもたれかかるイザナ。

「中性」と呼ばれる彼…彼女かどうかは知らないが、彼にとっては味わった事のないストレスなんだろうな。

「…でも、来て良かった」

「…ええ…?」

…やはり長道、君の精神力は凄い。

第4話 終

また明々後日書きます

おつ
面白かった!

乙、乙、
面白いわ
そう言えばシドニアの言語て何だろう?
漢字が使われいるから日本語なのかね

人名は日本人っぽいのが多いし多分日本語じゃない?通貨も円単位だし


シドニアなら安室レイさんでもしっくりきてしまう

アムロって言うかニュータイプなら仄シリーズの見分け付くかな

「…」

普段ほとんど空いている彼女、ヒ山の食堂。

それは今日も同じで、客は俺一人だった。

「…」

だが、いつもと違う事がある。

ヒ山が一言も発しないのだ。

いつもなら味の評価や、俺の出生をしつこく聞いてくるものだが。

今日は少し様子がおかしかった。

「…ん?」

『…大シュガフ船を攻撃すると宣言。軍は非常事態を…』

ヒ山が一言も発しないのには理由があった。

それは、とあるニュースを見ているからだ。

『大衆合船 レム恒星系に侵攻!!』

…初めて聞く単語ばかりでいまいちピンとこないが、彼女には分かるのだろう。

「…なんて事なの…」

そう呟く彼女。

先程入ってきた纈にも気づいていない様子で、テレビを見つめていた。

「…議会が、停止したそうですよ。今は館長一人ですべて決めています」

そう呟く纈。
少しぶっきらぼうに聞こえるのは、それなりの権限を与えられた彼女にすらも秘密の何かがあるという事だ。

纈はそれを、面白くないと感じているのだろう。

…小林め、何を考えているのか…。

『融合個体、はんたーい!』

『『融合個体、はんたーい!』』

『融合個体、はんたーい!』

『『融合個体、はんたーい!』』

『奇居子をシドニアに入れるなー!融合個体、はんたーい!』

『融合個体、はんたーい!』

自室の窓から、デモを行ういつものメンツ。

何かの媒体から知った事を、頭ごなしに否定している。

武器は持つな、戦うな。
だが奇居子を近づけるな。

…彼らは一体どうしたいのだろうか。

ある日突然神が舞い降りて奇居子を殲滅する訳じゃあるまい。

俺には、日々のフラストレーションを発散しているただの野次馬にしか見えないな。

今日も長道とイザナはつむぎと出かけている。

…仲良くなったもんだ。

種族は違えど、分かり合える。

彼らはそれを証明しつつある。

それだけでも、俺は嬉しいと思う。

「…」

今頃、シドニアから外に出て、三人で遊んでいるのだろうか。

…微笑ましいその姿を見るのも悪くないが、こんな中年がその輪に入るのは幾分苦しさを感じる。

それもあってか、つむぎとはたまにしか会っていない。

…その役目は、長道に任せるさ。

「…ん?」

携帯に入電が入った。

それはシドニア船員全員に通達されているのかどうか知らないが、内容は大分前、俺がこの世界に来る前の話。

仄姉妹の一人、焔という少女の意識が戻ったというのだ。

あの子達はクローンだと聞く。
彼女らはできるようだが、俺達には彼女らを見分ける事などできっこない。

何で判断出来るのかくらいはあってもいいんじゃないか?

「…」

なんにせよ、一度は顔を出しておく必要がありそうだ。

戦闘以外は暇なんだから、時間はそれなりにあるさ。

…いつ死ぬか分からないこの世界で、早過ぎるという事はない。

「…」

この閉鎖された空間にも、朝があり、夕方があり、夜がある。

ここで生を受けた子供達は、自然の太陽光の恩恵など知るはずもないだろう。

…。

滅びた地球は、もうシドニアからはほとんど見えない。

過去の産物と成り果てたそれは、もう人の住める環境ではない。

…もし奇居子が元の世界でも現れていたとしたら。

その時は、分かり合えたのだろうか。

…だが、人が死んでいい理由ではない。

「…」

焔という少女。

あの仄姉妹の一人だが。

相変わらず見分けはつかない。

彼女の病室まで行ってみたが、どうやら既にいないようだった。

退院したか、何処かへと出かけているか。

いずれにせよ、無事という事だ。

…生きていれば、いつかは会えるだろう。

夕暮れ時、外の階段を降りているとイザナと長道が二人仲良く古臭い鉄製のベンチに座っているのが見えた。

「…」

街を一望出来るポイントの一つ。

彼らはそこでおにぎりを頬張っていた。

…確かにここで食事をするのはいいかもしれない。

二人に近づき仲間の無事について話を聞こうとしたが、長道の顔を見た時その質問をするのは後回しにする事にした。

「その顔はどうしたんだ?」

「…あ、これは…その…」

右半分が異常に腫れている。

鉄拳制裁でも受けたのだろうか。

長道の行動にはそれをされるような問題は無いと思うのだが。

「…えっと、焔の裸を覗いてしまって」

「…そうか」

「あ、違うんです!わざとじゃなくて…」

知ってるさ。
この子はそんな事をするような人間じゃない。

「だが良いのを貰ったみたいだな」

「…されて当然だと思いますし…」

腫れていない側の口でおにぎりを噛み締めている。

「…生きていれば、仲も直るさ」

生きていれば、な。

…。

「…アムロさん、おにぎり、いりますか?」

「?…腹が空いてるだろう?君が食べればいい」

「いえ、あの…何だか、暗い顔をしていたので…」

暗い顔、か。

そうかもしれないな。

自分だけが生きているというのは、少々辛い。

…それと食事を取る事に何の関係があるのかは分からないが。

彼なりに精一杯気を使っているんだろう。

「…ありがとう。一つ貰うよ」

…。

コンビーフ、か。

何だか食べた事の無い味だな。

だけど、正直嫌いじゃない。

「谷風!」

先程俺が降りてきた階段上から少女の声がする。

声色から察するに、彼の心配をしているのだろう。

「…焔が謝りたいって言ってるんだけど、ちょっといいかな?」

申し訳ないが、今喋っているのが仄姉妹の誰なのかは分からない。

しかし、彼女の大分向こうから遠慮がちに歩いてくるその子が焔だということは流石に分かる。

…生きていれば、仲直り出来る。

先程の自分の言った言葉を思い出す。

もう、自分には出来ない事。

しかしこの子達にはまだチャンスがある。

それは、とても良い事なんだ。

「…」

しかしそれをここで言うのは、野暮だろうな。

この子達だってもう一概に子供と呼べるような年齢ではないだろうから。

自分の目で確かめて、見極めていく事をしなければならない。

「…」

焔は自分の名前が呼ばれると、バツが悪そうにこちらを向く。

「…」

イザナを見て、俺を見て、もう一人の仄を見て、そして長道を見る。

「…!」

「あ…焔!」

焔は踵を返すと、信じられない程の速度と跳躍力で飛び去っていってしまった。

あまりにも突然の出来事に、一瞬目を疑う。

彼女達の身体能力については聞いていたが、よもやこれ程とは思わなかった。

「…焔…」

普通に歩いていけばいいものを、随分必死になって逃げたな。

…人数が多いのが、嫌だったんだろう。

なまじ大きくなると、そういう時期も出てくるんだ。

…少なくとも、俺はいるべきじゃなかったな。

翌朝、半ば無理矢理長道とイザナに連れられ、再びつむぎのいる施設へと向かった。

長道はまだ仲直り出来ていないのか、心なしか少し表情が沈んでいる。

それでも彼女に会いにいくというのは、彼らの使命とでもいうのだろうか。

ペットじゃあるまいし、そこまでする必要は無いんじゃないか?

『お待たせしました。どうぞお入り下さい』

毎度毎度アポなしでも受け入れる岐神開発の人間。

彼女からも邪気を感じるが、果たしてこちらをどう思っているのか。

まるで実験動物でも見るかのようなその目は、俺にはどうにも信用出来ない。

「…」

いくばくか慣れた生臭みを感じながら、あの長い階段を降りる。

戦闘でもない限り彼女はここから離れる事はない。

かわいそうだとは思うが、俺にはどうしてやる事も出来ない。

こうして会いにくる者がいるだけでも彼女にとっては救いなのだろうが。

「…」

しかし壁にこびりついているこの無数の紫色の肉片のような物から発せられる臭気。

臭いは構わないが、身体に害が無いというのは本当だろうか。

吸い続けていると、流石にどうにかなりそうだ。

…そういえば、彼女は人間と奇居子のハイブリッドだと聞いた。

人間としての要素は、内面。
奇居子としての要素は、外面。

一体父親は誰で、母親は誰なのか。

気になるといえば気になる。

「…あ」

「イザナさん!谷風さんにアムロさんも!」

こちらに気づいたつむぎが手を伸ばし、振る。

その行動に人間味を感じながらもやはり彼女の姿は何処をどう取っても人間とは思えないが。

そしてイザナの目線の先には、つむぎ。
それと、女の子一人。

緑色の髪の毛の女の子。

「何で纈がここに?」

「あれ?来ちゃいけないなんて決まりはありませんよ?イザナ君」

「…別にそういうつもりで言ったわけじゃ…」

軽めの挑発。
この二人には何か因縁めいたものでもあるのだろうか。

纈の年齢は、長道達よりも低いらしいが。

…それでもこの立ち位置にいられるのは、完全実力主義の館長によるものだろう。

彼女の指揮官としての能力は俺も評価出来る。

まだ若すぎる事もあり、危なっかしい場面もあるらしいが。

「…で、纈は何してるの?」

「融合個体の視察も兼ねて、混合掌位訓練の注意事項を伝えてたんです」

掌位か。 ・

もしやるとしたら。

…彼女に合わせられるか心配だな。

「へー…」

「司令補として、戦力の確認は重要な責務ですから。……お二人こそ、頻繁に会いにきてるらしいじゃないですか?」

後半になるにつれ声色がわざとらしく大きくなっていく。

つまり、そっちが本音という事か。

……この二人の関係というより、どうやら長道もかんでいそうだな。

「うん!明日、つむぎとの掌位訓練があるから、手を繋いでおこうと思って…じゃあ、みんなで掌位しようよ!」

先程から聞くこの掌位訓練というものだが。

…ガンダムとは機体の大きさや仕組みの違いでなかなか難しいらしい。

それならば俺はやらない方が良いと思うが。

しかし、そうなると掌位した機体達においていかれる自分の姿が目に浮かぶ。

こういう事も覚えておいて損はないだろう。

「…まだ、そんな験担ぎを?」

纈の言う験担ぎ。
イザナ曰く、一度も互いに掌位した事のない者といきなりそれをやると、必ず失敗するらしい。

理由がジンクスなのか練習不足なのか定かではないが。

「…アムロさんも!」

イザナが長道の手を引きながらこちらを見る。

掌位の仕組みについては理解している。

パイロットがやって意味があるのかと思ってしまうな。

「…うん!やろう!」

「はい!」

「あ、いや…私、操縦士じゃないんですけど…」

「いいじゃない!ほら!」

「…分かりました。じゃあ…」

「ほら、アムロさんもじっとしてないで!」

3人と1匹。
彼らの間で意思の疎通が出来た事で、それぞれ腕を交差し掌位の準備を始める。

とは言っても生身の身体ではあるが。

それでも、やらないよりはマシだということだろう。

「…分かった」

自分も腕を交差して、彼らの輪に入る。

「…」

…不思議な気持ちだ。

ただ腕を交差して組んだだけ。

それなのに、何故か背中を押されている気分になる。

…どうやら掌位というのは、ただの機能上昇の役割だけではないらしい。

これからほとんどの戦争に向かわなくてはならないというのに、彼らは笑っている。

「…ふふっ」

「…えへへ」

「はは…」

「…うふふ」

…その辺は、年を取った俺には最早忘れてしまった思考なのだろう。

『融合個体、白羽衣つむぎ。本日の演習は衛人隊との掌位訓練です』

翌日、事実上つむぎの初参加となる掌位訓練が行われた。

掌位の相手は、何かしらの陰謀か、はたまた偶然か。

長道、イザナ、そして俺。

4人による掌位訓練だった。

…そういえば、俺も初めてだな。

尚更、成功率が難しそうだ。

この年齢でやり直しを要求されるのは少し恥ずかしいものもあり、いつもより気合が入る。

出来たところで特に大した事ではないのに。

「…!」

待機命令が出ていた俺たちのスピーカーに、つむぎの警戒音が聴こえた。

どうしたのかと聞く前に、管制官が彼女の異変の原因に気づく。

『…!本艦進路正面に、高密度ヘイグス粒子反応!!』

『!』

『奇居子です!』

『!?…距離は?』

『本艦との距離…およそ60万km!』

『第三警戒聖域じゃない…探知出来なかったの?』

『映像、出ます!』

それは俺達の機体にも送られてきた。

目視では確認出来ない程の距離。

それでも、この生物達にとってはなんて事ない距離。

しかし、それよりも疑問なのは。

「…船?」

『…これは…レム恒星系へ向かった人達の船…?』

纈が無意識に呟いた言葉が耳に入る。

彼女の言葉から察するに、この奇居子は何者かを真似た、もしくは乗っ取ったということだ。

…なら、尚更警戒せずにはいられないな。

『敵奇居子、ガ-550。本艦へ向け奇居子を射出!!』

『…訓練予定を中止。これより衛人隊、出撃翌用意!!』

あの巨大な奇居子から小型の奇居子か。

…寄生型だとすれば、当たるのは危険だな。

『…こちら、融合個体つむぎと、操縦士岐神。単機で先行した方が早く迎撃可能です。出撃してよろしいですか?』

『ダメよ。ちゃんと衛人と編隊を組んで』

『…あの程度の奇居子。つむぎだけで木っ端微塵にしてご覧にいれますよ』

『…先行出撃を許可する。融合個体単体の能力を、もっとよく見ておきたい』

『…ありがとうございます』

小林め。

…つむぎを過大評価し過ぎではないのか?

確かに、性能は俺達より格段に上だ。

…しかし彼女には経験が無さ過ぎる。

「…ええい!」

こんな所でうだうだ考えていては、つむぎに遅れてしまうな。

「あ、アムロさん!?」

「ぼやっとしてるんじゃない!出撃するぞ!」

「あ、は、はい!」

…子供一人に、重荷を背負わせる訳にはいかない。

『…白羽衣、出ます!!』

つむぎの片腕には、いつぞやのエナで作られたヘイグス粒子砲。

…時空が歪みそうな速度。

…果たして今出撃して追いつけるかどうか。

『奇居子本体貫通弾、各機最大装弾数完了』

『融合個体が先行!?』

『あれだけの数の奇居子を…いくら何でも無茶過ぎる』

サマリが最もな事を口走る。

一人に対し、500の小型と、それを操る1つの大型奇居子。

惑星ごと切り裂くような兵器でもあれば話は別だが、ここにはそんな物はありはしない。

…せめて無事でいてくれ。

『融合個体つむぎ、間もなく目標と接触します!』

『各奇居子、円形に形が変わって…エナ、急激に変形しています!!』

『一体一体のエナが接合。エナ同士が連結を始めました!』

『……何か変よ……!!!?…つむぎ、止まって!!!』

『えっ?』

『…何なの、これは…』

『エナで作られた袋状の構造です!』

『奇居子の中につむぎが閉じ込められました!』

『エナに通信を妨害されました!』

『つむぎ、通信拒絶!!』

…。

最早音声通信でしかないが、何が起きたかは大体把握した。

あの岐神とかいう男、一体何を考えている?

元は一つの大型。

それの敵陣に突っ込めばこうなる事も予測の範囲内の筈だ。

…色々な事が頭をよぎる。

今、つむぎはどうなっているのか。

…もし彼女が死んでしまったとしたら、俺は…。

俺は、何のためにここに来たんだ。

『アムロ機、出撃準備整いました!vガンダム、射出!』

「…アムロ、ガンダム!出るぞ!!」

死なせはしない。

あんな子供を、傷つけさせはしない。

「…待っていてくれ、つむぎ…!」

第5話 終

また明後日書きます

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おつー!

乙よ

>>134>>135

止めなさいよ!!

荒らしに構うなよアホ

荒らしじゃなくてスパムな


黙ってNGする他ないな
下手に安価とかつけると標的としてロックオンされる可能性もあるし

しかしアムロさん一応まだ20代なのに随分老け込んでるな

一年戦争で色々と在った直後に7年の軟禁
復帰したと思えばトラウマの再来、それが克服できたかな?と思ったら
赤い奴に任せた後輩は精神崩壊、赤い奴は組織完全に頬り出してロリを誘拐してトンズラ
とりあえず何か仕出かすんじゃないかと5年近く探し続けて、最後に語り合ったら

ララァ・スンは、私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!
そのララァを殺したお前に言えたことか! と逆ギレされて気が付けば異世界 誰だって老ける

そう言えばアムロがいるわけだから赤い人もいるかもしれないよな
いないかもしれないけど

赤い機体が出てきたとき「あ、サザビーもこっち来てたのか」とちょっと思ったのは内緒

赤い人はその後クローンの全裸に取り憑いてる時期だからいないんじゃないの

>>147
>>1を見る限り全部終わってないか?

つむぎが奇居子に閉じ込められ、焦りの色を見せ始めるスタッフ達。

「…」

『現在、融合個体つむぎが奇居子に捕らえられ通信が出来なくなっているわ』

『奇居子が第二群を射出!103個体!』

「…」

奇居子というのはエネルギーをどうやって生み出しているんだ?

何かしらの燃料が無ければ、物は動かない。

それは人間も同じだ。
俺達とシドニアの人間。

違いはあれど、食事は必要不可欠。

だが奴らはただ宇宙を浮翌遊し、侵略していくだけだ。

何が目的で、何を考えているのか全く分からない。

『衛人隊、迎撃態勢に入って!』

『『了解!!』』

「機首反転!全機減速!」

サマリの掛け声を聞き、全ての衛人達が減速をかける。

それはつまり、これからやってくる者達と衝突しない為の態勢を作るということだ。

ガンダムのレーダーにも既に多数の反応がある。

猛スピードでこちらに向かっているのが見える。

もう肉眼でも確認出来る。

「…」

『この奇居子第二群は先程の第一群同様連結してエナの袋状構造を展開させる恐れがあるわ。距離のあるうちに狙撃して蹴散らして!』

「了解!各小隊、火力用撃体系展開急げ!」

「…」

ガンダムの貫通弾砲は、衛人のそれを使っている。

装弾数も、それに準じている。

…一人では、圧倒的に弾が足りない。

もしあの奇居子が第一群、第二群を同時に出してきていたらどうなっていたか。

…考えるのは、よそう。

「…撃ち方始め!」

衛人達が貫通弾をひたすら撃ち込んでいく。

これだけの数だ。

いちいちカメラで狙っていたら時間がかかってしまう。

しかしそれは皆分かっているようだ。

前方が撃ち漏らした奇居子を後方が撃ち落としていく。

遥か昔の先人が採用した戦法。

…先人に習う事もあるのだろうな。

「…ツルウチ!」

「うわっと!あ、ありがとうございます!」

ツルウチに向かって飛び込んできた奇居子を切り裂く。

「撃ち漏らした奴がそのまま真っ直ぐ行くなどと思うな!」

今のガンダムには、奴らに最も効果的な素材で作った実体剣がある。

相変わらずこの機体には似つかわしくないが、随分役にたってくれるな。

『!…つむぎを閉じ込めた奇居子に変化!体積が上昇していきます!』

管制官からの通信。

体積の上昇?

まさかまた何かしようという事か?

だが、その疑問はすぐに消え去った。

『…何が起こっているの?』

…。


そうだった。

あの中には、シドニアきっての最終兵器がいるんだ。

ならば、今あの中で何が起きているのか。

それは、すぐにわかった。

『…!!奇居子大一群、飽状分解確認!』

突如つむぎを捕獲した小型奇居子達が爆散。

「…」

正直言って、信じられない。

今俺達が考えているのが正解なら、つむぎがやった事はこうだ。

内側から、あの奇居子を破壊した。

単純だが、それはかなりの技量と力がいる。

外側にも内側にも攻撃出来る奴らの中心部で、縦横無尽に動き回りながら叩く。

…意思を持った、ガンダム以上の機体。

仮に、彼女が敵対する者だったら、果たして俺達は止められるかどうか。

…自信は無いな。

『…』

つむぎの安全が分かると、長道やイザナが安堵のため息を一つ。

しかしつむぎは某然としているようで、ぴくりとも動かない。

『…?』

纈達も、俺達も彼女に何が起こっているのか把握が出来ない。

『…!』

しかし、カメラをズームにすると彼女の立ちすくむ原因が分かった。

『貴方ケガをしているの!?…今すぐシドニアに帰還して治療を受けて!』

背中、肩、腕や脚胴体。

ほとんどの装甲が削られている。

人間なら痛みで動けない程だろう。

しかしそれはつむぎもそう変わらない筈だ。

「…まさか、痛みのショックで…」

重傷を負い動けないとでも言うのだろうか。

だとしたら、一大事だろう。

『つむぎ!応答しなさい!』

『…』

「おい!つむぎ!応答しろ!」

つむぎの意識は感じられる。

なら一体何が起こっている?

『…ダメ…ったい…』

「…?」

『絶対にダメ…あんな事、奇居子は今、私に凄くひどい事をしました…』

独白する。

まるで嵐の前の静けさのように。

『私の友人や仲間には、あんな事させない…!!』

自身の傷ついた身体を眺め、鋭い牙を携えた口を周囲に威嚇するかのように剥き出しにしている。

傷ついているからだろうが、表情も強張っている。

『私はまだ戦えます!!』

…感じるのは、一つ。

『命令に背く事をお許し下さい』

それは、単純で、純粋な感情。

『私一人でも、奇居子と戦えます!!』

…怒り。

「…よせ!つむぎ!!」

『うあああああああああああ!!!!!』

凄まじい速度で此方に迫ってくる。

無論狙いは、俺達が相手にしている奇居子達。

「…!!」

しかし正直それどころではない。
無数の奇居子が、四方八方から迫ってきている。

…せめてファンネルが使えれば…。

「!」

一瞬。

身体が反応出来ない程の一瞬。

彼女はけたたましい咆哮の後、俺達が戦う小型奇居子まで飛びかかり、その爪で撃墜していった。

その傷ついた身体を一切気遣う事なく。

『つむぎ!止めなさい!!』

「死ぬ気か!!今すぐ動きを止めろ!!」

「つむぎ!やめるんだ!!」

『あああああああああ!!!』

聞いていない。

いや、聞こえていないと言った方が正しい。

彼女の目は今、何も見ていない。

ただ、破壊する。

敵を破壊する。

それだけの感情で戦っている。

「!」

はたから見れば、他を引き離す程の戦闘。

だが、蓋を開ければそれは感情を暴走させた、ただ暴れているだけだ。

「つむぎ!落ち着いて!!」

長道やイザナの声にも、俺の声にも耳を貸さない。

小型奇居子からの攻撃を受けてもそれは止まない。

それもそうだ。

…中身は、まだ子供なんだぞ。

「…!どけ!!」

目の前の奇居子に貫通弾を撃ち込み、爆散させる。

つむぎを止めるには、押さえつけるしかない。

それで止まってくれるかどうかも怪しいが。

…しかし。

『うわあああああああ!!』

「つむぎ!!」

傷ついた身体、ボロボロの精神。

まともな戦闘などできるわけない。

つむぎは奇居子の猛攻にあい、かなり酷い状態になっている。

「…貫通弾では…」

ダメだ。

彼女をに当たる危険性がある。

…vガンダムの設計図を持ってくるべきだった。

…それは無理か。

「つむぎ、今行くぞ!!」

『アムロさん!!』

長道の声が聞こえる。

…俺よりも、自分の心配をしてくれ。

…射撃が無理なら、近接武器だ。

というかそれしか方法は無い。

『アムロさん!』

イザナからの通信。

彼女もまたつむぎを心配してきたのだろう。

「ダメだ!君は来るんじゃない!」

『でも、つむぎが…!』

「君に何とかできる状況じゃないだろう!!」

…かと言って、俺も自信は無いが。

だが、いずれにしても俺の方が先に死ぬんだ。

なら、若い方が残っていた方がいい。

「つむぎは任せろ!君は他の衛人を助けるんだ!」

『は、はい!』

「おおおおおおお!!!」

無数に伸びる触手をひたすら切り裂く。

もうこの手の物はつむぎで見慣れた。

というより、彼女だけで十分だ。

「…っ…そこおっ!!」

しかしここまで敵に密接されると、大仰な戦い方は出来ないな。

「つむぎ!今助ける!」

つむぎを拘束する奇居子の触手を切断する。

ようやく脱げ出した彼女に安堵するが、そんなものは束の間のものだった。

『ああああああああああ!!!』

「止まれと言っているだろう!!」

まるで先程の攻撃が効いていないかのようだ。

解放された瞬間、再び彼女は叫びながら飛び回る。

「保護者は何をやってるんだ!!」

たまらず追いかけるが、この機体では追いつく筈もない。

奇居子を避けながらなら尚更だ。

『あああああああああ!!!』

恐らく彼女の中にいる岐神という男も、つむぎを止めようと必死になっているはずだ。

しかし止まらない。

教育出来ていないか、つむぎが幼すぎるのか。

…両方だろうな。

…その時だった。

『わああああああ!!!』

断末魔にも似た、女の子の叫び声。

それは、つむぎではない。

「…イザナか!!?」

『…』

見ると、イザナの機体が奇居子にぶつかり大破している。

「…くそおっ!!」

イザナを攻撃した奇居子に貫通弾を撃ち込むが、そんなものは無数にある敵の一匹だ。

…傷つけさせないと誓ったのに、これか。

「イザナ!!」

『…』

応答は、無い。

頼む。生きていてくれ。

『…』

しかし、それは幸か不幸か、一つの嵐を止める事となった。

『…イザナさん!』

「つむぎ!?」

自身の友人が傷ついた事でようやく冷静になったつむぎが、敵を破壊しながらもこちらに近づく。

『…イザナさん!』

「揺らすんじゃない!!」

『…あ、アムロさん…』

「恐らくまだ息はある。ゆっくり運ぶんだ」

『…はい』

今イザナを助けられるのは、つむぎしかいない。

何故なら、無数に飛んでくるあれらを消さなければならないからだ。

「この蚊トンボめ!!」

しかしつむぎとてイザナを守りながら戦うのは至難の技だろう。

こちらを狙ってくる奇居子もいる。

つまり、今俺がやらなければならない事は。

「…!」

この子達を守らなければならないという事だ。

「こちらは全力で持ち堪える!君は早くシドニアへ戻れ!」

『…』

…そんな悲しい顔をするんじゃない。

当たらなければ、死にはしないさ。

こちらの思惑通り、動けなくなった二人に向かってくる。

弱い物から叩く。
それは戦争の常識。

つまり、彼らにも知能はあるという事。

「やらせはしない!!」

大見得を切ったはいいが、さて無傷で終わるかどうか。

知能があるなら、避けられる可能性もある。

しかし、やるしかない、か。

いざとなったら、マニピュレーターを使ってでも戦うさ。

…彼らには申し訳ないが、少しだけ頑張ってくれ。

つむぎとイザナに直線的に向かってくる小型奇居子。

それを墜とすのは容易だが、貫通弾の次弾装填が間に合わない。

「行かせはしない!」

岐神が作った人工カビ。
その恩恵で貫通弾の装填数が今までよりも遥かに上がった。

…しかし、銃の性能が上がったわけではない。

「…」

周りには、5匹。

…一度に向かってくるか。

この状況下では、距離も取れない。

…それでも。

「でえい!」

戦い方はある。

後ろ側の奇居子に貫通弾を発射する。

空いた腕で前方の奇居子を斬る。

「ぐ…おおおお!」

返す刀でその隣を両断。

そして両隣をバルカンで…。

…しかし。

「…!しまった!」

弾の出ないバルカン。

ここに来ていつもの癖が出てしまった。

限られた武装、限られた条件。

それを彼らが見逃す筈もなかった。

「うあっ!」

凄まじい振動。

それは一匹の奇居子による体当たり。

…守る事ばかり考えていたからか、注意力が散漫になっていた。

全天周囲モニターに砂嵐が混じり始める。

体当たりの衝撃で、メインカメラの接続に不具合が生じたか。

『アムロ機!中破!!』

『そんな…!アムロさん!今すぐそこから離れて下さい!』

…まだだ。

「まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ!!」

『大問題でしょう!!?』

「当たらなければいい!」

『と、とにかく逃げて下さい!』

出来るならやっている。

だが、逃げた所で彼女達はどうする。

…世話役を頼まれたんだ。

最後まで引き受けてやるさ。

『アムロさん!』

その時だった。

通信が入る。

その声は…。

「長道か!」

『アムロさん!遅れてすいまん!援護します!』

長道の継衛から発射される貫通弾。

それは俺の周囲の奇居子達に着弾し、消滅させる。

それと同時に、管制官からの通信が入る。

『衛人隊、奇居子第二群を殲滅!』

『融合個体つむぎ、科戸瀬機を経由し、戦線を離脱して!』

ようやく、一段落。

…そう、一段落だ。

つむぎが倒したのは、第一群。

俺達が倒したのは、第二群。

…まだ、大元が残っている。

『ガ-550、依然本機に向け接近中!』

『衛人隊、攻撃体系を立て直して!ガ-550を迎撃!』

『『了解!』』

『衛人隊、間もなくガ-550と対敵します!』

衛人隊が円を組むように広がる。

そして大きく弧を描くように飛ぶ。

…成る程、理にかなった戦い方だ。

『アムロさん!貴方は退いてください!』

「バカにするんじゃない!これくらい平気だ!」

『…分かりました!全力でついてきてください!』

子供達が頑張っているのに、俺一人がのうのうと浮いていられるわけがない。

『撃てー!』

サマリの号令とともに、静かなはずの宇宙空間にけたたましい音が響く。

貫通弾の鈍い発射音が途切れることなく、響く。

一発一発、少しの余裕も許さずに。

「おおおおお!!」

カメラが見えなくとも、そこにいる。そこにある。

熱源は、そこにある。

「ならば、見える!!」

貫通弾のトリガーを押す。

手応えは、ある。

それでも一つか二つの小型奇居子を消滅させた程度だが。

それでも衛人隊全員の攻撃を持ってすればそう勝利までの道は遠くないはずだ。

『ガ-550中枢部分奇居子本体数、300個体まで減少!』

『大丈夫…弾はその何倍もあるわ』

衛人隊が休む事なく奇居子に貫通弾を撃ち続ける。

その勢いは、奇居子を両断しかねない程だ。

『お願い…このまま何も起きないで…』

…問題はそれだ。

あまりにも上手く行き過ぎている。

知性を持った彼らに、生存本能が無いわけがない。

攻撃をこのまま大人しく受け続けるとは到底思えない。

「…」

少しの寒気。

武者震いだと思いたいが、こんな風にはならない。

何だ?

「纈!奇居子から凄まじい熱源を感じるぞ!どうなってる!」

『熱源…?』

『…!!?ガ-550の構造に変化!!』

『!?』

『表面のエナが変形しています!』

何かが起きている。

いや、何かを起こそうとしている。

その不安は、奇居子からの先端部分。

まるでワニが口を開けるように、ゆっくりと開いていく。

熱源は、その奥から。

『全機、不測の事態に備え、攻撃を中断!』

『攻撃止め!奇居子から距離を取れ!』

纈からサマリへ、サマリから衛人隊へ。

そして離れていく衛人隊。

そして離れる事で、今奇居子に何が起きているのか、恐らくはただの操縦士でも分かるだろう。

『あの形…』

『穴の中心に何かあるぞ…』

『…あれって…!?』

「どうした!?」

『残りのエナが、全て一つに集まってます!』

「何!?」

全てを一つにする。

それがどういう事か。

ビームライフルの仕組みは、粒子をまとめて、固めて噴射させる。

粒子一つ一つでは、大した力は出ないからだ。

小さい力を、まとめて大きい力にする。

…つまり今、あのエナが一つに集まっているという事は…。

『これは…まさか!!?』

『ヘイグス粒子砲か!!』

「今すぐここから離れるぞ!!周囲にいては危険だ!!」

…これはまずい。

『この粒子砲が直撃した際のシドニアの被害は?』

『…シドニアの、あらゆる構造を破壊されます!』

『…!!そんな………!』

纈の通信。
少し何かを躊躇っている。

…分かるさ。
彼女が何を言わんとするかは。

『…………衛人隊全機、穴に向かって撃ち続けて!!』

…穴に飛び込む、か。

そうだな。

…あの防御職種だらけの狭い空間に撃って当たるのかどうか。

しかし、怯ませる事は可能な筈だ。

「皆!!聞こえている筈だ!あの穴に向かって撃ちこめ!」

『『…了解!』』

だが、それは最早死刑宣告にも似た物かもしれない。

仮にヘイグス粒子砲が発射されたとして、こちらが無事に済むかと聞かれれば、そこまでの性能は無いと言わざるを得ないからだ。

『全機、正面の穴の奥を狙え!』

貫通弾の残りを気にする必要は無い。

それよりも、今はとにかく撃たせない事だ。

何としても、シドニアは討たせない。

あそこには、罪の無い人々が俺達の勝利を望んで待っているんだ。

「壊させるものか!!」

一発、一発と撃ち続ける度に金属音の軋む嫌な音が貫通弾の音に混じって聴こえる。

先ほどの体当たりがそこまで効いているのか。

だとすると、つむぎはこれを何度も何度も喰らったということになる。

…尚更負けられないな。

貫通弾が切れるの先か、ガンダムが壊れるのが先かは分からないが。

『急げ急げー!!』

…しかし。

『周囲の壁が邪魔で当たらない!』

『もっと近づくしかないよ!』

壁が邪魔なんじゃない。
邪魔をしているんだ。

本体を傷つけさせはしないと。
意思を持って。

…俺達が相手にしているのは、何でもありのオーバーテクノロジーなんだぞ。

「…!」

もう時間が無い。
狙ってはいるが、意思を持った壁に阻まれる。

…畜生。

『…まずい!!!』

…それは、本当に一瞬だった。

頭で反応出来ても、身体は追いつかない。

恐らく後少し気付くのが遅かったら、身体が半分無くなっていた。

それほどまでの威力。

…人は大きな失敗をした時、かえって冷静になる。

命の駆け引きをしている事を忘れてしまうほどに。

だが、それはすぐに後悔の波となって押し寄せる。

もしかしたら、ガンダムで反らす事ができたかもしれないと。

「…シドニア…」

それは真っ直ぐに、最短距離で衛人達を破壊しながら進んでいくビーム。

「…」

思わずコクピットを叩く。

…また、守れなかったと。

人は、同じ過ちを繰り返す。

それは、俺じゃないか!!

…。

……。

『皆さん!無事ですか!?』

「!?」

通信機からは纈の声。

あんな短時間で脱出は出来ない。

出来たとしても、シドニアの爆発からは逃れられない。

…だとしたら。

『…んな…けて…』

「?」

今度はか細い声。

出ない声を、振り絞って出すようなそれだ。

その声は、弱々しくも、強く、必死に語りかけている。

『…けて…』

『イザナ!?大丈夫なのか!?』

俺が反応するよりも早く長道がその通信をキャッチした。

普段から仲の良い二人だ。
至極当然の事なんだろう。

『…ぎ…むぎが…』

「…?」

相変わらず砂嵐の混じるモニターをズームにし、目を凝らす。

「…」

何が起きていたのか。

一言で言うなら、凄惨。

最早原型をとどめていないその姿。

一瞬それが何なのか分からなかった。

赤く染まった身体。

だがいつもの尻尾や爪、仮面は無く、まるでお腹の中の胎児のように何もなかった。

「……」

それを必死に、大事そうに抱えるボロボロの衛人。

考えられるのは、一つ。

「……つむぎ…?」

自分が必死に守ろうとした二人。

それらは物言わぬ肉塊と化し、静かに浮遊している。

俺達をあざ笑うかのようなその運命。

「…」

認められない。
認めたくない。

だが、それはイザナの精一杯の叫び声で現実となって、俺達を悲壮と絶望の海に投げ出した。

『…助けて!!つむぎが、つむぎがあああ!!!』

イザナの通信が切れたのは、そのすぐ後だった。

第6話 終

また明後日書きます

>「まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ!!」
『大問題でしょう!!?』

ワロタ
そりゃ突っ込み入るよね

乙よ
武装少ないと持ち前の技量活かしきれないね

おつー

アムロが傲慢な老害だな
メインカメラぶっ壊れてるお荷物なんだから、さっさと下がればいいのに

アムロはもとから傲慢だろ
理想を集めて固めたラノベヒーローじゃないんだぞ

>>160
『アムロさん!遅れてすいません!援護します!』


普通に寝ぼけてたごめん…


メインカメラ壊れた状況でも回りの衛人と同じ程度にはやれているのに傲慢というのもなんだかな

全天周囲モニターがあるし、メインカメラがやられた程度では問題ない
映像の一部が欠けたり、自動ロックオンが手動にセンサーの結合ができず
情報別に判断する必要が出てくる位

一年戦争時のMSでは致命的だが、その時ですら普通に戦えたから問題ないだろ

シドニア側がνガンダムとアムロ・レイの能力や戦闘データをブライト並みに知っているなら、メインカメラがやられた程度では帰還指示は出さなかっただろうね

まあフォローするなら機体が万全な方が実力出せただろうけど、
他の出撃メンバーだけで整備完了までアムロの穴を埋められたかどうかと言われるとねぇ

『…!あの赤い光…まさか!?』

『あれ、ヘイグス粒子砲!?マズイよ!このままじゃシドニアに…!』

『…!!イザナさん!絶対に動かないで下さい!』

『!?つむぎ!?つむぎ!!何してるの!!』

『私が盾になります!そうすればきっと反らせるはずです!』

『ダメだよつむぎ!!そんな事したら君が!!』

『今はそんな事言ってる場合じゃありません!!』

「…ど、どうなったの?」

「ガ-550からのヘイグス粒子砲、シドニア前方でつむぎと科戸瀬機と接触し弾道がずれたようです!」

「何ですって!!?」

「!!融合個体つむぎ、科戸瀬機、大破!!!」

「そんな…つむぎが…防いでくれたっていうの…?」

「両機、応答、ありません…」

目の前に映る、つむぎだったものと、イザナの衛人。

守るべき筈だった二人。

「…くそっ!!」

思わずコクピットを叩く。

何の為のガンダムだ。
何の為のパイロットだ。

子供二人、助ける事も出来ない。

「…」

その上、悲しみにくれる暇も無い。

振り向くと、奇居子から再び熱源反応。

「…」

何故、彼らは存在するのか。
何の為に、戦いをしかけてくるのか。

どんな理由があるにせよ、それは今の俺の目には悪魔にしか見えなかった。

「…」

それは、俺だけではない筈だ。

「…」

周りを見ると、衛人隊全機が既に奇居子の本体に狙いを定めていた。

「…長道、聞こえるか?」

『…はい』

「手を貸してくれ。君の力が必要だ」

『…はい!』

『これ以上被害を出させるな!エナ本体に狙いを定めろ!!』

『撃てー!!』

再び鳴り始める発射音。

しかしエナ本体に当たらない限り、奴は何度でも撃ってくるだろう。

…裏を返せば、本体を壊してしまえば良いだけの事だ。

「…」

先の戦闘で被弾したからか、ガンダムの動きが少し鈍い。

恐らく、無理に動かされた事で破損した部位の傷が広がっているのだろう。

…だが、手はある。

「長道!俺をあの奇居子の口元まで連れていけ!」

『で、でも…』

「怯えてんじゃない!!」

『…は、はい!でも、どうするんですか?』

どうするか。
貫通弾では、当たる前に消されてしまう。

ならば、簡単な事だ。

「…」

ガンダムにあって、他の機体にない物。

『!…そうか!』

「ガンダムで助走をつけて実体剣を目標に投げ込む。その助走を頼みたい」

『分かりました!谷風機、ガンダムを補助します!』

『通信で聞こえています!…お二人に、シドニアの未来を託します…!』

通信の向こうで神に祈っているだろう纈の姿が想像出来る。

「…」

やるしかないんだ。

『アムロさん!行きます!』

「了解した!」

継衛のスピードは他の衛人よりも速い。

だからこそ、彼に頼んだ。

『谷風、アムロさん!何やってんです!?』

「目標を墜とす!!」

それ以外にも、目を見張る程卓越した操縦技術。

彼ならこのプレッシャーの中でも縦横無尽に飛び回る事が出来る。

安心して命を預けられる。

「…」

それに、慎重な戦い方ではこの奇居子は倒せない。

もっと大胆で、直接的な戦い方でなければならない。

ヤツでも、きっとそうしただろう。

『アムロさん!まだですか!?』

「まだだ!もっと近づけ!」

それに、この方法なら経験がある。

懐かしいシチュエーションだ。

それに、威力は折り紙付きだ。

『ダメです!これ以上は激突します!』

「良いぞ長道!思いっきり離せ!!」

今の駆動系が傷ついたガンダムでは届かない。

だが、これだけ勢いをつければ。

「墜ちろおっ!!!」

今の俺達に出せる全力。

実体剣は本体をガードする触手の群れを薙ぎ払い、一目散に目標へと向かう。

「…間に合え…!」

見ればもう奇居子からあの赤い光が出てきている。

今やられれば、少なくとも俺は死ぬだろう。

…しかし。

「!」

この断末魔のような響き。

…。

『や…やった…』

『勝った…』

…。

『ガ-550の飽状分解を確認!!』

『『やったあああああああ!!!』』

…どうやら、勝てたようだ。

「!…そうだ!つむぎとイザナは大丈夫なのか!?」

『そ、そうだ!』

慌てて再度長道に連れられ二人の元へと急ぐ。

今度こそ、どうか無事でいてくれ。

勝利の報告をしなければならないんだ。

『アムロさん!谷風!』

女の子の声。
誰かは分かるが、どの子かまでは判別出来ない。

「仄か!今つむぎとイザナはどうなってる!?」

『今、焔が運んでいます!』

「どうなってると聞いたんだ!」

『…』

俺達の質問に仄は答えない。

いや、答えづらいと言った方が正しいのだろうか。

先程の光景を思い出す。

潰れた衛人と、肉塊と化したつむぎ。

…。

「ええい!!どっちなんだ!!」

『…両者、重傷です…』

…。

『…そんな…』

…薄々分かってはいたが。

現実を突きつけられるというのは、いつだって嫌な気分になる。

それっきり、俺も長道も一言も発しなくなっていた。

シドニアに帰還すると長道は一目散に運ばれていくイザナに駆け寄っていった。

酸素吸入器をつけ、急ぎ足で担架に運ばれていくイザナ。

スーツのお陰か、見た目は綺麗なままだったが。

「…」

右腕左脚が潰れている状態。

その痛みはどれ程のものか。

…体験したくはないな。

それでも彼は自分の身体を顧みる事もなく、つむぎを助けてくれと発した。

…こんな優しい心を持った子が、どうしてこんな目に合わなくてはならない。

「イザナ!イザナ!!」

たまらずイザナの名前を叫ぶ長道。

…一番仲の良い友達なんだ。
気持ちは、分かるさ。

「…?……つむぎは…?」

荒くなった息を整える事もなく彼はつむぎの名を呼んだ。

「…」

「つ、つむぎは無事だよ。安心して…」

「………良かったあ…」

…。

「…すいません。急いでいますので…」

「あ、す、すいません…よろしくお願いします!」

…。

「…」

俺が彼だったら、何と言っただろうか。

…そんな事は、どうでもいいか。

「長道、俺達はやる事を精一杯やった。今はそう考えるしかないさ」

彼の肩に手を置く。

…随分震えている。

「…」

下を向き、目を隠す。

当たり前だ。
彼らは、まだ子供なんだぞ。

「…僕は君達と付き合いは浅いが、君達の絆はよく分かる。…だから、彼はきっと戻ってきてくれる。つむぎだってそうさ」

「………はい」

そうだ。
死んでしまっては、もう猫も見れないし、見せる事も出来ないんだぞ。

…だから、死なないでくれ。

…涙を流す、友達の為にも。

「アムロ操縦士、先の戦闘、お見事なものでした」

「…」

背後からの、邪気。

「…岐神か」

振り返ると、端正な顔立ちをした青年と、短めの髪の…恐らく妹だろうか。

至極真面目な感じだが、何故か彼らからは気持ちの悪い邪気しか感じられない。

「…つむぎはどうしてる?」

「現在、体組織の90%以上を失っております」

つまりは、心臓はあるということか。

人間なら即死だろうが、彼女には奇居子並の生命力がある。

…それでも、保証は出来かねるのだろうか。

「…」

長道はそれを聞くと、ショックを隠しきれない様子で目を見開く。

「…安心しろ谷風。つむぎは、俺が必ず元通りにする」

…元通り、か。

何にせよ、今は彼を信用する他ない。

藁にも縋る思いというのはまさに今なのだろう。

「アムロ、また派手にやってくれたなあ」

「今回は完全に僕の油断だった。…情けない」

「あれ程口酸っぱくバルカンは使えねえって言ったのにな…まあ、あの状況じゃ忘れちまうわな」

メカニック担当から微妙な苦言を受ける。

だがこちらとしても言い訳をするつもりは無い。

戦闘経験の多さから出た慢心。

それが今回の被弾原因だ。

「…ふむ。しかし確かに、使わねえのは勿体無えやな」

「…どういう事だ?」

腕を組みながら何かを思案している。

それは今の俺にとって良い事なのか、悪い事なのか。

「…そういやあよ、科戸瀬が負傷しただろ?」

「ああ。…何とか無事らしいが」

「まあ、そう悲しい顔すんな。それで義手と義足を作ってくれと言われたんだ」

「すると…リハビリか…」

「んなこたあねえ。脳波と直結させてすぐにでも使える代物にするのさ」

「脳波と直結?だがそれは何度かのテストが必要なんじゃないか?」

「シドニアではよ、ああなる事は珍しくねえんだ。…あー、つまりだ、お前さんのファンネルとやら、遠隔で脳波と直結出来れば使えるかもしれねえ」

「…成る程な」

「だがまあ、それはまだまだ先の話だあな。今は…そうだな、お前さん何か案はあるかい?」

「案、か…」

「ああ」

それならいくらでもある。

まずは武器を全て使えるようにしたい。

その上で、威力、装填にかかる時間短縮。

そしてスピード。

「…随分わがままだなお前さん」

「…からかうんじゃない」

「…まあ、やれるだけやってみるがな。名前はどうする?」

「名前?」

「おお。お前さんが持ってきた機体なんだ。お前さんが決めりゃいい」

「…そうだな」


vガンダムのパワーアップ。

…なら。

「H・W・Sはどうだろうか」

「…えっち、だぶりゅー、えす。…何だこりゃあ?」

「ヘビーウェポンシステムというやつさ」

「ほー…ま、こっちにゃ佐々木もいるんだ。な!」

「聞こえてるよ!!」

佐々木に意見を求めているが、どうやら今彼女は忙しくて仕方ないようだ。

随分ぶっきらぼうな返事をする彼女に、俺達は苦笑するしかなかった。

…それでも、佐々木の顔は嬉しそうだったが。

「…ま、次の戦闘までには何とかしとくからよ。お前さんは谷風をケアしてやってくれ」

「…出来る限りは、やっておくよ」

今、長道を安堵させる方法は恐らく俺には無いと思うが。

「…」

病室。

腕と脚を機械に変えたイザナ。

どうやら寝ているようだが。

…そこまでして戦わなくてはならないのだろうか。

こんなまだ若い内から。

「…」

ベッドの横には、仲間達から贈られた手紙や御守り。

「…」

何となく、窓から外を見る。

もう見慣れた、シドニアらしい乳白色の多い外観。

一望出来るわけではないが、それでも道を歩く人間達は確認できる。

そこにはパイロット達よりも遥かに年上だろう者もいる。

普通なら結婚して、子供もいるだろう年齢の者達だ。

彼らよりも一回り二回り年下の子供達が、ここまで身を削って戦って。

そして、朽ちていく。

「…」

思えば、俺の生きてきた世界もそうだ。

何故、まだ恋も愛も発展途上の子供達が。

何故、未来ある若者が犠牲にならなくてはならない。

…誰かが、やらなくてはならないから。

分かりきった事だ。

…だが、このイザナの姿を見てもそうだと強弁出来るだろうか。

…俺には、出来そうにない。

自分の昔を思い出し、センチメンタルな気分になる。

…あまり良い思い出ではないが。

「…イザナ。僕に何が出来るかは分からない。ただ戦う事しか出来ない」

俺にはシャアのような人を導く力も、ブライトのように統率する力も無い。

ただ、戦う事でしか、証明出来ない。

「…それでも…」

俺に出来る事を、やるだけだ。

この子達を、守る。

それだけなんだ。

「…?」

先程からイザナから妙な感覚がある。

かすかに感じる、暖かみ。

それはまるで母性のような。

「…」

この子は確か、男でも女でもない、中性という括りらしい。

相手に合わせてどちらかになる、というものだ。

代表的なそれとしては、想いを寄せる相手。

…人間の適応性は常に進化しつつあると考えさせられる。

そして今、この子から感じるのは…。

「…」

…俺だってそれなりに長く生きた。

何故この子がこうなったかは、すぐに分かった。

「…」

その微笑ましさに、少し癒される。

これなら生きて帰ってきて良かったと、きっと思える筈だ。

…この子の想いが伝わる事を、祈ろう。

大人はこういう時は、黙って見守るものさ。


第7話 終

また明々後日書きます

おつー!


新たなヒロイン誕生?


相変わらず雰囲気ええな

「…いつ頃、退院出来そう?」

「うん。今日にも出来るみたいだよ」

イザナが元気になったと聞き、長道と纈、ヒ山が駆けつけてきた。

誰に対しても優しく接するイザナの人徳が成せるものだろう。

人体再生には時間がかかるとの事から、腕と脚を機械化させる事で落ち着いたようだ。

…この世界では、こうなる事は珍しくないと聞いた。

…犠牲になるのは、いつも若者だ。

「…それより長道、つむぎは…まだ…?」

「…う、うん…」

イザナが病院に運ばれた時、長道は気を使って大丈夫だと答えた。

しかしそんな優しい嘘は、元気になってしまえば嫌でも耳に入る。

今朝の新聞にも書いてあった事。

『融合個体つむぎ、シドニアを守り瀕死の重傷。未だ回復せず』

第一面にデカデカと書かれたそれ。

詳細は上から下まで事細かに書いてあり、彼女の勇姿は皆の知るところとなった。

…こんな犠牲を払ってやっと、彼女の優しさに気づくとはな。

「…」

沈黙が流れる病室。

こういう時、気の利いた言葉が出てきたらどれだけ良いか。

…いや、いらないな。

何を話したところで、つむぎが元気になるわけではないのだから。

「…」

退院したイザナとともに、長道と俺は岐神開発の施設へと脚を運ぶ。

最近ではあるが、その入り口付近に数多くの、色とりどりの花束が置かれ始めた。

恐らく幼い子供が描いたのだろうか。
画用紙いっぱいに書かれたつむぎへの感謝と、彼女の似顔絵。

『つむぎさんへ しどにあをまもってくれてありがとう はやくよくなりますように』

「……たくさんあるね」

「…うん」

「…」

皆がここまで心配しているんだ。

…早く元気になってくれ。

いつもの薄暗く生臭い階段を下る。

いつもなら向こうでつむぎがウキウキしながら待っているからか、何とも思わなかったが。

…今は、ブルーになった感情を増幅させる要因となっている。

会話は一つも無く、ただ足音だけが鳴り響く。

頭の中で、つむぎの声がフラッシュバックする。

見る物全てに興奮し、学ぼうとした彼女。

そんな彼女に俺はまるで自分の子供のような、父性が生まれたのかもしれない。

それは長道やイザナ達にも言える事だろう。

…今までも、散っていった仲間は数多くいる。

だがいつまで経っても、慣れる事はない。

少しでも生き返る可能性があるならば、何としても助けたい、助かってほしいと切に願う。

…俺は軍人としては、不向きなのかもしれないな。

「…」

つむぎが入った培養液。

相変わらずボロボロのままだが、少しは回復したようだ。

まだ恐らく意識は無いだろうが。

「…」

あの表情豊かな触手も、あの奇居子の攻撃で無くなっていた。

「…長道、イザナ」

「「は、はい」」

「君達は、何の為に戦っている?」

「えっ…」

突然の質問に少し驚いているようだ。
…長道との初対面を思い出すな。

「…えっと、シドニアの、人達の為に…です」

「なら、いつかは誰もがこうなる事も覚悟しておかなければならない」

「…」

「故郷の為、人の為に、君達は本来の子供達が歩む人生を犠牲にしなくてはならない」

「…でも、シドニアを守る事は名誉なんです」

「死にたくない者達が、誰かを犠牲にする事を強制しているだけさ」

「…」

「…すまない。困ってしまうような話をしてしまった」

「…いえ、そんな…」

…名誉、か。

確かに立派だとは思う。

何故ならそれは、誰かがやらなくてはならない事だからだ。

ただ、幼い頃から国の為、人の為と教えられ命を投げ捨てさせる教育はどうなのだろうか。

犠牲になる者にも歩む筈だった人生というものがある。

俺は反戦主義ではない。
だが、戦わずに済む方法は無いのだろうか。

…無いからこうしているんだろう。

「…」

…人生はいつも、無い物ねだりにしかならないな。

戦闘糧食が新しくなったと聞き、少しでも気を紛らわそうと試食に出掛けた。

「…」

つむぎとさほど関わりにならなかった者達は、勝利の余韻に浸って楽しんでいる様子だ。

それもそうか。
彼らにとっては、一戦闘員が負傷しただけの事なんだからな。

…シドニアの中では、もう慣れた事なんだろう。

彼らを責めるのは、お門違いというやつだ。

「…あ、アムロさん!」

「…?君達は…仄…」

「私は煉です、こっちが…」

「焔です!」

相変わらず、髪の毛の先からつま先まで同じなんだな。

心もある程度同じだからか、誰なのか読み取る事は難しそうだ。

「アムロさんも食べにきたんですね!」

「ああ。…少し気分転換にね」

「あっ…」

思わず口元を抑える煉。
言ってしまったとばかりに焔と互いに顔を見合わせる。

「…ご、ごめんなさい…」

「いや、僕の方も気が利かなかった」

「…そういえば、谷風とイザナは…」

「岐神開発施設で別れてからは分からないな。どうしたんだい?」

「えっと、谷風って食べるの大好きじゃないですか!だから…」

成る程な。
…今の長道が喜んでくれるとは思えないが。

「…そういえば…焔…だったかな?君は長道と仲直りはしたのか?」

「…」

…反応からするに、出来てないようだな。

「一度振り上げた拳を降ろすのはそんな簡単な事じゃない」

「はい…」

「君の気持ちも何となくだが理解出来るさ」

「…」

「それでも、逆の立場だったらどうだろうな」

「…逆の、立場…?」

「…長道だったら、どうだろうな」

「…分かりません」

「…かもしれないな」

例えが悪かったな。
長道は別に男なんだから裸を見られようがどうって事ないだろうに。

だが、光合成をすればほとんど食事はいらないというのに試食に誘うという事は、そういう事なんだろう。

いつかは、ちゃんと仲直り出来るさ。

「…おはようございます」

「おはよう。…随分疲れているな。ちゃんと睡眠をとっているのかい?」

「…」

日に日に表情が暗くなっていく長道。

…恐らく、最近つむぎのところに通い詰めだったから、それが原因だろうな。

精神的な疲れもあるだろうが、ほとんど寝てない上に、食事もまともに取っていないから、こうもなる。

「…つむぎも君が来てくれるのは嬉しいだろうが、そんなやつれてまで通い詰めては、彼女も困ってしまわないか?」

「…昨日も行ったんです。…でも、何も反応が無くて…」

「今はつむぎも疲れて寝てるのさ。だからそっとしておいてあげた方がいい」

「…」

「君がつむぎを思う気持ちは良く分かる。だがつむぎが見たいのはそんな疲れた顔じゃない。元気な君の顔だ」

「…ありがとうございます」

…そうは言いながらも、長道の足はつむぎの所へと向かっている。

…最早彼が元に戻るのは、彼女の全快しか無さそうだ。

「…」

シドニアの片隅にある、散っていった操縦士達の墓。

そこには遺骨は無いそうだ。

「…」

魂の無い身体は、エネルギーとして循環されシドニアの生活の糧となっていく。

普段何気なく使う電気も、死んでいった者の肉体を削ったものだ。

全てがそうではないが、一部でもそうだと思うとどうにも遠慮してしまう。

…この世界の者達には、慣れっこなんだろうな。

「…」

だが、そんなものはいつか終わりが来るのではないのだろうか。

奇居子に勝たない限りは、永遠に来ない安息。

死者への冒涜だなんて言葉を使う余裕は無い。

…単純明快で、複雑な世界。

それが、この世界の摂理なんだろう。

久しぶりの休みということもあったのか、それとも元々なのか。

さほどやる事も無く、ただシドニア内を歩いていただけだった。

…戦争ばかりしてきた者の末路か。

だが悲観する事ばかりではない。

「ヒ山、今日の日替わり定食は?」

「今日かい?重力からあげだねぇ。…長道はまたつむぎちゃんのところかい?」

こうして美味い物が食えるんだ。
それに、面白い話し相手もいる。

「…一応、控えたほうがいいとは言ったんだが…」

「…あの子は、たまに頑固だからねえ」

まるで昔から知っているかのような口ぶりだな。

…というより、これは最早母親のそれだ。

「…君はいつからここに?」

「アタシかい?…そりゃ、ご想像にお任せするよ。…あ、失礼な事考えるんじゃないよ」

「…そんな事はないさ」

毎日朝早くから夜遅くまでシドニアの職員達の為に食事の用意をして、皆の相談に乗って。

彼女の器の大きさには感服するのみだ。

「はいよ。アンタも長道も好き嫌いが無いから助かるよ」

「無いというよりかは、胃を満たせれば良いという感じだな」

「あはは!それを好き嫌いが無いって言うんだよ」

「…はは…」

「ヒ山さん!お疲れ様です!」

「あらイザナ?長道と一緒じゃないのね」

「あはは…今日はちょっと用事があって…あ、アムロさんも」

「僕はヒ山がいないと飢え死にしそうだからな」

「あっははは!アンタ部屋の中じゃパンツとシャツらしいからね!」

「…どうして知ってるんだ?」

「たまたまアンタの部屋通りかかった子が話してくれたのさ。アンタにもファンがいるんだから、見られてる意識くらい持ったらどうなんだい?」

「…そんな器用な男にはなれないさ」

「……ふふっ」

「?」

ヒ山のテンションにつられたのか、優しく笑うイザナ。

確かに、少しおかしかったかな。

…俺もイザナも、彼女に助けられている一人だな。

「やったああああああああ!!!」

「?」

勢いよく食堂のドアを開けて飛び込んできたのは、長道だった。

朝とは打って変わって、まるで別人のようになって帰ってきた。

「どうしたの長道?」

浮き沈みの激しい彼に俺達は困惑するばかりだ。

「つむぎが、つむぎが動いたんだ!」

「つむぎが?…そっか。じゃあ、もうすぐ会えるんだね」

「うん!あ、あのヒ山さん!唐揚げ定食、大盛でお願いします!」

「はいはい。おかわりもあるからね」

動いた、か。

意識が回復したら、どうなってしまうんだろうな。

「…」

料理が出たと同時に箸と茶碗を掴みかっ込み始める。

俺が言えた事ではないが、少し行儀が悪いな。

…だが今の彼を見ていると、そんなのは大した事ではないと思えてくる。

余程嬉しかったんだろうな。

…全力で走って帰ってくる長道の顔が頭に浮かぶ。

イザナがさりげなく彼の行儀の悪さを注意するが、今の彼の耳には届かない様子だ。

「うっ…!」

元気になった彼を和やかな気分で見ていると、ご飯を詰まらせたらしくドンドンと胸を叩く。

「もう長道ったら…はい、お水飲んで…」

「んぐ…」

イザナがヒ山と俺が行動するより早く、迅速に彼に水を飲ませた。

あまりにも自然な動作に、俺達二人はあ然としたものだが。

「…」

ヒ山と互いに顔を合わせる。

きっと今俺達は同じ事を考えてるんだろう。

どうにも笑ってしまう。

「ど、どうして二人とも笑ってるんですか?」

長道を大事そうに介抱するイザナ。

「あっははは…だって、ねぇ…?」

「君達二人が、何だか夫婦のように見えてきたからさ」

「なっ…!!?」

「んぐうううう!!!」

顔が真っ赤になっている。

人が恥ずかしいという感情を表に出す時は、大概図星を突かれた時だ。

思わず力が入ったのだろう。
長道の肩を機械の方の手で握っている。

機械化しているからか、かなりの力強さで握られているようだ。

そりゃあ、痛みに叫ぶだろうさ。

「あはははは!」

「ははは…」

「な、何がおかしいんですか!!ぼ、ボクはただ長道が…」

しかし、あの行動の早さ。

まるで長道がそうなると分かっていたかのようだ。

…普段から、よく見ているんだろうな。

「ご、ごめんね長道…」

「だ、大丈夫だよ…」

「…」

…この二人は、親、というよりは親のような存在に育てられたという。

それはもう、大事に、大事に育てられていたようだ。

…クェスの事を思い出す。

彼女の親もそれなりに大事に育てていた筈だが。

…俺のせいでも、あるのだろうな。

「…」

シャアと戦っていたあの時。

微かに感じた死者達の魂。

意思の強いものから、弱いものまで。

…。

「どうしたの?」

「!」

過去の事を思い出していると、ヒ山に覗き込まれている事に気がつかなかった。

「何だか物騒な顔してたよ」

「…すまない。僕はまだ過去の事を忘れられないようなんだ」

「…。まあ、忘れられない事もあるものよ」

気持ちは分かる。
そう彼女は伝えたいのだろう。

…彼女にも、忘れられない事はあるようだ。

表情から察するに、決して楽しい事ばかりではないようだが。

「…」

忘れてしまえたら、どれほど楽なんだろうな。

なまじ変な能力を身につけてしまったせいか、忘れたくても忘れられない。

それどころか、いつだって鮮明に思い出してしまう。

「だけど、アンタにもそういう弱さってのがあるんだねえ。鬼神めいた戦闘する割には」

「…僕は、君達が思ってる程強くはないさ」

「いい大人なんだから、もう少しシャキッとしなさいな…子供達の見本にならないでしょ?」

「…君が言うと、説得力があるな」

「あっはははは!伊達に長生きしてないからね!」

ふと思った。

…彼女は、一体いくつなんだ?

…答えてくれそうにはないな。

それから一週間程だろうか。

携帯通信機にイザナから着信が入る。

「どうしたんだ?」

『あの、今日もつむぎの所に行くんですけど…長道、そっちに来てませんか?』

「いや、僕も見てないな」

『そうですか…』

「?」

『あの…長道が朝からずっといなくて…』

「いつもそうじゃないのか?」

『違うんです。いつもは一度は帰ってくるんですよ。でも今日はそれもなくて…』

「…君は本当に長道を良く見ているんだな」

『えっ!?そ、そういう事じゃ…』

「恐らくだが、長道がそれ程向こうにいたくなる事があったんだろう」

『…あ!まさか…』

…まあ、そうだろうな。
話しても、話しきれないくらいなんだろう。

『じゃ、じゃあボク行きますね!』

「ああ。つむぎに宜しく伝えておいてくれ」

『あ、はい!…いや、アムロさんは行かないんですか?』

「僕もかい?」

『そうですよ!行きましょうよ!』

「あ…ああ…」

…若いエネルギーは、強いな。

『どうぞ、お入りください』

相変わらず無愛想な岐神兄妹。

だが、彼らもまたシドニアの為に戦っていたと聞く。

…悪人では、ないのだろうか。

「…?」

「どうしました?」

猫を腕に抱いたイザナ。
ここまで随分と歩いてきたが、この猫は少しも動じる事なくイザナの腕に抱かれていた。

しつけがなっている証拠だろうな。

「…少し、騒がしいみたいだな」

「…?」

薄暗い階段。
そこを下る途中で気づいた事。

いつもよりも、どこか明るい。

…いつもと言っても、ここ最近は暗かったというだけだが。

「…?この声…まさか!」

…声。
一人の女の子が驚き慌てている声だ。

…一体今何が起こっているのかはさておき。

そんなに焦らなくても、彼女はあそこからは動かないだろうさ。

…抱きかかえられた猫が随分嫌そうな顔をしているようだが、そこは気づかないのだろうか。

「…!つむぎ!!」

「あ!イザナさん!…アムロさんも!」

彼女は、まるでいつも通りだった。

つい昨日も会っていたんじゃないかと錯覚する程に。

来るもの全てに嬉しそうに手を振り、触れ合おうとする。

もっと感動の再会でもするんじゃないかと思っていたが。

…それは彼女の触手下部分にへばりついていた長道で十分だろうな。

先ほど慌てていたのはこれが原因か。

「ずっとお礼が言いたくて…つむぎのおかげで…」

「…ふふふ♪」

手を重ね合わせる癖も、久しぶりに見た。

…見慣れると、愛くるしささえ覚えてくるな。

「君のおかげで、シドニアはじめ数多くの命を救う事が出来た」

「そんな…私だって、いつも皆さんに助けてもらってます…」

…。

岐神という男が父親と聞くが。

…似ても似つかない性格だな。

つむぎはあれから自分の個室を与えられ、彼女の大好きな本がいくつか用意された。

星が見える大きな窓…いや、透明な外壁か。

どちらかといえば、縦に広い展望台のような感じだろう。

「…前の部屋よりは、広くなったのかな…」

「私、本を読むのが好きだから、狭くても平気です」

イザナの言葉に、彼女は本を一冊手に取り笑顔で答える。

「…」

「…谷風さん?」

「…うん。ここ、居住区から少し遠いなって…」

「…それは、仕方ないです」

確かに、前の部屋よりもつむぎに会いにいくのは時間がかかるようになったな。

…個室を与えられたとはいえ、彼女は言ってしまえば奇居子だ。

その巨大な身体で居住区に住むのは難しいのだろう。

「…会いにいけないわけじゃないんだ。居住区に済むにはつむぎは大きすぎる」

「…」

…ペットのような扱いに、少し疑問を覚えるのは俺も同じだが。

だが、まだ彼女はシドニアの人間全ての理解を得られた訳ではない。

…こうしておくのが、当然と言えるだろう。

「…」

「どうしたの長道。さっきから黙っちゃって…」

つむぎと会った帰り道、ずっと黙っている長道にイザナがついに口を開く。

その口ぶりから察するに、いつも二人の中では会話が絶えないのだろう。

「…うん。地下で暮らしてた時と、今のつむぎが重なっちゃって…」

「…」

長道には、父親のような存在がいたという。

その男にシドニアの地下で育てられ、世間からは遮断された世界で暮らしていた。

…今のつむぎと同じと思うのも無理はない。

「…ねえ!つむぎを居住区に入れてもらえるように纈に頼んでみようよ!」

「…!そうか!ちょっとくらいなら…」

イザナがハッとした後、長道に提案しだす。

長道もそれに大きく賛同する。

妙案だ。

そう二人は考えたのだろうな。

…この二人の中では、だが。

「ダメに決まっているだろう」

「え?」

「え?」

「あの巨体をどうやって居住区に入れるんだ?」

「…で、でも!きっと何処かに…」

「それにつむぎは触手があるから…」

「彼女を快く思っていない連中もいるんだ。何よりリスクが高すぎる」

つむぎの初公演を思い出す。

尻尾を振っただけであの騒ぎだ。

「何かあったら責任を取らされるのは纈なんだ。君達はそういう事を考えてなさすぎる」

俺自身もできる事ならつむぎを居住区に入れてやりたいが。

今のままでは居住区がパニックになる様子しか思い浮かばない。

それはきっと纈も同じだろう。

「…すいませんでした…」

「…君達のつむぎを思う気持ちは僕も良く分かる。だが軽い気持ちで行動してはいけない」

「…はい…」

…纈も、気苦労が耐えなさそうだな。

自室に戻ると、一通の手紙が郵便受けに入っていた。

宛先は間違いなく俺だろう。

配達されたものではなく、書いた本人もしくはそれの友人が俺の自室に突っ込んだもので、切手も何も貼られていなかったからだ。

封をされたテープにも脂を含んだ指紋がついており、手作りというのは見て分かる。

「…」

そんなテープだからか、紙製の封筒が破れる事なく取れた。

封筒には何も書かれていなかったから、何かに再利用出来ないだろうか。

「…!」

中を見ると、ガンダムの新兵器の図面と解説。

これは間違いなく佐々木の字だろう。

メカニック担当の中で丸っこい字を書くのは彼女一人だからだ。

…というより、紙の隅に佐々木と書いてある。

「…」

vガンダムのパワーアップ。

ビームライフルの強化と、人工カビを用いたバルカンと実体剣。

装甲も少し厚くなっているが、衛人達に使われるバーニアを組み合わせる事で鈍重さは無くなっているそうだ。

「…?」

『アンタの希望通りにはいかないけど、有線付きなら何とかなりそうだよ』

…。

一瞬何の事か分からなかったが。

どうやらファンネルの事を指しているらしい。

…有線付きか。

というと、インコムか。

…実弾付きの。

それでも、人工カビを装填出来る程までにチューニングしてくた彼女には感謝と感嘆を示すしかないな。

お礼を言おうかと思ったが、どうにもこの図面をもっと良く見ていたい。

…礼を言うのは明日でいいか。

「…」

あれから長道とイザナは何か思案していた様子だ。

恐らくつむぎをどうにかして居住区に入れるつもりなのだろう。

…見て見ぬ振りをするのはダメだと分かってはいるが。

まあ止めた所で止まるような者でもないからな。

…長道は、時たま頑固になるそうだしな。

ヒ山の言葉を思い出し、苦笑する。

彼女もまた、長道を良く見ているよな。

「…?」

突如鳴り響くサイレン。

携帯には出撃の文字は無いが。

『只今より、シドニアは逆噴射を開始します。安全帯を、安全手すりに接続し、これに備えてください』

「…安全帯?」

普段使っていないからか、パッと頭に出なかった。

というか、部屋の中では下着姿の俺にとって、それは一大事と呼んでもいい出来事だ。

「…そういえば」

朝、通達があった事を思い出した。

惑星ナインに軌道を変える為、逆噴射を行うのだと。

「…こいつの用途がようやく分かったな」

凄まじい振動の為、これをつけていなければ揺れるどころか天井に叩きつけられ、床に叩きつけられるという恐ろしい体験をする事になる。

…どんなものかちょっと興味はあったが、流石に怪我をするのはと思い、手すりに安全帯をつけ、また佐々木からの手紙を見る事にした。

「…」

…。

長道とイザナは恐らくつむぎを居住区に入れる為の準備をしているのだろう。

あの触手さえ入れれば何とかなるのだから。

触手はどうやらほぼシドニア全域に伸びるようだから、どうにかすれば入れるだろう。

だが、表立って堂々と入れるような姿ではない。

隠れて入る必要がある。

触手が隠れて入るという事は…。

…つまり、配管か?

しかし、ある程度の下調べも必要だろうが…。

「…」

…。

……。

…二人がこれから危ない目に合わないように祈ろう。

第8話 終

また明後日書きます

乙よ


毎度楽しみにしてるよ


明日も楽しみだ


このアムロは老成もそうだけどたまに疲れはてた人に見える
それが渋い感じがして好き


長道達の企みが失敗しなければいいけど……

人の感情を一般の人よりだいぶ多く感じるからな…
そう考えるとニュータイプの精神って若いか達観かの二択しかないのかも

乙でございます

つむぎが元に戻ってから、長道とイザナは随分活気を取り戻した。

特に長道はそれが顕著に表れている。

聞いた事、見た事全てに初々しい反応をするんだ。

話す側も嬉しいだろうさ。

…この前、ギリギリで服を着て、安全帯を手すりにつけ間に合った。

あれ程の振動が時たま訪れるというのだ。

これでは夜も寝辛くなってしまう。

過去、奇居子の攻撃を除けようと急速旋回をした所、それは大惨事だったと聞く。

…詳しくは教えてもらえなかったが、笑えない事だろうとは相手の表情で察した。

街中平和でのどかな雰囲気が流れているというのに、その裏には隠された恐怖か。

敵は奇居子だけではないと。

こんな移動式コロニー、そうならない方がおかしいと思うんだがな。

きたか

「…」

しかし、先程から隣にいる長道が気になる。

いつも通り大盛を頼み、話題の絶えない彼だが、今回はどうにも首筋が気になるらしい。

それは見てるこっちも気になる。

「…長道。その首に巻かれた包帯と湿布は?」

「えっ!?あ、か、階段で転んでしまいまして…」

「…そうか」

嘘をついているのは一目で分かった。

嘘の下手な彼の顔もそうだが、彼の隣で顔を赤くするイザナを見ていると、何があったかは少しだけだが理解出来る。

…心なしか声がうわずっている事から、計画は無事成功したのだろうな。

後はバレないようにする事だが。

「混合掌位訓練?」

「はい。俺と、つむぎと、サマリさんと…」

この間は奇居子の襲来で中止になったからな。

それでも必ず行うという事は、この訓練はそれほど戦闘において重要なのだろう。

二体以上の衛人が組み合わさる事で、倍以上の速さになる、か。

それを応用すれば、MA用のバーニアをつけなくともMSでかならの速さを出せるということか。

単なる移動手段だが、戦闘においてはかなり役に立つ方法だろうな。

「あれ?アムロさんは出ないんですか?」

「vガンダムは新しい武器や装甲やらで整備中なんだ」

vガンダムのパワーアップ。

注文通りとまではいかなくとも、それなりに作っていてくれているらしい。

少しだけ楽しみでもある、と思っている自分もいる。

…嫌な感じだな。
戦わずに済む方法を探してる筈が新しい武器を楽しみにするなんて。

『これより一七式継衛改と一八式による混合掌位訓練を行う』

サマリ、弦打、勢威、長道のそれぞれがリーダー格の四人の掌位。

彼ら程の操縦技術ならなんて事ない訓練だろう。

モニターを通じてみていても、それは分かる。

「…」

まだ衛人の正規操縦士ではない者達の目は釘付けだ。

憧れの四人がこうして見本を見せてくれているのだから、そうなるのも納得だ。

…だが。

『うわっ!?』

『は、速え!!』

『つむぎです!遅れましたが訓練に参加させていただきます!』

…ああも人類の機械技術を遥かに上回られては、ベテラン勢も形無しだな。

しかし、一体どういう仕組みで飛んでいるのだろうか。

…そもそも彼女は生き物の筈だが、どうやったらあんな飛び方が出来るんだ?

「白羽衣さん、凄いね…」

「あんな動き出来るわけないよな…」

…周りの訓練生もそう思っているんだろうな。

しかし、つむぎには操縦席があれど、操縦士は必要ないという。

当然の事だ。
彼女は生き物であって、機械ではない。

自分で物事を考え、動ける意思がある。

操縦士はあくまで彼女を指示するだけの存在。

…どちらかと言えば、支配しているようにも見えるが。

あの岐神兄妹から感じられるドス黒い気。

…もし、彼らがシドニアに敵対する事となったとしたら、どうなるのだろうか。

彼らの技術力ならば、つむぎのような存在をいくらでも作れる可能性がある。

そうだとしたら、俺達は戦えるのだろうか。

…考えたくはないが、その時は戦うしかないのだろう。

機体の性能の差が勝敗を分けるのではない事はもう学んでいるさ。

『これより融合個体つむぎとの掌位訓練に移行する』

『了解!掌位解除!』

混合掌位訓練とは言っても、この四人はもう何度も訓練している中。

この混合というのはこの四人ではないという事くらいは分かる。

『谷風さん!よろしくお願いします!』

『うん。行くよつむぎ』

つむぎは初訓練の際にイレギュラーが発生したからな。

つまり、これが初めてという事。

初めて訓練する際は一番のベテランパイロットが引き受けるのが世の常で、ここではサマリか勢威が行うのが普通なのだが。

つむぎは自然な動作で長道に近づき、彼を指名した。

周りの者達も、それが当然の事だと言わんばかりにその役目を長道に任せる。

…戦場に恋愛を持ち込むのも悪くはないのかもしれないな。

『…』

『…』

「うわ…凄え速度だ…」

「耐えられるかな…俺」

…いや、あのスピードについていくは普通の衛人では無理だったかな。

『凄い機動性だな…』

『…にしても、谷風とあの融合個体、相性はばっちりじゃねぇか。なあサマリ?』

『…そうだな』

各々がそれぞれの感想を述べる。

つむぎの性能に驚嘆する者、二人の仲を茶化す者。

どちらも、正しい感想だ。

俺も彼らを見ていてそう思う。

「…」

だが、一人だけそれを複雑な表情で見つめる者がいた。

「…」

イザナだ。

…今は、彼女、と呼ぶべきなのだろうか。

少しだけ眉間に皺を寄せ、頬を膨らませている。

イザナは長道の一番初めの友達で。

何度も一緒に出掛けたり、彼の相談に親身になっていたのも彼女だったそうだ。

…それはもう一人、いたそうだが。

…そんな友達が、最近来た者に取られつつある。

面白くない。

そんな所だろうが、言葉や感情ではまだ表せられない程のものなんだろうな。

だからこうして複雑な顔を見せる。

まだ未熟な想い。

…イザナ。
それはな、嫉妬と呼ぶものなんだ。

まだ君はそれを理解していないのかもしれないが。

まあ、それはきっとこれからどんどん成長していくんだろうな。

…ここでの楽しみが、また一つ増えた。

「あ、アムロさん!」

「?」

仲睦まじい映像を見た後、いつもより気分良く自室に入ろうとした時に纈から声をかけられた。

彼女から声をかけられるのはそれ程珍しくはないが、随分急いでいた様子だった。

彼女はいつもは年相応の少女であるが、仕事中はかなり厳格な人物へと変化する。

器用なものだと感心するが、気疲れしないものだろうかと心配もする。

…命をかけているのに、そんな事は言ってられないか。

「それで、どうしたんだ?」

「…えっとー…」

「?」

「あー…えっと、アムロさんの部屋、あくまで貸してあるだけじゃないですか」

…。

そうだったな。

彼女はきっと、俺に気を遣っているのだろうな。

元はと言えば、無一文の中年を無理に住まわせていたんだ。

大分長い期間を空けてくれた事にも、彼女達の優しさを感じる。

…それに甘んじて、住まいを探すのを忘れていたな。

「…まあ、えっと、期間は後一週間なので…」

「…ああ。ありがとう」

…一回り以上も歳上の男には、言いづらいだろうな。

というより、こういう事は係員か、もしくは小林が言う事ではないのだろうか。

…この子は本当に、損な役回りだ。

これだから歳は無駄に取りたくない。

「…ここ、か」

夕暮れ時。

纈から手渡された紙を見ながら歩いてきた。

そこにはシドニア全域の不動産を担当する施設の場所が事細かに書かれていた。

ここの住所を全く把握していない俺にとってはありがたい。

「…」

しかしこうも急な階段だと、少々疲れるな。

元々体力には自信が無く、歳の事もありそれはもう大変だった。

…これを機にトレーニングでも始めようか。

…疲れ果てて諦めるイメージしか湧かないな。

「…?あら、貴方は…」

「すまない。ここに来れば住居を案内してもらえると聞いたんだ」

中に入ると、見るからに静かそうな、髪の長い女性が座っていた。

年齢は、長道よりは歳上だろうか。

「はい。…アムロ・レイさんですよねぇ。緑川さんから聞いてますよぉ」

「纈から?」

「はい」

ここでも、か。

…何から何までありがたいな。

自分が酷く情けない奴に思えてくるのが嫌だが。

「アムロさんは、どんな所がいいですか?」

「…そうだな…」

思えば俺は、今まで住居を自分で選んだ事がほとんど無かった。

いつも与えられた所で身体を落ち着かせていたからな。

それどころじゃなかった、というのは言い訳になるのだろうか。

「…」

「あんまりこだわりとかありませんかぁ?」

「こだわり…」

住居に対するこだわりか。

…まさか自分がこんなにも落ち着いた事を考える日が来るとはな。

今まで自分が住まいに求めていたもの。

…。

「…静かな空間だろうか。広さは気にしない」

「それでしたら、いくらでもありますよぉ」

そう言うと彼女は喋り方と同じくゆったりと立ち上がり、棚に並べられたファイルをいくつか手に取った。

「こことかどうですか?シドニア軍事施設から徒歩5分程度ですよぉ」

「…こんなにあるのか…」

「たぁくさんありますよぉ」

優柔不断だと思われそうだが、どうにも決められない。

初めてオモチャを買ってもらえると言われた子供のように隅から隅まで目を通す。

これも、あれもどれも良いなと思ってしまう。

「…」

「…ふふっ」

「?」

物件が書かれたファイルをいくつも読み込んでいると、不意に彼女がにこやかに笑った。

「…悩みますよねぇ。そんなたくさんあると」

「…そうだな。どれも魅力的に思える」

「住めば都ですよぉ」

「…そういえば」

「…?」

纈から貰った紙はもう一枚あった。

自分にとってそれが重要なのかどうか全く分からなかったが。

優柔不断な今の俺にとっては選択肢を狭める手助けになるかもしれない。

「これを、纈から貰ったんだ」

「ん~?…無制限居住許可証!また!!?」

「…また?」

「…あ、いえ、こちらの話ですよぉ。いや~今日は二人も外周壁を案内出来るなんてぇ」

外周壁。
シドニアの許された一部の者だけが入る事が出来る所だと聞く。

特別外周壁に何があるわけでもなさそうだが、何があるのだろうか。

「んしょ…んしょ…」

先程よりは早めの動作。

脚立を使ってやっと届くくらいの高さにあるファイルを手に取り、降りてくる。

その様子を何となく見ていると、彼女のスカートから黄色の下着が見え隠れしている事に気がつく。

…この子は、興奮すると身姿は気にならなくなる性格か。

一応女性なのだから、少しは気をつかった方が良いと思うが。

「…あ、見ました?」

「すまない。偶然だが目に入ったんだ」

「いいえ…高いですよぉ」

冗談にしか聞こえないテンションで喋りながら脚立を降りてくる。

珍しいと言ったものの、それなりに揃えられた数のファイルを持ってきた。

住める人間が少ないんだ。
空き家はあるだろうさ。

「これとか、どうですかぁ?人通りも無いし、静かですよぉ」

「…うん。良いかな」

「でしたら、こちらを案内しますねぇ」

「すまないな。こんな遠い所まで」

「仕事ですからねぇ。それに結構嬉しいんですよぉ。外周壁を案内するの」

「…職人気質かい?」

「まあ、そうですねぇ…あ」

「?」

「これ、片付けるの手伝って貰って良いですかぁ?」

彼女はそう言って立ち上がると、人差し指を出しっぱなしにした俺が選ばなかったファイルに指す。

なるほど。

…見せたな?

「…ふふふ」

「…あ。知ってますかぁ?うちの店の近くにある模型専門店」

「?いや、知らないな…」

「あそこで「ガンダム」が新しく発売されるらしいですよぉ」

「…そうか」

「緑川さん、プラモデル大好きですから、きっと買っていったでしょうねぇ」

…自分の乗っている機体がプラモデルになるのか。

…いけないな。
少しにやけてしまう。

「買いたくなりましたぁ?」

「…興味はあるかな」

「あ、後あそこの店はシドニアの老舗店で…」

…しかしいつになったら着くのやら。

「今日はありがとう。助かったよ」

「大丈夫ですよぉ。ご飯も奢ってもらえましたし」

色々話を聞きながら案内されていたら、すっかり日も暮れてしまった。

辺りは真っ暗で、等間隔で設置された街灯が寂しく光る。

食事中、彼女の口から出た言葉は建物の話がほとんどだった。

本当にこの仕事が好きなんだろうな。

正直何を言っているのか分かりづらかったが、気持ちは分かる。

俺だって機械の話になったら同じようになるさ。

「住所登録とかは私がやっておきましょうか?」

「ああ。すまない。」

「これも仕事なんですよぉ」

…なかなか面白い子だ。

自室、もとい仮住まいに戻る。

自分の荷物は着替えと、少しの工具とラジオ。

ここに来て初めて買ったのが衣服よりも工具だった。

何を作るか思案中ではあるが、この落ち着いた平和な時間が続けば良いものが出来そうだ。

「…こんなものか」

少し大きめのリュックサックがあれば入る程度。

だがこれは前の世界でも似たようなものだったな。

荷物はなるべく少ない方が良い。

俺達のような仕事をしていれば尚更だ。

「…」

…。

いや、荷物はもう一つ増えるな。

…あの模型店、明日もやっているだろうか。

「…」

二人で話しながら歩くのと、一人話す事もなく歩くのとでは時間の進み具合が全く違う。

はっきり言って軍事施設からは遠過ぎる。

近道があると言っても、施設内に入れるだけで、目的地までの道程はそう変わらない。

こんな事なら近場にすれば良かった。

…まあ、近場でも何かしら文句を言い出すんだろうが。

「…?」

階段を上がり、坂道を登っていくと、何やら話し声がする。

人通りが無いんじゃなかったのか。

…いや。

もしかしたら…。

「…あ!アムロさん!」

「アムロさん!」

「…成る程。君たちもここに?」

家まで近づくと、俺の家の丁度隣。

長道と、イザナ二人が立っていた。

「はい!俺と、イザナ………あっ」

「…」

二人は俺の顔を見ると、少し気まずそうな顔をする。

…思い当たる節はあるな。

下世話に考えれば、イザナの願望を邪魔したか。

はたまた別の理由か。

「…?」

何やら長道が携帯を確認して、ハッとしている。

「イザナ!アムロさん!呼吸を止めて!」

「?…あ、ああ…」

呼吸を止める?

何をしようというのだろうか。

…。

いや、何となく分かった。

何かが急速にこちらに向かってきている。

成る程な。
俺の推理はあながち間違ってなかったか。

『谷風さん!!!!!』

耳に残る程の爆発音。

塵に塞がれる視界。

口を塞いでいても、突然の轟音に驚いて思わず埃を吸って咳き込んでしまう。

配管の中の埃を飛ばす為に圧縮した空気を送り込んだようだ。

融合個体というのは、かなり便利に出来ているな。

つむぎは異常なまでに溜まった埃の中をするすると通り抜けて、笑顔で挨拶していた。

「…あ!アムロさんも!」

「げほっ…ああ、僕もこの近くに住む事になったんだ」

「わはーい!皆さん一緒なんですね!」

「そうだな…」

…だが、その前に。

「…」
「…」

…一応、形式上ではあるが。

「つむぎを連れ出したんだな?」

「「……はい」」

注意くらいはしておくか。

まあ、分かっていた事だが。

…。

いや、この際だ。

彼らに俺の家の掃除を手伝ってもらおう。

「全く…」

「「…すいませんでした」」

しかし、そう考えるとふと思う。

…歳を取るのも、案外悪くないな、と。


第9話 終

また土曜日書きます

プラモ化されて喜んじゃうアムロかわいい

乙でございます


そういやニビン先生のガンダム漫画は契約の関係で中止になったんだっけか
もし連載してたら継衛とガンダムのコラボ絵とか描いたりしたのかな

ver.Kaなら作りがいはあるが塗装はしんどいな

νガンダムはHGでもかなりかっこいいぞ
ニコイチしづらいから新規格で作って欲しいところではあるけれど

Ver.kaは余計な機構を無くしさえすれば完璧なんだがな

「…」

新しい住居で寝泊まりするようになったが。

「…」

いつもよりもかなり心地良く眠る事が出来る。

新しい環境に身体がついてくるかと思っていたが、前の部屋よりも良いようだ。

…ヒ山の言葉を思い出す。

『アンタにもファンが…』

見られていると意識し始めると、どうにも寝辛くなる。

…軟禁されていた時代を思い出してしまうのかもしれないな。

彼らには悪気は無いのだろうが、嫌な事を思い出してしまうんだ。

「…しかし、涼しいな」

この世界全般に言える事だが、窓がついている方が珍しいのではないだろうか。

所々から吹き抜ける心地の良い風を感じていると、そう思う。

夜ならば、それは尚更だ。

「…」

そういえば、隣の彼らはどうしているだろうか。

イザナは自立心の発達した良い子だと思うが、長道はそういった所ではまだ未熟に見える。

言ってしまえば、まだ純朴な子供のそれだ。

そして、そこにまだ産まれたての赤ん坊。

まるで夫婦のようだと思っていたが、それは子供二人を世話する母親のようにも思えてしまう。

人の考えている事までは分からないが、もしそういう理由でイザナがああなったのなら、彼女の器の大きさは凄まじいものなのだろう。

…だが、どうだろうな。

イザナにもまだ子供じみた部分はある。

…中々奇妙な同棲生活だな。

『重力警報発令!重力警報発令!艦内各所で重力障害が発生!直ちに安全帯を装着して下さい!』

「!」

夜更かしにも似た事をしていると、突然シドニア全域にサイレンが鳴り響き、管制官からの警報が出されだした。

重力障害?

奇居子が襲来した訳ではないようだが、だとしたら何だ?

一体、何が起きている?

「…」

「アムロさん!」

「!」

吹き抜けの窓からつむぎが顔を出す。

毎度玄関から入れと言ってはいるのだが、この子は窓から入ってくるほうが楽なようだ。

「…つむぎ、一体何が起きているんだ?」

「分かりません。でも何だかただ事じゃないような気がします」

…それは分かってる。

寝ぼけているわけじゃない。

「…」

それと同時に、腕に巻いた携帯に緊急待機命令の文字が出てきていた。

…恐らく、つむぎもだろう。

やれやれだ。
軍人が一息つく間もないのは、どの世界も同じだ。

「三人とも緊急待機命令だなんて…何だろう?」

「分からないけど、とにかく行ってくる!」

イザナは指令を受けていないようで、家で待機する事になった。

…というと、選抜された何人かが招集されたという事か。

成る程これはただ事ではない。

「…長道も、アムロさんも、つむぎも気をつけてね」

「うん。イザナも気をつけて」

危なげな雰囲気を醸し出すシドニア艦内。

出撃ではなく待機。
いつ何が起きてもおかしくないという事だ。

…悪寒がするな。

「…じゃ、行ってくる」

「……いってらっしゃい…」

心配そうに俺達を見つめる彼女に少し顔が綻ぶ。

こんな時でもそんな事を考えるのは、非常識だろうか。

それくらいの余裕は持っておいて良いと思うが。

つむぎは自分の部屋に戻り、そこからスタンバイする為戻っていった。

…しかし。

「アムロさん!早く!」

「分かってる!」

彼の家の裏から軍事施設に直通する抜け穴がある。

そこを走っていけばすぐに辿り着くというのだが、いかんせん今の俺ではこの距離を走り続けるのは難しい。

「行きますよ!」

長道に背中を押されながら走る。

老人を介護するような彼の表情に傷つけられながらも、何とか遅れる事なく辿り着く事が出来た。

「…佐々木!何が起きている!」

「知らないよ!アタシだって困ってんだから!」

少々いらついた返事が返ってくる。

彼女もまたこの騒ぎで叩き起こされた一人なんだろう。

「…どーしたんだい?そんな息きらして…」

「…老体に鞭を打ったんだ」

「…あ、うん…」

『こちら203号機!状況を確認しています!』

俺達が着くより先に偵察隊が送られていた。

急造したチームなのか、綿密に作られたチームなのか分からないが。

『…何かあります!』

衛人203号機のカメラに映るそれが何かは判別出来ないが、見ただけで何かしらの異常が起こっているのはすぐに確認できる。

『…人が死んでる……!!!?』

「何?状況を話して!」

恐らく残業が長引いているのだろう纈。

しかし彼女はどれだけ疲れていようと厳格な司令官であろうとする。

私情は挟まず命令を下すその様は、どこかブライトを彷彿とさせる。

『……が、奇居子!!奇居子です!奇居子が外郭に侵食しています!』

「!!?」

『胞子がシドニアに貼りついてある…!』

「一体何時の間に…監視部の方はどうなってたの!?」

「分かりません!奇居子が飛来した形跡は全くありませんでした!」

「…この区域は何なの?」

「…岐神開発の新兵器工事です!極秘事項が多すぎて、中に一体何があるか…」

「…厄介な場所ね…迂闊に攻撃出来ないじゃない…とにかく、該当区域と、半径1km単位の区画から、一般船員を退避させて!」

「了解しました!」

「…情報を寄越さないってどういう事?」

「佐々木!ガンダムは本当に出られるんだな?」

「出すしかないでしょ!アンタも選抜メンバーなんだから!」

…つまりは、まだ不完全か。

vガンダム事態、急造した物だからもう慣れているが。

…文句は言えないな。

『……!こいつ!!…指示を下さい!胞子の侵食も拡大しています!』

先遣隊の通信が聴こえる。

もう既に大勢の死者が出ているのだろう。

歯ぎしりしている彼の顔が浮かぶ。

『お願いです!攻撃させて下さい!!!』

これ以上シドニアを傷つけさせてはいけない。

というより、その為に衛人隊になったんだ。

彼の言い分は何一つ間違ってはいない。

「…仕方がない、か…私が許可します!」

『了解!ありがとうございます!全機攻撃開始!』

『了解!』

音声でしか聴こえないが、凄まじい戦闘が行われているのは分かる。

ヘイグス粒子砲を発射し、着弾する音。

正直、歯痒いな。

…見てるだけ、待っているだけというのは。

勿論自分が出れば終わるなんて事は思っていないが、少しでも戦力になるのなら出たい。

『…これじゃキリがない!』

「!…奇居子中心部から高濃度ヘイグス粒子が検知されました!」

「…?これは………!!ダメ!今すぐそこから離れて!」

『!…うわあああああ!』

高濃度ヘイグス粒子。

…。

「まさか!?」

考えられる事は、二つ。

ヘイグス粒子砲を撃ち込んでくるか。

それとも…。

「…自爆か…!」

「203号機、信号消失!」

「177号機、同じく信号消失!」

「097号機も…!」

「原因不明の爆発が起きたようです!」

「爆発…?奇居子は!?」

「反応、消失しました!痕跡すらありません!」

「消滅したようです!」

「消滅…?一体どういう事…?」

『こちらサマリ、今の爆発はなんだ!?出撃はまだか!?』

「…衛人隊出撃!谷風班とサマリ班とアムロさんは奇居子と行方不明者の捜索!他の衛人隊は現地の救出に向かって!」

…遅過ぎるぞ、纈。

「佐々木!準備を!」

「分かってるから!今度は壊すんじゃないよ!」

「壊すものか!!」

「はい行った行った!!」

「アムロ、ガンダムで出撃する!」

せめて、生きている者だけは救ってやらなければならない。

先の爆発で、死者の声が頭の中に響いてきた。

…最早現地がどうなっているか分からない。

原型すら留めていない可能性もある。

「長道!サマリ!先に行くぞ!」

『了解!』

『了解しました!すぐに追いつきます!』

「…」

『爆心地周辺隔壁区域については、被害詳細不明』

『第14外周壁全体の被害報告は集計中』

管制官の者達はこういう時でも冷静に対応しなければならない。

立派な精神力と集中力だと思う。

「…」

予想通り、いやそれ以上に破壊され尽くしている。

奇居子が先程までいたであろう場所は空虚となり、隕石でも墜落したのではないかと錯覚する程だ。

「…」

施設の破片に混じって人間が流されていくのが見える。

一体ここで何が起きた?

…いや、何が行われていた?

奇居子が飛来したのではないとしたら、何だ?

…。

岐神開発、突然現れた奇居子、極秘事項…。

「…」

つむぎは奇居子と人間のハイブリッド。

つまり岐神開発は、奇居子を応用する技術を持っているという事だ。

…だとしたら、ここでも奇居子を応用した何かを作っていたのか?

…作戦司令部に小林はいなかった。

極秘事項というのは、そういう事だろう。

「…小林め…」

あくまで想像でしかないが、そう考えれば辻褄が合う。

…こんなにも犠牲者を出し続ければ、いつかシドニアは滅んでしまうぞ。

発展の為に死んで良かったと、犠牲者が言うと思っているのか?

結局、少数の生存者しか助ける事は出来なかった。

施設は閉鎖せざるを得ない状態。

関係者はほぼ死亡。

死体は回収され、またシドニアのエネルギーとして活用される。

「…」

艦内に帰還するが、皆一様に沈黙を続ける。

何の為に出てきたのだろうか、と思っているのだろう。

少数だが人命を救えた。

…それだけでも儲け物とするしかないのだろう。

これじゃあ、憂鬱にもなるさ。

「…!」

司令部に顔を出すと、小林が何食わぬ顔で戻ってきていた。

いつも通り、あの奇妙な仮面を被り表情は読めないが。

「小林!」

「…何だ?」

「あそこで何をやっていた!お前や岐神もいたんだろう!?」

「…貴様には、関係の無い事だ」

「死人が出てるんだぞ!!」

「アムロさん!」
「落ち着いて下さい!」

弦打と勢威が羽交い締めで俺を抑える。

出来るならやっているさ。

だが、この女はのうのうと戻って、何も無かったかのように振舞っている。

「…全ては、奇居子討伐の為だ」

「あの後で平気な顔をしている奴の言う事か!」

「…」

俺の質問にそれ以上答える事はなく、彼女は自室へと戻っていった。

…あれが最高司令官だと?

「…ふざけるな!!」

思わず壁を叩く。

痛みを気にする事なく何度も。

あの岐神とかいう奴もだ。

あいつが原因の一つだとしたら、それこそつむぎの危険性も保証出来なくなる。

「…アムロさん。気持ちは分かりますが、抑えて下さい」

纈がゆっくりと降りてきて、俺の腕を取る。

その顔は複雑で、心中を察する事は出来ないが。

…こんな子供に諭されるとはな。

「…すまない。大人気なかったな…」

「…いえ」

「…頭を冷やしてくる」

…なかなか冷えそうにないがな。

人間は、オモチャじゃないんだぞ。

『昨日の爆破事故、原因は奇居子!』

翌朝、朝居眠りから覚め、まだ上手く働かない頭にトンカチで殴ったような衝撃を受けた。

新聞やテレビ。

そこには昨日の爆破事故は、近くを通っていた小惑星から飛来した奇居子によるものだと明記されていた。

…言論統制か。

手の早い事だ。

しかしそれでも何故それを予測出来なかった、何故防げなかったと揶揄する者達がいる。

本当の事を知れば、何と言うだろうか。

百聞は一見に如かずというのは、こういう事なのかもしれないな。

「アムロさん!朝ご飯ですよ!」

「…」

再び窓から這い出てくるつむぎを見ると、昨日の事など嘘のように思えてしまう。

だが昨日の夜、何らかの形で奇居子を出現させ、死人を出し施設も破壊された。

それは直視するしかない真実なのだ。

「…」

「アムロさん?」

「…いや、何でもないさ」

俺が今思っている事を彼女に話したとて、困るだけだろう。

手をツンツンとして俯く姿しか想像出来ない。

…腹の中に、閉まっておくしかない、か。

…。

…ん?

「…朝ご飯?」

「はい!イザナさんが作りすぎちゃって、お裾分けなんです!」

…持ってきていないようだが。

つまりは、自分の足で来いという事か。

「…ありがとう。甘えさせてもらうよ」

「わはーい!」

奇居子。

もしも本当に制御が出来ないとしたら。

戦うしかないとしたら。

…彼女もいつかは、ああなってしまうのだろうか。

「いただきます」

綺麗に並べられた食事。

この世界ではどうやら日本食がポピュラーなようだ。

「…」

中々良いラインナップだ。

それに、食堂にあるプラスチック製の皿とは違い、陶器が使われている。

「…あ、そういえばアムロさんって…」

「?」

「箸、使えたんですね…」

…。

確かに、何時の間にか使えるようになっていたな。

いつからかは知らないが。

「…」

それにしても。

「つむぎ」

「はい?」

…。

「長道、おかわりいる?」

「うん…貰うよ」

「はい。ちょっと大盛りにしといたからね」

「ありがとう!」

「あ、長道!こぼしちゃってるよ!もう…」

「ご、ごめん…」

…。

「僕は、邪魔じゃないか?」

「…この空気、ショックだったんです」

…長道も大変だな。

「…こっちだ」

仮象訓練の上位メンバーが集められ、衛人製造工場へと案内される。

「衛人用自立支援機の試作機だ」

新兵器が出来たということで、まず我々に見せるということらしい。

あくまで衛人用なので、ガンダムに応用出来るのかは分からない。

それでもこの機体や兵器の仕組みはある程度分かっておかねば指示も出せないだろうという事で俺も呼ばれたという事だ。


「通常て四機装甲内に連結出来る」

…。

中に衛人が入って、操縦する仕組みか。

掌位する必要も無くそれ以上のスピードが出せる。

…だが。

「…先端は、人工カビなのか」

いち早く気づいたサマリが口にする。

「…そうだ」

「人工カビを先端に装備した、掌位専用の装甲….だと?」

先端部に人工カビ。

…玉砕でもさせる気か?

「近く操縦士服も改装する予定よ」

「…」

声のする方を振り向くと、佐々木が何やら日本刀のようなものをいくつか手にしていた。

彼女はそれを俺とサマリに渡し、何やら満足気な顔をする。

「…」

鞘から刀を抜くと、気持ちの良い金属音。

研ぎ澄まされた刀の音だ。

「…カビか?」

「そ。人工カビの端材を精製して、加工したやつ。…実践で使えるかどうかは…まあお守りだと思っておいて」

「…」

機体が壊れた時の最終手段とでも言うのか?

…生憎、俺は武人じゃないんだ。

これで奇居子を殲滅出来るなら、そいつは衛人に乗らないほうが強そうだ。

「ほれ」

長道もそれを手渡され、受け取る。

それを一度見て、近くにいた仄姉妹に手渡そうとする。

…彼は、見分けがつくようだな。

「はい。焔、煉」

「ふん」

「あ…」

「…あ、ありがとう。谷風」

煉が代わりにそれを受け取ると、つっけんどんな態度を取る焔にも渡そうとする。

…ここも相変わらず、か。

「…」

刀を閉まってから新兵器の先端部を見つめるサマリ。

恐らく彼女も俺と同じ事を考えているんだろう。

「…サマリ」

「はい?」

「…いや、何でもない。すまない」

「…いえ」

隊長としての責務。

責任感の強い彼女だ。
部下が死んでいくのを見るのは、俺よりも辛い筈だ。

…。

日々衛人の性能は上がりつつある。

新兵器も開発され、そして融合個体という頼りになる味方も出来た。

だが、それは向こうも同じだ。

日々学び、成長している。

戦力は明らかに彼らの方が上。

…悔しいが、それが現実だ。

「アムロさん」

「?」

帰ろうと施設を出ようとした時、私服姿のサマリから呼び止められた。

パーカーにスカートと、普段の彼女とはまた違った服装。

…女性なんだ。
そういう所はあるだろうさ。

「…今日、少し付き合ってもらえますか?」

「…」

付き合う、か。

彼女の目が訴えているのは、そういう事ではなさそうだ。

腹に抱えたものを吐き出したい。

そんな所だろう。

「…ああ。構わないさ」

妻子がいる勢威や歳下の長道では付き合いきれない部分もあるのだろう。

…弦打は、例外だな。

サマリに連れていかれた所は、女性が好むような店ではなく、中年男が仕事の終わりに行くような店だった。

客層も、それに準じて中年ばかりだ。

…俺も、もうその一人なんだよな。

「…はいよ!重力おでんお待ち!」

…。

重力の要素がどこにあるのかは今でも分からないが、味は良い。

「…」

隣では、すでにほんのりと顔を赤くしたサマリが料理に舌鼓を打ちながら酒を・んでいた。

顔が赤いのは、間違いなく酒の力だ。

だが、そこが彼女らしい。

「…何か、話したい事があるんだろう?」

「…」

酒に酔った時は、本音が出る。

俺自身はそこまで酒を好まないが、確かに興味本位で飲んだ時は頭で考えた事が口に出てしまっていた。

…今の彼女も、それに近いのかもしれないな。

「…話せない内容なら、無理に話さなくていい。君が頑張っているのは皆知っているさ」

「…私なんて…ここ最近まともな指示も出せていません」

「…」

「アムロさんや、谷風やつむぎがいなかったら…今頃…」

彼女の仮象訓練装置での順位は3位。

だがそんなものは所詮数字でしかない。

大事なのは、本戦で戦えるかどうかだ。

「レム恒星系に入れば、戦いは益々激しくなるでしょう…あの衛人用新兵器を見て感じました……艦長は、大シュガフ船と戦うつもりです」

考えすきだというのは、無責任だな。

あの女は、奇居子殲滅という目的の為にはどんな犠牲も厭わないつもりだ。

あれを量産して、突っ込ませるなんて事もしかねない。

…その時は、サマリも非情にならなければならないのだろうか。

「…私の指示で、また仲間が…そんな事を考えると、作戦中にも急に恐ろしくなってしまって……私ったら、こんな話されても、困りますよね…」

「…いや、そんな事はないさ」

「…?」

「完璧な人間なんて、いやしない」

誰だってそうだ。

頭が良くたって、操縦技術があったって、どこか欠点は存在する。

「…だが、いつまでもそんな事を考えてはいけない」

「…」

「迷うなとは言わない。悩むなとも言えない。けど、君は隊長を任されたんだ。いざという時は君の判断で行ったって良いということなんだ」

「…でも、私の指示では…」

「しっかりしろ。君は強い女の子じゃないか」

「…」

「俺や、勢威も、長道もいるんだ。いくらでもフォローはするさ」

「…!」

「だから、吐き出せる時に全て吐き出してしまえ。君の苦しみは、僕達が受け止める」

「……。……ありがとうございます」

「…」

ふと思う。

日本の酒を飲むのは初めてだったなと。

…意外と悪くない。

だが、これはあおるような代物ではないな。

サマリを見ていると、そう思う。

恐らく明日は頭を抱えてくるだろうな、と。

「…アムロさん」

「どうした?」

「…私、光合成したくなっちゃった…」

…。

光合成というものがどういうものか。

この世界に住んでれば、嫌でも分かる。

「…」

艶やかな瞳で見つめてくる。

彼女にそんな事を言われたら、ついていかない男はそういないだろう。

「…君の酔いが冷めても同じ事が言えたなら、付き合うさ」

「……アムロさん…」

チェーン。

…今は、まだ大丈夫だ。

『これより、衛人隊合同訓練を行います。操縦士は、搭乗待機して下さい』

サマリと酒の飲み交わした翌日、もう慣れた合同訓練に向かう途中。

「…あれ?あれ?」

「イザナ、まだここにいたの?」

操縦士服に着替えた者達が次々と搭乗口に向かう中、イザナは一人操縦士服の装着ボタンと格闘していた。

「何をやってるんだ?」

「規格が合わないって…」

…。

規格が合わない。

…。

「…今日はやめた方が良いんじゃないか?」

「いえ、このままでも行けます!」

…。

嫌な予感しかしないな。

「…僕は先に行っているぞ」

…こういう時は、長道に任せよう。

一人搭乗口に向かい、その数秒後に二人の阿鼻叫喚の声が聞こえたのは予想の範囲内だった。


第10話 終

前半という事で一旦終わります

書き終わったらまた新スレ建てます

おつー


新婚の家に招かれたアムロとつむぎはさぞ居心地悪かったろうなww

アムロもまだ若いのに、おっさん臭くなってるなww

光合成シーンもっと詳しく書いてくださいませんか

人間はオモチャじゃないんだぞ
アムロが言うとまた違う説得力があるな

乙でございます

紅天蛾なんだってね…
ごめんなさい紅雀とか書いちゃって…

アムロが50代とかに見える

20代はまだお兄さんだろ!!

まだ30前半くらいだろ?
大人の男としても一番魅力的な時期じゃないですかー
そりゃファンもできるわ

色んな出来事がありすぎて精神年齢はそれ以上だろうからな

逆襲のシャアの第2次ネオ・ジオン抗争のアムロ・レイは、たしか……29歳

Z時代はかなりすれてたしな

15、正しく16で軟禁7年を無駄にする事を考えれば磨れるのも仕方なし
そこから5年は腐れ縁の残した後始末や何か仕出かす前に捕獲しなきゃと
ティターンズと同じに見られる環境下で心を割き続けてれば、否応なしに老ける

言いたい事は分かるけど日本語が不自由すぎるだろ

ワロタ

精神的に老けるのは止むを得ないとしても
前線で戦ってた軍人の肉体が老体呼ばわりはどうなんだww

上の理由で精神的に疲弊してるであろう本人が言う分にはそこまでの違和感は無い気がする

彼はニュータイプ能力もあって ロボットや戦闘機の操縦には長けてるけど、実際に走ったりする分には 普通の人と変わらないってことかな?
まあ、仮面の人にはフェンシングでも勝ってたけど

そういえばアニメでカットされていたサマリの光合成発言が入っているな
もしかして>>1は原作も読み込んでいるのか?

アニメでもなかったっけ

ん?そうだっけ…
見直してくる

ん?そうだっけ…
見直してくる

ん?そうだっけ…
見直してくる

ん?そうだっけ…
見直してくる

乙です
新スレ立てたら誘導お願いします

ふう

来たか
モバマスSS雑談スレ☆94 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437270072/)

>>310
なりすまし

まだー?

http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1439561958
すいません
こっち終わったらまた書き込んでいきます

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