(クソ短い上に地の文のアレがアレだからキヲツケテネー)
「ほむらちゃん、おまたせっ」
三年ぶりに会ったまどかは、髪型を除いてほとんどあの日と変わっていない。十二年前、私が世界をゆめまぼろしにした、あの日と。
私をまどかのいない世界に縛り付けた赤いリボンは、一本はまどかのポニーテールを結い、一本は私の左耳辺りに括られている。
「私も今来たところ。……久しぶりね、まどか」
まどかと同じ大学を卒業し世界の安定を見た私は、まどかから離れようとした。もう私の『監視』は必要ないと踏んだのだ。住所を変え、電話番号を変え、メールアドレスを変え──けれどまどかはたった三年で私を探し出してみせた。それは世界の意思か、或いは分かたれたリボンが引き合ったのか。
「それで、どうしたの? 急に会いたいだなんて」
電話が鳴ったのは今日の夕方。忘れるはずもないまどかの番号からの着信に、私の胸は喜びに震えてしまった。
「えっ、えと、特に用事はないんだけど……ほむらちゃん、何も言わずにいなくなっちゃったから。ずっと、会いたくて」
薄く涙を浮かべながらそう言うまどかに、私は既視感を覚えていた。これはそうだ、大学の卒業式の日、私にリボンをくれた時の目と同じ。「あの日からずっとつけてるけど……やっぱりこれは、ほむらちゃんに持っててほしい」と言って、二本とも差し出してきた時の声と同じ。
「ごめんなさい……訳があったの。今は、言えないけれど」
「ううん、いいの。理由も、聞き出そうなんて思わない」
「ありがとう。……それで、今日どうするかなんて……」
「あぅ……考えてなかった、です」
「そうよね……それじゃあ、お酒でも飲みに行きましょうか」
頷いた彼女の微笑みは、「片方でいいわ、これならお揃いだもの」と言ってリボンを一本受け取った時と同じ。本当に離れるつもりならそれを受け取るべきではないと、私は知っていた。
「わあ……さすがほむらちゃん、おしゃれなお店知ってるんだね」
路地裏からさらに裏に入ったような所にあるそのバーは黒羽といった。初めは店名が他人事とは思えずふらりと入ってしまったが、経営が成り立っているのが不思議なほど人がいない所や、店名をクロハネではなくコクウと読む辺りが気に入っている。……もちろんお酒も美味しいのだけれど。
「別にすごいことじゃないわ。……入りましょう?」
ドアベルが妙に暗い音を立てる。無口なマスターが、磨いていたグラスを置いて慇懃に一礼した。いつも座るカウンターの端は避けてテーブル席につくと、いつの間にカウンターから出たのか、マスターが影のように現れてお水とお手拭きをくれた。
「あ、あのぅ、ほむらちゃん」
「なあに?」
「わっ、わたし、こういうお店はじめてで、一体どうしたらいいやら……!」
「ふふ、そんなに硬くならなくても大丈夫よ。……そうね」
少し考えてから軽く手を挙げて、ベリーニとエル・ディアブロ、ドライフルーツの盛り合わせを注文する。マスターは小さくも恭しく頷き、グラスをふたつとお酒の瓶をどこからともなく取り出した。グラスの中身を美しくステアする手元に釘付けになるまどか。蜂蜜色の照明に照らされたまどかの瞳はまるでかの女神のようで、私はこっそり息を呑んだ。
浅く残ったアブサンを干して振り子時計に目をやると、いつか夜も更けていたようだ。私は目くばせをして、あと一杯飲んだら帰りましょうか、と言って軽く手を挙げた。
「まどかは同じものでいい?」
「あ、えとね……ピンク・スクアーレル、を」
「……なら、私は、ブルームーンを」
マスターが鄭重に頷いて、少しすると店内にシェイカーを振る小気味の良い音が響き始める。振り子時計がこちこちと鳴り、私たちはすっかり黙りこくってしまった。わざわざ最後にあのカクテルを頼んだのだ、どこで聞きかじったか知らないが、まさかその『意味』を知らずに頼んだとは考えづらい。私は一体何を喋っていいやら分からず、よく見るとやはりダリだったような気もする絵を穴のあくほど睨めつけていた。
どうやらよほどいっぱいいっぱいだったらしく、私はシェイカーの音の止んだのにまったく気がつかなかった。やはり音もなく影のように現れたマスターは心なしか微笑んでいるようにも見えて、私は内心この人こそ悪魔なのではないかと思った。カウンターへ入っていくその背中に黒い羽の生えていないのを確認してから華奢なグラスに手を伸ばすと、まどかが震えた声で切り出した。
「あ、あのねっ、ほむらちゃんっ」
「……なあに?」
「えっと、その、なんて言ったらいいやら……」
「──カクテルにはね」
「えっ?」
「カクテルには、花言葉のように言葉があったりするの。ベリーニにも、エル・ディアブロにも、そのピンク・スクアーレルにも」
「あぅ……し、知ってたんだ……」
「そしてこの、ブルームーンにも」
そのカクテルに良く似た色の宝石が、私の左耳辺りでゆらりと揺れる。蜂蜜色の光を反射する、まやかしの世界をまやかしたらしめる深い藤色。
「教えてあげる。ブルームーンの言葉は──」
おしまい。
ただまどほむに酒を飲んでほしかっただけなんですゆるして
乙
思わず調べてしまったがどっちの意味にも取れるというのは深いな
あっごめんなさい、いまさら気づいたけどこれ途中抜けてました
次レスからやりなおしますゆるして
「ほむらちゃん、おまたせっ」
三年ぶりに会ったまどかは、髪型を除いてほとんどあの日と変わっていない。十二年前、私が世界をゆめまぼろしにした、あの日と。
私をまどかのいない世界に縛り付けた赤いリボンは、一本はまどかのポニーテールを結い、一本は私の左耳辺りに括られている。
「私も今来たところ。……久しぶりね、まどか」
まどかと同じ大学を卒業し世界の安定を見た私は、まどかから離れようとした。もう私の『監視』は必要ないと踏んだのだ。住所を変え、電話番号を変え、メールアドレスを変え──けれどまどかはたった三年で私を探し出してみせた。それは世界の意思か、或いは分かたれたリボンが引き合ったのか。
「それで、どうしたの? 急に会いたいだなんて」
電話が鳴ったのは今日の夕方。忘れるはずもないまどかの番号からの着信に、私の胸は喜びに震えてしまった。
「えっ、えと、特に用事はないんだけど……ほむらちゃん、何も言わずにいなくなっちゃったから。ずっと、会いたくて」
薄く涙を浮かべながらそう言うまどかに、私は既視感を覚えていた。これはそうだ、大学の卒業式の日、私にリボンをくれた時の目と同じ。「あの日からずっとつけてるけど……やっぱりこれは、ほむらちゃんに持っててほしい」と言って、二本とも差し出してきた時の声と同じ。
「ごめんなさい……訳があったの。今は、言えないけれど」
「ううん、いいの。理由も、聞き出そうなんて思わない」
「ありがとう。……それで、今日どうするかなんて……」
「あぅ……考えてなかった、です」
「そうよね……それじゃあ、お酒でも飲みに行きましょうか」
頷いた彼女の微笑みは、「片方でいいわ、これならお揃いだもの」と言ってリボンを一本受け取った時と同じ。本当に離れるつもりならそれを受け取るべきではないと、私は知っていた。
「わあ……さすがほむらちゃん、おしゃれなお店知ってるんだね」
路地裏からさらに裏に入ったような所にあるそのバーは黒羽といった。初めは店名が他人事とは思えずふらりと入ってしまったが、経営が成り立っているのが不思議なほど人がいない所や、店名をクロハネではなくコクウと読む辺りが気に入っている。……もちろんお酒も美味しいのだけれど。
「別にすごいことじゃないわ。……入りましょう?」
ドアベルが妙に暗い音を立てる。無口なマスターが、磨いていたグラスを置いて慇懃に一礼した。いつも座るカウンターの端は避けてテーブル席につくと、いつの間にカウンターから出たのか、マスターが影のように現れてお水とお手拭きをくれた。
「あ、あのぅ、ほむらちゃん」
「なあに?」
「わっ、わたし、こういうお店はじめてで、一体どうしたらいいやら……!」
「ふふ、そんなに硬くならなくても大丈夫よ。……そうね」
少し考えてから軽く手を挙げて、ベリーニとエル・ディアブロ、ドライフルーツの盛り合わせを注文する。マスターは小さくも恭しく頷き、グラスをふたつとお酒の瓶をどこからともなく取り出した。グラスの中身を美しくステアする手元に釘付けになるまどか。蜂蜜色の照明に照らされたまどかの瞳はまるでかの女神のようで、私はこっそり息を呑んだ。
控えめなヴォリュームで鳴るジャズを聴き流しながら壁にかかった振り子時計を眺めていると、マスターが音もなくお酒とドライフルーツを運んできた。私たちはキスをするみたいに小さく乾杯して、それぞれのお酒に口をつけた。
「あ、これ、おいしい……」
「やっぱり。好きそうだなって思ったの」
「わたしが桃好きだって知ってたの?」
「ううん、なんとなくよ」
「ほむらちゃんのは?」
「エル・ディアブロ──カシスのお酒ね」
それから私たちは、飲み物を一口ずつ交換したり、ドライいちじくにしたつづみを打ったりしながら、他愛のないことを喋った。一人暮らしがさみしいのか、ついにエイミーを飼い猫にしたらしいことを教えてもらった。まどかは二杯目のベリーニを少しずつ飲んでいて、私は砂糖を垂らしてもらったアブサンを舐めている。そして、──酔ったのだろうか? おかしな事を口走っていた。
「……ねえ、まどか」
「うん?」
「たとえばこの世界のすべてはまやかしで、それに誰も気付いていないとしたら……まどかはどうする?」
「え? ええと……よく分かんないけど……このままでいいんじゃないかなあ?」
「あら、意外ね。どうして?」
「だって誰も気付かないまやかしなら、それは本当と区別できないでしょ? あそこに飾ってあるダリの絵が本物でも偽物でも、わたしには区別できないし」
どうやらまどかも少し酔っているようだ。なんだかさっきまでより幾分饒舌だし、それにあの絵はダリじゃなくマグリットじゃ? 指摘すると頬を少し赤くして、慣れないことはしないほうがいいね、と言って恥ずかしそうに笑った。私も莞爾と笑ってみせた。
浅く残ったアブサンを干して振り子時計に目をやると、いつか夜も更けていたようだ。私は目くばせをして、あと一杯飲んだら帰りましょうか、と言って軽く手を挙げた。
「まどかは同じものでいい?」
「あ、えとね……ピンク・スクアーレル、を」
「……なら、私は、ブルームーンを」
マスターが鄭重に頷いて、少しすると店内にシェイカーを振る小気味の良い音が響き始める。振り子時計がこちこちと鳴り、私たちはすっかり黙りこくってしまった。わざわざ最後にあのカクテルを頼んだのだ、どこで聞きかじったか知らないが、まさかその『意味』を知らずに頼んだとは考えづらい。私は一体何を喋っていいやら分からず、よく見るとやはりダリだったような気もする絵を穴のあくほど睨めつけていた。
どうやらよほどいっぱいいっぱいだったらしく、私はシェイカーの音の止んだのにまったく気がつかなかった。やはり音もなく影のように現れたマスターは心なしか微笑んでいるようにも見えて、私は内心この人こそ悪魔なのではないかと思った。カウンターへ入っていくその背中に黒い羽の生えていないのを確認してから華奢なグラスに手を伸ばすと、まどかが震えた声で切り出した。
「あ、あのねっ、ほむらちゃんっ」
「……なあに?」
「えっと、その、なんて言ったらいいやら……」
「──カクテルにはね」
「えっ?」
「カクテルには、花言葉のように言葉があったりするの。ベリーニにも、エル・ディアブロにも、そのピンク・スクアーレルにも」
「あぅ……し、知ってたんだ……」
「そしてこの、ブルームーンにも」
そのカクテルに良く似た色の宝石が、私の左耳辺りでゆらりと揺れる。蜂蜜色の光を反射する、まやかしの世界をまやかしたらしめる深い藤色。
「教えてあげる。ブルームーンの言葉は──」
これで本当のおしまいですマジでごめんなさい、うあ
おつー
乙乙
乙
なかなかいい雰囲気だった
このSSまとめへのコメント
ピンク・スクアーレル・・・あなたを見つめていたい
ブルームーン・・・叶わぬ恋