提督「なに? L.EATだと?」 (37)
他スレから影響を受けた。Large eatingの略。安価をこっちでさばいてみる
憲兵「最近、鎮守府の間で不穏な事件が起こっている」
浜風「不穏? セクハラですか?」
憲兵「そうではなく提督の失踪、いや消滅事件と言った方がいいだろうか」
浜風「わざわざ言い直すからには何か特別な事情があるのですよね?」
憲兵「そうだ。失踪とは普通その不在の期間は未来の延長のみであるが、今回の事件はその不在が過去にまで延びている」
浜風「つまり、元々あたかも存在しなかったかのように消え去ってしまったと? 意味が分かりません」
憲兵「俺もだ」
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派生スレが多すぎてオリジナルが霞むんだよなあ…
憲兵「浜風は知っていたか?」
浜風「はい」
憲兵「………なるほどな。もしかして俺より詳しいってことはあるのか?」
浜風「はい」
憲兵「………なるほどな。では、聞かせてもらおう。俺はついさっきその事件を知ったのだが、どうして俺たちはその事件を知りえた? 初めから不存在となるような失踪なんて事件とは呼べないと思うが」
浜風「そうですね。正確に言えば誰も失踪なんてしていないのかもしれません」
憲兵「どういうことだ? 俺が失踪を消滅と言い換えたことと同じか?」
浜風「いえ、違います。あなたは、そのどちらでも対象がしかるべきところに不在しているということを意味しようとしていますね?」
憲兵「当たり前だろ。失踪事件は誰かがいなくならなければいけないのだからな」
浜風「この事件は誰もいなくなる必要なんてないのです」
憲兵「なんだって? 俺たちの疑問は「元からいなくなるような失踪を事件として認識できるのか」だったはずだ。それが今や失踪自体を否定してしまっているじゃないか!」
浜風「そうです。この事件の認識の困難さは事件の不存在に由来しているのです」
憲兵「なんという悪ふざけだ! 事件そのものが失踪しているなんてな! 聞いたことがない!」
浜風「そう怒らないでください。何も子供が事件を偽ってパトカーを呼ぶのとは違うのですから」
憲兵「一緒だろうが。失踪が失踪なんて、二重否定が肯定になるのと同様、そこには事件なんてものはない。平和な日常が過ぎているだけなのだからな」
浜風「平和な日常とはなんですか?」
憲兵「ああ? そんなのはいつもと変わらないってことだろ」
浜風「なるほど。では、平和というのは過去から未来に向かってなんの反逆もなくよどみなく進んでいる状態のことですね?」
憲兵「わざわざ言い換えなくてもいいだろうに。それでいい。どうぞ君のお気の召すままに」
浜風「では、そうなるとやはり平和は打ち破られています」
憲兵「はあ? どういうことだ? 事件はないんだろ? どうして日常が崩れているんだ。よもや、事件ではなく、例えば何かの事情によって忙殺されて日常を送れていないとは言うまい」
浜風「無論です。「いつもより忙しい」とは確かに表現されますが、忙しさは事件ではないし、また平和を破るものでもありませんから」
憲兵「事件とは突発的で一回性のものだからな。でも、事件はないんだろ?」
浜風「そうです。しかし、事件の代りに革命はあったかもしれません」
憲兵「はあ。革命ねー。クーデターでも起きたってか?」
浜風「上が下に下が上にという転倒は確かに起きています。少々特殊ですが」
憲兵「特殊?」
浜風「そうです。しかし、この革命的事件を語るには私という役者では不十分です。なので、これをどうぞ」
憲兵「………資料か?」
浜風「今回の事件の一つのケースです。これを読めば私のこれまでの奇妙な話にいくらかは納得をしてもらえて、ひどく簡単な事情に溜飲も下がるはずです」
憲兵「で、これは何なんだ?」
浜風「ある鎮守府の提督と艦娘の会話を文字にしたものです。彼らは食事を共にしていましたが、提督は艦娘の無償の好意に不気味さを覚えている状況です」
憲兵「なるほど」
浜風「ボイスレコーダーにもし状況をありありと伝える文章力があったのならば、事情は完全にわかってもらえたはずですが、残念ながらその点に関しては無能だったようです」
浜風「しかし、今回に限れば良かったのかもしれません。もし状況を完全に把握してしまったら、あなたも事件に巻き込まれるところでしたから。無知蒙昧のサングラスが真理の太陽からあなたを守ってくれています」
オリジナルより展開が早いからな……
鎮守府
金剛「ヘイ! 提督のために作ったディナー! たくさん食べてくださいネー!」
提督「………俺は食事会って聞いていたのだが」
金剛「そうですヨ?」
提督「なんでそれで君の部屋にて二人で食べる羽目になっているんだ?」
金剛「何かおかしいですカ?」
提督「おかしいだろ。夜に男を部屋に呼びいれるものではない」
金剛「でも、私は提督のことが大好きデース」
提督「好かれることをした覚えはない」
金剛「人を好きになるのに理由はいらないネ!」
提督「理由は必要なくとも、原因は必要だろ? もし、原因も必要ないなら、君は地球の裏側の誰かに突発的に恋する可能性もあるのだから」
金剛「うー、じゃあ、提督に一目惚れしたってことで、いいネ!」
提督「じゃあって………」
金剛「せっかくのディナーが冷めてしまうネ。早く食べるデース。はい、あーん、デース」
提督「ええい。自分で食べさせてくれ」
金剛「もー、提督はシャイすぎマース!」
提督「恥ずかしいというより、抵抗が強いんだよ」
金剛「抵抗ですカ?」
提督「そうだ。好意を持たれる要件を満たしていないはずの相手から、好意を向けられると何か裏があるように思えて仕方ない」
金剛「うー、提督は私のことが嫌いなのデース………?」
提督「何も金剛のことを嫌いとは言っていないだろ? 理由なき利害を嫌うってだけだ。この世はいわゆる等価交換の原則ってやつだ」
金剛「等価交換デス?」
提督「そうだ。一般的には何か利得を得るには損失が必要というものだ。理由なきものはなく、そこに利得を得るなら何かしらの損失が隠れているはずなんだ」
金剛「それだと、まるで私の好意にも何か裏があるって言いたげデース」
提督「いや、そうではない。いや、そうでもあるのか?」
金剛「つまり、提督は私のラブを信じていないのですネ?」
提督「そうかもしれない。贈与には返礼がつきものであって、贈与という方向だけの純粋贈与なんてものはないはずだからな」
金剛「信じてくだサーイ! 私のラブは本物デース。愛するものに損失を与えたくないのがラブデース。だから、私が提督を愛する時には提督に何かしらの損失を強いらせようという意図はないのデス」
提督「そもそも、その愛ってものが疑わしいわけであった」
金剛「うー、提督はとっても疑り深いデス………」
提督「すまない。俺はただ君の行為を咎めるつもりだっただけだが、好意さえも否定してしまったようだ」
金剛「いいデス。つまり、提督は私の再三のアプローチを注意しましたが、その方法がプロブレマーティクだったのではなく、ただ私の感情が伝わっていなかったことが明らかになりマシタ」
提督「………そうなのかもしれん」
金剛「ならば、私のバーニングラブが本物って分からせてあげるネー!」
提督「何をする気だ? 変な気を起こしたわけじゃないよな?」
金剛「あわよくば今夜は夜戦にまで持ち込もうとしていましたが、やめマース! そのかわり提督を安心させてあげるネ!」
提督「何? 安心だと?」
金剛「そうデス! その前にテーブルを片付けマース」
提督「そんなにがっつくように食べなくても………」
金剛「もうヤケデース! ミルクを搾ろうと頑張っていたら、下を見て受け皿が金網だと気づき慌てて瓶にしようとして、今度は上を見上げたら、今まで搾っていたのは雄山羊のだったことに気づくような衝撃デース」
提督「わかりづらい比喩だな」
金剛「そうデス! きっと提督は乙女心のことなんて何も理解していないのデース!」
提督「悪かった。機嫌を治してくれ」
金剛「提督は恋愛に関して等価や交換といった言葉を持ち出すことによって間違えていマス」
提督「特に反対しようとは思わない。続けてくれ」
金剛「等価や交換っていうのは、外の視点のもので、その渦中にいる人たちには無縁のものデス」
提督「例えば、水とダイヤモンドはダイヤの方が普通は価値が高いけど、それが砂漠になると逆転しうるっていう相対性のことを言っているのか?」
金剛「それだと不十分ネ。それらはやっぱり価値を持ってマス。だから、どちらもお金で買えることができマス。ただ場所によって支払う額に差が生じるだけデス。プライスレスではないデス」
提督「恋愛はプライスレスな行為ってわけか?」
金剛「そうデス! プライスレスというのは外部通貨に換算できない特徴を持ってマス。だから、客観的にこの行為にはこれを返さねばならないとは考えることが出来ない種類のものネ。もし、等価を見いだせるなら、それはお金で買えるものになってしまいマース」
提督「金剛が俺に夕餉を手作りしてくれたが、これはプライスレスなのか?」
金剛「はいデス。愛情たっぷりの価値のない料理デス!」
提督「価値のないって………」
金剛「もちろん意味はありますヨ。ただコックが料理を出す際にそれは何ら余剰価値を付与しないという点で無価値なのデス」
提督「ならば、経済的コックはそれを省くべきだろうな。それは無駄な労力だから」
金剛「確かに裏で愛情を込めて作られた料理も機械で作られた料理も、間接的に届けられた先では同じかもしれマセン」
提督「結局のところ愛ってものは孤独ではいることができすに、いつも相手に依存して存在するしかない」
金剛「そうですネ。提督が私の行為に愛を見出さなかったようにネ」
提督「不機嫌そうな顔をするな。そういうものを疑わしいと思う性分の人間もいるって話だ」
金剛「まあいいネ。安心させマスから。私がまず等価交換を信奉しており、愛の裏側で何かを提督に期待している恋愛の詐欺師ではないとは納得してもらえましたカ?」
提督「別に詐欺師と考えていたわけではない。金剛が何かを期待していたとも思えないしな。でも、そういった愛を積極的に俺への行為に付け加える必要がないとは思っている」
金剛「うー、提督はどうやら等価交換の経済的原則と愛などのプライスレスな原則とを区別することに納得してくれたんじゃないデスか?」
提督「つまりだな、金剛。その二つの原理の背反性を認めたにしても、そこには優劣関係があるように思われる。そして、優劣を付けるならば、恐らく経済的な原理の方が愛の原理より強いと思う」
金剛「どうしてデスか?」
提督「愛の原理に従わなくても生存は可能だからだ。しかし、経済原理なくしては生存は不可能に思われる。利害を気にして生命を保護した後に初めてそういった添加物が可能になるんじゃないか?」
金剛「提督はまず初めに等価交換があって、そこである程度のセイフティが得られた後にそういった愛が生じると考えているのデスか?」
提督「歴史的に考えれば、交換が起こったのはそれなりに後のはずだから愛の方が早かったのかもしれない。しかし、今を生きている俺たちは等価交換的な原則に慣れ親しんでしまっている。ならば、君の無償の求愛行為も、愛そのものから出たというより、何か裏がある経済的なものから出たと第一に考えるのも妥当じゃないか?」
金剛「提督のその愛‐不信の病原が理解できた気がシマース。提督は人間にとって最も重要なものは不当な損失を抑えることと考えているのデス」
提督「損失を抑えたいというのは人間の当然の要求だ。損失を回避するためなら、非合理的な行為もするものだ」
金剛「それがプロスペクトに関する人間の傾向かもしれません。しかし、これで提督に私の愛を分からせることができると思いマース」
提督「本気かよ………何をする気だ」
金剛「提督にはお伝えしておきマース」
提督「なんだ?」
金剛「この世界は『ゲーム』だと言うことをデース」
提督「意味がいよいよ分からない。………ゲームってあれか画面に向かってピコピコする奴か?」
金剛「それもゲームデスが、もっと広いデス。徒競走などもゲームデス」
提督「徒競走ってゲームなのか?」
金剛「確かにゲームとは付きませんが、ベースボールやフットボールもゲームに分類されマス」
提督「で、ゲームとはなんだ? なぜ急に君の愛の話から世界がゲームって話になったんだ?」
金剛「提督の態度は、人間が根本的に欠乏状態にあり、満たされるために他人と戦争するという一種の人間への性悪説に依存しているからデス」
提督「どういうことだ?」
金剛「私は提督に愛への不信を治してもらおうと考えてマス。ならば、その不信の態度の根底にある考えを転覆させればいいだけデス」
提督「転覆させるって………人間が根本的に満足状態にあり、欠乏のために他人と戦争するという性善説でも金剛は唱える気か?」
金剛「そうデス!」
提督「無茶苦茶だな」
金剛「そうでもないデス。昔も今もイギリス人は「世界の関節」を外すことが好きデス。因果律を否定して、今日まで太陽が東から昇った事実は、明日も太陽が東から昇るということを正当化しないと述べるのが英国流ネ!」
提督「では、まずゲームとは何だ?」
金剛「ゲームには何かしらの目的がありマス。徒競走ならゴールテープを切ることであり、RPGならば魔王を倒すことなどデス」
提督「そうだな。目的がなければゲームとは言えない」
金剛「そしてその目的自体はゲームとは無関係に達成しえマス。ゴールテープは徒競走とは無関係に切れますし、RPGも魔王を倒さずともエンディングを迎えれマス」
提督「ゲームとは無関係に達成可能という目的があるってことはどういうことなんだ?」
金剛「ゲームの本質は目的を達成することではないということデス。車を使ってテープを切っても、外部からコードを入力してエンドロールを流してもゲームをプレイしていることにはならないってことネ」
金剛「だから、ゲームはその目的達成の手段に重きが置かれるマス。徒競走だとトラックを横切って最短距離を走ることを禁止してテープを切ることに意味があるデス。ゲームとは不必要な障害を自ら望んで克服しようとするものデス」
提督「しかし、チェスなどのゲームではゲームから分離可能な目的なんてないんじゃないか? 駒の制限された動きに基づいてチェックメイトは初めて可能になるんだから」
金剛「確かにチェスの駒の動きはルールに制限されてマス。しかし、チェックメイトはゲームプレイとは関係なく達成できマス。徒競走で目的がフィニッシュラインを超えていることと記述できるように、チェックメイトも一定の駒の配列状態と記述することができマス」
提督「今ひとつピンと来ないな」
金剛「ならば、ゲームにおける次の困った人たちを考えてくださいネ」
提督「困った人たち?」
金剛「ふざける人とイカサマ師に荒らし屋デス」
金剛「チェスにおいてふざける人が指す手は全てルールに則っていマス。しかし、彼が指す合法的な手はチェックメイトを目的としたものではないデス。例えば、ポーンをひたすら前進させることだったりと別の目的、別のゲームをプレイしている人ネ」
提督「そういう奴は確かにチェスのルールには従っているが、チェスをしているとはいえないな」
金剛「イカサマ師はふざける人とは反対デス。ふざける人はチェックメイトへの情熱がありませんデシたが、イカサマ師はチェックメイトへの情熱が強すぎて、ルールを破る人デス」
提督「なるほど、ルールを破ってもチェックメイトは達成できるから、チェスにも分離的目的があるのか」
金剛「さて、ルールを破るイカサマ師といえど、チェックメイトの記述状態は守っていマス。チェックメイトが可能だからイカサマも意味があるわけデス。しかし、荒らし屋はその記述的状態をも認めようとしない人デス」
金剛「イカサマ師がルールを破ってチェックメイトを達成しても、荒らし屋はキングを手に取り盤上でゆらゆらキングを揺らして「チェックメイトとはもう動かせる手がないってことですよ? でも、私のキングはこの通り動く手がある」といって敗北を認めない人デス」
提督「ふざける人はルールだけを守って前提目標を共有せず、イカサマ師は前提目標を共有してルールを破る。そして、荒らし屋はルールも目標も破るということか」
金剛「これでゲームの目的はゲームから分離して達成しうるものであるとわかってくれました?」
提督「君のゲームの定義に関してはもう何も言わない。しかし、いいかげんに教えてくれ。なぜ君の愛とゲームは関係するんだ? 君の愛はゲームってことなのか?」
金剛「そうデス。人間の営みは全てゲームデスから」
提督「何とも奇妙な発現だ。金剛は俺への愛が本物だって伝えるために話してきたんじゃないのか? それをゲームとは随分と」
金剛「オー! 勘違いしないでクダサイ。確かに一般的には恋愛に関してゲーム感覚っていうと悪い印象デスが、私達の今の例でいうとそれはふざける人のことネ。そして、ストーカーだったり監禁したりする人はイカサマ師ネ。私の愛はそれらとは別デス」
提督「しかし、金剛やはり俺にはわからない。君は一体何を意図して世界を『ゲーム』だと言っているんだ?」
金剛「人間は欠乏に基づくので、どこまでも真剣に争い続けるであろうという提督の性悪説にカウンターするためデス」
提督「それがゲームだと?」
金剛「提督が訝しむ気持ちも分かりマース。念頭にあるのは恐らく次のような事態デス。提督は道を歩いていると、向こう側で車に轢かれそうな子供を見マス。走れば助けることができそうデス。しかし、行く手には「立ち入り禁止」の看板がある芝生がありマス。提督はこれを無視することデショウ。というのも、そんなルールを守って迂回していたら、命を救えないからデス」
提督「そうだ。人間の行為には明らかにゲームではないものが含まれている。今の例の生命の危機とかの場合、いちいち不必要な障害を守ろうとするのは熱狂的なゲームプレイヤーだが、普通はそんなことはしない」
金剛「そうデス。でも、そういったゲーム外の活動、仕事なんてものはそういった欠乏的状況がなければ生じないのデス」
提督「何が言いたい?」
金剛「そういったゲーム外の活動のために私達は世界中を不幸にしたのかもしれません」
提督「金剛、君は今日ちょっと様子がおかしい。疲れているなら休め」
金剛「確かに提督には理解が非常に困難かもしれマセン。これは私達艦娘だからこそ見えた世界の側面なのデスから」
提督「説明しろ」
金剛「人間は生から死へと流れていきマスが、艦娘は死から生へと流れたのデス。復活なんて世界の悪ふざけに付き合わされたのデス。世界がどれだけふざけたものかは人間より理解しているつもりデス」
提督「………わかった。話を聞こう」
金剛「私が見た世界は、初めは完全なるユートピアでした」
提督「ユートピア?」
金剛「そうデス。何か別の目的達成のためにイヤイヤする仕事なんて何もなく、ただそれ自体が目的となるような行為をしていれば良かった世界デス」
提督「それはそれは」
金剛「食料や資源は無限にありマシたし、あらゆる生産物は機械的に望めば創られました。物質的に欠乏はそこにはありません。経済問題は永遠に解決されていマス」
金剛「人間関係上の問題はあらゆる心理療法が確立されており、全ての精神障害は完全に治癒されマス。人間性も完全なのでそこには評価なんてものはありません」
金剛「悪事がないので道徳的善悪もなく、人間の負の感情は生じません。それゆえに、それを源にする芸術作品も必要ありません」
金剛「ユートピアにおいて、人間には労働もなく統治もなく、芸術や道徳や科学も愛も友情もありマセン」
提督「愛もそこにはないのか?」
金剛「ハイ。愛も評価を含むものデス」
提督「しかし、そこでは何もやることがないと思うぞ?」
金剛「ゲーム以外はネ。私達の活動の多くは何かを得るためですが、そこでは既に全てが達成され手に入るところデス。ゲームにおける障害はそれらとは異なり、何か別のものを目的にするのではなく、ゲーム自体を目的にしていマス。理想的状態における人間の唯一の職業はゲームプレイヤーになることデース」
提督「そうか? 例えば、科学者は彼の研究とは別の目的を持っているが、彼は研究自身を楽しむことができる。この時はゲーム以外に従事できているんじゃないか?」
金剛「確かに一般に道具的な仕事とされるものも、捉え方によってはそれ自身に意味を有するものとなりマス」
提督「ならば、その世界にはやはり様々な職業が戻ってこれるのではないか?」
金剛「ユートピアは何か特定の活動を追放するところではありマセン。あくまで、何か間接的な目的を持つワークがないだけデス。今の私達とユートピア人との間には、同じ活動はありえマスが、その捉え方が大きく異なりマス」
提督「捉え方」
金剛「ユートピアにおいて労働機会は偶然ではないネ。その世界の全員が望めば、みな平等に完全にその機会が与えられマス。また、全員がワークしなくてもその世界は崩壊しマセン。つまり、そこではいかなる活動も彼らがやりたいからやるってだけで行われるのデス」
提督「そう聞くとユートピアらしいな」
金剛「そして、まさにそのワークこそゲームになりマース」
提督「どういうことだ?」
金剛「その世界では大工が家を建てなくても、ボタン一つで理想の家が手に入りますし、科学者が研究しなくても、真理は既に手に入ってイマス。ならば、彼らhその過程そのものに意味を見出すしかありマセン。ゲームにとって前提目的の達成が第一のものでないのと同様デス」
提督「徒競走では目的はゴールを超えることであり、大工では目的が家を建てることになる。徒競走ではその目的達成のためにトラックの内側を横切ることはせず、大工ではボタンによって簡単に建築することをしないってことか。どちらも不必要な障害を設定しているな」
金剛「ユートピアにおいて組織化された活動は全てスポーツと同じゲームになりマス。テニスやバスケの他にも、経営や法学、生産管理、メカニックなど無限のスポーツが存在しマス」
提督「しかし、そうなってくると、ユートピアで否定されていた評価というものも息を吹き返してくるだろ? ゲームプレイに下手や上手があるんだから」
金剛「そうデス。きっと全てが取り戻されることになりマス。大事なことはこのユートピア世界観は提督の世界観とは反対になることデス」
提督「反対か」
金剛「提督は人類史が欠乏状態から完全な飽和状態へと移行する軌跡だと考えていますが、私は人類史の始源は無限の退屈、終わりなき夏の気怠い黄昏の光に照らされてあるように思いマス」
提督「しかしだ、金剛。人間の中にはそんな縛りプレイのようなゲームに夢中になれない人がいると思う。自分でわざわざ制限を増やして遊ぶのが好きな人もいるだろう。現実でも鎮守府の資源をわざと枯渇させてから、限定海域に挑む人もいるにはいる。だが、そんなゲームプレイではなく
ただ別の目的のために働く人が好きな人もいるだろう。彼らは達成感が欲しいんだ」
金剛「確かにゲームには面白半分と言われても仕方ないところがあり、それを嫌う人もイマス」
提督「それならば、金剛の示したユートピアは誰かにとってはひどく不愉快なものになるだろう。本質的にゲームに依存する世界なんだからな。それは飽和したユートピアではなく、やはり欠乏がどこかにあるってことではないのか?」
金剛「つまり事情はこうだったのかもしれマセン。ユートピア人達は時が経つにつれて「もし自分の人生がゲームに過ぎないのならば、その人生を生きるに値しない」と考え出したのデス。そして、機械が作った家よりも人間の手で作られたものの方が価値があるとか既に答えが出ている問題でも再度人の手で解決され直さなければならないなどと考えたのデス」
金剛「そして、それを他の人々にも説得しだして、世界は人類の敵だとするまでに至り、世界のそのシステムの使用を禁止する法律まで作られたのデス」
提督「そうなると、大工や科学などは人間の生存に不可欠な要素として見られることになって、その活動はゲームではなく真剣な企てになるのか」
金剛「その通りデス。この世界はゲームと忘れられて久しいデス。もし、人類がそれを思い出したのならば、全人類の全文明の全ての価値が空虚になるデス」
提督「………なんだか目眩がしてきたよ、金剛」
金剛「それでいいのデス。提督。世界のシリアスな真理とされてきた戦争なんてものは、最初からどこにもなかったのデス。そういったものに気難しく顔をしかめてきた人々は今や悔しさと口惜しさを伴い霧の如く消えてしまいマス。真理の太陽は病人には少し眩しすぎて、提督はその栄光の毒に当てられただけデス。どうぞ、こちらに。ベッドを用意してアリマス」
憲兵「………ここで途切れている。続きはないのか?」
浜風「それ以上は野暮なことですから」
憲兵「………結局これはなんだったんだ?」
浜風「さあ? 何にでもなかったのでは?」
憲兵「ふざけているな」
浜風「ふざけていない事件なんてありませんよ」
憲兵「奇妙な事件だ。外傷なんてどこにもない。ただ話しているだけだ」
浜風「そうですね。外面的にはただ艦娘が提督を口説いているだけですもの」
憲兵「なんとも大仰な口説き文句もあったものだ。創世史的口説き文句、宇宙論的な言語愛撫。なんにせよ聞いたことがない」
浜風「とてもハイカラな文化で良いと思います」
憲兵「ほう。ならば、俺がこれで君を口説いてやろうか?」
浜風「失敗するだけです。これは艦娘の強靭な胃袋あってこそです。世界を丸ごと平らげようとするほど大食いでなければ、相手を飲み込めません」
憲兵「艦娘とはみんなこうなのか? 相手を手に入れるためだけに、相手の世界を食い散らかしていこうとするのか?」
浜風「どうでしょうか? 深海棲艦と艦娘が世界に与えた影響を比較すると、艦娘の方が大きいという報告もあるぐらいですし、人間は艦娘を良くも悪くも無視できないってことではないですか」
憲兵「………彼らはこの後に幸福になれたと思うか?」
浜風「必ず幸福になっています。もし、提督が口説き文句を無視すれば、いつも通りの日常に戻れたであろうし、それを受け入れたにしても、一つのカップルが誕生しただけで不幸はそこにはありませんから」
憲兵「必ず不幸になっているはずだ。もし、提督が口説き文句を無視すれば、日常に戻ってしまうし、受け入れたにしても、一つのカップルが誕生し、そこには不幸ある」
浜風「おや? なんとも不思議なことを言いますね。私にはあなたが何を言っているか理解できません。恐らく幸福に関して共通のルールがないから奇妙な食い違いが生まれているようです。どうです? 私達もゲームでもしてみますか?」
憲兵「冗談はやめてくれ」
おわり
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