少女「神様っているのかな?」 (80)


・遅筆
・設定はご都合主義
・一応ファンタジー


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時はちょうどお昼時、午前の仕事を終えた人たちで通りはにぎわっている。家、酒場、向かう先は人それぞれだろう


そんなにぎわった通りから少し離れたところにガラクタ置場がある、普段ここに用がある人はほとんどいないため通りとは逆にとても静かである


そこに二つの人影があった。一つは小さな少女のもの、そしてもう一つは十代後半に見える青年のものだった。


少女「ねぇ、いるかな?」


最初の問いかけに返事がなかったため少女は再び問いかけた


男「んぁ?カミサマ?なんだそりゃ」モグモグ


男はパンをかじりながら気だるそうに答えた。少女は男の言葉を待ってましたと言わんばかりに声を弾ませた


少女「何でもできる神様ってゆーのがね、この世界にあるものぜーんぶ作ったんだって!それでね、悪いことしたら罰が下っちゃうんだって!」


男「.........もういること前提で話してんじゃねーか」


少女「あとね!その創ったやつの運命って神様が全部決めちゃってるんだって!」


男「..............」フゥ


男が呆れた顔をする


少女「ね!すごいでしょ!!」


少女はさも自分がすごいというように言ってくる




男「何がスゲーんだよ、アホか........」


少女「んなっ!?」


期待していた反応とだいぶ違ったのだろう、少女の顔がそれを物語っている


少女「アホじゃないもん!!」


男「アホだろ、カミサマだぁ?んなふざけた奴いてたまっかよ.........」


少女「い、いるかもしれないじゃん!」


男「誰から聞いたんだ?」モグモグ


男はどーでもいいようにパンを食べながらしゃべる


少女「え?」


男「誰からか聞いたんだろ?そのふざけた話、そんでいいこと知っちゃった!とか考えてその話をしたくてしたくてしょーがなかったんだろ?」


少女「ち、違うもんっ!」


少女は声を張った。図星であったのである。


男「ん~そうだな......こないだ来た旅人だろ?」


少女「!」ビクッ


男「はっ、ビンゴ」モグモグ


少女「な、なんでわかったの?」


男「お前がガキだからな」


少女「ガキじゃないもん!」


男『ガキじゃないもぉん!』


少女「っ~~!」



少女「...............」ムスッ


すっかり少女は拗ねてしまった、この話なら少しは興味を持ってくれると思っていたのに興味ゼロの上に馬鹿にされたらさすがに拗ねる


男「...........」モグモグ


男は相変わらずパンをかじっている。が、少しくらい相手してやらなきゃこの少女はいじけて後々面倒になることを知っているのでちょっとだけ話を振る


男「ん、今日のパンってうまいな」


少女「ほんとう!」パァァァァ


男の言葉を聞いた途端さっきまでのふてくされた顔が嘘のように輝きだした


少女「今日のパンはね!あたしが焼いてきたんだ!」


まるで今にも飛び跳ねるのではないかと思うほどに元気いっぱいだ


男「へー、すげーじゃん」


少女「っ.......!!」パァァァァ


よしこれでいい、男は思った。この少女はすぐ機嫌を悪くするがそれ以上にちょっと褒めればうきうきになってしまうのである。


実際、このパンが少女の作ったものだということはわかっていた。というか、一目見て分かった。持ってきたときすでにうきうきしていたし、いつもより真っ黒に焦げていたしすんげーかたかったから



少女「ねぇ、お兄ちゃんもさ、一応旅人なんだよね」


すっかり機嫌をよくした少女が聞いてくる


男「一応ってなんだよ、ちゃんとした旅人だって」


少女「だって半年前この町に来てからずーっといるじゃん」


男「金と情報を集めてんだよ、それが済めばまた旅に戻る」


少女「え!?いっちゃうの!?」


明らかに少女が焦っている


男「あぁ、〝一応旅人〟だからな」


少女「いつ!?」


男「...........まぁ、まだだいぶ先かな」


少女「な、なんだ」ホッ


男の答えに安堵する少女、そんな少女を男は一瞥した



カン、カン、カン


鐘が鳴る。午後の仕事が始まる合図だ。


少女「あ、行かなくちゃ」スクッ


少女「じゃあね、お兄ちゃん!」


男「あぁ」


少女はそう言おうと走っていった。そして男もまた立ち上がった


男「さてと、一杯飲むか」



―酒場―


ピークが過ぎ、ややすき始めた酒場。さっきまでいた大勢の熱気がまだ残っている。


店主「よお、らっしゃい」


男「あー、ぶどう酒くれ」


店主「りょーかい」


男は適当にあいてるカウンターに腰を掛けぶどう酒を飲む


店主「で、最近どーよ?」


男「どーよって......ほぼ毎日会ってんだろ」


この会話もお約束である


店主「今日も少女ちゃんに恵んでもらってたんだろ?」


男「恵んでもらうって......あいつが勝手に持ってくんだよ、今日のは焦げてたし」


店主「はっはっは!そりゃーな命の恩人なんだから何とか恩返ししたいんだろ」


男「..........だったらせめて焦がさないでほしいね」グビ


店主「いやー、おまいさんが少女ちゃんを助けてこの町に来てからもう半年か、早いな」


男「なんだよ急に」


店主「いやな?この町に骨はうずめないのかなって」


男「.....いや、それはないな」


店主「ありゃ、その気はないのか?」


男「あぁ、〝一応旅人〟だからな」


店主「はっはっは、一応ってなんだよ」


男「ほんとな」グビ




店主「そういやおまいさん、聞いたかい?」


店主の声色が少し変わった


男「なんだよ」


その声色の変化に男も気づきその目が少し真剣になる


店主「北の森で魔物が目撃されたらしい、しかも集団だったようだ」



魔物......この世界で人でも鳥や獣でもなく、魔力を持つものすべてを指す。魔法を使えるものもいる。が、個体差が激しく高等魔法を使えるものもいればほとんど使えないものもいる。



男「どの種だ?」


店主「さあ、そこまでは分からなかったらしい」


男「................」


店主「この町に来なきゃいいんだけどな」


男「そうだな」


店主「この町に魔法使える奴なんていねーからよ」


男「そうだな」


男は少しうつむいて答えた。そう、人間のほとんどは魔法が使えない魔法をほとんど使えない魔物ならまだしも、魔法を使って戦闘する魔物に対して人間はほとんど何もできない。魔力のこもっている魔法道具を使うことはできるがそれが通用するのは下等な魔物である。


たまに、魔法が使える人間が出現することもある。その人間は発見されると国の中心部に召喚される。魔法を使える人間は貴重で、各国の武器になる。
つまり、田舎で魔法を使える人間が出現した場合、ほとんどは国の道具として飼い殺されるのが現状である。




一方こちらは男たちのいる町から南にある、この国の首都にあたる部分


―王宮―


衛兵「報告!北のはずれの森にて魔物の集団を確認した模様、種族は不明!最寄りの町に進行中とのこと」


ザワザワ、ドヨドヨ


広間がざわめきだす。もしその魔物が攻めてくれば種族によってはこの国が亡ぶこともあるのだ。


「す、すぐに魔術師達を集めるのだ!全員に結界を張らせよ!」


大臣の一人が叫んだ。


「しかし、結界にも限界がある、この国全体を囲むのは到底不可能だぞ」


「この首都だけでも良い!」


「貴様!何を申す!民はどうするのだ!!」


「王宮が滅びれば国は滅ぶ!」


「民が滅びても一緒じゃ!!」


「待て、相手がもしエルフなどの魔物であれば我々の結界など紙切れも同然、防ぐことは不可能だ」


「ではどうしろというのか!」


ワーワー、


大臣たちは怒鳴るように討論しあっている。



そんな中、玉座に座るこの国を治める王は沈黙を貫いていた。


否、口を出すことができなかった。


王は齢十八の若王であり、女であった。病で弱った先代に代わり、昨年王座だけ受け継いだばかりであったのだ。政などできなく、いつも大臣たちが行っていた。
つまり、形だけの王なのである。


王女「っ......あ、」


口から出るのは言葉にならない言葉ばかり、完全に空気に呑まれてしまっていた。


しかし、形だけの王であってもお右側のプライドはある。この一大事に何かせねばという気持ちはあった。


王女「み、皆の者静まれよ」


ピタッ


先ほどまでざわめいていた広間が静まり返る。その変わりように王女は多少動揺したが、凛とした態度を貫く。


王女「すぐに戦闘を想定した偵察隊を送るのです、その魔物の種族を特定するのが優先です」


ザワザワ...



しかし大臣たちの反応は鈍い。無理もない、相手の正体は不明........人間ならまだしも魔物となれば全滅も十分考えられるのだ。


王女「っ..........」


大臣たちの反応に唇を噛む。お父様だったら大臣は動くのだろうか、恐らくそうだろう。やはりまだ自分にはこの責任は重すぎる。そんなことばかり考えてしまう。


お風呂行ってくる



大臣「姫よ、魔法石で様子を見るのではいかかでしょう?」



一人の大臣が提案をした。



魔法石.........魔法道具の一つ。石によって効果は様々、この場合は遠視。遠視には遠視石が複数必要。石そのものが魔力を持っており、場所を指定すれば、別の場所の光景を見ることができる。



「そういえば北の町にも遠視石を配置してあります、すぐに準備しましょう」


王女「し、しかし遠視石は距離が遠ければ遠いほどつなげるのに時間がかかります、もし北の町が襲われていたら救援が間に合いません」


「もし、魔物が高等な輩であれば救援自体無意味になってしまいます」


王女「なっ.........魔物が強かった場合は北の町を捨てるというのですか!?」


「..............」


そんなことがあってよいのだろうか、王が民を見捨てるなど........しかし、大臣たちの意見も間違ってはいない。


魔物の力が強すぎた場合、救援を送ってもむやみやたらに兵を死なせるだけ。


..........どうすればよいのだろうか、王として、民を、国を背負うものとして、どの判断が正しいのだろうか..................



王女「..................」


王女「.......遠視石を用意してください」


「「かしこまりました.....」」


結局また私は何もできない.........



今日はもう寝ます

おつ



時はもう日が沈みかけている。この季節は日の出ている時間がバラバラでこの日は沈むのが少し早い。


広間は重々しい空気に満ちていた。


中央には遠視石、そして映像を大きく映し出すために巨大な水晶が準備されている。


皆が固唾をのんでその水晶を囲んでいる。その一番前にいるのは王女、


どうか、どうか何事もありませんように。もしかしたら魔物は北の森を通り抜けただけかもしれない、たまたま近くを通っただけかもしれない、そんな期待を抱きながら遠視石がつながるのを待つ。


「つ、つながりました!」


声が広間に響く。全員が自然とこわばる...........


「水晶に映像を映します!!」



映像が映し出された。そして全員が息をのんだ


惨状だった...............


暗くなり始めた景色に建物を焼く炎がごうごうと燃え盛っていた。




「な、なんということだ..........」



大臣の一人がこぼす。そしてその言葉は王女の胸にグサリと突き刺さる



王女「っ..............」



「敵は!?敵の種族は何なのだ!?」


その言葉に皆ハッとする。そうだ、敵を確認しなければ。今の現状に嘆いている暇はない。すぐに対応しなければならないのだ。


するとちょうど、水晶に一つの影が飛び込んできた。


〝それ〟は明らかに人ではなかった。背丈は小さく、男性の大人の腰くらいであった。


「ご、ゴブリンだ.......!」



ゴブリン...............・魔物。・戦闘、凌辱を好んでおり魔物同士の戦争では歩兵としてよく使われる。・魔法はほとんど使えない。が、とても残酷。ゴブリンに襲われた町や国は種族関係なく雄は皆殺し、雌は子供関係なく死ぬまで凌辱される(子を孕まされる)。※婆は例外
・人間の武器で[ピーーー]ことは可能



王女「す、すぐに軍隊を送り、直ちにゴブリンを駆逐するのです!これ以上被害を大きくさせてはいけません!」


「「はっ!!」」


王女は再び水晶に目を向ける。まだ何か情報があるかもしれない。


王女「...........ん?」


王女「ちょっと拡大し...........」


ブツ


「通信が途絶えました!おそらく遠視石が破壊されたと思われます!」


王女が言おうとした矢先映像が途切れた。


いま、ちょっとおかしかったような.............

















ゴブリンが何かから逃げていたような.................



※作中の魔物の設定はオリジナル(てきとー)であるから、現実の設定とは関係ありません



時はしばしさかのぼり、お昼過ぎ


―北の町・酒場―


店主「で、いつまでこの町にいるんだい?」


男「そーだなー、まだ決めてない」


店主「つってももう半年だろ?旅っていうのは皆こんなにゆったりすんのかい?」


男「んなわけねーだろ、せいぜい長くて一か月だな」


店主「それじゃ、なんでまた.............」


こんなにながいの?と、店主が顔で問いかける


男「.....................気まぐれだよ」


店主「おいおい、なんだいいまの間」ハハ


男「なんでもねーよ、強いて言うならそうだな.............ぶどう酒がうまい」


店主「ははっ、そりゃちげーねー」


男はそう言うとぶどう酒を一気に飲み干す。


確かに店主の言うとおりだ。本来一つの場所にこんなに長居することはまずない、ましてや都会から離れたこの場所に。


しかし、実際に長居している。理由はあるといえばあまりあるがいいたくない。


この町の人間がいいやつばかりで、つい長居してしまっているなんて言いたくないのだ。



ゴォォン!!ゴォォォン!!


店主・男「!!」


突如鳴り響いたその鐘は先ほどなった仕事を始める合図の鐘とは大きく音色が違った。


それは魔物の襲来を知らせる鐘であった。


店主「来やがったのか!?」


店主は店の外に飛び出し外の様子を確認する。


北の森と町の間には大きな丘がある。そしてその丘をゴブリンが駆け下りている最中であった。


店主「てめーら!!代金はいらねぇからさっさと避難しやがれ!!」


店主は店に残っていた客に対し声を張って言った。


店主「おい、あんたも早く避難するんだ」


男「あ、あぁ.....」



このような郊外に位置する町には魔物に襲われた時のための避難場所がある。


地下である。地下に巨大な穴を作り、出入口を魔法石を加工した扉でふさぐ。この時用いられる魔法石は守護石。
エルフや神獣種の魔法・攻撃をも防ぐことのできる鉄壁の魔法石である。しかし、この扉は一度閉じたら外側から開けなければ絶対に明かない。
守護石の扉は人間が開発したもので人間のみ扉を開けることができる。




男「っ.............」バッ


男も外に出て状況を確認する。


人々が急いで避難している。皆、恐怖や焦りを感じているが着々と避難している。
こういう場合、パニックに陥ることが一番危険であることを皆幼少時代より叩き込まれているのである。


男は丘に目を向ける。が、すでにすぐそこまで迫ってきている。


................間に合うか?


一見一斉に向かってきているようにみえるが、よく見ればバラバラだ。統率が取れていない、つまり指揮者がいない。ゴブリンは知能が低い、そのためゴブリンが集団で行動するときは必ず指揮者が必要だ。しかしそれがいない。


後に続いてくる魔物もいない。どうやら敵はゴブリンのみのようだ。



避難はおよそ七割はできている。しかし全員避難するには時間が足りない。


「きゃああああああああ!!」


悲鳴が響き渡る。どうやら集団を飛び出し独走していたゴブリンが到着したようであった。
右手には鉈のような武器を持っていて左手には早速捕まえた人間を引っ張っている。


醜い顔が下衆な笑みを浮かべさらに醜くなる。


つかまっているのは子供のようだ。男は目を凝らす。





少女「た......すけ.......て..........」ズルズル






瞬間、ゴブリンの醜い顔と両腕が地面に落ちた。


ガシッ


一緒に落ちそうになる少女をしっかりと抱く


少女「へあ?......?」グスッ


少女は混乱した。何が起こったのか..............


しかし自分を抱いている者の顔を見ると自分が助かったことを理解した。


少女「うああああああん!おにいちゃあああん!!」ガシッ


男「ふう、危なかったな」


少女「うっぐ.........えぐ.........」グスッ


想像のしようのない恐怖だっただろう、こんな小さい身で死を感じるなんて..........



しかし、じっとしていられない。男は少女の目線に合わせて言う。


男「泣くのは後だ、歩けるな?急いで地下の避難所に行け、閉まる前にな」


少女「えっぐ.......おにいちゃんも......一緒に」ヒッグ


男「俺はいかない、ここで少し時間稼ぐ、だからひとりで行け」


たった今死から救われたばかりの少女には惨すぎる言葉だった。


すると男は少女の頭に手をのせ、


男「大丈夫、ここから先には一匹も行かせねぇよ、お前らを死なせはしない」


少女「お兄ちゃんは.......」


震える声で男の服を握りしめながら少女が尋ねる。


男は笑った。笑った男を少女は初めて見た。そして男は言った。


男「次はもっとうまく焼けるようになってからパンもってこい」


それを聞いて一瞬キョトンとした。が、少女は、


少女「うん!」


と、大きくうなずいてから走って去って行った。



さてと、そろそろゴブリンの大群が来る頃だ























男「運が悪いねぇ〝お前ら〟」

今日はここまでにします。また明日



ドドドドドドドドドドドドド!!


大群が町に押し寄せてくる、住人はまだ残っている


広範囲にゴブリンを足止めする必要がある............



男「勘弁な...........」



そういうと男は町の入り口付近の建物を見る。逃げ遅れている人の気配はない


カッッ!!


瞬間、建物が次々と爆発していく。近くを走って行ったゴブリンたちが爆発に巻き込まれたり吹き飛んだ破片に潰されたりした。



男「................うまくいった」



建物は崩れ、その残骸が一線を作った。ちょうどこちら側とゴブリンたちを隔てるように、



男「―――、」ボソボソ


するとその残骸が一斉に燃え盛る。明らかに自然な燃え方ではない勢いだ。


ゴブリンたちが炎にひるむ



これで少しくらいはかせげる............


「ゔゔゔ.........」


「ぎぎ......ぐあ.......」


すでに炎の一線から〝こちら側〟にいたゴブリンたちがさらに突進してくる。が、



「ぐえ?..........」グチャ



「あがっ!!.........」ヒュン



次々と首が飛んでいく。





数は.........いまのところ問題ない、


避難民はどうだ?...........あらかた避難完了か




キィィィィィィン!!



男「」ピクッ



どうやら守護石の扉が閉ざされたようだ、結界が張られる感覚を感じる。



「「ぐあああああああああああああ!!」」



ゴブリンの本隊が炎を超えてやってくる。


グッドタイミングだ.....................けど、



男「うっはー........馬鹿みたいに多いなぁ」



これだけの大群だ、王政も察知くらいはしているだろう


援軍が来るかどうかは正直五分五分だ、こんだけ小さな町だ、捨てられる可能性もある。



男「はぁ~~............」



男はゆっくりと息を吐き、集中する


地下のやつらは自分たちでは出られない、外から人間が開けなければ............



戦闘は久しぶりだ、半年くらいかな



男は確かめるように手足を動かす。


最終確認、相手はゴブリンのみ、目的は不明、人語を話さないから尋問や拷問は無理、



男「っしゃ...........」



全滅だ



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――――――――――――――――――――――

―――――――――――



「ど、どういうことだ.............」



指揮官がこぼした。きっと皆そう思っている。


日暮れ時、王都から出発した軍隊が到着した頃には日はすっかり沈んでいた。


彼らが目にしたのは想像していたものとあまりに違っていた



一面のゴブリンの死体......................



一体どれほどの数だろう、数えるのも気が引けるほどの、ゴブリンの死体。


気にはなっていた、この町に進行中、ゴブリンたちが北の町から進軍している様子はなかった。


ゴブリン特有の臭いにおいも、下品な鳴き声も一切なかった。しかしそれがまさか全滅しているなんて.................




「将軍あそこに人影が!!」



皆の注意がそちらに集まる


見ると、鞘に納めた剣を肩に担いでこちらを見ている、青年と思わしき人影があった。



将軍を先頭にしてその人影に近づく



「うっ!!」



近づき、灯りに照らされた青年を見て誰かがこぼした。


そこにはゴブリンの返り血を全身に浴びた男が立っていた



男「おー、来たんだ.........軍隊」グイッ



男は服で顔についた血をぬぐうが、服自体血まみれなので意味はなかった。


将軍「貴殿は何者か?」



将軍が重々しく尋ねた。



男「えーっと、一応旅人なんだけど.........」


将軍「旅人だと?」


男「あぁ」


将軍「..................では旅人よ、ここで一体何が起こった?何者がゴブリンを殲滅した?」


男「.........」


将軍「なんだ、どうしたのだ?」



男は返答に困った。「俺一人でやった」などといっても信じてもらえないのは目に見えている。しかし、この状況で納得のいく嘘もつけそうにない



どーしよっか.............



話を逸らすか、



男「あー、それよりさ、この地下にここの住民が避難してんだけど............」


将軍「なに!?真か!」


男「あぁ、守護石でできた扉で守ってあっから無事なはず、早く開けてやんないと」


将軍「すぐに案内しろ!!」



なんとか逸らせたな..................



―地下・扉前―


将軍「すぐに開けるんだ」


「はっ!」



将軍が指示し部下が扉を開く作業をする。



ゴオオオオオオオ!!



すさまじい音ともに扉が開く。同時に中にいた人々が一斉にこちらを向く。



将軍「私達は王都よりこの北の町を救援すべく参った!!民よ!もう大丈夫だ!よくぞ持ちこたえた!!」



おおおおおおおおおおおおお!!


人々が歓声を上げる

飯食ってきます



「おにいちゃん!おにいちゃんどこ!!」



人ごみをかき分けながら少女が叫ぶ、抜けたときつまずいて転びそうになる。


それを将軍が支える。



将軍「っと、大丈夫かい」


少女「あ、ありがとうございます」


少女「あ、あの!おにいちゃんは...........」


将軍「お兄ちゃん?」



将軍は眉をひそめた。もしかして、逃げ遅れた人の中にこの娘の兄がいたのだろうか?


将軍が返答を考えていると、



少女「あ!おにいちゃん!!」タタタッ



少女が将軍の後ろを見て駆けて行った。


将軍は一瞬考えてから先ほど出合って自分たちをここに案内した青年を思い出す。


振り返るとまさにその青年に少女が抱きついていた。



男「おい、くっつくなって」



男は結構強めに少女を引きはがそうとしたが、少女は頑なに離れない。



少女「うああああああん!」



男が返り血で血まみれなのを全く気にせず少女はしがみつく

今日はもう寝ます

おつ



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「将軍、首都との連絡が取れました!」


将軍「うむ、すぐ向かう」



あれから確認したが、避難中にけがをした者はいるが死亡したものは一人もいないことが分かった。


ありえないことだった。


いくら避難が迅速であったとしてもあれだけのゴブリンに襲われ誰も死なないなど、ましてやゴブリンが全滅しているなど、ありえない事態だった


しかし現実に起きている以上信じるほかはない。



軍隊は地上に夜営の準備をし、住民たちは町がほぼ全壊しているので地下の避難所で夜を越そうとしている。



―夜営、本部のテント―



将軍「こちら将軍、通じているか」


王女『通じています!状況を説明してください』



王宮の広間では皆が緊張していた、まだ現地の情報は何も入っていなかったのだ。


それぞれが様々な状況を想像していた、どんなに残酷な事態でも冷静に対処しなければならない。


皆が固唾をのんで将軍の言葉に耳を傾ける。



将軍『では報告します、我々が北の町に到着した時、すでにゴブリンの大群は全滅、犠牲者はなし、皆無事の模様』



将軍の報告は簡潔なものだった、ゆえに広間の大臣や王女はみなこう思った、









は?



きた



皆混乱した、それぞれが想定していた状況とあまりにも違っていたからだ。



王女「しょ、将軍、もう一度言ってもらえますか?」


将軍『はっ、ゴブリンの大群は全滅、町はほぼ全壊しておりますが犠牲者はゼロであります』



再び聞いても信じられないものがほとんどだった



ゴブリンが全滅?犠牲者はゼロ?そんな.........ありえない


今回襲われた町はこの国の一番北にある小さな町だ。軍の駐屯所も近くにはない、住民がある程度武器を持っていたとしても魔物を相手にするなど無理だ。


そもそも魔物と戦ったのであれば必ず犠牲者が出る、なのにそれがないと言う。



「訳が分からない」



皆必死で考えるが、行きつく先はその答えだった



王女「将軍よ、具体的に何が起きたのか説明できますか?」


皆が聞きたがっていたことを王女が代表して問う、


しかし、



将軍『申し訳ありません、こちらも何が起こったのかは詳細に把握いておらず、現在調査中であります』



帰ってきた答えは、期待していたものとは違っていた



王女「そう......ですか」


将軍『何かわかればすぐに報告いたします』


王女「お願いします」


将軍『はっ........それと』


王女「なんでしょう?」


将軍『先ほども申し上げた通り、町はほぼ崩壊しているため、住民のための支援物資を送っていただきたい、我々が持ってきた食糧ではとても足りません」


王女「わかりました、すぐに行かせます」


将軍「ありがたき」


王女「..........では調査、ならびに住民への救援、引き続きお願いします」


将軍「はっ!」


ブツン



ふぅー.......


王女は周りに気づかれないように小さくため息をつく、頭の中で状況を整理する。


ゴブリンが全滅、犠牲者はなし、どちらも信じられないことだが王女は大臣たちより動揺していなかった。


あの映像を思い出していたのだ、昼間水晶を通して見たゴブリン...........


あれは確かに何かから逃げていた、では一体何から?




―北の町・地下―


男「..............」


少女「..............」



地下の大きな広場では中央に大きなたき火がこしらえてあった。皆それを囲んで暖をとっていた


しかし、男と少女はこれまた皆とは少し離れた場所に座っていた


何人かが一緒に行こうと誘ったが男は軽く断って、誘った人も『やっぱり』といった反応をしていった



男「おい、いい加減離れろって」


少女「やだ」



さんざん泣いていた少女はさすがに泣き止んだが未だに男の服をつかんで離さない


男「お前の母ちゃんあっちいんだろ、お前も行けって」


少女「ママ、いいって言ってたもん」



まじか..........


いい加減水を浴びたい、


服は着替えたが肌についた血は流せないでいる、こいつのせいで...........



男は少女を見る、少女は変わらず男の服の裾をギュッとつかんで離す気配はない



はぁ.........



男はあきらめたようにため息をつき岩に寄り掛かる



―地上―


将軍は自らも調査に加わっていた。たいまつを片手にゴブリンの死骸の中を進んでいく。



死骸は様々であった、刃物のようなもので首を刎ねられたり、四肢がもがれている者、まるで爆発したように飛び散っている者


将軍は確信した。



ゴブリンは魔法を使うものに全滅させられた............



これまで多くの戦場を経験してきた将軍は、この光景に見覚えがあった。魔法を使う種族と戦をした場合、このような死体がたくさん出来る。


これもまたそうだ。ただ、いつもと違うのは、死体が人間ではなくゴブリンであると言うこと。



将軍「..................」



将軍はあの青年を思い出す。返り血を全身に浴びて戦場に立っていたあの青年を...........



やはり彼が何か知っているのは間違いない



将軍の足は地下の避難所へと向かい始めた。


風呂行ってきます



―地下―


将軍は意外に早く男を見つけた。


これだけの人だ、少し苦労すると思っていたが人だかりから離れていたので遠目で見ればわかりやすかった。


例の少女と一緒のようだ。





男「....................」



さっきの将軍と呼ばれていた男がこちらに歩いてきている。


甲冑はすでに脱いでいる、あたりに魔物の気配がないため見張り以外の兵士は皆楽な格好で作業をしていた。


将軍は筋肉質で、体のパーツがそれぞれ太い。腰には大きめの剣を携えており、〝まさに〟という感じの大男であった。




あの男の目的は大体予想がつく、できればあまり関わらないで隠れていたいのだが隣の少女様がそうはさせてくれないらしい。


頭を〝隠れる〟から〝うまい言い訳〟に切り替える。



うまくごまかさなければ、面倒なのは嫌いだ


今日はもう寝ます

乙です
続きが楽しみです!
更新のペースはどのくらいなんでしょうか


>>42
最近は忙しかったけど、これからはなるべく毎日、あるいは二日に一回のペースで行きたいと思います
遅筆なので一回一回のレスは少ないけど............



しかしどう言い訳すればいい................


正直、軍隊が来るとは思っていなかったから結構魔法使っちまったし.........


将軍クラスが見ればすぐわかるからなー、


くそっ........めんどくさがらないで全部剣でやればよかった



しかし後悔先に立たずである。なんとかこの男をごまかさなくては



他の種族の仕業にすると言うのはどうだ?


..............いや、余計ややこしいことになる。


そうだ、仲間割れしたってのはどうだ?ゴブリンの横暴に耐えられなくなった魔法が使える指揮官がついカッとなってしまって皆殺し............


まぁ、多少強引だけど悪くはない、あいつら(魔物)なんてたいてい馬鹿だからな、すぐ仲間割れすることもあるから、大丈夫だろ


んで、俺は戦場泥棒的な奴で全部終わってからあそこにいたってことで。



将軍「ん、今大丈夫か?」


男「あぁ........」


さぁ、聞いてこい、悪いがほんとのことは言わないけど........




将軍「ゴブリンのことだが...........お主何か知っているか?」


男「あーゴブリン?詳しくは知らないけど、なんか仲間割r...少女「おにいちゃんがやっつけたんだよ!!」


男「........................」



おい、



将軍「む、どういうことだ?」


少女「あたしがね、捕まった時助けてくれたの!」ギュッ


少女「あと、前もn...ムグッ!!」



少し黙ってろ、マジで........



将軍「...................」


男「....................」


少女「」ジタバタ




将軍「お主............戦っていたのか?」


男「..............」



やばい、恐らくこいつの中ではもう決めつけてる。これは確認の問いだ.............


ここで下手なこと言ったら一層怪しまれるな、



ちっ、



男「まぁ.........」

















少女「」ジタバタ



男の答えに将軍の眉がピクリと動く


そして一番の疑問をぶつける



将軍「お主、魔法が使えるのか?」



魔術師、魔法使い、魔女、魔導士..........


魔法が使える人間は様々な呼び方がある


そしてそれらの存在は極めて重要な存在である。



――もし、目の前のこの男が魔術師ならば、あのゴブリンを殲滅させたのなら、とてつもない脅威だ...........


ゴブリンの死に方は様々であったがあれは集団に襲われたものではない、〝相手〟は、信じられないが恐らく単独だろう


その〝相手〟がこの青年なら............


自分の考えが馬鹿げていることは重々承知だ、しかし実際に信じられない事態が起きている。



将軍の目は真剣だった。



――このおっさんもうわかってんじゃねーの?



男「.................」


めんどくさいことを回避しようとしてたけど、もうすでにめんどくさいことになってるらしい.............



男「.................あぁ、俺は魔法を使える」













少女「ぷはぁっ!.........」ゼェ、ハァ...

おおっ



将軍「............そうか」


男「あんまり驚かねーのな......」


将軍「うむ」


将軍は冷静に答えた。が、それは必死に取り繕っていたからだ。


疑ってはいたが実際に認められると改めて信じられない。



将軍が驚いていたのは男が魔術師であると言うことではない、その戦闘力だ。


あのゴブリンの大群を全滅させるなんて魔法が使えるからといってできるものではない。将軍級か、それ以上のレベルの戦闘力があっても一人でなど無理だ。


四十年余り生きてきたがこのようなことは初めてだ。信じられない、しかしこの青年がこの町を守ったことは事実だ。



すると将軍は右手でこぶしを作り、それを左胸にあてた。相手に敬意を表すポーズだ



将軍「礼をお言う、この町を、民を守ってくれたこと、心から感謝する」


男「」キョトン



男は呆けた、まさか礼を言われるとは思っていなかった。


しかも相手は将軍だ。見ず知らずの旅人に頭を下げるなんて普通じゃ考えられない。



男「あ、あぁ.....」


と、少し間抜けな返事をした。



少女「どうしたの?」



状況をうまく理解できてない少女が問いかける



男「なんでもねーよ............」



男は軽くあしらって再び将軍に目をやる。すると、将軍の目つきが少し変わっていた。



嫌な予感がする.............



将軍「お主に提案なのだが、この国に留まらぬか?」




あぁ、やっぱりだ..........まぁ、当然っちゃ当然なんだが。


魔法を使えるものを「はい、さよなら」なんて見逃してくれるわけがねーかんな、



男「断る」


はっきりと言い切った。



将軍「...............理由を聞こう」


男「言う必要があるか?」


将軍「...............」



将軍は真っすぐと男を見つめる。


はぁ、とため息をついて男が言う、



男「じゃあはっきり言うけど、国のお偉いさんたちの道具になるつもりはさらさらねーわけ」


将軍「む、それは誤解だ、他の国は魔術師を政治的武器として扱うことがあるがこの国は決してそんなことはない」


男「はっ、どうだか」


将軍「本当だ、私達は魔術師達をお主の言うようには扱っていない」



はっ、それこそ俺には〝信じられない事態〟だよ........


人間が魔術師をどう扱うかは散々知っている。



少女「おにいちゃん..........」ギュッ



少女が男の服の裾を握りしめた。微かに男の顔が怖くなったように感じたのだ。


男「............大丈夫だ」


小さく伝える。




男は将軍に向き直る。



男「将軍さん、俺はこの国の人間じゃないからあんたの誘いに従う義理はないよな?」


将軍「..............あぁ」



実際その通りだ、この男をこの国に引き留める材料をこちらは何も持っていない


しかし、これほどの存在を逃すわけにはいかない、魔法が使えるだけでなく、この若さで圧倒的戦闘力。



実際に見たわけではないが将軍はもう感じていた。



最初あった時には気が付かなかったが、今ならわかる、この青年は戦人だ。しかもただ物でないことは明らか。


何としてもこの国にいてほしい存在だ




将軍の目が再び真剣になる



将軍「私がお主のことを報告すれば国はお前をおそらく、何としてもこの国に留まらせようとするだろう」


男「うっわー、怖いねぇ、じゃあ報告はしないでくれよ」


将軍「それは無理だ、これだけの事態、虚偽の報告をするわけにはいかない」


男「はっ、なに?もしかして脅してんの?」


将軍「事実を言っている」


男「............つーかさ、信じんの?お偉いさんたちは、俺がやったって」


将軍「私の言葉なら信じる」


男「ずいぶん信用されてんだね」


将軍「無論だ」


男「だったらあんたが嘘をつけば........」


将軍「嘘はつかん!」


男「...................」


将軍「......................」



沈黙になる。


将軍は冷や汗をかいていた。


もしこの男がその気になれば自分を殺すことなどたやすい。〝このこと〟を知っているのは私だけだ


私を消せばこの男の思い通りになるだろう



沈黙を破ったのは将軍だった



将軍「なぜ守った?」


男「ん?」


将軍「お主は、自分がこの国のために従う義理はないと言ったが、それならなぜこの町を守った?この町を守る義理もなかろう」


男「..............」


将軍「.............」


男「別に、俺の都合だよ」


将軍「どのような都合だ?」


男「あんたには関係ねーよ」


将軍「...................」チラ


少女「............」ギュッ


男「」ピクッ


男「つーか、今日はもう休ませてくんね?結構疲れてるんで」


将軍「...........わかった、この話はまた明日」



おわんねーのかよ.........



男「ほいじゃ、さいなら」


将軍「うむ」



将軍はそう言おうと引き返していった



男「...................」



めんどい予感がする



男「はぁー!だっるーーー!」グダー



男はそう言うと疲れ切ったように寝転ぶ



少女「ねぇ、何話してたの?」



少女がその隣に座る



男「お前ずっと聞いてたろ」


少女「うん」


男「.................ま、わかんねーかガキには」


少女「ガキじゃないもん!!」


男「ろくにパンも焼けねぇくせに、ガキが」


少女「~~~っ!!」


男「お、泣くのか?やっぱガキだな」


少女「泣いてないもん!」



少女「.......................ねぇ」


男「あ?」


少女「ここには残らないの?」


男「お、少しはちゃんと聞いてたのか?」


少女「なんか、あのおじちゃんが残れって言ってるのにおにいちゃんがヤダって.....」


男「あー、うん、そんな感じ」


少女「残らないの?」


再び問う



男「.............あぁ」


少女「..............なんで」


男「〝一応旅人〟だからな」


少女「...........やめればいいじゃん」


男「....................」


少女「また、ここ襲われちゃうかもしれないし」


男「......................」


少女「おにいちゃんいなかったらあたし今日死んでたし.....だから.....」


男「うっせ、今日はもう寝ろ」


少女「................」



少女が言おうとした言葉を男が遮る。少女に背を向け寝る体制になる


その態度に少女も言葉を飲み込んだ
















男「ってなんでここで寝ようとしてんだよ」


少女「ママがいいって.........」


まじか、あのババア........

今日は寝ます。


おもしろい

応援してる



―王都―



王女「...................」



早朝、部屋は怖いくらいに静かだった。


まだ侍女も起こしに来ない時間帯。


王女はずっと起きていた、眠れるわけがなかった..........


ゴブリンは全滅していた......全滅させられていた。



――一体何者なの?どの種族なのだろう............


魔物同士の争いなのか、北の町は偶然巻き込まれたのか、意図的に攻め込まれたのか、


何も分からない。


将軍からの連絡はあの一度きりで、結局何もわかっていない。



王女「...........っ」グッ



ついこわばってしまう。


しっかりしなくては、私は王女。揺らいでいてはだめ。


お父様のように皆をまとめなくては......


>>59
ありがと



コンコン....



静まり返っていた部屋に控えめなノックの音が響く。


その音にハッとする、



王女「ど、どうぞ」


侍女「失礼します、王女様、おはようございます」


王女「おはよう...........」



入ってきたのは王女専属の侍女。


栗色の髪と目をしており、気さくな性格で誰にでも明るく接する。


彼女の前では王女もすこし気楽になれる。



侍女「昨夜はよく眠れましたか?」



侍女はそう言いながら慣れた手つきで部屋のカーテンを開けたり花瓶の水を替えたりする。



王女「え、えぇ........」



王女の曖昧な答えに侍女が敏感に反応する。そして顔を覗き込み、



侍女「あ!王女様、ほとんど寝てないでしょう!くまができいています!」


王女「大丈夫よ、それに、二人だけの時は『王女様』なんて言わないでっていってるでしょう」


侍女「では、姫様、昨夜はよく眠れたようで?」



侍女がすこし嫌味を込めて言う



王女「ほんとに大丈夫だってば」


侍女「だめですよ?睡眠不足は女の敵です、体を壊したりでもしたらどうするんですか」




王女「...........眠れなかったの、昨日あんなことがあったから....」


侍女「北の町のことですか?」


王女「えぇ.......」


侍女「攻めてきたのはゴブリンだったみたいですね、今、すごい噂になってますよ」


王女「うん、ゴブリンだった.........けど」


侍女「けど?」


王女「ううん、なんでもない」



王女はゴブリンを全滅させた者のことを考えたが、口にはしなかった。


侍女「でもこの国に魔物が集団で襲ってくるなんて初めてですよね.........」


王女「そうね、初めて...........」


侍女「あっ!で、でも大丈夫ですよ!なんか全滅してたらしいじゃないですか!」



王女の反応に慌ててフォローをする。



王女「そう、全滅してたの..........」



あっれーーー?




侍女「だめなんですか?」


王女「うーん......どの種族の魔物がやったのか分からないからさ、余計に不安って言うか.........」


王女「もし好戦的な種族だったら私達も危ないし、その種族の狙いがゴブリンたちだったのか私達なのかもわかんないからまだ手放しに喜べないんだよね................」


侍女「..........っ」



何も言えなかった。


そこまで考えているとは........いや、考えなくちゃいけないんだ、王女と言う立場であるからにはその責任がある。


..............自分が浅はかだった。この事態は楽観視してはいられないのだろう



侍女「でも、町の民は無事だったんですよね」


王女「うん、それはよかった、本当に......」


侍女「はい、........早く将軍様から連絡が来るといいですね」


王女「そうね、良い情報ならいいんだけど」


侍女「そんなに暗い顔だと縁起が悪いですよ?」


王女「............そうね」



王女はそう言うとクスリと笑った


おつ!
楽しみにしてるからがんばって!!



―北の町・地下―



男「..............」



男は目を覚ましていた、というより、今覚ましたのだが動けずにいた。



少女「すぅ....すぅ...へ、へへ」ムニャムニャ



理由鉾の少女だった。


昨晩男は少女と並んで寝ることになった(諦めて)


しかし並んで、といっても男は少女に背を向けてだ。


なのに、今目を覚ますとなぜか少女が男の腕を枕にして寝ていた。



男「...............」



なぜだ..........


なぜこんな配置になっている?寝相でこうなるのはまず不可能だ、第一俺は昨日寝た時と体の向きは変わっていない


となると原因はやはりこいつだ。俺が寝たすきにこっちに回り込んできてさらに俺の腕を動かした.....のか?


おかしい.....俺が気づかないわけがない、


あーでも、昨日結構疲れてたからか?いやそれでも......っは!!



男「っ.......」


少女「へへへ.........」スヤスヤ



こいつ.......


よだれを......垂らそうと!!


まずい、早く起こしとくべきだった!おい、ばか.......垂らすな、やめろ



よだれ「」デローン


男「」


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風呂行ってきます



少女「ん.......んぅ」パチ


少女「ん~~~」ゴシゴシ



少女は目をこすりあたりを見て状況を確認する


少女「あれ、おにいちゃんは?」


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くそっ、最悪の朝だ


あのガキ、後で思いっきりいじめてやる


なんで朝から洗濯なんかしなくちゃいけねぇんだよ


よだれくらいで...........と思うだろう......



えげつなかった..............量が


まぁあれだ、水浴びするついでだ


そう自分に言い聞かせる


一通り洗い終えて水浴びの準備をする。


水浴び場は井戸のそばにある。


いつものように何気なく服を脱ぎながら向かう


そして到着すると、そこには.................























将軍「む、お主も水浴びか?」


男「」



裸のじじいがいた

すいません、今日はもう寝ます

少女の涎はご褒美だろ!なぜ洗う!?
と思ったがそういやこの男血まみれだったな



まさか朝一で会いたくないやつに会っちまうとは..........



男「あ、あぁ.....」


将軍「そうか、ならば共に浴びるか」



やだよ



男「いや、俺はまだやることがあったな」



男はそそくさと引き返そうとした。が、振り返ると.............



町娘「」


男「..............」


将軍「む、」


恐らく水汲みに来たのだろう、手に水を汲んだ桶を持っていた。


全部ひっくり返してたけど............



町娘「あ........あぁ........///」


男「.............」←半裸


将軍「水汲みか、ご苦労」←全裸


..............なんか、嫌な予感がする



町娘「き、き..........///」



『き』?



町娘(腐)「キタコレーーーーーーーー///」キャー


町娘(腐)「やっぱり男が受けなのねーーー!!」ダダダダダ


男「」



おい、何がきたんだ、何もきてねーぞこら


受けってなんだ?しかもやっぱりって.....おい、受けなわけねーだろ




男「................」ポツーン


将軍「.......あの娘はどうしたのだ?」


男「しるか」



あんにゃろー、間違っても広めんじゃねーぞ..........

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―地下―


少女「あ!おにいちゃん!」


男「.................」ムスッ


少女「どうしたの?」


男「てめー、二度と俺のそばで寝るなよ」


少女「へ?」


男「へ?、じゃねぇんだよ」ゴゴゴゴゴ


少女「っ..........」ビクビク


「ちょっと!家の少女をいじめんじゃないよ」


男「あ?」


少女母「あ?じゃないよこのバカチン!」


男「おい、もとはといえばお前があんなこと許可するから........」


少女「なにさ、あんなことって」


男「昨日の夜だよ、俺にこいつのお守りさせんじゃねぇよ」


少女母「いいじゃないかあれくらい」


男「そのせいでこっちは散々なんだよ」


少女母「かーっ、たかが涎じゃないか」


男「おい、何で知ってんだよ、てめーみてただろ」



男たちのところに将軍が近寄る



少女母「あ、これはこれは将軍様、おはようございます」


将軍「うむ、おはよう………して、男に話があるのだがよいか?」


男「………………」



あからさまに嫌な顔をする。



少女母「男に、ですか?」



将軍ともあろう人が朝早くから自ら訪ねてきて、その相手が男だったことに少女母は不思議な様子を隠せずにいた



男「…………場所変えるぞ」


将軍「うむ、では失礼する」



男はそそくさとその場をあとにする。将軍も少女たちに一言いってから後に続く



少女「………………」



昨夜のやり取りを一応聞いていた少女は、少し不安げな顔で去っていく二人の背中を見ていた……




-地上-


兵士たちのテントから離れた人気のない場所に二人はいた



将軍「それで、どうだ?留まってはくれぬか?」


男「あんたなぁ、昨日の今日だぞ?早すぎじゃねぇの?」


将軍「………このあと王都と二度目の連絡を取る、その時にお主のことを伝えるつもりだ」


男「………………」



はぁ、と男はため息をつく


ほんと、めんどい…………



男「俺の意思を汲んでくれる気持ちはないわけ?」


将軍「無茶な願いだと言うことはわかっている」



そうは見えないけどな………


男は暫し沈黙してからいった、



男「断る」




将軍「………………」


男「………………」



再び沈黙になる



将軍「………どうしても、か?」



将軍が静かに尋ねた。その額には汗がにじんでいる



男「あぁ、俺も目的があって旅してんだよ………やめるわけにはいかない」


将軍「その目的とは?」


男「言うつもりはない」



男の態度にこれ以上の追求は無駄だと判断する。



将軍「しかし、私はお主のことを報告するぞ…………」


男「なら、さっさとこの国を出なきゃな………さすがに他国までは追って来ないだろ?」


将軍「………………」



その通りだ。国境より外に出られるとこちらとしても打ても足も出ない



しかし、出すわけにはいかない、逃すわけにはいかないのだ。


この"時期"にこの男に出会えたのは運命に近い


この国にとってこの男を逃すのはあまりにも惜しすぎる




チャキ…………



男「」ピクッ


将軍「………………」



将軍が腰の大検に手を伸ばした。それに男も反応する



やる気か?



男は静かに息を吐き、集中しようとした。が、将軍は剣を抜かなかった


将軍は剣を腰からはずすと男に投げつけた



男「っと、」



とっさに受けとる


重い………


将軍の行動の意味がわからず男が戸惑っていると、将軍は地面に膝をついて言った、



将軍「頼む、お主のちからが必要なのだ」



言うと将軍は両手、そして額を地面につけた



男「なっ…………」



男はあっけにとられた。


『将軍』が他人に土下座するなどあり得ない、あってはならないことだ。国王にもここまですることはない。




男「おい、いいのかよそんなことして………」



一国の将軍が旅人相手に頭を垂れる。


この事態が公になればこの男は『将軍』の称号を剥奪されてもおかしくない。それだけの状況である。



将軍「……………………」



将軍は答えない。地に頭をつけ、沈黙している



男「…………………」



ここは兵士達のテントから離れてはいるが誰が来ても、見ていても不思議はない。


いつまでもこのままでいるわけにはいかない



男「おい、顔あげてくれよ、こんなとこ見られたらお互い不味いだろ」


将軍「お主が残ると言うまで顔はあげん」



頑固じじいかよ………



男「…………なぁ、何でそこまですんだよ」



男は耐えきれなくなって尋ねた


そのといに将軍がピクリと反応する。



男「いくらなんでもやりすぎだろ、あんた将軍なんだろ?」


男「それに、俺が言うのもおかしいけど、昨日俺が寝てる隙とかに連絡して俺を無理矢理にでもとらえておけばよかったんじゃねーの?」



男は一番疑問に思ってたことを尋ねた。将軍は男に残れと言うが男はそれに従う義務はない。男が逃げてしまえばそれまでだ。


だからこそ捕らえて無理矢理にでも『契約』なりをさせればいい、


しかし、この将軍はそういうことをしようとする気配はない。ただただ一方的な「お願い」だ。


男は疑問だった。


ここまでお願いをするのに"強引"という手段をなぜ選ばないのか………



将軍「無理矢理では、お主を留めることはできても完全な協力は望めない」


将軍は静かに顔をあげ答えた



……………あげんのか・・・まぁ、いいけど



将軍「今この国は窮地なのだ」



将軍「この国は今、先代の国王が病に倒れてから不安定な状況にある、一人娘の姫様が即位なされたがまだ若い……」


将軍「そんな中、隣国が最近不穏な動きをしておる、恐らくこの国を攻め落とそうとしておる」



将軍は悔しいようなやるせないような顔で語った。



男「隣国っつったら……あの大国のか?」


将軍「うむ」



将軍は重々しく頷いた


この国は二つの国に面している。南西で小国、南東から東にかけて大国と接している。



もし、その大国が本気でこの国を落とそうとしているのなら……まぁ、勝つのは無理だろうな

(マダカナー)

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