【モバマスSS】です
注意点
・バレンタインチョコプレゼントキャンペーンでアヤメ=サン達からチョコ貰って思いついたネタ
・地の文あり、長いかも
・巻物風とか現人神になれるってなんだ
以上が許容出来る方は楽しんでいただければ、駄目でしたら閉じて頂いて
よろしくお願いします
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明日に控えたバレンタインデーの贈り物を準備するために忙しなく動く人々。それは346プロダクション女子寮の
中とて例外ではなく、寮の中は女の子達の作り出した甘いお菓子の匂いで包まれていた。
仕事を終えて寮へと帰ってきた浜口あやめはその匂いを感じながら時計を確認し、これからどうするか思案する。
あやめ(やはりわたくしもあの方へチョコを渡すべきなのでしょうか……しかし)
現在時刻は夜の10時過ぎ。今からバレンタインに渡すチョコを作り始めたのであれば、深夜まで作業することになり、
さらにあやめにとってはもう一つ無視出来ない事項があった。
あやめ(忍びとしても忍ドルとしても、主君に私情の贈り物をしてよいものか……)
主君とは武内Pのことであり、あやめにとって彼との主従関係はなによりも大切な物。そして従者としての
意識が強いがために、彼女はどうしてもバレンタインの贈り物をすることに躊躇いが出ていた。
あやめ(うーむ、武内殿であれば何も言わずチョコを渡さずとも納得してくれるとは思いますが)
あやめ(主君にそのように甘えてしまうなど、忍びとしては失格。かといって義理チョコなど言語道断ですし)
悩み続ける内に、思考が堂々巡りしていくあやめ。これでは駄目だと頭を振るも、それで素直に良い考えが
浮かぶはずもなく、困り果ててしまう。
あやめ(うう、どうすれば……――物音?)
寮内を歩いている内にいつの間にか共同の台所の場所まで来ていたあやめは、そこから聞こえる物音に
気づいて意識を向ける。この時間に自分以外の誰かがチョコを作ろうとしているというのか。
あやめ(仕方ありません。誰か台所に残っているようですし、その方達に相談してみましょう)
このまま悩み続けていても埒があかないと判断したあやめは、考えをまとめるために他人に相談することを
決意すると、台所へと足を踏み入れる。
あやめ「あの、申し訳ありません。少々相談ご……と……」
だが、台所ではあやめの想像していたものとはまったく違う光景が繰り広げられていた。
仁美「ぐぅぅ……!」
芳乃「仁美ー……正気に戻ってくださいませー……」
あやめ「……仁美殿に、芳乃殿……? なにを、して」
目の前で起きていたこと、それは丹羽仁美が依田芳乃に台所にあったと思われる棒で襲いかかっているというもの。
二人のことをよく知るあやめは、信じられない光景に言葉を失ってしまう。
芳乃「……あやめなのでしてー? いけません、早くここから逃げてくださいー」
仁美「……あやめっち……? くぅう……! はぁ!」
芳乃「あれー」
台所へと入ってきたあやめに先の二人も気づくと、仁美は手にしていた棒を振り払う。不可視の壁を創りだして
身を守っていた芳乃は、仁美の動きに反応できず台所にあった冷蔵庫にまで弾き飛ばされてしまう。
あやめ「芳乃殿!」
仁美「うぁああ!!」
あやめ「っ!?」
弾き飛ばされた芳乃を助けに行こうとしたあやめであったが、それを邪魔するかのように仁美が棒を構えて
飛びかかってくる。その動きは普段の仁美からは考えられない速さで行われたため、あやめは慌てて防御態勢を
取ると、振り下ろされる棒を白刃取りで受け止める。
あやめ「どうしたのです仁美殿! なぜこのような!?」
仁美「わか……んない、身体が熱くて、熱くて燃えそうなの……! なにか、しないと……おかしくなる!」
あやめ「どういう……くぅ!?」
受け止めていた棒に加わる力が徐々に重くなっていくことに驚くあやめ。受け止めた時ですら普段の仁美からは
考えられない膂力であったというのに、今ではもはや人間とは思えない力があやめを襲う。
あやめ(そんな、仁美殿のどこからこのような力が!? 本当になにが起きているのですか!)
押さえつける力に抗えず徐々に片膝を付きながらも、なんとか棒を受け止め続けて仁美の顔を見たあやめは、
彼女の目が紫色の光を発していることに気付く。それだけなく腕には紫色の波が炎のように纏わりついており、
明らかに良くないことが仁美の身体に起きていることを察すると、あやめはぶつかった冷蔵庫に寄りかかりながら
立ち上がりだしていた芳乃に叫びかけた。
あやめ「芳乃殿! 仁美殿の異常はなにが原因なのですか!?」
芳乃「……実は先ほどー、仁美がわたくしの創ったチョコレー糖をつまみ食いしましてー。恐らくそれが原因かとー」
あやめ(……なるほど)
視線だけを動かして台所の机を見ると、確かに芳乃のいうチョコレー糖らしきものが置かれてあった。しかも
それにはどう考えても普通の人間には膨大すぎる気の流れが集中していることも感じられ、あれを食べたのであれば
仁美がこのように暴走しているのにも納得がいく。
あやめ「ちなみに仁美殿はいくつそのチョコレー糖とやらを食べられたのですか!」
仁美「……一口しか、食べてない……! けど、こんなことになるなんて……普通、思わな……ぁああ!」
目の紫色の光が明るさを増すと共に仁美の膂力もさらに強まり、ついにあやめは右膝を完全に地面につける
形にまで押し込まれてしまう。
あやめ「一口だけでこうとは恐ろしい……! ですが、これならばまだなんとかなるかもしれません!」
仁美「ほ、んと……? あやめっち、助けて……!」
あやめ「分かっています、必ず助けます! 芳乃殿!」
芳乃「は、はいー……?」
強く名を呼ばれ一瞬身が竦む芳乃。けれども今はそんなことに構っていられないあやめは、さらに睨むような
視線で芳乃を見ながら頼み事をする。
あやめ「わたくしが合図をしたら仁美殿の手足を拘束してください! 出来ますよね?」
芳乃「そ、それはー、もちろんでしてー」
あやめ「ならお願いします! 仁美殿、あとで怒らないでくださいよ!」
仁美「うぐっ……あや、めっち、な――」
あやめ「いざっ、ニンッ!!」
困惑する仁美と芳乃の前で、あやめは白刃取りを続けていた棒をその手で挟んだ部分から真っ二つにへし折った!
仁美「わぁ!?」
押さえつけていた支えがなくなりバランスが崩れる仁美であったが、彼女の中で渦巻く力は倒れることを許さず、
無理やり立っていた場所に引き戻すために全身を一瞬硬直させる。
だがその一瞬の硬直をあやめは見逃さず、膝をついた右脚を軸にして仁美に足払いをかける。
仁美「え」
自分が空中に浮いたと仁美が理解した時には、あやめはすでに次の行動へと移っており、彼女は浮いた
仁美の身体を捕まえると、仰向けになるように力を加えてそのまま地面に叩きつける!
仁美「かはっ」
全身から漏れ始めた紫色の炎のような波によってある程度は緩和されたが、仁美は地面に叩きつけられた
衝撃で肺の空気を吐き出す。
あやめ(今だ!)
仁美の大きく口が開いたことを確認したあやめは、いつの間にか右手の中に忍ばせていた丸薬をその口の中へと
一気に押し込んだ。
仁美「むぐぅー!?」
途端に口の中に広がる強烈な苦味に仁美は丸薬は吐き出そうとするが、あやめに右手で口を押さえられてしまったため
吐き出すことが出来ず、さらにあやめが腹の上に跨がり身体を締め付けてきたために、身をよじって逃れることも
出来ない。
仁美「むんー!」
恐らくは自分を助けることだと分かっていても、口を押さえられ身体を締め付けられるている状態に恐怖を
覚えた仁美は無意識であやめに殴りかかってしまう。
あやめ「っ! 芳乃殿!」
芳乃「わかったのでしてー」
繰り出された右拳を首を傾げるようにして避けたあやめは、芳乃に仁美を拘束するよう叫ぶ。拘束を命じられた
芳乃は目を閉じなにやら念じたかと思うと、両手を仁美に向ける。すると仁美の両腕と両足に超自然的に光る
拘束具が発生し、それらが彼女の腕と足を床へと縫いつけた。
仁美「んぐっ!」
あやめ「ここからきつくなりますが、耐えてくださいよ仁美殿!」
拘束され完全に身動きできなくなった仁美は目に涙を浮かべる。罪悪感を覚えるあやめであったが、このまま
彼女を放置しておけばその身体が爆ぜてしまう可能性もあるため、今はその感情を消し去った。
あやめ「さぁ、とにかくまずは観念して薬を飲んでください」
仁美「フゥー……フゥー……」
先ほど押し込んだ丸薬を何度も躊躇いながらも仁美が飲み込んだことを確認すると、あやめは左手を彼女の
胸の上に置き、鼓動を感じるだけでなく気の流れが視覚化するまで意識を集中する。
あやめ(やはり、あのチョコレー糖を食べたことによって仁美殿の体内に漏れて視覚化するほどの膨大な気が溜まっている)
あやめ(仁美殿はこの気のエネルギーを放出する方法も転換する方法も知らないが故に、力が体内で荒れ狂い)
あやめ(結果として身体が蝕まれている。ならばこの荒れ狂う気の流れをこちらで制御すれば!)
胸に当てた左手から感じる鼓動と目で見る気の流れから仁美の状態を把握したあやめは、深呼吸をして
自分の体内にある気を練り上げる。そして十分な量まで気が溜まりきった瞬間、それを左手を通して仁美の
中へと撃ち込んだ。
仁美「んんっー!? んっ……ぐぅううう!!」
突然胸の辺りを襲った衝撃に仁美の意識は一瞬遠のくが、衝撃とともになにかが新たに自分の身体の中へ
入ってきたという感覚を味わったために気絶は免れた。けれど気絶していたほうがマシだったと思える
痛みが全身に走りだすと、仁美は押さえられた口からくぐもった悲鳴を上げ続けることとなった。
仁美「んんっー! んぐっ……うんんんーっ!!」
胸や脚、腕に痛みが走る度に浮き上がりそうになる仁美の身体を押さえつけながら、あやめは気の流れを
観察する。ある法則を持って練り上げた気を撃ち込んだことで、仁美の体内で荒れ狂っていた膨大な気の
エネルギーが身体から正しく流れ出ているのを確認すると、苦しんでいる仁美を励ますためにその目を見つめる。
あやめ「耐えてください仁美殿! あと少しですから!」
仁美「ん……ぐっ……! っ……!」
励まされなんとか痛みに耐えた仁美は、段々と自分の体が楽になってきていることを感じ取る。
仁美「……ん……ふ……っ」
痛かっただけのものが気持ち良いと思える程度までに和らぎ、あれほど熱く暴れたいという感じていた欲求も
落ち着いてくると、仁美は現在の自分の状態を思い出して顔を羞恥に染める。
その様子を確認したあやめは、これならもう大丈夫だと判断すると仁美の上から立退き、芳乃に拘束を
解くよう頼むのであった。
仁美「――はぁ、死ぬかと思った。まさかチョコ一つ食べたくらいでこんなことになるなんて」
完全に暴走の収まった仁美は、冷蔵庫にあったスタミナドリンクを飲んで体力を回復しながら、芳乃の創った
チョコレー糖をしげしげと眺める。仁美が見る限りはどうしても普通の一口サイズのチョコにしか見えないのだが、
自分の身に起きたことを考えると、これがやはりただのチョコでないことを物語っていた。
仁美「しかし一緒にチョコ作ってたはずなのになんでこんなもの出来ちゃうのかなぁ」
芳乃「わたくしが特別に揃えた材料を密かに混ぜましてー、さらに形を創るときに祈りを込めましたのでー」
芳乃「あらゆる悪気を消し去る物へと生まれ変わっておるのですー。あの方には耐えれるように創りましたのでー」
芳乃「仁美の身体には反動が大きすぎたのかとー」
仁美「さすが芳乃っち、なんか訳わかんないことを平然とこなしちゃうね」
すっかり芳乃の浮世絵離れした行動に慣れてしまった仁美は、彼女の言葉に多少呆れる程度で済ませながら
先ほどの暴走で散らかってしまった台所を自分たちに代わって片付けてくれているあやめへと視線を移す。
この年下の忍びがあの異常なまでの身体の熱さや無尽蔵に湧いてくるような力から助けてくれなければ、
今頃自分はどうなっていたのであろうか。
仁美(まぁ、多分碌な事になってたかったんだろうなぁ。けどそれにしたって)
仁美「あやめっちさ、助けてくれたことはありがたいんだけど、アタシに無理やり呑ませたあの苦いのなんだったの?」
あやめ「苦いの? あぁ、あれはわたくしの家秘伝の回復薬です! あれで一時的に仁美殿の身体の自然治癒力を」
あやめ「上げさせて頂きました。そうしなければあやめの気を撃ち込んだ時点で仁美殿の身体が持たない可能性も」
あやめ「考えられましたので……。助けるためとはいえ、本当に失礼なことを」
台所を片付け終わったあやめは、仁美に対して深々と頭を下げる。緊急事態だったとはいえ、無理やり薬を
呑ませて身体に跨がり、拘束した状態で痛い思いをさせたことを気にしているらしい。
そんな殊勝な態度のあやめに仁美は逆に困惑し、焦った様子で言う。
仁美「そ、そんな、あやめっちがああしたってことはアレしか方法がなかった訳なんだろうし、気にしてないって」
仁美「だからその、そんな風に謝れると逆に困るというか……ええーい面を上げーい!」
あやめ「は、はいっ――もがっ!」
慌てて顔を上げたあやめに、仁美は自分の作ったチョコレートを押し込む。普段であれば避けられる所だが、
完全になにをされても文句を言わない状態になっていたあやめは、口の中に入ってきたチョコレートを黙って
飲み込んでいく。
仁美「これはアタシからの褒美ぞ! ……あはは、なんてね! 本当に感謝してるんだから、そんなしんみりした」
仁美「態度されると困っちゃう。あやめっちは悪いことしてないんだから、それで良しとしよう!」
仁美「そもそもアタシが勝手に芳乃っちのチョコレートつまみ食いしたのが悪いんだし……」
芳乃「チョコレートではなくチョコレー糖なのでしてー」
仁美「……あ、厳密に違うのね」
かなり酷い目にあったというのに笑顔で済ませる仁美の強さに感嘆しながら、あやめはチョコを完全に飲み込むと
改めてここにやってきた理由を思い出し、そのことを口にした。
あやめ「あの、ところで実はわたくし少し相談事がありましてここへ来たのですが」
仁美「へぇー、あやめっちが? 珍しいね、なに?」
芳乃「そなたの悩みであればー、力になることを惜しみませんー」
あやめ「いえ、そこまで大したことではないと思うのですが、わたくしもチョコを作るべきなのでしょうか?」
告げながら時計を再び確認する。午前0時。これではチョコを作ると本当に朝までかかってしまうと判断すると、
二人の迷惑にならないようにあやめは相談事を撤回しようとする。
あやめ「あ、でももう夜も遅いですし、やっぱりいいです。なにも聞かなかったことに――」
仁美「そのチョコって誰にあげるやつ? もしかして武内プロデューサーにあげるのまだ作ってないの!?」
あやめ「は、はい……その、主君に私情の贈り物をしてよいかとか、勝手なことをして怒られないかとか」
あやめ「色々悩んでいたら作る機会を逃してしまいまして」
仁美「ダメだよ、そういうの! 他の誰もがあげなくてもあやめっちは絶対武内プロデューサーにあげなきゃ!」
まさかの意見に思わず怯んでしまうあやめ。チョコを贈ることをここまで強く勧められるとは思って
いなかったため、彼女は困った表情で呟く。
あやめ「ですが、チョコなど贈らずとも武内殿であれば分かってくれるという気持ちもありまして……」
芳乃「心へ届くは、同じ心の言葉ですー。言わずとも分かり合えるというのは幻のようなものでしてー」
芳乃「やはり口にし形に表してこそー、言の葉には力が宿りその想いは強く結ばれるものかとー」
どうやら芳乃もチョコを贈るべきという考えしく、彼女らしい諭し方であやめに意見を告げてくる。
芳乃「それにあの方はやはりあやめの贈り物を一番喜ぶでしょうー。そなたはもっと自信を持ちなさいー」
あやめ「そう、なのでしょうか……」
仁美「そうだって、武内プロデューサーの一番の忍びなんでしょ? 色んなことを任されてて今更そういう風に」
仁美「不安がるのあやめっちらしくないよ。ここはばーっと勢い決めてチョコ作って贈ればいいの!」
諭しながら台所に残っている材料を確認した仁美は、ちょうど一人分くらいなら贈り物のチョコが作れる量が
残っていることを確認すると、それらをかき集めてあやめの前へと置く。実際時間はギリギリであるが、
3人で作れば間に合うだろう。
仁美「ほら、アタシ達も手伝うからさっさと作ろう! どういうチョコにしたいか言ってみてよ」
芳乃「わたくしとしてはー、そなたのは想いを多く伝えることが出来る形にすると良いと思うのでしてー」
あやめ「お二人共……ありがとうございます! ニンッ!」
悩みを解決してくれるどころか手助けまでしてくれるという仁美達に、あやめは目を潤ませる。それを手で
拭いながら強い決意を秘めた表情を浮かべると、並べられた材料を前にどのようなチョコを作るか一瞬だけ
考え、それから自分が武内Pに贈るならこの形しかないといチョコを作り始めるのだった。
――そうしてバレンタイン当日。
バレンタインイベントの対応や後処理のために必要な書類を持って武内Pの元へと訪れた千川ちひろは、
彼の側に多く積み置かれているお菓子やチョコの箱を確認して苦笑する。
ちひろ「大人気ですね、プロデューサーさん。今日こんなにお菓子やチョコを貰えるなんて」
武内P「イベントの試供品や余ったお菓子をスタッフの方々から頂きました。欲しいのであれば、お好きなのを」
ちひろ「そんなこと言っちゃ駄目ですよ。プロデューサーさんが貰ったものなんですから」
書類を渡してお菓子の山を調べ始めたちひろは、どう見てもイベントで余った物とは思えない包装がされた
お菓子があることも確認すると、そのことを遠回しに武内Pへと伝える。
武内P「しかし、この量は」
ちひろ「それに、スタッフの方以外からも貰っているんでしょう? だったらやっぱり貴方が食べないと」
それを言われて武内Pは困ったように手を首に回す。確かにちひろの言うとおり、武内Pがプロデュースをしている
女の子達からの贈り物もその中には含まれていたが、彼はそれを深い意味のない義理の贈り物であるとしか受け
止めていないようであった。
ちひろ(この人はこういう所で鈍いんですから、ちゃんと言ったほうがいいんでしょうか?)
お菓子の山をすべて確認して、特別な包装をされたものが中々の数であったことを把握したちひろは、武内Pに
そのことを伝えるべきか迷う。だがそこでふと、このお菓子の山の中にありそうで無い物が存在することに
気づくと、首を傾げる。
ちひろ「そういえばあやめちゃん達からは何も貰っていないのですか? それらしいお菓子が見当たりませんけど」
武内P「……浜口さんとは今日はまだ会っていません。それが、なにか」
一瞬だけ微妙に不機嫌な口ぶりになった武内Pに、ちひろは思わず吹き出しそうになるのを堪えながら
もう一度お菓子の山を見る。どうやらこれだけの量のお菓子やチョコを貰うことよりも、ある一人の女の子から
贈り物が貰えていないことのほうが、彼には堪えているようだった。
ちひろ(別にあやめちゃんに限った言い方をしたつもりはないんですが、こういう所は素直なんですよねぇ)
武内P「……なんでしょう」
ちひろ「いいえ、なんでもありません♪ ……あら?」
面白い物を見るように武内Pを眺めていたちひろは、この部屋に向かって歩いてくる気配があることに気付く。
その気配は彼女もよく知ってるものであり、武内Pもそれに気付くと仕事の手を止めて入り口の扉を無意識に
見つめてしまう。
ちひろ(ふふ、どうやらここにいるとお邪魔になりそうですね。では渡すものを渡したら退散しましょうか)
ちひろ「さてプロデューサーさん、私はこれで失礼します。あと、私からのプレゼントもここに置いておきますね」
どこから取り出したのか、ちひろはスタミナドリンクを武内Pの机に置くと、扉を開けて部屋へと入ってきた
3人にお辞儀をしながら退出していった。
ちひろと入れ替わるように部屋に入ってきたのは、あやめ、仁美、芳乃の三人で、なぜか仁美と芳乃は
眠そうな表情で武内Pを見ていた。
武内P「皆さんおはようございます」
あやめ「おはようございます武内殿!」
仁美「おひゃよ……おはようプロデューサー」
芳乃「……おはようなのでしてー……」
もはや眠そうどころか油断すると眠ってしまいそうな芳乃は、武内Pに手にしていた袋を差し出すと、それを
受け取るように視線で促す。なにかとてつもない力を袋から感じた武内Pは、慎重な手つきでそれを受け取る。
武内P「あ、ありがとうございます」
芳乃「霊験あらたかなチョコレー糖なのでー、一粒ずつ召しませー。一度に食すると身体に反動が来てしまうのでー」
芳乃「そなた、くれぐれも現人神になってしまわれぬようー…………」
そこで限界だったのか、芳乃は目を閉じて側にいた仁美にもたれかかると、静かに寝息を立て始めた。仁美は
彼女が倒れないよう支えながら、自分も持ってきたチョコを武内Pに渡す。
仁美「本当は弓矢を贈るってのもカッコイイけど、アタシには無理だし直接手渡しね☆」
仁美「バレンタインチョコを馳走する~……っと、なんかもういっぱい貰ってるみたいだけど」
机の周りにある贈り物の数に若干引きつつも、仁美は自分の作ったチョコを武内Pに渡すと、もたれかかっている
芳乃を起こさないように注意しながらお姫様抱っこする。どうやら寮に戻るつもりらしく、あやめが慌てて
手伝おうとするも、それを断り仁美は囁くような声であやめを応援する。
仁美「じゃああとは、二人っきりでね。アタシ達は先に戻ってるからちゃんとすること、いい?」
あやめ「え!? いやですが」
仁美「つべこべ言わなーい! アタシと芳乃っちが徹夜で手伝ったチョコなんだから、あやめっち」
仁美「つまらない渡し方をしたら怒るからね。それじゃ頑張って☆」
あやめ「あ、あの!」
引きとめようとしたあやめであったが、仁美はまるで聞こえてないように抱きかかえた芳乃と共に部屋を
出て行った。突然来てすぐに帰っていった二人を武内Pは唖然とした表情で見送ったが、すぐさまいつもの
無表情に戻ると、残ったあやめに声を掛ける。
武内P「浜口さん」
あやめ「は、はい! なんでしょう!?」
武内P「そんなに驚かれなくても……なにか、要件があって来られたのでは?」
あやめ「あ、えっとですね、その……」
もじもじと後ろ手に隠した物を渡すタイミングを測ろうとするあやめであったが、武内Pに無言で見つめられ
続ける圧力に負け、意を決して包を差し出す。
あやめ「これは主君を思うあやめの気持ちです! 武内殿にこれからもついて行くというわたくしの決意の証です! ニンッ!」
武内P「……ありがとうございます」
口調はどこか柔らかく表情も優しげになった武内Pは、手渡された包を受け取ると、さっそくの中身を確かめる。
入っていたのは器用に作られた小さな巻物のようなチョコで、さすがに解いて文章を読めるということは
無さそうであったが、その完成度は見事な物であった。
あやめ「秘伝の巻物風チョコです! 中には武内殿に忠義を誓うあやめの心が……」
武内P「では早速頂かなければいけませんね」
チョコの説明を聞いた武内Pは椅子に座り直すと、早速巻物風チョコを口に含もうとする。彼がここまですぐに
自分の作ったチョコを食べようとするとは思わなかったあやめは、顔を真っ赤にしながら慌てて食べる動作を
やめさせた。
あやめ「あ、お、お待ちください!」
武内P「……はい?」
あやめ「その、それを食べるのは、できればわたくしもいないお一人の時に……」
武内P「なぜです」
食べてすぐさま感想を述べようと思っていた武内Pは、あやめのお願いに困惑する。あやめも本当であれば
すぐにでも食べてもらいたいのだが、巻物風チョコに込めた想いをもしすぐさま武内Pに言われてしまったら
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなため、すぐに食べてもらうのも困る。
そんな相反する二つの感情がぐるぐると頭のなかを駆け巡ったあやめは、武内Pに困惑の表情で見つめられた
こともあってかとうとう耐え切れなくなり、武内Pに背を向けると一気に走りだした。
あやめ「あ、改めてこのようなことは恥ずかしすぎるのです! し、失礼します! ニンッ!」
武内P「あっ……」
一瞬で部屋から出て行ったあやめを見送った武内Pは、自分がなにか問題あることをしてしまったのかと
困り果てた顔で背もたれに身体を預ける。こういうことは昔から上手くいかないものだと独りごちながら。
武内P(ともかく、食べましょう……)
落ち込んでいてもあやめが帰ってくるわけでもないため、感想は次に言うことにすることにしながら武内Pは
再び巻物風チョコを手に取ると、それを一口で頬張った。途端に広がる仄かな甘みと心地良い苦味が、
イベントの仕事で疲れていた武内Pの身体に染み渡っていき、さらに暫くするとどこからか声が聞こえ始める。
武内P(これは……浜口さんの……声?)
最初は意識しなければ気づけない位の小さい声であったが、気づいてしまえば何を話しているかも最初から
聴き直すことが出来、どうやらなんらかの術でチョコ自体にあやめの想いが込められているらしかった。
武内P(なるほど、渡す時の言葉はこういう意味でしたか……)
確かにこれをあやめの前で食べてしまっていたら、自分も改めて聞く彼女の想いにどういう反応をしたか
分からないため、武内Pは今はいないあやめに感謝しつつ、チョコに込められた想いを再生していく。
あやめ『――――――』
武内P「ふっ……」
自分以外の誰にも聞かれることがないあやめの想いに触れて、思わず笑みをこぼす武内P。そして
想いの再生が終わった時、自分でも驚くほど活力が湧いていることに気づくと、次にあった時どう感謝の
言葉を述べようかと考えながら、芳乃達から貰ったチョコも後から必ず食べるために冷蔵庫に保管して
残った仕事を再開するのだった。
〈終〉
丹羽ちゃんは割と普通だったけどアヤメ=サンと芳乃がくれたチョコはどういうことなんだ
あとアニメで武内Pが過去にトラウマ持ちっぽくて予告でもいいから次早く来てくれないと不安で爆発四散してしまう
ちょっと長いですが読んでくださった方ありがとうございました
乙
古傷持ちの武内Pだヤッター!
読後感がいいねっ!
乙
本編じゃなんだかんだちゃんみおがヒロイン昇格のチャンスな気がした
まあよしのんが慰めて武内P復活が妥当かな?
このSSまとめへのコメント
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