「雪歩のグルメ」 (25)
目の前には一人用の小さなコンロ。
カセットではなく、ガステーブルで繋がれています。
店員さんがつまみを捻るとボワっと炎が燃え上がり、その熱が伝わってきました。
コンロの上に乗せられているのはお鍋。
銀色のお鍋が火に熱せられ、中の具材がスープとともに暖められていきます。
そうしてしばらく待っていると、ぐつぐつと煮える音が聞こえてきました。
キャベツとニラがしんなりとして、スープのいい香りも立ち上ってきます。
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まだ、まだです。
焦っちゃいけません。
まだお野菜にはちゃんと火が通っていません。
何よりも、お肉。
そう、お肉にはしっかりと火を通さないと……!
どうして私が一人でお鍋を食べに来ているかと言うと――――――。
――――数時間前
スタッフ「お疲れ様でした~!」
屋外での撮影が終わり、スタッフさんが私に声をかけてくれました。
最近では顔なじみの方だったら男性のスタッフさんでも怖くなくなってきたんです。
スタッフ「萩原さん、今日も良い穴掘りでしたよ!」
最近持った冠番組で、私が好きな様に穴を掘れる番組なんです。
毎回気合を入れて穴を掘るんですよ。
雪歩「あ、ありがとうございますぅ~」
褒めてもらったのでお礼を言いましょう。
スタッフ「それじゃあ、次回もよろしくおねがいしますね」
雪歩「はい!」
今回も良い穴が掘れたので、私的には満足です。
でも、毎回いい穴が掘れるわけでもなくて、その日の天気とか地面のコンディション。
そして、私自身のコンディション、メンタル面等様々な要因がある程度いい方向に動いて初めて良い穴が……ってついつい語ってしまいました。
毎回気合を入れて臨んでいて、穴掘る時にすごく気力体力を消耗するので、収録が終わるといつもお腹が空いてしまいます。
なのでいつも収録終わりはご飯を食べてから事務所に帰るんですよ。
プロデューサーも許してくれてます。
現場を後にして、駅までの帰り道。
秋を通りすぎてもう冬なんじゃないかってくらい寒いです。
こんなに寒いと、何だか暖かい物が食べたくなってきますね。
何かいいお店は無いかな……?
通りをぷらぷらと歩いていると、色々なお店が目に入ってきます。
普通のファミレスだったり、定食屋さん、チェーン店。
しかし、どれも私の琴線に触れるお店ではありません。
収録での穴掘りが上手くいったら、ご褒美としてちょっといいご飯を食べるって自分で決めてるんです。
逆に上手く行かなかったらコンビニでおにぎりを買って帰ります。
今日は上手くいったのでちょっといいご飯を。
雪歩「何がいいかなぁ……?」
焼き肉とも思ったけど、明日はお芝居の稽古が入っているので流石にそれは控えましょう。
けど、お肉を食べたい気持ちもあってすごく心が揺れ動きます。
そんな葛藤を抱えながら道を歩いていると、急に冷たい風が吹き、身体がぶるりと震えました。
雪歩「うぅ……、寒いです……」
こんなに寒いと、そう、お鍋が食べたくなりますね。
どこかにそんなお店は…………ありました。
ちょうど通りがかったお店にお鍋の文字が。
お外の看板にも『鍋始めました』と書いてあります。
通りに面した窓側の席を外から眺めると、どうやらホルモン焼きのお店みたいですが、皆お鍋を食べています。
雪歩「うん、ちょうどお鍋が食べたかったし、お肉だし、ここにしよう」
引き戸をスライドさせてお店の中に入ると、元気なお姉さんが迎えてくれました。
店員「いらっしゃいませ~! 一名様でよろしいですか?」
雪歩「あ、はい」
二人がけの席に通されて、店員さんはカウンターに戻って行きました。
いい雰囲気のお店だなぁ……。
お店の中をぐるっと見回すと、一人で来ている女性客の意外な多さに驚きます。
雪歩「よく見たら店員さんも女の人が多いなぁ。何となく選んだお店だけど、得した気分です」
ホールに出ているのは殆ど女性の店員さん、男性の店員さんは大体厨房にいるみたいです。
一息ついたところでメニューに目を通します。
と言っても食べたいものは決まっているのですが、しかしここで予期せぬ出来事が。
雪歩「お鍋だけでも3種類あるんだ……。どれにするか迷いますぅ」
そう、バリエーションがあったんです。
メニューによると塩モツ鍋、見るからに辛そうな赤モツ鍋、そしてすき焼き風のモツ鍋。
どれも美味しそうだけど、辛いのはちょっと試す勇気がありません。
なので普通の塩かすき焼き風になるのですが……。
雪歩「うぅ~、どっちも美味しそうで選べないですぅ」
仕方ないので、どちらにしようかなで決めました。
その結果。
雪歩「すみませぇん」
店員「はい、ご注文お決まりでしょうか?」
雪歩「えっと、このお鍋のすき焼き風を一つと烏龍茶をください」
店員「すき焼き風が一人前と烏龍茶ですね、かしこまりました!」
厨房に向かってオーダーを元気よく通す店員さん。
活気があっていいお店ですね。
しばらく待っているとお茶とお鍋が運ばれてきました。
――――――現在
という訳なんです。
振り返っていたら丁度お野菜もお肉もいい具合になったみたいです。
ホントのすき焼きみたいに卵に付けて食べるようなので、まずはキャベツから付けていただきましょう。
割り箸を二つに割り、両手の親指と人差し指の間に挟みます。
雪歩「いただきます。あむっ……うんっ、柔らかさと甘さがあって、でもシャキッとした歯ごたえがちゃんと残ってます」
すき焼きの甘じょっぱいタレに、卵の味が合わさって、そこに野菜の歯ごたえが重なります。
雪歩「さて、お次はメインのホルモンですよ~」
そういえば中学の時に理科の先生が、ホルモンは昔が捨てていた部位で。
捨てる=放る
って言われてたから「放る物」って事でホルモンっていう名前になったって言ってたけど本当なのかな?
プロデューサーだったら知ってるかな……?
後で聞いてみましょう。
お箸でホルモンを一つつまみ、卵の海でさっとひと泳ぎさせてあげます。
泳ぎ終えたホルモンは、卵でてらてらと輝いてとっても美味しそうですね。
雪歩「いただきますぅ~。あむっ……んっ! ん~~!」
プリッとした食感に、噛めば噛むほどスープの味が染み出し、飲み込み時が分からずいつまでも噛んでいられる幸せがお口の中で交じり合っています。
まだ飲み込めずにいる中で次のホルモンにお箸を伸ばし掴みます。
掴んだのはハチノスでした。
同じように卵に付けてお口に運ぶと、ふんわりとした食感、しかしぐにぐにと、そして煮こまれて染み込んだスープのお味が喧嘩すること無く広がっています。
雪歩「はむ……っ……んふ~……んぐんぐ……」
飲み込むのが勿体無いようなそんな気持ちになりましたが、喉を通ってお腹の中に滑り込ませました。
雪歩「あ~、これは……」
ふとメニューを開き、あるものがあるか確認します。
うん、あった。
雪歩「すみませぇん」
近くを通りがかった店員さんに声をかけて追加注文。
雪歩「えっと、白いご飯を一つお願いします」
店員「ライスがお一つですね、かしこまりました」
厨房へ入っていく店員さんを見送ってから、烏龍茶で一度リセットします。
早く来ないかなぁ、焼き肉じゃないけどやっぱり白いご飯だよね。
ご飯が来るまでにお野菜とモツをいっしょに食べましょう。
雪歩「はむっ……はぅ~……ニラの苦味がたまりません」
スープと野菜とモツ、ともすれば甘さが勝ちすぎる中で全体をすっごく引き締めてくれる存在です。
店員「ライスお待たせしました~」
来た来た、来ましたよ。
お礼を言って受けとると、早速ホルモンを卵に潜らせて、白米の山で一度バウンドさせてからお口へ。
そしてタレと卵のかかったご飯をお口へ運びます。
雪歩「あぐっ……はむっ……ん~、ほれでひゅ~!」
いかにもホルモンって感じのホルモンと一緒にご飯がお口の中で、まるでダンスを踊っているような、いつまでも食べていたいような、そんな幸福感に包まれました。
ご飯が来た事で、元々早足だったお箸の動きは駆け足となり、気がつけばご飯は一つまみ、お鍋の中にはハチノスがひと欠片となっています。
その最後の喜びを、文字通り噛み締めながら無事に完食しました。
雪歩「はぁ~、ごちそうさまでした~」
両手を合わせてからそう呟いて、ほとんど手をつけていなかった烏龍茶で口の中をスッキリさせます。
やっぱりお肉って良いですね。
スープと卵の海の力で、もりもり力が湧いてくるような、さしずめ私が人間水力発電所になった気分です。
さて、美味しいご飯を食べた後はお会計をしましょう。
伝票を掴んでカウンターに向かいます。
店員「3150円です」
少しお高い気もしますが、その値段に見合う美味しさでした。
雪歩「とっても美味しかったですぅ~。ごちそうさまでした」
店員「ありがとうございました!」
お金を払ってお礼を言ったあと、ドアを開けて外に出ると、外はもう真っ暗で、もうすぐ冬なんだと実感させられます。
暖かいお鍋のお陰で、私の心も身体もぽかぽかになりました。
とってもいいお店だったので、今度は真ちゃんも誘って来ようかな?
お腹いっぱい幸せいっぱいで、明日の稽古も頑張れそうです!
おしまい
終わりです。
先日もつ鍋を食べたので書いてみました。
少しでもお腹を空かせられたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。
乙です。
自分はモツとか苦手ですが、とても美味しそうだと感じました。
乙~
だがメシテロは許さん
腹が減ったぞどうしてくれる!おつ!!
乙
うぉん
雪歩はまるで
分かってはいたはずなのに文句言いたくなる良いスレだった
近いうちにモツ鍋食いに行こう
うまそう、でも田舎だからなんもないわ
乙
乙飯テロこの野郎
でもニラも結構気を付けなきゃだぞ雪歩
CMの後は
フラット千早!
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