提督「人ではないことに変わりはない」 (149)
艦これ
Rな文の練習と申し訳程度のストーリー
次レスから
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416487917
「ーー以上です」
「よくやった。……何か言い残したことがある者は?
何もないなら次の招集までは自由だ」
言って、見回す。
この時世にあって人類の希望の象徴であり最後の砦である彼女たち。
しかし、ある者は頭で船を漕ぎかけ、またある者は姉妹の観察に余念がない。
たとえ上官への報告の場だとしても思い思いの行動で気儘なスタイルを貫く彼女たちは、なる程確かに女、あるいは少女であった。
「はい」
その中からスルスルと進み出た者が一人。
「……なんだ」
「MVP……最大戦果を挙げたのがわたしだということをお忘れなく」
日本人離れ、否、人間離れした美しく淡いブロンドの女、WW2においては重巡洋艦であったそれは愛宕であった。
「何が言いたいんだ」
そろそろ、彼の集中力も切れる頃。
小規模ではあったが作戦が一段落したところで、報告を聞くのも本当はお目付役がいなければ明日にしたかったのだ。
無理矢理動かす身体も精一杯の威厳も既にして限界が近い。
この後の予定は風呂、食事、睡眠の黄金方程式のみである。
それを個人の行動で長引かされてはたまらない。
知らず、反応も相手に催促するような、酷くぞんざいなものになってしまった。
「つまり、御褒美が欲しいのです」
「……」
キラキラ、ニコニコ。
まったく、美人は損をしないというのは羨ましいが、こんな時には苛々も溜まるというもの。
愛宕の後ろを見ればついに初雪は本格的に夢の世界へと旅立っていた。
……姉妹の観察に血道を上げている雷巡はどこであってもいいのか対象への視線のままに、先程と同じ姿勢だったが。
「……愛宕以外は自由だ。いかさい加減くだらない話に付き合うのも飽き飽きだろ、解散」
「もうっ…くだらないだなんてっ」
プンプン、などと言い出しそうな愛宕には興味なさげに、上官にはさらに無関心な態度でその他が動き出す。
なおざりながらも頭を下げて敬礼をするあたり、クレイジーサイコレズなんて言われる雷巡も根は真面目らしい。
「……加賀」
それらを眺めながら遠征組が報告に来てから今まで直立不動で傍に控えていた秘書に声をかける。
「ここに」
「初雪を連れていってやれ。
あれでは自室の場所すら覚束ない」
皆がめいめいに執務室を去ってゆくなか初雪だけは、堂々と居眠りを続けていた。
普段は怠いだの疲れただの言いながら目立たないように生活している癖に、こういう時ばかり目立つ。
それはどうなんだ初雪よ。
「……」
傍を見れば思案顔の秘書。
「初雪を連れていった後はお前も自由だ。
今日の仕事はこれで最後だからな」
ヒラヒラと手を振って解放を伝える。
実のところ彼女が伝えんとしているのが別のことなのは承知していたが、そんなことは気にしていられない。
「時間かかるだろ?愛宕」
キラキラ、ニコニコ。
相変わらず機嫌の良さげな本作戦のMVPを見上げる。
憎らしいことに頷く彼女の美しさに今度は安心した。
苛々したり安心したりが不安定に続くようになると本当に限界が近い。
彼の長くも短くもない人生の中でそれは数少ない使える経験則である。
「加賀」
もう一度。
今度は視線を合わせて意志を伝える。
純粋さと勤勉の塊のような瞳に僅かな焔と昏い濁り。
しかし、一瞬の後には美しさと尊さがその翳りを覆い隠す。
「わかりました」
僅かに柑橘系の香りを残して頭を下げた加賀が初雪に歩み寄る。
腕を引かれてやっと夢見心地ながらあちら側から帰還した初雪を引き摺る加賀。
ドアを開けもう一方の少女を先に行かせる。
確かに初雪より先に部屋を出てしまうと、誰もドアを閉める者がいなくなってしまう。
彼も眠りは深い方だったが初雪のレベルは素直に凄いと思う。
……何にせよ加賀はややぎこちない動きで歩く同僚を連れてドアのあちら側へ。
「加賀」
一分の隙もない敬礼をした彼女を遅ればせながら引き止める。
少しの間の逡巡の後に彼の口から出たのは、珍しい労いの言葉だった。
「……ありがとう」
「…………」
それに対して彼女は今度は会釈をするのみだった。
しかしーー
「加賀さん笑ってましたねー」
無表情のままに見えた秘書が扉のあちら側に消えて数瞬。
一人だけ麗らかな春のように太平楽な顔をしている愛宕が言った。
「そうか?俺にはわからなかったけどな」
事実、彼には加賀が鉄面皮を崩したようには見えなかった。
それは彼女が僅かに俯いたまま扉を閉めたからでもあったし、
間に愛宕が立っていたからでもあった。
「まぁ、いい。褒美というがなんだ。
給糧艦は先週来たばかりだから便宜を図るにしても次回だぞ」
「タンクが大きいと肩が凝るのよねぇ」
いまいち噛み合わない言葉を返しながら愛宕が肩を叩く。
それに合わせて彼女が言うところのタンクが形を変え、腕を戻した時にはまた元通りになった。
無意識にソレを目で追いかけたのには他意はない。
「俺も疲れてるんだ。もっと手短かにだな……」
目を閉じて眉間を揉み込む。
意識して疲れた雰囲気を演出するためのそれは精一杯の意思表示だ。
「ーー提督」
「あ?なんだーー」
眉間から流して自分も肩を叩こうとしたところで上からかけられた呼びかけに応える。
上を向いたところで、執務机にいつの間にか腰かけ、身体を捻っているのを腰の位置で認識したがーー
「ん……はぁ……」
つい、と。
細くしなやかな手指に顎を掴まれたのに気付いたときには遅かった。
反射的に肩に置いていた手がピクリと動いたが、すぐに動きをやめた。
いきなり蹂躙される口内に意志があれば抗議したかもしれないが、生憎口内も腕も彼の管轄である。
「……ぁ……ぃ…ん……」
唇を吸い上げ、歯の裏側を舐め上げ、彼の舌を扱きあげる。
巧みな舌技を操るのはいつしか普段の彼女ではなく、淫らな女のものに変わっていた。
「んんっ……いい加減離せ」
止めないでいるうちに愛宕の侵攻は弱くなるばかりか、逆に勢いを増す。
湧き上がる情欲がないではなかったが、息ができなければそんなことを考える余裕もなくなる。
「んはぁ……そんな邪険にしなくてもいいんじゃないかしら?」
本当に、凄まじく本当に残念そうな彼女が名残惜しげに顔を離す。
一方的な産物である銀の橋が垂れて、執務机を汚す前に舌で巻き取る姿は真に毒婦のようであり、
しかし、瞳のいたずらっぽさは少女のようでもあった。
「俺は、褒美の希望を訊いたんだが」
言いつつ袖口で自らの口を拭い取る。
ほとんどが愛宕のものであったが
無視できない位には自分の唾液も出ていたのを感じる。
ぬらぬらと唇を濡らすそれをそのままにしておくのは、
何故だか背徳が過ぎて毒を呷るようだと身が知らず震えたのだ。
「提督が……」
「あん?」
「提督が御褒美ではいけませんか?」
「……」
「……」
今や愛宕は執務机の上にほぼ四つん這いの形で乗っかっていた。
渋面をつくったはずの彼の目の前で、首を傾げる彼女の表情はやたらと純粋さに満ち溢れている。
小悪魔、という単語を思いつくと同時にそんな純粋さがあってたまるか、と思わないでもない。
「……眠いんだ」
「提督にはわたしたちを愉しませる義務があると思うの」
「明日じゃだめか?」
「嫌、我慢できない」
「……」
「……」
既にキラキラ、ニコニコとしていた愛宕は消え去り。
ギラギラと情欲が湛えられたその瞳は確かに彼の男を呼び覚ます。
「……寝室に行け。鍵を閉めておく」
彼は結局仕方なく瞳に負けてやることにした。
つっかえせば彼女は物分りのいい忠犬のように自室に帰るだろう。
ただし、自分かあるいは一部がよく似た姉妹と一緒に束の間の休暇を慰め合うのだ。
そして、明日には彼に文句を言いにくるし、次回のおねだりと内容は今回よりも執拗で濃いものになる。
彼の短くも長くもない人生の中でそれは数少ない経験則の一つだった。
「わたしは気にしないのに……」
「俺が気にするんだよ!」
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
どちらからともなくベッドに倒れこむ。
執務室に隣接する士官用の寝室。
執務室の扉を厳重に閉め、寝室に入った途端に彼は発情した雌によって壁に押し付けられたのだ。
忠犬か雌犬か。
随分と極端で、それでいてどちらにもいかがわしさを感じるあたり彼も愛宕を責められないな、と痺れた頭が一瞬考えた。
「ぅはぁん……て、い督も…はぁん……」
しかし、やられてばかりでは面白くないし、男が廃る。
昨今の生きにくい世の中で男女差を露骨に示しても、構わないのが寝室とは皮肉なものなのかもしれない。
兎も角。
彼は、自らを押さえつけて快楽を貪ろうとする愛宕の背中に手を回してベッドに雪崩れ込んだのだ。
士官用とはいえ前線に近い軍事施設のことである。
壁と寝台の間に然程の間は存在しない。
「んふふっ……眠い割にはっ、お元気ですね?」
キスの間にシーツをお互いの唾液もで濡らしながら愛宕が笑う。
それは美しく、しかし淫靡で決して陽の元には晒せないそれは堕ちた彼女の姿だった。
「はっ……雌犬が盛っていれば相手をしてやるのが主人の役目だからな」
女の挑発に男が乗る、ということ。
閨において異性にかけられる挑発はそのまま男女の駆け引きである。
その証拠に愛宕は彼のベルトをいつの間にか外して床に放り投げていたし。
彼は愛宕のブラウスを留めていたリボンタイを解いていたし、
勿論彼女の視線と自らのそれは絶対に絡ませたままであった。
「ジャケットは脱いだのか。首巻きもないし」
「あれ、堅苦しくって……。
もしかして全部脱がせたい人でしたっけ?」
「いや、別に」
反射的に応えたがしかし、彼は脱がすのが好きだった。
脱がされた女の羞恥を、あるいは艶やかな姿を見るのがこの上なく好きだった。
彼女におしえてやるのはつまらないので言わないが。
「ん……あん………乱暴にしない、でってばぁっ…」
自分の息が整ったところで無造作に彼女の胸を揉み込む。
遠慮もなにもないただただ情欲と好奇心に任せた指先。
何度も身体を重ねた仲ではあったが、女性らしい女性が好みの彼にとって愛宕という雌の姿態は実に素晴らしく映った。
「……ん、んん!」
仰臥の状態から愛宕を下に起き上がり片手で顎を掴み、強引に舌を差し込む。
それは先程の意趣返しであったかもしれない。
舌を差し込み、彼女の欲に塗れたキスとは違う丁寧な愛撫を繰り出す。
歯茎の僅かな窪みに尖らせた舌を滑らせ、唇で空気を求める彼女の唇を黙らせる。
そして愛宕は次第に苦しくなってゆき、顔を離した。
「提とーー」
彼女がなにか言いかけたタイミングで今度は胸の頂きを指腹で擦る。
仰向けの状態でもこんもりとしたソレは未だにブラウスと下着に包まれてはいたが、
続く交わりで既に頂きは尖り切っている。
大きいひとは感じない。
そんな世間の噂とは裏腹に愛宕はそれだけで背中を仰け反らせた。
それは一つは呼吸を外されたせいでもあったし、もう一つはーー
「随分、感じるんだな」
囁く前から赤らんでいた愛宕の頬がさらに朱に染まる。
変なところで純真な彼女の反応が面白くて、彼は一気にブラウスを左右に引っ張った。
結果として当然のことに哀れなボタンを飛ばして彼女の豊かな谷間が現れる。
下着の色をジャケットに合わせてるんだな、などと思いながら谷間を流れる汗を舐め取った。
「ああ……!…ちょっと、ブラウ…やっ…!」
彼女の抗議を何処吹く風に受け流して、目の前の果実にかぶりつく。
ブラジャーは愛宕の汗を吸い取ってか大分くたびれていたが、
フロントホックなのを幸いにそのまま足元に投げ飛ばす。
舐める、吸う、擦る、つねる、そして弾く。
様々に形を変える乳房を楽しみながら、既に雌の顔を晒して久しい愛宕の嬌声をも愉しむ。
「いやっ……そん、な…無理だって、ばっ……」
今の自分はどんな表情をしているだろうか。
赤子のように只管女の乳房を虐ぶる姿は醜悪なようで、きっと人間らしい。
しかし、なにより愛宕の嬌声とそれに合わせて揺れる乳房はどんな宝石よりも輝いて見えた。
「もうっ、わたしだってーー」
何度かちいさな痙攣を残して身を震わせた彼女がとりあえず息を吐いた彼の口に吸い付く。
次の瞬間立場は逆になっていた。
今度は愛宕が彼に馬乗りに。
「はぁ…はぁ…相変わらず、ですねぇ」
「おま、えが悪い。誘ったら主導権は渡すなよ」
先制攻撃をしたら絶対に主導権を渡してはならない。
これは戦場においても、鉄則である。
「へぇ…?」
ニタァ…、と嫌な笑いを浮かべた愛宕が彼のズボンを寝台の側に落とす。
ベルトを外されたズボンは彼女に逆転されたときに勢いで脱げていたようだった。
「こんなにしちゃってるのに憎たらしい」
愛宕の双丘に劣らず重厚感のあるヒップと彼の逸物の間には、
僅かにお互いの下着とパンストのみ。
しかし、なにやら感触がーー
「あっ、気付いちゃいました?」
「…?」
何が楽しいのか愛宕が意味深な笑みを浮かべる。
その瞬間だけ淫靡な雌犬は消えて、普段通りのいたずらっぽさが残る年相応の彼女が現れた。
しかし、それも一瞬のこと。
「じっつはぁ…わたし、今Tバックでーすっ」
はぁと、と続きそうなその表情は紛れもなく悪魔で。
「……あっ…うぅ…!」
驚きも覚めやらぬ間に愛宕が腰を大胆にグラインドさせ始める。
ただでさえ、彼の下着と薄いパンスト以外には遮るものがないのだから感覚はダイレクトに脳髄と腰奥を直撃する。
「くっ……ちょっ…ま、待って……!」
彼の胸板に両手をついて前後ばかりか左右や上下にも動かす愛宕。
しかも、両腕に押さえられて飛び出した両の乳房が所狭しと暴れ回る。
艤装のない状態とはいえ馬乗りされた状態のこと。
男だとしても振り払うにはいささか不利である。
「ほぅら、ほぅらっ、主導権はどっちですかぁ?」
いつの間にか下着は取り払われ今や愛宕はパンスト一枚で、
彼の逸物を擦り上げていた。
肉食獣のキスと、彼自身が愉しんだ果実の所為で思った以上に性感は刺激されていたのだ。
特に彼女のヒップの割れ目が竿の根元を刺激するのがまずい。
「や、やめろっ…わるか、悪かったから……!」
「んー?きっこえませーん、うふふ。そーれそーれ」
悪魔的に蠱惑的な声を響かせながら愛宕が笑う。
今度は悲鳴を上げて哀願する彼の胸板に自らの乳房を当てて、
逸物の根元をショーツの割れ目がある部分で刺激する。
「はぅっ…やめっ……んむ!」
一転弱々しくなった彼の抗議を小さいと遮りながら、
むしろ聞くまいと真っ赤な長舌を侵入させた。
一度こうなってはもう遅い。
身体全体でマウントを取られた男にできることは一つしかないだろう。
「て・い・と・くっ?」
「あっ……っ……」
彼の口内に唾液を流し込んだ愛宕が満足とばかりに一際腰を大きくグラインドさせて、身体を押し付ける。
彼がソレの瞬間見たのは主人を誑かした雌犬が勝ち誇ったウィンクを投げてくる様子だった。
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
「お前、やりすぎ」
時は例の戦果報告と一方的な夜戦が展開された日の、深夜である。
あの後は結局六度に渡って搾り取られ、最後の方は無様な姿を晒してしまった。
「うふふっ…可愛かったですよ?提督のア・ヘ・顏っ」
「」
恐らく深夜なのだろうが明日ーー今日は特に急ぎの軍務はないはずなのでピロートークの真最中。
しかし、負けに負けた後のピロートーク程辛いものはない。
「……で?満足したか?」
あまり長々と痛ぶられるのも癪なので話を変える。
そもそもこれは愛宕の御褒美の話だったのだ。
……御褒美に上官を好き勝手する部下というのは考えものだが。
「ええ、そりゃあもう」
本当に幸せそうな顏しやがる。
しかし、と考える。
愛宕だけでなく彼女たちはいつも命を燃やす。
それも見ず知らずの、自分勝手な人間たちのために。
それの報酬が偶のまぐわいならばそれはどれだけ有り難いことなのだろうか。
……なにより、自分が楽しくなかったなんてことは口が裂けても言えない。
愛宕はどちらかというと二人で一緒に愉しむ、を大事にするタイプだ。
勿論イカされまくった裏で彼女も悦びを得ていたはずである。
それでも、である。
俺たちは、彼女たちの献身を、現代の戦女神を忘れてはならない。
「なぁ、愛宕」
「はい?」
窓から零れる月光に透かされた彼女の金髪が輝く。
それは、言葉にはできないほど美しい。
「今日の朝、もし早く起きたら買い物にでも行かないか」
「どうしたんです?別にこれで満足ですよ?」
不思議そうな表情で彼女が訊いてくる。
「いやなに…俺がお前と出掛けたいだけだ。
なんなら貸し一つでもーー」
「いえ、ありがたく随伴致しますよ。わ・た・しのかわいい提督さんっ」
「むっ……」
月夜に男と女。
少しだけ情けない男と、自分に正直な女。
それは、普通過ぎてしかし美しい光景。
彼はそれがいつまでも続くことをーー
「あっ、もしかしてホテル行きますか?ね、そうなんですね?
リベンジですか?」
「……」
勿論、それがどんな関係であれ彼にとって彼女が大切な存在であることに変わりはない。
裏テーマはいかに間接的な言葉で雰囲気をつくるか、でした
もし、見てくださった方がいればありがとうございました
間接的だが別に抽象的になってるわけではなく細かい描写を大事にしてていいな
おつ
エロ目線ではなく駆け引きの面白さで見させてもらいました
おつ
文学的でいい。これならエロなしでも十分いける。
同じ世界観で次は秘書加賀を頼む
開いてよかった
ええな
乙です
見てくれた人がいて嬉しい限り
今日はそんなに進みません
「天龍ちゃん大丈夫かな〜」
ある日の昼下がりのこと。
数日前に彼の忠実な秘書で、全権を与えた部下でもある彼女を筆頭に主力を送り出した。
今日はその艦隊が帰投する予定であった。
作戦遂行は昨夜終わり、イージス艦数隻に分乗し休息を取った後での帰還であるため珍しく帰還予定も昼日中のことである。
「お前とも暫くお別れだな。
天龍のことを連呼すること以外は素晴らしかった」
「それは私の存在意義だし〜」
普段は鉄面皮空母こと加賀が常時秘書を務めてくれているが、
さすがに人外の身とはいえ分裂しろとは言えない。
そのため、作戦に漏れた龍田が代理を務めていた。
「いや、それにしても限度があるだろ……。
少しは天龍の力量を信じて待ってやれよ」
朝の挨拶で天龍。
仕事始めで天龍。
執務中にも天龍。
昼休憩でも天龍。
休憩終りに天龍。
天龍天龍天龍天龍天龍天龍……
天龍と一緒にいる時は割と邪険にしたり、からかうのだが逆に離れた途端に気になり出すのが龍田という女であった。
「んんっ……それはそれ、これはこれ」
伸びをして、ついでに首を捻った龍田が言う。
「でも天龍ちゃんって死にたがりじゃない?
だから特攻だーっ、とか言い出さないか心配で」
確かに、と思わず言ってしまいそうになったが、しかし自分位は彼女を信じてやらねば。
しかも彼が思うに天龍が突出しなければならない戦況に陥れば、
既に敗北と死は決定しているはずである。
悲しいかな、天龍と龍田の二人には性格や機転では覆せない壁がある。
「ま、大丈夫だろ。加賀がいるしな」
加賀がついていれば大丈夫。
それは贔屓目を除いても過信ではなく、
厳然たる事実として彼や彼の部下たちの意識にのぼる。
天龍が一人脱落する可能性などよりも、
加賀を含めた全メンバーが敗死する可能性の方が余程高い。
「そうなんだけどねぇ……詰めも甘いからなぁ。
誰に似ちゃったのか」
しみじみと、龍田。
彼としては強く抗議したいところではあったが、
しかし加賀たちの出立数日前に金髪の悪魔にしてやられたことを思えばあまり格好はよくない。
「聞きましたよ?この前愛宕にーー」
「おい、やめろっ。ちょっと待て」
……本当に。
それはでき得るならば、今すぐ愛宕の記憶を消してついでに逆の記憶を植え付けたい位には情けない記憶であった。
「つーか、なんでお前がそんなこと知ってんだよ」
どうせ答えが分かっていながら訊ねる。
龍田という女はどうせ嫌がる彼の耳を押さえつけてでも耳に入れるタイプである。
それならば心を落ち着かせて聞いておきたい。
「んー……まぁ、愛宕が教えてくれたからなんだけど」
「そりゃあ、そうだろうが……」
嬉々として有る事無い事をジェスチャーを交えて語る愛宕を幻視する。
それは地球上でただ一人、彼だけが苦しむガールズトークの格好のネタであろう。
「天龍ちゃんと私と那智と加賀さんが主な聴衆だったかしらぁ」
実は可愛らしかったのね、知ってたけど。
などと嘯く龍田。
彼女たちは楽しかったかもしれないが彼にとってはまさしく不愉快以外のなんでもない。
快楽は快楽、恥は恥である。
サドにもマゾにもなれる彼ではあったが、
プレイ内容やベッドでの会話を広められることを楽しむ程にはまだ訓練されていない。
「鬼の集まりかよ、畜生」
「あら、今更気付いたの?」
「……俺は優しい鬼を信じるタイプだったんだよ」
何故女性はエグいことを笑顔で語ることができるのか。
確か鈴谷が、女の子のトークは男のエグさの数倍は酷い、
なんてことを珍しく真面目な顔で語っていたか。
そんなことはないと思っていたが現実は確かに彼女の言う通り。
彼の数少ない経験にまた一つ為になる教訓が加わった。
「うふふ……どうせ私たちで提督の情報は共有しちゃうんだから諦め……」
言葉を切った龍田がにこやかな表情そのままに部屋のあらぬ方向に視線を投げかける。
彼ものっそりと胸下に入っている銀時計を取り出した。
これは彼が心底から嫌う叔父が、彼の提督就任祝いにくれたものであった。
本来ならば粉々に砕いて焼却処分にしたいところではあったが、
なにか負けたような気分になるのが嫌で未だに常用である。
時計自体は世界で数個しか製造されていないスイスのとある工房作のオリジナルデザインであった。
悔しいが趣味は恐ろしく素晴らしい。
兎も角。
時間はヒトロクマルマルを僅かに回った時刻。
加賀や天龍が帰投する予定時刻であった。
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
「以上です。私、加賀以外の随員の疲労を考え報告は私のみで行いました」
直立不動に鉄面皮。
細々とした身体の動きの細部に至るまでがまるでアンドロイドのような彼女。
帰投早々に執務室へとやってきた彼女の振る舞いはまさしく軍人の鑑であった。
それは教書の説明を三次元に取り出したかのようで、
彼はそんな彼女が好きで、実はかなり苦手である。
「御苦労。ただし、もう少し楽にしろ。
部下がお手本通りだと俺が休めないだろ」
「……しかし」
「加賀さんも苦労するわねぇ〜。こんなのが提督で」
彼のいつも通りといえばいつも通りな対応に、
加賀もいつも通りの生真面目さを発揮し、
秘書代理の龍田がこれまたいつも通りの茶々を入れる。
これはこの府内においてよく見られる一種の儀式であった。
作戦任務の終わりを暗黙の了解で知る彼らだけの無言の合図。
「ふふ……ただいま提督、龍田」
「はいよ、おかえり」
「おかえりなさい、加賀さん。あの」
「天龍ね?あなたも相変わらずだけれど天龍も相変わらずでーー」
執務室の雰囲気が突然変わる。
鉄面皮の加賀とはいえ意志なき機械でも、人でなしでもない。
彼や龍田、他には愛宕などの所謂旧知の仲との間では笑顔を見せる。
彼にとって加賀はお目付役兼秘書兼部下兼相談相手であったが、
同時に数少ない素の自分を見せることのできる相手であった。
勿論それは加賀にとっても。
しかし、ふと気付く。
龍田に天龍の相変わらずな豪語癖や活躍を楽しそうに語る加賀の表情が僅かに浮かないことに。
少しだけ目をやれば握り締められた手もしっかりと見なければ見逃してしまう位に震えている。
「…………加賀?」
談笑していた二人がこちらを向く。
執務机を挟んで向こう側に加賀、彼の右側僅かに後ろに龍田。
龍田の顔は見えなかったが彼の声音だけで、なにか異常を察したようだった。
「…………」
「あら、私は下がりますね?
本職が帰ってきたし」
それは彼らの中でも彼女にしかできない振る舞いである。
親しき仲にも礼儀あり。
この言葉を愚直なまでに守る彼女とここまでの関係を築いたことが不思議に思える程、
龍田という女の鋭敏な感覚と身の引き方は一種異常であった。
「……ごめんなさい」
俯き唇を血が出る程噛み締めた加賀が囁くように絞り出す。
それに対して龍田は、いいえ、と首を振っただけで執務室を後にした。
「…………」
「…………」
気付けば夕刻に差し掛かりかけた外の明かりを反映して窓からは夕日が差し込んでいた。
橙色に浮かび上がった部屋に二人。
普段は居心地のすこぶるいい沈黙はこの時この場所に限っては尻の座りが悪い空間でしかなかった。
「……どうした、何かまずいことでも?」
加速度的に顔色が悪くなる加賀を直視していられなくなり、
疑問を呈しながら明後日の方向に視線を逃がす。
「大将閣下に……あなたの叔父上に、会いました」
加賀を知る人ならば誰もが信じられないと言うであろう、
蚊の鳴くような、泣き声のような声が彼の胸を打つ。
その内容を頭が理解した瞬間彼の疑問は跡形もなく氷解した。
「…………そうか」
呟いて、立ち上がる。
そして、今や両の手を皮膚が青白くなる程握りしめて立つ彼女の前に滑り込む。
執務机の真後ろに位置する窓から差す西日が彼の背中で遮られ、
加賀の視界を暗くする。
その暗くなるかならないかの内に彼の胸には力が抜けて、
まるでただの女のようになった加賀が収まっていた。
「……胸、貸してやる」
彼には彼女の気持ちが痛い程分かる。
わかり過ぎていっそその場所を替わってやりたい程に。
しかし、彼にそのような力は無く。
できることといえば、嫋やかな手指を丁寧に解き、
頭を掻き抱いてやること位であった。
以上
おそらく適当なストーリーとRな話が交互にかな、と思ったり
見てくださった方がいればありがとうございました
鬱い展開の予感…
おつです。
この先の展開が気になります。
加賀さんがここまでとかアナピヤばりの輪姦解剖ですね間違いない
交互になるなんて嘘でした…
あと、酷い話にはならないと思います
少なくとも、され竜スタイルには
私こと加賀は客観的に見れば充分に幸福なのだと思う。
背中を預けることができる同僚に、長年の友人たち、そして唯一無二の、主人。
私たちの世界はその存在理由と価値ゆえにとても狭いものだけれど、私にはそれで充分なのだ。
たとえそれが箱庭世界の茶番に過ぎないのだとしても。
この幸せは私に芯を内側から暖かく包み込むのだ。
それでも、である。
私は、これ程の清福に包まれてなお不幸を呪う。
怨みも、辛みもない平坦な意志によって行われる無慈悲な蛮行。
生み出しては、苦しめ、痛めつけ、苦しめ、痛めつけ……。
地獄に悪鬼がいたとして酷薄さではアレにも構うまい。
私とて己に咎があれば燃えるような責苦であろうと、身が芯から凍えるような惨痛であろうと謹んで受け取ろう。
しかし――――――
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
凛とした姿容を頑なに崩さない加賀が激しく悩乱している。
泣き叫ぶことこそしないものの、彼女はいつしか無言の涙を流し彼の胸に冷たい染みをつくっていた。
その醸し出す強者の威厳から感じる偉容とは逆に、加賀の身長は然程大きくない。
彼が軍人であり男性であることを差し引いても、頭が彼の胸板にやっと届く程度である。
嗚咽によって僅かに震える頭を掻き抱くと、加賀らしい普段通りの爽やかな柑橘系の香り。
それは普段ならば彼の荒んだ精神を落ち着かせてくれるものだったが、
今は逆にざわざわと風が吹き込むような効果ばかりを齎してくる。
気付けば無意識に彼女の身体に腕を回していた彼は、
彼自身も加賀によって固く離すまいとするかのように抱きしめられていたことに気付いた。
「あなたは……やさしい、ですね」
「……ああ」
ようやく落ち着いたのか徐々に加賀の震えが収まる。
たどたどしく拙い語調ではあったけれど、彼女の声音は幾分平素のトーンを取り戻していた。
「それに、あたたかい」
「そうだな」
彼に回された腕もやや引き締めが緩められた。
押し付けられていた額も擦り付けるような動作で動かし、その後には柔らかな右頬が彼の濡れた胸板を暖める。
「ふふ……提督の音が聞こえます」
そこで彼も自分が思った以上に動揺していたことを発見した。
今になって加賀の暖かで規則的な鼓動を感じ始めたのだ。
「そりゃ、死んでねぇからな」
そう、生きている。
彼も、そして加賀も。
ときには我を失うほど惑乱することもあるけれど、それも生きていればこそのこと。
彼は不謹慎ではあったが唐突に加賀の惑乱に感謝したくなった。
自分が生きていること。彼女と生きていること。
それを実感させてくれるのは戦場以外には、彼女が自分をさらけ出してくれた場合に限られる。
「さて、親愛なる叔父上に会ったんだって?」
もう、大丈夫、だろう。
彼女も彼と同じように自分の存在と位置を確かめることができたはずである。
叔父を嫌う程度がいかに酷くとも先程以上に乱れることはあるまい。
それに、いかな不愉快事でもこれは避けては通れないそれは宿業だった。
「はい」
「確か作戦概要には彼の名前も彼の基地もなかったはずだが」
作戦の目的は衛星画像が捉えた深海棲艦の中規模艦隊を速やかに殲滅すること。
彼や加賀が籍を置く拠点を含めた三拠点からの包囲作戦ではあったが、
叔父の活動拠点はここいらの地域ではないので参加は考えられないはずだった。
「北側の大佐に着いてきていたようで……。
私のことは眼中にないようでした」
「北……?」
深海棲艦たちは倒せども倒せども、より強力になって人類の前に立ち塞がってくる。
近年ではロシアとの海峡の向こう側からの侵攻も頻繁なものとなり、
彼や加賀が拠点とする地域と対となるべくして、数年前に大規模な接収と開発が行われたのが北拠点である。
今回の作戦には彼と北の大佐に加えて、北部の一大拠点である大湊鎮守府の艦隊が従事することとなっていた。
「大湊ではなく、北?
効率を重視する叔父が半ば捨てられた北辺の施設に何用なんだ」
大湊鎮守府を任されている中将は叔父の子飼いの男である。
故に中将が接待的な思惑を持って叔父を誘うか、
叔父が子分を宥めすかせるために時間を使ったのならわからないでもない。
しかし、北の拠点は海軍の一拠点とはいえ、彼らの南拠点と合わせて周辺地域を総合してやっと一単位となる中規模未満の施設である。
「もしかすると」
「あん?」
すっかり普段の調子を取り戻し冷静な副官の姿をした加賀が口を開く。
未だに緩やかに抱きしめあった二人の状況にしては、何かチグハグで場違いな語調と思わないではない。
「提督に自由な動きをさせないためでは?
連絡基地は我々の着任以前から彼の影響下でしたから。
北を掌握すれば提督の発言力はさらに低下します」
彼女の分析を脳裏で転がしてみる。
南拠点と北拠点の両地は連絡基地と呼ばれる人型艦船以外の兵器を収容した拠点を挟んで、ブーメランのようなカーブを描いた比較的に短い海岸線を形成している。
そのブーメラン、もしくは逆くの字の最も内側に位置する連絡基地は湾や周辺地域と同じく海軍が北部防衛のために接収した地域であった。
戦前などであれば警備府と要港部を足して、それを強化したようなものをさらに分散させているのが同戦略地域である。
連絡基地はその中で最も警備府的な側面が強く、独自の艦艇こそ持つが人型艦船を持たない。
人型艦船が通常兵器を凌駕する現代においてその姿はまさに警備府に近いと言えよう。
深海棲艦による攻撃に加え、以前から進行していた過疎化で現在では大きな人的被害が予想され得るのは数カ所のみの北部地域。
加えて基地周辺の大都市は比較的内陸側に位置し、港を持たない。
それ故に、政府は住民らの抗議をほぼ全て黙殺して周辺地域を広範に接収の後に軍事施設群を建造したのである。
過疎が進んだ海岸線地帯の被害など高が知れているが、
海峡を通過した深海棲艦が海流に沿って日本海を南下するのを避けたい政府にとっては無視することのできない拠点の一つなのだ。
仮に彼らが突破されたとしても、日本海側には大湊を経由して太平洋側からの援軍が訪れる手筈にはなっているのだが。
それに補給などを無視すれば人型艦船のみを輸送した即戦には十分なのだ。
無論一戦に国民全ての安全を賭けるわけにはいかないのではあるが。
兎も角。
現在、その三地点は三人の将官に指揮されている。
南拠点を統括する彼や加賀。
イージス艦などのバックアップ要員である連絡基地を統括する大佐。
そして、北拠点を統括する大佐。
その中で最も政治力を持つのが三十代前半にして少将の階級である彼である。
他の二人は大佐であり、北の大佐の保有する戦力は彼の半分未満。
連絡基地の大佐はあくまでバックアップ、補給要員であって精々が両拠点の連絡係である。
その二つを、抑える。
なるほど、確かに至極単純な図式であった。
彼を抑える駒が一つでは足りないと思ったか。
「だけど、俺たちがここを任されたのも叔父の血族だからなんだよな。
まったくややこしい話だ」
数年前にこの拠点に彼と加賀が着任したのが、戦略地域の立ち上げと同時期のことである。
半ば捨てられたとはいえ、国防の重要拠点であることは紛れもない事実。
そんな地に当時二十代だった彼が着任できたのは、当時から大将だった叔父の存在が大きく影響している。
「提督が思ったより優秀だったからでしょう。
実のところ私もこれほど上手くいくとは思っていませんでしたから」
「ふん……俺が優秀なのは事実だ。
ただ、叔父上が警戒する程の戦果を、というかこっちより余程太平洋側の戦線の方が重要だと思うけどな」
「彼には彼の、ですよ」
結局のところ叔父の思惑は不明。
彼や加賀の力を削ぐにしてもわざわざ北辺までやってくるほどの意味があるとは到底思えない。
しかし、彼が興味を持ちそうな理由でそれ以上に考えられることもまた思いつかなかった。
「ま、今はどうしようもねぇな。
ほら、さっさと部屋に戻って食堂でも行って来い」
現状どれほど正確な推測を立てたとしてもあまり意味はないのだ。
何故なら軍部、引いては国家中枢に食い込んだ大将をどうにかする権力を彼は持ち合わせていない。
何よりいくら嫌っているとはいえ今の時自国が叔父程の傑物を失うのがどれ程痛手であるかは十分に理解していた。
ならば、今は加賀たちの無事を喜ぼう。
「…………」
「どうした。まさか、まだ抱きしめ足りないとでも?」
「…………」
解散と議論の終わりを告げた彼回した腕を引き抜こうとしたが、
変わらず加賀の腕は彼を捕まえたままであった。
彼はわざと戯けてみせたのだが、彼女は一向に離れようとはしない。
そればかりかむしろ服を掴む力が強くなったような感覚さえする。
「おい、俺もまだ飯がだなーー」
「そうです」
「は?」
いい加減彼も食事が待ち遠しい。
気付けば差し込む夕陽なとうになくなり、窓からは雲に隠れた月や星々が見える。
彼らは思った以上に話し込んでいたようであった。
「あー…なんだって?」
彼は忠実な副官が常時では考えられないようなことを口走ったような気がして、思わずライトノベルの当場人物が言いそうなことを間抜けに返してしまった。
決して彼は難聴でも鈍感でもないつもりである。
「軍務に関わる話が終わったのは理解しているけれど……ただ、私はまださっきの続きが欲しい」
こちらを上目遣いで射抜くように見つめる加賀が言い放つ。
その瞳には嘘や冗談の色は見られず、
ただただ彼を欲する飢えがとぐろを巻いているような気がした。
「……飯」
彼とて数日振りに彼女の身体を香りを、存在を感じたのだ。
それでも、ここで相手を求めると際限を失いそうなのが恐ろしかった。
「そんなものは後でいいじゃない」
思わずその言葉に愕然とする。
あの加賀が、である。
数日振りのホームでの食事をそんなもの呼ばわりするなんて。
「……食っといた方がいいぞ」
まぁ、気持ちは十分にわかるのだ。
感情表現が苦手なのと感受性の豊かさや情動の深さは比例しない。
であれは加賀が彼を催促するのもわからないことではないのだが、
如何せんギャップというものは無駄な力を発揮するものである。
端的に言うと、かわいい。
ともすればめくれ上がりそうな口の端や、
緩みそうな頬を動かさないように注視するのがかなり辛い。
加賀が食事を後回しにしてまで、彼を優先してくれる健気さを発揮するというのはギャップの極みであろう。
思わず、視線を外し話を逸らす。
「……?」
小首を傾げる姿すらも今は小憎らしく。
先程の弱々しさや白々しさは何処へいったんだ、と返してやりたいところである。
しかし、やられてばかりでは面白くない。
彼女の身体をもう一度抱きしめ直し耳元で最大限に甘い声音をつくる。
「今始めたら明日の朝まで離してやれなくなるぞ」
「!」
耳元まで真っ赤になってもがく加賀はなかなかに素晴らしいものだった。
以上
なんというか風呂敷を広げまくるスタイルでした
また、専門知識が皆無なので間違いなどの指摘があれば嬉しいです
次回もよろしければお願いします
おつです。加賀さんが可愛過ぎてどうにかなりそうなんですが。
提督という立場であれば当然付きまとう政治の話もとても興味深いです。
加賀さんやばい
風呂敷なんて広げまくってもいいのよ
たたみさえすればたたみさえ
たぶんおそらくきっとたためるはず…
「んはぁぁぁっっっ……ぁ…………ん……」
珠のような汗が一面に浮いた身体を海老反りにしならせた雌が数度目の頂きに至る。
高みにいるままに激しさの余韻に包まれたその肢体は、未だにちいさな痙攣を続けていた。
「はぁっ……深すぎだろっ……。俺を食い千切る気かよ」
深く抱き締めあったままに寝台で繋がった彼と彼女。
海老反りになるその細く長い手脚は彼の身体を締め付けるように絡みついていた。
そんな繋がり方をしていれば当然彼を咥え込んだ秘処も万力のような圧を繰り出してくることになる。
「っ……足り、ない……足りないの……!
全然足りない、私が生きてるって、あなたと生きてるって感じさせて!」
「…………仕方ないな」
「はむっ……」
ズルズルと。
まるで空へと堕ちてゆくような快感に支配されてしまう。
キスは彼と彼女の言葉を無くさせるモノ。
しかし、それだけで彼らの距離を心身でゼロにする彼らだけの特別。
絡ませ、絡みとられ、愛撫され、愛撫し、扱きあげ、吸い上げる。
何もわからないけれど何もかもを理解する確かにそれは言語だった。
「ふふっ……」
「っ……はぁ、本当に仕方ないやつ」
「ええ……あなたが悪いひとだから」
彼が組み敷いた形になっている加賀の呼吸が続かなくなりそうなところで舌を取り戻す。
自分の呼吸のペースを忘れる程キスに埋没する彼女が少しだけ恐ろしい。
「まったく……」
汗で固まった髪の房を頬から離してやりながら呟く。
そういえば加賀だけでなく愛宕や龍田も同じことを言っていた。
彼の「仕方ないな」が優しすぎるのがいけないのだ、と。
勿論その言葉自体になにか特別な魔力が宿るとかではない。
なんでも我儘をそれとわかって聞き入れる瞬間にときめくのだとか。
彼に彼自身のことをわかれというのは土台無理な話ではあったが、
確かにしばしば同じようなケースに陥る気がしないでもない。
「むっ……」
「痛っ!なにすんだよ……」
つらつらとやくたいもないことを考えながらキスと吐精の余韻に浸っていると突然背中に鋭い痛みが走った。
加賀が回した腕を締めて肩甲骨の辺りをつねり上げたものらしい。
「私以外のことを考えたでしょう?
艤装がないことに感謝するべきね」
拗ねている。
それ自体は彼の否であるのだが……。
「……なんでわかるんだよ」
「私はあなたのものだから。主人の興味の先位わかって当然だもの」
「ッ……」
臆面もなく言い切る加賀に言葉をなくす。
色に溺れあやふやな境界で混じり合う寝台において一瞬だけ輝いたその瞳。
真っ直ぐで、純粋で、力強い。
意志の行く先は兎も角向きの強さ、強情さは彼を圧倒してあまりある。
「赤くなってしまって……今更恥ずかしくなるもの?」
つまるところ恥ずかしい。
それはもう火照った顔がさらに熱く、汗が噴き出す程に。
「俺はお前と違って羞恥心っとものがあるんだよ。
お・ま・え・と違ってな」
途轍もなく恥ずかしいことを言ったはずなのだが、加賀の表情はいたって涼しい。
それどころか絶頂の余韻も大分遠ざかり彼を戯う余裕も出てきたようだ。
「ふっ……二人で抱き合った状態で恥ずかしいことがあるとでも?」
「…………」
言いたいことはわかる。
わかるのだが何か間違っている気がしてならない。
しかもそれを普段は鉄面皮と恐れられている加賀が言い放つところに納得がいかない。
「…………」
「……ん?どうしました?まさか、私のひゃっ!」
納得できない。したくない気持ちはある衝動に変化した。
「んんぅ……やめっ……撫でない、で……!」
撫で撫で、撫で撫で、さすりさすり。
加賀と繋がったままなので然程身動きが取れるわけではなかったが彼の目的を達成するには十分。
脇腹を性感と擽りの丁度中間を狙ってフェザータッチ。
彼女は彼に組み敷かれているわけだからなおさら逃げることは不可能のはず。
「あっ……いやぁ……あっ!」
ひたすらに撫でる、さする。
もし、背中が目の前なら鼻先でくすぐってやったのだが、惜しい。
兎も角、やっていることといえばそれだけなのだが、敏感に火照っていることに加えて不意を突かれたために加賀は面白いように身を捩る。
「ほーれほれ、誰が何だって?」
「や、やめて!擽るのは無理ッ……!」
「んー?聞こえんなぁ」
「…あぁ……んんっ!」
その後もしばらく指の運動をしたところで擽りをやめてやる。
「や、やりすぎ…私そんなに何かした?」
「いや、別に」
「…………」
「…………?」
二人とも先ほどまでのものとは別の理由で息が上がりながら、見つめ合う。
透き通るようで、それでいて挑戦的な瞳を見ていると自分が優しくなるような気がしてくる。
この瞳を守るために彼は優しさを保つのかもしれない。
「……ふふ」
「……はは」
馬鹿馬鹿しいふざけ合いをした後は心地のいい笑いを。
零れる笑みは単なる笑みを超えて愛おしい。
手を伸ばし加賀の顎と頬のラインをなぞる。
スルスルと些かの障害もなく滑る手には何の瑕疵も感じられない。
日夜彼や人類の築いてきたもの全てを背負って戦場に立っているとは到底思えない滑らかさだった。
まさに白磁の美貌と呼ぶに相応しいそれは女というものの理想型の一つ。
「ん……」
加賀が彼の手に頬を擦り付けて目を瞑る。
安らかなその表情を取り戻すことができて本当に良かったと思った。
やはり、彼女が懊悩する姿は見たくないものだ。
「収まったか?」
「ええ、ただ会うだけならば嫌なだけだと思っていたのだけれど。
やっぱり不意をつかれたから......」
「ふん、あまりにも取り乱すから何かされたのかと思った」
結局心配したような事態ではなかったようだし、
彼女の錯乱で自分も動揺してしまったのであまり考えて行動していたわけではなかったのだが。
「私があなたを裏切るとでも?」
いっそその表情は彼を挑発するようで。
「そんなことはねぇけど。大体俺はお前がどうなろうと裏切りとは思わねぇよ」
「それはわかってる。荒んだ私を溶かしてくれたのはあなた。
今このときのように深いところまで溶かし込んでくれるのもわかってる。
それでも、それでも私はあなただけのものでありたい」
「…………」
包み、包まれたこのときはいつも思う。
忠犬と呼ばれ、時に薄汚れた走狗と蔑まれる彼女。
ある種、度を越した忠実さは彼女の資質もさることながら強迫観念なのではないのだろうか、と。
一途に信ずることを続ける自分がいればこそ、自分は裏切られないのだと。
言ってしまえば彼女は自らを見る他人の視線に拠って振る舞っているのではないだろうか、と。
ヒトは多かれ少なかれ他者の存在で自らの一部を形成する。
しかし、それもボーダーを過ぎてしまえばただの人形である。
究極的には彼も、彼女も、仲間たちもその存在には介在できない。
それはとても恐ろしいことだ。
しかし、それを彼女にぶつけることは彼にはできなかった。
それが事実であったときになすすべなく崩壊する関係であったのだと、
事実としてそれが確定してしまうのがとても恐ろしい。
であるからこそ彼はいつも誤魔化してしまうのだ。
その場で最も効果的で唯一の意味をもって。
「ん……」
頬を滑らせていた手指で顎を掴み加賀をわずかに上向かせる。
「……ぁ」
深く、濃く、重く、そして遥か遠くへ。
キスは思いを伝えるのには不十分だが、想いの強さを叩き付けるのには最高のそれはツールだ。
想いは深く、されど伝わらず。
その夜、彼はいつもと変わらずひたすらに無力だった。
以上
割と直接表現から逃げた
次こそなんとかしたいです…
見てくれた方がいましたらありがとうございました
酉違う……
おっつ
まぁ、IDでわかるし
読解力のない俺に誰か加賀の醸し出した鬱い雰囲気の原因を教えてください
叔父ってのが赤城さん食べてたとかじゃないの(適当)
食べてた(カニバリズム)
赤城さんが叔父を食べてた?(難聴)
ええな
>>95
そりゃ叔父に食われたんですよ
いつの間にか赤城さんがよくわからないことに……
赤城さんは無関係だけど御協力を
思いついたものはしょうがない
↓1
00〜49……大井
50〜99……北上
ただし、ゾロ目は両方
たぶん、今日の夜か明日来ます
ほい
ありがとうありがとう……
こんな早いとは思いませんでした
結果は03なので大井さんです
たぶん、今日の夜の次の分に反映されます
乙です。待ってます。
次の夜戦相手かな?
期待しよう
夜戦(やせん、英: night combat)は、夜間における作戦・戦闘である。
夜間戦闘(やかんせんとう)とも呼ぶ。
また、夜戦により敵に攻撃を仕掛ける戦術を夜襲(やしゅう、英: night attack・night raid)という。
引用、Wikipedia
次回には反映したいです
「あ、そうだ。帰投した加賀さん以外の出撃組の報告書上がってきてたわよぉ~」
「しゃーねーな、じゃ龍田任せた」
「は、はぁ?ちょーっとそれはおかしいんじゃない?」
「俺はそういえば北の拠点に用があるんだった。愛宕を貸してやるからなんとかしてくれ」
「あらあら、龍田ざーんねんっ。でも提督ぅ、まさかわたしもやれなんて言いませんよね?
ちょっと耳が最近悪くなってきて」
「そう言ったんだが。歳か?
……ま、確かに俺のものではないから貸せはしないな。
よし、改めて頼む」
「いえ、わたしは提督のものですけど」
「お、おう……ま、あとは那智とかも使っていいからな。
俺は加賀連れて行くからよろしく」
「ちょ、加賀さん連れてかれたら私たちが楽できないじゃない」
「いやー、優秀な部下を持って幸せだなー、はっはっは」
以上は、今朝の出来事のことである。
食堂で勝利定食と格闘しながらの全面的な執務の押し付け。
龍田と愛宕には悪いが、加賀の情報からすれば北の拠点の様子を探っておくに越したことはない。
北拠点の大佐とは会ったことがないではないがあまり立ち入った話はしたことがない。
なぜなら彼は着任して一年に満たない新人なのである。
そうであるので大将がくみし易いと考えてもおかしくはない。
たとえ、部下に長く退屈な執務を代行させたとしても、行かねばならないのである。
断じて目を通してサインを書くだけの作業が嫌だったのではない。
ちなみにこのとき加賀というと、彼のベッドでいまだに夢の中だったはずである。
「……ふふ…………ぁぁ……」
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
「少将閣下に、敬礼!」
寒風吹きすさぶ中、周辺では比較的珍しい煉瓦造りの建物の前に主だった将兵が背筋を正して並ぶ。
十一月も終わろうかという時期であれば、根雪がなくとも寒さは軍服を貫いて身を凍えさせるのに十分だった。
「大佐、急な訪問への対応感謝する」
「いえ、先日も大将閣下がおいででしたので......」
一分の隙無く軍装を纏った黒髪長髪の大佐が彼の言葉に応じた。
その返答は予期していたが、やはり何か蟠るものがないではない。
加えてわざわざ多くの将兵が居並ぶ中で発せられること自体が、
自分と大将――叔父との関係を周囲がどう見ているかの証左に他ならない。
本来であれば将官の公式訪問での出迎えに、このような話はしないのだ。
「そうか......ま、外で立ち並ぶのも辛い時期だ。室内に案内してもらえるかな」
居並ぶ将兵たちはあまり寒そうな素振りを見せていなかったが、確実に寒いはずである。
いくら外套を纏っているとはいえ装飾的な意味が強い代物である。
なにより彼が寒かった。
彼がこの地に着任してより既に数年。
それでも北国の寒さには全くといっていいほど耐性が付いていなかった。
「こちらへ」
頷き、先導する大佐に従う。
と、大佐がくるりと振り返った瞬間に、丁度強めの風が吹く。
そこで前を行く男がシトラスのような香水をつけていることに気づいた。
軍帽に収まりきらない長髪という、なにか規律に喧嘩でもふっかけているような男である。
彼自身の現在のスタイルは愛宕に勧められたよくわからない髪形であった。
彼の髪型は伸びてきた頃合を見た加賀たち古参メンバーが決めることになっていた。
しかも、ゲームや戦果で順位付けをしてトップの者が決める幾分遊びめいた慣例つきである。
「しかし、寒くてかなわないな」
ゆらゆらと揺れる長髪を見ていた意識を半ば無理矢理に引き戻す。
そんなものを見ている余裕はなかったし、彼には男の髪に抱く情緒に持ち合わせが無い。
「そうでしょうか?私はなんとも......」
今日も今日とて彼の影のように背後に控える加賀が小声で返す。
「まぁ、お前はな......。海上の方が風も強いか」
「ええ、それに私は純粋な人間ではないので」
いかなる感情の揺らぎも見せずに彼女が答えた。
その返答に彼はまったく同感ではあったが、しかしそれを言う彼女が少しだけ心配だった。
「閣下、こちらへどうぞ」
どうやら、加賀と話しているうちに目的地へと到着したようだ。
「済まないな」
相手が彼でなければほとんど見られないであろう佐官級のドア係に謝意を示す。
彼自身も殆どその立場になったことはなかった。
「そちらの椅子へどうぞ。なにもない所ではありますが今飲み物を持ってこさせます。
暖かいものが恋しいのではないですか?」
「あぁ、そうだな。よろしく頼む」
通されたのは当然ながら大佐の執務室であった。
よく整理された執務机に、ぎっしりと資料ファイルや専門書が詰め込まれた書棚。
出で立ちの派手さの割には至ってシンプルで、機能的な美しさを備えた部屋である。
よくよく考えてみるまでもなくあの男も彼と殆ど違わない年齢で、大佐にまで上り詰めた男。
このような執務室の状況にもなんら不自然と捉えられるものはなかった。
もしかすると優男然とした振る舞いは擬態で、
相手を油断させる目的もあるのかもしれなかった。
「コーヒーで構いませんか?」
応接セットの机を挟んだ前に座った大佐が彼に言葉を投げかける。
軍人としては当たり前のことではあったが、しっかりと腰を下ろしてからの行動である。
一般での礼儀でもあるマナーではあったが、こと軍内での意味合いは少し重みが違う。
「構わない、私も彼女もコーヒーが好きでね」
彼の後ろに佇立する加賀に顎をしゃくる。
彼女は目を向けた加賀に目礼して同意を示したようであった。
なんとなくだが気配でわかる。
これが阿吽の呼吸というやつだろうか。
「なるほど、秘書もおそらくそちらの分を持ってくるでしょうから、楽しみにしてお待ちください」
「いえ、私は」
「気にしないでください」
丁重に断りを入れようとしたであろう加賀の言葉を、大佐が言葉と手でさえぎった。
「我々は皆この国の北部を、引いては日本海防衛第一の要を構成する同胞でしょう?
階級や規律でいえば確かにありえないことですが、どうぞ閣下の隣に。
......もちろん、閣下のお許しが得られれば、ですが」
淀みなく口を開く大佐がこの日、初めて笑顔を見せる。
優男然としたその見かけに反してその笑みは、存外に人懐っこいものであった。
これも彼の大きな武器であるのかもしれない。
「加賀」
相手が懐の深さを見せればこちらもそれを下回るようなことはできない。
階級からも、彼のプライドからも。
「それでは」
素早く、しかし急いでいるような印象を与えないような動きで加賀が彼の右隣へ。
プライヴェートでは割と隙を見せる彼女も、こと軍務においては自らの責務にたがわない。
鉄面皮の中堅、というあだ名は伊達ではないのだ。
「こちらも秘書を――二人ですが、構いませんか?」
彼の忠実な秘書が細かなところで、彼の面目を保ったところを微笑で見届けた大佐が逆に要求を口に出す。
なるほど、気をつけて見てみると彼の側のソファは、
彼や加賀の座るソファよりも開いている領域が広かった。
いつもこうしているのかもしれない。
しかし......
「大将閣下が訪れたときもこのように?」
それは当然の疑問であった。
あの叔父は旧弊的な凝り固まった頭を持つ人物ではないが、
さりとて特段に温和だというわけでもない。
「ははは......大将閣下、ですか。実は秘書を二人お連れになりましてね。
彼女たちに優劣はつけられないから、と」
「......なるほど」
「提督、言い忘れていましたが、大将閣下の秘書に変わりはありませんでした」
隣の加賀が大佐の言葉に言い添える。
思い出してみれば大将の秘書は、あるときから常に同じ二人に固定されていた。
戦場においては猛る餓狼、陸において大将の両腕。
我が国一の切れ者の人物の部下は、確かにいずれ劣らぬ我が国一の戦闘者の二人であった。
その戦力は現在の飾りでしかない元帥を凌駕し、
戦果も他の追随を許さないその者たちの名は大和に武蔵。
この国において、つまり世界中を見渡しても大将が優劣はつけられない、というのならば何人も彼女たちへの評価は挟めまい。
大和に武蔵といえばそれほどに鉄壁な側近中の側近であった。
コン、コン。
沈思した彼が口を噤み、沈黙が訪れていた執務室にノックの音が響く。
「あぁ、入ってくれ」
大佐の言葉に応じてドアを開けたのは一人の女性であった。
そして、その後ろにも女性が一人。
「コピ・ルアックです。こちらのマカロンもどうぞ」
コーヒーと茶請けを持ってきた大佐の部下、
姉妹の内の大井が席に付いた三人の前にそれぞれカップを配置する。
後ろに立っていた黒髪――北上は気づけば既に大佐の右隣に座っていた。
「コピ?」
聞きなれない言葉だったのか加賀が怪訝そうな表情をする。
確かに普段の生活ではあまり聞く単語ではない。
「コピ・ルアック。インドネシア原産の豆で淹れられるコーヒーだ」
「お、少将もいける口ですか?......あ」
コーヒーの説明をした彼の言葉に大佐が予想外の食いつきを見せた。
そしてすぐに言葉遣いと、態度の浮き具合に気づく。
「いや、そのままにしてくれ。俺もあまり堅苦しいのは得意じゃないんだ」
すかさずフォローを入れる。
その言葉は嘘ではなかったし、
なにより加賀の同席という“ 借り ”があるのである。
つまらないプライドではあるが、それは彼の数少ない譲れない流儀であった。
それに後になってなにが影響するかわからない。
相手に少しでも精神的な優位を持たせないようにするのは、かなり大事なことであった。
「提督、ボロ出すのはっや」
「おい、北上」
そこへ場違いな程に軽い声音。
割り込んできたのは秘書のうちの黒髪の方、つまり北上であった。
大佐は彼女のあけすけな物言いにあたふたとしている。
「いい部下を、仲間を持っているようだ」
掛け値なしに。
それは紛れもなく彼の偽らざる本音であった。
隣の加賀も幾分緊張が和らいだのか、僅かに唇の端が緩んでいる。
「は、はぁ」
「いや、皮肉とかではないんだ。俺の方でも普段はそんな感じだからな。もちろんこの加賀も」
ひたすらに畏まる大佐にさらにフォローを。
最初は油断のならない男だと思っていたが、
その評価を変えずに人間的な評価をしてもいい相手だと認識を改める。
「提督」
大井と北上にからかわれる大佐を尻目に、隣が彼を睨む。
「余計なことを言わないように」
「別に余計ってわけじゃないだろ?嘘じゃないし」
「......」
変わらず彼を睨む加賀の表情が僅かに歪む。
それはなんと言っていいかわからないときの彼女おきまりの表情であった。
「ま、そちらも普段通りにしていてくれ。同胞、だろ?」
別に加賀も本当に怒っているわけではない。
ただ単に恥ずかしがっているだけである。
これだから鉄面皮なんてあだ名されるんだ、と何度思ったかわからない。
「............とりあえずコーヒーをどうぞ。身体も冷えているでしょうから」
こちらを見て引きつった笑みを見せている大佐が言う。
その勧めに素直にしたがいカップを持つと素晴らしい香りがたつ。
さすがBSCA、ブラジル・スペシャリティ・コーヒー・アソシエーションでも最高評価の豆を使っているだけある。
そう思い口に魔的なそれを流し込みながら右を見やる。
加賀は既にこちらを睨んではいなかったが代わりに、彼の前の皿を見つめていた。
彼女の前の皿を見る、空。
彼の皿を見直す、マカロン。
前方の三人を見る、いまだになにやら会話中。
どうやら大佐は大将訪問時もこのような感じで早々に化けの皮を剥がされてしまったらしい。
つまりこちらに注意は向いていない。
もう一度加賀を見る、無言の要求。
「............」
思わずため息が出た。
「......いいぞ」
一瞬だけ輝く瞳。
もうそれだけで彼は満腹であった。
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
瞬時に殲滅された焼き菓子がいたく気に入ったらしい彼女は、
北拠点を辞す際にお土産までもらっていた。
大井にはレシピまで渡され、北上とはやたらと菓子やスイーツ談義に華を咲かせていた。
これではただの客ではないかと思ったが……
しかしその行動は正しかった。
書類の山に埋もれ澱んだ目をした龍田と愛宕への、それは確かな貢物になったのだから。
以上です
コンマの反映は次回か次々回となります
ちなみに自分は大井さんも北上さんも好きです
見てくれた方ありがとうございました
多分、酉バレしてますよ
乙です。
次回も楽しみにしてます。
ええな
嘘でしょお……
一度間違えた方のやつにします
コンマが反映されていない上に短いです…
次レスから
私、という存在は彼の在り方に依拠している。
待てども待てども会えない半身のぬくもりを忘れたことはないけれ
ど。
それでも私は弱いから。
待つことを続けつつ近くの暖かさに縋ってしまう。
それを罪だと思ったことはないけれど。
あの子の顔を正面から見つめることができるかどうか今ではわからなくなっている。
私の現在の名前は龍田。
往事の軽巡洋艦の名を冠した私は暖かさを持たないはずの。
しかし、それを求めてやまない一人の女である。
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
「でもー、提督のイってるっていうかイカされたとき?の顔が快感になったりしない?」
「そうね。普段は余裕ぶった人だから。
こっちが主導権握ったときの焦った顔にはさすがに高揚してしまうかもしれないわ」
提督と加賀が北拠点より帰還してきて数日後のある日の午後。
遠征組と哨戒組には滅多に選ばれない私たち、古参組はいつも通り談話室でお茶会を開いていた。
最近ではガールズトークというのだったか。
「龍田は?龍田は攻めと受けどっちの方が好き?」
梅昆布茶を啜りながら加賀と愛宕の二人の、
エグすぎる会話に耳を傾けていた私に愛宕が話を振ってきた。
ちなみに何故梅昆布茶かというと提督が突然、
『茶漬けが食べたい!』
と、執務中に言い出して買ってこさせたにもかかわらず、
一食で満足した彼が梅昆布茶を押し付けてきたからであった。
茶請けに加賀が出してきた煎餅を食べながら飲むそれは、
確かに美味しくはあったがなにか違う気もした。
「私ぃ~?まぁ、攻め、かしら~?
というか、私が攻められてるイメージあるかな~」
「確かに。だけど、それを言うなら加賀さんにだってなーー」
「ちょっと待ちなさい愛宕。
それは私があたかも攻められて悦ぶ雌みたいじゃない」
「えっ…違います?」
本当に予想外といった表情を見せる愛宕。
それが素の反応なのか演技なのかはわからなかったが、
加賀への印象は私もまったく同じだった。
「ま、わたしもあの人の攻め大好きだけど。やっぱ加賀さんは受けよねぇ~」
「あなた、実はぱんぱかしてるのは頭の中だったのね」
いつも通りのじゃれ合いを続ける彼女たちを尻目に私はもう一口梅昆布茶を。
唐突かもしれないけれど、私は彼女たちが好きだ。
そしてもちろん提督のことも。
ここにいれば自らの性能と経歴ゆえの押しの弱さを糊塗するために過ぎない性格を、本来の自分に戻すことができるのだ。
虚飾にまみれ他人の行動を観察し、龍田という在り方を規定する。
それをひたすら研ぎ澄ました結果が、誰にも心を開けない哀れな人形の誕生だった。
ここに、彼らとともに在りさえすれば私は” よく気の利くいい女 ”でいられるのだ。
……もちろん、普段からこんな打算的な考え方をしているわけではないけれど。
ただ、ときどきこの幸せを噛み締めるために本来の自分を思い出し、
今このときを俯瞰することに私は一定の価値を見出している。
「それにしても、今日は静かね龍田」
どうやらさしもの加賀も愛宕のからかいに音を上げたらしい。
あの人のことになると滅法弱い、そんなところが私の、きっと愛宕や那智が彼女を好く理由かもしれない。
追いつ追われつ、なんて生半可なものではない執着には時々閉口するけれど。
「龍田は、ね」
逃げを選択した加賀に比べ、愛宕はまったくのノーダメージ。
私によくわからない目配せと、含み笑いまで寄越す。
「……ぱんぱかめ」
「えぇ~?きっこえなーい。龍田は提督とするのはどんなのが好きなの?」
ニヤニヤ、と嫌な笑み。
普段のすまし顔はどこへやった、と思わず毒づきたいくらいにそれはクリティカル。
「そうね~、彼って首筋が好きでしょ?調子に乗ってそこに集中してるときとかに触ってあげるとーー」
「触ってあげると?」
「」
「うふっ」
逃げたくなる意志を理性の力で抑え込み振り返る。
すると思った以上の近さに彼の顔。ニヤニヤ、さきほどの愛宕と同じ表情である。
瞬時に顔を戻した私の顔は悪鬼か真っ赤か。
とりあえず愛宕を見れないと思い、逃がした視線の先には俯いて肩を震わせた加賀が。
「…………」
「談話室だからといって油断したな。ただの人間に背後を取られるなんて弛んでる証拠だ」
「うふふ、わたしは気付いてましたよ?」
「そりゃそうだろ。お前の椅子からドア見えてるんだから、愛宕」
「……あなたが弛んでるのは脂肪じゃない?」
せめてもの仕返しに言葉を投げつける。
はめられっぱなしというのはあまり面白くない。
「そう?提督はどうです~?わたしのし・ぼ・う」
「ああ、好きだぞ」
まったく直截な。
まぁ、確かに古参メンバーの集まり方を見ても、現在彼が関係している子を見てもその趣味は明らかだった。
古参のなかで最もちいさい那智でさえ、ない、ということはできないのだし。
「ま、それはまたの機会にためしてやるよ。趣味変わってるかもしれねぇしな……龍田」
「はい?私?」
まさか、私を呼びに来たとは思わなかったので思わず聞き返してしまう。
確か今日彼のサポートをするのは午前が加賀で、午後からは千歳が引き継いだはずである。
「おう、千歳じゃ関われないクラスの文書があるの忘れててな」
それで私、か。
加賀は今日の午前に担当しているし、愛宕も昨日は終日彼のサポートだったのでおそらく持ちまわり。
人型艦船である私たちとはいえ昨今の人権問題などを鑑み、
軍籍のみならず戸籍などもしっかりと整備されている。
ただし、その代わりに当然付きまとってくるのが階級と情報へのアクセス権限である。
若年ながら少将まで上り詰め、事実上北の防衛を統括する提督を除き、
この拠点に配属されたうちで最大の権限を持つのが加賀であり、
その下に愛宕と私、そして現在は任務でここを離れている那智が位置している。
階級も加賀は人外と揶揄される身でありながら少佐、
私たちも大尉の位階を与えられているのだ。
「それなら仕方ないですね~。じゃ、私はこれからお仕事なので~」
やや逃げるように腰を浮かせる。
そもそも今回の集まりがエグイ方向に進んだのも愛宕のせいである。
おそらく機能のサポートは文字通り終日だったのだろう。
それこそベッドからベッドまで、というような。
「あ、代わりにあとで千歳を寄越すからな。あいつも千代田が帰ってないから暇だろ」
「……うふ」
「はぁ」
新しい玩具を得たというような愛宕に、頭が痛いというような加賀。
私といえばいじられにいじられるであろう千歳に同情を禁じえなかった。
ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーー
一人称ってのはやっぱり難しいように思います
見てくれた人、ありがとうございました
乙
乙です。
続き楽しみにしてます。
大井っちはどうなるんだ......
大井「北上さん大丈夫かな、私がいないと心配だな。うん、心配......きっと、そう、そう、きっと何か起きてる!私、行かなきゃ!」
そして、>>1も大井も帰ってこなかった......
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません