男「娘さんをボクにください!」富豪「ゆるさぁ~ん!」(62)

<豪邸>

娘「ねえ、パパ」

富豪「なんだ?」

娘「今度、私の彼氏を紹介したいんだけど……」

富豪「!?」

富豪「な、な、な、なんだとォ~~~~~う!?」

娘「今度の日曜日に、家に連れてきたいんだけど──」

富豪「許さん!」

富豪「お前の結婚相手はワシが決めるといっておいたハズだぞ!」

富豪「文武両道で金も稼げるグレイトな男を用意するといっておいたハズだぞ!」

娘「私にだって……付き合ったり結婚する人を決める自由ぐらいあるわよ!」

富豪「ならん! ならん! ならぁ~~~~~ん! らぁ~~~~~ん!」

富豪「ワシはそんなどこの馬の骨とも分からぬ奴と顔を会わせるつもりはない!」

娘「そんなぁ……」

富豪「ワシは書斎に戻る! ……仕事があるのでな!」

娘「…………」ハァ…

母「あまり気にしないの」

母「お父さん、今度の日曜は関連企業の重役を集めた会議があったから」

母「どっちにしろ家にはいなかったのよ」

娘「なんだ、そうだったの……」

娘「でも、残念だわ」

娘「どこかでパパに許してもらわなきゃいけないってのは分かってたから」

娘「なんとか会わせたかったのに……」

母「焦らなくても、またチャンスはあるわよ」

次の日曜日──

ブロロ……

<リムジン>

秘書「総帥」

秘書「まもなく、会議が行われる『キングビル』に到着いたします」

富豪「うむ」

富豪「…………」

富豪「ところで秘書よ」

秘書「はい、なんでしょう?」

富豪「悪いが、今日の会議は欠席する。予定をキャンセルしてくれたまえ」

秘書「は!?」

秘書「なにをおっしゃるんですか、総帥!」

秘書「今日の会議は重大な議題もあり、総帥がいなければ──」

富豪「頼む……!」

秘書「そこまでいわれては仕方ありませんね、ガッテン承知!」ビシッ

富豪「運転手君」

運転手「はっ」

富豪「急にすまないが、目的地を変更してくれ」

運転手「はっ、どちらへ?」

富豪「我が家だ」

運転手「イヤッフゥゥゥゥゥ!」ギュルルッ

ブロロロロロロ……!

<豪邸>

娘「ママ、この人が私の彼氏よ」

男「はじめまして」

母「あらぁ~、ハンサムじゃないの」

母「ところで、何をなさっているの?」

男「画家をやっています」

男「といっても、実際には絵の仕事全般をやっている、といった感じですが……」

娘「だけど彼、今度自分の個展も開くのよ!」

母「あらまぁ、すごいじゃない!」

すると──

バァンッ!

富豪「ただいま」

母「あなた……!?」

男「!」

娘「パパ、来てくれたの!?」

富豪「勘違いするな……」

富豪「ワシは忘れ物を取りに戻っただけだ」

富豪「そのついでに娘が連れてくる男とやらを、見定めに来ただけだ」

男「…………」ゴクッ…

男「は、はじめまして……」

男「ボクは娘さんと交際させてもらっている者です」

富豪「ふんっ、見るからにみすぼらしい奴だ」

娘「パパ!」

富豪「ところで、仕事は何をやっているのかね?」

富豪「医者? 弁護士? 国家公務員? それとも一流企業のビジネスマンかね?」

男「画家の卵……です」

富豪「画家ァ~? ガッカリだな! まるで崩れかけのジェンガだ!」

富豪「そんな不安定な職の人間に、ウチの娘をやれるものか!」

娘「ひどいわ、パパ!」

富豪「いいか……今後二度と娘に近づくな。近づいたらタダじゃおかんぞ」

富豪「ワシの手にかかれば、キサマなどどうにでもできるのだからな!」

男「…………!」グッ…

男「……お断りします」

富豪「ホワイ!?」

男「ボクは……彼女のことが好きですから」

富豪「な、な、なんだとォォォォ~~~~~う!?」

男「しかし、今のボクがあなたに認められるような男ではないことも事実……」

男「だったらボクは、あなたに認められるような男になってみせます!」

娘「…………!」ポッ…

母「ふふっ……」

富豪「ふん、認めんぞ、絶対に認めるものか! ワシは認めんからな!」

バタンッ!

娘「ごめんね、パパがひどいこといって……」

男「いや、いいんだよ」

男「それに……こうなることは分かってたしね」

男「ボクは駆け出しの画家」

男「キミは日本有数の大企業グループの総帥の一人娘……」

男「二人の気持ちはともかく、世間から見たらボクたちは釣り合ってはいない」

娘「…………」

男「だけどボクは必ずキミに釣り合うような男になってみせるよ! 約束する!」

娘「うんっ!」

母「それじゃお茶にしましょうか」

数日後──

<豪邸>

男「こんにちは」

母「あら、いらっしゃい。あいにく今、娘は留守なんだけど……」

男「はい、かまいません」

男「本日はお父さんにお会いしたいのですが、いらっしゃいますか?」

母「主人ならちょうどいるわよ、ちょっと待っててね」

富豪「ワシになんの用だね? 馬の骨君」

男「用というほどのことはありません」

男「実は、あなたがたご家族三人の絵を描いたので……見てもらいたいと思いまして」

富豪「ほう……自分の腕を示そうというのだな?」

男「これです」ガタッ

富豪「…………」

富豪「ふん、下らん!」ポイッ

男「!」

富豪「いいか、耳をかっぽじってよおく聞け……」

富豪「こんな下らん絵を描くヒマがあったら、一円でも多く金を稼ぐ方法を考えろ!」

富豪「ごくつぶしの馬の骨めが!」

男「ボクにとっては絵を描くことが金を稼ぐ方法です」

男「今日はダメでしたが……次は必ずお父さんに認められてみせます!」

富豪「誰がお父さんだ! キサマ如きにお父さんなどと呼ばれる筋合いはない!」

富豪「不愉快だ! 消え失せろ! ちなみにこの絵はもらっておく!」

男「……失礼します」ペコッ

翌日──

<会社 会長室>

富豪「秘書君」

秘書「はい」

富豪「この絵を部屋に取りつけてくれたまえ」

秘書「まぁ、ステキな絵! 総帥のご家族が生き生きと描かれていますわ!」

富豪「ふん、ステキでもなんでもないわ!」

富豪「あまりにヘタクソだから飾るだけだ!」

それからしばらくして──

<豪邸>

娘「ねぇ、パパ」

富豪「なんだ?」

娘「明日、彼とデートしてくるわ」

富豪「な、な、な、なんだとォォォ~~~~~う!?」

富豪「デートだと!? どこでだ!?」

娘「美術館よ」

娘「じゃあ楽しんでくるから!」

富豪「お、お、おのれぇぇぇ~~~~~~~~~~っ!」

翌日──

<美術館近辺の公園>

娘「とてもよかったわね~、感動しちゃった!」

男「うん、それに勉強になったよ!」

男「いつかボクもこういうところに飾られるような絵を描きたいなぁ……」

娘「フフッ、がんばってね!」

男「ところで……そろそろお昼の時間だね。なにか食べて行こうか」

娘「そうねぇ……。あ、あんなところにたこ焼き屋さんがある!」

娘「買っていかない?」

男「そうだね、そうしようか!」

男「すみません──」

富豪「へい、らっしゃい!」

男「!?」

男「お、お父さん!?」

富豪「だれがお父さんだ! 馬の骨め!」

娘「な、なんでパパがこんなところにいるの!?」

富豪「聞いて驚け……お前たちを監視するため、たこ焼き屋を買収してやったのだ」

富豪「ワァッハッハッハッハ……!」

娘「信じられない……そこまでする!?」

男「それじゃ、たこ焼き10個ください」

富豪「あいよ!」

男「焼き加減が絶妙で、おいしいですね」ハフハフ…

富豪「お世辞などいっても無駄だ! このバカ息子め!」

娘「お世辞じゃないわよ、本当においしいわ!」ハフハフ…

富豪「ふん……当然だ」

富豪「ワシは若い頃は色々やったからな……」

富豪「新聞配達、ウェイター、プログラマー、通訳、遠洋漁業、ライン工……」

富豪「犯罪以外の仕事ならだいたい経験しておる」

富豪「たこ焼き作りもその中で身に付けた芸当の一つに過ぎぬ!」

男「すごいなぁ……」

娘「いつ寝てたのよ……」

富豪「ふん、いくら褒めてもキサマなど認めんからな!」

ワイワイ…… ガヤガヤ……

「おいしそうなニオイがする!」 「たこ焼き食べよう!」 「うまそ~」

富豪「しまった! 他の客まで惹きつけてしまった!」

「おじさん、たこ焼き10個」 「俺も!」 「あたしも!」

富豪(くそぉ~、これでは監視ができん! なんという誤算!)



娘「ラッキーだわ、今のうちに逃げましょ!」グイッ

男「え、でも──」

娘「早く!」



富豪「おのれぇ~~~~~! あいつらめ、ゆるさんぞォォォ~~~~~!」

通行人「すみません、たこ焼き一パックください」

富豪「あいよ!」

さて、またある日のこと──

<豪邸>

娘「ねえ、パパ!」

富豪「なんだ?」

娘「今度、いよいよ彼の個展が開かれるの!」

娘「絶対に見に来てね!」

富豪「個展だと!? 馬の骨如きが生意気な……!」

富豪「ワシはそんなもの見にいかん! 絶対に見にいかんからな!」

娘「なによ……! パパなんか知らない!」プイッ

富豪「ちなみにどこで開かれるんだ!?」

娘「駅前のビルよ……行かないんなら教えても無駄だろうけどね!」

<駅前ビル>

ワイワイ……

娘「よかったわね、なかなか盛況じゃない!」

男「ありがとう、ボクも正直ほっとしてるよ」

男「誰も来なかったら、せっかくこの話をくれたビルのオーナーさんに悪いしね」



ギィィ……

富豪「…………」スッ…



娘「パパ!?」

男「お父さん、来てくれたんですね!」

富豪「勘違いするな……キサマの絵をコケにしにきただけだ!」

富豪「ふん……」ムスッ…

青年「へぇ~、新進気鋭の画家ってだけあって、やっぱセンスあるなぁ~」

富豪「…………」ギロッ!

青年(え、なに!? なんか金持ちそうなオッサンがメッチャ睨んでくる!)

青年(もしかして、褒めちゃいけなかったのか!?)

青年「や、やっぱり大したことないかも……」

富豪「…………」ギンッ!

青年(ひいいっ、やっぱり睨んでくる! どうすりゃいいんだよぉ……!)

一週間後──

ビュオオォォォ……! ゴォォォォォ……!



<駅前ビル>

ビルオーナー「ついとらんのう、個展の期間中に台風が直撃するとは」

ビルオーナー「さすがにこの台風じゃ、来る人もおらんじゃろうな」

男「そうですね、残念で──」



ギィィ……

富豪「…………」ビショビショ…



男「お、お父さん!? どうしたんですか、ずぶ濡れじゃないですか!」

富豪「誰がお父さんだ、このバカ息子!」

男「なんでこんな台風の日に……!」

富豪「キサマの絵をコケにせんと気が済まんからなァ! ワァッハッハッハ!」

男「お父さん……」

富豪「なんだ!?」

男「ボクと娘さんの交際……認めてはいただけないでしょうか」

富豪「ふん、愚問すぎるわ! 絶対に認めるものか、絶対になァ!」

富豪「せいぜい頭を絞って、デートコースでも考えておくんだな!」

富豪「娘を退屈させんようにするのだぞ! 馬の骨めが!」

富豪「ワァッハッハッハッハ……!」

男(やはり、まだ認めてはもらえないのか……!)

男(だけど、諦めないぞ! 絶対に認めてもらうんだ!)

今回はここまでです

かわいいおっさんは大好物です
支援

おっさん×男

めっちゃいい人だった。

そして、ついに──

<レストラン>

男「あの……」

娘「どうしたの?」

男「ボク、やっと絵で食べていける自信がついた……。だから、いわせてもらうよ」

娘「!」

男「結婚しよう」

娘「うん……幸せにしてね」

男「……ありがとう!」

娘「でも、ウチのパパがなんていうか……不安だわ」

男「そうだね……。だけど、ボクは真っ向からぶつかってみるよ!」

娘「うん!」

<豪邸>

男「お父さん……」

男「娘さんをボクにください!」

富豪「ゆるさぁ~ん!」

富豪「ゆる、ゆる、ゆる、ゆる、ゆる、ゆるさァ~~~~~~ん!!!」

富豪「絶対に許さんぞ!」

富豪「キサマのようなどこの馬の骨とも分からぬ将来の一流画家に、娘をやれるか!」

富豪「このバカ息子めがァ! 結婚など絶対認めんからな!」

男(やはり、ダメなのか……!)

男「だったら仕方ありません……」

男「ボクたちは愛し合っているんです!」

男「どんなに反対されても……ボクは彼女と結婚します!」

富豪「おのれぇ~~~~~強情なヤツめ!」

富豪「帰れ……」

富豪「帰れェ~~~~~~!」

富豪「二度と我が家の敷居をまたぐでないわ!」

男「今日のところは……失礼します」

娘「……パパのバカ! あんな一方的に怒鳴り散らすなんて!」

富豪「やかましい!」

富豪「お前もお前だ! あんな輩のプロポーズをホイホイ受けおって!」

富豪「ワシはお前をそんな軽はずみな娘に育てた覚えはない!」

娘「うっ……!」タッタッタ…



母「あなた、今のはいいすぎですよ……」

富豪「やかましい! ワシは怒っておるのだ!」

富豪「こうなっては……もはや奴らも打つ手は一つしかあるまいて!」

富豪「ワァッハッハッハッハッハ……!」

翌日──

富豪「あの二人はどうしておる? 失踪したという情報は入ってないか?」

母「ええ、入っていませんよ」

富豪「なんだとォ~~~~~う!?」

富豪「てっきり駆け落ちすると思って、通販で探偵七つ道具を購入したというのに」

富豪「パーになってしまったではないか!」

富豪「ワシの名探偵ぶりを発揮するチャンスを無にしおって……」

富豪「ゆ、許さん! 許さんぞぉぉぉぉぉ~~~~~!」

結局──

<豪邸>

娘「パパ、私たち結婚するわ!」

娘「小さな式場だけど……パパの手はわずらわせないわ!」

娘「挙式は来月の10日、絶対来てよね!」

富豪「ふん、行くわけがなかろうがァ!」

富豪「ワシはその日、国内の経済を牛耳る経営者たちとの会議なのだからな!」

富豪「特にワシはリーダーのようなものだから、出席せねば話にならん!」

富豪「なにしろ、ワシはお前たちの結婚をこれっぽっちも認めてはおらんのだからな!」

富豪「あんな義理の息子のことなんぞ、大っきらいだ!」

娘「パパ……」

結婚式当日──

<式場>

娘「……どう?」フワッ…

男「とてもキレイだよ! まるで女神さまみたいだ!」

娘「フフッ、オーバーなんだから! でも、ありがとう!」

娘「ところでママ。パパは……?」

母「今朝、秘書さんと一緒に会議に出かけていったわ……」

娘(花嫁姿、見て欲しかったのに……)

男「大事な用なんだから、仕方ないさ……」

男「それにお父さんも、いつの日かきっと分かってくれる時がくるよ」

娘「……うん」

ブロロ……

<リムジン>

秘書「あともう少々で、会議が開かれる『エンペラービル』に到着します」

富豪「…………」

富豪「欠席する」

秘書「へ!? な、なにをおっしゃっているんですか、総帥!」

秘書「今日の会議はこの前とは比較にならないほど重要な──」

富豪「秘書よ……これはワシのワガママだ」

富豪「頼む、キャンセルしてくれ……!」

秘書「……ガッテン承知!」ビシッ

富豪「運転手君」

運転手「はっ」

富豪「悪いが、行き先を変更してくれたまえ」

運転手「はっ、どちらへ?」

富豪「行き先は──」






運転手「イヤッフウゥゥゥゥゥゥ!」ギャルルッ

ブロロロロロロ……!

<式場>

司会『それでは、新郎新婦によるケーキ入刀です!』



ワァァァ……! パチパチ……!



男「さ、やろうか!」

娘「うん!」

男(できれば富豪さんにも来てほしかったけど……)

娘(パパに……来て欲しかったなぁ……)

バァンッ!!!



富豪「その結婚式、待ったァ!」



男「!?」

娘「パ……パパ!?」

司会『うわっ!? まさかの乱入!?』



母「あなた……!」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

娘「パパ……来てくれたのね!」

富豪「勘違いするな……。ウェディングドレスがよく似合っておる娘よ」

富豪「ワシはこの結婚を認めたわけではない!」

富豪「司会君、ケーキ入刀用のナイフをもう一本、持ってきてくれたまえ」

司会『は、はいっ!』



司会『持ってきました!』スッ…

富豪「ありがとう」

富豪「さて……馬の骨バカ息子よ。男同士、剣と剣で決闘だ!」サッ

富豪「娘が欲しくば、このワシを倒すのだ!」

男「!」

娘「やめてパパ! こんなのバカバカしいわ! ──いやホントに!」

富豪「やかましい!」

富豪「さぁ……どうする? 逃げるかね?」

男「受けて立ちましょう」サッ

富豪「ワァッハッハッハ! それでこそ我が息子よ! いざ勝負!」

キィンッ!

司会『二人のケーキ入刀用のナイフ……いや二人の“剣”がぶつかり合ったァ!』

ワァァァ……!



母「すみません、ウチの主人が……」ペコッ…

男父「いやいや、面白くていいじゃありませんか」

男母「オホホ……」

キィンッ! ギィンッ! ガキィンッ!

富豪「やるな……!」

男「お父さんこそ……!」

富豪「だれがお父さんだ!」シュッ

男「失礼しました!」シュッ

キィンッ!

司会『新婦の父と新郎のプライドとプライドをかけた激突!』

司会『今のところ互角ですが──』

ギィンッ!

男「くっ……!」ヨロッ…

司会『新郎が押されている!』

富豪「ワシはその昔、時代劇にエキストラで出演したこともあるのだ」

富豪「そのおかげで、刀の使い方は心得ている!」

富豪「ワシの勝ちだァ!」バッ

男「なんのこれしき!」

男「絵画用のナイフというのもあるんです! ナイフの扱いなら負けません!」

富豪「なぁにィ~~~~~!?」

キィンッ! ギンッ!

司会『おおっと、ここまでかと思われた新郎が持ち直した!』

司会『一進一退の攻防! 勝つのはどっちだ!?』

男「娘さんをボクにください!!!」

富豪「ゆるさぁ~~~~~ん!!!」



キィンッ! ボトッ……



司会『ついに片方の剣が落ちた! 決着がついたようです! 勝者は──』

富豪「ど、どうやらワシの負けのようだな……」

富豪「む、無念……!」ドサッ…

司会『すごい演技力です!』

司会『時代劇のエキストラというのは、多分やられ役だったんでしょう!』

司会『勝者、新郎ォッ!』



ワァァァァァ……! パチパチパチ……!



娘(よかったぁ、みんなこれもアトラクションかなにかだと思ってるみたい……)

娘(司会さんも付き合ってくれてありがとう……さすがプロだわ)

富豪「やるな……さすが我が息子!」

男「お父さんこそ……」

富豪「……ワシはキサマを“馬の骨”などとののしったりしたが──」

富豪「とんだサラブレッドだったようだ!」

男「ありがとうございます……!」

富豪「だが、勘違いするな!」

富豪「まだワシは完全にキサマを認めたわけではない! せいぜい95%ほどだ!」

男「だったら……いずれ必ず認めさせてみせますよ! ボクの絵で!」

富豪「フッ……ほざきおるわ!」



富豪「はじめまして、新婦の父です。今後ともよろしく」ペコッ…

男父「あ、どうも」

男母「こちらこそ、よろしくお願いします」

富豪「ではワシはこれにて失礼する」

富豪「あとくれぐれも、初夜は緊張しすぎないようにするのだぞ!」

富豪「ワァッハッハッハッハ……!」ザッザッ…



娘「もうパパったら……あんな大きい声で……」

男「だけど……来てくれて嬉しかったよ」

娘「うん……私も」



司会『では気を取り直して、式を再開いたしましょう! ケーキ入刀です!』

パチパチパチパチパチ……!

………………

…………

……

式からおよそ一年後──

ブロロ……

<リムジン>

秘書「本日は『ゴッドビル』にて──」

秘書「世界的大企業のトップが集まった、非常に重要な会議が開かれます」

秘書「念を押しておきますが、くれぐれもキャンセルはしないで下さいね」

富豪「うむ、分かっておる」

秘書「…………」ソワソワ…

富豪「キャ……」

秘書「!」ピクッ

富豪「キャンセル──」

秘書「!」ニコッ

富豪「──などするわけがなかろうが」

秘書「…………」ガクッ

富豪「と思っていたが、やっぱりキャンセルする」

秘書「待ってました! ガッテン承知!」ビシッ

富豪「運転手君」

運転手「はっ」

富豪「行き先を変更してくれたまえ」

運転手「はっ、どちらへ?」

富豪「病院だ」

運転手「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥ! ハッハァァァァァ!」ギャルルルッ

ブロロロロロロ……!

<病院>

ナース「元気な男の子と女の子の双子ですよ!」



おぎゃあ……! おぎゃあ……!



男「二人ともとても可愛いよ……よくがんばったね!」

娘「うん……ありがと……」



すると──

ギィィ……

富豪「ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!」

娘「パパ!?」

男「お父さん!?」

富豪「ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!」

娘「なにやってんの、パパがラマーズ呼吸やってもしょうがないでしょ!」

男「ちなみに少し前に出産は終わりました」

富豪「な、な、なんだとォォォォォ~~~~~~う!?」

富豪「ふん、勘違いするな……ワシは初孫の顔を見たいわけではない」

富豪「たまたまラマーズ呼吸をしていたら、この病院に来てしまっただけだ」

娘「無理があるわ」

富豪「やかましい!」

富豪「ところで、ワシの孫はどこにおる?」

娘「ほら、そこにいるわよ」

富豪「ふん、ワシの反対を押し切ってくっついた、不良夫婦の子供に興味など──」

富豪「…………」チラッ

富豪「か~~~~~わ~~~~~い~~~~~い~~~~~!」

富豪「ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!」

ドサッ……!

娘「あっ、パパ!?」

男「大変だ、ナースコールをしないと!」ポチッ

ナース『どうされました?』

男「ボクの妻の父が初孫のあまりに可愛さに、ラマーズ呼吸をしながら倒れました!」

ナース『へ!?』






そして、数年後──

<個展会場>

ザワザワ……

「ふ~む、これは面白い画家が現れたもんだ」

「特にあの新作は素晴らしかったですね!」

「この独特な温かい作風は、なかなか出せんぞ」

「まだこじんまりとしたところがあるが、化ければ世界でも通用するかもな」

「あっちにある彫刻の像も、なかなかリアルでよろしい」



彫刻「…………」

娘「今回の個展も大成功じゃない! 新作も好評だしね!」

男「あの作品は特に力を入れたから、嬉しいよ」

少年「おとーさんのえ、いっぱいあるー!」

少女「パパのえ、おもしろーい!」

男「二人とも、ありがとう」

娘「ところで、さっきからずっと気になってたんだけど──」



彫刻「…………」

娘「この彫刻はいったいなんなの? パパそっくりだけど」

彫刻「…………」

男「いや、ボクにも分からないんだ。ボクはあくまで絵画専門だし……」

彫刻「……ふっ」

彫刻「フハハハハッ! ワァッハッハッハッハ!」

男「彫刻が笑った!?」

娘「きゃあああっ!」

富豪「まんまとひっかかりおって……」

富豪「ワシは黒の全身タイツをつけ、顔を黒く塗って、彫刻になりすましておったのだ!」

男「お父さん!?」

娘「なんでこんなことしてるのよ、パパ!」

富豪「むろん、お前たちを監視するためだ!」

富豪「パントマイム芸人をやっていたこともあるから、この程度は造作もないわ!」

男「驚きましたけど……来て下さって嬉しいです!」

富豪「勘違いするな……。ワシはまだキサマを許しては──」

少年「おじーちゃん、おじーちゃん!」

少女「じいじ! じいじ!」

富豪「はぁ~~~~~い! みんなのアイドル、おじいちゃんですよォ~~~~~!」



娘「まったく……あなたにはやたら厳しいのに孫には甘いんだから」

男「ハハ……いいんだよ」

男「それにボクがここまで来れたのは……お父さんのおかげともいえるしね」

ザワザワ……

「これが新作か……」

「タイトルは『求婚』……えらい王様に、若者が姫と結婚したいと申し出る場面だ」

「人物がみな生き生きと描かれているが、特にこの王様がいいな!」

「ああ、恐ろしい表情ながら、どこか優しさとひょうきんさがにじみ出ている」

「きっとこの若者は姫と結ばれて、王様とも和解して幸せに暮らすんだろうなぁ……」







                                   < 完 >

完結となります
ありがとうございました!

よいお父さんで、理解ある部下達だな…



大富豪ってやっぱすごい

いいツンデレ…いやデレデレおっさんだった

おっさんがかわいい

いい富豪だった
乙乙

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