提督「島風が脳死判定を受けた」 (41)
提督「・・・・・・」
島風「・・・・・・」
提督「島風、今日は良い天気だぞ」
提督「いきなり気温が高くなってな」
提督「最近は水分を多く取るようにしているよ」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
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提督「(島風は特殊な例なのだろうか)」
提督「(脳死と判定されてから、もう半年になる)」
提督「(通常は1~2週間で死亡するはずだが)」
提督「(島風の心臓はまだ動いている)」
提督「(生きているんだ、島風は)」
提督「(・・・・・・)」
提督「(半年前の、あの日の出撃で)」
提督「(島風は敵艦隊の砲撃を食らい)」
提督「(頭部に非常に強い衝撃を受けた)」
提督「(何とか鎮守府に戻ってはこれたものの)」
提督「(そのまま意識は戻らなかった)」
提督「(入渠でも直らず、今に至る)」
提督「(そしてついに、脳死と判定されてしまった)」
提督「・・・・・・」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
島風『提督おっそーい!』
島風『びゅーん! びゅーん!』
島風『えへへ! 私って速いでしょー!』
島風『提督ぅー! 一緒に遊ぼう!』
提督「・・・・・・」
提督「(島風・・・)」
提督「(どうしてこんなことに・・・)」
提督「なぁ、島風、あんなに元気だったじゃないか」
提督「あんなに速く走っていたじゃないか」
提督「本当は起きているんだろう? もうおふざけは止してくれ」
提督「なぁ、頼むよ島風」
提督「もう一度、俺に笑顔を見せてくれよ」
提督「島風・・・!」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「うっ・・・」ウル
提督「ぐすっ・・・はぁーーーーーー・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「・・・すまない、少し部屋を出るよ」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「」スッ
提督「」トボトボ
バタン
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
天津風「あなた・・・」
提督「天津風か、どうした?」
天津風「大丈夫?」
提督「あぁ・・・」
天津風「そう・・・」
提督「・・・・・・」
天津風「・・・・・・」
提督「(島風はもう、話すことも)」
提督「(動くことも、食べることもできない)」
提督「(でも、確かにそこに存在はしている)」
提督「(元気だった頃の、姿形はそのままで)」
提督「(でも、もう俺に微笑みかけてくれることはない)」
提督「(それが残酷で・・・残酷で・・・)」
提督「(・・・・・・)」
提督「(脳死というのは、脳だけが死んで)」
提督「(身体の他の部分は生きているという、極めて特殊な状態だ)」
提督「(生きた身体に死んだ脳、脈の触れる死体・・・なのだろうか)」
提督「(脳機能の不可逆的停止というのが、脳死という言葉の定義だ)」
提督「(脳死と診断された場合、脳全体の機能が失われていて)」
提督「(もう元には戻らない)」
提督「(この状態では、島風が自力で呼吸することは不可能だ)」
提督「(自発呼吸は、脳幹がコントロールしているからだ)」
提督「(そのため、脳死状態には呼吸を機能的に維持する人工呼吸器が必要となる)」
提督「(そこが、植物状態との根本的な違いだ)」
提督「」パチ パチ
島風「・・・・・・」
提督「島風、爪伸びてきたな」
提督「あと髪も伸びてきたな」
提督「今度切ってやるからな」
提督「」パチ パチ
島風「・・・・・・」
提督「(艦娘の脳死・・・史上初の例だ)」
提督「(人権もない艦娘に対して、どのような処置を下せば良いのか)」
提督「(俺は延命処置をすることにした)」
提督「(最初の頃の俺は、何が何だかわからなくなっている状態・・・)」
提督「(つまりパニックになっていた)」
提督「(後のことなども考えず、ただ島風に生きていてほしいと思うだけで)」
提督「(こうなってしまった)」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「(どの時点を死とするのだろうか)」
提督「(死の定義には、潜在的な救命能力が確かにあるとは思う)」
提督「(どのレベルで死と呼ぶことにしたとしても)」
提督「(それは恣意的な決定だと思う)」
提督「(心臓の死だろうか)」
提督「(毛はまだ成長する)」
提督「(脳の死だろうか)」
提督「(心臓はまだ動いている)」
提督「(人間が任意に決められる状態、ということなのだろうか?)」
提督「(人間、そして艦娘の生から死への移り行きは)」
提督「(丁度昼から夜への移り変わりのように、連続的に変わっていく)」
提督「(その連続的な変化のどこかに、死というはっきりした切れ目があるわけではない)」
提督「(死は一時点での出来事ではなく、一定の時間の幅のある過程なのだろうか)」
提督「(太陽の上縁が、水平線に隠れる時を日没の時刻とするのと同じように)」
提督「(人間が決めたものに過ぎない)」
提督「(そうした人間の定義とは独立に)」
提督「(死の時点が客観的に決まっているわけではない)」
提督「(と言っても、生物学的な事実を完全に無視できるということではない)」
提督「(生物学的事実を離れて、死を勝手に決めるとおかしくなる)」
提督「(それだけではない)」
提督「(さらに、人間社会の側の受け止め方や考え方が大きな役割を果たす)」
提督「(死の時点の決定には、誰もが死として納得できることが重要となる)」
提督「(今の島風の状態では、賛否を一刀両断にできるような客観的基準はない)」
提督「(見えない死・・・? バカな)」
提督「(島風はまだ生きている)」
提督「・・・・・・」
島風「・・・・・・」
提督「島風、体拭いてやるからな」
島風「・・・・・・」
提督「よいしょ」スッ
提督「」フキフキ
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」フキフキ
提督「(俺はもしかしたら、自分のことしか考えていなかったのかもしれない)」
提督「(今の状況になって、酷く残酷に思えて仕方がないのだ)」
提督「(俺は島風に生きてほしいと願った)」
提督「(だが、島風はどうなのだろうか・・・?)」
提督「(意識がなく、自分から行動することもできず)」
提督「(また、今自分がどういう状態にあるのかも把握できず)」
提督「(俺が島風に対して何をしているかも・・・)」
提督「(・・・・・・)」
提督「(判断能力のない者の治療方針は誰が決めるのか)」
提督「(他者が命の決定を代わりにするしかないのか)」
提督「(今の島風にはコンピテンスがない・・・)」
提督「(つまり、艦娘としての本来の意味での権利を失っている)」
提督「(自立尊重、仁恵、無危害・・・相容れない原則同士の衝突が発生している)」
提督「(俺は一体どうすれば良いのだろうか・・・)」
提督「(・・・・・・)」
島風「・・・・・・」
提督「島風、今日はもう仕事が終わったよ」
提督「まぁ、もう夜だがな」
提督「・・・・・・」
提督「・・・おやすみ、島風」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「(自然死は広い意味での安楽死に含まれる)」
提督「(安楽死とは、助かる見込みがない者を苦痛から解放する目的で)」
提督「(延命のための処置を中止したり、死期を早める処置をとること)」
提督「(このうち、延命処置の中止は、毒薬の投与などによって)」
提督「(人間をじかに殺す積極的安楽死と区別して、消極的安楽死に分類される)」
提督「(積極的安楽死が慈悲による殺人と呼ばれるのに対して)」
提督「(消極的安楽死は治療停止、死ぬに任せることと呼ばれ、殺人とは区別されてきた)」
提督「(それをする者と、される者との間に成り立つ1つの行為である)」
提督「(死ぬ権利という言い方では、双方の関係が捻じれてしまう)」
提督「(安楽死・・・奇妙な響きだ・・・)」
提督「(気持ち悪くなってきた・・・少し休もう・・・)」
島風「・・・・・・」
提督「島風、今日も暑いな」
提督「あんなに雨ばっかり降って、気温もまだまだ低かったのに」
提督「おかしいよな、本当に」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「(最近、考えがまとまらなくなってきた)」
提督「(何が正しいのか)」
提督「(俺はどうすれば良かったのか)」
提督「(島風は何を望んでいるのか)」
提督「(もし、俺があの日島風を出撃させなかったら)」
提督「(・・・・・・)」
提督「(自分が・・・わからなくなってきた・・・)」
提督「・・・・・・」
提督「(そして俺は、ある日夢を見た)」
提督「(いつもの部屋、島風が寝ているベッドがあって・・・)」
提督「(でも、島風は起きていた)」
提督「(しっかりと目を開けていて、俺を見ると微笑んだ)」
島風「提督、来てくれてありがとう」
提督「島風・・・?」
島風「まぁ、色々言いたいことはあると思うけど・・・」
島風「今は私の話を聞いてくれるかな?」
提督「あ、あぁ・・・」
提督「(島風が話している)」
提督「(懐かしいな・・・涙が出てくる)」
提督「(そうか、これは夢なのか・・・)」
提督「(しっかり島風の話を聞いてあげなくては)」
島風「提督・・・」
提督「なんだ? 島風」
島風「その、ね? 私さ、今こんな状態でしょ?」
提督「・・・・・・」
島風「そろそろお終いにしてよ」
提督「お、おいおい、それはどういう意味だよ・・・」
提督「・・・・・・」
島風「提督ならわかるでしょ? 私、もう苦しいんだ」
提督「・・・ダメだ」
島風「私はもう意識が戻らないんだよ?」
島風「何処へでも良いから、逝ってしまいたい」
島風「こんな状況でこの世にしがみついているのは御免なの」
提督「島風・・・」
島風「あと私は何日我慢すれば良いの?」
島風「2、3日? それとも2、3週間?」
島風「こんなに管をたくさんつけられて、実験動物みたいに縛り付けられているのは嫌だよ」
島風「このまま死ぬしかないんだから、早く逝かせて・・・お願い・・・」
島風「何とかして・・・もう辛いの・・・」
提督「・・・・・・」
島風「私の命だから、私の好きなようにさせて・・・」
島風「私は元々わがままな艦娘だったけど」
島風「これが最期のわがまま」
島風「お願い、提督・・・」
島風「私を殺して・・・・・・」ポロポロ
提督「・・・・・・」
提督「うわぁっ!?」ガバッ
提督「はぁーっ・・・! はぁーっ・・・!」
提督「・・・・・・」
提督「嫌な・・・夢だ・・・」ダラダラ
提督「・・・・・・」
提督「(だが、その夢は何度も続いた)」
島風『提督、もう私のことは忘れて』
島風『まるで自分じゃないみたいな感じなの』
島風『私は提督に、もうこれ以上迷惑をかけたくない』
島風『辛いのは私だけじゃなくて、提督もだと思う』
島風『殺して・・・殺して・・・』
島風『私を』
島風『殺して・・・・・・』
提督「・・・・・・」
島風「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「・・・なぁ、島風」
提督「夢の中に出てくるお前は、本当に島風なのか?」
提督「やっぱり・・・辛いのか・・・」
提督「・・・・・・」
提督「」ナデナデ
島風「・・・・・・」
脳死のニュースを少し前に見た気がするけど偶々だよね
提督のハイライト吸ってきます
タメニナルナー
尊厳死宣言公正証書のステマ
提督「(島風の髪、柔らかいな・・・)」
提督「(・・・・・・)」
提督「(・・・島風からすれば、スパゲッティ症候群と呼ばれるような状態で)」
提督「(無理矢理最新の機械を使って、命をながらえさせられるのはかなわないんだな)」
提督「(・・・・・・)
提督「(尊厳死・・・)」
提督「(・・・・・・)」
島風「・・・・・・」
提督「・・・島風」
提督「ゴメン・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「・・・・・・・・・」
スッ・・・・・・
島風「(提督)」
島風「(ありがとう・・・・・・)」
終わり
艦娘には艦娘の生きる意味があったんだろう
乙
乙
島風の心臓が動いてるってことは脳死診断されてるけど実は脳の一部が動いてたってことか。
その場合、この提督はやってしまった感があるけど
読み直したら人工呼吸器付けて無理やり心臓を動かしてた感じなのか。
それでも人間なら100日以内に心停止するところを、半年も動き続けたってことは元々動いてた?
爪も髪も普通に伸びてる感じなら、徐々に衰弱してるとかそんなのもない感じ?
結局、この提督は正しい判断をしたのか、やらかしたのか……。
なかなかくるものがある
おつでした
おつですー
本人が感謝してるのならこれでよかったんじゃね…?
本人が生きたいのか否かがわからないのが尊厳死の一番厄介な部分だし
本当に難しいのはコールドスリープとかと同じで心臓さえ動いてるなら医療の進歩でひょっとしたら?って希望が残ってるとこだと思うよ
このSSまとめへのコメント
これは…また…泣
これは…。