黒猫(34)
男「すまんなー、友。ガイド頼んじゃって」
友「何言ってんだよ、気にすんなよ」
友「お前らの新婚旅行のガイドできるなんて」
友「俺、こっちに転勤になって良かったって初めて思ったぜ」
女「でも、今日本当はお休みなんでしょう?」
友「そうだけど、観光地見て回った後は…」
男「飲みに?」
友「あったりめぇよ!久々に飲もうぜ!」
友「美味い地ビールの店があるんだよ」
男「お前は本当にビール好きだな」
友「飲み歩きは、今の俺の唯一の楽しみさ」
友「さ、その前に雰囲気たっぷりの古城をご覧頂きます」
友「見えてきたぞ、あそこだ」
男「おぉ…なんか映画みたいだな」
友「日本の城も良いけど、西洋の城も中々良いもんだろ?」
男「そうだなー。思ったより大きくないんだな」
友「あぁ、あの城は小さい方だな」
友「でも、面白い物が展示してあるんだよ」
男「そうなのか?何があるんだ?」
友「それは見てからのお楽しみ」
女「ふふ。相変わらずだね、友君は」
友「褒め言葉だよな?ははは」
・
・
友「さ、着いたぞ。ここからは歩きだ」
男「さっき小さいって言ったけど…」
男「間近で見ると、意外と…」
友「へっへっへ。そう言うと思ったぜ」
男「どこが入り口?」
友「こっちだ」
・
・
友「~~~~~~~~~~」
門番「~~~~~~~~~~」
男「すっげー。ともが外国語で会話してる」
友「あったりめぇだろが!こっちきて5年だぜ?」
友「会話出来ねーと、ツアーガイドなんてやれんだろ」
男「お前が頭良く見える…」
友「はっはっは、何だとこの野郎!」
男「ガイドさん、早く案内してください」
友「お前が変な事言うからだろ…」
友「じゃあ、行くか!」
女「…ね、男」
男「うん?何?」
女「…何か嫌な感じがする」
男「気分悪い?」
女「ちょっとだけ…」
男「車で待ってる?」
女「一人で待つなんて、嫌だよ!」
女「ね、見学は無しで、帰ろうよ…」
友「おーい、二人とも!何してんだよ!早く来いよー!」
男「一応、行くだけ行こうよ」
男「友が一押しの場所なんだからさ」
女「…うん、わかった」
友「どうかした?」
女「ん、何でもないよ、友君」
ニャーン
女「あ、子猫だ」
友「チッ…またあいつか…」
男「ん?友って猫嫌いだっけ?」
友「あぁ、正直嫌いだな」
女「ほらほら、おいでー」
ニャーン
女「可愛いー。外国でも猫は猫だねー」
男「当たり前だろー」
女「黒猫くん、キミ可愛いねー」
ナデナデ
ニャーン
④
友「なぁ、早く行こうぜ?」
女「あ、ごめんね」
女「じゃあね、黒猫くん」
ニャーン
友「黒猫なんて、気味悪いぜ…」
男「何で?可愛いじゃないか、猫」
友「あいつ、ここの広場に住み着いてるんだ」
友「観光客にすり寄れば餌が貰えると思ってやがるんだ」
友「その姿が浅ましくて、俺は猫が嫌いなんだ」
女「な、何か、ごめんね?」
友「あ!こっちこそ、ごめん!」
友「変な空気になっちまったな!」
男「ドンマイ」
友「いやあ、へへっ。本当にすまんすまん」
友「さぁ、この石組みの外階段でてっぺんまで行くぞ」
男「おぅ…手すりもなんもないのか…」
友「まぁ、手すりは無いけど、階段の幅が2メートル近くあるんだ」
友「余裕だろ?」
女「怖いよ、男」
女「手、繋いで良い?」
男「あぁ、俺が外側歩くよ」
ギュッ
女「てっぺんまで行ったら、もう帰るんだよね?」
友「帰りは中の螺旋階段で戻るんだ」
友「この城のてっぺんから見る景色は最高だぜ?」
友「さぁ、行こう」
・
・
友「ここらが中間地点だな」
男「おぉ…確かに良い景色だな…」
女「夕日が綺麗だね」
友「だろ?今から行けば、丁度日没くらいにてっぺんだ」
友「地平線に沈む太陽を見られるぜ」
男「それは綺麗なんだろうな」
友「さ、それじゃ、行くかー」
ニャーオ
女「あ、さっきの黒猫くん、ついてきちゃったのかな?」
ニャーオ
友「チッ…クソ猫、あっちいけ!しっしっ!」
男「おい、友。そこまでしなくても…」
友「俺は猫が嫌いだって言ったろ?」
ガシッ
男「おい、そのレンガどうするつもりだよ!」
友「あっちに…行けっ!」
ブンッ
ガッ
グシャッ
女「きゃぁっ!」
男「お、おい、お前、やり過ぎだろ…」
友「あ、当たると思わなくて…」
女「お、男、黒猫ちゃん、大丈夫?」
男「女は見ない方が良い、見ちゃダメだ…」
友「…動かねぇな…死んじまったのか」
男「…」
女「もう嫌だ…男、戻ろうよ」
ニャー…
男「う…、シッポがピクピク動いてる…」
友「大丈夫…なのか?」
男「いや、ダメだろう…」
男「頭に直撃だからな…」
友「…」
女「ねぇ、男、戻ろうよ!私もう嫌だ!」
友「いや、今からこの外階段おりるのは逆に危ないから」
友「いったん屋上まで登って、内階段で降りる方が安全だ…」
友「ごめん、二人とも…」
ニャーゴ
男「!?」
女「ひっ!?」
男「大きな黒猫…?」
友「…さっきのチビの母猫だ」
ニャーゴ
友「くそっ…あっちに行け!」
フーーーーーッ!
男「おい!友!やめろ!それ以上は…」
ガブッ
ピョン
男「子猫を咥えて…、城の外に…飛び降りた?」
友「自殺した…のか?」
女「もう嫌だっ!早く帰りたい!」
ギュッ
男「落ち着いて女、大丈夫だから」
ギュッ
男「友、早く上に行こう…俺も早く戻りたい」
友「お、おう…すまん、二人とも…」
・
・
男「確かに景色は綺麗だな…」
女「うん…でも…」
友「さ、さぁ!帰りは内階段だ!安全に降りられるぜ」
友「完全に日が落ちる前に、車に戻ろうぜ」
男「うん」
・
・
男「ん?どうした友、何で止まる?」
友「3分だけ、つきあってくれ、こっちだ」
男「なんだよ、そっち暗いじゃん」
女「私、行きたくない…」
友「すぐ済むからさ、ほら」
女「私は行かないから」
男「…女、ここで待ってて。すぐ戻ってくるから」
女「…うん」
・
・
友「これが見せたかった物だ」
男「暗くてよく見えない。これ、なんだ?」
友「これは中世の拷問具で、アイゼルネ・ユングフラウ」
友「英語で言うと、アイアンメイデン、鉄の処女って奴だ」
男「…拷問具とか興味ないよ。友、早く降りようぜ」
友「ちょっとだけだから、こっち来て見てみろよ」
友「こんなに保存状態が良いのもめずらしいんだぜ?」
ヒョイッ
男「友…いいから早く降りよう」
男「まず、柵を乗り越えるのはダメだと思う」
男「それに、そこの看板、読めないけどさ」
男「触れるなーとか、そんな事書いてあるんじゃないの?」
友「この城、別に見回りとかいねーし、平気平気」
男「そういう問題じゃなくてな…」
友「男、このレバーを思いっきり下ろしてみてくれよ」
男「…気が進まないんだけど」
友「いいから、ほら早く!」
男「…こうか?」
ガコン…ギリギリギリギリ
男「うわ…人形が開いた…中身、棘だらけだ…」
友「すごいだろ?この中に…」
ヒョイ
友「こんな感じで罪人を入れて、レバーを戻すと…」
男「拷問っていうか、処刑じゃないかそれ」
友「まぁ普通に行くとそうなんだけどさ」
友「実は、この鉄の処女が閉じると、この下の床が開いてさ」
コンコン
男「その床が開くのか?」
友「おう。それで中の人間は無事なんだよ」
友「それでもこれに入れられた人間の恐怖は凄かったろうな」
男「そりゃそうだろうな」
友「日本人はそうでもないが、他の国からのお客さんには人気あるんだぜ?」
友「間違って、レバー下ろしたアホな客も居たけどさ」
男「大丈夫だったのか?」
友「あぁ、この下の部屋に落ちて、ちょっと腰打ったくらいさ」
友「それ知ったそのアホな客、5回も中に入ったんだぜ」
男「俺には理解出来ん…なぁ、もういいだろう?」
男「俺の手が滑る前に、早くそこから出ろよ」
友「そうだな…絶対手、離すなよ?」
男「変なフラグ立てるなよ、バカ」
友「ハハ。じゃあ…」
サッ
ガリッ
男「痛っ」
パッ
友「なっ!?」
ギリギリギリ…ガコン…
男「ね、猫?さっきの…」
男「に、人形が…閉じちまった…」
男「おい!友!下に落ちたんだろう?」
男「…おい!返事しろ、友!」
男「…」
男「お、おい…冗談止めろよ…」
ツーン
男「これ…この臭い…って…」
男「うっ…げぇっ…」
ビチャビチャッ
男「あ、あぁ…うぁあぁ」
ツツーッ
男「うわぁぁぁあああぁぁぁ!」
女「男!どうしたの?男!」
男「と、友が!友が!」
女「友君?友君がどうしたの?どこに行ったの?」
男「あ、あれに…」
ガタガタ
女「あれ…?」
女「暗くてよく見えないけど…」
ニャーゴ
女「きゃっ!?え?さっきの…親猫?」
ピチャッピチャッ
女「えっ?な、何を舐めてるの?」
女「ねぇ、男!友君はどこ?」
女「ねぇってば!」
・
・
その後、俺は女と一緒に階段を降り
門番に事故があった事を知らせた
警察が来て、事情聴取を受けた
警官に状況を説明した
警官に状況を説明された
普段はきちんと動作するはずの床が抜ける装置が
今日は何故か作動しなかったらしい
友は数百の棘に刺されて
死んだ
黒猫は
俺の手に噛み付き、レバーから手を離させた
あの黒猫は
結局見つからなかった
おわりです
乙!
乙
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