男「喫茶店"ラバー"?」 (29)
男の苗字>>3が決まり次第始まるよ!
期待
あげ>>4
サトル
ダメなら矢野
安価かよ…
いけいけどんどん
へい
安価とったのに申し訳ないが朝に読ませて貰いますよ
相模湾に面した街道沿い佇む一つの建物。
葉山にある"神奈川県近代美術館"である。
なぜ、美術とは無縁の俺がここに居るのかは
自分でもわからないが友人曰く
「知り合いが居てな!いい仕事紹介してくれるらしいんだよ!で、ここで待ち合わせ場所なんだよ」
確かに俺は大学を卒業したものの就活で全敗し
フリーターである。もちろん妥協すれば
今この現状にはないのだが…
「仕事ってどんなの紹介してくれるんだ?」
友人が笑顔でいう
「漁業!」
ちょっと待て。俺は漁業なんぞやらんぞ!
顔で拒絶の意を示しても友人はこちらを
見向きもしない
「遅いなぁ…ったくあの人は」
「あの人」が誰だかは知らないが、あの人は時間にルーズらしい
「メール来てたわ…え…何処だかわかんねぇ…って…」
自分で場所を決めたのに、目的地がわからないとは。少々の不安が募る
「悪い!少し待っててくれ!」
そう言うと友人は駆け足で自動ドアの前に進み
扉が開くまで足踏みをし外へ出て行った
ロビーに一人取り残された矢野。
仕方ない
アイツが戻ってくるまで適当に時間でも潰そう
重い足取りで展示室に入室するが
そもそも俺は芸術とかよく分からない
ん?矢野の視線が一枚の絵に向かう
"飲む女"
「なんだこりゃ…まんまじゃねぇか…」
この絵に移る女は何世紀頃の人だろうか?
見た感じ18~19世紀あたりっぽいが…
「あの…」
これなに飲んでんだろ…珈琲か?紅茶?
それとも中国茶か?そもそもこいつら誰だ?
「あの!」
「ひっ!?」
目の前の絵を見るのに夢中になっていた俺は
その"女性"の気配に気づかなかった
よし来たぞ
「あ…すいません邪魔でした…?」
「え?あ…いえいえ大丈夫ですよ!
」
何が大丈夫なのか分からない
刹那、俺はここ半年の自分を振り返る
バイト、バイト、バイト、ネット、バイト
やばい…女と話してない…何を話せば
やばい…何か言った方がいいのか…
そんな杞憂とは裏腹にその女性はこう話してくる
「もしかして?お茶とか興味あるんですか?」
「へ?お茶…?」
ジーっとこちらを見つめるその女性
ブロンドの髪が肩まで届いたセミロングと言うのだろうか?そんな髪型であり
顔も残念ではない少し可愛いくらいか?
「そうですお茶!」
「えぇあ、す…好きです…」
「やっぱり!」
ああ!嘘をついてしまった…
それに'やっぱり'ってなんだよ
ヤバいぞ逃げるか?どうする矢野!?
「どんなお茶が好きなんですか?」
うわ…めっちゃ目キラキラさせてる…
どんなどんなお茶?お茶…紅茶はお茶か?
ミルクティーもお茶なのか?わかんねぇ…
「あ…あのぉ~…お湯入れて…茶葉いれて…
牛乳入れるやつ…えっと…み…ミルクティー?」
逃げたい逃げy…
「私も紅茶好きなんです!やっぱり
紅茶通の私の目に狂いはなかったんですね!」
「はい?」
「私は一目あなたを見た瞬間から
あなたが紅茶好きだって見抜いてたんですよ!ふふふ」
「あ…そ…そうなんですか…ははは…」
天然なのかこの子は
訂正
「私もミルクティー好きなんです!やっぱり
紅茶通の私の目に狂いはなかったんですね!」
「私は一目あなたを見た瞬間から
あなたがミルクティーが好きだって見抜いてたんですよ!ふふふ」
女性「ところで何を見てたんですか?」
矢野「え?絵?」
女性「はい」
矢野「えぇっと…この"飲む女"ってやつを」
女性「これは知る人ぞ知る名画ですね!」
矢野「あ…ソウナンスカ…」
やばいなぁ。「この絵詳しいんですか?」とか聞かれたらどうしよう。答えられねぇよ…
「この状況でわかりません」とは言いずらいし
女性「この絵は1835年に描かれたものですね」
矢野「え?」
女性「因みにこの女性が飲んでいるのは
今話題になったミルクティーではなく
アールグレイという紅茶なんですよ!」
矢野「あ…はい…」
女性「アールグレイは柑橘系の香りをつけた紅茶で
原料は中国茶が使われる事が多いんですよね?」
矢野「そ…そうじゃないかな?」
女性「あってた、良かった
それでアールグレイのの名前の由来は
グレイ伯爵というイギリスの元首相が関係しているんですよね」
矢野「あっ、はい…」
「グレイ伯爵が中国に赴任した際に考案した
って説があるんですけど、グレイ伯爵は
そもそも中国に赴任してなかったらしいですね」
矢野「そ…そう!そう!」
全くわからん何を話しているんだこの子は
早くこの状況から抜け出したい!
助けてくれ誰か!!
「あっお前何してんだよ!ナンパか!?」
全く空気を読まず割り込んでくる友人
友よ!ナイスだ!信じていたぞ!!
「いや、ちょっとな…」
「水臭いぞ~!」
茶化す友人。普段ならイラっとくるが
今回は許すとしよう
「あ、私お邪魔虫ですね。お話できて
楽しかったです!またいつか会いましょう!さよなら」
深々とお辞儀しその場を去っていくブロンドちゃん
友人「なにぃ~?あの子可愛いじゃねぇか!」
矢野「あ、あぁそう言えば仕事の方は?」
友人「なんだよ、もうその話か
心配すんな!ちゃんと仕事もらってきたぞ!
牡蠣を剥く仕事だ!喜べ!」
なかなか良いじゃないの
期待しとく
しえん
ピッ ピッ ピッ
一定のリズムを刻みながら商品の値段を読み込んでいく
もう慣れたものだ。大学に入学してすぐこのコンビニでバイトを始めたから…
かれこれ5年になる
「お会計324円になります」
変な客も来ることはあるが5年もやれば
たいして気にしなくなる
「ありがとうございましたーまたお越しくださいませー」
店内にある時計を一瞥する
ふぅ…そろそろバイトも終わるな
そう言えば先日の友人の牡蠣を剥く仕事だが
あれは断った。当然?かは知らないが
俺にはまだレベルが高すぎる。
「矢野くぅーん!もうあがっていおよ!」
ガラガラの店内に店長の声が若干こだました
外はもう真っ暗で、なおかつ暑い
店をでて帰路につく
「今日は水曜日だから明日は休みか」
独り言を呟く。しばらく自転車をこぐ
ボロボロのアパートへ到着した
コツン コツン コツン コツン
錆びた金属の階段から虚しい音が
アパートに響く…ガチャッ
「ただいまー……」
肩にかけていたリュックをベッドに放り投げる
「ふぅー…疲れた」
男の一人暮らしという事もあり
部屋には目立った家具は何一つなく
ベッドとゲームを入れる棚とテレビのみだ
もちろんキッチンもあるが電子レンジしかない
しばらくベッドに寄り掛かったまま
考え事と称しているが、ただボーッとしていた
それから何時間たっただろうか
「ん………ぁあー」
あくびをしながらスマホで時間を確認する
「…4時?……やっべ…寝たのか…」
確か家に帰ってきたのはPM10:30だったから
6時間近く寝た事になる
「まあいいや、ゲームでもするか」
朝起きたらゲーム!これが日課になったのが
大学に入ってからであり今でも継続中である
カチャ!カチャ!カチャ!カチャ…
突然立ち上がり、おもむろにトイレへ向かった
何時間やったのだろうか?ふと思い
用を足しながらスマホをまた確認した
am6:30
「けっこうやったなぁ…」
ジャーっと用を流す
微かに聞こえるガチャン!という音
おそらく隣人が郵便受けを確認した音だろう
「見に行くか…」
ついでに飲み物を買おうと思い
120円を右ポケットに流し込み
最後に右手も流し込んだ
扉を閉めるともう外が明るくなっている事に気づく
「おはようございます」
おばさんが挨拶をしてくる。おそらく隣人だろう
実は隣人の顔とか全く知らないので
おそらくなんて言葉がついてしまう
「あ、おはようございます」
ガチャン!
いつも通りピザと寿司屋のチラシしか入っていない
アパートのすぐ近くにある自販機へ歩いた
「コーラ…は…」
コーラの値段120円の文字に赤い文字で
'売り切れ'と表されている
「おい…おい…マジかよ…」
口の中にコーラを入れる準備していたせいもありショックはデカい
「はぁ…何にしようか」
商品全体を見渡すとある一つの単語が目にとまった
味わい"ミルクティー"である
「ミルクティー…にしようかな…」
小銭を入れ120円のミルクティーを買う
ガチャン…
ミルクティーを取り出し、ぴったし小銭を入れたがお釣り口も確認しておく
冷たいミルクティーの缶を額に当てて
涼みながらカツン カツン と階段を上がっていく
不意に壁のない左側に目を向けると
遥か向こうに山々が連なっていた
澄んだ空気のおかげもあり緑色がよく見える
「厚木の方か…」
そう言えばあの頃はよくサイクリングしてたな
山とかには全く興味なくて海沿いしか
走ってなかったんだよな
と、大学時代を回顧する矢野
スマホで時間を見る
「6:36分か…」
そして、アパートの屋根もない駐輪場を一瞥
「今日はあの山に行ってみるか!」
矢野邸は海老名のビナウォークという
大型ショッピングセンターのすぐ近くにあり
厚木まではそう遠くはなかった
矢野は久々のサイクリングに少し心を弾ませた
海とかにしか興味がなかった自分が山などという
秘境の地へ行く事を楽しみにしているのが
少し怖かったが気にしない
朝食は昨日食べるはずだったツナおにぎりを
二つばかしほうばった
短パンと上は運動用のポロシャツに着替え
ショルダーバッグに財布と携帯を詰め込み
いざ!出発の準備は整った
愛車・YANOにまたがりゆっくりと漕ぎ出す
海老名はビナウォーク周辺こそ栄えているものの
少し離れると後はほぼ田んぼである
厚木に行く途中に大きな川がある
"相模川"の事だが
この川に架かった橋を渡る。ここは毎回風が強い印象があるが今回は微風で済んだ
さて、厚木も中々いい街だとは思うが
やっぱり中心部から離れるとそこはもう何もない
青い目的地まであと何キロかを表示している
看板をみる
↑愛川9㎞
→大和10㎞
←清川7㎞
とある。大和は無しとして
矢野は少し悩んだが一番距離が近くすぐ山に行けそうな"清川"を選んだ
清川方面へ自転車を漕ぐ
8月15日
夏の日が照りつける中延々とこぎ続ける
しばらくすると大型電気店山田が見えた
その店の後ろにはデカデカした山々が
鮮明に見えた
「おお!」
そんな感動を呟きながら全力でこぎだす
徐々に周りも山々に覆われてきた
何故かハンドルを握る手には力が入る
不意に一つの看板が目に入る。青い看板だ
↑清川村2㎞
「清川村?」
初めて聞くその村の名前
矢野は近くにあったコンビニで自転車を止める
素早くショルダーバッグからスマホを取り出し
Googleで「清川村」と検索した
「神奈川県唯一の村か…その先に宮ヶ瀬があんのか…知らなかった」
宮ヶ瀬は知っていたがまさか神奈川県に
村があるなどとは微塵にも思っていなかった
時間を確認する矢野
「まだ8時だし平気そうだな!」
そう言うとまた自転車をこぎだす
名前も知らない川とガードレールを挟みひたすらこぐ
途中、赤い橋と赤い鳥居を見かけたが
寄ることはなかった。少々考えたが
今はこの山を登りきるという当初の目的とは
違う、また新たな目的のためにこいでいた
そもそも当初の目的とは何だったのか?ただ山に自転車を漕ぎに来るだけだったが、何の区切りもつけず来たので今は山を登るだけになってしまった
そんな事を考えながらこいでいる最中に
ふと一つの看板が見えた
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません