絵描き「青をください」助手「はい」(28)

絵描き「青色をください」

助手「はい」

絵描き「なんて瑞々しい青でしょう」

助手「左手首の静脈から取りました」

絵描き「道理で水分が多い」

助手「恐れ入ります」

絵描き「わたしは海辺を描きたいのですから問題ない」

助手「はい」

絵描き「海は素敵です」

助手「そうですか」

絵描き「溺れたら死にますが」

助手「ヘモグロビンはありますか」

絵描き「ありません。よってヘモグロビンに溺れる心配はありません」

助手「では何に溺れますか」

絵描き「それはあなた、青色でしょう」

助手「ああそうか」

絵描き「赤色を下さい」

助手「はい」

絵描き「ほんわりして素敵」

助手「ほっぺたの上の方から取りました」

絵描き「これで郵便受けを描きます」

助手「わくわく」

絵描き「郵便といえば、久しく手紙を貰っていないものです」

助手「欲しいですか」

絵描き「多少は」

助手「そうですか」

絵描き「時々はとても」

助手「ふむ」

絵描き「素敵な赤です。下睫毛の下から取っただけはあります」

助手「やや。こんなところに先生宛の手紙が」

絵描き「おお。読んでください」

助手「『お絵かき頑張っていますね。郵便受け素敵です。がんばれ。』」

絵描き「ずいぶんタイムリーなお手紙」

助手「……」

絵描き「これで今日も1日頑張れます」

助手「うふふ」

絵描き「黄色をください」

助手「はい」

絵描き「とても見覚えがあります」

助手「手の甲から取りました」

絵描き「今まであなたの手は白いと思って生きてた」

助手「黄色人種ですから」

絵描き「納得」

絵描き「これでお日様を描きます」

助手「今までお日様は赤だと思って生きてた」

絵描き「そうですか」

助手「思い込みでした」

絵描き「わたしの太陽が黄色くて、あなたの太陽が赤いだけ」

助手「そうですか」

絵描き「いつかあなたの太陽を描きます」

助手「……」

絵描き「描きますよ」

絵描き「緑色をください」

助手「はい」

絵描き「なかなか筋っぽい緑」

助手「今朝食べたほうれん草が、奥歯に挟まっていました」

絵描き「禁じ手チック」

助手「なにか」

絵描き「いえ何も」

絵描き「これで信号機を描きます」

助手「ほうれん草の緑だけど」

絵描き「ほうれん草の緑で」

助手「信号機を」

絵描き「描きます」

助手「うふふ」

絵描き「もう少しで前に進めます」

助手「地球に信号機がないとなにか支障がありますか」

絵描き「進めませんからね」

助手「緑じゃないと進めない」

絵描き「ルールですから」

助手「誰が決めましたか」

絵描き「そこはかとなくえらいひと」

助手「どこのですか」

絵描き「さあ」

助手「ほんとに進めませんか」

絵描き「……ふむ」

絵描き「茶色をください」

助手「はい」

絵描き「ふうわり光っていて綺麗」

助手「枝毛から取りました」

絵描き「これで野良犬を描きます」

助手「わんわん」

絵描き「枝毛というからには」

助手「はい」

絵描き「髪の毛のお手入れをあまりしていない」

助手「ああ」

助手「先生の絵を見ていると、1日が終っていくのです」

先生「ふむ」

助手「よくわからないこんな枝に構っている暇は見つかりません」

先生「野良犬の尻尾の長さをあなたに決めてほしいです」

助手「ならこの枝毛ほど」

絵描き「ずいぶんながい」

助手「わんわん」

絵描き「桃色をください」

助手「はい」

絵描き「硬派な雰囲気がよろしい」

助手「膝小僧から取りました」

絵描き「ちょっと擦れてるところが素敵」

助手「うふふ」

絵描き「果物の王様はもも」

助手「みかん」

絵描き「水分たっぷりなもも」

助手「その点明らかに負けませんなみかん」

絵描き「お値段分だけ身がつまってますもも」

助手「段ボール買いしましょうみかん」

絵描き「リーズナブルですが高級感から醸し出されるありがたみも考慮してください」

助手「では目をつぶって」

絵描き「はい」

助手「冬です」

助手「居間です」

助手「こたつです」

絵描き「みかんです」

助手「ありがたやー」

絵描き「白色をください」

助手「はい」

絵描き「頭蓋骨から取りましたか」

助手「いえ八重歯です」

絵描き「悔しい」

助手「わたしの頭蓋骨は露出してないので」

絵描き「ああそうか」

絵描き「これで雪を描きます」

助手「雪を積もらせますか」

絵描き「それとなく」

助手「こんこんと積もらせますか」

絵描き「しんしんと積もらせます」

助手「実は雪を見たことがありません」

絵描き「海もないですね」

助手「ばれてました」

絵描き「わたしもこんこんと積もらせてるのは見たことないから大丈夫」

助手「ああよかった」

絵描き「しんしん積もらせますね」

助手「しんしんは見たことあるんですね」

絵描き「……」

助手「……先生?」

絵描き「紫色をください」

助手「はい」

絵描き「葡萄みたいです」

助手「上唇から取りました」

絵描き「寒いですか」

助手「青を取ったので…」

絵描き「なんていいましたか」

助手「いえなにも」

絵描き「これで花を描きます」

助手「はい」

絵描き「何の花が好きですか」

助手「名前がわかりません」

絵描き「言ってみなさい」

助手「コンクリートに住んでる五分刈りの彼…」

絵描き「彼はタンポポと言います。厳しい環境化でもめげないなかなかの好青年です」

助手「なんだか照れちゃう」

絵描き「花びらっておいしそう」

助手「好青年な彼もですか」

絵描き「あれは花びらって感じではありません」

助手「よかったよかった」

絵描き「薔薇はなかなか」

助手「バラは知ってます」

絵描き「おお」

助手「いつか先生に白いバラを渡します」

絵描き「待ちます」

絵描き「黒色をください」

助手「はい」

絵描き「泣きたいくらいに暖かい黒です」

助手「瞳から取りました」

絵描き「これで夜を描きます」

助手「わくわく」

絵描き「ここから最後まで大仕事」

助手「がんばって先生」

絵描き「えいさえいさ」

絵描き「昼より夜が好きです」

助手「なぜですか」

絵描き「静かでよろしい」

助手「ふむ」

絵描き「色もそんなに見えない」

助手「見えないほうがいいですか」

絵描き「あなたの色はよく見えます」

助手「ふむ」

絵描き「あなたはどちらが好きですか」

助手「昼です」

絵描き「ふむ」

助手「あなたの絵がよく見えました」

絵描き「えいさえいさ」

助手「今となっては同じことですが」

絵描き「えいさえいさ」

絵描き「完成です」

助手「はい」

絵描き「わたしのふるさとを描いたのです」

助手「そうですか」

絵描き「いつかあなたをここに連れていきます」

絵描き「その時迷子にならないようによく見ておきなさい」

助手「素敵な風景です」

絵描き「でしょうでしょう」

助手「しかしもう見えないのです」

絵描き「……」

助手「先生がこれをよく見ておくべきです」

助手「ひとりぼっちでも迷子になってはいけません」

助手「ぜったいですよ」

絵描き「赤色をください」

絵描き「……」

絵描き「……」

絵描き「……」




絵描き「ではわたしの動脈から。これで太陽を描きます」

これで終わりです
天才と凡人の話でした


似た作風の作品を深夜で読んだことがあるはずだがどうしても思い出せない、好きなのに

>>24
ありがとうございます
ここには初めて投稿したので別の方だと思います

好きです、結婚してください

>>26
ありがとうございます
貧乳でよければ

やあ、あの頃からファンです

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom