側近「また配下の者が消えました…」 魔王「ぐぬぬ」 (44)


魔王「ええい、どうなっておるのだ!!!」ダンッ

側近「ヒッ」

魔王「この!難攻不落の魔王城に詰める誇り高き魔族から!
   脱走者が出るなど!ありえぬことだろうが!」

側近「そ、それはそうなのですが」

魔王「そもそも、ここを出て彼奴らは一体どこへ行くというのだ!
   人間どもとは共生できぬことぐらい、末端のスライムでも知っておろうが!」

側近「…ですが、配下の者を何度点呼しても、数が合わぬのございます」

魔王「ぐぬぬ…」

側近「如何致しましょう、魔王様」

魔王「…足りぬものは補填する。欠落者のリストを持ってまいれ。
   余の魔力で代わりを生み出すぐらい、造作も無い」





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側近「リストはこちらになります…」

魔王「うむ…。…おい、側近」

側近「は」

魔王「獰猛で鳴らしたドラゴンが、今回は4体も消えておるようだが」

側近「は…」

魔王「サイクロプス族の勇猛な戦士も、2名」

側近「如何にも」

魔王「下のものの間では、脱走を賛美する風潮が蔓延っておるのか?」

側近「滅相もございません!」


側近「そもそも、我ら魔族に『離反する』という道理が成り立たぬのは
   魔王さまとてご存知のはず!」

魔王「…」

側近「我ら魔族は『魔王様が存在すること』によりこの世に存在しておるのであります」

魔王「そうだ」

側近「もしも…不敬な前提ではありますが、もしも魔王様がお倒れにでもなられたら、
   我ら魔族は命脈を絶たれ、それこそ末端のスライムまでもが消滅するのですぞ」

魔王「そのとおりだな」

側近「その前提に立ち、我ら魔族から魔王様を裏切るものが出るでありましょうか」

魔王「考えにくいことではある。…が、実際に欠員は出ておるのだぞ」

側近「は…」


魔王「考えてもみよ側近」

側近「は」

魔王「人間どもとの争いが始まり、既に何年が経とうとしておる」

側近「50余年…にございます」

魔王「そうだ。"魔の侵略"と"人間の防衛"の構図が敷かれ、それが膠着状態に陥り久しい。
   我らが人間の世に築いた拠点も、増えもせねば減りもせぬままだ」

側近「左様でございます」

魔王「…貴様はこの状態から魔族が世を征するまで、あと何年かかると思う」

側近「は…。私めにはとんと…」

魔王「余に遠慮をするな。ありのままを申せ」

側近「…魔王軍の陣容を整え、大国への侵略を成し、…あと、早くとも30年」


魔王「そうだ、どんなに早くとも今の調子ではそれだけかかるのだ」

側近「…魔王様ご自身がご出陣あそばせば、10年に縮めることが出来ます」

魔王「それはできぬ。余は我が身がかわいいのだ。
   …いや、正確には我が身が朽ちることによる魔族の終焉が怖いのだ」

側近「は…」

魔王「人間どもにも、余を滅する危険性を持つものがおることは把握しておる。
   どれだけ低い可能性であろうが、危険があるならば余が前線に出るわけにはゆかぬ」

側近「ありがとうございます。そしてその御身をお守りするために我らは在るのです」

魔王「…だが、そうした暮らしがあと少なくとも30年続くのだぞ」

側近「…」

魔王「そやつらはその長き年月に絶望したのやもしれぬな?」

側近「…奴らは魔族の恥さらしにございます!」

魔王「無論だ。一時の享楽に溺れ、魔族の本懐を忘れた罪は重い」


魔王「だが、今後はそやつらを積極的に捜索せずともよい」

側近「魔王様!?」

魔王「そやつらに泡沫の夢を見せてやるのも一興。
   それに強引に連れ戻したところで、忠義者のお前たちの如き働きは出来ぬだろう」

側近「それは…ですが」

魔王「だが、それはあくまで"余の目に触れぬ範疇で"あればこそだ」ギロッ

側近「はっ」

魔王「そやつらには"離反者"の烙印を押す。誅伐したものには褒章も出そう。
   無論、生死は問わぬ。これを末端に至るまで知れ渡るよう、入念に流布するのだ。
   この魔王の影に怯えながら生きるのであれば、お前たちの生を許すとな」

側近「ははっ!」

魔王「…では、余は新しい魔族の仲間を生み出す作業を始める。
   そやつらの教育係は、またお前の裁量に一任するぞ」

側近「心得ましてございます!」


魔王(――しかし、おかしい)フゥ

魔王(確かに人間との戦いはもう50年を超える長さになるが、
   その間に魔王軍から自発的に離反したものなど最近までついぞなかった)

魔王(50年を耐え忍んだものが、これからの30年を耐えられぬ…という道理もあるまい)

魔王(…何か、不穏な予感がする…言葉には出来ぬが)


魔王「……クク、思考の袋小路だな」グッ

魔王「これから生まれ出ずる貴様らは…余を裏切ったりしてくれるなよ?」ズゥゥ…


―― 別室


側近「――というわけだ。お主らの直属のものには、お主たちから言っておいてくれ」

幹部1「キキッ、仕方ねェ。尾ひれをたっぷり付けて吹聴してやらァ」

幹部2「魔王様に背きしものは、人魔を問わず皆殺しだ」

幹部3「……」コクッ

側近「…ここだけの話だが、実際どうなのだ、幹部1。
   お前の千里眼と地獄耳ならば、部下の動静はすぐに把握できるだろう?」

幹部1「オレも四六時中その2つを使ってるわけじゃァねェからなぁ。
    だけど、聴いてる限りじゃあみーんなキレてるぜ?『なんであいつが』ってなァ」

側近「そうか…。いや、それならば更なる造反者が出ることはないか?」

幹部2「しかし、まさか我の部下からも造反者が出るとはな。恥辱に耐えぬ」

側近「気に病むな。魔王様はお前たちを咎めるつもりはない」

幹部2「だが…。いや、いい。残った部下たちはよく薫陶しておく」

幹部3「……」コクッ

幹部1「ケケッ、だんまりの幹部3が部下に説教するところ、オレも見てみてェもんだなァ」

幹部3「……」プイッ


側近「幹部1よ」

幹部1「あァん?」

側近「これ以上事態を悪化させぬためには、お主の知覚が頼りだ。
   手が空いているときは、なるべく城内の動向に気を張っておいてくれ」

幹部1「…ッチ。しゃーねェなァ。わかりましたよ側近サマ。
    そんかわし、超過労働に対する特別ボーナスぐらいは弾んでくれるんだろうな?」

側近「善処しよう」

幹部1「ケーッ、やだやだ、これだから執政官サマはよぅ。
    もうちょっと歯切れのいい回答で頼まァよ、そういう官僚的な奴じゃなくてさァ」

側近「む…。すまん」

幹部2「そういじめてやるな幹部1。我からも頼む、お前が頼りなのだ」

幹部3「……」コクッ

幹部1「ンだよお前らァ…、気持ちわりィからそういうのやめろよォ…。
    わーった、わーったよ!頑張る!でもボーナスは貰うぞ!いいな!」バッ

幹部3「……」バイバイ

幹部2「逃げたな」

側近「ハハ、しかし奴が確約したのだ、もう事態は悪化することはあるまいよ」


―― 1ヶ月後


魔王「…幹部1の姿が数日前から見えない、だと」

側近「はっ…!」

魔王「……」

側近「…あの、魔王様」

魔王「黙れ」

側近「ははっ!」


魔王「軽佻浮薄な奴よとは思っておったが、まさかここまで愚かであったとは」

側近「面目次第もございません…!」

魔王「他のものと扱いは変えぬ。生死問わずで指名手配しろ」

側近「ははっ!」

魔王「…このところの魔王軍は落ち着いておると思ったが、ここにきてこれか」

側近「……」

魔王「…奴の代わりは、さすがの余でも即座に生み出すこと叶わぬ。
   当面の間は奴の部下から有能なものを選び出し、臨時の軍団長とせよ」

側近「かしこまりました!」

魔王「…よし。下がれ側近」

側近「ハハッ…」


側近「…寿命が10年縮む思いだった」

幹部2「…心中察するぞ」

幹部3「……」コクコク

側近「最後に幹部1を見かけたのは、幹部3だったか」

幹部3「……」コク

側近「何か変わった様子はあったか?いつもと違う様子であったりは」

幹部3「……」フルフル

側近「そうか…。いらぬ負担を敷いたのが仇になったのだろうか…」

幹部2「…側近殿。これはちとおかしいと思わぬか」

側近「私の常識から照らせばおかしいことだらけだ!」

幹部2「そういう意味ではない。…我とて、幹部1の浮つきには我慢ならぬところはあった。
    だが、奴がこういう裏切りを働くようなやつであったとは到底思えんのだ」

側近「むぅ…」


幹部2「なにか途轍もないことが城内に起こっておるのではないか」

側近「途轍もないこととは何だ!魔王様のお膝元で、そんなことがあってたまるか!」

幹部2「側近殿…」

幹部3「……」ビクビク

側近「ぬ…。…すまぬ。私も動転しておるようだ、まずは落ち着こう…」

幹部2「お察し申す」

側近「…お主らは何があっても裏切るようなことは」

幹部2「我の忠誠に誓って、ありえぬ」

幹部3「……」プンスコ

側近「…そうか。…そうだな、ありえぬな。そなたたちが裏切るなど…」

幹部2「だが、そのありえぬことが起こったのだ。…何かこれはキナ臭いぞ」

側近「幹部2…?」

幹部2「しばらく我の方で独自に調べてみよう。案ずることはないぞ、側近殿。
    何か分かり次第、すぐに報告をさし上げる。大船に乗ったつもりで待ってもらおう」

側近「頼む…頼むぞ…」


―― 一週間後


幹部3「……」オロオロ

側近「……」

魔王「…側近。もう一度報告せい」



側近「…幹部2の行方が…5日前から、杳として知れませぬ…」




魔王「…して」

側近「城内には動揺が広がっております…。幹部1に続き、幹部2も失踪したとあれば、
   士気が落ちるのもやむかたなしかと…」

魔王「魔王軍の誇る四天王が、わずか1ヶ月で半分に減ったのだ。当然だな」

幹部3「……!……!」ピョンピョン

魔王「…なんだ、申してみよ幹部3」

幹部3「その……幹部1も……幹部2も……もしかしたら、もう……」

魔王「もう、何だ?」ギロッ

幹部3「ッ!」ビクゥ

側近「魔王様…」

魔王「…咎めておるのではない。申せ、幹部3」

幹部3「……その……これは……失踪ではなく……」



幹部3「……暗殺……、なのでは……」



魔王「…側近」

側近「はっ!」

魔王「その線はあるか」

側近「…可能性としては、ないものだと考えておりました」

魔王「何故だ」

側近「…ここ最近、この城に人間が忍び込んだ形跡はございません。
   哨戒の者の報告によれば、半年前に潜り込んだ冒険者の一団が最後であったと」

魔王「ほう。その者たちは」

側近「奇襲を仕掛けて城門をくぐり抜けたものの、城内にて幹部1に補足され、
   幹部2率いる軍団が直々に迎撃した…と報告を受けております。
   しかし、彼奴らめ逃げ足ばかり早く、あっという間に逃げおおせたと」

魔王「…報告がなかったようだが?」

側近「も、申し訳ございません!お耳に入れるまでもないかと愚考し、
   私のところで話を握りつぶしておりました…!」


魔王「…もうよい。では、人間ではないとして、身内のセンは」

側近「…考えにくいことでございます。幹部1と幹部2は四天王の中でも屈指の武闘派。
   それこそ強さで比肩しうるのは、魔術に長ける幹部3くらいのものですが…」

幹部3「……私では……肉弾戦に……持ち込まれてしまえば……」

側近「それこそ、そんな大規模な戦闘が城内で起こって、気付かぬ道理がございません」

幹部3「……側近は……頭はいいけど……弱い……し……」

側近「はっきり言ってくれるな貴様!」

幹部3「……」ビクビク

魔王「では、幹部めらの部下が?」

側近「束になったところであやつらに勝てたとは思えません。
   ましてや、我々に感知させることもなく、となれば…不可能です」

魔王「……」


魔王「…側近」

側近「はっ」

魔王「余は頭痛がする。…軍団の再編成はお前に一任するとしよう。
   …こうなってしまっては、早急に奴らの代わりを仕立てねばならん。
   今宵は魔力をじっくりと抽出し、明日以降は新たなる幹部の生成作業に入る」

側近「ははっ!」

魔王「考えても答えが出る事態ではない。正確な事実のみを収集せよ。
   それらを厳密に考査し対策を練り上げ、それを以って余への報告とせよ」

側近「かしこまりましてございます!」

魔王「幹部3」

幹部3「……」ビクッ

魔王「幹部1と幹部2の穴を埋めるのは貴様しかおらん。
   哨戒と迎撃の任まで被せるのは忍びないが…任されてくれるか」

幹部「……!」コクコク!!

魔王「…頼んだぞ、二人共」


―― 翌朝


魔王「……ん、むぅ……朝か」グラッ

魔王「……ぬぅ」

魔王(いかんな、身体が重い。……さすがに幹部級二人分の生成ともなれば、
   余の魔力が無尽蔵と言えども多少は堪えるらしい。
   だが、玉座にある魔力塊は…うむ、よい感じに仕上がりつつあるな)

魔王「誰ぞ。誰ぞおらぬか。側近を呼べ」



??「……"側近さん"とは、あのご老人ですか」



魔王「……何奴」

??「……はじめまして。勇者といいます」


魔王「勇者。…余の寝所に立ち入った人間は、そなたが初めてだ」

勇者「そうですか」

魔王「して、何用だ」

勇者「あなたのお命を頂戴しに」

魔王「…クク、だろうな」

勇者「…武器を取ってください、魔王」

魔王「まぁ、そう急くな。…お前か、昨今の失踪事件の首謀者は」

勇者「…ええ」


魔王「何故…いや、違うな。如何にして成したのだ、この一連の事件を」

勇者「私達が半年前にここに来たことは知っていますか」

魔王「昨日、初めて聞いた。そうか、貴様はその一団のものか」

勇者「その時、うちの魔法使いが、この城内のあちこちにマーキングを施しまして」

魔王「マーキング…とはアレか、犬畜生が縄張りを示すために致すアレか」

勇者「転移呪文の転移先として、呪術的な目印をつけておいたんです」

魔王「なるほど…。読めてきたぞ」

勇者「……」

魔王「貴様らはそのマーキングによって、城内へ電撃的に侵入を果たしておったわけか。
   余にも部下たちにも気取られぬほどに、素早く、そして確実に」

勇者「その通りです」


魔王「そして…ククククク!なるほどなぁ!人間の智慧とは見上げたものだなぁ!」

勇者「……」

魔王「そうかそうか!!そういうことか!!
   …やはり、魔王軍に裏切り者などいなかったのだ!!ハーッハッハッハ!!」

勇者「…言わなくても、お分かりのようですね」

魔王「ああ…。その転移呪文を利用して、最初は手近な兵士共をさらった!
   自分たちに不利なこの城内で戦闘をする必要などないわけだからな!」

勇者「はい」

魔王「…そして、いかなる手段を持ってしてか、幹部1の探知能力を知った!」

勇者「それに関しては本当にラッキーでした。
   たまたまさらった一つ目の戦士が、『幹部1様の目をどうくぐり抜けた!?』と
   迂闊に口を滑らせたことで、こちらもそうした者がいることを知ったんです」

魔王「そうして、貴様らはより慎重に立ちまわるようになったわけか!!」


勇者「自慢ではありませんが、うちには気配を悟らせないことにかけては
   人間でも随一の人材がいるんです。彼と、転移呪文を使うもののツーマンセルで
   この城内を時間をかけて、徹底的に調べあげました」

魔王「なるほどなるほど…。続けよ」

勇者「そして機を伺い、彼を…幹部1を、さらいました」

魔王「…奴は、最期になんと申しておった」

勇者「『役目を果たせず申し訳ない』、…と」

魔王「…うむ。…軽佻浮薄という言葉は取り消す、と地獄で言わねばなるまいな」

勇者「これで監視のレベルが格段に下がったため、私達の計画は最終段階に駒を進めました」

魔王「それが、幹部2の失踪か」

勇者「…はい」


魔王「奴の最期の言葉も、聞いておろうな」

勇者「『魔族に栄光あれ、魔王様万歳』、…と。敵ながら天晴な最期でした」

魔王「…武技一辺倒の頑固者ではあったが、最期まで忠を貫いたか」

勇者「……」

魔王「そして、今ここに貴様がおるということは」

勇者「…お察しのとおりです」



魔王「…幹部3も、側近も、逝ったのだな」



勇者「幹部3…というのですか、彼女は」

魔王「ああ」

勇者「うちの魔法使いと、魔術による一騎打ちを挑んできました」

魔王「…そうか。魔術による一騎打ちということは」

勇者「ええ。…遺言を残す間もなく、最期は一瞬で消滅してしまいました」

魔王「…元来、奴は無口であったからな。どこぞに遺言状でも認めてあるやもしれんが」

勇者「側近という方は…私がやりました」

魔王「…なるほど。奴はなんと申しておった」

勇者「『全ては私の浅慮ゆえのこと。魔王様、地獄でお詫び申し上げる』、…だそうです」

魔王「……」



魔王「フ……フハハハハハ!!!ハーッハッハッハッハァ!!!」



魔王「よくぞここまで卑怯に徹したな、勇者よ!!敵ながら褒めて遣わすぞ!!」

勇者「……」

魔王「認めよう。今、余は貴様らに完敗した!それすなわち、魔と人の争いは
   人間が勝ちを収めたのだ!この勝利を生涯の誇りとするが良いぞ、勇者ァ!」

勇者「…別に」

魔王「あァ?」

勇者「私達は勝利したわけではない。…負けたんです、私達は。
   正道に悖るやり方でしかあなたたちと戦えなかった、というたった一点で」

魔王「クックク、わかっておるではないか!所詮人間などというものはな、
   卑怯で陰湿で欲望にまみれた、小狡いだけの畜生に過ぎぬ!
   そのような生き物が覇をとなえる世など、滑稽噺のようなオチがつくであろうよ!」

勇者「……」

魔王「いいか、予言してやろう勇者。…人間は滅ぶ。それも、人間自身の手によってなァ!」



勇者「…そんなことはさせない」



魔王「そうか!いいだろう、勇者よ!側近とともに地獄から見守ってやろうぞ!
   "魔"という敵対者を喪失した貴様らが、何も出来ない無力さを噛み締めて
   苦しみもがきながら畜生の道に堕ちて行くサマをなァ!!」

勇者「…私達には責任がある」

魔王「…ほぉ?」

勇者「あなた達という一種族を滅ぼし、生き延びようとした責任がある。
   絶対にそんな愚かな世にはさせない。…絶対にだ!!」

魔王「吠えたな小僧!だが、貴様のような楽観的な観点を統治者たる余は持たぬ!
   …頃合いだ。これ以上下らぬ問答を重ねて、側近たちを待たせるのは偲びない」

勇者「……」チャキッ

魔王「よいのか勇者?この問答の間、仲間を待っておったのではないのか」

勇者「ここは私だけにしてくれと言ってある」

魔王「ククク、良い覚悟だ!!では…



   全ての魔の頂点に立つ余の最後の力――その目にしかと焼き付けよ!!」














.


バタン

僧侶「あっ…。勇者さん」

盗賊「…終わったのか」

勇者「ああ。…全て、ね」

僧侶「…お疲れ様、でした」

勇者「うん。…本当に、疲れた」ドサッ

盗賊「…安心しな、もう追手はいねぇ。本当にみんな消滅しちまった」

魔法使い「全て読み通りだ。勇者、俺達の勝ちだ」

勇者「…うん。私たちの、勝ちだ。今はね」

魔法使い「…あの玉座に残っているオーブが、そうなのか?」

勇者「…ああ」


勇者「私との会話の間も、魔王はずっと自身の魔力をアレに練り込んでいた。
   …そのせいだと思う。あっけないほど簡単に、私の手で討たれたよ。
   そして、あの禍々しいオーブをこのまま放っておけば……


   きっと、数百年後に新たな魔王として覚醒するはずだ」


僧侶「…では、最初の手はず通りでいいですね?」スッ

勇者「いいよ。…頼めるかな、僧侶、魔法使い」

僧侶「ええ」

魔法使い「そういう約束だからな」

盗賊「ようし。魔王城の最深部はこっちだぜ、お前ら」

僧侶「あっ、待ってくださいよー」

勇者「…みんな、先に行っていてくれないか。少し…疲れた」

盗賊「…いいぜ、後からゆっくり来な。いくぞお前ら」スタスタ


勇者(…私にも、自信はない)

勇者(魔王の言うとおり、人はその程度のものかもしれない)

勇者(敵対するものがなくなれば…その身を喰い合い、滅ぼし合う生き物…)

勇者(だから…あなたが身命を賭して残した"希望"は、
   責任をもってこの世に遺させてもらいます、魔王よ)

勇者(幾百年の後、人間たちの世界がもしもあなたが予言したとおりに堕ちていたなら…
   その時は潔く負けを認めます。この世界は新しく生まれ変わる魔王のもと、
   魔族のものにしてしまえばいい。赤子の手をひねるよりも簡単なはずだ)

勇者(…私は最後まで卑怯だ。卑怯で在り続けるしかない。
   自分のしでかしたことの後始末を、魔族に任せることになるかもしれないのだから)



勇者(ただ…そんなことにはさせない。絶対に、させない)



勇者「んっ…」グッ

勇者「ふぅ…。さ、大変なのはこれからだ」

勇者「私たちの次の戦いの相手は、魔王よりも強大で度し難いかもしれない」

勇者「私がどこまで勇者でいられるか…地獄から見守っていてください、魔王よ」

勇者「…さて、盗賊たちの様子を見に行くか」スタスタ



バリバリバリバリッ!!

勇者「…あ、もう終わったかな?」

僧侶「あ、勇者さん。ええ、今ちょうど終わったところです」

魔法使い「私と僧侶の秘術を駆使して、オーブに厳重な封印を施しておいた
      これを外から破ることは絶対に叶うまい。…中からは容易いがな」

勇者「そうか、ありがとう。…みんな、本当にこれでいいんだな」

盗賊「くどいぜ、勇者。俺は冒険者の夢が破られなきゃそれでいいんだよ」

魔法使い「よい世になる自信は俺にもない。ならば、これは必要な措置だ」

僧侶「この確信が私たちの思い上がりだったら…いずれ魔王が無に帰してくれます。
   だから、今は忘れましょう。…もちろん、日誌にもこのことは書きません」

勇者「…ありがとう、みんな」




勇者「絶対に…幸せな世界をつくろう。ここに没した魔王に誓って」







   ――これが後世に語られることのない、五英傑伝説の序章である。




期待

おしまい

前作読み返してたらこういうの思いついちゃったんで
ささっと書いてみました
依頼は明日の夜に

序章だろ?
早く続きをだな

>>37
前スレの前日譚ですので
続きはそちらをどうぞ


面白かった

前の好きだったから嬉しい
また続編書いてもいいのよ

このシリーズ好きよ

幹部3がかわいい、と思ったそばから案の定殺されてしまっていたでござる。
しかし、“絆の勇者„が魔王城の絆を断ち切って回っていたとは何とも皮肉な話だな。

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