希「支える人。支えられる人」 (92)
ep.1 3年目の記念日
都内某所のとあるマンションの一室
そこにウチは住んでいてな
音ノ木坂に入学してからずっとそこで暮らしてる
ただ、音ノ木坂に通っていたころと違うと言えば
いまはあの子と二人暮らしって事
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412428420
音ノ木坂を卒業してからもう5年
あの子と同棲してからもう3年
あの頃は家に帰っても誰もいなかったけれど
今は帰りを待っている人がいる
なんだかとっても素敵やね
あの子が作ってくれた小さな小さな熊のぬいぐるみのストラップ
そこについてる家の鍵を取り出し扉を開ける
ガチャリ
「ただいまー」
「おかえりなさぁーい」
パタパタと家の奥から足音が聞こえてくる
「希ちゃんお帰りなさい。さっき帰ってきたばっかりだからごはんまだなんだ。ごめんね」
「ううん、大丈夫やで。ウチも手伝うよことりちゃん」
「そんなのいいよー。希ちゃん仕事で疲れてるでしょ?ゆっくりお風呂に浸かってきて」
ことりちゃんの柔らかくて、甘い声が激務に疲れた体を癒してくれる
ことりちゃんがいるから今日も明日も明後日も頑張っていける
そんな気がする
本当、ことりちゃんと出会ってよかった
ことりちゃんのお言葉に甘えて、ウチは先にお風呂をいただいて
お風呂から上がってことりちゃんと一緒にお夕飯作り
今日のお夕飯はとっても豪華
そう
今日はことりちゃんと同棲を初めてちょうど3年目の記念日
ことのぞとは貴重な
当時、大学1年生のことりちゃんが理事長と喧嘩してウチの家に転がり込んだ
「希ちゃん………あのね……」
「しばらく…泊めてくれないかな?」
「お母さんと喧嘩……しちゃったの」
突然やってきたことりちゃんがそう言ってな
すごく驚いた
数日うちに泊まる。そう思っていたら
なし崩し的にウチの家に同棲することになってな
その時くらいからかな?
ことりちゃんとは友達以上の関係になったのは
理事長とはもう仲直りしたって聞いてる
今は誰にも邪魔されることもなく
ウチとことりちゃん、2人で仲良く暮らしてる
時々エリちや凛ちゃんがお泊りに来るけどな
「それでは――――」
「乾杯♪」
カチンとグラスを鳴らし
今日の為に買ってきた上物の赤ワインを口に含む
お酒は時々ことりちゃんといただくけれど
うん。やっぱりいつものとは全然違うなぁ
思わず笑みがこぼれた
「はぁい。希ちゃん」
綺麗な包装紙に包まれた箱が目の前に
「プレゼント交換だよー?」
うん。分かってるよ
ウチも用意してる
でもそれはまだちょっとお預け
ことりちゃんのプレゼントから開けることに
がさがさ――――
「お……これ…」
箱の中には――――ウチ好みな少し時代を感じる木製のオルゴール
「巻いてみていい?」
うん
柔らかい返事が帰ってきて
ウチはゼンマイを巻いてみた
するとオルゴールからはとても懐かしくて、でも馴染みのある曲が
「これ………」
「うん。真姫ちゃんや皆に手伝ってもらって作ったの」
え?
「これもしかして……ことりちゃんが作ったん?」
ことりちゃんはにっこり笑顔でコクリと頷いた
こんなに手の込んだお手製のプレゼント
ホント
本当に嬉しくて
なんだか涙が出てきた
ありがとうな、ことりちゃん
さて、今度はウチがプレゼントを渡す番なんやけど
「んと…な」
「ウチからのプレゼントなんやけど、ここにはないんよ」
え、どういう事?
そう言いたげな表情になっていることりちゃん
「もうすぐ夏休みやん?ウチ、休暇とるから一緒に旅行いこか?」
「ことりちゃん。南がいい?それとも北?」
「貯金もしてるから、海外もオッケーよ?」
旅行計画を続けざまに話しているけど
正直申し訳ない気分
だって釣り合ってないやん?
ことりちゃんのプレゼント。とっても素敵やん
ウチのなんかと全然違う
それでもにっこり笑顔のことりちゃんは
いつもと同じ柔らかい声で
「うん、嬉しい。ありがとう希ちゃん」
って
本当に申し訳ないなぁ
――――よぅし、4年目のプレゼントは気合の入れた物にしよう
心の中でぐっと強く決心した
「さぁて、そろそろご飯食べよっか?」
ご飯が冷えちゃう。そう食い意地張ったように言うと、ことりちゃんがフッて噴き出した
「もぅ…希ちゃんでば」
クスクス笑うことりちゃん
クスクス笑うことりちゃんなんだけど
なんだかツボに入ったようで、しばらく笑いこけてたなぁ
つられてウチもクスリと笑った
「あぁ……なんだか幸せだなぁ」
「ウチもやね」
もう6年になるんやね。ことりちゃんと出会って
「あぁ、そうだ。今日ね、お米が届いたの。花陽ちゃんから」
「おお、花陽ちゃんのお米美味しいからとっても嬉しいなぁ」
花陽ちゃんは今、東京を離れている
もっと美味しいお米を作るんだー!って言って、少し前から親戚の農家の所で頑張っているみたい
時々お米を送ってくれるんやけど、これがまた絶品で
ウチらの間ではひそかにブームになっている
いいなぁ
みんな夢を持ってて
ことりちゃんは大学で服飾の勉強してるし
ウチはもう夢追いかけるような年齢じゃないし
ことりちゃんを支えることしかできないから
ウチはことりちゃんのお手伝い、やね
夕食の時の会話は決まってこう
今日一日の出来事をお互い話し合う
当たり前な事やけど
とても重要な事
今日はこういうの作ったよー。とか、帰りに海未ちゃんにあったよーとか
そういうの聞いてるだけでもとっても楽しくて嬉しい
ひとりやったらどうなってたんやろうね?
そんな事考えるのもめんどくさくなるくらい
今が充実してる
「うん――――このローストビーフ美味しいなぁ」
「ふふ、一番力入れたから――――ことりの力作だよっ」
「そうなん?でもこのサラダもとっても美味しいよ?」
「それは希ちゃんが作ったやつだよー?」
「ううん、ことりちゃんが切ってくれたトマトがとってーも甘くて美味しいんよ」
「希ちゃんが美味しくなりますよーに。っておまじないしてくれてるからだよ?」
「そんなことないよ。ことりちゃんのおかげだってー」
なんて――――
傍から聞いたら恥ずかしいような会話もできたりして
なんだかとっても嬉しい
このような
何も変哲のない毎日が
ずっと、ずうーっと―――――いつまでも続きますように
それが今ウチのたった一つのお願い事です
一旦ここまで
続きは余裕のある時に書きます。
ことのぞ要素のある下のSSもよろしければどうぞ
ことり「ことりの抱き枕」
ことり「ことりの抱き枕」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400676591/)
希「今日も今日とてお昼寝日和」
希「今日も今日とてお昼寝日和」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406889632/)
久々に書くとなんだかおかしな所がたくさんできますね。
もっとまともなのを書きたいです。
おつ
たいへんすばらしい
ことのぞええなぁ…
乙
続き楽しみに待ってる
これはまた貴重なものを書いてくださった
おつおつ
いつも楽しませて頂いてます
ep.2 ある日の決意
とある夏の日
珍しく仕事も定時に終わり
街を歩いてる夕焼け空
音ノ木坂に通っていた時にエリちや穂乃果ちゃんと歩いた道は今でも歩く
あの時と違うのは、スーツを着てひとりで歩いているって事かな?
大学を卒業して、新卒1年目のウチは自宅からでも通える近場の会社に勤めてる
理由?
ことりちゃんの待つあの家を離れたくないから
μ'sの思い出の場でもあるし
どんなことがあっても離れることは……ないかな
ふと、横切った音ノ木の制服の子
楽しそうにはしゃいでる
ウチもあんな時があったんやなぁ。としみじみしてると
ぴゅう
この時期には珍しく、ひんやりとした風が吹いた
もうすぐ夏が終わる――――
ことりちゃんもあと半年もしないうちに大学を卒業するんやね
ことりちゃん卒業したらどうするんやろ?
ひとり暮らしするんかな?それとも今のままウチと一緒に暮らしてくれるんかな?
家から出てしまうんやったら少し悲しい。いやすごく悲しい
そんな事を考えてしまうと、なんだか少し気分が落ち込み気味
「希ちゃーん」
突然、後ろから柔らかい声
振り返るとことりちゃんが小走りで走ってきた
「ことりちゃんやん。もう学校終わったん?」
「うんっ。今日はもう終わりだよ」
「そうなんやね。ウチも珍しく残業なくて今帰ってるんよ」
「一緒に帰ろうか?」
うん。と短い返事を返したことりちゃんと手を繋いで歩き出す
ほんのり温かい手のぬくもりがとても気持ちいい
みゃー
どこからか可愛らしい声
ことりちゃんも聞こえたようでウチと目を合わせる
みゃー
また聞こえた
「どこにいるんだろう?」
ウチとことりちゃんとで辺りを見回す
すると電柱の陰からとっても可愛らしい茶トラの子猫が姿を現してな
「わあぁぁ~~っ!かわいい~!」
ウチとことりちゃんが声をそろえて黄色い歓声を上げた
茶トラの子猫は意外と人懐こいみたいで
すりすりとウチの足元にすり寄ってきた
ことりちゃんとウチはしゃがみこみ、喉をスリスリ頭をナデナデ
みゃー
目を細めた茶トラの子猫は喉をゴロゴロ鳴らせてとっても気持ちよさそう
「可愛いなぁー……ノラかなぁ?」
「どうなんやろうね。首輪はないみたいやけど……」
そんな会話をしながら
少しの間茶トラの子猫と戯れていたけど
タタタッ
何かを思い出したようで急に走り去ってしまった
「ああぁぁぁ………」
「可愛かったなぁ……」
ことりちゃんの甘いため息
あんなに可愛い猫ちゃん。ウチも飼いたいけど
ペット禁止だから
ペット禁止なのはことりちゃんも知ってる
動物特集のテレビ番組を見るたびに
飼いたい衝動に駆られるけど
「ことり、やっぱり子猫飼いたいなぁ……」
「よぅし決めた」
何かを決意したようで、立ち上がることりちゃん
「ことり子猫飼う!」
「でもうちペット禁止―――――」
ウチの言葉を遮るように言葉を続けて
「働いて、お金を貯めて、ペット大丈夫な所に一緒に引っ越そう?」
「希ちゃんもペット欲しいって言ってたし」
「希ちゃんの職場の近くで探したら、希ちゃんの通勤時間も減るしいいかなって」
目をキラキラさせて話すことりちゃん
ことりちゃんがこうまで押してくる事はとても珍しくて
どうやら本当に決意したみたい
あかん。ことりちゃんの決意で今までのウチの考えが揺らいでる
んー…………
頭の中で少し考える
μ'sとしての思い出の場所がなくなるのは悲しいけど
ことりちゃんと一緒なら寂しくはないかな
「それじゃあ、まずはことりちゃんの就職が最優先やね」
ウチがそう言うと、少し誇らしげに
「えへへ、実は~………決まりましたー」
ええっ、そんなん初耳!
今までずっと就活の事は話題に上がらなかったから
きっとまだ苦労してるんやな。って思ってたけど
「すごいすごい!ことりちゃんどこ決まったん?」
「ふふ~……希ちゃんの知ってるところ♪」
すごく上機嫌に話すことりちゃん
ウチの知っているところ?
ウチの知っているところで、服飾に関係する所ってどこなんやろ?
少し真剣に考えてみる
うーん………わからない
「ふふっ、実はね。穂むらに決まったの」
「ええっ、穂乃果ちゃんのところ!?」
意外
だって、ことりちゃん大学に服飾の勉強行ってるから
きっと就職もそうなるんやろうな、って
「穂乃果ちゃん卒業したら和菓子作りの修行で京都に行くんだって」
「でね、その間穂乃果ちゃんの代わりにことりが穂むらで手伝う事になったの」
「もちろん穂乃果ちゃんが帰ってきた後も手伝うから」
嬉しそうに言葉を続けることりちゃん
でも――――
少し、少しだけ、いつもより口調が早い印象があった
まるで何かを隠したいような感じ――――
「ことりちゃん、服飾の方はいいん?せっかく大学でも勉強したんやし」
「うん。勉強もした。μ'sで衣装作りもした。それでことりは満足なの」
「だからね、今度は皆のお手伝いしようかな。って」
やっぱりなんか違和感
でも、今聞いても何も答えてくれないと思う
だからウチは――――
「そうなんかぁ。μ'sで満足したんか」
「とーっても楽しかったし、ことりちゃんがそう言うのも納得やね」
「うんっ。だからね、お昼は穂乃果ちゃんや雪穂ちゃんをお手伝いして」
「夜は希ちゃんの疲れを癒してあげます」
ずっとウチの手を握っていたことりちゃんの手が離れ
ウチの両頬に触れた
「だって――――今この時が一番好きだから」
ことりちゃんって時々過激
思わず頬を赤らめたと思う
うん、いいよ
ことりちゃんがそう決めたのなら
ウチがことりちゃんを支えるよ
きっといつまでも――――
一旦ここまで
ひっそり更新。きっと次回で完結します。
ん?ってなるところはたくさんあると思いますが、生暖かい目で読んでもらえると助かります。
乙ー
乙
ep.3 これからはきっと
ずっと
ずっとずっと疑問を抱いている
あの時から
ことりちゃんが穂むらに就職が決まったって話した時から、なんだかことりちゃんの様子がおかしい
何かを隠しているのか
パタッと学校での出来事を話さなくなった
就職活動で友人皆忙しくて―――って言ってはいたけど
それも必死な言い訳に感じた
一番気になったのが、ことりちゃんの携帯電話
ことりちゃんがお風呂をいただいている時に、ブゥーンとことりちゃんの携帯がなってな
ふと、画面が目に入った
電話の主は音ノ木坂の理事長。つまりはことりちゃんのお母さんで
その時はなんとも思わなかった
母親が娘に電話なんて普通な事なんやし
でもな
その後のことりちゃんがおかしかった
戻ってきたことりちゃんに
「ことりちゃん電話なってたよ。ことりちゃんのお母さんっぽかったけど」
ここまで言って
「ふぇっ!?あ、う、うんっ!希ちゃん出たの!?」
すっごく慌ててん
「ううん。偶然画面に映った文字が見えてな」
なんだ、よかった――――
そう言いたげに、ホッと胸を撫で下ろしていた
もしかしたら――――
まだ理事長と喧嘩をしているのかも
理事長とは音ノ木坂を卒業して以来あっていなくて
仲直りしたっていうのも、ことりちゃんがそう言ってたから
きっとそうなんやろうなって
なにか
なにかを隠している
ウチはタロットカードに手を伸ばした
学生を卒業してから、日常の忙しさでなかなか触れなかったけど
「ごめんな。最近全然かまってあげられなくて。久しぶりやけど力かしてな?」
久々に触ったカードにそう謝って、カードをめくった
――――――――――――――――
日も沈みかけて
窓から差し込んでいた夕焼けもだんだんと黒ずんてきた
コツコツと時計が時を刻む音だけがこの部屋を支配してる
「――――なぁ、ことりちゃん」
不意にウチが口を開ける
「ことりちゃんのお母さんから聞いたよ。留学勧められたんやろ?」
「ウチが言いたいこと、わかる?」
「………」
俯きながらも
うん、とゆっくり頷くことりちゃん
「ことりちゃんが本当にやりたいこと、何?」
「………」
俯いたまま
「服飾の仕事すること?それとも穂むらで働いて、穂乃果ちゃんや雪穂ちゃんのお手伝いすること?」
「それともウチと一緒に暮らすこと?」
「ウチな、ことりちゃんがどんな決断をしても責めたりせんよ?」
「ウチが支える。だから―――――」
「わからないよ」
ずっと黙っていたことりちゃんが
「わからないよぉ………自分でも……」
「希ちゃんと一緒に暮らしたい………穂乃果ちゃんのお手伝いもしたい……」
「でも……」
「夢を………諦めたくないよぉ………」
震えた声、瞳には一杯の涙が溢れて
こんなことりちゃんを見たのは何年ぶりかな?
「教えて………希ちゃん…」
「ことり……どうしたらいいのかわからないよぉ……」
手を差し出したかった
ギュって抱きしめてあげたかった
でも―――――
「それは………ことりちゃんの決めることや」
「ウチは穂乃果ちゃんやない」
「あの時の穂乃果ちゃんみたいに引っ張ったりせんよ。自分で決める時なんよ?」
突き放した
だってそれが――――ことりちゃんの為になると思ったから
ことりちゃんもそろそろ
前を歩くべきなんやと思う
だから――――
「ウチは何も言わないよ」
「何が一番大事で、何をしたいか。自分で決めるんよ」
「――――今日はエリちのとこ、泊まるから」
「ひとりでじっくり考えてな」
「やだ……やだよぉ……教えて…希ちゃぁん……」
すすり泣くことりちゃんに振り返ることなく
バタンと扉を閉めて家を出た
わかってた
ウチが枷になってることくらい
音ノ木坂の時はμ'sがあって夢を追いかけきれんかった
μ'sを、スクールアイドルをやっていたことりちゃんは本当に楽しそうだった
でも、きっと心のどこかで後悔してたんやろうね
大学に行って
本格的に夢を追える。そんな時にウチがことりちゃんの足を引っ張って
だめやね。本当に――――
翌日
家に帰るとことりちゃんはいなかった
最小限の荷物もなくなっていた
これが
ことりちゃんの選択した道なんやね
とても悲しいけど
ことりちゃんの決めた事、ウチが望んだ結末
溢れだした涙で前が見えなくなって
そして――――ポツリ呟いた
「さようなら。ことりちゃん」
翌週
ことりちゃんは日本を発った
海未ちゃんから聞いた情報で
ウチには何も言わないで――――
あの後
ウチは滅多に家に帰らなくなった
ほとんどはエリちの家にお泊りをしていた
μ'sとしての思い出の場所は
すっかりことりちゃんとの二人の思い出の場所に変わっていて
「はぁ………」
エリちの住んでるアパート
そのベランダでひとり夜空を眺めていた
今日は曇り
星は全く見えない
今のウチの心と同じ
ぴたり
首筋に何かひんやりしたものが当たって
脊髄反射でウチは「ひゃあ!?」と素っ頓狂な声をあげた
「いつまで空を眺めているの?」
振り返るとそこにはエリちがいて
かすかに顔が赤い
「ずっと私の家に居候してるんだから、たまには付き合いなさいよ?」
両手には発泡酒。片方はすでに開封済み
さっき首筋に当たったひんやりした物の犯人はこれやったみたい
少しでも
少しだけでも
今の気持ちが忘れられるのなら、と
そう思い、エリちの持っていた発泡酒に手を伸ばした
「それでねぇ………その時の上司がねぇ…」
エリちが愚痴って
「へぇ……そうなんやね」
ウチが聞き入れる
よくある光景
けれどそれが
ことりちゃんと過ごした日々と重なって少し胸が痛い
「希はー…どー思ってるのよー?」
唐突に投げかけられた質問
「そうやね……ウチはやっぱりダメだと思う事はダメっていうべき――――」
「違うわよ」
さっきまでのグデグデだったエリちの声は
いつの間にか元の凛とした声に戻っていて
「ことりのこと……もういいの?」
でも、もうことりちゃんは――――
そうウジウジと呟いていると
「ことりは前を歩き出したのに、希はいつまでウジウジしているのかしら」
「そんな希は嫌だなー」
意地悪く、でも的を得ていたそれは心にグサッと来た
クイっと発泡酒を口に含んだエリちは、少しの間を置いて
「希が望んでいるのはなぁに?」
「大好きなあの子と一緒に暮らすこと?」
「それとも元クラスメイトの家に居候して、ウダウダしながら日々を送ること?」
「ことりが望んでいること、希がするべきこと。もう分かっているんじゃない?」
言いたいことを全部言い終えた
そう満足したようなエリちはぐいっと背伸びをして
「明日も仕事だから私はもう寝るわ」
「ひとりでじっくり考えなさい」
少しフラフラになっていたエリちはひとりベランダを後にした
ひとりでじっくり考えなさい
ことりちゃんに言い放った最後の言葉
その言葉はとても重たくて
すごく後悔した
ことりちゃん。寂しかったんやろうなって
「ウチが望んでいる……か」
再び夜空を見上げる
曇っていた空は少しだけ晴れていて、星がちょこっと見えた
「望んでいることなんて決まってるやん」
季節は進んで春
温かいから暑いに変わる境目の今日この頃
ウチはいま、外国にいます
見慣れない風景に見慣れない人たち
くすくす。まさかウチが日本を出るなんてな
ずっと日本にいるって思ってたからなんだか自分でも意外
もうすぐあそこにつく
そこにあの子がいる
ウチが支えてあげないと
マンションの一室
KOTORIと書かれている表札を見つけたウチは
呼鈴を鳴らした
はぁーい♪とかすかに聞こえた柔らかくて甘くて
とても懐かしい声
ガチャリ
「え………のぞみちゃ……!?」
半年ぶりに会ったことりちゃん
なんだか少し大人になって、色気も増したって言えばいいのかな?
少しだけ成長したように感じた
会いに来たよ。ことりちゃん
「ことりちゃん………あんな……」
「しばらく…泊めてくれんかな?」
「エリちと喧嘩……したんよ」
ちょうど4年前
突然やってきたことりちゃんがウチに言った言葉を丸々言い返す
4年前、ことりちゃんがうちに転がり込んだ
今度はウチがことりちゃんの家に転がり込む番やね
驚いた表情だったことりちゃんは
次第に瞳に涙を浮かべて
「うんっ!」
短い返事とともに、ウチの胸へ飛び込んだ
本当、ウチがついとかんとダメなんやから
少しだけ悩んでしまったけど
最初から決まっていたんよ
あの時より
少しだけ前を歩き出したことりちゃんを
後ろからしっかりと支えてあげないと
それがウチの決めた道やから
そう思いながらも
胸の奥に閉まっていた感情が、どばーって飛び出して
ことりちゃんと抱き合って泣いてしまったよ
これからはずっと一緒だから
なにがあっても
ウチはことりちゃんと――――
おしまい
最後まで読んでいただきありがとうございました。
やっぱりこういう路線は少し苦手です。
次回よりほのぼの系に戻ります。
乙、絵里ちゃんがイケメンだったw
こういう一度別れて、お互いを見つめ直してから、またくっつく話いいよな
青い花を思い出したw
乙
ことのぞも割りと良いな
乙でした
このSSまとめへのコメント
ことのぞいいよな、
増えないかな♪
新発見やわ