佐々木「まだ少しだけ早いんじゃないかい」
キョン「そうか。いや、しかしなんだか無性に食べたくなってな」
佐々木「…それはつまり朝倉さんに会いたいということかな」
キョン「そんなわけないだろ、あいつは何度俺を殺そうとしたと…あれ?佐々木、おまえ朝倉と会ったことあったか?」
佐々木「いいや、でも今の僕は結構いろいろ知っているんだ」
キョン「?」
なんか始まった
佐々木「そうだね、たとえば……君が涼宮さんにキスをしたこととか」
キョン「」
佐々木「くっくっくっ」
キョン「い、いや。あ、あれはだな、ほら、sleeping beautyとか言われて、皆に唆されてだな、決してしたくてしたというわけじゃ…」
佐々木「キョン、そんなに慌てなくてもいい。世界が懸かっていたんだ、僕にだってそれくらいの分別はあるつもりだよ」
キョン「…佐々木、おまえ本当に何でも知ってるんだな」
佐々木「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
キョン「…え?」
佐々木「こほん。ところで、キョン、今日は泊まっていくんだろう?」
キョン「ああ、そのつもりだ。今日の授業の復習もしておきたいしな」
佐々木「君が勉強熱心になってくれて僕は嬉しいよ。君の御母堂もさぞお喜びだろう」
キョン「そうだな。最近は佐々木がお嫁に来てくれたらなんて、よく言っているよ」
佐々木「くっくっくっ。それは光栄だよ。あ、キョン。ちょっとスーパーに寄って行こう。おでんが食べたいんだろう?」
キョン「お、いいのか佐々木?」
佐々木「うん。ちょうど買わなければならないものもあるしね」
キョン「よし、じゃあ行くか。」
佐々木「ああ」
終わり。
ホモォ
終わったった
昼にも書いてた人かな?
佐々木可愛いよ佐々木
佐々木かわいい
佐々木可愛いけどね確かに
ハルヒん中じゃ一番好きだった
>>15
朝倉も捨てがたい
ちょっとずつでもいいんで続きまってます
>>17
どうも。また明日にでもかくかも
今までのはそれなりに余韻もあったけどこれはただ短いだけだわ
前までがそれなりに評判良くて作者調子に乗りだしたか
>>19
申し訳ないから言っておくけど、これと九月のやつ以外は違う人
「……でね。私はそのワゴンの中に2日間篭ってたの」
語られた真実。瑠璃は何も言うことが出来ずに、わずかに青ざめた顔で胡桃の話に聞き入る。
胡桃はいつの間にか体を洗い終え、髪の毛でシャンプーを泡立て始めた所だった。
「そして、三日目にあの人が来た。散歩に来てたらしいわ。河川敷に。そうしたら血の匂いがするワゴンがあったから。興味本位で開けたんだって」
興味本位、これほど男の行動原理としてピッタリ嵌るモノはあるまい。
瑠璃は知らぬうちに噛み締めていた唇を離し、胡桃に促す。
「それで?」
「あの人ね。料理はできるか、って聞いたのよ」
脈絡も何もない。場違いな質問。
瑠璃が男と日本に帰ってくるまでの間、何度も感じた男の狂気。
話をまた聞きしただけでも解るような、圧倒的で絶対的な狂気。
それが再び思い出され、瑠璃は背中に冷たいものが走ったような気分に陥る。
「……今でもわからないな、なんで私は頷いたのか。仕事も辞めて、アパートもその日の内に引き払ってさ……」
胡桃は自嘲の笑みを口元に浮かべ、シャワーを出す。
タイルを滑っていく泡、まとわりつく嫌な静寂。瑠璃は浴槽に満たされた湯に深く体を沈め、己の膝をかき抱き俯く。
胡桃が、怖い。心中ではその思いと胡桃から感じた優しさを信じたいと言う気持ちがせめぎ合っていて、どくどくと脈打つ心臓がうっとおしかった。
瑠璃は俯いたまま、震える声で胡桃に問う。胸を叩く鼓動がうっとおしく、それを紛らわす為に。
「……胡桃さんは」
「ん?」
「殺した人達を、今はどう思ってるんです?」
「変わらないよ。殺した時と同じ。ただただあの人達は不幸だった。でも私の方がもっと不幸だったから。殺しました。それだけのこと」
胡桃はシャワーの栓を捻り、ほんの少し低くなった声でぽつりと言った。
「それ以外、何を思えって言うの?」
何も思えない。きっと瑠璃も。
殺した事を懺悔するなんてできっこない。ましてや殺すのを後悔することなんてもってのほかだ。
だって、胡桃に『そう言う事』をした男たちは、彼女の人生を殺した。
彼女の心を殺した。
彼女は、殺された心の代わりに、腐った男達の人生に終止符を打った。
誰も悪だとは言えまい。
誰も、胡桃を人殺しとなじることなどできまい。
彼女も、一度は殺されている。
「……瑠璃ちゃんは?」
ちゃぽん、と胡桃の体が浴槽に沈み、瑠璃の背後まで漂ってくる。
「瑠璃ちゃんは、私のことを聞いてどう思った? 怒らないから、何も言わないから。正直に言ってみて」
瑠璃にはわかった。彼女の声が震えていた事が。彼女が瑠璃の答えを待ちながらも、その答えに怯えている事が。
なら、なぜ彼女は話したのか。話さなくても済んだ筈なのに。
それはきっと、フェアに行きたかったからだろうと思う。お互いに背負った運命を共有し、どちらかが、妙なわだかまりを持たぬように彼女はしたかったのだと瑠璃は思う。
だから、瑠璃は答えた。
震えて、不格好にかすれた声だったかもしれないけど、自分の考えた事を、胡桃に伝えた。
「わたしは、今の胡桃さんしか知りません。だから、関係ないと思います」
それ以外にも言いたいことがあった筈なのだが、喉につっかえて出てこない。瑠璃の色の違う両眼に涙が滲む。
どれだけ辛かったのだろうか。斑鳩胡桃と言う女性は。
どれだけ、あっさりと崩れた自分の人生に思いを馳せて涙したのだろうか。そう思うと、瑠璃の喉から引き攣った嗚咽が漏れて、湯気が漂う浴室に反響していく。
ふと、瑠璃の肩に胡桃の腕が回された。抱きしめられた。
優しい声で彼女は言う。
「ありがとう」
浴槽に満たされた湯とはまた違う、温い水滴が肩に落ちるのが、瑠璃には解った。
湯のおかげで体は温まった。されど、浴場から出た二人の心中は温くもあれば冷たくもある。微妙な心境。
胡桃が犯した罪を知り、その辛さを最も強く感じたであろう瑠璃は、鼻をすすりながらバスタオルで体の水気を拭き取る。
胡桃も僅かに赤く泣き腫らした目元をタオルでごしごしと擦り、ポツリと言う。
「着替え、持ってこなきゃね。買ってきた紺のTシャツと半ズボンしかないけど」
瑠璃はもとより文句を言える立場では無い、だから無言で頷き、体を拭き終えた胡桃が体にバスタオルをまいて脱衣所を出て行くのを無言で見送る。
洗面所、洗濯機、何処にでもあるような風呂場前の普通の空間。
洗濯機の蓋の上には男の物かと思われる白のワイシャツが無造作に置かれていて、なんだか今までの男に抱いていた印象とはまるっきり逆の感覚が瑠璃の胸中に沸き上がる。
生活感、と言う。どの人間であろうとそれなりのプロセスを持って生きているであろうと言う証明。それを塗りつぶしてしまうほどに、男と言う存在は『個』が強い。
「…………もっと知りたい」
と瑠璃の口から言葉が漏れる。
あの男のことをもっと知りたい。もっとあの男の考えている事や心の中核に触れてみたい。瑠璃の一言には、そんな様々な意味が込められている。
瑠璃がバスタオルを頭に押し当てたままそんなことを考えていると、脱衣所のドアの向こう側から声が聞こえてきた。
『……何やってんのよ』
『なに、気にしても詮無き事だろうが斑鳩。あのちんちくりんの毛も生えてない貧相な体をまた馬鹿にしようと思ってやってきたのさ』
どうやら男がいるらしい。しかも瑠璃の未発達な体を茶化しに来たようだ。瑠璃の胸中に渦巻いていた男に対する探求欲や胡桃に対する淡い共感など瞬時に吹き飛び、羞恥と怒りに顔を染めた瑠璃は歯軋りをする。
『そりゃ11じゃ毛が生えてなくたって不思議は無いで……まって、何で毛が生えてないって知ってるの。しかもまた、なんて。まるで見てきた様な口ぶりが物凄く引っかかるんだけど』
『見てきた様な口ぶり、だと少し誤解があるな。中東のホテルでまな板のような体をしっかりと――――ぐはぁっ』
うめき声、何かが叩きつけられるような鈍い音。どうやら男は胡桃に投げ飛ばされたらしい。最低。と嫌悪感たっぷりに吐き捨てる胡桃の声がドア越しに聞こえてきて、瑠璃はざまあみろと半眼になり皮肉げな笑みを浮かべる。
きっとその弾みで背後にある鏡に写った自分の顔を瑠璃が見たとしたら、その表情の使い方は今しがた投げられたどこかのだれかにそっくりだということに瑠璃は気づいただろうが生憎と彼女が鏡に意識を向けることはなかった。
「瑠璃ちゃんお待たせ……」
ほんの少しげんなりとした表情で胡桃が脱衣所のドアを開ける。部屋で着替えてきたようで、黒の長袖と灰色のタンクトップと言う出で立ちだった。
瑠璃はむしろ清々しい気分だったので、全然大丈夫ですよっ、と弾むような声で答え、胡桃が差し出してきた着替えをうけとった。
開いたドアからは床にうつ伏せた男が見える。どうやら腰を強打したようで、丸めた背中を痛そうにさすっている。
「……くそ、ちょっとしたジョークだろうが。何を本気にしてるんだみっともない女共が」
憎まれ口は健在のようだ。瑠璃と胡桃の口元がぴくぴくと引き攣る。
男の顔は床にべったりとくっついている。起き上がれない内に着替えてしまおうと瑠璃が紺色のTシャツに袖を通した矢先、男の「腰がいてえ、クソ」と言ううめき声が聞こえてきた。
「わたしは頭が痛いです」
瑠璃が口端を引きつらせたまま言うと、胡桃も眉根を寄せた険しい表情で同調する。
「右に同じ。あなたの腰が壊れるが先か私たちの頭の血管が切れるが先か楽しみで仕方ないわ」
二人がかりの罵倒をくらった男は、だがしかしうつ伏せたまま鼻を鳴らした。顔を上げ、唇だけの嘲笑を浮かべる。
「足りねえ頭を痛めたところで大したこたァ無いだろう」
間髪入れずに胡桃がその頭を踏みつぶす。ぐっ、とくぐもったうめき声を上げる男を氷点下のような冷気を帯びた瞳で見下ろし、胡桃は吐き捨てた。
「半裸の淑女がいるのに堂々と顔を上げるんじゃない。瑠璃ちゃんは色々と多感な時期なのよ。買取手ならそれぐらい考えて」
「はん、何が淑女だ。毛も生えてないまな板の癖してがぁぁぁぁぁっ!!」
懲りずに減らず口を叩こうとした男。胡桃は欠片の躊躇いもなく体重をかけ、男の頭蓋がみしみしと軋む。
珍しく男が上げる苦悶のうめき声は、瑠離にとって着替えの世暇を埋める丁度いいBGMとなった。
瑠離が着替え終えた時には男は既に立ち上がっており、背中を脱衣所のドアに預けていた。
「瑠離、寝床を選ぶといい。間取りは二部屋とも変わらんがな」
玄関を挟んだ通路の向こう側を顎で示す。そこには部屋が三つ並んでいる。
行きましょ、と溜息をつく胡桃の後に続こうとする瑠離。が、男は背を預けているドアから離れない。胡桃が振り向き怪訝そうに言う。
「……来ないの?」
「腰がいてえ」
ぷっ、と瑠離は思わず吹き出してしまった。なんと情けない姿か。
散々瑠離をコケにした男と、今腰の痛みに耐えられず動けない男とは大分イメージに乖離がある。その乖離に耐えられなかったのだ。
胡桃もまた同じような事を考えていた様で、微妙な表情で笑いを堪えるように口元を震わせている。
「……じゃ、行きましょうか」
「そうですね……ぶふっ」
二人は男の何だコラ文句あんのかと言いたげな半眼を背中に受けながら、個室のドアが三つ立ち並ぶ通路へ歩き始める。
「まあ、さっきあの人が言ってた様に間取りはどれも変わらないのよね。真ん中の部屋も奥の部屋も」
「……なんでまた、そんなに部屋をぼこぼこつけたんですかね」
「理由なんかありゃしないでしょうよ。そういう人」
やがて三つのドアの前にたどり着く。瑠璃はしばし迷った後、一番手前の胡桃の部屋の隣、つまり真ん中の部屋を選択した。ノブを捻りドアを開けると、家具類の位置が多少違うのみで、胡桃の部屋と全く間取りは変らない室内が顔をのぞかせる。
「それじゃ、寝ましょうか」
ぐーっと伸びをしながら言う胡桃に瑠璃は頷き、足を踏み入れる。だが、胡桃も一緒に入ってきた。
「えっ?」
胡桃はにっこりと「一緒に寝ましょ」と言い放つ。
「えっ……えぇ……」
おぼろげな記憶には確かに母の胸で眠っていた記憶があったが、そんな年でも無いような気もする瑠璃であった。
気恥ずかしそうに黒と灰の瞳をさ迷わせる瑠璃を見て、胡桃はいたずらっぽくにやりと笑い。瑠璃の脇下から腕を通し小さな体を抱き上げる。
「ふぁっ!?」
「そーりゃっ!!」
胡桃は瑠離を抱きしめたままジャンプ。すぐ右手にあるベッドに背面から飛び込んだ。
ぼふっ、とベッドに着地した二人。瑠璃は突然の奇行に唖然とし、胡桃の胸の上で目を白黒させる。
楽しそうに笑う胡桃は、上に乗った瑠璃の腰に腕をぎゅうっと回す。
「甘えろ甘えろ。子供なんだから遠慮しない」
「……で、でも……」
胡桃の体の上に乗った瑠璃は、彼女の女性的な柔らかい感触に僅かな心地よさを感じながらも、おろおろと身をよじる。あって精々数時間の彼女にそこまでしてもらってはなんだか気が引けると言ったところだ。
「ごちゃごちゃ言わない。はいねんね」
「うー……」
ごろん、と仰向けだった胡桃の体が瑠離を抱きしめたまま横向きになる。瑠璃は柔らかいマットの感触に触れた瞬間、眠気が水のようにじんわりと脳髄に染み込んでくるのを感じた。
くあ、と小さく欠伸をする瑠離の頭を胡桃が優しく撫で始める。つややかな黒髪に指を通しながら、彼女は瑠璃に優しく呟いた。
「お疲れ様、よくがんばった。ゆっくり休んで良いのよ。誰もあなたの休息を邪魔したりしないから」
胡桃の匂い。抱きしめられ包み込まれる夢見心地の感触。耳元に囁かれる優しい言葉。それらはスポンジが水を吸い込むように、心地よく瑠璃の意識を眠りへと誘う。
瑠離は、眠気にぼやけて行く意識の中、自分の唇が安堵するように緩むのをかろうじて感じる事ができた。張り詰めた弦が切れるように、瑠璃は眠りに落ちていく。
それはきっと、彼女が親を失ってからの人生で、もっとも安らかな眠りだったろう。
ベッドの上で眠る瑠離の小さな寝息が室内に跳ね返っては消えていく。
胡桃は彼女の小さな体を抱きしめながら口元を緩めた。
高めの体温と小さな鼓動が伝わってくる瑠離の体を愛おしそうにもう一度抱きしめる胡桃、つややかな黒髪がたゆたう頭に顔をうずめ、我が子を抱きしめる母のように穏やかに目を細める。
小さな体に信じられないような壮絶な運命を背負った彼女は、それでもなお胡桃のために涙を流してくれたのだ。
普通なら胡桃を殺人者と嫌悪して、口もきこうとしないはずなのに、彼女は今の自分と昔の自分は違う。関係ないと言ってくれた。
だから、胡桃は瑠璃の事が好きになっていた。母が子供に無償の愛を注ぐように。この子が今まで愛を与えられなかった分、もっともっと愛情をそそいであげたいと思っている。
もしかしたらそれは、不用意な感情なのかもしれない、そうは思っていても、抑えられる感情ではなかった。
瑠離を抱きしめ、ささやかな癒しに浸る胡桃の気分をぶち壊すようにノックの音が響く。
胡桃は唇を尖らせ、はいってどーぞ、とふてくされたようにドアの向こう側に吐き捨てた。
「仕事だ。プロットを練りたい」
無遠慮にドアを開け男が入ってくる。胡桃は慌てて人差し指を唇に当て、黙れこの野郎、と男を睨みつけた。
男は胡桃の胸に抱かれすやすやと寝息を立てる瑠璃を見て、ほんの一瞬不愉快そうに眉根を寄せた。
その表情が何を伝えようとしているのか胡桃は解らず、一瞬怪訝そうな顔で首を傾げるが、男はすぐに無表情に戻った。そして尊大な素振りで開け放たれたドアの向こう側にある廊下を親指で示す。
つまり、とっとと出てこいということだ。
胡桃はやれやれとため息をつき、瑠璃の体を抱きしめていた腕を起こさないようゆっくりほどく。
男と共に廊下に出て、胡桃が音を立てないようにドアを閉めたところで男が言った。
「随分と仲が良くなったじゃないか。アンラッキーな奴同士傷の舐め合いを楽しめてさぞ嬉しいだろう」
なんだか言葉に棘がある。普段からこの程度の罵倒は平然と口にする男であるが、なんだかいつもより男の声音がイラつきを帯びているような気が胡桃はした。
なにはともあれ、歯に絹着せぬ同居人の言葉を、ため息と共にいつものように胡桃はいなす。
「傷の舐め合いなんかじゃないわよ。私とあの子じゃ背負ってるものもぶつかった運命もまるっきり違う」
2階への階段へ歩き始めた胡桃の後を、男はやはりなんだか苛立ったような足取りで追う。
「私の方がよっぽど辛い思いをしてるって?」
「だれもそんなこと言ってないわよ。さっきも言ったでしょ?種類が違うの。比較なんかできない」
「……」
ため息と共に男のねちねちとした物言いを抑え込む胡桃、男は、やっぱりなんだかいつもと違う不機嫌そうな舌打ちを放ち、ずんずんと胡桃を追い抜いて階段にたどり着き、一段目に足をかける。
そこで胡桃は、なぜああも彼が苛立っているのか理由がわかった気がした。
それと同時に、瑠離という少女が二人の生活に浸透させてきている影響にもふと気づき、笑いを抑えきれないまま階段を登っていく男の背中に言葉を投げる。
「……もしかして、妬いてんの?」
「黙れ、殺すぞ」
笑い混じりの胡桃の言葉を、いつもの男なら軽快にいなし否定しふざけた憶測を言い放った胡桃を弁舌でコテンパンにしたところだろうが、今回は如何にも歯切れが悪く、単調な反論だった。
あの少女を自分の作品のために犯すと明言している割には、意外と愛着を持ってしまっているようだ。きっとそれは彼にも予期せぬ感情なのだろうけど。
あいつらしくない歯切れが悪い反論がそれを物語ってるわよね、と胡桃は苦笑し、階段に足をかけた。
『んっん……ヴィンチェンゾぉ。コソ泥野郎は一体どういう顔してんだろうなぁ』
ホテルアクシオン館山の一室にて、アダムはわざわざ違法まで犯して持ち込んできた『お気に入り』の本体を矯めつ眇めつ、同じく得物の具合を確かめるヴィンチェンゾに語りかける。
身につけているのはゆったりとしたバスローブ。既にシャワーを終えた後のようで、煌びやかな金髪は水滴を纏い時たまきらりと月光を跳ね返す。
最上階のスイートルーム、ベット近くの壁に設置されたスタンドから頼りない光がぼんやりと垂流されている。
それそのものが壁であるかのような巨大なガラス窓。
そこからは月光と電灯の入り交じった光が差し込んできていて、スタンドの頼りない光だけが照らす室内の貴重な光源となっていた。
部屋のど真ん中に置かれた巨大なソファーに腰掛け、机の上に得物――――もうぼかす必要もあるまい、分解した銃の部品を広げ、一つ一つ手にとって具合を確かめるヴィンチェンゾは、ただでさえシワが目立つ眉間をより深く寄せながらアダムに答える。
彼は白のシャツに黒のズボン。つまりふだんから着ている黒スーツの上着を脱いだだけの状態だ。
『あぁ……そりゃ、ガキを買うなんて事するぐらいだからなぁ。金を持て余したお坊ちゃんってとこだろうさ。顧客情報を売っぱらってくれた人売り曰く、ただのサラリーマンにしか見えなかったそうだけどよ』
ヴィンチェンゾが作業の与暇を紛らわすように白髪を撫で付けると、アダムは金色の瞳に嘲りの色を浮かべ吐き捨てる。
『ただのサラリーマン、ねぇ。はっ、ノーマルの皮を被ったとんだロリコン野郎だなぁ、ええ? 日本にゃそういうのが多いって聞くけどよぉ、ステイツでやったらFBIに鉛弾をぶち込まれても文句は言えねーわな』
事実である。アメリカ合衆国においては児童ポルノの規制が激しく、その類の画像を所持しているだけでもFBIが動くし、捕まった輩は終身刑を課される場合もある。
ヴィンチェンゾは、お前もそれを買おうとしてたし奪い返しに来てるじゃねーの。と言う一言を苦笑いと共に何とか飲み込み、机の上に広げた部品を組み立て始めた。
かちかちと部品が嵌め込まれていき、ヴィンチェンゾの得物は再び在るべき姿を持ち主の手の中に表す。
MP5。ドイツのH&K社が開発した軽機関銃だ。なかでもヴィンチェンゾが愛用している『K(クルツ)シリーズ』は銃身を短小化し、携行するのにほとんど苦労はない。ハンドガンと大して変わらない感覚で扱う事ができる。
しかもヴィンチェンゾが持っているものは消音機を銃身に内蔵した『インテグラル式』と言うオプションもついていて、凶器に対する反応が過剰なこの国に置いてもそれほど使うのに支障が出ないと思いヴィンチェンゾは数ある愛銃の中からこれを選んだ。
銃口の真上に申し訳程度に取り付けられた照準器、丸みのあるフォアグリップ。銃身の横についたツマミで、フルオート、セミオートの切り替えができる。が、ヴィンチェンゾはあまりこのツマミを捻ったことがない。常にフルオートでぶっぱなすのがスタイルだ。
と、ヴィンチェンゾの武器が携行の利便さや消音機による諜報性を重視しているのに対し、アダムの銃はまったくそこを考えない破壊兵器である。
フランキ・スパス12。セミオート、ポンプアクションを自由に切り替えることができる利点を持つ、威力絶大のショットガンだ。
U字型のフックのような形をした折りたたみ銃床のお陰で、肩にかけ携行したり、射撃の際、脇下に挟み反動を制す為のサポートにも使える。
これだけ聞くと、威力絶大、操作性良好の兵器に聞こえるが、オプションが多いだけあって、重量はかなりの重さとなっている。
下方向に膨らんだスライドグリップ。U字型の銃床。1m程の銃身。見た目を見ただけでも、たやすく人間を挽肉にできる道具だとわかる。
アダムはベッドの上に置かれていた黒革のホルダーを引き寄せ、側面につけられたポケットのチャックを開ける。そこに入っていた薬莢を銃身下部に開いた銃弾装填口にかちゃかちゃと入れ込んでいく。
ヴィンチェンゾもまた、細身のマガジンを銃身に差込み、本体を月光に晒し出来栄えを確かめ、満足したように唇を歪めた。
二人のギャング達は、『コソ泥野郎』を始末するための準備を着実に整えていく。
空にポッカリと浮かぶ月だけが、それを見て悲しそうに嘆いていた。
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