【オリジナル】白銀の魔法使い (42)
『私が、護るから』
『私が、ずっと一緒にいるから』
『だから、諦めないで』
それはすがるような誓い。可能性の低い賭け。
不安に揺れる瞳は弱々しく、けれど確かな勇気がそこにあった。
だから、私は――
内容が内容なので注意!
・R-18な場面あり。百合でふたなり
・更新遅い。地の文あり
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やはり、酒というものは怖い。
感覚を酔わせ、記憶を狂わせ、人間の正常な判断を失わせる。
何年か前にようやく酒を呑める年齢になった私も、そのことはすでに痛いほど痛感していた。
身内での宴会。仕事での付き合い。何度もお酒を呑んできたが、その度にと言っていいほど無様な姿を見せる人がいるものだ。
彼らを横目に見て、私はこうならないよう心から思った記憶がある。今もそう思っている。
お酒を呑んで我を忘れるなど、あってはならないことだ。
だから私、ミリアは今まで細心の注意を払ってきたのだが――
ミリア「ついに……やってしまった」
――間違いを起こしてしまった。
というのも、私の隣には見知らない女性が寝ていたのだ。
言い逃れ様のないこの状況。頭を抱える他なかった。
私がいるのは、未知らない部屋。おそらくどこかの宿だろう。整理整頓された小奇麗な一室で、人が三人は寝られるであろう大きなベッドが目立った。
目を覚ました一瞬は陽を受けて、『朝か』、なんて考えていたが、隣から聞こえた寝息にすぐゾワッとした。
寒気を感じ自分の身体を抱けば、何も身につけていないことに気づく。
全裸で、見知らない部屋のベッド。隣に誰かいる。最後の記憶は、酒場に入って――それから曖昧だ。
まさか、なにか間違いを。
彼氏いない歴年齢と同じ。色々な経験がない清らかな少女――ではなく女性。19歳。か弱い。それが私。酔った勢いで良からぬ男に捕まっても何ら不思議はない。
寝坊した朝とは比較にならない程の寒気と不安感が襲う。
息切れがしそうなほどの不快感。けれども私は意を決し、寝息のする方へと顔を向けた。
銀髪の女性「……すー」
私と同じく全裸の女性が寝ていた。
さらさらとした長い銀髪で、顔立ちは驚くほど整っている。肌が白く、まるで作り物のような、人形みたいな人だ。
すやすやと眠る彼女の様子はあどけなく、それまでの不安が吹っ飛び、思わず私は和んでしまう。
すごく、いい匂いがする。肌が綺麗な白色で、胸は結構でかい。そのくせ華奢で、出るべきところは出ている理想的なスタイル。
彼女のことを一通り観察した私は大きなため息を吐く。
ミリア「ついに……やってしまった」
そして冒頭部分に至るというわけだ。
『ついに』。決して普段から女性に興味があったというわけではない。
酒で問題を起こすということを、私はずっと危惧していたのだ。酒癖が悪い人ばかり身近にいたのが原因だろう。
人は環境によって大きく変化するという。
ならば私がお酒で悪事を働く人間に変化していくのもなんら不思議がないことであって、私の周囲にいる人間は私の悪事について尋ねられれば『いつかやると思ってました』なんて悲しい顔をして語るに違いない。
つまりこれは道理。
私が何か問題を起こすことは、別段驚くことではな――
ミリア「って、冷静に考えてる場合じゃない」
ハッと我に帰る。
もっとこの、現状について考えねば。
朝気づいたら、見知らない美女と一夜を過ごした風に眠っていた。これはいかがなものか。
世の男性ならば喜んだり、戦慄したりする場面だろう。
けれど私は……なんか、リアクションがとりづらかった。
なんて言ったらいいのだろう。
隣にいたのが男性なら、美形ブサイク問わずすぐさま逃げるのだと思うのだけれど、相手が女性だとその気にもならない。
危険がないっていうか、別に一夜くらい――なんて気持ちも生じてしまう。むしろ今から弄ったろうかと……って、私はノーマルな筈なのに何を思っているのか。
ブンブンと首を横に振る。
――きっと、この気持の原因は銀髪の女性にあるだろう。
呆れるほど美しい彼女。女性の私から見ても意識してしまうような容姿をした彼女を見ていると、理性を失ってしまいそうだ。
なんかこの時点でノーマルとはかけ離れた思考を持っているような気がしなくもないけど、そこはこの女性のせい、ということにしておこう。これは心の中の語りであるわけだし。うん。
ミリア「……行動するべきかな」
このままでは私の心がもたない。色々な意味で。
私は呟いて、身体を起こす。それから隣にいる女性の肩を、軽く揺さぶった。
柔らかくすべすべとした素肌の感触。それを堪能しつつ、声をかける。
ミリア「あの、起きて?」
銀髪の女性「ん……あ。ミリア?」
眠そうに反応し、目をうっすらと開く女性。
彼女は私の名前を呼び、肩へ触れている私の手に軽く頬ずり。なんだか撫でられている猫みたいだ。
銀髪の女性「ちょっと、待って……朝は、ふあぁ……弱くて」
それからゆっくりと体勢を変え、うつ伏せに。枕を抱えてそれに胸を押し付けるようにしつつ、鈍重な動作で身体を起こす。
途中四つん這いみたいな格好になった瞬間に、薄い掛け布団の下から見えたお尻のラインがとても良く――げふん。
器用に目を閉じたまま彼女は身体を起こし、ベッドに座る体勢に。
それからあくびを一つ。座っているにも係わらず彼女はこっくりこっくりと、船を漕いでいた。
見た目に反して、なんだか子供っぽい人だ。
危なっかしい気持ちで彼女のことを見る私。
それから10分ほど経っただろうか。
――いや、10分も経ったと言うべきだろうか。ちょっとした川を越えられそうな時間、うつらうつら船を漕いでいた女性は突如として目を覚まし、
銀髪の女性「あ、あわ!? あ、ご、ごめん!」
顔を真っ赤にしてシーツで身体を隠した。
自分が裸でいたことに気づいてなかったらしい。朝が弱いと皆こんな感じなのだろうか。
銀髪の女性「うう、恥ずかしい。やっぱり慣れないなぁ……」
ミリア「……」
顔を赤らめ、もじもじする女性。
その様子は恋する乙女にしか見えず――私は即座に昨日の記憶を掘り起こそうと試みた。
けれど当然ながら結果は目覚めた時と同じ。まったく覚えていない。
ミリア「――その、ちょっと訊いていい?」
覚えていないなら仕方ない。私は勇気を出して、問いかけることに。
銀髪の女性「? いいよ。どうしたの?」
きょとんとした顔で首をかしげる女性。
無邪気な仕草に心が痛む。
ミリア「……私、昨日なにしたのかな?」
銀髪の女性「えっ?」
意表をつかれたからか、目をぱっちり見開く女性。
てっきり泣かれるものかと思ったが、女性は恥ずかしそうに笑い、
銀髪の女性「わ、私から言わせるの? ……そ、そのぉ、一晩寝て、あああ、愛し合って――」
しどろもどろになりながら語る。
そんな彼女の台詞を聞いていた私は、それ以上に混乱した。
一晩寝て、愛し合って……
ミリア「……そ、そうなの」
銀髪の女性「う、うん。初めてだけど……すごかった」
プロポーズの言葉でも語るかのようにロマンチックな顔をする。
まずい。全然覚えていない。
ミリア「……」
真面目に思考。
女性の初めてを奪っておいて、とぼける。これは許されないだろう。
というかとぼけたら、もっと大変なことに巻き込まれそうだ。
ここは潔く素直に自分の気持ちを伝えるべき。私は頷いた。
ミリア「えと、その――実は」
銀髪の女性「?」クビカシゲ
覚悟を決めろ。自分に強く言い聞かせ、私は銀髪の女性を見つめた。
ミリア「――昨日のことは酔っていて覚えてないの!」
銀髪の女性「え?」ジワッ
ミリア「だからとりあえずはお付き合いという方向で!」
女性の目に浮かんだ涙。
それを見た私は反射的にそんな言葉を口にしていた。
ミリア(なに言ってるんだ、私)
そして心の中で冷静にツッコミを入れた。
銀髪の女性「う、うん! よろしくおねがいします」
けれども丁寧に頭を下げ心から幸せそうに笑う女性を見て、今更撤回する気にはなれない私であった。
お酒による過ち。昨日までは予想もできなかった恋人の登場。
でも、なんでだろう。その時の私の心境は満更でもなかった。
私が一人の女性を、笑顔にすることができる。その事実が嬉しかった。
そしておそらく、分かっていたのだ。
これが私の物語のはじまりなのだと。
【今日の更新は終了です】
おつおつ
きたい
期待
なんてオープニング風の語りを入れつつ、とりあえず服を身につける方向性に。
お互いに裸では落ち着かない。女性も恥ずかしいようだし、今は朝。裸であるメリットなど皆無だろう。
あまり女性を見ないようにして部屋を見回せば――服がない。
ミリア「あれっ?」
銀髪の女性「どうしたの?」
ミリア「あの、服がないような」
裸で宿に入ったわけではないだろうし、どうしたのだろうか。
私が口にすると、銀髪の女性は少々顔を赤らめ答えた。
銀髪の女性「お風呂場……にあるかな」
ミリア「あ、そうなの? じゃあ行ってくるね」
お風呂場に服。なぜお風呂場なのだろう。
二人で寝たなら、ベッドの近くにあって然るべきなのに。
頭の中に色々と浮かぶが、そこは想像しないほうがいいだろう。悶々とする。
ミリア「あ。あった」
裸で堂々と歩いて脱衣室らしき部屋へ。
洗面台や籠が置いてある、比較的狭いその部屋には服と下着が置いてあった。
無造作そうで、そうでない。なんだか生々しい配置で散らばっているお洋服。ここでおっぱじめたのか、私は。
ため息。なんやかんやでお付き合いする方向になってしまったが、果たしてこれでいいのだろうか。
ミリア「悪くは……ない、かな」
即結論。自分は思った以上に適応力があるらしい。
自嘲し、服を拾う。見覚えがないものもあるし、多分あの女性のものも混ざっているのだろう。
幸い汚れてはいないみたいだし着れるはずだ。
ミリア「――あ、そういえば名前訊いてなかった」
服を拾う最中、はたと気づく。
女性女性と言っていたが、はっきりとした名前は知らない。
お付き合いする間柄でこれは致命的だ。
ミリア「ね。貴方の名前ってなに?」
服を抱え、戻る。その際に名前を問いかけると、女性はまた泣きそうな顔をして、すぐハッとし、苦笑した。
コロコロと表情が変わる人だ。
ベール「ベール。今度はしっかり覚えてね」
ミリア「あはは。うん、覚えておく」
服をベッドに置いて、自分の物を身につけていく。
下着。黒のブラウス。編み上げの黒のミニスカート。ニーソックス。
下着を除き黒一色のそれらをすべて身につけ、ようやく人心地ついた。
ミリア「全部拾ったから、多分ベールのもあると思う」
ベール「うん、ありがとう」
しっかりシーツで身体を隠したまま、服を漁るベール。
彼女は上下、白の下着を手にし黒のロングスカートを取るとシーツの下でもぞもぞと動く。
――気のせいだろうか。持っていった……というか、私が着替え終えた時点で残っていた服が少なかったような。
ベール「――ん。これで恥ずかしくない」
シーツを離し、ふんすと鼻をならすベール。
露わになった彼女の姿。それを見た時、私は驚いた。
見えていけないところはしっかり隠れている。けれど露出度が凄まじい。
下はスカート。上は下着――水着? ただ胸を隠すだけ。それだけ。
どこが恥ずかしくないというのだろう。甚だ疑問である。
ミリア「え、ええと……とりあえず、これからどうする?」
しかしまぁ、これより露出度が高い服装をした人間はちょくちょく見る。
種族民族、多種多様な生き様があるのだ。あまりつっこむというのは野暮だろう。自分に言い聞かせる私。
ベール「私は……ミリアについていくよ。したいこともないし」
数秒、悩む仕草を見せ、ベールは言った。
なんだろうか、今の間。
ミリア「それなら、私は家に帰ろうと思うけど」
ベール「家? うん、いいよ。行こ」
のんびりとした動作でベッドから降りるベール。
彼女はそのまま一直線にドアへと向かう。
ミリア「あぁっ、ちょっと待って。せめて身支度をしてから行こう」
ベール「えっ? あ、そうだね」
クルッと身体を私へ向け、頷くベール。
顔や雰囲気はクールでミステリアスな感じなのに――幼いというか、危ういというか。浮世離れした印象を受ける女性である。
あれこれ支度して宿の外へ。
私はリュックを背負い、ベールはまったくの手ぶらで町を歩く。
王国の外れ。田舎にある水車の町。宿から出ると、ちょっと先に酒場が見えた。
それほど移動していなかったようだ。自分の現在地を把握しちょっと安心する。
ミリア「――でさ、昨日なにがあったの?」
安心したところで、怖くて聞けなかったことを問いかける。
私の隣をすました顔で歩く彼女は、頬を赤くさせた。
ベール「私が酒場で絡まれているのをミリアが助けてくれて、それから一緒に呑んで――そうなって」
ミリア「……どっかで見たような展開だ」
その辺の本にでも書いてありそうな、王道展開である。
女性同士で、出会ってすぐ濡れ場というのはそうそうないだろうが。
ミリア「そっか。なんとなく、ぼんやりと覚えているような……」
酒場で、目立つ服装の女性を見たような気はする。
あとは――
ミリア「なにか、あったような」
それくらいしか思い出せない。その『なにか』がどんなことだったかすら分からない。お酒怖い。
ベール「……ふふ」
ミリア「ごめん。全然思い出せなくて」
ベール「あ、今笑ったのはそういう意味じゃないよ」
微笑した彼女は首を横へ振る。
ベール「否定したり、疑ったり全然しないんだなぁ、と思って」
ミリア「……。そういえばそうだ」
言われてみれば、確かに。ベールが嘘を言っているなんて思ってもみなかった。
ミリア「でも、ベールは嘘言わなそうだし」
――言えなそうだし。
心の中で密かに付け足す。ベールはちょっと子供っぽいし、嘘は言えなそうだ。
いい人そうだし、言っていることに嘘はないのだろう。
そう思うからこそ、何も憶えていないことへの罪悪感が強い。
彼女の言っていることが本当で、覚えいないことに泣きそうになるくらいのことがあったのなら、私はそれを知っておくべきなのだろう。
うん、絶対そうだ。私は頷き、口を開く。
ミリア「ねえ、もっと詳しく――」
???「見つけたわ!」
私の台詞を遮り、どこからか声が響く。
誰か見つかったのだろうか。他人事な思考でのんびりと、私はその声がした方向を見た。
そこに、一人の少女が仁王立ちしていた。何故か私達を見て。
髪は茶。ロングで腰まであり、地味めのシャツに茶のスカート。マント。そして腰には剣。
年齢は10台中間くらいだろうか。いかにも冒険者ふうの元気そうな少女は私達を見つめ、指を差す。
???「やいやいやいやい! 今日こそついてきてもらうわよ!」
元気な子だ。
私は彼女に見覚えがない。けれど『今日こそは』と言っている。つまりは、
ベール「……ルナ」
隣のベールの知り合いというわけで。
彼女の顔をちらっと見れば、露骨に面倒そうな顔をしていた。
ミリア「友達、ではないみたいだね」
ベール「うん。ちょっと厄介な子で……」
ルナ「厄介言うな!」
ルナが叫ぶ。私はそれとなく宥めようかと、彼女へ視線を戻そうとするが――
ルナ「白銀の魔法使い――ご主人様の前に連行するわ」
――抜剣。
腰の剣を抜き、ルナはそれを構える。
どうやら私は空気を読み違えていたらしい。
知り合い同士の微笑ましい会話かと思ったが、町中で武器を抜くなんて、物騒極まりない。
ミリア「戦う気?」
ルナ「当然よ。仕事だから」
ベール「ルナ。戦うのはもう止めた方が――」
ルナ「うっさい!」
叫び、ルナが走り出す。
何がなんだか分からないが、ベールは丸腰。私が護るしかない。
ミリア「下がってて、ベール」
短く指示。ベールの前に出ると私は軽く身体を斜めに。
後ろでベールがあわあわと何か言っていたが、今はそれどころではない。
ルナ「……下がらないと、あんたから倒すことになるわよ」
いきなり剣を抜いたにしては親切に、私が前に出たのを見るとルナは立ち止まる。
表情を変えず真剣に、警戒した顔で彼女は静かに言う。
ミリア「やるならきていいよ。丸腰の女性を狙うのはどうかと思うし」
ルナ「ハッ。あんたも丸腰のくせに。見ない顔だと思ったら、いい恋人ができたみたいじゃない、魔法使い」
ベール「そ、そうかな?」
ルナ「皮肉よ! え、なに? 本当にそうなの?」
すごく、戦い難い。シリアスなのか、ギャグなのか。
ルナ「と、とにかく! あいつは魔法使い。丸腰がどうとか関係ないわ」
白銀の魔法使い。先程ベールのことをそう呼んでいたが――なるほど。それなら武器を持ったことも納得できる。
ミリア「けど、ベールは戦いたがってないし、見過ごせないことに変わりないよ」
ルナ「――そう。後で後悔しても遅いわよ!」
地面を蹴る。
再度走り出したルナは剣の間合いに入る直前、大きく一歩踏み出し、剣を右から左へ横に振るう。
速い。それでいてしっかりした太刀筋だ。
振りかぶる動作を目視。タイミングを合わせて私は後ろへ移動。私のすぐ目の前を剣が風を切って通っていった。
隙を見計らい、前へ。手がとどく範囲に入り込む。そして私は手を伸ばした。
ルナ「甘い!」
そこへ、再度剣が。
振り切った剣を返し、力強く横に振る。
元々初撃はこれの布石だったらしい。攻撃してからの立て直しが俊敏だ。
隙を狙い飛び込んできたところを迎撃。とてもかわしきれるような状況ではない。
が、それは予想できていなかったときの話だ。
私は小声で簡素な詠唱。
私の得意技である『創造』を発動させ、自身の手に剣を創りあげた。
どこにでもありそうな質素な剣。切れ味はいまいちだろうが、強度に関しては自信がある。
伸ばした手を剣に添え、防御。ルナの剣を受け止める。
ルナ「えっ!?」
驚愕に染まるルナの目。
私は剣を消し、即座に片手で彼女の腕を掴む。
剣を握っているルナの腕。私はそれを自分の横へ引っ張り、よろけたルナの腹部へ拳を叩き込む。
うめいたところへ、全力を込めた蹴り。まともに受けたルナは地面を転がる。
ミリア「――よし」
いける。構えを解かずに警戒しつつ、私は口元に笑みを浮かべた。
【今日の更新はここで終わりです】
乙!
戦いが中断され、周囲には沈黙が戻る。
綺麗に決まった。ルナに動きはないし、戦いは終わったのだろう。
私は構えを解く。そして周囲を見回し、ホッと息を吐いた。
田舎町なお陰で周囲に人がいないのは助かった。下手したら見張りの兵でも飛んでくる事態だ。
ミリア「ベール、だいじょ――」
ルナ「いつつ……」
――まさか。
聞こえた声に視線を向ければ、ルナが呻きながら身体を起こすところだった。
彼女は近くに落ちていた剣を拾うと、慌てて鞘へそれを納める。
ルナ「中々やるじゃない。まさかあんたも魔法使いだったとは」
逃げる気なのだろう。じりじりと後ろへと下がるルナ。
ミリア「魔法使い、なんて大層なものじゃないけど」
ルナ「嘘言うな。初めてみた魔法よ」
そうなのだろうか。
確かに魔法使いというものは見たことはあるけど、それが戦っている現場を見たことはない。
けどやっぱりそんなに大した魔法ではないと思うのだけれど。
そこはちょっと気になる。でも、それよりももっと気になることが。
ミリア「ね。なんでベルを狙ってるの?」
ベールが何者かが分からない。
でも町中でいきなり襲ってくるなんて異常だ。
私はダメ元で問いかける。
ルナ「あんた、白銀の魔法使いを知らないの?」
すると、意外そうな顔をされた。
ミリア「全然。すごいの?」
ベール「私は……答えにくいというか」
ルナ「――まぁ、そうよね。知ってる上で近くにいるやつなんて、相当な物好きだし」
ミリア「……よく分からないんだけど、答える気はないみたいだね」
ルナ「ええ。勿論。だれが敵に情報を流すもんか」
ベーッと舌を出すルナ。
彼女は後ずさりする足を止め、一度ベールを見やり、再度私へと顔を向けた。
ルナ「あんた、名前は?」
ミリア「私? ミリアだけど」
ルナ「――本名じゃないわよね?」
ミリア「ん? 本名に決まってるけど」
ルナ「はぁー……。こんなのに私が負けるなんて」
今度はものすごく大きなため息を吐かれた。
ルナ「――じゃ、また会いましょう。今度こそ、その魔法使いを連れてってやるんだから!」
大きな声で宣言。ルナは踵を返し、あっという間に去っていった。
敵……なんだろうけど、なんとなく憎めない子だ。
ミリア「これでひとまず安心、かな」
ベール「ご、ごめんねミリア。事情も分かってないあなたを巻き込んで」
ベールが隣へ。申し訳無さそうに眉尻を下げ、言う。
ミリア「大丈夫だよ。ああいうのは放っておけないし。それに私が勝手にそうしたんだし」
ミリア「けど――そうだね、ベールのことは知りたいかも」
考え、私は言う。
これからのために判断する情報がほしい。
ベール「……うん。じゃあ、どっかお店行こ」
私は頷き、適当なお店へと向かった。
適当に探して、喫茶店。
朝早くに来店、なのだが店主さんは快くお店に出迎えてくれた。
ミリア「ありがとうございます」
ベール「ど、どもです」ペコ
店主「女の子を追い返すわけにはいかないからねぇ」
気のいい店主に案内され、席へ。
店主を前にしていきなりおどおどしはじめたベールの向かい側に私は座ろうと――
ミリア「あの、ベール?」
――したのだが。何故かベールが私の隣へ座ってきた。
ベール「知らない人は苦手で……ごめんね?」
ミリア「あ、いや、そういうことならいいんだけど」
なるほど。おどおどしていたのはそれが理由か。
納得する私。ベールは私に身体を寄せて、ほぼ腕に抱きつくような体勢に。
素肌と服越しに触れる。柔らかい……のだが、それ以上にベールからいい香りがした。
上半身が水着だけだからか。フェロモンというか、なんか、理性が揺らぐような……これは危険だ。
ミリア「えと、それで――話してもらえるかな?」
ベールを抱きしめようとする手を押え、私はなんとか笑顔で問いかけた。
ベール「うん。じゃあまずは私が誰なのかを」
ベールが誰なのか。
なんだかおかしな話のような気もしたけど、語るだけの『何か』があるのだろう。
私は黙って彼女が語る言葉へ耳を傾けた。
べール「私は魔法使い。色々あって私は白銀の魔法使いなんて呼ばれることになって……」
ベール「大魔法使いに一番近い魔法使いなんて言われてるんだ」
ベール「だから、今日みたいに狙われることも少なくなくて」
静かに語るベール。
白銀の魔法使いに、大魔法使い……。全然聞いたことがない。
けど実際狙われているのだから事実なのだろう。
にわかには信じがたいことだ。
――でも、どっかで聞いたような。また大切なことを忘れているのだろうか。
ベール「で、昨日。私は言っていた通り酒場でミリアと出会って――」
ベール「えと、そこからは分かってるよね。ミリアは覚えてなくても、私はミリアのこと、好きだから」
頬を赤らめ、微笑しつつそんなことを言うベール。
――可愛い。昨日のことを覚えていなくとも、恋に落ちてしまいそうだ。
ミリア「……その、さ。私昨日何か言ってたの?」
ベール「――護る、って言ってくれた」
小さな間。私の腕に頭を軽く寄りかからせ、彼女は言う。
護る。狙われている彼女のことを、私が。おそらく、そういう意味だろう。
彼女のことは、昨日のことを憶えていない私も好きだ。一目惚れ、なのかもしれない。彼女の容姿が気に入っただけの、浅はかな理由なのかもしれない。
けれど私は護ると言った。彼女のことを好いている。
なら――結論は一つだろう。
ミリア「分かった」
私はベールの身体に手を回し、頷いた。
ミリア「ベールのこと、護るよ。これからお付き合いするんだしね」
ベール「……ミリア。うん、ありがとう」
にっこりと笑うベール。彼女の笑顔を見ていると、後悔はないのだが、それとは別に心配事が。
これで騙されてるなんて話なら、笑えないなぁ……。
けどまぁ、お酒で失態をした自分の責任だ。とことんやろうじゃないか。
ベールを護る。私は昨日したはずの決意を改めて固めた。
選択肢【今回は違いますが物語の結末に響いたりするものもあります】
1・「――宿、行きたいな」
2・「町を出ようか」
↓1
【今日の更新はおしまいです】
1
乙!
ミリア「――宿、行きたいな」
私はぽつりと呟いた。
ベールと付き合う。昨晩の出来事。そして現在の密着している状況。
なんだか居ても立ってもいられなかった。
ベール「宿? さっき時間でチェックアウトしたのに?」
発言の意図が分かっていないようで、ベールは首を捻った。
ミリア「うん。別に寝たいわけじゃないよ? その……違う意味で寝たいというか」
ベール「え? あ――」
一気にベールが赤くなる。
服装や抱きついていたことは恥ずかしくはないようだが、この手の話は苦手なようだ。
ベール「……いいよ。ミリアが、その、したいなら」
ミリア「ありがとう。じゃあ、すぐ行こう」
今すぐにでもベールに触れていたい。
こんな気持になるのは初めてであった。立ち上がり、会計を済ませる。
その際に私が財布を出すよりも早く、ベールがお金を払ってくれたのだが――彼女、どこに財布を持っていたのだろうか。
で、ちょっとして宿屋。赤面し、恥ずかしそうにするベールに控え目に連れられやって来たのは、今朝の宿よりも立派な場所。
確かこの田舎町で、貴族が別荘代わりに使っている宿だとか聞いたような。
部屋は勿論サービス、食事も最高クラスで、値段は言うまでもなく高い。
どちらかと言えば貧乏な私は、ちょっとした拒絶反応を起こしかける。
ミリア「あの、ベール。私そんなにお金持ってないんだけど」
ベール「私が払うから、大丈夫」
とベールは言い、財布らしき布の袋をどこからか取り出す。
硬貨らしきものでパンパンになっているそれ。見たこともない財布の状況に、私は目を見張った。
魔法使いというのは儲かるのか。
しかしこの、宿代を彼女におごってもらうという状況。ダメ男になったかのような気分だ。申し訳ない。
受付を終えて部屋へ。
案内されたそこは、見たこともない豪華さであった。
ふかふかなダブルベッドに、一泊するのに必要なさそうな綺麗な家具の数々。値段相応――いや、それ以上にも思えた。
やはり高いのには高いなりの理由があるらしい。
ベール「……」
ミリア「……」
さて。
私の提案で急遽宿に入ることになり、現在に至るわけなのだが――私達二人は部屋に入って静止していた。
……なにをどうすればいいのか分からない。
ベールに触れたいのは確かな私の気持ちだ。でも、こう、どうやってそこまでいけばいいのか。
ベール「あ、あの、ミリア? 荷物おろして……ベッドに」
ミリア「ふえっ!? うんっ、そうだった」
先に言葉を発したのはベールで、彼女はゆっくりと歩いてベッドに腰掛ける。
私はぎくしゃくとした動きで背中の荷物を床におろし、彼女の隣に座った。
部屋の中で二人きり。やはり、喫茶店で二人で座っている時とは明らかに違う。
ミリア「緊張するね、なんか」
ベール「――うん。はい、ミリア」
スッと、私に何かが差し出される。
見れば、それは小さなグラス。琥珀色をした液体が入っていた。
ミリア「お酒?」
ベール「緊張してるみたいだから、昨日と一緒で、お酒の力を借りようと思って。――っとと」
そう言うベールもかなり緊張しているようだ。自分のグラスへ注いでいる際にこぼしかけていた。
ベール「でも記憶をなくさない程度に、ね」
ミリア「だね。二回目はほんと申し訳ないから」
グラスを持つ。一口飲むと、その味に驚いた。
部屋のどこにもお酒なんてなかったし多分ベールが持っていたものだろうが、美味しい。
ベール「ふふ。あ、そういえば……」
ミリア「……?」
ふと、なにか考える素振りを見せるベール。彼女は少しして、一人頷く。
ベール「ちょっと私は疲れてるし、そうしようかな」
結論を出したようだ。それからベールは小声で何かを口にし、私へ触れた。
何をしているのか分からないが、私もなんとなくベールの腰へ手を回し、身体を寄せる。お酒の香り以上にいいにおいがした。
ベール「ねぇ、ベールってお仕事何してるの?」
ゆったりとお酒を楽しみつつ、ベールが口を開く。
仕事……昨晩はそんなことも話していなかったのか。もっとお互いを知り合わないといけないな。
酔いもちょっと回ってきて、いい気分になってきた。これなら普通に喋れそうだ。
――さて。私の仕事ってなんだっけ。
『主人公、ミリアの職業は?』(ものによっては再安価)
描写の機会が序盤ではなかったので捕捉。
主人公の見た目は黒髪ショートのおかっぱ。服装は前述通り。身長は高め、スタイルはよく胸もまた大きい。ベールよりふくよか
↓2
教師
↑
どうかした?
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