井之頭五郎「東京都 品川区の湯豆腐」 (38)

『東京都 品川』

「…」

もう千葉県では雪が降ったんだっけ?
…暖冬って、言ってたのに。

もう世間ではクリスマスの準備だ。

「…お」

『クリスマスケーキ、予約受付中!』
『クリスマスパーティーセット、今すぐ予約!』

…俺には、関係無いか。






時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである。


『東京都 品川区の湯豆腐』

「キャハハー!こっちこっちー!」
「待ってよ~!」

「…」

……長袖に、長ズボン。

…俺の子供時代は、冬でも半袖、半ズボンだったっけ?

あんな風に、手袋して帽子も被ってってのは無かった気がする。

…子供は風の子。
「…フッ」

…ちょっと上着を脱いでみようか。

子供時代を、少し思い出したりして…。

「………!!さぶっ!」

………いかんいかん。

大人は火の子。

風に吹かれちゃ、火が消えてしまう。

…何やってんだ、俺。

「…」

『すいません井之頭さん…実は約束してた日なんですけど、仕事だったの忘れてまして…』

『ああ大丈夫ですよ。でしたらまた日を改めるという事で…』

『ん~…いえ!大丈夫です!多分職場にいると思うので!』

『…え?は、はぁ…』



……。

職場、とは言っていたけど。

「……ここ?」

これ、交番だよなあ。

「あの~…」

「はい?何でしょうか?」

「あ、私そういうんじゃないんですよ…」

「え?」

「い、いえ、あの…加賀美さん、加賀美さんとお約束をしておりまして…」

「加賀美ですか?え~っと…結構前に出てったのでもうすぐ帰ってくると思いますが…貴方は?」

「ええと、…私、こういう者で…」

「…個人貿易商、井之頭、五郎さん…あ!はいはい!加賀美から話聞いてますよ!…よろしかったら、私が代わりにお渡ししましょうか?」

「ああいえ、仕事ですので…私が」

「そうですか?でしたら…こちらでお待ちいただけますか?加賀美に連絡するので」

「は、はい…」

「加賀美!井之頭さんもういらっしゃってるぞ!!…全くお前は、仕事中にそういうのを勝手にいれるんじゃない!!お前の仕事は交番のお巡りさんだろ!?…早く来い!」

…そういうのって、俺の事?

…しかし怒られてるなあ。
しかし若いうちの苦労は買ってでもしろと言われているし、頑張れ、加賀美君。

「…」

……しかし。

「ママー!あの人捕まってるのー?」
「シッ!!何て事言ってるの!ほら指ささないの!!」

……場所が場所だからか、視線が痛い。

「……ハァハァ…す、すいません先輩!」

「馬鹿!俺よりもお客さんに謝れ!」

「は、はい!すいません!!」

「あ、い、いえ、大丈夫ですから、気にしないで下さい…私が早く来てしまっただけですから…」

「いえ、俺の方から呼んでおいて、こんな事は許されません!」

…何だか、熱い。

熱血漢とは、こういうものか。

「ええと…あ、改めて自己紹介します!加賀美 新です!!」

…。

アラタが、アラタめて自己紹介…。

「……井之頭さん?」

「!?…あ、はい…井之頭 五郎です」

「はい!よろしくお願いします!」

「…こちらになります。正常に動いてるとは思いますが、ご本人の確認を…」

「…はい、はい!ちゃんと動いてます!ありがとうございます!!」

「はは…良かったです。お父様から頂いたとか」

「はい………死んだ父親から」

「…………」
「…………」


うわあ~…。
やってしまった…。

…どうしよう…。

「……でも、きっと親父も喜んでます!本当にありがとうございました!」

「あ、は、はい」

…何だか、問題無さそう。

「ではこれで…また何かあったらよろしくお願いします」

「はい!また必ずお電話します!」

…必ずって。

「…」ペコ

……。
何だか、輝いている。

ああいう若者は、今少ないんじゃないだろうか。

この世の中で、彼のような存在は貴重なのだろう。

「……!!」

……まだ見てる。
…とりあえず足早に退散しよう。

「…」

…おいおい、何だかすごい所に来ちゃったぞ。
…まさか、道に迷った?

品川はそれなりに道を知ってるはずだが。

まだまだここは攻略出来てないということか。

もしかしたら新しい発見があるかもしれない。

…そう思ったら。

急に。

腹が。

減った…。

見てるよ

こうしてはいられない。

道に迷ったのではなく、新規開拓だ。

この辺りで、店を探そう。

「……」

ううむ…。

どの店も魅力的。

だけどいまいちピンと来ない。

今の俺は何腹なのか。

…焦るんじゃない。今俺は腹が減ってるだけなんだ。

「…ん」

『Bistro la Salle』

……洋食屋。

「…え?」

『本日、湯豆腐あります』

…ええ?
洋食なのに、和食。

変わってる。
…ちょっと見てみたい。

「…」

よし、ここにしよう。
本日、という事は明日には無いかもしれない。

…きっとこれは、神様が俺にこの店に入れと告げているんだ。

「いらっしゃいませー」

…店は、普通。

客層も、普通。

「お一人様ですか?」

「あ、はい…」

「こちらにどうぞー」

女子高生くらいの、子。
アルバイト、頑張ってるんだなあ。

…何だか変な想像をしてしまうな。
家の為に、頑張ってるとか…。

…いや、いかん。
変な詮索はよそう。

「メニューが決まりましたら…」
「あ、あの湯豆腐を…」

「…」
「…」

「…えっと…湯豆腐、ですね?」
「は、はい」

「分かりました、少々お待ちください」

「はい…」





「湯豆腐来たぞ、早く作れよ」
「!?」

…厨房に消えたと思ったら、態度が一変。

やはり、女ってのは分からん。

「…ん?」

「……」

おいおい、何か若い男が出てきたぞ…。
何だろう、一体。

「…俺をご指名とは、お目が高いな」
「…えっ?」

「安心しろ、アンタが食べてきた中でも最高の湯豆腐を作ってやる」

「は…はぁ」

…ええ~?
何だか訳が分からない人が出てきたぞ…。

「…えっと…貴方が作るんですか?」

「ああ。天の道を行き、総てを司ど…」ガンッ
「さっさと作れよ!」

「ひ、ひより…」

……どうやら、あの女の子の方が、強いみたいだ。

ひよりってそんな性格だっけ?
カブトあんましおぼえないな

…料理を待つ時間というのは、何だか楽しいアトラクションを心待ちにしている子供のような気分だ。

…しかしちょいと焦りすぎたか。

何かもう一品頼もうかな。

湯豆腐だけでは、何だかバランスが悪い。

…しかし和食を頼んでしまった。
洋食を頼んでごちゃまぜになるのは、俺の主義じゃない。

「…ん?」

『ひよりスペシャル』

…ひより、というのはさっきのあの子か。

…これはどうやらデザートのようだが。

…よし、デザートは別腹だ。

これも後で頼むとしよう。

…しかしさっきの男。

何を言いかけたんだろうか。

…ちょいと気になる。

「お待たせしました!湯豆腐になりまーす」

…。

http://food.yellow-goose.com/wp/wp-content/uploads/2014/02/BYuJa26CcAAPX4H.jpg


何だか、随分シンプル。

…もっとこう、奇抜なのが来るのかと思ったが。

「…いただきます」

……。

「…ん」

…美味い。

豆腐が、濃厚。

ふんわりと、やんわりと、口の中でとろける。

…このつゆも良い。

…。

柑橘系だけど、しつこくない。
豆腐の旨味を邪魔しない程度にアシストしてる。

…かなり美味い。
あの男、やりおる。

シンプルイズベスト。

…こういうのが、良い。

湯豆腐って、不思議だよなあ。

家でも、割と簡単に作れるのに。

店だと、高級感がある。

作り手によって、無限の可能性を持っている。

それが、湯豆腐だ。

……たまらん。

ここのところ、毎日放送してるな

「…」

美味かった。
…俺の選択は、間違ってなかったようだ。

「ごちそうs…!」

「?」

……いかんいかん。
まだ頼む物があるじゃないか。

えっと…。

「…すいません。このひよりスペシャルと言うのを下さい」

「!…は、はい!」

…あ。

そういえば、あの子、ひよりって名前だったんだよな。

笑顔で厨房に入って行ったという事は、あの子が作ってくれるんだろう。

…何だか、微笑ましい。

「…お、お待たせしました…ひ、ひより、スペシャルです…」

http://www.paff.jp/paff_1.jpg

おお…。
さっきとは打って変わって、華やか。

この子も、やりおる。

「……」

…これも、美味し。

まるでクリームの雲に包まれてるかのような錯覚を覚える。

どれも一口サイズになってるから、色々楽しめる。

これなら迷わずに済む。

……。

甘い物は、やはり良い。

疲れが身体中から抜けて出ていくようだ。

…思わず、脱力しそう。









「……ご馳走様でした」

誰かガラケーで画像が表示されない俺にひよりスペシャルをkwsk

http://i.imgur.com/WYqxNwZ.jpg

>>25
サンクス(`・ω・´)

「またお越し下さい」

…またお越します。

何だか幸せな気分だ。

穴に落ちたと思ったら、抜け道があって、宝を発見出来た。

「…ん?」

「ん?」

……この男は、湯豆腐の…。

「…ひよりの料理、どうだった?」

「……とても、美味しかったです。貴方の湯豆腐も」

「……そうか」

「…あ、あの」

「ん…?」

「さっき、貴方は何を言いかけたんですか?」

「……名前さ」

「名前?」

「…天の道を行き、総てを司る男、天道 総司だ」

「……………井之頭、五郎です」



…………ダメだ。全く思い浮かばなかった。

俺も、何か考えておこうかな。

キャストオフ・・・そういうのもあるのか

「…」

ようやく広い道に戻ってきたぞ…。

後は駅に戻るだけ、か。

「…お」



「はいはいおばあちゃん!無理しないで、ほらおんぶしますよ!」

「すいませんねぇ…ありがとうございます…」

「いきますよー!」




………。
きっと、日本の未来は明るい。

さて、明日は浅草だ。







ゴロ~

ゴロ~

ゴロ~

イッノッガシッラ

ゴロ~

ゴロ~

ゴロ~

イッノッガシッラ


願わくば>>1とネタがかぶらないことを祈る

「はい久住です」

今回久住さんが向かった店は…。

「ってかめちゃくちゃ入り組んでるよね…。迷うよこれ(笑)…だけど、…おっ!?こんな所に!!」

「(笑)」

「いや…偶然かな?(笑)」

「あれ!?今日は湯豆腐無いんですか?」

「また何処かに行ったみたいで…」

「……まあいても頼めないんですけどね(笑)僕は他のやつじゃないといけないから(笑)」

そして久住さんが頼んだものは…


「洋食という事で、ハンバーグを…それと、…グレープジュースを(笑)」

「……あ、もう肉汁がすんごい!これはたまりませんよ皆さん!」
「付け合わせのグレープジュースがね、また合うんだこれが!(笑)」

久住さん、お店の人と話…


「あ、じゃあ加賀美君も元々ここで働いてたんだ!」

「そうなんですよ~その時の写真、ほら!これこれ!」

「あ、この時はまだひよりちゃんも総司君も可愛らしいんですね!…女将さんも美人(笑)」

「いや~ん今も!(笑)」

「総司君は滅多に来ないんですか?」

「う~ん…気が向いたらとかじゃなくて、良い食材が入ったら来るからねぇ…」

「何それ(笑)」
「(笑)」







今回久住さんが来たこのBistro la Salleは品川駅から二本目の信号を左に曲がって入り組んだ道に行くとあります

運が良ければ天の道を行く男の料理が食べられるかも…?

乙乙~

乙!良かった
湯豆腐食べたくなったわ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom