ハルヒ「ある雨の日の事」 (20)
それはいつの話だったか、ある日の放課後の事だった。
放課後ともなれば毎日の習慣というか高校生になってから新たに身に付いた習性というか、まぁとにかく我らが団長様が興したSOS団なる奇抜で奇っ怪な部活未満の非公式集団の活動拠点である文芸部室へと足を運ぶのがいつもの俺の行動パターンな訳だったのだが、その日は違った。
「今日ね、みんな来れないんだって」
教室の掃除の邪魔にならんようにとそそくさと鞄に荷物を詰め込んでいる途中で我らが団長様こと涼宮ハルヒはそう言った。
「そうか、なら俺も帰るかな」
「あんたはダメよ、みんな来れないからって団活を疎かになんて出来ないでしょ」
そう言うと思ったよ。
毎度の事だが何故俺だけが休みを受理されないんだかね、我ながらブラック企業も真っ青な皆勤っぷりだと思うぞハルヒよ。
「何よ人聞きの悪い、ブラック企業じゃないわよ、賃金発生しないもの」
余計に質が悪くないかそれ?
「うるさい、とにかくあんたは休んじゃダメなのっ!!分かったわねキョン!!」
ビシッと効果音が聞こえて来そうな勢いで人差し指を俺に向けつつハルヒは言った。
相変わらず俺の意見なんざ全く意に介さないって事だけは全くぶれない奴である。やれやれだ。
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なんか久しぶりにやれやれを見た気がする
「………それで、今日は二人で団活なのは理解したがどうするんだハルヒ、部室は行くんだろ?」
「………んー、それなのよねぇ………みんな居ないならあんたと二人で部室行ってもやる事ないし」
………全員揃っててもやる事ないけどな。だがまあ、朝比奈さんが煎れてくれるお茶が飲めないのなら部室へ行く意味の大半を失ったも同義なのでハルヒに同調しておくとする。二人で行って俺が煎れたお茶に文句言われるのも癪だしな。
「それじゃあ野外活動って事か?それは構わんが何処に行くんだよ」
ハルヒは数秒間ウーンと悩むような仕草をした後でぼそっと呟くように言う。
「まあ良いわ、てきとーに散策してましょ、もしかしたら帰り道の途中で不思議な事に出会えるかもしれないし」
つまりノープランの行き当たりばったりである。
それ、俺帰ってよくね?
「何回も言わせるんじゃないわよ、これだって立派なSOS団の活動なの、あんたは一番したっぱなんだから団長の活動方針にケチつけるんじゃないわよ、良いから行くの!!」
言うや否やネクタイをまるで犬のリード付き首輪の如く掴んでズンズンと歩きだしやがるハルヒ。せめて腕にしろ腕に。
「いいからシャキッと歩くっ!!」
………はいはい、分かったよ団長様。
そうして、放課後の帰り道での不思議探索へとハルヒと俺は向かったのだった。
抵抗?そんなもんしないさ、無駄だからな。
北高を出て数十分、ハルヒと俺は登校時は鬱陶しいだけの長い坂を下りきって少しした所の分岐点へと到達していた。
普通に帰ってればこの3分の1の時間で下って来れたんだがね、不思議探索って名目がある以上探さない訳にも行かないのでやれ電柱の配置に違和感はないかとか、やれマンホールの中に地下世界が広がってないか確認しろだとか(無論開けられなかったが)、まあとにかくいちいち立ち止まってあーでもないこーでもないと雑談混じりに徒労で終わると分かりきっている作業に勤しみながらここまで来たわけである。
「マンホールってどうやって開けるのかしら?」
我が麗しき団長様は未だにマンホールの中を確認したいらしい。
「………土方のおっさんなら開けられるんじゃないか?」
遠目でマンホール開けて中に入ってく土方のおっさんを見たことあるしな。
「それか市役所かしら、ああいうの管理してるのって、市役所でしょ?」
さあな、水道局に聞けば分かるだろ。
「………んー、でもあたし達が開けてくれって頼んでも開けてくれないわよねぇ……市の職員なんてそれこそお役所仕事の頭でっかちでこっちの言い分なんて聞かないだろうし」
そりゃそうだ、でも俺らが断られる理由はお役所仕事のやっつけ仕事だからでは決してないぞハルヒ。
「そんなの分かってるわよバカっ、もう良いわ、仕方ないから今日は諦めてましょ、そのうち道具調達するなり土方のバイトをSOS団のみんなでするなり方法考えとく」
出来れば止めておいて欲しいが、まあなるようにしかならんよな………こんな事で未来への憂いが出来るとは悲しい限りだ。
「地底世界に繋がるマンホールが一つくらいあってもおかしくないわよねぇ……」
どこぞの漫画なんかでありそうな設定をぶつぶつと呟きながら、ハルヒは分岐路を自分の帰宅路とは別の方向へと歩き出す。
「………ハルヒ?」
「なによ?」
呼び止められ振り向いたハルヒは考えを中断されたからか少し不機嫌そうな顔をしていた。
………いや、お前の帰り道そっちじゃなくないか?
「だから?」
………いいえなんでも。と首を横に振りつつハルヒに追い付く俺。
まぁ、いいさそっちは俺の家の方向だしな。
「今は団活中で不思議探索の真っ最中でしょ?あたしの家までの帰宅ルートなんて北高入ってすぐに調べ尽くしたわよ、当たり前でしょ?」
「そうかい、なら違う道を探さなきゃな」
「そういう事よ、わかってるならきびきび探す!!」
曇り空の下、並んで歩くハルヒの頬は少しだけ赤く見えた。
結論から言うと、不思議探索はすぐに中断となった。
何故かって?簡単な話なのだが要は雨天中止である。
それでもハルヒは「ちょっとくらいの雨なら平気よ!!もしかしたら雨の時にしか現れない何かが居るかもしれないでしょ!?カッパとか!!」とか宣ってやがったが直後に「ひっくちっ」となんとも可愛らしくくしゃみをしたため無理矢理俺の家まで連行、それでも数分雨ざらしになって二人ともびしょ濡れ、散々だね。
「ちょっと寒気がしただけよ」
玄関に逃げ込んでからのハルヒの第一声がこれ、お邪魔しますぐらい言うのがマナーだぜ。
「………むっ、お邪魔します」
はいはい、素直なのは好感もてるのでいつもそんな感じで頼むよ。
「……ばか」
馬鹿で結構、いい加減お前に馬鹿呼ばわりされるのもなれちまったしな、むしろ罵倒されないと調子が狂うぜ………と、ここまで考えてこれじゃ自分がなじられると快感に浸ってしまうアレな奴みたいなので止めておく、さすがに自分は変態じゃないと思いたいからな。
「…………ひっくち…」
俺が自分の性癖についてノーマルある詳論を組み立てていると、ハルヒはまたくしゃみをした。むず痒いのか手の甲で鼻を擦っている。
そういや考え事なんてしてても仕方ないんだったと今更ながらに気付き、家の中へと入る。よく見るとハルヒは顔色が優れないし少し震えている。
「………キョンごめん、タオル貸して」
降りだしてから急いで家まで避難はしたがけっこうな濡れ具合なのだ、そのままだといくら元気とやんちゃを人の形に固めたような存在であるハルヒだろうと風邪を引いちまうだろう。
………やれやれ、少し抵抗があるのだが仕方ない。
「ハルヒ」
「なによ、早くタオル貸してってば」
「貸してやるがその前にシャワー浴びろよ、そんで制服も乾燥機かけて、着替えも出してやるから乾くまでそれ着てろ」
いくらハルヒと言えど女子である。事情があれど風呂入ってけと言うのは多少……いやだいぶこう、喉元辺りにむず痒い感覚が這い回る、分かんないかな?
「……………」
ハルヒはジトーっとした瞳を数秒間無言で俺にぶつけて来た後。
「………くしゅっ…!!」
三度目となるくしゃみを鼻水と共に俺にぶっかけて来やがった。
「汚ね!?なにしやがる!!」
「………ご、ごめん……やっぱりお風呂入った方が良さそう、お言葉に甘えるわ」
………しっかり暖まってこい、また鼻水ぶっかけられたら堪らんからな。
「………しっかし雨止まないわね」
俺の部屋の窓から外を眺めながら、ハルヒは退屈そうに呟く。
ハルヒがシャワーを浴びた後で俺も続いてシャワーを浴び、今はハルヒの制服が乾くのを待っている所である。
ハルヒの入浴中はもちろん俺は部屋に引きこもってたさ、覗こうものなら何されるか分かったもんじゃないしそれ以前に犯罪者になりたくないからな、例え朝比奈さんの入浴タイムだろうと俺は覗いたりしないね、たぶん。
で、ハルヒの着替えはとりあえず俺のシャツと下はジャージ、文句言うかと思ったが予想に反してハルヒはすんなりとそれに着替えた。
「文句なんて言わないわよ、妹ちゃんのじゃさすがにあたしは着れないし、おばさんのも見た感じちょっと小さいだろうし、あんたのならぶかぶかでも着れない事ないし他に選択肢ないもの」
というのがハルヒ談である。ま、消去法ってのは納得するのには便利なもんだ。
「いきなり降ってくるなんてやってらんないわね、天気予報じゃ今日はずっと晴れだったのに」
確かに今朝の天気予報では降水確率は0%だったのだが、実際にはどしゃ降りである。ゲリラ豪雨ってやつだろうか?
ハルヒが眺める窓の向こうは、まだ日が落ちる時間には早いにもかかわらず真っ暗で、激しい雨音と時折響く雷の唸る音が聞こえるだけだった。
「………制服」
「……ん?」
「制服乾いても暫く帰れなさそうね、これ」
「………そうだな」
それからしばらくは外から絶え間なく響く音だけを聞いていた。つまりは無言。
なんだろうね、妙に気まずい。
今日はねる(´・ω・`)長くはならん、ついでにエロはないつもり、じゃね
静かな雰囲気良いぜ
SSだとキチガイハルヒばっかりだから落ち着いた雰囲気のは大好きだ
今のところは良い感じ
「………」
「………」
………いや、参ったねホント。普段からハルヒは黙ってれば一美少女高校生で端から見てる分には目の保養になるだのなんだのと皮肉的な思考を繰り返している俺ではあるが、いざハルヒが黙りを決めて外の景色を眺めてる姿を見せつけられたりしてみるとこれが中々に心中穏やかになれないもんである。
だってそうだろ?ハルヒといえばいつも自信満々で喋り続けるか破天荒な思考回路に基づいた奇抜な行動で辺りを巻き込みつつ蘭々と笑顔を振り撒いているかなのだ。
黙ってる時は精々不機嫌でぶすくれてるときぐらいで今現在のような、少し憂い気味程度で落ち着いた表情ってのはそうとうレアなんだ。
正直こういうハルヒにどんな対応すればいいのかなんて検討も付かないね。
黙って見てて良いってなら暫く見ていたいって考えも、ちょっとうかんだがな。
「………そういえばさ」
本気でもうちょいこうやってハルヒの横顔を眺めてようかなと血迷いかけていた時、ハルヒの方から話しかけてきた。
「なんだ?」
「妹ちゃんは?それにおばさんも」
「………そういやそうだな」
言われるまで気付かないとは俺も結構動揺しているのかね。
「電話してみるか、ちょっと待っててくれよハルヒ」
「うん」
そういって俺は部屋を出て階段を降りる、携帯からじゃ妹が行きそうな所の連絡先登録してないし携帯からより家の電話からの方が安上がりだからという貧乏性からの行動でもある。
「………妹がいれば間に困る事もなかったんだろうがなぁ」
階段を降りる途中でそう呟いて、妹に頼るのも情けない事だとため息が続けて漏れた。
何を考えてるんだかね俺は、一緒に居るのはハルヒだぜ?
涼宮ハルヒって女はそんなもんとは無縁と断言出来る女だろ?あいつ自身もそう言っているんだしな。
「お袋と妹は一緒だとさ、買い物行っててこの雨で足止め食らってるらしい」
まずお袋の携帯に連絡して、妹が出て「おかあさんとわたし駅前のお店で雨宿りしてるよキョンくーん」とのほほんとした感じで説明され、次に電話を取り次いだお袋が親父が仕事終わったら車で迎えにきてくれるように頼んだから問題ない、と言っていたので心配ないのだろう、親父が残業になったら帰りが遅くなるから先になんかテキトーに食ってろとついでのように飯の事も言われた。めんどくせえ。
ハルヒは「そう、良かったわね」と一応心配してくれていたようだった。
「ハルヒ」
「なによ?」
「お前は?親に迎え来て貰うとか出来ないのか?」
これは当然の質問だと思う、迎えに来て貰えるならさっさと帰るべきではあるからな。
「………実は、今日はお父さんもお母さんも家に居ないのよ、明日から土日でしょ?二人で遊び行ってるの」
ハルヒ曰く両親とも現在不在らしい、そうなると………ふむ、やはり困った、雨は止む処か更に勢いを増している。
「………なら、俺の親父に頼むかハルヒ、雨が止めば大丈夫だろうけど止む気配ないからな……」
「……うん」
どうやらそれまでは、この少し息苦しい雰囲気を満喫せねばならんようだった、どうしたもんだかね。
さて、どうしたもんだかと思考を巡らせる事数十秒経過した所か、窓の外を眺めるのを止めてベットに腰掛けていたハルヒだったのだが。
「………っくしゅ!!」
と、またしてもくしゃみをしたのだ。
「………ハルヒ?」
「あによ?」
鼻をむずがせて涙目になっているハルヒにティッシュを渡しつつ、ハルヒの顔を注意深く眺めてみる。
「………ちょっと、なによキョン?」
よく見るとハルヒの顔は少し赤く、それに息使いも荒かった。
「……お前、風邪引いただろ」
「………むっ、そうかも…」
「…………お前なぁ……あぁもう仕方なねぇな」
「………キョン?」
風邪薬と体温計取ってくるんだよ、とハルヒに伝え部屋を出る、ついでに寝てろともな。
ハルヒは大したことないとか平気とか言いたそうだったが知らん、なんか言う前に部屋出たからな。
うつされたらたまらんのは俺なのだ、多少は看病らしい事もしてやるさ。
はだであっためてあげないとね
レイニーサムデイ
続きこいや
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