モバP「執着の証」 (29)
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事務所
P「さてと……」
時子「次はなにをする気」
P「ん?あぁ、時子か」
時子「様」
P「ん?」
時子「時子様と呼びなさい」
P「あぁ、そういうことか。悪かったな時子様」
時子「分かればいいわ。それで貴方は何をしようとしていたの?」
P「仕事の整理をな」
時子「アァン?そんなことをやっているの?」
時子「トロトロしている奴は嫌いね私は」
P「それは済まなかったな」
時子「全く悪びれてないわね」
P「時子には関係ないからな」
時子「様を付けなさい。それに関係ない訳ないでしょう?」
P「どうしてだ?」
時子「誰が御主人さまだと思ってるの?」
P「誰の?」
時子「あなたの」
P「残念ながら、俺と時子の間柄はそんな感じではないと思うけどな」
時子「…この時子様に意見するなんていい度胸ね」
ちひろ(事務所の雰囲気が最悪なんですけど…)カタカタ
P「まぁ、俺が時子のプロデューサーであることは間違いないしな」
時子「その点に関しては認めるわ。ただ、貴方が私より上と認めた記憶はないわ」
P「俺も時子を下と認めたことはないぞ」
時子「当然ね。貴方に下に見られる位だったら、この場で舌を掻っ切って死んでやるわ」
P「酷い言い草だな」
時子「それで、私の方が上の立場の筈なのにどうしてそんな意見がまかり通ると思っているのかしら?」
P「俺と時子は対等な立場だと思ってるから」
時子「対等?はんっおめでたい脳味噌ね。躾が足りないのかしら?」
P「言い方はちょっとキツイかもしれないが直接的に物事を言い合えるしな」
時子「私が一方的に言ってるだけだけど?」
P「その割には言うことは聞いてくれてると思うけどな」
時子「たまには、貴方の言うことも聞いてあげないと可哀想じゃない。躾ってのはねアメとムチの使い分けなの。分かる?」
P「言いたいことは分かるぞ」
時子「だから、たまたま私が褒美として貴方の言うことを聞いてあげただけのこと。そこになんら意味もないわ」
P「そうだったのか」
時子「えぇ、そうだったの。残念だったわね」
P「そうだな。俺としてはもっと素直に話を聞いてくれる子がいいのだけれど」
時子「それを私に求める必要があるのかしら?そういうのは他を当たって頂戴」
P「その通りだな」
時子「豚に虎になれと、虎に豚の真似をしろと貴方は言うのかしら」
P「言わないな。時子は時子のままでいいぞ」
時子「様を付けろと言ってるでしょっ!」ピシ
ちひろ「…っ!」
ちひろ(え、ビンタ…?)
P「地味にヒリヒリするな」
時子「その痛みこそ主従の証よ。サディスティックな主従関係とでも言うのかしら」
P「暴力に支配された世界みたいな感じか」
時子「暴力に支配される。と言うのはナンセンスよ。あくまで躾。支配するのではなく、自分の立場を認識させるために」
P「なるほどな」
P「一説によるとさ」
時子「何かしら」
P「SとMをサーヴァントとマスターと言い換える説もあるらしいんだよな」
時子「与える側が受け取る側に気を遣っていると?」
P「あぁ、相手の望むことをしてやっているってことだな」
時子「その理論だと、貴方は私にお仕置きをして欲しいということになるのかしら?」
P「どうだろうな? ただ、時子にはアイドルはやって欲しいと思ってるけど」
時子「変わった人ね」
P「よく言われます」
時子「出かけてくるわ」
P「行ってらっしゃい」
バタン
ちひろ「あのープロデューサーさん…」
P「なんですか?」
ちひろ「その…ちょっと時子さんが怖くてですね…」
ちひろ「あの雰囲気が少し苦手でして…他のアイドルの子達は平気なんですかね?」
P「特に聞きませんけどね…」
ちひろ「意外にアイドルの皆には優しいんですかね…?」
P「そこまで邪険な態度を取る必要もなさそうですしね」
ちひろ「その理論から言うとプロデューサーさんは物凄く嫌われてるように思うんですけど…」
P「そうですかね?」
ちひろ「そうですかねって…。もしかして、あれは挨拶みたいなものなんですか?」
P「俺の中ではそうなんですけど…」
ちひろ「凄いですね」
P「さっきも話したんですけど、なんだかんだで時子は俺が望んだようにアイドル活動をしてくれています」
P「勿論、俺も時子に合ったような仕事を選んできてるってのもあるんでしょうが」
P「だから、ほら、何も問題はありませんよ」
ちひろ「と言うかですね」
P「えぇ」
ちひろ「どうやってスカウトしてきたんですかまず」
P「普通にですけれど…」
ちひろ「声掛けて?」
P「えぇ」
ちひろ「最初からあんな調子でした?」
P「勿論」
ちひろ「うへぇ…」
P「貴方、脳味噌何グラム?って聞かれました」
ちひろ「また、斬新な返しですね…」
P「足りない頭は知恵を貸してくれ。一緒にやろうって言ったら笑われましたよ」
ちひろ「想像がつきます…」
P「笑いながら、アイドルやってあげるわ!と言われて今に至ります」
ちひろ「なるほど」
ガチャ
泰葉「おはようございまーす」
P「あぁ、おはよう」
泰葉「おはようございます」
ちひろ「泰葉ちゃんちょっといいですか?」
泰葉「はい?なんでしょうか?」
ちひろ「時子さんと仲良いですか?」
泰葉「普通ですね。あんまり喋ることはないですけど、話す時は話しますよ」
ちひろ「あ、そうなんですねー」
泰葉「何かあったんですか?」
ちひろ「ちょっと、プロデューサーさんと話し合ってた場面を見て思っただけだから気にしないで下さい」
泰葉「あ、そうなんですね。ってプロデューサーさんと一悶着とかあったりしたんですか?」
ちひろ「さっき言い合いをしてましたね」
泰葉「喧嘩はダメですよ?」
P「喧嘩はしてないから安心してくれ」
泰葉「ならいいですけど」
ピリリリリ
P「はい。もしもし」
時子『私よ』
P「なんだ時子か」
時子『えぇ。今から出て来なさい』
P「どこだ?」
時子『住所は追って送るわ』
P「分かった。それじゃあな」
時子『えぇ、さようなら』
ちひろ「どうかされたんですか?」
P「ちょっと時子からお誘いを受けまして…」
ちひろ「大変ですね…」
P「まぁ、そこまでですよ」
ちひろ「定時も過ぎてますしどうぞ行って来てください」
P「ありがとうございます」
ちひろ「こんなこと言ってからこういうこと言うのはアレかもしれないんですけど…」
P「なんです?」
ちひろ「そこまで構ってあげる必要はあるんですか?」
P「その分、他の素直な子に時間を割いてやればいいのに。と言うことですか?」
ちひろ「そこまではハッキリと言いませんけれども…」
P「時子はアイドルとしての才能はあると思いますからね」
ちひろ「ま、まぁ、ちょっとずつ露出も増えてきてますしね」
P「それじゃ行ってきます」
ちひろ「行ってらっしゃい」
とあるバー
時子「遅いわ」
P「それなりに急いだつもりだが」
時子「口答えしないの」
P「悪い悪い」
時子「私を待たせるなんていい度胸よね」
P「いきなり来いと言われて待たせないのは無理があるな」
時子「マスター何かお酒を頂戴」
P「酒なんて飲むのか」
時子「悪いかしら。これでも花の21歳よ?」
P「花の…か」
時子「えぇ、事務所だとそこまで飲める人がいないから新鮮かしら」
P「まぁ、確かに」
時子「そこら辺の娘たちと一緒にしないでもらえる?」
P「してるつもりはないけどな」
時子「まぁ、所詮、アイドルなんて暇つぶしにやってるだけだから大して気にしないけれど」
P「ははは…」
時子「気に障ったかしら」
P「別に。ただ、遊びは全力でやらなきゃ面白くないんじゃないかと思ってな。手を抜いて相手に負けるなんて時子らしくないし」
時子「当然ね」
P「だから特に気にしない。誰かを嘲笑う為に手を抜かないんだから」
時子「含みがある言い方ね」
P「勘繰り過ぎだ」
時子「そう?まぁ、そう言う風に尤もらしく聞こえそうなことを言ってれば、人の心を惹けると思ってるんでしょうけど、生憎私はそこまで甘くないわよ」
時子「そういうのは、穢れを知らない子や、少しヒネた小娘にでもしてあげるといいわ」
P「考えとく」
時子「考えなくてもいいわ」
P「アイドルには慣れたか?」
時子「愚問ね」
P「そうか」
時子「えぇ。下僕達に向かって鞭を振るうのは最高よ」
P「俺の目が間違ってなくてよかったよ」
時子「その慧眼だけは認めてあげるわ。そこら辺の豚とは違うわね」
P「そりゃどうも」
時子「反応が薄いわね。涙を流して喜んでもいいのよ?」
P「流石にこんな場所じゃな。それにまだ、夢の途中だ」
時子「夢?もう酔いが回ってるのかしら」
P「寝てる間に見る夢じゃないよ。それに俺は車で来たから飲まない」
P「時子がシンデレラになる道のりの途中ってことだ」
時子「シンデレラねぇ…」
P「アイドルをやる以上目指すだろ?」
時子「確かに、頂点から見下ろすのは爽快ね。下僕たちに加えて他のアイドル達も羨望の眼差しを向けるわ」
P「そうだろうな。そう言えば、ウチのアイドル達とは仲はいいのか?」
時子「普通ね。必要な時以外喋る必要も感じないし」
P「険悪でないならそれでいい」
時子「てっきり説教でもされると思ったけど?」
P「人付き合いなんて個々の自由だからな」
時子「そうね。仮にもしそんなことを言ってきたらこの場で跪いて貰う所だったわ」
P「それは勘弁願いたいな」
時子「そう…。余計したくなったわ」
P「あはは」
時子「ふふふ…」
P「そう言えばこの間のライブ良かったぞ」
時子「唐突ね」
P「今日先方から反応があってな。最高だったってさ」
時子「当然のことを発するのに随分と時間が掛かったわね」
P「何人入ったかとかグッズの売上の計算とかしてたみたいだから」
時子「そう。別に興味はないけれど」
P「先方さんも思わずファンになったって言ってたな」
時子「私を崇めなさいとでも伝えておいて」
P「ライブの衣装綺麗だったな」
時子「貴方が選んだものよ。自画自賛かしら?私に褒めて貰いたいの?」
P「どうだろうな。自画自賛も入ってるかもしれないが、あれは時子が着たから映えた衣装だなって思ってる」
時子「ご機嫌を取るのだけは上手ね」
P「そんな気持ちはさらさらないが。そうだな…例えるなら蜂の毒を持った蝶のみたいだったな」
時子「綺麗な上に毒まで持っている…か。悪くない例えね。褒めてあげる」
時子「強くて、気高くて、華がある…いいじゃない」
P「そうだよな」
時子「ねぇ」
P「なんだ?」
時子「あの衣装を着た私を見て貴方はどう思ったのかしら」
P「綺麗だと思った」
時子「当然ね。貴方の唯一と言ってもいい功績は私を解き放ったことだもの」
時子「けれど…どうも癪なのよね」
P「何が?」
時子「その表情、仕草、態度かしらね。余裕を持っている雰囲気が」
P「そうか…?」
時子「えぇ、貴方の本音はいつまでも見えないわ」
P「本音?」
時子「えぇ。恥も外聞も面倒なオブラートも全部剥いで貴方の本音を私に見せなさい」
P「そうだな…正直言って予想以上だった」
時子「予想以上?」
P「あぁ、魅了されたって言うのが本音だな」
P「いつまでも見ていたい。ずっと近くで淫靡な雰囲気で舞い踊る蝶のような時子を感じていたいと思った」
時子「ふふふ…滑稽ね。もう、私なしじゃ生きていけない体になってるじゃない」
P「どうだろうな」
時子「とぼけるのも貴方らしいわね」
P「どうも俺も雰囲気に当てられたかな…」ポリポリ
時子「P」
P「どうした?」
時子「さっきの本音、中々悪くはなかったわ。だから崇めなさい」
P「崇める?」
P「そろそろ出るか?」
時子「私に指図するの?」
P「明日は仕事があるからな。アイドルの財前時子のプロデューサーは俺だから仕事関係じゃ従って貰わないと」
時子「今は仕事じゃないわ。プライベートよ」
P「プライベートでわざわざ俺と会ってくれるのは嬉しいな」
時子「……」
車内
P「家まで送るな」
時子「当然ね」
時子「明日からまた豚共に鞭振るえると思うとゾクゾクするわね」
P「頑張ろうな」
時子「次はどんな愉快なことが待ち受けてるのかしら」
時子「生半可な物だったら、改めて貴方を躾させて貰うわね」
P「あはは…」
P「さっ、着いたぞ」
時子「礼は言わないわ」
P「それがお礼に聞こえるな」
時子「……P。こっちを向きなさい」
P「なんだ…っ!」グイ
時子「……貴方は本当に愉快ね」
P「それはどうも」
時子「世間の豚共の前に貴方を支配してみたくなったわ」
時子「暴力的にね」カリッ
P「…っ!」
時子「…ぷはっ。痛かったかしら?その痛み、その跡を見る度に私のモノであることを思い出しなさい」
時子「さようなら」
P(首筋にキスか…軽く噛み跡も残して)
P「なんか背徳感があるな…」
P(ちゃんと消えるかな?)
翌日
事務所
P「おはようございます」
ちひろ「あ、おはようございますー」
周子「お、Pさんだ」
P「早いな」
周子「たまたまね」
ちひろ「首筋どうかしたんですか?絆創膏なんて貼って」
P「ちょっとですね…」
P(結局しっかり跡残っちゃったからな…)
時子「あら、どうかしたのかしら?」
P「お、時子おはよう」
周子「おはよー」
時子「目障りだから取りなさい」ビッ
P「いてっ!」
周子「いきなり取られると痛いよね」
ちひろ「ヒリヒリしそうですね…ん?」
時子「あら、綺麗に残ってるじゃない♪」
P「……さ、仕事行くか」
時子「さっさと動くのよ。このノロマ」
バタン
ちひろ「ねぇ、周子ちゃん」
周子「…なに?」
ちひろ「プロデューサーさんの首元…」
周子「あったねー」
ちひろ「あ、あれってもしかして…」
周子「キスマークだね」
ちひろ「だ、誰のでしょうか…」
周子「時子さんでしょ。状況的に考えて」
ちひろ「た、確かに昨日の夜一緒に飲んでたみたいですし…」
周子「決まりだね」
ちひろ「い、意外に大胆なんですね…」ポッ
周子「大胆だねぇー」
ちひろ「そ、そうですね。あんな見える位置に…」
周子「それもそうなんだけどさ。これ見てよ」
ちひろ「…はい?キスの位置による意味…?」
周子「そっ。首筋へのキスの意味は『執着』」
周子「時子さんがそんな意味の場所にキスするなんて面白いよね」フフ
終わりです。
見て下さった方ありがとうございました。
凄い
素晴らしい
ちょっと時子様集めてくる
乙
時子さんの単体ssは嬉しい
サディズムとマゾヒズムは解釈が諸説ありますよね。
生まれつきの欲望だったり、現実逃避の結果だったり。
他者と同化することで劣等感を癒す。或いは反対に、他者を落とすことで同化しようとすることだったり。
以上失礼いたしました。
乙
いい雰囲気だな
乙です
「これこそ時子」って言っても良いくらい正確にキャラを把握してますね。
こう言う雰囲気も好きだから楽しく読めた。
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