女「見てください。劇的ビフォアアフターもかくや。あんなに汚かった、あなたの部屋が見違えるようでしょう」
男「たしかに部屋は綺麗になった。しかし、俺は問いたい。頼んだか?」
女「善行は頼まれてするものでしょうか」
男「もう一度、問おう。どうやって、人の部屋に入ったんだ?」
女「ピッキング技術でちょいちょいと」
男「こわ」
女「ところで、縄をほどいてくれませんか。拘束する必要がないことは知っているでしょう」
男「つい、身に染みついた、緊…捕縛術が炸裂してしまった」
女「緊縛と言おうとしましたね。意外な一面ですね。長い付き合いですが、知りませんでした」
男「ああ。知られたくない一面は誰にだって、あるもんさ」
女「いいから、解いてくださいよ。痛いんです」
男「ああ。だが、迷っているんだ」
女「迷うところがあるのですか?」
男「縄がお前の柔肌に食い込んでいるのは、とてもいいからさ」
女「こわ」
男「まあ、ほどくけどね」
女「ありがとうございます」
男「……」
女「腕についた、縄の跡を注視しないでください」
男「おっと、いけない。さて、どうしてこんなことをしたんだ?」
女「はい。私とあなたは長い付き合いですよね」
男「そうだな。幼なじみと言ってもいいんじゃないか」
女「過言ではありませんね。私はこれまでのあなたの日々を思い出していたのです」
男「へえ」
女「私はあなたのことが異性として、好きだと思い至りました。だからです」
男「……無断に部屋へ入る理由が?」
×あられ(の)ない
〇あられ(も)ない
女「はい。私はあなたの部屋がとても汚かったことを思い出しました。片付けを行えば、あなたは私に感謝をするのではないかと考えたのです」
男「そうか。だがな、俺は汚い部屋が良かったんだよ」
女「見識の違いですね」
男「ああ。悲しいもんだな。」
女「まったくです」
男「まあ、理由は解った。ところで、俺と付き合おうってこと?」
女「……そう思っていましたね」
男「過去形なのか?」
女「過去形になったのには訳があるのです。これを見てください」
男「これは……俺のエロ本……」
女「はい。エッチな人はちょっと」
男「お前、不法侵入しておいて、その言い草か」
女「ちょっと、本多すぎじゃないですか」
男「そうか?」
女「数えたら五百冊ありましたよ。しかもsмばかり」
男「ああ。sмが好きなんだ」
女「きも」
男「見識のちがいだな。悲しいもんだ」
女「まったくです」
男「一応、隠しておいたんだがな」
女「私の清掃技術の賜物でしょうかね。それにしても、まあ、よくもこんなに集めたものです」
男「ああ。数年分の成果だ」
女「まあ、読めば、面白いと言えば、面白いですけど。こうしたことに興味があるのですか」
男「ああ。性的嗜好にびびっと来る。オナニーしまくりだ」
女「そうですか。良かったですね」
男「ああん」
女「身体を震わせて、どうしたのですか」
男「出た」
女「そうですか。良かったですね」
男「ああ。良かった」
けん‐しき【見識】 物事を深く見通し、本質をとらえる、すぐれた判断力。ある物事に対する確かな考えや意見。「―を備えた人物」
けん‐かい【見解】 物事に対する考え方や価値判断。「―の相違」「―を明らかにする」
なまぬるい目で見てやれよ
これは恥ずかしい
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