貴音「明る月」(33)
貴音「あなた様、こちらにいらしたのですか」
「ああ、星が綺麗だろう」
貴音「真、月の無い夜もまた、趣があります」
「ふむ……」
月影絶えて空灯り 天に満ちる星明明
月隠りしや星灯り 天に流るる星麓麓
人影絶えて空眺め 地に吹きゆ風清清
人在りしや星眺め 地に点るる星炯炯
貴音「ふふ、今宵のあなた様は、詩人なのですね」
貴音「私も、あなた様に倣い、戯れましょう」
天を満つ 星ひた見入る 影一つ
至上の光りや いずこにあるらん
「胸の内、か?」
貴音「とっぷしぃくれっと、です」
「そうか」
天に満つ 月ぞ高嶺の きにかかる
心に映さば ただ影あかる
貴音「はい、真、良夜にございますね」
「かなわないな、冷えてきた、そろそろ戻ろう」
貴音「ふふ、いけずなあなた様」
星隠す み空の明りも 今は闇
盈ちてぞ虧けじ 月の色人
「どうかしたか?」
貴音「いえ、何でもありません」
あなた様、どうか月の輝きを、永く、末永く――
以上です。
テーマは「新月と満月」
地の文をつけた補完編1
貴音の決意
私が進むべき道はどこにあるのでしょう。
これまで、はるか高みを目指して歩んできました。
しかし、その高みにあるはずの輝きはとうに失われています。
それでも私は歩まねばなりません。
なれど、その歩んだ先には果たして何があるのか――。
――はて、そういえばここは、どこなのでしょうか。
思いに沈むうちに、道に迷ってしまったのでしょうか。
……いえ、どうやらそうではないようですね。
ここは、よく月を見に訪れる公園の近くのようです。
ふふ、せっかくですから、寄っていきましょう。
今宵は月が出ていませんが、それもまた良いでしょう。
おや、あそこにいるのは……。
この距離では風体がわかりにくいですが、私が見間違えようはずもありません。
――あなた様、ここにいらしたのですか。
私と共に高みへ至らんとするあなた様。
何故、あなた様がここに?
――ああ、星が綺麗だから。
ふふ、どうやら私と同じ理由のようです。
しかし、私をちらと見ただけで、すぐに天を仰がれるとは。
確かに、この綺羅星の煌きは心奪われるものがありますが。
――真、月のない夜もまた、趣があります。
月の無い闇夜に何を思うか。
それはまるで――。
――ふむ……。
はてさて、いったい何を考えておられるのやら。
私は進むべき道に迷い、懊悩しておりましたが、別のことを考えておられるのでしょう。
仕事一筋のこの方のことです。
いかにして高みに至るのか、その道程についてでしょうか。
月影絶えて空灯り 天に満ちる星明明
月隠りしや星灯り 天に流るる星麓麓
人影絶えて空眺め 地に吹きゆ風清清
人在りしや星眺め 地に点るる星炯炯
ふふ、ふふふ。
まさか詩を考えておられたとは。
意外な一面を垣間見たようです。
――ふふ、今宵のあなた様は詩人なのですね。
星ばかりが輝き、月は暗く。
それはまるで、今の私のよう。
私の見るべき光は一体どこにあるのでしょう。
――私も、あなた様に倣い、戯れましょう。
この心持ちを歌に託しましょう。
天を満つ 星ひた見入る 影一つ
至上の光り いずこにあるらん
私を導く標はどこに……。
――胸の内、か?
ふふ、その返事はもちろん……。
――とっぷしぃくれっと、です。
私は歌に想いを込めました。
この上語る言葉を持ち合わせておりません。
――そうか。
あなた様のその優しさ、嬉しく思います。
天に満つ 月ぞ高嶺の きにかかる
心に映さば ただ影あかる
あなた様には、私の輝くのが見えているのですね。
――はい、真、良夜にございますね。
ならば私は、あなた様の心の月を、私の心の標としましょう。
――かなわないな。
いいえ、私はあなた様がいなければ、何もできない女。
あなた様が行くところ、私もどこまでも付き従いましょう。
――冷えてきた、そろそろ戻ろう。
思えば随分と眺めていたものです。
ですが、まだ私は――
――ふふ、いけずなあなた様。
私はまだ、あなた様と月を眺めていたいのに。
星隠す み空の明りも 今は闇
盈ちてぞ虧けじ 月の色人
月はこれより輝くばかり。
空にも、心にも。
――どうかしたか?
私は輝けるでしょうか。
――いえ、何でもありません。
あなた様という光があるならば、私は闇夜を真昼のごとく照らせましょう。
あなた様、どうか月の輝きを、永く、末永く――
以上、貴音の決意
以下、貴音の恋心
一体どこへ行ってしまわれたのでしょうか。
二人きりでの旅行だというのに。
私を置いて行ってしまうとは。
おや、彼方に見えるのは――。
――あなた様、ここにいらしたのですか。
全く、私を置いていくとはどういうことなのでしょうか。
――ああ、星が綺麗だから。
確かに今宵は月も無く、星が綺麗です。
しかし私のほうを見もしないとは。
私より星の方がよいのでしょうか。
――真、月のない夜もまた、趣があります。
心奪われるほどに。
――ふむ……。
はあ、本当に心を奪われているようです。
私はしょっくです。
月影絶えて空灯り 天に満ちる星明明
月隠りしや星灯り 天に流るる星麓麓
人影絶えて空眺め 地に吹きゆ風清清
人在りしや星眺め 地に点るる星炯炯
詩を捧げるほどとは。
ますます我慢なりません。
――ふふ、今宵のあなた様は詩人なのですね。
私が心にかけるのは中天にかかる月だけだというのに。
あなた様は星の方が気にかかるのでしょうか。
――私も、あなた様に倣い、戯れましょう。
確かめましょう。
あなた様の心を。
天を満つ 星ひた見入る 影一つ
至上の光り いずこにあるらん
あなた様の目には、私は写らないのでしょうか。
あなた様の心には、私は映らないのでしょうか。
――胸の内、か?
そのようなこと、確かめるまでもないでしょう。
――とっぷしぃくれっと、です。
ご自分の胸に聞いてくださいませ。
――そうか。
そうですとも。
天に満つ 月ぞ高嶺の きにかかる
心に映さば ただ影あかる
ふむ、心には常に私がいると。
……まあ、いいでしょう。
この場はこれで手打ちとします。
――はい、真、良夜にございますね。
私の心にも、常にあなた様がおります。
忘れないでくださいませ。
――かなわないな。
あなた様が星ばかりを見ていなければ良いことです。
――冷えてきた、そろそろ戻ろう。
そのようなことを、おっしゃるとは。
――ふふ、いけずなあなた様。
私はまだ、あなた様とこの空を眺めていないのに。
星隠す み空の明りも 今は闇
盈ちてぞ虧けじ 月の色人
今はまだ、誰にも言えませんが、いつかは――。
いえ、たとえ公にできずとも、私はあなたを想い続けます。
この想いは、終生変わることはないでしょう。
――どうかしたか?
あなた様への想いを、確かめていたところです。
――いえ、何でもありません。
私は、あなた様に捕らえられた月にございます。
もはや、あなた様と離れることなど考えられません。
あなた様、どうか月の輝きを、永く、末永く――
以上、補完編2
貴音の恋心
よく考えたら恋心より思慕の方が適切だったか?
まあいいか
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