ベルトルト「訓練兵の終わりに」 (83)
進撃のSSです。
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ベルトルト「僕は君のことを守るよ。だから安心して。大丈夫だよ」
やっと言えた
君の顔は驚いている?
それとも呆れているかな?
あの時と同じように僕はみれない
見えなかった顔を思う
忘れることなんて無かったはずだ
ライナー「なあどうだった今日の訓練は?」
ベルトルト「どうって」
アニ「あのバカらしい訓練のこと?」
ライナー「あのぶら下がるやつな」
ライナー「子供が公園の遊具で遊んでるみたいなもんで」
ライナー「お前なんて似合っていたな」
アニ「もういい?帰って?」
ベルトルト「みんな受かってよかったよ」
ライナー「受かるだろあんなの」
アニ「もういいって言ったんだけど」
ライナー「腹でも減ったのか?」
アニ「はぁ?」
ベルトルト「サシャって子すごかったね」
ライナー「芋だもんな」
アニ「度胸はあるんじゃない?」
ライナー「確かにな。普通できないぞ」
アニ「なんだろうね。バカそうには見えなかったけど」
ライナー「そうかぁ」
ライナー「そんなことよりお前大丈夫か?」
アニ「何が?」
ライナー「1人でやっていけるか?」
アニ「バカじゃない?」
ベルトルト「ははっ」
ライナー「なんだベルトルト?」
ベルトルト「いやごめん」
ライナー「俺らは二人いるからいいけどな」
アニ「誰に言ってる?」
アニ「私は誰とも仲良くするつもりなんてない」
ライナー「あのクリスタと仲良くなったらどうだ?」
ベルトルト「でもユミルといつも一緒にいるよ」
ライナー「あいつ性格きつそうだな」
ベルトルト「そうかなあ。そんな風には見えないけど」
アニ「帰っていい?」
ライナー「俺達あんまり一緒にいるわけにいけないけどさ」
ベルトルト「エレン達みたいにできたら」
ベルトルト(一緒にいれたらいいのに)
乙
次はベルトルトか
楽しみだな
ライナー「無理だよな」
アニ「話聞いてる?」
ライナー「ミカサとかどうだ?同じ無口で気が合うんじゃないか」
アニ「冗談。さっきから何なの?」
ライナー「飯食えよ。大きくなれないぞ」
ベルトルト「ぼっ僕らはもう大丈夫だからね。足りなくなったら言ってよ」
ライナー「ほらっベルトルトだってこう言ってるんだ」
ライナー「とにかくなんかあったらいつでもこいよ」
アニ「こないけど」
アニ「もういい?じゃ行くよ」
ベルトルト「がっ頑張って」
アニ「・・・何言ってるの?」
こんなこと憶えていなくてもいいじゃないか
ことあるごとに思い出していたから
憶えていたんだけど
雪山の中を僕らは歩く
これは訓練だ
なんのための訓練だ?
考えない
珍しく三人でいる
本当に久しぶりだ
こんなに長い間三人でいるのは
ライナー「お前って背が低いな」
アニ「それで?」
ライナー「背が伸びなかったんだな」
アニ「それで?」
ライナー「可哀相に」
アニ「死ねば?」
待ってた
確かにアニの背は低いけど、それを言うライナーってすごいよ
不機嫌な顔と少し笑っている顔が浮かぶ
僕は表情を変えるのが難しい
アニ「あんたらが無駄にでかいだけ」
ライナー「お前が無駄に小さいだけ」
ライナー「結局お前は俺らのところにあんまりこなかったな」
アニ「行かないって言った」
ライナー「俺らが行こうか」
アニ「くるな」
先頭に立つ僕は二人の声を聞いていたけど
ライナー「なあベルトルト!」
ベルトルト「何?」
ライナーの大きい声
アニ「うるさいなぁ」
真ん中にいるアニが言う
ライナー「アニって我侭だよな!?」
ベルトルト「どうだろう!」
少し大きな声になる
アニ「我侭じゃない」
小さな声だ
ベルトルト「あっうん」
暫く歩き続けた
ライナー「お前さあ」
アニ「何?黙って歩けば?」
ライナー「・・・別に足跡が小さいって思ってな」
そうなんだ。僕は先頭だから
ライナー「そうだ。ベルトルトの手より小さいんじゃないか?」
急に僕の名前がでるなんて思いも寄らなかった
違うか僕の手が何?
アニ「だから何?」
ベルトルト「そうだよ」
ライナー「ほらっ手をついてみろよベルトルト」
ベルトルト「えー」
アニ「そうでもないと思うけど」
ベルトルト「なんで」
ライナー「はやく」
後ろを振り返り足元を見る
律儀に足跡をあけてくれているアニ
ライナーも何故か足をどける
君は別にいいんじゃない?
冷たく白い雪に触れる
一瞬だけ
ベルトルト「どうだろ?よくわからない」
本当にわからない
僕は二人の顔なんて見ないまま先に
ライナー「待てよベルトルト」
アニ「で?どうだったの?」
ベルトルト「早くいこうよ」
頬が熱い。なんなんだ僕は
雪が顔に当たり続けるのにさ
後ろから着いてくる足音が
聞こえてくる
少し歩幅を緩めよう
ごめんライナー、アニ
僕は君らのことがすごく好きだよ
言葉にしても思ってもよくなくて
このままではいられないけど
君らが来たら僕は言ってやろうかな
このまま一緒にいれたらいいねなんて
ライナー「一人で行くなって」
アニ「はやいよ」
ベルトルト「・・・」
ライナー「ベルトルト?」
ベルトルト「雪が降っている」
アニ「そうだよ?だから?」
ベルトルト「でも寒くない」
ライナー「お前顔赤いぞ。大丈夫か?」
アニ「風邪?」
ベルトルト「ありがとう」
ベルトルト「大丈夫、大丈夫さ。先へ進もう」
僕は後ろを振り向きたいのに
前が見えないから
前を向いている
何の為に
風が強くなってもうよくわからない
僕もよくわからなくなってしまったとしよう
ベルトルト「なんでここにいるのだろうね僕達は?」
誰も聞こえていないから
いつも思っていた言葉を言った
どうせ聞こえていないさ
ベルトルト「寒いよ。帰りたいよ。故郷に」
ベルトルト「あと少しで全てが終って、僕達も終ってしまうね」
ベルトルト「僕はさ君達が好きだよ」
ベルトルト「だから一緒にいることができないのはなんでだよ」
聞こえないだろう。お願いだから聞こえないでほしい
足跡は聞こえているだろう
ベルトルト「アニ、ライナーここから逃げてみようか?」
頬の熱さの分いまはとても冷たい
凍ってしまえたらと思いさえもした
ベルトルト「どこかで静かに暮らそうか」
もちろん振り返りはしない
ベルトルト「できれば僕らの故郷と似たような所がいいね」
僕はついてきているだろう二人を想像して
ベルトルト「僕はなんでもするよ。だから何でも言ってよ」
二人は僕を見ているかな?前にいるから
嫌でも目に入ってしまうね
ベルトルト「僕は泣き言は言わないしそれ以上は望まない」
ベルトルト「年老いても一緒にいようよ」
ベルトルト「僕達ならずっと一緒にいれるから」
ベルトルト「ずっと一緒にいようよ」
ベルトルト「話しているだけでいいんだ」
ベルトルト「でも僕は話すのは苦手だから」
ベルトルト「聞いているだけかもしれないけど」
ベルトルト「僕は僕の言葉より君らの言葉が聞きたいよ」
ベルトルト「駄目かなぁ」
今は誰の言葉も聞けなくても
ライナー「ベルトルト」
ベルトルト「何?」
ライナー「先頭を替わろう」
ベルトルト「ああうん。そうだね」
ベルトルト「そうだね」
良かった
アニ「私は?」
ライナー「お前はそのままだ」
アニ「何で?」
ライナー「お前が先頭だと風除けにもならない」
ライナー「チビだからな」
アニ「・・・」ブツブツ
ベルトルト「ははっ」
ライナー「んっ?」
アニ「何笑ってるの?」
ベルトルト「あっごめん」
雪道を歩き続け訓練は続いた
誰の一言も聞いていない
もし僕と同じようなことを喋っていたら
そんなことない
そうでないと思うようにしよう
今日のこと僕は死ぬまで覚えている
アニとライナーはすぐに忘れてしまうだろうけど
それでいいよ
僕が歩けているのは曲がりなりにも
二人のおかげなんだ
もしいなければ僕の心なんてとっくの
昔に消し飛んでしまっていただろう
訓練の終わりの集合場所の開けた広場
明るかった。その中に入ることが
アニ「やっと終ったね」
ライナー「ああ」
すごくイヤなんだけど
前を歩く二人と離れないように着いていく
ライナー「結構早い時間に着いたな。これならいい成績が取れそうだ」
アニ「ふーん」
ライナー「どうでもよさそうな顔すんなよ」
ベルトルト「あそこにエレン達がいる。僕達よりも少し早かったんだね」
ライナー「おーすげーな」
アニ「別にいいでしょ」
ライナー「お前な」
いつも3人でいる彼らを見ることがいつからだろうか
いくつもの感情でみてしまうから
あまり見たくないなって思っていた
見たくないなら見ないことだってできる
頬の冷たさを忘れるみたいに
僕達が一人一人になれば
冷たさをそのままにして忘れていける
それはそうなんだけど
ベルトルト「今度は負けないようにしよう」
たまにはこんなことだって言ってやる
ライナー「おっ言うじゃないかベルトルト」
アニ「まぁそうだね」
だってイヤじゃないか?
僕達だってさ
まだ何とかなるのかもしれないよ
今度がくるだなんて
今度だなんて
ベルトルト「思って悪いのか・・・」
アニ「悪い?」
ライナー「何か言ったか?」
ベルトルト「いや違うごめん」
ベルトルト「今度ご飯食べに行こうよ」
アニ「いいよ」
ライナー「いいな」
ベルトルト「いいよね」
こんなに簡単なことなんだ
できると思ってないことでも
アニ「どこ行くの?」
ライナー「そりゃ街だろう」
ベルトルト「うん。あんまり行ったことないよね」
アニ「そもそも休みがね」
ライナー「訓練も終わりになれば多くなってくるさ」
ライナー「お前はどんな店がいいんだ?」
アニ「ん?」
ライナー「駄目だぞこいつ。ベルトルトは?」
アニ「何駄目って?何?」
ライナー「静かにしろ」
ベルトルト「えっと悪いけど詳しくない。ライナーはどう?」
ライナー「俺は色々知ってるぞ」
アニ「嘘だね」
ベルトルト「嘘だ」
ライナー「こういう時だけお前らは」
ライナー「わかったよ。調べておくからお前らもなんか調べておけよな」
アニ「そういうの苦手だから」
ベルトルト「僕も」
ライナー「ああ俺の幼馴染はあれな奴ばっかだ」
ベルトルト「あれって?」
アニ「どういうこと?」
ライナー「いいよもう。いこうぜ今度。絶対だぞ」
ライナー「お前なんか店探したか?」
寝る前の少しの時間。兵舎の前で話しかけてくれる
少し風のある日だ
ベルトルト「この前の話だよね。まだなんだ」
ベルトルト「行きたいとこはあるんだけど」
ライナー「なあどうしてあんなこと言ったんだ?」
ベルトルト「大した理由じゃないよ」
大した理由じゃないからそうしたかったんだ
ベルトルト「僕達って訓練兵になってからそんなに話さなかった」
ベルトルト「終わりが近づけば近くなるほど」
ライナー「そもそも」
ライナー「お前もアニもあんまり話さないじゃないか」
ベルトルト「ごめん」
ライナー「謝るなよ」
ベルトルト「そろそろ僕達は」
ライナー「なにがだ?・・・いやそうだな」
ベルトルト「僕達耐えてきたよね」
僕は最低だったろうか
みんなつらいから僕は耐えられると思っていた
みんなが幸せだったら僕は耐えられないかも
だってその中に僕がいるって考えられない
こんな考えが
僕は昔からあった
ライナー「ああ耐えてきた」
ライナー「訳が分からなくなるくらい」
ライナー「でもベルトルト」
ライナー「最近思うんだが」
ライナー「なにかがすこしずつ変わっていく」
ライナー「そんなこともあるのかってな」
ベルトルト「なにかって?」
ライナー「・・・」
ベルトルト「何?」
ライナー「もうやめるか」
ベルトルト「えっ?」
ライナー「そんなに驚くなよ」
ベルトルト「驚くよ」
ライナー「もしそうしたらって考えることはあるさ」
ベルトルト「あるんだ」
ライナー「誰かのせいでな」
ベルトルト「誰?もしかしてエレンとか?」
ライナー「違う」
エレンみたいな勇気があれば僕は
こんなことは言わなかったのか
ライナー「俺達子供のころって何して遊んでたっけな」
ライナー「思い出せるか?」
ベルトルト「さあ思い出せない」
ライナー「俺は覚えてる」ニヤッ
悪い笑顔だ。子供みたいな感じの
ベルトルト「どんな?」
ライナー「あっアニ!」
ベルトルト「アニ!?」
いない
ベルトルト「ライナー!?」
ライナー「お前憲兵団に行けよ」
ライナー「俺は前言ったように調査兵団にいくからさ」
ベルトルト「なんでだよ」
ベルトルト「そんなこと言うなよ」
みんなで一緒に行こうよ
じゃないとどこに行けばわからない
今の君の笑顔はさっきと違う
僕は君に負けたくないから
笑顔をつくりたかった
ライナー「そんな顔するなよ」
ベルトルト「してないよ」
目をそらして空を見る
暗闇で見る星も彼らと違うはずだ
僕ら旅にでることなんてできない
僕もどうしようもなくなってきてる
僕ら旅に出ようよ
今出来るのはこれくらいなんだけど
ベルトルト「アニ!!」
ベルトルト「今度ご飯行くよ!!」
ライナー「バッバカ何言ってんだよ」
ライナー「そんな大声で」
その後すごく恥ずかしい思いもしたんだけど
みんなにどうした?って言われたり
教官には怒られたりした
ライナーはそのとき以外には何も言わず
アニにも何も言われなかった
ただ訓練のときに思い切り蹴られた
ライナーもなぜか蹴られた
アニ「なんでこの前」
まだ霧が立っている朝食前、訓練の前
よく見えないけど
アニがいるのがわかる
いつも朝早くトレーニングしてたのは知ってたけど
アニ「あんなわけわかんないこと大声で言ったの?」
ベルトルト「ごめん」
アニ「答えになってないんだけど」
どんな顔しているんだろ?
ベルトルト「ライナーは別になにも悪くないから」
ベルトルト「蹴らないでよ」
アニ「どうでもいい」
ベルトルト「ひどいね」
アニ「こっちもこっちで大変だよ。色々聞かれたりさ」
ベルトルト「うん」
ベルトルト「今度の休みなんだけど」
アニ「休み?」
アニ「本当に行くの?」
ベルトルト「えっ?」
アニ「えっ?って?」
ベルトルト「この前いいよって」
アニ「言った?」
ベルトルト「言ったと思うんだけど」
アニ「どうしたの?」
全然うまく喋れない
ベルトルト「うん。えっと」
アニ「いい。もう冗談だから」
アニ「仕返ししただけ」
ベルトルト「うん」
アニ「よくわかんないこと言わない。いい?」
ベルトルト「うん。もう言わないから」
二人で話すなんてあまりない
今までだって全然駄目だ
ライナーを通して話していただけだから
アニ「そう」
僕らなにを話しているんだろう
アニ「何話しているんだろう」
アニ「違うね」
アニ「行くんでしょ?ご飯食べに」
アニ「私あんまりお金持ってないよ」
ベルトルト「僕も」
アニ「ライナーに全部出させてやろうか」
ベルトルト「ライナーだってお金無いと思うよ」
アニ「知ってるから」
ベルトルト「兵団に入ればある程度もらえるのかな?」
アニ「あんまりそういう説明はないね」
ベルトルト「うん」
アニ「まあ必要ないけど」
ベルトルト「うーん」
アニ「使う暇なんてないから」
ベルトルト「今より多少は好きなものを買えるかもよ」
ベルトルト「服とか食べ物とか」
アニ「どっちもいらない」
ベルトルト「フード付きの服は?」
アニ「ああ。うんそれはいいね」
ベルトルト「うん」
アニ「なんか無いの?」
ベルトルト「えっ?」
アニ「だから欲しいものとか買いたいものとか」
ベルトルト「あんまり無いなあ」
アニ「自分から聞いといて」
僕らは優しい言葉を言わない
ベルトルト「だって本当にないんだ」
優しい言葉を言わないのは
ベルトルト「ただ3人でいれたらいいって思うけど」
それが残酷な言葉になるから
アニ「・・・難しいかもね」
ベルトルト「頑張ればなんとかなるかな」
アニ「私達が頑張るってことはさ」
アニ「終わりが早くなるだけ」
優しいことは言わない
本当は言いたいんだけど
切なくて胸が苦しくなる
アニ「今更どうしろって?」
アニ「何かを待てばいいの?」
ベルトルト「アニ」
アニ「違う」
アニ「あんまり話さないから。何で私が喋ってる?」
アニ「変な顔しないで」
アニ「いくら話すことが苦手でも」
アニ「少しは努力するんだね」
アニ「私も苦手なんだから」
気付けばよかった
ベルトルト「そういえば一度僕たちに言いにきたことがあったね」
ベルトルト「話す人がいないって」
アニ「だから?」
ベルトルト「いや思い出しただけで」
アニ「いないからいないって言っただけでそれが?」
ベルトルト「うん。ごめん」
アニ「謝るのは意味わかんないから」
ベルトルト「アニは僕とライナーより強かったんだ」
アニ「バカじゃない」
ベルトルト「今更だね」
僕達の夢は誰かの悪夢だ
全てがうまくいったとしても
いかなくてもズタズタになって
何も思わなければいいのにな
君を傷つけるものがなければいいのにな
そしたら僕もライナーもいなくなってしまうかな
今も誰もいないように静かだから
グウッ
お腹がなった音だ
アニの方から
アニ「朝ご飯前だから」
ベルトルト「・・・」
僕はきっとバカじゃないって言われる
こんなこと考えてるなんて
話す人がいないって言った君が
近くにいるのに
アニ「聞いてる?」
ベルトルト「お腹の音?」
アニ「いいよもう」
ベルトルト「来てくれてありがとう」
アニ「私はトレーニングが終ってここにいるだけ」
アニ「偶然だよ」
ベルトルト「珍しいね」
アニ「珍しいかな」
アニ「あんただってなんでいたの?」
ベルトルト「珍しく僕もここにいたんだよ」
僕らは本当に嘘が多くて
これも今気付いたよ
優しい言葉の替わりに言っていたんだ
これは僕らの言葉だった
ベルトルト「ライナーが僕に憲兵団に行けって言うんだ」
アニ「あいつが」
ベルトルト「おかしいよね?言ってやろうよ」
アニ「そうだね。言ってやろう」
話す人がいない君と
嘘の多い彼と
上手く話せない僕が
静かな場所で
誰もかもが同じことを
思っている
どうしようもないってことも
知っている
ライナー「飲むぞ!」
ベルトルト「いやいや」
アニ「駄目でしょ」
ライナー「真面目な奴らだな」
アニ「あんたと一緒にするな」
アニ「結局はベルトルトが見つけたんでしょ?今日行くところは」
ベルトルト「うん」
アニ「美味しいの?」
ベルトルト「美味しいよ」
アニ「ほんと」
ライナー「飲むぞ」
アニ「うるさいって」
ライナー「お前ら金持って来たか?俺はもう有り金全部だ」
アニ「じゃあ奢りね」
ベルトルト「よろしくライナー」
ライナー「いいぜ」
アニ「いいの?」
ライナー「その代わり最後まで付き合えよ」
ライナー「じゃなきゃお前が奢りだ」
アニ「なにこいつ」
ベルトルト「ねえもうすぐ着くよ」
ライナー「よっし食うぞ。食えよ」
アニ「ねえ今日こいつめんどくさいんだけど」
ベルトルト「まあまあ・・・あー」
アニ「あーって?」
ライナー「やってない?」
ベルトルト「定休日だ」
アニ「駄目じゃん」
ベルトルト「うーん」
ライナー「どうするベルトルト?」
アニ「別のお店探す?」
ベルトルト「うん。でも探してる時間がもったいないな」
ベルトルト「そうだ僕に考えがあるんだ」
ベルトルト「僕達で作ってみようよ」
ベルトルト「食材を買ってさ」
ベルトルト「調理はそうだね兵団のところを使わせてもらおう」
ベルトルト「大丈夫。きっと使わせてもらえるよ」
ベルトルト「できたらさどこか外で食べてみようか」
ベルトルト「きっと美味しいと思うんだ」
ライナー「なあアニ」
アニ「うん」
ベルトルト「出来たらそうしたいんだけど」
ベルトルト「・・・駄目かな?」
アニ「いいよ」
ライナー「いいぜ」
アニ「これなんてどう?」
ベルトルト「それなんて野菜?」
ライナー「高くないか?こっちにしろよ」
ベルトルト「これいい?ちょっと高いけど」
ライナー「おう」
アニ「ちょっと」
ライナー「なんだよ腹減ったのか?」
アニ「あんたじゃないんだよ」
ライナー「俺は腹が減ってるからな」
アニ「駄目だこいつ」
アニ「ベルトルトこれ買っていい?」
ベルトルト「いいよ」
アニ「ほらっ」
ライナー「勝ち誇った顔を・・・」
ライナー「じゃあ俺はこれを買うぞ」
ベルトルト「駄目」
アニ「駄目」
ライナー「なんでだよ」
ベルトルト「これなんていいんじゃない」
アニ「ああそう」
ライナー「まあベルトルトらしいな」
ベルトルト「なんか嫌なんだけど」
ライナー「気にすんなよ」
ベルトルト「そうかなぁ」
アニ「これは?」
ベルトルト「まだ買うの?」
ライナー「そんなに食うのか?」
アニ「買ってよ」
ライナー「食えよ」
アニ「食ってよ」
ベルトルト「食べるけどね」
ライナー「食うのか」
アニ「払ってよ」
ベルトルト「作ってね」
ライナー「お前もな」
アニ「あんたもね」
ライナー「わかってるよ」
ベルトルト「わかったよ」
アニ「わかったの?」
ベルトルト「うん」
ベルトルト「重い」
アニ「持つけど?」
ベルトルト「大丈夫」
ライナー「その分この後働けってさ」
アニ「働くけど」
ライナー「なんだ素直だな」
アニ「私は素直だよ」
ライナー「本当に素直な奴はそう言わないだろ」
ベルトルト「そうなのかなぁ」
アニ「本当に素直な奴なんて知らない」
ベルトルト「そうだね」
ベルトルト「僕も知らない」
ライナー「そう見えないだけだろ」
ライナー「俺は知ってる」
アニ「じゃあみんな知らないね」
ライナー「なんでだよ」
アニ「うるさいね。全部持ったらどうなの」
ライナー「持つけどよ」
ベルトルト「食材はそこに置こうか」
ライナー「ああ重かった」
アニ「でも食堂なんてどうやって借りれたの?」
ベルトルト「別に?使わせてくださいって言ったら」
ライナー「まあ日頃の行いのおかげだな」
ベルトルト「だれでも使えたと思うよ」
ベルトルト「だれも使わなかっただけで」
アニ「そういえばなんかみんなで作ってたときがあったような」
ライナー「お前は?」
アニ「行ってないから知らない」
ライナー「お前な」
ベルトルト「ライナー水沸かして」
ライナー「ああ」
ベルトルト「そうだ。僕達なんかもらったことなかったっけ」
ライナー「ああもらったもらった。クリスタから甘いパンもらったな」
アニ「私ももらったよ」
ベルトルト「ああうん」
ライナー「すごいすごい」
アニ「・・・さあこれから調理しようか」
ベルトルト「包丁向けるの良くない」
アニ「すぐ治るでしょ」
ベルトルト「治るけど」
ライナー「そういう問題じゃないぞベルトルト」
ベルトルト「ははっ」
ベルトルト「あー」
ベルトルト「そうだね」
ベルトルト「アニそれとってもらえる」
アニ「うん」
ライナー「んーまだできないか?」
ベルトルト「ライナーも手伝ってよ」
ライナー「ちょっとトイレ行ってくる」
アニ「あいつ・・・ねえなんでこんなことをしているの?」
ベルトルト「えっ?」
アニ「いやじゃないけどね」
ベルトルト「お腹空いてないの?」
アニ「私は聞いているんだけど?」
ベルトルト「本当に大したことじゃないんだ」
ベルトルト「僕らなりの最後をしてみたいって」
ベルトルト「訓練兵の終わりに」
アニ「解散式のような?」
ベルトルト「そうだね」
アニ「ふーん」
ベルトルト「僕は」
アニ「焦げてる」
ベルトルト「わっ」
ベルトルト「失敗しちゃった」
アニ「いいよライナーにでも食わしておけば」
ベルトルト「またぁライナーに対して厳しくない?」
アニ「そんなつもりない」
ベルトルト「それはそれで問題かも」
ライナー「焦げ臭くないか」
ベルトルト「あっライナー」
アニ「問題ないよ」
ライナー「あるだろ」
ベルトルト「老舗の味だよ」
ライナー「なんだそりゃ」
ベルトルト「大丈夫。安心して」
ライナー「まっお前が言うならいいけどな」
ベルトルト「ごまかせた」ボソッ
アニ「ふふっ」
アニ「できたよ」
ベルトルト「うん」
ライナー「おー」
ライナー「どこで食う」
ベルトルト「どこにしようかな」
アニ「えっ?」
アニ「ここでいいじゃん」
アニ「ねえスープとかあるんだけど」
ライナー「どこがいいんだろうな」
アニ「あるんだけど」
ベルトルト「どこでもいいと思うよ」
アニ「持っていくの大変でしょ」
アニ「雨降ったらどうするの」
ライナー「・・・」
ベルトルト「・・・」
ライナー「そんなイヤか?」
ベルトルト「ごめん」
アニ「なんかイヤだ」
ベルトルト「ここだといつか誰かが来てしまうよ」
アニ「ったく。それもそうだね」
ライナー「人嫌いか」
アニ「当然じゃない」
ベルトルト「人がいない良い所があるといいね」
ベルトルト「ここなんかどう?」
ライナー「なんか来たことあったような」
ベルトルト「そうだっけ?」
アニ「私は行軍訓練を思い出したよ」
ライナー「アニ訓練兵大丈夫か?」
アニ「全然」
ライナー「そうか。頑張れ」
アニ「なら聞くな」
ベルトルト「雨降るかな」
アニ「もう考えても仕方ない」
アニ「美味しい?」
ライナー「うまいんじゃないか?」
アニ「そう」
ベルトルト「普通に美味しいよ」
アニ「そう」
ベルトルト「アニは?」
アニ「わからない」
ベルトルト「そう」
ライナー「暗いな」
ベルトルト「もう暗くなるね」
ライナー「そうだけどな」
アニ「火をもっと強くする?」
ライナー「いやいいよ」
ライナー「うーん」
ベルトルト「どうしたの?口に合わない?」
ライナー「いや。違うんだなぁって思ってさ」
ライナー「俺達が作ればもっと故郷みたいな味がするもんだと」
ライナー「思ってたんだけどな」
ベルトルト「そうだったんだね」
ベルトルト「忘れてしまっただけだよ」
ベルトルト「じゃなきゃ次作れば大丈夫かもよ」
ベルトルト「そうだよね?」
アニ「私は」
アニ「私はわからないって言った」
アニ「私らこんな感じでしょ?」
アニ「どう頑張っても」
アニ「どう思っているかは知らないけどね」
アニ「私は頑張ったよ。でも」
アニ「ねえ雨が降るかもね」
アニ「どうするの?野営?」
ライナー「ああ。雨が降りそうならなおさらだな」
僕らは吹雪の中を歩いた時のように
話すのをやめた
ライナーは寝てしまった。僕は次の番なんだけど
アニ「降らないね」
ベルトルト「まだ大丈夫」
ベルトルト「星が少し見えるくらいには」
アニ「さっきは悪かったよ」
ベルトルト「いや」
アニ「最後だっていうのにこんなこと言って」
ベルトルト「いや・・・うん」
アニ「私達の最後って何?」
アニの手が震える
冷たい手が震える
アニ「無駄なんでしょ」
アニ「無理なんでしょ」
アニ「あんたが何やっても」
アニ「私が何やっても」
アニ「知ってたはずじゃないか」
アニ「だけどこんなことして」
アニ「何考えているのって」
アニ「何回も聞いたのに」
アニ「意味があるのかもわからない」
アニ「何回も言ったのに」
アニ「こんなことに」
アニ「ご飯はおいしいよ」
アニ「作ってたときだって」
アニ「買い物しているときだって」
アニ「全然悪くなかったし」
アニ「そんなのはわかっていたことでしょ?」
アニ「わからない」
アニ「みじめな気持ちになればいい?」
アニ「だからどこにも行きたくなかった」
アニ「なんでこんなこと言ってしまうことなんて」
アニ「言う事なんてなかった」
相変わらず僕らは同じことを思っていた
食事を作っているときだって
食堂に鏡が置いてあって
ふと気付いてみたら
見慣れない顔が、でも見たらすぐにいつもの顔になった
僕の顔だけど
一瞬を憶えていたくなった
なにか特別なことがしたかった訳じゃない
特別じゃないことがしたかっただけで
留まってほしいと願ってみるんだ
叶わないことを確かめてみるだけになっても
僕はそれでもいいと思っていた
どうしたら少しの優しさや正しさを
伝えることができるのだろう
前提から間違っている場合に
雪道の中で考えたことも
吹雪のなかで言った言葉が
君を誰かが救ってくれるだろうか
アニ「なにか言うの?」
アニ「言わないよね」
君を救う人がいたとしても僕らじゃないんだろう
君が僕を待っていなくても
僕が僕じゃなかったら
エレン。僕が君ならどうした?
君が僕ならどうする?
寒さの中にある手を取る事ができたのか
暖かさの中にいることはしなかったのか
いいさ。もう
ベルトルト「来いよエレン。僕を殺しにさ」
この三人の話じゃ仕方ないけど、つらいな…
楽しそうにしてる時でさえ泣きそうになる
アニ「・・・約束をしようか」
ベルトルト「約束?」
アニ「そう、私達がどんなことにあっても取り乱さずに任務を遂行して」
アニ「私達がどんなことになるであろうとしてもを後ろは振り向かないように」
アニ「今日を最後に約束」
アニ「どう?」
ベルトルト「それは」
もっとはやく君の顔をみていれば良かった
アニ「どうしたの?」
ベルトルト「僕達が離れ離れになれば」
ベルトルト「そうすれば秘密だって守れるし」
ベルトルト「1人なら2人でいることもなくて」
いまより悲しむこともない
ベルトルト「うまく言えなくて、ごめん」
だとしてもそのときは
ベルトルト「冷たい手を解ることなんてない」
アニ「ベルトルト?」
今度は一瞬じゃなくて
冷たい君の手をとって
ベルトルト「僕は君のことを守るよ。だから安心して。大丈夫だよ」
やっぱり冷たい
怖がらないで恐れないでって言うのは簡単なんだ
それをすることよりはね
僕には言う事さえ難しいな
全て間違いを言っているのかもしれないし
ベルトルト「間違ってるよ、本当に、嫌になるくらいに」
ベルトルト「おかしいんだよ」
ベルトルト「誰が何て言っても」
ベルトルト「君の手が冷たいのはいやなんだ」
アニ「あのっ」
ベルトルト「ねっレオンハート訓練兵」
アニ「急に訓練兵になるの?」クスッ
アニ「私はアニだよ」
ベルトルト「うん」
アニ「でもいいか」
アニ「貴様も充分に冷たいではないか」
アニ「ベルトルト、あなたの手も」
ベルトルト「似てないね教官の真似」
僕らずっと間違ったことを言って
アニ「悪かったね、あんたの真似さ」
アニ「ごめんね」
ベルトルト「僕達ずっとつらいままかもしれないけど」
ベルトルト「ちょっと歩いていいかな」
アニ「いいよ」
きてくれないかな
アニ「行かないの?」
ベルトルト「いやそのなんていうか」
アニ「一緒に行くの」
ベルトルト「うん」
アニ「わかりにくいよ」
でもきてくれる
アニ「どこ行くの?」
ベルトルト「昔来たことがあるんだ」
アニ「どんなときに?」
ベルトルト「憶えてないなぁ」
誰かが落ち込んだときに
ベルトルト「着いたよ、湖がここから見える」
アニ「へえ、綺麗・・・じゃない?」
ベルトルト「ありがとう。暫く見ていていいかな」
アニ「それは構わないけど」
ベルトルト「月が反射してる」
アニ「うん」
ベルトルト「憲兵団に行くんだ?」
アニ「そう」
アニ「まだ決めかねてる?」
ベルトルト「・・・」
アニ「でも自分で決めなきゃね」
ベルトルト「もし僕がさっきの約束を破ったら怒る?」
アニ「どうだろうね、怒るかも」
ベルトルト「僕は約束するよ」
ベルトルト「でもさっきの約束を」
ベルトルト「僕がアニの約束を破ったら」
ベルトルト「すごくみっともなくても」
ベルトルト「取り乱しても、そうそれでも」
ベルトルト「つまり完璧に約束を破ってやろうと思うんだ」
アニ「ふーん、期待してもいい?」
ベルトルト「それはもう」
アニ「まだ手は冷たい?」
ベルトルト「冷たいかも」
アニ「・・・」
ベルトルト「・・・」
アニ「静かだね」
ベルトルト「うん」
ベルトルト「水の音は聞こえるね」
アニ「それはそう」
ベルトルト「今はみんな静かに眠っているのかな」
アニ「静かなほうがいい」
ベルトルト「うん・・・そうだ朝になったらこの冷たい手でライナーを起こしてやろう」
アニ「いいね。ブラウン訓練兵は寝すぎでありますから」
ベルトルト「気に入ったの?その言い方」
アニ「まさか、ベルトルト訓練兵そんなこと言うものではない」
ベルトルト「ははっ」
ベルトルト「ねえアニ」
ベルトルト「さっき言ったことは本当だよ」
ベルトルト「僕はどうなってもいいんだ」
アニ「ベルトルト」
アニ「お願いだから」
アニ「そんなこと言わないで」
アニ「これもあんたの真似だよ」
ベルトルト「じゃあ」
アニ「もう少しここにいようか」
アニ「ねえおはよう、おはよう」ペチペチ
ライナー「んっああ、叩くな」
ベルトルト「ライナー起きた?」ペタペタ
ライナー「ああ、お前も叩くな」
ライナー「何がしたいんだよ」
アニ「冷たい?」
ライナー「別に?」
ライナー「お前うまくやったか?」
ベルトルト「なにが?」
ライナー「俺が折角2人きりにしてやったのに」
ベルトルト「そっそんなんじゃないって」
ライナー「駄目な奴らだな」
もっと強く叩いてやればよかったよ
ベルトルト「ライナー、僕は調査兵団に行くよ」
僕の手はもう冷たくない
ベルトルト「僕達バラバラになってしまうけど」
ベルトルト「必ず一緒にまた会おうよ」
ベルトルト「無様だったり泣き言を言ってしまうかもしれないけど」
ライナー「雪山行軍の時と言ってること少し違うな」
アニ「ほんとだね」
ベルトルト「聞こえてたの!?」
ライナー「どうだかな」
アニ「割と声大きかったし」
ベルトルト「ああもう」
ベルトルト「また会おう」
ベルトルト「会おうよ」
ベルトルト「何回でも」
ライナー「もう泣き言か?」
アニ「訓練兵が終るだけで大袈裟なんだから」
僕はエレンとは違う
勇気も何も無い
泣き言だって言うさ
ベルトルト「もう終りだね」
ベルトルト「だから、僕らおめでとう。いてくれてありがとう」
これで終わりです。ありがとうございました。
乙
あなたの描く世界はいつも淡々として寒々しくて優しいな
乙
いつも淋しいのに 暖かくて やっぱり淋しい
乙乙
おつ
このSSまとめへのコメント
良かった
続編ないのですか?
3人久しぶりにきたな
楽しめました。有難うございます。