松永涼「IMCG・絶唱」 (44)
あらすじ
その歌が絶える時に、答えは出る。
注
IMCG第6話
前話
島村卯月「IMCG・花の命は短くて」
島村卯月「IMCG・花の命は短くて」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431340657/)
設定はドラマ内のものです。
それでは、投下していきます。
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序
この歌は届かない。
家路を急ぐ人々を眺めていた。
アタシに気づいた女の子が、こちらへと歩いてきた。
女の子は転んだ。
痩せた小さな体が持っていた荷物が道に散らばった。
大丈夫か?
……うん、大丈夫。
両手がふさがってると危ないぞ。
心配してくれて……ありがとう。
荷物を慌てて拾う姿を、ただただ眺めていた。
これ……あげるね。
ありがとよ。
ばいばい……またね。
ああ……気をつけて帰るんだぞ。
やがて、小さな背中も人並みに消えていく。
ただただ茫然と、アタシは立ち止っている。
OPテーマ
HEATS UP!!
歌
若林智香・真鍋いつき・斉藤洋子
1
IMCG・ドック
木場真奈美「新システム?」
西島櫂「導入プラン?」
西島櫂
大学生。シュリンク6、ドルフィンのパイロット。家事の負担が減ったので、寮生活は快適とのこと。
木場真奈美
IMCGの職員。シュリンク4、ウルフのパイロット。料理上手。
高峯のあ「ええ……」
池袋晶葉「具体的な内容も決まってはいない」
池袋晶葉
IMCGの技術主任。中学校には真面目に通っている。
高峯のあ
IMCG技術職員。履歴書の経歴を見ても謎が残る。
梅木音葉「……あの」
梅木音葉
シュリンク5、ディアーのパイロット。全てのセンサー類を自身の神経と接続し、飛行体であるディアーとフォーンビットを操る。
一ノ瀬志希「なにー?音葉ちゃんも新しいの欲しいの?」
一ノ瀬志希
IMCG技術職員。専攻は一応化学のはず。
音葉「いえ……何が対象なのかと」
晶葉「対象は、ウルフとドルフィンだ」
のあ「ウルフに関しては、兵装の拡充のみよ……」
真奈美「使い勝手が良ければ構わない」
志希「簡単に言うと、手持ちの小型銃だね~」
晶葉「あくまでサブオプションだ。内蔵兵装を上手く活用してくれ」
真奈美「わかってるよ」
櫂「と、いうことは」
晶葉「ああ。ドルフィンの改造が主だ」
2
某雑居ビル3F
相川千夏「ただいま戻りました」
仙崎恵磨「おつかれっ!」
相川千夏
雑誌記者。落ち着いたメガネのレディ。
仙崎恵磨
千夏の同僚。落ち着かないベリーショートの女子。
千夏「デスクは?」
恵磨「取材。おかげで、デスクワーク中」
千夏「甲府か山梨市あたり?」
恵磨「惜しい!勝沼だって、新酒にはまだ早いし」
千夏「取材、なのよね?」
恵磨「それは間違いないよっ」
千夏「評判いいものね……」
恵磨「千夏はどうだったん?」
千夏「何も」
恵磨「結局、ピンクの箱の正体はわかったの?」
千夏「全然。IMCについては何もわからない」
恵磨「妙に攻撃までの時間があった理由はわかったん?」
千夏「ダンマリね。警察も教えてくれない」
恵磨「広報担当じゃ教えてくれないよ。ゼットテクニカは?」
千夏「普通の企業。大半の人間はシュリンクに関わってたことを知らない」
恵磨「ま、そんなもんか。で、どーする?」
千夏「基本通りよ」
恵磨「キーマンと軸は抑えておけ」
千夏「そういうこと。また出るけど、着いてくる?」
恵磨「のった!でも」
千夏「でも?」
恵磨「少し手伝ってよ。このままだと出れない」
千夏「わかったわ、デスクはまったく……」
3
IMCG・オペレーションルーム
櫂「うーん……」
浜川愛結奈「そんなに唸ってどうしたの?」
古澤頼子「悩み事でしょうか」
浜川愛結奈
IMCGのオペレーター。乗馬道具だけが部屋に増えてきている。
古澤頼子
IMCGのオペレーター。美術館巡りがしたいが、職務上なかなか時間が取れない。
頼子「過去のIMCデータ、見方がわかりませんか」
櫂「それはなんとか。問題は宿題の方なんだよね」
愛結奈「宿題?大学の課題かしら」
櫂「そっちじゃなくて、晶葉ちゃんの宿題」
頼子「ドルフィンの追加機能でしょうか」
櫂「そうそう。副会長にも言われたし、何か考えないといけないんだけどね……」
愛結奈「まったく思いつかないのね」
櫂「うん」
頼子「センサー接続の話が出ていましたね」
愛結奈「そうね。櫂ちゃん、なんかある?」
櫂「実はないんだよね。ドルフィン、良く動くしさ」
愛結奈「コクピット内で違和感は?」
櫂「全然。モニターで回りも見られるし、音も拾えてるかな」
愛結奈「文句がない、ということ?」
櫂「結局そうなんだよね」
頼子「贅沢な悩みですね」
櫂「過去のIMCとかで、必要な機能とか見つけれないかと思ってるんだけど」
愛結奈「それも上手くいかないようね。まぁ、そもそもドルフィンだものね」
頼子「追加兵装も不可能な、格闘戦限定のシュリンクですし」
櫂「もう少し悩んでみる……あれ?」
愛結奈「どうしたの?」
櫂「ここ、番号抜けてる」
頼子「そこは……」
愛結奈「仮面のIMCかしらね」
櫂「仮面?」
愛結奈「誰かが持ち出しているのよ。そのIMCから学ぶことはあんまりないわよ」
頼子「フェイズ2で真奈美さんが全ての銃弾を使いきったぐらいです」
愛結奈「とにかく頑丈だったのよ。ほぼ破壊してからコアを取り出せたくらいだし」
櫂「へー」
頼子「IMCはどのような形態となるかはわかりません。最善をつくしましょう」
櫂「うん。ねぇ、愛結奈さん」
愛結奈「なにかしら?」
櫂「とりあえず、ドルフィンで使えるセンサーについて教えてもらっていい?」
愛結奈「ええ」
4
IMCG・オペレーションルーム
井村雪菜「こんにちはぁ」
井村雪菜
IMCGのオペレーター。今日は近くのドラックストアまでお出かけ。
愛結奈「お疲れ様」
雪菜「あら、櫂さん」
櫂「こんにちは。今から待機?」
雪菜「はい。頼子さん、お疲れ様ですぅ」
頼子「お疲れ様です。交替です」
愛結奈「終わる前に紅茶でも淹れてくれない?」
頼子「ええ。お二人もいかがですか?」
櫂「ありがとう」
雪菜「いただきますぅ」
頼子「待っててくださいね」
櫂「はーい」
愛結奈「センサー関係はこれでいいかしら?」
櫂「ありがとう、愛結奈さん」
雪菜「櫂さんは何かしてたんですかぁ?」
櫂「ドルフィンのセンサーと前のIMCについて、教えてもらってたんだ」
雪菜「晶葉ちゃんが新しい装備を考えるって言ってましたねぇ」
櫂「雪菜ちゃん、なんかアドバイスない?」
雪菜「そうですねぇ……」
愛結奈「あら、何かありそうね」
雪菜「足にフィンをつけるとか?」
櫂「そういうんじゃなくて……」
愛結奈「あら、いいじゃない。水中での戦闘はウルフはもちろん、ディアーも厳しいと思うわ」
櫂「そっか、水の中か。ちょっと考えてみる」
雪菜「がんばってくださいねぇ」
5
ゼットテクニカ本社前
恵磨「思ったより工場ぽいね」
千夏「業務は製造とエンジニアリングだもの。技術開発はほとんどしてない」
恵磨「大体は企業の下請け業務」
千夏「そもそも、財閥系総合電機の子会社がルーツ」
恵磨「まっ、それでも入れないんだけど」
千夏「アポなしで見学は無理よね、流石に」
恵磨「ちゃんと正式な依頼でも出す?」
千夏「出さないわ」
恵磨「目的は一人だけだもんねっ」
千夏「そろそろ時間かしらね」
恵磨「定時のチャイムが鳴って、5分」
千夏「重役だもの、すぐに出てくるわ」
恵磨「おっ、あの人かな」
千夏「意外にも徒歩通勤」
恵磨「事前情報通り」
千夏「はじめまして」
恵磨「こんにちはっ!」
財前時子「どちら様かしら」
財前時子
ゼットテクニカの副会長。実権のない閑職に据えられている。
千夏「はじめまして。相川です。こちらは仙崎」
恵磨「仙崎です!よろしくお願いしまっす!」
時子「雑誌記者……取材は受けないわ。疲れてるからどいてちょうだい」
千夏「仕事はないと聞いていますが」
時子「それぐらいは調べているようね。だけど、無意味よ」
恵磨「本当に少しだけでいいです!」
時子「うるさいわ。どきなさい」
千夏「どうして、シュリンクに関わってるのですか」
時子「……それの答えを聞いたら帰りなさい。いいわね」
千夏「ええ」
時子「IMCを止めるだけ。それだけ」
恵磨「は?」
時子「約束は守ったわ。失礼するわ」
千夏「……」
恵磨「……」
千夏「名刺は渡せたわね」
恵磨「オッケー。想像より上出来かな」
千夏「良かった。知ってるわね、何か」
恵磨「キーマンで間違いなさそう」
千夏「どうにか引き出せないかしら」
恵磨「うん。まずはさっき聞いたことからかな」
千夏「IMCを止めるため、だったわね」
恵磨「IMCから調べよっか?」
千夏「そうね。次のキーマンは」
恵磨「パイロットかな」
6
IMCG・女子寮
櫂「ただいまー」
槙原志保「おかえりなさーい♪」
槙原志保
IMCG女子寮の寮母さん。いつもの甘い匂いはカレーに敗れた。
櫂「今日はカレー?」
志保「はい♪真奈美さんお手製ですよー」
真奈美「誰かと思えば、櫂君か」
櫂「真奈美さん、料理上手だもんね」
真奈美「いやいや。私はしがない雇われ兵士だ」
櫂「そんなことないよ。だって、凄い美味しそうなニオイがするもん」
志保「真奈美さん、盛り付けましょうか?」
真奈美「ああ。呼べる人は呼びたまえ」
櫂「あたしも何か手伝おうか?」
志保「大丈夫ですよ。待っててくださいっ」
7
IMCG・女子寮食堂
櫂「いただきまーす!」
音葉「……いただきます」
頼子「いただきます」
川島瑞樹『今日もピチピチフレッシュな地元ニュースをお届け☆』
川島瑞樹
地元テレビ局のアナウンサー。夕方6時から地元情報番組が絶賛生放送。
櫂「お!」
音葉「……おお」
頼子「美味しいです」
真奈美「そうか?」
櫂「美味しいよ!さっすが、真奈美さん!」
真奈美「そう褒めるな。作りすぎた、遠慮せずに食べてくれ」
頼子「ぜひ」
音葉「……」モグモグ
櫂「真奈美さん、このお肉なに?」
真奈美「マトンだ。たまにはいいだろう?」
ピンポンパンポーン……
瑞樹『緊急ニュースが入りました』
真奈美「ゆっくりと食べている時間はないようだな」
雪菜『IMCが出現しましたぁ。集まってくださいねぇ』
櫂「ごちそうさま!」
頼子「残念です……志保さん取っておいてください」
志保「はいっ!がんばってくださいね!」
瑞樹『IMCが出現しました。付近の人々は警察の指示に従い、冷静に避難をお願いします』
真奈美「行くぞ!」
櫂「はいっ!」
8
IMCG・オペレーションルーム
兵藤レナ「出現場所の確認を!」
兵藤レナ
IMCGの責任者。通称は司令。彼女にカードゲーム臨むと痛い目に会う。
愛結奈「データ出すわ!」
雪菜「IMCは動いてません!高さは約10メートル!」
柳清良「なんだか、気味が悪いわね」
柳清良
IMCGの職員。レナのサポート担当。ノンフィクション作品が好き。
頼子「遅れました」
レナ「着席を。愛結奈さん、出現場所を惠ちゃん達に伝えて」
愛結奈「了解!聞こえてるわね?」
伊集院惠『こちら伊集院です。確認しました』
伊集院惠
IMCGの職員。IMCGと警察の連携役。
レナ「交通規制を急いで。ドルフィンを出すわ」
頼子「IMCに一切の動きなし。警戒レベル最低。ドルフィンのみ出撃許可」
真奈美「ふむ、黒い菱形だな」
音葉「……なんでしょう」
真奈美「どうした?」
音葉「冷たい……音がするような」
真奈美「音?」
大和亜季『こちら大和であります!10分以内にシュリンクの経路を確保するであります!』
大和亜季
IMCGに派遣中の警察官。交通課との連携でIMC対策のバックアップを行っている。
愛結奈「それまでにドルフィンを出せるかしら?」
晶葉『櫂の搭乗は済んでる!』
レナ「ドルフィン、出撃準備!」
9
アタシはラストを上手く飾れるか?
自分で満足できるようなラストを。
そう、ステージに1人佇みながら思う。
まあ、いいさ。
そんなことは、終わってから考えればいい。
終わるまで全力で走り続けるだけさ。
10
ドルフィン・コクピット
頼子『注水完了』
愛結奈『接続開始!』
櫂「……」
雪菜『接続完了しましたぁ』
櫂「このIMC、本当に真っ黒だね」
愛結奈『陽も落ちてるし、警察に照明を依頼してるわ』
頼子『数値安定』
櫂「コアの情報とかわかった?」
愛結奈『今のところはないわ。移動を開始して』
櫂「了解!」
雪菜『ドルフィン、移動完了』
愛結奈『カメラ、外観センサー稼働、櫂ちゃん、異常は?』
櫂「ばっちり!」
晶葉『試しに外部カメラと接続してみるか?』
櫂「今はやめとく」
晶葉『そうか……』
頼子『ドルフィン、パイロット共に異常なし』
雪菜『エレベーター稼働しますぅ』
愛結奈『ハッチオープン』
頼子『移動完了』
亜季『経路確保確認したであります!』
櫂「レナさん!」
レナ『オーケー。ドルフィン、出撃!』
11
夕闇の公園
櫂「ドルフィン、到着しました」
頼子『位置を確認しました』
愛結奈『センサー稼働。櫂ちゃん、IMCの全体像調べて』
櫂「了解」
雪菜『浮いてるわけではなさそうですぅ』
櫂「そうみたい。黒い菱形、底辺は地面に刺さってるみたい」
惠『ドルフィン、停止をお願いします』
櫂「了解、どうしたの?」
惠『公園の入り口に子供がいるの。念のため動くを止めて』
櫂「入り込んじゃったの?」
惠『上手く入られちゃった。大和巡査に迎えに行ってもらってるわ』
愛結奈『んー?』
頼子『ふむ……』
櫂「どうしたの?」
愛結奈『思ったより難敵ね。解析出来てないわ』
雪菜『内側まで見えてないですねぇ。全部同じ数値が出てますぅ』
愛結奈『こんなに同じ数値が出るのはテストでもないわね』
頼子『電磁波、熱ともに吸収してるのでしょうか』
櫂「接続は出来る?」
頼子『コア反応があります。接続は可能です』
惠『公園に入り込んだ女の子の保護を確認しました』
愛結奈『了解。ドルフィン、フェイズ1に移行できる?』
櫂「はい!やります!」
レナ『フェイズ1移行。櫂ちゃん、気をつけるのよ』
12
冷えたライブハウス
櫂「どこだろ、ここ?」
櫂「ここも現実にある場所なのかな」
櫂「それにしても、暗いな。電気は……」
パッ
櫂「急につけなくても」
櫂「ここ、ライブハウスだったんだ。それで、君が主役?」
松永涼「どうやら、そうみたいだな」
松永涼
ライブハウスの本日の主役。ライブのために作ったガールズロックの衣装を身に着けている。
櫂「こんばんは」
涼「……」
櫂「どうしたの?」
涼「いや、お客は一人だけかと思ってさ」
櫂「そうみたい。贅沢だね」
涼「フーン……」
櫂「あたしは西島櫂。名前を聞いていい?」
涼「松永涼だ。そうだな、櫂サン?」
櫂「なに?」
涼「演奏するバンドもいないが、一曲くらい歌わせてくれ」
櫂「うん。ぜひ」
涼「ありがとよ。どうせ外になんか聞こえない。全力で、行くぜ」
13
夕闇の公園・立ち入り禁止エリア前
恵磨「そこまでかー」
千夏「そうみたいね。恵磨ちゃん、望遠鏡」
恵磨「ほい。何も楽しくないんだけど」
千夏「あれが今回のIMCね」
恵磨「出てるシュリンクは、えっと、この冊子によると」
千夏「シュリンク6、ドルフィン」
恵磨「なんか見える?」
千夏「いいえ。真っ黒なIMCもシュリンクも動いてない」
恵磨「やっぱり止まってる」
千夏「ええ。何をしてるのかしら」
恵磨「さぁ?というか、IMCGはIMCの情報を出さなすぎだよね」
千夏「そうね……双眼鏡返すわ」
恵磨「少し侵入してみる?ほら、あそこ」
千夏「テント……あら、IMCGにいた警官がいるじゃない」
恵磨「なんであの女の子はテントにいるんだろう」
千夏「ふむ……侵入は辞めておきましょう」
恵磨「オッケー、まだ関係壊すには早いもんね」
千夏「どこかのせっかちがきっとやってくれるわ。それにしても、睨み合ってから5分経過……本当に何してるのかしら」
恵磨「話してるとか?」
千夏「まさか」
恵磨「冗談冗談。さ、もう少し見晴らしのいいところに陣取るよっ!」
14
IMCG・オペレーションルーム
清良「進展は?」
レナ「ないようね」
頼子「はい。接続は確かにしているようですが」
雪菜「そうみたいですぅ。でも、進んでるかどうかもわかりません」
愛結奈「色々いじってみたけど、ダメね」
音葉「……音響探知センサーはありますか」
のあ「ないわ……」
晶葉「正確にはあるが、実装してるのはディアーだけだ」
音葉「そう……ですか」
真奈美「なにかあるのか?」
音葉「やはり……音が聞こえるような気がします」
真奈美「集音マイクはあるな?」
愛結奈「あるわよ」
雪菜「でも、音は拾えてませんねぇ」
レナ「愛結奈ちゃん、IMCのデータ見せて」
愛結奈「了解。大モニターに展開」
晶葉「うむ、ここまで均質な材料は日本企業でも作れまい」
頼子「表面も相当滑らかです」
雪菜「ディアーなら内部まで見れたでしょうかぁ?」
レナ「質問をしていいかしら?」
愛結奈「どうぞ」
レナ「これ、見えてないの?それとも、本当に何もないの?」
15
冷えたライブハウス
櫂「おー!」パチパチパチ
涼「ここは音響が良いから、打ち込みでもなんとかなるな」
櫂「凄いっ!感動した!」
涼「へへ、ありがとよ」
櫂「バンドのボーカルなの?」
涼「これでもな」
櫂「ここは思い出の場所なの?」
涼「ああ。何度かライブもした」
櫂「良い所だよね」
涼「くたびれたビルの地下だが、音響は考えられてる。音漏れはしない。客もわかってる」
櫂「でも、なんかいい匂いがする」
涼「隣が中華料理屋なんだ」
櫂「あはっ、どうりで」
涼「良い所さ。聞いてくれてありがとよ」
櫂「どういたしまして。それじゃ、あたしから聞いていい?」
涼「なんだ?」
櫂「悩みとか、ある?」
涼「なぁ、アンタさ」
櫂「なに?」
涼「いや……何でもない」
櫂「何でもいいよ、どうせ二人しかいないしさ」
涼「なら、少し考えてくれ。後悔はしたことがあるか?」
櫂「後悔?」
涼「そう、後悔だ」
櫂「後悔……」
涼「アタシはもう一曲だけ歌うから、その間に考えな」
16
IMCG・オペレーションルーム
志希「う~、やっぱり変わんないねぇ~」
愛結奈「ええ。正しい結果が出てる可能性があるわね」
のあ「……ドルフィンのセンサー点検は」
晶葉「時子が来たばっかりだろう」
のあ「……それもそうね」
雪菜「ならぁ、これが正しい結果とするとぉ」
頼子「本当ですか」
レナ「本当のようね」
愛結奈「全てが均質な物質で出来たIMC」
雪菜「温度は約15℃で一定で、放射も振動もほぼないですぅ」
晶葉「興味深い……そうか、そういうことも出来たのか」
頼子「なら、このIMCには……」
レナ「コアがない」
頼子「なら、ドルフィンはなにと接続してるのですか」
愛結奈「さぁ……」
惠『あの……』
雪菜「こちらオペレーションルームですぅ。惠さん、どうしたんですかぁ?」
惠『IMCのコアがどなたかわかりましたか……?』
愛結奈「どうしたの、惠?いつもと違って歯切れが悪いわよ」
惠『え、ええ……』
レナ「タイミング的にはいいわ。櫂ちゃんの接続を止めて」
頼子「了解。ドルフィン、フェイズ1中断をお願いします」
17
冷えたライブハウス
涼「ふー……」
櫂「熱唱はカッコいいなぁ……」
涼「櫂サン、答えは出たか?」
櫂「後悔と言われても。何度も何度もしてるよ。きっと今もしてる」
涼「そうか。なら、わかってくれ」
櫂「何を?」
涼「アタシは絶対に後悔する」
櫂「……どういうこと?」
涼「呼んでるよ、行きな」
櫂「え?あ、うん、本当だ」
涼「もう一曲だけ歌わせてくれ。戻って来いよ」
櫂「わかった。ちょっと、待ってて」
涼「ああ。大丈夫、居なくなったりできないさ」
18
夕闇の公園
頼子『ドルフィン、接続解除』
櫂「戻りました!何かあったの?」
愛結奈『何もないわ』
レナ『櫂ちゃん、何か問題は?』
櫂「特に。簡単じゃないけど、糸口はあると思うんだ」
頼子『接続できていますか?』
櫂「ん?出来てるよ」
頼子『どなたか、いましたか』
櫂「うん。バンドのボーカルなんだって。場所はライブハウスなんだ」
晶葉『感情があれば、IMCを生み出すことはできるのか』
櫂「え、晶葉ちゃん、なに?」
雪菜『お名前とか聞けましたかぁ?』
惠『松永涼さん……かしら』
櫂「うん、松永涼ちゃん」
惠『本当にあってるのね……』
櫂「惠さん、どうしたの?」
惠『すみません、少しだけ時間をください』
レナ『了解。櫂ちゃん、単純に答えだけ言うわ』
櫂「答え?」
レナ『そのIMCにコアはないわ』
櫂「コアがない?」
レナ『IMCの内部にコアがないの。誰もいない』
櫂「待って待って。じゃあ、あたしは誰と話してるの?」
晶葉『強いて言うなら、IMCそのものだ』
のあ『そもそも……以前もIMCと話していたというのが正しいわ……』
櫂「はっきり言ってよ、どういうこと?」
惠『司令、伊集院です』
レナ『どうぞ』
惠『先ほど保護した女の子が言うにはですが……』
櫂「なんなの?」
惠『亡くなって、いるそうです』
19
夕闇の公園
櫂「へ?」
惠『警察からのデータも送ります』
愛結奈『データありがとう』
レナ『ニセモノではないようね』
雪菜『ネットのニュースでも見つかりましたぁ』
頼子『事故死、ですか』
愛結奈『櫂ちゃん、顔写真確認して』
櫂「……確認したよ」
レナ『本人かしら』
櫂「たぶん……」
雪菜『……』
レナ『コアはないわ。このままフェイズ2に移行してもいいの』
櫂「でも、いるよ、まだ」
レナ『そうね。行くかどうか、聞かせて』
櫂「行くよ」
雪菜『……たぶん、死に関することでしょうか』
惠『女の子が言うには、地縛霊のように公園に居たそうなの』
頼子『コアに該当するものはありませんが、ないに越したことはありません』
櫂「了解……もう一度だけ話してくる」
レナ『ドルフィン、フェイズ1再開』
愛結奈『了解。準備を』
頼子『ドルフィン、接続開始』
20
冷えたライブハウス
涼「戻ったか」
櫂「……」
涼「その様子だとわかったか?」
櫂「……わかってるの?」
涼「アタシはわかってるよ」
櫂「……」
涼「不思議なこともあるもんだ。こうして、曲がりなりにも実体がある」
櫂「記憶は、あるの」
涼「あるよ。そうじゃなければ、この場所に出てこない」
櫂「……」
涼「さて、櫂サン」
櫂「なに」
涼「何しに来た?」
櫂「何をしに、って。もちろん……」
涼「その話は待った」
櫂「待った?」
涼「そう急ぐことじゃない。約束通り、一曲だけ歌うよ。いや、歌わせてくれ」
21
IMCG・オペレーションルーム
愛結奈「同じね。このIMCには特異点はない」
頼子「愛結奈さん、警察の資料を見ていただけますか」
愛結奈「オッケー。何かわかった?」
頼子「事故なのですか」
雪菜「うーん、交通事故みたいですけど……」
レナ「故意の可能性があると?」
頼子「そこまでは言ってませんが」
愛結奈「不幸な事故、とだけは言えなそうね」
雪菜「それがIMCとなった理由でしょうかぁ?」
レナ「怨みで起動した幽霊のIMCね。晶葉ちゃん、あら?」
のあ「……晶葉ならラボよ。過去の資料を漁ってるわ」
レナ「好奇心に火が着いちゃったかしら」
愛結奈「IMCに動きなし」
雪菜「櫂ちゃんにも異常ありません」
頼子「フェイズ1継続中」
レナ「今は櫂ちゃんを信頼しましょう」
22
冷えたライブハウス
涼「ここで何を叫んでも届かない」
櫂「ここは、そうだね。現実ではないと思う」
涼「認めるんだな」
櫂「うん。嘘ついても仕方がないと思うし」
涼「なら、正直に言ってくれ。何が起きてる?」
櫂「……IMCっていう怪物が出現してる」
涼「へぇ、IMCか。何の略だ?」
櫂「それは、知らないけど」
涼「名前なんてどうでもいいか。外からどう見えてるんだ?」
櫂「真っ黒な、なんだろう」
涼「墓石」
櫂「……」
涼「ま、そんなもんだろうよ」
櫂「何かの感情で、IMCが成長して形になった」
涼「ふーん。アタシの気持ちを拾った奴がまたいたのか」
櫂「わかってるんだ」
涼「ああ。櫂サンはアタシをどうしたい?」
櫂「あたしの役割はIMCを倒すことなんだ」
涼「ああ」
櫂「でも、その前にコアとなってる人を助けないといけない」
涼「それが今はアタシ」
櫂「だから、IMCを作る感情を取り除いて分離しないといけないんだ」
涼「だけど、アタシはいない。死人だからな」
櫂「でも、今はいるよ。少なくともあたしの前にはいる」
涼「……」
櫂「怨みとか後悔とか、伝言があるとか。今ならあたしが聞ける」
涼「そうだな。これも縁だ。櫂サン、お願いがある」
櫂「何でも言って」
涼「殺してくれ」
23
冷めたライブハウス
櫂「どうして、そんなこと」
涼「事故だった。不幸な事故だった。アタシは加害者を恨んでもいい」
櫂「復讐をしようとは、思ってないよね」
涼「それは、櫂サンが知ってるだろ?」
櫂「IMCが攻撃的になるはずだから、違う」
涼「そういうこと。なら、何だと思う?」
櫂「後悔なの?」
涼「ああ。アタシがIMCを生み出してる理由は、後悔だ」
櫂「その後悔がなくなるように」
涼「それは無理だ」
櫂「どうして?」
涼「アタシは生きたかったよ」
櫂「……」
涼「やりたいことなんて幾らでも。全力で走ってもどこまでも広い世界」
櫂「……」
涼「だから、決めたんだよ」
櫂「何を」
涼「……全力で歌うのもその一つだった」
櫂「良い歌、だったよ」
涼「アタシは諦めたんだ」
櫂「……生きるのを?」
涼「違う。悔いなく死ぬのを、さ」
櫂「……」
涼「全力で走ったら先が見えてくる」
櫂「うん、わかるよ」
涼「最後は、あーくそっ、って言いながら後悔しながら死ぬしかない。そう決めたんだよ」
櫂「強いね……」
涼「IMCの正体は言った通りだ」
櫂「絶対にする後悔……」
涼「この後悔を止めるには、方法は一つしかない」
櫂「……」
涼「怪物はゴメンだ。ぶっ壊してくれ。アタシは絶対にこの感情を消さない」
櫂「でも!」
涼「死んだ後までアタシの決意を否定しないでくれ。話は終わりだ」
櫂「な!」
涼「本当は実体もない。どうやって繋がっているかは知らないが、切るのは簡単だ」
櫂「ま、待って!」
涼「頼むよ、櫂サン。そうだな、最後に伝言を」
櫂「くっ、切れ……」
涼「あの子に、もう来なくていいと伝えてくれよ。じゃあな!」
24
月夜の公園
櫂「はっ、はぁはぁ……」
愛結奈『IMCとの接続解除!』
雪菜『IMC側からの拒絶のように感じますぅ!』
頼子『ドルフィン、応答してください』
櫂「くっ……」
レナ『櫂ちゃん、無事?』
櫂「あたしは無事だけど……」
頼子『数値安定。ドルフィン、パイロット共に問題なし』
愛結奈『IMCに動きはないわ。相変わらず均等均質』
雪菜『あれ、でも』
音葉『鳴っています……』
櫂「なに、この音……?」
愛結奈『ドルフィンのマイクで検知したわ』
頼子『一部が揺れているようです』
雪菜『あ、止まりましたぁ』
櫂「お願い、フェイズ1続けさせて!」
レナ『出来るかしら』
愛結奈『頼子』
頼子『接続不可。IMCのコア反応検知できません』
櫂「もう!なんで!」
雪菜『櫂さん、落ち着いてください』
愛結奈『コアもなくて、コア相当の動きをするものもないわ』
頼子『これは、フェイズ1の理由があるのでしょうか』
櫂「……弱いなぁ、本当に、あたし、何も出来なかった」
雪菜『櫂さん……?』
櫂「ドルフィン、フェイズ2に移ります!」
レナ『許可してないわ。櫂ちゃん、説明を』
櫂「……」
レナ『言いなさい。黙っててもわからない』
櫂「……失敗しました」
レナ『そう』
櫂「生きてる人はもういません。フェイズ1は意味がありません」
雪菜『櫂さん、それでいいんですか』
櫂「いいよっ!」
レナ『状況確認。ドルフィンに異常は』
頼子『ありません。フェイズ2に移行できます』
レナ『IMCにコア反応は』
愛結奈『ないわ』
レナ『了解。ドルフィン、フェイズ2に移行』
清良『……』
レナ『聞こえてるわね?』
櫂「……はい」
レナ『材質は脆いわ。すぐに終わらせて』
櫂「くっそぉぉ!」
25
月夜の公園付近・雑居ビル屋上
千夏「やっと動き始めたと思ったら」
恵磨「一方的に殴りつけてる。やけくそっぽい。おっ、崩れたっ!」
千夏「やっぱり時間が掛かったわね」
恵磨「滑らかに動くなー、そこら辺のロボットとは比べ物にならない」
千夏「ええ。でも、なんで止まってたのかしら」
恵磨「さぁ?聞いてみればいいじゃん」
千夏「それも、そうね」
恵磨「そうそう。悩むよりまず行動!」
千夏「IMC、完全に壊れたわね」
恵磨「テレビは、っと」
瑞樹『警察からの情報によると、IMCが倒されました。シュリンクの移動がありますので、指示があるまで避難区域には入らないでください』
恵磨「本当に終わりみたいだね」
千夏「取材は、いらないわね」
恵磨「どっかがやってくれるし、警察は答えてくれないでしょ?」
千夏「私達が知りたいことは、ね」
恵磨「さー、撤収撤収」
千夏「デスクがお土産持って帰社してるでしょう。行きましょう」
恵磨「今日はなにかなー?」
26
IMCG・ドック
晶葉「櫂、大丈夫か?」
櫂「うん……大丈夫、晶葉ちゃん」
晶葉「そんな無事じゃない声で言うんじゃない」
櫂「ごめん、あんまり大丈夫じゃない」
晶葉「正直で良い。色々と聞きたいことがあったが、後にしよう」
櫂「……ごめん」
晶葉「何にも謝る必要はない。もちろん、櫂の気持ちも十分にわかる」
櫂「……うん」
晶葉「ご苦労だった。休むといい」
櫂「うん」
晶葉「櫂は私の自慢だ。ドルフィンのパイロットは櫂しかいない」
櫂「ありがと……お休み、晶葉ちゃん」
晶葉「ああ」
のあ「……」
晶葉「なんだ、のあ」
のあ「聞きたいことがあったのでしょう……」
晶葉「もちろん。だが、櫂の健康が優先だ」
のあ「そう……」
晶葉「櫂にはドルフィンの性能を証明してもらわないといけない。そうじゃなければ、『天才』に合わせる顔がない」
のあ「ええ……私達も帰りましょう」
晶葉「ああ」
27
IMCG・オペレーションルーム
頼子「IMCの残骸回収が終了しました」
レナ「どうだった?」
雪菜「黒い石以外のものはほぼ見つかりませんでしたぁ」
愛結奈「IMCの根本付近にだけ筋繊維らしくきものが見つかったけど、それだけよ」
清良「コアは、見つからなかった、ということ?」
頼子「はい」
清良「……良かった」
レナ「安心したわ。フェイズ2、これで完了。お疲れ様」
頼子「お疲れ様でした」
雪菜「……フェイズ1に失敗したんですね、私達」
レナ「ええ……一番それをわかってるのは櫂ちゃんだと思うわ」
愛結奈「少しフォローしないとね」
雪菜「そうですねぇ。無理をしないことが一番でしょうか」
レナ「そうね。あ、そうだ、惠ちゃん?」
惠『お疲れ様です。これから避難勧告を解除して戻ります』
レナ「そうして。あと、お願いがあるのだけど」
惠『なんでしょう?』
レナ「公園の女の子、連絡先を教えて」
28
後日
昼間の公園
真奈美「結局は、地道に行くしかないわけさ」
櫂「そうかも、ね」
真奈美「ま、IMCは任せておけ。なんなら、好物も作るぞ。志保君と相談だがな」
櫂「ありがと、真奈美さん」
真奈美「さ、見送りはいいな。あそこだ」
櫂「うん。行ってくるね」
真奈美「ああ。終わったら呼んでくれ。迎えに行く」
櫂「ねぇ、ここにいたお姉さんのこと、教えて欲しいんだけど……」
EDテーマ
アイの証明
歌 西島櫂・木場真奈美・梅木音葉
終
製作 テレビ〇日
次回予告
わたくしが、愛してあげますわ。
だから、痛いものを捨てて。
こっちへいらっしゃいな。
わたくしが、アナタを愛してあげますわ。
次回
櫻井桃華「IMCG・薔薇色愛情地獄」
オマケ
CoP「よし……行くぞ」
CuP「気合入ってますね。なにかありましたっけ?」
PaP「ああ、心配しなくて大丈夫」
CoP「行ってきます!」
CuP「ご健闘をー。で、何の用事なんですか?」
PaP「アイドル二人連れてホラー映画の新作を見に行くだけだ」
CuP「そういえば、怖がりなんですよね、Coさん」
おしまい
あとがき
名前すら出さないのはやり過ぎな気がする。
最初はお約束を守って、パターン化することで更新速度をあげようとしたけど辞めました。
次回は、
櫻井桃華「IMCG・薔薇色愛情地獄」
です。
それでは。
逆にバッドエンドを挟むのがパターンかと思っていたんだがww
前作も1話あったよね。惠の反応でわかったけど切ないなあ
乙
乙です
涼を抱き締めたくなった……
仮面ライダーWであった、幽霊が怪物になる話を思い出した。
音葉が聞いた音ってなんだったんだろ。
仮面ライダーWであった、幽霊が怪物になる話を思い出した。
音葉が聞いた音ってなんだったんだろ。
乙です
なんか切ないな…
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