【艦これ】「提督、榛名は……榛名は大丈夫ですよ」 (104)
初投稿です
更新速度は週一程度を予定
地の文あり
シリアスあり
キャラ崩壊している可能性あり
轟沈ネタを含みます
至らぬ点ばかりだと思いますが、完結はさせたいと思います。何卒宜しくお願いします
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「くっ、まさか待ち伏せされてたとはな」
日が沈んでしまえば闇に支配される海原。その海面を仰々しい装備に身を包んだ少女達が滑走する。
「どうりで道中の敵があっけなかった訳ね。連戦連勝で調子づいた私達を懐まで誘き寄せ、大軍で囲って逃げ道を塞ぎつつ叩く。なんともまあ、古典的だわ」
「その古典的に、私達はまんまとしてやられた訳だが」
「うるさいわよ、長門! 黙って走りなさい。追い付かれてしまうわ!」
海原を全速力で走る少女達の数人は衣服が損傷し、一人に至ってはその自慢の飛行甲板が破壊されている。
「比叡さん、もう私を置いていってください。せめて、囮にくらいは……!」
「幾ら赤城さんのお願いでも、それは聞けません! 私達は誰一人欠ける事なく帰るんですよ!」
「ですが、このままではいずれ……!」
比叡と言う少女の肩を借りている赤城と呼ばれた少女はそこで言葉を飲み込む。
敵の包囲を無理矢理抜けたため、ここに居る者で無傷の者は居らず、且つ全員が疲弊している。
そのうえ、大破している赤城や、そもそもの速力が低速な長門が居るこの艦隊、敵に追い付かれるのは時間の問題である事は、ここに居る皆が分かっていた。
「そうだな、追い付かれる。追い付かれてしまえば、戦闘になるのは避けられない」
「問題が、戦闘になったら私達は孤立無援の状態で、次々と到着するであろう敵主力と戦わなければいけないって事なのよ」
先ほどツインテールの少女に長門と呼ばれた少女が、赤城が飲み込んだ言葉を引き継ぐ。そして、更にその言葉をツインテールの少女が繋いだ。
状況は絶望的。しかし、今の彼女達に出来るのは懸命に走る事くらいだけである。たとえ傷ついても全員で帰る。どんなに無様でも、生にしがみつく事を諦めるな。そんな提督の教えを信じて。
「っ……! 敵の反応よ!」
索敵能力に秀でたツインテールの少女の表情に緊張が走る。
「もう追い付かれちゃったかー。思ってたより早くてキツいわー、ホント」
「いいえ、北上。反応は後ろからじゃないわ」
夜間の命をかけた逃亡のプレッシャーからか、額に浮かぶ汗を服の袖で拭いつつも北上と呼ばれた少女は、あえて普段通りの口調で弱音を吐く。その言葉に先頭を走っていた少女が頭を振って立ち止まる。
「五十鈴さん、それはもしかして……」
「ええ、榛名。どうやら伏兵みたいね。前方に熱源反応よ。そして、厄介な事に、この反応は潜水艦だと思うわ」
先頭を走る五十鈴と呼ばれた少女が立ち止まったために、全員の足が止まる。その五十鈴に駆け寄る比叡と同じ衣装に身を包んだ少女。その榛名と呼ばれた少女にやれやれと軽く肩を竦めながら五十鈴は答えた。
「よりにもよって潜水艦か。しかも今は夜と来たもんだ」
「ええ、対潜装備は誰もなし。そもそも、潜水艦に攻撃できるのが私と北上だけ」
「でも、やるしかないですよ。ここで立ち止まっていても、いずれ追い付かれて全滅です。それなら、榛名は前だけを向きます!」
悲壮な雰囲気を吹き飛ばすように、榛名は声を張り上げる。それに感化されたのか、全員の顔つきが変わった。
「そうだねー。私もまだまだやりたい事があるし、ここで沈んでなんかいられないよ!」
「榛名が気合いを入れてるのに、姉である私が腑抜ける訳にはいかないですね……!」
「……そうね。じゃ、行くわよ、皆。私と北上は潜水艦の無力化を優先。トドメを刺す必要はないわ。戦艦の皆は赤城の護衛をお願い。私達は誰も沈まないんだから!」
五十鈴の言葉と同時に再び駆け出した六人は、潜水艦が待ち受ける海峡へ突入した。
ー鎮守府sideー
「夕張、回線はまだ繋がらないのか!」
「申し訳ありません、提督。敵の妨害が強すぎて上手く……」
「くっ……。いや、すまない。夕張、落ち着いて作業を続けてくれ」
「はい!」
提督と呼ばれた海軍の軍服に身を包んだ青年が表情を歪ませる。出撃させた第一艦隊と突如連絡が取れなくなったのだが、その回線の回復が上手くいかず、焦りだけが募っていく。
「気持ちはわかるけど落ち着いて、ご主人。この状況で貴方が焦ると、指揮に影響が出るし、私達も冷静さを失ってしまう」
「漣……」
部屋の扉が開き、入室してきたのは漣と呼ばれた少女。彼女は提督の様子を一瞥した後、小さく息を吐きつつ言葉を投げ掛ける。
「ほら、根を詰めすぎよ、ご主人。大方の命令は出したんだから、ちょっと頭を冷やしてきなさいな」
「だが……。……ああ、そうだな。少し、落ち着くために夜風に当たってくるよ」
「それがいいよ、ご主人。細やかな作業は私達がやっておくから」
「すまない。なにかあったら呼んでくれ」
「別に良いって。それに休むのも仕事の内なんでしょ。後の事は気にせず行った行った」
半ば漣に追い出されるように、提督が部屋を出ていく。それを見送った後で、部屋の扉を閉め、その扉に背中を預けながら盛大に溜め息を吐く漣。そして、顔を上げると、こちらを見ている夕張と視線がぶつかった。
「どうかしたんですか、夕張さん?」
「え? あ……いやー、よくあの状態の提督を説き伏せたなあ、なんて」
「ああ、そういうことですか。まあ、付き合いが長いから、ご主人の事はだいたい分かるんですよ」
苦笑を浮かべながら作業を再開する夕張に、漣はにべもなく答える。
「さすが初期艦。提督の事ならお見通しなのね」
「……それでも、彼の気持ちの在処だけは、見抜けなかったんですけどね」
「え?」
「いえ、ただの独り言ですよ。さて、夕張さんのお手伝いとして明石さんをお呼びしてます。頑張ってくださいね」
誰に聞かせるまでもなく呟いた独り言。訝しげな夕張に追及される前にと漣は事を進める。同時にノックされる部屋の扉。それを開けて明石を招き入れつつ、漣はここに居ない彼を想って一人ごちる。
「 大丈夫、今まで貴方の指揮に間違いはなかった。今回もきっと上手くいきますよ」
ー第一艦隊sideー
「三時の方向、複数の熱源反応! 北上、迎撃を!」
「くぅー、さっきからキツい指示ばっかしてくる……ねっ、と!」
敵潜水艦から放たれる魚雷と北上から放たれた魚雷がぶつかり合い盛大な爆発を起こす。その余波で生まれた水飛沫と荒波が少女達の身体を濡らすが、それを彼女達が気に止める余裕はない。
「幾ら長門型の装甲とはいえ至近距離の雷撃は中々に堪えるな……」
「すみません、長門さん。私のせいで……」
「ん? いやいや、仲間を守るのは当然の事だよ。だから、謝るよりも違う言葉のが嬉しいかな」
「ですが……。いえ、ありがとうございます、長門さん」
五十鈴と北上が奮戦してるとは言え、魚雷は全て迎撃出来ている訳ではない。その撃ち漏らしーー的確に赤城を狙うソレーーを長門は一人で全て肩代わりしている。
故にまだ余裕を見せてはいるものの、長門の衣装の損傷は目に見えて大きい物となっていた。
「すみません、長門さん。私まで庇ってもらって」
「構わんさ、比叡。庇う相手が一人増えたところで、このビッグセブンになんら問題はない。だから、お前は赤城に気を向けてやってくれ」
「私にも潜水艦への攻撃が……せめて、魚雷の迎撃ができたらいいのに……!」
長門、比叡、赤城達の前を先導という目的で疾走する榛名だが、五十鈴や北上のように潜水艦と戦えない事がとてももどかしく歯痒かった。
「駄目よ、榛名。ここは私達の戦場で、貴女はその三人を導く役目があるんだから」
「五十鈴っちの言う通りだねー。この海域は貴女達さえ抜けてしまえば、あとはどうにでもなるんだから」
榛名の心情は五十鈴と北上もよく理解できる。だからこそ、次々と放たれる敵の魚雷を片端から迎撃しながら、彼女達は榛名に言い放つ。
「はい……はい! すみません、弱気になってました。榛名はもう大丈夫です!」
二人の言葉の端々から感じ取れる叱咤。それに鼓舞された榛名は自分の両頬を叩いて気合いを入れ直す。その効果か、彼女の纏う雰囲気が変わった。
「●●■■▲ーー!」
その榛名の雰囲気に気圧されたか、敵方の潜水艦が一瞬たじろぐ。その瞬間、敵の攻勢は確かに止まった。
疲弊しているとは言え、伊達に何度も戦場に出ていない五十鈴達が、そんな隙を見逃す筈もなく、彼女達はその海域の離脱のため、全速力で駆け出した。
「あの海域を抜けられたか……」
「そうね。けど、パーティはまだ始まったばかりみたいよ」
「もう、五十鈴っちー、そういう冗談やめてよー」
幾ら人間離れをした性能を少女達が持っていたとしても、海域の最深部からの息を休める暇もない全力離脱は彼女達の体力を容赦なく奪っていく。
そして、先の潜水艦との戦いで、五十鈴と北上も損傷し、六人の内で、外傷が見当たらないのは唯一榛名だけとなっていた。
「ここは榛名がやります! 皆さんは私が沈めさせません!」
「長門さん、赤城さんをお願いします。ここは私も、気合い入れて、行きます!」
「一時の方向に敵艦隊確認。五十鈴には丸見えなんだから!」
前方から感じる更なる伏兵に無事に帰還できるのだろうかという不安が鎌首をもたげる。それを追い払うために、彼女達は声を張り上げる。
心だけは何があっても負けてはいけないと分かっているから。
「主砲、砲撃開ーー」
「ーー榛名、待った!」
敵の艦隊が射程に入ったために砲撃の準備をしていた榛名を五十鈴が止める。やる気満々であったがために、五十鈴のその不可解な介入に訝しげな視線が向けられる。
そんな彼女の視線を軽く受け流しつつ、五十鈴は笑顔を浮かべる。
「私達はなんとか勝てたみたいよ」
五十鈴以外の五人が、その表情に疑問符を浮かべると同時にソレは起こった。
「第一支援部隊! 全砲門ファイアー!」
敵の伏兵が背後から砲撃されてなすすべもなく沈んでいく。
「あれは、味方の援軍……!?」
「嘘……。だって、まだここは敵地のど真ん中なのに……幾らなんでも早すぎます!」
目の前で掃討されていく敵。それで漸く状況を理解した五人ではあるが、目の前の光景を中々飲み込めない。比叡と赤城が信じられないと言わんばかりに目を見開きながら言う。
「ふっふー、それはこの川内さんが教えてしんぜよう」
いつのまに近づいたのか、六人の側に探照灯を持った川内がやってきていた。
「お姉ちゃん、手短にね」
「那珂ちゃんが説明しようかー?」
更にその川内の後ろから、川内の姉妹である神通と那珂も姿を現す。
「いやいや、ここはこの私に任せて。ええっとですねー、この行軍には深い事情があるのですよ」
「提督の事だから、私達の出撃の後で、心配になって支援艦隊を出したとかそんなところでしょ」
「…………」
「あー、言われちゃったねー、お姉ちゃん。ドンマイだよ!」
勿体ぶる川内。それを両断する五十鈴。先に言われ二の句も告げれず、意味もなく口だけを動かすもやがて項垂れる川内。それを笑顔で慰める那珂とその光景に微笑む神通。
「ヘーイ、二人とも無事でよかったネー!」
「金剛お姉さま、援軍ありがとうございます!」
「お姉さま、助かりました。正直、結構キツかったです」
「あら、比叡姉様が弱音を。珍しいのでデータに残しておきましょう」
「霧島!? 一体いつからそこに……ってそのデータをこちらに渡しなさい!」
敵を倒し終わったのだろう。旗艦として指示を出していた金剛と霧島も合流する。
「いきなり賑やかになったな」
「そうですね。でも、嫌いじゃないです、こういうの」
「やれやれ……。ここは一応戦場なんだし、続きは帰ってからにして欲しいんだがな。ほら、北上も自分で動いてくれよ」
「やだー、もう動きたくないー。木曾っち、私を運んでー」
長門と赤城が苦笑を浮かべ、北上が木曾にべったりとくっつく。
この瞬間に限り、ここは確かに平和だった。
勿論、そんな平和、長続きする筈もないのだが。
「……っ! 総員、戦闘体勢よ!」
五十鈴の号令に、弛緩していた空気が一気に張りつめる。
「敵の高速艦に追い付かれたわ。今から離脱しても間に合わない」
「ふむ。どうやら、潜水艦相手に時間をかけすぎたみたいだな」
「ノー! せっかく合流できたと言うのに、休む暇もないのネー!」
冷静に状況を分析する五十鈴。それを聞いて長門と金剛がぼやきながらも水平線に視線を向ける。
「夜戦、していいの!?」
「背後から撃たれるくらいなら、ここで迎撃した方がいいとは思うけど……」
「那珂ちゃんは沈まないから、ここで戦っても全然オーケーだよ!」
それに続いて川内型の三姉妹も長門達の横に並び立ちつつ、接敵に備えながらいつでも攻撃ができるように構える。
「向こうは向こうで大丈夫そうか? なら、北上、比叡、榛名、霧島。俺達は赤城を守りながら撤退だ。鎮守府に帰投するぞ」
「すみません、皆さん。この借りは必ずお返しします……」
「もう。謝りすぎですよ、赤城さん。それに貸しだなんて思ってもいませんから、気にしないでください。それじゃ、榛名、霧島、先導宜しくね」
「お任せくださいな、比叡お姉さま。さ、榛名、行きますよ」
「…………」
赤城を庇うために陣形を組む五人。しかし、榛名がそれに加わらない。悲痛な表情で、海原に視線を落としている。
「んー、どうした榛名っちー?」
「……ダメです」
「ダメって、何が?」
「ここで戦うと、幾ら敵の戦艦級が低速と言えども、追い付かれてしまいます! そうなっては、ここに残る皆さんの全滅すら有り得ます。だから、戦ってはいけません!」
「…………」
それでも、誰かが言わねばならない。皆が目を背けている可能性を指摘してやらねばならない。その役目は第一艦隊の旗艦である榛名自身の役目であると、彼女は腹を括る。
そんな榛名の言葉に、一同は黙りこむ。しかし、その沈黙も長くは続かず、長門が意を決したように口を開いた。
「……覚悟の上だ。と言ったら榛名はどうするんだ?」
「え……?」
それは榛名には予想外すぎる答え。先ほどまで、全員で無事に帰ると声を大にしていた長門からの想定外の言葉。
「長門、黙りなさい」
「いや、言わねばコイツは引き下がらないよ。控えめに見えて、頑固な所があるからな」
長門の言葉に反応したのは、榛名だけではない。確かにここに居る全員が長門に視線を向けているが、榛名とそれ以外では視線に籠められた意味が違う。
「それでも、よ。約束したでしょう?」
「しかしだな……。はあ、仕方ない。榛名、今のは忘れてくれ」
そんな視線に充てられた挙げ句、五十鈴から直接止められる。長門は深い溜め息を吐くと、苦笑を浮かべた。
「え? 榛名には、何がなんだか……」
「気にするな。さて、話を戻すが、逃げる事もできず、戦う事も許されない私達は、どうしたらいいんだ?」
話題の渦中に居るはずなのに、明らかにおいてけぼりな榛名。その戸惑いを知ってか知らずか、長門は彼女に問いかける。
「それは……」
「私は低速だからな。私が居るとどうしても行軍が遅くなる。私自身、撤退を半ば諦めているのも事実。ならば、ここで囮になるのも吝かではないのだが」
言葉に困った榛名に長門は畳み掛ける。だがそれは、おそらく一番言ってはいけない言葉だったのだろう。
「そんな勝手、榛名が許しませんよ」
「ふむ。なら、私は何をするのは許されているんだ?」
笑顔を浮かべ、長門の提案を一蹴する。その提案は確かに悪くない。一人の犠牲が必要となる、という点を除けば。
榛名は、ここに居る全員に沈んで欲しくはない。となれば、選択肢はたった一つしか残っていない訳で。
「それは勿論、無事に鎮守府に帰る事ですよ。なので、長門さんはどうかこのまま帰投してください。勿論、皆さんもです。ここは榛名が、敵を引き付ける囮になります」
「ダメよ」
「却下だ」
「許しませんネー」
この反応は分かりきっていた事だった。そして、この三人の説得が一番難しい事も榛名は理解していた。
「五十鈴さん、長門さん、金剛お姉さま。榛名の勝手だとは分かってますが、押し問答している時間もないので、認めていただきます」
「そんなバカな事、認められる訳ないでしょ」
「このままだと皆さんが沈んでしまうかもしれないんですよ!」
「榛名、私達は沈まないデース! だから、何も心配しなくていいのデース!」
このままでは埒があかない。実際、ここでこう話をしている時間はあまりない。かといって無理矢理行こうものなら、この三人は確実に付いてくるだろう。
「いいえ、皆さんにはなんとしても鎮守府に帰ってもらいます」
故に、榛名が我を通すには、ここで論破する以外に方法はなく。彼女は覚悟を決める。
「私以外の第一艦隊の皆さんは、連戦で既にボロボロです。そんな人達を囮に置いても、到底責務を果たせるとは思えません」
「それに、私達は撤退している最中に伏兵から襲撃を受けました。ここから先も、それがないとは言えません」
「そのため、支援艦隊の皆さんには、既に満身創痍の第一艦隊の護衛をお願いしたいのです」
榛名の言う通り、第一艦隊の損傷は激しい。六人のうち、今も戦えるのは榛名と比叡くらいだろう。だが、支援艦隊の方は全員が無傷に近い。
「……なら……それなら! せめて私だけでも、榛名と一緒に残りマース!」
だからこそ、金剛みたいな優しさを持つ少女が名乗りをあげるのは不思議でもなんでもない。しかし、その金剛の言葉に榛名は首を振ると優しく諭す。
「金剛お姉さま、それは出来ない相談です。最近着任したお姉さまでは、私の動きに……ついてこれませんから」
言うべきか否か。ほんの一瞬の躊躇いの後に告げられた言葉に、金剛の表情が固まる。そんな姉の表情を直視する事ができず、榛名は視線を逸らす。
「榛名、貴女言って良い事と悪いことが……!」
「やめなさい、霧島」
そんな榛名に詰め寄る霧島とそれを止める比叡。
「ごめんなさい。でも、これは事実ですから。この中で練度が一番高いのは、この榛名です」
「貴女、何を言ってるのか分かってるの? ここに一人で残るって事は、死ぬって事なのよ!? 練度が一番高い貴女が、その役を買って出る必要なんて……ないのよ……」
「大丈夫ですよ、五十鈴さん。それに練度が一番高いからこそ、です。この中で囮になって、生き残れる可能性が一番高いのは、間違いなく私だと思います」
「それに長門さんと違って、高速艦ですから、私。一人だとこの足を存分に活かす事も出来ます。適当に敵を足止めしたら、この夜の闇に紛れて、早々に離脱するので心配なさらないでください」
次に詰め寄った五十鈴だが、榛名の意思は変わらない。それどころか、金剛を傷つけてしまったという負い目もあって、更に頑なになっている。
「バカね……。本当にバカよ、榛名。貴女抜きで帰還しても、意味なんてないのよ」
「それでも、です。五十鈴さん、第一艦隊の旗艦を……皆さんをお願いしますね」
「嫌よ。任務が終わるまで旗艦は貴女なんだから。旗艦を譲りたいのなら、ちゃんと帰ってきなさい」
「……はい!」
説得はやるだけ無駄。榛名の雰囲気から、それを感じ取った五十鈴は、彼女なりに榛名に気合いを入れる。
「私と違って高速、か。言いたい放題言ってくれる」
「すみません、長門さん」
「いや、いいんだよ、別に。私は榛名の心意気を評価しているしな。だから、これは餞別だ」
五十鈴と交代で近づいてくるのは長門。彼女は彼女でその両手に持っている色々な物品を榛名に押し付ける。
「これは、五十鈴さんの電探。それに川内さんの探照灯も。46㎝三連装砲まで……!」
「逃げる際に邪魔なら捨てていい。五十鈴は貸してあげるだけだから、ちゃんと返しなさいよって言っていたがな」
「何から何まで、ありがとうございます」
律儀に礼を言う榛名にヒラヒラと手を振る長門。その二人の周囲は、遂に接敵したのか、俄然慌ただしくなる。
「重すぎる役目を押し付けるんだ、これでも足りないくらいさ。少ないながらも燃料と弾薬もある。だからさ、榛名」
「はい?」
「ーー死ぬなよ」
「はい! 榛名は大丈夫です!」
榛名が勢いよく返事をしたと同時に、金剛達が放った主砲が、敵との間の海原を盛大に割る。派手にあがった水飛沫を目眩ましにして、榛名達は行動を開始した。
>>1に余計な文しかかかない
地の文多用
台本形式ですらない
書いてる本人がいたらぬ文章なんて思ってるのなんて見たくないから辞めていいよ
自分のブログやTwitterで思う存分書いててください
今回はここまで
また書き溜めて、一気に投下します
ボス戦とかで敗北した場合、撤退戦とかあっても良いと思います。そんなノリで書いてます
期待
乙、続き待ってる
地の文があって、台本じゃないから、好んでみてるんだけど
おつんつん
地の文のなにが問題なんだ?
こんにちは。どうも、>>1です
書き溜めの真っ最中ですが、出す艦娘に迷ったので安価で決めます
と言っても、出番がそれほどある訳ではないのですが……
↓1軽巡
↓2~5駆逐艦
でお願いします。コンマ二桁の数字が低いと宜しくない事が起きます
んじゃ酒匂
卯月
響
島風
むらくも
酒匂、卯月、島風、響、叢雲
ですね。了解です
ご協力ありがとうございました
キリのいいところまで書けたら、順次投稿していきます
期待
>>10
くっさ
ウンコにわざわざ触れたりしてはアカン
こんにちは、>>1です
毎週土日のどっちかで更新出来ればいいなあと思いつつ、投下していきます
皆さんのコメントは凄く励みになります。有り難うございます
「あ、提督。お帰りなさい。通信回線、なんとか回復しましたよ」
司令室の扉を開けて部屋に入った俺を夕張が出迎える。
「蒼龍が教えてくれたから知ってるさ。よくやった、夕張。あとで明石にも、宜しく伝えておいてくれ」
蒼龍が言うには、たまたま司令室の前を通った時に、漣に俺を探してくれと頼まれたらしい。艦載機がある分、普通に探すより早いだろうと言う理由で。
実際、宛てもなくーー落ち着きなくと言っても間違ってはないーー鎮守府内を歩いていたから、その判断は正しい。
「回線、いつでも開けますけど、どうしましょうか」
「なら、今すぐ繋いでくれ」
「了解です!」
夕張から通信機に付属している無線機を受け取り、椅子に腰掛ける。夕張はその隣で、執務机の上に置いてある通信機と、よく分からない機械を弄り始めた。
「……第一艦隊の五十鈴よ」
数秒後、通信機から上空に光が照射され、そこに憮然とした顔付きの五十鈴とその周囲に居る他の艦娘の姿が鮮明に映る。確かホログラフィーとか夕張が言ってたか。本当によく出来てるな、これ。
「無事でなによりだ。連絡が途絶えた時は本当に心配したぞ。その様子だと、第二支援艦隊とも合流できたようだな」
「……なんかじゃないわよ」
「支援艦隊はまだ出している。だから、無茶だけはするな。一刻も早く帰投し、身体を休めーー」
「ーー無事なんかじゃないわよ!」
五十鈴の大音量に言葉が途中で遮られる。ったく、俺は来るだろうなって思ってたから良いものを、隣に居る夕張なんて盛大にビビってたぞ。
「……五十鈴、上官が喋っている途中で割り込むのは、感心せんな。俺だけならともかく、夕張が驚いているじゃないか」
「っ……! アンタねえ、こっちの状況が分かってんの!?」
旗艦である榛名が映像の中に居ない時点で、状況なんて分かりきったものだが。しかし、今の五十鈴はダメだな。この状態では艦隊を任せられない。
「……長門、五十鈴を抑えておいてくれ。……比叡、皆を纏めて帰ってくるんだ」
「ですが、司令……」
俺の指示に何か言いたげな比叡。榛名のことを考えたら当然か。けれど、ここは俺も譲れない。
「文句は帰ってきてから受け付ける。だから、頼む。俺の指示通りにしてくれ。決してーー榛名を助けに行こうだなんて、思わないでくれ」
だから、頭を下げる。榛名が一人だけで行ったって事は、そういう事なんだろう。なら、俺はその意思を引き継がなければならない。
「そんな! 司令、やめてください。指示には従います。ですので、頭をあげてください!」
「なんでよ! 追わせなさいよ! これだけ艦娘が居たら大丈夫でしょ!?」
「五十鈴、落ち着け。提督の指示だ」
「離しなさいよ! やっぱり、あの子一人で行かせるんじゃなかった!」
顔をあげると慌てたような表情を浮かべる比叡と、その後ろで長門と五十鈴が騒がしくしてるのが映像に映る。
「すまんな、五十鈴。少し眠ってくれ」
「ぅぐ……っ!?」
「嫌な役押し付けてすまん、長門」
「いや、いいんだ。私もこの指示に納得はしていないが、ここに居る全員で榛名を追いかけても、意味がない事もよく分かっている」
やがて業を煮やした長門が、五十鈴を物理的に眠らせる。五十鈴の世話を押し付けた手前、長門に対して罪悪感が湧いて、気づけば謝罪を口にしていた。
もっとも、その返答はあっけらかんとしたものだったが。
「すみません、提督。元はと言えば私が大破したせいで……」
「あー、そういうのは帰ってからにしてくれ。このままじゃ埒があかん」
「へいへーい。じゃあ、私は帰ってお休みしますかねー。明日の出撃の為に、英気を養うのだー」
どうやら北上にはこちらの考えがお見通しらしい。……いや、北上だけではないな、これは。皆、何かを決意した表情で俺を見ている。
……全く、頼りになる部下を持った事で。
一瞬、目頭が熱くなるが、上官としてのプライドでそれを押さえつける。そして告げる。艦娘達が期待しているであろう言葉を。
「総員、比叡の指示に従って無事に帰投しろ。これは命令だ。そして、明日に備え身体を休めろ。日の出と同時に、榛名を迎えにいくぞ!」
俺がそう言うと、多種多様な返事が聞こえ、それと同時に通信機に表示された映像も雲散霧消した。
「お疲れさまでした、提督」
通信が終わり、椅子に深く腰掛ける俺を夕張が労う。
「俺は何もしてないさ。夕張こそ、お疲れ。もう休んでいいぞ」
実際、俺はただ指示を出しただけ。命の危険のない安全な司令室(ここ)で。
「いえ、私も皆さんの帰還を待ちます!」
なのに、どうして彼女達は、こうも俺に信頼を寄せるのか。こんなクソッタレな指揮をした俺を、どうしてーー。
「良いから休め。明日は今日以上に過酷な日となる。ここで無茶をして倒れられると困るんだ」
隣に居る彼女の頭に手を伸ばし、その髪を梳くように優しく撫でる。夕張も心地よさげに目を細め、俺の手に身を委ねた。
「……分かりました。提督も無理はなさらないでくださいね」
時間にすると、ほんの数分。夕張の頭から手を離すと、その手に名残惜しげな彼女の視線が絡みつく。だが、なんとか堪えたのだろう。席から立ち上がると、俺に一礼して司令室から出ていった。
「戦場で戦うお前達に比べたら、これくらいの無理なんて、無理のうちに入らんよ」
夕張を見送った後に呟いた、誰に聞かせるでもない独り言。それは紛れもない俺の本心であって。
出撃に行く艦隊を見送り、道中と帰還中の無事を祈り、帰投した際に出迎える事しか出来ない自身の不甲斐なさ。それに嫌気がさす。
「あーあ、この任務が終わったら、榛名に渡すつもりだったんだけどなあ、これ」
気分転換のつもりで、執務机の鍵が付いている引き出しーー別に盗られて困る物は入っていないから、鍵はかかっていないがーーを開ける。その中から取り出したのは握り拳程度の小さな黒い箱で、それを無造作に自身の上空に放り投げる。
緩やかな軌道で上がり、そして降ってくる箱を視線で追いながら、中空で受け止める。それを何度か繰り返していたが、ふと要らぬ事を考えたせいで、目測を見誤り、受け取り損ねてしまった。
「あー……。まあ、いいか……」
受け取るのに失敗した挙げ句、弾いてしまったために、箱は盛大に地面を滑る。その勢いで、箱の中から指輪が飛び出し、これまた地面を滑走する。
ーーケッコンカッコカリ。練度が極限状態の艦娘の限界を取り払い、更に練度を高める事を可能にする技術。その契りを結んだ艦娘に証として渡すのが、今地面を転がっている指輪である。
勢いよく転がった指輪だが、やがてその威勢も衰え、誰かの足にぶつかって止まった。
「ダメでしょ、ご主人。これは大切な物なんだから、なくさないようにしないと」
「気配なく部屋に入ってくるなよ、漣。びっくりするだろ」
足元にある指輪を屈んで拾う漣。いつからそこに居たのか分からないが、正直どうでもよかった。
「一人じゃ寂しくて死んじゃうだろうからと、こんな時間に様子を見に来た私になんたる言い草。これはメシマズですよメシマズ」
「その使い方は多分間違えてると思うがな。……まあ、いいか。で、漣は皆が帰還するまで話相手になってくれるのか?」
箱も拾って指輪を中に仕舞い、それを俺に差し出す漣。それを受け取り、引き出しの中に戻しつつ、漣に問いかける。
「いいえ。私はご主人を、無理矢理にでもお休みさせに来たんです」
「は……?」
聞き間違いかな?
「あれ、聞こえませんでした? ご主人を眠らせにきたのですよ」
どうやら俺の耳は正しかったらしい。
「いやいやいやいや。俺はここで皆を待たなきゃいけないんだけど!?」
「そんなもん知らねーんですよ。大事な明日の指揮を、寝不足の働かない頭には任せられないのです」
「待て待て。ちゃんと艦隊が帰投したら寝るから。許してくれ」
聞く耳をもたない漣をなんとか説得しようとする。そんな俺にアイツはどこから召喚したのか、14㎝単装砲をつきつける。しかも、笑顔で。
「聞き分けのない子は、物理的に眠らせますよ?」
「あの……司令室に艤装の持ち込みは……あ、はい、すみません。従います」
ホント、自分の不甲斐なさに嫌気がさすよ。
「で、だ。漣、一つ言いたい事がある」
「なんでしょう、ご主人?」
漣から休むことを強要された為に、司令室の隣にある私室にて、軍服から寝間着に着替え終わった俺は、ベッドに潜り込みながら、隣に居る漣に問い掛ける。
そう、『隣』に居る漣に。
「いや、なんでしょう? じゃねえよ。なにしれっとベッドに潜り込んでんだ。しかも、俺より先に」
「あ、私が後から潜り込むシチュエーションの方が萌えました?」
「ちげえよ。俺より先にって所に反応して欲しかった訳じゃねえよ」
「先とか反応とか欲しいとか、いやらしいですよ、ご主人」
「よーし、表に出ろ、漣。喧嘩なら買ってやる」
「ほら、バカな事言ってないで、早く寝てくださいよ」
「誰かがバカな事してるせいで寝れねーんだよ」
「はて、ここには私とご主人しか居ませんが」
「こいつ……」
気づけば漫才をしていた。結局、漣はベッドから出る気はないらしい。今のやり取りで追い出す気力も失せてしまったので、そのままにしておく。どうせ一人で使うには広すぎるベッドな上に、お互い気心の知れた仲だ。構いやしない。
「ーーご主人」
寝苦しい夜だった。暑い訳ではなかったが、とにかく寝苦しかった。数分前に寝返りを打ったばかりだが、あまり落ち着かず、仕方なしに仰向けに戻ろうと重心を移動させーー漣の背中にぶつかった。
「いいんですよ、弱音を吐いても」
お前、こっちに寄りすぎだろ。って言葉は漣の一言により、飲み込まざるを得なくなった。
「……なんのことか分からんな」
「ふふっ、長い付き合いだから、私には分かるんですよ」
寝たフリ……は漣には通用しまい。どう返したものかと暫し悩み、当たり障りのない言葉を投げ返す。
「ご主人は……既に榛名さんが、沈んだ物と考えている」
「……っ。そんな事、ある訳ないだろ」
一瞬、息が詰まる。先刻から頭に浮かぶイメージ。いくら振り払っても、つい考えてしまうソレを、漣に容易く見抜かれる。否定の言葉は苦し紛れすぎたか、とても弱かった。
「常に最悪のパターンを想定し、そうならない様に尽力する。それがご主人ですから」
もっとも、榛名さんをあそこで囮にするとは、この私も思ってませんでしたが。と、苦笑ぎみに続ける漣。
「……失望したか?」
「いいえ。あのまま疲弊した皆さんを向かわせた所で、榛名さんの足を引っ張るだけでしょう。寧ろ、その味方を庇って、榛名さんが傷つくかもしれない。だから、ご主人は何も間違ってませんよ」
「そうか」
通信をしていた時、漣はその場には居なかった筈だが、やけに事情に詳しい。漣がさっき言っていた、付き合いの長さが為せる技なんだろうか。……もっとも、漣と違って、俺は彼女を見透かせてはいないのだが。
「榛名さんは強いですからね。私達の中で、誰よりも」
「それは俺が一番知っている」
普段は味方を気遣い、本気を出さないようにして、仲間にMVPを譲っている榛名だが、その彼女の練度は、ダントツで誰よりも高い。書類さえ通せば、ケッコンカッコカリが認められているくらいだ。当たり前である。
「なら、榛名さんを信じましょう。きっとご主人の心配は杞憂になりますから」
「……」
漣の表情は分からない。背中合わせだから当然だ。ただ、俺を気遣う漣の言葉は、とても優しかった。
「だから、いいんですよ、ご主人。今は弱音を吐いても。貴方の抱えた悪い想像が消えるのなら、この身体で良ければ、幾らでも貸しますので」
「……うっせーよ、貧相な身体つきのくせに」
漣が身体の向きを変え、背中から抱きついてくる。顔半分で振り返ると、心配げな表情で、こちらを窺う漣が居た。そんな彼女が、少しばかり懐かしく感じて。小さな笑みを浮かべて軽口を叩いてみる。
みるみるうちに、不満げな表情に変わる漣が何かを言う前に視線を外し、元の体勢に戻りつつ、先手を打つ。
「弱音や後悔は、全てが終わってからにするさ」
背中に感じる体温は、確かに温かく、俺の頭を支配していた凍てついた考えを容易く溶かしていく。
「ありがとう、漣ーー」
なんだかんだで気張っていたんだろう。緊張がほぐれた途端、俺の意識はすぐに闇の中へ落ちていった。
「むう、ズルいなあ、ご主人は……」
言うだけ言って安らかな寝息をたてる彼。その横顔を覗きこみ、私は小さく呟く。
「しかも、私に一切手を出してこない。少しくらい甘えてくれても良かったのに。この甲斐性なしめ」
聞こえない事を良いことに、言いたい放題である。
「……さてさて、愚痴はこのへんにしておいて、ご主人の代わりに、帰還する皆さんを出迎えねばなりませんし、私もそろそろお暇しますかねー」
欲を言えば、まだ傍に居たい。好意を寄せる相手と共に居たいと感じるのは、普通の人間も艦娘も変わらない。
「愛してますよ、ご主人。あの日、あの場所から……“ヒトモドキ”と呼ばれた私を救ってくれた事、本当に感謝してます」
それはいつの間にか世の中に普及していた、限りなく人に近いが人ならざる物を指す言葉。人の様に思考し行動する『兵器』に付けられた蔑称。
そして、普通の人間に、艦娘はただの道具でしかないと認識させる魔法の単語。
「なんて、直接言う勇気は全くないんだけども」
それでも、これくらいならば罰は当たるまい。私は邪魔にならないように髪をかきあげると、そっと彼の頬に唇を寄せる。
「……さて、と。お仕事致しますかねー。ーーああ、お仕事ktkrって言った方が、私らしかったかな?」
彼から顔を離し、後ろ髪引かれる気持ち押し殺して、ベッドから抜け出す。そして、うんと伸びをひとつ。気怠げな身体に喝を入れ直し、頭の中を切り替える。最後に、部屋から出る前に、一度だけベッドで眠る彼に振り返る。
たとえ、この想いが彼に届かなくても。
たとえ、彼の気持ちが自分になくても。
私は貴方の傍に。それが、私に出来る精一杯の恩返し。あの日から、そう心に誓ったーー
今回はここまで
次回から、安価の子たちが登場します
榛名SSを書こうと思っていたら、気づけば漣SSを書いていた。何を言ってるか分からねえと思うが(ry
おつ
楽しみに待ってる
横から水を差すようでスマンが漣はご主人じゃなくてご主人様って提督のこと呼ぶんじゃなかったっけ
二人きりの時は 様をつけないんだよきっと おそらく たぶん
皆わかっててあえてツッコまなかったところを切り裂いていくそのスタイルは好き
きっと>>1なりの理由があるから
エアプ
こんにちは。>>1です
本来、明日更新予定なのですが、間に合いそうにないです。申し訳ありません
世界観と提督の説明をどうにか捩じ込もうと悪戦苦闘しております
あと、漣の呼び方は理由があります
ですが、司令官と呼ぶ子が提督と呼んでる場合や、提督と呼ぶ子が司令官呼びしてる場合はミスなので、それはどんどん指摘してください
それでは、なるべく早めに仕上げてきます
待ってる
土日更新とはなんだったのか……
どうも、>>1です
過去話は一回でなんとか纏めたかったので、時間が掛かってしまいました
推敲した後に、投稿を開始します
早ければ明日になるかと
それと、今更ですが、独自設定が出てきます
はい
室内に響く乾いた音。頬に走る衝撃、じわじわとやってくる鈍い痛みに、私は叩かれたのだと知る。
「漣さん……っ!」
視界の端で、酒匂さんの表情が歪むのが見えたような気がした。
「俺の指示に意見するな、“ヒトモドキ”風情が」
ドスの聞いた声。視線をその人物ーー提督に戻すと、憤怒の表情でこちらを見下していた。
「初期艦で練度が高いとは言え、貴様は所詮兵器なんだよ。人間と同等に扱ってもらえると思うな」
荒々しい口調と鋭い眼光。そして、過度な暴力。それは年端もいかぬ私達を萎縮させる。まるで蛇に睨まれた蛙ではあるが、この鎮守府ではこれが普通の事である。
恐怖で艦娘を縛り、自身の命令を否応なしに遂行させる。情緒が安定しておらず、少し揺すれば簡単に揺らぐであろう幼い少女が多い駆逐艦は、彼の支配欲を満たすにはうってつけだった。
勿論、万が一の反抗に備えて、石橋を叩いて渡るようなレベルの警戒はしているらしいが。
「……すみませんでした」
他の仲間が居る手前、無理矢理にでも恐怖を押さえつけ、目の前の提督が望んでいるであろう言葉を吐く。
「謝るくらいなら、最初から口を挟むな」
形だけの謝罪に飛んでくるのは理不尽な物言い。
だが、怒りよりも先程押さえつけた恐怖が再燃する辺り、私もこの鎮守府の支配体制に、抗えないんだなあと諦観してしまう。
「俺はお前ら“ヒトモドキ”と違って忙しいんだ。作戦を理解したら、さっさと出撃しろ」
それだけ言うと、提督は一瞥すらくれず、司令室を出ていく。
残された私達は、司令室を支配していた張り詰めた空気から解放され、一人また一人と小さく安堵の息を吐く。
「大丈夫、漣?」
「……ええ。殴られるよりか全然」
「殴ると下手をすると傷つけてしまうんだぴょん。顔の傷は目立つから、それは避けたかったんだと思う」
「……それでも、あれは痛そうだったよ」
「凄い音がしてたからねー」
私を心配してか、叢雲さんを始め、卯月さん、響さん、島風さんが次々と近寄ってくる。そんな仲間達を見て、私も漸く肩から力を抜いた。どうも叩かれた際、反射的に身体を強張らせていたらしい。
戦場に比べると命の危険性は殆ど皆無なのに。
「ごめん、漣さん! 本当はあたしが言うべき事だったのに、代わりに言った挙げ句、あんな事になって……。本当にごめん!」
そんな自嘲気味な思考を展開している中で、唯一の軽巡である酒匂さんが、悲痛な面持ちで私に近づいたかと思うと、深々と頭を下げた。
一瞬、呆気にとられるも、すぐに気を取り直して、彼女の肩に手を乗せる。
「ぴゃあっ!?」
予想以上に驚かれたが、漣はこれくらいじゃめげません。めげませんから……!
「……気にしてないので、大丈夫ですよ」
「けど……」
頭を上げた酒匂さんと私の視線が交錯する。あまりこういった関係は気が進まないが、それで彼女の憂いを断てるのなら仕方ない。
「どうしてもって言うなら、これから向かう戦場で活躍してください。それで貸し借りなしです」
「……分かった。水雷戦隊、出撃するよ!」
まだ何かを言いたげではあったが、納得したのだろう。どこか覚悟を決めた酒匂さんの号令の下、私達は司令室を後にした。
当たり前ではあるが、
「さあ、片っ端からやっちゃうよ!」
軽巡と駆逐だけの編成で、
「ふふっ、戦場(いくさば)に着いたわね。全員、沈めてあげるわ!」
しかも、補給は受けているとはいえ、全員が満足に強化されている訳でもない。
「不死鳥の名は伊達じゃないんだよ」
一方で、制圧しなければいけない海域のレベルは徐々にあがっていく。
「くぅ……っ。敵さんも中々。ですが、漣はまだまだいけますよ!」
故に、一戦目とは言え、私達は苦戦を強いられる。せめて空母が一人でも居れば状況は違うかもしれないが、あの提督の下で働く限り、その願いは叶うことはない。
「敵艦載機、来るよ! 叢雲さんと響さんは空母以外の動きを見逃さないで! 他は艦載機を迎撃!」
酒匂さんの指示が飛ぶ。視線を上に移すと、敵の空母から発艦されたばかりの艦載機が見えた。
「引き付けてから一気に撃墜する。敵の爆撃は……気合いで避けて」
私達の射程では、艦載機の攻撃を止める事はできない。けれど、ここである程度撃ち墜とす事ができれば、空母の脅威を少しでも減らせるだろう。
それが、空母に対する決定打がない私達が見つけた唯一の活路。そして、それこそが長い長い昼戦を乗り越えるための、細すぎる逃げ道。
「今! 対空機銃、一斉射! ってぇー!」
隊列を組んだ艦載機が、爆雷を次々と放っては旋回して離脱しようとする。その旋回の隙を私達は逃さない。
「っあぁ……! この島風に当てるなんて、ねっ!」
爆風に巻き込まれ、中破しながらも艦載機の横っ腹に攻撃を当て続ける島風さんを横目に、私も私に出来る事を黙々とこなす。
「逃がさないぴょん!」
敵の艦載機が、狙われている事に気づいたのだろう。先程まで整っていた隊列を乱し、我先にと空母に向かって滑空する。本来なら痛快な光景なのだが、いかんせん消耗しているせいで、それをただ見送るしか出来ない。
しかし、今まで無傷だった彼女だけは違った。
「だめ! 卯月、避けて!」
不用意に前に出た彼女を止められる時間はなかった。背後で敵艦隊の動向を探っていた叢雲さんの叫びが聞こえた瞬間、卯月さんを中心に盛大な水飛沫が上がった。
「卯月が大破した?」
あの後、なんとか空母を無力化した後に、周囲の護衛部隊を雷撃で撃沈させると、敵の生き残りは早々に撤退していった。
「はい。なので、撤退の指示を」
「は? おいおい、相手の主力は目の前なんだろ? なら、そのまま進撃しろよ」
「ですが、このままでは卯月さんが……」
「うるせえよ。いいか、お前らの代わりなんて幾らでも居るんだ。役に立たないなら切り捨てる。それが嫌なら、刺し違えてでもその海域を制圧しろよ」
酒匂さんが無傷。島風さんが中破。卯月さんが大破。残りの私含めた三人が小破という状況である。とてもじゃないが、進撃しても良い結果が出るとは思えない。
故に、一応提督と連絡を取る酒匂さん。分かってはいたが、提督の言葉は一方的だった。
「……先に進むぴょん」
「卯月さん……」
立ち上がるだけで精一杯なんだろう。満身創痍な卯月さんが、震える足で立ち上がる。ともすれば、倒れてしまいそうな彼女に、私は慌てて駆け寄り、肩を貸す。
「ハッ、いい根性だ、“ヒトモドキ”。兵器らしく戦場で散るならお前も本望か。それと、さっきも言ったが、俺は忙しい。あとは勝手にやれ」
厭らしい笑みを浮かべる提督。彼女の覚悟を賞賛したのではなく、自身の抱える厄介な『兵器』の数が、一時的とは言え減ることを純粋に喜んでいるのだろう。
「つくづく、糞な提督だぴょん」
通信が切れた後、卯月さんが一人ごちる。その言葉は隣に居る私にしか届かなかった。
「……逃げてもいいんですよ?」
「今更だぴょん。それにこんな身なりの私を引き取ってくれる場所に辿り着くまでに、結局沈んでしまうんじゃないかな」
だから、進むしかないぴょん。と卯月さんに促され、私は渋々と歩を進める。
「総員、戦闘体勢に移行して。漣さんは卯月さんの事をお願いね」
そんな私達を気遣いながら、ゆっくりと先導していた酒匂さん達だが、やがてその動きが止まる。
「……やれやれ、また敵に空母が居るのか」
「少し時間を稼げば、夜になるんだから、泣き言言ってんじゃないわよ」
既に敵方の索敵の範囲内だったか。私達が、敵の姿を確認した時には、既に大量の艦載機が上空に展開していた。
「あーあ、こんなにも生きていくのが辛いなら……」
迎撃体勢に入る仲間が、私達を庇うように隊列を組む。それを見ながら、卯月さんがそっと呟く。
「ーーいっそ、生まれてこなければ……良かったなあ」
えっ? と聞き返すよりも早く、彼女は私を突き飛ばす。
「卯月さん!?」
「うーちゃん!?」
「バカ! 死ぬ気なの!?」
「ダメだ! 止まれ!」
突然の出来事に、身体が全く反応せず、無様に水面に尻餅をつく私。そして、仲間の制止を振り切り遠ざかっていく背中。私は無意識にその背中に手を伸ばす。
「うーちゃんの想いは、皆に預けたからああああっ!」
伸ばした手が届くなんて事はなく。
彼女の叫びは、予想外の奇襲に慌てた艦載機から、一斉に投下された爆雷の衝撃に呑まれて消えた。
「第一水雷戦隊、旗艦の酒匂を始め、以下、漣、響、叢雲、島風。帰投致しました」
「ん? あー、はい。確認しました」
鎮守府に帰還した私達を出迎えたのは、鎮守府近海の警戒を形だけ行っている、やる気の感じられない守衛二人だけだった。
「せっかくの凱旋だと言うのに、虚しいものだね」
「……いつもの事ですけどね、それは」
結局、海戦で勝利した私達だが、とてもじゃないが無事であるとは言い難く、負傷者を気遣いながら、なんとか帰還を果たす。
夜戦に持ち込んで、敵艦隊を殲滅したのだが、帰投に時間をかけすぎたか。鎮守府に着いた頃には、日は真上に近い位置で輝いていた。
「大破している島風さんと叢雲さんは急いでドックに。あたし達はドックが空き次第、順次入渠。それでいい?」
「構わないさ。慣れている」
酒匂さんの指示に異論はないため、私も頷いておく。
「じゃあ、あたしは二人を連れていくね。二人とも、また後で」
大破している二人は、既に歩くだけで精一杯なんだろう。酒匂さんにゆっくりと手を引かれ、ドックのある方に向かっていった。
「響さんはどうするんですか?」
「……さすがに眠いから、自室で寝るよ。ドックが空くのも、まだまだ先だろうしね」
本当に眠いのだろう。欠伸を噛み殺しつつ、響さんは答える。
「そう……ですか。では、私は提督に、今回の出撃の報告でもしましょうか」
「それは皆で行った方が良いと思うけれど」
「島風さんと叢雲さんの修復に時間がかかりそうなので。それで報告が遅れると、確実に怒鳴られちゃいますし」
伊達に初期艦はやってない。こちらの事情が鑑みられる事なんて、あの提督には期待するだけ無駄と理解している。
「なら、私も付いていくよ」
「いえいえ、大丈夫です。寮まで送っていきますので、響さんはゆっくりとお休みなさっていてくださいな」
申し出自体は有り難いものではあるが、睡魔と激しい戦いを繰り広げているのだろう。響さんの足は既に覚束ないものとなっている。
どこか微笑ましいその光景に、暗くなりつつあった気分が少しだけ晴れる。そして、彼女の手を引いて、私は駆逐艦の寮に向けて歩き出した。
「提督なら、こちらに居ませんよ」
響さんを送った後、執務室に立ち寄った私を、秘書官が出迎える。
「……では、どちらに?」
いつもこの時間帯は、執務室にて、普通の人間である秘書官と仕事をしている筈だが。
言うまでもないが、私は提督の私生活なんて知りたくもないので、ここに居ないとなると完全に手詰まりである。
「なにやら、新しい鎮守府が出来るとかで。あの人は、そこに着任する新任提督に、鎮守府がどういうものかを説明しながら案内をしています」
つまり、この鎮守府内を歩き回っていると。言われてみれば、いつもとはちょっと雰囲気が違う気もする。空気が少し引き締まっている感じだろうか。
「そうですか、分かりました。自分の足で探してみます」
「ええ、是非そうしてください」
鎮守府の案内で、あの提督が行きそうな所は分からないが、行かなそうな所は分かる。そうなると、探す手間自体はそれほどでもないかもしれない等と頭に浮かべつつ、一礼して執務室を出ていく。
「あー、怖かった。“ヒトモドキ”は、何考えてるのか全然分からないわ」
扉が閉まる直前、そんな秘書官の声が聞こえた。
「まあ、今更……なんですけどね」
提督自身が、私達を蔑称で呼ぶ事を躊躇わない時点で、ここの鎮守府の住民が私達をどう呼ぶかなんて。
どんな重傷でも、修復材を使えば忽ち完治。そうでなくても、入渠さえしてしまえば常人を凌駕する速度で治る怪我。
そして、人智を越えた軍艦としての力。まさしく、人の形を借りているだけの化け物と相違ないだろう。
「あれ……? おかしいな、分かってた……こと、なのに……」
自分が普通の人間でない事くらい、理解はしている。だから、心にもない事を幾ら言われても、動じる必要なんてない。
ーーそう思っていたはずなのに。何故か目の前が歪んで見える。
「はは……。私も、まだ……心が弱い……ですね……」
ただでさえ仲間の死で気が滅入ってるのに、こんな要らぬ事を考えてしまえば、決壊も容易いか。脳裏に浮かぶのは、私達に想いを託して沈んだ少女。爆雷によって生じた水飛沫が収まった時、そこにはバラバラになった艤装が赤い水面で揺れていただけだった。
仲間が沈むのは、これで何度目だろうか。その度に、自分の無力さをただひたすら呪う。
「部屋に戻ろう……」
拭っても拭っても、涙は次から次へ溢れてくる。こんな状況では、報告なんて満足に出来やしない。なら、怒られるかもしれないが、気分が落ち着くまで自室に居るのが得策だろう。
「……っ」
おそらく、今の私は酷い顔になっている。他の人、特に提督にだけは絶対に見せたくない顔である。だから、私は顔を上げず、下を向きながら足早に歩く。
けれど、そんな誰にも会いたくないという願いは叶う事はなく。私は曲がり角で向こうからやってきていた人物と衝突し、数歩たたらを踏んだ後、結局勢い殺せず、崩れるようにしてその場にへたりこんだ。
「っと、悪いな。気をつけていたつもりだが、小さくて見えてなかった」
衝撃でちょっとだけ顔が歪む。そんな私にからかい半分な口調で、目の前に立つ人物が言う。
初めて聞く声に、私は泣き濡れた顔のまま、その人物に視線を向けた。
「しかしまあ……結構歩き回ったが、艦娘を目にしたのは初めてだな」
目付きが提督より少し悪いくらいで、後は特徴らしい特徴も見当たらない。彼を呆然と見上げた私は、そんな場違いとも言える感想を抱く。
白を基調とした軍服に身を包んでいる事から、おそらく彼が、案内されていたと言う新任提督なんだろう。
「って、どこか痛むのか? ……よく見たら格好も酷いな。特殊な趣味でこんな服を着ていると言うなら別だが」
そんな彼だが、私が泣いている理由を違った方向に勘違いしたらしい。そういえば、先の戦闘で中破してたっけと今更ながらに思い出す。
「い、いえ……。だ、だいじょうぶ……です……」
勿論だが後半の軽口に反応している余裕はない。そも、この鎮守府に居る艦娘は提督のせいで、軒並み軍人に苦手意識と恐怖感を持っている。それは初期から居る私とて例外ではない。
目前の人物から視線を感じるだけで、私の身は竦む。いつもは気丈に振る舞っているが、今回ばかりは何もかもタイミングが悪い。
軍人に弱味など見せたくないが、震え出した身体を止める事は出来ず、私は身を包むには少々心許ない衣服を掻き寄せ、身体を抱くようにして縮こまる。
「…………」
彼が近づいてきたのか、私を影が差す。
「ひっ……!」
次に視界の端で捉えたのは、片膝を地面に着く体勢になる彼の姿。一体、何をされるのか理解できず、私は露骨に怯え、更に強く自分の身体を抱き締めると目を瞑った。
「……まあ、なんだ。ーーよく、頑張ったな」
言葉と共に頭に暖かい何かが乗った。
「え……?」
私は今、何を言われたのか。
驚きのあまり目を開けて、視線を彼に向ける。
「俺には君が泣いている理由は分からない。だが、艦娘という立場上、辛い事があったんだろうなという推測は出来る」
「君をその辛さから救う事は出来ない。けど、こうやって慰める事や傍に居る事なら容易い」
彼は小さな笑みを浮かべながら、私の頭を乱暴に撫で付ける。
女の子の髪だと言うのに、その撫で方には繊細さというものが全く感じられない。それでも、彼なりの気持ちが込められているのだろう。
その包み込むような安心感が、収まりかけていた私の涙腺を再び刺激する。
「弱っている時は無理をするな。……そうだな。君が必要と言うのなら、俺の胸くらいなら貸してやる」
そんな私に彼は止めを刺す。初対面だと言うのに、この男は何を言っているのか。そんな事を言われて、堪えられる訳がないではないか。
限界を突破した涙腺から、涙が零れ始めた瞬間、私は彼の胸に顔を押し付ける。
「うっ……うぅ、うわああああああんっ!」
そして、場所を弁える事もなく、大きな声をあげて泣いた。
初めて触れた人の優しさ。
それはとてもーー暖かった。
これほどのアスぺ共でも出世できるのかこの世界は・・・たまげたなあ
それから暫くして、
「落ち着いたか?」
「……はい。あの、その……すみませんでした……」
存分に泣いて、どこか憑き物が落ちた私は彼から離れる。そして、自分が外聞もなく泣きわめいた場所が廊下だと言う事を思い出し、頬が熱くなるのを感じる。
結構な時間、泣いていたと思うが、幸いな事に誰も通らなかったらしい。執務室に提督が居ないからだろうか。
「ん? ……ああ、別に構わんさ。俺も艦娘に興味があったしな」
恥ずかしさと気まずさから、向いた視線は下。そのまま消え入りそうな声で謝る。そんな私に気にするなと言わんばかりの軽い口調で彼が答えた。
「興味、ですか……?」
「これでも提督を任された身だからな。噂でしか聞いた事のない艦娘がどんなものか、知りたかったんだ」
「そんな噂頼りで、私がよく艦娘だって分かりましたね……」
「そりゃ、鎮守府の中を女の子が歩いてたら察する事は出来るさ。間違って迷いこんだって雰囲気でも……そういや、迷子で泣いていた可能性がーー」
「ある訳ないでしょ!」
言葉の途中で、ふと思い当たったから口にしたのだろう。私はそれを皆まで言わせる事なく遮る。
「お、元気になったか。なら、俺もそろそろ戻るかね」
離席の理由がトイレだから、あまり長居できんのだ。と付け加えつつ立ち上がる彼。そして、それを見上げるだけの私に、手を差し出す。
「ほら、立てるか?」
「え……?」
「ここに置いていく訳にもいかんだろ。送っていってやるよ」
そのまま立ち去るだけだろうと思っていた為に、目の前の手の意図を一瞬掴み損ねる。
「あ、いえ……ありがとうございます。でも、大丈夫です。一人で帰れますので……」
「そうか? なら、無理強いはしないでおくが……。そうだな、これくらいのお節介はさせてくれ」
遅ればせながら理解はしたが、これ以上他人に迷惑をかける訳にもいかない。
ーー何より、この優しさに甘えてしまうと、私はきっと壊れてしまう。
「えっ……!? ダメです、受け取れませ……っ!?」
それなのに、彼は無断で私の心を踏み荒らす。
身体に被せられたのは、白い軍服。こんなもの、受け取れる訳がないと、慌てて立ち上がる私だが、些か慌てすぎたか、足が縺れてバランスを崩してしまった。
「よっ、と。……なら、貸しておく。だから、ちゃんと返してくれよな」
「それは、無茶ですよ……」
そして、事もなげに彼に受け止められる。先程からみっともない所を見せてばかり。調子が狂わされる彼に、私は恨めしげな視線を向ける。
「そうでもないさ。君の名前は?」
そんな私の胸中を知ってか知らずか。笑みを浮かべて問いかける。
「……漣。綾波型九番艦の駆逐艦、漣です」
そう言えば、自己紹介はまだだったか。……つまり、素性すら知らない私に、この人は親身になってくれていたと。
考えてはいけない事なのに、考えてしまう。この人が、私の提督なら良かったのにーー
「そうか。なら、漣。気をつけて帰れよ」
そう言って踵を返した彼をただ見送る。結局、軍服を突き返す事は出来ず、私の身体を覆うそれは、私を暖かく包み込んでいた。
「……帰ろう」
小さく呟いて、私は前を向いて歩き出す。
ーー数日後、とある鎮守府への異動命令が私に下された。
重厚そうな扉を前にして、深呼吸。気持ちを落ち着ける。そして、その扉を緩く握った拳で三回叩く。
「入れ」
「……失礼します」
中から聞こえた声に応じ、扉を開いて室内へ。着任してから日が浅いからだろうか、綺麗な内装な部屋の中には、執務机とその机とセットな椅子だけしかなかった。
「ようこそ、我が鎮守府へ。歓迎するよ、漣」
部屋を飾る物が少なすぎて、どこか寒々しい雰囲気を醸し出す部屋の窓際。窓枠を背凭れにしつつ、この部屋のーー否、この鎮守府の主が言う。
「どうして、私だったんですか?」
その人物に対して、私は疑問をぶつける。
基本的に、どの鎮守府でも最初にやることが建造であり、その建造で生まれた艦娘が初期艦となる。
他の所から艦娘を異動させる事自体は珍しくない事だが、それを初期艦にするのは前代未聞であった。
「……んー、俺自身が新米だから、内情を知ってて、且つ練度が少しばかり高い子が欲しかったんだよな」
「それなら、私以外にも……」
「まあ、そうだな。言うなれば、今のが一つ目の理由。二つ目の理由もちゃんとある」
「それは一体……」
「ま、それは後のお楽しみ。とりあえず、初仕事といこうか」
窓枠から背を離した彼が、私の頭に手を軽く乗せてから、小さく笑みを浮かべて通りすぎ、そのまま執務室を出ていく。
「え、今説明してくれないんですか!? しかも、いきなりお仕事ですか!」
あまりにも自然に通過されたため、反応が遅れた。扉が閉まる直前、慌てて私も彼を追いかける。
「初仕事って言ってましたけど……何をするんですか?」
「建造だ。最初はとにかく仲間を増やす」
先に出た彼の隣に追いつくと、横から見上げながら問いかける。
答えは予想通りと言えば、予想通りのものだった。
「で、ここが艦娘を建造したり、装備を作ったりする工廠だ」
「へえ、立派なんですねえ」
執務室のあった建物から外に出て、暫く歩いた先に工廠は存在していた。彼の案内に続いて、その建物の中に入り、私は感嘆の息を漏らす。
「……今はこの広さが、逆に寂しいんだけどな」
一方、彼は苦笑い。言われてみれば、工廠内の妖精達ーー建造や開発に携わり、果ては艦載機にすら搭乗する、私達艦娘にはなくてはならない存在ーーも仕事がないからか退屈そうである。
「そんな訳で、漣。好きに建造していいぞ」
「えっ、私がやるんですか!?」
複数ある建造ドックの内の一つ。それの前にたどり着いた私に、衝撃的な言葉が投げ込まれる。
「やり方を知らんからな、俺」
そんな胸を張って言われても。
「はあ……。じゃあ、とりあえず、最低値でやりましょう。まずは質より量です」
どうやら本当に私に任せるらしい。仕方がないので、妖精に指示を出し、建造を開始させる。
そう言えば、建造なんて、いつぶりだろうかと考えながら。
「ーー漣」
「……なんですか?」
考え事のせいで、若干上の空の私。
「建造という物は、その指示を出した人物の心が影響する。投入する資材は、副次的な物に過ぎない。……知ってたか?」
「……? いえ。ですが、それが何か?」
「想いが強ければ強いほど、それは反映される」
彼の言葉と同時だろうか、ドックから光が溢れた。それは紛れもなく、建造が終了したという報告。建造には時間がかかるのが定石なため、その異常な光景に私は目を見開く。
「一体、なにが……!?」
おそらく、妖精達にとってもこの状況は想定外なんだろう。ドックの中で慌ただしく右往左往した後、全員どこかに行ってしまった。
「さっき言わなかった二つ目の理由ーー」
やがて光が収まると、新しく建造された艦娘の姿が露になる。その姿に、私は目を奪われた。
「ーー俺は君を救いたかった」
彼の言葉も聞こえはしたが、私の視線は彼女に釘付けのまま。そんな私の反応なんてお構い無し、気づいてすらないのだろう。桃色の髪を靡かせた少女は元気よく挨拶をする。
「卯月でっす! うーちゃんって呼ばれてます!」
「貴方が司令官? 宜しくだぴょん!」
「ああ、宜しく。と言っても、君で二人目なんだが」
「二人目? じゃあ、そっちの子が初期艦なのね?」
「そうだな。君と同じ駆逐艦だ。仲良くしてやってくれ」
「任せるぴょん」
彼の周りを元気一杯に跳ね回る姿は、その語尾から想像できる通り、兎にそっくりである。
そして、これこそが彼女の本質なんだろう。あの提督の下では、見ることすら叶わなかった天真爛漫な一面。
「名前を聞いても良いぴょん?」
「あ、えっと……漣、です」
勿論の事だが、あの沈んだ卯月とこの目の前に居る卯月は別人である。
『お前らの代わりなんて幾らでも居るんだ』
代替の効く兵器。言われるまでもない。理解していた事だ。
「じゃあ、さーちゃんだぴょん。これから宜しくお願いしまっす!」
それでも、幾ら別人と自分に言い聞かせても、胸中から湧き出る様々な感情は収まってくれそうにない。
「はい……はい。こちら、こそ……宜しく、お願いします」
「し、司令官! さーちゃんが急に泣き出して……!」
言いたい事は色々あった。例え、伝わらなくても言いたかった。だが、その無邪気な笑顔を前に、感極まってしまった私は何も言えなくなってしまう。
「卯月、君に姉妹は居るのか?」
「上にも下にも沢山居るけど……」
「じゃあ、漣を泣いている妹と思って、君の好きな行動を取ればいい」
「うーん……分かったぴょん」
言われるまで頬を流れる雫の存在に気付かなかった。あれ、私ってこんな泣き虫だったっけと自分で驚く。そんな私を優しい香りが包み込んだ。
「よしよし。さーちゃんは、もう一人じゃないぴょん。だから、好きなだけ甘えてもいいんだよ?」
私を抱き締めた彼女は、妹をあやす様に言う。それが琴線に触れた。
懺悔や謝罪を伝えても困惑させるだけだろう。なら、せめて、今度こそ離さないようにと、あの時は届かなかった手を伸ばし、彼女の身体を強く抱き締める。
ああ、今になって理解した。
私はもうーー過去に囚われなくていいんだ、と。
預けられた想いが、氷解し、身体の外に向かって流れ出す。
声をあげて泣き出した私を、卯月さんは何も言わず、ずっと抱き締めてくれていた。
「ここは……」
目を開くと視界に映ったのは見慣れない天井。そして、背中に柔らかな弾力のある感覚。
どうやら、泣き疲れて寝てしまったらしい。で、そのままにしておく訳にもいかず、この部屋まで運ばれた、と。
「私は子供か」
「見た目は子供だろ」
「……なんで居るんですか」
「執務室だからな。当然だ」
「いつの間にソファなんて出したんですか」
「応接間から持ってきた」
「……後でちゃんと元の場所に戻しておいてくださいね」
「一人じゃキツいから、手伝ってくれよ?」
「全く、仕方ない人ですね……」
苦笑しながら身体を起こす。風邪を引かないようにという心遣いだろうか、身体に被せられていたタオルケットが、起きた拍子に床に落ちてしまった。
「それ、卯月がお前に被せてたぞ。後でちゃんと返すんだな」
「言われなくても。ところで、その卯月さんはどちらに?」
「建造。言ったろ。最初は仲間を増やすって」
私が寝ている間も、黙々と仕事をしていたのだろう。机の上に、資料や報告書と思わしき紙が散乱している。
「卯月さん、やり方を知ってるんですか?」
「俺が教えた」
「……知ってたんですか、建造のやり方」
「最初の建造で生まれた艦娘が初期艦となるのが基本なこの世の中で、建造のやり方を知らずに提督になれる奴はおらんよ」
「じゃあ、どうしてそんなくだらない嘘を……」
「……聞かなくても、既に分かっているんだろう?」
ふと、作業を止めるとこちらに視線を向ける。元来の目付きの悪さも相俟って、睨まれているような錯覚を覚える。
「私を、救うため……?」
それは卯月さんが着任する直前に彼が口にした言葉。
意味はよく分からなかった。
「さっきも言ったが、建造というのは、それを行った人物の心に強く影響される」
「建造されたばかりの艦の場合……そうだな、着任したばかりの卯月が、現に建造を行っているから、これを例えに出すが、次に着任するのも彼女と同じ睦月型だろう」
「未着任の姉妹の事、気にするなという方が無理だからな。……さて、ここまで言えば、俺が何を言いたいのか分かったか?」
訝しげな私に対し、建造についての説明を。前の鎮守府では、提督がずっと建造をしていた事と駆逐艦しか着任しなかった事への合点がいく。
「接点が殆どないのに、私の建造で卯月さんが出てきた。つまり、私の心が彼女で占められていた、と言いたい訳ですか」
「察しが良くて助かるよ。会いたかったんだろ、卯月に」
「……まあ、色々と言いたい事があったので」
「今なら言えるが?」
「残念ながら、彼女は私の知っている卯月さんではないから、言っても混乱させるだけかと」
沈んだ艦娘の記憶は引き継げない。まさしく生まれ変わると同義なそれを彼は知らなかったらしい。自嘲気味に笑った私に彼の表情が変わる。
「……そうか。それは申し訳ないな。救うと大それた事を言った割に、力になれてない」
「いいえ。卯月さんに会わせてくれた事は感謝しています。確かに彼女は私の……いえ、私達の負い目ですから」
少なくとも彼女と再び出会えた事で、背負っていた重荷が軽くなったのも事実ではある。中身が違えど、会いたかった事に相違ないのだから。
故に、確かに私は彼に救われたのだろう。
「……お願いがあります」
「なんだ?」
ソファから離れ、私は彼の目の前に移動する。
ーーあの鎮守府での生活は、心身を磨り減らすだけの日々だった。
それを呪って、後悔はするが、足掻くだけ無駄とどこか諦めて、前を見ることなく、立ち止まって、後ろばかり振り返っていた。
それはきっと、私だけでなく彼女達も同じだった筈で。
ならば、少しだけ前を向ける様になった私が、彼女達を先導してやらねばならない。
「私が居た鎮守府に残っている、他の艦娘達も助けてください」
私だけが救われるなんて、私自身が許せない。だから、頭を下げる。
この人なら、きっとなんとかしてくれる。そんな気がしたから。
「ダメだ」
そんな願いは、あっさりと断られる。
「私に出来ることならなんでもします! だから、お願いします!」
「ダメな物はダメだ。演習があるから、他の鎮守府の艦娘への干渉までなら多目に見られるが、引き抜きは禁止されている」
「じゃあ、あそこの鎮守府の艦娘達は放っておけって言うんですか! 私の仲間が沈むかもしれないんですよ!」
分かっている。これはただの我が儘だ。毎日を生き残るのに精一杯で、世間を知らずに過ごしていた事への代償。
「いっそ、全員沈めばいいんじゃないのか?」
「なっ……!? 本気で言ってるんですか!?」
怒りのあまり、机を思いっきり叩いてしまう。その勢いによって、机の上の紙が幾つか床に落ちたが、気にしてはいられない。
だが、いきり立つ私とは裏腹に彼は冷静なままだった。
「俺は本気だよ。艦娘を全員失えば、その鎮守府の権力は失墜する。資材も無限ではないからな。無能な鎮守府に供給するだけ無駄だ」
「それでも、彼女達は懸命に生きているんですよ……。例え、鎮守府が無能でも、私達は着任する鎮守府を選べない。そこで頑張って生きていくしかないのに……」
せっかく足掻いてみようと思った矢先だったが、出鼻を挫かれたどころの話ではない。空回りした勢いが徐々に萎んでいく。
「そうやって、生にすがりついて居るから、いつまでもこんな鎮守府がなくならないんだろ。なら、その鎮守府をなくす為の人柱になってもらうしかあるまい」
「何を……言っているんですか?」
この人も、結局はあの提督と同じだったのか。艦娘を『兵器』としか見ておらず、躊躇いもなく切り捨てる。そんな人だったのか。
「お前が取れる選択肢は二つだ。艦娘を全員沈めるか、静観するか」
言いつつ立ち上がる彼。失意と失望に呑まれてしまった私は何も言うことが出来ない。
「俺は工廠の様子を見に行ってくる。その散らかした書類、片付けながら頭を冷やせ」
部屋に残されたのは、無気力になった私だけ。
誰だって、他所の厄介事に首は突っ込みたくない。まして、この鎮守府は出来たばかり。規律違反などやってしまった暁には、どうなってしまうのか、想像に難くない。
「本当に、やるせない……ですね……」
無力な自分。現状を変える力がただの艦娘である自分にはない。理解していた現実に改めて打ちのめされ、私は乾いた笑みを浮かべる。
手持ち無沙汰のままだと、泥沼にハマっていきそうな思考。それを邪魔するのに、書類整理は最適だった。
私は、足下にある書類を無造作に拾う。
ーーその内容が目に入ったのは偶々だった。
私は目を見開く。何故なら、それはこの鎮守府にあるとおかしい物だったから。
「書類の片付けって事は……!」
片付け方の指定はない。つまり、全部をゴミ箱に放り込んでも、彼は何も言わないのだろう。事実、この書類は彼には必要のない物である。けれど、私にとっては必要な物だ。
私は全ての書類を纏めると、それを持って執務室から飛び出した。
海原を滑走する四人の少女が居た。その海域は、潮の流れが独特なせいで、五人以上の艦隊では、その海域を支配する主力の下に辿り着けないと言われている。
「まさしく、私達にとっては、都合がいい海域だね」
「どこがよ。この海域の攻略に託つけて、艦娘の補充をしたくなかっただけじゃない」
「潜水艦って遅いのね!」
「貴女より速い潜水艦は見たくないかな……」
投げ合う言葉は四者四様。だが、戦場であるというのに、彼女達の表情は明るい。
「ソナーに反応! 二時の方向、熱源三つ!」
「了解。対潜制圧戦、始めようか」
海にさえ出れば、彼女達は自由になれる。他人の顔色を窺って、発言にすら気を払う必要がなくなるーー端的に言えば、ストレスの原因から解き放たれるから。
「島風、私が援護してあげる。感謝しなさい」
「……私の動きについてこれるの?」
「余裕に決まってんでしょ! 怒るわよ!」
しかも、海域の特性か、先程から遭遇するのは潜水艦ばかり。対潜装備自体は、全員に満足に行き渡っているとは言い難いが、軽巡と駆逐艦という編成上、相性が有利である事に変わりはない。
故に、彼女達の気分はいつもより明らかに高揚する。
「いつもこんな感じなら、楽なんだけど」
潜水艦の針路に爆雷を投下した響が、その一帯から離れつつ言う。
「いい息抜きになったよねー」
敵潜水艦が爆発に呑み込まれたか、盛大な水飛沫が上がると同時に、熱源反応が1つ消失する。
「私の知ってる息抜きと違うんだが」
「鎮守府近海の攻略を終えてから、息を抜く暇すらなかったから。それは仕方ないよ」
言いつつ熱源を感じる方向に魚雷を波状的に放つ酒匂。潜行か浮上でしか避ける事が出来なさそうなその攻撃を、敵潜水艦は後者の選択で躱す。
少しでも雷撃の射程圏内に近づきたかったのか。それとも、その潜水艦が他の潜水艦と違って好戦的だったのか。最も、その行動は裏目ではあるのだが。
「ーーバイバイ」
相手の雷撃よりも先に、こちらの主砲の射程圏内である。浮上してしまったのが、運の尽き。数回の砲撃を逃げる前に浴びた敵潜水艦は沈黙する。
「こっちも終わったわよ」
「この程度の敵なら、ドンとこいだよ!」
どうやら島風と叢雲の方も無事に潜水艦を撃破したらしい。
「うん、ソナーに反応なし、と。じゃ、進もうか」
念のためと確認をしてから、一行は再び水上を滑走する。
気を引き締めなければならない程度の難易度の出撃を繰り返してきた彼女達にとって、ここの海域は少しばかり簡単だった。
だからこそ、気持ちに出来た余裕。それが慢心を生む。
針路がズレている事に、快勝の美酒に酔った少女達は気づいていなかった。
火を吹く主砲。敵が放った砲弾が、酒匂のすぐ隣の海面を抉る。
「っ……! 散開急いで! このままじゃ各個撃破されちゃうわ!」
水中に反応がないからと、警戒を怠りすぎたか。普段なら絶対にやらないミス。それも致命的なまでの物。指示を飛ばしつつも、酒匂の背中に嫌な汗が浮かぶ。
「それが出来たら苦労しないっての!」
「あー、もう! 島風の邪魔をするなあああっ!」
敵の砲門と魚雷発射管から断続的に放たれる攻撃に晒され、味方の陣形の立て直しが上手くいかない。
「丁字戦、しかもこちらの不利な状態か……」
響が呟く。それは待ち伏せの証。見敵と同時に敵の砲門が全てこちらに向いている事に気づいた。しかし、誰もすぐさま反応は出来なかった。一発目が外れたのは奇跡だろう。
もし、あれが酒匂に直撃していたら、指揮系統の乱れから全滅まで有り得ていた。
「……不幸中の幸いと言ったところかな。最も、この状況のままだと不味いんだけど」
砲門の標準の先に居るのを嫌って動こうにも、その矢先に魚雷や牽制射が飛んできて、それどころではない。だが、おかしな事に、旗艦とおぼしき敵雷巡は最初の一撃以外の砲撃を行う様子がない。
まるで、何かを待っているかのようなーー
「本当に鬱陶しいわね! 島風、何隻か減らすわよ!」
「了解! 島風、いっきまーす!」
そして、盤面は動き出す。駆逐艦特有の足を封じられた事に対するフラストレーションが爆発した叢雲と島風が、敵に向けての突撃を開始する。
ーー雷巡の口角が吊り上がるのを、響は確かに目視した。
そして、思い出す。見敵した際の敵の数を。一隻、足りていないのだ。それがどういう意味か、考えるまでもない。
「二人とも下がれ!」
二人の突撃を遮るような砲撃。正面からの正直な攻撃が当たる筈もなく、砲弾はなんなく躱されるが、水柱が盛大に上がる。
艦隊から離れ、しかも索敵能力のない二人。そして今、大事な視界さえも水飛沫によって奪われる。故に敵駆逐艦と言えども、死角からの攻撃は避けられない。
二人が気づいた時には、何もかもが遅かった。
響の叫び声は届かず、大きな水柱がまた上がった。
「あたしの……あたしのせいだ……」
それを見て膝をつく酒匂。自分がちゃんと索敵をしていれば。後悔が波のように押し寄せる。こちらの陣形を乱し、二人を無力化出来たからか、敵艦隊が動き出す。
「泣き言は後にしてくれ。今は一刻も早くあの二人と合流して、ここを離脱しないと」
暫くしてから収まった水柱。その中から、大破した島風に肩を貸す叢雲の姿が見える。泣きそうになりながらも、懸命に島風に呼び掛けている。
「彼女達はまだ沈んでいない。なら、私はまだ諦めない」
「……そうね。響ちゃん、先に行ってて。ここは、あたしが責任を持って預かるから」
目の前で誰かが沈んだ事に比べたら。ほぼ全員が中破以上の損傷のままで海域の攻略をしている事に比べたら。
心が折れるには早すぎる。
彼女はゆっくりと立ち上がる。その瞳に宿るのは決意の炎。
「……沈むつもりなら止めるよ」
「そんな気はないから、大丈夫」
「……そう。 Удачи! 」
響の問いに笑って答える。そんな彼女に何か言いたげな表情をした後に、結局無難な言葉を投げて、響は二人の下に駆けていく。
「……幸運を祈る、だっけ」
彼女にとっての幸運とはなんなんだろう。大規模な作戦に参加できず、死地を見失った結果、クロスロードにて実験台にされた。
その未練でここに居るのなら、まさしく戦場で華々しい活躍をし、そのまま散るのが酒匂にとっての幸運だろうか。
「ごめんね、響ちゃん。嘘ついちゃった」
敵の動きは止められない。ここから離脱するために敵に背中を向ける三人は、その砲門から逃れる事は出来ない。
彼女達を逃がすためには、砲撃の身代わりになりつつ、他の駆逐艦全ての足止めが必要となる。
そんな事をすれば、結果的に自分は沈むだろう。
「でも、もう十分頑張ったよね」
水面を蹴る。大した作戦に従事出来なかった自分にとって、生まれ変わって再び海を駆け抜けれただけで幸運だった。
故に、未練はない。彼女達の盾になる事になんの躊躇いもない。
「酒匂! 貴女……!」
「ーー嘘つき」
三人の少女を護るため、敵の針路に躍り出る。響の言葉が胸に深く突き刺さり、泣きそうになる。
「あとの事はお願いね」
それを堪え、別れの言葉を投げつつ正面を見据える。敵旗艦の雷巡はその口元に厭らしい笑みを浮かべ、酒匂に主砲を向けた。
そして、突如猛スピードで突っ込んできた漣に、思いっきり蹴り飛ばされて吹っ飛んでいった。
「え?」
時間が止まる。皆、真顔でその光景を見守っていた。
「くぅ~、艦の時からやってみたかったんだよねー、ドロップキック」
最大船速である38ノットから繰り出された容赦のない飛び蹴りに、敵旗艦の雷巡が海原の彼方へと吹き飛んでいく。
蹴り飛ばした当の本人は、衝突の反動で勢いを無理矢理殺し、空中で体勢を立て直し、華麗に着地する。
あんな芸当をしときながら、人ではないその頑丈な彼女の身体は、機能の低下を起こしはしない。
「漣……さん?」
漸く、酒匂がポツリと呟く。それと同時に時間が動き出した。旗艦を失った敵が統制を失いつつも、猛然とこちらに向かってくる。
「……っ! 漣さん、彼女達の離脱を手伝って! あたしがここを引き受けるから!」
味方は一人増え、敵は一人減ったが、守らなければならない存在が居るという状況は変わらない。
「その必要はないんですよ、酒匂さん」
「えっ……?」
「なんで、私が一人で全速力でここに来たのか。どうして、私が不意討ちできた状況で主砲を使わなかったのか。分かります?」
「そんな問答、してる場合じゃ……!」
笑みを浮かべる漣とは対照的に焦りだけが募る酒匂。酒匂にとって、この状況下で漣が余裕ぶっている理由が分からない。
言い方から、他に仲間が居るのは分かるが、その肝心の彼女の仲間達の姿はどこにもない。
強いて気になる点を挙げるならば、彼女が大事そうに何かを抱えているという事くらいだ。
「私が他の仲間より練度が高いから。一人で先行しても、これを戦場まで確実に持っていけるだろうと予想されたから」
言いながら漣がその両手を開き、それを頭上に掲げる。
「零式水上偵察機……? でも、漣さんにそれを飛ばす能力は……」
「いいんですよ。戦場を見渡す事さえ出来れば。遮蔽物のない海上なら、手の上に乗っていようが飛んでいようが、大した変わりはないんですから」
「でも、その偵察機だけでは攻撃がーー!」
言葉の途中で酒匂の、この場に居る全員の耳が捉える。聞き慣れない音を。腹の底から響くような、重低音を。
どこから聞こえたかも分からないそれに、漣以外の艦娘が戸惑う。次の瞬間、敵の水上を駆けていた駆逐艦の一隻が水飛沫に呑まれて消えた。
「私は彼女の目。大事なのは、攻撃よりも相手を一隻足りとも見逃さない事です」
間髪入れずに再び放たれた長距離射撃の前に、駆逐艦が更に一隻沈んでいく。
どこから狙われているか分からない挙げ句、味方の数を徒に減らした事で、さすがに形勢の不利を認めたか、残った敵艦隊は反転し、我先にと離脱していった。
「た、助かった……の?」
敵影が見えなくなったところで、気が抜けたのか酒匂が再び膝をつく。
「……私に言うことがあるんじゃないかな」
そこに響が近付く。
「あ、えと……ごめんなさい」
響の雰囲気に怖じ気づいたか、素直に謝る酒匂。それを無表情で眺めていた響だが、突然その場に膝をつき酒匂に抱きついた。
「もうあんな真似しないでくれ。仲間を失うのは辛いんだ」
「……うん。ごめんね」
「ダメだ。暫く許さないし、これからも離さない」
響の行動に少し驚くも、彼女の気持ちはとても嬉しい。酒匂も響の背中に腕を回し、彼女の温もりを感じとる。
「あれ、私寝てた? 戦闘は? みんなは?」
「アンタね、私を庇って自分が大破してちゃ意味ないでしょ!」
「……どうして、叢雲ちゃん泣いてるの?」
「バッ……! 泣いてなんかないわよ! 何度呼び掛けても起きないアンタが、このままずっと起きなかったらどうしよう。とか考えてないんだから!」
「うへへー、心配してくれたんだね。ありがとー」
「なんでアンタが礼を言うのよ! どう考えても、礼を言うのは庇ってもらった私でしょうが! あの、その……ありがとう……」
大破した際の衝撃で気絶していた島風も、どうやら意識が戻ったらしい。相変わらず、叢雲に肩を借りてるが、思いの外元気そうである。
「あー、お取り込み中で申し訳ないんですけど」
完全に存在を忘れられている漣が、咳払いを一つ。そこで漸く、酒匂達の視線が漣に向く。それを感じ取って、満足そうに頷いた彼女は言う。
「貴女達には、ここで沈んでもらいます」
戦闘が終わってから数刻、とある鎮守府の執務室。
「全……滅……?」
「私が戦場に辿り着いた時には既に手遅れでした。仲間と共に突撃し、なんとかこれだけは持ち帰ってきました」
そこの主である提督を前に、漣が仲間を代表して言う。そして、机に島風の艤装の一部を置いた。
「おいおい。冗談はやめろよ。あそこは潜水艦しか居ないから、そう簡単にあいつらが全滅する訳ないだろ」
「確かに、潜水艦相手なら生き残れたでしょうね」
「……敵が潜水艦じゃなかったと?」
「……ええ。雷巡を旗艦とした水雷戦隊でした。おそらく待ち伏せされたのでしょう」
鋭い眼光に見上げられ、漣の胸中に一瞬恐怖が生まれる。兵器の前に少女である彼女は、そう簡単にそれを乗り越えられはしない。
「ハッ。駆逐艦如きが俺のリサーチ不足を指摘するか」
「……提督がきちんと彼女達に伝えておけば、このような事はーー」
「うるせえよ。そもそも、お前達の登場も都合が良すぎる。たった二人で、敵を掃討したのか。俺の部隊が全滅した程の敵を」
「それは……」
漣が口ごもる。それを好機と見たか、提督は畳み掛ける。考えてみれば、おかしな話だ。あれほど生にしがみついていた兵器達が、水雷戦隊ごときに遅れを取るとは思えない。
誰かが沈んだとしても、一人や二人は帰ってきて当然であろう。
「それにお前らは損傷が全く見当たらない。大方、違う鎮守府の甘いやり方に毒されたか。良い身分になったもんだな、漣ぃ」
「ひっ……」
ゆらりと立ち上がる提督。彼は既に確信を得ている。自分の兵器は漣の居る鎮守府に連れていかれたのだと。
「躾が必要だなあ、これは」
彼女の傍で振り上げた手。それに怯えた漣は何も出来ない。そして、そのまま無情に手は振り降ろされ、
「……なんの真似だ」
「漣さんは、既に貴方の指揮下ではないので。謂れのない暴力は許しません」
漣の背後に控えていた少女に、途中で止められた。
「お前は?」
掴まれた手を振り払いつつ尋ねる。その返答は違うところから飛んできた。
「金剛型三番艦の榛名ですよ、先輩」
執務室の入口。いつの間に入室してきたのか、そこには漣と榛名の上官である彼が居た。
「……ノックくらいしろよ、後輩」
「いやはや、うちの部下が迷惑をかけたと聞いて、居ても立っても居られなくてですね」
二人の表情は対照的。一方は憮然とした顔つきで、もう一方は薄い笑みを浮かべている。
「うちの部下、ね。立派になったもんだ、お前も」
「……先輩には負けますよ。漣、榛名。二人は帰ってろ」
「ですが……」
「ここからは大人のお話。道中、気を付けてな」
心配げな漣。それもそうだ。彼の登場は彼女のシナリオにない。だが、彼女達だけでは上手くいかない事は、彼にはよく分かっていた。伊達に長いこと後輩をしている訳ではない。
体よく二人を執務室から追い出す事に成功した彼は、目の前の先輩の正面に立つ。
「さて、始めましょうか。楽しくもなんともないーークソみたいな話を」
彼が自分の鎮守府に帰れたのは二日後だった。
「なーにが、引き抜きは禁止、ですか。そんな事言うから、貴方は関わらないものだと思っていたのに」
執務室にはいつも通りの彼と私。二日の空白は大きく、溜まった仕事の対応に追われている。
「だから、引き抜いては居ないだろ。彼女達は、自発的にここに来たんだ。俺はなんの指示も出していない」
「屁理屈です」
「まあまあ、漣さん。提督、お茶が入りましたよ」
むくれる私を榛名さんが諫める。
「じゃ、休憩にするか。仕事減らねえし」
これ幸いと仕事を投げ出す彼に、冷ややかな一瞥をくれるが、一息つきたかったのは私も同じ。
榛名さんの淹れるお茶美味しいし。仕方ない。と理由をつけて自分の甘さを棚にあげる。
「そういえば、戦艦なんてよく建造出来ましたね」
「……ん? あー、卯月の様子を見に行ったついでにな。漣の計画には、戦艦か空母のどっちかが必須だろうと思って、それ考えながら建造した」
三人のお茶会。私は榛名さんに視線を向けた後、彼にその視線移して疑問に思っていた事を聞く。
「私が行動しないとは思わなかったんですか……」
「その時はその時。癖みたいな物なんだよ、物事の最悪を考えてしまうの。あの海域を攻略するには、漣はともかく卯月の練度は足りていない」
「だから、練度を力で補える、私みたいな戦艦や空母が欲しかった。という事ですか?」
「正解」
榛名さんの問い掛けに彼は頷く。ならば、と。私はふと思い出した事を口にする。
「じゃあ、最後の最後に出てきたのも……」
「漣が言い負かされる可能性を考えたから。決して、漣を信じていない訳ではないが、その可能性が零じゃない限り、俺はそれを考慮する」
「なんとも後ろ向きな癖なんですね……」
「言うなよ。これでも気にしてるんだから」
ちょっとした衝撃を受けて何も言えない私と苦笑を浮かべ合う二人。
「あーっ! てーとく達が休憩してるー!」
そこに現れる闖入者達。執務室の扉を開いた島風さんを筆頭に次々と入室してくる。
「ちょっと、司令官! 私を差し置いて休憩ってどういう事よ!」
「うーちゃんもお茶とお菓子を頂きたいのだー!」
「ぴゃああああっ!? ちょっと皆、押さないでよおおおっ!」
「……やれやれ、いきなり賑やかになったな。悪いが榛名、皆の分のお茶も淹れてくれるか?」
「はい、榛名は大丈夫です!」
「よし、お前ら食堂に移動するぞ! 今からお菓子パーティだ!」
意気揚々と食堂へ向かう彼と仲間達。短い時間であれだけ打ち解けているのは、信頼されている証拠なのだろう。
常に私達の事を考えて行動する。それが分かっているから、彼女達も簡単に心を開く。
「行かないのかい?」
部屋に残っている私に気づいたのか、響さんが振り返り、聞いてくる。
「……いいえ、すぐに行きますよ」
出した食器の片付けや、仕事なんて後回しでいいか、と。
響さんに笑顔を返すと、私も部屋から飛び出して、彼の傍へ。
「……どうした、漣?」
見上げる視線に気づいたのか、柔和な表情で見下ろされる。相変わらず、目付きは悪いけれど、彼なりの優しさが感じ取れた。
この人は、前の人とは何もかもが違う。そんな人物を前の提督と同じ呼び方をするのは、同等に扱っているみたいで気分が悪い。
「そういえば、私が着任した時の挨拶が、まだだったなあと思いまして」
「そうだっけか?」
ならば、せっかくなので、誰も呼んでない呼び方をしてみようか。
別の意味で旦那や夫を指すこの呼び方なら、他の艦娘への牽制になるし、私の特別な想いも少し乗せる事が出来る。何より様付けは、彼がむず痒いと言うに違いない。
「ええ。ですから、これから宜しくお願いします、ご主人」
そして、言葉にはしないが、ありがとうございます、と。仲間をーー私達を救ってくれて。
今、私が笑えているのは、貴方のお陰ですから。
今回はここまで。過去話と説明したい設定やら世界観をごちゃ混ぜにした結果、自分が最初に言った期限に間に合わず、申し訳ありません
とりあえず、物語の都合上、拾えなかったお話を短編で補足しようとは思います
引き抜き禁止なのに、漣が思いっきり引き抜かれてますので、ここは説明必須と感じてます
弾着観測射撃はやりたかっただけです。制空権?知らない子ですね……
それでは、来られたら今週の土曜か日曜に更新致します
乙
乙
榛名がメインなのか、漣がメインなのか…
こんにちは。>>1です
少ないですが、今日は短編を二つ程、投下
更に幾つかの短編の投下を予定しております。それの後に本編を再開します
それと、諸事情により11月まで来れないかも知れません。申し訳ありません
こんにちは。>>1です
少ないですが、今日は短編を二つ投下
更に幾つかの短編の投下を予定しております。それの後に本編を再開します
それと諸事情により11月まで来れないかも知れません。大変申し訳ありません
~漣に異動命令が出る前日のお話~
「どうも、先輩」
『お前、業務中に電話掛けてくんじゃねえよ』
「それでも律儀に出てくれる先輩の優しさに感涙してます」
『……思ってもない事は言うもんじゃねえよ』
「いやいや、割と本気で感動してますよ」
『ケッ、食えない野郎だ。……で、用件はなんだ?』
「相変わらず無愛想ですね。もうちょっと世間話を楽しみましょうよ」
『切るぞ』
「冗談です」
『仕事中だって言ってんだろ。手短に用件を言え』
「漣さんを俺にください!」
『却下だ』
「即答ですか」
『お前の言い方が悪いだろ、今の』
「でしたかね。まあ、それはさておき、漣に貸してる物があるんで、それを返して貰いたいんですよね」
『……上着なら俺が配送してやるが?』
「あら、バレてましたか」
『逆にバレないと思ったのか。どうやったらトイレ往復しただけで、上着をなくせるんだよ』
「でも、あの時は先輩スルーしてくれたじゃないですか」
『……うっせ』
「ま、話を戻しましょう。俺は上着を確かに漣に貸しました。なので、返却の際は本人から渡されるのが筋だと思いますよ?」
『…………』
「めんどくせえな、コイツ」
『勝手に人の心を読むな』
「先輩、分かりやすいので」
『……ケッ。分かったよ、漣をそっちの鎮守府に送れば良いんだろ』
「ええ、それと彼女は暫く借りておきますので」
『暫くってどのくらいだ』
「永遠?」
『世間では引き抜きって言うんだよ、それを』
「そこは先輩の権限で異動にしてください」
『……対価は?』
「出世払いでお願いします」
『ハッ、くだらねえ。……ま、次の海域は四人以下じゃないと制圧出来ないらしいしな。良いぜ、一人くらいくれてやる』
「……一人異動しても五人居る筈では?」
『それが一人沈んだらしくてな。だから、一人異動で残り四人だ』
「なるほど。……なるほどな」
『どうした?』
「いえ。何はともあれ、漣の件をお願いします」
『そっちこそ、出世払い忘れんなよな』
「忘れませんよ。それでは、また」
「ーー近い内に」
~終わり~
~榛名着任~
「榛名、着任いたしました。貴方が提督なのね? 宜しくお願いします」
建造が終了した合図である光が収まると、そこには一人の少女が居た。
俺の姿を見やり、深々と一礼する少女。
……なるほど、建造が人の想いに左右されるのは本当らしい。
こうして実際に建造をしてみると、それを実感する。
「ああ、宜しく頼む」
「新入りぴょん?」
「あら、駆逐艦の子ですか? 初めまして。榛名と申します」
俺の隣で違う建造をしていた卯月が覗き込む。そんな彼女にも、榛名は柔和な笑顔を浮かべ、挨拶を。
「その艤装は……せ、戦艦……!? 司令官、うちのどこにそんな余裕が……!」
「あったと思うか? お陰で資材はすっからかんだ」
榛名とは裏腹に卯月の表情は驚愕に満ちている。建造が想いに呼応すると言っても、投入する資材が足りなければ、その想いは届かない。
二次的な要素しか含まないのは確かだが、それも建造に必要な要素ではある。
「でもまあ、お前らが心配する事ではないさ。それに卯月、初対面の相手が挨拶をしているのに、それに応えないのは失礼だと思うぞ」
卯月の表情につられたか、榛名の表情が曇る。少なくとも、俺はそんな顔が見たいがために、戦艦を建造した訳ではないのだ。
「うー、司令官がそこまで言うなら。卯月です。うーちゃんって呼んでね。これから宜しくお願いしまっす」
「えっ、あっ、うーちゃん……さん?」
「さんは要らないぴょん!」
「榛名、別に無理して呼ぶ事はないぞ。卯月でいい」
困惑している榛名に助け船を。どう見ても、この子は他の子をあだ名で呼ぶような子じゃなさそうだし。
「司令官は頑固だぴょん」
「お前な、自分の部下をあだ名で呼ぶとか、他の子が着任した時に示しがつかないだろ」
「うーちゃんは構わないぴょん」
「俺が構うわ!」
部下と漫才している時点で、示しも何もない気がしている。
「ふっ、ふふふ……」
「……榛名?」
「ふふ、ごめんなさい。ここは、とても暖かいですね」
いつのまにか笑みを溢していた榛名。ふんわりと笑う彼女は、その纏う雰囲気も相俟って、とても優雅だった。
「提督?」
「……ああ、いや、すまない。駆逐艦とかいう子供とばかり戯れていたからか、榛名の大人な雰囲気に中られてしまった」
実際、見とれたのは事実だが、誤魔化す為に茶化す。
「もう! 冗談がすぎますよ、提督」
「うーちゃんは子供じゃないぴょん! 司令官のバカ! バカ!」
案の定、耳まで真っ赤にして恥ずかしがる榛名。それと、なぜか俺の脛辺りを何度か蹴る卯月。
「ちょ、いっ、痛ぇ。こら、やめろ、卯月」
「ふーんだ! もう司令官の事なんて知らないぴょん! 悔しかったらやり返してみろぴょん」
卯月の物言いに、悪戯めいた表情浮かべつつ反応する。
「……言ったな?」
「お? やる気だぴょん?」
「ふ……はは、ふはははは!」
「提督? 顔がすごく悪役みたいになってますけど……」
「その生意気な口、すぐに聞けなくしてやるぜ!」
「きゃー! 司令官に襲われるのー!」
言葉と同時に走り出す卯月。その卯月を追い掛ける俺。そして、その光景を見守る榛名。彼女は誰にも聞こえないように、そっと呟く。
「本当に……暖かい」
その後、工廠内を走り回ったせいで、妖精達が激怒。俺と卯月は二人揃って、彼らにこってりとしぼられたのは、また別の話。
~終わり~
今回はここまで
漣は動かしてて楽しかったので、勢いに任せて書いただけなんです。メインヒロインは榛名です
構想を形にする際に、変な方向に狂わなければですけど……
乙
続き待ってる
5-3が突破できない>>1です。こんにちは
毎回、レス貰えて感謝しております。今回も短編だけ
次から本編再開です。またキリのいいところで順次投下していきます
短編は時系列順に並べてあります
~卯月の失敗?~
「……卯月、これはなんだ」
俺はとある光景に暫し呆然とした後、その光景を作り出した本人に聞く。
「えーと……やりすぎちゃったぴょん。ごめんなさい」
卯月にしては珍しく、表情が暗い。そんな彼女に何をどう言ったものかと悩んでいると、工廠内を興味深げに見回していた少女が俺を見つけ、駆け寄ってくる。
「貴方が司令官ですか? 睦月でーす。宜しくお願いします!」
なんともない普通の出来事である。ただ、卯月が建造をしただけ。案の定、建造されたのは睦月型で、そのネームシップである彼女は明るい雰囲気を振り撒いている。
確かにここまでなら、問題は何もない。
寧ろ、俺が絶句してしまった理由はここから始まる。
「私は如月。ねえ、司令官。私の肌、すべすべで気持ち良いから触ってみる?」
「……弥生。宜しく、です」
「ボクが皐月さ! これから宜しくね!」
「あたし、文月って言うんだぁ~。宜しくね~」
「私が長月だ。これから頼りにさせてもらうぞ、司令官」
「……菊月だ。あまり私の手を煩わせないでくれよ」
「三日月です! あの、一生懸命頑張りますので、宜しくお願いします!」
「んあー、なにー? 名前? あー、望月でーす。宜しくー」
艤装のデータがないから、今はまだ建造する事が出来ないと言われている水無月と夕月。それ以外の睦月型駆逐艦がここに居た。
「あの、提督? 大丈夫ですか?」
睦月が駆け寄ってきた影響か、卯月以外の睦月型に囲まれた俺に、眉を下げた榛名までもが近寄ってくる。
「あー……榛名、すまん。こいつら引き取ってくれ」
「了解しました。皆さん、鎮守府の中を案内しますので、私に着いて来てください」
榛名が手を叩いて注目を集める。睦月達の反応は様々だが、なんだかんだで大人しく彼女に着いていき、そのまま工廠から出ていった。
「まるで遠足の引率だな。……さて、卯月」
「……っ!」
呼び掛けると卯月の肩が露骨に跳ねる。
「おいおい、そんなビクつくなよ。俺は説明が欲しいだけで、怒ってはないんだ」
「……司令官、目付きが怖いから。笑ってない時は基本的に怖いぴょん」
「……マジか」
ちょっと傷ついた。
・
・
・
「なるほどな。建造で睦月が出てきたから、懐かしくなって姉妹全員に会いたくなってしまった、と」
卯月の説明を端的に纏めると、建造する度に姉妹艦が出て、懐かしさと嬉しさで舞い上がり、気がつけば全員揃うまで建造していたらしい。
「うう……申し訳ないぴょん。ただでさえ少ない資材の殆どを使ってしまったんだぴょん」
目に見えて落ち込む卯月。俺は少し考えた後に彼女の頭に手を乗せる。
「ぴょん?」
「仲間を増やしたいって言ったのは俺だ。卯月は俺の指示に忠実に従っただけ。だから、気にするな」
「司令官……」
俺を見上げる彼女の表情は晴れない。建造資材は大した量ではないとしても、維持費を考えるとなると、ここで一気に艦娘の数を増やすのは不味いと卯月は分かっている。
「お互いにミスをした。だから、これ以上は言いっこなしだ。分かったな?」
言いつつ髪をくしゃくしゃにするつもりで撫でる。
「わひゃー。こ、子供扱いはやめるぴょん!」
ほんの一瞬、心地よさげに目を細める卯月だが、すぐに俺の手から逃れる様に離れていった。
「そうか。なら、榛名の手伝いに行ってやってくれ。子供じゃないなら、任せていいな?」
同じ睦月型だから適任だろう。榛名では手に負えない事も出るかもしれないし。
「まっかせるぴょん! あ、それと司令官」
「なんだ?」
「使ってしまった資材の分まで、うーちゃんは頑張るから。だから、しっかり見ててよね!」
彼女は晴れた表情でそれだけ言うと、工廠から元気に出ていった。
~終わり~
~二人の提督~
「これは、島風の艤装か。……轟沈の報告は受けてないし、アイツは大破でもしたのか」
「……お前、自分のした事を理解しているのか?」
「愚問ですよ、先輩」
艤装の一部を確かめるように触る。そんな俺を一瞥した後、先輩は小さく息を吐くと、再び椅子に腰掛ける。
「いいや、お前は分かってねーよ。引き抜きとかは、俺は別にどうでもいいんだ」
「では、何を理解していないと?」
「お前のような生き方をした奴が、どのような末路を辿ったか、だ」
「……それこそ愚問ですよ」
薄笑いのまま、先輩を見下ろす。
「……食えねえ奴だな。本当に分かっているのか?」
「それは勿論。……一人の提督が居た。その提督はある艦娘を愛するあまり、その艦娘の艤装を解体。そして、ただの少女となったその子と駆け落ち。どこからか情報が漏れたのか、その鎮守府は日本中の注目の的に」
「結果、その鎮守府は提督の不在と連日のマスコミに翻弄され、指揮系統が乱れた。数日後に新たに提督が配属されるも、艦娘達と馬が合わず、出撃の度に連戦連敗。世論と艦娘から責められたその提督は耐えきれず夜逃げ」
「諦めずに新しく提督を配属するも、それもまた似たような結末になった。最終的に、その鎮守府はめでたく潰れてしまいましたとさ」
「他にも、ケッコンを済ませた艦娘や手塩にかけていた艦娘を誤って沈ませてしまい、提督が廃人化。そのまま心を閉ざしたり、後を追う奴なんかも」
「なんとか復帰しても、誰かを沈めたという前提がある以上、既に大半の艦娘達の心は離れている。故にそのまま提督業を諦めてしまう奴も居る。ですよね?」
書かれていた物を読み上げるように言う。事実、この内容は士官学校時代に教わった物だ。
深海棲艦が世界に出現し、それと対をなすように現れた艦娘。
人と変わらない容姿の彼女達。それを指揮する初期提督の大半は、戦場で命を賭ける彼女達を労い、存分に情をかけたと聞く。
「そうだ。だがまあ、それまでは別に良かったんだ。提督の数自体は腐るほど居たから、影響が大きかった訳でもなかったしな」
「けれど、世論を塗り替えたあの事件が起こってしまう、と」
「ああ。とある提督が、部下の命と一般人の命の選択を迫られ、部下の命を選んだ。そいつはかけがえのない命より、代替の効く兵器の命を選んでしまった」
「当時、その提督が何を思ってその選択をしたのかは分からない。だが、数人の艦娘を救うために、幾百の人を見捨てたという事実は、攻撃されるに値する出来事だった」
「当たり前だが、その提督は失脚。それから、艦娘に情をかける事は忌避されるべきである、と。世論は謳うようになった」
この二人が提督になる頃には、その価値観は日本中に浸透していた。
その為、艦娘に非情になれない提督達の大半が、人々からの視線に耐えられず引退。提督を目指す人の数も減り、彼らは一気にその数を減らした。
「……お前が目指す道はそういうものだ。まさしく、茨の道。大本営からもーー日本からも認められる事はない。それでも、お前はそれを選ぶのか」
「だから、言ってるじゃないですか。愚問ですよ、って」
彼の浮かべた笑みは変わらない。
それを見上げるもう一人の提督は、その表情に何を見たのか。諦めたかのように、小さく息を吐くと、幾つかの書類を机の上に置く。
「そうか。……ならば、その強情に免じて俺だけは認めてやろう」
「これは……?」
「艦娘の異動届けだ。それと、その他色々の手続きがあるから、暫く自分の鎮守府には帰れないと思え。うちの艦娘を全て手放す訳だからな。てめえも今後の対策を練る会議に参加してもらうぞ」
「……了解です」
「ああ、それとーー」
二人は提督の前に、先輩と後輩である。上下関係こそあれど、お互いに良い友達ではあった。
「お前はアイツらみたいに、潰れるなよ」
故に、これはただの友達としての心配。それを感じ取った彼は、ここにきて初めて本心からの笑顔を浮かべた。
~終わり~
~邂逅~
「酒匂です」
「……叢雲よ」
「響だ」
「島風でーす」
自分の鎮守府に帰還して初めにした事は、執務室に四人の艦娘を召集する事だった。
呼び出しに応じた四人は、四者四様の面持ちで自己紹介をする。
「俺はこの鎮守府の提督。そして、本日から君達の上官となる。で、俺の隣に居るのが」
「榛名です。皆さん、これから宜しくお願いしますね」
紹介すると深々と礼をする榛名。それにつられたか、島風のみ同じように深い礼を返す。それ以外の三人は、どこか緊張を含んだ表情で、俺を見つめている。
「あの……本日から上官、というのは?」
唯一の軽巡だからだろうか、酒匂が彼女達を代表して問う。
「簡単な話、異動命令だな。君達の所属は、あそこからここになった。だから、上官も変わった」
「……勝手に話を進めないでよ」
「ああ、さすがにいきなり過ぎて面食らうな」
叢雲と響が噛みついてくる。提督というものに良い印象がない以上、当然だろう。
最も、俺が不在の間に漣が色々と吹き込んでくれたお陰か、萎縮して喋れないという事態を避けられただけ、マシである。
「残念ながら君達に拒否権はない」
「今日から貴方が私の提督なの?」
「そうだな。島風は理解が早い」
「そうでしょ。島風はなんだって早いんだから!」
扱いやすい。だが、この扱いやすさはこの場では、とても有り難い。
「どうして、あたし達を連れてきたんですか?」
「ふん。どうせ、使い捨てにするつもりでしょう」
「見たところまだ新米。おそらく、提督業に慣らすための捨て艦が欲しかったとかそんな感じじゃないかな」
分かってはいたが、根は相当深いらしい。
あまりにもボロクソに言う二人を止めるべきか否か迷っているのか、酒匂も落ち着きがない。
「漣に言われたからだな」
「それを信じろっての?」
「……好きにしたらいい。確かに上官とは言ったが、俺の指示に従うかどうかは君達の自由だ。信じる信じないも、な」
「あの……一つだけ、聞いてもいいですか?」
態度が変わらない二人を僅かな時間で心変わりさせるのは無理か、と心中で溜め息吐いていると、酒匂がおずおずと切り出してくる。
「なんだ」
「海域の攻略中に沈みそうな艦娘が居たら、進撃と撤退のどっちを選びますか?」
問い掛けの意味を反芻する。こんな時に無意味な問答をする様なタイプでもないだろう。
「……時と場合によるな」
世論という足枷のせいで、後者と断言は出来ない。これ以上、日本での艦娘の立場を悪くする訳にはいかない。
俺の答えに満足したのか、酒匂が引き下がる。
「ほら、やっぱりーー」
「逆に問おう。君達はなんで戦っているんだ?」
一方、彼女達は全くもって引き下がらない。このままでは埒があかないので、何かを言おうとした叢雲を遮り、今度はこちらから質問をぶつける。
「戦果をあげても賞賛はされない。どこに行っても人間からの風当たりは強い。艦娘以外の味方がどこにも居ない」
「もう一度聞く、響と叢雲。守るべき物が見当たらないこの世界で、君達はなんで戦っているんだ?」
「それは……」
「…………」
「……榛名は分かるか?」
押し黙る二人から視線を移す。静かに状況を見守っていた榛名が、小さく微笑みつつも困った様に眉を下げる。
「えーと……自信はないんですが、沈みたくないから、ですかね?」
「艦娘じゃない俺に聞かれてもな」
「明確な答えがないのに聞いたんですか?」
俺の返事に榛名が笑う。
「ま、死にたくないってのも戦う理由にはなるとは思う。けど、死にたくないならそもそも戦場に出なければいい」
「それが出来たら苦労しないっての」
「今までは、な。だが、これからは違う」
「口だけならどうとでも言えるよ」
「それもそうだ。しかし、君達の信頼を得るための手札が俺にはない」
「もう! 提督も二人もかたーい!」
「島風ちゃん、ちょっとあたしと向こうでお話してようか……」
「手伝いますよ、酒匂さん」
話に入ってこようとする島風を酒匂と榛名が引き留める。あの二人はもう俺に対して思う所はないらしい。
「だが、約束はしよう。俺は決して君達を酷く扱わないし、無理はさせない。極力、沈ませもしない」
「そんなの……」
「分かっている。響の言う通り、口だけなら容易い。そんな俺を信じろとは言わん」
「…………」
「だが、俺を信じて着いてくる、他の艦娘達の事は信じてやってくれ」
そう言って俺は頭を下げた。
・
・
・
「良かったのですか? あのまま皆さんを帰して」
四人を解散させた後、弛緩した空気に満たされた執務室。彼女達を見送った榛名が入り口で振り返り尋ねる。
「いいんだよ。一日で信頼を得られるとは思ってもないしな。後は、態度で示していくさ」
「どこまでもお供しますね」
「お前もかてーよ。もっと気楽でいいんだ気楽で」
「と言われましても……」
「秘書艦だからと言って、無理をしてまで俺に着いてくる必要はない」
「……優しいのですね、提督は」
「……何を言っているのか分からんな」
俺の言葉に目を丸くした榛名だが、すぐに微笑みを浮かべると、ゆっくりと近づいてくる。
「私達は人の姿をしていても、やっぱり兵器なんです。兵器は使い手を選べない。結局、提督が命令したらそれに従うしかないんです。そこに信頼関係なんて必要ないのに、貴方は態々それを結ぼうとしている」
「…………」
「それは艦娘を兵器ではなく、共に戦う仲間として見ているから。ですよね。そんな提督だからこそ、私はどこまでも着いていきたいと願うのです」
「……それが修羅の道でもか?」
「はい」
即答である。力強く肯定する彼女に、小さく笑う。
「初めて建造した戦艦が榛名でよかった」
或いは、その想いすらも建造の際に影響されたか。少なくとも、俺と榛名の相性は最高らしい。
「私もここに着任できた事を嬉しく思います」
二人して笑い合う。問題は山積みだが、榛名となら乗り越えられる気がした。
~終わり~
今回はここまで
先輩を完全に屑にしたパターンも考えはしたんですが、しっくり来なかった結果こうなった
あ、扶桑姉様改二おめでとうございます。設計図も練度も足りないけれど、持ってくる装備とあの強さは魅力的ですね
それでは、また次回
乙
始めて1年経つけど未だ4-4止まり
進める気がないだけだけど
>>93
これで正解だろ
真性のクズ提督は他の誰かが書いてくれるからな
乙レスありがとうございます
飛龍が欲しいけど、建造は蒼龍しか出てこない>>1です。こんにちは
南雲機動部隊がいつまで経っても揃わない
少ないですが、本編投下します
闇の帳が降りた洋上。そこで一人、彼女は佇む。
五十鈴から借りた最新鋭の電探とソナーは敵の位置を正確に榛名に伝えている。
「妖精さん、迷惑をかけると思いますが、お付き合い宜しくお願いしますね」
自身の艤装の応急修理や砲弾の装填をする役割を持つ妖精達に優しく語りかける。
身を置く場所は明らかの死地。にも関わらず、彼らの表情は頼もしげだった。
「では、いきますよ。目標、12時の方向に距離15000! 第一斉射、撃てえっ!」
主砲の発射音が周囲に轟く。幾ら敵が高速で動くとは言え、戦艦クラスの主砲でもない限り、榛名の装甲に傷をつけるのは難しい。
ならば、雷撃可能の射程に入るまでに、極力このまま砲台となって数を減らすのが得策だろう。
「続けていきます! 第二斉射、始め!」
詰められた距離、敵の速度を鑑みて主砲の仰角を微調整。榛名の掛け声と共に、再び放たれる主砲。次いで、電探に伝わる敵の熱源の幾つかの消失。
だが、それだけだ。相変わらず、敵の攻勢は止まらない。
「第三斉射、ってえー! このまま更に一回撃ちます。その後、兵装の一つを46㎝砲に換装してください」
夜戦において、基本的に艦は目視で敵を視認しなければならず、頼りとなる明かりもない海では、どうしても敵に接近する必要がある。
それ故に、駆逐艦と言えども至近距離から放たれる必殺の雷撃は、避ける事が難しい上にその威力は測り知れない。
「重い、ですね。長門さんはこんなの二つ抱えて戦ってたんですか……」
妖精達の迅速な行動によって、換装が終わる。外した装備は仕方なく海中に捨てた。
46㎝砲は金剛型に適応する主砲ではないが故に、重心が傾く。だが、これから戦うであろう戦艦級を相手にするなら、これほど心強い兵装もない。
「さて、踏ん張りどころ、です。せめて夜明けまでは耐えてみせます!」
気合いを入れ直し、水面を蹴る。
自身をその場に固定し、動きからのブレをなくして命中精度を上げる砲台射撃は、敵の位置を正確に把握している場合なら、強力無比となる。
しかし、それはあくまでも敵の射程がこちらの射程より短い場合に限る。
敵の射程に入ってしまえば、固定砲台はただの的でしかない。故に、榛名は水上を駆ける。
直後、先程まで榛名が居た場所に大きな水柱が上がった。
「やはり、旗艦が生きていますか……」
背後で立ち上る水柱を一瞥。それが一つの時点で、どう見てもそれは統制雷撃の証と言っていい。つまり、雷撃の指示を出した艦が居るという事に他ならない。
「敵主力の到着まで、主砲は前の二基のみを使用します」
水上を全速力で駆け抜けながら、指示を飛ばす。まだ前哨戦が始まったばかり。限られた弾薬も無駄には出来ない。
榛名の指示に後ろの砲門を担当する妖精達が、副砲と機銃を担当する妖精達のバックアップに回る。
「これより反航戦に入ります。ですが、私が指示を出すまで戦闘には入らないでください。牽制射撃もやめてください」
お互いに向かい合う形。急速に距離は縮まっていく。先程の統制雷撃の事を考えると、敵は確実に榛名を捉えている。
「避ける事に専念すれば、これくらい……!」
幾つもあがる水柱の余波を躱しつつ進むこと時間にして丁度一分。敵の先遣部隊である十数隻の駆逐艦と榛名がすれ違う。
だが、榛名は反転しない。そのまま電探の指し示す、敵の反応が一番大きい方へひたすら駆ける。
「……戻ってきますか。好都合ですね」
駆逐艦ごときならば、別に抜かれても問題はない。榛名が主力を足止めする限り、その程度の戦力では鎮守府近海で防衛され、呆気なく散るだけだろう。
勿論、それは敵も分かっている。本陣を叩くのに戦力を分断させる行為は愚の骨頂であると。
故に榛名をここで数の暴力で葬り、その士気をもってして鎮守府に大挙として攻める。それが敵の立てた計画。
「前方に二部隊。重巡が6、軽巡が4、雷巡が2ですか。ここまでなら抜かれても大丈夫そうですが……」
前の部隊の詳細を読み取りつつ、少し考える。後ろからは反転して榛名に迫る駆逐部隊。ここで戦えば、確実に挟撃される。
だが、敵の主力と思わしき部隊はまだ遠い。それにここも無視してしまうと、この軍勢に背後を取られる事になる。
「考えるまでもない事でしたか」
走る速度を徐々に落とす。敵が速度を緩めない限りはどうせすれ違うのだから、こちらが足を止めても変わりはしない。
最も、止まってしまうと回避すら出来ないので、最低限の速度を保ちつつジグザグに走る事で、雷撃を躱してはいるが。
「榛名、全力で! 参ります!」
榛名の意図を汲み取ったか、出番を待ちかねていた主砲と副砲がその鎌首をもたげる。
「主砲! 副砲! ってえー!」
敵とすれ違う瞬間、足を止める。無理のない減速を先にしていた為に、慣性も少ない。つまり、照準の際のブレも少ない。
狙いをつけて放たれた砲弾は、敵部隊に吸い込まれ、炸裂した。
「●■▲■▲ーー!」
人ならざる敵の絶叫。仲間をやられた事に対する憤怒か、それとも悲哀か。
どちらにせよ、榛名にとっては関係のない話である。
「足を潰してください」
敵は止まろうにも、走る勢いが強すぎたか、すぐには減速出来ない。一方、榛名は既に反転を済ませている。
瞬時の加速にて敵の背後に追い付くと、機銃の一斉掃射で重巡二隻の足を払う。
「●■●●▲ー!」
「これで、三隻目ーーいや」
先の砲撃で雷巡の二隻は仕留めている。次に転倒させた重巡に加速を止めて近づき、至近から副砲を放ち撃沈させる。
「ーー五隻目ですね」
転んでいるもう一体の重巡を無造作に蹴り飛ばす。
艦娘の軍艦としての力で蹴られた敵は水面を跳ねる様に吹き飛び、前を走る軽巡を巻き込む。そこに向けられる砲門。
「●■■▲!」
それを阻止せんと、反転を済ませた重巡の一隻が榛名に襲いかかる。
「遅いですよ」
榛名が使っている主砲は二つ。その内の一つが今しがた榛名に攻撃をしようとしていた重巡に向いていた。
「これで、半分ですね」
彼女らしくもない壮絶な笑み。同時に火を吹く砲門。戦艦の主砲の一撃は、正確に狙った敵を吹き飛ばした。
「■▲■●……」
明らかに練度が違う。それを敵も理解したのか。襲うのなら主砲の装填をしている今この時をおいてないのだが、榛名の雰囲気に呑まれ、敵は微塵も動けない。
「逃げるなら追いませんよ?」
火に包まれながら沈んでいく敵。その灯火は闇夜の中に居る榛名を照らし、敵に居場所を明確に知らせる。
先程とは違い、柔らかな笑みを浮かべつつ榛名は軽くステップを踏んで、そこから離れると、案の定、戻ってきた駆逐艦部隊から放たれた雷撃が、次々とその付近に大きな水柱を生んだ。
「重巡が3、軽巡も3、駆逐が18ですか」
海中を白い軌跡残しながら走る魚雷を榛名は華麗に躱していく。
榛名の視線の先では、駆逐が追い付いた事により戦意を復活させた敵部隊が陣形を整えている。
「半分くらい減らせば諦めてくれますかね?」
数字だけで見ると、絶対的に覆らない彼我の戦力差。それでも、榛名は余裕な態度を崩さない。
「■●●■■▲ー!」
それは自分を鼓舞する為の咆哮か。
駆逐艦を除いた敵の部隊が一斉に動き出す。
雷撃以外で榛名にダメージを与えるには、接近して装甲で殺せない程の衝撃を与える必要がある。故に、何よりもまず、榛名に近づかなければいけない。
「……なるほど、そう来ましたか」
狙いをつけられぬ様に乱雑に動きながら近づいてくる敵。それの迎撃のために動きを止めると雷撃が飛んでくる。かといって、このままでは接近を許し、至近からの砲撃を浴びる。
「……副砲を私の少し前の海面に打ち込んでください」
少しだけ思案した榛名は、動きを止めぬまま副砲に指示を出す。
それは弾薬を無駄にする行為。だが、妖精達は有無を言わず、言われた通りに副砲を放つ。
榛名の目前に彼女の体を隠す程度の水柱が上がった。
「▲●!?」
ただの目眩まし。だが、意表はつける。
彼女は急激な加速をもって、水のカーテンの内側から姿を現し、一番近い重巡に突撃する。
「●■▲ー!」
「やらせません!」
向けられる主砲。それよりも早く懐に飛び込むと、その主砲を握る両腕を掴み、力の限りでそれを背後に向ける。
「●■●●!」
腕の稼働範囲を越えて曲げられた為に、激痛が走り、その衝撃で主砲が暴発する。
それは運悪く味方の駆逐艦の一隻に命中し、それを撃沈。駆逐艦達もいきなり仲間が沈んだ事に対して浮き足立ってしまう。そして、その焦りが雷撃に如実に反映される。
「さようなら」
目の前の重巡の足を払い、最期の言葉を。腕を折った為に、その主砲に狙われる事はないだろう。
次の敵に向けて駆ける榛名の背後で、目測を誤って発射された雷撃が、転倒させた重巡に炸裂していた。
結局、戦闘自体はすぐに終わった。
「この程度の敵なら、夜明けまで余裕で耐える事が出来るのですが」
圧倒的な力の前では、足掻くだけ無駄と知ったのだろう。あの後、雷撃が止んでいる間に軽巡を二隻程沈めたら、敵は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。
「さて、ここからが本番です。全兵装の使用を許可しますので、宜しくお願いします」
小さく息を吐きながら、電探からの情報に集中する。敵の主力とも呼べる反応は、気が付くとかなりの近さになっていた。
「戦艦級が……数えるのはやめましょうか」
苦笑しながら匙を投げる。あまりの大部隊に気が滅入りそうだった。
そして、それを率いる形で先頭を走る一際大きな反応。敵軍の総大将とも言える実力を持つそれは、榛名の存在に気づくと、一人駆ける速度を上げる。
「……来ましたか。私達が敗走した原因が」
長門の砲撃すら弾いた敵。距離が離れている状況では、こちらの主砲は相手の装甲を貫けない。
だが、その距離も数十秒で詰まる。
「ーーなっ!?」
お互いに視認した瞬間、敵は水面を蹴る。尋常ではない脚力は、二人の距離を一瞬で零にした。
その身体能力に榛名は目を見開きつつも、装甲を展開する。
「ラァッ!」
勢いのままの飛び蹴り。それを受け止めた榛名は水面を滑る様に吹き飛んでいく。
「なんという力ですか……」
衝撃を全て防ぐ事は出来なかったが、ダメージ自体はそこまでではない。榛名は呆れた様に呟くと、すぐに体勢を立て直す。
「オ? 誰カト思エバ、一番覇気ガナカッタ奴ジャン」
蹴りを耐えられた事が意外だったのか。敵は初めて榛名をマジマジと眺める。
「……さっきも思いましたけど、他の深海棲艦に比べて、言葉が流暢ですね」
そんな敵に小さな笑みを。
「アー、暇潰シニ覚エタンダ。ソレヨリ、今ノオ前ハ楽シソウダナ」
榛名の雰囲気の違いに気付いたのか。敵も笑う。その無邪気な笑顔は、こんな状況でなければ、その少女が浮かべるに相応しい表情だっただろう。
「私は気が重いですけども」
「マア、ソウ言ウナヨ」
露骨に溜め息を吐く榛名と、楽しげな少女。
「戦艦榛名」
「戦艦レ級」
「全力でーー」
「ーーブッ潰ス!」
二人の正面からのぶつかり合いが、海面を大きく揺らした。
今回はここまで
なぜか近接戦を始める艦娘たち
地の文に頼ってるとは言え、戦闘描写って難しい
それでは、また次回
おつ
殴り合いなら任せておけとか言っちゃうビッグセブンな人も居るし
艦これの世界では接近戦も珍しくはないんだろう、多分
乙
砲雷撃戦(格闘)ですね分かります
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