【らぶらいぶ】花陽「自分にできること」 (81)



◆うみぱな
◇シリアス展開ありかもしれません
◆違和感はことりのおやつに
◇のんびり書いていくのでよければ最後までお付き合いください

※前作:穂乃果「忘れちゃうなんてひどいよ」
(【ラブライブ】穂乃果「忘れちゃうなんてひどいよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419431590/))の続編ですのでそちらを先に読んでいただけると嬉しいです



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419733580



リンク先間違ってましたすみません!

穂乃果「忘れちゃうなんてひどいよ」
【ラブライブ】穂乃果「忘れちゃうなんてひどいよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419431590/)
になります



うみぱないいね~!

超絶期待

うみぱなキタコレ






ーー綺麗だと、思った。




誰にも屈せず、ただひたすらに想う人の背中を押す瞳が。

こんな素敵な人と出会えたこと、ましてや想いを寄せることができるなんて誇りたいぐらいだった。



想いを告げることなんて出来なくていいから、
せめて近くにいて、あの人が挫けそうになったときは優しく背中を押してあげたい。


最も、自分にも厳しくて文武両道が出来て礼儀正しいあの人が私なんかに背中を押させる日がくるわけないと思うけれど。


もし、もし出来ることなら
私が出来る精一杯で、私にできるすべての力であの人を守りたい。




私は知ってる。
その儚げな笑顔の理由も。

だから、振り向いてなんて言わないから。
せめて想いを寄せることだけでも許してくださいーー……


最初はね、ただ単に凄いなあってそう思ってたの。
あのキリッとした瞳に、強い意志。
弓道部とスクールアイドルを両立して成績も良くて、礼儀正しくて努力家で。


花陽じゃ到底追いつけないところに海未ちゃんはいて。
いつもみんなに指示して、引っ張ってそれ以上に何倍も自分には厳しくて。

憧れてた。
あんな風になれたらいいなあって。
鈍くさくて、誇れることはアイドルへの想いだけで秀でた特技もなくて。
平々凡々な花陽に映る海未ちゃんはいつだってキラキラ輝いていて。


いつからか海未ちゃんに認めてもらえるようにって努力するようになった。
もしかしたら、そのころから花陽は少しずつ海未ちゃんが別の意味で気になり始めてたかもしれない。


だけど、海未ちゃんの気持ちに気づかないほど花陽も鈍感じゃなくて。
きっと海未ちゃんは気づいてないんだろうけど、海未ちゃんの穂乃果ちゃんを見る目は他の誰を見る時の目より優しかったの。


それに気づいた時、何故か悲しい、っていう感情はなかった。
海未ちゃんには絶対に幸せになってほしいなって。ただただ花陽はそう願ってた。


だけど、花陽の意に反して穂乃果ちゃんは絵里ちゃんと付き合い始めた。

正直凄くお似合いだなあって思ったし、大好きな2人が本当に幸せそうで嬉しかった。
そんな中でも気になるのはやっぱり海未ちゃんのことで。

ふ、と視線を外して盗み見た海未ちゃんは例えるなら「嫁を送り出すお父さん」みたいな寂しそうな微笑みで2人に幸せになってくださいね、なんて言ってた。

海未ちゃんはこの先もきっと穂乃果ちゃんに想いを告げることはないんだろうな、って花陽でも分かっちゃった。
誰よりも穂乃果ちゃんを想っている海未ちゃんならきっとそうするかなって。


その日海未ちゃんは「ステップが不安なのでもう少し練習してから帰ります」と言って練習が終わった後屋上に残った。

だけどね、花陽は知ってたの。
海未ちゃんがステップ完璧なこと。
みんな、海未ちゃんがなんて珍しいねーなんて言ってぞろぞろと学校を出る。

でも、花陽はどうしても海未ちゃんが気になってみんなに嘘をついて屋上に戻った。
今海未ちゃんを1人には出来ない。
そう思って、屋上のドアを静かに開けたら、そこには声を押し殺して泣いている海未ちゃんがいて。






……こんな時ぐらい大声で泣いたらいいのに。
海未ちゃんはどうしてそんなに頑張っちゃうのかな。


なんでか花陽が泣きそうになっちゃって、こんなところを見たら何も知らないふりをして帰るわけにもいかなかった。


わざとらしくドアを開けたら海未ちゃんが真っ赤で潤んだ目を見開いて固まった。



「は、花陽!忘れ物ですか?」



そう言って、慌てて目を擦る海未ちゃん。
何も考えないまま、体が動くままに花陽は海未ちゃんを抱きしめた。


穂乃果ちゃんの代わりになろうなんて思わない。
海未ちゃんを励ましたり笑顔にできる力はきっと花陽じゃ役不足。
でも花陽にもそばにいることは出来るから。




「ひとりで、泣かないで……」




弱虫な花陽にはこう伝えるだけで精一杯だったけれど、海未ちゃんには伝わったみたい。
花陽の制服の上着を少しだけ握りしめてまた声を出さずに泣きだした。






…綺麗だと思った。
こんなに誰かを想って涙を流す海未ちゃんのことが。
そしてこの時思ったの。
海未ちゃんのそばにいたいって。
海未ちゃんを笑顔にしてあげたいって。


弱虫で誇れることがなかった花陽の2度目の決意。
1度目はμ′sに入れてくださいと穂乃果ちゃんにお願いした時。
そして2度目は穂乃果ちゃんに失恋した海未ちゃんの涙を見た時。


まだ誰にも言っていないけど、花陽がもっともっと頑張って海未ちゃんを支えたい。
そのために花陽は頑張ります。







帰り道、海未ちゃんと2人で歩きながらこれからのことを少し話した。
μ′sのこと、メンバーのこと、海未ちゃんが今まで抱えてきた想いのこと……



「穂乃果は昔から、元気で強引で明るくて。側にいると自然でいられるんです。
幼馴染みっていうのもあるんでしょうが、やっぱり私にとって穂乃果は特別でした。
辛い時も悲しいときも穂乃果も話していれば楽になりましたし、穂乃果を見ると私も頑張らなくてはと元気をもらえるのです。


……出来ればこれからずっと側にいて、お互い支えあいたいと思っていたのですが……絵里ならきっと穂乃果を幸せにしてくれるはずですし、もう思うことはありません」



そう言って笑う海未ちゃんを見たら胸がきゅーって切なくなって。
やっぱり花陽は海未ちゃんが好きだなあってそう思ったんだ。


なのに、「花陽は凛とどうなのですか?」なんて聞くからびっくりしちゃって。



「り、凛ちゃん!?どうして!?」
「どうして、って…花陽も凛もお互いのことを大切に思っているじゃないですか。」


もう付き合っているのですか?ってくすくす笑いながら花陽に問いかける。


……やっぱり花陽と凛ちゃんはそう見えるのかな。
確かにずーっとお友達で、花陽も凛ちゃんのことは大好き。
そばにいてくれると落ち着くし元気がもらえる。
だけど、花陽にとって凛ちゃんはお友達。
1番大切で大好きなお友達。



「凛ちゃんのことは確かに大好きだけど……花陽には好きな人がいるんだあ」


そう言って少し照れて海未ちゃんを見ると意外だ、というような目で花陽を見ていて。
うう…そんなに花陽たちはそんな風に見えるの?


「どなた、なんですか?」


そう呟いた海未ちゃんの声はいつもより低くて。
でもそんなの海未ちゃんに言えるわけないよね?
だって花陽の好きな人は海未ちゃんなんだもん。
だから、「えへへ……内緒ですっ」て唇に人差し指を当てて笑う。


そしたら海未ちゃんは少しきょとん、としてまた優しく「そうですか」と微笑んだ。

花陽は海未ちゃんのこの笑顔が大好き。
海未ちゃんの笑顔を見ると胸があったかくなる。
ずっと笑っててほしいなって、思ったんだ。



海未ちゃんに認めてもらうために、
少しでも海未ちゃんの力になるために。

それだけの思いで花陽は勉強も運動も部活も頑張った。



「花陽、最近頑張ってるじゃない」

ある日、真姫ちゃんが髪の毛をくるくるといじりながら褒めてくれた。


「ほ、ほんと?嬉しいなあ……!でももっと頑張らなきゃ」
「まったく……頑張りすぎはダメよ?」
「うん!真姫ちゃんは優しいね」
「べ!別に!ただ、花陽が頑張ってると思ったからよっ」


真姫ちゃんは素直じゃないけど、こうして人のことをよく見てくれている。
花陽は真姫ちゃんのそういうところがだいすき。

ふ、と横を見ると少し不機嫌…というか、寂しそうな、なにか不安そうな顔をした凛ちゃんがいた。


「……凛ちゃん?」
「かよちん、今日一緒に帰ろう?」
「うん、いいよ?」


最近走り込みする為に花陽だけ先に急いで帰っちゃっていたから凛ちゃんとは久しぶりに帰る。


「あ、じゃあ真姫ちゃんも一緒にーー」
「だ、だめっ!!」
「凛ちゃん……?」


真姫ちゃんと喧嘩でもしたのかな……?
考えてる暇もなく凛ちゃんは花陽の腕を引っ張る。


「り、凛ちゃん!?引っ張らないで……!」
「かよちんは今日凛と一緒に帰るの!」
「う、うんわかったから……!」


いつもと様子が違う凛ちゃんを見てたら花陽も不安になってきちゃって。
花陽は心の中で誰か助けてって叫んでいた。



「はぁ、はぁ……凛ちゃん…早いよっ…」


凛ちゃんに引っ張られるまま無我夢中で走って。
やっと手が離れた時にはもう花陽の家が目と鼻の先。

これじゃあ一緒に帰ったなんて言わないよ凛ちゃん……!


胸を押さえて息を整えていると、いきなりがしっと肩を掴まれて驚きのあまり飛び上がった。



「ぴゃぁっ!?り、凛ちゃん!?」
「……かよちん最近おかしいよ!!!」

「お、おかしい……?」
「うん、おかしい!運動苦手なかよちんが毎日5キロは走ってるし!苦手な数学の問題だってスラスラ解いちゃうし!大好きなおにぎりだって1日3個しかたべてないんだよ!?何かあったの!?」


「な、なにかあったっていうわけじゃ……ないんだけど……」
「かよちん嘘ついてるにゃ!指もじもじさせるのはかよちんが嘘ついてる時の癖だもん!ねぇ、凛には言えないことなのかよちん……」



そう言う凛ちゃんの目にはちょっぴり涙が滲んでて。
そういえば最近自分のことに夢中になりすぎて周りを見ていなかったかも。

凛ちゃん、きっと寂しかったよねごめんね。
……凛ちゃんにはちゃんと話そうかな。


花陽がこうして頑張っている理由。
花陽の好きな人。
きっと凛ちゃんなら応援してくれるはずだから。

だって、凛ちゃんは花陽の1番の友達だもん。

待ってました

うみぱな期待


………………




かよちんは、ずっとずっと前から凛の側にいた1番大切な友達。
……1番大切な、「友達」だと思ってた。



ついこの間。
穂乃果ちゃんと絵里ちゃんが付き合い始めて。
女の子同士で付き合うのって、凛にはなんだかピンとこなくて……っていっても男の子と付き合うのもいまいちピンと来ないんだけどね。


でも、付き合い始めた穂乃果ちゃんと絵里ちゃんはすーーっごく幸せそうで。
見ている凛もすーーっごく幸せになっちゃって。


ただ純粋に凛もかよちんとあんな風になりたいなあって思ったんだ。

かよちんの隣に凛がいて、凛の隣にかよちんがいて。
今までときっと変わらないんだろうけど、それでもいつまでも離れなくて。
ずっとかよちんが凛の隣で笑ってくれていたらいいなあ、なんて思ってたしこれからもずっとそうだと思ってた。




だけど、次の日からかよちんは変わった。
いつもより朝早く起きて走って、
いつもより早く学校に行って勉強して、
いつもに増して何倍も練習真剣にやって、
いつもより早く家に帰ってそこから走って
毎日予習復習かかさなくて。


いつの間にかかよちんは遠くに行ってた。

かよちんは、しっかりしてるけど引っ込み思案で声も小さくていつも凛が引っ張らないといけなくて……だけどそんなかよちんが大好きで。



なのに、今凛の目の前にいるかよちんはしっかり"しすぎ"てて。
凛の助けなんかもう要らないような強いかよちんで。

かよちんの口癖の「ダレカタスケテー」もめっきり聞かなくなった。


かよちんはどうしていきなり変わっちゃったのかな、何かあったのかな。
ならなんで凛に真っ先に話してくれないのかな……。

そう思ったらいてもたってもいられなくなっちゃって、かよちんの言葉を遮って強引に一緒に帰った。

帰ったっていうより走った、だけど……あはは。



息を必死に整えるかよちんに何があったのかと問い詰めると、その答えはいたってシンプルで。
だけど、絶対凛には考えもしないような言葉で。

かよちんはにっこりと笑って言ったんだ。





「好きな人ができたの」って。



頭を何かでガンって殴られたような衝撃だった。
一瞬目の前が真っ暗になって、言葉も出てこない。


「凛ちゃん……?」


かよちんの不安げな声で現実に引き戻される。
そこにはやっぱり不安そうな顔をして凛の顔を覗き込むかよちんがいた。



「かよちん……すきなひとって、だれ?」



きっと、かよちんの好きな人は凛じゃない。
もし凛が相手ならあんなに晴れ晴れした顔で笑うわけないもん。
あんなにしっかり、好きな人がいるなんて言うわけないもん。

かよちんのことこんなに知りすぎていなかったら少しは期待も持てたのかなあ。
……辛いな。


かよちんは、凛の目をしっかり見て照れたように笑って、

「花陽は海未ちゃんが好きなの」

って答えた。




……海未ちゃん。
凛なんかよりずっとずっと大人で、しっかりしてて、綺麗で女の子らしくて…頭も良くて……凛が勝てるところないぐらい完璧。
一緒のユニットに所属してる凛だから分かる。

かよちんが好きになるのも無理ない。
だってあんなに素敵な人なんだし……




「り、凛ちゃん……!?どうして泣いてるの!?」



かよちんに言われて凛が泣いてることに気づいた。
ほっぺを触ると確かにそこは濡れていて。
しかも相手がかよちんだから誤魔化しようもなくて。

だから、振り絞った声で凛はいったの。


「かよちんに想われる海未ちゃんは幸せにゃ」って。



「海未ちゃんならきっとかよちんを大切にしてくれると思うし、いいと思う!!かよちん幸せになってね!!」


そう言ってかよちんの手を握って、ぶんぶんと振るとかよちんはどこか少し寂しそうに困ったような顔で笑った。



「ありがとう凛ちゃん。でもね、海未ちゃんは穂乃果ちゃんのことがすきだから」



……それって、海未ちゃんもかよちんも叶わない恋をしてるってこと?
だって穂乃果ちゃんと絵里ちゃんは付き合ってるんだもんね?

なら。
凛も諦めなくてもいいかな。
かよちんがいつか海未ちゃんと幸せになれる日まで、凛はかよちんの側にいてもいいかな。

優しく背中を押せるように、今はまだかよちんのこと好きでいてもいいかな。



「うん……そっか。でも、かよちん諦めないでね、頑張ってね」

「うん!凛ちゃん本当にありがとう」



そっか、だからかよちんは頑張ってるんだ。
少しでも海未ちゃんの力になるために。

凄いなあかよちん。
凛も見習わなきゃ。



「凛もかよちん見習って頑張るにゃ!」



凛、頑張るよ。
かよちんが凛以外の人の隣で笑うその日まで。

笑顔で凛の隣卒業させてあげられるように。


だからそれまでは、
もう少しかよちんのこと好きでいさせてね。

………………


「花陽、最近頑張っていますね」

「ほ、本当!?」




凛ちゃんに想いを打ち明けてから一週間ほど経ったある日の放課後練習。

ふいに海未ちゃんが花陽を見て微笑みながらそう言った。


「みんな言っていますよ、最近の花陽は特に頑張っている、と。私も見習わなきゃなりませんね」



そう言って海未ちゃんの優しい手がふわっと頭を撫でる。

嬉しさがこみ上げてきて、思わず海未ちゃんに抱きつきそうになっちゃったけど、そこはぐっと我慢して。

でもやっぱりちょっと頬の緩みは隠せないかも……きっと今絶対花陽変な顔してるよ〜…!




「ですが、頑張りすぎはいけませんよ?適度な休息もきちんととってくださいね?」

「はいっ…!えへへ、海未ちゃんありがとう」



褒めてくれるだけじゃなく、体を気遣ってくれる海未ちゃんの優しさにまた頬が緩む。

今日の花陽は世界で一番幸せな気がしますっ
大袈裟じゃなく、本当に!



素直にありがとう、と気持ちを伝えると

「い、いえ!当たり前のことを言っているだけですから……」

と、顔を赤くする海未ちゃんも可愛くて。
もっと頑張りたいなって思ったんだ。





「そういえば……穂乃果と絵里と希が来ていませんが…誰か何か聞いていませんか?」


「ことり穂乃果ちゃんと一緒にいこうと思ったらもう居なくて…」

「絵里は今日学校に来てなかったわ。希も午後からいなかったし……」

「にこちゃん、2人に何かあったのかにゃ?」

「何かあったらにこちゃんが教えてくれるはずでしょ」



ぐるり、と見渡してみても3人の姿はなくて。
放課後になってもう30分以上経っているし、3人とも連絡なしに休む人たちじゃないし、何より誰も理由知らないのはおかしい……よね……。

結局何もわからないまま、3人が練習に来ることもなくその日の練習は終わってしまった。


海未ちゃん、穂乃果ちゃんいなくて寂しそうだったな……


「かーよちんっ、一緒にかーえろ!」

「う、うんっ」



いくら海未ちゃんのことが好きで気になるって言っても、凛ちゃんのことおろそかにするわけにはいかないよね。

きっと花陽じゃ穂乃果ちゃんの代わりにはなれないし、ことりちゃんも一緒だから大丈夫だと思うし。




「久々にかよちんと帰れて嬉しいにゃー」

「ふふっ、私もだよ凛ちゃん」


凛ちゃんは花陽と違って本当に素直で可愛い。
ちょっと羨ましいかも……えへへ



「それにしても、なんで今日穂乃果ちゃんも絵里ちゃんも希ちゃんもいなかったんだろうね」

「そうだね……何かあったのかなあ?」



やっぱりなんの連絡もなしに休むなんて今までなかった事だし、何かあったんじゃないかって心配な私たち。

ちょうどその時、目線の先に山吹色のサイドテールが見えて。


「あ!あれ穂乃果ちゃんじゃないかにゃ!?」

「本当だ!あれ…でも穂乃果ちゃんのお家こっちじゃないよね……?あっちって確か病院……」


まさか穂乃果ちゃんに何か……?

目を凝らしてよく見てみると、そこには今まで見たことないくらい悲しそうな顔をした穂乃果ちゃんがいて。



今はそっとしておこう、と凛ちゃんに言おうと口を開いた瞬間、凛ちゃんは穂乃果ちゃんの元にダッシュしてしまっていた。
慌てて花陽も後を追いかけた。



「あー!穂乃果ちゃん!なんで今日練習こなかったにゃ!」

「希ちゃんも絵里ちゃんもいなくて………穂乃果ちゃん?なにかあった?」




近くで見た穂乃果ちゃんは遠目で見たよりずっとずっと悲しい顔をしていた。
それはもう、息がつまるくらいに。

だけど、穂乃果ちゃんは無理やり笑って店番の用事がある、と言って走って行ってしまった。


穂乃果ちゃん、ずっと私たちを見つめて何か考えているみたいだった……。


「穂乃果ちゃん…元気なさそうだったにゃ…」


いつも元気な穂乃果ちゃんがあそこまで元気がないのは確かにかなり珍しいから、凛ちゃんも相当なショックを受けてたけれど。


「……よーしっ、凛、穂乃果ちゃんのこと元気にしてあげるにゃ!!」


そう言って花陽の腕を引っ張って走り出した。
凛ちゃんらしいな、なんて心で笑いながら花陽も凛ちゃんに続いて走る。


花陽も何か穂乃果ちゃんにしてあげられたらいいな。


けれど、次の日もその次の日も穂乃果ちゃんは練習にくることはなかった。

穂乃果ちゃんだけじゃなく、希ちゃんも絵里ちゃんも。


穂乃果ちゃんたちが来なくなって1週間経った頃、練習の雰囲気は最悪になっていた。

みんな落ち着かなくて、海未ちゃんもことりちゃんもそわそわしていて。

花陽も凛ちゃんも、真姫ちゃんもどうしていいかわからなくて、にこちゃんはため息をついて先に帰ると言って屋上を出て行ってしまった。



「……今日はもう終わりにしましょう」
「えー!?まだ柔軟しかやってないにゃ!」

「 凛、仕方ないわ……こんなにバラバラになってちゃ……」
「ごめんね凛ちゃん……ことりたちもちょっと混乱してて…」



確かにまだ練習を始めて30分も経っていなかったけれど、空気が重すぎてそれどころじゃないのはよく分かっていたから海未ちゃんの判断は正しいと思った。

つまらなそうにする凛ちゃんを真姫ちゃんとことりちゃんがなだめている。


穂乃果ちゃんの事情は幼馴染の海未ちゃんやことりちゃんも知らないらしかった。

にこちゃんも、希ちゃんと絵里ちゃんのことは知らないと言っていたしまるで連絡もつかないらしい。


何もできないまま、これからμ′sはどうなっちゃうのかな、って焦りと不安が心にまとわりついたままその日は帰宅した。



お風呂から上がると、携帯が通知を音と振動で伝えた。

「海未ちゃんからメール…?」


『話があるので明日の放課後必ず屋上に集まってください。』



それは穂乃果ちゃん、希ちゃん、絵里ちゃんを除いたメンバーに送られた事務的なメールだった。

穂乃果ちゃんのこと、何かわかったのかな……?

とりあえず明日にならなきゃわからないよね、今日はもう寝よう。


………………


次の日の放課後。
海未ちゃんのメール通り、みんなが屋上に集まった。
けれど、昨日と違うのは希ちゃんがここにいること。
希ちゃんも随分疲れた顔をして落ち込んでいた。




「…昨日、穂乃果ちゃんが倒れたの」


最初に口を開いたのはことりちゃん。
ことりちゃんの言葉にみんながざわつき始める。

「倒れたってどういうことよ?」


にこちゃんが険しい顔をしながら、ことりちゃんに詰め寄った。
すかさず海未ちゃんが助け舟を出す。



「絵里が、事故に遭ったそうなんです。目立った外傷はないそうなのですが、ただ…事故の後遺症で記憶がない、いわゆる記憶喪失に陥っているらしいのです。

当然、恋人である穂乃果のことも忘れてしまっていて…なんとか思い出して貰おうとここ1週間毎日病院に通い詰め、無理をしすぎて倒れてしまったのです。

幸い私がその場に居合わせたのでことりと3人で私の家で休養をとらせました。」




絵里ちゃんが事故に遭って…記憶喪失……?


余りにも現実離れした話に花陽の頭はついていかなかった。

真姫ちゃんは海未ちゃんの話を聞くと、思い立ったように少し席を外すと言って屋上を出て行った。



「絵里ちゃんが事故…記憶喪失……大丈夫なのかにゃ…」



仲間であり、友達である人の事故。
外傷はないと口で説明されてもやはり不安なものがある。

加えて記憶喪失。
花陽たちのこともμ′sのことも覚えていないってこと……?



もしかして。
穂乃果ちゃんがあの時あんなに悲しそうな顔をしていたのはこれが原因だったのかな…?


「パパに聞いたら目立った外傷もないしそんなに深刻じゃないみたいよ。今混乱してるだけの可能性が高いって」


真姫ちゃんは、お医者さんである真姫ちゃんのお父さんに電話をかけていたらしい。
屋上に戻ってくるとそう私たちに告げた。


さすがにお医者さんの言葉もあって、不安な気持ちは少し紛れる。
それはみんなも同じみたいで、ほっと息を吐いていた。



「まったく…そういうことはもっと早く言いなさいよね!なんで隠してたのよ希!」


と、今度はにこちゃんの言葉の矛先が希ちゃんに向けられる。

希ちゃんもずっと絵里ちゃんのお見舞いに行っていたみたいで、状況は把握しているらしかった。
そう考えると確かに、にこちゃんからしてみたら同じ3年生で何も言われなかったのは凄くショックだったのかも。


「心配かけるかなって……」

と、希ちゃんは気まずそうに俯く。


「それはそうですが、言ってもらえないほうがショックなのですよ?私達は9人でひとつなのですから」
「そうよそうよ今更にこたちに遠慮は無用なのよ!」
「にこちゃんはもうちょっと遠慮したほうがいいと思うにゃー」
「ぬぁんですって!?」



状況を知って、少し余裕が出てきたみたい。
海未ちゃんの提案で今日はこれから絵里ちゃんのお見舞いにいく事になった。


けれどみんなが個々に屋上を出ていく中、希ちゃんだけは何かを考えているみたいに立ち尽くしていた。

不審に思ったであろう海未ちゃんが声をかけると、腑に落ちないような顔をして花陽たちの後を追ってきた。

希ちゃんは、まだ他にも隠してることがあるんだなって直感的にそう思った。

きっと、すごくすごく、大切なこと……



更新遅くて申し訳ないです……

今書いているところは前作とシンクロしている部分なので両視点から見ていただけるとより楽しめると思います。

まだまだ序章なので頑張って書きます!
よければ最後までお付き合いください。

乙です

期待



それから他愛もない話と絵里ちゃんの安否を気遣いながら病院へ急いだ。

道中でもずっと希ちゃんは何かを考えているようで話に入ってくることはなかった。



病院につくと、既に穂乃果ちゃんが待合室に座っていて合流した。
昨日倒れた、という話の通り穂乃果ちゃんの顔色は悪く心配したことりちゃんがずっと手を握っていた。


真姫ちゃんから絵里ちゃんの病室番号をきいて、いつもと変わらず元気な凛ちゃんに引っ張られながら花陽たちは絵里ちゃんに会いに行った。




「えりち、みんな連れてきたで」


そう言って希ちゃんがガラッと病室のドアを開くと、そこには思ったより元気そうな絵里ちゃんの姿があって。


「待ってたわ、希!」

ベッドから身体を乗り出して絵里ちゃんは目を輝かせた。


その様子に感極まったのか絵里ちゃんの元に駆け寄る海未ちゃんのその瞳には涙がたまっていた。



「絵里…!もう怪我はいいのですか?無事でよかったです本当に…」


絵里ちゃんに抱きつきながら声を振り絞って海未ちゃんがそう言うと、絵里ちゃんは海未ちゃんの頭を撫でながら

「海未…心配かけてごめんなさいね。このとおりもう元気よ」

と言った。
その言葉にみんなハッと顔をあげて絵里ちゃんを見た。


今、海未ちゃんのことを名前で呼んだ…?



「え、絵里…今、私のこと……」


海未ちゃんも信じられない、という目で絵里ちゃんを見つめた。

その時、
「絵里ちゃん思い出したにゃ!?」

凛ちゃんが海未ちゃんを押しのけて絵里ちゃんに抱きついた。


頬ずりをしながら人懐っこく絵里ちゃんを抱きしめる凛ちゃんに絵里ちゃんは戸惑いながらも嬉しそうに笑った。


「わ……!ちょっ、凛いきなり抱きついてきたらびっくりするじゃない!ふふ…」


「わーい!!記憶喪失になったって聞いたときは、どうしようかと思ったけど!思い出してくれてよかったにゃ……!!」



凛ちゃんもすっごく嬉しそう。

どくんどくん、と緊張感で心臓を脈打たせながら花陽は手元にあるお見舞い品をぎゅっと握りしめて絵里ちゃんの前に立った。



「え、絵里ちゃんこれ…っ!お見舞い…こんなものしか用意できなかったけど…」


握りしめていたお見舞いの花の籠を絵里ちゃんに差し出す。
もしかしたら、花陽のことは覚えていないかもしれない…そう思うと顔はあげられなくて、固く目を瞑る。

けれど、花陽の耳に聞こえてきたのは


「あら、可愛らしくて綺麗なお花。ありがとう花陽。飾らせてもらうわね?」


という優しい言葉。



それは、いつもの絵里ちゃんで。
確信した花陽の目からは後から後から涙が溢れてきて、とうとう声をあげて泣いちゃった。


「〜っ…!う、うわああああんっ!よかった…!思い出してくれてよかったよぉ…!」


安心した、よかった。
人目をはばからずに涙を流す花陽を見て真姫ちゃんとにこちゃんも泣きそうになっていて、それを絵里ちゃんにからかわれていて。


ことりちゃんが作った人形を大事そうに抱きしめてお礼を言う絵里ちゃんにことりちゃんも少しだけ目を潤ませて笑っていた。



あと名前を呼ばれていないのは入り口に立っている穂乃果ちゃんだけ。
穂乃果ちゃんも嬉しそうに絵里ちゃんに話しかけようとする。


「絵里ちゃー…」




その時、かつて聞いたことのない絵里ちゃんの低い声が場を凍らせた。







「……あら…貴女海未たちの知り合いだったの?」


「「「「「「!!!!!?」」」」」」



絵里ちゃんのその一言を聞いた瞬間、皆の顔か強張って。

希ちゃんだけは、苦虫を噛んだような顔をして目をそらしていたからきっとずっと悩んでいたのはこのことで、希ちゃんは知っていたんだなって悟ったけれど…。

当の穂乃果ちゃんは何が起こったか分からないというようにただ絵里ちゃんを見つめていて。





「え、絵里…何を言ってるのですか…?穂乃果ですよ?μ′sのリーダーの穂乃果ですよ?」


声を震わせて海未ちゃんが絵里ちゃんに説明するも、

「…μ′sは希が作ったんじゃなかったかしら」


と冷たい声で返されて。
それに対して希ちゃんは


「えりち!?ウチはそんなん違うって昨日言ったやんな!?」


と声を荒げて反論した。
凛ちゃんも希ちゃんの言葉に便乗して反論するが、その目にはさっきとは違う涙がたまっていて。


「そ、そうにゃ!!μ′sは穂乃果ちゃんが作ったんだにゃ!さすがに絵里ちゃん冗談きついにゃ…!」





「そうよ…!大体穂乃果のこと絵里が忘れるわけないじゃない!だって穂乃果は絵里の恋びー…」


にこちゃんも焦ったように言葉を紡ぐ。
そう、にこちゃんの言う通り穂乃果ちゃんと絵里ちゃんは恋人。

なのに忘れるなんて、そんなのちょっと…ううん、だいぶひどいよ絵里ちゃん……!





「もうやめて!!!!」




またもや病室が静寂に包まれる。
声の主は息を切らせて肩を上下させるーーー穂乃果ちゃん。

その顔はうつむいていて見ることができない。
泣いているのか、怒っているのか花陽にはわからなかった。


取り乱した穂乃果ちゃんをなだめるように希ちゃんが穂乃果ちゃんの腕を引く。


「ほ、穂乃果ちゃん、落ち着き?な?えりちやって今混乱してるだけで…!」

「もういい!!!聞きたくない!!絵里ちゃんのうそつき!ばか!だいっきらい!!!!」


けれど、その腕を振り払って穂乃果ちゃんはそう叫ぶと病室を勢いよく飛び出して行ってしまった。



「穂乃果!待ってください穂乃果!!追いかけますよことり!」
「う、うんっ」


すかさず、海未ちゃんとことりちゃんが穂乃果ちゃんを追いかけて、気まずい空気の中私達は残された。



「な、なにがどうなってるのよ……なにこれ…エリーが穂乃果のことだけ覚えてないなんて」


真姫ちゃんもこんなの聞いてない、というように目を見開いている。

頭の中がぐちゃぐちゃな花陽はただ
「……誰か、助けて……」 とつぶやくしかできなかった。



「………絵里、本当に覚えていないの」


重たい静寂の中、1番先に口を開いたのはにこちゃん。


「冗談なら今すぐ謝って」

「冗談じゃないことぐらい分かるでしょう?」

「…っ!!」



この後に及んで、穂乃果ちゃんのあんな姿を見て冗談なんてことはないと誰もが知っていたけれど、願わずにはいられなかった。

だって、穂乃果ちゃんを見る目はすごくすごく冷たくて。
間接的に見た花陽ですら鳥肌が立ったぐらい。



「…なんで、穂乃果のこと忘れちゃったのよ絵里」


にこちゃんが声を震わせて拳を握る。
それは今にも絵里ちゃんに手を出しそうな勢いでハラハラしながらにこちゃんと絵里ちゃんを見ていた。



「なんでよりによって穂乃果なのよ!!!穂乃果はあんたの恋人だったでしょうが!!1番最初に思い出さなきゃいけないでしょ!?」

「にこっち!!刺激するような言葉は言わんといて……!」


「や、やめてよ……にこちゃんもエリーも…」


いつも強気な真姫ちゃんが泣きながら立ち尽くしていて、凛ちゃんも声を出さないままただ泣いていて。


不審な顔をする絵里ちゃんを見て、希ちゃんも、にこちゃんも、もちろん花陽も何も言えずにただ泣いて。

泣いたって絵里ちゃんが穂乃果ちゃんのことを思い出してくれるわけじゃないことは重々承知の上だったけれど、花陽たちは無力で…そうすることでしか自分を落ち着けることができなかった。



「今日はもう、帰るな?また明日来るわ」

「えぇ……あの、希」

「ん?」

「もう、あの子を連れて来ないでくれると嬉しいんだけど…」


全員が信じられないという顔で絵里ちゃんを見ると気まずそうに視線をずらした。

「……考えとくな」

希ちゃんの沈んだ返事を合図に花陽たちは病室を後にした。



帰りの路地を歩く花陽たちはみんな無言だった。
目を赤くして、鼻水を時々すすって。

みんな思ってることは同じのはずなのに、誰も口を開こうとはしなかった。



「じゃあ、ウチはここで」
「…どうするつもり」


分かれ道で気まずそうに希ちゃんが言うと、にこちゃんが食ってかかる。


「どうする、って?」
「決まってるじゃない。絵里のことよ、このままでいいわけないでしょ」


にこちゃんの言うことはわかるけど、今のままじゃ花陽は元に戻らない気がした。



「急いでも、仕方ないわよ」
「真姫……」


ずっと黙っていた真姫ちゃんも口を開く。
それにつられて花陽も思いを口にした。


「真姫ちゃんの…言う通りだと思う…。
無理に思い出させようとしても絵里ちゃんは思い出せないと思うし、何より今は穂乃果ちゃんの方を優先したほうがいいんじゃないかなあ……」

「凛も、そう思うにゃ…今は穂乃果ちゃんが心配にゃ」

「私もそれには賛成」

「ウチも、今は穂乃果ちゃんをなんとかしたい」

「……分かってるわよ、でも穂乃果の幸せにはやっぱり絵里が必要なんだもの…」

「そこは順番にやっていったらええやん?まだ時間はある」


結局、花陽たちは穂乃果ちゃんの気持ちを優先することを決断してその日は別れた。


凛ちゃんと並んで歩くこの道もいつもより足が重たい。
それは凛ちゃんも同じみたいで重たい足と空気のまま無言で歩いていた。



何か話題を出そう、という気持ちにもならず淡々と足を前に出す。

もう少しで花陽の家という時、いきなりぴたっと凛ちゃんの足が止まった。



「……凛ちゃん?」

「かよちんは、さ。凛がかよちんのこと忘れたらどうする?」



少しだけ震えていた凛ちゃんの声。
無理に笑うこともせずに俯いて花陽の言葉を待っていた。


もちろん、凛ちゃんが花陽のこと忘れるなんてそんなことはないと思いたい。
忘れても思い出してくれると思いたい。

……けれど、そんな言葉は恋人である穂乃果ちゃんを忘れてしまった絵里ちゃんを目の前で見た手前気休めでしかないことはわかっていた。




「もう一度、友達になるかな」


凛ちゃんが顔を上げて花陽の目を見つめた。


「かよちん…」

「すぐには無理かもしれない。だけど、こんなに仲良くなれたんだからきっとまた仲良くできると思うんだ」

「も、もし凛がかよちんのこと突き放したら……?」

「花陽は諦めない。嫌われても頑張ってまた凛ちゃんと友達になる!」



綺麗事にしか聞こえないかもしれない。
だけど、これが精一杯の花陽の気持ちだった。

難しいことなのはわかってる。
どんなに辛いことなのかも。
だけど、凛ちゃんは花陽の1番の友達だから…諦めて失くしちゃうほうが嫌なんだ。


「かよちん……」

凛ちゃんは一粒、大きな涙をこぼすと優しく花陽を抱きしめた。


「凛も、同じ。もし、もしかよちんが凛のこと忘れちゃってもまた友達になる。またこうやってかよちんの1番の友達になれるように頑張る」


制服越しでもわかる凛ちゃんの温かいぬくもりを感じながらそっと目を閉じる。

絶対なんて有り得ない。

だけど、もしかしたら不可能を可能にすることはできるかもしれない。


なら、自分が出来ることを今はしっかりやろう。
誰かに迷惑をかけないように。


「じゃあ、またね凛ちゃん。また明日」

「うん、また明日にゃ!」


さっきよりすっきりした顔をして笑顔で手を振る凛ちゃんを見届けて、花陽も家に入った。



けれど、次の日もその次の日もまた穂乃果ちゃんは練習に来なくて。

これじゃあ何もしてあげられないじゃない、ってにこちゃんが悔しそうにしていた。


もちろんそれはみんな同じ気持ちで。
毎日毎日穂乃果ちゃんが来るのを待っていたけれど、結果は同じで自分たちの無力さを知った。




穂乃果ちゃんが練習に来なくなって4日目。
花陽はたまたま中庭にいる穂乃果ちゃんを見つけた。


「ほ、穂乃果ちゃ……、っ!」


そこには、目の焦点が合わず、頬がやつれていつもの元気など微塵も感じられない穂乃果ちゃんがいて。

あんなに美味しそうに食べていたランチパックをただ、ぼーっと眺めているだけで。


……あんなの、穂乃果ちゃんじゃない、と反射的に思ってしまった。

もちろん、そこに海未ちゃんもことりちゃんもいなくて。

ただひとり、沈んだ顔をして体を酷使してるであろう穂乃果ちゃんに声をかけることはできなかった……。



予想以上に穂乃果ちゃんはもうボロボロで。
けれど、きっと誰にも頼ってなくて。

これは、みんなに知らせなきゃ、と早く放課後になることを祈った。







その日の放課後。
案の定穂乃果ちゃんは練習に来なくて、凛ちゃんは落ち込んでいた。

ことりちゃんも海未ちゃんも、あまりに変わり果てた穂乃果ちゃんの姿に戸惑い声をかけられなかったと言った。


もちろん花陽も、昼に中庭でみた光景をみんなに伝えた。

真姫ちゃんはお医者さんである真姫ちゃんのお父さんも例を見ない症状だと言っていたと話した。


その時、にこちゃんがふと希ちゃんを見て……ううん、睨んで
「希。あんた知ってたんじゃないの?」と言葉を吐いた。



希ちゃんは気まずそうに、知っていた、と答える。
その言葉を聞いて、それまで黙っていた海未ちゃんが火を切ったように希ちゃんに詰め寄った。




「なら何故先に言わなかったのですか!!希は何故いつも大事なことを後回しにしてしまうのです!?」



「言ったってみんな信じへんやん!?穂乃果ちゃんのこと"だけ"忘れてるなんて!よりによって穂乃果ちゃんやで!?ウチだけやない、みんなやってウチと同じ立場やったら言えたん!?!?」


「ちょ、ちょっと海未も希もやめなさいよ!私達で仲間割れしてどうするのよ…!」

「凛、もう頭痛くなってきたにゃ……」




海未ちゃんの言葉に希ちゃんが反論する。

また口論になるのを抑えるために真姫ちゃんが慌てて止めるけど、それでも空気は最悪だった。

凛ちゃんは屋上の端っこで縮こまっている。



希ちゃんの言う通りだ、
全てを知っている状態で穂乃果ちゃんだけ絵里ちゃんに合わせなかったとしても、結果的に何かしらのきっかけで穂乃果ちゃんは知ってしまうだろう。

事実を突きつけられてもなかなか認められなかった花陽たちが、話だけ聞いても絵里ちゃんが穂乃果ちゃんだけを忘れているなんて信じることはできなかった。


それには海未ちゃんも納得せざるを得なかったみたいで黙ってしまう。



穂乃果ちゃんが来なくなって4日目。
何も変わらず、今日も何もしないまま部活は終了してしまった……。



「かよちん……μ′s、どうなっちゃうのかな…」


2人で帰るいつもの道。
最近はずっと凛ちゃんと帰っていた。


「…わかんないよ……」



とぼとぼ、と。
重たい空気の中、足を規則的に動かして。

ぽつりと呟く凛ちゃんの言葉は花陽自身も思っていたこと……。


絵里ちゃんは穂乃果ちゃんのことを覚えていない。
穂乃果ちゃんは練習に来ない、しかもあんな状態で。

花陽たちだって、今日は仲間割れのような口論までして。


正直この先上手くやっていけるのか、
μ′sはこのままもう終わってしまうんじゃないかっていう不安は消えるどころかどんどん大きくなっていた。



「凛は、やっぱりμ′sのみんなのこと大好きにゃ……だから、9人揃ってないと嫌だ…」

「それは当たり前だよ凛ちゃん、私たちは9人でμ′sなんだもん」

「でも、このまま絵里ちゃんが穂乃果ちゃんのこと思い出さなかったら…どうなっちゃうのかな……」

「……」



考えていなかったわけじゃない。
けれど、意識的に考えないようにしていた。

花陽たちは個々に記憶喪失について本やネットなどで調べていた。
だけど、そこには1人だけを忘れるなんて症状の解決法はいくら探しても無くて。


正直諦めざるを得ないところまで追い詰められていた。



「…暗くなってても、仕方ないのは分かるよ。でも、凛不安で。このままみんなバラバラになっちゃうんじゃないかって不安で」

「うん……分かるよ…」


きっと、みんな今同じ気持ち。
何かしたくて、でも何もできなくて。

穂乃果ちゃんが、絵里ちゃんが、μ′sが……これからが心配で。



「……また、ね。かよちん。」

「うん、また明日ね」



いつものように手を振るけど、お互いの顔は随分曇ったまま。

もやもやを胸にしまいこんで、花陽も自分の部屋に急いだ。

踏み台君か




かよちんを見送った後、凛は流れ出てくる涙を隠しながら自分の部屋に駆け込んだ。


今日までの整理しきれない出来事がぐるぐると頭を回る。



絵里ちゃんの事故、記憶喪失。
穂乃果ちゃんの気持ち、μ’sのみんなの焦りと不安。

どれだけ考えても凛には解決策が浮かばなくて。
もし、μ’sが離れ離れなんてことになったら……



凛も、みんなと同じように記憶喪失について調べたけど絵里ちゃんみたいな症状は本当にごく稀で、本人の意思によるものも多いらしい。


今の絵里ちゃんは穂乃果ちゃんのこと好きじゃなくて、逆に迷惑に思っているように思う。
だとしたら無理に思い出させるのは逆効果。





もし、かよちんが凛のこと忘れちゃったら。
凛のことだけ忘れて、凛のこと嫌いになったら。

凛は諦めずにかよちんと話せるかな。

あんなに前向きで元気な穂乃果ちゃんでもあんな風になっちゃうのに……



「ううん、かよちんは凛にまた友達になるって言ってくれた。……凛も同じ気持ち。」




そう、かよちんはいつだって凛に元気をくれる。
かよちんのこと想うだけで凛は強くなれる。



「……ありがと、かよちん」


今日は笑顔で手を振れなかったけど、明日はちゃんと笑っておはようって言おう。


そう意気込むと同時に携帯の着信音が鳴り響いた。



「かよちん……?」


メールの差出人はかよちん。
開いてみるとそこには、

『明日は先に行ってて』という事務的な連絡。




「……出鼻、くじかれちゃった感じ…」




分かった、と返事をし、携帯をベッドに放り投げて自分もベッドにダイブ。


はぁー、と大きなため息。




「……きっと、海未ちゃんのことなんだろうな…」


穂乃果ちゃんだけじゃない。
みんな疲れた顔をしていた。

けれど、その中でも海未ちゃんの疲れ方は異常で、今にも倒れそうなくらいだった。



「かよちんは海未ちゃんが好きなんだもんね…そりゃあ放ってはおけないよね」



少しずつ、少しずつ凛とかよちんの距離が開いていく。


少しずつ、少しずつかよちんは凛から離れていく。


寂しくて、悲しくて、引き止めたいけど。
かよちんは海未ちゃんのために一生懸命で、
そんなところを見て凛が止めるなんて出来っこない。


けれど、手放したくない。
ずっと一緒に居たい…

行き場のない気持ちだけが、ぐるぐると心を支配していく。


目を閉じ2度目の大きなため息をついて、凛はベッドに身体を預けた。




いつもより早起きして、花陽は神社に向かった。
そこには、予想どおり疲れた顔をしながら走り込みをする海未ちゃんがいた。



「やっぱり……」



昨日、部活の時から気になっていた。
酷く疲れた顔をしてしんどそうに身体を動かす海未ちゃんのこと。

あの様子だとおそらく寝ていない、
それどころか更に身体を酷使している。


無理をするな、と
適度の休息は必要だと、そう言った海未ちゃんが一番無理をしている。


そんなのは見過ごすわけにはいかない。
穂乃果ちゃんに続いて海未ちゃんまで倒れてしまったらますますμ’sは大変なことになる。



だからーー……




「っ海未ちゃん!!」
「は、花陽!?こんな朝早くにどうしたのですか?」



「海未ちゃん、もう休んでください……!!今の海未ちゃん凄く疲れた顔をしてる…」

「花陽……ダメですね、私も…後輩にこんなに心配させてしまっては…」

「じゃ、じゃあ……!」

「ですが、休むわけにはいきません」

「!!?…ど、どうして…!」

「…穂乃果の為に、何かをしたいのです。私に何の力もないのはわかっています……けれど、あんな穂乃果を見過ごすわけにはいきません。

穂乃果には笑っていてほしい、それに絵里や穂乃果が戻ってきたら何の不自由もなく練習出来るようにしなければ…そのためには一刻も早く絵里に穂乃果を思い出して欲しいのです!そのためなら私はどんな努力も厭いません!」




胸が、ぎゅぅっと締め付けられる。
穂乃果ちゃんのことを真剣に考えて、こんなにこんなにボロボロになってまで頑張って…



「けれど、そこまで周りに分かるほど疲れていたとは…やはり休息も必要なんですね。少し、休むことにします。……花陽?」




そんな海未ちゃんに今花陽が出来ることは……



「手伝わせて、ください」

「花陽?」

「海未ちゃんが今頑張っていること…花陽にも手伝わせて!!1人で頑張らないで、花陽に頼ってください…!」

「で、ですが……後輩である花陽に迷惑をかけるわけには…」



「迷惑なんかじゃないですっ!!!海未ちゃんが穂乃果ちゃんの力になりたいように、花陽も海未ちゃんの力になりたい!

もうこんなに疲れて悲しそうな顔をしてる海未ちゃんを見たくないの…!
迷惑は極力かけませんっ……だから、花陽にも何かさせてください!お願いしますっ」



μ’sに入りたい、と穂乃果ちゃんにお願いした時と同じように胸を張って海未ちゃんの目をしっかり見て出来る精一杯で思いを伝える。


こんなの、海未ちゃんからしたらただのおせっかいかもしれない。
けれど、今の花陽に出来ることはこれしかないから…!




「……花陽は、優しいのですね。では、情けないですが少しだけ頼ってもよろしいですか?」


そう言うと、海未ちゃんは花陽に座るように促し、海未ちゃんも続いて座ると花陽の肩に頭を乗せて眠り始めた。



綺麗な寝顔を見つめながら、さっきの海未ちゃんの言葉を思い出す。


「……優しくなんか、ないよ」



海未ちゃんのことが、好きだから。
大好きで心配だから、そばにいて支えたいの。

花陽の我が儘なんだよ、ごめんね。



綺麗な髪の毛を手のひらでさらさらと弄びながら心の中で謝罪をして、花陽はこれから出来る限り海未ちゃんの力になることを誓った。






「花陽、あなた最近ずっと海未と一緒に何かしてるけどどうしたの?」

「ま、真姫ちゃん!なんにもないよ?ただお手伝いしてるだけっ」

「海未の手伝い……?花陽、前から気になっていたんだけれどあなた海未の話すると凄く嬉しそうにするわよね…」

「え、えぇっ!?そうかなぁ……花陽そんなわかりやすいかなあ……」




休み時間。
真姫ちゃんがかよちんに最近気になっていたであろうことを聞いている。

凛も2人の側で会話に耳を傾けていた。



真姫ちゃんの言う通り、海未ちゃんの名前を出すとかよちんはいつも嬉しそうな顔をする。

今なんか、顔を真っ赤にしてほっぺをおさえて……
そんな、そんな行動…そんなの…



「……分かりやすすぎだよ」


ぼそっ、と。
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟く。

かよちんは無防備すぎ。
そんな行動凛の前でしないでよ。


かよちんは悪くないのに
どんどん、どんどん嫌な気持ちが心に溜まって涙がにじむ。



「?凛ちゃん?どうしたの?」

「……あら花陽、愛しの海未がお迎えに来てるわよ?」

「真姫ちゃん……!恥ずかしいからそんなこと言わないでよ〜……!ちょっといってくるね!」

「はいはい」



タイミングよく、かよちんは席を外してくれた。
きっと真姫ちゃんは勘がいいから気づいてるんだろうなあ。

気づいてて何も言わないんだ。
……優しい、真姫ちゃん。



ふと、凛の頭にふわっと手が乗って。
子供をあやすように優しく撫でる。

……それは、真姫ちゃんの温かい手。



「後で話、聞いてあげるから。」
「……っ」


意地っ張りな真姫ちゃんの優しさに更に涙が溢れて、こくり、と頷くのが精一杯だった。

………………


「…そう」


その日の練習後。
いつもみんなで行くファーストフード店で真姫ちゃんと2人、向かい合わせに座って話を聞いてもらった。


かよちんは海未ちゃんのお手伝い。


何をしているかは分からないけれど、
あのメールの日からもう4日。

かよちんは海未ちゃんとずっと行動している。
凛といる時間は教室にいる時と練習の時ぐらい。
朝も帰りもかよちんは隣にいない。


それが凛にとって、どれだけ悲しくて寂しくて辛いことか。
かよちんには、…海未ちゃんのことが好きなかよちんにはきっと分からないんだろうな。



「凛は」
「……?」


凛の話を聞き終わってからずっと黙っていた真姫ちゃんが口を開く。


「凛は、花陽の何処が好き?」

「……かよちんの、好きなところ……いっぱいあるけど、やっぱり凛は笑ってるかよちんが一番すきにゃ!
普段弱々しいけど、いざという時はしっかりしてるとこも、アイドルに凄く憧れてるところも、恥ずかしがり屋なところも!

ついついお米食べすぎちゃってぷにっとしてるかよちんも大好きにゃ!!」



ばん!と勢いよくテーブルを叩いて熱弁してしまう。
はっ、と我に返って顔が赤くなるのを感じながら気まずさの中、席に着く。

目の前を見ると、真姫ちゃんは優しい顔をして微笑んでいて。



「じゃあ、どうやったら花陽がずっと笑っていられると思う?」


「そ、そんなの!そんなのかよちんが幸せになれば笑ってられるに決まってるにゃ!!

かよちんが幸せなら凛も幸せだもん!
凛は海未ちゃんのことが好きで一生懸命頑張ってるかよちん、凄いと思うし尊敬してる!

叶わないかもしれない恋に努力してるかよちんは強いと思うし、海未ちゃんの話してる時の笑顔は世界一可愛いと思うし凛は大好き…って………あれ…?」



「…ほら、やっぱり凛は"海未に恋してる"花陽が一番好きなんじゃない」





真姫ちゃんの言葉に目を見開く。

……そう、だ。凛は、凛は。
海未ちゃんに恋をして、努力しているかよちんを見て海未ちゃんが羨ましいと思った。

顔を赤らめて、ちょっと緩んだ口元を気にしつつほっぺを抑える仕草も。
毎朝早起きをして苦手な運動をするかよちんも。


いつだって凛が好きになったかよちんは、
凛の心を揺さぶったかよちんは

……海未ちゃんに恋してた。


「海未に恋してる花陽を見て、今まで以上に花陽に惹かれて……けど、その相手が自分じゃないことにヤキモキしてしまったのね。

だけど、凛は本当に花陽のことを大切にしているし、花陽のことが大好き。

その気持ちの大きさが凛の気持ちを不安定にしていたんだわ、きっと」



また真姫ちゃんの温かい手が凛の頭に触れて優しく撫でられる。

今度こそ涙が止まらなかった。



「ぅ……ぅえ…ま、真姫ちゃぁああん……!」

「ヴェエ!?り、凛そんな大声で泣かないで……って!ちょっと抱きつかないでよ!」

「真姫ちゃんありがとうにゃ…真姫ちゃん大好き」

「!!!わ、わたしだって凛も花陽も大好きよ!」



不意を突かれてトマトみたいに顔を真っ赤にして本音を話しちゃう真姫ちゃん、…可愛いにゃ。


「凛、応援する。大好きなかよちんが幸せになれるように。かよちんがずっと笑顔でいられるように一番の友達としてそばにいるにゃ」







凛はかよちんの1番の友達。
かよちんも凛の1番の友達。
それは海未ちゃんにも、誰にも譲れない。


でもこの先きっと本当にかよちんを幸せな笑顔にしてあげれるのは凛じゃない。

心から幸せになってほしいから、凛は友達として見守るの。
いつでも、いつまでとかよちんが幸せでいるように毎日、凛は応援するんだ。




「そうね、それでこそ凛だわ。よく自分で答えを出したわね」

えらいえらい、といつもよりデレデレな真姫ちゃんに照れつつ凛はすっきりした顔を気持ちでお店を出た。



ちょっとした補足ですが、


◇→凛視点
◆→花陽視点
*→海未視点


になっております。


海未視点もくるのか

期待





「花陽、そっちに何か手掛かりになりそうな本はありましたか?」

「うーんと……ちょっと待って〜」




練習後の学校。
花陽と海未ちゃんは記憶喪失に関する資料を探すために、図書室にいた。

けれど、やはり学校の図書室ということもあってなかなか有力な情報は手に入らない。




「やはり図書館にいかなくてはダメですかね……」

「うぅん……主人公が記憶喪失になっちゃうお話とかないのかなあ」

「ひとつひとつ読んでいては日が暮れてしまいますね……」




海未ちゃんのお手伝いをさせてくださいとお願いしてから3日目。

花陽と海未ちゃんは、情報集めや練習の段取り、メニューの話し合い、絵里ちゃんや穂乃果ちゃんが戻ってきてからのフォーメーションの確認などをしていた。




「しかし、よかったですね」
「?」

「穂乃果が少し前向きになってくれて」
「うんっ、本当によかった!」




それは、絵里ちゃんが穂乃果ちゃんを忘れてしまったと知った日から音沙汰が無くなってしまっていた穂乃果ちゃんからの絵里ちゃん以外のみんなに向けたメール。



『穂乃果は絵里ちゃんがまた穂乃果と仲良くしてくれるようにまた1から頑張ります!みんな応援よろしくね!!』



「……上手く、いくといいですね」
「いくよ、きっと。だって穂乃果ちゃんと絵里ちゃんだもん」

「ふふっ…そうですね。なんだか花陽にそう言われると心強いです」


…海未ちゃんて、ストレートだよね。
顔が赤くなっちゃう…ばれてないかな?!

嬉しくて、嬉しくて心臓がドキドキ。
海未ちゃんの顔もまっすぐ見れない……!


「花陽?どうしたのですか?顔が赤く……、!まさか熱が!」

「え、えっ!?」

避ける間も無く海未ちゃんの手のひらが花陽のおでこに……!
そ、そんなことされたら本当に熱が上がっちゃうよ〜!


「花陽、無理はいけませんよ?」
「む、無理なんてしてないよ!?あ、あっ、みてほら海未ちゃんロミオとジュリエットだって!!」



あまりの恥ずかしさに、咄嗟に視界に入ったタイトルの本を海未ちゃんに差し出す。



「また懐かしいものを…」

「うん、有名なお話だよね…!憧れちゃうなあ、永遠の愛とか」

「ふふっ、花陽は乙女ですね、文化祭で劇などやる機会があればジュリエットをやってみたらどうですか?きっと似合いますよ」



口に手を当てて、楽しそうに提案する海未ちゃん。
は、花陽がジュリエット!?
花陽はそんなに女の子らしくないし、かっこよくもないし……それに、それにジュリエットだったら……




「ジュリエットなら、きっと海未ちゃんの方がお似合いだよ!!」
「……!!」



そうだよ、だってこんなに綺麗で凛々しくて…


「わ、私がジュリエット……!?恥ずかしいですそんなの……」


こんなことで顔を真っ赤にさせちゃうくらい純粋で、可愛くて……本当にお姫様みたい。


確かにいつも紳士だし、王子様は似合いそうだけど。
こーんな可愛い海未ちゃんを引き出してあげられないのは悔しすぎるから、やっぱり海未ちゃんはジュリエットだね♪



「そんなことないよ、海未ちゃんはすーーっごく可愛いもん。」

「な、な!何を言っているのですか!そんなこと言っても何も出ませんよ!」

「でも本当のことだから……」



「……穂乃果も、そう言ってくれました。自分で言うのも何ですが普通ならば私はロミオが似合う立場のはずなのに、穂乃果だけは私は絶対ジュリエットだと言って…。

まさか花陽にも同じことを言われるとは思わなかったのでびっくりしてしまいました」



胸がズキン、と痛んだ。


(やっぱり、穂乃果ちゃんには敵わない…)


(だけど…)

「…もし、海未ちゃんがジュリエットなら花陽はジュリエットの背中を押す通りすがりの町人になります!」

「なんですかそれ、そんな役ありませんよ」



ぷっと吹き出す海未ちゃんを見て安堵する。
こうやって、花陽は海未ちゃんを笑顔にできればいい。
一番になれなくても、ずっと。



『〜♪まもなく閉校時間です。校内にいる生徒はすみやかに帰宅の準備をしてください。繰り返します…ーー』




「っと…もうこんな時間ですか、今日もわざわざありがとうございます花陽」

「いえいえ、海未ちゃんのためなら花陽なんだって頑張ります♪」

「花陽ったら…では遅くなりますしそろそろ帰りましょうか」

「うん!」




不謹慎かもしれないけど、
こうして海未ちゃんのお手伝いをして、下校時間になったら一緒に帰って…

今は、この時間が花陽にとって幸せな時間。
だから嫌なんてことは絶対ないの。



他愛もない話をしながら歩いて公演を通りかかると、視界に見覚えのある人物が映った。



「あ、あれ…?あれって…」
「穂乃果……ですね」



「どうしたのかな、なんか様子が変だよ」

「私ちょっと行ってきます、花陽は先に帰っていても大丈夫ですよ」



そう言って海未ちゃんは穂乃果ちゃんの元へ駆け出した。
花陽は、帰っても良かったんだけど帰らなかった。

……帰れなかった。
見ていなきゃ、って思ったの。
海未ちゃんと穂乃果ちゃんのこと。




公園のベンチに座っている穂乃果ちゃんは、生気のない目でどこか遠くをぼーっと見つめていて。

海未ちゃんが、近づいても何の反応もなくて、声をかけてやっと気付いたみたい。


そこにいた穂乃果ちゃんは、酷くやつれていて顔色も良くないように見えた。


海未ちゃんと穂乃果ちゃんが何を話しているのかは、少し離れた場所にいる花陽には聞こえない。



穂乃果ちゃんが何かを言って少し笑った後、不意に海未ちゃんが穂乃果ちゃんを抱きしめた。



そして、海未ちゃんが穂乃果ちゃんに何かを言った後に聞こえてくる穂乃果ちゃんの声。


「……っひ、っく、…ぅ、あ……うぅ…うあぁあああん!!!!」




それは、泣き声というより、心から泣き叫んでいるような悲しい、悲しい声で。
花陽もつられて泣きそうになっちゃったぐらい。


それから30分ぐらい。
泣き続ける穂乃果ちゃんを海未ちゃんがずっと抱きしめていて、何故か花陽の心はズキズキと痛んで。


「もう……帰ろう……」




ずっとこうして見ているのもストーカーみたいだし。
やっぱり花陽じゃ、穂乃果ちゃんには勝てない。

穂乃果ちゃんには絵里ちゃんがいるから、勝てないなんて言い方はおかしいけれど、それでも海未ちゃんの側にいるのは花陽じゃダメなんじゃないかって。


穂乃果ちゃんのことを見ている海未ちゃんは、本当に優しい顔をしていて、他の誰かに見せる顔とは全然違って。

もちろん花陽に見せる顔とも全然違う。
穂乃果ちゃんだから引き出せる海未ちゃんの表情に胸が苦しくなって。


気づけば花陽はその場から走って家に帰っていた。
逃げたって何も変わらないのは分かってる。


……だけど、ただ見ているのも辛かった。


家に帰って、いつも通りご飯を食べてお風呂に入って、勉強を少しして。

それでもふとした瞬間に、今日見た穂乃果ちゃんと海未ちゃんの抱き合ってるシーンが頭に浮かんできて、その度に頭を掻く。



目に焼き付いて離れないくらい衝撃的でショックな場面だったのに、それでも海未ちゃんのことを諦めようとは思えなかった。

これくらいしぶといと自分でも呆れてしまう。










ーー綺麗だと、思った。




誰にも屈せず、ただひたすらに想う人の背中を押す瞳が。

こんな素敵な人と出会えたこと、ましてや想いを寄せることができるなんて誇りたいぐらいだった。



想いを告げることなんて出来なくていいから、
せめて近くにいて、あの人が挫けそうになったときは優しく背中を押してあげたい。


最も、自分にも厳しくて文武両道が出来て礼儀正しいあの人が私なんかに背中を押させる日がくるわけないと思うけれど。


もし、もし出来ることなら
私が出来る精一杯で、私にできるすべての力であの人を守りたい。




私は知ってる。
あの儚げな笑顔の理由も。

だから、振り向いてなんて言わないから。
せめて想いを寄せることだけでも許してほしい。

誰かに打ち明ける気なんてない。
ただ、自分が強くあるために、少しでも海未ちゃんの力になる為に。

そう固く心に決めて、再びノートに文字を書き始めた。

……………………


「退院おめでとうございます、絵里」
「ええ、海未ありがとう」


あれから2週間ほどして、絵里ちゃんは無事退院して学校に復帰した。

けれど、μ’sが全員揃ってはいない。
絵里ちゃんは穂乃果ちゃんのことをまだ思い出していないらしかった。


絵里ちゃんは屋上に来るなりキョロキョロと辺りを何回も見回していて、穂乃果ちゃんのことを気にかけているのが丸分かりだったけれど……。


見兼ねた真姫ちゃんも、「穂乃果なら来てないわよ」とため息をつく。

退院おめでとう、と飛びつく凛ちゃんを子供のようにあやしながら、「そう…」と残念そうにつぶやいた。



「絵里、穂乃果のことを思い出したのですか?」
「いえ……そういうわけじゃないのだけれど」



しきりに穂乃果ちゃんのことを気にする絵里ちゃんに、これはもしかしたらもうすぐ思い出すかもしれない、とみんなが確信していた。

だけど、刺激を変に与えるのはよくないと真姫ちゃんから聞いていたからか誰も口を開こうとはしなかった。

その時


「えりち、生徒会室に忘れ物しちゃったからついてきてくれん?」と希ちゃん。



あれ、でも希ちゃんはもう生徒会室には…………?
…あ、そっか、そういうことなんだ。




2人が屋上を去った後、
「上手くいくといいわね」と真姫ちゃんも何かを悟ったようだ。

「希のことだから上手くやるわよ」ってにこちゃんも何処か安心した顔をしていて。



それから10分もしないうちに、希ちゃんが1人で屋上に戻ってきた。


「おや…?希…絵里はどうしたのですか?」
「帰っちゃったのかにゃ…?」


不安げに見る花陽たちを尻目に
希ちゃんは楽しそうに唇に人差し指を当ててウインク。


「明日からまた9人で活動や!」

「!!!」




みんなの目に輝きが戻った瞬間だった。


それからはもうあっという間で。

絵里ちゃんは次々に穂乃果ちゃんとの記憶を思い出して2人はまた付き合い始めて、なんていうか更に仲が深まった。



「絵里ちゃん、絵里ちゃーんっ」
「あら、穂乃果どうしたの?」

「絵里ちゃんだいすきー!」
「ふふっ、もう穂乃果ったら」


なんて甘ったるい会話を部室で平然としてたりして……。
これにはちょっと他のみんなも呆れ目。



「あんたらよくやるわね……にこまで暑くなってきた…」
「穂乃果ちゃんもうことりたちのこと見えてないよね…」

「まぁまぁ、仲がいいのは良いことやん♪」




ちょっと前まで、先が不安だったμ’sも今じゃこんなに活気を取り戻していつも通り活動をしています。

相変わらず、花陽は海未ちゃんへ恋心を抱いていたけれど絵里ちゃんが穂乃果ちゃんを思い出したこともあって、お手伝いはなくなり関係もなんとなくうやむやになっていた。


ちょっと寂しいな、なんて思った時もあったけれど穂乃果ちゃんの側にいる海未ちゃんはやっぱり幸せそうだったから、このままで十分だなぁって思っていたそんなある日。




「かよちんっ!!!」
「花陽!!!」


2人同時に花陽を呼んだかと思うとバンッと机を叩いて


「「かよちん(花陽)はこのままでいいの!?」」


と詰め寄る。
一体何のことかと目を白黒させていると


「海未のことよ!諦めたわけじゃないでしょ?」

と、真姫ちゃんが補足してくれ……えええ!?なんで真姫ちゃんが花陽の好きな人知ってるのぉ!?


「花陽、真姫ちゃんに好きな人言ったっけ……」

「そ、そんなことはどうでもいいのよ!どうなのよ花陽!」
「そうにゃ!もう海未ちゃんのこと好きじゃないの!?」


ど、どうでもいいって!?
それに凛ちゃん声大きいよ〜!泣


「好きじゃなくなったわけじゃないよ。でも、もう花陽が海未ちゃんのそばにいる理由はなくなっちゃったから…」


2人の言動で冷や汗がダラダラ垂れてくる中、花陽は自分の思いを口にした。



「花陽、貴女バカなの?好きならそれを理由にそばにいればいいじゃない。
少なくとも海未は花陽がそばにいて迷惑とは思わないはずだし」

「凛もそう思うよ。そばにいるのに理由がいるなら凛はもうかよちんのそばにいれなくなっちゃうにゃ」


そう言う2人の笑顔を見ていたら、心に抱えていたもやもやがなんとなく吹っ切れた気がして、


「また、頑張ってみようかな…」


なんて単純だなって思いつつも考えちゃったのでした。



「凛はかよちんのこと、いつでも応援してるよ!だから、かよちんも頑張って?」

「私も凛と同じよ。何かあったら頼りなさい。その……友達、なんだし」



…こんなにこんなに素敵な友達に応援されてうじうじ悩んでるわけにはいかないよね。



「うん、凛ちゃん、真姫ちゃんありがとうっ」



2人の素敵な友達に背中を押されるのはもう2度目。
心の中でたくさんたくさん感謝しながら、花陽は海未ちゃんへのアタックを再開することを決めたのです。


けれど、その日の放課後事件は起こったの。


それは、いつも通りの練習の休憩時間。

花陽の目線の先にはもうほぼ日常茶飯事と化してきた穂乃果ちゃんと絵里ちゃんのイチャイチャ現場。


今日も仲が良いなあ、
それにしてももうきっかけもないしどうやって海未ちゃんとお話しようかなあ、なんてぼーっと考えていたら、不意に穂乃果ちゃんが海未ちゃんを呼んだ。





「ねぇねぇ、海未ちゃーん!!」

「?なんですか?……はぁ、穂乃果、そんなところに寝転がってははしたないですよ」

「えへへ、ごめん疲れちゃってつい…」


海未ちゃんに指摘されて、気まずそうに座り直す穂乃果ちゃんの口から出た言葉は、


「今週末、絵里ちゃんと遊びに行くんだけど海未ちゃんもこない?」


という、遊びの誘い。




どこにでもある、ごく普通の遊びの誘い……じゃないよね、これ?

だって、絵里ちゃんと穂乃果ちゃんは付き合ってるんだよね?

穂乃果ちゃんはその中に海未ちゃんを突っ込む気なの?

そもそも、海未ちゃんは穂乃果ちゃんのことが好きなのにーーって、これは秘密なんだけど……でもっ!!


あああっ、やっぱり海未ちゃんは凄く複雑そうな顔をしてるよ……。

嬉しいけど、でも切ないような。


なのに、その傍では絵里ちゃんとイチャイチャ…。


さすがに、穂乃果ちゃんでもこれは勝手きすぎだよ……!!




「穂乃果、気持ちは嬉しいのですが……」
「穂乃果ちゃんっ!!!」


「は、花陽、ちゃん?」
「こっちに来てください!!」

「え、えぇえ!?」



あんな海未ちゃんの顔を見たらいてもたってもいられなくなって、在ろう事か、花陽は会話の中に入って手を引いて穂乃果ちゃんを無理やり部室に連れてきてしまったのです……!




「ど、どうしたの花陽ちゃん」


勢いよく部室に穂乃果ちゃんを、連れてきたはいいものの我に返って冷や汗を吹き出す始末……我ながら情けないです…。


けれどここまできたら言わないわけにもいきません……!



「ほ、穂乃果ちゃんは勝手すぎますっ…!」
「……え?」

「絵里ちゃんと、穂乃果ちゃんは付き合ってるのに……!その中に海未ちゃんを、いれるなんて!そんなの残酷です!!ずるいです!

海未ちゃんの気持ちも分かってあげてください……っ」

「は、花陽ちゃん!?」




途中からドバドバと言葉と涙が溢れてきて、自分が何を言っているのかさえ分からなくなってヤケクソになって穂乃果ちゃんに暴言を吐いた。

穂乃果ちゃんを責めることしかできなかった自分が嫌で嫌で、
こんな醜い自分を見られたくなくて、花陽は練習着のままカバンを持って部室を飛び出してしまった。




こんなことを言いたいわけじゃなかった。
こんな風に穂乃果ちゃんを責めたいわけじゃなかったのに。


けれど、1度言葉を吐いたら止まらなくなって。

これじゃあ、花陽が海未ちゃんのことをすきなこともばれちゃう……。





学校を出ても、一目散に走り続けてもう家まで数百メートル。
スピードを緩めて足を止めると、カバンに入っている携帯電話がメールの着信を知らせた。


開くと穂乃果ちゃんから、
今から家に来てくれないか、という簡単なメール。


あんなことを言った後で気まずいけれど、きちんと会って謝らなければと思いそのまま足を穂乃果ちゃんの家の方へと動かした。





「いらっしゃい!上がって上がって!」
「お、お邪魔します…」



さっきいろいろと言葉を投げてしまったにも関わらず、お出迎えしてくれた穂乃果ちゃんの顔はどこかすっきりしていて戸惑ってしまった。



部屋に入ったら、きっと怒られるんだ…
だって、花陽…穂乃果ちゃんに凄くひどいことたくさん言っちゃったもん。

ちゃんと謝らなきゃ。




「ほ、穂乃果ちゃんっ!さっきはごめ…」
「花陽ちゃん!さっきはごめんっ!!!」
「!?!?」



部屋に入るなり穂乃果ちゃんはいきなり謝って花陽に頭を下げる。

って、えぇ!?
それは花陽の台詞なんだけど……!



「ど、どうして穂乃果ちゃんが謝るのぉ!?謝るのは花陽の方だよ!さっきたくさんひどいこと言っちゃったのに…」



「ううんっ、花陽ちゃんは悪くない!!わたし、花陽ちゃんの気持ちも海未ちゃんの気持ちも全然考えてなかったの。

その、ただ楽しく遊べればいいかなって……!
でも違ったの。


花陽ちゃん、花陽ちゃんは海未ちゃんが好きなんだよね?」


「えぇえ!?」
「ぅあ…あれ?違った……?」

「ち、違わないけど……!ああ!言っちゃった!?」

「は、花陽ちゃん落ち着いて!?深呼吸だよ!ほら!ヒッヒッフー!」

「そ、それラマーズ法だよぉ……」



穂乃果ちゃんに言われた通りの、ううん、普通の深呼吸をして、なんとか心を落ち着かせる。



「花陽……そんな分かりやすかった…?」

「うーん……っていうか、あの話に割り込んで穂乃果にあんなこと言ったら、そりゃあ……ね?」


いくら穂乃果でも分かっちゃうよ、とあっけらかんと言う笑顔にとうとう頭を抱える。

よりによって、
よりによって穂乃果ちゃんに……!


「穴があるなら……入りたいです……」
「あ、穴!?!?うちに花陽ちゃんが入れる穴あったかな……ちょっと探しに」

「も、物の例えですぅ!!」



もう完全に穂乃果ちゃんのペースだよぉ……



「よし、じゃあ漫才も終わったところで、花陽ちゃんの素直な気持ちを聞かせて欲しいな」



「(漫才をしてたつもりはないんだけど……)

…穂乃果ちゃんの言った通り…花陽は、海未ちゃんが好き…です…。
最初は自分に厳しくてなんでもできるところに憧れていただけだったの。


でも、いつからか海未ちゃんの力になりたいって思うようになって。
何か花陽でも海未ちゃんの助けになれればいいなって思ったんだ。

そばにいて、支えたいなって思ったの」




「そっか……。その気持ちは海未ちゃんには伝えないの?」


「つ、伝えられるわけないよ…!

花陽は陰からこっそり助けになれればそれでいいの。
穂乃果ちゃんやことりちゃんみたいに、深い絆も信頼も花陽にはないから……」


「花陽ちゃん。」




突然花陽の名前を呼んだかと思うと、穂乃果ちゃんは花陽の肩に手を置いて瞳を見つめ口を開く。

……綺麗な力強い瞳。
なんとなく海未ちゃんと似てるかも、なんてそんなこと考えていた。



「確かに、穂乃果と海未ちゃんとことりちゃんは昔から仲良くてずっと幼馴染だし、絆も深い。

1番の友達でもあるし、海未ちゃんのことはなんでも知ってるかもしれない。」



ズキン、とまた胸が痛む。
いつだってそう、この胸の痛みは超えられようのない穂乃果ちゃんたちの絆を知った時。


やっぱり花陽じゃ、だめなんだ……
そう思って視線を落とそうとした時、それを穂乃果ちゃんの言葉が引き止めた。



「でもね、花陽ちゃん。

もしかしたら、今、海未ちゃんのことを1番理解できて寄り添えるのは花陽ちゃんかもしれないって思うの」



「え……?」


突然の予期せぬ穂乃果ちゃんの言葉に頭が付いて行かず思考が止まる。


花陽が海未ちゃんのことを1番理解できる?
穂乃果ちゃんやことりちゃんでもなくて?

……花陽が?




「……ない!それはないよ、穂乃果ちゃん。
だって、穂乃果ちゃんやことりちゃんはずっと海未ちゃんの幼馴染で、誰より海未ちゃんのことを知ってて……!」


「うん、でもね?
絵里ちゃんが穂乃果のことを忘れちゃって、海未ちゃんが1人で頑張っているときに側にいて支えてくれたのは……

……花陽ちゃん、だよ」


「そ、それでも、です!
あれは花陽がそばにいたいっていうだけの我が儘だし、誰からも感謝されるようなことはしてないですっ……」


「でも、海未ちゃんはすごく感謝してた。
花陽ちゃんがいてくれて良かった、って。

花陽ちゃんがいたから自分はここまで頑張ってこれたんだって、そう言ってた。」



「う、海未ちゃん……が……?」


「そう。海未ちゃんが。

だから、信じて欲しいな。
花陽ちゃんの我が儘なんかじゃなく、花陽ちゃんは海未ちゃんを支えてあげていたんだってこと。

何より、海未ちゃんが花陽ちゃんを信頼してるってこと。」



そう言うと、穂乃果ちゃんは花陽の手を優しくぎゅっ、と握った。



「穂乃果には、花陽ちゃんに何も出来ないけど、……勇気をあげる。

海未ちゃんに本当の気持ちを伝えることが出来る勇気。」


「ほ、のかちゃ……」

「泣かないで花陽ちゃん。

後悔しない道を進んで。いつだって花陽ちゃんにはみんながついてるよ!


花陽ちゃん、
ファイトだよっ!!」


「うんっ、……うんっ!
花陽、頑張る!穂乃果ちゃん、本当にありがとうっ……」



穂乃果ちゃんの手を固く握り返しながら、
凛ちゃん、真姫ちゃん、穂乃果ちゃんの言葉を心で思い返す。


そして花陽は決めました。
自分の気持ちを海未ちゃんに伝えることを。



その日の夜。
花陽は海未ちゃんを話があるからとメールで公園に呼び出した。


公園っていうのは、御察しの通り穂乃果ちゃんと海未ちゃんが抱き合った公園です……。



指定した30分も前から公園にいた花陽は落ち着かなくてそわそわしっぱなし。

深呼吸も、もう何回したかもわからない。



……あと15分。
15分もしたら海未ちゃんが来……ちゃったああ!?!?


「花陽遅くなってしまいすみません……!待たせてしまいましたか?」

「い、いや全然待ってないよ!?それに15分も前だよ!?」


「そのようですね……花陽からの呼び出しなんて珍しいので急いでしまいました…。


それで要件というのは…」




これには予想外すぎて花陽の頭もパニック、パニック。

用意してきたはずの言葉も泡のように弾けて消えていく。
頭の中が真っ白になっていくのに顔は熱い……


だ、誰か助けて……!!




「花陽?どうしたのですか?」


海未ちゃんの言葉に、ハッと我を取り戻す。
そうだ、こんなところで挫けちゃだめ。

穂乃果ちゃんに勇気をもらったんだから、
自分の言葉でちゃんと伝えなきゃ。



「あ、あのっ、海未ちゃん……!」

伝えるつもりはなかったの!
もし嫌なら聞き流してください!!

ずっとずっと、海未ちゃんのことが好きでした……!
最初は憧れだったの…だけど誰より助けたくてそばにいたくて…
穂乃果ちゃんのことが好きなのは知っています…!

でもやっぱり花陽は諦めが悪いから、いつか海未ちゃんが幸せになれる日まで好きでいていいですか…っ」







……正直、花陽から話があるからと呼び出された時から何処か確信はしていました。


そんなことを言ってしまえば自意識過剰だと思われるかもしれませんが、花陽の行動は鈍感と言われている私にも分かりやすく、想いを寄せられていることは分かっていました。


私自身、花陽が側にいることは決して嫌なことでは無かったし、逆に心地いい気もしていました。



ですが、産まれてから今までずっと穂乃果のことを慕っていたのも事実です。

もちろん、絵里と穂乃果が付き合い始めたのは私にとって凄くショックなことでしたが…今思い返してみるとそこまで辛くなかったように思います。


それは、やっぱり……目の前にいる、この方のお陰で。



嫌なら聞き流してもいい、というくせに
一字一句きっちり、はっきり瞳を見て伝えてくる。

あんなに臆病で、声も小さくて、引っ込み思案だった彼女がこんなにも強い瞳で、自分の意思をはっきりと伝えてくる。



私が幸せになるまで、好きでいてもいいかといういじらしい彼女の愛情表現に心がきゅぅっと締め付けられた。



「花陽…」
「ご、ごめんなさいっ!じゃあ、花陽はこれでー……」


今から私がすることが、ズルいことなのはよく分かっています。
けれど、このまま花陽を帰すのは……私の心が許しませんでした。



気付けば、私は花陽を腕の中に閉じ込めていました。


「!?!?う、海未ちゃ」
「なら、もう花陽は私のこと好きではいてくれませんか?」



腕の中で、花陽が目を見開いてハッと息を飲むのを感じて、言葉を繋げる。



「……こんなにも心が満たされたのは初めてです。今私は幸せです、すごく。

花陽も知っている通り私は穂乃果のことを慕っていましたが、何分恋や愛など本当のところよく分かっていません。

ですが、確かにここにこうして、私の腕の中に花陽がいることは私にとって幸福なことだけは分かります。



もう少しだけ、待っていていただけないでしょうか。
心の整理が付いたら、今度は私から花陽に気持ちをお伝えします。」



微かに震えながら、涙を静かに流しながら、こくこくと何度も首を縦に振る。



「待ちます……っ、いつまででも、花陽は待ってます……!」



嗚咽まじりにいつまでも待っている、と泣く彼女に更に胸が締め付けられて、ようやく私は自分の気持ちを確信して。



「ほんの少しだけ、待っていてください。……今日は本当にありがとうございます。

もう遅いので帰ることにしましょう。送ります」

「え、えぇ!?いいよ、そんな!すぐそこだし……」
「花陽、あなたに何かあっては私の身が持ちません。送らせてください」


あたふたと拒否する花陽の顔にずいっと顔を近づけて少しだけ意地悪をすると、湯気が出そうなくらい顔を赤くして俯きがちに「はい……」と答える。


とても可愛らしい、その姿を見ただけで私の顔は綻んでしまう。





案の定、顔を赤くしたまま無言で少し後ろを歩く花陽を無事自宅に送り届け、私は穂むらへと向かった。







「海未ちゃん!そろそろ来る頃かなーって思ってたよ♪
さぁさぁあがって!」


どこか楽しそうな顔をした穂乃果に招かれ、穂乃果の自室へと足を踏み入れる。


いつもの場所に座ると、向かい合わせに穂乃果が正座をした。


「……なぜ正座なのですか?」
「んー?だって、海未ちゃん穂乃果に大事な話をしに来たんでしょ?

ならちゃんと聞く態度をとらないとねっ」




いつもそんな風に用意周到であれば良いのに、と心の中で悪態をつくけれどそんなのがない方がよっぽど穂乃果は素敵だという考えに至り口に出すのを止めた。


正座をしたまま背筋を伸ばし膝の上の拳を固く握る。
そして、目の前の穂乃果を見つめ



「穂乃果、

私は穂乃果のことが好きでした。」



かつての想い人へ気持ちを告白する。




「小さい頃からずっと穂乃果のことが好きでした。
いつも前向きな穂乃果には日々励まされ、自分も頑張らねばという気力をもらいました。

これからもずっと今まで通り穂乃果のそばにいたいと思っていました。


絵里と付き合い始めたのは、それはもうショックでしたが…それはもう過去のこと。


絵里ならばきっと穂乃果のことを幸せにしてくれるでしょう。」



「うん、穂乃果ね、絵里ちゃんと出逢ってからずっと幸せだよ。
一時はどうなるかと思ったけど……あれも試練だったのかな、って。今思えばいい昔話かな。



海未ちゃん、
海未ちゃんも大切な人を見つけたんだね」



「……えぇ。

不器用ですが、真っ直ぐで純粋な愛をくれる優しい人です。
私は私なりに、これから彼女を愛していこうと思います。


穂乃果、幸せになって下さい」


「海未ちゃんも。
花陽ちゃんと、ずーーっと幸せでいてね」



小さい頃からずっと好きだった穂乃果に想いを告げ、幸せを願い顔を合わせ笑いあう。

ああ、もう私は大丈夫だ。



幼馴染が ずっと一緒 じゃなくなる瞬間はほんの少し寂しいけれど。

それでも今度は愛しい人の手を握ってそれぞれ私達は歩き出すから。

また次にあったときに幸せだよってこうして顔を見合わせて笑えるように。








「じゃあ、またね海未ちゃん!」
「えぇ、また明日学校で」


「花陽ちゃんとの結果教えてね〜!」
「ほ、穂乃果!一言余計です!」

「もう!照れ屋なんだからー」



何気ない会話をして、穂乃果の家を出る。
心は今までにないくらいすっきりしていて、
なんとなく花陽の顔がぽん、と浮かぶ。



ぽん、ぽん、ぽん。
笑った顔、泣いた顔、照れた顔。

どれをとっても魅力的な彼女の表情を思い出すと、途端に花陽に会いたくなった。



時刻はもう夜遅く。
今から行ってもきっと花陽のご家族の迷惑になる。

心の葛藤を繰り広げていると、ポケットの中で携帯が震えた。



そこには、花陽から

『今日は本当にありがとう。
全然予想していなかった海未ちゃんのお返事に未だに心臓が鳴り止みません。

言った通り、花陽はずっと海未ちゃんのこと待っています。
後悔しない道を選んでね。


じゃあ、また明日学校で!』


という内容のメール。



全部目で追う前に、私は花陽の家に向かって走っていた。

初めてかもしれない。
人様の迷惑になるであろう行為と知っていても尚自分の意思を貫くのは。



そうだ、あの時。
穂乃果に失恋して屋上で声を殺して涙を流していた時も、花陽がいた。

温かい腕で私を包んでくれた。
あの時、私は誰かの腕の中にいることの安心感を知った。



思えばあれからいつだって、辛い時には花陽が側にいてくれて。
いつだって、あの柔らかい微笑みで支えてくれていた。


どうして気づかなかったのか。
私は、私はとっくに花陽のことをこんなにも好きになっていたのに。





息を切らして無我夢中で走り、やっと着いた花陽の家の前。


息を整えて、インターホンを押そうとしたその時。


「……海未ちゃん?」


聞き慣れた声が私の動きを制御した。



「凛…」
「海未ちゃん、なんでかよちんの家に……、……!まさか!」


ガッ、と肩を掴まれて目を見開いて詰め寄る凛の気迫に思わず肩がすくむ。


「海未ちゃん、かよちんのこと好きになったのかにゃ!?」
「!?!?」


身構えていた言葉とは180°も違う言葉に肩透かしを食らってしまい、素直に言葉が口をつく。


「そ、そうです……が…?」

「やっぱり……!わああ……凛、すっっごく嬉しい!明日はお祝いだにゃ!!」

「り、凛!そんなに大声を出しては迷惑になります!
それに…恥ずかしいです……!」



自分で再三、自分の気持ちを確認したものの、いざ他人に自分の気持ちを代弁されてしまうと比べ物にならないぐらい恥ずかしい。

私は顔を覆って凛から目線をずらす。



すると、凛がいきなり静かになった。
どうしたものか、と再び凛に視線を戻すと凛は先ほどから一歩後ろに下がったところに立っていて。


「り、凛……?」

「海未ちゃんっ、かよちんをよろしくお願いしますっ……!!」



私の顔をしっかりと見て、頭を下げる。
その行為にも、言葉にも私は驚愕して目を見開いた。


「り、凛!顔をあげて…」

「かよちんはっ!臆病で、引っ込み思案で、泣き虫で声も小さくて、はっきりしなくて……凛から見てもすっごく心配で引っ張ってあげなきゃって思うくらいだけどっ!


でも、誰より可愛くて優しくて、努力だってしてる!最近は海未ちゃんに恋して、すごく頑張ってるよ!

凛がそれを1番の友達として証明する!!
凛はそんなかよちんの笑顔が大好きなの……!

だから、海未ちゃんお願い!
かよちんを幸せにしてあげてくださいっ!!」



……開いた口がふさがらないとは、まさにこのことだと思った。

予想だにしていなかった凛の言葉の数々が、ぐるぐると頭の中をめぐる。

とっさに思い浮かんだことは唯一つ。



「意外……です。てっきり、凛からは花陽のことなど渡さない、と宣戦布告されるかと思っていました…」


そう、
誰から見ても凛は花陽のことが好きだった。
……それは幼馴染としてではなく、想い人として。

花陽は気づいていないらしかったが、同じ幼馴染を慕っていた立場から見れば痛いほどに凛の気持ちが分かっていたつもりだった。


…しかし、こうして凛は私に花陽を任せる、と頭を下げた。
自分の想いに蓋をして、花陽の幸せを願った。



「……凛も、ね。かよちんのこと、大好きだよ。
幼馴染として、とか友達としてとかじゃなく、海未ちゃんと同じ気持ちでかよちんのことが好きだった。


だから、かよちんが海未ちゃんのことを好きって知った時は、なんで凛じゃないの?って思ったし……凄くショックだったよ。


だけどね、凛気付いちゃったの。
凛、海未ちゃんに恋してるキラキラしたかよちんのことも大好きだってこと。


凛はね、かよちんが幸せで、笑顔でいてくれるならそれでいい。
凛は1番の友達としてかよちんの側にいることできるから、やっぱりずーーっと笑ってて欲しいんだ!」




初めて聞く、凛の胸の内に心が打たれる。
こんなにも熱い想いを秘めていたなんて。

綺麗だと、思った。
直向きに花陽のことを想う凛の心が。
幸せをひたすらに願うその心が。



こんな熱い想いを聞いて、頭まで下げられて。
そんな凛の為に、私が出来ることは……



「約束します。
花陽は必ず私が幸せにしてみせます」


……凛に、花陽の幸せを約束すること。

「うんっ!それならもう凛も安心だにゃ♪

あっ、かーよちんっ!!
海未ちゃん来てるよ〜!」



突然、花陽の名前を呼んで2階であろう場所に手を振る凛に心臓がバクンッと跳ねる。


「う、海未ちゃん!?」


花陽も予想していなかったであろう出来事にまた顔を赤くして慌てる。



「えへへっ、じゃあ凛はもう帰るにゃ〜!
かよちんっ、明日詳しく話きかせてね!」

「「も、もう凛(ちゃん)!!」」

「あははっ、二人とも照れちゃって仲良しさんにゃ〜!じゃあね、また明日!」




そう言うと凛は嵐のように去ってしまった。
…そうすると、実質その場には花陽と私の2人なわけで。



「う、海未ちゃんとりあえず上がって……!うち今日親いないから気遣わなくて大丈夫だからね!」



家の前で話し込んでしまったことと、
こんな夜遅くに家に上がることを気にしていた私にとってはかなり好都合な情報が伝えられた。


が、それも束の間。
親がいない環境ということは、今夜は2人きり。ということになる。

下がった頬の温度はまた著しく上がり始めた。




「ご、ごめんね何も無い家だけど…今お茶入れるねっ適当に座ってて!」

「い、いえ…おきになさらず…」

そう言って、花陽も顔を赤くしたままお茶を入れに部屋を出て行ってしまった。





ど、どうしよう。どうしよう。


家にあげたはいいけど、
今夜は家には誰もいないし、こんな時間だからきっと泊まりになるし…!



「ふ、2人きり……」


ぼんっ、と頭の中の熱気が爆発する。



……好きな人と2人きり。
そんなシチュエーションなんて夢にも思わなかった花陽にはいささか……ううん、だいぶハードルが高いラブハプニング……!


……って、思ったけれど。
告白したのはよりによって今日。

これは、とっっても気まずい……。



「お、お待たせしました〜……」
「ありがとう…ございます…」


パッ、と目が合っては
ポッ、と顔を赤くして
バッ、と顔を背ける。


海未ちゃんが家に上がってから、もう何回これセットでやったかな……


そもそも、海未ちゃんはなんで花陽の家に来たんだろう?


告白の御断りに来たのかな…?
んんん!それなら早く言ってほしいよ……!




「ご、ごめんっ……なさい…!」
「…花陽?」


「花陽の気持ち…迷惑だったんだよね…ごめんね、花陽迷惑ばっかりかけて…」
「そんなことありませんっ!!」


「う、海未…ちゃん…?」


「……そんなことありません。

花陽は、今までずっと私の為に頑張ってくれていました。
花陽が居たから乗り越えられたことだってたくさんあるんです。

その一つ一つの優しさが迷惑に感じたことなど一度もありません……!


正直、幼い頃からずっと穂乃果のことが好きでしたので恋愛というものはよく分かりません。
穂乃果が絵里と付き合うことになり、失恋した時はもう誰かを愛するのはやめよう、と思っていました。


けれど、いつからか花陽に支えられていた自分に気付き、側にいたい…花陽にそばにいてほしいと思うようになっていました。


……都合、いいですよね。
すみません、迷惑なら私はもう帰ーー」



「……ごめん、なさい」



迷惑なら帰る、と席を立った海未ちゃんの腕を引いて花陽の腕の中に閉じ込める。



「……一番になれなくても、いいって思ってた。

そばにいて笑わせてあげられれば、って。
少しでも、ほんの少しでも海未ちゃんの支えになれるなら花陽は自分が出来る精一杯のことをしようって決めたの。



だけど、花陽はワガママだね……っ?
海未ちゃんのそんな言葉を聞いたら、花陽の隣で笑っててほしいって思っちゃった…


海未ちゃん、
花陽は海未ちゃんのことが大好きです…
ずっとずっと海未ちゃんの隣で笑っていたいです…っ
ずっとずっと、海未ちゃんに隣で笑っていて欲しいです……っ!」



ぽつり、ぽつりと心の内を明かすともう止まらなくなって。

どんどん、どんどん欲が出て
これじゃあ海未ちゃんのことを困らせてしまうって解ってるのに、花陽の気持ちは止まらなかった。


そんな花陽を今度は海未ちゃんの温かい腕が優しく、強く抱きしめた。


その行為に驚いて、咄嗟に海未ちゃんの顔を見ると、そこには柔らかい微笑みを浮かべた海未ちゃんがいて、確かにこの耳に聞こえた言葉に花陽はとうとう涙が止まらなくなった。









ーー「私も好きです、花陽のことが。」




お互いが、お互いを強く抱きしめて。
遠回りした分、たくさん好きと伝え合って。


花陽の涙腺は壊れてしまったのではないかと思うほど、花陽は泣き続けていて心配になってしまう。


「は、花陽そろそろ泣き止んでください…目が腫れてしまいます…!」

「だ、だってっ、こんな奇跡みたいなこと信じられないよぉ…!夢だったらどうしよう…!」

「ゆ、夢なわけないじゃないですか!」



と、咄嗟に花陽の頬を両手で挟み顔を近づける。
お互いの顔の距離があと数センチしかない、と気づいた時お互いの顔がタコのように真っ赤に染まる。



「す、すみません…っ!」
「は、花陽こそごめんなさい…!」



「こ、こういう時は……き、き、…キ…ス、などするのでしょうか…」

「き、キスぅ!?そ、そんなことしたら花陽どうにかなっちゃうよぉ……!!」

「花陽!あまり大声で言わないでください!破廉恥です……!」

「ううう海未ちゃんが言ったんだよぉ!?」





「「………………、ぷっ……あはははっ」」






「まだ……私達には早いのかもしれませんね」

「そうだねぇ…、……今はこのままでいいんじゃないかな」



目線を下ろすと、
そこには固く握り合わせた私と花陽の手。



「これからずっと一緒にいるのですから、焦らなくていいんです」

「…海未ちゃんって本当、ストレートすぎて時々こっちが恥ずかしくなるよぉ……」

「ふふっ、花陽には負けますよ」




他愛もない会話をして、笑いあって。
今はこれくらいが私達にはちょうどいいのかもしれない。



だって、
私の隣には花陽が。
花陽の隣には私がいる。

それだけで、十分幸せなのだから。

……………………



「それでっ!?それでそれで!?」

「凛!声大きい!花陽の話が聞こえないじゃない!

花陽も!もっと大きく喋りなさい!ってなんで1年の教室に穂乃果がいるのよ〜っ!」

「まぁまぁっ、お気になさらず〜♪花陽ちゃん、続けてっ!!」





「そ、その……付き合うことに…なり、ました…」

「「おおおおおおっ!!!」」
「うるさい……(おおおおっ…!!)」




次の日。
背中を押してくれた凛ちゃん、真姫ちゃん、穂乃果ちゃんに報告会。

3人とも自分のことのように喜んでくれました。



「かよちん、おめでとうにゃ!!本当よかったよ〜!」

「花陽ちゃん、本当おめでとう〜っ!!今度4人で遊びに行こうねっ」

「よかったわね、花陽。
それはそうとあなたの恋人が教室の外でもじもじしてるわよ」



「えへへっ、凛ちゃん、穂乃果ちゃん、真姫ちゃん本当にありがとう……ってええ!?
海未ちゃんがいるのぉ!?

ちょっといってくるね!?」




「「「いってらっしゃーい」」」








「はーっ、本当にかよちん幸せそうだったね!」
「……凛、花陽のことはもういいの?」



「うんっ!!だって、凛の幸せはかよちんが幸せでずーーっと笑っていられることだから!!あんな幸せそうな顔も見れたし大満足にゃ!」

………………



「すみません、いきなり教室におしかけるようなことをしてしまって」

「ううん。大丈夫だよっ。穂乃果ちゃんも来てたし!
それで、用事っていうのは?」



「これを、花陽に渡したいと思いまして……」


そう言って少し照れて顔を赤くした海未ちゃんから手渡されたのは、キラキラ光るビーズのアクセサリー。



「き、綺麗……!これ、海未ちゃんが…?」

「ええ…、といっても絵里からのアドバイス付きですが……愛だけは沢山込めたつもりです!受け取ってもらえますか……?」


「あ、当たり前だよ……っ!一生大事にするね!?
本当に本当にありがとう……っ」

「ふふっ、そんな風に喜んでもらえると作ってよかったと思えますね」



大好きな、大好きな海未ちゃんからのプレゼントに感動しないわけがなかった。

うるうると潤む目を軽く擦って、気を取り直して花陽もバッグの中をあさる。



「花陽もね、海未ちゃんに渡したいものがあるの。

はい、これっ」



「これは……おやき……ですか?」


「うんっ、穂乃果ちゃんに教えてもらったんだあ。
花陽の大好きなお米と、海未ちゃんの好きな穂むらの餡子で作ったの!

よかったら食べてほしいな」


「食べるのが少々勿体無いですが…頂きます」



どきどき、どきどき。
穂乃果ちゃんのお墨付きだからきっとおいしいとは思うけれどやっぱり自分が作ったものを人に食べてもらうというのは緊張してしまう。



「……どう、かな?」
「これは……美味しすぎて、大好物になってしまいそうです…」


「本当に!?嬉しい……!」
「花陽も一口、どうぞ」

「えぇっ!?」


こ、これって間接キスだよね!?
海未ちゃんは気づいてないみたいだけど……
でも、食べないのも変だし…!

んんん!え〜いっ!!


「……ぱくっ!……!〜〜っ!!お、おいひぃ……っ!」
「また、作ってくれますか?今度は花陽の分も」

「うんっっ、穂乃果ちゃんにお願いしておくね!!」



ーー綺麗だと、思った。
誰にも屈せず、ただひたすらに想う人の背中を押す瞳が。



臆病者だった自分が、
彼女のために何かをしたいと立ち上がるほど。



いろんな困難に立ち向かう彼女を側で支えたいと思うほど。


彼女は私に、人を愛することの強さを教えてくれた。



想いはいつだって貪欲で。
求めれば求めるほどきりがなくて。
それでも彼女のそばに居たいと願った。




そして、これからも願う。
愛する彼女の隣で笑えることを。
愛する彼女が隣で笑うことを。




この気持ちに名前をつけるとしたらそれは。



それはきっと……












『海より深い愛』



ーー綺麗だと、思った。
真っ直ぐに瞳を見つめて想いを告げるその姿が。




頑固な自分が、
他人の腕の中で安心感を覚えて泣くほど。



長年想ってきた片恋を終わらせる勇気を出せるほど。



彼女は私に直向きに愛することの強さを教えてくれた。





想いはいつだって我が儘で。
自分勝手に相手を困らせてしまう。
それでも彼女のそばにいることを願った。







そして、これからも願う。
愛する彼女の隣で笑えることを。
愛する彼女が隣で笑うことを。




この気持ちに名前をつけるとしたらそれは。



それはきっと……













『花のように可憐な愛』




花陽「自分にできること」
カプ:うみぱな



これにて完結いたしました。
誤字、脱字、文章の違和感など多々読みづらい点があったと思いますが最後までお付き合いいただいてありがとうございました!


合わせて、前作のほのえりの話も読んでいただければと思います。



次作の参考にさせていただきたいので
読みたいカプ、シチュなど気軽にリクエストいただければと思います〜!
ありがとうございました!





加えて、タイトルの
ラブライブ、が平仮名なことに
今更気づきました……申し訳ありません。




【らぶらいぶ】花陽「自分にできること」



【ラブライブ】花陽「自分にできること」



です。


しばらく楽しみが無くなるけど、次回作待ってます。


今度は別の世界観で見たい
えりりんとか


うみぱな少ないから楽しませて貰いました。




次作は
ちょっとことりの短編を書いてから
他のカプのSSを書きたいと思います。



次作タイトルは
【ラブライブ】ことり「真っ赤に染まったアネモネの華」


花吐き病になってしまったことりのお話です
よければお付き合いください。

乙!
良ssに感謝

のぞりん見たいれす

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