【ラブライブ】エキスパートにこちゃん探偵 (127)

エキスパートにこちゃん探偵とは、エキスパートなにこちゃんの探偵である。

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えっとぉ、にこの名前はぁ……

あっ!もうにこって言っちゃった!私ったらおドジさんっ。てへ。

仕切り直して……にっこにっこにー!あなたのハートににこにこにー。みんなに笑顔届ける矢澤にこニコ~!にこにーって覚えてラブにこ!



これはあくまで、私の仮の姿である。

ごきげんよう諸君。改めまして私の名前は矢澤にこ。よろしく。

副業に宇宙No.1アイドルをしながら探偵を生業としている。

これまで様々な難事件を解決してきた名探偵だ。

ふむ。信じられない?では実際にみていただくのが早いかな。

百聞は一見にしかず。

この名探偵にこの事件簿を少しばかり巡ってみるニコ。

【ホットドッグ殺人事件】



ある、とても天気のいい日のことだった。

私たちはいつものように屋上で歌やダンスのレッスンをしていた。

りん「た、助けて!」

するとドタバタと遅れて星空凛がやってきた。

酷く息を切らしながら、かの有名なセリフを吐く。

りん「だれかたすけて!!!」

しかし本来そのセリフを言うべき人間は星空凛ではない。

にこ「二人が遅いから、先に始めてたわよ。花陽は?」

凛「た、大変なんだよ……」

尋常ではない様子だった。まさか、花陽の身に何かあったのだろうか?

凛「か、かよちんが……かよちんが……と、とにかく部室にみんな……」

凛の言葉からただ事ではないことがわかったので、私たちはレッスンを中断し、全員で部室に向かった。

その間も、凛は青ざめた表情で小刻みに震えながら一言も発することはなかった。

私の脳裏に、ある最悪の事態がよぎる。

部室に着き、高坂穂乃果がドアに手をかけた。

ガラっ。

ほのか「えっ……?」

ことり「きゃああああああ!!!」

南ことりの悲鳴が響きわたる。

……そこには、変わり果てた小泉花陽の姿が。

床を赤く染め上げ、横たわっていた。

まき「そ、そんな……花陽!!!」

西木野真姫が花陽に近づこうとする。

にこ「近づかないで!!!触れちゃダメ!!!」

真姫「びくっ」

にこ「このまま、誰も部室に入ってはいけないわ。現場を荒らさないようにね」

うみ「し、しかしにこ」

園田海未が私に問いかける。

しかしにこ、このままでは花陽が、と。

にこ「ええ、だから私以外入っちゃダメよ」

のぞみ「にこっち……」

えり「わかったわ。ここはにこに任せましょう。」

現場検証。

今回のケースは至ってシンプルだ。

素人でも概要は概ね検討がつく。

凶器はこの机に乱暴に置いてあるホットドッグとみてまず間違いない。

このホットドッグで正面から一突き。

この大量のケチャップからみて、おそらく死因は失血死。

しかしこれほどケチャップが飛び散るほど……

怨恨の線が強いかもしれない。

そして置き去りにされた凶器。犯人は相当焦ったのだろう。証拠隠滅も図らずその場から去っている。

突発的な犯行と考えるべきだ。

なにより……荒らされた形跡も、争った形跡も見られない。

こんな状態で正面からホットドッグを持って近寄っても警戒されないとなれば、顔見知りの犯行の可能性が高い。

つまり、このμ'sの中にいる可能性が高いのだ。

小泉花陽をコロした犯人が……!

※かよちんはホットドックで刺されてコロされていまいましたが、死んでいません。誰も傷つかない優しい世界です。

読みゃわかるッつーの

優しい世界って単語見る度に笑う

にこ「とまあこんな感じね」

えり「そんな!私たちの中に犯人が!?」

一同がどよめく。当然だ。

昨日まで共に過ごしてきた仲間が突然コロされ、その犯人もまたその仲間内にいるかもしれないとなれば……


りん「うあああ!!!そんなあああいやだよ!!!うっ、かよちん……」

まき「でも待って、私たちは全員屋上にいたでしょう?犯行は不可能よ!」

のぞみ「一人を除いて、やね」

りん「え、な、なに?」

うみ「確かに。状況証拠だけで語れば凛は限りなく怪しいです」

ほのか「ま、まってよみんな!凛ちゃんがそんなことするわけ……」

うみ「あなたは全員にそう言うつもりですか?ほぼ間違いなくこの中に犯人がいるんですよ」

にこ「みんな落ち着いて。穂乃果は正しくわ。

確かにこの場合第一発見者の凛には犯行が可能だけど、それだけで決めつけるのはダメ。

いくらでもやりようはある。全員が容疑者よ」

ほのか「そうだよ!なんかトリックでアリバイをつくるとか何とか、よくドラマとかでみるし」

えり「じゃあ誰が?」

にこ「うむ……。外傷は二箇所。どちらも腹部ね。そして凶器のホットドッグ」

のぞみ「一度刺して、抜いてもう一度刺したってこと?」

にこ「私も初めはそう思った。

でも凶器のホットドッグを調べてみたんだけど、どう考えても二度も刺したようには見えない。

先端から中部にかけて崩れているんだけど、普通二度も刺したらこんなんじゃ済まない。

もっとぐっちゃぐちゃに潰れてるはず」

まき「確かに、力いっぱい壁にぶつけるようなものだものね、それを二度繰り返してホットドッグが原型を留めているなんて考えにくい」

にこ「さらに、ガイシャの傷口からは、一方はマスタードが検出されたけど、もう一方はそれがない」

りん「凶器のホットドッグにはマスタードがついているね」

のぞみ「これで傷口にマスタードか残らないなんて妙やね」

にこ「そう。これらから導き出される答えは……

おそらく隠されたもう一つの凶器がある」

まき「おかしいわ!さっき犯人は証拠隠滅をする余裕がなかったって言ったじゃない。

それに片方の凶器は処分して、もう片方は放置ってどういうことよ」

ふむ


パーフェクトまきちゃんメモの人かな?

凶器のホットドッグで笑う

えり「理由は何にせよ、つまり犯人はまだもう片方の凶器を持っているかもしれないんじゃない?時間的に隠すのは難しいわ」

にこ「そう。犯行時刻は私たちが部室から出て行ってから凛が来るまでの間。

ここでアリバイってやつの確認でもしてみましょうか。

まず最初に屋上にいたのは私よ」

のぞみ「だからエリちはにこっちに現場検証を任せたんやね」

うみ「次は私たち二年生です。部室に大きな変化はありませんでした」

ことり「そういえば、屋上へ向かう途中穂乃果ちゃんがト……お手洗いに行くって言うから

私と海未ちゃんで先に行ったんだよ。気になる点はそこくらいかな」

まき「次が私。二人が遅れるってから一人で来たのよ、でも部室は覗いてないわ。

私は屋上で着替えちゃうから」

えり「で、私と希ね。生徒会室寄ってからだから遅くなったわ、でもそこで着替えちゃったもんで、実は部室には行ってないの」


にこ「じゃあ二年生以降更衣室には誰も……」

うみ「なるほど。これなら確かに全員に容疑がかかります。

ところで二人はどうして遅れたのですか?」

りん「ずっと気になってたんだけど、遅れたのは凛だけのはずなんだ。

二人でアルパカに餌をやりに行ったんだけど、かよちんがどうしても用があるっているから、凛一人で餌をあげて、かよちんは先に行っちゃったんだ」

にこ「用が?」

りん「うん、内容は教えてくれなかったけど」

にこ「……そのとき、犯人にあっていた可能性が高いわね」

えり「それが事実ならね」

りん「凛は嘘ついてないよ!」



なるほど。話によると花陽が凛と別れたのがおおよそ二年生が部室に行った時間と同じ。

花陽の用事がなんだったにせよ、……ますます誰でも犯行が可能なわけだ。

ことり「花陽ちゃんの用事ってなんだったんだろう……」

にこ「犯人に呼び出されていて、そこで……と考えるのが自然かもね」

にこ「ところでねえ、穂乃果。この凶器のホットドックについてなんだけど」

ほのか「え!?なんで私に聞くの……?」

にこ「いや、パンといえばあなたが詳しいかと」

ほのか「なんだ……疑われてるのかと思った」

にこ「まあ、疑ってないわけでもないけど。全員ね」

ほのか「それは、購買で売ってるホットドックだね」

にこ「ふむ、つまり凶器の調達は容易なわけね……

もしかして、マスタード付きと無しのがあるんじゃ?」

ほのか「うん。そうだよ。私はマスタードは好きじゃないけど」

にこ「聞いてないわ。……さてじゃあ私は購買に聞き込みにいってみるけど。

付いてくる人はいる?」

ほのか「私はお腹いっぱいだからいいや」

まき「別に食べ物買いに行くんじゃないでしょ」

うみ「珍しいですね。穂乃果がお腹いっぱいなんて」

ほのか「……。流石にこんなことになっちゃって空腹どころじゃないよ」

ことり「その調子でダイエットできるといいね!」

ほのか「うん……花陽ちゃんと一緒にダイエット中だったのに、こんなことになっちゃうなんて……」

りん「穂乃果ちゃん……お願いだよ…あまりかよちんの分まで痩せて」

ほのか「うん!約束する。私花陽ちゃんの分まで精一杯痩せるよ……!」

結局購買への聞き込みは私一人で行くことになった。

みんなすっかり気が滅入っているようだったので、解散となったからだ。

私のように図太く、強靭なメンタルを持っていないと探偵は務まらないニコ。

にこ「こんにちは」

店員「あら、いらっしゃい」

にこ「聞きたいことがあるんですけど」

店員「あら、どうしたの?」

にこ「このホットドック、今日買っていった人います?」

店員「大勢いるわよ」

にこ「えっと、じゃあ放課後になってからでは?」

店員「それにしたって全員覚えちゃいないけど……そうね。

あんたんとこの花陽ちゃん?だっけ?あの子も買っていったわよ」

にこ「え……!?それは本当?」

店員「ええ。私だって生徒みんな覚えてるわけじゃないけど……

なにせスクールアイドルのμ’sのメンバーだからね、見間違えはしないよ」

にこ「このホットドックを買っていったの?」

店員「ええ、マスタード入りと無し。一つずつ」

にこ「他にμ’sのメンバーはこなかった?」

店員「おかしなこと聞くね。来てないよ」

にこ「……そう。ありがとう」

私はホットドック(マスタード抜き)を一つ買い、購買を後にした。

……しかし、これは一体……?

凶器のホットドックはどうやら、被害者の花陽自身が用意したものらしい。

そして消えたもうひとつの凶器のホットドック(マスタード抜き)……。

同じものを頬張りながら私は考える。

一体、私たちがいない間部室で何があったのか……。



とりあえず部室に戻ってみる。

りん「あ……にこちゃん」

にこ「凛、まだいたの」

りん「うん……かよちんが、ひとりじゃ寂しいかなあ、って」

にこ「凛……」

りん「ねえ、にこちゃん……わた、凛……犯人を許せないよ。

どうしてこんなことしたの?って聞かなきゃ気がすまないよ。

……にこちゃん、必ず犯人を捕まえて。

かよちんの無念を晴らして……!」

にこ「……ええ。必ず犯人を暴いてみせる。私の全身全霊を持ってね」

りん「ありがとう……」

凛は仏に手を合わせると、部室を後にした。

死んでないのに仏になっちゃったのかよww

にこ「はあ……あんなこと言っちゃったけど……」

指についたケチャップを舐めながらポツリと呟く。

にこ「……ねえ花陽、あなたは犯人の断罪を望む?だって、優しいあなただもの」

はなよ「……」

口元をみてみるが、もちろん動くはずもない。

どうでもいいけど、口元にはご飯粒が。さっきは気がつかなかった。

とにかく、死人にクチナシ。だから私のような存在が必要なんだ。

しかしこれはまた、非常に難しい問題だ。

事件の話ではない。

生者は、殺人者が罪を償うのを求める。

しかし死者が本当にそれを望んでいるかは……知りようがない。

犯人はプライバシーが守られ、被害者は実名で何から何まで報道される。

そんな世の中だ。死者の人権など、クチだけに過ぎないのだ。

……いや、死人にはクチすらない。

所詮私も、被害者のためではなく、「残された者」とやらの意思しかくみ取れない。

ならばせめて、被害者の生前の意思くらいは解き明かしてあげたいものだ。

しかし、それはときに残酷な真実をも解き明かしてしまう。



……まさか、あなたが犯人だったとはね。_____。

翌日。

えり「どうしたの?にこ、急に部室に呼び出して」

にこ「……」

えり「にこ?」

にこ「全てわかったわ」

のぞみ「まさか、犯人が!?」

にこ「ええ。犯人は……」

うみ「ゴクリ……」

にこ「この中にいる」

まき「知ってるわ」

にこ「さてでは一つずつ解き明かしていきましょう。

まず、花陽の腹部に二箇所の刺し傷。これが直接の死因ね。

凶器はホットドック。凛!」

りん「はいにゃ。これが現場に残された凶器だよ」

にこ「このホットドックにはケチャップがたっぷりついているわ。

そして、マスタードも」

うみ「それはもう聞いています」

にこ「まあまあ、順を追って説明させてよ。

そしてこの刺し傷。片方にはマスタードがいっさい付着していません」

えり「それで凶器は二つあったってわかったのよね。

消えた凶器はどう説明してくれるのかしら」

にこ「使われた凶器と同じものがここにあるわ」

ことり「どこ?」

にこ「ここよ」

ことり「にこちゃんのお腹?」

にこ「ええ。もう食べちゃったけどね」

まき「ふざけないで」

にこ「犯人もこうやって凶器を消したのよ」

まき「!?」

にこ「そう……使われたもうひとつの凶器、マスタード抜きホットドックは……

食べることで処分されたのよ」

まき「凶器を食べて処分ですって!?正気じゃないわ」

えり「なるほど、食べて証拠隠滅するために凶器にホットドックを選んだのね」

にこ「それは違うわ」

えり「えっ」」

にこ「凶器を用意したのは……花陽自身だったの」

えり「どういうこと!?」

にこ「それは後で話すわ。まず最初に犯人は証拠隠滅する余裕がなかったって話したじゃない」

ことり「よくわからないけど、それって矛盾してる?」

にこ「犯人は証拠隠滅以外の理由でホットドック(マスタード抜き)を

食べた、とは考えられないかしら」

うみ「どういうことですか?」

にこ「それこそ、犯人の動機でもあったのよ。花陽の口元をよく見て。ご飯粒よ」



事件の全貌はこうだ。



花陽「凛ちゃん、私はちょっと用事あるから、先行ってるね」



そう言って凛にアルパカを任せて花陽が向かったのは部室。

花陽「ダイエット、大変だからちょっとくらいいいよね?」

花陽が凛に要件を伝えなかったのは、それが伝えては都合の悪いことだったから。

花陽はダイエット中にもかかわらず、定期的にみんなの目を盗んでおにぎりを食べていたの。

花陽「ああ、幸せです……もぐもぐ」

しかしその行為に後ろめたさを感じていた。そこで……

???「花陽ちゃん!みんなに秘密の用事ってなに?

ちゃんと黙ってきたよ」

花陽「あっ!_____ちゃん!」

???「え……どうしておにぎり食べてるの?」

花陽「あはは、これは」

???「ホットドックまで用意して……なんで!?

私は一生懸命ダイエットしてたのに!!!一緒に頑張ってるって思ってたのに!!!」

花陽「違うよ、_____ちゃんこれは」

???「ひどいよ!!!私たち一緒に頑張ってると思ってたのに!!!

裏切るなんて!!!」

グサッ

花陽「え……」

???「花陽ちゃんが悪いんだよ……」

バタ

???「あ、ああ私なんてこと!!!」

そ、そうだ、花陽ちゃんが悪いんだ。隠れて独り占めなんかしてるから……

私だって食べたかったのに……食べたい……食べたい」

無理なダイエットなせいね。すでに彼女は正気じゃなかった。

そして、花陽を刺すことで完全にタガが外れてしまった。

???「ムシャムシャ。パンおいしい……

こっちはマスタード入り……こっちのはいらない」

???「ふう、お腹いっぱい。そろそろお手洗いから戻らないと怪しまれちゃう!早く戻らなきゃ!」

これが、片方だけ消えた凶器の真実。

にこ「そうでしょう?穂乃果」

ほのか「……」

うみ「そんな!!!」

ことり「ほのかちゃん!!?」

ほのか「花陽ちゃんが悪いんだよ、一人でこそこそ私に黙って……」

えり「ほのか……」

ほのか「花陽ちゃんが悪いんだよ!!!

だから奪ってやった!花陽ちゃんのホットドックを!!!」

にこ「違うわ穂乃果」

ほのか「何が!!!」

にこ「あのホットドックは、もともとあなたの分だったのよ」

ほのか「そんないいがかり……!」

にこ「購買の店員さんが言っていたのよ。花陽は普段はおにぎりだけで、パンは絶対買わないって。

……誰かの分でもない限りはね。

花陽が、わざわざダイエット仲間を呼びつけて目の前で美味しそうに食べるのを見せつけるなんてするはずないじゃない……バカね」



ほのか「そ、そんな……私、なんてこと……わあああああああん」

これが「ホットドック殺人事件」の真相だ。

ここあ「探偵にこにーすげー!」

こころ「そのあと、穂乃果さんはどうなったんですか?」

にこ「えり刑事に連れて行かれたわ。遺族の凛もあまり咎めるつもりはないみたい」

こころ「ホットドックは恐ろしいですね」

にこ「そうね。でもホットドックに罪はないの。好き嫌いしないで食べるのよ」

ここあ「じゃあ誰が悪いの?穂乃果?」

にこ「さあ。もしかしたら、悪い人なんていないのかも」

ここあ「じゃあなんでそんな事件が起こるのさ」

にこ「花陽が穂乃果の為にパンを用意したことが発端ね」

こころ「それでは、被害者の花陽さんが悪いみたいです」

にこ「善意が常に最良の結果をもたらすとは限らないのよ。

後ろめたさなんて感じず、一人で隠れて食べ続けているべきだった」

ここあ「それこそよくないことじゃないの?」

にこ「よくないことってとのはね、最後までやりきらなきゃいけないの。

途中で良心が揺らぐようじゃダメなの。

つまるところ、花陽には悪行の才能がなかったのよ。

善意で用意したホットドックに刺される。皮肉なものね。

花陽は自分自身の良心にコロされてしまった」

こころ「難しいです」

にこ「そうね。わからなくていいわ。あなたたちは純粋だもの。

純粋ないい子たちには刺激の強いお話をしてしまったわね。

次はもっとおもしろい事件のお話をしましょう」

【伝説のスクミズ捜査線】


はなよ「カタカタ」

のぞみ「なに調べてるん?」

はなよ「あ、のぞみちゃん!えと、都市伝説って知ってる?」

のぞみ「そんなスピリチュアル、ウチが知らないわけないやん」

はなよ「この音ノ木坂にもいくつかあってね、その一つについて調べてたんだ」

のぞみ「どれどれ」

にこ「おはにこー」

のぞみ「おはにこー」

はなよ「おはにこー」

にこ「二人して何してるの?」

のぞみ「にこっち!都市伝説って知ってる?」

にこ「はあ、聞いたことくらいあるけど」

のぞみ「今度、ウチと花陽ちゃんで真実を解明しようって話してん!」

はなよ「ええ!?いつの間にそんな話になってたの!?」

にこ「へえ、それはおもしろそうね。私はパス」

のぞみ「なんや、興味なさそう。ぜひ名探偵にこっちの力が借りたかったのに」

にこ「しょーがないわねー!!!」



こうして私たちはオトノキ都市伝説について調べることになった。

おもしい

にこ「で、何を調べるの?」

はなよ「私のイチオシはこれです!!!」

のぞみ「なになに?伝説のスクミズ……はなよちゃん、意外」

はなよ「ご、誤解です!よく読んで!!!」

とある情報によると、その「伝説のスクミズ」を使うと大層おいしいお米が炊けるらしい。

にこ「なるほど。どこに関連があるのかさっぱりね」

のぞみ「エプロンの代わりにそれをきて料理するとか?」

はなよ「なんにせよ、おいしいご飯が炊けるとあっちゃあこの白米ハンターはなよが黙っていません」

のぞみ「このミステリーハンターのぞみんも黙っていません!」

にこ「じゃあ決まりね。伝説のスクミズを探しましょう」



花陽と希から捜査協力の依頼を受けた私は、伝説のスクミズについての情報や、関係のありそうな噂なんかを集めることにした。

えり「ご飯がおいしく炊けるアイテム?そうね……よく炭と一緒に炊いたりしない?」



ほのか「ご飯がおいしくなる……?うーんちょっとわからないや」



うみ「練習中になんですか?」

にこ「伝説のスクミズについて聞いてるんだけど」

うみ「伝説のすくみず!?そんなもの知りません!破廉恥です」

にこ「そうよね……しかし美味しそうに水を飲むわね」

うみ「練習後の一杯は格別です。ぷはー

これ、富士山の雪解け水なんです。セーブウォーターって商品なんですけど……

たかが水と侮ってはいけません。人体の60%は水分なんですから、

そこはやはり良質なものにこだわるべきです。

水道水と飲み比べてみればわかると思います。さあにこ!ぜひ一口どうぞ!」

にこ「いや……私は伝説の……」

うみ「遠慮はいりません!私とあなたの仲ではないですか。

同じ釜の飯を食べる仲間同士、よいと思ったものは共有するべきです。

穂乃果とことりにはあまり違いがわかってもらえませんでしたが、

にこならきっとその違いがわかるはず!!!」

にこ「おう……いや……あんたって凝り性よね……」

園田海未はわけのわからないタイミングでスイッチが入る。

暴走が始まった海未はこの私には手に負えない。

すっかり饒舌になって水分の重要性について話し始めてしまったため、聞き込みは断念した。

この情熱こそ、彼女の原動力であり、底知れぬ力の根源なのだろう。

時折垣間見るその力の根源に、私は度々恐怖する。

ちなみに、セーブウォーター(富士山の雪解け水)はとてもおいしかった。



りん「お米がおいしくなるスクミズ?かよちんが知らないなら知らないにゃ」



まき「伝説のスクミズ?なにそれいみわかんない」



ことり「そういえば、救水(きゅうすい)っていうとってもおいしくお米が炊ける魔法のアイテムがあるって聞いたことがあるよ」




ここに来てことりから有力な情報を得る。

・・・・・

にこ「ただにこー」

はなよ「おかにこー」

のぞみ「おかにこー」

はなよ「どうだった?」

にこ「あー、まあいくつか情報はあるようなないような」

のぞみ「じゃあウチと花陽ちゃんから」

はなよ「なんでも、ご飯がおいしく炊けるアイテムSWなるものが存在しているようです」

のぞみ「きっと伝説のスクミズとなにか関係があるはずや!とカードが申しています」

にこ「へえ、私も救水ってのを使うとご飯がおいしくなるって聞いたわ」

のぞみ「……」

はなよ「……」

にこ「……調べるもの増えちゃってるじゃない!!!」

のぞみ「伝説のスクミズに、SW、救水か……」

はなよ「わかりました!」

にこ「えっ!?」

この名探偵にこちゃんより早く謎が解けたと……?

はなよ「SW、これは誤字だったんです!」

のぞみ「えー、なんやってー」

はなよ「これはSMのことです!!!」

のぞみ「えっ……花陽ちゃん、意外」

はなよ「誤解です!SM……つまりスクール水着の略です!」

のぞみ「おおー!」

はなよ「つまり、伝説のスクミズとSWは同一の存在だったんです!」

のぞみ「なるほどー」

はなよ「伝説のSMということです!!!」

にこ「なんか字面のヤバさが増したわね……」

引き続き私たちは「伝説のスクミズ」もとい「伝説のSM」の調査を続けた。



……本当に私たちが探しているのは「伝説のSM」なんだろうか。



のぞみ「むむ~」

はなよ「ど、どう?」

のぞみ「出ました!」

はなよ「なんて!?」

のぞみ「全ての謎の鍵を握ってるのは海未ちゃんや!」

にこ「海未が……?」

はなよ「わかりました!」

にこ「また!?」

はなよ「SMの頭文字の意味がわかりました!」

にこ「むむむ……花陽、あなたやるわね。私の助手にしてあげてもいいわよ」

はなよ「本当ですか!?嬉しいなあ!……では、コホン」

にこ「もったいぶらないで早く教えてよ」

はなよ「S(そのだう)M(み)」

にこ「ん?」

はなよ「SMは園田海未のことだったんです」

のぞみ「なんちゅうこっちゃー」

はなよ「つまり……伝説の園田海未ちゃんがつくるお米はおいしい!!!

これが今回の謎の真実です」

にこ「いや、SMの段階で言おうか迷ってたけど何一つ根拠がないじゃない。

ていうか園田海未の頭文字はSUでしょ」

はなよ「じゃあなんで海未ちゃんがキーマン……キーウーマンなんですか!」

にこ「それもただの占いじゃない!」

のぞみ「ただの占い!?にこっち!聞き捨てならないなー」

にこ「はい。ごめんなさい。わしわしはやめてください」

のぞみ「わしわし~!!!」

にこ「ああああああああああああ」



伝説のスクミズ、SW(SM?)、救水、キーウーマン園田海未……

謎は深まるばかりだ。



・・・・・

うみ「こら!穂乃果!!!またそんなにお菓子を食べて」

ほのか「うわあ!ごめんなさい!!!」

うみ「食べ続けながら謝って許されると思いますか!!!」

ほのか「ぶー、だって……」

うみ「だってもへったくれもありません!!!今すぐ吐きなさい!」

ほのか「いや……口に入ってる分は流石に……たすけてことりちゃーん」

ことり「まあまあ海未ちゃん。今噛んでる分は見逃してあげようよ」

うみ「ことりは甘い!そうやって甘やかすから」

ほのか「だから、流石に今口に入ってる分まで出させるのはおかしいって」

ことり「お菓子だけに?」

ほのか「おおっ!やるねことりちゃん!ヒューヒュー」

うみ「言ったのはあなたでしょう!!!」

ほのか「ひえー」

はなよ「もしやあれが伝説のSM……」

にこ「いやアレは違うでしょ……」

うみ「今すぐ吐きなさい!」

ほのか「もう飲んじゃったよー」

うみ「待ちなさい!穂乃果!!!」

ほのか「ごめんなさい~もう食べないから」

うみ「今度ばかりは許しません!!!」

ほのか「にげろー!」

うみ「まちなさーい!」

のぞみ「いっちゃったけど、いいの?」

にこ「しまった!重要参考人キーウーマン園田が逃走!!!」

はなよ「追います!」

にこ「待て!新米が無茶するな!本部からの応援を待て!!!」

はなよ「新米が一番おいしいんです!!!」

にこ「わけがわからない!!!待て!!!」

のぞみ「追跡は花陽ちゃんに任せよう、にこっち。ウチらは先回りや」



やってしまってから気がついた。これは全然探偵っぽくない。

どちらかといえば、警察っぽい。



はなよ「こちら花陽。目標は理科準備室前の廊下を北上中」

のぞみ「了解。次の道を右に誘い込め」

はなよ「了解。まてー!海未ちゃん!!」

うみ「穂乃果を追いかけていたはずなのにどうして花陽に追われているんですか……?」

にこ「そこまでだ!キーウーマン園田!!!」

うみ「にこ!?どうして……どいてください!」

にこ「ふっふっふ、観念するニコ……」

えり「廊下は走っちゃいけません」

にこ「げっ!絵里!」

うみ「え、絵里……違うんですこれは」

えり「言い訳無用」

のぞみ「そうやそうや」

にこ「希!あんたさっきまで一緒に」

のぞみ「なんのこと?」

えり「校内で鬼ごっこなんて……おとなしくついてきなさい」

私たちは取調室に連行された。



取調室(生徒会室)

のぞみ「じゃあ、ウチがしっかり言い聞かせておくから」

えり「悪いわね。お言葉に甘えてお先に失礼するわ」

うみ「……」

にこ「……」

はなよ「……」

のぞみ「さて」

にこ「裏切ったわねのぞみ」

のぞみ「誤解やて。これで見事に海未ちゃんの捕獲に成功したでしょ」

はなよ「これが狙いだったんだ!」

うみ「どういう意味ですか?」

にこ「なるほど。さて、では重要参考人キーウーマン園田海未」

のぞみ「長い」

にこ「ではJK園田」

のぞみ「いかがわしい」

にこ「……では海未」

うみ「なんなんですか」

にこ「あなたには伝説のスクミズについて話してもらう」

はなよ「JK園田の伝説のスクミズ……」

うみ「そんなもの知りません」

にこ「では救水、SWこのいずれかに聞き覚えは?」

うみ「……!!」

にこ「えっ?何その反応……まさか本当にあるの?」

のぞみの占いが当たってしまっていたようだ。海未は静かに口を割った。



うみ「ふ、ふふ。にこ。あなたともあろう人が、気づいていないんですか?」

にこ「どういうこと!?」

うみ「あはははは!あなたはすでに知っているはずですよ!」



猟奇的な、それでいて乾いた笑いが取調室(生徒会室)に響き渡る。

JK園田が本性を現したのだ。



うみ「SWも、救水も、あなたは既に口にしたことがあるじゃないですか!

ふふ、自分で気が付いていないんですね」

にこ「ま、まさか」

うみ「S(セーブ)W(ウォーター)と言えばもうおわかりでしょうか」

にこ「あのときの……富士山の雪解け水」



SWとは、セーブウォーターの頭文字だったのだ。

SMとか、S(そのだう)M(み)とかはまったく関係なかった。

花陽は助手降格だ。新米め。

にこ「なるほど……セーブウォーターを直訳して、救水。ってわけね」

うみ「そのとおりです。その噂を流したのは私ですよ」

にこ「なぜそんなこと……」

うみ「言ったでしょう。よいものを共有したいと。

なのにあなた含めみんなこの水の大切さというものに気がついてくれない。

そこで都市伝説を利用したんです。まったく人間とは愚かなもので。

私がいくら説いても振り向きもしなかったのに、急に食いついてきましたよ。

ミーハーさん達ですね。そんなんだからメディアの情報操作に踊らされるんですよ」

にこ「そんな……」

うみ「名探偵のあなたならもう十分ですよね?そう」

にこ「……伝説のスクミズとは、セーブウォーターのことね」

うみ「救う水と書いてセーブウォーターですからね」

にこ「どうしてそんなにしてまで……」

うみ「所詮個人の力なんてしれたもの。

こうして情報操作をしなければ、まともに発信することもできないんですよ。

現にあなたたちはいとも容易くひっかかった」

にこ「私はそんなものに踊らされたりしないわ。情報は自分で判断する」

うみ「負け犬の遠吠えですね。なんの説得力もありません」

のぞみ「いや、事実だよ。海未ちゃん。にこっちは都市伝説になんか興味がなかった。

ウチらが無理に協力をお願いしたんよ」

うみ「……そうだとしても、私の言うことより都市伝説のほうが影響力があるのは確かです」

にこ「そんな悲しいこと言わないで、海未」

そう言って私はバッグから、ペットボトルを取り出した。

うみ「それは……」

にこ「セーブウォーターよ。あなたに飲ませてもらってから気に入っちゃってね。

箱買いしてうちにたくさんあるわ」

うみ「にこ……」

にこ「私は都市伝説なんかじゃなくて、あなたの……仲間の言葉のを信じるわ。

同じ釜の飯を食べる仲間のね。

それにね、あなたは非力なんかじゃない。いっつも私たち、あなたの凄まじい底知れぬパワーに圧倒されっぱなしよ」

うみ「そうですか……私の声は……届いていたんですか……」



・・・・・

りん「どうして急にバーベキューなんてすることになったの?」

まき「さあ。でも花陽きってのご要望だそうよ」

はなよ「みんなー!ご飯炊けたよー!」

ほのか「うーわあああ!つっやつや!いいお米だね!」

はなよ「はい!新米ですから!それに……」

にこ「ええ!伝説のスクミズを使って炊いたからね!」

のぞみ「お肉も焼けたよー!」

えり「ハラショー!お肉もさることながら、このライス凄まじくおいしいわ!」

ことり「本当だあ!もちもちふわふわ……幸せ~」

うみ「当然です!いいですかみんな、このお米を炊いたセーブウォーターというのは……」

みんなでおいしくBBQ。

しかしこの日一番評判がよかったのは、ただの白いご飯だ。

……よかったわね。海未。

これが「伝説のスクミズ捜査線」の真相だ。



ここあ「伝説のスクミズすげー!」

こころ「それでうちにはいっぱいあるんですね!」

にこ「ええ。そうよ。教えてくれた海未に感謝しなさい」

ここあ「うん!」

こころ「はい!」

にこ「いい?変な情報なんかより、友達の話に耳を傾けること。

この情報社会で必要なのは情報リテラシーよ。覚えておきなさい」

ここあ「じょうほうりて……?」

にこ「正しい情報を判断する力のこと。メディアリテラシーともいうわね」

こころ「心得ておきます」

にこ「まあ、わけわからん情報に乗っかるのが楽しいってものわかるんだけどね。

結果的に、今回の都市伝説はあながち間違いでもなかったし」

ここあ「もっと話してよ!エキスパートにこちゃん探偵の事件簿!」

にこ「しょうがないわねー!!!

じゃあ次はファイルナンバー3のお話よ」

【怪盗ペリメニからの挑戦状】



ポストに、一通の妙なお手紙が入っていた。

もう、見るからに怪しくて、「今すぐ開けろ!」ってオーラが漂ってたんだけど……

本当に手紙、あるいはその書き手が早く読んでほしそうにウズウズしてる感じが伝わってきたんだけど……

残念ながら私はその日は寝坊してしまっていて、読む時間がなかった。許せ差出人。

という訳で、今こうして部室でそれを開いたのだ。



まき「あら、にこちゃん。そのお手紙は何?」

にこ「ファンレターよ。にこにーの魅力にとりつかれたファンからのね」

まき「へえ」

にこ「なんか言ってよ!」

まき「いや……」

にこ「ファンレターじゃないわよ!!!」

まき「自分から!?」

にこ「どうやら、この私への挑戦状みたい」

まき「そういうのいいから」

にこ「これは本当だからね!?」



名探偵にこへ

今夜、部室にあるあなたの大切なものを頂きに参上します。

いが六つ。三つがカナで三つが漢字。

怪盗より

探偵にこにーかく語りき

にこ「ね?」

まき「本当ね」

にこ「で、最後に餃子の絵が書いてあるんだけど」

まき「謎ね」

えり「それはペリメニよ」

いつの間にかみんな部室に来ていた。

ほのか「怪盗ペリメニからの挑戦状だね!」

りん「探偵対怪盗……ありがちだけど熱いね!」

うみ「頑張ってください!にこ!」

ことり「何者だろうね、その泥棒さん」

にこ「……」

えり「な、なんで私を見るのよ!」

にこ「だってペリメニよ?」

えり「安直すぎるでしょ……きっとそうやってかく乱しようとしてるのよ」

にこ「まあ正体は置いといて。私の大事なものって何かしら」

はなよ「うーん、そうですね……ここにはお宝が山ほどありますから」

そういって花陽は私(たち)のアイドルグッズコレクションを見渡す。

ことり「なにか力になれることはあるかな?」

にこ「私への挑戦状。これは私一人で戦いたいわ」

ことり「いいの……?もし盗られちゃったら……」

にこ「なーに。私の名を言ってみなさい」

えり「矢澤にこ」

にこ「違う!そこはエキスパートにこちゃん探偵でしょ!」

こうして私と怪盗ペリメニとの一騎打ちが始まった。

決戦は今夜。



・・・・・



まず、いったい何を盗もうというのか。

部室にある私の大事なもの。

そして意味ありげなメッセージ。

おそらく怪盗からのヒントだろう。いや、挑戦だろう。

「何を盗むか当ててみろ」そういうことだ。

いが六つ。三つがカナで三つが漢字。

この謎の言葉を解読できるかが勝敗をわける。はず。

いが六つ……

にこ「い、い、い、い、い、い」

全然わからん。

三つがカナ。

にこ「イ、イ、イ、い、い、い」

まだわからん。

三つが漢字。

「い」の漢字なんていくつあると思ってんのよ。

はあ……こりゃ大変だ。


・・・・・



そうして夜を迎える。

にこ「ううっ!さむ!」

のぞみ「はい、にこっち。ホットミルクはちみつ入り」

にこ「希!部室に入ったら犯人だっていったでそ!」

のぞみ「寒くて舌回ってないやん」

えり「そうよ。強がってないで飲みなさい」

にこ「私ひとりでいいっていったのに……」

えり「はいはい。すぐ出ていくから。

それにね、私たちも一応警察(生徒会)としてここを警護する義務があるのよ」

にこ「ホラ、さっさと出てった出てった」

のぞみ「はいよー。頑張ってな」

そういうと二人は部室を後にした。

ズズッ……

にこ「……」

甘くておいしい。

こういうときはよく、実はミルクの中に睡眠薬が……なんて展開もあるけど。

そんなもの我々には用意はできない。

……ではなぜ私が眠くなってしまったかというと……

ホットミルクには精神安定剤のような効果があるらしい。

あと、寒かったのがあったまると眠気が襲ってきたりするわよね……

コクッ

にこ「っは!」

危ない。寝てしまうところだった。

にこ「……」

コンコン

にこ「今度は誰よ」

えり「にこ!中に入ってもいい!?」

にこ「絵里?」

えり「さっき、ここに私がこなかった!?」

にこ「きたけど」

えり「ばっかもーん!そいつが怪盗ペリメニよ!」

にこ「はあ!?どこぞの三世じゃないんだから……」

ドアを開ける。

にこ「絵里、あんた何言ってんの?」

えり「もしかして既に盗まれちゃってるんじゃない!?」

にこ「あのねえ」

えり「とにかくきて!」

にこ「はあ」

絵里に手をひかれ連れられた先にあった光景は……

にこ「希!?」

のぞみ「う……」

えり「目を離したすきにこんなことに……

話によると私と希で部室に行ったっていうじゃない。

でも私はそんなことしてないのよ」

のぞみ「ごめん……暗くて犯人の顔は見えんかった」

にこ「……ふう」

えり「どうしよう!にこ」

にこ「浅はかだったわね。絵里」

えり「え?」

にこ「どう考えたって犯人はあな……」

パリーン!!!

にこ「え!?」

えり「……部室の方からよ」



・・・・・

・・・・・



まき「にこちゃん!」

にこ「マッキー!?」

まき「気になって部室の前まできてみたんだけど……急に中で大きな音がしたのよ!

ていうかにこちゃん部室の中にいたんじゃないの?」

にこ「わけあって出てたのよ」

部室のドアを開ける。

ゴウッ!

にこ「窓が……」

窓が、開いている。

……あれ?じゃあさっきの「パリーン」はなんだったのよ。

にこ「どうやって開け……!これは……」



探偵にこ、このお宝は頂いていく



そう書かれた置き手紙が置いてあった。

そう書かれた置き手紙が置いてあった。

にこ「……伝伝伝がなくなってる」

まき「にこちゃんの大切なものってそれだったのね」

にこ「はあ、持ってかれちゃったわね」

まき「いいの?」

にこ「いいのよ、あんなもの」

まき「はあ?あんなものって……」

えり「にこ!」

のぞみ「にこっち」

にこ「希、大丈夫なの?」

のぞみ「ウチより、伝伝伝は?」

にこ「あー、持ってかれちゃったわね」



・・・・・



翌日。

はなよ「ええー伝伝伝もってかれちゃったのお!?」

にこ「最後まで聞きなさい、じゃーん!」

りん「あれ?伝伝伝だ」

にこ「犯人からのヒントはとっくに解けていて、偽物とすり替えておいたのよ」

ほのか「ほえー!じゃあ最初から警備なんかしなくてよかったんじゃ?」

ことり「どうやってわかったの?」

にこ「簡単なことよ。いが六つ。三つがカナで三つが漢字。

イ、イ、イ、云、云、云。

伝伝伝。それだけ」

ことり「なんだあ、ただの簡単ななぞなぞだったんだね」

えり「じゃあこの勝負はにこの勝ち?」

にこ「いいえ。犯人を捕まえられなかったし、引き分けね」

のぞみ「なんや、律儀やな」



……それに、はっきりしていないトリックもある。

いや、実はそれを説明する仮設はあるんだけど……

仮説に過ぎないので今は胸に留めておくとしよう。

謎は残ってしまったが、ひとまず、この事件はここまで。



・・・・・



ここあ「怪盗ペリメニすげー!」

こころ「入口のドアの近くには真姫さんがいたってことですよね?

そして外からは開かないはずの窓が開いていた……

しかも絵里さんに変装し、希さんを倒した。

そんなことが可能なんでしょうか?」

にこ「そうね。伝伝伝は盗られずに済んだけど、多くの謎が残った事件だわ」

ここあ「くっそー!すっきりしない!」

私としてもすっきりしていない訳だけど……

近いうちにこの「怪盗ペリメニ」とは再戦することになる。

こころ「怪盗ペリメニ……何者なんでしょう?」

にこ「ふふ、さあね。じゃあもうそろそろ……」

ここあ「えー!待って、もうちょっと。もうちょっとだけお話してよ」

にこ「んんー……?じゃあ、もうちょっとだけね」

【闇鍋パーティ殺人事件】



ときに不幸とは重なるものだ。

それはもしかしたらスピリチュアルなパワーのせいかもしれないし、

単に間が悪かっただけかもしれない。

まあ理由はなんにせよ、ときどきそういう不幸の連鎖ってやつは訪れる。

えり「ちょっと足首をくじいちゃったのよ」

にこ「もっと自分を大事にしなさいよ!練習はどうするの?」

えり「しばらくは見学ね……ごめんなさい」

にこ「ったく、さっさと直してよね」

のぞみ「おはようさん」

にこ「希!聞いてよ絵里が……って」

のぞみ「いやー、膝を強くぶつけてしもたん」

にこ「あんたもなの……」

のぞみ「ウチもしばらく激しい動きは無理そう。ごめん」

その日は朝から不吉だった。

放課後になって部室にいくと……

にこ「はあ!?あんたたちなんなのよ!?」

ほのか「いやー、ちょっと首を寝違えちゃって」

うみ「剣道で肩を痛めてしまいました」

りん「太ももの軽い肉離れってお医者さんが」

まき「ピアノと勉強のしすぎで腱鞘炎になってしまったわ」

ことり「みんなすごいことになってて……」

はなよ「にこちゃんは無事なんだね」

にこ「なによこれ、ことりと花陽は平気なのね」

私と花陽とことりの三人を除いたμ’sのメンバーはみんなどこかしら怪我をしていた。

えり「こわい……」

のぞみ「悪霊退散、悪霊退散」

その日の帰り。いや、本当に偶然とは怖いもので……

コロコロ

少年「すいませーん、野球ボールとってくださーい」

にこ「はいはい、いくわよー!」

非力なにこ的には結構な距離だったので、力いっぱい野球少年めがけてボールを投げたんだけど……

ビキッ……



翌日。

はなよ「えええ!!!にこちゃんも怪我したの!?」

にこ「肘の脱臼だって……」

まき「それ結構重症じゃない……痛いでしょ」

にこ「結構……」

まき「なにしたらそうなるのよ……大丈夫?」

にこ「はあ、あとはことりと花陽だけになったわね」

りん「かよちんは凛が守るにゃー!」

ガラガラ

ことり「ごめんなさい」

片目に眼帯を巻いたことりが穂乃果と海未とともに入ってきた。

にこ「ちょ……」

ことり「あはは……」

のぞみ「ちょっとこれはよくないね」

えり「そうね……しばらく練習は無しにしましょうか」

なんだかよくわからないけど、空気が重い。

ほのか「いやー、ははは。こんな偶然あるんだね!

早くみんな直さなきゃだね!」

うみ「穂乃果……」

ほのか「そうだ!せっかくだし休養を兼ねてみんなでパーっとなんかやろう!

景気づけだよ~!ケーキ食べよ~!」

ことり「景気だけに?」

ほのか「やるねことりちゃん!ヒューヒュー!」

のぞみ「賛成!そうしたら運気も上がるよ!」



こうしてみんなで鍋パーティをすることになった。

(まともな具材限定の)闇鍋パーティだ。

・・・・・



あれから何日か経ったが、花陽だけどこも怪我をしていない。

のぞみ「花陽ちゃんはウチ以上のラッキーパワーの持ち主やね」

はなよ「えへへ」

ほのか「みんなー!部室でのパーティの許可とれたよー!」

うみ「明日、各自材料を持ち寄ってくるのを忘れないでください」



そして翌日。部室で楽しい楽しい鍋パーティが始まる。

悪い運気を吹き飛ばして、また明日から頑張っていきましょう!

……となるはずだったのに。まさかあんなことになるとは。



まき「忘れてたわ。腱鞘炎でお箸が持てない……」

りん「はい、真姫ちゃんあーん」

まき「熱つ!!!急に持ってこないで!!!」

にこ「左手だと食べにくい……海未、あんた上手ね」

うみ「ええ。まあなんとなく利き手でなくとも箸は使えます」

ことり「あぅ……片目だと距離感わからないよ……」

ほのか「あだー!!!首動かしちゃダメなんだった!」

アハハハハハ……

えり「さ、普通の鍋は空っぽね!ではお待ちかね……」

りん「闇鍋タイムにゃー!!!」

のぞみ「準備できた?」

花陽「じゃあ電気消すよー」

パチン

えり「ああああ!!!暗い!!!」

にこ「うるさい!!!くっつかないで!!!」

ほのか「なんか今べちょっていわなかった?」

うみ「よほど変なものは入っていないはずですが……」

花陽「わっ、なんか今頬を……!!!」

りん「かよちん、落ち着いて」

のぞみ「ウチもいれるよー!」

まき「全員いれた?」

えり「はやく電気つけて!!!」

ことり「え、つけたら中身見えちゃうよ?」

ほのか「じゃあみんな取って取ってー」

暗闇の中、手探りで鍋を探し、自分の皿を探し……

この作業はとても煩わしかったけど、ここで電気をつけちゃうと鍋の中身丸見えだし……

みんなでギャーギャー騒ぎながらよそって言った。

たぶんもうテーブルはビチャビチャね。そういう意味で電気をつけるのがこわい。

そんなこんなで全員がよそい終わった頃には、少しずつ暗闇に目が慣れてきていた。



えり「じゃあみんな。頂きましょう」

うみ「この海鮮の風味……タコですか?」

まき「自分が何食べてるのかわからないって恐ろしいわ……」

りん「いだっ!真姫ちゃん、肘が!」

はなよ「うっ……」

のぞみ「なんやこれ……モチ?」

ほのか「はいはい!私のにもモチみたいなの入ってる!」

りん「ねえ真姫ちゃん!さっき肘が……」

まき「私じゃないわよ!花陽じゃない?」

りん「ええ?位置的に……ねえかよちん」

はなよ「……」

りん「かよちん?」

ドサッ……

りん「えっ?」

にこ「……!電気をつけて!」

のぞみ「えっ?でもまだ」

にこ「いいから早く!!!」

パチ

明暗の差で目がくらむ……

ことり「きゃあああああああああ」

にこ「花陽!!!」

のぞみ「ど、どうして……」

まき「ま、まさか……」

りん「そんな……またかよちんが死んでる……」

明るくなった部屋に、変わり果てた花陽が横たわっていた。

楽しい鍋パーティは一瞬にして惨劇と化した。

現場検証。

確認するまでもないが、花陽のお皿だけ異様な風貌だ。

花陽の鍋の汁をほんの少し指先につけ、鼻に近づける。

にこ「クンクン……これは、タバスコ……!」

花陽のお皿にだけタバスコが盛られていた……!?



明らかに致死量を越えるタバスコが花陽のお皿から検出された。

つまり……毒殺。



にこ「タバスコを持ってきたのは誰?」

……誰も名乗り出ない。

えり「わかりっこないわ。だって各自の持ち物はあえて確認しなかったんだもの」



そう。闇鍋のため各自何を持ってきたのかはわからない。

間違いない。今回の事件はこの状況を利用した計画的な犯行だ。

そして一番不可解なのが……



にこ「電気を消す前、間違いなく花陽は生きていた。

暗闇の間の犯行ね。でも……」

えり「あんな真っ暗な中でいったいどうやって?」

そう。完全に室内は暗闇だった。

念入りに目張りし、ほとんど光が入らないようにしていたのだ。

どうやって犯人はこの暗黒の中で的確に動くことが……?

いや、そもそも今μ’sのメンバーは全員怪我をしている。

……花陽を除いて。

本来なら一番自由に動けるのは被害者のほうなのだ。

怪我をしていながら、暗闇を動き、的確に状況を把握できて……

的確に花陽のお皿にだけタバスコを混入させる。

そんなことが可能なの……?



にこ「唯一無傷だった花陽がこんなことになるなんてね……

言うまでもないけど……犯人はこの中にいるわよ」

まき「そうだけど……今回はにこちゃんだって例外じゃないわよ」

にこ「……そうね」

まず、足を怪我している絵里、希、凛が暗闇で動き回れるとは思えない。

次に腕を怪我している真姫、海未も行動は制限されている。

ことりは片目のせいで距離感や平衡感覚が崩れていてそれどころではない。

穂乃果だって首になんかサポーター巻いてて足元見えてなさそうだし。

くそ、揃いも揃って無理そうじゃない!

……いや、逆に言えばなにか一つ、それを覆す何かが見つかれば!



にこ「この事件、必ず私が解決してみせる。……ニコ!」

※かよちんは死んでいません

かよちダイーン

またかよちんが死んでるwwwwwwwwwwwwwwww

にこ「では状況の整理からね」

まず、部室の入口近くに電気のスイッチがある。

部屋中央の大きなテーブルを囲んで鍋をつついていた。

位置関係は、部屋入口からみて右側、手前からことり、穂乃果、海未、私。

左側、手前から花陽、凛、真姫、希。

そして一番奥に絵里。

花陽はその場で倒れている。



にこ「次に、えーと。部室の電気を消したのは誰?」

……

あら?これまた誰も名乗り出ない?

りん「あのー……」

にこ「凛が電気消したの?」

りん「ううん。電気を消したのはかよちんだよ」

にこ「……なるほど、そうだったの」

りん「たぶん、五体満足なのは自分だけだから率先して動いてくれたんじゃないかな。

ちょっとして凛の肩に手を付いた人がいたんだけど、あれは戻ってきたかよちんだね」

にこ「手探りしながら戻ってきたってわけね。じゃあ電気をつけたは誰?」

ことり「私です」

にこ「位置的にそうなるわよね……」



犯人は電気が消えている間に動き、花陽のお皿にタバスコを注ぎ自分の席に戻る。

それに気がつかず花陽は口にしてしまう。

その一連の流れが全てあの暗闇の中で行われていた……

やはり犯人は暗闇でも目が見えていたと考えるべきだ。

何らかの手段で……

いや、視覚に限定して考えるのは危険かも知れない。



にこ「海未、あんた目が見えなくても空気の流れと気配で……

とかできそうよね」

うみ「ある程度はそうかもしれませんが……あんな真っ暗闇では流石に……

犯人がそれをやってのけたというのなら、かなりの達人でしょうね」

にこ「では、そうね……視界が遮られているなら、聴力なんてどう?真姫」

まき「なにそれ、超音波を発してその反射で位置を掴むとか?

魚群探知機じゃないんだから」

えり「まるでコウモリやイルカね」

にこ「むう……じゃあ完全記憶能力的な何か。

部屋の間取りや人の位置関係を完全に記憶して動いた」

のぞみ「どうやろ?いうても状況は絶えず変化するから。

そうだとすると全員の行動まで予測していなきゃいけないんやない?」

えり「そんなの無理よ。やっぱり目で見えていたんじゃない?

時間をかければ暗闇でもある程度は見えるようになるわ」

りん「確かに、食べてる最中はちょっとだけ見えてたね」

にこ「でも犯行が行われたのはその前よ。そんな短時間で目が慣れるはずがない

っていうか見えてたらこんな苦労しないわよ!」

ほのか「じゃあ嗅覚だよ!」

にこ「というと?」

ほのか「その人は鼻が利くんだよ。刑事のカン、的な?」

ことり「犯人なのに刑事のカン?」

ほのか「達人で、超音波を出せて、記憶力がよくて、刑事の人が犯人だね」

うみ「人間とは思えませんね」

にこ「今回の犯人は人外の化物か」

りん「つまり!美人で、美声を出せて、頭がよくて、刑事(生徒会)の絵里ちゃんが犯人!!!」

まき「ふ、危なかったわ。私がもし生徒会に入っていたら疑われるところだった」

のぞみ「えりち……署までご同行願おうか」

えり「私じゃないわよ!!!」

のぞみ「酔っぱらいは決まって酔ってないって言うもんや」

ことり「まさか絵里ちゃんが……」

えり「違うったら!ホラ、私は足を怪我してるのよ!?

暗闇でそんな器用に動けるはずないわ」

ことり「確かに」

にこ「でもみんなどこかしら怪我をしてるのよね……このままじゃラチが明かないわ」



どうすれば暗闇でタバスコを盛ることができる……?

全員が怪我をしている以上……そうだ、視点を変えてみよう。

怪我をアドバンテージにすることができる人がいるのではないだろうか?

……例えば。

患部のサポーターの中にタバスコを仕込んだりはできそうね。



まき「その怪我だって、本当かわからないわよ」

えり「どういう意味?」

まき「そのまんまよ。犯行が困難にみせかけるために嘘をついてるかも」

えり「まさか!みんな怪我をしたのはかなり前よ、そんな前から計画してたとでも?」

まき「……可能性の話よ。にこちゃんとことりは少し遅れて怪我したし」

ことり「そんな……」

にこ「ちょっと、私を疑おうっての?いい度胸ね」

まき「じゃあ、どんな風に怪我したのかこと細かく教えてよ」

にこ「それは……」



……言いたくない。ボールを投げて肘を脱臼なんてマヌケを晒すわけにはいかない。



にこ「……」

まき「あら、黙り込んじゃって。どうしたの?都合悪い?」

全員の目が私に向く。……マズイ。

あろうことか、この探偵にこちゃんが疑われている……



にこ「ちょ、ちょっと……」

ことり「でも、やっぱり怪我の状況を言えないのはおかしいよね……」

にこ「じゃあことりは覚えてるの?当時の状況」

ことり「それは……まあ」

まき「話してもらおうじゃない」

ことり「確か、みんなが怪我してきたのは先週の頭だったから、私が怪我したのは次の日の火曜日だね。

帰り道で少年野球をやってて、たまたま飛んできたボールが目の周りに当たっちゃったの。

眼球直撃だったらかなり危なかったってお医者さんに言われちゃった。不幸中の幸いだね」

まき「ふむ」



ますますマズイ。ことりはしっかり当時の状況を語りだした。

真姫……!余計なことを。

なんとかして真犯人を見つけて疑いを晴らさなきゃ。



まき「参考までに、その野球をしてたチームの特徴とか覚えてる」

ことり「えっと、地元の小学校のスポーツ少年団とオトノキベースボールクラブっていうクラブチームの試合だったかな?」

まき「なるほど。しっかりした語り口ね。反対ににこちゃんはだんまり。

……いい加減認めれば?」

にこ「にこじゃないってば!!!」

まき「じゃあ誰よ?もしくは怪我の経緯を教えてよ」

にこ「く……」



完全に真姫のペース……でも負けないんだから。

なぜなら私はエキスパートにこちゃん探偵なのだから。



にこ「怪我については……黙秘させてもらう。

代わりに真犯人を教えてあげようじゃない」

まき「へえ?やけくそね。終わったら潔く自白する?」

にこ「……いいわ。もし私の推理ショーにご満足いただけなかったのなら、私はおとなしく犯行を認める」



・・・・・

ほのか「みなさんこんにちは。裁判長の高坂穂乃果です。そしてなんと!今回は

園田海未さん、絢瀬絵里さんにも裁判官としてお越しいただいています!」

うみ「精一杯務めさせていただきます」

えり「よろしくお願いします」

りん「ラジオか」

ことり「まるでゲストのような紹介の仕方だね」

のぞみ「うふふ、おもしろそう!」

うみ「傍聴席、お静かに願います」

ほのか「では……コホン。4号闇鍋パーティ殺人事件。

被告人、証言台の前に立ってください」

にこ「はい」

ほのか「名前はなんと言いますか?」

にこ「矢澤にこです」

ほのか「えーと……本来生年月日とか職業もろもろ聞くんだけどここ
カットね」



……なぜ急に裁判になったかというと、それは私にも謎なのだが、

裁判長の決定は絶対なのだ。

裁判が始まらなければ裁判長も生まれないというパラドクスはこの際どうでもいい。

とにかく、私は私自身を弁護して身の潔白を証明するのだ。

今日だけ私はエキスパートにこちゃん弁護士。



ほのか「被告人は殺人の罪で起訴されました。これより検察官がその起訴状を朗読します」

まき「えー、被告人矢澤にこ(17)には本日小泉花陽さん(15)の鍋にタバスコを混入し、殺害した容疑がかかっています……」



にこ「裁判長」

ほのか「はい?」

うみ「今件では、被告人自ら弁護をするのですね」

にこ「どのようにタバスコを混入させたのか記載されていません。

また、にこが犯人である物的証拠も一切ありません。したがって弁護側は証拠の提示を求めます」

はのか「えーと、そうですか?えー……」

えり「検察側、いかがですか?」

まき「はい。今回唯一怪我の経緯が明らかになっていないのが被告人です。

体の不自由な人間が今回の犯行を行うのは非常に困難です。

被告人は嘘をついている可能性があります」

にこ「だから、こっちは証拠を提示しろって言ってんのよ!」

ほのか「静粛に!!!」

まき「十分状況証拠になると考えていますが」

にこ「物的証拠出せっての!」

ほのか「ねえねえ海未ちゃん!静粛にって言ってみたかったんだあ!」

うみ「まったく……」

えり「被告人、発言の際は挙手を」

にこ「はいはい」

ほのか「弁護側」

にこ「回りくどいのは抜きよ。本件の犯人は被告人ではありません。被告人の犯人性を問います」

まき「いきなり非常識ね!……まあいいわ

弁護側は証拠の提示を求めてるようだし、うん。いいでしょう。

裁判長、証人尋問をさせていただきます」

ほのか「えー……と?」

うみ「はい。では南ことりの証人尋問をすることにします。南ことりは在廷していますか?」

まき「はい」

ことり「え!?私……?」

うみ「検察官、尋問にかかる時間はどのくらいですか?」

まき「そうね。5分もあればいいかしら」

うみ「弁護人、反対尋問にかかる時間はどのくらいですか?」

にこ「目一杯いただくわ。30分よ」

まき「はあ!?なんでそんなに時間が必要なわけ」

えり「検察側、お静かに。構いません」

まき「……悪あがきしちゃって」

えり「それでは証人尋問を行います。証人、証言台の前に」



・・・・・

ことり「えっと、どうすれば」

ほのか「そうそう、証人は正直に述べてください。嘘をつくと偽証罪に問われます。

また、えーと、えーと」

うみ「証人は自らに関して不利益な供述を強要されない権利があります。 証言を求められた場合、あなたは証言を拒絶することも出来ます」

ことり「き、聞かれたことに答えればいいんですよね?」

えり「それでは検察官から」

まき「事件当時、あなたは何をしていましたか?」

ことり「えっと、みんなでお鍋を食べていました!」

まき「場所は?」

ことり「アイドル部部室です」

まき「被害者は?」

ことり「小泉花陽ちゃんです」

まき「あなたはそこで何かを目撃しましたね?」

ことり「え、はい」

にこ「意義ありー。それは誘導尋問じゃないですかー?」

うみ「意義を認めます」

まき「……失礼。あなたはそこで何かを目撃しましたか?」

ことり「た、たぶん」

まき「何を目撃したんですか?」

ことり「えっと、実はパーティ前ににこちゃんと花陽ちゃんが口論しているのを見ました」

ザワザワザワ……

ほのか「傍聴席、お静かに願います」

にこ「はあ!?ちょっとちょっと!!!」

ほのか「静粛に」

にこ「そこだけ的確かっ!!!」

ほのか「静粛に~。質問を続けてください」

まき「会話の内容は覚えてる?」

ことり「えっと、なんかスクールアイドルについてだいぶ熱く言い争ってたみたいでした」

まき「とのことですが?被告人」

にこ「く……事実よ。でもそれは口論っていうよりか議論……」

まき「重ねて質問をさせていただきます。

事件当時、被告人に不審な点はありませんでしたか?」

ことり「そういえば、電気を消してる間やけに静かだったような。

そうだ!、にこちゃんがいたはずの席に、誰もいなかったときがあった気がします!」

にこ「意義あり!気がするってなによ!ていうか眼帯してるのにそんなのわかるわけ」

うみ「意義を棄却します」

まき「それは間違いないですか?あなたの当時の視力は?」

ことり「あ、片目だったのであんまり良くはなかったです……」

まき「そのときの時刻はわかりますか?」

ことり「えっと、たまたま時計をみたので。たしか午後五時十分くらい」

にこ「ちょっとことり!何言ってるのよ!私はずっと……」

ほのか「静粛に。被告人、うるさい。退場させちゃうぞ」

にこ「ぐぬぬ」



真姫め、ことりになんか吹き込んだわね……!

まき「こちらからは以上です」

うみ「では弁護人。反対尋問をどうぞ」

にこ「はい」



……この三十分で全部ひっくり返してやる。

できなきゃ私は……



にこ「まず、私が暗闇でいなくなったときがあったとおっしゃいましたね」

ことり「はあ」

にこ「それは勘違いだったんではないですか?」

ことり「いや、確かに絶対の自信はないです……」

にこ「そうよね?ほら、勘違いだったのよ」

まき「意義あり!そっちこそ誘導尋問してんじゃない!しっかりしてことり!」

ことり「わっ!そ、そうでした。間違いないです。にこちゃんがいないときがありました」

にこ「……フフ、失礼。そうね。今私は誘導尋問してしまったかも。ごめんなさい。

じゃあ、あなたは間違いなく暗闇で姿を消した私を見たのね?」

ことり「は、はい!」

にこ「……さてところで、絢瀬絵里裁判官。あなた事件当時何してた?」

えり「え?私?私は……あ!」

まき「……!裁判長、この質問は本件とは関係ありません!」

ほのか「ぐー……ぐー……」

まき「寝てるの!!?」



ふふ。裁判前に飲ませたホットミルクが効いているようね。

効果は「怪盗ペリメニ」との一件のときに身をもって実証済みよ!

えり「……闇鍋当時、私はずっとにこに抱きついてたわ。暗いのが嫌で」

にこ「そう!……だそうよ?証人。私、その場を離れられると思う?」

ことり「あ……」

まき「くそ!間違いなく見たって言わせる誘導尋問だったのね!やられた!」

にこ「さて、本当にあなたは本来の場を離れた私を見たの?」

ことり「わ、わわ、えっと」

にこ「裁判官言ってたわよ?嘘つくと、偽証罪」

ことり「えええ、あわわ」

まき「落ち着きなさい!同時に黙秘する権利もある!」

ことり「……!」

にこ「真姫!また余計な!」

ことり「……」

にこ「ことり!」

ことり「……」

にこ「くそ」

えり「……でも、確かに私はにこにしがみついていました。

証人、答えてくれませんか?」



ナイス裁判官!



ことり「……」



ダメか……

ではもう少しいじめさせてもらうわよ。

悪いわね。ことり。

にこ「いいわ。この件は置いときましょう」

まき「ふう……」

にこ「次に。もう一度そのときの時刻を教えてくれますか?」

ことり「ご、五時十分です……これはしっかり見たので間違いないです」

にこ「なるほど。ところで真姫」

まき「なによ」

にこ「あなたは時計を見なかった?一応他の人の供述も欲しいじゃない」

まき「ふん、敵である私から?残念だったわね。あんな真っ暗な中時計なんか見えな……いわ……!」

にこ「そう。それは残念。私も時計なんか見えなかったの。真っ暗でね」

まき「……」

にこ「どうして、ことりには見えたのかしら?五時十分という時計の針が」

ことり「そ、それは、えっと。腕時計です。ボタンを押したら光るんです」

にこ「ああ、その左手の腕時計ね」

ことり「そうだよ」

にこ「本当にソレ、光るの?」

ことり「光るっていうか、針が暗闇で光る素材なんです。よくあるでしょう?」

にこ「あら?ボタンを押すってさっき」

ことり「あはは、ちょっと言い間違えちゃった」

にこ「ふーん。じゃあ質問を変えます。あなたの当時の位置を詳しく教えて」

ことり「テーブルの端で、右隣に穂乃果ちゃんが座ってました。

それから、向かいに花陽ちゃんです」

にこ「そうね。私の記憶が正しければあなた、片目だから距離感が掴めない……みたいなこと言ってた?」

ことり「そうそう!それで間違って穂乃果ちゃんのお皿に私が掴んだ鍋の具を落としちゃったみたいで、そのとき穂乃果ちゃんが、なんかべちょっていった!って言ってました」

にこ「ああ、言ってたわね。でもいくら暗闇っていっても、すぐ隣の人との感覚くらい息遣いとかで多少把握できない?」

ことり「普段ならそうかもしれないけど、ほら、私片目つむってたから、そっちの視界が悪くて」

にこ「そう……穂乃果のほうの目をつむっていたから、余計見えなかったと」

ことり「そうです。本当に本当だよ。しっかり覚えてます」

にこ「ことり、あなたが怪我しているのは……左目なのよ」

ことり「……!!!」

にこ「穂乃果は右側にいた。つまりあなたは……

わざわざ正常な方の目をつむり、眼帯をしていた方の目を開いていたことになる」

まき「……?ことり?」

ことり「そ、そ、あ、えっと」

にこ「なぜそんなことを?」

ことり「も、黙秘?します」

うみ「ことり……ちゃんと答えてください」

にこ「結構よ、裁判官。私が教えてあげる」

ことり「……」

にこ「左目に眼帯をして目をつむっていることで、その目を暗闇慣らしておいた。

そして暗闇で眼帯を外せばノータイムで暗闇に目を慣らすことができる。

最初から疑問だったのよ。電気を消して手探りで戻ってきた花陽に対して、

電気をつけたあなたはあまりにもあっさり電気のスイッチの下まで行けていた」

ことり「う、う……」

にこ「これが暗闇でも自在に動けるトリックの正体よ」

まき「ま、まさか……」

にこ「つまり、真犯人はあなたよ。南ことり」

ことり「うわああああああん!!!」



・・・・・

・・・・・

まき「……ごめんなさい。にこちゃん。疑って」

にこ「別に、いいけど」

まき「なんで怪我の理由教えてくれないのよ!紛らわしいじゃない!!!」

にこ「証人は自らに関して不利益な供述を強要されない権利があります!!!」

まき「なんでよ!ヘリクツ!」

のぞみ「……署までご同行願おうか。ことりちゃん」

ことり「……はい」

うみ「ど、どうしてあんなことを?ことり」

ことり「だって……みんな仲良く一緒に怪我なんかするから……」

にこ「どういうこと?」

ことり「私、仲間はずれが嫌で、私も怪我をしたフリをしたんです。

……でも花陽ちゃんは違った。自分だけ怪我をしてないのに、そんなの全然気にしてなくて!

自分が情けなくなった。……自分だけ元気なのに普通に振舞っている花陽ちゃんに嫉妬してしまったんだ。だから……」

ほのか「そんな……そんなことで私たちがことりちゃんを仲間はずれにするわけないじゃん!!!」

ことり「ごめんなさい私、私、本当はわかってたのに……花陽ちゃんを見るまでもなく、わかってたのに!ごめんなさい……花陽ちゃんの強さが、羨ましかった」



悲しいかな。

これが「闇鍋パーティ殺人事件」の真相だ。

・・・・・



ここあ「眼帯すげー!」

こころ「確かに、事前に片目をしばらく閉じておいてから部屋を暗くして、閉じてたほうの目だけを開くと少し周りが見えますよね」

ここあ「今回は、何が悪かったの?」

にこ「うーん、仲がいい故の嫉妬ってあるわよね。あの子は私にはないものを持ってる!とか、ずっと一緒にいるとわかってくるのよ」

ここあ「それが原因?」

にこ「……どうかしら、正直私にはよくわからない気持ちだから。自分を下卑て、誰かを羨むとかね」

ここあ「にこちゃん探偵でもわからんのかー!」

にこ「でも、そういう気持ちも大切よね……きっと。

そうだ、今回のお話の教訓はこっちにしましょう。

いい?みんな違ってみんないいの。誰かに合わせる必要なんてないのよ。

例えば、一人だけ怪我しなかったとか、そんな理由で仲間はずれにするような連中だったら、

自分から縁切ってやりなさい。そんなの友達でも仲間でもないわ」

こころ「なるほど。わかりました」

にこ「さて、そろそろ時間ね。にこにーはそろそろ行かなくちゃ」

ここあ「えー!」

こころ「いけませんここあ。お姉さまは忙しいんです」

ここあ「ぶーぶー」

にこ「ごめんね……じゃあ行ってきます」

ここあ「いってらっしゃーい」

こころ「いってらっしゃい!」

にこ「はい!にっこにっこにー!」

ここあ「にっこにっこにー!」

こころ「にっこにっこにー!」



さて、私の用事というのも……おチビ達には「探偵業」ということになっている。

だって、本当のことを言うのは、ちょっと酷だもの。

うーん鮮やかな手腕

【片割れ月の黒双龍】



あなたたちはそれに首をつっこむべきじゃない。

その真相を追った先にあるのは、一種の地獄だから。

……都市伝説のままにしておくべきだった。

はなよ「カタカタ」

のぞみ「おっ!また都市伝説ですか?隊長!」

はなよ「カタカタ……ッターン!」

のぞみ「……」

はなよ「そうです!新しい都市伝説を調べてたんだよ」

のぞみ「どれどれ」

まき「ハーイ。のぞみ、マスタードはなよ」

はなよ「それは私のこと?」

まき「ええ。あなた最近マスタードとか、タバスコとか、辛いものに運がないじゃない。

マスタードはなよと呼ばせてもらうわ」

はなよ「えぇ……」

のぞみ「略してマスターはなよなんてどや!」

まき「採用」

のぞみ「やったね!花陽ちゃん羨ましいなあ!ウチもニックネーム欲しいなー」

まき「あらそう?考えておくわ」

のぞみ「え……やっぱいいや。花陽ちゃんも普通によんだげて」

まき「どっちよ!」

のぞみ「どっちつかずのぞみんとは私のことなのだー!」

はなよ「あれ、どこ行くの?真姫ちゃん」

まき「悪いわね、今日掃除当番なの。また来るわ」

はなよ「そっか、お疲れ様です」

にこ「おはにこー」

のぞみ「おはにこ」

はなよ「おはにこ!にこちゃん!新しい都市伝説だよ!」

にこ「また?好きねえ、どんなの?」

はなよ「これだよ!読んでみて!」

にこ「……ごめん、今日は用事あるから先帰るわ」

はなよ「そうなの?残念だな」

のぞみ「よし!じゃあウチらで先調べとこ!」

にこ「それには……あまり関わんない方でいいと思うけどね……」



そんな会話を耳にしながら私は部室を後にした。

今日はちょっーと用事があるのだ。



のぞみ「今回はどんなオトノキ都市伝説なん?」

はなよ「これです!!!」

のぞみ「片割れ月の黒双龍……?なにそれこわい」

はなよ「なんでも、片割れ月の日に現れる魔物……だそうです。

二つ首の黒い竜が現れた場所には何も残らないそうな」

のぞみ「ひえー!それはすこぶるスピリチュアルやね」

はなよ「この都市伝説を解明しましょう!」

ことり「大丈夫?なんかとっても危ないお話してない?」

はなよ「あ、ことりちゃん。おはよう」

ことり「おはよう!」

のぞみ「大丈夫や。ことりちゃん。ウチの占いによるとあんまりひどいことにはならん」

ことり「そっか!じゃあ安心だね」

うみ「占いで言われても……好奇心旺盛なのは結構ですが……」

はなよ「海未ちゃん!希ちゃんの占いはすごいんだよ!この前だって……」

ほのか「なになに?か、片割れ月の黒双龍!?強そう!」

りん「おーもしろそうにゃー!!!」

うみ「そのイケてるネーミングはなんなんですか?」

えり「イケてる……?」

のぞみ「まあまあ、大丈夫やって」



こうして、みんなは「片割れ月の黒双龍」について調べることになったらしい……

というのも、後日その話題になって知る事になるんだけど。

はなよ「……と言うことで、ユニットごとに調べて回るというのはどうですか!?」

ほのか「楽しそう!一番早く解明したユニットが次の曲のメインとか!!!」

りん「ほ、穂乃果ちゃん……天才かにゃ!?それは素晴らしいアイデア!ね、にこちゃん!!!」

にこ「……私はできればパスしたいんだけど」

えり「え、どうして!?bibiの勝ちを確信したところだったのに!!!」

まき「そうよにこちゃん!これに勝てばメイン張れるのよ!?」

にこ「……」



私が乗り気じゃないのは、まあ複雑な事情があるんだけど……

八人はすっかりその気になってしまったようで、私にはどうしようもなかった。

まったく……しょうがないとはなかなか言い難いわね。

とにかくこうしてユニット対抗都市伝説解明対決が幕を開けた。



・・・・・

・・・・・



ほのか「どう?花陽ちゃん」

はなよ「カタカタ」

ことり「がんばって!花陽ちゃん!」

はなよ「うーん、ネットにはこれ以上の情報はありません……」

ほのか「そっかあ、学校のみんなに聞いてみようか?」

ことり「そうだね」



プランタンはインターネットと、女子高生ネットを活用して調べるらしかった。

穂乃果の人脈は恐ろしく広く、学校での噂話は大抵ことりの耳にはいるらしい。

……なぜ穂乃果ではなくことりの耳に入るかというと、

穂乃果は人の話をあまり聞かない。その傍らに居ることりの方が情報通なのだ。

風が吹けば桶屋がなんとやら。



ことり「……っていう話を聞いたよ」

ほのか「すごい!ことりちゃん、情報屋さん!?どこでそんな話」

ことり「あの話のとき穂乃果ちゃんもいたと思うのだけれど……」

はなよ「早速、調べてみましょう!」

パリーン!パリーン!

ほのか「ええ、なに!?何の音?」

はなよ「もしもし?凛ちゃんどうしたの」

ほのか「今の着信音なの……?」

ことり「凛ちゃんだけに、ぱりーん」

ほのか「やるねことりちゃん!ヒューヒュー」



・・・・・

えり「どうしてあまり乗り気じゃないの?にこ」

にこ「いや……別にそんなつもりは」

まき「真面目にやってよ!私たちが困るわ」

にこ「……むう」

えり「エキスパートにこちゃん探偵の力を貸してよ」

にこ「はあ」

まき「エリー、にこちゃんはなんだか役に立ちそうにないわ。

私たちで頑張りましょう」

えり「残念ね。私たちが力を合わせれば絶対一番乗りだと思ったのに」

まき「大丈夫よ。私がいるんだもの」

えり「ふふっ。そうね、心強い。頼りにしてるわよ、真姫」

にこ「このタイミングで言うのもなんだけど、私これから用事あるから……悪いわね」

えり「そうなの?……まあ仕方ないわね」

まき「にこちゃんなんかいなくても平気よ」



・・・・・

りん「うん、ええ?やっぱり自分で考えなきゃダメかな……?

わかったよ、はーい」

ツー、ツー

のぞみ「やっぱ花陽ちゃん情報は教えてくれなかったかあ」

うみ「どうして私たちはここなんですか?」

のぞみ「噂話といえば、おばちゃんやん?」

りん「すみませーん」

おばちゃん「あら、どうしたの?可愛らしい娘ねえ……」

りん「え、ええー!?そんなこと……な、ないです」

おばちゃん「あらあら」

りん「ほ、本当にそんなこと……」

のぞみ「おねえさん!」

おばちゃん「アラヤダ!!!」

のぞみ「私たち、音ノ木坂の生徒なんですけど」

おばちゃん「もう、お世辞なんかいいのよ?おねえさんなんて、ホント。

おねえさんなんて年じゃないの。ホント」

のぞみ「でね、ちょっと地元の都市伝説を調べててん」

おばちゃん「としでんせつ?おねえさんわからないわ」



うみ「希……流石です。うまく聞き出せそうですね」

りん「り、りんかわいくなんかないよー!」



のぞみ「えと、片割れ月の黒双龍っていうんやけど……」

おばちゃん「……!!!」

のぞみ「聞いたことない?」

おばちゃん「し、知らないわ!!!そんなもの!!!」

のぞみ「えっ!?」

おばちゃん「そ、そんな、耳にするのも恐ろしい!!!」

のぞみ「!!?」



・・・・・

・・・・・



ほのか「ここが片割れ月の……ふんふんふぁー……の目撃情報がある場所?」

はなよ「黒双龍だよ。穂乃果ちゃん」

ことり「ただのスーパーマーケットなんだけど?」

ほのか「ここに……カイワレ月の大根龍が……?」

はなよ「片割れ月の黒双龍です」

ことり「わあ!ここのスーパー安いかも。みてみて、カイワレ大根もあるよ」

ほのか「本当だ!これが都市伝説の正体カイワレ大根……!私たちの勝利だね!」

はなよ「しかもココ、はんつきに一度特売してるみたい!すごい!

あっお米も安い!あっセーブウォーターも売ってる!あっにこちゃんもしかしてここで買ったのかな!?」

ほのか「わあー!お菓子も安いよー!ここは天国か!?」

ことり「本当だー!買っちゃおうっ」

はなよ「私はこれにします!」

ほのか「お菓子パーティだー!!!」

ことり「わーい!……あれ、私たちここに何しに来たんだっけ?」



・・・・・

・・・・・



オバチャン2「あの赤い目だ……あれが来たらおしまいさね。

奴が通った先には何も残りゃあしない」

えり「赤い目……」

オバチャン2「半月(はんげつ)になると、奴は現れるのさ……狩場にね」

まき「はんげつ……それで片割れ月……ね。

赤い目で、首が二つの黒い龍……実在するとはにわかには信じられない」

オバチャン2「アア……これ以上は勘弁しておくれ……ガタガタ」

えり「あ、ありがとうございました」

まき「でもあの怯えよう……この地には魔物がいるというの?」



こうして、私が……いろいろ忙しくしているうちにみんなは「片割れ月の黒双龍」について調べまわったらしい。

私がなぜ忙しいかというと……それはアレよ。探偵業よ。



・・・・・

・・・・・



うみ「ここが……噂の地ですか」

りん「こ、ここは……」

のぞみ「ただのスーパーやね」

うみ「しかし、間違いありません。この張り紙を見てください」

りん「本当だ!!!やっぱりここだ!!!」

のぞみ「奇遇にも今日は……その片割れ月の日や」

うみ「張っていましょう」



リリホワ組は真面目に数時間張り込みしたらしい。どうなってんだか。

幸い、張り込み先がスーパーということで容易にアンパンと牛乳が手に入ったとかなんとか。



のぞみ「モグモグ……」

うみ「ゴクゴク……」

りん「あ、あれは!!!」

うみ「どうしたんですか!?」

りん「見て!!!」



ほのか「いやー、また来ちゃったね!!!」

はなよ「ここのお菓子、本当に安いもんねー」

ことり「今日もみんなでお菓子パーティしようね」



うみ「あ、あれは……お菓子とはどういうことですか……?

穂乃果、花陽……あなたたちはダイエット中のはず……」

のぞみ「今はそこやないよ、海未ちゃん」

うみ「ゆ、る、せ、ま、せ、ん」

りん「海未ちゃん落ち着いて!張り込み中だにゃ!ホシに感づかれちゃうよ」

うみ「く……覚えていなさい……」

のぞみ「さて、そろそろ時間だよ」



・・・・・

・・・・・



はなよ「今日ははんつきに一度の特売の日だよ!」

ことり「本当だ!」

ほのか「じゃあ、始まるまで待ってようよ!!!」

ことり「もうちょっとで始まるよ」

はなよ「じゃあ値札張り替えるの待ってようか」

ことり「あと五秒…よん……」

ほのか「さん!」



うみ「に……」

りん「いち……!」



はなよ「ゼ……」



キャーーーーー!!!!!



はなよ「え!?なに!?」



・・・・・

・・・・・



のぞみ「始まった……!」

うみ「穂乃果とことりと花陽がまだ中です!」

りん「し、しょうがないよ……凛たちは張ってなきゃ」

うみ「く……」

のぞみ「今は我慢や……海未ちゃん」



・・・・・



ワー!!!キャー!!!



ほのか「わわわ……これが……主婦の戦場」

ことり「特売……!!!」

はなよ「わ、私たちは認識が甘かったようです。このままでは……

人ごみという魔界に飲まれてしまう……ぴゃあ!」

ほのか「あわわ!は、花陽ちゃんが消えた!」

ことり「ほ、穂乃果ちゃん……たすけ……」

ほのか「ことりちゃあああああああああん!!!」



彼女たちは、完全にその世界を舐めていた。

そこは紛れもなく戦場。非力な女子高生など飲み込んで余りある圧倒的な力「人ごみ」

その混沌とした流れの中に、三人の少女は……消えた。

うみ「く……許してください……」

のぞみ「自分の無力さが憎い……」

りん「カタキは取るよ……無念は晴らすよ……必ず……!」



涙をのんでその一部始終を見届けた彼女たちの判断は正しかった。

もし助けに行こうなど愚かな考えを持っていたら、彼女たちもあの魔窟の……

そう。プランタンはリリホワの身代わり羊となったのだ。



ほのか「つぅ!前が……花陽ちゃん!ことりちゃ、ん

目が……みえない……イキがくる……う、あ」



荒波に揉まれ今尽きようとしている小さな炎。

もちろん、そんな風前の灯は、燭台ごと吹き飛ばされる。



ほのか「だ、だれか……たすけて……」



そんな小さな小さな、小鳥のさえずりにも遠く及ばない声にならない声が、

いったい誰に届くというのか。穂乃果の体は、人ごみの中に消えていく。

……ったく!しょうがないわねー!!!



ほのか「だれ……!?」

にこ「まったく。だからあれだけ言ったのに」

ほのか「にこちゃん!!?」

人ごみという名の混沌の力からなる魔界の天の川をなぎ払い、

魔物と成り果てた残党の主婦を蹴散らし、「私」は姿を現す。



のぞみ「で、出た……」

りん「あれが!」

うみ「片割れ月の黒双龍!!!」



人ごみを吹き飛ばし、ことりと花陽も救出した「私」はその足で目当ての特売品もかっさらい、レジに到達する。



ことり「に、にこちゃん……?」

はなよ「いや……赤い目の……黒い二つ首の龍……!?」

店員「ありがとうございましたー」



・・・・・



ほのか「あ、ありがとう……にこちゃん!ありがとう!!!」

ことり「怖かったよお……ふええええんっ」

はなよ「なんて神々しい……」

にこ「だから乗り気じゃなかったのよ。今回の都市伝説を追えば……

必ずこの混沌の世界に足を踏み入れてしまうから。

もう体感したでしょ?もうこんなことはしないことね」



うみ「さて、お取り込み中申し訳ありません。……観念しなさい!にこ」

にこ「あんたたち……!」

りん「プランタンは疲労してる!チャンス!」

のぞみ「都市伝説を解明するのはウチらや!!!」

にこ「悪いわね。脱出ルートは用意してきたわ」

そう言い残し私は路地裏に走り込んだ。

のぞみ「しまった!!!」



・・・・・



にこ「はあ、はあ、はあ、ここまでくれば……」

まき「そこまでよ。にこちゃん……いえ。

片割れ月の黒双龍!!!」

にこ「真姫!?」

えり「悪いわね。にこ」

にこ「絵里も……」



後ろから羽交い締めにされる。



にこ「はあ、はあ、はあ」

えり「ずいぶん走り回ってくれたわね。おかげで全然逃げられないでしょ?」

にこ「姿を現さないと思ったら……これを狙ってたのね」

まき「片割れ月ってのは半月(はんげつ)のことね。

で、半月(はんげつ)ってのは半月(はんつき)のこと。

あそこのスーパーのはんつきに一度の特売に現れる赤い目の、黒双龍(ツインテール)

それが片割れ月の黒双龍の正体。あなたよ、矢澤にこ」

えり「特売の覇者であるあなたを主婦の間でそう敬称したのが始まりのようね」

にこ「……」

のぞみ「あ!えりち!!!」

えり「あら、希。私たちの勝ちみたいね」

のぞみ「なんでやーずるい!」

えり「悪いわね。これで次の曲のメインはbibiで決まり」

ほのか「意義あり!犯人はにこちゃんだったんだしチャラだよ!」

にこ「いや……別に犯人では」

ほのか「多数決とりまーす!チャラだと思う人!!!」



六票。当然ね。裁判長の決定は絶対なのだが、

それ以上にこの日本国では多数決の決議はそれ以上の絶対正義である。

この勝負はなかったことになった。……とんだ茶番ね。

まき「なんの為に……はあ」

えり「はいはい。わかったわよ……次はちゃんと実力で頂くとしましょう」

のぞみ「さて、にこっち」

にこ「なによ」

のぞみ「なーんかワケありっぽいやん?あ、黙秘権とかはないよ」

にこ「……」



家庭の事情だ。家庭の事情で、私はいろんなもの……

たとえば食材とか、日用品を安く手に入れなければいけない。

あるいは、パート的な、アルバイト的な何かをしてお金を稼がなくてはいけない。

だいたい、私が用があると言って早く帰る日はバイトなりが入っている日だ。だいたい。

そしてこれは最重要秘密事項だ。主にうちのおチビたちに対して。

そういう用事で私が出かけていると知らせるわけにはいかない。

だって、本当のことを言うのはちょっと酷だもの。

だから私は「探偵業」と言って家を出る。それがにこちゃん探偵の始まりだ。

そういった理由で私はしばしば特売の魔物「片割れ月の黒双龍」になったり。

バイトに出て「エキストラのにこちゃん」になったり「パートのにこちゃん」になったりする。

「エキスパートにこちゃん」が真銘は、「エキストラ・パートにこちゃん」なのだ。

エキスパート(熟練者)にこちゃん探偵もまた、私の仮の姿だったのだ。

私の大切な大切なおチビたちの為に、私はもうしばし嘘をつき続ける。

……。



これが、「片割れ月の黒双龍」の真相だ。

……おそらく、このお話をこころとここあにするのは、まだ先のことになるだろう。

【怪盗ペリメニの招待状】



さて、いかがだっただろう?私の事件簿。

十分私の名探偵ぶりがご理解いただけたと思う。

ではそのうえで、この最後の事件について語らせていただこう。

怪盗ペリメニ・・・一体何者なんだ

こころ「いってらっしゃい!にこにー!」

ここあ「いってらっしゃい!にこにー!」

にこ「いってきます」



今日は朝からメランコリックにこちゃんだ。

なぜなら、先日ついに私の秘密をみんなに知られてしまった。

既に私の生活様式が世に知れ渡ってしまったに違いない。

私は幼い妹たちを家に残し稼ぎに出ていた。

いや、そんな立派なものではないんだけど……

どうもこのあたりのお話はぼかしてしまう。こう言うのもなんだけど、察してよ。

とにかく私、私たち……矢澤家とはそういうものだった。

特にここ最近はママも忙しいみたいで、おうちの仕事……家事なんかも私の負担が増えた。

あー!いや、負担ってのはちがくて……ママはもっと苦労してるわけだし。

だから、えっと、もうなんて言えばいいの?これだからこんな話したくないのよ。

はい、この話はおしまい。いまはそれより今朝ポストに入っていたこの手紙だ。



名探偵にこへ

今週末、あなたの一番大切なものを頂戴しに参ります……たぶん。

足を洗って待ってるにゃ。

前回のようにはいかないわよ。

今から挑戦者。冷たいやけどを教えてあげるやん?

覚悟しとき!ファイトだよ!

一緒に終わらないパーティを楽しみましょう。

怪盗より(・8・)

……全部載せか。

まるで主食だらけの夕飯のような。

たぶん口調で正体がばれないようにってことなんだろうけど、それにしたってこの無理やり具合はいただけない。

しかも、忠告通り朝から足を洗っていたらこの時間だ。遅刻してしまう。

まったく、この忙しい時になんだって怪盗なんてでてくるのよ!



……余談だが、時間を置いて落ち着いて手紙を読み直したところ、

「足を洗って」は「首を洗って」の誤字だったことがわかり、非常に恥ずかしい思いをした。

なによ、足を洗って待ってろって。捕まえた際には私の足を洗わせてやる。



今週は非常にハードなスケジュールだ。

ほぼ毎日バイトが入っている。というのも週末には怪盗ペリメニとの予定が入ってしまったのでバイトは休みにした。

探偵業も疎かにしてはいけない。

もちろんお買い物とか、家事全般もしなくては。

そして合間を縫ってμ’sのレッスンにも顔を出す。

……以前のように妹たちににこちゃん探偵の事件簿をお話する時間もなくなってしまった。

きっとさみしい思いをさせていることだろう。

その人のことを思い、その人のために何かをしようとするほどその人との時間は減ってしまう。

気持ちと時間は反比例。

そんなわけで、近頃にこはメランコリック。




私がいる限りオトノキの平和は守る!

私がいる限りこの世に悪は栄えない!



……そんなものは嘘っぱちだ。

正義を成すということは、悪があるということなのだ。

探偵だの警察だのというのは、既に起きた事件を解決しているだけだ。

既に負った罪を罰しているだけだ。



なら、私を助けてくれるものってなんなんだろう。

私を助けてくれる誰かってのは、存在するんだろうか。



学校で勉強(睡眠)して、放課後にはレッスン。

途中で抜けてバイト。帰りに夕飯のお買い物。

今夜は何にしましょうかね。

おそらく多くの世の男性にはわからない悩み。永遠の命題「今晩のおかず」

こればっかりは名探偵のにこにも正解がわからない。

いい?毎日毎日メニュー考えるのも大変なのよ。

誰か代わりに考えてはくれないものだろうか。あわよくば、つくってくれないだろうか?

私のいない間、代わりに妹たちの面倒をみて、私が帰る頃には夕飯の支度ができている。

そんな夢の世界がないだろうか。

この玄関のドアがユメノトビラだったらいいのに。

ガチャ

にこ「ただにこー!」

こころ「おかえりなさい!」

ここあ「おかえりなさい!」

それでも、この笑顔が私のメランコリックを吹き飛ばしてくれる。

こころとここあは私のタカラモノズ。



にこ「いいこにしてた?」

こころ「はい!」

にこ「今日のご飯はハンバーグよー!」

ここあ「えー、またー?」



困ったときのハンバーグも乱用しすぎてついに飽きられてしまったようだ。

こころ「文句を言ってはいけません!ここあ」

にこ「いいえ。いいのよ。ごめんね、今度は違うの作るから」



ハンバーグを食べながら、久しぶりにのんびりとお話をする。

こころ「最近の探偵にこにーはどうなんですか?」

にこ「……そうね、にこはある機関に重大な秘密を知られてしまったわ」

ここあ「ええ!?にこにーピンチ!」

にこ「でもね、そいつらはそんなこと気にせず、普通に私に接してくれるの」

こころ「優しい人たちなんですね。弱みをちらつかせていいように利用したりしないんですね」

いや、どこでそんな物騒なこと覚えたの?

ここあ「秘密ってなに?」

にこ「それはもう秘密よ。秘密なんだから。知ってしまったらあなたたちも危険よ」

ここあ「えー!悪いこと?やっぱり探偵業は闇と通じてたりするの!?」

だから、どこでそんな物騒なことを?

にこ「さあ、とにかく秘密よ」

こころ「そうですここあ。お姉さまを困らせてはいけません。

以前教わったでしょう?悪いことというのは、最後までやり通さなくてはいけないんです。

嘘や隠し事もまた、最後まで突き通すものなんです。

途中で良心が揺らぐような人が嘘をついてはいけないんです。

悪行の才がない人がそれをすると自分に跳ね返ってくるのです」

にこ「そうよ。ちゃんと教訓を覚えているのね。偉いわ。

……でもそれだとまるで私には悪行の才能があるみたいね」

ここあ「あ!でもそれでもいいんだよね!人それぞれで、誰かに合わせる必要はないんだよね」

こころ「そうです。悪行の才を持つこともまた個性で、そう。

その機関の人たちはそんなにこにーを仲間はずれにしたりしない、素敵な仲間なんですね」

にこ「……そっか。そうね」

こころ「お姉様は私たちを思ってその秘密を教えてくれないんですよね。

優しい隠し事なんです」

ここあ「おお!やっぱり探偵にこにーは非公式の情報を得るために裏の情報屋と関わりがあるの!?」

にこ「どうしてそんな物騒なことを知っているの?」

ここあ「ドラマとかで見たんだよ」

にこ「ドラマが事実とは限らないわ。ちゃんと……」

こころ「それから、自分なりに裏をとったんです。本当にそんなことがありえるのか、とか」

ここあ「情報は自分で判断しなきゃね」

こころ「メディアリテラシーです」



その日のお話は、なぜか私の心をざわつかせた。

なにか小さなものが浅く刺さったようにチクチクした。

いつもは私が言って聞かせる立場なのに……まさかこんなおチビたちの言葉に何ハッとさせられるとは。

いや、それも元はかつて私が聞かせた教訓だったんだけど。

皮肉なものね。私は自分自身の言い放った教訓に刺されてしまった。

ん……?なんだかどっかで聞いた言い回しのような気が……

ああ。そうか、私も所詮……

二人に隠し事をしていることを、後ろめたく思っているんだ。

私もこのままでは、いつかホットドックにコロされてしまうのかもしれない。

しかしそうとわかっていても、探偵のできる仕事は起きた事件の解決だけ。

私には、それを未然に防ぐ力はない。

・・・・・



そんなこんなで忙しくしているうちにサラッと週末が来た。

今日は怪盗ペリメニが私の一番大切なものとやらを盗みに来る。

たまたま今日はみんな都合が悪いらしく、練習は休みになった。

私に気を使ってくれたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

とにかく、みんなが帰ったあとも私は部室に残って怪盗ペリメニの襲撃に備えた。

今日こそやつをとっ捕まえて、正体を暴いてやる。



……はずだった。

何時間待機しただろう?アンパンも牛乳もなく、よく粘ったと感心する。

しかしもう最終下校時刻だ。これ以上は部室に留まることはできない。

……とうとう怪盗ペリメニは、現れなかった。

しかたがないので私は帰路に着く。

なんだってのよ……わざわざバイト休み入れたのに!

ああもう!帰ったら夕飯の用意して、洗濯もしなきゃなのに!

おのれ怪盗ペリメニ……来られない急用でもできたのかしら?

途中で事故にあったとか、渋滞に巻き込まれたとか。心配だわ。

なんにしても時間を無駄にしてしまった……

それにしても、私の一番大切なのものとはなんだったんだろう。

なんてごちゃごちゃ考えながら玄関のトビラを開ける。

ガチャ



えり「おかえり!にこ!」



……は?

のぞみ「おっ!みんな、にこっち帰ってきたでー!」

にこ「な、なに!?」



なぜか、私の家にはμ’sのみんながいた。

こころ「おかえりなさい!」

ここあ「今日はみんなが遊んでくれたんだよ!ご飯もみんなで食べようって」

ことり「いっぱい美味しそうなものつくってるよ!」

うみ「もう少しでできるので。にこはくつろいでいてください」

まき「もうちょっと待っててね、こころちゃんとここあちゃんも」

はなよ「お邪魔してます。にこちゃん」

にこ「怪盗、部室でいつまで持っても来ないし、なにも盗まれてないと思ったら……」

はなよ「いいえ。やつはとんでもないものを盗んで行きました。

……あなたのこころとここあです」


こころ「穂乃果さんタッチです!オニ交代です!」

ほのか「ぎゃー!!!食べちゃうぞー!!!」

ここあ「うわあ!にげろーっ!あはははは」

りん「こっちだよー!おいでおいでー!」



なるほど。それが私の一番大切なものだったのか。

確かに盗まれてしまったかもしれない。

怪盗ペリメニ達は私を部室に釘付けにしているうちに、私の仕事を奪っていった。

私の居場所を奪っていった。

私の代わりにこころとここあの相手をしてくれていた。

私の代わりに夕飯の支度をしておいてくれた。



にこ「……私の負けよ。怪盗ペリメニ……いえ、μ’s」



えり「ふふ。さあ、謎が解けたところで楽しい夕飯の時間よ」



食卓にはたくさんのごちそうが並んだ。

たとえば、ホットドック。もちろんマスタード入りと抜きがある。

たとえば、伝説のスクミズで炊いたご飯。

たとえば、おいしいおいしいお鍋。

タバスコをホットドックにかけて食べる人もいるだろう。

ペリメニ等ロシアンなメニューも見受けられる。

そういえばペリメニにはマスタードをかけることもあると聞いたことがある。

ほのか「ホットドック!花陽ちゃん、そっちのホットドック取ってー」

はなよ「はい、どうぞ!……やっぱりこのお水で炊いたご飯はおいしいね!」

うみ「はい!やっぱりお水はこだわらないといけませんね!」

りん「鍋もあったまるにゃー!おいしいにゃー!」

のぞみ「今回は誰も怪我してないから存分に食べられるね」

まき「ペリメニは耳パンって意味ね。確かに耳みたいな形だわ」

ほのか「パン!?どおりで私が好きなはずだ」

えり「ペリメニは保存食的な側面もあるの。このペリメニもうちでつくって冷凍したものよ」

ことり「これが本当の解凍ペリメニ!」

ほのか「そういうことか!やるねことりちゃん!ヒューヒュー」



・・・・・



その日を境に、怪盗ペリメニ達は頻繁に私の家に現れるようになった。

私は一番大切なものを盗まれてしまったらしかったが、そんなことはどうでもよかった。

だってみんなは私にもっともっとたくさんのものをくれた。

夢、希望、仲間、エトセトラ。

本当の本当に一番大切なものはいつも……




私は「エキストラのにこちゃん」にも「パートのにこちゃん」にも「片割れ月の黒双龍」にもなる必要はなくなった。

わかりやすく言うと、探偵と偽ってバイトをする必要も、主婦の戦場におもむく必要もなくなった。

私は探偵から足を洗った。

多忙な毎日、妹たちへの嘘、……後ろめたさ。

さまざまなものから私は、解放された。

みーんなまとめて、どこかの誰かがついでに盗んでいってくれたみたい。



これが「怪盗ペリメニの招待状」の真相だ。

・・・・・



さて、そろそろ筆を置くとしよう。

では、最後はやはりこの言葉で締めることにする。

にこ「にっこにっこにー……と」

えり「何書いてるの?にこ」

にこ「エキスパートにこちゃん探偵の事件簿よ。今あとがきを終えたところ。

にこちゃん探偵はもうやめるから。そうね、これはにこちゃん作家の始まりかも知れない」

のぞみ「なんや、本当に探偵は店じまい?」

にこ「ええ。もう必要ないもの。でもなんだかんだ、やっぱり私はアイドルよね」

えり「そういえば、あの夜の真相はわかった?」

にこ「あの夜って、伝伝伝盗難の話?まあ、おおよそは」

のぞみ「おっ、聞かせてもらおう」

にこ「簡単よ。なにせ八人がかりなんだもん。

絵里が私を連れ出し、そのスキに花陽か真姫あたりが部室の窓を開ける。

で、残りのメンバーが総力を上げれば窓からの侵入はそう難しくない。

ちなみに窓が割れてないのに聞こえたパリーンって音は花陽の携帯の着信音ね。

どうせ携帯で連携とってたのにサイレントにし忘れてたとかでしょ。

で、駆けつけた私に真姫がドアからの人の出入りはなかったというような主旨の供述をする。

こんな感じね。

あ、そうそう希!あんた大ミスかましてたわよ。

あのとき、ウチより伝伝伝は?なんて言っちゃってたし。

なんであんたが盗まれるものが伝伝伝だって知ってるのよ?ってなるじゃない」

のぞみ「あちゃー」

にこ「それにしても大芝居を打ってくれたわね」

ほのか「あの着信音、気になるよね。私もびっくりしちゃった」

うみ「さすがですね。にこ、正解ですよ」

ことり「解答ペリメニ!」

ほのか「やるねことりちゃん!ヒューヒュー」

にこ「そうだ、これだけ教えてよ。なんでペリメニだったの?」

まき「ペリメニの起源は定かではないのよ」

にこ「はあ?適当ってこと?」

まき「そうじゃないわ。食べ物のペリメニの話」

えり「ロシアの家庭料理、ペリメニはいつから食べられるようになったのかわかっていないの。

逆に言えばいつの間にか食べられていたってことね」

まき「私たちはみんなペリメニなのよ。もちろん、にこちゃんもね」

えり「ペリメニはいつの間にか当たり前のように食卓に並んで、

いつの間にかかけがえのない物になっていたのよ」

ことり「ペリメニはあったかくて、包み込んでくれて、あったかいんだよ。

さあ!みなさんご一緒に!」

μ’s「解凍ペリメニ!」





エキスパートにこちゃん探偵



終劇

・・・・・



りん「た、助けて!」

突然ドタバタと遅れて星空凛がやってきた。

ことり「あ、凛ちゃんやっときた!花陽ちゃんは?」

りん「大変なんだよ!またまた、かよちんがっ!!!」

まき「花陽がどうかしたの!?」

ほのか「まさか……花陽ちゃん……」

りん「と、とにかくみんな来て!!!」



ふう、どうやらまだまだ引退はさせてもらえないようだ。



にこ「ったく!しょーがないわねー!!!」



やっぱりまだまだ終われないわ!

エキスパートにこちゃん探偵は、今日も行く。

おしまいです。お付き合い下さった方ありがとうございました。

では、最後はやはりこの言葉で締めることにします。



※かよちんは死んでいません


かよちん死にすぎだにゃー

いい話だったな


おもしろかった


いろいろ趣向が凝らしてあって面白かった

なんで穂乃果は花陽を2回刺したし

>>1の文章好きよ、乙
パーフェクトまきちゃんメモと繋がりあって嬉しかった

おもしろい

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