灰色の鎧を着た人は返事をしない。
ボロボロのマントを寒そうに手繰り寄せ、毛布の様に体にかけている。
疲れていると、彼女は感じた。
「……あなたはどこから来たの…?」
灰騎士「……」
「寒いの…?」
灰騎士「…………」
灰色の鎧を着た人は返事をしない。
疲弊仕切った身体を寝かせると、静かな呼吸だけを響かせて眠りについてしまう。
彼女は、鎧の手甲に刻まれた紋章を見て気づく。
『これ』は、騎士なのだと。
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彼女に名前は無かった。
彼女に明確な存在意義も無かった。
彼女は肉体を持たなかった。
彼女には何も無かった。
「何だろう、この町」
「何処まで行っても霧が出ていて……」
「何処まで行っても、最後には町の入り口に出ちゃう…どうして…?」
彼女はそれまで『何となく』世界各地を漂っていた。
しかし、気がついた時には霧に包まれた町の中央に『立っていた』。
初めての足という感触、そして概念に戸惑いながらも、彼女は目の前の存在に興味を示した。
「……ねぇ、あなたはだぁれ…?」
灰騎士「……」
それが、今は眠りについている灰色の騎士。
この霧に包まれた町で目の前にまるで待ち構えていたかのように立っていたのが、他でもない灰色の騎士だった。
ヴォイドさんかな?
「……この町は何があったんだろう」
「人もいない」
「鳥も、動物もいない」
「……他にも…温かさが無いのかもしれない…」
彼女はゆっくりと町の中を歩き回る。
ある通りの東側には宿屋があった。
ある路地裏には怪しい骨董品店があった。
ある町の中央には兵舎があった。
ある大通りには様々な露店が並んでいた。
「…………」
「命の灯火を感じられない……?」
「……残り火も、微かな残滓も無い…冷たい霧しか感じない……」
彼女は歩き続ける。
本来ならば足の裏が擦り切れてしまう程に、彼女は霧の町を歩いた。
そして彼女は。
「…………あなたしかいないんだね、灰色の騎士様?」
灰騎士「……」
そして彼女は、眠りから覚めた灰色の騎士のもとに帰ってきたのだ。
静寂に支配され、霧の含む肌に張り付くような冷気のみが漂う。
白濁とした灰色とも認識出来る中で、はっきりとした灰色の鎧を纏った騎士は再び戻っていた。
『彼女』が突然この霧の町に立っていた時と同じ、町の中央に。
灰騎士「……」
「……ねぇ」
「あなた……だぁれ…?」
灰騎士「……」
灰色の騎士は返事をしない。
思えば、彼女が初めて声をかけた時も、目の前に立った時も反応が無かった。
何かを待つように、エストックを構えたままで。
困った様に笑いながら、彼女は灰色の騎士に歩み寄る。
まじまじと見つめる最中に思い出したのだ。
彼女は一度も『人に自分から近づいた事がない』、と。
「…………ふぅん」
そう思い出して、ゆっくりと灰色の騎士を中心に歩き回り始める。
初めての人をゆっくりと、確かめるように観察するために。
一瞬レイムかと思ったがエストックてことはヴォイド兄貴か
どれ程の時間が過ぎたのだろうか。
彼女が灰色の騎士を観察し終えた時、空を見上げて気づいたのだ。
『夜がない』事に。
「……?」
灰騎士「……」
ふと視線を戻すと、灰色の騎士も同じく空を見上げていた。
しかしそれは何処か疲れている様にも見えたのだ。
灰騎士「……」
「ねぇ、どこかの建物で休まないの…?」
灰騎士「………」ガシャッ
「!」
突然鎧を揺らして周囲を見回す灰色の騎士。
初めて彼女の声に反応を示した、そう思った時。
灰騎士「……何故、来ない」
灰騎士「何故来ない……! 俺は、俺はここにいるぞ……!!」
灰騎士「どうして現れないんだ!!」
「え……?」
激昂し、辺りにその怒声を響かせる灰色の騎士。
彼女はそれを聞いて首を傾げた。
やはり彼女の事は見えていないのかもしれない、そして声も聞こえていないのだろう。
だが、そんな事を忘れて彼女は問いかけてしまう。
「誰かを……待っているの?」
はよ
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