少女「伝説なんかじゃない」 (123)
今朝初めて聞いたのだが
うちの学校には幾つかの伝説が残っていて、その中の一つにこういう物があるらしい
『異性の転校生が隣の席になると、必ず恋人同士になる』
俺はそんな伝説が有ることも知らなかった
今日転校生が来る、となって初めて周りがそんな話を始めて
俺はそれを端で聞きながら、うぜえなーとかアホだなーとか思っていたのだが
ふと右横を見ると
誰も持ち主のいない寂しげな席がそこにあった…………
関連
少女「君は爆弾に恋をした」
少女「君は爆弾に恋をした」 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423318492
俺は自他共に認めるヘタレである
そんな伝説があろうが無かろうが隣に座る女子と積極的に話せるとは思えない
しかしこの空席は明らかにそこに転校生が来ることを示していた
委員長「そういうわけだから頑張れ」
男「っ……何がそういうわけだよ!」
委員長「いや、転校生の面倒を見てもらいたいな、程度の意味だ」
委員長は親同士が親友だった縁で、異性ではあるが仲のいい友人だ
成績は小学校の時からトップ以外見たことがない
家が道場なため合気道は師範代レベル
容姿は抜群で男子からも女子からも良くモテる
欠点がまるでない
ように見える
しかし
委員長「ふひひ、萌えな展開に期待するでござる」
かなり歪んだ性格のオタクでもある
その性格は子供の時から一緒の一部の人たちにしか見せたことがない
要領もいいのだ
トレードマークになってる眼鏡をくいっと上げながら
委員長「よろしくな」
急に素に戻ると、自分の席に戻って
こっちをニヤニヤちらちら見ている
呆れて手をひらひらさせていると、ガラッと教室の扉が開く
思わずドキッとした
はあ
伝説か何か知らないが、迷惑だ
……とか思いながらも心音が強くなっていく
…………吐きそう
やがて担任の、背の低い女性教師が教室に入ってきた
担任「は~い、みんなおはよ」
担任「今日はみんな知ってると思うけど転校生が来てるからね~」
担任「入って~」
担任が声をかけると
次の瞬間教室がざわめいた
入ってきた少女は小柄で、銀色の長髪に整った顔立ち
細い手足は輝くように白い
担任「少女ちゃんです~、みんな仲良くね~」
彼女はゆっくりこちらを見て、挨拶をする
少女「僕は十二年ほど前にこの街に住んでいたが、親の都合で北海道の方に引っ越していた」
少女「この街に帰れて、嬉しく思う……これからよろしく頼む」
喋り方はまるで少年のようだが、少女らしい容姿とのギャップが可愛らしい
さっきまでの不快感が消えて、思わず彼女に見とれてしまう
担任「はい~……じゃあ少女さん、空いてる席によろしく~」
……伝説……
思い出したらまたドクドクと心臓がうるさくなる
彼女のすらっとした手足が、近付いて
ガタッと言う椅子の動く音、衣擦れの音が聞こえてきた
とても顔を合わせられない
だが挨拶しないのも、不自然
ゆっくり、動揺を見抜かれないように……
男「ょやっ、よ、よろし……く」
自分でもびっくりするくらい、噛んだ
少女「くっ」
少女「あっ、あっははははははは……っ!」
少女「くっくっ……あははははっ!」
笑いすぎだろ
顔が破裂しそうだ
少女「ごめん……くくっ……よろしく……くっ……」
普通に考えればこんな美少女と隣に座っただけで付き合えるわけがないんだし
意識し過ぎた
プレッシャーをくれた委員長には後で文句を言っておこう
担任「早速仲良しできたね~、男ちゃん教科書見せたげてね~?」
男「え……はい……」
少女「よろしく」
隣に座る彼女
うん、意識しなければなんと言うことは……
いや、無理だろ
目が合うと彼女は肌をピンクにして俯く
いや、無理無理
まわりも授業中ずっとこちらをちらちらと見ているし
授業前に出た伝説の話のせいだろう
しかしもちろんそれだけでどうこうなるわけが無い
彼女のツーサイドアップの銀の髪が肩に触れたとしても
ドキドキ
それだけでどうこうなるわけが
ドキドキ
いや、心臓うるさい!
ドキドキドキドキドキドキ……
こう見えても委員長に見劣りしないように色々努力してきた
女の子に言い寄られた事もある
何故かそんな気になれず、付き合った経験は無いが
そんなにドキドキする必要はない……はず
あまりにも長い一時間目が終わると同時に俺は委員長の席に駆けていく
男「お、お前な……」
委員長「ん~……どうした?」
小声で言ってくる
委員長「好みか?」
男「うぐっ」
委員長「ぶっちゃけ拙者は好みでござるよ」
男「レズはやめとけよもったいない」
小声で変態発言する時は何故か侍口調になる委員長
彼女を慕う男女全員にその正体を知らせて回りたい
よく付き合ってるのか聞かれるが家族と変わらない委員長と付き合いたいと思ったことはない
まわりにはっきりその姿勢を見せているため、委員長のまわりには人が絶えない
ふと彼女の方を見ると黒山の人集り
あっちも大変な人気になってるな
委員長「早く席に戻らないと取られてしまうぞ?」
男「いやいや、なんで付き合う前提になってるんだって」
委員長「伝説の彼女じゃないか」
男「伝説ってのは誰も見たことがないから伝説なんだろ?」
委員長「……いや、それがな……調べられた限りだが、過去の転校生五人中の五人全員が隣の席の異性とカップルになってる」
男「調べたのかよ、暇だな」
委員長「部活の一環だよ……お前も良いとこの坊ちゃんなんだからその線でアピールしたら付き合えるんじゃないか?」
男「だから」
委員長「そうか、お前後輩ちゃんと付き合いたいのか」
男「な、つ、」
委員長「後輩ちゃんもショートだけど銀髪だしな、好みなのか?」
男「違うよ!」
男「銀髪が好みになるんなら先輩も銀髪だろ」
委員長「いや、それこそホモはやめておけでござるよ」
男「確かにホモじゃねえけど」
うちの学校には超常現象科学考察部というよく分からない部活がある
委員長と俺の他は上級生の先輩一人、下級生は俺の妹と先輩の妹の後輩ちゃん一人
これだけだと少人数でギリギリ部の形になっているようだが、先輩や委員長のファン数十人が幽霊部員として在籍している
しかし、先輩により部活に熱心でない者は入室禁止
部活内恋愛も禁止になっている
一部ではモテすぎる先輩と委員長が結託して非モテ系のオタクなクラブを作り上げ人除けにしている、というのが通説になっていたりする
まあそれでも二人はモテるが
委員長「彼女も部に誘うか?」
男「ん、そうだな」
男「流石に今は声をかけられないから委員長に任せる」
委員長「いいだろう」
委員長は席を立つと彼女に近付いていく
委員長のオーラで黒山の人集りはモーセの前の海のように左右に分かれた
オタクオーラは出てないのかな
今度部活で取り上げてみるか
少し遅れて自分の席に着き、二人の様子を伺う
委員長「で、その超常現象科学考察部では今回、我が校に伝わる転校生の伝説について研究したいと考えている」
いきなりお前は何を言ってるんだ
委員長「ぜひ科学研究のために入部していただけないだろうか」
流石にそんな勧誘した人間は世界で委員長が初めてだろう
まわりも皆ぽかんとしてる
彼女の席の周りを囲んでいた友人が聞いてきた
友人「お前の入ってるあの部が人除けの為って話、やっぱり本当なのか?」
男「いや……」
友人「そういやお前んちもすげえ金持ちだもんなぁ、人除けしたいわけか」
男「そんなのはただの噂だよ……ここ進学校だし、うちくらいの金持ち結構いるし」
友人「でもよ、あの先輩も委員長も滅茶苦茶モテるし、先輩の妹もお前の妹も入ってるんだろ?」
男「たまたまだよ、俺達五人全員幼馴染みだし」
友人「う~ん、可愛い子だらけだし俺も入りてえ」
男「速攻で先輩につまみ出されるだろうな」
男「……そう言えばお前は誰が好きなんだ?」
友人「俺は委員長が好みだな~、真面目だし胸デカいし眼鏡取ると超美人!」
男「ふうん……」
本性を知ってる自分からすると全くその感覚は分からない
時々おっさんに見えるし
そんな話をしていると、委員長の交渉も終わっていた
少女「じゃあ、僕は仮入部でいいかな?」
委員長「オッケイ、交渉成立」
あの始まりでどうやって落としたのだろう
またミステリーが増えてしまった
その後も俺と彼女は肩を並べて教科書を覗く
よく母親が、お前の父親はヘタレだけどそこは似るな、と言う
しかし……この状況でヘタレるなと言うのは厳しいです、お母さん
放課後になるまでに体力を使い果たした
これから部活とか正直しんどい
超常現象科学考察部は月水金の三日が活動日であり、それ以外の平日は五人で遊ぶことが多い
今日は月曜なので、部活動だ
先輩「お疲れ~」
男「おはようございま~す」
委員長「よ~っす」
後輩「あ、おはようございます」
妹「お兄ちゃん遅~い」
先輩「ん、新しい入部希望者?」
委員長「転校生を私が引きずってきたんで、よろしくお願いします」
少女「よろしくお願いします」
先輩「ふうん……オッケイ」
先輩「……子供の頃会ったことある気がするな」
後輩「あれ……珍しい、お兄ちゃんナンパ?」
先輩「違うよ」
後輩「先輩、こっちに座りませんか?」
男「あ、うん」
今日もいつもと同じように、騒がしく部活が始まる
委員長「早速今日の議題についてだが、我が校の転校生の伝説について考察をしてみたい」
委員長「二十年以上も昔から我が校に来た転校生が隣の席の異性と懇意になっている、と言う物だ」
後輩「へえ、なんだかロマンチックだね~」
妹「うん、研究してみたいね!」
委員長「過去五件のデータを取ってみた所、その全てでこの伝説が正しいことが証明された」
委員長「そこで今回、サンプルとなる二人を連れてきた」
委員長「一人はもちろん彼女」
委員長「もう一人はたまたま我が部の部員だった彼だ」
後輩「……なっ!?」
男「それって俺達をモルモットにするってことか?!」
委員長「モルモットにするとは言ってない」
委員長「彼女にも説明したが、状況で人間の気持ちが動くのかどうか、動くならどういう状況でか、が重要なんだ」
委員長「結果的に二人を観察してしまうが、それだけの事だよ」
男「それがモルモットじゃん!」
少女「ぼ、ぼくは検証してほしい……かな?」
男「ふぁっ!?」
後輩「反対」
後輩「部活内恋愛は禁止です」
委員長「まあまあ、後輩ちゃんの漏れまくりの熱いリビドーは置いといて」
後輩「委員長先輩~!」
委員長「後輩ちゃんは私がもらってあげる」
後輩「え、そんな……でも~」
先輩「落ち着け」
妹「後輩ちゃん座りなよ」
後輩「妹ちゃんはイヤじゃないの?」
妹「私もブラコンですが仕方ありますまい」
男「頭打った?」
妹「打ってないよ!」
先輩「なんだか複雑に矢印が飛び交ってるな……面白い」
後輩「も~、お兄ちゃん!」
男「?」
少女「ぼ、ぼくは」
少女「僕は男性が苦手なんだ」
委員長「は?」
男「へ?」
後輩「ふっ……ふふふ」
後輩「じゃあ問題なく伝説終了じゃない」
少女「あ、いや……男性は苦手なはずなんだが」
少女「何故か初めて彼のはにかんだ顔を見た時に、いいなって」
後輩「無い無い、気のせい気のせい」
先輩「落ち着かないとお前も入室禁止にするぞ」
後輩「そんな、ひどいよお兄ちゃん!」
先輩はやれやれとため息をつく
後輩ちゃんはいったいどうしたのだろう
いつも大人しい子なんだが
妹「とりあえず座ろ」
後輩「う~」
後輩ちゃんは妹に頭を撫でられ犬のようにかしこまった
調教師っぷりが母親に似てきたな
ヘタレな父は母の会社で今日も犬のように走り回っているだろう
ちょっと待て
今地味にスルーする所だった
今彼女はなんと……
少女「君を、ちょっといいなって思ったんだ……」
男「…………」
男「って、え、ええええ~~~っ!?」
少女「ふふっ」
少女「だからね」
少女「そんな気持ちになったのを伝説のせいにされたくない」
少女「だから僕と……検証して欲しい…………」
男「…………うん」
ん、何故か納得してしまったぞ?
え、いや、これ、これから、どうなる
妹「お兄ちゃんも座って、落ち着きなさい」
男「はい」
委員長「流石は調教師殿」
妹「調教師ではないです」
先輩「しかし、実に興味深いな」
先輩「物語なんかでは描写上便利だからそう言うケースが多いのは分かるんだが、何かしらの根拠があるのか科学的に考察するのは部の理念にも叶う」
先輩「部活内恋愛禁止を解く時が来たか……」
後輩「はんた……」
先輩「じゃあお前が彼にアプローチをかけるのも駄目だな」
……えっ、後輩ちゃんが俺にアプローチ?
後輩「うぐっ、鬼め……」
後輩「じゃあ……さんせい」
先輩「まあ他の部員には話すなよ」
委員長「鬱陶しいからねぇ」
男「と、とりあえずどうするのさ」
委員長「普通に自由競争」
男「ええ~」
委員長「近付けようとか遠ざけようっていう不純な力の働きは実験結果に恣意的な収束をもたらしてしまうからな」
委員長「よって、彼女頑張れ、後輩頑張れ、男はヘタレるな、と」
男「最後のはいらん」
男「ってそうじゃなく」
男「後輩ちゃんがなんで……そんなの初めて聞いたけど?」
委員長「それは本気で言ってるのか?」
男「え、だって子供の時から一緒なのに……」
委員長「後輩ちゃんも真面目だし今まで忍んでいたんだろ…………漏れまくりだったけどな」
委員長「これからお前を取り合って二人の少女のガチンコバトルが始まるわけだ……楽しみだな」
な、なんだよそれ……急に
俺は……部活内恋愛禁止条項を取り戻すために戦いたい
……って、こう言う所がヘタレなのか
なんか落ち込んだ
男「と、とりあえず今日は議題も決まったし解散で」
先輩「そうだな」
委員長「よし、遊びに行くぞ!」
男「ええっ、て押すなよっ…………」
……こうして俺は伝説の彼女と後輩ちゃんの二人に取り合いされる事になってしまう
しかしこの後あんな展開になるとは、この時は思ってもみなかったのだった
ちょっと休憩します
再開します
④
男「と、とにかく、二人同時に来られても困るから」
委員長「じゃあ一先ず後輩ちゃんは私がいただいちゃおうかな」
男「いただくな!」
後輩「まあ、確かに二人いっぺんに行くと喧嘩になりますし、良いですけど」
委員長「おいで」
後輩「わん!」
妹「犬だ……」
少女「よ、よろしく」
男「う、うん」
俺と彼女はゲームセンターで二人きりになった
遠くから四人が覗いている状態ではあるが
コーヒーを買ってベンチに腰掛ける
少女「えと、なにか僕に聞きたいこと、ある?」
男「う、うん」
まず質問したいことは決まっていた
男「……なんで自分のこと僕って呼ぶの?」
その質問をした途端彼女は真っ赤な風船のような顔をして額から湯気を出した
少女「そ、それは……」
男「それは?」
少女「お、お父さんの真似をして言ってたらお母さんが喜んで、ね……」
男「なんて?」
少女「い、意味は分からないが私の娘はレアキャラだ~、とか言って」
なるほど、意味が分からない
と言うかお父さん自分のこと僕って呼ぶのか
男「その言葉遣いもお父さん?」
少女「い、いや、これはお母さんだ」
話から察するにお母さんも相当おかしなキャラのようだ
なんだかどんどん彼女に興味が湧いてくる
男「なんか立ち入った事聞いちゃったかも……ごめん」
少女「ぼ、ぼくがはなしたいからはなしたんだ」
彼女は照れると声のトーンがおかしくなるみたいだ
可愛いな
見た目は真っ白な雪のようだけれど、中身は複雑で面白い
男「君はなにか質問ある?」
少女「う、うん」
真っ赤になってもじもじして
なんとか質問してきた
少女「君はなんて言うか、優しいけど」
少女「お母さんはやっぱり優しい人なのか?」
男「時に鬼」
少女「おにっ!?」
男「時にトップブリーダー」
少女「ぺ、ペットショップ……?」
男「そう言う意味じゃないな」
少女「そ、そうか」
男「母さんは会社を経営してて父さんは秘書やってるよ」
委員長に言われたからではないが、親の話になったので仕方なく語る
少女「すごいバイタリティのあるお母さんなんだな」
男「まあね、会社やりながら子供二人育てたんだから尊敬するよ」
男「君の所は?」
少女「うちは、お父さんは普通の会社員でお母さんは研究員……今は海洋生物の研究してるよ」
少女「転校はお父さんの都合だけど、お母さんは無理してついて来てくれてる」
少女「小さい頃は知らなかったけど、研究施設を変わるって大変みたいだよ」
少女「ギリギリまでお母さんの単身赴任か研究を辞めるかって揉めてたけど、受け入れ先が見つかったみたいだ」
男「複雑だなあ」
少女「僕はのんきにその親の愛を受け取ってるだけ」
少女「申し訳ないな……」
男「そうだね」
こんな風に彼女と話をしていると、ふと、まわりが騒がしくなってきた
何かあったのだろうか?
少女「ん、あれ、委員長さん絡まれてないか?」
男「委員長が?」
委員長は見た目だけは美人なので、よくこう言う事がある
危い
男「まずい、行こう!」
少女「分かった、助けよう!」
え、どっちを?
チャラい不良数人が委員長の肩を掴み、すり寄って行く
それ以上近寄ると……
一回転して天を仰ぐチャラ男
四人くらいが掴みかかって行くが
どんな技なのか一人で押さえ込んでしまう
少女「な、なんだあれは!」
男「委員長は不良なんかには負けないよ」
過剰防衛かもだが
少女「むう……勝負してみたい」
男「え?」
とりあえず先に暴行をしてきたのは相手という事にして、早々とゲームセンターを出ることにした
委員長「いや、かたじけない」
男「昔からだし分かってるさ」
後輩「やっぱり素敵……」
先輩「お前もあれくらい勝てるだろ」
後輩「何の事か分かんない~」
ん?
この一件から俺のまわりの空気が変わりだしたのだが、まだ今は気付く事も無いのであった……
少女「家の方向とはちょっと違うんだけど、公園に寄らない?」
男「公園?」
少女「うん、昨日お母さんに教えてもらったんだ」
男「……いいよ?」
委員長「じゃあお前は彼女を送ってあげるんだな」
それを聞いた後輩ちゃんが彼女を物陰に連れて行く
後輩「手を出したら物理的に許しませんからね!」
少女「僕は力でも負けないけどね」
後輩「いい度胸してますね……いいでしょう、勝負しましょ」
先輩「何やってんだお前は」
二人が何やら揉めていたみたいだが先輩に引きずられて後輩ちゃんは帰って行った
男「な、何話してたの?」
少女「…………何でも……行こ?」
男「う、うん」
しばらく歩き、二人で公園に入る
ずっとドキドキが止まらない
少女「ここは……」
少女「お母さんがよくお父さんとデートしてた公園」
男「そうなんだ?」
少女「うん」
少女「そして」
彼女は急に走り出す
地面を蹴ると、ひとっ飛びでトイレの天井に飛び乗った
……夢でも見ているんだろうか
さっきまで隣にいた彼女を、僕は見上げていた
少女「お母さんが自分の秘密を、お父さんに明かした場所」
男「君は……いったい…………」
少女「ご、ごめん……びっくりしたか?」
彼女は僕の横に飛び降りてきた
白に水色のストライプが入った三角の布が見えた気がして、慌てて目をそらす
少女「……驚かないの?」
男「ん……なんだろう」
男「昔同じ光景を見た気がする」
少女「……そうか」
少女「やっぱりあの二人がそうなんだな……」
男「ん?」
少女「いや、こっちの話だ」
二人で公園を回る事にした
改めて彼女を見る
神秘的な少女……
銀の髪に白い肌だからか、赤くなるとすごく良く分かる
可愛い
最初に教室に入ってきた時は伝説を気にしてたからちょっと彼女をじっくり見てなかったけれど
あんな伝説が無かったとしてもきっと興味を引かれてた
少女「あの」
男「ん、なに?」
少女「て、てをつないでもいいですか?」
声がハイトーンになった
えっ、手?
男「い、いいいいい、」
男「……いい、よ」
彼女の勢いに負けて思わずそう答える
しばらく顔を合わせられないでいると、手に冷たい絹のような感触がするすると滑り込んできた
う……
うわわっ
一瞬冷たいと思った手はすぐに温かいと分かり
どちらの手からか、じっとりと汗をかく
少女「あはは……」
男「はは……なんだか、変な感じ」
心臓はドキドキして、体は浮かび上がりそう
足下が不安定になってる感覚
思わずつまづいて転びそうになるが彼女が引っ張ってくれる
……ちからつよい……
痛いが、手の感触をより感じてしまう
男「すごい心臓がドキドキする」
少女「い、いやかな?」
男「ううん、そんな事は……」
そう言った瞬間目の前を高速の物体が通り抜ける
!?
スカン、と音を立てて木に突き刺さった
それはシャープペンシルのような……?
慌てて振り返る
後輩「……手を出すなって言いましたよね?」
そこに立っていたのは、数本のシャープペンシルを指にさして構える、後輩ちゃんだった
彼女が僕の前に立つ
少女「危ないじゃないか……悪戯が過ぎるんじゃないか?」
後輩「物理的に許さないって言ったはずです」
少女「やっぱり君らが銀おじさんの子供たちか」
後輩「お父さんを知ってると言うことはあなたが爆弾の娘ですね」
良く分からない会話の流れから良く分からない言葉が飛び出す
爆弾の娘……?
分かったのは二人の親が知り合いらしい事だけ
その後、目の前で始まる戦いを俺は止める事が出来なかった
彼女の足元にシャープペンシルが高速で飛んできたかと思うと、既に彼女はそこにはいない
彼女はカバンから金属の棒を、ゆっくりと抜き出す
どうやら定規のようだ
後輩「それがあなたの得物ですか」
少女「全部打ち返す」
男「ふ、ふふふ、ふ、二人ともやめるんだ!」
後輩「すみませんが、これだけは譲れません!」
少女「ごめん、危ない目には遭わせないから!」
後輩「こっちは殺す気ですよ、なめてるんですか!」
後輩「後から来た泥棒猫が!」
怖い
ロープを放された猛犬のごとき後輩としなやかな豹のような彼女がぶつかり合う
シャープペンシルを鉄の爪のように使い後輩の突き
後ろ回し蹴り
どちらも華麗にかわす彼女
鉄の定規を横に構え後輩のおでこを叩く
後輩「ぐはっ」
少女「安心しろ、峰打ちだ」
峰打ちではないな
しかし二人とも尋常ではないスピードだ
さっきの彼女のジャンプもだが、人間の身体能力とは思えない
犬や猫が人間サイズになったらこういう動きかも知れない
だが何故か異常事態なのに見覚えがある気がする
彼女はともかく先輩や後輩ちゃんは小学校も中学校も同じだったのだから、どこかで兄弟喧嘩でも見ていたのかも知れないが
目の前の戦いは一方的
後輩ちゃんの攻撃は当たらないのに彼女の定規叩きは確実にヒットする
やっぱり後輩ちゃんは人を刺すのには躊躇しているのだろうか
しかし蹴りも当たらない
少しだけ二人の実力に差があるようだ
少女「実戦経験の差だ」
……実戦経験……?
後輩「くっ……」
もう一発綺麗におでこに入り、後輩ちゃんはその場にしゃがみ込んだ
後輩「痛い……」
後輩「……なんでよ……ずっと我慢してたのに」
後輩「中学校の頃に好きだって気付いて、それからずっと我慢してたのに……!」
後輩「ううっ」
後輩「……うわああっ……」
後輩ちゃんは泣き出してしまった
ど、どどど、どうしよう……!?
俺が困っている所に、救世主が現れた
委員長「やっと見つけた……」
委員長「はあ、はあ……」
委員長「先輩から連絡があって……探してた……」
委員長「流石の私も、疲れた……」
男「い、委員長、いい所に」
後輩「委員長先輩……」
委員長はしばらくぜえぜえ言って息を整えた後に
後輩ちゃんを立たせて抱きしめた
委員長「おーよしよし」
子供をあやしてるみたいだが
それで後輩ちゃんは落ち着いたようだ
後輩「私まだ、諦めませんから」
委員長「おう、諦める必要は無いぞ」
男「……そんなに思われてるなんて知らなかったよ」
男「ごめん」
委員長「……まあお前は超鈍感のヘタレだからな」
男「ぐ……、母の教えでヘタレは改善してるはず」
委員長「そうか、ヘタレであるまいとしてそれなのか」
男「お前はいっつも厳しいな!」
後輩「……お二人も、仲良いですよね」
後輩「あんまり噂にならないのは何故ですか?」
委員長「いつもどつき漫才してるから?」
男「お互いに異性として全く意識してないからだろうな」
少女「……これからもっと皆の事、知りたいな」
委員長「こいつの事じゃなく?」
委員長に頭を小突かれる
気軽にコンコン叩きおってからに……
少女「もちろん彼の事も」
転校により帰ってきたばかりの彼女が、なんでそんなに俺のことを思ってくれるんだろう?
伝説のせいなのか?
後輩「……いつかリベンジしますから」
少女「いいけど」
少女「今回は僕の勝ちだから、しばらくは静かにしてくれよ」
後輩「……ボクっ娘先輩って呼びますね」
少女「良いけど?」
後輩「イヤミも通じないんですね」
委員長「とりあえず私は後輩ちゃんを送っていくから」
男「分かった」
少女「委員長は男前だな」
委員長「女だけどな」
二人が帰った後、改めて彼女と公園内を歩いた
さっきまであんな動きをしていたのが嘘みたいに彼女は細く、小さく見える
少女「あ、あの」
男「うん」
少女「やっぱり……怖い?」
男「ううん……、不思議と怖くはない」
男「さっきの後輩ちゃんの剣幕は怖かったけど」
少女「あはは、確かに!」
やっと落ち着いて彼女は話し始めた
少女「彼女のお父さんと僕の両親は親友なんだ」
少女「北海道に居た時も何度かお父さんだけ訪ねてきてくれて」
少女「僕のお父さんもお母さんも本当に彼女のお父さんと仲が良くって」
少女「いつか僕と彼女もそんな友達になれたら……」
少女「そう思うのは虫が良すぎるかな?」
男「……いや、そんな事ないよ」
男「思ったんだけど、君の両親と俺の両親も友達かも」
男「後輩ちゃんの両親とうちの両親も仲良いから」
少女「!」
少女「やっぱり……」
少女「……あれは君だったんだね…………」
男「え?」
少女「小さい時に、初めて好きになった人」
男「ん……ええっ!?」
はっきりとは覚えてないが……
確かに幼い頃よく遊んでた女の子がいた、ような……
他の女の子と付き合う気になれない一番の理由はもしかしてその記憶のせいではないか……ヘタレだからではなく
ヘタレだからではなく
男「はっきりと思い出せない……けど」
少女「お、思い出さなくていい!」
少女「そ、そうだ、お互いが親に聞いてみよう」
男「うん、そうしよう」
少女「……もし二人の両親が友達だったら、どんな学生生活だったのかな?」
男「学生時代は皆でデートしたり合宿したりしてたって聞いた」
男「俺は委員長と友達と三人で勉強会するくらいだなあ」
少女「僕も参加したいな、それ」
男「うん、歓迎するよ」
今日はここまで
こんな感じでグダグダと進めていきます
次の更新は明日の予定です
久し振りなんで緊張します
乙
乙
委員長の素の性格は親譲りか……
いいね
久しぶりに先の気になるssを見つけた
乙続き待ってるぜい
ありがとうございます、更新します
やがて彼女は一軒家の前で足を止める
少女「ここが僕の家だ……ちょっと上がっていって」
男「え、悪いよ」
少女「送ってもらったお礼にお茶を一杯だけ」
男「う……ん、それだけならお邪魔しようかな……」
彼女が家に入ろうとすると中から扉が開いて
彼女と瓜二つの少女が出てきた
少女「お母さん、今日は早かったね」
少女母「ああ……しばらくは早く帰れるぞ」
え、お母さん!?
男「お姉さんじゃなく?」
少女母「あはは、面白い子だな」
少女母「ん?」
少女母「君は友くんの所の……」
少女「え、知ってるの?」
少女母「たまに彼のお母さんがメールくれるんだ……ふうん」
少女母「まさか二人、付き合うのか?」
男「は、ひゃい!」
あ、うっかり返事した上に噛んでしまった
少女母「うんうん、あのヘタレの息子はヘタレてなかったか……と、失礼」
少女母「……そう言えば小さい頃も仲が良かったもんな」
少女母「身元が分かってるから安心だし、私の娘をよろしく頼むぞ?」
男「は、はい……」
お母さん、……やっぱり俺はヘタレみたいです
少女「もう……恥ずかしいなお母さんは!」
少女母「母親はそういう物らしいぞ」
少女「またにわか知識か!」
二人ともそっくりだからなんだか白い妖精の双子みたいだ
仲いいし微笑ましいなあ
少女母「おっと、お母さんは買い物行ってくる」
少女「ああ、気を使わなくていいからな」
少女母「私にはそう言うスキルは無いぞ」
少女「ちょっとは使えよ」
彼女のお母さんが買い物に出掛け、いよいよ彼女の家に
緊張する……
ふ、二人きりか…………
彼女の家はなかなか大きな家だ
二階に上がり、いよいよ彼女の部屋……
少女「ごめん、少し片付けるから待ってて」
男「あ、うん」
女の子の部屋……
委員長の部屋には入ったことがあるが、意外とキッチリしていたっけ
ただ押し入れの中には漫画本やフィギュアがぎっちり入っていたが
少女「あ、もう大丈夫……入って」
男「う、うん」
緊張する……
中は水色が基調の女の子っぽい部屋だ
いつもきっちり片付けているのが伺える
少女「じ、じゃあお茶を入れてくる……本とか読んで良いから」
男「お、お構いなく」
彼女がぱたん、と扉を閉めてから、ため息をつく
一日で色々有り過ぎ……自分のヘタレっぷりも身に染みた
思い出して思わず後ろに倒れ込む
……
女の子の匂いがする……
うわあ……女の子の部屋に一人でいるんだ……
自分の心音だけがやたら大きく響く
ふと、彼女のベッドの下を見ると……
銀色に光る物が二つ
……な、何かいる!?
その眠そうな目の動物はノロノロとベッドの下から這いずり出てきた
彼女と同じ顔の女の子……姉妹?
少女妹「……誰かいる……姉は出て行ったと思ったのに」
少女妹「因みに僕は姉の妹だ、不審者ではない」
……うん、妹だから姉の妹か兄の妹だろうな
き、聞いてない!
少女妹「何となく隠れてしまったが妹はもう中学三年生だ、恥ずかしい」
少女妹「僕は姉と同じ高校に入るために日夜努力している……三年の重要な時期の転校で多少困惑している」
……なんだろう、いきなり出てきた女の子に延々自己紹介されている
なんだかロボットっぽいな
少女妹「今はまだ春だから十分修正は効く……だから僕たちを愛してくれる二人の両親にまるで不満はない……うちには両親は二人しかいない」
うん、普通両親は二人だろうな
彼女の妹の自己紹介は尚も延々と続く
少女妹「私は姉と容姿がそっくりなため自分はコピーロボットなのではないかと思って分解してみようと考えたが、体のどこを探してもネジ山が無かったのだ、何故だろうか?」
男「生き物だからじゃないかな?」
少女妹「そう、生き物にはネジ山がない……そう言うルールだった」
男「ルールって言うか必然と言うか」
少女妹「君は誰だ」
男「遅いよ!」
男「えと、まだ友達……かな」
少女妹「おお、姉もようやく女とではなく男と戦うのか」
男「戦わないよ?!」
少女妹「そうなのか……僕が姉の秘密をベラベラ喋るのはそこはかとなく申し訳ないが、姉はよく女に襲われていたものだ」
少女妹「お兄さんは姉を襲いに来たのでは無かったから、忍者のように隠れて姉の護衛をする必要も無かったようだ」
男「彼女強いし、護衛なんて必要なの?」
少女妹「お兄さんはあの女の恐ろしさを知らないのだ……力なき者が知力と度胸だけで姉を苦しめた日常を」
男「ふ、普通の女の子が、彼女を苦しめた?」
少女妹「お兄さんは姉と恋をするのか?」
少女妹「姉は怒ると私よりもお母さんよりもお父さんよりも怖い」
少女妹「気を付けないと爆発する」
男「う……、うん」
爆弾の娘ってそういう意味なのかな?
彼女の妹が更に喋ろうとしていたタイミングで、やっと彼女が帰ってきた
少女「あ、またベッドの下に潜り込んでたのか!」
少女妹「僕には姉を守る義務が多少は存在することは家族会議の結果明らか……」
少女「ストップ、座れ」
彼女に言われると、スイッチが切れたように、すとん、と座る妹ちゃん
可愛いのだけど何となく怖い
お茶とお菓子が並べられ
彼女は深々とため息をつきながら、座り込む
少女妹ちゃんの一人称たまに私になってますが僕で
すみません
少女「僕の妹……変に思ったよね……?」
男「ちょ、ちょっとビックリしたけど……」
少女「いいんだ、変なんだ」
少女妹「活動許可を得られないまま罵倒されるとバッテリーを著しく消耗する」
少女「お前にはバッテリーは乗ってないよ」
少女妹「そうだった、そう言うルールだった」
少女妹「うちの家族はとてもルールが多い……好きになってくれる人で自分も好きな人以外には秘密もごもご……」
彼女は慌てて妹の口を押さえる
少女「活動は許可してないぞ」
少女妹「そうだった、そうだった」
少女妹「私のメインメモリは若干キャパシティが足りていない」
少女「お前にメモリは乗ってないぞ」
少女妹「そうだった、全くこの家は難解だ」
ちょっと面白くなってきた
さっきの話を聞いてみよう
男「君が普通の女の子に襲われていたって本当?」
少女「なっ……そんな事まで話したのか!」
少女妹「姉に近付く男性は防衛のためにその知識を持っていないと怪我をする」
少女「……でも流石に北海道から追いかけては来ないと思うぞ?」
少女妹「姉はあの女が恐ろしくないのか、むしろ尊敬する、その大胆さ……大胆とは肝が太いと言うことだろうか?」
少女「知らないよ……せっかく彼と話ができると思ったのにお前のせいで台無しだよ」
少女妹「それは申し訳ない、しばらくお茶菓子を食しながらお茶を飲むことで沈黙する」
少女「そうしてくれ」
少女「悪いな、僕の妹は馬鹿では無いのだが……いつも半分夢を見てるような子で……」
男「うん、分かる……でも見た目は君にそっくりなのに全く性格が違うからビックリした」
少女「うん、この妹は何故こうなのか……ただすごく良い子だよ」
男「うん、それも分かるよ」
少女「……なんだか君との間には邪魔が入ってばっかりだな……」
男「今日一日だけで一週間分くらいいろんな事があったよ……」
少女「全くだね……」
少女「一番は君と再会できた事……だけど」
男「うん……頭ではほとんど覚えてないのに、気持ちは覚えていたみたいだ」
少女「それで十分、嬉しいよ」
男「……これから一緒に出掛けたりしたいね」
少女「うん……そのうち色々思い出すかも、知れないし」
少女妹「昔母に聞いたことがある……僕たちは幼少期には筋力を制御するのが難しいのだが、姉はうっかり友達の男の子の脚を折ってしまったことがあるらしい」
男「!」
少女「ちょ、お茶菓子お茶菓子」
少女妹「あむっ……おひふぃい……もごもご」
男「…………お、思い出した」
男「あんな痛い記憶……何故忘れてたのか……」
男「そうだ、その後君はすごく泣いて謝ってきて……」
少女「す、ストップ、もう思い出さないでいい!」
男「で、でもそれで仲良くなったんだよ、だから痛い記憶は忘れてたんだ……ああ、そうか……」
彼女は真っ赤になって俯いた
……可愛いなあ
そうだ……あの時もこんな気持ちだった
痛い記憶だけど、思い出せて良かった
少女妹「恋は良いものか?」
少女「そう……だな」
少女妹「僕も恋をする機械を搭載したい……主に友達の男子を対象に秘密兵器を見せ合いっこしたい」
少女「機械は搭載できないし普通の子は秘密兵器持ってないと思うぞ」
何かコントみたいだな
少し楽しい
少女妹「そうなのか、残念だ」
男「秘密兵器持ってるの?」
俺が聞くと彼女の妹は握った手を丸テーブルの上に差し出した
少女妹「おっと、秘密兵器は秘密にするのがルールらしい」
少女「いいよ、別に見せても」
少女妹「姉の許可を確認……はい、これ」
男「ん?」
手を開いて差し出したもの、それは普段よく見る物だった
男「消しゴム?」
少女「僕たちの力だと十分兵器になるんだよ」
少女妹「そう言う訳で僕の兵器はあと七百四十三ある……七百五十三だったか?」
少女「知らないよ」
男「ぶっ……くくっ」
男「あっは、もう駄目、あっはは、あはははは」
少女妹「大変だ、姉の彼氏のネジが外れた」
少女「彼にはネジは着いてないから大丈夫」
少女妹「そう言うルールなのは分かるが実に苦しそうだからネジを入れてあげたい」
少女「お前が喋らなかったら勝手に止まるよ」
男「ご、ごめん……あははっ」
少女「ちょ、ちょっと恥ずかしい」
少女「もうお茶菓子も食べただろ、部屋に帰れ」
少女妹「分かった、緊急事態になったらエマージェンシーコールを鳴らせ」
少女「そんな物は持ってないぞ」
少女妹「男と女が二人きりになると危険が危ないらしいぞ、僕も母に許可された人としか二人きりにならないと母に宣誓した」
男「さっきまで俺と二人きりだったよね?」
少女妹「あれは不測の事態、好きな人以外は家族としか二人きりになれないルールなのに」
少女「気になる子、いるの?」
少女妹「早速僕の秘密に気付いた少年がいて、うっかり全て話す所だった」
少女妹「力のバランスを間違えて彼の牛が踏んでも壊れない筆箱を折ってしまった……看板に偽りがある」
男「あれ壊れるんだ?」
少女妹「うん、力を見せてはいけないルールを忘れていた」
少女妹「話してもいけないルールを忘れていた、お兄さんは記憶を消去して欲しい」
少女「彼にはもう僕の力を見せたから、話しても大丈夫だよ」
少女妹「姉はもう力を見せ合ったのか…………破廉恥だ……」
少女妹「うっ、うわーッ、破廉恥だーッ!!」
彼女の妹は顔を真っ赤にしていきなり叫ぶと、ものすごい勢いで部屋を出て行った
少女「…………本当にすまない」
男「いや、凄く面白かった」
少女「は、恥ずかしい……!」
ちょっと笑いすぎた
それにしても全く話が通じない訳では無いようで、彼女の妹がどんな生活をしてるのか少し興味が湧いた
もし彼女の事で何か困った事があったら相談してみよう
俺はやっと落ち着いてお茶にありついた
少女「僕の湯飲みも持ってくる……」
男「あ、先にもらっちゃってごめん」
少女「気にしないでいいよ」
その後二人でお茶を飲みながらさっきの彼女姉妹のやりとりの話をしたりした
流石に少し暗くなってきたし、帰るか
少女「まだ明日もあるもんね」
男「そう、君の新生活もまだまだ始まったばかりだしね」
少女「これから、よろしく」
男「うん……なんか一日でだいぶ打ち解けちゃった」
少女「うん」
少女「……ぼ、ぼくのほうはきみをおもいだしたから……」
男「……俺も早く思い出したいよ」
少女「君は思い出さなくていい」
よっぽど恥ずかしいことをやらかしたのだろうか
しかし自分の記憶の閲覧権限は自分にある
……ちょっと彼女の妹の喋り方が移った
その日は両親にも彼女と一日で仲良くなった事がバレていて、散々母と妹にからかわれた
父は散々二人にヘタレ呼ばわりされていつものようにへこんでた
ベッドに入ってもずっと今日の出来事を思い出してしまい、なかなか寝付けなかった
俺にも、彼女ができるかも知れない
そう思ったらとてももやもやしてきた
やがて寝てしまったようで、気がついたら朝になっていた
父「おはよー息子」
男「うん、おはよ」
父「今日さ、彼女連れてこないか?」
男「うちに?」
父「彼女のオヤジは昔からの親友だから大丈夫だぞ」
男「うーん、でもまだ正式に付き合うことが決まった訳じゃないからなあ」
父「流石俺の息子だな」
男「父さんのヘタレ遺伝子強力すぎ」
父「お前までヘタレ言うな、お前がヘタレ言うな、へ、ヘタレてないし!」
やっぱりヘタレの年季が違うなあ
男「今日部活無いし、誘ってみる」
父「おう」
朝はいつものように妹と登校する事にした
家を出ると、何故か彼女の妹が待機していた
え、なんで!?
妹「彼女さん?」
少女妹「僕はお兄さんの彼女の妹で、中学三年生の姉の妹だ」
少女妹「中学三年生なのは僕で、姉は高校二年生だ」
少女妹「姉が付き合う男を監視したい」
妹「中学生?」
妹「学校違うけど大丈夫?」
少女妹「僕の脚はブーストが搭載してあるので問題ない」
その時、遠くから土煙が上がってきた
彼女だ
少女「み、見つけたあっ!」
少女「お前は何をしてるんだ!」
少女妹「しまったな、お母さんに口止めしておくんだった……秘密じゃないからお母さんが喋ってしまったか」
妹「あはは、なんか可愛い子だね」
男「うん、かなり変わってるけど」
少女「ごめんな、朝から騒がせて……」
少女妹「問題ない」
少女「お前以外皆に問題がある」
少女妹「これで晴れて姉は彼氏と一緒に登校できる……僕の秘密作戦は大成功」
少女「ほんとに作戦だったのか?」
少女妹「嘘……本当は姉に危害がないか探ろうとしていた」
妹「大丈夫だよ、お兄ちゃんお父さんほどじゃないけどヘタレだから!」
男「そうそう……ってうっさいわ!」
少女「まあこいつと話してるとらちが開かないから、学校行こう」
男「うん……一緒に登校できて嬉しい」
少女「あは、あはは……」
彼女を真っ赤にするミッションに成功した
……自分も赤くなってるっぽいけど
その後妹が彼女の妹を捕まえて逆に色々説明されていた
俺は少し離れて彼女と二人で歩く
……手を繋いで良いものだろうか……
手を繋いだらもう付き合ってる事にならないだろうか
でももう一回は繋いじゃったし…………
そう思ってたら手が触れてしまう
少女「あ……」
男「えと、手って繋いでもいいのかな?」
少女「う、うん」
男「でも手を繋いだら、付き合ってるみたいだし……」
少女「じゃ、じゃあ学校の二百メートル前で離そう……」
男「う、うん」
少女「僕も君と手を繋ぎたいんだ」
手を繋ぐ
さらっとした彼女の手の感触
そう言えば他人にこんな風に触れる機会なんてめったに無いんだよな
前を歩く二人が俺たちが手を繋いでる事に気付いた
妹「もう手を繋ぐまで進んだんだ……ヘタレ遺伝子機能してないな」
少女妹「姉が破廉恥システムを搭載してしまったのだ」
妹「破廉恥システム?」
少女妹「そう言えば人間にシステムはないルールだった」
少女「昨日から僕の妹が破廉恥破廉恥うるさいんだ……」
男「あの子とずっと一緒だと大変そうだね」
少女「うん、でも嫌いって訳じゃなくて」
男「そうだね」
少女「今日も一日君と肩を並べて授業か……なんだか僕、伝説の理由が分かった気がする」
男「今日は部活無いから、あ、そうだ」
男「父さんがさ、うちに来ないかって……話聞きたいから」
少女「え、でもいきなりお呼ばれは……」
男「大丈夫、うちは両親もよく友達を誘ってご馳走するから」
少女「いいのかな……」
妹「彼女も誘っていい?」
男「聞いてたのか」
妹「うん、なんか彼女さんの妹ちゃんすごく話が合う」
少女妹「僕たちは生まれた時から妹属性を備えた、言わば同型」
妹「人間に型番はないよ」
少女妹「そうだった、妹の先輩はルールをよく理解している」
男「まあ皆でワイワイやるのもいいか、彼女のお母さんに話しておかないと」
少女「それは大丈夫、何故か君は両親にすごく信用されてたから」
妹「うちの兄はヘタレ遺伝子搭載型だからね」
少女妹「妹先輩、人間には型番がないと」
妹「そうだったね、ルール忘れてた」
移ってる移ってる
学校二百メートル前、角を曲がると大通り
そこで俺と彼女は手を離した
話をしていて忘れてたが改めてドキドキ
彼女の妹を送り出し、教室に向かう
毎朝見る光景ではあるが、教室のある二階廊下に人集りができていた
委員長「おはよう」
男「おう、今日も女の子いっぱい連れてるな」
後輩「おはようございます……」
男「あ、おはよう……」
取り巻きに隠れて後輩ちゃんがいた
後輩ちゃんと顔を会わすのは複雑だ
今は言い寄られても困るけど、ずっと気付いてあげられなかったのは本当に申し訳ない
後輩「大丈夫ですよ先輩、昨日委員長先輩と話して滅茶苦茶泣いたらすっきりしました」
それ大丈夫じゃないんじゃ……
委員長「昨日家族総出であんなヘタレな鈍感よりいい男はいっぱいいると説得した」
男「色々有り難いしお前にはすまないと思っているが、まず謝れ」
委員長「事実だろ、まあ昨日お前が聞いてたら骨まで砕け散ったかも知れないが」
男「ちょっと待て、何を吹き込んだ」
委員長「私は別に、ただ両親が君の父親の伝説のヘタレっぷりを一時間くらい話していた」
男「それは確かに砕け散ったかもな」
後輩「私も目が覚めました、ヘタレはやっぱりダメです」
男「ひどい」
後輩「ふふっ、冗談です」
彼女の目は確かに泣きはらして赤くなっていた
その顔で微笑まれたら、心が痛む……
しかし、しばらくは平穏に過ぎ去りそうだった
今日は部活が無いので彼女を加えた六人で帰る
先輩「さて、どこに行くか」
委員長「今日は大通りの方の公園にでも行ってみるか」
男「公園なんて何にもないだろ」
委員長「屋台くらいはあるさ」
妹「クレープですか、たこ焼きですか?」
委員長「確か今はお好み焼き」
少女「お好み焼きを食べながらのんびり散歩もいいかな」
あ、なんだか急に楽しそうに思えてきた
先輩「よし、じゃあバイト代も入ったし奢ってやるか」
委員長「あざーっす!」
男「あざーっす!」
後輩「お兄ちゃん貯金しないの?」
先輩「目標額は貯まったから、遊ぶ」
後輩「え、すごい」
男「先輩ってなんで貯金してるんですか?」
先輩「会社でも興そうと思って……まあこの資金を運用して増やさないと駄目だけどね」
委員長「じゃあ百万くらい貯めたのか、すごいな」
先輩「まあ金額は伏せとく……」
男「でもしっかり将来を見据えてるんだなあ……」
妹「お兄ちゃんも見習わないとね」
男「俺は将来何するかも決まってない……」
少女「まあ大学に入ってから考える人もいるし、いいんじゃないかな」
男「将来かあ……」
少女「し、将来の話はそれくらいで……」
男「え、うん……?」
公園に辿り着いた
屋台から美味しそうなソースの香りが漂ってくる
屋台の前に見覚えのある銀の長髪の双子がいた
いや、あれ彼女のお母さんと妹ちゃんだ
少女母「おや、君たち早いな」
少女「お母さんこそどうしたの?」
少女母「たまには家族とゆっくりしようと思ってな、まあ夜は私も出掛けるから」
少女妹「見覚えのある人たちを確認」
少女母「君たちも買い食いか?」
男「こ、こんにちは」
先輩「いつも父がお世話になってます」
少女母「ああ、銀くんの所の……こっちもお世話になってるから気にするな」
少女母「まあ出くわしてしまっては仕方ない、ここは私が奢ろう」
先輩「いや、こちらも余裕は有りますので……」
少女母「私が若い頃はデートばっかりでいつもカツカツだったぞ?」
少女母「いいから、子供がいらない気を使うな」
先輩「すみません」
妹「ちょっと大発見、三人そこに並んでください!」
少女「え、ぼく?」
突然に妹が何を思ったのか彼女の家族三人を並べる
え、すごい
先輩「これは……身長が全く同じなのか」
少女母「私が小さいからか?」
後輩「先輩が三人……」
少女妹「僕は年々身長を更新しているので来期のデータでは二人を上回るはず」
三つ子だ……
髪の結び方や表情の作り方は違うものの、そっくりだ
少女母「つまり私が中学生に扮装したら妹の方と間違われると……それはそれで屈辱だな」
先輩「い、いや、大人の魅力ありますよ……でも少なくとも娘さんは入れ替わっても気付かないと思います」
少女「僕らは口を開いたら全然違うんだがな」
少女妹「僕のデータベースには姉さんの性格の記録があるので入れ替われる」
少女妹「試しに姉さんの口調で喋ろうか?」
男「いや、やめて、混乱する」
少女「その特技ってあいつの襲撃の時に身につけたやつか……」
少女妹「あいつにとって僕は天敵として記録されたはず」
少女母「さて、お腹も空いたしお好み焼き買って公園に入るか」
俺たちは結局彼女のお母さんに奢ってもらい、お好み焼き片手に公園に入った
妹「ジュース買ってくる」
後輩「私も」
委員長「じゃあお前のは私が買ってきてやろう」
先輩「じゃあ彼女のは俺が奢る」
少女母「ああ、じゃあ私たちは家族二人で散歩するか」
少女妹「行動を開始する……早く燃料を充填したい」
何故か俺と彼女を残して全員がどこかに行ってしまった
男「なんで?」
少女「ぷっ、はははっ」
少女「さ、流石だな君は」
男「あ……気を使ってくれたのか……」
少女「食べよ?」
男「う、うん」
静かな公園で二人、肩を並べて座ってる
お互いの顔を見ながら、お好み焼きをつつく
熱々のふっくらしたお好み焼きを口に入れると鰹節の香りと海苔の香りが絶妙に混ざり合ってソースの味を引き立てる
少女「これ美味しい」
男「う……ん、おいふぃい」
少女「あはは、熱いな」
あれ、なんだろうこれ……すごく幸せ
少女「あの」
男「あのさ」
少女「あ、ごめん」
男「いや、君から」
少女「ごめん……うちの家族ってさ、普通の人間はお父さんだけなんだ」
男「うん」
少女「僕も妹も、だから普通って言うことが良く分からないんだと思うんだよ」
男「んー、想像はつかないけど、分かるかな」
少女「だからこう言う普通って、なんだかすごく楽しい」
男「俺も楽しいけど」
少女「そうか、普通に楽しいんだな」
男「普通に楽しい」
少女「き、君は何を言おうとしたんだ?」
男「俺は……」
男「正式に君と付き合う前に、デートしたいって言うか」
少女「したい」
少女「お母さんたちがよくのろけるんだ……学生時代アホほどデートしたって……」
少女「ん、でもデートする関係なのに正式に付き合ってないのか?」
男「うん、まだ告白もしてないし……そういう気分になるまでデートしたいって言うか……」
少女「それはいいんだけど…………告白してない、か……」
最後の方はよく聞き取れなかった
でも彼女もデートしたいんだ
なんだか楽しみになってきた
今回はここまで
一人称とか二人称とか自分でもすごく混乱してるのでよく分からなかったらすみません
次の更新はできれば一週間で、かなり複雑な展開になるので二週間かかるかも知れません
では、また
正統派で好き乙
すごく好き
乙
乙!
ありがとうございます
読んでくれる人がいるって幸せですね
更新こそが人生だ
その後二人で公園を散歩して、先輩や彼女の家族とすれ違う度にいろいろ立ち話
側にはずっと彼女がいて……
なんだかにやけたり顔が熱くなったりする
やがて全員集まるとひとまず解散
彼女達は夜にうちに来ることになった
父「さてさて、じゃあ母ちゃん帰ってくるまで皆で料理の下準備しとくか」
妹「は~い」
男「何を作るの?」
父「俺の得意料理から鶏もも肉のステーキ、豆腐と細葱のスープ、洋風肉じゃが、アジのマリネ、あとはチーズサラダだな」
男「美味そう……じゃあ野菜切るね」
妹「まずはスープとか煮物?」
父「そうだなあ」
家族三人で料理していると彼女達が来たようだ
二人に任せて俺が出迎える
少女「お邪魔します」
少女妹「お邪魔はしないがお邪魔になると思う、申し訳ない」
男「あはは、いらっしゃい」
二人を迎え入れ、テーブルに案内する
少女妹「とても広い家だ……迷子になったらどうしようか……迷子にかけては一家言ある僕だから迷子になったらGPSで探して欲しい」
男「そんなに広くないよ!?」
少女「でも大きいし綺麗な家だね!」
男「ありがとう」
二人を席に座らせて飲み物を用意する
今日は洋食なので紅茶にしておくか
お茶を出して料理を再開しようとした所で母さんも帰ってきた
母「は~い、ただいま!」
男「母さん、おかえり」
母「あら、可愛いお客さん!」
少女「あ、お邪魔しています」
少女妹「お邪魔になってしまっていてすみません」
母「いいのよ~、いつもお母さんに話は聞いてるわ!」
男「母さん達メールのやりとりしてたんなら彼女のこと教えてくれてたら良かったのに」
母「…………」
男「?」
母「はあ……あんた、忘れちゃったのね……」
男「えっ!?」
母「あ~あ、もううちの男共は、鈍感、ヘタレ、記憶障害、デリカシーゼロ!」
男「言い過ぎだよ?!」
母「あんたたちで決めたんでしょ、約束を果たすまではお互いに連絡取り合わないって」
男「ええっ、え!?」
少女「そうだった……」
母「ほら、彼女は覚えてるじゃないの」
父「大人と子供じゃ時間の流れる速度違うからなあ、料理手伝ってくれ」
母「つまり彼女は大人でうちのはガキね、ついでにあんたもガキね!」
父「うっせ、ガキじゃねーし料理手伝ってくれ!」
妹「ガキだ……」
母「まあさっさと思い出しなさいよ、大事な約束したんだから」
男「ええっ!?」
母「全く、あれかしらね……お父さんのヘタレ遺伝子が記憶の回復を妨げてるのかしらね?」
父「い、遺伝子からヘタレみたいに言うなっ、あと料理手伝ってくれ!」
いつも通り散々に父が弄り倒される展開になった
でも、約束か……
彼女の方を見ると真っ赤になって俯いていた
彼女は覚えてるみたいだけど、まさか彼女に直接聞くわけにはいかないよなあ……
その後、母さんも参加してあっと言う間に料理ができあがり
皿を並べていたら母さんが二人分余分に席を用意していることに気付いた
男「まだ誰か来るの?」
母「彼女のご両親も来るわよ?」
男「え、緊張するなあ……」
母「まあ正式に付き合うかはあんたたち次第だから、お母さん達はなんにも言わないわよ」
男「絶対茶化すよね?」
母「当然!」
父「息子よ……可哀想に仕事のストレスぶつけられて……」
妹「ハゲたら彼女に捨てられるよ、お兄ちゃん」
男「ハゲないよ!」
妹「でもお父さんも少し薄く」
父「なってないよ?!」
少女「すっきりかっこよくハゲてね」
男「ハゲません」
少女妹「ハゲ頭を見ると二つに割れてロケットが飛び出してきそうで恐ろしい」
男「飛び出しません」
話して時間を潰していると彼女の両親がやってきた
少女母「遅くなってすまない」
少女父「お邪魔します……相変わらずデカい家だな」
母「待ってたわよ、入って入って」
二つの家庭、八人で席に着くと父さんが家長らしく挨拶を
しようとしたがどもってるうちに母さんが仕切る
母「じゃ、いただきましょ、みんな遠慮はしないでね」
父「い、いま挨拶しようと……」
母「いただきます!」
「いただきま~す」
父「うぐぐ……」
少女父「相変わらず見事な尻に敷かれっぷりだな」
父「うっさいわ!」
男「反面教師にしよ……」
少女「楽しい家だね」
妹「楽しすぎて困りますよ」
いつもお客様が来ると父さんが弄られるのが黄金パターンになっていて
息子ながら情けないです、駄目親父
父「何か息子に見放された気が」
母「見放されてないと思ってるとは肝が太いわね」
少女妹「やっぱり大胆と肝が太いは若干違うように分析」
少女「ん、お肉美味しい」
少女母「本当だな、今度うちでも作るか」
楽しいな
料理も美味くできたし、みんな口が滑らかだ
楽しい食事会が終わって食休みの会話をしていると、彼女のお母さんが切り出す
少女母「すまない、彼を借りていいかな?」
母「息子?」
父「いくらでも借りてくれ」
母「息子レンタル始めました」
少女母「有料!?」
母「友達料金で無料よ」
少女母「サービスいいな!」
男「え、と」
少女母「ああ、じゃあ隣の部屋借りようか」
俺は彼女のお母さんに呼ばれるまま部屋を出た
いったい何の話だろう?
隣の部屋から賑やかな声が響く
しばらくして彼女のお母さんは切り出した
少女母「私の容姿、どう思う?」
いきなりそんな事を言われてどぎまぎしてしまう
もちろんいやらしい意味では無いだろうが、一瞬思考停止
少女母「若すぎると思わないか?」
男「!」
少女母「私の正体、と言えばいいかな……秘密を話しておきたい」
彼女のお母さんの秘密……
それは彼女の秘密でもあって……
その後聞いた話ははっきり言えばファンタジーのように聞こえた
しかし同時にそれが事実であることも分かる
彼女が人工的に遺伝子配列を組み替えられた生物であること
爆弾として、兵器として作られたこと
その遺伝子によりかなり長寿になり
彼女が愛する人を見送り、長く孤独に生きる事になるのはほぼ間違いないと言うこと
それは彼女の容姿がはっきり示している事実だ
……重かった
さっきまでの楽しい雰囲気から覚めてしまうほどに
少女母「君と娘の約束は、所詮君自身も忘れるほど昔の、子供の約束だ」
少女母「だから今、大人として君にはゼロから判断して欲しいと思った」
少女母「厳しい話かも知れないな……」
男「……」
確かに自分は忘れてしまってる
とても大切な約束だった事は覚えているのに
ゼロから……
過去を抜きにして今、彼女の秘密を知った俺はどう思うのかってことか……
なんというか色々と情けなかった
度々自分の出来の悪さを確認してきたが、改めて思い知らされた
彼女が俺に向けてくれる好意には嘘がない
だから彼女のお母さんの話は重い
俺はいつか彼女を悲しませるのだ
それはどんな道を辿っても、否応なく
男「俺は……」
男「正直に言えば、自分が情けないです」
少女母「うん……」
男「……でも、一つ大人として約束させてください」
少女母「……」
男「俺、必ず思い出します……彼女との約束を!」
男「その上で今の思いを確かめます!」
少女母「うん…………いい答えだと思う」
そこでノックする音
彼女のお父さんが入ってきた
少女父「僕の奥さんを独り占めされちゃ困るな」
少女母「あはは、ごめんな」
少女父「話は終わった?」
少女母「うん、彼はなかなか好青年だな」
二人は俺が居るのを分かっているはずだがベタベタ抱き合い始めた
これはヘタレとしては是非とも退散しないと駄目な流れだ
少女父「少年、うちの娘は」
少女父「心までは鋼で出来ていない」
男「分かってます」
少女父「君次第ではある……投げ出しても僕らが恨むことはない」
男「……」
投げ出しません、と言いたかったが、今それを言うのは軽い気がした
少女父「でも、できることなら……彼女の弱い心を守ってあげて欲しい」
男「……はい……」
俺はなるべく
なるべく何も聞いてない顔をして部屋を出た
酔っ払った両親が入れ替わりで部屋になだれ込んだ
わいわい騒ぐ大人達の声を聞くと不思議と安心し、普通に笑顔になれた
大人って強いんだな
本当に、思った
少女「え、と」
少女妹「お母さんに改造されてないか?」
男「改造はされてない」
男「いや、あれは改造だったのかな?」
少女「えっ!」
少女妹「は、破廉恥?」
男「破廉恥では断じてない」
妹「やーらしーんだ!」
男「酔ってるのかお前は」
妹「お酒は飲んでないよ!」
少女妹「姉をみんながいじって遊んでいた」
少女「爆発するかと思った」
男「あはは、なんかごめん」
妹「そうだよ、ちゃんと彼女を守らないと生涯ヘタレ兄貴って呼ぶから」
一瞬真顔になったと思う
三人も真顔になった
男「守るよ、ヘタレは父さんだけでいい」
妹「ひどっ」
俺は、にっと笑って席に着くと四人でけっこう遅くまで話した
楽しい時間
こんな気持ちになれるのは……やっぱり……
やがて四人が帰り、片付けや風呂を済ませて部屋に帰り眠りにつく
今日聞いた話を思い出すと、なかなか眠れなかったけれど
――――早く思い出さなければ
翌朝も俺達の日常は変わらなく流れた
お昼に彼女を屋上に誘う
男「まだ少し寒いのかなあ」
少女「風が強いからね」
男「うん」
俺の今やることは決まっている
ヘタレは父さんに返上したはずだ
いや、ヘタレじゃないし返していらないし、と言いそうだが
男「デート、水族館に行かない?」
少女「え、行くっ」
少女「行く、行こう!」
男「良かった」
約束はまだ思い出せないけど、今、俺は
きっと彼女を、好きになってる
しかし金曜日、状況は突然変わる
まるでハンマーで殴りつけたガラスのように、日常が砕け散る事になった
委員長「はあ、また転校生だってさ」
男「またあ?」
友人「しかもまた可愛い女子だってさ、真っ黒なロングで……」
友人「今度はお近付きになれるかなあ~」
少女「……」
少女「その子、どこから……」
少女「いや……まさか……アイツなはずはないか……」
ガラッと教室のドアが開き、小柄な担任が入ってくる
担任「最近転校が流行ってんのかな~?」
担任「じゃあもうみんな知ってると思うけど、新しい転校生だよ~」
入って~、と担任が呼ぶと、前情報通り黒髪の、いかにもお嬢様といった弱々しい感じの女の子が入ってきた
教室が騒がしくなったのと正反対に、みるみる彼女の顔が青ざめていく
少女「まさか……ここまで追ってくるか……!」
アイツが
彼女の妹に聞いた女だった
女「はじめまして皆さん」
女「北海道から越してきました……余り世間を知らないものですから皆さん、是非とも私にご教授下さい」
女「よろしくお願いします」
たおやかと言うのだろうか、柔らかな物腰でまるで害がないように見える
しかし彼女の様子を見れば明らかにその黒髪の女こそが彼女を追い詰め、苦しめていた女だと言うことは分かった
いったい、どうやって?
その女はするすると委員長の右隣の席に座る
彼女と目も合わせない
いったいあの女はどんな攻撃を仕掛けてくると言うんだろう?
いつものように彼女と肩を並べ授業を受ける
男「アイツが、例の?」
少女「……う、うん」
少女「ごめん、なんとか説明する……しばらく……数日は話しかけないで欲しい」
えっ!?
これから二人でデートの計画を練ったりしようと思ってたのに……
それに、彼女を守らないと駄目なんじゃないのか……
いいのか、ここで黙ってて
その日は彼女と話せないままだったが、部活の時間になれば話せるはず
しかし、彼女は部活にも来なかった
部員全員が何か起こったことを感じていた
先輩「今日の議題は海竜が現在生存していた場合の活動範囲予測、及び生態についての科学的に現実的な範囲の考察……」
先輩「ってこんな空気の中で進めるほど俺も無神経じゃない」
先輩「今日の議題は伝説を脅かす存在の考察、これでいいか?」
男「先輩……」
委員長「珍しくアホだな」
先輩「そうかもな」
委員長「だが、いいアホだ」
委員長「おい、なんかあの女について話を聞ける奴はいないのか?」
妹「お兄ちゃんのクラスの転校生なら一番委員長先輩が知ってるんじゃ……」
委員長「前情報なんかこれっぽっちしかないぞ」
委員長「まず彼女とアイツは同じく北海道から来たこと」
委員長「アイツは彼女を追いかけてこれるだけ財力があり、親の力を借りれる」
委員長「アイツはなんらかの方法で彼女を苦しめていた」
委員長「極めつけに彼女が身体能力では他人に負けない存在だと言うこと」
男「!」
男「知ってたのか」
妹「もうみんな知ってるよ……」
男「えっ、お前も?」
先輩「まあ、俺が君の妹さんに力を見せたことがあって……」
男「ええっ」
男「ちょっっ、まっ!」
委員長「私はお前みたいに健忘症じゃないしな」
男「ひどっ」
男「え、なんか俺仲間外れ?」
先輩「……まあ、すまん、黙ってて」
妹「まだつきあってるわけじゃないから、落ち着いて」
後輩「部活内恋愛禁止をお兄ちゃんが破るわけにいかないもんね~」
後輩「それでホイホイ部活内恋愛禁止条項を撤廃したわけね」
先輩「妹が怖い」
男「俺も怒ってますけど」
利用されたみたいな感じだしな
先輩「いや、だからな、今は」
妹「それどころじゃ無いでしょ、彼女とその女子について」
委員長「詳しい人いないのか?」
詳しい人……
こんな時に相談に乗って欲しかった人……
学校に来ても違和感の無い人……
まあ最初から彼女の妹ちゃんしかいないんだけど
そう思った瞬間部室のドアが開いて、妹ちゃん……ではなく彼女本人が来た
彼女は……
ん?
少女妹「姉からメールを受けた……説明するために妹は姉の制服を着てツーサイドアップにして堂々正面から高校に侵入することに成功」
妹さんの方だった
いや、まさしく今頼りたかった人なのだが
少女妹「説明しよう!」
少女妹「妹は常に姉の制服をカバンに忍ばせていてわずか二、三分で姉に変身できるのだ!」
遅っ
いや、いいけど、普通だけど
先輩「は、はじめまして、ではなかったな」
委員長「先日お好み焼きを一緒につついた仲だからな」
男「一刻も早くアイツのことを教えて欲しい」
少女妹「よかろう!」
知ってるけどなんか色々すごい子だな
本当に
少女妹「一口に言ってしまえばアイツはストーカー」
少女妹「姉のことを気が狂うほど愛している」
少女妹「姉は他人を傷つける事を恐れているのでアイツに抱きつかれたら振り解けない」
少女妹「アイツは超貧弱なので定規でデコピン以上の攻撃を加えたらたぶん卒倒する」
少女妹「アイツがやっかいなのは本丸より搦め手から攻めてくる所」
少女妹「例えば私や、お兄さんや、妹先輩を眠らせて監禁して姉をいいようにしようとするだろう」
少女妹「だから今までは姉は男を遠ざけてきたのだが、遙か遠く懐かしき故郷に帰ってきて、しかもお兄さんと再会してしまった事で完全に油断した」
少女妹「アイツにお兄さんの事を感づかれたらお兄さんは殺されかねない」
……だからか、いきなり話をしてくれなくなったのは
こ、殺される?
妹「わ、私もヤバい?」
少女妹「妹先輩もヤバい……アイツは何をしてくるか分からない恐ろしい女」
少女妹「多分今はクラスメイトに情報をもらっているはず」
少女妹「お兄さんはもう危険な状況」
男「……」
顔が引きつるのを感じた
それが本当なら家族も危ない?
少女妹「アイツは大人には手を出さない……うちの母親に捕まってお尻ペンペンされたから、大人をとても恐れている」
男「すごいなお母さん」
少女妹「僕と姉の母はソルジャーだ」
少女妹「だいたい知ってることは話した」
先輩「さて、どうすればいいのかな、これは……」
少女妹「……今まで打つ手は逃げの一手のみだった」
男「……」
男「逆に俺と彼女が引っ付いたら、駄目かな?」
妹「えっ、お兄ちゃんがっ!?」
あからさまに無理と言われたような気がするぞ、妹よ
男「だって今までは彼女はフリーだったわけじゃないか」
男「今はフリーじゃないって見せ付けたら良いんじゃないか?」
少女妹「危険だが」
先輩「だが、一理あるかも……」
後輩「じゃあ銀髪組と委員長先輩で警護しながらやってみますか?」
委員長「いいのか?」
後輩ちゃん……
彼女と俺が引っ付いたら一番嫌なのは後輩ちゃんのはずなのに……
後輩「そうか……うん、そうだ……」
後輩「委員長先輩、少し耳を貸してください」
委員長「ん?」
委員長「ほう……ほうほう」
何やら二人で作戦を練っているようだ
なんだろう?
部活が終わり、放課後から作戦は始まった
彼女に連絡を取る
俺からのメールを受けた彼女は、きっと笑ってくれたはず
約束はまだ思い出せていないけど
ゼロから考える
それは正確なアドバイスだったように思う
メールで言うべきでは無かったと思うが……俺は送った
俺は
君が
好きだ
ターゲット、女は教室にいる
目的は、俺が彼女の恋人だと知らせること
女「へえ、じゃあ私の前の転校生さんとその男の子が恋仲になるって伝説があるんですねえ?」
友人「そーなんだよ、それでさー、あいつらガチに仲良くなってんの!」
友人「あ、その玉子焼うまそー!」
女「いくらでも食べてくださいな、私一人じゃ食べ切れませんもの」
友人「いやー、君料理上手いね~!」
女「当然ですよ……好きな人には最高の物を食べてもらいたいじゃないですか……」
友人「だよなー」
女「うふふ!」
友人「しかし昼食で食べきれないほど作ってくるってすごいね」
女「いつも皆さんにお裾分けしてますから」
女「しかし転校初日でお裾分けできる友達がいなかったのは誤算でしたわ」
友人「俺ならいつでも食べるよ!」
女「まあ、ありがとうございます……素敵な方に食べていただけて嬉しいですわ」
友人「え、へへっ」
…………
少女妹「アイツはバカで籠絡しやすい女を演じて、多分クラスメイトの中のボッチな男子を取り込む」
彼女が言ってたことではあるが、妹さんは馬鹿じゃない
いつも七割くらい寝てるんだな……
男「転校生に食らいついてたから多分友人はアイツに落とされてるかも……」
妹「友人さんって私にアタックかけてきた人?」
男「え、マジで?」
男「あいつ委員長が好みって言ってたのに」
委員長「ないわー」
男「だろうな~」
先輩「その友人君が落とされたとしてその女が次に打つ手は?」
少女妹「おそらくクラスの情報を収集する」
少女妹「友人とやらがお兄さんの友達なのはやっかいだな……」
男「家の場所聞き出して侵入してきたりするかな?」
先輩「住所まではなかなか教えないと思うがどうなんだろう?」
委員長「まあそこまで常識がない奴ではなかったはず……警戒するに越したことはないが」
男「だな」
この後アイツがどう攻めてくるかは分からない
でもこちらからの攻撃は決まってる
俺と彼女が恋人だって見せつけるだけだ
少女妹「とりあえずは僕が姉のふりをしてアイツを誘い出す」
少女妹「僕の兵器を食らわせて姉に近付くのは危険だと体に染み込ませてやる」
それはひょっとしたら有効な戦術なのかも知れないが根本的な解決にはならないだろう
そして多分それは妹ちゃんも分かっている
俺が戦うのが、一番なんだ
妹は先輩に送ってもらい委員長と後輩ちゃんと皆で遊びに誘う形で転校生のアイツを誘い出すことにした
委員長「友人、遊びに行こうぜ」
友人「あ、おう」
女「委員長さん、私も良いですか?」
委員長「女の子はいつでも大歓迎だよ」
女「あら、嬉しいですわ!」
女がちらりと彼女の妹を見た
果たして見破られるだろうか?
妹ちゃんは青ざめた顔をしている
……演技上手い……!
いつものゲームセンターに入る
幸い追い出されなかった
後輩「行きましょ、先輩!」
何を思ったのか後輩ちゃんが腕を絡めて俺を引っ張る
え、ちょっ……
後輩「今日は私とデートしてくださいね!」
男「え、ええ~!」
後輩「私先輩を諦めるなんて一言も言ってませんから」
男「へ、ヘタレは駄目だって」
後輩「ヘタレなければいいじゃないですか?」
にっこり笑う
あ、これさっき委員長と話してた作戦なんじゃ……
俺の意志はメールでは有るけれど彼女に伝えているし……大丈夫か?
しかしこの状態を当然彼女のふりをしている妹ちゃんが見過ごすはずがない
少女妹「あんまり彼にベタベタしないでくれないか?」
声音からセリフまでそっくりそのまま彼女だった
アイツもこちらを見ている
俺は二人に引っ張られた
痛い
いや本当に痛い
少女妹「離さないなら……!」
妹ちゃんが後輩ちゃんを突き飛ばした
迫真の演技だな……いや、演技だよね?
後輩ちゃんが倒れて、そのタイミングを見てアイツが駆け寄る
餌に食いついた、と言う所か
女「大丈夫ですか?」
後輩「大丈夫じゃないわよ!」
少女妹「いこっ!」
妹ちゃんに引っ張られて俺はゲームセンターを出た
委員長「おい、待ってくれ!」
委員長もついてくる
これでいいの?
少女妹「これでお兄さんの後輩さんがあの女の味方になった」
委員長「仮に、だがな……これで後輩ちゃんをスパイにしてアイツの動向を探れる」
男「なるほどなあ」
委員長「じゃあ解散するか」
男「えっ、大丈夫なのかな……」
委員長「後輩ちゃんが何とかするだろ……それにお前には行く所があるだろ?」
男「え、ああ……」
男「でも彼女がどこにいるかは分からないんだけど……」
少女妹「姉は校外に出ているはず」
少女妹「僕もそろそろ変身を解く」
男「うん」
男「とりあえず公園に行ってみるか……」
委員長「私は後輩ちゃんが心配だから尾行するわ」
男「うん、任せた!」
公園に着くとベンチに彼女の妹ちゃんが座っていた
ん?
まさかそんなに早く変身して先回りしてるはずがない
彼女だ……
ツインテールに眠そうな顔がいかにも彼女の妹ちゃんだが
男「えっと、隣いいかな?」
少女「構わない、お兄さんと話する」
男「あれ、妹ちゃん?」
少女「……ぷっ」
男「あ、やっぱり……」
少女「しばらく下校時は妹のふりをするよ」
男「中学の制服持ってたんだ?」
少女「これは妹の……サイズ同じだからね」
男「ああ、そっか」
少女「あの女が来たら妹のふりをするけど」
男「それがいいよ」
少女「うん……多分学校では話せないから今のうちにアイツのこと教えておこうかな」
男「うん、敵のことは知っておきたい」
少女「何から話そうか……そう、高校に入ってからだな」
少女「やたら僕に言い寄ってくる男子がいてね」
少女「まあ言い寄ってくるのは一人や二人では無かったけど、とにかくそいつはしつこくて」
少女「それが僕の男嫌いの原因でもあるんだけど」
少女「そいつがまたやたらモテる男で、だから僕を攻撃してくる女子もいたよ」
男「それがアイツ?」
少女「いや、アイツは大人しかったよ」
少女「とにかくネチネチした嫌がらせしてくる女子がいるんだよね」
少女「大抵裏でいたーいお仕置きしてたからそういうのはすぐに無くなったけど」
男「……何をしてたか聞かないでおく」
少女「猫好きな子を椅子に縛り付けて目の前で一時間ほど猫をもふもふし続けたり」
男「何それ、可愛いな」
少女「話がそれたな、で、その男子が最悪な奴で」
少女「アイツはお金持ちだったからお金だけ巻き上げられてた」
男「うわあ……」
少女「ある日海辺でアイツがその男子に告白したんだが」
少女「振られた挙げ句に海に突き落とされたんだ」
男「ひでえ……腐ってるなその野郎」
少女「僕は全力で奴を海に投げ込んだ後にアイツを助けるために海に飛び込んだ」
男「え、ちょっと待って、北海道だよね?」
少女「さむかった……さむかったよ……」
男「だよね」
少女「アイツを助けた後すごく寒かったからゴミをまとめて火をつけた」
少女「その後しばらくガチガチ震えながら抱き合ってたら、なんか目覚めちゃったらしくてさ」
少女「男子の方はびしょびしょのまま家に帰って風邪を引いて寝込んだらしくて、それからは僕に近寄らなくなったんだけど」
男「変わりにアイツが……」
少女「……アイツは本当にしつこかった……妹がいなかったら何度か危なかったよ……」
また彼女の顔が青ざめている
よっぽどひどいことをされたんだろうか?
男「聞かない方がいい?」
少女「いや、聞いて欲しい」
少女「僕は基本的には人を傷つけるのは好きじゃないんだ……昔好きな男の子に大怪我させたから」
男「あはは」
少女「だからいきなり抱きつかれたりしても振り解けなくて、危うい所で妹に助けられた事が何度か」
少女「後ろから抱きしめられて首筋に息を吹きかけられたり……」
男「うわああ……」
背筋に何か走った
怖気
嫌悪感
そういった、何か
少女「またある時は呼び出されたと思ったら……」
少女「目の前で上履きを、なめられた」
男「うわあ……うわあ……」
彼女は涙目だった
俺もストーカーにそんなことされたら泣く
少女「そういったほぼ嫌がらせの愛情表現を繰り返してきて……家に忍び込まれたことも何度か」
男「妹ちゃんがベッドに潜り込んでた原因か……」
少女「ある時は友達を誘拐されたりもした……」
少女「とにかく何が危ないって性癖が危ない」
少女「アイツは見た目は大人しいから余計に神経にダメージが……」
男「分かる気がする……」
少女「こっちに来る少し前、妹がスタンガンでやられて、ちょっと僕も切れちゃって」
少女「海に投げ込んだんだけどね……まさか転校してまで追いかけてくるとは……」
かなりしつこくて気味の悪いストーカーなのは分かった……
予定よりたくさん更新してしまいました
明日最後まで更新します
なんでか鼻血がでました
更新終わる前に死んじゃったらすみませんw
要素が多くてどう傾くか分からない。気になる
乙
後輩がどう動くのやら……
乙
ありがとうございます
伏線あんまり消化できてない気がします
更新します
男「とりあえず今日は送るよ」
少女「あ、ありがとう」
彼女の手を取って歩き始めた
その時メールが来た
少女「誰?」
男「委員長から……後輩ちゃんと女を見失う、って」
少女「……僕も妹に連絡しておく」
とりあえず二人で急いでこの場を離れた
なんとか遭遇せずに彼女の家にたどり着きたい
走った
めっちゃ走った
だが
出くわしてしまった
後輩「先輩!」
女「あらあら」
女「妹さんとご一緒なのはクラスメイトの方ですわね?」
彼女は変身したままだ
見た目だけで見分けるのはストーカーでも難しいようだ
彼女はどこからかチョークを取り出して構えた
少女「姉の敵に遭遇、僕の七百五十三の兵器を全て叩きつける」
え、と、あれ?
自分でも一瞬分からなくなってしまった
女「いつものようにいきなり攻撃して来ないのは……大人になったのかしら?」
まずい
この流れで攻撃しないとバレるのでは……
女はポケットにゆっくり手を差し込み、スタンガンを取り出す
女「それとも、これが怖いのかしら……?」
青白い光とバチバチという嫌な音
彼女じゃなくても怖い
誰か救援に来てくれないかな……
と、後輩ちゃんと目が合う
後輩「先輩……」
後輩ちゃんはゆっくりと歩いてくる
彼女はその足元にチョークを投げつけた
チョークとアスファルトが弾ける
一瞬後輩ちゃんが引く
しかし次の瞬間に俺は後輩ちゃんのタックルを受けた
彼女が後ろを見た瞬間アイツが踏み込んでくる
振り返った瞬間に彼女はスタンガンを食らった
女「これでまた……彼女に怒ってもらえるわ……」
変態だ
変態だった
そんな目的で彼女に嫌がらせ的なアプローチしていたのか……
って、後輩ちゃん、演技はもう良いよね?
彼女助けて……
ところが後輩ちゃんのハグは緩まない
柔らかい膨らみで締め付けられる
あれ?
後輩ちゃん暴走してる?
後輩「せんぱぁい……好きです……」
男「ちょっ、まっ、待って待って!」
こんな時まで強固に発現するヘタレ遺伝子が憎い
いや、ヘタレでなくてもキツいか
男「離してくんない?」
後輩「や、です……あったかい……」
男「ちょっと後輩ちゃん、彼女を助けないと!」
後輩「ボクっ娘先輩の妹さんなんか関係ないです……」
男「いや、あれ変装してるだけ、彼女はお姉さんの方!」
後輩「えっ?」
女「えっ……」
ゆっくりと女は彼女に近付く
ヤバい、しまった!
彼女の顔を覗き込み、夢に見そうなくらいイヤらしい笑顔
顔をひきつらせて歯をむき出しにして……
ヤバい
次の瞬間、女は膝をついた
女「ごふっ……!」
一瞬彼女に襲いかかろうとしたのかと思ったが
女の脇腹から、消しゴムがこぼれ落ちる
少女妹「……姉の敵を発見、殲滅する!」
ま、間に合った~!
委員長「後輩ちゃん!」
後輩「い、委員長先輩……」
委員長「ほら、こっちおいで?」
委員長が子犬を呼び寄せるように後輩ちゃんに呼びかける
女のくせになんでこいつは女たらしなんだろう……
後輩「ごめんなさい、委員長先輩……もうちょっとだけ……もうちょっとしたらもう先輩に近付きませんから……」
男「……後輩ちゃん……」
俺は後輩ちゃんを抱きしめた
後輩ちゃんは嫌われる覚悟をしてる
だから後輩ちゃんの気持ちを抱きしめたかった
男「ごめんね……後輩ちゃん」
後輩「先輩……ありがとう……ありがとうございます……」
後輩ちゃんはそれだけ言うと手を離し、その場に座り込む
俺は彼女を助け起こす
男「大丈夫?」
少女「ん……ちょっと力が入らない……けど立てる」
俺の肩に掴まって彼女は体を起こした
女は腰を抑えてうずくまっている
委員長は後輩ちゃんを起こして抱きしめた
妹ちゃんは臨戦態勢のまま様子をみている
俺は……
俺はアイツと戦わなければならない
俺と彼女が抱き合っているのを見て女は恨めしそうな目を向けているが……
……
こわい、怖いよ!
だが
後輩ちゃんだって俺から離れる覚悟を決めたんだ
負けていられない
男「俺と……勝負しろ!」
女「勝負ゥ……?」
女「なんで勝負なんかしないといけないのかしら?」
女「アンタを殺したらいいだけでしょォ……?」
だから怖いって!
黒髪を振り乱し目をむいて歯を剥き出しにしたその容姿は、某ホラー映画を彷彿とさせた
男「お前なあ、彼女の変装も見抜けないのに彼女を愛してるって言えるの?」
女「!」
よし、反応した
男「だから勝負だ」
男「彼女と妹さんと彼女のお母さんにみんな同じ格好をしてもらって、どれが彼女か当てる」
男「詳しいルールは勝負の時に教える……先に三回当てた方が勝ち、それでどうだ?」
女「負けたらどうするの……?」
男「負けた方は彼女には二度と近付かない」
少女「!」
少女「そんなの……嫌だ……」
男「……絶対勝つから」
女「……あなた達が一緒に居た時間なんてほんの数日でしょ?」
男「だからルールは俺が決める」
女「……くくっ……良いわ……あなた素敵だもの……」
女「その勝負、受けてあげる」
……勝つ
ここまで来たらもう勝つしかない
勝負は日曜に決まった
それまでにどうにかして『あの記憶』を思い出しておきたい
勝たなきゃ、大切な初恋が終わってしまうんだ
どうにか思い出す、小さい時の俺の記憶を……
土曜日、俺は彼女を呼び出して二人の幼少の頃の思い出を辿ってみる事にした
少女「……最初で最後のデートになるかもね……」
男「ごめんね、勝手に色々決めちゃって」
少女「……嬉しいよ、僕のために戦ってくれるんだから」
男「君のために戦いたかったんだ」
男「父さんみたいにヘタレのままじゃ恥ずかしいしね」
少女「君のお父さんのあれはもう芸風って言っていいんじゃないか?」
男「確かに父さんは楽しい人だから」
少女「うん……ふふっ、思い出した」
男「君がうちに来た時も、母さんにも妹にも弄られっぱなしだったなあ」
俺達は親に聞いた子供の頃の遊び場を回ってみた
子供の時に先輩と後輩が喧嘩してたこととか彼女が屋根に登って降りられなくなった事とかを思い出す
少女「……恥ずかしい」
男「だから思い出さなくていい、か」
思い出すことはあるのだが、あの約束は思い出せない
そう言えば
男「俺達ってどこでお別れしたんだっけ?」
少女「あ、それなら空港じゃないか?」
男「そうか……今から行けるかな?」
彼女は少し考えた後、笑顔になった
少女「正直君があの約束を思い出しちゃうのは、まだ少し怖いんだ」
少女「けど」
少女「行ってみよう!」
俺達は電車に乗り込んで走り出した
あの約束の場所に
男「おやつとジュース買って電車に乗るとか遠足みたいだな」
少女「うん、なんだかワクワクしてきた」
男「初めてのデートかあ……」
少女「そうだね」
彼女の声がハイトーンになる
二人で色々話をする
小学校の時の話や中学校の時の話
色々思い出しながら話をしたら、あの約束も思い出せるかも知れない
少女「……小学校の時はあんまり好かれてなかったんだよね……暴れ者だったから」
少女「もちろん力はセーブしてたけど、スカートめくりしてた男の子をデコピンで泣かしたり」
男「あはは、小学生だな」
男「俺は小学生の時はとにかく委員長に何か一つは勝ちたくてチャレンジしまくってたな」
少女「彼女は手強そうだなあ」
男「事実、手強かったよ……勉強もスポーツも」
男「結局勝てたのは中学の時に千五百メートル競争した時」
男「男女で授業は別だったから果たし状で放課後に呼び出して」
少女「果たし状!」
大笑いされた
畜生、可愛いから許す
男「途中まで競ってたんだけどちょっとずつ差をつけて、でももうバテバテで」
男「勝負は勝ったけどしばらく起きられなかったなあ……」
少女「僕も君達と同じならそんな勝負もできたのにな……」
彼女が寂しそうな顔をする
彼女のお母さんが言ったことを思い出した
俺はいつか彼女を悲しませるんだろう
でも、幸せな時間だって提供できるはずだ
まずは約束を思い出す
そして勝負に勝たなくちゃ
男「体は違っても心は同じだし」
男「勝負できるよ、例えばトランプとか?」
少女「トランプ」
また笑う
彼女は笑顔が一番だ
そう思った
空港に着く
涼やかな青空に白い機体が舞う
沢山の人がターミナルの中を往来している
待ち合わせしている人、ただ急いでいる人、見送る人
何か刺激されるものがあった
男「レストラン行こうか?」
少女「うん!」
二人で空港ターミナル一階のレストランに入った
少女「なにたのむ~?」
実に楽しそうな彼女
初めてのデートだし、楽しまなきゃね
男「う~ん、和風パスタのセット」
少女「僕はね~、海鮮ランチセットで!」
男「海鮮好き?」
少女「親譲りの海鮮好きだよ!」
今日はテンション高いなあ
改めて何度も可愛いなあって思う
これで最後にはしたくないな
料理が並ぶ
彼女の嬉しそうな顔
好きだ
ちゃんと言わないとな……自分の口で
男「じゃあ、食べようか」
少女「いただきます!」
彼女が海鮮丼に乗ったお刺身を口に運ぶ
小さな口で
少女「ん~、美味しい!」
彼女と二人で食事するの、幸せだなあ……
少女「たべる?」
トーンの高い声で言うと赤身を一枚、自分の箸で差し出してきた
……いきなり間接キスですか!?
男「い、いただきます……」
少女「……はいっ」
男「……うん、美味しい」
はは、味なんか分かんないよ!
たぶん二人真っ赤になって、その後俺もパスタをフォークに巻きつけて、彼女に……
彼女の唇がフォークを咥える
ああ、彼女の顔は真っ赤に、俺の頭は真っ白に
これ友人が見てたら爆発しろって言われそうだな
少女「あじ、わかんない……」
男「あ、やっぱり?」
その後もじもじしながら、味の分からない料理を食べる二人
料理を食べ終わりターミナルを出て、空港に降りてくる飛行機を眺めた
男「……」
少女「風が……凄い爽やかだな……」
男「うん……」
少女「……今日は楽しかった」
男「俺もだよ」
少女「……」
俺は風にたなびき空に溶けていくような彼女の銀の髪を見ていた
男「……好きだ」
少女「えっ……」
少女「あ、う……」
真っ赤になって俯く
少女「私も……好きだよ」
男「君が好きだ」
少女「あなたが好き」
男「うん」
少女「……」
少女「これでさよならになんてしたくないよ……」
男「うん、絶対に……」
少女「さよならはもう嫌だ」
男「……」
男「今、なんて?」
少女「?」
少女「さよならは、嫌だ」
……………………
「さよならは嫌!」
「俺も……嫌だよ」
「僕、行きたくない……」
「行きたくないよぉっ!」
「……俺……、きっと…………」
……………………
男「…………思い出した……!」
少女「えっ、本当に!」
男「……約束を思い出したら怖いって……そうか……」
男「でも、うん……これで勝てる!」
ついに俺は二人の約束を思い出した
そして、勝負の日曜日が来る――――
日曜日
公園には三人の少女と審判として委員長、先輩、後輩、妹が集まっている
俺とアイツの勝負は、いつもの公園で始まる
委員長「ルールを確認しておこう」
委員長「まず最初に……勝負が着いたら我々全員で負けた方が彼女に出会うことを阻止する」
委員長「勝負は三回、それで決着が着かなかったら決着が着くまでやる……ここまではいいな?」
三回で決着が着かないケースを想定してなかった……不味いかな?
先輩「正解の彼女の背中には正解って書いた紙を貼ってあるので不正はできない」
先輩「彼女のリアクションは喋らなければ後は自由だが、彼女達が自分から不正に答えを出したり嘘を教えたらこちらの判断で反則一点を取る」
委員長「もちろんこちらも依怙贔屓はしないから安心しろ」
先輩「話しかけたり行動したりは自由だが接触は禁止、当然後ろに回るのも禁止、同じ話や行動を繰り返すのも禁止だ」
先輩「指定は指差しと言葉ではっきりと、変更は一回だけだ」
委員長「ルールは飲み込めた?」
女「分かったわ」
男「よし、始めよう」
まず二人でジャンケンをする
……負けてしまった
勝負には関係ないが、ちょっと悔しい
女「私の先攻で」
委員長「了解」
先輩「じゃあまずは二人に目隠しをして後ろを向いてもらう……手は組んで動かさないように」
委員長「シャッフルタイム~」
後輩「はい、お母さんこっちに……お肌綺麗ですね」
妹「本当に見分けつかないよ、凄い」
少女母「は、恥ずかしいなこれ」
少女「お母さんが若くて嬉しいけどさ……」
少女妹「お母さんはロボットかも知れない」
少女母「大丈夫、ちゃんといきものだ!」
委員長「ボクっ娘妹ちゃんこっち……と見せかけてこっち」
先輩「見てるのに分からなくなってきた」
委員長「あ、シャッフルは先攻後攻一回ずつやるからな」
妹「はい、良いですよー」
俺と女は振り返り目隠しを外してもらう
ここまでやれば不正は不可能か
アイツの第一手はなんだろう?
女「二人の思い出の写真ですわ」
女は写真を何枚か取り出してバラまく
バラまいた瞬間、写真の内容が分からないうちに真ん中の一人が明らかに動揺した
写真の彼女は、は、はだ、
妹「見ちゃ駄目!」
男「はいっ!」
後輩「お兄ちゃんも!」
先輩「はい!」
盗撮とか、ストーカー最低だな
最低だな
女「真ん中ですわね」
三人が背中を向ける
真ん中の彼女の背中に『正解』の文字
再びシャッフルタイムだ
俺は言葉で攻める事にした
男「来週水族館に行こうかな?」
三人はしばらくきょとんとしていたが、少しして一人、右の彼女が赤くなる
デートの約束は二人だけの秘密だ
男「右で」
正解だった
次の相手の手はなんだろう?
女「では私も言葉責めで……」
女「この勝負に勝ったらあなたのベッドに忍び入りますわ!」
は?
一瞬そんなので分かるのか、と疑問符が浮かぶ
しかし答えはすぐに分かった
お母さんと妹ちゃんは不正に侵入する女に怒りを抱いていた
左の一人は青い顔をして、他の二人は怒り顔
女「左で」
正解
お母さんには動揺しないで欲しかった……
次は俺の番だ
男「メールと空港で言った言葉をみんなの前で言ってみるよ?」
言えないけど
みんなの前で『好きだ』なんて言えないけど
案の定、左の彼女は真っ赤に
今回は移動しなかったのか
……俺も正解
最後の相手の手はなんだろうか?
いや、終わらないかも知れないのか
女「切り札を出しますわ」
女はカバンから古びた靴を取り出した
えっ
まさかっ
それはっ!
やるのかっ?!
女は……取り出した靴の爪先から側面を通りかかとまで、
舐めた
妹「うわあ……」
後輩「うへえ……」
委員長「マジか……」
先輩「おいおい……」
審判全員引いた
俺も引いた
だが三人の彼女達も全員同じように引いた
女「は?」
女「なんで皆さん同じリアクションなんですの?!」
そりゃそうだろ
女「……くっ」
初めて勘で答えなければならない状態になった
盛大な自爆だ
女「くっ……愛があれば分かるはず、愛があれば分かるはず、愛があれば分かるはず、愛があれば…………」
ぶつぶつと呟きながら震える手で右、左、真ん中と指を動かす
確率は三分の一……
頼む!
外れてくれ!
女「みぎぃ!」
委員長「右でいいか?」
女「ひ、ひだり」
先輩「変更は一回までだぞ?」
女「いい、いいわ、左よ!」
三人は後ろを向く
答えは真ん中だった
男「よしっ!」
妹「あとはお兄ちゃんが当てるだけだよ!」
男「分かってる、絶対に当てる!」
最後のシャッフルタイムが終わる
俺は目を閉じ、十二年前の空港でのやりとりを思い出していた
……………………
「さよならは嫌!」
「俺も……嫌だよ」
「僕、行きたくない……」
「行きたくないよぉっ!」
「……俺……、きっと…………」
「俺、きっと君よりも強くなって君を……」
……………………
男「俺……」
男「俺は強くなれたかは分からない」
男「結局約束を果たせなかったのかも知れない」
男「だから君も約束を思い出して欲しくなかったんだろう」
男「ガッカリさせたかも知れない……、でも言わせて欲しい」
『君を迎えに行く』
男「君を……迎えに来たよ!」
俺は彼女に手を差し伸べた
彼女は
瞳からポロポロと涙をこぼしていた
委員長「ううっ……」
妹「ぐすっ……」
先輩「……いいな」
後輩「…………」
後輩「あ~あ、勝てるわけ無かったな」
後輩ちゃんは涙声で呟いた
男「君が俺の彼女だ!」
勝負は着いた
女はその場で崩れ落ちた
彼女は、俺の、俺だけの彼女だ
女「たったの一週間で……なんで……」
男「一週間なんかじゃない……十二年越しの約束だ」
女「くっ!」
彼女がこちらに駆けてきた
俺は彼女を抱きしめる
二人で涙を流して喜んだ
女「……私の……負けみたいね…………」
委員長「これで決着、一件落着か」
先輩「レポートが捗るぞ」
委員長「レポート?」
先輩「部活動の」
委員長「ああ、伝説は本当だったって事か」
少女「伝説なんかじゃない」
少女「だって約束してたから」
少女「彼は転校生と恋したんじゃない」
少女「だよね?」
男「うん」
男「君は十二年前からずっと、俺の彼女だ!」
委員長「見せつけてくれるね」
先輩「伝説には理由があった、しかし今回はそうじゃなかった、で良いか」
委員長「いいんじゃね?」
後輩「さて、帰りますか!」
妹「帰ろう帰ろう!」
後輩「あ、妹ちゃんはお兄ちゃんとの話聞かせてよね~!」
妹「いや、ほんとまだ何にもないから!」
男「行こうか」
少女「うん」
少女母「……さて」
女「……間抜けすぎるわね…………どうにでもして……」
少女妹「お前はもう姉に近付くことは許さない」
少女妹「次に近付けば容赦なく制裁させてもらう」
少女母「まあたまに遊びに来るくらいはいいぞ、友達としてならな?」
女「……本当に?」
少女母「泣いていいぞ?」
女「泣いたりなんて……ぐすっ」
女「うあ…………」
少女妹「お母さんは甘い」
少女母「そうか?」
少女母「お母さんな、恋する乙女には弱いんだよ」
少女妹「なぜ?」
少女母「私も大恋愛したからな」
少女母「だからお母さんはいつも恋人達の味方なんだ」
少女妹「そうだったのか」
少女母「ああ、なんせ初代の『伝説の彼女』だしな」
……………………
また一週間が過ぎた
約束の日曜日
俺達は二人だけで水族館に来ていた
二人でたゆたうように泳ぐ綺麗な魚たちを見て回る
彼女のお母さんが海洋生物学者なだけあって、彼女も魚が大好きなようだ
タツノオトシゴはオスが稚魚を産むとかチョウチンアンコウの仲間のオスはすごく小さくてメスに寄生してるとか楽しそうに語る
大きな水槽でイワシやアジの回遊を眺めた
少女「やっぱり水族館好きだな~」
男「綺麗だね」
少女「約束、覚えていてくれてありがとう」
男「うん」
男「ん、どっちの?」
少女「デートの約束も、昔の約束も」
男「忘れてたけどね……」
少女「それについては謝ってもらおうかな?」
男「思い出さなくていいって……、……ごめん」
少女「許す!」
男「ありがとう!」
少女「あははっ」
少女「手を握ってもいい?」
俺は自分から手を伸ばした
そして……
男「……め」
少女「え?」
男「め、めをを……つ、」
少女「ええっ……ええっ、そこどもる?」
男「ヘタレでごめん!」
男「目を瞑って!」
少女「ひゃいっ……噛んだ」
男「……」
少女「……」
ちょっと恥ずかしかったけど、彼女と
彼女とキスをした
少女「……ぷっ」
男「あ、笑わないでよ」
少女「あは、だって、あははっ!」
男「あはははっ!」
水族館は静かにまわりましょう、なんて
――終わり――
誤字脱字一人称のブレ多発ですみません
上手くまとまったか心配です
あと、少しおまけがあります
――おまけ――
妹ちゃんの恋愛
少女妹「そういうわけで妹の姉は毎日ぶらぶらラブラブしている」
少年「凄い大恋愛だねえ!」
少女妹「そうだろうか、妹にはよく分からない」
少年「妹ちゃんも恋愛したいの?」
少女妹「したいと思う器官が存在するが、まだ早いと言う回路も存在する」
少年「いつも妹ちゃんは難解だね!」
少女妹「あ、あれは姉の彼氏の妹の妹先輩」
少年「あ、誰か男の人と歩いてるね」
少女妹「あれは姉の先輩」
少年「なんかラブラブっぽいね……いいなあ」
少女妹「邪魔をしては悪いから気付かない振りをしよう、私は恋の見張り役の家系らしいからな」
少年「そうなの?」
少女妹「いや、よく分からない、適当に言った」
少年「難解だあ」
少女妹「そう言えば母から預かっているものがあった」
少年「え、僕に?」
少女妹「うちの母はボクっ子が大好きなようだ……はい」
少年「これ、恐竜が踏んでも壊れない筆箱だ」
少年「もう中学卒業だから普通の筆入れで良かったんだけど……」
少女妹「そうか……」
少年「あ、あ、落ち込まないで、家で使うから!」
少女妹「良かった」
少年「えと、もし良かったらさ」
少女妹「何でも言ってみるといい、場合によっては聞いたり聞かなかったりする」
少年「聞いたり聞かなかったりってどっちもだよね」
少女妹「質問が分からないのでどっちかだと思う」
少年「難解だあ……」
少年「あのさ、高校も一緒に、その、君のお姉さんの学校行けたらいいね!」
少女妹「うん、少年と一緒なら嬉しい」
少年「……たまに素になるんだもんなあ……」
少女妹「何か?」
少年「ううん、何でもない!」
少年「……可愛いと言えるシステムを搭載したい……」
少女妹「少年は可愛いと思う」
少年「そ、そうじゃなくて……、あ、姉さん!」
委員長「おう、弟……、と、彼女さんの妹さんじゃないか」
少女妹「お久し」
委員長「一週間しか経ってないが」
少年「二人は知り合いなの!?」
少女妹「僕も驚き」
委員長「ふうん……お前たち付き合ってるのか?」
少女妹「まだ」
少年「まだなんだ……けっこう一緒に遊んでるんだけど」
委員長「まあ難解だしな、この娘」
少年「とても難解だよ」
少女妹「でもいつか恋愛システムを稼働する」
委員長「はあ、私も恋愛したいもんだ」
少年「いつも遊んでる人は?」
委員長「取られた」
少年「そっか……好きそうだったのに」
委員長「その事を誰かに言ったら絞めるぞ」
少年「ひいっ」
少女妹「妹にはよく分からない」
委員長「そうか、まあ気にするな」
少女妹「妹もいつか恋愛システムを搭載すれば微妙な乙女心も理解できるだろうか?」
少年「その時は、その」
少年「僕と恋愛システムを連結して欲しい、と言うか」
委員長「鼻血が」
少年「うわあっ」
委員長「弟よ、その発言はエロすぎるぞ!」
少年「うわあ……」
少女妹「連結したいな、僕も」
委員長「うおっ……ティッシュはどこでござる!?」
少年「拙者のティッシュ使うでござる!」
少女妹「少年の侍言葉システムが発動した……少年は興味深い人」
少年「えっ、あはっ」
委員長「私好みのショタに育てたからな、大事にしてくれ」
少女妹「了解」
委員長「まあ、妹ちゃんの恋愛はまだまだこれからって事だな」
少年「姉さんもね!」
委員長「やぶ蛇だったか……まあいつかいい男見つけるさ!」
後輩「私も頑張ります!」
委員長「うわあっ」
委員長「心臓に悪いから……」
後輩「まあそれまでは私とお付き合い下さいね!」
委員長「はいはい、さあ行こうか」
少年「帰ろう、送るよ」
少女妹「ありがとう」
少女妹「物語は続くよ、どこまでも」
妹ちゃんの恋愛
――終わり――
今回かなり速く投下したので途中飛ばしてないか心配です
とりあえず女をもう少し狡賢くして何度も修羅場を作る展開も考えたんですが、なんかグダグダしそうだったので、ちょっとお馬鹿になりました、すみません
最後まで読んでくれた読者さん、ありがとうございました
次回作はいくつか考えてますがなろうでもお話しを作り始めたので、遅くなるかも知れません
ではまた
ふひひ、乙でござるよ
やっぱり良かった
乙
なろうの方が忙しいのでこちらの新作はしばらく投下できません
実はもう書き始めているのですがなろうの方のお話を書くのが楽しいのでこちらはなかなか筆が進まず投下できません
なのでこのスレッドをHTML化依頼しようと思います
また帰ってきたいと思っています
今まで支えてくださった皆さんに、愛を。
私のホームページはこちらです。
http://blog.m.livedoor.jp/ikayaki_minato/?guid=ON
乙
前作も見てきた乙
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