「気が付いたかね?」
ここは
「ようこそ同志よ」
あぁそうだった
「気分はどうだい?」
私は深海棲艦に沈められたんだった
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そこは薄暗い場所だった
どうやら地下牢の様な場所らしい
窓ひとつない暗い部屋
ろうそくが焼ける音と異臭が漂っている
私の目の前には椅子に腰かけた男がいた
「最悪の気分ね」
そこは不快感を催す場所だった
私の鼻にこびりつく血と錆びついた鉄くずのにおいがした
「元気そうでなによりだよ空母艦加賀」
私の両腕は壁に拘束されている
足には囚人がはめるような厳つい足かせがついていた
「私をどうするつもりなの」
尋問?
拷問?
それとも…
「私を殺さなかった事を後悔するといいわ」
「殺さないんじゃなくすでに殺せないのさ」
ククッと男が笑みをこぼした
「どういうことかしら?」
「これをみたまえ」
そういうと男は等身大の鏡を見せてきた
それを見た私は心臓が止まりそうになった
そこには空母ヲ級がいた
~~~~~~~~~~~
「昨日はずいぶんとあばれていたな」
「……」
「そんなに自分の姿がショックだったか」
「……」
「くく、だんまりか嫌われたものだな」
そういって男は私の目の前に腰かける
あと少し近づいたら殺してやれるものを
私が監禁されてからもう何日も経過した
この地下牢には誰も来ない
定期的に来るのは一部の深海棲艦くらいだ
今日もまた一人の深海棲艦がやってきた
手には食器を抱えている
器の中には独特の流動食が入っていた
さじのようなものでそのどろどろとした物を掬う
「……」
彼女は無言で見つめてくる
食べろという合図だ
私はしぶしぶと口を開ける
ここは退屈な場所だ
暇をつぶせるようなものは何もなかった
そもそも私は鎖で厳重に繋がれている
足にはいつだって強固な鉄鎖がついていた
深海戦艦たちは何もはなさない
まるで人形のようにきめられたプロセスをこなすだけ
どうして何もしゃべらないのか
あの男はいったい何者なのか
私はいったいどうなるのか
いくら問いかけても彼女達は何も答えようとはしなかった
堕ちた艦娘には二つの選択肢しかない
死ぬか自我を捨て服従をするかだ
あの男は私にそう言った
「吐き気がする外道ね」
「おいおい勘違いをするな」
「勘違い?」
「新たな命を与えているのさ」
「ただの奴隷つくりよ」
「君もすでにその一人さ」
私は深海棲艦なんかに屈しない
そういうと男はまたにやにやと笑った
「いつまでその考えが続くかな」
ゆっくり考えるといい
時間だけならたっぷりとある
そう皮肉を言って男は出ていった
そのまま二日が経った
三日たった
助けはまだ来ない
一週間
こない
まだだ
まだこない
永遠とも思える時間
私はずっと孤独だった
僅かばかりの明かりに照らされるこの地下牢
この空間だけが私の全てだった
だめだ
おかしくなってしまう
私の自意識はちりちりと崩壊していく
いつのまにか私はあの男の来訪を待ち望むようになってしまった
「なぁ加賀」
「なにかしら」
「ここの暮らしはどうだい?」
「最悪ね、反吐が出るわ」
「くくくっ手厳しいな」
男はいつだって気色悪い笑みを浮かべていた
けれどあの男がいる間だけは少なくとも正常な会話ができた
男が軽口をいい私が毒舌で返す
そんなとりとめもない会話
そうして自我を必死に保とうとしている自分が居ることに気がついた
そんな自分に嫌気がさす
「自我を放棄するという事はどういう事かわかるか?」
「わかりたくもないわね」
「救われるという事さ」
「……」
「艦娘としての自分を捨て新たな自分へと生まれ変わる」
「どうせまた戦いの日々じゃない」
「しかしそこには痛みも苦しみも無い」
「……」
「服従してくれるというのならいつでも言ってくれ」
そう言って男はまた部屋から出ていった
監禁されてもう何週間もたった
いまだに助けはこない
たすけがこない
いつまで
ワタシは
コこに
……
「だいぶらしくなってきたな」
…ぁ……
「ずいぶんとそそる表情をするじゃないか」
……ねがいします
「声が小さい聞こえないぞ」
「どうか…許してください」
私は男に救いを求めてしまった
太陽がまぶしい
久々の外の世界ダ
海とはこんなにも安らぐバショだったのか
私達は民間船をオソおうとしている
あの男の命令の元深海棲艦たちハ行動した
私はダまってついていく
あの船ダ
目標ガ海上を移動している
そうしてワタシ達は行動スル
深海棲艦は私に船をウツよう合図した
ダカら私は砲弾を向ける
そして照準をアワせ
ドォーーンッ!!
深海戦艦どもの唖然とした顔が瞳に写る
いまだ
その隙を逃さず私は走った
無我夢中で走った
奴らは砲弾が直撃した仲間に動揺している
弾が命中したあいつはしばらく動けないはずだ…っ!
いまだ
いまだ!
私は必死で駆けていく
逃げてやる
このまま逃げてやる!!
私の前方に民間船が居るのが見える
やった!
あの船に助けてもらえれば
あの人達に助けてもらえれば
おねがい
助けて
私を「敵が現れたぞぉおおおおおお!!!」
…え?
私の腹部にじんわりと衝撃が奔った
彼らは狂ったように機銃を乱射する
そんな
そんな事って…
激しすぎる痛みに耐えきれず私は倒れた
そうして再び沈んでいく
崩れゆく意識の中
彼らのおびえた顔だけが見えた
―――――――
――――
「だから言っただろう加賀」
気が付くと私はまたあの場所にいた
「おまえはすでに手遅れなんだ」
目の前にはあの男がいる
「もう逃げても無駄なんだよ」
「……」
「それにしても酷い奴らだ」
今までお前達が守っていた連中は
助けを求めたお前を攻撃する
「結局のところそれが奴らの正体なのさ」
私は奴らがとことん嫌いだ
「奴らは見せかけだけの正義を叫ぶ」
勝利のために傷つけという
作戦のために沈めという
「作戦の不出来は艦娘のせいじゃないのに」
奴らの無能な指揮でいったいどれだけの艦娘が傷ついたか
私はそんな彼女達の弔いをしているのだ
「……」
「最期の問いかけだ加賀」
私の仲間になれ
共にこの世界に復讐しよう
そう言って男は手を差し伸べた
男は見たこともない位真剣な表情をしていた
私は考え込んだ
そして私は言ってやった
「みくびるな」
「貴様らの行いはどれだけの人間を傷つけた」
「貴様の所為でどれだけの艦娘が傷ついた!」
どれだけの正義を並べようが
人や私達を傷つけたお前らは正義じゃない
「それはただの詭弁だ」
「いいえ違うわ」
『頑張るのです加賀さん』
仲間達の声が聞こえる
『情けないぜ加賀!』
彼女たちの声が私に勇気を与えてくれる
きっと彼女達ならこういうだろう
「私は人のために生き仲間と共に死ぬ」
たとえ肉体は堕ちようとも
魂までは汚されない
最後の最期まであがき
艦娘として誇り高く死んでやる
「…それが貴様の答えか」
男は初めて怒りの表情をあらわにした
私は初めて一矢報いることができた気がした
食事を絶ってから二日が経った
また奴らがやってくる
深海棲艦は私に食べるよう合図する
私はそれを拒絶する
すると彼女たちの一人は無理やり私の口に食べ物をねじ込もうとしてきた
ぺっと膝元に私は吐き出した
もうこんなものは食べてやるものか
このまま餓死してやる
『私提督の事が好きみたい』
その人は私にそう告げた
私は呼吸が止まりそうになった
『………そう』
自分の中の動揺を隠しきれない
鼓動が馬鹿みたいに早くなっていった
『でもどうしたらいいか分からないの』
その人はうつむいた
『別に構わないのではないかしら』
違う
『あなたの気持ちを大事にするべきよ』
うそだ
『私はあなたの事を応援するわ』
嘘だ
あの時私は今にも叫びだしそうだった
冗談じゃない
艦娘が恋愛などしていいはずがない
大事な使命をおろそかにする気なのかと
いや違う
本当は違う
だって私も――――
――もう何日スゴシただろうか――――
―――ツラい―
―――いやだ――
―――――――
―――――
―――アぁ
―――――
「たいした奴だ」
ころせ
「並の精神ではもう持たないだろうに」
ころせ
「いいや殺しはしない」
お前が死ぬその最期まで
「だいぶらしくなってきたな」
………
「もう起き上がる気力もないか」
………アぁ
「一言放棄するといえば許してやるぞ」
「だ……れが……」
「ならずっとそのままだな」
いつか必ず復讐する
そして戻ってやる
絶対に仲間たちのもとへ
意識がはっきりとしなくなってきた
どうやらそろそろ最期のようだ
死にかけた今思うことがある
私はあの人達の事を恨んでいたのだろうか?
いや違う
『構わないんですか…?』
胸を張って言える
『でもそれじゃあ…』
自分の大好きな人が
自分の愛した人と結ばれる
それはきっととても素晴らしいことだ
たとえそこに
『貴方の想いが報われないじゃないですか!』
たとえそこに私がいなくても
だから私が背中を押したんだ
あなたは指輪を渡すべきだと
だから青葉にこう答えたんだ
『あら、私は提督よりも――――』
あの時の私が言えた精一杯の強がり
あの人が笑顔でいてくれたらそれでいい
意識がぼんやりとしてきた
もう十分だろう
さようなら提督
さようならみんな
さようなら
……
……
……え
ふと違和感を感じた
体をなんとか起こし足元を見てみる
足かせが外れている…?
私の足かせは外れていた
信じられない
けれど僥倖だ
体をひきずりながら動く
戻れるかもしれない
そう考えると急に私の体に力が湧いてきた
鍵のかかっていない鉄格子を押し開ける
どす黒い地下牢を抜ける
あぁ抜けられた
奴らの住処から抜けられた
何十年振りかにも思える外の世界
心地よい潮風が私の体を撫でていく
微かに輝く月光が私の体を照りつける
海のざぁざぁとしたさざ波は私に勇気を与えてくれた
進むべき道はこっちだ
意識せずともそれが分かった
まるで自分が行くべき道が分かっているようだった
みえない
まだみえない
焦りがでる
絶対に見つける
見つける…
見つけたっ!
あの建物
見間違えるはずもない
私は神様に感謝したい気分だった
鎮守府がそこにはあった
あの時と全く変わらない鎮守府
これでようやく逃げられる!
見つけた!!
あぁ帰ってこられたんだ
うれしくて涙が出てしまいそうだ
提督はいつも2階の執務室にいる
まずはそこまでいけば
「………」
あれ
あれ
おかしいな
うごかない
からだがうごかない
私の肉体は自由を失う
意思に反して武器を構えた
目の前ではあの人が笑っている
『艦娘という者は皆同じ行動をするものだ』
うそでしょう
私はようやくあの言葉の意味を理解した
「―――いやだ」
『お前はもう逃げられない』
「いやだお願いやめていやだいやだいやだっ」
『その意味がいずれわかる』
私の指はゆっくりと引き金を引いた
「―――――――――っ」
悲鳴は声にならなかった
その時私は唐突に理解した
誰だって放棄するにきまってる
最愛の人をこの手で葬り去る記憶だなんて
『聞きましたかあの噂』
『なんの噂?』
『別の海域で現れ始めた深海棲艦の噂です』
『どんな深海棲艦なの?』
『恐ろしく強い深海棲艦だって話ですよ』
『うちの鎮守府は大丈夫かしら』
『それは大丈夫そうです、遠い鎮守府の話らしいので』
『そうなんだ』
こうして私は落ちた
どこまでも堕ちた
ただ毎日「ナニか」と戦う毎日
例えそのナニかが元々は仲間であれ関係ない
そこには感情も記憶も無かった
喜びもうれしさもないが
身を滅ぼすような痛みとも別れをつげられた
悲しみとおさらばする
これこそ平和というのではないのだろうか
毎日が同じ事の繰り返し
力をふるう毎日
意思も
記憶も
想いも
全てを捨てた
「―――達が」
誰かの声がする
「お前達がぁああああっ!!!!」
どこかで聞いたことのある声
あぁ…あの声は
その人は美しかった
かつて誰よりもあこがれていた人
その人は端整な顔を涙で濡らしている
怒りと憎しみ
そしてどこまでも深い悲しみの気持ち
ほかの深海棲艦は攻撃態勢をとった
その人はまるで鬼のように強かった
次々と深海棲艦を沈めていった
とうとう私が最後の一人になった
けれど私には必要ない
もう戦う必要はない
その人は泣きながら武器を構えた
そして私は理解した
あぁそういうことか
あの噂は本当だったんだ
あの噂はこういう事だったんだ
そうして私は振り上げた腕を下ろした
そうして加賀はにっこりとほほえんだ
――――END――――
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乙
提督はわかってて笑ったのか
赤城を思うとやるせないな
●
こっちだけじゃ何が何かよくわからなかったが2作読んで分かった
ただ時系列がイマイチよくわからないな…何にせよ乙
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