死と悪魔のリドル (16)

悪魔のリドル短編集

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轟音。私は瞬時に仕掛けたコンポジション4が起爆したことを理解した。
やった、今回は不発じゃなかった。
不謹慎にも私は標的が粉々になったことを喜ぶ。
いや、待て。私ははやる気持ちを抑えながら、腕時計を確かめた。
タイマーは3時ぴったりに作動するようになっていたはずだ。
しかし、何度見返しても針は52分を指したままだった。
冷たい汗が気味悪く額を伝う。
最悪の場面が脳裏にこびりついたまま離れない。
まだイレーナ先輩が……イレーナ先輩!
私は叫び出すのを堪えながら駆け出していた。


真っ赤な炎は油を注いだように激しく燃え、
黒い煙は渦を巻きながら、闇夜に溶け込んでいく。
我ながら見事な出来栄えだった。
私は顔を焦がす熱も気にならないほど、それに目を奪われていた。
てらてらと光る臓物。それに埋もれたロザリオ。
生臭さが鼻を刺激する。
私はイレーナ先輩だったものに胃の中身ををぶちまけた。

私の人生は人殺しだ。
私の人生は失敗ばかりだ。
つまり結果として、私は人を殺めることを避けてきた。
私が失敗することで誰かが助かる。
そんな馬鹿馬鹿しい思い込みに甘んじていたのかもしれない。
事実、私が仕留め損なった標的のほとんどが、その後殺されている。
私が殺さなくてもホームが、誰かが殺す。
良心は所詮見せかけでしかない。
自分の手を汚したくない。だから私は失敗を重ねてきたのだ。
皮肉にも最も殺したくない人を殺してしまったが。

─────────
──────


───闇。薄明。天井。ひどく体が冷えている。
私ははがれた埃っぽい毛布を、身体に引き寄せ、くるまった。
先程から、寒いはずなのに汗が止まらない。
心臓は早鐘のように打っていた。



───何故だ、何故なんだ……何故殺した……!


───おい!聞こえてるんだろう!なんで殺したんだ!


───私は……私は……こんな醜い姿になって……見るんだ!見ろ香子!


────うわあああっ!!熱い!!熱い!!助けてくれ!!苦しいんだ!!


────なんで助けてくれないんだ!!香子っ!香子っ!!






───信じていたのに……

.

あの日以来、毎日のように夢を見た。
あの綺麗なイレーナ先輩が、優しいイレーナ先輩が、世にも恐ろしい姿で現れては私を責めるのだ。
眼窟から零れ落ちた翠緑の瞳。
毛がすべて焼け落ち、元の骨格が分からないほど歪んだ頭。
肌はケロイドでぶくぶくにふくれ、
健康的な小麦色の肌は見る影もなく真っ赤に染まっている。
時には溢れた内蔵を右手だけで抱え込んでいることもあった。
しかし、声だけはイレーナ先輩そのものなのだ。

もう1週間なにも食べていない。
食事が喉も通らず、すぐに吐いてしまう。
流石に見かねたのか、シスターは私に休養を命じた。
時間が解決してくれると思ったのだろうか。
期待とは裏腹に、日を追うごとに夢は現実感を増していった。
ついにはイレーナ先輩が幻覚として現れ始めた。
イレーナ先輩の亡霊は四六時中、耳元で呪詛を呟き続けてくる。
あんなに好きだったのに、私は嫌いで嫌いで堪らなくなっていた。

熱い苦しい助けてお前のせいだお前が殺した呪ってやるお前が殺
した呪ってやるお前が殺した呪ってやるお前が殺
したお前が殺したお前が殺したお前が殺した呪ってやる
呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる
呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやるお前が殺した
呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪っ
てやる呪ってやるお前が殺したお前が殺した呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってや
るお前が殺した呪ってやる呪お前が殺したってやるお前が殺した呪って
やる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってや
る呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやるお前がお前が殺した殺した呪ってお前が殺したやる
呪ってやる呪って呪ってやる呪ってや呪ってやるるやる呪ってやる呪ってやる
呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪呪ってやるってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる
呪ってやる呪ってやる呪ってや呪ってやるるお前が殺した

3日後、神長香子は発狂して死んだ。
彼女は波乱に満ちた短い生涯に幕を下ろした。

神長香子編完

乙乙

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まだか

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