海未「走れ園田」 (72)


園田は激怒した。

必ず、恋の詩を書かねばならぬと決意した。

園田には恋愛がわからぬ。

園田は、女子高校の学生である。弓を射て、幼馴染の女性と遊んで暮して来た。






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園田は、同時にスクールアイドルでもある。

それはおおよそ、園田の人生においては相応しくない肩書きであった。

園田は日舞の家元の家に生まれ、剣道と書道、多少の登山を嗜んできた日本的な女性である。

親しき友にも敬語で話す。

閉塞的な環境ではなかったが、解放的でもなかった。

というのも、園田は高校に入るまで、おおよそ自分の想像の付く程度の人生を歩んでいたからであった。




だが高校に入ると、人生は大きく変わった。

それがスクールアイドルである。

園田は、幼馴染に誘われただけであった。

それゆえ、弓道部との掛け合いに躊躇することはなかった。

遊び半分であったのではない、園田は友に助けを求められ、それに応えただけだ。

然れども、今、スクールアイドルは園田の生活の軸になりつつあった。

園田は、中学時代に密かに鍛え上げたポエム(園田はこの存在を後に否定している)の技術を駆使し、部員の為の詩を書いていた。



園田は日中はもっぱら、このポエム、もとい本人の意思を尊重するならば、詩を考えていた。

良い詩を書くには、今まで以上に世界に対しての感性を磨く必要があった。

だがそれは園田にとっては容易いことであった。

閑静な住宅街を歩く味気のない登校時間にも、園田は時折空を見上げながら千切れる雲に自分を重ねていた。

教室に入る扉を開くときにも、それを夢幻への扉に見立てていた。

夕暮れに沈む町の姿を、命の眠りに喩えていた。



いつしか園田の詩は、他人からも評価されるようになっていった。

園田にはそれがこの上ない悦びであった。だが同時に不満もあった。

「私の歌詞は私自信の経験の域を出ません。私の知覚が理性によって歪められ、詩的なものとして一応の形式に収まっているだけです」

園田の友人はこの言葉を優しくなだめ、やんわりと否定する。だが園田自身の心に嘘はつけない。

園田は、自分の詩に、これまでの自分になかった感情を込めてみたくなった。

それでも、園田には恐れがあった。ここに来て例の持ち前の臆病さである。

自分の胸の中に存在しない、赤の他人の感情を創りだす、それは園田にとっては最も苦手なことであった。

園田に他人を思いやる心が欠落していたわけではない。寧ろ親しい人間になら何の問題もなかった。

だが楽曲は不特定多数の聴衆に満足してもらわねば、意味がない。

彼ら有象無象の人生にシンパシーを与えられる詩は、作ろうとして作れるものではない。

なので自らの心情をぼやけた言葉で書き表すのが、同じ有象無象の一員として共感を勝ち取る最良の道であった。

創られた心情を、あたかも「真」の人間の心であるかのように偽装する。

そんなことが易々と出来るほど、園田は器用な女性でもなかった。

何より、そのような勇気もなかった。

故に、園田はこの不満の解消どころか、その直視さえもいつしか諦めるようになっていた。

園田は、恋の詩を書けなかった。




園田は、恋を知らなかった。





某日未明。

園田は部室にいた。作詞の作業をしに来たのであった。

一日中、心の中に巡らせていた数々の比喩を、ノートに一列に書きつけていく。

こうすることで掴みどころのない思考が、整列してゆく。

園田は、あらかた書き終えると、ペンを置き、それを読み返す。

整列され、文面に現れた自分の感情を、目を通し、再び自分の心に収めなおす。

ここで、何事もなく園田の心に浸透する一文は採用される。

だが大抵は、言語としての意味を持ちすぎている。平たく言えば、堅い。

楽曲は手前から流れ、後戻りはしない。故に聴き手の耳につっかえてしまうようなものは相応しくない。

園田は、ここで「崩し」の作業に入る。




園田の持論ではあるが、楽曲において、詩は必ずしも意味を持つ必要はない。

言葉が意味を持つのは文章だけで十分である。楽曲には音符がある。

音符はそれ自身で愉悦、憎悪、享楽、背徳……あらゆる感情を表す、有能な働きをする。

純粋な音楽には詩の必要はない。その音自体がすでに何かを語る文章なのである。

歌詞とは、この文章の上に乗っかる「ルビ」のようなものに過ぎないのだ。

こうすることによって互いに働きを阻害することなく、一つの調和を持つ。

メロディを信用せず、言葉の意味を与えすぎては、あまりにくどい。

園田は、部の一員であり、作曲を担当する西木野を心から高く評価している。

それゆえいっそう、自分の言葉を消していくことに躊躇は無かった。




やがて歌詞と音律が親密になってゆき、園田の作業は終わる。

「こんなものですかね」

園田は、矢澤に完全な形となった歌詞を見せる。

「どれどれ……元気な感じ、いいじゃない、さすがね」

矢澤は答える。彼女の包み隠しのない意見は園田にとって重宝していた。

実際、彼女が一読して肯定的な意見を出すことも稀であったので、園田は単純に自信を得た。

「ありがとうございます、元気、ですか」

「スクールアイドルには元気が一番大切よ、どこぞの苦悩めいたアーチスト気風なんかじゃ困るわ」

「曲が良いからですよ、私の歌詞は元気な曲調に乗っかってるだけです」

「謙遜しなくていいわよ、私が褒めてるんだから」

「はぁ、そうですね」




「何か不満でも?」

「いえ、ありません」

「いいや、あるわね、不満が。顔を見ればわかるのよ」

顔を見ればわかると聞いて、園田は鏡が欲しくなった。

そんなにわかりやすい顔をしていただろうか?

園田は椅子のパイプに顔を写そうとしたが、当然、歪んで何も映らなかった。

「ラブソングが書きたいって言ってたじゃないの」

矢澤はピシャリと言い放った。

海未は予め用意していた返答、つまりいつも自分を誤魔化していたフレーズを口にする。

「あまり余計なことをすると、真姫の曲の良さを殺してしまいます」

「やればいいじゃない、できないのかしら」

「必要性の問題です、やらなくていいんです」

「できないんでしょうが」

「出来ます!やる必要がないんです!」




カッと声が出てしまった。若干涙腺も緩んでいる。

園田は自分が思っている以上に打たれ弱かった。

それに、矢澤の前だと園田はしばしば熱くなる。

矢澤はそれを愉しんでいるフシがあり、現に彼女の口元は緩んでいた。

「怒鳴らないでよぉ、もう。恋愛経験がないからぁ、って言ってたのあんたじゃないの」

「にこも無いんですよね、偉そうなこと言わないでくださいっ」

「そうよ、でもあんた書いてみたい、とか時々ボヤいて、結局書かないじゃない」

「いいんです、何度も言いますが、必要性が無いだけです」

「出来は私が判断するわよ、あんたならいいものが書けるって期待してるから言ってるんでしょ」

「うそです、うそです、私の反応をみて楽しんでいるんですっ」

園田は涙を堪えていた。

矢澤の顔もいつになく険しくなっていた。

しかし矢澤も引かなかった。あと一押しであった。

心を鬼にして、精一杯の挑発を試みた。

「やってみなさいよ!やらないで諦めるなんて、ダメよ!ダメダメ~」






園田は激怒した。

必ず、恋の詩を書かねばならぬと決意した。

園田には恋愛がわからぬ。

園田は、女子高校の学生である。弓を射て、幼馴染の女性と遊んで暮して来た。

ならば知ればいい。これから知ればいい。




「やってやります、見てなさい!」

それを聞いて矢澤は、罪悪感を交えながらも、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。

「私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、煮るなり焼くなり好きにしなさい」

「メロディは無くていいのかしら」

「構いません、愛を語れる詩を書いて、にこが納得すれば私の勝ちです」

「わかったわ、逃げないでよね、期待してるわよ、海未」

矢澤は部室から出て行った、

園田は口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

さあ、園田は追い詰められた。どうしても三日後までに愛を知り、詩を作らなければならない。

矢澤は挑発する素振りをして、本当は臆病な自分をを後押ししてくれた。

感謝せねばならないはずだった。動き出さずにはいられなかった。

園田は、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

園田は、その夜、急ぎに急いで、岐路を駆けた。

家へ帰って、間もなく床に倒れ伏し、園田は呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

続きます。ちょっと期間あくかも……

前のウヨニキか
結構面白い

どっかで読んだような……いやいや、好きよ
自分のペースで書いてください

いいね

園田が目を覚ました時、すでに太陽は南中を終え、正午過ぎに傾むていていた。

しまった、寝過ごした。

園田は戦慄したが、嘆いている時間も惜しかった。

今日は休日だ。

先ず、自分の為すべきことを確認した。

愛、あるいは恋を体験、見つける、そしてそれを詩にする。

ここまで考えて園田は一抹の違和感を覚えた。恋と愛の違いである。

園田は手元にあった使い古された辞書を開き、これまで目にも留められなかった語の、相貌を確かめた。





こい 【恋】

①特定の異性に強く惹ひかれ,会いたい,ひとりじめにしたい,一緒になりたいと思う気持ち。

②古くは,異性に限らず,植物・土地・古都・季節・過去の時など,目の前にない対象を慕う心にいう。






成る程、大方予想通り出会った。

両義とも、手に入れることの難きものを求める心である。

それに、ひょっとすると後者の意味においては園田は既に恋を知っていたかもしれない。

だが今回話題になっているのは前者であろう。園田は考えた。

手に入れることが難くとも、恋を知る程度ならば、手に入れる必要まではない。欲しいと思うだけで良いのだ。

だが3日のうちに、易く氷解すべき問いで無いのは明白であった。

園田は、次に愛を知ろうと、ページをめくった。「あい」は辞書の頭の側である。

そこでは、分厚い紙の束の見開きの左右で重量が著しく異なる。

開くのには多少難儀したが、園田は落ち着いてその文字を読んだ。

園田は驚愕した。

嗚呼、これではまるで別物では無いか!




あい 【愛】

①対象をかけがえのないものと認め,それに引き付けられる心の動き。また,その気持ちの表れ。

②キリスト教で,見返りを求めず限りなく深くいつくしむこと。




愛は、その唯一性を認めることから発生する。

ならばその前提として、対象の把握は終えているはずだ。

つまるところ、恋とは違って、愛とは、愛するべき対象が既に自分の側にある、そう考えて良いだろう。

親が、娘に対して注ぐのが、恋では無く、愛である道理を、園田は知った。

それならば、園田は愛を知っていた。

園田は、家族を愛していた。友人を愛していた。世界に対しても愛を感じていた。

然れども、園田が増して驚いたのは、恋という言葉の孕む恐るべき矛盾であつた。

すなわち、こうだ。

或る人が親しき友人、自分の愛すべき友を持っていたとしよう。

この時、愛は所有物への感情である。

ではその友人に対して、或る日、恋心が芽生えるとする。

こういったことは珍しくも無いはずだ。園田も言葉の上だけなら幾度も目撃して来た。


しかしここで問題なのは、恋が「非」所有物への感情ということだ。

愛し、自分の持ちたるものが、或る日突然自分の手を離れてしまい、それを、求める気持ち、恋に変わる。

持っているものが欲しくなる?

これではまるであべこべだ!

園田はわからなくなった。

やはり恋とは難しいものではないか。こんなものを大方の人類が経験していたことを信じられなかった。

恋とは、いわゆる、一目惚れ、なのだろうか?

解決はするが、それを全ての事例に当てはめるのは傲慢が過ぎる。

園田は考えた。考えざるを得なかった。すると一つの光明が見えた。

そうか、捉え方の問題なのだ。

恋の発生は、よく知る、愛する友人に対しての、疑問の発生であろう。

疑問はなんでも良い。

それが起床時間であろうと、朝食の品目であろうと、なんでも構わない。

既知の対象から、未知の情報を引き出したくて堪らなくなる、その情報を求めたくて堪らなくなる。

結果、その人そのものを、既に自分のもので有るのにも関わらず、求めたくなるのだ。

この錯誤こそが恋だ。

恋とは、愛から生まれるのだ。

愛は芽生えぬ!愛という土壌から、芽生えるのは恋だけだ。

恋と愛に対する議論は多くなされて来ただろうし、これからもそうだろう。

これが絶対的解釈とは言えないし、論理の飛躍が無いでもない。

ただ、園田は元来、情緒よりは理屈で動く人間であった。

そのため、正誤は別として、自前のこの結論に至れただけで、心象の霧は晴れた。

人の常として、霊魂の如き未知の対象には畏怖を抱くものだ。

だが相手を知ってしまえば対策のとりようはある。


次に園田は、なにをするべきかを考えた。

新しいものを探す必要はない。

自分がいま持っているもの、愛すべきもの、それをしっかりと観察すれば良いのである。

そこから恋は生まれるはずだ。園田は友人たちに会うことにした。


とりあえずここまで……

したり


海未ちゃん書道もやってたのか、知らな
かった

面白い

面白い。支援ぬ

走れと言うか歩けの方がしっくりくるなww


園田はここ数年、男性との交流が希薄であった。

振り返れば、幼稚園、小学生あたりには級友との会話も弾んだものであった。

だが、中学に入学したころから、めっきり男性と話す機会は減ってしまった。

別段、男性に対しての恐怖が生まれたでも、特別な意識が生まれたわけでも無かった。

ただ、男女の関係の危険性に、園田は人より早く敏感になった。

園田は、この頃に不埒な異性の交流を何度か噂に聞き始めるようになった。

然る羞恥が同年代で繰り広げられることに、はじめ、園田はぞっとした。

次第に、その類の話しを耳にするたびに、彼女たちに軽蔑の念がふつふつと湧き上がっていった。

中学生など、何ら自らの行動を律することも、贖うこともできない、その意味で無力な赤ん坊に過ぎないではないか。

そのくせ中途半端に頭だけは出来ている。批判することを覚え、やたらに権利を主張する。

園田にとっては、衝動的な恋に身を焦がした彼女たちの姿は、本能が先行した、けだものにしか見えなかった。

恋や愛に耽るには自分たちはまだ若すぎるのである。

それを自覚していない輩が多すぎる。





そんなふうに、園田は特定の性に対する感情ではなく、人間そのものの在り方に対しての拘りが強かったのだった。

園田は人間の尊厳の核心が、その理性にあると堅く信じてたのだ。

感受性も人一倍強かった園田は、この経験から、愛や恋を、肉欲的で卑俗な悪事と捉えはじめていた。

恋は、両親のような、そんな責任のある者同士の関係でなければならない、そう考えていた。

だが同時に、そんな風に極端な考えに走る自分の器量の小ささを恥じる冷静さもあった。

自分だけがこの状況に不満を覚えているのでは?

園田は次第に自分の過激な考えが恐ろしくなっていった。

それゆえ園田は沈黙した。

普遍的な話はさておき、せめて自分だけは清潔でありたかった。

幸い、園田は友に恵まれていた。

古い馴染みの、高坂と南である。

園田は、多かれ少なかれ、彼女たちの共感を得る自信があった。

類が友を呼んだのであろう。

園田は決して主張はしなかったものの、そんな彼女たちと過ごす雰囲気を快く思っていた。

そして共に、園田は女子校に入学した。

自ずと、男性との接触は閉じて行った。

だが今の園田は違った。

園田は今、恋を求めている。

ひとつ、異常なのは、その恋の相手が人間ではないことだった。




園田は明らかに、恋という言葉自体に、恋をしていた。






先ず、園田は、東條を訪ねた。

深い理由などなかった。

然れども、誰でも良いなら、隣家の高坂で良いはずだから、何か思う所があったのだろう。

園田が呼び鈴を押すと、すぐにドアが開いた。

「海未ちゃん」

やんわりとした表情がこちらを覗いた。

「急に申し訳ありません、お話ししたいことがあってーー」

「まあまあ、入りよ。ウチも誰かとお話ししたかったところ」

「そうですか、では失礼します」



東條は園田に紅茶を振舞った。

キームンという中国の茶らしい。世界三大紅茶の一つだ、と東條は自慢げに云った。

園田はさほど関心なく、相槌を打つ程度で、カップを手に取り、茶を口にした。

香が良く、上品な味だった。外の気温は高いが、熱さも嫌にはならなかった。

東條は、感想が早く聞きたいらしく、園田の一挙一動を体を揺らしながら観察していた。

「美味しいかな、どうかなぁ」

「ええ、美味しいです。……初めて口にした味ですね、なんだか新発見、という感じです。」

本心からの感想であった。

それに、普段はジュースばかりの同級生に振舞われる茶も、一層新鮮であった。

「良かったぁ、実はウチも、誰かにごちそうするのは初めてやから」

「いえ、本当にいいですよ……これ。良かったら少し貰えませんか?」

「ははっ……嬉しいなぁ、ええよ、帰りにね」

東條は、ほっとひと息ついて、微笑んだ。

園田も、ああ、初めが東條で良かったと思い、ほっとした。







園田がカップを机に置くと、東條はきゅっと視線を定めた。

「それで、どういう話なん?」

「ズバリ言わせてもらいます、恋の話です」

「ええ、恋」

「そうです、恋の詩を書かねばなりません、そのために恋を知らねばならないのです」

そう云ってから園田はハッとした。

しまった、相談に来たのでは無い!

目的は友人を深く知ること、それだけなのに、まんまと乗せられてしまった。

対して、そんな画策も無かった東條は、単純に友人の話の内容に唖然として、パチパチと瞬きをしていた。

しばらく、お互いの空気が凍ってしまった。

園田は、恥ずかしさで言葉も出ず、なんとか慣れない作り笑いをした。

東條はそれさえも気味が悪く思った様子で、尚更沈黙を深めてしまった。

今日はここまで

苗字表記なのが文体と相まって尚更シリアスな笑いを呼ぶ

園田って字面だけでだいぶ笑えてくる

文学なのかラブコメなのかシュールギャグなのか……
とりあえず面白い、走る園田に期待




嗚呼、これでは共倒れだ。そもそも東條もまた、恋を知らぬ人間ではないか。

園田は初日から自分の計画が画餅に帰したことに肩を落とした。

何事においても、持たざる者同士の議論ほど、滑稽で的を射ぬものもない。

そもそも其処には的すら無く、実践に即さぬ虚言という名の矢で互いを傷つけるに終始するのが常である。

園田は沈黙の破り方を考えあぐねた。

このまま人生相談になっては困る。そんなものはお互いの自己満足に過ぎない。

が、先に口を開いたのは東條であった。

「海未ちゃんが恋を知りたいなんて驚きや……でもごめんな、ウチにもよく分からないんよ」

「ええっと……言いにくいですけど、希が何も分からないのは承知してました」

「ええっ、ウチに相談しに来たと違うん」

「すみません、話には来たんですけど、なんだか順序をまちがえて……
 いや、順序じゃなくて、目的そのものが……
 ああっ、申し訳ない、これでは、もう、だめです、はぁっ」

「一旦落ちつき」

「はぁ、はい」

「紅茶、もう一杯、どうぞ」

「はい、頂きます、すみません」

カップにトクトクとと琥珀色の紅茶が注がれた。

東條の顔は落ち着きを取り戻していた。

園田が空回りしている姿に微笑ましさを覚え、緊張が解けたのだろう。

対して、園田は首をうなだれて視線を下に向け、フローリングの木目を目で追いかけていた。

年輪が刻んだ焦茶の模様をジグザグと目で辿ると、ますます心拍が乱れた。

嗚呼、ばつが悪い。園田は今すぐ玄関に向かって走り出したかった。




「海未ちゃん、下ばっかり向いてないで、顔あげてよ」

「あがりません……」

「何しに来たん、もうっ」

「いいんです、私は駄目な人間です」

「そんなに落ち込まんでも……」

「……少し待ってください、ああ、それにしても面目ないです、家にまで押しかけて、こんな醜態を晒して」

「ふふっ……海未ちゃん、海未ちゃん……」

「何です……」

「ウチ、海未ちゃんに恋しちゃったかもなぁ」

「えっ」

「海未ちゃん、可愛いもん、そりゃ好きになっちゃうわ」

「からかわないでくださいっ、私は真剣なんですっ」

「ほらっ……顔上げてくれた」

「あっ……」

「ふふっ」

「ずるいです、ずるいですよ」

「さっ、海未ちゃんもこっち向いてくれたし……ウチも真剣に聞くから、全部喋って欲しいなぁ」

「そんな、本当に、いいでしょうか。私がこの一日で考えたことです。味も素っ気もないですよ」

「もー、海未ちゃんがなに思ってるんか、ウチも聞きたくてしょうがないの」

「そうですか……ではまず、経緯から……」




こうして、日が落ちるまで、東條宅で会話を続け、それから家に戻った。

園田は寝室でこの日を回想した。

あの後、話は続いた。これ以上の収穫が無いことは承知していたが、単に会話自体が愉しかったのである。

園田は自分の倫理、道徳、観念、あらゆる心境を心血を注ぎ東條に与えた。

東條は真摯に応えた。その返答の一つ一つが園田を感興、籠絡させた。

東條の返答に付随し、園田の興味深い種々の疑問が生命を持ち始めた。

嗚呼、なんと愉しいのだ!園田は感動していた。血が湧き上がっていた。

東條との会話は相互間のコミューンと云うより、むしろ自己の中の思考を清算し、潤滑させる油であった。

東條の的確な反証、肯定、それら全てによって、園田の中の無秩序な斑点が星座と成ってゆく。

自分の持つものが、意味を獲得する!その過程に園田は心から悦楽を覚えた。








だが、哀しいことに生産性はなかった。園田の心内の整理は行えたが、新たな情報は得れなかった。

無益ではなかったが、自分の住む町の裏路地を教えられたようなものである。

園田はもっと遠いところを目指していた。

結局、それも恋を知らぬ者同士の会話から生まれる限界なのである。

海面に映る月を掬い上げるが如き愚行であった。

例え手に入らぬとしても、月を求めるものは空を見上げねばならぬ。

園田は自分の不甲斐無さを噛みしめた。

然れども、全く何も無かった、ということもなかった。

御馳走になった中国茶のキームンだろうか?あれはよかった、と思った。

ふと、園田は自分も茶を淹れてみたくなり、ベッドから立ち上がった。

東條から貰ったパックを鞄から取り出し、台所で湯を沸かし、勝手も分からずいい加減に作ってみた。

しかし、口にすると、御馳走されたものと比べ、ひどく香りが死んでいるのがわかった。

ああ、この、へたくそめ、なんてもったいないことを、と園田は自分を詰った。

今度は上手くやりたい、紅茶の淹れ方を教わりに、いつかもう一度、東條の家を訪れよう。

そう思ってから、園田は、友人に会う理由を欲しがっていたことに気が付き、独り笑った。






寝る前に、園田は今日の事をノートに書きつけた。

恋そのものは見つからなかった。

だが、恋の反例を見つけるという意味では、僅かながらも真相には近づけた、と思った。





 恋は友情ではないようです。

 私の理解では、恋は愛から生まれ、より深い愛を求める感情のはずです。

 でもやっぱり、お互いの立場がすでに固まってしまっている友情とは、すこし違う様な気がします。

 ただ、遠くもありません。些か衝動に欠けているだけで、友情から転じる恋もあるでしょう。

 友情と恋は、どうやら延長線上ではなく、平行線上にあるようです。

 それに、友情を恋にするのは少々もったいなくも思えます。これはこれでかけがえのない関係でしょう。




園田は予め頭の中で何を書くか決めていたわけでもなかった。

ただ、新たな事実に気が付きながら、それを紙に書きつけた。

こういう僥倖があるから、何時も日記をつけるようにしていた。

そして、否定の形から入ったとはいえ、今日は今日で、恋に近づけた気がした。

あながち無駄な日でもなかった。東條に感謝の意を込めて、園田は眠った。






二日目の朝であった。明日までに恋の秘を明かさねばならなかった。

ともかく、時間が押している。園田は次に訪れるべき友人を考えた。

高坂、南の二人は、共に過ごした時間も長く、あまりに親しすぎた。

単純に、彼女たちから新しい何かが見つかる自信が無かった。

そうなると、小泉、星空、西木野、絢瀬。

結局、都合がついたのが小泉だけであった。

何にせよ、園田にとっては自分の埒も無い空論に付き合ってくれる者がいただけで、有り難かった。

彼女の貴重な時間を拝借する事に手を合わせる気持ちで、家を出た。






小泉の希望で、待ち合わせ場所は秋葉原駅、ガンダムカフェと云うところの前だった。

園田は雑踏は好まなかったが、友人の希望とあらば断わるほどのものでもない。

時間のはずだが小泉はいなかった。刻限に疎い性格でもないはずだったので不審に思った。

園田が視線を回すと、少し遠くに黄色のパーカーを着た小泉が見つかった。

小泉の目の前には屈強な、筋骨隆々とした男性が、ひとり、ふたりいた。

小泉は腕を曲げたり回したり、カクカクと動き、彼らに対して奇怪な動きをしていた。

園田が見るに、明らかに、その姿は恐怖に震えていた。

この輩!園田は怒髪衝天し、気が付くと小泉の方に向けて走り出していた。

小泉を抱えるように男たちの前に躍り出て、鋭い目を向けた。

「花陽、大丈夫ですか、どうしました!」

「あっ!海未ちゃん、助けてよぉ……」

「なんと、殿方がよってたかって、こんな女性を!恥を知りなさい!」

「ええっ……なんか違うよ、海未ちゃん、英語できる?」

「えっ」

「えっと、英語……」

「どういうことですか」

「この人たち、道に迷ってるみたいだけど、英語で話しかけてくるからわかんないの、うわぁん」

「ははっ……左様ですか」



園田は昨日に続き、又もや醜態を晒した己を恥じた。

園田は近頃、どうも自分で思っていたより自分は冷静な人間でないのでは、と考えるようになっていた。

そうすると、過去の振る舞いを回顧して、ますます慙愧に堪えなくなるのであった。これではほんとうの馬鹿ではないか!


さて、園田がぽかんとしている内に、二人の外国人は怒鳴られたことに怯えてどこかに消えてしまった。

嗚呼、異邦人たちよ、誠に申し訳ない。

私という卑俗な人間を目の当たりにしても、どうか日本を嫌いにならないで頂きたい。

園田は心の中で必死に陳謝した。念のため「I'm sorry」とも心の中で呟いた。

小泉は感謝の旨を述べたが、それもこの上傷口に塩を擦り込まれる思いだった。

今回はここまで



小泉と言われてもピンとこねーんだ

>>45
泉ピン子かと

めっちゃ乙

園田ちょっと走った!




「どうして今日は秋葉原なんです」

園田は尋ねた。

「今日はもともと一人で来るはずだったの、でも海未ちゃんが声かけてくれたから、一緒に行こうかなぁって」

「成程、つまり、私は実は花陽を誘ったのではなく、花陽に誘われたんですね」

「ええっ、そうなるのかなぁ」

「いえ、すみません、どっちでも構いませんね。さぁ、今日は楽しみましょう」

「そうだね、うん」

園田はひとまず安堵した。

先ほどは取り乱したが、小泉と二人でいる限りはとりわけ難事は起こるまい、と。


園田は小泉の横、正確にはやや斜め後ろに位置しながら、道路を闊歩した。

人波は、氾濫した川の如く横断歩道で堰き止められ、頭上のランプが青に切り替わると決壊したように溢れ出し、再び動き出した。

秋葉原と云う町は、或る種では狂瀾怒濤の町。ここでは全てが溶質として受容され、溶融し、それ自体が溶媒となる。

だが、或る種では平穏な桃源洞裡。この町では秩序を定めるのが法ではなく、訪れる人々の目的意識によるものであろう。

群衆は無秩序に見える。然れども、彼らは確かに、何かを渇望し、そのために此処を訪れている。その意味で彼らは結束しているのだ。

玉石混交というより、此処は大きな掃き溜めだ。虐げられた文化たちの埋め立て地。だからこそ此処は夢の島でもあるのだ。

園田は、たとえそれが恋という無形物であろうと、「何か」を求めるには、ここ程相応しい町もないのでは、と合点した。




無論、小泉は園田の目的を未だ知らぬ。

だが突然、園田に休日に指名された!これもまた小泉の経験せぬことであった。

故に、小泉は園田にも何らかの、深遠な、目的意識がある事を察していた。

そもそも、胸中に目的を秘めるている事、それがこの町を歩くための必要条件なのだから、当然と云えば当然である。

小泉は、園田の意図を、あからさまに、訝しそうに窺っていた。

やはり小泉は、いや、小泉も、心象が行動に出やすい。園田はそんな彼女を近頃の自分に重ね、微笑ましく思った。

信号が赤に変わった。車両が眼前を水平に通り過ぎる様を、二人はぼんやりと眺めていた。








園田は、どうせなら今、と思い、自ら揺さぶりをかけた。

「花陽、どうかしましたか?何か言いたそうですけど……」

小泉は少し動揺の色を出して、ためらいがちに答えた。

「ええっと、海未ちゃんはどうして私を遊びに誘ったのかなぁ、って」

「そうですね、花陽と二人なのは初めて、ですね」

「ご、ごめんね、嫌ってわけじゃないんだけど……」

「今日は手持ち無沙汰だっただけですよ、どうせ一人で過ごすくらいなら、誰かと遊びに行こうかと」

「そうなんだ。じゃあ、海未ちゃんは秋葉原に用事ないの?」

「まぁ……特にこれと言っては無いですけど、いいんです、花陽と休日を過ごしたい、そう思っただけですから」






表現はぼやかしたが、嘘では無かった。目的は小泉と共に過ごし、恋を学ぶこと。

小泉もまた、恋を知らぬ人ではあったが、それも問題ではない。

園田は、一見して温良貞淑な彼女の中に潜む、強烈な、勇猛さを知っていた。

感情の発露こそは穏やかであるものの、常日頃から、言葉の節々に強い信念の片鱗を感じていた。

だからこそ、園田は今日、小泉からは間違いなく重大な何かを学べる。そう確信していのだった。





「ははは……私と居ても、面白いかなぁ?まぁ、とにかくっ!今日はよろしくお願いしますっ」

小泉は自信なさげながらも、喜色満面の様子だった。それを見た園田もまた、安心感を覚えた。園田が『温和な』小泉に抱く例の安心感である。

「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。ところで花陽の方は何の用事でしょうか」

改まった返事をして、園田は尋ねた。返答次第では心構えも変わる。

だが小泉は少々沈黙した。園田も返事が遅れるとは予想しなかったので、少し戸惑った。

そして、目を逸らすようにしてボソリとつぶやいた。

「ええっと……炊飯器なの」

「え?」

「家のやつが壊れちゃったから、買い替えに来たんだ……もう6年くらい使ってたから……」

「はぁ……そうですか」



それより、今は小泉に聞きたいことがあった。

「家電製品を買いに来たのに、親御さんとの相談は無いんです?どうして花陽が一人で」

「恥ずかしながら……私が希望したから、です。美味しく作れるものはどれか、自分の目でじっくり確かめたくて……」

「ええっ、炊飯器を買いに、女子高生が、一人で!そんな、破廉恥です!」

園田は動揺のあまり、またもや意味の解らぬ事を口走ってしまった。




「は、はれんち……」

「あっ……いえ」

「はれんち……そうだよね、なんだか、女子高生って感じじゃないよね……ひとりで……」

まずい。つい飛び出した言葉が、何やら小泉に傷をつけてしまったようだ。

園田は自分の失敗を恥ずべき前に、彼女の誤解を解かなければ、と焦った。

「あの、あの、言い間違えです、すみません!全然破廉恥なんかじゃないです、家庭の為に一人で、立派ですよ!」

「言い間違い……?そうなの、よかったぁ、急にびっくりしたよ、もう」

良かった。修復が早かったようで、何とか取り繕えた。

「炊飯器と破廉恥はいくらなんでも結びつきません、ああ、とんでもない間違いです」

園田は自分で淡々と説明しているうちに、恥ずかしさがまた込み上げてきた。

「でも私も、確かにちょっと、はれんちかもなぁ……って思ったんだよ」

小泉は、そう云う。園田は意外だった。

「おや、それはどうして?」

「だって……ご飯に情熱を……なんて、ちょっぴり、女の子らしくなくて……」

「そんなの、気にしてはダメですよ!好きなものに素直になれるなんて素晴らしいことですよ!」



これは小泉への励ましの言葉で在るとともに、園田自身への叱咤であった。

こうも小泉のように、夢中になれるものが自分には無いから、ふらふらと、恥ずべき失態を犯すのだ。

自分には芯が無いことの表れである。代わりに、その場凌ぎの言動で自分を支えようとするから、たちまち崩壊するのだ。

園田は小泉が心底羨ましかった。彼女は好きなものを好きと云える。嗚呼、なんと実直な美しい心だろうか!

米に対する確乎不動の愛。確かに、やや下世話かも知れないが、構わない。兎も角、愛する姿勢が素晴らしいのだ。


だが、園田は同時に肩をすくめた。

いくら愛があるにせよ物質的な、生活的な話題となると、恋からは遠ざかってしまう気がした。

これでは、今日は本来の意味での『情熱的』な小泉を目撃するのは些か厳しいかもしれぬ。

彼女の今日の目的……炊飯器は、あまりに窮屈な、家事の必要性から生まれたものである。

壊れたから買い換える。失われたから補償する……それでは必要に自分の心が押し出されているだけだ。

自分から、求め、引き寄せる!それが恋の大前提条件だ!

知りもしないくせに、園田は恋に対するイデオロギーが出来上がってしまっていた。

いずれにせよ、園田はそんなわけで、期待が折られた気分でもあった。

まぁ良い、小泉は何も終日、炊飯器に追い回されるわけでもないだろう。

この件についてはさっさと済ませて、小泉の趣味に勤しむ情熱的な姿を目撃できるよう、上手く誘導してやろう。

園田はそんなことを図りながら、小泉に連れられ、ヨドバシカメラの自動ドアをくぐり抜けた。



「海外の人もね、日本の炊飯器は質が良い、って言って、お土産に買って帰るくらいなんだよ」

エレベーターに乗り込みながら、小泉は嬉しそうに云った。

「そうなんですか、もしかしたらさっきの道を尋ねてたお二人方も……」

「ははは……違うとは言い切れない、ね」

「炊飯器一つで、そんなに違うものなんでしょうか。どちらかというと大事なのは米の質では……」

そう、園田が言い終わる前だった。

突然、小泉は顔を近づけ、激しく言葉を走らせた。

「全然違いますよっ!お米はサラダみたいに素材そのものを食べている、と思ってる人が多いですけど、大間違いです!お米は、料理なんですよっ!」

「お米は……料理!」

園田は小泉の恐ろしい表情に圧倒され、言葉が震えた。

「そうです、料理です。圧力、時間、時間、水分……これを調理と呼ばずして、なんでしょうか!」

「あまりそのようなことは意識していませんでした……蓋を閉めればできあがり、かと……」

「本当は炊飯器なんて使わずに、釜で炊くのが一番おいしいですけど、現代人はそうもいきません、だから炊飯器という『ブラックボックス』に委ねるんです!」

「炊飯器という……ブラックボックス!」

「食事の根本はお米。最近は西欧化でこの地盤が揺るいでいますが、まだまだ日本人はお米が主食です。

そんな中心となるお米を、下準備をすまして、後は蓋を閉めて、完成までボタン一つに任せる……どれほどこれが恐るべき飛躍かっ!

お米をx、炊飯器の効能をfとするならば、我々が普段食べている食事はすべてf(x)と+αに過ぎませんっ!

ならばこの家庭における食事のもっとも重要な過程……いや、根本過程を握る炊飯器を、どうして蔑にできましょうか!いや、できません!

家庭生活の回転軸……っ!それこそが、炊飯器、なんですっ!」



疾風怒濤の言葉の暴風に、園田の心は吹き飛ばされた。

まるでナチス・ドイツの演説である。米のプロパガンダだ。

園田は理性を取り戻す前に、脳が動きし、錯誤した。

そうか、これが、愛か。これが愛なのか!

恋を知らぬといったが、自分は本当の愛さえも知らなかったようだ!

焦がれるような、狂おしい、そんな真実の愛(注1)が、ここにあったのだ!



(注1)……のちに園田は、さすがにこれを真実の愛と呼んだのは気の迷いであった、と反省することになる





「まさかそこまで語られるとは、驚愕でした」

「……あっ!ベラベラとごめんなさい……なんだか、熱くなっちゃって……」

「いえいえ、いいんですよ。でもちょっと気になったんですけど、花陽の家は6年も同じ炊飯器だったんですよね、それって性能は良かったんですか?」

園田はぶしつけに尋ねた。

「ええっと……しょれわ……」

急に弱々しくなってしまった。ああ、やっぱり。

おそらく、小泉は近頃、本当に良い炊飯器で米を食べる機会があって、そのの重要性を知ったのであろう。

きっと、そのような美味しい米を食べたときは、驚いたに違いない。まさに青天の霹靂であっただろう。

なにせ、自分が今まで愛を注いだ米が、もっと至純至精とした姿になって、眼前に再来したのだ。

その時、悦びと同時に、嫉妬に近い感情も渦巻いたに違いない。どうして、今まで隠していたんだ、本当の味を!と。

他の家庭では最新型の炊飯器が普及していたとすれば、小泉だけが『米』を知らなかったことになる。

それは何にも増して耐えがたい屈辱であっただろう。真の理解者でありたかった自分が、本当は根本からの背信者だったのだ。

小泉は、今日ここに、罪を告白しに来たのだろう。そうして、再洗礼をうけに来たのだろう。

米のように、研がれにきたのだろう。そうして、再び、自分も輝きに来たのだろう。

不言実行。園田は、先ほどの落胆を撤回した。これはこれで、恋なのかもしれぬ。

小泉の広壮豪宕とした希求心に感服し、深い敬意を覚え、気が付くと頭を下げていた。

暫くの沈黙。エレベーターが到着するまでの間、東條の時と同じく、二人の間に、微妙な空気が流れた。




おつおつ

園田飛ばすなぁ

ヨドバシカメラが文体と似合わなさ過ぎて笑ってしまう

もうちょい空きます…すみません

私待つわ

私も待つわ

待ってます

いつ頃になるのかな・・・

この時期は忙しいから

のんびり待ちます

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このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年11月16日 (日) 21:21:34   ID: BHk1z_h6

凄く文体が好みだ。
そして、園田氏の葛藤面白いw

2 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 03:49:46   ID: nsOmHEnU

うん いい文章だ
期待

3 :  SS好きの774さん   2014年11月21日 (金) 11:35:01   ID: ytBHLGdP

こういう文章書ける人って凄いなぁ
続き楽しみ

4 :  SS好きの774さん   2014年12月09日 (火) 16:07:05   ID: 9gS3awH5

すきだ

5 :  SS好きの774さん   2015年01月09日 (金) 09:15:36   ID: qxQlKmOs

つ!づ!き!

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