数ヵ月ぶりに、携帯電話に届いたメールに気がついたのは、受信日から三日たってからのことだった。
彼女も、同行人の彼も、無駄な狎れあいを好まない気質で。
少数の親しい友人知人らと時折連絡を取る以外に携帯電話を手に取ることがなく、
普段はバイクの積載部分の一番奥底がソレのここ数年の定位置であり―――つまり、存在そのものを忘れてしまうことが、珍しくないのだ。
一応、着信音は鳴る設定にしているのだが、荒れた土地をバイクで爆走している最中にチャチな電子音に反応できるほど、彼女の耳は優れていないし、
微かな電磁波に瞬時に反応できるほどの能力は、とうの昔、ずっとずっと年若かった頃に手放してしまった。
今ではもう、微かな静電気を発生させられる程度に落ち込んでいた。
実生活で役に立つことも稀になってきている。
レベル4を誇ったこの力が尽きるのは、……きっと、そう、遠くない。
(……いやいや。面倒くさいことは考えないに限る)
暗いほうへ進む思考は放棄するのが一番だ。
昔は嫌でもマイナスなことばっかりに脳を支配されたのだ。
今になってまで、引きずることもないだろう。
そうして、彼女はすぐに頭を切り替える。
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今は偶然見つけた水場のほとりで小休憩中だ。
相方の彼は水筒から水分を2、3口分補給した後、「用を足して来る」と言って数分前に席を外していた。
彼女は暇つぶしも兼ねて、並んで佇むバイクを背にしゃがみこみ、携帯電話の液晶画面を覗き込んだ。
メールには、たった一文しか載っていない。
「アンタたちは来ないの? って」
ははっ、と、思わず笑いがこぼれる。
「――簡潔すぎじゃね?」
敬愛なる愚姉は相変わらずのようだった。生意気で一直線で。誰よりも勝気な姉の面影を久しぶりに思い起こす。
想像するのはやはり、誰にだって―自分にだって―優しく甘い、姉の姿だった。
もう一年近く会っていないのだと振り返り、この一年、彼以外の人間と必要以上に接していないことも思い出す。
この旅に出る前。確かに、彼と彼女にも招待状は届いていた。、
適当な理由をつけ、主催者には欠席の旨を伝えたが、祝電と祝い品の用意は事前に済ませたので、礼には欠いてないはずである。
そのことを姉も知っていたはずなのに。
「行かない、というか、もう物理的に行けないし」
記憶違いがなければ、式当日は昨日だったはずだ。
時すでに遅し。今日から未来には行けるけれど、今日から過去には行けない。
「……てか、そうか。昨日がそうだったか」
すっかり忘れ去っていた、という訳ではないけれど。
バイクに乗り自由きままに風を切る日々の中、どこか月日の感覚を失う自分が居る。
自然にそうなったのか、あえて、見えざる己がそうさせたのかは、今は置いておこう。
おめでとう、と心で呟く。
脆弱になったネットワーク回線では、当日、その場に居たであろう同類の姉妹の誰かの記憶を掘り越すことすら難しい。
恐らく、主催者にして主役だったあの子は、綺麗だっただろうし、世界一の幸せ者になっていたのだろう。
声には出さずとも、電波に波に乗せる事が無くとも、心の中では祝福を。
それくらいは、やってやらなくもないのだ、と素直になりきれないを言い訳を聞くものは誰もいなかった。
「もう過ぎちゃっているし、返事はいらないっしょ」
パチリと軽い音ともに二つ折り携帯を閉じた。
世間様では二つ折り携帯を使う人は少数になったそうだが、彼は今でも学生時代からのガラパゴス携帯を手放さず、
つられるようにして彼女も初めて手にした携帯電話を使い続けている。惰性と言われれば返す言葉はない。
ただ、その携帯電話を見て、このままじゃ世間の流行に取り残されちゃうんだから、としかめっ面をしていた少女が、
真新しい白のウエディングドレスに身を包んだというのだから、
時の流れの早さには、驚かされるばかりだ。
それにしても、だ。
愚姉から届いたメールの中途半端なこと、中途半端なこと。
直前になってから急に「来ないの?」とメールを送りつけてくる癖に、返信の催促は一切送ってこない。
これを、中途半端と言わずに何と言う。
本当は晴れ姿を見てほしいと思っていた見た目最年少の妹の想いの内を推し量ったと思えば、
あまり構ってほしくないと態度に表わしている見た目歳年長の妹にも気を配っている。
そのあたりが、本当に、無愉快になるぐらいに中途半端で。微妙に甘ちゃんなところも相変わらずな姉の事を、十二分に物語っていた。
(……ほんとに、ゲロ甘なこって)
むず痒い恥ずかしさのような、苦虫を少しばかり噛むような。気色の悪い感覚が、じんわりと背筋を覆う。
愚姉が愚姉たる所以は、姉妹全員を捨てきれないその心であろう。
皆を思い、皆を気にかける。
そんな姉だからこそ好きだけど、そんな姉だからこそ今でも苦手なのだった。
多少なりと歳を重ねて、それなりの経験を積んだ今となっては―――実のところ忘れてほしい、と思う彼女が居る。
(忘れて、忘れて、すべて一切も何もか。無いことにして)
何もかも、誰も彼もが、自分たちのこと忘れてくれないだろうか、と思う彼女が居る。
(ああ、でも)
時折、「どうなの?」と気にかけてくれる、そんな存在が自分にだって居るのだという現実が、たまらなく嬉しい、なんて考えしまう馬鹿な自分も居て。
「……馬鹿な姉だし、馬鹿なミサカだ」
姉妹は嫌でも似たりよったりで、どっちもどっちで、きっと、どっちも馬鹿で愚かしいのだ。
「それにしても、遅いでやんの、あの野郎」
乾いた空気に揺れる草木の音の中、彼の乏しい足音が紛れていないかと聞き耳を立てる。
両手で足を抱え瞳を閉じる。聴覚だけを尖らせて、他はただ、流れのままに受け流す。
カサリカサリと植物が重なり合う音だけが鼓膜を揺らす。
彼独特の足音は聞こえてこない。
まだかな、と願う。
まだかな、と祈る。
彼と一緒に。彼と二人で同じ時を過ごすようになってから。一人で彼を待つ時間がとても詰まらなくとても愛おしいモノなのだと自覚した。
彼が、誰でもない、自分の元へと戻ってくることが彼女の心を堪らない幸福感で埋め尽くす。
「やっぱり、遅いでやんの、あの野郎」
同じ悪態を二度つく。
にやつく口元を手のひらで隠す。
まだかまと内心で繰り返す、繰り返す。
歳を食うだけ食って口の悪さは変わらねェのな、といつも彼は彼女に言うけれど、込められる万感の恋慕に、気が付いているびだろうか。
【訂正】
「つーか、遅いでやんの、あの野郎」
乾いた空気に揺れる草木の音の中、彼の乏しい足音が紛れていないかと聞き耳を立てる。
両手で足を抱え瞳を閉じる。聴覚だけを尖らせて、他はただ、流れのままに受け流す。
カサリカサリと植物が重なり合う音だけが鼓膜を揺らす。
彼独特の足音は聞こえてこない。
まだかな、と願う。
まだかな、と祈る。
彼と一緒に。彼と二人で、同じ時を過ごすようになってから。一人で彼を待つ時間がとてもつまらなく、とても愛おしいモノなのだ彼女はと自覚した。
彼が、誰でもない、自分の元へと戻ってくることが、彼女の心を堪らない幸福感で埋め尽くす。
「やっぱり、遅いでやんの、あの野郎」
同じ悪態を二度つく。
にやつく口元を手のひらで隠す。
まだかなと内心で繰り返す、繰り返す。
歳を食うだけ食って口の悪さは変わらねェのな、といつも彼は彼女に言うけれど、込められる万感の恋慕に、気が付いているのだろうか。
親しき中にも礼儀ありとでも背中で語りたいのか、似合わない気のきかせ方するようになった彼でも、そう遠くまでは行ってはいないだろう。
彼女の五感が辛うじて届く範囲には居なくても、杖をお供にした散歩の距離だと計り知れている。
用が考えていたよりも長引いているのか、物思いに耽っているのかは知らない。
それでも、彼が、ものの数分で彼女の元へと帰ってくることを、彼女はなんとなく理解していた。
こんな場所――彼女いない、学園都市も他の人間も関係ない場所に、帰ってくるのを、まだかなと待つ。
聞けなかった祝福の鐘の音よりも、彼の足音が愛おしかった。
このまま、彼と彼女だけの世界に留まり続けたいと、言えぬ願いを、心の奥底に沈澱していくをの今は無視して。
『 何もかも、誰も彼もが、自分たちのこと忘れてくれないだろうか 』
そうして、二人だけの世界に埋もれ己惚れて。
静かに、静かに、静かに。
終わりへと近づいて、消えてしまいたいのだと――――、言えぬ祈りを、今は、無視して。
【訂正】
親しき中にも礼儀ありとでも背中で語りたいのか、似合わない気のきかせ方するようになった彼でも、そう遠くまでは行ってはいないだろう。
彼女の五感が辛うじて届く範囲には居なくても、杖をお供にした散歩の距離だと計り知れている。
用が考えていたよりも長引いているのか、物思いに耽っているのかは知らない。
それでも、彼が、ものの数分で彼女の元へと帰ってくることを、彼女はなんとなく理解していた。
こんな場所――彼女以外、学園都市も他の人間も関係ない、この場所に帰ってくるのを、まだかなと待つ。
聞けなかった祝福の鐘の音よりも、彼の足音が愛おしかった。
このまま、彼と彼女だけの世界に留まり続けたいと、言えぬ願いが、心の奥底に沈澱していくのを今は無視して。
『 何もかも、誰も彼もが、自分たちのこと忘れてくれないだろうか 』
そうして、二人だけの世界に埋もれ己惚れて。
静かに、静かに、静かに。
終わりへと近づいて、消えてしまいたいのだと――――、言えぬ祈りを、今は、無視して。
ミサカ「忘れたいけど忘れたくないと思うこと」/番外個体「ミサカたちのこと忘れてくれないかな」①
※とある魔術の禁書目録及びとある科学の超電磁砲のSSです。
※原作知識は旧約全巻+新約三巻まで。超電磁砲は単行本既刊全巻のため矛盾も多々あると思います。
※未来捏造なので苦手な方が申し訳ありません。誤字脱字も多いかもしれません。
※カプ要素としては一方通行×番外個体、上条当麻×インデックスぐらいの予定ですが、予定は未定なので御容赦ください。
※投下不定期。年内、もしくは年始までに終了予定。
以上、もしよろしければ、お付き合いいただければ幸いです。
期待
乙、期待して待ってる
婚約を決めてからというもの、家族友人知人ありとあらゆる人が同じことを尋ねてきて、その度に打ち止めは頭を抱えたくなった。
「ねえねえ、どうして、その人と結婚しようって思ったの?」って。
容姿が優れているとか、年収が高いとか、価値観が合うとか。
“らしい”理由は特にないしぱっと思い浮かばないので、常に返答に苦労した。
ズバリ決め手は? なんて、つっこんで聞かれても、困るのです。
どーしようもなく困っちゃうのですよ。だって、明確でわかりやすい答えなんて無いんですから。
ぶっちゃけて良いのなら、恥も外聞も気にしなくても良いのなら。
この人が居ないと生きていけないと理解したから、何が何でも、結婚しようと躍起になりましたと正直に言おうとも。
けれど、かつての少女は、いつの間にか美しい女性という名の蝶へと羽化し、社会に揉まれて建前を知った。
仮に言ったとしても、周囲にドン引きされる未来が見えてしまう年頃に、なってしまったのだった。
かしこ。
「―――って、感じなんだよねぇ、ってミサカはミサカは内心を吐露してみたり」
近場の喫茶店。隠れ家的な雰囲気が女性に愛されてる人気スポットで、打ち止めはアンニュイにため息を吐いた。
「そんなに嫌なら、適当に『性格があうっていうかぁ、フィーリングぅ?』的な感じで誤魔化せばいいでしょう、
とミサカは曖昧に濁すという手段を知らない若造ひよっこにアドバイスを送ります。
マリッジブルーの皮を被った唯の惚気じゃねーか、このヤロー。独身の姉に対してのあてつけですか」
野次馬相手にそこまで真剣に悩む必要はないだろう、と近隣に住む姉の一人がバッサリと打ち止めの愚痴を一刀両断した。
何処の誰に似たのだこのヤローと恨み節を視線に込めてにらんでも、元を辿れば自分も姉も同じ人物に辿りつく。
「なんだこのヤローと思っても無駄ですよと、ミサカは言います。
強いて言えば。すべてのミサカはお姉さま似なのでしょうね、とミサカは言葉を続けます」
哀しいかな、可憐な乙女を演じたくとも、ミサカである以上、ミサカは何処の誰でも多少のは持っているのである。
そして、アンタ誰似よ? というこの上にないほど空しい議論は意味をなさないのである。
「……うぅ、今、ミサカの考え読んだの? ってミサカはミサカは悔しがるんだけど……。
一〇〇三二号ってば、いつにもましてクールビューティっていうか、ミサカに冷たい」
隠しても隠しきれない、ミサカ特有のマイナス要素が、いつもより表面に出ていませんか?と勘繰りたくなる。
「まあ、これだけ近くに同個体が居れば多少の感情の浮き沈みくらいは察せます。
けれど、それは上位個体も変わらないでしょう、とミサカは意見します」
だよね、と相槌を打とうと打ち止めが口を開きかけると同時、
むしろ割って入る形で一〇〇三二号――昔馴染みが呼ぶに、通称・御坂妹――は、タンタンと抑揚の幅が極端に狭い声で、しゃべり続けた。
「―――というか、ですね。読めるほど回線が強固でないのは、上位個体である貴方のほうが実感しているのではないですか、
とミサカはあえて今まで聞かなかったことを、あえて、今さらっと聞いてみるのです」
「……」
「……」
「……」
「……えっと、ってミサカ、返答にガチで困る質問が来ちゃったかな、なんて……」
いきなり確認をつく質問は辞めて頂きたい。心臓に痛いです。
「……あえて聞かなかったら、今も、聞かないでほしいかもぉなんて、ミサカはミサカは思うんだなぁ」
ははははと乾いた笑いが、喫茶店内に木霊した、ような気がした。
【訂正】
「……うぅ、今、ミサカの考え読んだの? ってミサカはミサカは悔しがるんだけど……。
一〇〇三二号ってば、いつにもましてクールビューティっていうか、ミサカに冷たい」
隠しても隠しきれない、ミサカ特有のマイナス要素が、いつもより表面に出ていませんか?と勘繰りたくなる。
「まあ、これだけ近くに同個体が居れば多少の感情の浮き沈みくらいは察せます。
けれど、それは上位個体も変わらないでしょう、とミサカは意見します」
だよね、と相槌を打とうと打ち止めが口を開きかけると同時、
むしろ割って入る形で一〇〇三二号――昔馴染みが呼ぶに、通称・御坂妹――は、タンタンと抑揚の幅が極端に狭い声で、しゃべり続けた。
「―――というか、ですね。読めるほど回線が強固でないのは、上位個体である貴方のほうが実感しているのではないですか、
とミサカはあえて今まで聞かなかったことを、あえて、今さらっと聞いてみるのです」
「……」
「……」
「……」
「……えっと、ってミサカ、返答にガチで困る質問が来ちゃったかな、なんて……」
いきなり核心をつく質問は辞めて頂きたい。心臓に痛いです。
「……あえて聞かなかったら、今も、聞かないでほしいかもぉなんて、ミサカはミサカは思うんだなぁ」
ははははと乾いた笑いが、喫茶店内に木霊した、ような気がした。
誤魔化しついでに注文したコーヒーに口をつける。
とんでもなく苦い。砂糖二杯にミルクも入れたのに、どこぞの白髪青年が愛飲しているブラックコーヒー並みに苦い。
ブラックよりコーヒー牛乳派な打ち止めの舌では耐えがたい苦さに感じられた。
人生って、時折へビィよね、っと軽い現実逃避をしつつ、
それこそ、何と答えようかと考え、倦ねる。
「―――まぁ、答えたくないのなら、それでも良いのです、とミサカは引き際を見間違わない女であると自負しています」
「えっ?」
「……ちょいと、不躾しぎたかもしれません、とミサカは自分の非礼を認めれられる女であると公表します」
御坂は妹はそれきり口を閉じた。
茶色い前髪の隙間から見える眉毛が少し垂れ下っているのは、きっと、幻じゃない。
それでも、表だっては、さらりと聞いた以上にさらりと引いた彼女。
後半の自画自賛はともかくとして、ドシリアスな話し合いをこんつめてしたい訳じゃあなく、単なる軽い知的好奇心だった、と御坂妹は暗に言いたいのあろう。
こんなに近くに居る同位体の姉妹だもの、そのくらい察せられる。回線があろうがなかろうが。
この歳になると、ミサカ同士のやりとりに限って言えば、回線の必要性が薄らいでいっているのは、事実なのだろう。
同じ注文の品なのになあと思う。
同じ姉妹なのになあと思う。
なんと御坂妹は優雅に、そして美味しそうにコーヒーを嗜むのであろうか。
それに比べて、すっとしゃれた返答が出来ない自分は、だからこそ、最年少の妹扱いが終わらないのかもしれない。
【訂正】
誤魔化しついでに注文したコーヒーに口をつける。
とんでもなく苦い。砂糖二杯にミルクも入れたのに、どこぞの白髪青年が愛飲しているブラックコーヒー並みに苦い。
ブラックよりコーヒー牛乳派な打ち止めの舌では耐えがたい苦さに感じられた。
人生って、時折へビィよね、と軽い現実逃避をしつつ、
それこそ、何と答えようかと考え、倦ねる。
「―――まぁ、答えたくないのなら、それでも良いのです、とミサカは引き際を見間違わない女であると自負しています」
「えっ?」
「……ちょいと、不躾すぎたかもしれません、とミサカは自分の非礼を認めれられる女であると公表します」
御坂妹はそれきり口を閉じた。
茶色い前髪の隙間から見える眉毛が少し垂れ下っているのは、きっと、幻じゃない。
それでも、表だっては、さらりと聞いた以上にさらりと引いた彼女。
後半の自画自賛はともかくとして、ドシリアスな話し合いをこんつめてしたい訳じゃあなく、単なる軽い知的好奇心だった、と御坂妹は暗に言いたいのであろう。
こんなに近くに居る同位体の姉妹だもの、そのくらい察せられる。
回線があろうがなかろうが。
この歳になると、ミサカ同士のやりとりに限って言えば、回線の必要性が薄らいでいっているのは、事実だ。
同じ注文の品なのになあと思う。
同じ姉妹なのになあと思う。
なんと御坂妹は優雅に、そして美味しそうにコーヒーを嗜むのであろうか。
それに比べて、すっとしゃれた返答が出来ない自分は、だからこそ、最年少の妹扱いが終わらないのかもしれない。
>>11-12
ありがとうございます。今回は12時近くなりましたので終わります。
今後空いた時間に描きためた分を訂正を入れつつ投下、という形になると思います。
区切りよく出来ればよいですが、中途半端に途切れることも多々かと。おつきあい頂ければ幸いです。
視線は自然と下へと導かれた。
半分ほど空になったコーヒーの暗い表面に自分の情けない顔が写りこむ。
(……決めたから。自分で決めたんだから)
震えちゃあダメじゃないって、自分を叱咤激励。
馬鹿みてェに笑っていろよとかつて言われた言葉の通りに、絶対に、泣いてなどやらないのである。
俯くと同時に耳にかけていた髪の毛が一束落ちてきて顔にかかる。
頬を掠る感触が、少し、うざったい。
夏なのだから、ショートカットにでもすればよかったと場違いな不満を思いつき――ああ、また、現実逃避。
残された時間を認めたくなくて、それでも、やはり認めないといけなくて。
まだ見たくない知りたくないのだと、モラトリアムの時間を恋しがる子供のように問題を先延ばし、今に至ってしまっていて。
でも、潮時だ。
物事には決まりがある。
何事にもピリオドの時間がやってくる。
シンデレラの魔法は夜中の12時までに塵と消えるように。
白雪姫が王子の口づけで眠りから目覚めるように。
自分を見つけてくれた、あの人との、騒がしくとも愛おしかった時間も。例外はない。
小さく息を吐いて。
瞬きをした微かな狭間の時に、幼かったあの頃を慈んだ。
ずっと一緒いたかった、とかつて彼は言って、
ずっと一緒にいられると、かつて自分は信じていた。
そんな、白く青く、キラキラと輝いた日々があった。
彼と自分は二人で一人なような、そんな日々が、確かにあった事を確信して―――、
(……ミサカだって、知ってるよ、認めているよ)
ミサカなら、妹達なら、嫌でも察していること知っていること理解していること。
それは、
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