後輩「開けてくださいよー入れてくださいよー」
男「フタを開けてーカヤクを入れてー」
男「お湯を注ぐッ!」
後輩「いるのはわかってるんですよー。可愛い後輩を放置するなー!」
男「しかも今日は自前のマヨネーズとかつお節! 用意しました」
後輩「せんぱーい……もしかして本当にいないんですかー?」
男「後は3分待つだけ!」
後輩「もー、ぷりーずおーぷんざどあー! ひらけごまー!」
男「さーてと……」
後輩「先輩! せんぱーい……男せんぱーい!!」
男「んだよさっきからうるせえな。人ん家の前でぎゃーぎゃー喚きやがって」
後輩「あ、先輩こんばんは」
男「こんばんはじゃねーよ。近所迷惑だろうが」
後輩「先輩がドア開けてくれないからですよー。なにやってたんですか?」
男「メシ作ってた。中断すんの嫌だったからとりあえずお前無視したわ」
後輩「そんなはっきり言いますか? 無視したって言う必要ありませんよね……」
男「俺の精神衛生上の問題だ。それにお前、気ぃ遣ってやるほどメンタル弱くねえだろ」
後輩「ひどーい! わたしだってか弱い女の子ですよ。殴ればへこむぐらいの心は持ってます!」
男「殴ってへこむ程度で済むなら充分だよ」
後輩「お願いですからもう少し優しくしてください」
男「えー、お前のそのタフネス、結構気に入ってんだけどな」
後輩「えっ、そんな先輩、気に入ってるって……いきなりなに、言ってるんですか……」
男「おっ、そろそろ3分経ったかな?」
後輩「先輩はいっつもそうです。なんの前触れもなく変なこと言って……」
後輩「どれだけわたしの心を乱せば――って先輩いないッ!」
男「よーしお湯を切るぞー」
後輩「せぇんぱあぁいぃぃぃ!!」
男「なんだよ……つか、勝手に家ん中入ってくんなよ」
後輩「いや放置はないッスよッ! さすがのわたしも心が折れちゃいますよッ!!」
男「だって、もう3分経ったかなって……麺伸びるの嫌だし」
後輩「ご飯ってカップめんですか……?」
男「焼きそばな。ラーメンは飽きた」
後輩「身体に悪いですよ。そんなのばっか食べてたら」
男「大丈夫。たまに牛丼食いに行ってっから」
後輩「そういう問題じゃ……あれ? 先輩、料理しませんでしたっけ?」
男「ほとんどしねーぞ、自炊なんて」
後輩「あや? 前に先輩、わたしにチャーハン作ってくれましたよね」
男「あー……あったな、そんなこと」
後輩「はい。先輩のチャーハンすっごくおいしかったから、てっきり料理得意なんだと思ってたんですけど」
男「……ふーん」
後輩「先輩、もしかして照れてます?」
男「て、て照れてなんかねーよ! だぃ……なんで俺が照れなきゃいけねーんだよ。訳わかんねーし」
後輩「あはっ。先輩、また今度作ってくださいねチャーハン」
男「作んねーよ。誰がお前のためになんか作るか」
後輩「えー」
男「……つかお前、メシの話しにきたの?」
後輩「あっ、そうだ。忘れてた! 先輩、大変なんです!」
男「ソースをかけて混ぜる。そしてマヨネーズをかけ……あ、かつお節も」
後輩「聞いてくださいよ先輩!」
男「あ? 聞いてる、うん聞いてるよー」
後輩「少しはわたしに関心持ってくださいよー」
男「腕にしがみつくな。手がぶれて、かつお節がうまくかからん」
後輩「むぅ……えいッ!」
男「あっ! コラ後輩、焼きそば返せ!」
後輩「ダメです。ちゃんとわたしの話聞いてくれるまで返しません!」
男「なんでだよ……お前、ボクになんの恨みがあってこんなことするんだよぉ」
男「返せよぅ、ボクの焼きそば返せよぅ」
後輩「先輩、キャラ合ってないんで、やめてもらえませんか? いやホントマジで……気持ち悪い」
男「そこまでドン引きするかよ……あ、焼きそば冷めるからさっさと話せ」
後輩「はーい」
後輩「先輩、チームdqnが今夜動きます」
男「なにッ!? 俺たちの学校を崩壊させようと企むチームdqnが……」
後輩「そうです。今ある学校の秩序を崩壊させ、新たな体制を生み出そうと企むあのチームdqnが……」
男「しばらく目立った活動をしていなかったチームdqnが、動き出すというのか……!」
後輩「先輩……目立った活動をしていなかったって、昨日しっかりとシメてましたよねdqnの人たち」
男「昨日のはまあ、戯れてただけだし」
後輩「昨日のアレ見せられた側としては、戯れの一言で済ます先輩が怖いです」
男「んで、あいつら今日なにすんの?」
後輩「生徒会が入手した情報によると、夜の校舎窓ガラス破壊作戦をやるみたいですね」
男「……なにそれ? 校舎の窓ガラス割ってくの?」
後輩「まあ、そのまんまの作戦ですね。別名もあるみたいですけど、聞きます?」
男「いらね。どうせなんか支配からの卒業だとか、早く自由になりたいとかそんなノリだろ」
後輩「さすが先輩いい線いってますよ。同じ穴のムジナってやつですね」
男「いや、一緒にはされたくないかなー」
後輩「まあ、そこで先輩に――」
男「断る」
後輩「先輩早いですよーもぅ……」
男「ッ……」
後輩「あれぇ? 先輩なに黙ってるんですか? もしかしてぇ、なにか想像しちゃったんですかぁ?」
男「うっせ。そのニヤけたツラ今すぐやめろ」
後輩「えっ? わたし、ニヤけてます?」
男「無意識かよ……なんかすっげー罪悪感」
後輩「ニヤリ」
後輩「そんなことより先輩、dqnの人たちを止めてください!」
男「嫌だよ。俺これから晩飯食うの。学校終わってまでバカ共に付き合うほど暇じゃないの」
後輩「その晩飯は今、わたしの手の内ですけど?」
男「カップ焼きそば1つで俺を自由にできると思ったら大間違いだぞ」
後輩「くっ、やはりdqnたちと違って一筋縄ではいきませんね男先輩」
男「そうやってさり気なくバカにするのやめてほしいんだけど」
後輩「じゃあ奥の手を使わせてもらいます。というよりもう使ってるんですけど」
男「あん?」
後輩「このこと友先輩にはもう話してます」
男「……えっ? 友?」
後輩「はい。男先輩の大親友の友先輩です」
男「言ったの? dqn共が集まってるって? あのキングオブバカに?」
後輩「はい。そしたら友先輩おもしろそーって言って、満面の笑顔で学校に向かいました」
男「……おい?」
後輩「はい?」
男「お前なに学校の被害拡大させようとしてんだよ!」
後輩「そんな、わたしは……信じてますから」
男「なにをだよッ! アイツdqn共ブチのめしたら1人で窓ガラス全部割っちまうぞ!」
後輩「はい。でもそうなる前に、男先輩がなんとかしてくれるって信じてますから」
男「ああそうかい。計算の内ってやつな! ったく今度はしっかり確信犯だよ」
後輩「あっ、さっきの先輩早いって言葉の意味、ちゃんと分かってましたよ。説明しましょうか?」
男「いらん!」
後輩「ちょっと、残念……」
男「なんも聞こえねえよ。で、そのカオスで俺にとっちゃクソ迷惑なお祭りは何時からやるんだ?」
後輩「はい、8時からですね」
男「8時って……なんか早くね?」
後輩「まあ高校生ですからね。あんまり遅くに出歩くとおまわりさんがうるさいですから」
男「窓ガラス割る時点で警察沙汰だけどな。って、後15分しかねーよ。焼きそば食えねえじゃねーか!」
後輩「あっ、焼きそばならわたしが食べておきますから、安心して行ってきていいですよ先輩」
男「……」
後輩「じょ、冗談ですよー。そんな怖い顔で睨まないでください」
男「もうさ、頭痛くなってきたよ俺」
後輩「頭痛薬ないんですか? あっ、優しさだったらいくらでもあげちゃいますよわたし!」
男「ねーよ! お前に優しさなんて……チクショウ」
後輩「わ、わかりましたよー。ご飯作って待ってますから、帰ったら一緒に食べましょ先輩!」
男「……うん、わかった。行ってくる」
後輩「はい。行ってらっしゃい」
後輩「あっ先輩!」
男「ん?」
後輩「ご飯、リクエストありますか?」
男「……オムライス」
後輩「承知しました!」
後輩「さて、先輩行っちゃったし……あ、焼きそば……」
後輩「クスッ、冷めちゃったけど先輩が作った焼きそば、おいしいな」
しえん
おしえん
dqn「クックック、ついにこの日がやってきたなぁ」
片腕「準備も滞りなく、メンバーの招集も済んでいます」
dqn「よーし。てーかぁ、あいつらちゃんと来てんだろーな?」
片腕「そりゃ来てますよ。dqnさんからの招集ですよ? 来ない訳ないじゃないですか」
dqn「そ、そっか? だったらいいんだけどよぉ」
片腕「なに弱気になってるんですか。dqnさんはチームdqnのヘッドなんですよ」
dqn「バッカ、オメー別に弱気になんかなってねーよ。ただちょっと気になっただけで……」
片腕「で、ですよねー。dqnさんですもんね。もしかしたら知らないヤツまで来てるかもしれませんよ?」
dqn「おいおい、そりゃ言い過ぎだろー」
片腕「いや、あり得ますって。メンバーに入りたくて突発で参加するヤツとか」
dqn「いやそれ、情報筒抜けになってんじゃねーか。ヤバいだろ逆によぉ」
片腕「あ、ホントだ。あははー」
dqn「ったく、お前は……まあ、そろそろ行くか」
片腕「はい」
学校
手下a「dqnさんまだかなー」
手下b「ヤベェ、俺血が騒いでしょうがねえよ」
手下c「あっdqnさんだッ、dqnさんが来たぞー!」
dqn「良かった。みんなちゃんと来てる」
片腕(あれ、この人ホントに不安だったの……?)
狂犬「チィース!」
dqn「おう……お前、狂犬だったか?」
狂犬「dqnさん俺の名前覚えててくれたんスかッ!?」
dqn「ああ、お前には期待してるからな」
狂犬「マジッスかッ!? 俺、頑張ります!」
dqn「確かこの前ケガしただろ、もう大丈夫なのか?」
狂犬「あ、はい! もう全然平気ッス! 今日は暴れてやりますよ!」
dqn「頼むぞ」
手下共「チィース!」
dqn「おう」
友「チィースwwww」
dqn「おう……おう?」
友「……」
dqn「……」
友「チィースwwww」
片腕「お、お前は友ッ!!」
友「呼び捨てにすんじゃねーよ」
片腕「すっすす済みません!」
dqn「え……? 友、さん?」
友「よっww 来ちゃったwwww」
dqn「来ちゃった……って、なんで……?」
友「いやなんかさwwww 今日面白いことやるって聞いてww 来ちゃったwwww」
dqn「えぇ……そんな……」
友「なんだよ、来ちゃマズかったのか? あ?」
dqn「いや、マズいってゆーかなんてゆーか……」
友「もういいからやれよ。みんな待ってんだろ、早く進めろよ」
dqn「あっ、はい」
dqn「よ、よーし行くぞお前ら! 目標は校長室の窓ガラスだ」
手下共「うーっす!」
友「うーすwwww」
dqn「オラァァァァ!!」
片腕「うりゃぁぁぁ!!」
狂犬「くそがぁぁぁ!!」
友「……」
dqn「くそッ、全然割れねえじゃねえか」
片腕「これ、強化ガラスですね。ビクともしない」
友「はぁ、お前らグダグダだな。なんだよ、窓ガラス割れないって」
dqn「いや、これはしょうがないでしょ? 強化ガラスはさすがに割れないって」
友「うるせえよ。口動かす暇あったら手ぇ動かせオラ」
dqn「いや、ちょっ、友さん蹴ら、蹴らないでくださいよッ」
友「カハッ、オラッどうした? 腰が入ってねーぞ」
dqn「痛ッ、痛いなあもう! やめてくださいよ!」
友「なんだよ、手伝ってやってんだろ。さっさとヒビの1つでも入れてみろよ」
dqn「だから無理だって……」
友「しょーがねーなー。おいお前、ちょっとこっち来いよ」
手下「え、ボクッスか?」
友「そうだよ、ほら早くしろ」
友「よしいくぞ」
手下「あのーなんでボクの頭……鷲掴みしてるんスか?」
友「なんでって、お前の頭突きで窓ガラス割るからだろ」
手下「……え?」
友「いくぞー」
手下「いや、ちょっ無理! いやあぁぁぁぁぁぁ!!」パリーン
友「ははっ、なんだよ割れるじゃねーか」
dqn(うわー……)
片腕(マジかよ……)
友「で次、誰がいく?」
手下共「う、うわぁぁぁぁ! 殺されるぅぅぅぅぅぅっ!!」
友「おいおい逃げるなよ。祭りはまだ始まったばかりだろう?」
友「明日校長に血のオーシャンビューを見せてやろうぜー」
男「……そっちか」
男「見つけたあぁぁぁ!!」
友「ん? ああ、来たか」
男「友ぉぉぉ! テメーそこ動くんじゃねぇぇぇぇ!!」
友「ひょいっと」
手下「ぺぷしっ!」
男「あ……」
dqn「……」
片腕「……」
友「お前ひっでーヤツだなー。来て早々ドロップキックはないわー」
男「いや、ちがっ! 俺はお前に……お前が避けるからわりーんだよ!」
友「おまけに人のせいにしやがるし、なあ?」
dqn「確かに最近の男さんはちょっと……過剰というか」
片腕「昨日だって3人病院送りですしねぇ」
男「お前らケンカ吹っかけてきて、なんて言いぐさだよ……」
友「ほら、お前が蹴り入れたからコイツ血だるまじゃねーか」
男「えっ? それ俺なの?」
友「お前だろ」
男「俺思いっきり胸板に当てたけど?」
友「なんか秘孔でも突いたんじゃね? んで頭から血がピューってw」
男「ピュー?」
友「ピューって」
男、友「wwwwwww」
男「バカ言ってんじゃねーよ」
友「ウケてたじゃねーか」
男「……ピュー」
男、友「wwwwwww」
友「くっそ、お前卑怯だろそれ」
男「言い方だな。つかなんだよ秘孔って。一子相伝の暗殺拳かよ」
友「え? いつ伝承者になったんだ?」
男「ならねーよ! いや、なれねーよ!」
狂犬「やっぱ修行とか大変だったんスか?」
男「さ、さあ? 俺習い事とかやったことねーんだけど」
友「あれ? お前兄貴とかいたっけ?」
男「いねーよ! なんで兄弟の話になってんだよ!」
狂犬「じゃあ、頭を爆発させなかったのは男さんの優しさですか?」
男「俺、どんだけあぶねーヤツだよ!」
狂犬「奥義って……」
男「知らねー!!」
男、友、狂犬「wwwwww」
友「あー笑った笑った」
男「もういいよ。疲れたよ俺」
狂犬「と、疲れさせたところで、隙ありぃ!」
男「甘い」
狂犬「え?」
男「おらあぁぁぁぁ!」
狂犬「ぎゃああああ!!」パリーン
男「……」
友「なんだ、お前もガラス割りに来たのか」
男「……違うよ。ボクじゃないよ。割ったのコイツ」
友「あーあー、コイツも血だるまだよ。やっぱ秘孔を……」
男「それはもういい」
片腕「狂犬がやられました」
dqn「アイツまたケガしちゃったな」
片腕「dqnさん、やっぱりこの2人がいる以上自分らがなにやっても駄目なんじゃ……」
dqn「なにも言うな」
友「あー、腹減ったな。飽きたし帰るか」
男「……そうだな! あ、お前らこれ以上バカなことすんじゃねーぞ。めんどくせーの俺なんだからな!」
dqn共「……」
男「わかったな!?」
dqn共「……はい」
dqn「片腕」
片腕「はい」
dqn「俺らも帰るか」
片腕「そっすね」
友「男、牛丼食ってこうぜ」
男「そうだな……あ、今日はパス」
友「へぇ」
男「家にメシあるんだよ。あんまり待たせてもなんだしな」
友「後輩か?」
男「ああ。なんだったらお前も来るか?」
友「いや、やめとく」
男「あ、そ」
男「しっかしあいつもなにが楽しくて俺らに付きまとってんだろうな?」
友「バカ言え。後輩が付きまとってんのは主にお前だろ」
男「お前が避けてるからな。あいつたまにぼやいてるぞ。お前が捕まらねーって」
友「どうもな、俺ああいうヤツに弱いんだよ」
男「俺もだ。なんかペース乱されてるような気がするんだよなー」
友「……お前が言ってるのとはちげーよ」
男「ん?」
友「さて、んじゃ俺行くわ」
男「あっ、おい……
男(なにが言いたかったんだ?)
男「……まあいいか」
男「あー、やっと家に着く。なんで1日に2度も学校行かなきゃなんねーんだよ」
後輩「あっ、せんぱーい!」
男「いい加減自転車ぐらい買うか? でもなー友はバイク乗ってるしなー」
後輩「先輩は免許すら持ってないですしね」
男「ほんとだよ。んでママチャリなんて買った日にゃ、バカにされるの目に見えてるしなー」
後輩「それは考えすぎじゃないですか?」
男「そうか? うーん、どうしたらいいと思う?」
後輩「わたしは先輩と並んで歩いていたいです。あっでも、自転車の後ろに乗せてもらうのもいいですねー」
男「2ケツは捕まるからなぁ」
後輩「じゃ、いらないです。そんなものなんの役にも立ちませんよ」
男「全部お前の都合じゃねーか」
後輩「先輩、それよりツッコむとこあるんじゃないですか?」
男「……はっ、後輩いつの間にッ!」
後輩「うわー、すっごいわざとらしいでーす」
男「不器用ですから」
後輩「お帰りなさい先輩。怪我は……なさそうですね」
男「まーな。お前、わざわざ外で待ってたのか?」
後輩「はい。そろそろ帰ってくるかなーと思って……」
男「お前さ、一応は女の子なんだからこんな夜遅くに無駄に外出るなよ」
後輩「先輩……心配してくれてるんですか?」
男「いや全然。これっぽっちも」
後輩「あらら。まあ、期待なんてしてませんでしたけどねー」
男「なんだそれ」
後輩「ごはんを用意して待っていた健気な後輩に、優しい言葉の1つもないですもんねー」
男「なに言ってんだよ。お前が持ってきた厄介事片付けてきたんじゃねーか」
後輩「むー、そういうこと言いますか?」
男「つーかさっさと家入るぞ。なにが悲しくて家の前でだべってなきゃいけねーんだよ」
後輩「それもそうですね。行きましょう先輩」
男「……あっ、忘れてた。後輩」
後輩「はい?」
男「ただいま」
後輩「……」
男「どした? なに固まってんだよ」
後輩「先輩、卑怯ですよ……」
男「え、なに?」
後輩「そんな真正面から言われたら……どうしたらいいかわからないじゃないですか!」
男「いや、ふつーにただいまって言っただけなんだけど」
後輩「そうですよッ! ただの何気ない一言なのに、なんで微笑んだんですかッ!」
男「は、はぁ? 誰が微笑んだよッ!?」
後輩「先輩以外にいないじゃないですか! 言っておきますけどわたし霊感ゼロですからね!」
男「俺だって幽霊なんて見たことねえよ!」
後輩「じゃあ消去法で先輩じゃないですかー!」
男「だーからなんで俺が、お前に微笑まなきゃいけないんだよ!?」
後輩「そんなのこっちが聞きたいですよ! なんなんですかあの険の取れた表情は!?」
男「知らねえ身に覚えがねえ。妄想垂れ流すのやめろよ恥ずかしい!」
後輩「もっ、妄想って、わたしが先輩の顔見間違えるわけないじゃないですかッ!」
男「えっ、なにその自信」
後輩「言っておきますけどねぇ、あんな表情されたら免疫のない女子だったらコロッといっちゃいますよ!」
男「いくかよ。 俺が学校で腫れもの扱いされてるの知ってるだろ?」
後輩「そのギャップにやられるって言ってるんです!」
男「マジでッ!?」
後輩「なんでテンション上がってんですかー!」
男「そりゃ上がるですよ!」
後輩「はぁ、なに期待してるんですか……?」
男「へ……?」
後輩「嘘に……決まってるじゃ、ないですか。 だ、だからあんな表情――」
隣人「痴話喧嘩なら他所でやれ」
男、後輩「あっ、すみません」
後輩「あはは……怒られちゃいましたね」
男「……とりあえず家入るか」
後輩「そうですね」
支援
後輩「じゃあすぐごはんにしますね」
男「ああ、なんか手伝うか?」
後輩「いえいえ、すぐできますから先輩はゆっくりしていてください」
男「じゃあ頼む」
後輩「はーい」
男「へえ……」
男(意外と手際がいいんだな)
男(……そういや、こうやって人が作ったメシ食うの久しぶりだな)
後輩「なに考えてるんです?」
男「うわっ!」
後輩「やっぱり女の子が台所に立っていると、色々想像しちゃうもんですか?」
男「……一生の不覚」
後輩「先輩?」
男「いや、今思いっきり無防備だったから不意打ち食らった気分だ」
後輩「それはつまり、わたしに心を許してるってことですね?」
男「あー、うん……どうだろ? 任せる」
後輩「……先輩少し疲れてますね。いつものキレがないです」
男「かもな」
後輩「じゃあここで出番です!」
男「おっ?」
後輩「後輩特製、愛情を入れたかもしれないが定かではないオムライスッ!」
男「なんだその、どーでもいいことをわざわざ曖昧に濁したネーミングは」
後輩「思いつきです」
男「どういうセンスしてんだよ」
後輩「まあ食べてみてくださいよ」
男「じゃあ、いただきます」
後輩「召し上がれ」
男「ごちそうさんでした」
後輩「はい、お粗末さんでした」
男「ふー、なんだかんだで結構遅くなっちまったな」
後輩「そうですねー。お腹もいっぱいになったし、もう動きたくないですねー」
男「そうだなー……帰れよ?」
後輩「え?」
男「え? じゃねーよ。なに泊まる気満々なんだよ」
後輩「だってここは、もう遅いから泊まっていけよって場面じゃないですか」
男「俺の性格からしてそんなこと言うと思うか?」
後輩「それは……確かにあり得ませんけど……」
男「それにお前……泊まるとなると、襲われても文句言えねーぞ」
後輩「先輩、襲うんですか?」
男「ああ、襲うね。んで飽きたらペッって捨ててやる。もうペッって」
後輩「ふふっ」
男「笑うなよ」
後輩「だって先輩がそんなことするなんて、それこそあり得ないです」
男「なんだその根拠のない自信。お前いつか痛い目見るぞ」
後輩「根拠ならありますよ」
男「嘘つけ」
後輩「本当ですよ。説明しましょうか?」
男「聞きましょ」
後輩「……先輩は友達がいないです」
男「いるよッ!」
後輩「雀の涙ほどじゃないですか。いいから続けますよ」
男「容赦ねーな」
後輩「そんな交友関係が絶望的な先輩がです、数少ない友人であるわたしを襲うと」
後輩「フッ……」
男「コイツ鼻で笑いやがった……」
後輩「後日きっと先輩はわたしを避けるでしょう。少なくとも今までのように接することなんて、できやしませんね」
男「まあ、そうかもな」
後輩「つまり友人であるわたしを失ってしまいます!」
男「お、おう」
後輩「これはもう、先輩にとって大損害です! なぜですか!?」
男「俺に聞くなよ……」
後輩「リア充が薄っぺらい友情でつながった1人を失うとは訳が違うんですよ!」
男「……」
後輩「先輩は友達がいないんですからッ!!」
男「だからいるってのッ!」
後輩「おまけにこんな可愛い後輩です。関係が切れたら先輩は一生後悔するでしょう」
男「もういいから結論言え。あと自分で可愛いとかゆーな」
応援してるがんばれ!支援
後輩「……先輩は、わたしを大切にしてくれます」
男「……」
後輩「まあ、友人を失いたくないって理由なのが残念ですけど。どうですか?」
男「あ、ああ……参った。なんも言えねえ」
後輩「やたっ!」
男「なにより、んな真っ直ぐ言われたら裏切れねえよ」
後輩「じゃあ泊まってもいいですね!」
男「却下」
後輩「えー! どーしてですかー?」
男「お前が泊まったら俺、悶々としながら一晩過ごさなきゃならねえじゃねえか」
後輩「おや?」
男「安眠妨害だ。帰れ」
後輩「はッ……!」
後輩「うーん……」
後輩「……」フラフラ
男「……」
後輩「……失礼しました」ペコリ
男「……」
男「……あれ? アイツ帰った?」
男「……」
男「……」
男「ったく」
後輩「……」
男「こうはーい!」
後輩「せん、ぱい……どうしたんですか?」
後輩「……あっ、や、やっぱり今日は泊まていけって?」
男「涙目でなに言ってんだか」
後輩「な、泣いてなんかいませんよー。なに言ってんですかー」
男「お前って素直なのか捻くれてるのか、たまにわかんないよな」
後輩「先輩は捻くれてるどころか歪んでますよね。少しくらいどーにかしてください」
男「わかったわかった。ほら、行くぞ」
後輩「……へっ?」
男「……送ってくって言ってんだよ」
超支援!
後輩「あっ先輩、星がキレイですよー!」
男「はいはい」
後輩「ほら先輩も見上げてみてくださいよー。すごいですから」
男「わかったから前見て歩けよ」
後輩「もー先輩ノリわるーい」
男「コイツなんで酔っぱらってんの? あっおい、ふらふら歩くな」
後輩「だーいじょうぶですよーあははー」
後輩「あっ!」
男「――ッ」
後輩「……」
男「……」
後輩「先輩……ちょっと、近いです」
男「そりゃ、つまずいたお前を支えてるからな」
後輩「密着状態ですね」
男「嫌なら、さっさと離れろよ」
後輩「嫌じゃなかったら、このままでいいですか?」
男「……」デコピン
後輩「いたっ」
男「さっさと行くぞー」
後輩「もう……」
後輩「先輩」
男「今度はなんだ?」
後輩「わたし、今がすっごく楽しいです」
男「……そっか」
後輩「先輩たちと知り合ってから、毎日お祭り騒ぎですし」
男「お前、最初の頃はおとなしかったのにな。いつの間にかこんなに図太くなりやがって」
後輩「あはは、あの時のわたしを、先輩はおとなしいで済ませちゃうんですね」
男「間違ってねーだろ」
後輩「……そうですね! 先輩のおかげでこんなに立派になりました」
男「めでたしめでたし」
後輩「ちょ、ちょっと先輩! 勝手に終わらせないでくださいよー」
男「あ、続く?」
後輩「続きますよ。むしろこれからです!」
男「俺たちの戦いはこれからだ!」
後輩「打ち切りじゃないですか」
男「オムライスうまかったぞ」
後輩「もう意味が……えっ?」
男「……」
後輩「せっ先輩! いっいま、今のはッ!?」
男「嘘じゃないからな。マジでうまかった」
後輩「……ほんと、意味がわからないです。あと……感想言うの、遅いですよ」
男「悪い。食うのに夢中になってた。そしたら言うタイミングが、な」
後輩「しょうが、ないですね先輩は」
男「……ありがとな」
後輩「先輩さえよければ、いつでも作りに来ますよ」
男「面倒じゃないか?」
後輩「1人分のご飯を作る方が面倒臭く感じるんですよ。それに――」
後輩「1人で食べると……味気ないんだなって気づいちゃいましたから」
男「……そうかもな」
後輩「はい……」
男「……暇すぎて死にそうになったら」
後輩「なったら……?」
男「遊びにでも来い。今度は俺がチャーハン作ってやる」
後輩「い、いいんですか?」
男「ああ」
後輩「絶対ですよ! 忘れないでくださいね!」
男「心配すんな。俺は……あんまり約束を破らない」
後輩「あんまりって、安心できないじゃないですかー!」
男「冗談だよ。ちゃんと作ってやる」
後輩「先輩のこと、信じますからね……」
男「ところで、ふと空を見上げたら……」
後輩「はい」
男「本当に星がキレイだった」
後輩「だからそう言ったじゃないですか!」
男「いや、てっきりお前が浮かれてただけかと思った」
後輩「酷いです」
男「反省します」
後輩「じゃ、許します」
男「お手軽だな」
後輩「おすすめですよ」
男「もう気に入ってるよ」
後輩「はぁ……楽しい時間って、すぐに過ぎていっちゃうんですね」
男「そうか?」
後輩「そうですよ。だってほら……」
男「ん?」
後輩「もう、家に着いちゃいました」
男「……」
後輩「先輩、ありがとうございました。おやすみなさい」
男「ああ……おやすみ」
男「……」
男「後輩!」
後輩「は、はい?」
男「また明日な!」
後輩「……はい。また明日です先輩!」
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