真姫「星を見に行きましょう」 (22)
真姫「はぁ…………進路面談、とうとう私の日が来てしまった…………」
真姫「……迷うことなんてないわ。医学部に行って医者になりますって」
真姫「医者になりますって言えばいいの…………」
真姫「……………………」
真姫(…………わからない)
真姫(私、本当に医者になりたいのかしら…………)
真姫(昔から、ママもパパも医者になりなさいって。そう言われてきて…………)
真姫(…………でも)
真姫「ダメね……迷っていては。医者よ。私は医者になる」
真姫「音楽室…………いや、静かな屋上にでも行って、気持ちを落ち着けさせないと」
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―――屋上
真姫(………………まさか誰かいるとは思わなかったわ)
希「……………………」
真姫「……………………ねえ」
希「……………………あれ、真姫ちゃんやん」
真姫「…………あなた何してるの?」
希「見ての通り。寝っころがって、空を見てるん。気持ちええんよ?」
真姫「そういうこと言ってるんじゃなくて。今は授業中のはずよね?」
希「授業中だったけなぁ?そんな気もするね」
真姫「いやいや、あなた今年受験生でしょう?こんなところでサボってないで授業でなさいよ」
希「まあまあ。机に突っ伏して縮こまーって寝るのと、青空の下のびのび寝るのどっちがええ?」
真姫「それは……のびのび寝れるならその方が…………」
希「やろ?どうせ寝るならのびのびしたい。だからね、ウチはこうして、屋上に来てのびのび寝転がってるのだ!」
真姫「あなたねぇ…………普段から授業も寝てるの?」
希「そんな寝てないよ。三分の一くらいかなぁ……英語はいっつも寝てるんやけど」
真姫「…………なんか心配になってきたわ」
希「大丈夫、大丈夫。ウチはラッキーガールやから。選択肢があれば百発百中!」
真姫「……………………」
希「信じてないなー?今度見せたげる、ウチのパワーを!」
真姫「……はぁ、あなたっていつも幸せそうね」
希「そうやろ?いやー最近絶好調なんよ。辛気臭い顔してる今の真姫ちゃんにも分けてあげたいわぁ」
真姫「……………………本当に幸せなヒトね……」
希がもはや別人やん…
真姫「あれ、リボンはどうしたの?」
希「リボン?ああ、家において来たんよ。つけるの面倒だったし」
真姫「面倒って言うほどの物じゃあないでしょうに」
希「なんか暑苦しいやん、ああいうの。それにな、首元を締めると大地からの気の巡りが悪うなって―――」
真姫「ああ、わかったわかった。とにかく面倒なのね。第二ボタンまであけてるのも面倒なのかしら?」
希「単純に気持ちいいから。風と土地からあふれるパワーがね、胸元をふわって通り抜けるん」
真姫「締めなさいよ。女子高だからって、あけ過ぎよ」
希「やーん、ずっと真姫ちゃんウチの胸見てたん?エッチ!」
真姫「見てないわよ。何が楽しくて、人の胸じろじろ見てなくちゃあいけないの……」
希「ウチは結構楽しいよ。ニコッちと絵里ちの胸を交互に見ると、特に」
真姫「そう……」
希「ほらほら、隣空いてるよ。寝ころんでみよう?」
真姫「いいわ、遠慮しとく。一緒にサボってるみたいに見られそうだし」
希「そういわずに。あ、立ったままでいいってことは、スカートの中見せてくれるっていうことやね?」
真姫「違うわよ……」
希「そのままでええよ。見える位置までウチが動くから」
真姫「……ああもう、わかったわ。寝ころぶからじっとしてて」
希「はーい」
真姫「……………………」ゴロン
希「……………………」
真姫「……………………
希「どう?気持ちいいやん?」
真姫「そうね。風が吹いて――――――」
希「…………そういえば、真姫ちゃんもサボりやん」
真姫「私はサボりじゃないわよ。一年生は今週いっぱい最後のコマがカットなの」
希「どうして?なんかあったっけ」
真姫「進路面談よ。ひとりひとり個別に先生と面談するから、時間がかかるらしくて」
希「もう進路面談なん?ウチのときは二年生からだったけどなあ」
真姫「学校の配慮なんじゃない?廃校するかもしれないから、できるだけ現役で進む先を決めてほしいのよ、きっと」
希「ああ、そうやね。廃校になったら、どこどこに行きます報告もできないもんね」
真姫「一年生の末には文理を決めるようにって。十分に授業を受けないまま決めろだなんて、おかしな話よね」
希「えらく駆け足なんね」
真姫「でしょう?」
希「うん。それで、真姫ちゃんはどうするん?文系?理系?」
真姫「それは………………」
希「やっぱり理系の医学部?」
真姫「………………」
希「……………………」
真姫「………………そうね。ずっと昔からの目標だもの。今日だってそういう話をするつもり」
希「……………………そっか」
真姫「……………………」
希「……………………」ジー
真姫「……………………な、何よ。人の横顔をじろじろと見て」
希「…………ううん。なんでもない」
真姫「………………そう」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「……………………ウチな、一年生のころは文学部に行きたかったんよ」
真姫「…………唐突ね」
希「唐突かな」
真姫「……………………」
希「……………………」
真姫「…………あなたが文学部?」
希「そう、文学部。意外な感じがする?」
真姫「……まぁちょっとだけ」
希「文学部に行ってな、日本の古典を勉強したかった」
真姫「古典、得意だったの?」
希「全然。得意でもないし、昔の文法とかそんなのには全く興味なかったよ」
真姫「それならどうして」
希「……古典の中にはな、妖怪とか、神様とか。そういう、今ではほとんどの人が見えないものが書かれていて」
希「今の小説とか漫画とか、そういうのとは違って。昔の人の日常生活の中に、するっと当然のように出てくる」
真姫「……………………」
希「ウチは授業で読んでて思ったんよ。昔の人はみな、不思議なものが見えていて、共存してたんやろうなって」
希「それから、どんどん読んだ。夢中になった。文法は苦手やったから、現代語訳されたのばっかりやったけど」
真姫「それで、大好きな古典を大学でも学びたいってなったのね」
希「そう。でも甘かった。実際に読むのは古文。勉強しても全然読めるようにならなかったんよ」
希「それに、ウチが好きな摩訶不思議なのものがでるのはごく一部。合戦ものとかのほうが多くて」
真姫「……………………」
希「それでな、結局一年生の終わりにやっぱりやめようってなったん」
希「別に悲しいとか、そういうのはなくてね。他にもっと、ウチに向いていて面白いことがあるはずだって」
希「真姫ちゃんは古典は好き?」
真姫「私は―――別に。嫌いってわけでもないけれど」
希「えーそっかぁ。好き言うたら、延々と古典の面白ーい話をしようかと思ったのに。河童とか天狗とか出てくるやつ」
真姫「まぁ、興味が出てきたら聞かせてもらえるかしら」
希「うん、ええよ。話せる日を楽しみにしとく」
真姫「……………………」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「……………………真姫ちゃんはなにがいい?」
真姫「何がよ」
希「好きな教科とか」
真姫「好きな教科。そうね…………数学かしら」
希「へぇ、音楽やないんやね」
真姫「っ…………な、流れよ流れ。あなたが古典の話するから、座学だと思うじゃない」
希「別に座学じゃなくてもよかったのに」
真姫「座学じゃないのも含めても数学よ」
希「家庭科とかは?ウチ家庭科も好き」
真姫「…………どうせ調理実習でおいしいもの食べれるから、とかでしょう?」
希「その通り!ウチは料理は苦手なんだけどね、他の班から少しずつもらって食べるん。三年生では、なんでやらないんやろね?」
真姫「三年生は調理実習とかしてる場合じゃないでしょうに」
希「息抜きとして必要やん?……ところで、真姫ちゃんは数学のどこが好きなん」
真姫「正しい答えが一つしかないところ。そこが好き」
希「答えが一つだけ、か。現代文とか世界史の記述とか、人によってまるっきり答えが違うこともあるもんね」
真姫「そうそう。この言葉が解答に入ってれば、あそこの解釈が違ってもいい。そんなふらふらしたのが答えなのはイヤなの」
希「なるほどなあ、マジメな真姫ちゃんらしい意見やね」
真姫「そうかしら。やっぱり、答えがあるなら一つにびしっとしてもらわないと」
希「うんうん。答えは一つできっちりと。真姫ちゃんらしい。ウチはふらふらしてるのも嫌いじゃないけど」
真姫「……………………」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「……………………」
真姫「……………………あそこの雲、アルパカみたい」
希「ホントやね。ことりちゃんに見せたら喜びそうやん?」
真姫「そうね」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「……………………二年生になって、ウチはいきたい学部がまるっきり変わったん」
真姫「…………どこに行きたくなったの?」
希「どこだと思う?」
真姫「………家庭科の話をしていたし、調理学校とか?」
希「料理苦手って言ったやん。あんね、なんと古典でも調理でもなくて―――――物理学部、その中でも天文学科に行きたくなった」
真姫「………急ね。文学部とはまるで正反対じゃない」
希「ね、自分でもちょっとビックリした。一年生の時と全く方向が違うやんって」
真姫「でもどうして天文?」
希「星に魅入っちゃったっていうんかな?」
真姫「星に魅入った?」
希「星って言うのはな、すごい力を秘めてん。別に質量が―――とか熱が―――とかやなくて」
真姫「うん、なんとなく。なんとなくだけどあなたの言いたいこと、わかるわ」
希「昔から人は星からその力をもらってきた。オリエントでもヨーロッパでもアジアでも」
真姫「占星術とかかしら」
希「そうそう。星々の示しは天の示し。占いによって、天からパワーをもらってたんやろうね」
真姫「世界史の授業でも少し触れていたわ。古代の文明は占星術が物事をする際に重要視されていたって」
希「……ウチ、世界史の授業とかもうすっかり忘れた」
真姫「…………まったく」
希「まぁ、とにかく。二年生ではウチは星に強く惹かれたんよ」
真姫「そう、星にねぇ…………これも授業か何かで?」
希「まぁ授業でも惑星運動をやってたけど。でも、一番の理由はそのころ星をよく見てたからかなあ」
希「……二年生になってから、一人で星を見に行くようになってん」
真姫「星を見に行く?プラネタリウム?」
希「ううん。普通の公園に行って、そこで星空を見るんよ」
真姫「ああ、天体観測ね」
希「天体観測って言うほどのもじゃあないなぁ。望遠鏡も使わずに―――ホントにただ見るだけ」
真姫「……………………」
希「深夜に不意に目が覚めたとき。もう一度寝ようと思うんやけど寝付けない」
希「そんな時に家からふらっと出て、星を見に行ってた。途中であったかい缶コーヒーを買って
希「それでな、星空を眺めていると、何かパワーがもらえてん。なんだろう、不安だったのかな―――それも薄らいで」
真姫「ありきたりな表現だけど、吸い込まれそうな感じ?」
希「そんな感じかも。星の魔力かな」
真姫「―――私もそういうことある。夜中に眠れない時に、ベランダから望遠鏡をのぞくの。吸い寄せられるようにね」
希「そうなん?そっか真姫ちゃんもかぁ。そんなら、今度夜中にこっそりとさ。一緒に星を見に行かへん?」
希「今なら、のぞみんパワーで流れ星もざっくざく!願い叶えほうだい!」
真姫「…………まあ、パワーうんぬんは置いといて―――あなたとなら、落ち着いて静かに星を見られそうね」
希「落ち着いて?静かに……?真姫ちゃんが望遠鏡をのぞいてるときに、ウチが後ろから何するかわからんよぉ?」
真姫「…………やっぱり行きたくない」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「ウチな、一年生の頃は一人暮らしに慣れなくてね。知らない環境で一人、本当にどうしていいかわからなくて」
希「ずっと緊張気味だったっていうんかな。自分の家の中でさえも力が抜けなかってん」
真姫「……………………」
希「だから、家の外になんてほとんどでなかった。家の中でも参ってたからね」
希「近くに評判のお肉屋さんがあるのも知らなかった。このウチとしたことが!」
真姫「……本当にお肉好きよね」
希「毎食でも行けるよ」
真姫「……そう」
希「二年生になって色々勝手がわかってきて、一人暮らしもずいぶん慣れた」
希「ちょっと生活に余裕が出てきて。外を用もなくいろいろと歩き回って」
希「そこで初めて気づいたんよ。美味しいお店、カワイイ服屋、便利な雑貨店―――そして星空が見える公園」
希「時間が経ってようやくこの街が見えてきた。っと…………真姫ちゃんはずっとこのあたりに住んでるんだっけ」
真姫「そうよ」
希「そんなら、ウチよりもっともーっとたくさん、この街の素敵なところを知ってるんやね」
真姫「……かもしれないわね」
希「よし、オトノキツアーを企画しないと。真姫ちゃんに連れられてね。ウチが様々なスポットを回るんよ」
真姫「何よそれ」
希「代わりにウチのスピリチュアルツアーにご招待!」
真姫「神社めぐりでもするの……?」
希「神社だけやないんよ?あちこちに気がもらえる地点があるん」
真姫「あなた、すでに私よりもこの街に詳しそうじゃない?」
希「そんなことないよ。ウチ西木野総合病院までひとりで行ける気がしないもん。真姫ちゃんなら余裕やん?」
真姫「それはまた別のはなしでしょう…………」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「……………………あの雲、三角で―――まるでおむすびさんみたいやん?」
真姫「……かよちんに見せたくなるわね」
希「そうやね」
真姫「……………………」
希「……………………」
真姫「……………………」
希「…………それで、いろいろ言ったけれど天文は二年生で終わり。物理で赤点連発して…………あはは」
真姫「…………それは勉強不足なだけよ。諦める理由にならないわ」
希「まあそれ以外にも理由があって。最近夜中に目が覚めることがなくなってん」
希「だから、夜中に星も見に行くことがなくなってね。なんでだろう、三年生になってから本当に起きなくなったんよ」
真姫「一人暮らしになれたからじゃない?」
希「それもあるけど…………近頃、心細さがなくなったっていうんかな、なんて」
真姫「……………………」
希「…………まあそれで、星をあまり見に行かなくなって。だからかな、興味が薄らいできちゃったんよ」
投下いったん終了です
乙乙
地学はマイナー
乙
やっぱsid基準の希が一番だなー
こっちの希もすき
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