大蜘蛛「人里に近い森に住み始めて云百年」(123)
大蜘蛛「この森もずいぶん穏やかになったものだな」ガササ
大蜘蛛「さて……」ドロン
男「……」クルリ
男「うむうむ……今日も見た目的には問題無さそうだ」
男「見回りと食料でも集めに行って来るとするか」
男「よっと」バッ
男「……」ヒュゥゥゥゥ ダンッ
男「流石に人間が来たとしても、あの高さの岩山には登らんだろうし……いやはや良い住処を見つけられたものだ」
野犬ABC「ハッハッ」パタパタ
男「これこれ、付き纏うでない」
男「気性の荒い者ばかりだったが……我ながらここまで静かな森になるとはなぁ」
男「ここ二百年は人間達も狼やら何やらの討伐に来る事もなし」
男「良き平和かな……」
男「……」ピクッ
男「誰かおるな」バッザザッ
町人「ふぅ……薬草はまだ必要か?」
町娘「うん、これだけあれば大丈夫かな」
町人「まだ持っていけるしもっと集めようか?」
町娘「ううん、むやみやたらに採ったら罰あたるって」
町人「何言ってんだか……今時そんな話を信じる奴なんていねーよ」
町娘「ぶぅ……」
野犬ABC「ハッハッ」
男(脅かすぐらいに済ませるのだぞ)スッ
野犬A「ガウッガウッ!」ガザァ
町人「ひやぁぁぁぁ?! うあああぁぁぁぁ!」ダダダッ
町娘「ちょ、え、あー!」
野犬B「……」ザザ
野犬C「ハッハッ」ガザ
町娘「う、あ……」ガタガタガタ
野犬A「ハッハッ」
野犬B「……」クルッ
野犬A「ハッハッハッ」ガザザ
町娘「?? も、戻っていく……? はっ! い、今のうちに!」ガサゴソ
男「よしよし」ナデナデ
野犬A「クーンクーン」ハタハタ
野犬B「……」チョコン
野犬C「ハッハッ」パタパタ
男「さあ、お行き。人は襲うでないぞ」
野犬A「ワンッ!」クルッ
野犬B「……」ダッ
野犬C「ハッハッハッ」タタ
大量の蜘蛛の巣「」モサァ
男「む……」
男「随分と多いな……あまり良くは無いな」
男「よっ」バサァ
蜘蛛達「」ワラララ
男「一箇所に溜まり過ぎだ。少し離れろ、ついて来い」
蜘蛛達「」ゾロロロ
男「……」ブチッ
男「……」シャクッ
男「うむ、甘くていいリンゴだ」シャクッ
男「いやはや、人間が持ち合わせる味覚がこれほど素晴らしいものだとは」
男「……」シャク
男「む……」
オークA「ぐぬぅ」ガササッ
オークB「本当にこんな静かな森にいるのかよぉ」ガサ
オークA「話だとなぁ……なんとしてでもここにいる大蜘蛛を魔王軍の傘下に入れないと、四天王炎様に焼き豚にされちまう……」
オークB「いっその事、逃亡しないか? 無理過ぎんだろ、これ」
オークA「逃げてどうすんだよ……勇者や兵隊に狩られるだけだろ……」
男「……」ガツガツッ
焼き豚AB「」ジュゥゥゥ
男(最近は魔物が多いな……魔王なる者が復活したという噂は本当のようだな)
男(この森に居付かれても困るが完全に遮断するのは難しいのだろうな)
男(町にも危害が及ぶだろう、何とかしたいものだがはてどうしたものか)
男(思いつかんな……しばらくは確認次第排除する他あるまい)
男(お、そうか……)
大狼「で、俺を呼び出した訳か」
男「魔物のみしか認めんが、いれば食い放題だ。人に手出しせんなら好きなだけ食らってよいぞ」
大狼「まあ治めている場所が無いから構わんがよ……」
崖上の岩穴
男「……」ビュンッ スタッ ビュンッ
男「む?」ヒュゥゥ ダンッ
少女A「あ、大蜘蛛様ー! お久しぶりですー!」
少女B「大蜘蛛様、お久しぶりでございますわ」
男「雀と鴉の娘か。どうしたのだ?」
少女A「はい! お伝えすべき事がありましたので」
少女B「こうして馳せ参じました」
男「えーと……そうしたら地理的に近いほう、雀の娘から聞こうか」
少女A「はい。うちの森の主、大鷹様よりご報告です」
少女A「魔王軍が接近したが為、これを強襲す」
少女A「全滅到らず、残党軍は何処かへ進軍」
少女A「不意の襲撃に備えよ。との事です!」
男「西の森に軍が出たか……そう遠くない内にこちらにも来そうだな」
男「うむ、大鷹には感謝を伝えておいてくれ。使いの褒美に固めた蜂蜜の飴をやろう」
少女A「わーい!」
男「鴉の娘の方は?」
少女B「我が森の主、蛇様より」
少女B「勇者と名乗りし人間の一行と接触」
少女B「我々主に対して好戦的で無かった事を報告」
少女B「これでもって借りは無しだ」
男「あの馬鹿者はそれで我を襲った詫びになると思っているのか」
少女B「残念ながら……」
少女A「以前、襲撃されたんですか?」
男「うむ、この森を奪いにな。返り討ちにしてやったわ」
男「全く、元々人間が来ようと襲ったりせぬわ……不等価につき却下」
男「情報料に煎じた薬をくれてやると伝えておくれ」ゴソゴソ
少女B「畏まりました」
男「あったあった。傷薬と滋養強壮剤、それに解毒剤だ」ゴソ
少女B「解毒剤は当て付けですか?」
男「うむ」
大蜘蛛「……」シャシャシャシャ
大蜘蛛「やはり広い範囲の見回りはこちらのが楽だな」
大蜘蛛「さて……この辺りも問題なし、と」
大蜘蛛「後で森入り口の橋の辺りも見なくてはいかんなぁ」
大蜘蛛「今日は北西の岩山辺りまでにするか」シャシャシャシャ
狩人「」ガタガタガタガタ
男「お、調子はどうだ?」
大狼「ああ、いい感じだぜ」
オークABCDEFG「」
男「……魔王軍はオークしかおらんのか」
大狼「いや、ゾンビと骸骨とリザードマンがいたが俄然、食欲をそそるのはポークというだけだ」
男「ふむ……ちゃんと軍の体で来ているのか」
大狼「オークとリザードマンの将は食いちぎってやったぞ」
男「思ったよりも弱いのだなぁ。取り越し苦労ならいいが……少々町の様子も気にかけるべきか」
大狼「物好きな奴め……人間は人間の軍が守るだろうよ」
男「規模こそそれなりとは言え末端の町だ。そう手堅くは守られまい」
男「どれ……あっちも見てみるか」
少女「はぁはぁはぁ!」タタタ
少年「早く! こっち!」
リザードマン「……」ダダダ
大蜘蛛「……」ガザザザ
少年「う、うわああああ?!」
少女「きゃあああああ!」
大蜘蛛(なぬ?! 何故こんな奥地に?!)
リザードマン「!! 森の主か! 今ここで!!」
大蜘蛛「シャァッ!!」バッ
リザードマン(早っ)ガブッ
リザードマン「あ……ぐ……か、らだが」ピクピク
少年「あ……ああ……」ガタガタ
少女「ひぃっ!」ブルブル
大蜘蛛「……」ズズズ
リザードマン「」ズルズル
少女「ひぁ……」ガタガタガタ
少年「! い、今の内に逃げよう!」
少女「う、うん!」
大蜘蛛(やれやれ……行ってくれたか)
大蜘蛛(しかし少々厄介な事になったものだな……)
大蜘蛛(私の存在が見られた事は元より、魔物がこの森にいる事が知られたら討伐隊が押し寄せてくるだろう……)
男「お、ここにおったか」
四十雀A「あ、主様ー!」
四十雀B「主様こんにちはー」
四十雀C「主様どうしたのー?」
男「最近、魔物が出現しておる。人間側に危害を加えられるのも、森に居付かれても困る」
男「他の仲間達と共に周囲の見回りをしてもらいたい。何かあればすぐに私に連絡を」
男「報酬は種子や虫を毎日餌箱に入れておこう」
四十雀A「わーいっ餌探す必要ないんだー!」
四十雀B「お仕事頑張るっ」
四十雀C「おーっ!」
男(一先ずは、といったところか)
大狼「ここにいたか」
男「今日は忙しないな……どうした?」
大狼「北の奥地に大ナマズが主やってる山があるだろ」
男「確認せんでもここらの川の上流だ。知らん訳がなかろう」
大狼「魔物の大群が出現したらしい。主は無事だがかなりの魔物の通過を許したそうだ」
男「む……まことなのだな?」
大狼「嘘言ってどうすんだよ……太刀打ちできねーって昔馴染みとその子分連中がこっちに移ってきたんだよ」
男「面倒な事になったものだな」ハァ
大狼「どうするつもりだ?」
男「愚かな者共には見せしめてやらねばならんだろうな」
男「その馴染みと部下、まとめておいてもらいたい」
男「無論、私も尽力するが相手の数如何では、この森の猛獣達も動員して総力戦にもつれ込むだろう」
大狼「まー可能性の範囲なら俺もそう思うよ。無いとは思ったが臆病風に吹かれることがなくて良かったぜ」
男「あまり私を見くびるなよ」
大狼「はっ。あんたにゃあ期待してんだよ」
四十雀F「北の山の麓にて大量の魔物を確認ー。南下している模様ですっ」
男「来たか……」
雀「大蜘蛛様ー!」
鴉「大蜘蛛様っ!」
四十雀F「あ、別のとこの鳥ー」
男「おお、丁度いいところに」
少女A「大鷹様が心配してらっしゃいましたよ~~」ボンッ
少女B「蛇様は死んでくれれば清々すると言いつつ、私に"大蜘蛛様"への使いを申し渡しましたよ……」ボンッ
男「あの爬虫類……何がしたいのだ。あまのじゃくだろうか?」
男「可能であれば私一人で片付けるつもりだが、難しそうであれば森の総力を挙げて敵を叩き潰す」
男「相当数の敵であれば、北の森も進軍だけで相応の被害が出ているはずだ」
男「しかし実際は迎撃するには多くも、被害は言うほど甚大でないと聞く。恐らく慌てるほどの数ではなかろう」
少女A「大蜘蛛様本当にでっかいですもんねー。魔物なんてけちょんけちょんでしょうか?」
少女B「そういえば……その、大蜘蛛様は一体? 魔物の一種なのでしょうか?」
少女A「あるいは妖怪ー?」
四十雀F「ヨーカイ?」
少女B「何よそれ……」
少女A「東の方の化け物ー」
男「さて……私が何処に属するかは分からんな」
男「ただ恐らくであるが、地上において私の同族はおらんだろう」
四十雀F「主様どういう事ー?」
男「私はな、地獄に住む蜘蛛だからだ」
少女AB四十雀F「……」
少女A「……ヘー」
少女B「……ソウナノデスカ」
四十雀F「……スゴーイ」
男「待て、本当だ。ちゃんと説明するから私から退くな」
男「地獄は人間達にとって概念的な存在なのだが、国々によって異なる考え方の地獄が本当に存在しているのだ」
男「何とも不思議な話だ。多大な存在承認を経て具現化……あるいは逆に概念的に伝わってきている……」ブツブツ
少女B「大蜘蛛様……本題から逸れています」
男「おお、すまない。既に私がいた地獄も何処の国のものであったかは覚えておらんが」
男「そこでは死者はまず地獄の入り口に向かい、そこで所謂天国と地獄のどちらに進むのかの采配がされるのだ」
男「我々は七つ目蜘蛛と言われてな……死者が現れる場所から地獄の門までの道に茂る草や苔」
男「それを食らって生きている蜘蛛だ」
少女B「地獄で生きる蜘蛛、ですか……」
男「我々は地獄で生きる為にその目の一つを地獄の王に差し出した。だから七つ目蜘蛛は目が七つなのだと」
男「地獄の者共が言っておったが、まあ……事実に合わせた伝承のようなものなのだろうな」
少女B「だから他に類を見ない大きさなのですね」
少女A「でもどうして地上へ?」
男「……それがよく覚えていないのだ。恐らく冥界の扉が勝手に開いて、現世に放り出されたのだろう」
男「最もどう考えたところで、どの道、簡単には戻れんしこの生活も悪くないからな」
四十雀F「……? でも主様魔物食べてますよねー」
男「人に化けられるようになってからは肉の味を覚えてしまったからなぁ……ああ、そうか。私はもう七つ目蜘蛛としては生きられんな」
少女B「というよりもその地獄では、大蜘蛛様のような大きい蜘蛛がわらわらと……?」
少女A「死者ビビるよねー」
男「いや私ほどの大きさはおらんかったなぁ。人に化けられるようになり、様々な栄養素を得られるようになった事で長寿と比例した成長をしたのだろう」
男「さて……本題に戻るか。こちらは問題ないだろう、と大鷹と蛇に伝えておいてくれ」
少女A「分かりましたー」
少女B「伝えておきます」
男「言った手前、快勝しなくてはな。そろそろ準備をするか」
少女B「万に一つ無いとは思いますが、この森が決壊すると恐ろしく面倒な事になりますからね」
男「分かっているよ。ここ最近、他所も人の出入りが減って落ち着いてきているのだ」
男「今更荒らされるような事になるなど、断じて見過ごす事などできんさ」
少女「……」
男「どうだろうか?」
少女「朽ちた石橋を進行中」
少女「昼までには森の北側に到達する模様です」
男性「あれはかなりの数ですよ……町の人間の数が少なく思えるほどです」
男「ふぅむ……念の為に全戦力を当てられるようにしておくか」
男「よし、戦えぬ者達を南側に誘導してくれ」
ヒヨドリ「分かりました」ポンッ
鳶「どうか御武運を」ボンッ
大狼「はなっから総力戦か……? そんなに多いのか?」
男「どうだろうか……だが少々、取りこぼしの不安があってな」
男「狼達は前衛に。敵の数が膨大であれば罠の地帯に誘い込め」
男「後方に猛禽類配置。敵が侵攻してきたら木々を死角にし強襲せよ」
男「さて……」ズオォォ
大蜘蛛「始めるとしようか」
リザードマン「あの森か……蜘蛛の主がいるというのは」
ドラゴン「なぁに虫けら如き、我々が焼き払ってくれる」
オーク「おい、今何か森で動い」シッ
リザードマン「な、なに」ズルゥ
ドラゴン「か、は」ドザ
オーク首「」ゴト
オーク「あ、あわわ、わわわわわ」
大蜘蛛「……」ジリ
リザードマン「ひっ!!」
ドラゴン「やろぉ……」コァ
ドラゴン「焼き払え!」ゴァァァァ
ドラゴン「ガアアアアア!!」ゴァァァァ
大蜘蛛「……」カサササササ
リザードマン「は、早い!」
オーク「オイ! よく狙」ザンッ
ドラゴン「む、無理だこんなや」ドズッ
リザードマン「ひ、引け! 後続と合流して数で押し切るしかない!」クルリ
大蜘蛛「……」ザザザァ
リザードマン「ハヒッ!」
オーク「ま、まま回り込ま」
大狼「けっ、あいつだけでいいじゃねーか」
黒狼「なんなんだありゃあ……化け物か」
大狼「ま、大して変わんねーよ」
大狼「とは言え、あいつの言うとおり取りこぼしはちと不安だな」
大狼「何時でも飛びかかれるようにしていろよ」
黒狼「ほざけ……お前に言われるまでもない」
狼「グルルル」
狼「フウゥゥ」
大蜘蛛「……」ザンッザシュ
大蜘蛛(ふーむ……予想以上に弱い)
大蜘蛛(私一人で何ら問題ないな)
オークマジシャン「ファイヤーボルト!」
大蜘蛛「……」ドカカカ
大蜘蛛「……」ヒュン
豚竜竜人首「」ポーン
リザードマン「おいっ! どういう事だ!」
オークマジシャン「つ、強すぎる! 俺達じゃ太刀打ちできるレベルじゃねえ!」
リザードマン「た、退却! 退却!」
大蜘蛛(反撃の備えや他を荒らされる事になっても困るな……)バッ
ドラゴン「ヒギャ!」ゴシャ
オーク「ひぁっ」ザンッ
スケルトン「お、おいおい……前列は何を」
ワーウルフ「な、なんだあの蜘蛛は」
リザードマン「逃げろ! こいつはっ」ザシュッ
大蜘蛛「……」ジリ
スケルトン「むむむ無理だぁ! あんなの!」
ワーウルフ「くそ! 聞いていないぞこん」グシャッ
オーク「え?」
スケルトン「は?」
大蜘蛛「……」ピク
大蜘蛛(なるほど……このタイミングで追撃に出たか)
大熊A「グルルル」ノッシノッシ
大熊B「ガアアア!」
大熊C「……」ガササ
オーク「く、くそ! 熊如きに負け」ゴシャァッ
大熊「ゥゥゥゥ……」
ワーウルフ「に、逃げるぞ!」
オーク「何処へ!」
ドラゴン「くそっ! くそっ! くそがあああああ!」ゴアアアアア
大蜘蛛「……」ササッ
大蜘蛛「……」ブンッ
スケルトン「ガッ!」
ドラゴン「グァッ」
大狼「……」クアァァッァ
黒狼「何も……来ないな」
大狼「この分じゃ撤退する魔物どもへの追撃戦に移行だろうな」
大狼「もうまったりでいいだろうぜ」
黒狼「バカを言え。とんでもない敵の数だぞ」
黒狼「いくらこの森の主とは言え」
大蜘蛛「……」サカサカサカ
大狼「ほぼ無傷で帰ってきたぜ」
黒狼「……」
大狼「どうだったよ」
大蜘蛛「途中より北の森の大熊達が協力してくれた」
大蜘蛛「お陰で手早く始末がついた」
大狼「そりゃ良かったな」
大蜘蛛「しかし、僅かな数の魔物を取り逃がしてしまったよ。だが反撃に出れる戦力ではないだろうが」
大蜘蛛「何より目の前であれだけ戦力差を見せ付けられたのだから、大人しく魔王とやらの元に帰っていくだろう」
大狼「だといいがね」
黒狼「世話になった。この礼は必ず」
大蜘蛛「要らんよ、私は私の森を守ったまでだ」
黒狼「そうか……すまなかったな。お達者で」
大狼「たまにはこっちに顔出せよ」
黒狼「お前が来い。行くぞ」
狼達「……」ゾロゾロ
男「やれやれ……快勝だったとは言え肩が凝る」
男「私はもう帰って眠る」
大狼「お疲れさん。あんがとよ」
男「気にするでないさ」
数日後
男性「まだまだ浅いところではありますが、急に人間が森を出入りしています」
男「一体なんだと言うんだ……」
男性「他の鳥に近くの木に留まりに行かせています」
男「分かった。何か変化があればすぐ私に」
男性「勿論です」ボンッ
鳶「では私はこれで」バササ
男「ああ、すまないな」
男「ううむ……一難去ってまた一難か」
大狼「よう、蜘蛛野郎」
男「今度はお前か……」
大狼「んだよその顔は」
男「いやな、今しがた鳶に人間が森の近くを行き来していると言う話をだな」
大狼「ああ、それそれ。なんか知らんが石組み出してよ」
大狼「野菜や果物と肉置いてったぜ」
男「……? どういう……え? あっ」
肉野菜果物「」ドサリ
四十雀A「おいしそー」
四十雀B「これ人間が食べてるやつだ」
ヒヨドリA「……」ゴクリ
ヒヨドリB「柿だ……柿がある……」
男「あー……」
大狼「なんだ? 心当たりあんのか」
男「祀られている、というところだろうか……」
男「私の正体……あるいは先の戦闘……いや両方? これはもう私の存在は隠しとおせんだろうなぁ」
大狼「どうすんだよ」
男「まあ、祀られている以上は大事にはならんだろうし、様子見でもいいかもしれんな」
少女A「蜘蛛様ー」
男「おお、雀の娘。どうしたのだ?」
少女A「大鷹様がねー」
男「ふむふむ」
少女A「死ね、だって」
男「」
少女A「怒ってたよ?」
男「な、何故に……?」
少女A「大蜘蛛様の事広まっちゃった」
男「えっ!? そ、そんな遠方まで?」
少女A「人間が森には化け物がいるからなんとか……ご馳走しよう! て」
男「えっ」
少女A「大鷹様のところに人間来ちゃって、大鷹様がプンプン!」
男「ぁー……」
男「すまない。諦めてくれ、と伝えてくれ」
少女A「分かったー」
男「はぁ~~~」
鳶「大蜘蛛様?」
大狼「おいおい……シケタ面だな」
男「仕方なしとは言え色々と問題になってなぁ……」
男「他の山や森にまで飛び火するとは……」
大狼「お前の言うとおり仕方ねえんだろ? だったら気にせず、これ以上悪くしねえように気をつけりゃいーだろ」
男「とは言え申し訳が無いしなぁ」
鳶「心中お察しします……」
鳶「それとあまり良くない噂を聞きまして」
男「追加かぁ……」
鳶「何でもとある人間の一団各地の森や山を探索しているとの事です」
男「……? 我々をか?」
鳶「どうでしょうか……かなりの者達のようなので皆、遠巻きに見ている為に詳しい事は」
大狼「なんじゃそりゃ。探し物か?」
鳶「それが何とも……ただ無益な殺生はしないという話らしいですよ」
男「まあそれならそれでいいのだが」
男「ああ……遂に平穏が終わってしまったのだるか」
大蜘蛛「……」
中年「」ガタガタガタ
少女「ひぅっ! ひっぐ!」
大蜘蛛「……」クルリ
大蜘蛛「……」カサカサカサ
中年「た、助けられ、た?」
肉野菜果物「」ドッッッサリ
男「グレードが上がってしまった……」
大狼「何したんだよ……」
男「魔物に襲われている人間を救った」
大狼「あーあ……」
四十雀A「あーあー……」
四十雀B「あーあーあー」
四十雀C「じゅるり」
鳶「このままだと危ない方向にも転じそうですね」
大蜘蛛「かといってな。これが必要ないっていうのをどう伝えたらいいものか」
大狼「この台みてーの壊しちまえよ」
大蜘蛛「それは私が猛烈に怒ってると誤解させて、悪化へ一直線じゃないか……」
大蜘蛛「ああう……どうしたら……」
鳶「私共が旅人に化けてそれとなく探りを入れてみましょう」
鳶「隙があれば何らかの対応も致します」
大蜘蛛「おお、すまない」
鳶「いえいえ。では様子を見てまいります」
数日後
大蜘蛛「鳶達が帰ってこない」
大狼(失敗して逃げたんじゃねーのかな)
カモシカ「……」ツカ ツカ
カモシカ「……?」クルリ
少女「ひぐっ……ぐすっ……」
四十雀「主様主様ー。北の山のカモシカさんが来てますー」
男「え? それ餌探してたらこっちまで来ちゃっただけでは?」
四十雀「人間の女の子連れてたよー?」
男「ほー……」
男「……」
男「!?」バッ
男「どういう事だっ」
少女「ひっ! え……ひ、人……」
カモシカ「……」
カモシカ「……」ツカ ツカ
男(あ、しかも喋れない普通のカモシカか……)
男(とりあえずここの主である私の元に連れて来たという事だろうか……)
少女「あ、あの……あなたは……」
男「……君は一体何処から来たのだね?」
少女「ここから南にある町からです」
男「何のためにこんな深くまで……来てはならないと教わっていないのか?」
少女「あたしはその……この森の主様の生贄、なんです……」
男「」
少女「ぬ、主様に、町を守ってもらえるようにって……」グス
男「」
男(面倒……面倒すぎるだろうこれは)
男「……っはぁぁぁ」
少女「!」ビクッ
男「まずは謝っておこう。私の所為で君を不幸な目にあわせてしまった」
男「本当にすまない」
少女「え? あの?」
大蜘蛛「……」ドロン
少女「!!」ビクッ
大蜘蛛「見てのとおり、私は君達が主と呼ぶものだ」
男「無論、これは人の姿に化けているだけだが」ボンッ
少女「……」
少女「あの……それじゃああたし……」
男「すまない……それは無理なのだ。いや、正確には君を帰してやりたいのだが、きっと幸せにはなれない」
少女「……なんで」ジワ
男「少なくとも町の者達は神に準ずると私を考えて君を差し出した」
男「そんな君が町に戻れば町の者達は、君が私に粗相を働いた等悪く考えるだろう……」
男「君にとっても、君の家族にとってもそれは辛い……いや、帰ってきてくれればこそ、というものもあるか」
少女「……」
男「とは言え、こんなところで暮らせ、などとは到底言えん」
男「どうにかする故に、しばらく堪えておくれ」
少女「……はい」
男「という訳だ」
少女A「ふむふむふー」
少女B「それなら私のところはどうでしょうか?」
少女B「いくつか小さい町がありますので、受け入れてくれるでしょう」
男「後は足か……すまないが北の大ナマズに馬を一頭頼んできてくれ」
鳶「では、急いでまいります」
数日後 岩穴
男「」グッタリ
チョウゲンボウ「おやおや、やる気の無い」
男「珍しいな……」ムク
チョウゲンボウ「楽しそうな事になっているじゃないか?」
男「うるさいよ」
男「というか何しに帰ってきたのだ? 西の方に行くと言ってなかったか?」
チョウゲンボウ「色々と危ないからね。君が居る森の方が安全だろうと踏んだのさ」
男「魔物か……」
チョウゲンボウ「厄介なものだよ。おかげで人間の動きも活発だ」
チョウゲンボウ「壊滅的なところっていうのも少ないだろうけど」
チョウゲンボウ「人の手が入ってしまった場所は少なくないだろうね」
男「彼らからしてみれば、森や山に魔物が大量に潜んでいる、という事態は避けたいものだからな」
男「というかこちらも、これ以上人間達には干渉して欲しくないのだがなぁ」
チョウゲンボウ「まあ頑張っておくれよ」
男「はぁ……まあ頑張るが頑張るのだが終わりが見えんよ」
鳶「大蛇様への引継ぎ、完了しましたので戻ってまいりました」
男「おお、そうか。ご苦労だった」
男「ときに、町への偵察はどういう事だ?」
鳶「ではこれにて失礼」バサッ
男「あーー!」
チョウゲンボウ「全く愉快な所だよここは」
一ヵ月後
少女「……」フルフル
男「嘘でしょ……」
男(いやいやいや早い早い! 間隔がおかしい! 町の人間は滅ぶつもりか?!)
鳶「お呼びですか」
男「至急、大ナマズのところに馬一頭。あと大蛇のところにまた頼みたいと」
少女「しゃ、喋ってる……」
鳶「……なるほど」
男「大蛇には今後継続的に、これで清算とすると伝えてくれ」
鳶「畏まりました」
更に更に数ヵ月後
馬「……」ムシャムシャ
男「……」
大狼「お? この森って馬いたのか?」
男「いや」
大狼「は? じゃあこいつは?」
男「大ナマズのところの」
大狼(遂に譲ってもらう事にまで発展したか)
男「阿呆が……月一で少女を生贄とは狂っている」
大狼「あー……それ絶対この間の戦闘見られていたんじゃね」
男「だろうな。でなければこれほどの事態に発展せんよ」
大狼「まあお疲れさん。今度オークを狩ったら分けてやるよ」
男「気遣いどうも……」
大狼(こいつ結構参ってんなぁ)
四十雀「主様ー」
男「ど、どうした」タジ
大狼「もう報告に来られるだけでそれかよ」
四十雀「森の西の方に人間が四人ー」
四十雀「剣とか色々持ってたよ?」
大狼「討伐隊か? それにしちゃあ少ないな」
男「討伐……ここ最近、魔物は落ち着いているはずだが」
大狼「いや生贄求める化け物の」
男「勝手な被害妄想でそんな……あんまりだ」
面白い
乙
おつおつ
男に変化するって珍しいタイプだね
ホモではないがこういうの好き
おつ
しっとりとした冒険譚という感じ
期待
こういうの好き
続きまってるよ
期待
男「……!?」ゾクゥ
四十雀「ぴゃあ!」パササ
大狼「この悪寒は……」ゾク
男「急ぎ戦力を集めよ!」
大狼「お、おお」
男(並ならぬ魔力……これは一体)バッ
エビルシャーマン「ヒッヒッヒッ」
エビルシャーマン「我々魔王軍に楯突く下等な動物、全て滅せよぉ!」
オークゾンビ「ォァー」
リザードゾンビ「ウー」
ドラゴンゾンビ「ガアア」
エビルシャーマン「ヒャッヒャッヒャッ!」
大狼「召集はしたがよ、2,30分はかか……んだこりゃあ」
ゾンビ軍「アアァァァー」
男「見ての通りだ……」
大狼「まさか人間……?」
男「むしろ魔王軍だろう。まさかのタイミングだな……ふざけおって」
男「連中に同情などしないが、死して尚、彼らに安息を与えずこの仕打ちか」
大狼(まともな事言ってっけど、これ絶対自分の事で怒ってら)
男「あまつさえ私に矛を向けるためだと……」ゴォォ
大狼「どうすんだよ。この間の大軍だけじゃなくて、今まで殺してきた奴全部のゾンビなんだろ?」
男「うむ……そうだな、広大な範囲に大量の敵が散らばっているだろう」
男「この人型であろうと、蜘蛛の姿であろうと掃討は容易ではない。少々、訓練してきた事柄を試してみるとするか」
大狼「あ? なんかあんのか?」
鳶「ぬ、主様!」
男「ああしまった……私とした事がだいぶ気が動転しているな。皆の避難を呼びかけてくれ」
鳶「召集があったので既に行いました。しかしこれは一体」
男「今に片付けるがお前も逃げておくのだぞ」
男「はあっ!」メリメリメキィ
男「ああぁぁぁあ!!」メギギ
大狼「ぉぅゎ……」
鳶「な、なな……」
男「ふーっ! ふーっ!」
大狼「背中から二対の……こりゃ蜘蛛の足か」
鳶「く、口が裂けて牙も……目、目もいくつも」
大狼「人の形を保ったまま、蜘蛛としての力を発揮する的な感じか」
男『あの巨体では小回りが効かんからな……前回以上に散らばっているであろう今回はこちらの方が有利そうだ』
鳶「こ、声音が……」
大狼「どう見ても悪役だな」
男『はあああああ!!』ザザザザッ
エビルシャーマン「な、なんだ、あれは……? 聞いていたのとだいぶ……」
エビルシャーマン「ええい! ゾンビども! 数で押し切れ! 敵は一人だ!」
ゾンビ軍「アアアアア!」
男『はぁっ!』ヒンッ
ゾンビABCDEF首「」ヒュンッ
エビルシャーマン「ぐぬぬ! 蜘蛛の化け物、なのか、あれは……化け物風情が二刀流などしおって」
大狼「おーし、お前ら! 近づいてくるゾンビどもを引き裂け!」
大狼「防衛線の先には行くんじゃねーぞ!」
狼「グルル」
狼「ウウウウ」
鳶「しかし、主様は大丈夫でしょうか」
大狼「万が一にも負けはねえだろ。まあ、あいつにとっちゃ、取りこぼしの多さの方が厄介なんだろうが」
大狼「にしても人間の武器なんざ何時手に入れたのやら」
鳶「我々が購入してきました。人間の姿が立ち回る事もあるだろう、との事で」
大狼「なるほどな」
ヒヨドリ「こちらに向ってくる人間達がいます!」パササ
大狼「あーそんなんもいたなぁ。どうすっか」
鳶「主様の下に行かせてはならない! 何としてでも」
大狼「いや、連中の来る道を開けさせんぞ」
鳶「な、何を仰って……」
大狼「俺達だけで人間が止められるかよ。ただでさえ四人でこの森に入ってくるほどだ。それなりの腕前だろうが」
鳶「しかしそれでは……」
大狼「敵の敵は味方ってな。本当に人間だってんならこの状況、上手い事になってくれっかもしれねえぞ」
男『はああああ!』ザザザン
エビルシャーマン「ええぇい! 根性を見せんかぁ!」
男『……』ギロ
エビルシャーマン「おおっと」
ドラゴンゾンビABCDEFGH「……」ザザ
男(あれでは手を出したら手痛い反撃が待っているな……面倒な)
男(やはり数を減らす事に専念しなくては……)
「な……んだ、これは」
勇者「どうなっている……?」
僧侶「あれは……とても人には」
戦士「蜘蛛っぽいな。蜘蛛だな。化け物の蜘蛛、間違い無さそうだな」
魔法「……が、共闘せざるを得ないわね」
戦士「へえ、どっちをだ?」
勇者「"彼"、とに決まっている! 行くぞ!」
エビルシャーマン「ば、馬鹿な! 何故勇者が!?」
男(勇者……? もしや最近、ろくに殺生もせずに森や山に立ち入っているというのは、大蛇の言っていた……)
男『助太刀感謝する』
勇者「!?」
戦士「人の言葉喋れんのか!」
僧侶「び、びっくりですね」
魔法「え、ええ」
……数十分後
男『はぁっ!』ヒンッ
エビルシャーマン首「」ゴッ
ゾンビ軍「ァー……」ドザザザァ
勇者「このゾンビ……そういう魔物ではなく魔力で強制的に」
戦士「つーか、これはあれか? 魔王軍からしてもこいつは敵っていう認識って事か」
男『……』シュゥゥゥ
男「ふう……思いの他早く片付けられたな。礼を言う」
勇者「あ、ああ……」
勇者「……」
男「……すまないが、私の事は他言しないでもらえないだろうか。ただでさえ今は……はぁ」
魔法「ねえちょっと……」
戦士「ああ、なーんかちげえな。あんた以外に蜘蛛の化け物はいねえのか?」
男「どうだろうか……少なくともここ云百年、この森には蜘蛛の化け物と呼びうる者は私ぐらいなものだが」
勇者「貴方は人間に対し生贄を要求しているわけではないのか」
男「え? ああ……そうか、やはり君達はそういう理由で来たのか」
……
男「という訳でだな」
勇者「……」フー
戦士「町の連中、馬鹿なんじゃね?」
魔法「こればかりは擁護できないわね」
僧侶「……ですね」
勇者「その子達は今?」
男「東の森の周囲にある村や町に送り届けた。報せがないところをみるに問題はないのだろう」
勇者「そうか……彼らの事を守ってくれていてありがとう」
男「なに、私自身に返ってくる火の粉だ。……払って尚、降りかかってきた訳だが」
勇者「町の者達にはこちらで上手く説明しておこう」
男「何から何まですまないな」
戦士「なあに、良いってもんよ」
魔法「にしてもこんな人里近い森にもこのようなモノがいるなんて」
僧侶「まだまだ私達の知らないことばかりですね」
勇者「ああ、世界は広いな……」
戦士「しっかし云百年ってすげえよな。もしかして前の魔王の騒動の時からいんのか?」
男「いや……記憶していないな。何時頃の話だろうか?」
魔法「もうそろそろ千年経とうとしていたわよね」
勇者「魔王出現が九百年ほど前だな。当時は50年かけて魔王を追い込み、封印したという話だ」
勇者「そういえば……封印する時に、一時的に黄泉と繋がったという話らしい」
勇者「前回の大戦で大規模なゾンビ軍というの情報は見受けられないし……」
勇者「もしかしたら魔王が新たな特殊な力を身につけているかもしれないな。より一層注意が必要だな」
男「ほう……そのような……うん?」
戦士「って、おい。長居しちまってんぞ」
魔法「そうね、早く町に戻らないと」
僧侶「それでは私達はこれで」
勇者「これからも町の人々の事を気にかけて頂けると助かります」
男「あ、ああ……元よりそのつもりだ」
戦士「じゃあな、ヌシ様よ」
魔法「こんな事を言う必要もないでしょうけどお元気で」
男「そちらも達者でな。魔王を倒したらまた寄ると良い。君らは客人として持て成したい」
勇者「はは、そするよ」
大狼「どうやら大事にならなかったようだな」
男「彼らを通したのはお前か。すまないな」
大狼「へっ、礼なら見返りで示してもらいたいもんだぜ」
男「私にくれてやれる物などないわ」
大狼「知ってんよ」
男「……まあこれで少しは暮らし易くなるはずだ」
男「それで勘弁しておくれ」
大狼「おお、そうするよ」
一週間後
四十雀「森の南に人がいます。一人です」
大狼「おいこら」
男「お、おかしいな……」
男「しかも一人とは一体……?」
大狼「どうすんだよ」
男「様子を見ようと思う」
賢者「ふむ……」
賢者「あちらの方か」スタスタ
大狼「おおおおい! 一直線にこっち向って来てんぞ!」
男「いやいやいや! 偶然に決まっているだろう! ここを離れるぞ!」
賢者「あちらに移動したか……ふぅむ」
賢者「こちらを回ったほうが早いな」
大狼「おいいいいい! 大岩を回りこんでくるつもりだぞ!」
男「どどどうなっているんだ! に、逃げるぞ!」
加速魔法と探査魔法使われてあっさり追いつかれた
賢者「いや~ようやくお会いできました」ニコニコ
男「……」ダラダラ
大狼「……」ダラダラ
大狼(おい、なんなんだよこいつはぁ! 魔王軍なんかよりずっとおぞましいぞ!)
男(お、落ち着け! 敵意は無いし話合いには応じてくれそうだから……)
賢者「ああ、はい。争うつもりはありませんよ」
大狼男「ひああああ?!」
大狼「なにこいつ怖い! 人間を初めて怖いと思ったわ!」
賢者「!? そちらの狼さんも喋れるのですか?!」
男「なにこの人間、凄く喜んでいる!」
賢者「私、賢者と申します。遥か南にある幻影の塔というところで、彼是百年ほど暮らしております」
賢者「先日、ふらりと旅立ち、立ち寄った町で勇者様方より貴方のお話を聞きまして、是非ともお会いしたく」
大狼「な、なんだこいつはよぉ!」
賢者「知人には好奇心の塊と呼ばれておりましたっ」
男「え? それはもしや私の事を?」
賢者「勿論です!」フンス
大狼「つか、なんで過去形なんだ?」
賢者「私は賢者として研究を重ね、不老とは遠く及ばずとも長寿を得ましたので」
男「なるほど、当時の者は既に……」
賢者「ええ、こればかりは仕方がない事です」
賢者「で、そんな話はどうでも良くてですね、色々とお話しをさせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
男「他言しないのであればいいが、守っていただけますかな?」
賢者「ええ! 当然ですよ!」
一週間後
賢者「本日もよろしくお願いします」
男「」ゲッソリ
大狼「」ゲソ
大狼「何時、ここらから帰るんだあんたは……てか喋れるからって俺まで巻き添えだしよ!」
男「私が知るか……」
賢者「それでは、今日終えたら一度、塔に戻りますかねぇ」
大狼「ま、また来る気だこいつ」
男「何と言う体力……」
賢者「折角ですし、本日は私が答える側になりましょうか。大蜘蛛様から私にお聞きしたい事はありませんか?」
男「うーむ……魔王の事だか以前の争いについて、詳しくは知らないだろうか?」
賢者「全て、ではありませんが調べてはおりますよ」
男「魔王が封印される時の事について詳しく聞きたいのだがどうだろうか?」
賢者「詳細ですか……。当時の我々人間は、今ほど力を持っておりませんでした」
賢者「魔王は魔界より魔物を召喚して魔王軍としており、かなりの苦境に立たされたようです」
賢者「最早捨石、数で押し切ったご先祖方は前衛50、魔術師100の大軍で魔王へと押し寄せていきました」
賢者「結果、僅か数名の戦士の生還と引き換えに魔王を封印した、と」
賢者「使われた魔術はもう世に残っておりませんので実証はできませんが、黄泉と現世の狭間に封じるものだったようです」
男「!」ピク
賢者「と言っても飽くまで私の考察に基づく話ですけどね」
大狼「へえ、どういうこった?」
賢者「その後、しばらくは亡霊などがよく見受けられたという話が各地であったのです」
賢者「当時の人々は魔王に殺され、この地に縛り付けられた人々が解放されたのどうの、と解釈していたようですがね」
男「ふむ……やはりか」
賢者「お話して私も気付きました。大蜘蛛様が現世に現れになった原因は恐らくこれでしょうね」
男「今更知ってもどうにもならんがなぁ」
賢者「お戻りになりたいのでしょうか?」
男「いやまあ、知りたかっただけだな」
賢者「ただ、お気をつけ下さい」
男「何がだろうか?」
賢者「大蜘蛛様は地獄に縁あるお方。ちょっとした弾みに、何らかの作用をもたらさないとも限りません」
賢者「何より魔王が千年近く、現世と黄泉の狭間にいた。これが一体どういう効果を生み出しているのやら」
大狼「どういう事だ?」
男「黄泉に関わる力を得て、それを行使する事により私が巻き込まれるやもしれない、と」
賢者「あるいは行使にあたってキーとなっている可能性も」
男「まあ……分からん話ではないな」
賢者「という事なので努々お気をつけ下さい」
男「忠告感謝する」
男「最も、防衛策も何もないのだが……」
大狼「因みに魔王ってのは今の時代でも脅威なのか?」
賢者「魔王軍の数はそれなりに脅威ですね。それを束ねられる、という点で考えてみても魔王単体は恐ろしいものです」
賢者「が、魔王軍が障害足り得ないとのお話の大蜘蛛様でしたら、魔王でさえ敵ではないかもしれませんね」
男「返り討ちに出来れば話は早いのだがなぁ」
大狼「全くだな」
……
賢者「結局、私ばかりがお話しをお聞きする側で申し訳ない」
男「いや、なに。こちらもとても貴重な情報を聞いたのだ」
大狼「流石に魔王周りの詳細なんぞ、知る由もねえからなぁ」
賢者「それでは私はこれで。また近い内に伺います」
男「ゆ、ゆっくりしてこられても構わないぞ?」
大狼「ああ、大歓迎だな。向こう二十年ぐらいゆっくりして来いよ」
賢者「ふふ、考えておきます。ではお達者で」
男「ああ、君もな」
二ヵ月後
大狼「よう」
男性「こんにちは」
少女「こんにちは」
男「おお、調子はどうだ?」
大狼「最近は魔物も少なくてね。肉の調達が面倒だ」
男「ふむ……オークやドラゴンだけでも誘致するか」
大狼「弱目のドラゴンじゃねえと勝てねえよ」
男「難しいな……」
男性(勝てるのですか)
少女(勝てるんだ)
大狼「お前の方はどうなんだよ」
男「ふっふっふっ、最近は生贄も送り込まれず平和そのものだ」
男「供物も無くしてもらったから、一部の者達から不満は出ているが黙らしておる」
大狼「まあ、そりゃそうだよな」
男性「では我々はこれで」
少女「私達はこれで森に戻らせてもらいます」
男「うむ、すまなかったな」
大狼「何させてたんだ?」
男「町の様子をな」
男「噂だといよいよ彼らは決戦に突入するそうだ」
大狼「? ああ……ほー魔王ねえ。どうなるんかね」
男「どうだろうな……しかし今の魔王軍を見るに倒せるだろう」
大狼「魔王が弱ったのか最近の人間がもろくそ強くなったのか」
男「どちらかというと、当時より九百年かけて生物全体が強くなった、だろうな」
男「少なくとも、私が現世に出てこの森に来た当初など、周囲の森に喋れる主などおらんかったよ」
大狼「ほーそうなのか。年の功ってもんかね、今度からはちょくちょく話を聞きに来るぜ?」
男「意外だな……」
大狼「ここらで暮らすと余暇ってもんが生まれるからな。生きる為に食らうだけの生活じゃ飽きちまうのさ」
更に半月後
男「すぅ……すぅ……」
男「……!」ゾク
男「今のは一体……」ガバ
男「この香り……まさか……私がいた地獄!?」
男「しかしここの地域では違う在り方の死後の世界では……そうか私が原因か?」
男「魔王め、賢者が想定した通りに何かをしでかしたな」
男(しかし私がいた地獄か……あそこにいるのは悪魔の類ではないから大丈夫だろうが)
男(あちらの住人の来訪者が出てくるやもしれんなぁ)
翌朝
大狼「昨日のあれ、やっぱあれなんだよな」
男「恐らくはな」
男「これからしばらく先、何が起こるか見当もつかん。各自、周囲の状況をよく見ておいてくれ」
四十雀A「たまには僕達が町にいくー!」
四十雀B「何か食べ物落ちてないかなー」
鳶「何羽かに伝えて、他の森や山で情報収集に当たります」
男「うむ、任せたぞ」
男「と言って数日……流石にまだ結果は見えてこんし、結果が存在するともいえないか」ウロウロウロ
大狼「落ち着き無さ過ぎだろお前……」
男「しかしなぁ……何か大事が起こらねばいいが……」
大狼「お前にしちゃ随分と珍しいな……何時もならなんとかなるか、て楽観決め込むのによ」
男「私自身の力で片付けられそうな事柄だからだ。今回は本当に先が見えぬ」
男「このあいだのあれは、私の故郷の香りを感じたが必ずしもあの地獄に限る事ではないなしなぁ」ブツブツ
大狼「ここで焦ったって何にもなんねえしどっしり構えてろよ」
更に更に一ヵ月後
鳶「主様!」バサッ
男「来たか!」
大狼「来ちゃったかー」
鳶「来ました! 遥か西、別の人間の国の領土にある山にて、主様同様、七つ目の蜘蛛の姿が確認されました!」
大狼男「えっ」
大狼「どうすんだよそれ……?」
男「え、本当にどうすべきなのだろうか」
大狼「俺に聞くなよ……」
鳶「どうしましょうか……今のところは静かに暮らしているそうです」
男「う、うーん? ひ、引き取る?」
大狼「そりゃあんたの勝手だし、俺に意見を求められても困るぜ?」
男「しかし距離も長いしな……」
男「だが相手も同族なら死者の会話を聞いているだろうし、喋れずとも言葉を理解できるはず……こう伝えてくれ」
一年後
勇者「やっと再訪できたな」
戦士「なんやかんやで引っ張りだこだったからなぁ」
僧侶「むしろこの短期間で自由行動が許される事が凄いのでは……」
魔法「まあそうなるわよね」
女「ここが、ですか」
勇者「早く会えるといいですね。まあ、こちらも目的は同じなので尽力しますよ」
女「はい……」ポッ
勇者「お、いたいた」
大狼「おう、懐かしい面子が来たぜ」
男「おお、本当に来てくれたのか」
勇者「当然じゃないか」
男「うん?」
大狼「お?」
女「……」モジモジ
大狼男(……?)
大狼(いたか? こんな奴?)
男(いや……覚えは……)
戦士「にしてもあんたも隅におけねえなぁ、おい」グリグリ
男「お、おお?」
魔法「大胆よねぇ……」
男「へ? え?」
僧侶「熱烈ですよねっ」キャッ
男「???」ダラダラダラ
女「……」テレテレモジモジ
女「『私の下に来い』……そう伝えられてから必死に人の姿に化けられるよう鍛錬を積んできました」
男「え? あっ」
大狼(意味ちげえんじゃねーのかなぁそれ)
女「……」チラチラモジモジ
戦士「道すがら出会ってよ。話を聞いたらこんなだし」
勇者「折角だし祝言の祝いも兼ねてと思ってな」
魔法「料理は私達に」
僧侶「任せて下さい!」
女「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」スッ
男「……」ダラダラダラ
古より大蜘蛛が守る森があるという。
静かで清らかなその森は、これからもそうあるのだろう。
ただここ最近、その森は少し賑やかになったというそうだ。
大蜘蛛「人里に近い森に住み始めて云百年」 終
続編を要求する
乙
面白かった!
最初、女が誰だかわからなかったよw
他の作品を教えて下さい
女って誰なんだ…?見返したけどわからぬ…
もっともっと
お疲様れ、凄く面白かった
続きがあるなら是非とも見たい
普通に考えて余所で見つかったっていう7つ目の蜘蛛が人化したったことでしょや
広げようと思えば幾らでも広げられそうな部分が幾つもあるけど
そこをあえて広げず書くことで話をスッキリさせてる感じがして好感がもてる
話を盛るばかりじゃなく時に引くことも重要だなって再確認させられた
一言で言うなら面白かった、乙
魔王関連の事件が起こるかと思わせて、その実ただ嫁ができただけだったという
面白かった
>>113
ちょっとだけ
似た系統のだと
鍛冶師が旅に出る事も無く鍛冶しながら
ただ暮らすだけのSSとか書いた
スレタイと雰囲気で同じ人かなと思ってたがやっぱりか
面白かった、乙
魔王と恋に堕ちる奴?
魔王と恋に堕ちてゴブリンどもに祝言と冷やかしと罵詈雑言を戴いていた奴だろうな
この作風ホント好きだわー
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません