<道場>
師匠「さぁ、打ち込んでこい!」
弟子「いきますっ!」
弟子「だあっ! でやぁっ! ──どりゃあっ!」
バシッ! ベシッ! ドゴッ!
師匠「……まあ今日はこんなもんか。メシにしよう」
弟子「ありがとうございました!」
師匠(う~ん、このところいまいち拳がノッていないな)
<居間>
妻「みんな、ご飯よ~」
師匠「おっ、今日もうまそうだな!」
師匠「遠慮せず、モリモリ食えよ! 育ち盛りなんだからな!」
弟子「はいっ!」
師匠「お前もな!」
娘「……あたしはそんなに入らないよ」
妻「おかわりはたっぷりあるわよ~」
師匠「ふぁ~」
師匠「……そろそろ寝るとするか」
弟子「はいっ!」
師匠「ところでお前、このところちゃんと眠れてんのか?」
弟子「……え」
弟子「も、もちろん! バッチリです!」
師匠「ふうん、ならいいけど」
師匠「じゃ、おやすみ……」
弟子「おやすみなさい!」
<弟子の部屋>
弟子「う~ん……」ゴロン…
弟子(なんだろう、なんでだろう)
弟子(なんだか、気分がたかぶって、全然眠れないや……)ゴロン…
弟子(このところずっとそうだ……おかげで稽古にも身が入らない……)
弟子(どうしちゃったんだろう、ぼく……)
弟子(布団に入って、もう一時間は経つのに……)
弟子(全然眠れない……)
弟子(まずいな……このままじゃ徹夜することに──)
ゴソ……
弟子(──ん? 物音?)
弟子(風の音? いや、それにしてはやけに──)
弟子(どうせ眠れないし、ちょっと調べに行こうかな……)モゾ…
ガサ…… ゴソ……
弟子(音は奥さんの部屋から聞こえる……)
弟子(いつもなら、ご夫婦は寝室で一緒に寝てるはずなのに……)
弟子(中から声もする……?)
弟子(気になる……)
弟子(盗み聞きするのは悪い気がするけど、ちょっとだけ……)ソッ…
<妻の部屋>
妻「長かったわぁ~」
妻「今夜であの人との生活も終わり……」
妻「あの人からなにもかも吸い取って、奪い取って」
妻「私はまた、次の獲物を探す……」
妻「うふふふっ……」
弟子「…………」
弟子(なんだ? 奥さんはなにをいってるんだ!?)
弟子「!」ギシッ…
弟子(しまった!!!)
ギィィ……
弟子「!」ビクッ
妻「あら……弟子君じゃない」
妻「聞いちゃったのね? ……今の」
妻「ま、どうせ今日でこの家を去るし……」
妻「正体を明かしちゃってもいいかな」シュゥゥ…
弟子(正体って……!?)
シュゥゥゥ……
サキュバス「うふふ……これが私の正体よ」
弟子「あ、あああ……ああ……」
サキュバス「どう、驚いた?」
弟子「たしかに驚きました」
弟子「……でも、一番驚いたのはあなたの正体ではありません」
サキュバス「ふうん。じゃあ、どこ?」
弟子「さっき、あなたは師匠からなにもかも吸い取るっていってましたよね」
弟子「あれはどういう意味です?」
サキュバス「どういう意味って、そのまんまの意味よ?」
サキュバス「あの人の心も体も虜にして、最後には命も奪い取るってこと」
弟子「な……!」
弟子「や、やめて下さい! そんなこと!」
弟子「師匠は……あなたを愛しているんですよ!?」
サキュバス「そりゃそうよ。だってそうなるように誘惑したんだもん」
サキュバス「で、やっと食べ頃になってくれたってわけ」クスッ…
サキュバス「私を深く愛してくれた魂の方が、より美味しいものなのよ」
弟子「そ、そんな……」
弟子「させない! そんなこと絶対に!」
サキュバス「ふふ、じゃあどうするの?」
弟子「ここで、ぼくがあなたを倒す!」サッ
サキュバス「あなたのような子供が? 私を? ふふっ、できると思──」
ヒュッ
サキュバス(消えた!?)
──ピタッ!
サキュバス(顎への拳の寸止め……! 反応できなかった……!)
弟子「降参して下さい……次は当てます!」
サキュバス「ふふ、やさしいのね」
サキュバス「師匠の妻は殴れなかった? それとも女だから殴れなかった?」
弟子「どっちもちがいます!」
弟子「あなたは……本当はいい人だって、ぼくは信じているから……」
サキュバス「ありがと」クスッ
サキュバス「だけど、今のスキに『結界』をはらせてもらったわ」
サキュバス「もうあなたは逃げられないし、助けも呼べない……」
弟子「結界……!?」
弟子「だあっ!」ブオッ
サキュバス「ふふ……」
弟子「あ、あれ!? すり抜けた!?」
サキュバス「いったでしょ? 結界をはったって」
サキュバス「もうあなたは私の術中にはまってしまったの」
サキュバス「たとえるなら、今やあなたは私の舌の上にいるようなものなの」
サキュバス「もう飲み込まれるしかない……。万が一にも勝ち目はないわ……」
弟子「…………!」
弟子「ウ、ウソだ! 信じない!」
弟子「ぼくはあなたを倒して……師匠を助けてみせる!」
サキュバス「…………」クスッ
弟子「でやああああっ!」ブオッ
弟子「だああああっ!」ヒュッ
弟子「どおりゃあっ!」ブンッ
弟子「ハァ……ハァ……!」
弟子「あ、当たらない……!」
サキュバス「あら、心拍数がどんどん上がってるわね。どくん、どくん、どくん」
サキュバス「怯えてるのがよく分かるわ……」クスッ
弟子「あ……あ……」ドクッドクッ
弟子「う……うあ……」ドクッドクッ
サキュバス「それじゃ……そろそろ私の番ね」スッ… バチバチッ
弟子「!」バチバチッ
弟子(か、体が動かない……!)
サキュバス「さ、これでもう指先一つ動かせないわよ」
サキュバス「目的を知られちゃったし、まずあなたから始末させてもらうわね」
弟子「あ、ああ……!」
サキュバス「どれどれ……」モミモミ…
弟子「わぁっ!? な、なに、するんです……!?」
サキュバス「見た目は細いけど、筋肉は程よくついてるわ」モミモミ…
サキュバス「よく稽古してるのね……」モミモミ…
弟子「や、やめて下さい!」
サキュバス「やめてあげない」モミモミ…
弟子(奥さんはよく、ぼくや師匠をマッサージしてくれるけど)
弟子(こんな風に体さわられるなんて初めてだ……!)
サキュバス「でも、子供特有の柔らかさや幼さもまだまだ残ってるわね」
サキュバス「さわっててとっても気持ちいいもの」モミモミ…
弟子(ど、どうしたんだろ、ぼく……!?)
弟子(な、なんだか……下半身がとっても熱い……!)
サキュバス「!」
サキュバス「あらあら」クスッ
サキュバス「どうしたの? 体をあちこち揉まれて気持ちよかった?」モミモミ…
弟子「ち、ちが──」
サキュバス「でも……体はすっかりほぐれちゃったみたいだけど」モミモミ…
サキュバス「緊張で硬くなってた筋肉がずいぶん柔らかくなったもの」モミモミ…
弟子「あうう……」
サキュバス「それに──」
サキュバス「そこ」
サキュバス「ずいぶんおっきくなったわね」
サキュバス「ズボンの上からでも分かるくらい」クスッ
弟子「!」ハッ
弟子「こ、これは……!」ムクムク…
弟子(どうしたんだ、ぼく!? どうしてこんなことに……!)ムクムク…
サキュバス「せっかくおっきくなったから、ちょっとさわってみるわね」
弟子「!」
弟子「や、やめて! やめて下さい! お、お願いしますっ!」
サキュバス「ダ~メ」
サキュバス「ズボンの上から……ちょっと撫でてあげるね」ナデナデ…
弟子「ああっ……! ああああっ……!」
弟子(なに!? なんなの!?)
弟子(撫でられるたびに……どんどん太もものあたりが熱くなる!)
弟子(こんなの、初めてだ……!)
弟子(ぼく、どうしちゃったの……!?)
サキュバス「いい子、いい子、もっとおっきくなりなさい……」ナデナデ…
弟子「ああっ……! あっ、あっ、あっ……!」
サキュバス「ホントはズボン脱がしてあげたいけど──」ナデナデ…
サキュバス「ま、このままでいっか」ナデナデ…
弟子「あああ……ああああ……!」
サキュバス「ほ~ら」ナデ…
弟子「!」ビクンッ
弟子「うあっ!!!」ビュルルルルッ
弟子「あああっ! ああっ! ──あああああっ!」ビュルッビュルッビュルルッ
弟子「うぁあっ!」ビュルルッ
弟子「あああっ!」ビュルルルッ
弟子「あっ……あっ……あっ……」ビュクン…ビュクン…
弟子「ハァ……ハァ……」ジワ…
サキュバス「よしよし、よく頑張った」
サキュバス「どう? 気持ちよかった?」
弟子「は、はい……すごく……」
弟子「──あ、いえっ!」
サキュバス「ふふっ」
サキュバス「あら、もうこんな時間。そろそろおやすみしないと」
サキュバス「明日もまた、修行があるんだからね」
弟子「は、はい」
弟子「──ん? あれ? あなたは師匠のお命を奪うって……」
サキュバス「そんなわけないでしょ?」
サキュバス「だって……私はあの人を愛しているもの」
弟子「そうですか……よかった……」ホッ…
サキュバス(今のを聞いたとたん、弟子君の心拍数が落ちついた……)
サキュバス「あの人のために、ホッとしてくれたのね」
サキュバス「ありがとう」
弟子「いえ……」ウト…
サキュバス「あらあら、出したら眠くなっちゃったみたい」
サキュバス「それじゃ、私の胸の中でおやすみ……」ギュ…
弟子「は、い……」ウトウト…
弟子「すぅ……すぅ……」
……
……
……
翌朝──
<弟子の部屋>
弟子「…………」
妻「おはよう、弟子君」
弟子「は、はいっ! おはようございます!」
妻「朝ご飯できてるから、準備ができたら食べにいらっしゃいね」
弟子「はいっ!」
弟子(夢……だったのかな……?)
弟子(夢……だったんだろうな……)
弟子(でも──)チラッ
弟子(ぼくのズボンとパンツ、昨日寝た時はいてたのとちがうんだよな)
弟子(新しくなってる……)
弟子「…………」
弟子(ま、いっか!)
弟子(いいじゃないか! 夢でも現実でも!)
<道場>
弟子「だっ! でいっ! やあっ!」
バチィッ! ドッ! ドカッ!
師匠「──よし、いいぞ! 昨日までよりずっといい!」
師匠「今日はずいぶん調子がいいな!」
師匠「なんというか、一皮むけたような感じだぞ!」
弟子「ありがとうございます!」
<居間>
妻「さ、いっぱい食べてね!」
師匠「おうよ! もちろんだとも!」
娘「だから多いって」
弟子「…………」ジッ…
妻「あら、弟子君? 私なんか見つめてどうしたの?」
弟子「い、いえっ! なんでもないんです!」
弟子(聞くのは……やっぱりやめておこう)
<弟子の部屋>
弟子「よし……今日は稽古に集中できたぞ」
弟子「師匠にも褒められたし……大満足だ」
弟子(それに、昨日みたいな落ちつかない気分がなくなった)
弟子(なんでだろ……あの夢のせいなのかな……?)
<夫婦の寝室>
師匠「──ありがとな」
師匠「おかげで今日のアイツは、スッキリした表情になってた」
師匠「これからはもう、大丈夫だろう」
妻「お安い御用よ」
妻「久々にあの姿に戻って、楽しめたしね」
妻「しかし、あなたも回りくどいことするのね」
妻「あんなどこかの怪談話みたいなシチュエーションでリフレッシュさせようだなんて」
師匠「そりゃなぁ」
師匠「俺の口から、お前溜まってるんだろうから抜けよ、とはいいにくいし」
師匠「人間状態でのお前にさせるのは、さすがに夫として気が引ける」
師匠「だから……サキュバス化したお前にやらせるしかなかったんだよ」
師匠「夢の中での出来事ってことにしてな」
師匠「まったく、アイツも手間がかかる奴だ」
妻「でも彼、すっごくしっかりしてたわよ?」
師匠「え?」
妻「私に追い詰められても、あなたに習った構えは決して崩れなかったもの」
妻「あの子、きっと強くなるわ」
師匠「おいおい、まさか惚れちまったんじゃないだろうな」
妻「ふふっ、どうかしら?」
師匠「や、やめてくれよ。弟子に寝取られるとか笑えないぞ」
妻「冗談よ、冗談」クスッ
妻「それに……あの子がいるしね」
師匠「あの子?」
妻「あの子……人間状態での私と、あなたの子だから、種族的には人間だけれど」
妻「サキュバスとしての血もきちんと受け継いでるからね」
妻「そろそろ……我慢できなくなる頃じゃないかしら」
師匠「あ……」
<弟子の部屋>
弟子「ん? 外に気配……?」
コソッ……
娘「こんばんは」
弟子「あ……こんばんは。どうしたの、こんな時間に?」
娘「あたし、もう我慢できなくなっちゃって」
弟子「え……?」
弟子(なんだろ……昨日夢に出てきた奥さん、いやそれ以上の色気を感じる……!)
娘「あたし、昔からずっとあなたのこと好きだったの」
娘「今までは抑えてたけど、なんだかどうにもならなくなっちゃって」
娘「今夜は……たっぷり楽しみましょ」モゾッ…
弟子「あ……あ……」
弟子(師匠……今日ぼくはまた一皮どころか二皮くらいむけちゃいそうです……!)
おわり
乙
サクッとしてていいな
乙
この道場に通いたい
ええな
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