幼馴染「ねえー、男? 本当に登るつもり?」
男「もちろんだ」
幼馴染「危ないよー? これ、一応高圧電線用のマジな鉄塔だよ?」
男「みりゃわかるさ。見事な四角錐だよな」
幼馴染「もう… 落ちても知らないよ?」
男「一応、落ちないような支度もすこしはしてきたぞ?」
幼馴染「ほう? どれどれ」ヒョイ
男「腰につけるベルト…と、フック。2本」
幼馴染「それ、どうするの?」
男「登りながら、交互に鉄柱にくっつけて、落下防止にね」
幼馴染「フックじゃ、揺すられたときに落ちちゃうんじゃないかなあ」
男「んー、まあ そん時はそん時かな」
男「んじゃまあ。そろそろ…」
幼馴染「本気?」
男「おう。俺は… この鉄塔に、登る」
幼馴染「やめとこうか」
男「なんだよ、ノリ悪いなぁ」
幼馴染「そりゃそうでしょ。止めない人って居ないんじゃない?」
男「おまえ、人なの?」
幼馴染「一応… ヒトなんじゃないかなぁ…分類するなら」
男「でもお前、浮いてるじゃん」
幼馴染「死んじゃったからね」
男「うん。 死んじゃったな、ずいぶんとあっさり」
幼馴染「まさかこうして 死んじゃった後も男と喋れるとは思わなかったよ?」
男「お前のあの怪しい趣味のおかげだな」
幼馴染「怪しい趣味って…失礼だなぁ」
男「だってよ。通夜の席で、おまえの部屋にいれさせてもらってさ」
男「もう、何年ぶりになるかなあ、お前の部屋に入ったの」
幼馴染「んー… 中学1年のときに、こなかったっけ?」
男「そうだっけ?」
幼馴染「うん。確か、本棚を新しく買ったときに…手伝いに来てくれたよ」
男「ああ、そうだ。組み立て家具のやつな」
幼馴染「そうそう。お父さん、一人で組み立てたのはいいけど 一階でつくっちゃったから」
男「2階の部屋まで運ばされたんだっけ」
幼馴染「うん。あの時は、ありがとね」
男「死んでからいわれてもなあ」
幼馴染「ごめんねー? なんか、ちょっとあの頃、うまく素直になれなかったかも」
男「あー、まあ 俺もそうだったわ」
幼馴染「ようやく、ちょっと普通にまた一緒にいられるようになったのにね」
男「ほんとよ。これから夢のキャンパスライフだって来るはずだったのに」
幼馴染「男とおんなじ大学、いきたかったなー」
男「合格もしてたんだけどなー」
幼馴染「…………ごめんね」
男「まあ、いいよ。こうして 一緒にいるんだし」
幼馴染「でも、なんで私 こうして一緒にいるんだろう?」
男「え? だから アレだよ。お前の部屋にあった大量の悪趣味な本」
幼馴染「……え? もしかして、男 アレためしたの?」
男「あー。まあ、なんか。なんとなく」
幼馴染「ちなみにどれやったの?」
男「んー… 笑わない?」
幼馴染「誓って」ピッ
男「片っ端から。試したよ」
幼馴染「片っ端って…」
男「交信、降霊、召喚、口寄せ、なんかよくわかんない、占いみたいなヤツとか」
幼馴染「暇だったの?」
男「うん。そうかもしんない」
幼馴染「私が、居なくなっちゃったから?」
男「うん」
幼馴染「……よかったね。こうやって 暇じゃなくなって」
男「そうだな。あのままお前が現れてくれなかったら、そのうち黒魔術の本まで手が伸びてたかもな」
幼馴染「あの本、結構むずかしいよ?」
男「絵だけみた。なんか、なんつーの? 魔方陣とかちょっとかっこよかった」
幼馴染「ばーか」
男「やってねーんだし いいじゃん。さて…っと」
幼馴染「……ほんとに登るの?」
男「うん。怖かったら、ついてこなくていいぞ」
幼馴染「怖いって… 私、空跳んでるから 怖いも何もないよ」
男「そういやそうだな。幽霊だもんな、お前」
幼馴染「うん。じゃあ 見ててあげるから…気をつけて?」
男「おう」
カツン、カツン… カツン。
男「なんか… ジャングル、ジム、みたいだ…なっと」
幼馴染「こんなに危険なジャングルジムがあったらPTAは真っ青だね」
男「赤と白。カラーリングは悪くない」
幼馴染「そういう問題じゃないと思うけど… あ、そこ。塗装さびてるよ、気をつけて」
男「ん、見えてる」
幼馴染「男ってさ、意外とこう 運動神経いいよね」
男「体育の成績はいつも上位だったぞ」
幼馴染「うん。私はぜんぜん駄目だった」
男「知ってる」
幼馴染「……もうちょっと運動神経がよければ、まだ生きてたのかなぁ」
男「どうだろうな。運動神経のいいお前のほうが想像つかない」
幼馴染「ひどーい」
男「つーかさ」
幼馴染「ん?」
男「なんで、待ち合わせの40分も前で あんなとこで待ってんだよ」
幼馴染「……なんか。早く起きちゃったし、早く支度すんだし…」
男「俺だって、15分前にはついたんだぞ?」
幼馴染「うん。ちょうど、私を乗せた救急車がいなくなるところだったよね」
男「見てたの?」
幼馴染「もう、意識とかなかったし。ほとんど、死んでたみたい」
男「そっか。んじゃ もしあの時あと3分早ければ 救急車の出発に間に合ったのにーとか考えてたの、無駄だったのかな」
幼馴染「んー。どうだろう? 看取るくらいはできたかもよ?」
男「あんまり、看取りたくもないなあ」
幼馴染「そだね。私も、あの時の ボロボロの体は見られたくなかったかな」
男「通夜のときは、そんなにボロボロにも見えなかったけどな?」
幼馴染「死化粧とかいうんだって。 なんか、いっぱい綺麗にしてもらったよ」
男「そっか。どうりで 美人だと思った」
幼馴染「ばーか」
男「……どうせならさ」
幼馴染「なに?」
男「どうせなら、1時間でも1日でも、遅れてきてくれたらよかったのに」
幼馴染「……なんで?」
男「あんなふうに、あんなとこで、一人で俺のことを待って、一人で車にひかれて、勝手に一人で死んじゃうならさ」
男「ずっと来なくてもいいから お前が来るの、待ってたかったかなって」
幼馴染「……ばーか」
男「どうせ。俺は馬鹿だよ」
幼馴染「ほんとに、ばかだよね」
男「お前はいっつもそればっかりだな。口癖なのかよ?」
幼馴染「うん。知ってるでしょ?」
男「うん。よく、知ってるよ」
幼馴染「……もう、20mくらいは登ったかな」
男「まだそんなもんか? 意外と、体力使うな、コレ」
幼馴染「あんまり。無理、しないでよね」
男「いや てっぺんまで登る」
幼馴染「……高圧電線、あるよ?」
男「承知の輔」
幼馴染「風とかも、きっとでてくるよ?」
男「しょうがねえじゃん」
幼馴染「なにが?」
男「この街でさ。一番高いところ、ここだったんだから」
幼馴染「…あー。そうかも。そっか、高いところにきたかったのかあ」
男「うん。ここが一番高いだろ?」
幼馴染「でもほら、あそこの山の上の公園は?」
男「城址公園?」
幼馴染「あそこもかなり、高台だよ」
男「昔、よく一緒にいったよな」
幼馴染「…うん。はじめて、男にキスされた」
男「ブハッ」
幼馴染「何よ、いまさら」
男「ば、ばか。急に変なこというな、手が滑ったらどうすんだよ」
幼馴染「あ、ごめん。なんか…えっと、 口が滑った」
男「上手いこといえてないからな、それ」
幼馴染「そっかなぁ」
男「……あれ、いつだったっけなあ」
幼馴染「1年くらい前かな」
男「まだ、そんなもんか」
幼馴染「うん。お互い、あかちゃんの頃から一緒にいるのにね」
男「一緒にいすぎて。近づくことも、忘れてた」
幼馴染「うん。距離感が、あたりまえになりすぎて。もっと近づけるんだって、気づけなかった」
男「ようやく気づいたのにな」
幼馴染「死んじゃったから…なんか、もっと遠くなっちゃったね」
男「……まあ、いいよ」
幼馴染「ほんとは、エッチなこととかしたかったでしょ?」
男「」
幼馴染「ふふ。ばーか」
男「あ、あー… まあ、なんだ。別にそんなことばっか考えてねえよ」
幼馴染「ほんと?」
男「うん。なんだろな。嬉しかったんだ」
幼馴染「嬉しい? 何が?」
男「ずっとさ。幼馴染って関係で。それがなんかこう、恋人同士って風に代わって」
幼馴染「……」
男「ずっと一緒にいたのに、なんか妙に気恥ずかしかったり、居心地悪くなったり」
幼馴染「……」
男「手とかもさ。今までだったら、ぐいぐい引っ張っても 別になんとも思わなかったのに」
男「意識したとたんに、真っ赤になって 握れなくなってるお前とか」
男「なんか。そういうの、全部。すごく嬉かったんだ」
幼馴染「……」
男「へへ。まあ、そういうのもさ。生きてるうちにいってやりたかったな」
幼馴染「もう、今じゃ遅いの?」
男「どうだろうなぁ… でも、すごく言いたかったから。死んでからでも、言えたのはよかったかな」
幼馴染「そっか」
男「はぁ… なんか、ちょっと疲れてきたなあ」
幼馴染「んー… 今、半分にとどくかどうかってとこかな」
男「段々、足場が細かくなってきて 登りやすくはなってるんだけどなあ」
幼馴染「男、昨日から寝てないでしょう?」
男「あれ、バレてる?」
幼馴染「あたりまえ」
男「まあ、しょーがねーだろ。寝れるわけ、ない」
幼馴染「うん。ごめんね」
男「謝るようなことでも、ないとおもうけどな」
幼馴染「うん。ごめんね」
男「お前ってさー」
幼馴染「ん?」
男「素直なのか、ひねくれてるのか ほんとにわかんないやつだよな」
幼馴染「なにそれ」
男「すぐに、なんでも謝っちゃうし」
男「すぐに、すねて人のことバカにするし」
男「自分がいやなことでも、なんでも我慢して 強がるし」
男「そのくせ、俺のこととかはやたら必死で、ゆずらねえし」
男「……なんだかんだいって。俺のすること なんでも応援してくれるし」
幼馴染「……」
男「俺さ」
幼馴染「ん… なに?」
男「俺。 お前のこと 好きだったよ」
幼馴染「過去形―?」
男「今でも好きだよ」
幼馴染「ふふ。ばーか 知ってる」
男「…そっか。知ってたか。よかった」
幼馴染「あたりまえ。男のこと、なんでも知ってるよ、私」
男「怖いな」
幼馴染「へへ」
男「んじゃあさ、なんで俺が… この鉄塔に登ってるかは、わかる?」
幼馴染「わかんない」
男「……はは。なんでも知ってるんじゃなかったのかよ?」
幼馴染「男のすることは、いっつもわかんないよ」
男「それでも、俺のことわかってるつもりなんだ?」
幼馴染「うん。男が、そうしたくて」
幼馴染「男が、そうでもしないとやってられなくて」
幼馴染「男が。 いつだって一生懸命なのを よく知ってるから」
幼馴染「だから… 細かいことはわからなくても、ちゃんとわかってる」
男「……うん。そうだったな。そう、前にも言ってくれたよな。ありがとうな、幼馴染」
幼馴染「……」
幼馴染「ようやく…八分目」
男「そろそろ、電線が邪魔くせえな…」
幼馴染「ひっかかったら、本当に危ないよ、男」
男「わかってる。せっかくここまであがったのに、こんなところで落ちられない」
幼馴染「気をつけて」
男「ありがとな、幼馴染」
男「……」
男(ここを… こっちに、ひっかけて…)
男「!」グッ
男(ちっ…。フックが、ケーブルに…)
男(待て、焦るな… 一度脚を下ろして、ゆっくり外してからもう一度…)
男(……よし、これなら…)
男「」ホッ
男「はぁ…ゆってるそばから 危ない目にあった」
幼馴染「大丈夫?」
男「うん」
幼馴染「そんなに無理して…」
男「やめさせる?」
幼馴染「……やめさせられないの、よくわかってるから」
男「そだな。俺、こんなことでやめるわけないよな」
幼馴染「うん」
男「んじゃ… あとちょっと。てっぺんまで がんばりますか」
幼馴染「うん… もうちょっと。もうちょっと」
男「はは。懐かしい」
幼馴染「え?」
男「昔さ、お祭りのときに…お前、浴衣着てきてさ」
幼馴染「?」
男「歩き回ってるうちに、足の親指のところにマメできて」
幼馴染「あー…」
男「俺もまだ、チビだったし、抱っことかもしてやれなかったからな」
幼馴染「うん。でも、男が手を引いてくれたんだよね」
男「そうそう。んでおまえさ、ずっと 涙こらえながら…『あとちょっと、あとちょっと』って」
幼馴染「うん。だって、そうでもしないと 泣いて座り込んじゃいそうだった」
男「ごめんな。もうちょっと俺の身体が大きければ、抱っこして連れてったやれたのに」
幼馴染「あのころは、男も小さかったもんね」
男「俺が背のびたの、高校からだしな」
幼馴染「うん。おっきくなったよね」
男「……こんくらいデカくなってれば、抱っこもしてやれるな」
幼馴染「うん」
男「一回くらい、抱っこしてやりたかったな」
幼馴染「……ばーか」
男「また、それかよ」
幼馴染「仕方ないでしょ?」
男「……うん」
カツン!!
ザァツ!!
男「!」
幼馴染「……すごいね、やっぱさ。たかいよねー」
男「あ、ああ。いきなり風吹いたから、ちょっとびっくりした」
幼馴染「てっぺんだからね。やっぱり、この鉄骨が少し無いだけで、風の当たり方が違うのかも」
男「うん、俺も今 そう思ってた」
幼馴染「……高いね」
男「うん。この街の全部…見れるな」
幼馴染「あそこ。私の事故現場だね」
男「うん」
幼馴染「あそこが、城址公園…はじめてのキスした場所」
男「うるせえよ」
幼馴染「それで、あそこが小学校」
男「すぐ隣にあるのが、中学校」
幼馴染「高校は、あっち…」
男「さすがに大学は見えないな」
幼馴染「ふふ。電車にするか、アパート借りるか悩む距離だよ?」
男「そりゃそうだな」
幼馴染「うん…」
男「でも、見えなくてよかった」
幼馴染「……」
男「なんかさ。もしも大学が見えてたら…お前との あるはずだった未来のことまで、考えちゃいそうだもんな」
幼馴染「……」
男「お前と過ごした時間が見える。それだけで、いいんだ」
幼馴染「……」
男「なくなっちまった未来とか、ほしがらないよ 俺」
幼馴染「……」
男「空、近いなあ」
幼馴染「うん。空、好きだよね 男」
男「うん。でも、前よりもっと好きになったかも」
幼馴染「なんで?」
男「お前が、あそこにいるのかなーって 思えそうだから」
幼馴染「……あー 天国、みたいな?」
男「そうそう」
幼馴染「んじゃ 今ここにいる私は?」
男「……なんだろうな?」
幼馴染「……なんなんだろうね」
男「俺さ、あの日のデート、楽しみにしてたんだ」
幼馴染「……」
男「15分前、待ち合わせ場所に着いた時にはもう、騒然としててさ」
男「それでも、人ごみの中で必死にお前のことさがしてて」
男「救急車が去ったあとも、お前のこと探したり、携帯ならしたり」
男「お前の携帯、壊れてて 繋がらなくなってたし」
幼馴染「……」
男「なんか、事故の詳細とか 噂してる人いっぱいいたような気もするけど、全然耳には入ってこなくて」
男「あのまま、俺 あそこで二時間くらい お前のこと待ってた」
幼馴染「……」
男「おばさんから携帯に連絡あって。迎えに来てくれて、病院いって」
男「……でも、あんま覚えてねえや」
幼馴染「……」
男「頭、真っ白で」
男「通夜でも、みんなにいろいろ聞かれたけど、何もいえなくて」
男「そんな俺をみかねたおばさんが、幼馴染の部屋にいれてくれて」
幼馴染「そこで、あの本?」
男「そう」
幼馴染「ちょっと、おかしいんじゃない?」アハハ
男「しょーがねーべ? 結構、ほんとに、壊れてたような気もする」
幼馴染「今も…壊れてるの?」
男「どうかな…わかんねえ」
幼馴染「……」
男「でも…こうやってさ」
男「高い場所まで、きてみて。わかったことある」
幼馴染「……なに?」
男「いま、こうやって話してるお前が…」
男「もし、壊れきった俺の思考回路が生み出した、空想や妄想なのだとしても」
男「ほんとに、何かしらの怪しげな術が成功して呼び出された、本物のおまえだとしても」
男「やっぱり 俺はお前のことが好きでさ」
男「こうやって、お前のこと思って、一生懸命になってるのが 一番、救われる」
幼馴染「…ばかだね、男」
男「うん。馬鹿なんだ、俺」
幼馴染「…こんなことまでしないと、私のこと、ふんぎりつかないの?」
男「どうだろう。こんなことしても、ふんぎりついたのか、よくわかんない」
幼馴染「これから、どうするの?」
男「どうしようかな」
男「このまま、この一番空に近い場所で、お前を見送ってやりたいようなきもする」
幼馴染「……」
男「うん… もしもこれが、俺の空想なのだとしたらさ」
男「高い場所まで登らせてやって、どっか…綺麗な場所で、幸せに暮らしてくれるんだって、そんな空想にしたいよ」
幼馴染「……」
男「でも、もしもこれが 本当にお前の幽霊なのだとしたらさ」
男「離れたくないな。ずっと、こうして 死んでてもいいから…お前のそばにいたいかもな」
幼馴染「……」
男「たとえば、なんていうのかな。死後の世界?」
幼馴染「うん」
男「そんなのがあるんだって、はっきりわかるのなら…今 俺、ここから飛び降りるわ」
幼馴染「そういうの、本当に躊躇なくいうよね、男って」
男「うん、本気だからね」
幼馴染「いっつも、心配してたよ」
男「うん。しってた。ごめんな」
幼馴染「うん…」
男「……見送るべきなのかな。それとも、落ちるべきなのかな」
幼馴染「男は、どっちだといいの?」
男「本当は 一緒にいたいから。お前は本物の幽霊で、ここから落ちて、一緒にいたいって思う」
幼馴染「……」
男「でもさ。なんか、思っちゃうんだよな」
男「きっと幼馴染は、そういう俺のこともよく知ってるからさ」
男「きっと、そんなことさせないために、本物のおまえなら どんな魔法を使ったって、俺の前にはきっと出てこないんだろうなって」
幼馴染「……ばーか」
男「うん…俺 馬鹿だな」
幼馴染「……もしもさ。これが空想だったら… どうなるのかな」
男「あれじゃね? なんかこう、夢オチ的な」
幼馴染「夢オチって…」
男「ここからオちて死んでさ、うわーーーってなったとことで、ベッドで目が覚める」
幼馴染「それで?」
男「汗とかグッショリでさ。本当に鉄塔に登っててもおかしくないような疲労感とかあって」
男「結局、よくわかんないまま。泣くんだ」
幼馴染「……泣いちゃうの?」
男「泣いちゃうだろね」
幼馴染「ふふ。私のこと、思って?」
男「うん。お前のこと思って、ずっとずっと 泣いちゃうんだと思う」
幼馴染「あんまり、男のヒトを泣かせるのはやだなあ」
男「俺も、女に泣かされるのはちょっとやだなあ」
幼馴染「それでも泣いちゃう?」
男「泣いちゃう」
幼馴染「そっか」
男「ん」
幼馴染「…じゃあ、さ」
男「?」
幼馴染「空想じゃなくて。もしも本当に、私が本物の私の幽霊だったら…どうなるかな?」
男「っ」
幼馴染「……」
男「…あ…」
幼馴染「どうなる、かな」
男「……わかん、ない…」
幼馴染「本当に?」
男「…あ でも だって」
幼馴染「きっと。わかってる」
男「おさななじ…!」
トン
男「!」
幼馴染「もう。いいよ、男。ありがとう…私だよ? わかってるよね?」
幼馴染「いつだって。男の為に、一番になると想うこと…戸惑わない。おんなじだよ、私も」
グラ… ヒューーーーーーン…
男「! おさな…!」
幼馴染「ばいばい。最後まで、想ってくれて…私は嬉しいよ。それも、知ってるでしょ?」
男「…!」
ヒューン…
遠くなる。
赤と白の鉄塔。
うすぼんやりした、幼馴染の顔。
いつも俺のことを心配そうに見ながら、強がった笑顔。
高い高い鉄塔か落ちる間
俺はその幼馴染の顔が ゆっくりとかすれていくのを 見ていた
地面に着くかどうか、というその瞬間…
天使のように上から幼馴染がおちてきて。
そっと、俺を抱えて…キスを、した。
ガバッ!
男「!!!」
男「………」ハァ…ハァ…
男「…あ…」
男「え? はは、嘘だろ? やっぱり夢オチ?」
男「……ってわけでも、ないのか…なあ」キョロ…
鉄塔
男「…登るには、本当に登ったのかな」
男「どっかで、意識おかしくして おちたのか」
男「それとも、ここまできて そのまま倒れちゃって、幸せな夢でも見てたのか」
男「っ!」ズキン
男「あ… いってぇ。なんだ? 背中…」
男「え? あれ、打ってる…? なんだ? もしかして、ほんとにおちた?」
男「……なわけないか。さすがにアソコからおちたら死ぬわな…」
男「っ」
男「あ… でも、そっか。俺、幼馴染に抱えられて、キスされて…」
男「いや、いやいや… んなことねーだろ…」ハハ
男「……え? でも… あれ? どっちだ…?」
男「…やべ。本当に、わかんねえや… 夢オチなら夢オチのほうが、ラクだったかもなあ」
男「…やっぱ、あいつ ひどいなあ」
男「これじゃあさ。一生懸命やった気もするから もうこれ以上、お前の幽霊を追えないし」
男「空想だったような気もするから、きちんと別れのキスまでして、見送れたような気もするし」
男「………それに」
男「お前に。もう、来なくていいって 言われちゃったのが、すげえ実感できちゃうじゃん」
男「……」
男「実感… できちゃたじゃねえかよ…」
男「……」
男「やっぱりさ。お前は 俺のことをよくわかってるよな」
男「俺も お前のいいそうなことは、ほとんどわかってるけどさ」
男「やっぱり。お前にはかなわねえよ」
男「一生。ずっと。最後まで」
男「お前のこと、忘れないから」
男「どうか。俺に、お前のことを 喜ばせておいてくれよな」
『……ばーか』
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おわり
おつ
乙
おつ
良かった!乙!
乙
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