悪魔ほむら「また訪れたループの中で」 (32)
――今日は、鹿目まどかが生まれて、96回目の誕生日である。
だが、鹿目まどかは、残念ながらその日を迎えられなかった。
先日、天寿を全うしたからである。
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……私は、鹿目まどかの最後を看取った。
彼女の弟である、鹿目タツヤも既に故人となっており……
私が悪魔となった、あの時を生きていた人は誰もいない。
鹿目まどかは老人ホームに入っていた。
今わの際であっても、親族すら誰も訪れず、
私は我慢できずに鹿目まどかの前に姿を現したのだ。
出来るだけ、私は接触せずに見守っていただけだったのだけど。
最後が、孤独なんて、耐えられなかった。
……そして、今はその時の会話を、思い出している。
まどか「……ほむら……ちゃん?」
ほむら「まどか……」
まどか「ふふふ……、ほむらちゃんってば、あの時のままだね」
まどか「わたしってば、すっかり年取って、おばあちゃんになっちゃったのに」
ほむら「……」
まどか「……最後に、会いに来てくれたの?」
ほむら「……ええ。人間として生きた貴方の、最後をせめて看取りたかった」
まどか「そっか……」
ほむら「……長い間、おつかれさま。まどか」
まどか「ふふふ。たしかに、長かったよ……」
ほむら「どうだった? まどか……。貴方なりに、幸せに生きられた?」
まどか「……うーん。ふふ、そうだな」
まどか「最後に、ほむらちゃんに看取ってもらえるから、そうなのかも」
ほむら「……そう」
まどか「結婚もしなかったし、子供もいなかったけど」
まどか「ママや、パパ、タツヤ、一杯いた、大事なお友達……」
まどか「楽しい時間も多かったよ」
ほむら「そう……、なら良かっ まどか「でも」
ほむら「えっ?」
まどか「悔いが残る、人生だった……」
ほむら「まど……か……」
まどか「悔しいよ、ほむらちゃん」
まどか「大事な事をやり残して、逝かなきゃいけないの」
ほむら「……」
ほむら「……それは……なに?」
まどか「……」
まどか「……ふふ、ほむらちゃんには」
まどか「教えてあげません」
――まどかは、人間として、幸せな一生をおくるはずだった。
なのに、大事な事を、私にも明かせないような、
大事な事を、やり残してしまった。
ほむら「……まどか、貴女を円環の理に戻すのは」
ほむら「まだ、だめ」
ほむら「まだ、だめよ」
ほむら「貴女が、満足できなかった人生なんかじゃ、意味がない」
ほむら「まってて、今度こそ、貴方が満足できるよう……」
ほむら「この世界、巻き戻すわ」
――2回目の改変後の、2回目の世界。
中学生の、あの時のまどかがいた。
帰国子女であったまどかが、転校してきたあの日。
転校してきたばかりのまどかに、
私は校内の案内を申し出た。
まどか「あ…… 暁美さん?」
ほむら「ほむらでいいわ」
まどか「……ほむらちゃん?」
まどか「あの…… どうして、わたしを……」
ほむら「久しぶりの故郷はどう?」
まどか「ええと……うん。なんだか懐かしい」
まどか「また、ここに来れるなんてね」
まどか「今度こそ……、成功して見せるよ」
ほむら「……まどか?」
まどか「どうかした? ほむらちゃん」
ほむら「成功って、何を……?」
まどか「……? わたし、そんなこといったっけ?」
ほむら(……たしか、前回はここで、まどかは神としての記憶を取り戻しそうに……)
ほむら(今回は……? なんだろう)
ほむら(巻き戻したことが原因で、どこか不安定になっているのかしら……)
まどか「さ、ほむらちゃん……! 案内してくれるんでしょ、いこ!」
……この周で、今度こそ まどかを本当に幸せにしてみせる。
最後の時に、本当に幸せだったって 言って貰えるように。
わたしは、欲深い悪魔なのだから。
前回のまどかの人生は、私は見守るだけに努めていた。
でも、それだけじゃ まどかは幸せになれないらしい。
色んな因子を変えてみよう。
そういえば、前回は結婚にも、子供にも恵まれなかった。
女性としての幸せ…… 一般的な女性としての幸せは
幸せな結婚、元気な子供に恵まれることだろう。
悪魔の癖に、チクチクとした痛みを胸に覚えながら、
私はまどかの因果を操作した。
優しい、まどかの父のような男性と知り合えるように……
――時間は流れた。
また、鹿目まどかが生まれて96回目の誕生日である。
今回はまだ、鹿目まどかは目の前に居る。
……だけれど、もう長くはない。
素敵な男性と、縁が幾らでもあったはずだけれど、
鹿目まどかは やはり孤独な最後だ。
接触はしていなかったが、
最後くらいはと顔を見せた。
まどか「……ほむらちゃん、最後に会いに来てくれたんだぁ」
まどか「うれしいよ……」
ほむら「まどか……」
まどか「……もう、あんまり目が見えないの。ほむらちゃん、もっと近くに……」
ほむら「……うん」
まどか「……ふふ、皺くちゃの顔を見られちゃうのは、恥ずかしいな」
ほむら「そんなことないわ。おばあちゃんの貴女も、かわいいわ」
ほむら「私も人間として死ぬなら、貴方みたいに歳をとりたい」
まどか「……ありがとう、ほむらちゃん」
ほむら「……やっぱり、悔いは残っているの?」
まどか「え?」
ほむら「最後に、看取ってくれる人が、私だけ……」
まどか「……」
ほむら「貴女はそこそこ、幸せな人生をおくれたんじゃないかと思っているの」
ほむら「でも、最後が、これじゃあ……」
まどか「そうだね……」
まどか「たしかに、悔いが残るよ。悔しいなぁ」
ほむら「……」
私は、また巻き戻した。
色々な因果を操作した。
鹿目タツヤを長生きさせてみた。
悔いが残ったそうだ。
さやか達、まどかの友達も、生き残るようにしてみた。
まだダメだ。
優しいだけの男性がタイプでないのかとも思い、
色んなタイプの男性や、……女性と縁があるようにしてみたり。
失敗だった。
鹿目まどかが選んだ仕事が、大成功を収めるようにしてみた。
志筑グループを上回る 大富豪となったが……
まどかの人生は、悔いが残らないものではなかった。
考えうる、まどかを幸せにするもの、全てを弄繰り回した。
――666回目の巻き戻し。
前は一か月の繰り返しだったけれど、
今度は80年以上の時の流れを繰り返している。
悪魔になっていて、疲れ知らずであっても……
私は途方にくれていた。
鹿目まどかが転校してきた始まりの日、
私は当然のようにまた校内を案内する。
まどか「さあ、ほむらちゃん。案内してくれるんでしょ? 一緒にいこ?」
ほむら「うん、まどか……。一緒にいきましょう」
私、暁美ほむらは疲れていた。
疲れ知らずであるはずなのに、
精神は神に対抗しうる領域に達していないらしい。
愛しい鹿目まどかに癒しをもとめ、
私は静かに、彼女の傍で過ごすようになった。
私は、幸せだった。
鹿目まどかに悪影響を与えるのが怖かったけれど、
それでも幸せだった。
彼女と過ごす時間の流れは、
666回目の繰り返しであるにも関わらず早かった。
私だけ歳を取らず、鹿目まどかはおばあちゃんになっていく。
それでも、鹿目まどかは私を気味悪がらずに、
わたしを傍においてくれた。
……また、時間が迫って来た。
まどか「……ほむらちゃん」
ほむら「まどか」
まどか「私、そろそろ……ダメみたい」
ほむら「まどか……」
まどか「ほむらちゃん、色々、ありがとうね」
ほむら「うんん。こちらこそ……」
ほむら「今度こそ、私、貴女を幸せにできるように、頑張るからね」
まどか「……?」
ほむら「いいの、まどか。貴女は、何も考えずに、ゆっくり休んで……」
まどか「……じゃあ、ほむらちゃん。最後に一人は怖いから、抱きしめていい?」
ほむら「うん、まどか。最後まで、ずっと一緒だよ?」
まどか「ふふ……」
まどか「この時をまっていたよ」
ほむら「えっ」
優しく私を抱きしめる、鹿目まどか。
私の長い髪を手で梳きながら、
老いた身でありながら、強く抱きしめ、離さない。
まどか「ずっと、一人になっちゃダメだって言ってたのに」
まどか「ぜんぜん、私に近寄ろうともしないんだもん」
まどか「今回だって、傍にはいてくれたけど……」
まどか「この今わの時でないと、抱かせてもくれなかったんだから」
ほむら「貴女……、記憶が……」
まどか「ふふ、ほむらちゃん」
まどか「でも、ずっと、ほむらちゃんと一緒だったから、幸せだったよ」
まどか「悔いなんて、あるわけがない」
ほむら「まどか……」
いつの間にか、瞳を黄金色に輝かせ、
美しい彼女本来の姿に戻っていた。
鹿目まどかが、幸せな人生を送れたことに満足し、
私は女神の慈しみをその身に受けながら……
愛しい彼女から、もう離れない事を誓った。
終わりです。
読んでくださった方、
もしいらっしゃいましたら
ありがとうございました。
いつの間にか、瞳を黄金色に輝かせ、
美しい彼女本来の姿に戻っていた。
鹿目まどかが、幸せな人生を送れたことに満足し、
私は女神の慈しみをその身に受けながら……
愛しい彼女から、もう離れない事を誓った。
終わりです。
読んでくださった方、
もしいらっしゃいましたら
ありがとうございました。
>>26はミスです。
ごめんなさい
乙です!
なんか何回も生き返った猫の話思い出した。
乙でした。
乙
やはりまどほむは結ばれるんやな
乙
なんか静かな感じでよかった
短いけどこれで充分満足した
乙でした
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