コナン(阿笠博士が光彦に対する拉致監禁・性的暴行その他諸々変態行為の容疑で逮捕され)
コナン(芋づる式に黒の組織が壊滅した)
コナン(光彦は行方不明のままだが、俺たちには平和が戻った)
コナン(あとは解毒薬の完成を待ち、俺と灰原が元に戻れば、全てが元通り)
コナン(そう、元通りになるはずだったんだ)
コナン(新一声)『え、結婚……!?』
蘭『やーね、違うわよ! 結婚を前提にお付き合いして下さいって、黒澤さんが……』
コナン(新一声)『似たようなもんだろ! だいたい黒澤って誰だよ』
蘭『そっか、新一は知らないわよね。最近臨時の用務員としてうちの高校に来たのよ』
蘭『なんでも前の会社のトップが突然逮捕されて、職を失ったんですって。大変よね』
コナン(新一声)『ふーん、そりゃご愁傷様なこって……で、そんな男と付き合うわけねーよな?』
蘭『園子がね、女子高生っていう特別な時期に、いつまでも帰ってこない男を待っててもしょうがないって』
蘭『私、ずっと聞き流してたんだけど……やっぱりもう限界』
蘭『ごめんね新一。私、若いうちに新しい恋を始めるわ』
コナン(新一声)『ちょっ……ちょっと待ってくれ! あと一ヶ月……いや、二週間で帰る!! だから』
蘭『……』
蘭『今までもそうやって期待させて、何回裏切られたと思う?』
コナン(新一声)『……っ』
コナン(新一声)『でも今回は絶対だ!! デカい事件が片付いたから、後処理さえ終われば……』
蘭『で? 戻ってきても、すぐまた新しい事件だーっていなくなっちゃうんでしょ』
コナン(新一声)『そっ……それは』
蘭『ふふっ、新一のことなんてぜーんぶお見通しなんだから』
蘭『私ね、そんな新一のことが好きだったし、いくらでも待てるって思ってたの』
蘭『でもそれってお互いにとって良くないんじゃないかって、最近考えるようになったんだ』
コナン(新一声)『蘭……』
コナン(新一声)『で、でもよ、いい年して高校生にプロポーズ紛いなことする男なんて、ロクでも……』
蘭『それだけ私とのことを真剣に考えてくれているのよ、黒澤さんはね』
蘭『実は初めて会ったときからアプローチされていてね、最初はもちろんお断りしてたんだけど』
蘭『私も、彼と……陣さんと真面目に向き合いたいって思ったの』
蘭『彼ね、強面で目つきも口も悪いけど、料理が上手ですごく優しい人なんだ。ちょっぴり抜けてるけどね』
コナン(新一声)『……』
蘭『そういうことだから……』
蘭『新一も、もう私のことは気にしないで……事件でも恋愛でも自由にしたらいいよ』
蘭『じゃあね、新一』ピッ
コナン(新一声)『待てよ蘭! おい! らああああああああああああああん!!』
ツーツーツー……
コナン「嘘、だろ……」
―阿笠邸―
コナン「灰原!!」バーン
灰原「何よ、呼び鈴くらい押しなさいよね」
コナン「解毒薬は!? いつできるんだよ!!」
灰原「試作品は一応できてるけど、安全性の検査がまだ……」
コナン「それでいいから早くくれ!! 早く!!」
灰原「ちょっと落ち着きなさい工藤君! 何かあったわけ?」
コナン「……っ!!」
コナン「実は……」
・
・
・
・
灰原「……」
灰原「ごめんなさい、私のせいだわ」
灰原「もっと早く解毒薬ができていれば、こんなことには……」
コナン「……」
コナン「……」
コナン「いや、オメーのせいじゃねえよ」
コナン「俺が事件を追い続ける限り、こんな姿じゃなくてもきっとアイツを待たせちまう」
コナン「それが無理だって言ってんだから、組織も薬も関係ねえんだよ……」
灰原「……」
コナン「いきなり悪かった、オメーの顔見たら少し落ち着いたわ。ありがとな」
灰原「そう……」
灰原「解毒薬の開発は続けるから……協力してよね」
コナン「ああ、わかってる」
灰原(工藤君が蘭さんに振られた……)
灰原(そっか……)
―帰り道―
コナン(協力する、とは言ったものの……)
コナン(蘭がいねーのに元に戻る意味あんのかな)
コナン(いや、まだ諦めちゃだめだ。もう一度説得して……)
歩美「コナンくーん!」タタタッ
コナン「あれ、歩美ちゃん。こんな時間にどこ行くんだよ?」
歩美「哀ちゃんに借りてた本、今日学校に持っていくの忘れちゃったから、これから返しに行くんだよ」
コナン「おいおい、もう夕方だぞ? 明日じゃダメなのか?」
歩美「んー、哀ちゃんはいいって言ってくれると思うけど……」
歩み「博士がいなくなっちゃって哀ちゃんお家に一人でしょ? だから寂しいんじゃないかなって思って」
歩美「お母さんと一緒にクッキー焼いたから、それも持ってきたんだ!」
コナン「そっか、歩美ちゃんは優しいね」
歩美「えっ……そんなことないよ」テレテレ
歩美「哀ちゃんは歩美の大切なお友達だもん! 当たり前だよ!」ニッコリ
歩美「そうだ、コナン君も一緒に行く? その方が哀ちゃん喜ぶと思うし」
コナン「いや、俺も用があって今行ってきたところだから、遠慮しとくよ」
歩美「そっかあ……」
歩美「あ、そうだ! だったら」ゴソゴソ
コナン「?」
歩美「はい、コナン君にもクッキーあげるね!」ニコッ
歩美「歩美も手伝ったけど、生地作ったのはお母さんだからちゃんとおいしいよ!」
コナン「ありがとう歩美ちゃん」
歩美「えへへ……じゃあ、明日学校でね!」
歩美(用って何だったんだろう……博士いないのに)
歩美(……やっぱりコナン君、哀ちゃんのこと……)
コナン「……」
コナン「小学生も悪くねえよな……」
―毛利家―
コナン「あ、あのさ、蘭姉ちゃん」
蘭「なあに? コナン君」
コナン「えっと……新一兄ちゃんと何かあった?」
蘭「! どうして?」
コナン「あ、何か……新一兄ちゃんからすっごい落ち込んだ声で電話があってさ」
蘭「ふふ、そっか、アイツ落ち込んでたんだ」
蘭「そっかそっかー」
コナン「え?」
蘭「コナン君には内緒にしてたけど、私ね、男の人に告白されちゃったんだ」
コナン「へ、へえー、そうだったんだ……蘭姉ちゃんモテモテだね……」
蘭「へへ、これでも結構モテるのよ?」
蘭「それでね、お付き合いしようと思って、そのことを新一に報告したの」
コナン「……」
コナン「それで落ち込んでたんだね……」
コナン「ねえ、新一兄ちゃん本当に死にそうなくらい凹んでたよ」
コナン「僕に免じて考え直してみない……?」
蘭「あら、コナン君は本当に新一のことが大好きなのね」
蘭「でももう決めたの。私は陣ときちんと向き合っていくって」
コナン「でもさ、蘭姉ちゃん、ずっと新一兄ちゃんのこと待ってたじゃない!」
コナン「今だって……新一兄ちゃんが落ち込んでたって聞いて、嬉しかったんでしょ!?」
コナン「本当にもういいの……!?」
蘭「……」
蘭「もちろん、ちゃんと考えたわよ」
蘭「いっぱい悩んだし、いっぱい泣いたわ」
コナン(蘭……)
蘭「それで出した答えがこれなの」
蘭「新一にも、私の気持ちはちゃんと説明したつもりよ」
蘭「……あの恋愛オンチの推理馬鹿がわかってくれたかどうかはわからないけどね」
蘭「だからね、今すぐは無理でも……いつかコナン君にもわかってもらえたら嬉しいな」
コナン「……」
蘭「でもね……新一が私の初恋の人っていうのは、本当だよ」
コナン「……!」
蘭「ふふ、アイツには内緒よ?」
次の日
歩美「おはよう、コナン君!」
コナン「ああ、おはよ……」ドンヨリ
歩美「コナン君、どうしたの? 具合悪いの?」
コナン「いや、別に何も……あ、そうだ」
コナン「クッキーありがとな。すっげー美味かったよ」
歩美「ホント!? 良かったあー!!」パァッ
コナン「……!!」ドキッ
元太「おい、何だよクッキーって! 俺も食いてえぞ」
歩美「じゃあ今度元太君にも作ってあげるね!」
元太「よっしゃー! 絶対だぞ! うな重味もな!」
歩美「あははっ、元太君ったら、うな重味のクッキーなんて美味しくないよ」
元太「いーや、ぜってーうめーぞ! 歩美が作ったクッキーならな!」
歩美「もーやだー元太君ったら!」
コナン「ハハハ、相変わらずだなー元太は」
放課後
―阿笠邸―
コナン「灰原、話がある」
灰原「え、何よ改まって……」ドキッ
コナン「俺、江戸川コナンとして生きていくことに決めたから」
灰原「……気持ちはわかるけど、まだ自暴自棄になるには早いんじゃないかしら」
灰原「解毒薬だってもうすぐ……」
コナン「俺、馬鹿だったよ。俺が縮んでからずっと側にいてくれたのに、その大切さに今まで気付かなかった」
灰原「え、あなた何を……」ドキドキ
コナン「俺、歩美が好きなんだ」
灰原「……え?」
コナン「俺の傷ついた心を癒してくれるのは、歩美しかいない」
コナン「これからは歩美と一緒に成長していきたいんだ」
灰原「……そう」
コナン「だから、解毒薬はもういらない」
コナン「今まで頑張ってくれてたのに悪いけどさ」
灰原「……」
灰原「全く、自分勝手でどうしようもない探偵さんね」ハァ
灰原「わかったわ。今度こそ逃がさないように頑張りなさいよ」
コナン「ああ、サンキュな! 灰原」
コナン「やっぱオメーと話すと気持ちが落ち着くっつーか、考えがまとまるよ」
灰原「そ、良かったわね」
コナン「じゃあまたな! もう命狙われねーし、オメーもそろそろいい人見つけろよ!」
灰原「……余計なお世話よ」
バタン
灰原「……」
――明美『薬なんか作ってないで恋人の一人でも作りなさいよ』――
灰原「お姉ちゃん、私、失恋しちゃったみたい」
灰原「馬鹿よね……最初から諦めてたのに、あんなことで期待しちゃって……」
灰原「蘭さんには敵わない、だなんて。なんて傲慢だったのかしら、私」
灰原「私みたいな可愛げのない女が、最初から彼の対象外だっただけなのに……」
灰原「……」クスン
ピンポーン
灰原「……」
灰原(……誰よ、こんな時に……)
灰原(こんな顔で出られるわけないじゃない、居留守よ居留守)
ガチャ
灰原「え、ちょっと何勝手に入っ……」
灰原「――!!」ビクッ
灰原「……あ……あなた、どうして」
一週間後
―学校―
放課後
コナン(あれから何日か待ってみたんだが)
コナン(歩美ちゃんは一向に告ってくれねえし、腹決めて俺から告白しなきゃダメだな……)
コナン(仕方ねえが、蘭の時と同じ轍を踏むのだけは避けなければ)
コナン「歩美ちゃん、ちょっといいかな」
歩美「あ、歩美もコナン君と二人きりでお話したいことがあるの」
コナン(おっ、キター)
コナン「な、なんだい歩美ちゃん」ドキドキ
歩美「あのね、相談なんだけど……」
歩美「元太君にプレゼントあげたいの。うな重以外で喜んでくれそうなものあるかなあ?」
コナン「へ? 元太に? なんで? 誕生日だっけ?」
歩美「えへへ、あのね、まだ哀ちゃんにしか言ってないんだけど……」モジモジ
歩美「歩美、元太君とお付き合いしてるの」
コナン「」
コナン「マジかよ!? い、いつの間に!?」
歩美「や、やっぱりびっくりするよね、歩美もびっくりしたもん……」
歩美「えっと、三日くらい前かな、元太君に告白されたの」
歩美「光彦君も博士もいなくなっちゃって、歩美すっごく落ち込んでたんだけど」
歩美「元太君からいっぱい、いーっぱい元気もらったの」
歩美「だから、好きだって言ってくれて本当に嬉しかったんだ」
歩美「……やだもう、恥ずかしいなー」
コナン「」
歩美「」モジモジ
歩美「あのね、今だから言うけど、コナン君は歩美の初恋の人なんだよ!」
コナン「えっ」
歩美「きゃー! 言っちゃった!!」カーッ
歩美「今度プレゼント選ぶの手伝ってね!! じゃあ元ちゃん待ってるから、もう行くねっ」タタタタッ
コナン「……」
コナン「何で今になって言うんだよ……」
阿笠邸
コナン「灰原!!」バーン
灰原「何よ、その登場の仕方気に入ったの?」
コナン「オメー知ってたんだろ!! 何で教えてくれなかったんだよ!!」
灰原「……?」
灰原「ああ、吉田さんのことね」
灰原「隠してたわけじゃないのよ、私だって昨日聞いたばかりだもの」
コナン「だったらすぐ教えてくれればよかったじゃねーか……」
灰原「それは悪かったけど、私も他人の恋路に口を挟んでるほどヒマじゃないの」
コナン「はあ? だってもう解毒薬はいらねーって」
ガチャ
??「おや、コナン君。来てたんですか」
コナン「あk……昴さん!? 勝手に入ったら灰原に怒られ」
灰原「おかえりなさい。どうだった?」
沖矢「やはり商店街の小さな本屋には置いていませんね」
灰原「そう。できれば近場で済ませたかったんだけど、仕方ないわね」
沖矢「だから最初から大型書店に行こうって言ったんですよ」
灰原「……車で? あなたと? 二人で?」ジト
沖矢「そんなあからさまに嫌そうな顔されたら、いくら私でも傷つきますよ?」
灰原「あらそう? 喜んでるように見えるけど」
沖矢「やだなあ、人を変態みたいに」
灰原「……」ジロ
沖矢「そうだ、今から書店に行くなら、ついでですし夕飯は外で済ませませんか?」
沖矢「感じの良いイタリアンレストランを見つけたんです」
灰原「……そうね、たまにはいいかしら」
コナン「なにこれ」
灰原「ああ、あなたにはまだ言っていなかったわね」
沖矢「私たち結婚したんです」
コナン「はあ!?」
ドゴッ
沖矢「~~~~っ」
灰原「そういう博士レベルの冗談いいから」
灰原「昴さんに、ここに住んでもらうことにしたの」
コナン「」
灰原「小学生が一人暮らしじゃ何かと不便でしょ。世間体もあるしね」
コナン「オメー昴さんのことめちゃくちゃ警戒してたじゃねーか」
灰原「何よ、彼を『ホームズフリークに悪い奴ァいない』とかいうわけわかんない理論で信用してたのは工藤君じゃない」
灰原「私が正体不明の彼に怯えていても、まともに取り合ってもくれないし……」
コナン「や、だってよそれは昴さんが……」
灰原「……それはもう知ってるわよ。でももう少しきちんと説明して欲しかったわ」
灰原「何も知らされないまま、一人で馬鹿みたいに警戒して……心細かったんだから」
コナン「悪かったよ……」
灰原「……まあ、それはいいのよ。私の身の安全を考えてのことだと思うから……」
コナン「……」
灰原「それにね……あなたが信頼しているから、私も少しは信じてみようって思えたのよ?」ボソ
コナン「えっ?」
灰原「……何でもないわ」
灰原「せっかく組織の鎖が断ち切れて、自由の身になったんだもの」
灰原「私も、前を向いて歩く覚悟を決めたの」
灰原「実らない初恋をいつまでも引きずってちゃいけないってね」
コナン「な……それって……」
灰原「勘違いしないでよね。あくまでも『灰原哀』の初恋だから」
灰原「だけど、私もまだ人を好きになれるんだってこと……工藤君、あなたが教えてくれたのよ」
コナン「――灰原、まさかオメー俺のこと」
灰原「ふふ、でももう遅いからね? 女の子の気持ちには鈍感な名探偵さん?」
コナン「……!!」
灰原「吉田さんが好きなんでしょ? 簡単に諦めるんじゃないわよ」
灰原「今まで、私を守ってくれてありがとう。――江戸川君」
コナン「はい、ばら……」
灰原「じゃあ、私は出かける準備するから……」
コナン「……」
タンタンタン……
沖矢「……」
コナン「……」
コナン(灰原が普通の幸せを見つけたんなら、よかったじゃねーか)
コナン(これからはあんまり頼らないようにしねーと……)
コナン(……)
コナン(俺、ことあるごとに灰原に頼りっぱなしだったんだな……)
コナン(……)
コナン(俺って……本当は灰原のこと……)
コナン(クソ、何なんだよこれ!! 何なんだよ、俺は!!)
沖矢「目をつけた女性に振られ続け、ようやく彼女の存在の大きさがわかったというところですか」
コナン「……!!」
沖矢「最低ですね、彼女は最後まで坊やのことを想っていたのに」
コナン「んなこと言ったって、まさかあの灰原がそんな」
沖矢「鈍感でデリカシーのない男が何故かモテる時代は終わったということです」
コナン「なっ……誰のことだよ!!」
沖矢「ま、さすがにかわいそうなので用意しておきましたよ」
コナン「はあ?」
沖矢「みt……黒幕を炙り出すスイッチです。これを使えば何かが変わるかもしれません」
コナン「何だよ、これ……」
沖矢「さあ? 私にもよくわかりませんが、くれぐれも悪用はしないで下さいね」
沖矢「では私はこれから姫とデートなので……失礼」
―帰り道―
コナン「……今更光彦が何だって言うんだよ」
コナン「……」ポチポチポチポチポチ
??「あぢぢぢぢぢぢぢぢっ!?」
コナン「!?」
光彦「なっ、何てことしてくれるんですかコナン君!! 服が全部燃えつきちゃったじゃないですか!」パチパチパチ
コナン「オメーどこから出てきたんだよ!!」
光彦「ハッハッハ、バレちゃしょうがないですね!」プスプスプス
光彦「僕はあなたの影に潜んでいたんですよ!!」
コナン「はあ……? 話についていけねえんだけど」
光彦「僕は博士の作った数多の光彦虐待スイッチのせいで完全に死にました」
光彦「しかし! その副作用で僕の周りの世界をちょっとだけ作り変える力を手に入れたんです!!」
コナン「なんだそりゃ、安いSFじゃあるまいし」
光彦「あなたに言われたくありませんよ!!」
光彦「とにかく、素晴らしい力を手に入れた僕がやることはひとつ」
光彦「僕を酷い目に合わせた奴らへの復讐です!!」
光彦「主犯である博士は変質者として逮捕され、あとはスイッチを悪用しまくったあなただけ」
コナン「……」
光彦「ふふふ、どうです? 愛する人が次から次へと他の男に奪われる気持ちは」
コナン「な――!!」
光彦「僕はね、ずっと思っていたんです」
光彦「なぜいつも鈍感でデリカシーの欠片もない男ばかりがモテるのかと」
光彦「僕のように女性に対してきちんと配慮し、女性から頂いた好意は漏らさず気付き」
光彦「この胸でしっかりと受け止め、育み、倍にしてお返しする」
光彦「そんな紳士な男のハーレムってないと思いませんか?」
光彦「それはなぜか――まあ、理由なんか今は関係ないです」
光彦「とにかく僕はコナン君、主人公というだけでモテまくるあなたが憎かった」
光彦「あなたの灰原さんに対する数々の失礼な所業……許せるものではありません」
光彦「なのに、なぜか灰原さんはあなたに好意を抱き続けている!!」
光彦「歩美ちゃんは初恋をこの世に存在し得ない男に捧げ!!」
光彦「青春の大事な時期に放置された蘭お姉さんは、子守に追われ新たな恋も出来やしない!!」
光彦「こんなクズ男にばかり都合の良い世界、あっちゃいけないんです!!」
光彦「だからあんたのフラグを全部折らせていただいたんですよ!! あははははははははは」
コナン「なん……だと……」
コナン「オメー正気かよ!?」
光彦「僕はいつでもマトモですよ! あんたよりはね!!」
光彦「だからマトモな理由で振られまくったじゃないですか!」
光彦「理不尽に嫌われるよりずっとキツかったでしょう!? リアルでね!!」
光彦「アタシのハツコイなの~、なんて言われたって何のオカズにもなりませんしねぇ!! あはっ」
コナン「――!!」ギリッ
光彦「ああっ、最高ですよコナン君、今の君の顔!! 興奮しすぎて射精ちゃいそうです!!」
光彦「あーっはっはっはっはっはっはっは」
コナン「……」
コナン「オメーは……それでいいのかよ」
光彦「!?」
コナン「こんなことしたって! 結局オメーは誰からも愛されてねーじゃねーか!!」
光彦「……いいんですよ、僕はどうせ死んでますから」
光彦「あなた達のせいでね」
光彦「どうせ歩美ちゃんも灰原さんもそばかすだらけの僕に振り向いてくれることなんてないんです」
光彦「あなた達のせいでね!!」
光彦「僕は博士とコナン君さえ不幸になればそれで十分なんですよ!!」
コナン「……」
コナン「それは違うんじゃねーか? 光彦」
コナン「オメーだって、幸せになりたかったんだろ?」
コナン「オメーは本当は良い奴だよ。だって俺と博士以外の奴は幸せにしてやっただろ」
コナン「世界をめちゃくちゃにすることもできたはずなのに、な」
光彦「……」
コナン「博士にそそのかされてスイッチ押しまくったのは……悪かった」
コナン「オメーがそんなに苦しんでたなんて知らなかったんだ」
コナン「俺、これからは心を入れ替えるよ」
光彦「コナン君……」グズッ
コナン「だから、全部元に戻そう」
コナン「俺も……オメーも真っ当に幸せになれる、本当の世界に」
光彦「……コナン君」
光彦「ありがとうございます」
光彦「でも、どうすればいいのかわからないんです」
コナン「え……? オメー、世界を作り替えられるんだよな?」
光彦「あれは、コナン君を絶望させるための嘘なんです」
コナン「は!?」
光彦「よく考えてみてくださいよ」
光彦「あなたの周りで起きたことは、博士の逮捕と僕の死さえあれば自然に起こり得る出来事でしかなかったんです」
光彦「博士が逮捕されたのだって、どう考えても自然の摂理でしょ?」
光彦「別に誰かが意図的に手を下すまでもなく、ね」
コナン(なんだと……)
コナン(……)
コナン(確かに、黒の組織が博士の逮捕なんていうアホな理由で潰れたせいで)
コナン(ドサクサに紛れて逃げ果せたジンが用務員として蘭と出会ったし)
コナン(歩美が元太にほだされたのはこいつらが同時にいなくなった寂しさからだ)
コナン(そしてロリコンは犯罪者の代わりに灰原の保護者の座を……)
コナン「……」
コナン「待て、そっちの方が絶望するんだけど」
光彦「とにかくそういうことなので、僕に何かできるかどうか……」
コナン「……」
コナン「もう一度これを使ってみよう」スッ
光彦「ひ……っ!! スイッチ!! い、嫌です!! もうあんな風に苦しみたくない!!」ガタガタガタ
コナン「落ち着け、光彦」
コナン「これを作ったのはショタコンこじらせた博士じゃねえ、オメーになんか興味ないただのロリコンだ」
コナン「だからさっきも服が燃えて全裸になる程度で済んだだろ?」
光彦「た、確かにそうですけど……でも……」
コナン「大丈夫、俺たちならできるさ」
コナン「博士がオメーを虐待しない、オメーも苦しんで死んだりしない」
コナン「みんなが幸せになれる世界に、戻すことがな!!」
光彦「コナン君……!!」
コナン「行くぞ……」
コナン・光彦「せーの!!」
ポチッ
ゴオオオオオオオオオ
コナン「光彦ォォォ!!」
光彦「――ああ、心地良い炎です」
光彦「コナン君……ありがとうございます」
光彦「僕も……僕たちも……幸せになっていいんですよね……」
コナン「光彦の中からたくさんの光彦が炙り出されている……」
コナン「光彦が……浄化されているのか……?」
コナン「熱っ……!!」
・
・
・
・
蘭「コナンくーん! 早く起きなきゃ遅刻しちゃうよー!」
コナン「……!!」ハッ
コナン「夢……」
カチャ
コナン「……?」
コナン「これは……スイッチ? 焦げてるけど……」
コナン「夢じゃなかったのか……?」
・
・
・
コナン(世界は元に戻っていた)
コナン(まるで、長い長い悪夢から醒めたように)
コナン(蘭は新一を健気に待ってくれているし、歩美は俺を慕い、元太はうな重一筋)
コナン(光彦は少年探偵団の仲間として、みんなと仲良く過ごしている)
コナン(博士が善良な真人間であるだけで、世界はこんなにも美しくなるんだ)
コナン(ま、お陰で組織の問題は全く解決していないが、謎は俺が自分の力で必ず解いてみせる)
コナン(――きっとこれが、この世界のあるべき姿なのだろう)
コナン(ただ一つだけ変わったのは、俺が自分の本当の気持ちに気付いたこと――)
・
灰原「おはよ……」フワアアア
コナン「おいおい、また寝不足かあ?」
灰原「しょうがないでしょ、解毒薬の研究とかいろいろ忙しいのよ」
コナン「あんまり無理すんなよ? オメーが倒れちゃ元も子もねーんだから」
灰原「あら、心配してくれてるの? 今日は台風でも来るのかしら」クスッ
コナン「バーロ、心配するに決まってんだろ」
灰原「えっ……」ドキ
コナン「だってよ、俺はオメーのこと――」
??「哀さん、体操着忘れてますよ」スッ
コナン「は?」
灰原「やだ、気づかなかったわ」
コナン「なんでオメーの忘れ物を昴さんが持ってくるんだよ!?」
灰原「そういえばあなたには言っていなかったわね」
沖矢「私たち結k」スネゲシッ
沖矢「~~~~っ」
灰原「博士ってば、クライアントの開発室に一ヶ月ほど泊まり込まなきゃいけなくなって」
沖矢「隣人の私が博士の留守を預かることになったんです」
コナン「」
灰原「私は一人で大丈夫だって言ったのに、博士が勝手に頼んだのよ……」ハァァァァ
沖矢「……そこまで嫌そうな顔されたら、いくら私でも傷つきますよ」
灰原「あら、そういう扱いがお好きなんだと思ってたけど」ジト
沖矢「やだなあ、私そんな変態に見えます?」
コナン「……」
灰原「ま、一人でいて博士に心配かけるよりはマシだから……仕方なくよ、仕方なく!!」
歩美「コナンくーん! 哀ちゃーん!! 早く行こー!!」
灰原「ほら、工藤君も行くわよ……ありがと、昴さん」
沖矢「いえいえ。お気をつけて、姫」ヒラヒラ
灰原「姫はやめなさいって言ってるでしょ! このロリコンッ///」タタタタッ
コナン「……」
コナン「……おい、どういうつもりだよ」
沖矢「おや、言いませんでしたっけ?」
沖矢「鈍感でデリカシーのない男が何故かモテる時代は終わった、ってね」
コナン「――!!」
沖矢「女性に好かれたいのなら、せいぜい努力することですね。主人公さん?」ニッコリ
沖矢「では、私は姫のために半日かけてビーフシチューを作りますので、これで」
コナン「なっ……な……」ワナワナ
沖矢「ああそうそう、忘れるところでした」
沖矢「博士から預かっていたんです、君にって」
沖矢「くれぐれも悪用しないように……とのことですよ」
コナン「……」
コナン「……」
コナン「……」ポチポチポチポチポチポチポチ
完
ftp://
乙
くれあく
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