ことり「白昼夢の誘い」【ラブライブ!】 (111)
当たり障りのない内容のつもり。
設定はアニメ、SIDごちゃまぜ。
都合のいい自己解釈、多少の改変あり。
性格がちょっと違ったりしているかも。
文章力がないので見るに耐えない出来かもしれません。
それでも構わないと言う方だけどうぞ。
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暑さで蜃気楼の様に歪んで見えるコンクリート。
晴れ渡る青空の所々に白く大きな入道雲。
何処からか風に乗って聞こえてくる
心地好い風鈴の音色や蝉の鳴き声。
木々が造り出す木陰の下で
街のざわめきと緑の香り。
少し外を歩いただけで汗がじんわり滲みます。
――――夏真っ盛り、7月。
毎年、夏休みの始めにお母さんとお父さんと一緒に行く海外旅行。
確か、今年で8回目になるのかな?
うん、小学1年生の時から行ってるからこれであってるよねっ。
家族3人毎年一緒だったんだけど
お父さんは去年初めて体調を崩しちゃってお家でお留守番。
『 折角だから行ってきなさい』って
言ってくれたお父さんに根負けして行ってきましたが、旅行先ではやっぱり何処吹く風の表情のお母さん。
お土産を両手いっぱい買って帰って、家に着いたお母さんを見て
『こんな珍しいお土産が貰えるんなら、たまには留守番も悪くないね』
なんて、嬉しそうに笑いながらお母さんを少しからかうお父さん。
旅行帰りで少し疲れてる筈なのに
お母さんも恥ずかしがりながらずっとニコニコ。
まーた転載か…と思ったら本人?
どちらにせよおいしい水だが
たまに穂乃果ちゃんや海未ちゃんがお泊まりに来てくれた時や帰りが遅くなった時とかに
お父さんとお母さんが仲良く話したりしてるとちょっと驚かれます。
穂乃果ちゃんのお家はお父さんが寡黙だからあんまり二人でお喋りしてるとこを見たことがないって言うし、
海未ちゃんのお家は…うーん、
仲が悪い訳じゃあ絶対ないんだけど、そういう他愛のない話とかをしているところを殆ど見ないみたいです。
いつも私の一歩先へ行って、引っ張ってくれる大好きな2人の素敵な幼馴染み。
その2人に並んで着いていくだけの私。
ちょっと言いかたが悪くなっちゃうけど、
その2人があまり感じられない風景や雰囲気を私はずっと近くで感じていられる。
これは、そんな私のささやかな自慢になっていますっ。
それでも、お父さんもお母さんも結構忙しいみたいで。
夏休みの旅行と言ってもあまり長期間はできないんだけど、そんなことどうでも良いよね。
大好きなお母さんやお父さんと、家族と一緒に過ごせる時間が大切なんだもん。
何処で、何を、なんて言うのは
二の次三の次で――。
一緒に時間を共有できるのが嬉しいんだから。
それが家族や好きな人や大切な人なら尚更ですっ♪
そんなことを考えながら
家の姿見で今日のファッションチェック♡
淡いピンクのロングのワンピースに
胸元には穂乃果ちゃんに貰った小さいことりのチャームのネックレス。
これが結構お気に入りですっ。
腕にはブラウンのベルトのシックな腕時計。
最後にお気に入りの白いシュシュで
髪型は暑いからポニーテール♪
暑さも凌げて可愛く見せれるんだからお得な髪型。
髪の長い海未ちゃんも絶対似合うと思うんだけどな~。
いっつも
『いつもと違うので…違和感が…それに、なんだか恥ずかしいですっ!』
だって~、なんだか勿体無いなぁ。
「ことりー、そろそろ時間よー」
――おっとっと。
「はぁい、お母さん~、今行くね~」
そんなこんなで考え事をしているともうお家を出る時間。
ちょっぴり重いキャリーバッグを引いて空港へ向かいます。
そして、いつも通りに手続きを済ませて飛行機へ。
海外旅行に行くのはすっごく楽しいんだけど、私はこの飛行機がちょっと苦手。
重力がグッと体全体にかかってちょっとだけ気分が悪くなってきて…。
だけどそれも高度が落ち着いてきて数分経ったらもう大丈夫。
雲の山を突き抜けて
どこまでも拡がっていく
青い青い海みたいな空を見たら気分も晴れ晴れ。
太陽もいつもよりキラキラして見えちゃいますっ。
お気に入りの枕もちゃんと持ってきて、
後は到着するまでぐっすりすやすや夢心地。
朝が早かったせいかな?
それとも楽しみであんまり眠れなかったから?
目をつぶって次に目を開けた時はもう飛行機は着陸前でした。
毎回、旅行の行き先はお母さんに決めてもらってました。
お金を出してくれるのはお母さん達なので
小さいながらにやっぱり遠慮していたんだと思います。
自分で決めて行くのもきっと楽しいんだろうけど、毎回夏になると1週間前にお母さんから
『今年はここに行きましょ』
って言われるのが結構好きな私です。
だってその方がいっぱいドキドキできるから――。
でも、今年は私が行き先を決めましたっ!
と言っても、お母さんから
『今年はことりに決めて欲しいわ』
なんて言われたからなんだけどね、えへへっ♪
けど、その場所を決めるのにも結構時間が掛かっちゃって、
結局最後は穂乃果ちゃんに助け船ならぬ助けてメールを送っちゃいましたっ。
最初は海未ちゃんにも聞こうと思ったんだけど、きっと
『…難しいですね』
何て言って、真剣に考えすぎちゃう筈だから。
海未ちゃんのそんなところも大好きなんだけどね♡
それで、穂乃果ちゃんに聞いてみたらあっという間に解決しちゃった!
【そんな時はね、これだよ!ことりちゃん!!】
なーんて、メールと一緒に送られてきたのは
サイコロと鉛筆の添付写真。
最初はよく意味が分からなくて
【どういう意味なの??わかんないよ~】
ってメールを返してみたら
【困った時は神様と運頼み!
これでどの目が出た時に、どこに行くか決めちゃえばいいんだよ!
因みに穂乃果はこれでテストの分かんない選択問題も乗りきってるよ!】
あはは、穂乃果ちゃんらしいや♪
【ありがと!穂乃果ちゃん!
それでやってみるね♪】
――でも、その方がきっともっと楽しいかもっ。
そう思って残り3ヵ所まで絞っていた旅行先を、サイコロの目の2つずつに振り分けてサイコロを振りました。
そして出た目は3。
当てはめていた場所はというと…
「ことりー、そろそろ空港に着くわよー」
なんとロシアでしたっ。
決めるまでは詳しくは知らなかったんだけど、ロシアって日本よりも高緯度にあるから夏の一番暑い時期でも気温は25℃くらい。
とっても過ごしやすくて日本のジメジメっとした夏とは全然違うみたいです。
「…はあい…」
まだ少しだけ眠っていたい体を起こして生返事。
お母さんはいつも早起き。
家でも、旅行先でも、どんなとこでも家族の誰より早く目を覚まして
「…うん、ばっちり~」
私たちを起こしてくれます。
中学生になってからはいつまでもお母さんに頼りっぱなしじゃダメだと思って
目覚まし時計を使って一人で起きる練習をしています。
だけど、私はどうやら私自身が思っているより眠りが深いらしくて
いつも鳴り響くベルにさえ気付かないみたい。
そして、止めてあげないといつまでも鳴り続けるその音にお母さんがギブアップ。
その後結局、お母さんに起こされちゃいます…。
えへへ、やっぱりまだまだことりはことり。
お母さんにもう少しだけ
甘える必要があるようですっ。
「ほら、お父さん、
ことりも起きたんですからいい加減に起きてください」
お母さんが隣で心地良さそうにすやすやと寝息をたてる
お父さんの肩を2回、3回ゆらゆらゆら。
「…っはぁー、ごめんごめん。
もう着いたのか…」
むむ~、どうやら私のこのお眠り具合は
お父さんから受け継いだ物のようです。
「おはよう…ことりも母さんも早起きだなぁ」
寝起きのお父さんは
普段以上にふわふわしてて
「…母さん、スーツどこだっけ…」
「お父さん、いつまで寝惚けてるんですか…」
流石のお母さんもちょっと飽きれ模様ですが
でも、これもいつものこと。
いつも通りでちょっと安心しちゃうことりですっ。
――今回も旅行は3泊4日。
到着した日は3人揃って現地観光。
美術館や宮殿、画面や写真越しでしか見れないような綺麗な町並みを身体中で目一杯感じて――。
そして、この日にお土産なんかも全部買っておいてしまいますっ。
2日目はお母さんが一人でお買い物。
私はお父さんと一緒に町の景色を楽しみながらカフェ巡り。
でもきっとお父さんは大の甘党だから、その国々の美味しいお菓子を味わいたいだけなんじゃないかな?
私もお菓子は大好きだからいいんだけどねっ♪
3日目はお父さんが一人で
私はお母さんと。
お母さんとはお洋服屋さんや雑貨屋さん巡り。
やっぱり日本とは全然センスや品揃えも違って目移りばっかりしちゃって大変っ。
でも、それもお買い物の楽しみの一つだと思っています。
もしかしなくても、それぞれ1人の時間を大事にするのも夫婦円満の秘訣なのかもしれませんっ。
午前中、お母さんと街を歩いていると
「あら、懐かしいわね」
「…?どうしたの~、お母さん?」
足をピタリと止めてみるお母さん。
「少しだけ、観ていかない?」
声のまにまに目線の先のフライヤーに目を落としてみると
今日はまるで謀ったみたいにバレエのコンクールの最終日だったみたいです。
これもこっちに来るまで知らなかったんだけどバレエって16世紀頃に西ヨーロッパで産まれて
そこから世界に広まって
ロマンティック、クラシック、モダン。
その頃の時代背景を垣間見るみたいに
スタイルが変化していっているみたいです。
そして舞台用の衣装もその時々に様変わりしているみたいで。
私はこっちの方に興味を惹かれて、結構な時間パソコンの画面越しに眺めていました。
そんなことを思い出しながらホールの席を探し回って右往左往。
お母さんが通路側、私がその右隣。
私の左隣には
綺麗な金色の髪を緑のリボンで結ったポニーテールの碧眼の女の人が先に座っていました。
軽く目が合い、会釈をします。
日本なら
『お隣、失礼します』
なんて言えるんだけど、ここは日本から遠く遠く離れたロシア。
勿論、ロシア語なんて話せない私はそうするしかありません。
入場した時に折角だからって言って
貰ったパンフレットに軽く眼を通してみます。
水色の門をイメージにした両開きの素敵な表紙。誘われるように門を開けばそこには…。
うーん、分かってはいたけどやっぱり全部ロシア語♪
だけど、写真も入ってるからなんとなーくの雰囲気は楽しめるかな?
数枚のきらびやかな写真に眼を移し終え
一息ついたその途端――。
私を待っていたかの様にゆっくりと暗転していくホール。
偶然だけどなんだかちょっと嬉しくなります。
ブザーの音と共に舞台の幕が開き
素敵な時間の始まりですっ。
やっぱり本場だからなのかな?
私より少し年下位なのにすっごく上手。…だと思います。
詳しいテクニックとかはぜんぜん分からないけど
素人の私にも分かるくらいに感性に呼びかけてくる演技力。
思わず息を呑んで観賞していると
「…はぁ…」
すぐ近くで私の耳だけに届いた、小さな吐息に混ざった感情。
横目そーっと、その声をたどってみると
ステージ場のスポットライトの微かに届く光で、シルクのように艶やかで透明に溶けてしまいそうな淡く煌めく金色が私の目に映り…。
私はその瞬間
綺麗な服を身に纏い少し遠いステージ上で笑顔で華麗に音と戯れるバレリーナよりも、
直ぐ近くの憂いを帯びた表情に、その人に、意識を奪われていました。
溜め息の後、女の人は小さく会釈をして私の前を通り、去っていってしまいました。
その後は、ちょっと遅めのランチを楽しんで、
午後はお洋服屋さん巡り。
夜の7時過ぎにお父さんと合流してそこからディナータイム
。
地元の美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、お父さんもお母さんも、私もいつも以上にお話が弾んで―――。
お母さん達にお酒がはいってたせいか、お話し過ぎたせいか気付けは時間はもう夜の10時前。
「それじゃあ、ことり、おやすみ」
「うん、おやすみなさい、お父さんっ」
「明日は飛行機の時間もあるし、少しだけ早めにチェックアウトするわね、ことり」
「は~い、お母さんもおやすみなさいっ」
お部屋に戻って数時間。
荷物を軽くまとめてお風呂に入って
いつもならこのくらいで朝までぐっすりのはず、なんだけど…。
ベッドの上で数十分ごろごろ。
やっぱり眠れなくて
窓を開けてみる少しだけ外の空気を吸って。
「…今日くらい、いいよね?」
小さな自問自答をした後
朝焼けと夕焼けを混ぜ合わせたような
不思議な空の下へ誘われるようにふわふわと。
ホテルを出ると直ぐに大通り。
夜なのにまだ明るい、不思議な景色の中に飛び込むのは
何だか夢の中をお散歩しているみたいでウキウキしますっ。
何の考えもなく飛び出して
右に行こうか左に行こうか迷ったとき
ここに来る前の穂乃果ちゃんの鉛筆サイコロを思い出しました。
「んー、…何か代わりになるものは…」
左腕には小さな腕時計
「…あっ!」
ふと、ポケットに手を入れると緑色のがま口のコインケース。
「いつ入れたんだろう…?…でも、ラッキーですっ♪」
寝惚け眼で飛び出して来ちゃったから
いつ入れたかも覚えてないコインケース。
海未ちゃんからもらった大切なプレゼントです。
「これもよく穂乃果ちゃんがやってたけど私に出来るかなぁ?」
呟きながら私は硬貨を1枚親指の爪の上へ。
「…えいっ!」
頼りない私の掛け声とは裏腹に、指先で弾かれた硬貨は
思っていたよりもずっと高く空に舞い上がり
「あっ!」
ほんのり明るい空に一瞬その姿を映して
「わわわっ!」
丁度私の目線の下くらいで
建物の陰で夜になってしまった部分に溶けて
「…んっ!」
咄嗟に挟み込もうとして差し出した両手には
手応えはなく渇いた音を一回鳴らし
硬貨は鈍い音を何度も何度も
「…、…あれ??」
立てずに
レンガ作りの歩道の少しズレた隙間に挟まっていました。
「おぉ~、凄い…」
しゃがみこんで硬貨を拾おうとした時に
私は…思い出してしまいました。
「って、私!裏か表、どっちが出たらどっちに行くか決めてなかった!」
よく穂乃果ちゃんや海未ちゃん以外のお友達にも
『ことりちゃんってちょっと抜けてるよね』
って言われた後にそんな事ないよ~
って言い返したら二人が苦笑いしながらフォローしてくれた恥ずかしい記憶も思い出しました。
「あはは…、やっぱり抜けてるんだ…私…」
「…うん、自分で気付けたんだから良かったよね…」
屈んだまま小さく2度頷き
自分をほんの少し慰めてみます。
「よしっ、今度こそ!」
「って思ったけど、お金で遊ぶのは良くないよね。
次は何処かに転がっていっちゃうかも知れないし…」
まだ挟まったまま身動きがとれない硬貨をじっと見つめてぽつりと呟くと
私の声を聴いていたかの様に
「ふふっ♪
何だか今日は小さなミラクルがいっぱいです」
硬貨は鈍い音を立てて左にぱたんと倒れました。
―――腕時計を見ると日付が変わって30分位。
「よしっ、一時間位で帰ってこようかな?」
外灯の浮かび上がる白。
太陽のオレンジ。
その間に綺麗なグラデーションの青。
日本とは全然違う建物や街並み。
私の心に羽を生やすには十分すぎるシチュエーションです。
大通りに沿って15分くらい歩くと
左手に見える細道と橋の先に
街を少し上から見渡せそうな小高い丘。
「うんっ、あそこにしましょう♪」
小走りしながら上機嫌のまま
橋を渡って丘の上へ。
「…わあ…」
丘の上から更に見晴らしの良さそうな場所を探していた私を待ち構えていたのは
「…綺麗…」
さっきまで居た場所とは思えないくらいの
「……」
光と影のコントラストが
茜と藍の融け合う空が
今まで見たどんな絵画よりも美しい
夢のような極上の景色を造り出していました。
よく、感情が昂ると言葉にならないって聞くけど、私は初めてその意味がわかった気がします。
ずっと眺めていたい
心地良い包まれるような感覚に浸されだした時
「O?(あら?)」
私の少し後ろから聴こえた
「 Был предыдущий посетитель(先客がいたのね)」
透き通るような綺麗な声に呼ばれた気がして振り返ると
「えっ」
ぼんやりとでもわかる
まるでお人形みたいにスタイル抜群の女の人が立っていました。
でも、ちょっと振り向いた後
「(…どうしよう…)」
――とくんとくん。高鳴る心臓の音。
「(…ほんのり暗いから私が日本人だなんて気付かなかったのかな…。
…話かけられたんだよね…多分…。
返事だけでもしないと無視してるみたいになっちゃうし…。
うわーん!ロシア語なんて全然分かんないぃー!
挨拶とか返事だけでも勉強しとくんだったあ!)」
下を向いておろおろしていると
「Если я не ошибаюсь, Вы были соседним местом в месте для собраний…(貴女は…確か会場で隣の席だった…)」
その女の人は少し覗きこんで私の隣に。
「(うわーん!
外国の人ってフランクで直ぐ話し掛けてくれるイメージだったけど、言葉が分かんないんじゃあコミュニケーションもまともにとれないし意味ないよぉー!)」
しどろもどろしていると
「えーっと、こんばん…わ?」
女の人がもう一言、話し掛けてくれました。
「あっ、えっとー…、そのー…」
焦りすぎて聞き慣れた言葉で話し掛けられたのにも気付かずに咄嗟にでた言葉は
「g,goodevening!そ、sorry!
あ、わ、私ロシア語、ワカリマセーン!」
…ごちゃ混ぜになったヘンテコな英語と日本語。
「(わーん!やっちゃったぁ!
英語ならまだしも日本語言ったって通じる訳ないのにぃ!)」
下を向いて少し肩を落として落ち込んでいると
「ふふっ」
「ごめんなさい。
ちょっと面白くて笑っちゃったわ。でも、少しだけ落ち着けたかしら?」
馴染みのある言葉が自然と耳に流れ込み
「あはは…。な、なんとか…」
反射的にいつも通りの言葉を交わし…
「………」
…あれ…?
「って、ええええ!?」
「えっ、あの、、何で、日本語…?」
「ごめんなさい。
盗み聞きするつもりはなかったんだけど、
隣でお姉さんと楽しそうに話してるあなたの声が聴こえたから、貴女が日本人だってわかったの」
――ぽかーん。
今私の後ろにはそんな文字が浮かんでいる気がします。
「あっ、因みにお昼のバレエのコンクールの会場で隣の席に居たんだけど、覚えてくれてたかしら?」
――コクコク。
もちろん、しっかり覚えています。
会釈も返してくれたし
何より見惚れてしまう位、綺麗な人だったので――。
「っと、これじゃあ私が日本語を話せる理由になってなかったわね。私、クォーターなの。
生まれ育ちは日本なんだけどお婆様がロシアの人でね、両親の仕事でロシアに居ることが殆どだったから幼稚園まではこっちで過ごしていて、小学校以降は―――」
呆気にとられている私に
少し気を遣いながら話してくれる女の人。
それにさっきまでの慌ただしい気持ちはどこへやら。
不思議なことに普通に日本語でお話ができるって分かったらすっごく気持ちが楽になりました。
学校のクラス替えで知らない人ばっかりだったときに穂乃果ちゃんや海未ちゃんが居てくれて凄くホッとした時と似てる…かな?
「―――から流暢に日本語を話せるの。
まあ、両親は日本人だし4分の1しかロシアの血は混ざってないから当然と言えば当然なのかもしれないけ、ど、、、」
―――懐かしい~、あの時は嬉しかったなぁ。
あっ、それであの年の将来の夢の作文で穂乃果ちゃんが――
「あの、大丈夫?
ずっとニヤニヤしてるけど…?」
「…へっ?」
…ハッ!
女の人の声で思い出旅行から現実の旅行へひとっとび。
どうやら少し思い出に長居をし過ぎたようです…。
「あっ、ご、ごめんなさい!
ちょっと昔のこと思い出しちゃってつい…」
「ふふっ。
随分嬉しそうな顔をしいてたから、声を掛けるのに少し躊躇しちゃったわ」
そう言ってはにかむ顔はあまりにも綺麗過ぎました。
おっとっと、そう言えば
「…あの~」
「何かしら?」
さっきのお話の中で気になったことを
「お昼のバレエのコンクールで私の隣で一緒に話してたって…」
ぽつり。
「ええ、貴女にそっくりなお姉さんの事よ、髪型も素敵に決まってお揃いだった――」
――あぁ、やっぱりかぁ。
「えっと、あの人は私の…お母さんなんです…」
日本でもたまにお母さんと買い物行ったりすると決まって店員さんに
『姉妹で仲が良くていいですね!』
なんてよく言われます。
その度にお母さんはニコニコ。
贔屓目に見なくてもお母さんは若くて綺麗なのは回りの反応でよく知ってましたが、
まさか海外でも同じ反応をされるなんて…。
お母さん、恐るべし…。
「…хорошо」
え?…は、ハラ??しょう???
「あんなに綺麗で若々しいのに貴女のお母様だったのね」
「え、えへへ …」
お母さんが誉められてるんだけど
なんだか私まで嬉しくなって照れ笑い。
なんだか和やかな雰囲気が流れた後に
もうひとつ気になったことを
「あ、聴いてばっかりで申し訳ないんですけど」
「ん?」
「貴女は、どうしてこんな時間にここに…?」
ほんの少しの沈黙の後
「貴女はこの景色の事、何て言うか知ってる?」
「えっと…、確か…「白夜」」
言い終える前に独り言みたいに
「…白い夜って書いて白夜。
中々素敵な響きだと思わない?」
「多分、今週くらいで見えなくなっちゃうと思うわ。本当は白夜祭をやってる6月の中旬が一番明るくていいんだろうけど…私は、こっちの方が好きかな?」
「…思い出の場所なの。大切な」
呟くように話してくれました。
「実はね、あのバレエのコンクールに私も昔、何度か出場したことがあったのよ」
「その帰りの夜は決まってお婆様がご馳走を作ってくれてね、とても美味しかったのを今でも覚えているわ」
目が慣れてきてしっかりと
女の人の顔が見えてくるようになりました。
「そして最後のコンクールの日、夕飯を食べた後にお婆様にここに連れてきてもらったの」
淡々と話す口調とは裏腹に
「…とても綺麗だった。
幼ながらに胸が一杯になる景色ってこう言う事なんだって初めて思ったわ」
嬉しいような悲しいようなどちらをすればいいか分からない。
そんな表情をしている風に私には見えました。
「…自分で言うのも何だけど、普段私こんなに自分の事、饒舌に語らないのよ?
きっと、ここにいる所為もあると思うけど」
苦笑いでそう話す女の人
「えっと、多分お互いに全く繋がりがない同士だから…じゃない、かな…?
お母さんがよく知らない人の方が話せれる愚痴なんかもあるって言ってましたし…」
私はフォローともなんともつかない曖昧な返事をすると
「ふふっ、そうかもしれないわね。
…でも、その全く知らない人でも話を聞いてくれそうで、尚且つ優しい雰囲気の人を選ぶんじゃないかしら?私みたいにね♪」
「えっ?」
「少なくとも、私から貴女はそういう風に見えたわ。私みたいに取っ付きにくそうって見られるより凄くいいわよ」
女の人はウィンクで軽く返してくれました。
「えっ、そんなことないですよ!
私、いますっごく自然に気楽に話せてますし、それに」
私の言葉を遮って
「ありがと。やっぱり貴女、とっても優しいのね」
女の人は言いました。
「さて、と…。
私ばっかり話してるのもなんだし」
「一つだけ、質問させてもらっていいかしら」
「あっ、はい!勿論、全然いいですよ!」
「じゃあ、ひとつだけ――。」
「貴女は、夢って…何だと思う?」
思っていた様なことを聴かれなくて一瞬上の空。
「ああ、ごめんなさい。
そんなに深く考えなくていいの。
…いや、でも…少しくらい吟味して欲しいかしら…」
女の人のころころ変わる表情に気をとられながらも
「…夢、ですかぁ」
頭の中で小会議。
「…私が思うのは、将来の夢になっちゃうんですけど…」
「構わないわ、聴かせてくれるかしら」
「小さい頃からおしゃれやコスプレが好きで、よく刺繍でマスコットを作ったりもしてて、
今もそれは変わらずにいれて――。
だから、まだぼんやりとですけどデザイナーさんになりたいかなー、なんて思ってたり…」
最近ようやく靄が少し晴れたような気がする
将来のビジョンを
女の人に伝えます。
「…ありがとう。凄いのね、貴女」
「え、全然そんなことないですよ!
具体的に何をすればいいかとかもまだ全然分かってないですし、それにっ」
「そんな事ないわ、私なんかよりずっと…」
行き場のない呼吸が少し彷徨った後
「…私ね、何がしたいか、イマイチわからないの」
女の人の綺麗な声は少しトーンが下がっても綺麗なままで
「さっき話したバレエの話だって自分が本当にやりたくて仕方がなくてやってた訳じゃあないのよ。
周りにやってる子がいたからなんとなくで入ってみて、最初の方はやればやるだけ結果がついてきて上手くなっていくのが分かって、それはそれなりに楽しかったんだと思う」
「このまま順調ならもう少し大きな大会にでて賞もとれるかも?
なーんて、少し調子に乗ってたわ」
「それで最後のコンクールの日。
私は2番目に踊ってね、最初の子はガチガチに緊張しちゃってて、それで上手く踊れてなかった。
その後だったから私はちょっと気楽にできて、終わった後で自分の中でも及第点かな?なんて位でいたの」
「それで、その後。
私の以降の子達が信じられないくらい上手くてね。雰囲気からなにから全部別世界って感じで…。
あの時初めて現実を叩き付けられたわ」
「結果は言うまでもなくボロボロ。
表彰台にも登れなかったわ」
淡々と語り続けます。
「それで、その時初めて悔しいって思ったの。
終わった後にお婆様に泣き付いちゃったわ」
「でもね一緒に『もういいや』って思っちゃったの」
「元々そんなに真面目じゃないし、小さい頃だったから尚更、楽な方に逃げたいって思考の方が勝ったんでしょうね」
「―――それで今日ここに来たのは気持ちの整理をするため。一瞬でもふざけた夢を見た過去の私を精算するため」
静かな夜を嫌うみたいに
「…あの、少しいいですか?」
「あっ、ごめんなさい。
私ったらまた長ったらしく話しちゃったわね」
女の人に問いかけます。
「バレエ…好きだったんですか?
今でも…好きなんですか?」
「なんで今日コンクールを見に来たんですか?」
「…だから、それは過去の私を「じゃあ!」」
自分でも驚くくらい大きな声が
「…じゃあなんで会場でも、今も
そんな悲しそうな顔してるんですか…?」
擦り切れそうな声に代わり
「…私、昔はちょっと引っ込み思案だったんです」
静かに静かに続きます。
「今はもう何ともないんですけど、足が生まれつき弱くって…。
何度か手術も受けて、小さい頃はたまに片足を引きずって歩く日もありました」
「仕方ないんですけど足の内側、丁度膝くらいのとこに3センチ位の傷跡ができちゃって。
きっと珍しかったからだと思うんですけど、それでクラスメイトからかわれたり、同情されすぎちゃったりして…」
「ただの一人の普通の女の子として過ごしたいだけなのにーって思って、両親のお仕事で転園したのをきっかけに普通の女の子を演じる為にワガママ言って、ロングスカートばかり履かせてもらったりもしたんですけど、そんな自分が嫌で嫌で仕方がない時もありました」
「それでもやっぱりどこか諦めきれなくて…」
「それでずっとずっと隠し続けて来たんですけど、ある日病院の帰り道で普段とっても仲良くしてくれるお友達の1人に見付かっちゃって…」
「その子との話の拍子で膝の傷を見られちゃって…。凄くドキドキしました。
悪いことなんてしてる訳じゃあないのに
どうしよう、何て言おうなんて考えてたりして」
「――でもその子は真剣な顔をして私の傷を見ていて。
そしたら急に思えたんです。
この子にはちゃんと伝えたいって。
いつまでも詰まらない見栄を張っていてもしょうがないって。
ありのままの私でいてみようって」
「打ち明けたらその子は笑顔で
『治ってよかったらですね』
って言ってくれたんです」
「――とっても嬉しかったです。
変に病人扱いされるわけでもなくて、今の私を受け止めて、認めてくれて…」
「それで…、ちょっとだけ慰め下手なその子はその日の内に私の事を相談してくれてたみたいで、
次の日の朝一番でもう1人の仲良くしてくれるお友達を連れてきて、ピンクの可愛いミニスカートをプレゼントしてくれました」
「その日一日は学校で
今までずっとずっとロングスカートだった私はミニスカートを履いて過ごしました」
「…やっぱりちょっと男の子にからかわれたりもしたんですけど
今までずっと一人で悩んできた事がどうでもよくなっちゃうくらいに二人が私を想ってくれたことが本当に嬉しくて――」
「昔は大嫌いで消えないかなーって手で擦ってみたりもしたこの傷も、もう1センチくらいになって。
でも、今では凄く大事な二人のお友達との思い出の嬉しい傷なんです…」
「だから…だから私は、今日までの自分を象ってきたものを簡単に捨てたりしちゃダメだと思うんです」
「どんな時でも欠けちゃったら自分が自分じゃなくなっちゃうと思うんです」
「ありのままの自分を出していれば、きっといつかそれを見付けて向かい合ってくれる人が必ず居る筈なんです、だから」
「…だから、自分を否定して押さえ付けるのは誰にだってしてほしくないんです…。せめて、私の近くに居てくれる人には…」
――途中からスイッチが入ったみたいに
長々と話してしまいました。
「…、ご、ごめんなさい!
途中からなんだかお節介みたいに言いたいことばっかり言っちゃって…」
女の人は少し穏やかな声色で
「――いいえ、ありがとう。
とても嬉しかったわ、初対面の私にここまで言ってくれると思わなかった。
こんなにしっかり意思をもって向き合って話してくれて思わず聞き入っちゃったわ」
優しく笑ってくれました。
「…私はただ、思ったことを伝えられただけです…。それに…」
「――それに、初めてじゃあ、ないですからっ」
「え?」
「お昼に会ってるじゃないですか私達。
口さえ聞けなかったですけど、お互いに覚えてたみたいですし」
「きっと、お昼の事も、今の事も偶然の出会いにしとくにはちょっと勿体無いと思います♪」
時間が経つのを忘れるくらい
「ふふっ、貴女ロマンチストなのね」
「その方がずっと素敵だと思いませんか?」
言葉の節々でじゃれあうのが
「そうね、私も嫌いじゃないわ」
なんだかとっても心地よくて――。
「貴女のお陰でいい方向に考えがまとまったわ、本当にありがとう」
「――ただ、…この夢はもうおしまい」
「え?それって…」
「心配しなくても十分楽しんだつもりよ?
でも…バレエの世界って思ってるより厳しいの。
ちょっとでもサボったら追い付くのに何年もかかっちゃうわ」
「だから、今度は中途半端じゃなくて本気になれるもの探してみるわ」
「今日までの私もちゃんと連れて、ね♪」
その日一番の笑顔が私に向けられて
「…はいっ!」
とっても嬉しくなりました。
「さて、結構話し込んじゃったわね」
腕時計をみる仕草につられて
私も思わず腕を上げてチラリ。
「え!?もうこんな時間!?」
時計の針の短針は
丁度2の文字盤を指していました。
「貴女、宿はどっち?
私は時間に余裕があるしこの辺りの地理は大体把握できているから、お礼に送って行くくらいはしたいんだけど…」
女の人の折角のお誘いですが
「あっ、道は覚えてるので大丈夫ですっ。
それにお母さんたちに内緒で出てきちゃったから、送って貰ったタイミングで丁度お母さんたちに見付かっちゃったら色々と聞かれちゃいそうですし…」
迷惑をかけても申し訳ないので。
「あら、フラれちゃったかしら?」
悪戯な微笑みで首をかしげる女の人
「あっ!その、勿論とっても嬉しいんですけど」
「ふふっ、わかってるわ。
ちょっと意地悪したい気分になっただけ♪」
う~ん、思っていたよりお茶目な人なのかもしれません…。
「…もしまた会えたなら、今度はもっとゆっくり話したいわね」
「…きっと、またいつか必ず会えますよ」
「…なんで、そう思うのかしら?」
「私も、もう一度会いたいって思ったから…。
こんな素敵な出会いをこれっきりになんてしたくないですからっ」
「ふふっ、ほんの数時間前まで他人だった人間同士がしてる会話とは思えないわね。
…勿論、凄くいい意味でなんだけど」
「でも存外、大切な何かとの出会いってこんな風なのかしら」
「きっと、そうですよ」
「それなら、もし次に会えたときお互い今日会ったことが分かる証拠が欲しいわね…」
「ん~、あっ!
それじゃあこうしましょうっ」
その時私は
「あの~、差し支えなかったらなんですけど――」
少し前に見たドラマの事を思い出し
「ええ、私は構わないけど、それって何かのおまじない?」
「今、思いつきましたっ。
きっと私達をまた、引き合わせてくれる筈です」
「なんだかちょっと恥ずかしい気もするわね」
「でも、こっちの方が素敵じゃないですか?
偶然とは思えない2回の出会い。
初めて会ったのにお互いに夢の事を語り合って、距離を縮められて…」
「ここまでお話に夢中でお互いの名前を聞けなかったのは、次の再会の時に名前を聞くための約束みたいに。
偶然に似た運命に身を委ねてるみたいで、なんだか凄く…」
「『ロマンチック』ですっ」ね」
随分と長い間話し込んでいた気がします。
結局、女の人は方向が同じだからと言って途中まで付き添ってくれました。
ちょっぴり気が強いところもこの人の魅力なのかもしれませんっ。
ホテルに着いた後はこっそりゆっくり猫さんみたいに自分の部屋へ。
扉を開けるとなんだか急に
忘れた眠気がやってきて
言うことをきかない私の心と体は
ゆらりくらりとベッドに沈み夢心地。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――今日は街でお買い物。
お気に入りの服を着て、お気に入りのお店を回って、お気に入りの喫茶店で休憩中。
ミルクティを飲んで一息ついた途端、お店の電気が消えて真っ暗に。
夜はジャズバーになる喫茶店の小さなステージに舞い降りたのは
スポットライトに照らされた金髪の髪をしたバレリーナ。
躍り終えると私に歩み寄り
『約束通り、また会えたわね』
見覚えのある顔なのに
なぜだか名前が思い出せません。
『その緑のリボン、よく似合っているわ』
リボン?今日着けたのはお気に入りの白いシュシュだったような…
『この白いシュシュと緑のリボンが、
貴女が言ったように巡り合わせてくれたのかも…』
少し束ねた髪をほどくと緑のリボンがシュルリと指先へ。
『あのロシアでの白夜の日以来になるわね』
白いシュシュで束ねていた綺麗な髪が
軽くなびいて
『三度目になって自己紹介って言うのも変な話だけれど』
思い出しました、この人は
『――私の名前は――――貴女の名前、約束通り教えてくれるかしら?』
――あれ…?
何で名前が聞き取れなかったんだろう。
失礼だけどまずは私の名前を言った後に、もう一度だけ聞いてみましょう。
『勿論、覚えてました。
私の――は、み――――りって言います』
あれれ?私の声も途切れてる?
それにさっきから、なんだかコンコン聞こえるような…?
音の鳴る方を見てみると
さっきまで女の人がいたステージで
タップダンスが始まっていました。
『あっ、ごっ、ごめんなさい!
タップの音が大きくて名前が聞きとれな――』
私の言葉を遮るように今度はバンドの大演奏。
今日は運が悪いんでしょうか、上手く言葉が伝わりません…。
『すみませっ―――』
タイミングの悪いときはどうやらとことん続くようで…。
今度は女の人の携帯電話に電話がかかってきてしまったようです。
でも、携帯電話も着信音も私とお揃い。
そこだけ、ちょっと嬉しくなりましたっ。
『ごめんなさい、急用ができてもうお話している時間がないの。
またゆっくり話しましょ』
手を降って舞台裏へ駆けていく女の人に
『あっ、私貴女の名前がまだ!連絡先も――』
声を掛ける間もなく幕が降り
『…聴けなかった…』
いつもの喫茶店へ元通り――。
『うーん、折角会えたのに~』
目まぐるしく起こる出来事にちょっとげんなり。
思わずテーブルに突っ伏していると
『ことりー、いつまで寝てるの?』
聞き慣れた声にちょっとだけ顔を上げると、喫茶店の店員さんの制服が見えます。
(何で私の名前を知ってるんだろう…?
確かによく此処には来るけど名前を言った覚えなんてないし…、でも聞き慣れた声だし…、知ってる人、…なのかな?)
『眠たいのは分かるけど、そろそろチェックアウトの時間なのよー?』
(チェックアウト?
私、今喫茶店に居るはずだよね…?)
流石に妙な状況だと思い店員さんの顔を見上げると
『え、お母さん!?』
なんと、ウェイトレス姿のお母さんが!
その瞬間に周りの景色と頭の中が
ぐるぐるぐると回りだし
目を開けたら私は
「おはよう、ことり。よく眠れた?」
ホテルのベッドの上に居ました。
「あれ?…お母…さん?制服は?喫茶店は?」
「夢のお話はまた後で聴くから、早く着替えちゃってね」
なんだ…、夢だったんだ…。
「でも何度ノックしても返事がないし、携帯電話を鳴らしてみても起きないんだもん。
心配になってフロントさんに合鍵借りにいっちゃったわ」
昨日の夜の出来事さえ、現実味がないから
夢が夢だって分からなかったみたい。
「ごめんなさい、すぐに着替えるね」
「焦らなくても少しくらいなら余裕があるから大丈夫よ。それより髪が凄いことになってるから軽くシャワーでも浴びてきなさい」
「はぁい、ありがとう、お母さん」
少しふらつく足取りで洗面台に向かいます。
「…そうだよね。あんな奇跡みたいな偶然あるわけないよね…。
ちょっと自分で行き先を決めた海外旅行だからって浮かれてたんだ、私。」
あんなに語り合ったのに全部私の頭の中の絵空事だったのでしょうか。
それにしては凄く熱を感じたリアルな夢だったような…。
洗面台の大きな鏡台に映るボサボサ頭の私。
「うわ~、結構凄いことに…」
軽く手櫛で髪を整えていると
「ん?」
指先に何かが引っ掛かる感覚。
「髪が絡んじゃったのかなぁ、こんな事今ま…」
視界に捉えた見覚えのある見慣れない色を手繰り寄せると
「…ふふっ♪」
手にした『それ』に自然と頬が緩み
「…今度は夢の中でじゃなくて」
『それ』をもう一度結び直して
「ちゃんと、お名前教えてもらえますよね?♪」
ルンルン気分でシャワーを浴びて、家路に着いたことりでした♡
終。
転載するなゴミ
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